(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、上記の事情に鑑みなされたものであり、その解決しようとする課題は、カーボンが凝集性の高いナノカーボンであっても、微細にカーボンが分散したカーボン分散物が得られるカーボン用分散剤を提供することである。
【0010】
また、高濃度のナノカーボンが微細に分散した、高流動性のカーボン分散物が得られるカーボン用分散剤を提供することである。
【0011】
なお、本明細書中、「ナノカーボン」とは、ナノメートル(10億分の1m)の大きさの構造をもつカーボンからなる物質群の総称である。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者らは、カーボンブラック(以下、「CB」とも略称する)等の一般にナノカーボンよりも凝集性が低いカーボンの分散性を確保することはもとより、カルボキシル基やアルデヒド基が極端に少なく、直線的や平面的な立体構造を有するナノカーボンをも微細に分散し得、分散物の低粘度化も可能な分散剤を得るために、以下の観点から分散剤の分子設計を行った。
【0013】
すなわち、分散剤とカーボンの相互作用を高めるために、カーボンとの相互作用が得られる官能基の数を稼ぐことができる高分子分散剤を用いることとした。また、カーボンとの相互作用としては、ファンデルワールス力(つまり、誘起双極子・誘起双極子相互作用)よりも強い電荷・誘起双極子相互作用を用いることとした。具体的には、高分子分散剤にマレイン酸類由来の単位を導入し、カルボキシル基をカーボンとの相互作用部位とした。また、直線的や平面的な立体構造のカーボンであっても、滑り性、流動性を確保できるように、高分子分散剤を排除体積効果の大きいポリアルキレングリコール鎖がグラフトした構造とした。さらに、正負両荷電をカーボン分散物系内に導入することで、カーボン表面の誘起双極子を積極的に安定化させることができるために、マレイン酸類由来の単位のカルボキシル基を中和するための中和剤(対イオン)としてアミン化合物および/またはアルカリ金属を選択した。
【0014】
本発明はこのような分子設計に基づいてさらに研究を進めることにより完成し得たものであり、その特徴は以下の通りである。
【0015】
[1] 下記の成分(A)及び成分(B)を含んでなるカーボン用分散剤であって、
該成分(B)の含有量が該成分(A)が有するカルボキシル基に対して100〜40モル%であることを特徴とするカーボン用分散剤。
(A):(a)マレイン酸類由来の単位、(b)式(I):R
1O(AO)
nR
2[式中、R
1は炭素数2〜8のアルケニル基、R
2は水素原子または炭素数1〜18の飽和炭化水素基、AOは炭素数2〜4のオキシアルキレン基を表し、nは1分子当りのオキシアルキレン基の平均付加モル数を表し、1〜100である。]で表されるポリオキシアルキレン化合物由来の単位、および(c)スチレン類由来の単位を含み、(a)〜(c)単位の組成比が、(
a)=85〜45モル%、(b)=40〜3モル%、(c)=5モル%を超え50モル%以下
であり、重量平均分子量が1,000〜100,000である共重合体。
(B):下記式(II)で表されるアミンおよび/またはアルカリ金属。
式(II):
【0016】
【化1】
【0017】
[式中、R
3は水素原子、または1以上の置換基を有していてもよい炭素数1〜22の飽和または不飽和の炭化水素基を表し、R
4、R
5はそれぞれ独立に、水素原子、1以上の置換基を有していてもよい炭素数3以下の炭化水素基、または式(III):−(AO)
n−R
6[式中、AOは炭素数2〜4のオキシアルキレン基を表し、nは1分子当りのオキシアルキレン基の平均付加モル数を表し、2〜10を表す。R
6は水素原子、または炭素数1〜4のアルキル基を表す。]を表すか、或いは、R
3、R
4およびR
5が、それらが結合している窒素原子と一緒になって、1以上の置換基を有していてもよい複素環を形成する。
[2] 成分(A)及び成分(B)を含む水溶液である、上記[1]記載のカーボン用分散剤。
[3] 成分(A)が有するカルボキシル基に対して100モル%の量の成分(B)に加えて、共重合体(A)が有するカルボキシル基に対して50モル%以下の量の成分(B)をさらに含有してなる、上記[1]又は[2]記載のカーボン用分散剤。
[4] ナノカーボン用である、上記[1〜[3]のいずれか1つに記載のカーボン用分散剤。
[5] グラフェン用である、上記[1]〜[3]のいずれか1つに記載のカーボン用分散剤。
[6] 上記[1]〜[3]のいずれか1つに記載のカーボン用分散剤とカーボンとを含むカーボン分散物。
[7] カーボンがナノカーボンである、上記[6]記載のカーボン分散物。
[8] ナノカーボンがグラフェンである、上記[7]記載のカーボン分散物。
[9] さらに、電極用バインダーを含み、電池または電気二重層キャパシタの電極に使用される、上記[6]〜[8]のいずれか1つに記載のカーボン分散物。
【0018】
[10] 上記成分(A)と該成分(A)が有するカルボキシル基に対して100〜40モル%の上記成分(B)とを水中で混合して水溶液を調製することを含む、カーボン用分散剤の製造方法。
[11] 上記成分(A)と該成分(A)が有するカルボキシル基に対して150〜40モル%の上記成分(B)とを水中で混合して水溶液を調製することを含む、カーボン用分散剤の製造方法。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、カーボンブラック等の一般にナノカーボンよりも凝集性が低いカーボンだけでなく、凝集性の高いナノカーボンであっても、微細にカーボンが分散したカーボン分散物を得ることができる。
【0020】
また、高濃度のナノカーボンが分散した、高流動性のカーボン分散物を得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0022】
本発明のカーボン用分散剤(以下、単に「分散剤」とも略称する)は、下記の成分A)及び成分(B)を含むことが主たる特徴である。
【0023】
[成分(A)]
本発明における、成分(A)は、(a)マレイン酸類由来の単位、(b)式(I):R
1O(AO)
nR
2で表されるポリオキシアルキレン化合物(以下、「式(I)のポリオキシアルキレン化合物」ともいう)由来の単位、および(c)スチレン類由来の単位を含む、共重合体である。以下、当該共重合体を「共重合体(A)」とも称する。
【0024】
(a)マレイン酸類由来の単位における「マレイン酸類」としては、例えば、無水マレイン酸、マレイン酸等が挙げられる。好ましくは、無水マレイン酸である。該マレイン酸類は1種または2種以上を使用することができる。
【0025】
(b)式(I)のポリオキシアルキレン化合物由来の単位において、式中のR
1は炭素数2〜8のアルケニル基を表す。かかる炭素数2〜8のアルケニル基としては、例えば、ビニル基、アリル基、メタリル基等の脂肪族アルケニル基;シクロペンテニル基、シクロヘキセニル基等の脂環式アルケニル等が挙げられる。脂肪族アルケニル基が好ましく、より好ましくはアリル基、メタリル基である。
【0026】
式中のR
2は水素原子または炭素数1〜18の飽和炭化水素基を表す。炭素数1〜18の飽和炭化水素基は直鎖状であっても分枝鎖状であってもよいが直鎖状が好ましく、また、非置換であることが好ましい。
【0027】
R
2は式(I)のポリオキシアルキレン化合物の入手性、機能性等の点から、水素原子、メチル基、ラウリル基、ステアリル基が好ましく、メチル基、ラウリル基、ステアリル基がより好ましい。
【0028】
式中のAOは炭素数2〜4のオキシアルキレン基を表す。かかる炭素数2〜4のオキシアルキレン基は、直鎖状であっても分枝鎖状であってもよいが、主鎖の炭素数は2が好ましく、例えば、オキシエチレン基、オキシプロピレン基、オキシブチレン基が挙げられる。
【0029】
分子中の複数のAOは互いに同一であっても異なっていてもよく、また、複数のAOが互いに異なる場合、異なるAOはランダム状に導入されていてもブロック状に導入されていてもよいが、ブロック状に導入されているのが好ましい。
【0030】
式中の(AO)
nにおけるnは1分子当りのオキシアルキレン基の平均付加モル数を表し、1〜100である。このnが100を超えると、カルボキシル基が高分子の排除体積の外面に位置する確率が相対的に低くなることで、カルボキシル基がカーボンに相互作用できる確率が減るために、カーボンの分散が困難となる。nは3〜70が好ましく、より好ましくは5〜50である。
【0031】
式(I)のポリオキシアルキレン化合物は一種または二種以上を使用できる。式(I)のポリオキシアルキレン化合物の特に好ましい具体例としては、以下のものが例示される。
(a)CH
2=CHCH
2O・(C
2H
4O)
n・CH
3
(b)CH
2=CHCH
2O・(C
2H
4O)
n・C
18H
37
(c)CH
2=CHCH
2O・(C
2H
4O)
n−a・(C
3H
6O)
a・CH
3
(d)CH
2=CHCH
2O・(C
2H
4O)
n・CH
3とCH
2=CHCH
2O・(C
4H
8O)
n・CH
3の混合物
(e)CH
2=C(CH
3)CH
2O・(C
2H
4O)
n・C
12H
25
【0032】
式(I)のポリオキシアルキレン化合物は、例えば、アルケニルアルコールに、アルカリ性触媒または酸性触媒を用いてオキシアルキレンを付加することによって得ることができる。また、アルケニルクロリドと、ポリオキシアルキレンモノアルキルエーテルとを常法にて、エーテル化することによって得ることができる。
【0033】
(c)スチレン類由来の単位における「スチレン類」としては、例えば、スチレン、ビニルトルエン、α−メチルスチレン、クロロスチレン、クロロメチルスチレン等が挙げられる。好ましくは、スチレンである。該スチレン類は1種または2種以上を使用することができる。
【0034】
共重合体(A)は、公知の重合方法により得ることができ、例えば、マレイン酸類、式(I)のポリオキシアルキレン化合物およびスチレン類を、重合開始剤の存在下、塊状重合や溶液重合などの公知の重合法によって共重合させることにより、製造することができる。溶液重合の場合、溶媒としては、トルエン等の芳香族炭化水素やメチルイソブチルケトン等のケトン系溶媒が好適である。重合開始剤としては、ジアシルパーオキサイド、パーオキシジカーボネート、パーオキシエステル、パーオキシケタール、ジアルキルパーオキサイド、ハイドロパーオキサイド等の過酸化物系重合開始剤、アゾイソブチロニトリル、アゾイソバレロニトリル等のアゾ系重合開始剤等が挙げられる。重合開始剤は1種または2種以上を使用することができる。
【0035】
共重合体(A)における、(a)マレイン酸類由来の単位、(b)式(I)のポリオキシアルキレン化合物由来の単位および(c)スチレン類由来の単位の組成比は、(a)=85〜45モル%、(b)=40〜3モル%、(c)=5モル%を超え50モル%以下(但し、(a)〜(c)単位の合計が100モル%)である。
【0036】
(a)マレイン酸類由来の単位が85モル%を超えると、相対的にポリアルキレン基の量が減るため、排除体積効果が減りカーボンの会合を防ぐことが困難となり、(a)マレイン酸類由来の単位が45モル%未満では、カーボンとの相互作用を担う部分が減るためカーボンの分散が困難となる。(b)式(I)のポリオキシアルキレン化合物由来の単位が40モル%を超えると、相対的にカルボキシル基の量が減るため、カーボンとの相互作用を担う部分が減り、カーボンの分散が困難となり、3モル%未満では、ポリアルキレン基の量が減るため、排除体積効果が減りカーボンの会合を防ぐことが困難となる。(c)スチレン由来の単位が5モル%以下では電池または電気二重層キャパシタの電極に使用する電池用バインダーとの共存下でのレベリング性(すなわち、カーボン、分散剤および電極用バインダーを含むカーボン分散物のレベリング性)が減少すると共に、室温でのカーボン分散物の流動性の経時安定性が劣り、50モル%を超えると、相対的にカーボンとの相互作用を担う部分や、排除体積効果が減るために、カーボンの会合を防ぐことが困難となる。
【0037】
当該共重合体(A)の組成比は、好ましくは (a)=80〜50モル%、(b)=35〜
3モル%、(c)=5モル%を超え50モル%以下(但し、(a)〜(c)単位の合計が100モル%)である。
【0038】
高流動性のカーボン分散物を得るという観点からは、(b)単位は、式(I)中のAOがオキシエチレンであるポリオキシエチレン化合物由来の単位であることが好ましい。
【0039】
共重合体(A)には、本発明の効果を阻害しない範囲で、(a)〜(c)単位以外に、他の共重合可能な単量体由来の単位を導入することができる。他の共重合可能な単量体としては、アクリル酸エステル、メタクリル酸エステル、不飽和二塩基酸アルキルエステル、アクリルアミド、メタクリルアミド、α,β−不飽和ニトリル化合物、脂肪族共役ジエン、ビニルエステル、ビニルエーテル、ハロゲン化ビニル、オレフィン、ケイ素含有α,β−エチレン性不飽和単量体等が挙げられる。
【0040】
アクリル酸エステルおよびメタクリル酸エステルとしては、例えば、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、プロピル(メタ)アクリレート、n−ブチル(メタ)アクリレート、t−ブチル(メタ)アクリレート、イソブチル(メタ)アクリレート、n−アミル(メタ)アクリレート、イソアミルヘキシル(メタ)アクリレート、オクチル(メタ)アクリレート、ノニル(メタ)アクリレート、デシル(メタ)アクリレート、ドデシル(メタ)アクリレート、オクタデシル(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、フェニル(メタ)アクリレート、ベンジル(メタ)アクリレート、2−エチル−ヘキシル(メタ)アクリレート、ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、ヒドロキシシクロヘキシル(メタ)アクリレート、グリシジル(メタ)アクリレート、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、1,3−ブチレングリコールジ(メタ)アクリレート、1,4−ブチレングリコールジ(メタ)アクリレート、プロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、1,5−ペンタンジオールジ(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、1,6−ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、ジエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、テトラエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、テトラメチロールメタンテトラ(メタ)アクリレート、アリル(メタ)アクリレート、メトキシポリエチレングリコール(メタ)アクリレート、β−(メタ)アクリロイルオキシエチルハイドロジェンフタレート、β−(メタ)アクリロイルオキシエチルハイドロジェンサクシネート、3−クロロ−2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、ステアリル(メタ)アクリレート、フェノキシエチル(メタ)アクリレート、フェノキシポリエチレングリコール(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシ−1,3−ジ(メタ)アクリロキシプロパン、2,2−ビス[4−((メタ)アクリロキシエトキシ)フェニル]プロパン、2,2−ビス[4−((メタ)アクリロキシ・ジエトキシ)フェニル]プロパン、2,2−ビス[4−((メタ)アクリロキシ・ポリエトキシ)フェニル]プロパン、イソボルニル(メタ)アクリレート等が挙げられる。なお、本明細書中、「(メタ)アクリレート」は「アクリレート」及び「メタクリレート」を意味し、「(メタ)アクリロイル」は「アクリロイル」及び「メタクリロイル」を意味し、「(メタ)アクリロキシ」は「アクリロキシ」及び「メタクリロキシ」を意味する。
【0041】
不飽和二塩基酸アルキルエステルとしては、例えば、クロトン酸アルキルエステル、イタコン酸アルキルエステル、フマル酸アルキルエステル、マレイン酸アルキルエステル等が挙げられる。
【0042】
アクリルアミドおよびメタクリルアミドとしては、例えば、(メタ)アクリルアミド、N−メチロール(メタ)アクリルアミド、N−アルコキシ(メタ)アクリルアミド等が挙げられる。
【0043】
α,β−不飽和ニトリル化合物としては、例えば、アクリロニトリル、メタクリロニトリル、α−クロルメタクリロニトリル等が挙げられる。
【0044】
脂肪族共役ジエンとしては、例えば、1,3−ブタジエン、イソプレン、2,3−ジメチル−1,3−ブタジエン、2−エチル−1,3−ブタジエン、2−メチル−1,3−ブタジエン、1,3−ペンタジエン、クロロプレン、2−クロル−1,3−ブタジエン、シクロペンタジエンなどが挙げられる。
【0045】
他の共重合可能な単量体由来の単位((d)単位)の導入量は、(a)〜(c)単位の合計量に対して5モル%以下である。
【0046】
共重合体(A)の重量平均分子量は1,000〜100,000である。重量平均分子量がこの範囲外であると、本発明の効果が充分に発揮されない。好ましい重量平均分子量は3,000〜50,000であり、より好ましくは4,000〜20,000ある。なお、この重量平均分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)法により測定したポリエチレングリコール換算の値である。具体的には、例えば、測定装置として東ソー株式会社製HLC−8320GPCを、カラムとしてShodex OHpak
SB−806M HQ 2本と、Shodex OHpak SB−802.5 HQ
1本を、移動相として10mMのリチウムブロマイドを含むジメチルホルムアミドを用いて、カラム温度40℃にて測定し、標準ポリエチレングリコールの検量線を用いて算出される。
【0047】
本発明において、成分(A)(「共重合体(A)」)は1種または2種以上を使用することができる。
【0048】
[成分(B)]
本発明における、成分(B)は、下記式(II)で表されるアミン(以下、「式(II)のアミン」とも略称する)および/またはアルカリ金属であり、共重合体(A)のカルボキシル基に対する中和剤(対イオン)として作用する。
【0051】
式(II)のアミンにおいて、式中のR
3は、水素原子、または1以上の置換基を有していてもよい炭素数1〜22の飽和または不飽和の炭化水素基を表す。
【0052】
1以上の置換基を有していてもよい炭素数1〜22の飽和または不飽和の炭化水素基は、直鎖状であっても分枝鎖状であってもよい。1以上の置換基としては、例えば、ヒドロキシ基、アルキルオキシ基等が挙げられ、好ましくはヒドロキシ基である。
【0053】
炭素数1〜22の飽和または不飽和の炭化水素基は、置換基を有しない場合、炭素数が14〜22が好ましく、17〜22がより好ましい。一方、置換基を有する場合、分枝鎖状の飽和炭化水素基であるのが好ましく、また、炭素数が4〜5であるのが好ましい。置換基数は1〜3が好ましい。
【0054】
R
3は、好ましくは、水素原子、ラウリル基、オレイル基、ステアリル基、1、1−ジメチル−2−ヒドロキシエチル基、トリス(ヒドロキシメチル)メチル基、1−(ヒドロキシメチル)プロピル基等である。
【0055】
R
4、R
5はそれぞれ独立に、水素原子、1以上の置換基を有していてもよい炭素数3以下の炭化水素基、または式(III):−(AO)
n−R
6を表すか、或いは、R
3とともに(すなわち、R
3、R
4およびR
5が)、それらが結合している窒素原子と一緒になって、1以上の置換基を有していてもよい複素環を形成する。
【0056】
1以上の置換基を有していてもよい炭素数3以下の炭化水素基としては、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基等が挙げられる。1以上の置換基としては、例えば、ヒドロキシ基、アミノ基、アルキルオキシ基等が挙げられ、好ましくはヒドロキシ基、アミノ基である。
【0057】
式(III)中のAOは炭素数2〜4のオキシアルキレン基を表す。炭素数2〜4のオキシアルキレン基は、直鎖状であっても分枝鎖状であってもよいが、直鎖状が好ましく、例えば、オキシエチレン基、オキシプロピレン基、オキシブチレン基が挙げられる。好ましくはオキシエチレン基である。
【0058】
分子中の複数のAOは互いに同一であっても異なっていてもよいが、同一が好ましい。なお、複数のAOが互いに異なる場合、異なるAOはランダム状に導入されていてもブロック状に導入されていてもよいが、ブロック状に導入されているのが好ましい。(AO)
nにおけるnは1分子当りのオキシアルキレン基の平均付加モル数を表し、2〜10を表す。該平均付加モル数nは2〜5が好ましい。
【0059】
R
6は水素原子、または炭素数1〜4の炭化水素基を表す。炭素数1〜4の炭化水素基としては、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基等が挙げられる。
【0060】
式(II)において、R
4、R
5は、好ましくは、水素原子、メチル基、アミノプロピル基、ヒドロキシエチル基、またはオキシエチレン基の平均付加モル数nが2〜10のポリオキシエチレン基である。
【0061】
また、R
3、R
4およびR
5が、それらが結合している窒素原子と一緒になって、1以上の置換基を有していてもよい複素環を形成する場合、複素環としては、例えば、1−アザ−ジオキサビシクロ[3.3.0]オクタン環、オキサゾリジン環等が挙げられる。好ましくは、1−アザ−ジオキサビシクロ[3.3.0]オクタン環である。また、1以上の置換基としては、例えば、エチル基、ヒドロキシメチル基等が挙げられ、好ましくはエチル基である。
【0062】
式(II)のアミンとしては、例えば、アンモニア、ブチルアミン、ヘキシルアミン、ヘプチルアミン、オクチルアミン、ノニルアミン、デシルアミン、ラウリルアミン、ヤシアルキルアミン、ミリスチルアミン、セチルアミン、ステアリルアミン、硬化牛脂アルキルアミン、牛脂アルキルアミン、アルキル−3−アミノプロピルエーテル、オレイルアミン、大豆アルキルアミン、ベヘニルアミン、N,N−ジメチルラウリルアミン、N,N−ジメチルヤシアルキルアミン、N,N−ジメチルミリスチルアミン、N,N−ジメチルパルミチルアミン、N,N−ジメチルステアリルアミン、ジメチル硬化牛脂アルキルアミン、ポリオキシエチレンラウリルアミン、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンラウリルアミン、ポリオキシエチレンアルキル(ヤシ)アミン、ポリオキシエチレンステアリルアミン、ポリオキシエチレンオレイルアミン、ポリオキシエチレン牛脂アルキルアミン、2−エトキシエチルアミン、3−ブトキシプロピルアミン、3−メトキシプロピルアミン、3−エトキシプロピルアミン、4,4−ジメトキシブチルアミン、トリス(ヒドロキシメチル)アミノメタン、2−アミノ−2−メチル−1−プロパノール、2−アミノ−2−メチル−1,3−プロパンジオール、2−アミノ−2−エチル−1,3−プロパンジオール、トリス(ヒドロキシメチル)アミノメタン、2−ジメチルアミノ−2−メチル−1−プロパノール、2−アミノ−1−ブタノール、4,4−ジメチルオキサゾリジン、5−ヒドロキシメチル−1−アザ−3,7−ジオキサビシクロ[3.3.0]オクタン、5−エチル−1−アザ−3,7−ジオキサビシクロ[3.3.0]オクタンが挙げられる。なかでも、2−アミノ−2−メチル−1−プロパノール、N,N−ジメチルラウリルアミン、N−(アミノプロピル)オレイルアミン、N−(ヒドロキシエチル)ラウリルアミン、N,N−ビス(ポリオキシエチレン(5))ステアリルアミン、N,N−ビス(ポリオキシエチレン(1.25))ステアリルアミン、トリス(ヒドロキシメチル)アミノメタン、オレイルアミン、2−アミノ−1−ブタノール、5−エチル−1−アザ−3,7−ジオキサビシクロ[3.3.0]オクタン、2−ジメチルアミノ−2−メチル−1−プロパノールが好ましい。
式(II)のアミンは1種または2種以上を使用することができる。
【0063】
アルカリ金属は、好ましくはLi、Na、K、であり、より好ましくはLiである。アルカリ金属は1種または2種以上を使用することができる。
【0064】
本発明において、成分(B)は、1種または2種以上を使用することができる。
【0065】
[カーボン用分散剤]
本発明のカーボン用分散剤は、例えば、成分(A)と成分(B)とを水中で混合して水溶液にすることで調製される。このとき、成分(B)の量は成分(A)が有するカルボキシル基((a)マレイン酸類由来の単位)に対して100〜40モル%であり、好ましくは100〜50モル%である。なお、成分(B)がアルカリ金属を含む場合、通常、その水酸化物(即ち、NaOH、KOH、LiOH等)を水中に添加することにより、成分(B)と成分(A)の混合を行う。
【0066】
本発明のカーボン用分散剤は、水溶液中の成分(A)及び成分(B)の総量濃度が好ましくは25〜70重量%、より好ましくは30〜60重量%となるように水中に混合して調製するのが好ましい。なお、水溶液の調製は室温下で行われる。「室温」とは1〜30℃のことである。
【0067】
本発明のカーボン用分散剤は、成分(A)が有するカルボキシル基に対して100モル%超の量の成分(B)を含有するものであってもよい。すなわち、成分(A)が有するカルボキシル基に対して100モル%の量の成分(B)に加えて、さらに成分(A)が有するカルボキシル基に対して50モル%以下の量の成分(B)を含有させることができる。よって、本発明のカーボン用分散剤は成分(B)の総含量が成分(A)が有するカルボキシル基に対して100モル%超150モル%以下の組成からなる分散剤も包含する。このような成分(A)が有するカルボキシル基に対して過剰量の成分(B)を含有する分散剤の場合、過剰量の成分(B)によって、DLVO理論による分散安定化に役立つ適切なゼータ電位を、分散液中のカーボン粒子に与えることが期待できる。なお、分散剤中の成分(B)の総含量が成分(A)が有するカルボキシル基に対して150モル%を超える量である場合、分散剤とカーボンの相互作用を弱めるため、過剰量の成分(B)による分散安定化効果を期待できない。
【0068】
成分(B)の総含量が成分(A)が有するカルボキシル基に対して100モル%超150モル%以下の組成の分散剤も、所定量の成分(A)と所定量の成分(B)とを水中で混合して水溶液にすることで調製される。この場合も、水溶液中の成分(A)及び成分(B)の総量濃度は好ましくは25〜70重量%であり、より好ましく30〜60重量%である。
【0069】
本発明のカーボン用分散剤は上記の水溶液のまま保存または流通させてもよいし、適宜濃縮または希釈してから保存または流通させてもよい。また、水溶液から水分を揮散除去して精製した固形物(粉末等)にして保存または流通させてもよい。また、分散剤をカーボンと実際に混合する際は、水溶液形態の分散剤は濃縮または希釈して使用することができ、固形物(粉末等)形態の分散剤はそのまま使用することもできるが、水に溶かして水溶液にしてから使用することができる。従って、本発明のカーボン用分散剤が水溶液形態である場合、その濃度(成分(A)及び成分(B)の総量濃度)は一般的には0.25〜70重量%の範囲であり、好ましくは0.75〜60重量%である。
【0070】
[カーボン分散物]
本発明のカーボン分散物は、本発明のカーボン用分散剤とカーボンが液状媒体中に共存し、本発明のカーボン用分散剤により被分散物であるカーボンが分散してなる液、スラリー、またはペースト状の組成物である。液状媒体としては、水、N−メチルピロリドン、アセトン、メタノール、エタノール等が挙げられる。これらは1種または2種以上を使用することができる。なお、カーボン用分散剤が水溶液形態である場合、カーボン分散物における液状媒体の全量または一部がカーボン用分散剤由来の水であってもよい。
【0071】
被分散物となるカーボンは、ダイヤモンド及びカルビン以外の炭素材料、すなわち、縮合多環六角網面を基本構造とする炭素材料であり、例えば、CB、炭素繊維、グラファイト、CNT、CNF、CNC、GPN、フラーレン、グラフェン等が挙げられる。このうち、CNT、CNF、CNC、GPN、フラーレン、グラフェンがナノカーボンである。本発明のカーボン用分散剤は、凝集性の高いナノカーボンであっても、微細に分散させることができるため、ナノカーボンを高濃度で含有しつつ、高流動性を示すカーボン分散物を得ることができる。本発明のカーボン用分散剤は、グラフェンに対して特に好適に作用する。なお、本発明でいう「グラフェン」とは、1原子の厚さのsp
2結合炭素原子のシートだけでなく、複数のシートからなるが商業的にグラフェンの名前が付けられている物質を含む。
【0072】
本発明のカーボン用分散剤は、ナノカーボンの中でもグラフェンに対して特に好適に作用し、高濃度のグラフェンを微細かつ一様に分散させることができる。このため、例えば、グラフェンを30重量%の濃度以上で含有しつつ、せん断速度(d(γ)/dt)=0.1[1/秒]、温度=20℃の条件で測定されるせん断粘度が13,000[mPa・s]以下、好ましくは5,000[mPa・s]以下である、高流動性のカーボン分散物を得ることができる。また、せん断速度(d(γ)/dt)=100[1/秒]、温度=20℃の条件で測定されるせん断粘度が500[mPa・s]以下の極めて高い流動性のカーボン分散物を得ることができる。
【0073】
本発明のカーボン分散物におけるカーボンの濃度は特に限定されないが、好ましくは0.5重量%以上であり、より好ましくは1〜45重量%であり、更に好ましくは1〜5重量%または20〜40重量%である。ここで、1〜5重量%は、カーボン分散物を下記の電極用バインダーを含む特に電池の電極用カーボン分散物とする際に好適な濃度であり、20〜40重量%は、特に高濃度のナノカーボンを含む、例えば電気二重層キャパシタの電極用カーボン分散物とする際に好適な濃度である。また、本発明のカーボン分散物におけるカーボン用分散剤の含有量(成分(A)及び成分(B)の総含有量)は50〜0.1重量%が好ましく、10〜0.5重量%であるのがより好ましい。
【0074】
本発明のカーボン分散物には、本発明のカーボン用分散剤およびカーボンとともに、電池や電気二重層キャパシタの電極に使用される電極用バインダーが液状媒体中に共存し、本発明のカーボン用分散剤によりカーボンが分散してなる、液、スラリー、またはペースト状のカーボン分散物(以下、このカーボン分散物を「電極用カーボン分散物」と称する)も包含される。かかる電極用カーボン分散物は、カーボンが例えばグラフェンであっても、高濃度のグラフェンが電極用バインダーとともに一様に分散した、レベリング性に優れた組成物になるため、それを用いて形成された電極が、電池(特にリチウムイオン二次電池等の二次電池)の電極であれば、電池の高性能化に寄与するし、電気二重層キャパシタの電極であれば、電気二重層キャパシタの電気容量の増大化や応答速度の高速化に寄与する。
【0075】
電極用バインダーとしては、電池の電極や電気二重層キャパシタの電極に使用されている公知のバインダーを制限なく使用することができ、特に限定はされないが、例えば、エチレン、プロピレン、塩化ビニル、酢酸ビニル、ビニルアルコール、マレイン酸、アクリル酸、アクリル酸エステル、メタクリル酸、メタクリル酸エステル、アクリロニトリル、スチレン、ビニルブチラール、ビニルアセタール、ビニルピロリドン等を構成単位として含む重合体または共重合体;ポリウレタン樹脂、ポリエステル樹脂、フェノール樹脂、エポキシ樹脂、フェノキシ樹脂、尿素樹脂、メラミン樹脂、アルキッド樹脂、アクリル樹脂、ホルムアルデヒド樹脂、シリコン樹脂、フッ素樹脂;カルボキシメチルセルロースのようなセルロース樹脂;スチレン−ブタジエンゴム、フッ素ゴムのようなゴム類;ポリアニリン、ポリアセチレンのような導電性樹脂、カルボキシメチルセルロースナトリウム等の多糖類誘導体等が挙げられる。また、これら例示のものから選択される2種以上の混合物や複合体であってもよい。
【0076】
電極用カーボン分散物において、カーボン分散物が、電池の電極用のカーボン分散物であるか、電気二重層キャパシタの電極用のカーボン分散物であるかによって、カーボン分散物中のカーボンと電極用バインダーの量比は異なり、また、電池の電極用のカーボン分散物であっても、カーボンが電極における活物質(例えば、リチウムイオン二次電池の負極活物質である黒鉛(グラファイト)系カーボン)である場合と、カーボンが電極の活物質に対する導電助剤(例えば、リチウムイオン二次電池の正極活物質に対する導電性カーボンやナノカーボン)である場合とで、カーボンと電極用バインダーの量比は異なる。
【0077】
電池の電極用のカーボン分散物において、カーボンが電極における活物質(例えば、リチウムイオン二次電池の負極活物質である黒鉛(グラファイト)系カーボン)である場合、カーボン分散物中のカーボンと電極用バインダーとの質量比(カーボン:電極用バインダー)は1:0.005〜0.15(好ましくは1:0.015〜0.10)である。また、カーボンが電極の活物質に対する導電助剤(例えば、リチウムイオン二次電池の正極活物質に対する導電性カーボンやナノカーボン)である場合、カーボン分散物中のカーボンと電極用バインダーとの質量比(カーボン:電極用バインダー)は1:0.05〜20(好ましくは1:0.1〜10)である。電気二重層キャパシタの電極用のカーボン分散物の場合、カーボン分散物中のカーボンの質量を1とすると電極用バインダーの質量は0.2以下(好ましくは0.15以下)である。
【0078】
本発明のカーボン分散物の用途は特に限定されず、カーボンがその原料として使用される種々の製品に使用することができる。例えば、インク、塗料、フィルム等における着色剤、トレー、チューブ、包装容器等の帯電防止剤、ディスプレイ部材や磁気記録部材等電子部品における導電剤、電池や電気二重層キャパシタ等の電極用材料等として使用することができる。なお、カーボン分散物を電池や電気二重層キャパシタ等の電極用材料として使用する場合で、カーボン分散物が電極用バインダーを含む電極用カーボン分散物である場合には、カーボン分散物をそのまま電極の製造工程に供することが可能であり、カーボン分散物が電極用バインダーを含まないカーボン分散物である場合には、カーボン分散物に電極用バインダーを加えて電極の製造工程に供することも可能である。なお、カーボン分散物を電気二重層キャパシタの電極用材料として使用する場合には、電気二重層キャパシタの電極は電極用バインダーを必要としない態様もあり、電極用バインダーを含まないカーボン分散物をそのまま電極の製造工程に供することも可能である。
【実施例】
【0079】
以下に実施例および比較例等を示して本発明をより具体的に説明する。但し、以下に示す実施例および比較例等によって本発明は限定されるものではない。
なお、以下に記載の評価試験1、2、3は、目視や光学顕微鏡によるカーボン分散性の官能試験である。このため、工業的に重要なカーボン分散物の流動性は評価できない。評価試験4はカーボン分散物の流動性に関する評価であるため商業的価値が高い評価である。ただし、評価の尺度である湿潤点及び流動点を測定者が決定するため客観性の点で劣る。評価試験5はカーボン分散物のレオロジー測定であるため、流動性に関する評価であると共に、客観性が高いため、商業的に非常に価値の有る評価と言える。また、評価試験6は、Liイオン電池の電極用材料を想定した電極用バインダーを含むカーボン分散物の評価であるため商業的価値が高い評価である。評価試験7はカーボン分散剤使用時を想定した評価で有るため商業的価値が高い評価である。
【0080】
<共重合体(A)の製造;製造例1〜8>
かき混ぜ機、温度計、窒素ガス導入管、還流冷却器を装着したフラスコに250gのトルエンを入れ、(a)無水マレイン酸を表1に示した組成比、配合量で、(b)の化合物を表1に示した組成比、配合量で、(c)スチレンを表1に示した組成比、配合量で、加えて均一化し、35℃で重合開始剤としてパーブチルO(日油株式会社製:t−ブチルパ
ーオキシ−2−エチルヘキサノエート)を表1に示した配合量で加え、系内の空気を窒素ガスで置換した後、60±2℃で10時間反応させた。重合反応終了後、減圧乾燥して共重合体を得た。
得られた共重合体の重量平均分子量を表1にあわせて記す。
【0081】
【表1】
【0082】
<実施例1〜16、比較例1〜2>
かき混ぜ機を装着したフラスコに、製造例1〜8の共重合体(成分(A))を表2に示した配合量で、表2に示したアミンまたはアルカリ金属(成分(B))を表2に示した配合量で、水を表2に示した配合量で、加えて、撹拌して、水溶液からなる実施例1〜16のカーボン用分散剤および比較例1〜2を得た。
【0083】
【表2】
【0084】
<実施例17〜23>
カーボン(カーボンブラック)分散物の作製と分散性評価
カーボンブラック(三菱化学(株)製MA100)0.03gに、3重量%水溶液に調整した実施例1のカーボン用分散剤3mLを加えて密封し、超音波槽で17分間超音波処理することで実施例17のカーボン分散物を作製した。引き続いて、40℃、2日間静置後、手でサンプル管を振動後、目視観察すると共に、光学顕微鏡(対物レンズ40倍)で観察してカーボン分散物中のカーボンの分散状態を評価した(評価試験1)。
実施例2〜7のカーボン用分散剤についても、同様にして、それらを使用したカーボン分散物(実施例18〜23)を作製し、評価試験1により、カーボン分散物におけるカーボンの分散状態を評価した。結果を表3に示す。
【0085】
<比較例3〜11>
実施例1のカーボン用分散剤の代わりに表3に示した比較用の分散剤を用いるか、分散剤を使用しない以外は、実施例17と同じ方法でカーボン分散物を作製し、評価試験1により、カーボン分散物中のカーボンの分散状態を評価した。結果を表3に示す。
【0086】
【表3】
【0087】
<実施例24〜27>
カーボン(導電性カーボン)分散物の作製と分散性評価
導電性カーボン(デンカ(株)製FX−35)0.03gに、3重量%水溶液に調整した実施例4のカーボン用分散剤3mLを加えて密封し、超音波槽で17分間超音波処理した。引き続いて、40℃、2日間静置後、ボルテックスミキサーで10秒間撹拌して実施例24のカーボン分散物を作製した。このカーボン分散物を光学顕微鏡で観察し、続いて4℃で1ヶ月間静置後目視観察し、ボルテックスミキサーで10秒間撹拌後、再度目視観察して、カーボンの分散状態を評価した(評価試験2)。
実施例5〜7のカーボン用分散剤についても、同様にして、それらを使用したカーボン分散物(実施例25〜27)を作製し、評価試験2によりカーボン分散物におけるカーボンの分散状態を評価した。結果を表4に示す。
【0088】
<比較例12〜22>
カーボン(導電性カーボン)分散物の作製と分散性評価
実際例4のカーボン用分散剤の代わりに表4に示した比較用の分散剤を用いるか、分散剤を使用しない以外は、実施例24と同じ方法でカーボン分散物を作製し、評価試験2によりカーボンの分散性評価を行った。結果を表4に示す。
【0089】
【表4】
【0090】
<実施例28〜35>
カーボン(グラフェン)分散物の作製と分散性評価
グラフェン(XGSciences社製M−25)0.03gに、3重量%水溶液に調整した実施例2のカーボン用分散剤3mLを加えて密封し、超音波槽で17分間超音波処理することで、実施例28のカーボン分散物を得た。そして、評価試験3によりこのカーボン分散物におけるカーボンの分散状態を評価した。結果を表5に示す。
実施例1、3〜8のカーボン用分散剤についても、同様にして、それらを使用したカーボン分散物(実施例29〜35)を作製し、評価試験3により、カーボン分散物におけるカーボンの分散状態を評価した。結果を表5に示す。
【0091】
<比較例23〜34>
カーボン(グラフェン)分散物の作製と分散性評価
実施例2のカーボン用分散剤の代わりに表5に示した比較用の分散剤を用いるか、分散剤を使用しない以外は、実施例28と同じ方法でカーボン分散物を作製し、評価試験3により、カーボンの分散状態を評価した。結果を表5に示す。
【0092】
【表5】
【0093】
<実施例36〜47>
カーボン(グラフェン)分散物の作製と分散性評価
0.30重量%の水溶液に調整した実施剤1のカーボン用分散剤を、グラフェン(XGSciences社製M−25)0.4gに、少量ずつ滴下すると同時に、フッ素樹脂製スパチュラでなじませるように静かにかつ速やかに混合し、グラフェンが粉状から一塊にまとまった状態になった時点の添加量を「湿潤点(g)」とした。引き続いて、カーボン用分散剤を少量ずつ滴下して同様に混合し、流動性が現れた時点の添加量を、「流動点(g)」とし、実施例36のカーボン分散物の作製と、カーボン分散剤の分散性能を評価した(評価試験4)。この結果を表6に示す。分散性能の良い分散剤ほど「湿潤点」および「流動点」が少量の添加量で観察される。
実施例2〜11のカーボン用分散剤についても、同様にして、それらを使用したカーボン分散物(実施例37〜47)の作製と評価試験4によるカーボン分散剤の分散性能の評価を行った。結果を表6に示す。
【0094】
<比較例35〜42>
カーボン(グラフェン)分散物の作製と分散性評価
実施例1のカーボン用分散剤の代わりに表6に示した比較用分散剤を用いるか、分散剤を使用しない以外は、実施例36と同じ方法でカーボン分散物の作製と評価試験4によるカーボン分散剤の分散性能の評価を行った。結果を表6に併せて示す。
【0095】
【表6】
【0096】
<実施例48〜50>
30重量%カーボン(グラフェン)分散物の作製と粘度による分散性評価
グラフェン(XGSciences社製C−75)1.5gに、8.57重量%水溶液に調整した実施例5のカーボン用分散剤3.5gを加えてサンプル管に封入し、自転・公転ミキサー((株)シンキー社製ARE−310)を用いて2000rpm、5分間の条件で混練することで、実施例48のカーボン(グラフェン)分散物を得た。引き続いて、この分散物におけるカーボンの分散状態を評価するために、分散物をレオメータ(AntonPaar社製MCR302)の試料台に適量載せ、せん断速度=d(γ)/dt=0.1〜100[1/秒]、温度=20[℃]の条件で、せん断粘度[mPa・s]を測定した(評価試験5)。結果を表7に示す。
実施例6、7のカーボン用分散剤についても、同様にして、それらを使用したカーボン分散物(実施例49、50)を作製し、カーボンの分散状態を評価するために、分散物を評価試験5に供した。この結果を表7に示す。カーボン分散剤の分散性能が良いほど、カーボン分散物は低粘度となる。
【0097】
<比較例43〜45>
カーボン(グラフェン)分散物の作製と分散性評価
8.57重量%水溶液に調整した実施例5のカーボン用分散剤3.5gの代わりに、表7に記した比較用分散剤を用いるか、分散剤を使用しない以外は実施例48と同じ方法でカーボン分散物(比較例43〜45)を作製し、カーボンの分散状態を評価するために、分散物を評価試験5に供した。その結果を表7に示す。
【0098】
【表7】
【0099】
<実施例51〜54>
二次電池の電極用バインダを含むカーボン分散物の作製と分散性の評価
0.6重量%の電極用バインダ(JSR(株)製TRD202A)および、0.15重量%の実施剤5のカーボン用分散剤を含有する水溶液を調整し、グラフェン(XGSciences社製M−25)0.4gに、少量ずつ滴下すると同時に、フッ素樹脂製スパチュラでなじませるように静かにかつ速やかに混合し、グラフェンが粉状から一塊にまとまった状態になった時点の添加量を「湿潤点(g)」とした。引き続いて、カーボン用分散剤を少量ずつ滴下して同様に混合し、流動性が現れた時点の添加量を、「流動点(g)」とし、実施例51のカーボン分散物の作製と、カーボン分散剤の分散性能を評価した(評価試験6)。この結果を表8に示す。なお、本検討の「湿潤点(g)」および「流動点(g)」における、カーボンに対するバインダの使用量は2.7〜4.8重量%である。
分散性能の良い分散剤ほど「湿潤点」および「流動点」が少量の添加量で観察される。
【0100】
引き続いて、「流動点(g)」に達した試料に、先に加えたのと同種のカーボン用分散剤水溶液を0.07g加え、ポリプロピレン製白色トレーに移して外観を評価した。外観の写真を
図1(a)に示し、評価結果を表8に示す。外観は以下の様に評価した。◎:輪郭がなだらかで、表面が平ら。○:輪郭がなだらかで表面に湾曲あり。△:輪郭がギザギザで表面に湾曲あり。×:輪郭がギザギザで表面に尖った皺あり。
【0101】
実施例9、12、13のカーボン用分散剤についても、同様にして、それらを使用したカーボン分散物(実施例52〜54)の作製と評価試験6によるカーボン分散剤の分散性能の評価およびカーボン分散物の外観評価を行った。
図1(b)が実施例52のカーボン分散物の外観写真、
図1(c)が実施例53のカーボン分散物の外観写真、
図1(d)が実施例54のカーボン分散物の外観写真である。結果を表8に示す。
【0102】
<比較例46〜50>
カーボン(グラフェン)分散物の作製と分散性評価
実施例5のカーボン用分散剤の代わりに表8に示した比較用分散剤を用いた以外は、実施例51と同じ方法でカーボン分散物(比較例46〜50)の作製と評価試験6によるカーボン分散剤の分散性能の評価およびカーボン分散物の外観評価を行った。
図1(e)が比較例46のカーボン分散物の外観写真、
図1(f)が比較例47のカーボン分散物の外観写真、
図1(g)が比較例48のカーボン分散物の外観写真、
図1(h)が比較例49のカーボン分散物の外観写真、
図1(i)が比較例50のカーボン分散物の外観写真である。結果を表8に示す。
【0103】
【表8】
【0104】
<実施例55〜56>
30重量%カーボン(グラフェン)分散物の作製と経時変化の評価
まず、実施例49と同じグラフェン分散物を作製した。具体的には、グラフェン(XGSciences社製C−75)1.5gに、8.57重量%水溶液に調整した実施例6のカーボン用分散剤3.5gを加えてサンプル管に封入し、自転・公転ミキサー((株)シンキー社製ARE−310)を用いて2000rpm、5分間の条件で混練することで、実施例55のカーボン(グラフェン)分散物を得た。引き続いて、この分散物におけるカーボンの分散状態を評価するために、アルミ板上に分散物を約0.85g乗せ、外観を写真撮影した。外観の写真を
図2(a)に示す。写真撮影に用いなかった分散物は密封して、室温にて1ヶ月間保管した。1ヶ月間保管後、アルミ板上に分散物を約0.85g乗せ、外観を写真撮影した。外観の写真を
図2(b)に示す。これら(a)(b)写真と比較することで経時変化の評価を行った(評価試験7)。
実施例7のカーボン用分散剤についても、同様にして、それらを使用したカーボン分散物(実施例56)を作製し、評価試験7に供した。
図2(c)が実施例56のカーボン分散物調製時の外観写真であり、
図2(d)が室温にて1ヶ月間保管後の外観写真である。
【0105】
<比較例51>
カーボン(グラフェン)分散物の作製と経時変化の評価
実施例6のカーボン用分散剤の代わりに比較例2の分散剤を用いた以外は、実施例55と同じ方法でカーボン分散物(比較例51)を作製し、評価試験7に供した。
図2(e)が比較例51のカーボン分散物調製時の外観写真で、
図2(f)が室温にて1ヶ月間保管後の外観写真である。
【0106】
図2(a)〜(f)を比較すると、実施例55、56のカーボン分散物は1ヵ月後も流動性を維持していたが、比較例51のカーボン分散物は1ヵ月後に流動性を失っており、実施例の分散物が経時的に安定である事が示された。