特許第6838292号(P6838292)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6838292ゴム組成物及びその製造方法、並びにゴム組成物の耐摩耗性を評価する方法
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  • 特許6838292-ゴム組成物及びその製造方法、並びにゴム組成物の耐摩耗性を評価する方法 図000011
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6838292
(24)【登録日】2021年2月16日
(45)【発行日】2021年3月3日
(54)【発明の名称】ゴム組成物及びその製造方法、並びにゴム組成物の耐摩耗性を評価する方法
(51)【国際特許分類】
   C08L 21/00 20060101AFI20210222BHJP
   C08K 3/30 20060101ALI20210222BHJP
   C08L 9/00 20060101ALI20210222BHJP
   C08J 3/20 20060101ALI20210222BHJP
   B60C 1/00 20060101ALI20210222BHJP
   G01N 23/202 20060101ALI20210222BHJP
   G01N 23/201 20180101ALI20210222BHJP
【FI】
   C08L21/00
   C08K3/30
   C08L9/00
   C08J3/20 DCEQ
   B60C1/00 Z
   B60C1/00 A
   G01N23/202
   G01N23/201
【請求項の数】6
【全頁数】20
(21)【出願番号】特願2016-115438(P2016-115438)
(22)【出願日】2016年6月9日
(65)【公開番号】特開2017-218535(P2017-218535A)
(43)【公開日】2017年12月14日
【審査請求日】2019年4月22日
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000183233
【氏名又は名称】住友ゴム工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000914
【氏名又は名称】特許業務法人 安富国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】間下 亮
(72)【発明者】
【氏名】岸本 浩通
(72)【発明者】
【氏名】北郷 亮太
【審査官】 土橋 敬介
(56)【参考文献】
【文献】 特開2015−232114(JP,A)
【文献】 特開2012−188563(JP,A)
【文献】 特開2003−147124(JP,A)
【文献】 特開2016−125844(JP,A)
【文献】 IKEDA, Y. et al.,Vulcanization: New focus on a traditional technology by small-angle neutron scattering,MACROMOLECULES,2009年,V42,P2741-2748
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L 21/00
B60C 1/00
C08J 3/20
C08K 3/30
C08L 9/00
G01N 23/201
G01N 23/202
JSTPlus(JDreamIII)
JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記(式1)で表されるqの領域において、X線散乱測定又は中性子散乱測定を実施することにより得られた散乱強度曲線I(q)に対し、下記(式1−2)〜(式1−7)でカーブフィッティングして得られる10nm〜100μmの相関長Ξうち最大となるものをΞした場合該Ξの標準偏差σとの関係がσ≦Ξ/2であり、
重量平均分子量が100万以上のゴム成分を含み、
前記ゴム成分が1種類以上の共役ジエン系化合物の重合体であり、当該重合体が加硫促進剤及び硫黄供与体で架橋されたゴム組成物。
【数1】
【数2】
【請求項2】
タイヤ部材に使用される請求項1記載のゴム組成物。
【請求項3】
X線散乱測定が小角X線散乱測定、中性子散乱測定が小角中性子散乱測定である請求項1又は2記載のゴム組成物。
【請求項4】
qが10nm−1以下の領域において、X線散乱測定又は中性子散乱測定を実施する請求項1〜3のいずれかに記載のゴム組成物。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれかに記載のゴム組成物の製造方法であって、
ゴム成分と充填剤とを混練する前に、ゴム成分と硫黄供与体と硫黄原子含有加硫促進剤とを混練し、その後、得られた混練物に充填剤を加え、120℃以上の混練温度で混練する工程を含むゴム組成物の製造方法。
【請求項6】
X線散乱測定又は中性子散乱測定によってゴム組成物の耐摩耗性を評価する方法であって、
下記(式1)で表されるqの領域において、X線散乱測定又は中性子散乱測定を実施することにより得られた散乱強度曲線I(q)に対し、下記(式1−2)〜(式1−7)でカーブフィッティングして得られる10nm〜100μmの相関長Ξうち最大となるものをΞとした場合、該Ξ標準偏差σに基いてゴム組成物の耐摩耗性を評価する方法。
【数3】
【数4】
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ゴム組成物及びその製造方法、並びにゴム組成物の耐摩耗性を評価する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
タイヤトレッド部に用いられるゴム組成物は、一般的に、使用するゴム成分の分子量が高いほど、耐摩耗性が良い傾向にある(例えば、特許文献1参照)。これは、分子量が高いほど、破壊の起点になりうるポリマー末端の数が減少することが1つの要因であると考えられている。
【0003】
しかしながら、必ずしも分子量が高くなると耐摩耗性が向上するというわけではなく、例外も見られる。これまで、このような例外が生じるメカニズム解明のために様々な手法でゴムの摩耗現象が観察されているが、完全に解明されたわけではない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2013−32497号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、前記課題を解決し、耐摩耗性に優れたゴム組成物及びその製造方法、並びに、ゴム組成物の耐摩耗性を高精度に評価できる方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らが検討したところ、特定の領域でX線散乱測定又は中性子散乱測定を実施することにより得られた散乱強度曲線を、特定の式でカーブフィッティングして得られる10nm〜100μmの相関長Ξの最大値Ξの標準偏差σが、ゴム組成物の耐摩耗性と高い相関性を示し、標準偏差σが小さくなるほど耐摩耗性が良好となる傾向があることを見出した。これは、相関長Ξが表すポリマーの不均一な網目構造が亀裂進展を抑える役割を担っており、その網目構造のサイズが均一であるほど応力が集中する箇所が低減され、亀裂進展の抑制効果が高くなり、耐摩耗性が向上するためと推察される。
【0007】
そして、本発明者らが更に検討したところ、最大値Ξと標準偏差σとがσ≦Ξ/2の関係を満たし、且つ重量平均分子量が100万以上のゴム成分を配合したゴム組成物で、特に良好な耐摩耗性が得られることを見出し、本発明に想到した。
すなわち、本発明は、下記(式1)で表されるqの領域において、X線散乱測定又は中性子散乱測定を実施することにより得られた散乱強度曲線I(q)に対し、下記(式1−2)〜(式1−7)でカーブフィッティングして得られる10nm〜100μmの相関長Ξの最大値Ξと、該最大値Ξの標準偏差σとの関係がσ≦Ξ/2であり、重量平均分子量が100万以上のゴム成分を含むゴム組成物に関する。
【数1】
【数2】
【0008】
ゴム成分が1種類以上の共役ジエン系化合物の重合体であることが好ましい。
【0009】
上記ゴム組成物は、タイヤ部材に使用されることが好ましい。
【0010】
X線散乱測定が小角X線散乱測定、中性子散乱測定が小角中性子散乱測定であることが好ましい。
【0011】
qが10nm−1以下の領域において、X線散乱測定又は中性子散乱測定を実施することが好ましい。
【0012】
本発明はまた、上記ゴム組成物の製造方法であって、ゴム成分と充填剤とを混練する前に、ゴム成分と硫黄供与体と硫黄原子含有加硫促進剤とを混練し、その後、得られた混練物に充填剤を加え、120℃以上の混練温度で混練する工程を含むゴム組成物の製造方法に関する。
【0013】
本発明はまた、X線散乱測定又は中性子散乱測定によってゴム組成物の耐摩耗性を評価する方法であって、上記(式1)で表されるqの領域において、X線散乱測定又は中性子散乱測定を実施することにより得られた散乱強度曲線I(q)に対し、上記(式1−2)〜(式1−7)でカーブフィッティングして得られる10nm〜100μmの相関長Ξの最大値Ξの標準偏差σに基いてゴム組成物の耐摩耗性を評価する方法に関する。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、上記(式1)で表されるqの領域において、X線散乱測定又は中性子散乱測定を実施することにより得られた散乱強度曲線I(q)に対し、上記(式1−2)〜(式1−7)でカーブフィッティングして得られる10nm〜100μmの相関長Ξの最大値Ξと、該最大値Ξの標準偏差σとの関係がσ≦Ξ/2であり、重量平均分子量が100万以上のゴム成分を含むゴム組成物であるため、優れた耐摩耗性が得られる。
また、σを耐摩耗性の指標として用いることで、ゴム組成物の耐摩耗性を高精度に評価することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】SANS測定により得られた散乱強度曲線の一例。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明は、上記(式1)で表されるqの領域において、X線散乱測定又は中性子散乱測定を実施することにより得られた散乱強度曲線I(q)に対し、上記(式1−2)〜(式1−7)でカーブフィッティングして得られる10nm〜100μmの相関長Ξの最大値Ξと、該最大値Ξの標準偏差σとの関係がσ≦Ξ/2であり、重量平均分子量が100万以上のゴム成分を含むゴム組成物である。
【0017】
X線散乱測定としては、ゴム組成物にX線を照射し散乱強度を測定するSAXS(Small−angle X−ray Scattering 小角X線散乱(散乱角:通常10度以下))測定を好適に採用できる。なお、小角X線散乱では、X線を物質に照射して散乱するX線のうち、散乱角が小さいものを測定することで物質の構造情報が得られ、高分子材料のミクロ相分離構造など、数ナノメートルレベルでの規則構造を分析できる。
【0018】
SAXS測定から詳細な分子構造情報を得るためには、高いS/N比のX線散乱プロファイルを測定できることが望ましい。そのため、シンクロトロンから放射されるX線は、少なくとも1010(photons/s/mrad/mm/0.1%bw)以上の輝度を有することが好ましい。なお、bwはシンクロトロンから放射されるX線のband widthを示す。このようなシンクロトロンの例として、財団法人高輝度光科学研究センター所有の大型放射光施設SPring−8のビームラインBL03XU、BL20XUが挙げられる。
【0019】
上記X線の輝度(photons/s/mrad/mm/0.1%bw)は、好ましくは1010以上、より好ましくは1012以上である。上限は特に限定されないが、放射線ダメージがない程度以下のX線強度を用いることが好ましい。
【0020】
また、上記X線の光子数(photons/s)は、好ましくは10以上、より好ましくは10以上である。上限は特に限定されないが、放射線ダメージがない程度以下のX線強度を用いることが好ましい。
【0021】
中性子散乱測定としては、ゴム組成物に中性子線を照射し散乱強度を測定するSANS(Small−Angle Neutron Scattering 小角中性子散乱(散乱角:通常10度以下))測定を好適に採用できる。なお、小角中性子散乱では、中性子線を物質に照射して散乱する中性子線のうち散乱角が小さいものを測定して物質の構造情報が得られ、高分子材料のミクロ相分離構造など、数ナノメートルレベルでの規則構造を分析できる。
【0022】
SANS測定では、公知の磁気構造や重水素化法を利用した方法を用いることができる。重水素化法を採用する場合、例えば、高分子材料を重水素化溶媒により膨潤化し、重水素溶媒中で平衡状態にある高分子材料に中性子線を照射し、散乱強度を測定することができる。ここで、高分子材料を膨潤させる重水素化溶媒としては、重水、重水素化ヘキサン、重水素化トルエン、重水素化クロロホルム、重水素化メタノール、重DMSO((DC)S=O)、重水素化テトラヒドロフラン、重水素化アセトニトリル、重水素化ジクロロメタン、重水素化ベンゼン、重水素化N,N−ジメチルホルムアミドなどが挙げられる。
【0023】
SANSなどの中性子散乱測定に使用される中性子線は、独立行政法人日本原子力研究開発機構所有のJRR−3研究炉のビームラインSANS−Jなどを使用して得られる。
【0024】
SAXS測定と同様に、高いS/N比の中性子散乱プロファイルが得られるという点から、上記中性子線の中性子束強度(neutrons/cm/s)は、好ましくは10以上、より好ましくは10以上である。上限は特に限定されないが、放射線ダメージがない程度以下の中性子束強度を用いることが好ましい。
【0025】
X線、中性子散乱測定は、下記(式1)で表されるqの領域で実施される。q(nm−1)の領域は、数値が大きくなるほどより微細な分子構造の情報が得られるため、X線、中性子散乱測定を実施するのは、qが10nm−1以下の領域が好ましく、20nm−1以下の領域がより好ましい。
【数3】
【0026】
SAXS測定において散乱するX線は、X線検出装置によって検出され、該X線検出装置からのX線検出データを用いて画像処理装置などによって画像が生成される。
【0027】
X線検出装置としては、例えば、2次元検出器(X線フィルム、原子核乾板、X線撮像管、X線蛍光増倍管、X線イメージインテンシファイア、X線用イメージングプレート、X線用CCD、X線用非晶質体など)、ラインセンサー1次元検出器を使用できる。分析対象となる高分子材料の種類や状態などにより、適宜X線検出装置を選択すればよい。
【0028】
画像処理装置としては、X線検出装置によるX線検出データに基づき、通常のX線散乱画像を生成できるものを適宜使用できる。
【0029】
SANS測定でもSAXS測定と同様の原理により測定可能であり、散乱する中性子線を中性子線検出装置により検出し、該中性子線検出装置からの中性子線検出データを用いて画像処理装置などによって画像が生成される。ここで、前記と同様、中性子線検出装置としては、公知の2次元検出器や1次元検出器、画像処理装置としては、公知の中性子線散乱画像を生成できるものを使用でき、適宜選択すればよい。
【0030】
そして、ゴム組成物について、SAXS測定やSANS測定などの測定を実施し、得られた散乱強度曲線を以下の方法で解析することにより、10nm〜100μmの相関長Ξi及びその最大値Ξと、該最大値Ξの標準偏差σとを算出できる。
【0031】
まず、図1に示したようなSAXS測定、SANS測定により得られた散乱強度曲線I(q)に対して、下記(式1−2)〜(式1−7)を用いてカーブフィッティングを行い、フィッティングパラメーターを最小2乗法で求める。
【数4】
【0032】
求められたフィッティングパラメーターのうち、相関長ξがポリマーの架橋点距離に相当し、相関長Ξがポリマーの不均一網目構造サイズに相当すると推定される。そして、前記のとおり、10nm〜100μmの相関長Ξの最大値Ξの標準偏差σは、耐摩耗性との相関性が高く、σが小さいほど耐摩耗性が良好であることから、σを耐摩耗性の指標として用いることで、耐摩耗性を高精度に評価することが可能となる。
【0033】
なお、相関長Ξの分布を表す上記(式1−7)に関し、Ξが正規分布するとしてガウス関数を用いているが、他の分布関数として、ガンマ関数、ワイブル関数などを用いてもよい。
【0034】
そして、σ≦Ξ/2の関係を満たすように調整することで、耐摩耗性に優れたゴム組成物が得られる。より良好な耐摩耗性が得られるという理由から、σ、Ξは、σ≦Ξ/3の関係を満たすことが好ましく、σ≦Ξ/4の関係を満たすことがより好ましい。
また、Ξ、σは、上記関係を満たしていればよいが、より良好な耐摩耗性が得られるという理由から、Ξは、好ましくは500〜1800nm、より好ましくは600〜1500nmであり、σは、好ましくは50〜500nm、より好ましくは100〜300nmである。
【0035】
Ξ、Ξ、σは、ゴム組成物に配合するゴム成分、充填剤などの薬品の種類や配合量によって調整することができる。
【0036】
また、Ξ、Ξ、σは、混練方法によって調整することも可能であり、例えば、ゴム成分と充填剤とを混練する前に、ゴム成分と硫黄供与体と硫黄原子含有加硫促進剤とを混練し、その後、得られた混練物に充填剤を加え、120℃以上の混練温度で混練する工程を含む製造方法により、σ≦Ξ/2の関係を満たすゴム組成物を容易に調製できる。
【0037】
ゴム成分と充填剤とを混練する前に、ゴム成分と硫黄供与体と硫黄原子含有加硫促進剤とを混練することにより、充填剤による硫黄供与体及び硫黄原子含有加硫促進剤の吸着を防止して、ゴム成分中に硫黄供与体及び硫黄原子含有加硫促進剤を効率的に分散させることができる。そして、ゴム成分と硫黄供与体と硫黄原子含有加硫促進剤との混練により得られた混練物に充填剤を加え、120℃以上の混練温度で混線することで、硫黄供与体から活性硫黄が放出される。この活性硫黄と硫黄原子含有加硫促進剤とゴム成分とが反応し、ゴム成分に硫黄原子含有加硫促進剤の全部又は一部(以下、「加硫促進剤残基」)が結合した状態、すなわち、ゴム成分に「−S−加硫促進剤残基」が結合したペンダント型構造が形成された状態となる。この反応のメカニズムは、放出された活性硫黄が硫黄原子含有加硫促進剤の硫黄原子と反応し、硫黄原子が2個以上結合した構造が形成され、その構造部分とゴム成分の二重結合部とが反応していると推測される。ペンダント型構造が形成された状態で混練を行うことにより、ゴム成分と共に加硫促進剤残基が移動するため、ゴム組成物全体における加硫促進剤残基の分散状態の均一性が向上し、加硫時の架橋密度の均一化を図ることができる。
なお、ここでいう混練温度とは、混練機中の混練物の実測温度であり、非接触式の温度センサなどで測定することができる。
【0038】
該製造方法の特徴は、前述のとおり、充填剤を混練する前にゴム成分と硫黄供与体と硫黄原子含有加硫促進剤との混練を開始する点、及び充填剤を加えた後に120℃以上の混練温度で混練する点である。以上の要件を満たすのであれば、いずれの工程でいずれの材料を加えても構わない。例えば、混練工程が工程Xと工程Fとからなる2工程の場合、工程Xの初期にゴム成分と硫黄供与体と硫黄原子含有加硫促進剤との混練を開始し、工程Xの途中で充填剤を加えて120℃以上の混練温度で混練し、その後の工程Fを行ってもよい。また、混練工程が工程Xと工程Yと工程Fとからなる3工程の場合、工程Xでゴム成分と硫黄供与体と硫黄原子含有加硫促進剤との混練を開始し、その後の工程Yで充填剤を加えて120℃以上の混練温度で混練し、その後の工程Fを行ってもよい。また、3工程の場合の他の例としては、工程Xの初期にゴム成分と硫黄供与体と硫黄原子含有加硫促進剤との混練を開始し、工程Xの途中で充填剤を加えて120℃以上の混練温度で混練し、その後の工程Y及び工程Fを行っても良いし、工程Xの初期にゴム成分と硫黄供与体と硫黄原子含有加硫促進剤との混練を開始し、工程Xの途中で充填剤を加え、その後の工程Yでさらに充填剤を加えて120℃以上の混練温度で混繍し、その後の工程Fを行ってもよい。なお、各工程の間にリミルを行ってもよい。
【0039】
ゴム成分と硫黄供与体と硫黄原子含有加硫促進剤との混練温度は、特に限定されるものではないが、硫黄供与体及び硫黄原子含有加硫促進剤による架橋反応が進行してしまうことを抑制するという観点から160℃未満が好ましく、150℃以下がより好ましい。下限は特に限定されないが、好ましくは60℃以上である。
【0040】
また、ゴム成分に充填剤を加える前における、ゴム成分と硫黄供与体と硫黄原子含有加硫促進剤との混練時間は、特に限定されるものではないが、硫黄供与体及び硫黄原子含有加硫促進剤の分散性向上の観点から、例えば10秒以上である。上限は特に限定されないが、好ましくは8分以下である。
【0041】
充填剤を加えた後の混練温度は、120℃以上であればよいが、架橋反応が進行し過ぎることを抑制するという観点から、170℃以下が好ましい。
【0042】
また、ゴム成分に充填剤を加えて混練温度が120℃に達した後の混練時間は、特に限定されるものではないが、硫黄供与体及び硫黄原子含有加硫促進剤の分散性向上の観点から、2分以上が好ましい。上限は特に限定されないが、10分以下が好ましい。なお、ここでいう混練時間は、ゴム成分に充填剤を加えて混練温度が120℃に達した時点から、混練工程の全工程が終了する時点までの時間であり、例えば、工程Xにおいてゴム成分に充填剤を加えて混練温度が120℃に達した場合、その時点から工程F(最後の混練工程)が終了する時点までの時間である。
【0043】
本発明では、重量平均分子量が100万以上のゴム成分を使用する。これにより、破壊の起点が少なくなり、良好な耐摩耗性が得られる。より良好な耐摩耗性が得られるという理由から、重量平均分子量は、120万以上が好ましく、140万以上がより好ましい。上限は特に限定されないが、250万以下が好ましい。
なお、本発明において、重量平均分子量(Mw)は、ゴム組成物に配合したゴム成分全体を実施例の方法で測定した値であり、ゴム成分として複数種を併用する場合、該複数種の混合物を測定したものである。
【0044】
上記ゴム成分としては、イソプレン、ブタジエンなどの共役ジエン系化合物を1種類以上用いた重合体を使用することができ、より具体的には、天然ゴム(NR)、イソプレンゴム(IR)、ブタジエンゴム(BR)、スチレンブタジエンゴム(SBR)、アクリロニトリルブタジエンゴム(NBR)、クロロプレンゴム(CR)、ブチルゴム(IIR)、ハロゲン化ブチルゴム(X−IIR)、スチレンイソプレンブタジエンゴム(SIBR)などを使用することができる。これらは、1種を単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。なかでも、SBR、BRが好ましい。
【0045】
また、SBRは、窒素含有化合物によって主鎖が、末端変性剤によって少なくとも一方の末端が変性された変性SBRであることが好ましい。窒素含有化合物としては、例えば、3−又は4−(2−アゼチジノエチル)スチレン、3−又は4−(2−ピロリジノエチル)スチレン、3−又は4−(2−ピペリジノエチル)スチレン、3−又は4−(2−ヘキサメチレンイミノエチル)スチレンなどが挙げられ、3−又は4−(2−ピロリジノエチル)スチレンが好ましい。また、末端変性剤としては、ケイ素含有化合物が好ましく、例えば、3−(N,N−ジメチルアミノ)プロピルトリメトキシシラン、3−(N,N−ジエチルアミノプロピル)トリメトキシシラン、3−(N,N−ジメチルアミノ)プロピルトリエトキシシラン、3−(N,N−ジエチルアミノプロピル)トリエトキシシラン、3−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、2−(4−ピリジルエチル)トリエトキシシラン、N−(3−トリエトキシシリルプロピル)−4,5−ジヒドロイミダゾール、四塩化ケイ素などが挙げられ、好ましくは3−(N,N−ジメチルアミノ)プロピルトリメトキシシランである。
【0046】
本発明のゴム組成物において、SBRの含有量は、ゴム成分100質量%中、好ましくは40質量%以上、より好ましくは60質量%以上であり、また、好ましくは95質量%以下、より好ましくは85質量%以下である。
【0047】
本発明のゴム組成物において、BRの含有量は、ゴム成分100質量%中、好ましくは5質量%以上、より好ましくは15質量%以上であり、また、好ましくは60質量%以下、より好ましくは40質量%以下である。
【0048】
充填剤としては、タイヤ分野において汎用されているシリカ、カーボンブラックなどの補強性充填剤を使用することができる。
【0049】
本発明のゴム組成物において、シリカの含有量は、ゴム成分100質量部に対して、好ましくは30質量部以上、より好ましくは60質量部以上であり、また、好ましくは120質量部以下、より好ましくは90質量部以下である。
【0050】
本発明のゴム組成物において、カーボンブラックの含有量は、ゴム成分100質量部に対して、好ましくは1質量部以上、より好ましくは3質量部以上であり、また、好ましくは20質量部以下、より好ましくは10質量部以下である。
【0051】
硫黄供与体は、元素硫黄や、加硫条件(例えば150℃、1.5Mpa)又はそれ以下の温度及び圧力下で活性硫黄を放出する硫黄化合物であり、換言すれば、加硫条件(例えば150℃、1.5Mpa)又はそれ以下の温度及び圧力下において、一般的に加硫剤としての機能を発揮する化合物である。この放出された活性硫黄が、上述のペンダント型構造の一部を形成する。
【0052】
硫黄供与体としては、元素硫黄及び/又は前述した活性硫黄を放出する硫黄化合物を用いることができる。元素硫黄としては、例えば、粉末硫黄、沈降硫黄、コロイド硫黄、表面処理硫黄、不溶性硫黄などが挙げられる。
【0053】
硫黄供与体として元素硫黄を配合し過ぎると、混練工程で加硫反応が過剰に進行するおそれがある。よって、本発明のゴム組成物において、硫黄供与体として元素硫黄を用いる場合、ゴム成分と充填剤とを混練する前に投入する元素硫黄の含有量は、ゴム成分(全工程で使用するゴム成分の合計量)100質量部に対して、0.1質量部以下が好ましい。また、上記含有量は、破壊強度の観点から、0.05質量部以上が好ましい。
【0054】
硫黄供与体として機能する硫黄化合物としては、−(−M−S−C−)−で表される高分子多硫化物や、硫黄原子が2個以上単結合した構造−S−(n≧2)を有し、活性硫黄を放出する化合物が挙げられる。この化合物としては、アルキルフェノール・ジスルフィド、モルホリン・ジスルフィド、−S−(n≧2)を有するチウラム系加硫促進剤(テトラメチルチウラムジスルフィド(TMTD)、テトラエチルチウラムジスルフィド(TETD)、テトラプチルチウラムジスルフィド(TBTD)、ジペンタメチレンチウラムテトラスルフィド(DPTT)など)、2−(4’−モルホリノジチオ)ベンゾチアゾール(MDB)や、ポリスルフィド型シランカップリング剤(例えばデグサ社製のSi69(ビス(3−トリエトキシシリルプロピル)テトラスルフィド))が挙げられる。これらは、1種を単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。なかでも、−S−(n≧2)を有するチウラム系加硫促進剤が好ましく、ジペンタメチレンチウラムテトラスルフィド(DPTT)がより好ましい。
【0055】
本発明のゴム組成物において、硫黄供与体として硫黄化合物を用いる場合、ゴム成分と充填剤とを混練する前に投入する硫黄化合物の含有量は、ペンダント型構造の形成を促すという理由から、ゴム成分(全工程で使用するゴム成分の合計量)100質量部に対して、0.1質量部以上が好ましく、0.2質量部以上がより好ましい。また、上記含有量は、混練中のゲル化抑制の観点から、5質量部以下が好ましく、3質量部以下がより好ましく、2質量部以下がさらに好ましい。
【0056】
硫黄原子含有加硫促進剤とは、他の分子と単結合で結合している硫黄原子を含む加硫促進剤を指す。硫黄原子含有加硫促進剤には、活性硫黄を放出するものと放出しないものとが存在するが、混練中の架橋反応の進行を抑制するという観点から、活性硫黄を放出しないもの(硫黄非放出性の硫黄原子含有加硫促進剤)が好ましい。
【0057】
硫黄原子含有加硫促進剤の中には、硫黄供与体として機能するもの(例えば、他の分子と単結合で結合している硫黄原子を含む加硫促進剤)が存在する。したがって、硫黄供与体として機能する硫黄原子含有加硫促進剤を単独で多く配合したり2種以上を併用したりすることでもペンダント型構造の形成は可能である。しかしながら、硫黄供与体として機能する硫黄原子含有加硫促進剤を多く配合すると混練中に架橋反応が過度に進行するおそれがあり、少なく配合すると架橋密度の均一化の効果が得られ難くなるおそれがあるため、充填剤を加える前に混練する硫黄供与体及び硫黄原子含有加硫促進剤は、硫黄供与体(硫黄供与体として機能する硫黄原子含有加硫促進剤及び/又はそれ以外の硫黄供与体)と硫黄非放出性の硫黄原子含有加硫促進剤(硫黄供与体として機能しない硫黄原子含有加硫促進剤)との組み合わせであることが好ましい。
【0058】
硫黄非放出性の硫黄原子含有加硫促進剤とは、例えば、加硫条件 (例えば150℃、1.5Mpa)又はそれ以下の温度及び圧力下で活性硫黄を放出しない硫黄原子含有加硫促進剤を指す。この硫黄非放出性の硫黄原子含有加硫促進剤は、換言すれば、加硫条件(例えば150℃、1.5Mpa)又はそれ以下の温度及び圧力下において加硫剤としての機能を発揮しない硫黄原子含有加硫促進剤である。
【0059】
硫黄非放出性の硫黄原子含有加硫促進剤としては、−S−(n≧2)を有しない、チアゾール系加硫促進剤(2−メルカプトベンゾチアゾール(MBT)、2−メルカプトベンゾチアゾールの亜鉛塩(ZnMBT)、2ーメルカプトベンゾチアゾールのシクロヘキシルアミン塩(CMBT)など)や、スルフェンアミド系加硫促進剤(N−シクロヘキシル−2−ベンゾチアゾリルスルフェンアミド(CBS)、N−(tert−プチル)−2−ベンゾチアゾールスルフェンアミド(TBBS)、N,N−ジシクロヘキシルー2−ベンゾチアゾリルスルフェンアミドなど)、テトラメチルチウラムモノスルフイド(TMTM)、ジチオカルバミン酸塩系加硫促進剤(ピペリジニウムペンタメチレンジチオカルバメート(PPDC)、ジメチルジチオカルバミン酸亜鉛(ZnMDC)、ジエチルジチオカルバミン酸亜鉛(ZnEDC)、ジブチルジチオカルバミン酸亜鉛(ZnBDC)、N−エチル−N−フェニルジチオカルバミン酸亜鉛(ZnEPDC)、N−ペンタメチレンジチオカルバミン酸亜鉛(ZnPDC)、ジブチルジチオカルバミン酸ナトリウム(NaBDC)、ジメチルジチオカルバミン酸銅(CuMDC)、ジメチルジチオカルバミン酸鉄(FeMDC)、ジエチルジチオカルパミン酸テルル(TeEDC)など)などが挙げられる。これらは、1種を単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。なかでも、−S−(n≧2)を有しないスルフェンアミド系加硫促進剤が好ましく、N−(tert−プチル)−2−ベンゾチアゾールスルフェンアミド(TBBS)がより好ましい。なお、チアゾール系加硫促進剤であるジ−2−ベンゾチアゾリルジスルフィド(MBTS)は、−S−(n≧2)を有しており、硫黄を放出する加硫促進剤であるが、一般的な配合量では天然ゴムやブタジエンゴムに対して加硫剤としての機能を発揮しないため、硫黄非放出性の硫黄原子含有加硫促進剤と同等に用いることができる。
【0060】
本発明のゴム組成物において、ゴム成分と充填剤とを混練する前に投入する硫黄原子含有加硫促進剤の含有量は、加硫工程において加硫反応が効率的に進むという理由から、ゴム成分(全工程で使用するゴム成分の合計量)100質量部に対して、1.0質量部以上が好ましく、1.5質量部以上がより好ましい。また、上記含有量は、スコーチ性、表面への析出抑制の観点から、5質量部以下が好ましく、3質量部以下がより好ましい。
【0061】
上記製造方法は、ゴム成分と充填剤とを混練する前以外の工程で、さらに追加の硫黄供与体を混練してもよい。追加の硫黄供与体を加えることで混練中に架橋反応の進行が過度に進むことを抑制しつつ、加硫中に十分に架橋反応を進行させることができる。
【0062】
追加の硫黄供与体は、例えば、ゴム成分に充填剤を加えて120℃以上の混練温度で混練する工程Xの後半や工程Y、あるいは、ゴム成分に充填剤を加えて120℃以上の混練温度で混練した後の工程Fで投入される。追加の硫黄供与体は、ゴム成分に充填剤を加える前に混練したものと同種のものであってもよいし、別種のものであってもよく、例えば、粉末硫黄、沈降硫黄、コロイド硫黄、表面処理硫黄、不溶性硫黄などの元素硫黄が挙げられる。
【0063】
本発明のゴム組成物において、追加の硫黄供与体の含有量は特に限定されないが、加硫工程において加硫反応が効率的に進むという理由から、ゴム成分(全工程で使用するゴム成分の合計量)100質量部に対して、0.5質量部以上が好ましく、0.8質量部以上がより好ましい。また、追加の硫黄供与体の含有量は、耐摩耗性に優れるという理由から、3.0質量部以下が好ましく、2.5質量部以下がより好ましい。
【0064】
追加の硫黄供与体を加える際には、追加の加硫促進剤を加えてもよい。追加の加硫促進剤としては、例えば、硫黄原子含有加硫促進剤であるチウラム系ジスルフィドやポリスルフィドなどや、硫黄原子を有しない加硫促進剤であるグアニジン系、アルデヒド−アミン系、アルデビド−アンモニア系、イミダゾリン系加硫促進剤などが挙げられる。
【0065】
本発明のゴム組成物において、追加の加硫促進剤の含有量は特に限定されないが、ゴム成分(全工程で使用するゴム成分の合計量)100質量部に対して、0.1質量部以上が好ましく、1質量部以上がより好ましい。また、上記含有量は、5質量部以下が好ましく、3質量部以下がより好ましい。
【0066】
工程Fを経て得られた未加硫ゴム組成物を、通常の方法で加硫することで、本発明のゴム組成物(加硫ゴム組成物)が得られる。
【0067】
本発明のゴム組成物は、耐摩耗性に優れることから、トレッドなどのタイヤ部材に好適に使用できる。本発明のゴム組成物を用いて空気入りタイヤを製造する場合、本発明のゴム組成物を、未加硫の段階でトレッドなどの形状に合わせて押出し加工し、タイヤ成型機上にて通常の方法にて成形し、他のタイヤ部材とともに貼り合わせ、未加硫タイヤ(生タイヤ)を形成した後、加硫機中で加熱加圧すればよい。
【実施例】
【0068】
実施例に基づいて、本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらのみに限定されるものではない。
【0069】
以下、モノマー(1)、SBR(1)の合成で使用した各種薬品について、まとめて説明する。
シクロへキサン:関東化学(株)製
ピロリジン:関東化学(株)製
ジビニルベンゼン:シグマアルドリッチ社製
1.6M n−ブチルリチウムへキサン溶液:関東化学(株)製
イソプロパノール:関東化学(株)製
スチレン:関東化学(株)製
ブタジエン:高千穂化学工業(株)製
テトラメチルエチレンジアミン:関東化学(株)製
変性剤:アヅマックス社製の3−(N,N−ジメチルアミノプロピル)トリメトキシシラン
2,6−tert−ブチル−p−クレゾール:大内新興化学工業(株)製
メタノール:関東化学(株)製
【0070】
(モノマー(1)の合成)
十分に窒素置換した100ml容器に、シクロヘキサン50ml、ピロリジン4.1ml、ジビニルベンゼン8.9mlを加え、0℃にて1.6M n−ブチルリチウムヘキサン溶液0.7mlを加えて攪拌した。1時間後、イソプロパノールを加えて反応を停止させ、抽出・精製を行うことでモノマー(1)を得た。
【0071】
(SBR(1)の合成)
十分に窒素置換した1000ml耐圧製容器に、シクロヘキサン600ml、スチレン12.6ml、ブタジエン71.0ml、モノマー(1)0.06g、テトラメチルエチレンジアミン0.11mlを加え、40℃で1.6M n−ブチルリチウムヘキサン溶液0.2mlを加えて撹拌した。3時間後、変性剤を0.5ml加えて攪拌した。1時間後、イソプロパノール3mlを加えて重合を停止させた。反応溶液に2,6−tert−ブチル−p−クレゾール1gを添加後、メタノールで再沈殿処理を行い、加熱乾燥させてSBR(1)を得た。
【0072】
以下、実施例及び比較例で使用した各種薬品について、まとめて説明する。
SBR(1):上記方法で合成(Mw:30万)
SBR(2):ダウ社製のSLR6430(Mw:120万)
BR:宇部興産(株)製のBR150B(Mw:40万)
加硫促進剤:大内新興化学工業(株)製のノクセラーNS(N−(tert−ブチル)−2−ベンゾチアゾールスルフェンアミド(TBBS))
硫黄供与体:大内新興化学工業(株)製のノクセラーTRA(ジペンタメチレンチウラムテトラスルフィド(DPTT))
シリカ:デグッサ社製のウルトラジルVN3
シランカップリング剤:エボニック社製のSi266
カーボンブラック:三菱化学(株)製のダイヤブラックI
オイル:出光興産(株)製のダイアナプロセスAH−24
酸化亜鉛:三井金属工業(株)製の酸化亜鉛
ステアリン酸:日油(株)製のステアリン酸「椿」
老化防止剤:精工化学(株)製のオゾノン6C(N−(1,3−ジメチルブチル)−N’−フェニル−p−フェニレンジアミン)
硫黄:鶴見化学工業(株)製の粉末硫黄
【0073】
(実施例及び比較例)
表1に示す配合内容に従い、工程Xに示す各種薬品を、1.7Lバンバリーミキサーにて、排出温度100℃で5.0分間混練した(工程X)。次に、工程Xの混練物及び工程Yに示す各種薬品を、1.7Lバンバリーミキサーにて、140℃以上で30秒混練し、さらに排出温度150℃で3分間混練した(工程Y)。そして、工程Yの混練物及び工程Fに示す各種薬品を、オープンロールを用いて約80℃で3分間混練りし(工程F)、未加硫ゴム組成物を得た。得られた未加硫ゴム組成物を所定の形状のロ金を備えた押し出し機でトレッドの形状に押し出し成形し、他のタイヤ部材とともに貼り合わせて未加硫タイヤを形成し、170℃の条件下で12分間プレス加硫することにより、試験用タイヤ(タイヤサイズ:195/65R15)を製造した。得られた試験用タイヤについて下記の評価を行った。結果を表1に示す。
【0074】
1.SANS測定法
厚み約1mmのプレート状試料(成型品)を重水素化トルエンで平衡膨潤させた状態でサンプルホルダーに取り付け、室温にて試料に中性子線を照射した。試料から検出器までの距離が2.5m、10m、及びフォーカシングレンズ測定から得られた絶対散乱強度曲線を最小2乗法にて結合させた。3つの曲線の結合は、試料から検出器までの距離が2.5mの測定から得られる散乱強度曲線を固定し、10m、フォーカシングレンズ測定から得られる散乱強度曲線をシフトさせた。得られた散乱強度曲線I(q)に対して、(式1−2)〜(式1−7)を用いてカーブフィッティングを行い、フィッティングパラメーターΞ(10nm〜100μmの相関長(ポリマーの不均一網目構造サイズ))を最小2乗法で求め、該相関長Ξの最大値Ξと、その標準偏差σを算出した。
(SANS装置)
SANS:独立行政法人日本原子力研究開発機構所有のJRR−3研究炉のビームラインSANS−J付属のSANS測定装置
(測定条件)
中性子線の波長:6.5Å
中性子線の中性子束強度:9.9×10neutrons/cm/s
試料から検出器までの距離:2.5m、10m(なお、更に小角側の情報を得るために試料から検出器までの距離10mの条件下、フォーカシングレンズを用いた測定を行った。)
(検出器)
2次元検出器(He 2次元検出器及び2次元フォトマル+ZnS/LiF検出器)
【0075】
2.ゴム成分の重量平均分子量
各例で使用するゴム成分の混合物の重量平均分子量を、ゲルパーミエーションクロマトグラフ(GPC)(東ソー(株)製GPC−8000シリーズ、検出器:示差屈折計、カラム:東ソー(株)製のTSKGEL SUPERMULTIPORE HZ−M)による測定値をもとに標準ポリスチレン換算により求めた。
【0076】
3.実車耐摩耗性
上記試験用タイヤを国産FF車に装着し、8000km走行後のタイヤトレッド部の溝深さを測定し、タイヤ溝深さが1mm減るときの走行距離を算出し、下記の式により指数化した。指数が大きいほど、耐摩耗性が良好である。
(各配合のタイヤ溝が1mm減るときの走行距離)/(比較例1のタイヤ溝が1mm減るときの走行距離)×100
【0077】
【表1】
【0078】
表1より、σと耐摩耗性とに高い相関性があり、σが小さいほど、耐摩耗性が良好であることが分かる。また、σ≦Ξ/2の関係を満たし、且つ重量平均分子量が100万以上のゴム成分を含む実施例では、特に良好な耐摩耗性が得られることが分かる。
図1