特許第6838271号(P6838271)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6838271
(24)【登録日】2021年2月16日
(45)【発行日】2021年3月3日
(54)【発明の名称】ハイブリッド車両及びその制御方法
(51)【国際特許分類】
   B60W 10/18 20120101AFI20210222BHJP
   B60K 6/48 20071001ALI20210222BHJP
   B60K 6/547 20071001ALI20210222BHJP
   B60W 10/08 20060101ALI20210222BHJP
   B60T 8/17 20060101ALI20210222BHJP
   B60T 8/00 20060101ALI20210222BHJP
   B60T 8/26 20060101ALI20210222BHJP
   B60T 8/30 20060101ALI20210222BHJP
【FI】
   B60W10/18 900
   B60K6/48ZHV
   B60K6/547
   B60W10/08 900
   B60T8/17 C
   B60T8/00 Z
   B60T8/26 H
   B60T8/30 H
   B60T8/30 G
【請求項の数】4
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2016-17192(P2016-17192)
(22)【出願日】2016年2月1日
(65)【公開番号】特開2017-136885(P2017-136885A)
(43)【公開日】2017年8月10日
【審査請求日】2019年1月29日
(73)【特許権者】
【識別番号】000000170
【氏名又は名称】いすゞ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001368
【氏名又は名称】清流国際特許業務法人
(74)【代理人】
【識別番号】100129252
【弁理士】
【氏名又は名称】昼間 孝良
(74)【代理人】
【識別番号】100155033
【弁理士】
【氏名又は名称】境澤 正夫
(74)【代理人】
【識別番号】100163061
【弁理士】
【氏名又は名称】山田 祐樹
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 治雄
(72)【発明者】
【氏名】瀬戸 洋紀
(72)【発明者】
【氏名】森本 亮
【審査官】 佐々木 淳
(56)【参考文献】
【文献】 特開2007−245872(JP,A)
【文献】 特開2007−030631(JP,A)
【文献】 特開2012−157213(JP,A)
【文献】 特開2015−112895(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60W 10/00−20/50
B60K 6/20− 6/547
B60L 1/00−58/40
B60T 8/00− 8/30
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
エンジンの動力を駆動輪に伝達する出力軸に接続されたモータージェネレーターを有するハイブリッドシステムと、前記駆動輪を含む全ての車輪のうちの少なくとも従動輪を含む車輪のそれぞれに配置されたメカブレーキと、ブレーキペダルの踏み込み量を取得するブレーキセンサと、車速を取得する車速センサと、車重を取得する車重取得装置と、制御装置と、を備えたハイブリッド車両において、
前記制御装置が、前記ブレーキペダルが踏み込まれた場合に、前記ブレーキセンサを介して取得した踏み込み量及び前記車速センサを介して取得した車速に基づいた目標減速度と前記車重取得装置を介して取得した車重に応じた前記駆動輪及び前記従動輪のそれぞれのスリップ限界に基づいた制動力比と、から前記駆動輪における目標駆動輪制動力及び前記従動輪における目標従動輪制動力を算出し、前記制動力比を調節して前記モータージェネレーターの最大回生制動力に近づけた第二の目標駆動輪制動力及び第二の目標従動輪制動力を算出し、
前記最大回生制動力が前記第二の目標駆動輪制動力を超える場合に、前記モータージェネレーターによる回生制動力を前記第二の目標駆動輪制動力にすると共に、前記従動輪に配置された前記メカブレーキによるブレーキ制動力を前記第二の目標従動輪制動力にする制御を行い、
前記最大回生制動力が前記第二の目標駆動輪制動力以下の場合に、前記モータージェネレーターによる回生制動力を前記最大回生制動力にすると共に、前記従動輪に配置された前記メカブレーキによるブレーキ制動力を前記第二の目標従動輪制動力にし、更に、前記駆動輪に配置された前記メカブレーキによるブレーキ制動力を前記第二の目標駆動輪制動力と前記最大回生制動力との差分にする制御を行うように構成されたことを特徴とするハイブリッド車両。
【請求項2】
前記制御装置が、前記目標減速度と前記スリップ限界とに基づいた前記目標駆動輪制動力と前記目標従動輪制動力とが設定されたブレーキ特性図を前記車重ごとに複数有する請求項1に記載のハイブリッド車両。
【請求項3】
前記第二の目標駆動輪制動力は前記制動力比を調節して前記目標駆動輪制動力を前記最大回生制動力に近づけ、かつ、前記モータージェネレーターの変換効率が高くなるようにして算出される請求項1または2に記載のハイブリッド車両。
【請求項4】
ブレーキペダルが踏み込まれた場合に、エンジンの動力を駆動輪に伝達する出力軸に接続されたモータージェネレーターによる回生制動力と、前記駆動輪を含む全ての車輪のうちの少なくとも従動輪を含む車輪のそれぞれに配置されたメカブレーキによるブレーキ制動力とを協調するハイブリッド車両の制御方法において、
前記ブレーキペダルの踏み込み量、車速、及び、車重を取得するステップと、
取得したそれらの踏み込み量及び車速に基づいた目標減速度と取得したその車重に応じた前記駆動輪及び前記従動輪のそれぞれのスリップ限界に基づいた制動力比と、から前記駆動輪における目標駆動輪制動力及び前記従動輪における目標従動輪制動力を算出するステップと、
前記制動力比を調節して前記モータージェネレーターの最大回生制動力に近づけた第二の目標駆動輪制動力および第二の目標従動輪制動力を算出するステップと、
前記最大回生制動力が前記第二の目標駆動輪制動力以下になるか否かを判定するステップと、
前記最大回生制動力が前記第二の目標駆動輪制動力を超えると判定した場合に、前記モータージェネレーターによる回生制動力を前記第二の目標駆動輪制動力にすると共に、前記従動輪に配置された前記メカブレーキによるブレーキ制動力を前記第二の目標従動輪制動力にするステップと、
前記最大回生制動力が前記第二の目標駆動輪制動力以下と判定した場合に前記モータージェネレーターによる回生制動力を前記最大回生制動力にすると共に、前記従動輪に配置された前記メカブレーキによるブレーキ制動力を前記第二の目標従動輪制動力にし、更に、前記駆動輪に配置された前記メカブレーキによるブレーキ制動力を前記第二の目標駆動輪制動力と前記最大回生制動力との差分にするステップと、を含むことを特徴とするハイブリッド車両の制御方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ハイブリッド車両及びその制御方法に関し、更に詳しくは、ブレーキペダルが踏み込まれて減速する際に、モータージェネレーターの回生量を増加して燃費を向上するハイブリッド車両及びその制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、燃費向上及び環境対策などの観点から、車両の運転状態に応じて複合的に制御されるエンジン及びモータージェネレーターを有するハイブリッドシステムを備えたハイブリッド車両(以下「HEV」という。)が注目されている。このHEVにおいては、車両の加速時や発進時には、モータージェネレーターによる駆動力のアシストが行われる一方で、慣性走行時や減速時にはモータージェネレーターによる回生発電が行われる。
【0003】
また、HEVにおいては、運転者によりブレーキペダルが踏み込まれて減速する際に、駆動輪及び従動輪のそれぞれに配置されたメカブレーキによるブレーキ制動力と、モータージェネレーターによる回生制動力と、を協調している。
【0004】
これに関して、車重に応じてモータージェネレーターの回生制動力を増減する装置が提案されている(例えば、特許文献1、2参照)。これらの装置は、車重が増加した場合に、モータージェネレーターの回生制動力を増加することで、モータージェネレーターの回生量を増加している。
【0005】
しかしながら、これらの装置では、ブレーキペダルが踏み込まれた場合に、常に全てのメカブレーキが作動するために、モータージェネレーターの回生量を最大にする頻度が少なく、燃費改善の原資となる回生量の取りこぼしがあった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2010−200590号公報
【特許文献2】特開2013−106457号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の目的は、ブレーキペダルが踏み込まれて減速する際に、メカブレーキによるブレーキ制動力を低減して、モータージェネレーターの回生量を最大限に増加することで燃費を向上することができるハイブリッド車両及びその制御方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の目的を達成する本発明のハイブリッド車両は、エンジンの動力を駆動輪に伝達する出力軸に接続されたモータージェネレーターを有するハイブリッドシステムと、前記駆動輪を含む全ての車輪のうちの少なくとも従動輪を含む車輪のそれぞれに配置されたメカブレーキと、ブレーキペダルの踏み込み量を取得するブレーキセンサと、車速を取得する車速センサと、車重を取得する車重取得装置と、制御装置と、を備えたハイブリッド車両において、前記制御装置が、前記ブレーキペダルが踏み込まれた場合に、前記ブレーキセンサを介して取得した踏み込み量及び前記車速センサを介して取得した車速に基づいた目標減速度と前記車重取得装置を介して取得した車重に応じた前記駆動輪及び前記従動輪のそれぞれのスリップ限界に基づいた制動力比と、から前記駆動輪における目標駆動輪制動力及び前記従動輪における目標従動輪制動力を算出し、前記制動力比を調節して前記モータージェネレーターの最大回生制動力に近づけた第二の目標駆動輪制動力及び第二の目標従動輪制動力を算出し、前記最大回生制動力が前記第二の目標駆動輪制動力を超える場合に、前記モータージェネレーターによる回生制動力を前記第二の目標駆動輪制動力にすると共に、前記従動輪に配置された前記メカブレーキによるブレーキ制動力を前記第二の目標従動輪制動力にする制御を行い、前記最大回生制動力が前記第二の目標駆動輪制動力以下の場合に、前記モータージェネレーターによる回生制動力を前記最大回生制動力にすると共に、前記従動輪に配置された前記メカブレーキによるブレーキ制動力を前記第二の目標従動輪制動力にし、更に、前記駆動輪に配置された前記メカブレーキによるブレーキ制動力を前記第二の目標駆動輪制動力と前記最大回生制動力との差分にする制御を行うように構成されたことを特徴とするものである。
【0009】
また、上記の目的を達成するための本発明のハイブリッド車両の制御方法は、ブレーキペダルが踏み込まれた場合に、エンジンの動力を駆動輪に伝達する出力軸に接続されたモータージェネレーターによる回生制動力と、前記駆動輪を含む全ての車輪のうちの少なくとも従動輪を含む車輪のそれぞれに配置されたメカブレーキによるブレーキ制動力とを協調するハイブリッド車両の制御方法において、前記ブレーキペダルの踏み込み量、車速、及び、車重を取得するステップと、取得したそれらの踏み込み量及び車速に基づいた目標減速度と取得したその車重に応じた前記駆動輪及び前記従動輪のそれぞれのスリップ限界に基づいた制動力比と、から前記駆動輪における目標駆動輪制動力及び前記従動輪における目標従動輪制動力を算出するステップと、前記制動力比を調節して前記モータージェネレーターの最大回生制動力に近づけた第二の目標駆動輪制動力および第二の目標従動輪制動力を算出するステップと、前記最大回生制動力が前記第二の目標駆動輪制動力以下になるか否かを判定するステップと、前記最大回生制動力が前記第二の目標駆動輪制動力を超えると判定した場合に、前記モータージェネレーターによる回生制動力を前記第二の目標駆動輪制動力にすると共に、前記従動輪に配置された前記メカブレーキによるブレーキ制動力を前記第二の目標従動輪制動力にするステップと、前記最大回生制動力が前記第二の目標駆動輪制動力以下と判定した場合に前記モータージェネレーターによる回生制動力を前記最大回生制動力にすると共に、前記従動輪に配置された前記メカブレーキによるブレーキ制動力を前記第二の目標従動輪制動力にし、更に、前記駆動輪に配置された前記メカブレーキによるブレーキ制動力を前記第二の目標駆動輪制動力と前記最大回生制動力との差分にするステップと、を含むことを特徴とする方法である。
【0010】
ここでいう、メカブレーキとしては、摩擦により運動エネルギーを熱エネルギーに変換することで、車輪に制動力を付与する油圧式や空気圧式などのフットブレーキが例示される。このメカブレーキは、駆動輪及び従動輪の全ての車輪に配置されていてもよく、従動輪のみに配置されていてもよい。例えば、トラックなどの大型車両で、一対の駆動輪と二対の従動輪とを備えている場合に、それらの全てに配置されていてもよく、二対の従動輪のそれぞれにのみ配置されていてもよい。例えば、メカブレーキは、前輪として配置された一対の従動輪と、後輪として配置された一対の駆動輪とのそれぞれに配置される。
【0011】
モータージェネレーターは、制御装置からインバーターを介して電圧や周波数が制御されており、それらの電圧や周波数が可変することで回生制動力を増減することが可能になっている。また、モータージェネレーターは、車速に応じて回転数が可変する。従って、モータージェネレーターの最大回生制動力とは、車速に応じて、電圧や周波数を可変した結果として生じる最大の回生制動力のことをいう。
【0012】
目標駆動輪制動力は、目標減速度を達成する制動力のうちの駆動輪の回転軸に割り当てられた理想ブレーキ力であり、駆動輪がロックしない、つまりスリップしない限界の制動力であることが好ましい。従って、この目標駆動輪制動力は、車重ごとに理想制動力配分線、等減速度線、及びブロック限界線に応じて駆動輪制動力と従動輪制動力との制動力比が設定されたブレーキ特性図を用いて算出するとよい。
【0013】
また、目標駆動輪制動力は、ブレーキペダルの踏み込み量、車速、及び車重のそれぞれに対しいて正の相関となる。従って、この目標駆動輪制動力は、踏み込み量、車速、及び車重の増加により大きくなり、それらの減少により小さくなる。
【0014】
なお、目標駆動輪制動力がモータージェネレーターの最大回生制動力以下の場合に、駆動輪をモータージェネレーターによる回生制動力で、従動輪をメカブレーキによるブレーキ制動力で、それぞれ制動することは、目標駆動輪制動力の全てがモータージェネレーターの回生制動力で賄えるということである。
【0015】
但し、目標駆動輪制動力がモータージェネレーターの最大回生制動力以下の場合でも、モータージェネレーターが回生できないような状況では、駆動輪に配置されたメカブレーキによるブレーキ制動力も使用するとよい。そのような状況としては、モータージェネレーターに電気的に接続されたバッテリーの充電量が設定された上限値を超える状況が例示される。また、目標駆動輪制動力の全てがモータージェネレーターの回生制動力で賄えない場合、つまり、その目標駆動輪制動力がモータージェネレーターの最大回生制動力を超える場合も、駆動輪に配置されたメカブレーキによるブレーキ制動力でその超える分を補うとよい。
【発明の効果】
【0016】
本発明のハイブリッド車両及びその制御方法によれば、運転者によりブレーキペダルが踏み込まれた場合に、機械的に全てのメカブレーキを作動するのではなく、算出した目標駆動輪制動力によっては、駆動輪に配置されたメカブレーキを使用せずに、駆動輪をモータージェネレーターによる回生制動力のみで制動することが可能になる。つまり、目標駆動輪制動力の全てをモータージェネレーターによる回生制動力のみで賄うことで、モータージェネレーターの回生量を最大限に増加することが可能になり、燃費を向上することができる。
【0017】
また、目標駆動輪制動力をモータージェネレーターによる回生制動力のみで賄うことで、駆動輪に配置されたメカブレーキを作動する頻度を低減することが可能になり、そのメカブレーキの消耗を抑制することができる。
【0018】
更に、車重が最大積載重量のハイブリッド車両の車速が最大速度の場合に、ブレーキペダルが最大踏み込み量に達したときでも、目標駆動輪制動力がモータージェネレーターの最大回生制動力以下になるのであれば、駆動輪にメカブレーキを備えなくてもよい。つまり、駆動輪のメカブレーキを省くことが可能になり、ハイブリッド車両を軽量化できるので、燃費の向上に有利になる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】本発明の実施形態からなるハイブリッド車両の構成図である。
図2図1のハイブリッド車両が空荷時のブレーキ特性を例示する特性図である。
図3図1のハイブリッド車両が最大積載時のブレーキ特性を例示する特性図である。
図4】本発明のハイブリッド車両の制御方法を例示するフロー図である。
図5】目標減速度とブレーキペダルの踏み込み量及び車速との相関を例示する相関図である。
図6】モータージェネレーターの出力特性を例示する特性図である。
図7図1のハイブリッド車両が最大積載時のブレーキ特性を例示する特性図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下に、本発明の実施の形態について、図面を参照して説明する。図1は、本発明の実施形態からなるハイブリッド車両を示す。
【0021】
このハイブリッド車両(以下「HEV」という。)は、普通乗用車又はバスやトラックなどの大型自動車であり、エンジン10、モータージェネレーター21及びトランスミッション30と、運転状態に応じて車両を複合的に制御するハイブリッドシステム20とを主に備えている。
【0022】
エンジン10においては、エンジン本体11に形成された複数(この例では4個)の気筒12内における燃料の燃焼により発生した熱エネルギーにより、クランクシャフト13が回転駆動される。このエンジン10には、ディーゼルエンジンやガソリンエンジンが用いられる。クランクシャフト13の一端は、エンジンクラッチ14(例えば、湿式多板クラッチなど)を介してモータージェネレーター21の回転軸22の一端に接続されている。
【0023】
モータージェネレーター21には、発電運転が可能な永久磁石式の交流同期モーターが用いられている。このモータージェネレーター21の回転軸22の他端は、モータークラ
ッチ15(例えば、湿式多板クラッチなど)を通じて、トランスミッション30のインプットシャフト31に接続されている。
【0024】
トランスミッション30には、HEVの運転状態と予め設定されたマップデータとに基づいて決定された目標変速段へ自動的に変速するAMT又はATが用いられている。なお、トランスミッション30は、AMTのような自動変速式に限るものではなく、ドライバーが手動で変速するマニュアル式であってもよい。
【0025】
トランスミッション30で変速された回転動力は、アウトプットシャフト32に接続されたプロペラシャフト33を通じてデファレンシャル34に伝達され、後輪である一対の駆動輪35にそれぞれ駆動力として分配される。
【0026】
ハイブリッドシステム20は、モータージェネレーター21と、そのモータージェネレーター21に電気的に接続するインバーター23、高電圧バッテリー24、DC/DCコンバーター25及び低電圧バッテリー26とを有している。
【0027】
高電圧バッテリー24としては、リチウムイオンバッテリーやニッケル水素バッテリーなどが好ましく例示される。また、低電圧バッテリー26には鉛バッテリーが用いられる。
【0028】
DC/DCコンバーター25は、高電圧バッテリー24と低電圧バッテリー26との間における充放電の方向及び出力電圧を制御する機能を有している。また、低電圧バッテリー26は、各種の車両電装品27に電力を供給する。
【0029】
このハイブリッドシステム20における種々のパラメータ、例えば、電流値、電圧値やSOCなどは、BMS28により検出される。
【0030】
これらのエンジン10及びハイブリッドシステム20は、制御装置70により制御される。具体的には、HEVの発進時や加速時には、ハイブリッドシステム20は高電圧バッテリー24から電力を供給されたモータージェネレーター21により駆動力の少なくとも一部をアシストする一方で、慣性走行時や制動時においては、モータージェネレーター21による回生発電を行い、プロペラシャフト33等に発生する余剰の運動エネルギーを電力に変換して高電圧バッテリー24を充電する。また、このHEVは、エンジンクラッチ14を断状態、かつモータークラッチ15を接状態にすることで、モータージェネレーター21のみを駆動源とする、いわゆるモーター単独走行が可能となる。
【0031】
なお、この実施形態においては、左右一対(以下一対)の駆動輪35を後輪として、一対の従動輪36を前輪として、それぞれ説明する。一方で、一対の駆動輪35を前輪として、一対の従動輪36を後輪としてもよい。また、駆動輪35及び従動輪36は一対に限らずに、それぞれ複数組みにしてもよい。
【0032】
また、モータージェネレーター21を接続するエンジン10の駆動力を駆動輪35に伝達する出力軸としては、クランクシャフト13、トランスミッション30の各シャフト、及びプロペラシャフト33が例示される。また、モータージェネレーター21とそれらの出力軸との接続機構としては、回転軸22に取り付けられた第1プーリーとそれらの出力軸に取り付けられた第2プーリーとの間に無端状のベルト状部材を掛け回した機構、ギアボックスなどの減速機構、及びPTOなどの動力取り出し機構などが例示される。
【0033】
また、このHEVは、運転者によりブレーキペダル50が踏み込まれた際に、一対の駆動輪35のそれぞれにブレーキ制動力を付与する一対の駆動輪メカブレーキ51と、従動
輪36のそれぞれにブレーキ制動力を付与する一対の従動輪メカブレーキ52とを備えている。これらの駆動輪メカブレーキ51、従動輪メカブレーキ52としては、圧縮空気で作動するエアブレーキや、油圧で作動する油圧ブレーキが例示される。
【0034】
なお、従動輪36や駆動輪35が複数組みの場合には、その全てに対してメカブレーキを備えてもよいが、少なくともHEVの重心よりも前方に配置された一対の前輪と、後方に配置された一対の後輪とを含む車輪に備えればよい。
【0035】
これらの駆動輪メカブレーキ51、従動輪メカブレーキ52は、制御装置70により制御される。具体的には、制御装置70が、ブレーキセンサ53を介してブレーキペダル50の踏み込み量Bpと、車速センサ62を介して車速Vとを取得すると、その踏み込み量Bpと車速Vに応じて図示しないブレーキ用比例制御弁の開度を調節して、メカブレーキの図示しないアクチュエーターに作動油を供給する。そして、そのアクチュエーターによりブレーキシューがブレーキドラムに押し付けられることで、駆動輪35や従動輪36に直接的に制動力を付与する。このときのアクチュエーターの作動油の供給量によってブレーキ制動力は調節される。
【0036】
このようなHEVにおいて、制御装置70が、各パラメータに基づいて算出された駆動輪35における目標駆動輪制動力Br’がモータージェネレーター21の最大回生制動力Bm_max以下の場合に、駆動輪35をモータージェネレーター21による回生制動力Bmで、従動輪36を従動輪メカブレーキ52による従動輪ブレーキ制動力Bfで、それぞれ制動する制御を行うように構成される。
【0037】
制御装置70は、各種処理を行うCPU、その各種処理を行うために用いられるプログラムや処理結果を読み書き可能な内部記憶装置、及び各種インターフェースなどから構成される。この制御装置70は、信号線を介して車速センサ62、加速度センサ60、及び車輪速センサ63のそれぞれに接続される。また、制御装置70の内部記憶装置に記憶された実行プログラムとしては、ブレーキ協調プログラムが例示される。
【0038】
各パラメータは、目標減速度α’、目標駆動輪制動力Br’、及び目標従動輪制動力Bf’を算出するためのパラメータであり、少なくとも踏み込み量(ブレーキ開度ともいう)Bp、車速V、車重W、及び路面摩擦係数μを含む。この他に、このパラメータには、走行路の勾配を加えてもよい。
【0039】
踏み込み量Bpは、ブレーキセンサ53を介して取得される。車速Vは、車速取得装置として設けられた車速センサ62を介して取得される。車重Wは、車重取得装置として設けられた加速度センサ60を介して取得された加速度の変化に基づいて算出される。この車重Wの算出方法としては、トランスミッション30の変速前の駆動力を変速前の加速度から変速中の減速度を減算した値で除算して算出する方法が例示される。路面摩擦係数μは、摩擦係数取得装置として設けられた車輪速センサ63を介して取得された駆動輪35の速度と従動輪36の速度との速度比であるスリップ率から算出される。この路面摩擦係数μの算出方法としては、駆動輪35を駆動する駆動力とスリップ率の変化とに基づいて算出する方法が例示される。
【0040】
なお、車重Wの算出方法は上記の方法に限定されずに、例えば、エアサスペンションの空気圧から算出することも可能である。この場合には、車重取得装置としては圧力センサが例示される。また、路面摩擦係数μの算出方法も上記の方法に限定されずに、例えば、アンチロックブレーキシステム(ABS)の制御に基づいて算出したり、車線逸脱防止支援システムの制御に基づいて算出したり、ナビゲーションシステムから取得したりすることも可能である。この場合には、摩擦係数取得装置としては、ABS、車線逸脱防止支援
システム、ナビゲーションシステムが例示される。
【0041】
図2は空荷時のブレーキ特性図を、図3は最大積載(例えば、2t)時のブレーキ特性図を、それぞれ示している。なお、それらのブレーキ特性図は、乾燥路面の平坦路におけるものとする。一般的に、路面摩擦係数μは、乾燥路面が0.8〜1.0前後、湿潤路面が0.4〜0.6前後、積雪路面が0.2〜0.5前後、氷結路面が0.1〜0.2前後である。
【0042】
図中において実線で示される理想制動力分配線は、減速度αをパラメータとして、駆動輪メカブレーキ51、従動輪メカブレーキ52の理想ブレーキ力を示している。駆動輪35、従動輪36の回転を止めるために必要なブレーキ力である理想ブレーキ力は、走行路面とそれらの摩擦力に等しくなり、車重Wと路面摩擦係数μとにより定められる。また、この理想ブレーキ力は、HEVの制動時に慣性力によって荷重移動が生じ、静的荷重配分が減速度に応じて動的荷重配分に変化し、この動的荷重配分が制動するのに必要なブレーキ力である。つまり、図中において点線で示されるロック限界(スリップ限界)線を超える制動力が生じると車輪がロックされ、スリップする。
【0043】
図中において一点鎖線で示される等減速度線は、減速度α、あるいは目標減速度α’を示しており、図中の左下から右上に向って値が大きくなっている。実際の制動力が理想ブレーキ力を超えると車輪がロックされることから、最大減速度α_maxは路面摩擦係数μと重力加速度Gとを乗算した値、例えば、乾燥路面の場合に0.8Gになる。
【0044】
図中において太線で示される最適制動力比Rは、予め実験や試験により目標駆動輪制動力Br’と目標従動輪制動力Bf’とが最適となるように求めてられた値である。この最適制動力比RはHEVの構成や車重Wによる異なる。
【0045】
このブレーキ特性図は、制御装置70の内部記憶装置に記憶されており、ブレーキ協調プログラムの実施時に読み出される。
【0046】
このようなHEVの制御方法を、制御装置70の機能として図4に基づいて以下に説明する。なお、制御装置70は、信号線(一点鎖線で示す)を通じて、各部と接続している。この制御方法は、ブレーキペダル50が踏み込まれたときに開始され、ブレーキペダル50の踏み込みが解除したときに終了するものとする。
【0047】
まず、運転者によりブレーキペダル50が踏み込まれると、制御装置70が、各パラメータ(踏み込み量Bp、車速V、車重W、路面摩擦係数μなど)を取得する(S10)。
【0048】
次いで、制御装置70が、踏み込み量Bp及び車速Vに基づいて目標減速度α’を算出する(S20)。図5は、踏み込み量Bpと車速Vとに対する目標減速度α’を例示している。目標減速度α’は、踏み込み量Bpに対して、及び、車速Vに対して、それぞれ正の相関になる。従って、目標減速度α’は、踏み込み量Bpが多くなると増加し、少なくなると減少する。また、目標減速度α’は、車速Vが速くなると増加し、遅くなると減少する。つまり、HEVの減速中は、その減速度合いに応じて、目標減速度α’は徐々に減少することになる。
【0049】
また、このステップにおいて、制御装置70が最大減速度α_maxを路面摩擦係数μから算出する。そして、踏み込み量Bpが最大(例えば、ブレーキ開度が100%)になった場合の目標減速度α’をその最大減速度α_maxに設定する。従って、路面摩擦係数μごとに踏み込み量Bp及び車速Vに応じた目標減速度α’が設定されたマップデータを予め作成しておき、内部記憶装置に記憶しておくとよい。
【0050】
次いで、制御装置70が、目標駆動輪制動力Br’と目標従動輪制動力Bf’とを算出する(S30)。このステップにおいては、制御装置70が、予め内部記憶装置に記憶させていた図2図3に例示するようなブレーキ特性図のうちから車重Wに応じたブレーキ特性図を読み出して、目標駆動輪制動力Br’と目標従動輪制動力Bf’とを算出することが好ましい。従って、ブレーキ特性図は、車重Wごとに複数作成しておくとよい。
【0051】
例えば、HEVが空荷の場合には図2のブレーキ特性図を参照して、一方、HEVが最大積載時の場合には図3のブレーキ特性図を参照して、目標減速度α’と最適制動力比Rとの交点から目標駆動輪制動力Br’と目標従動輪制動力Bf’とを算出する。
【0052】
次いで、制御装置70が、モータージェネレーター21の最大回生制動力Bm_maxを算出する(S40)。図6はモーター回転数とモータージェネレーター21の出力トルク、回生トルクとの相関を例示している。最大回生制動力Bm_maxは、所定回転数N0までは最大回生トルクが一定トルクになるのでモーター回転数に比例し、その所定回転数N0以上では一定の値になる。また、モーター回転数は車速Vに比例する。
【0053】
次いで、制御装置70が、算出した最大回生制動力Bm_maxが目標駆動輪制動力Br’以下になるか否かを判定する(S50)。
【0054】
次いで、最大回生制動力Bm_maxが目標駆動輪制動力Br’を超えると判定すると、制御装置70が、モータージェネレーター21の回生制動力Bmを目標駆動輪制動力Br’にする。また、制御装置70が、従動輪メカブレーキ52の従動輪ブレーキ制動力Bfを目標従動輪制動力Bf’にする(S60)。
【0055】
一方、最大回生制動力Bm_maxが目標駆動輪制動力Br’以下と判定すると、制御装置70が、モータージェネレーター21の回生制動力Bmを最大回生制動力Bm_maxにする。また、制御装置70が、従動輪メカブレーキ52の従動輪ブレーキ制動力Bfを目標従動輪制動力Bf’にする。更に、制御装置70が、駆動輪メカブレーキ51の駆動輪ブレーキ制動力Brを目標駆動輪制動力Br’と最大回生制動力Bm_maxとの差分、つまり、目標駆動輪制動力Br’から最大回生制動力Bm_maxを減算した値にする(S70)。
【0056】
このような制御を行うようにしたことで、運転者によりブレーキペダル50が踏み込まれた場合に、機械的に全てのメカブレーキ51、52を作動するのではなく、算出した目標駆動輪制動力Br’によっては、駆動輪メカブレーキ51を使用せずに、駆動輪35をモータージェネレーター21による回生制動力Bmのみで制動することが可能になる。つまり、目標駆動輪制動力Br’の全てをモータージェネレーター21による回生制動力Bmのみで賄うことで、モータージェネレーター21の回生量を最大限に増加することが可能になり、燃費を向上することができる。
【0057】
また、目標駆動輪制動力Br’をモータージェネレーター21による回生制動力Bmのみで賄うことで、駆動輪メカブレーキ51を作動する頻度を低減することが可能になり、その駆動輪メカブレーキ51の消耗を抑制することができる。
【0058】
上記のHEVの制御方法では、目標駆動輪制動力Br’と目標従動輪制動力Bf’とを算出する(S30)際に、それぞれの制動力比(Br’:Bf’)を調節して、モータージェネレーター21の回生制動力Bmを最大回生制動力Bm_maxに近づける制御を行うことが望ましい。
【0059】
図7図3と同状況のブレーキ特性図を例示している。ここでは、最適制動力比Rではなく目標駆動輪制動力Br’が最大回生制動力Bm_max以下になる制動力比を用いている。このように、制動力比を調節して、駆動輪35に対してはモータージェネレーター21の回生制動力Bmで賄うようにすることで、モータージェネレーター21の最大限に回生量を増加することができるので、燃費の向上に有利になる。
【0060】
また、その制動力比を調節して、モータージェネレーター21の変換効率ηを高くする制御を行ってもよい。変換効率ηは、機械的なエネルギーに対して回収できる電気的なエネルギーとの比を示す。
【0061】
図6における一点鎖線は変換効率ηを例示している。変換効率ηは最大回生制動力Bm_max時ではなく、少し低い部分で高くなっている。そこで、目標駆動輪制動力Br’を算出する際に、モータージェネレーター21の変換効率ηがより高くなるようにすることで、無駄に消費されるエネルギーが少なくなるので燃費の向上に有利になる。
【0062】
この実施形態では、モータージェネレーター21の回生制動力Bmについて説明した。この回生制動力Bmとは、モータージェネレーター21の回生量、つまり高電圧バッテリー24に充電される充電量とはイコールではない。前述したように、高電圧バッテリー24の充電量には上限値が定められており、それ以上には充電しないようになっている。そこで、高電圧バッテリー24の充電量が上限値を超えるような場合は、モータージェネレーター21の回生を停止して、駆動輪35を駆動輪メカブレーキ51の駆動輪ブレーキ制動力Brで制動するとよい。また、駆動輪メカブレーキ51を備えていない場合は、モータージェネレーター21の鉄損や銅損を増加することで、変換効率ηを意図的に低下させて、回生制動力Bmを代えずに発電量を少なくするとよい。
【0063】
なお、このHEVにおいて、車重Wが最大積載重量のHEVの車速Vが最大速度の場合に、ブレーキペダル50の踏み込み量Bpが最大に達したときでも、目標駆動輪制動力Br’がモータージェネレーター21の最大回生制動力Bm_max以下になるのであれば、駆動輪35に駆動輪メカブレーキ51を備えなくてもよい。
【0064】
つまり、HEVとしては、メカブレーキとして少なくとも従動輪メカブレーキ52を備えていればよい。また、駆動輪35が複数組みの四輪駆動や全輪駆動の場合には、前輪の駆動輪35に上記の従動輪メカブレーキ52に相当する駆動輪メカブレーキを少なくとも備えていればよい。
【0065】
このように駆動輪35に駆動輪メカブレーキ51を備えない場合には、HEVを軽量化できるので、燃費の向上に有利になる。
【0066】
但し、そのような場合でも、モータージェネレーター21が高電圧バッテリー24の充電量が上限値を超えて回生できない状況などの場合に使用するために、予備的に駆動輪メカブレーキ51を備えておくことが好ましい。
【符号の説明】
【0067】
10 エンジン
20 ハイブリッドシステム
21 モータージェネレーター
35 駆動輪
36 従動輪
50 ブレーキペダル
52 従動輪メカブレーキ
53 ブレーキセンサ
60 加速度センサ
62 車速センサ
63 車輪速センサ
Bp 踏み込み量
V 車速
W 車重
Br’ 目標駆動輪制動力
Bm_max 最大回生制動力
Bm 回生制動力
Bf ブレーキ制動力
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7