(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
使用時に回転する内径側軌道輪部材の外周面と使用時にも回転しない外径側軌道輪部材の内周面との間に存在する内部空間の軸方向片端開口部を塞ぐ為に使用されるもので、
芯金と、この芯金に支持された弾性材製のシール材とを備え、
この芯金は、金属板製で全体が円環状であり、前記外径側軌道輪部材の軸方向片端部に固定される固定筒部と、この固定筒部の軸方向片端部から径方向外方に向けて折れ曲がった外向鍔部とを有するもので、この外向鍔部は、前記芯金の中心軸に対し直交する方向に延出した平板部と、この平板部の径方向外側に隣接して設けられ、径方向外方に向かう程軸方向片方に向かう方向に曲線的に屈曲した屈曲部と、この屈曲部の径方向外側に隣接して設けられ、径方向外方に向かう程軸方向片方に向かう方向に傾斜した傾斜板部とを有しており、
前記シール材は、前記外向鍔部の周囲を覆った外径側覆部と、この外径側覆部のうち前記外向鍔部の軸方向他側を覆った背面覆部の内径側端部から軸方向他方に突出する状態で設けられ、前記外径側軌道輪部材の軸方向片端面と接触する突起部とを有するものであり、
前記平板部の軸方向他側面と前記屈曲部の軸方向他側面との境界位置が、前記突起部と軸方向に重畳している、
シールリング。
使用時に回転する内径側軌道輪部材の外周面と使用時にも回転しない外径側軌道輪部材の内周面との間に存在する内部空間の軸方向片端開口部を塞ぐ為に使用されるもので、
芯金と、この芯金に支持された弾性材製のシール材とを備え、
この芯金は、金属板製で全体が円環状であり、前記外径側軌道輪部材の軸方向片端部に固定される固定筒部と、この固定筒部の軸方向片端部から径方向外方に向けて折れ曲がった外向鍔部とを有するもので、この外向鍔部は、前記芯金の中心軸に対し直交する方向に延出した平板部と、この平板部の径方向外側に隣接して設けられ、径方向外方に向かう程軸方向片方に向かう方向に曲線的に屈曲した屈曲部と、この屈曲部の径方向外側に隣接して設けられ、径方向外方に向かう程軸方向片方に向かう方向に傾斜した傾斜板部とを有しており、
前記シール材は、前記外向鍔部の周囲を覆った外径側覆部と、この外径側覆部のうち前記外向鍔部の軸方向他側を覆った背面覆部から軸方向他方に突出する状態で設けられ、前記外径側軌道輪部材の軸方向片端面と接触する突起部とを有するものであり、
前記平板部の軸方向他側面と前記屈曲部の軸方向他側面との境界位置が、前記背面覆部のうち前記突起部よりも内径側に存在する背面内径部と軸方向に重畳しており、
前記背面内径部は、厚肉部と、この厚肉部の径方向内側に隣接して設けられ、この厚肉部よりも軸方向厚さ寸法が小さい薄肉部とを有しており、この薄肉部の軸方向他側面が前記厚肉部の軸方向他側面よりも軸方向片側に位置している、
シールリング。
内周面に外輪軌道を有し、使用時にも回転しない、前記外径側軌道輪部材である外輪と、外周面のうちでこの外輪軌道と対向する部分に内輪軌道を有し、使用時に回転する、前記内径側軌道輪部材であるハブと、これら外輪軌道と内輪軌道との間に転動自在に設けられた複数個の転動体と、前記外輪の内周面と前記ハブの外周面との間に存在する内部空間の軸方向外端開口部を塞ぐシールリングとを備えたシールリング付転がり軸受ユニットであって、
前記シールリングが、請求項1〜2のうちの何れか1項に記載したシールリングである事を特徴とするシールリング付転がり軸受ユニット。
【背景技術】
【0002】
例えば
図8に示す様に、自動車の車輪は、車輪支持用のシールリング付転がり軸受ユニット1により、懸架装置に対し回転自在に支持されている。このシールリング付転がり軸受ユニット1は、外輪2の内径側にハブ3を、複数個の転動体4、4を介して回転自在に支持している。外輪2は、懸架装置に支持する為の静止側フランジ5を外周面に有しており、複列の外輪軌道6a、6bを内周面に有している。ハブ3は、ハブ本体7と内輪8とを、ナット9により結合する事により構成されており、外周面に複列の内輪軌道10a、10bを有している。転動体4、4は、内輪軌道10a、10bと外輪軌道6a、6bとの間に、各列毎に複数個ずつ、それぞれ保持器11、11により保持された状態で転動自在に設けられている。
【0003】
ハブ本体7の外周面のうち、外輪2の軸方向外端開口部から軸方向外方に突出した部分には、径方向外方に突出した回転側フランジ12が設けられている。回転側フランジ12には、複数本のスタッド13を利用して、車輪を構成するホイールが取り付けられる。尚、本明細書及び特許請求の範囲で、軸方向に関して内とは、車両への組み付け状態で車両の幅方向中央側となる側を言い、同じく外とは、車両の幅方向外側となる側を言う。
【0004】
外輪2の軸方向外端部内周面とハブ3の軸方向中間部外周面との間には、シールリング14を装着している。これにより、外輪2の内周面とハブ3の外周面との間に存在する内部空間15の軸方向外端開口部を塞いでいる。一方、外輪2の軸方向内端部には、有底円筒状のカバー16を装着して、この外輪2の軸方向内端開口部を塞いでいる。
【0005】
内部空間15の軸方向外端開口部を塞ぐシールリング14は、回転側フランジ12の軸方向内側面に沿って径方向内方に導かれた異物が内部空間15に侵入するのを防止する必要上、優れたシール性能が要求されている。この様な事情に鑑みて従来から、内部空間の軸方向外端開口部をシールする為のシールリングとして、各種構造のものが考えられている。
図9は、特許文献1に記載されたシールリング14を示している。
【0006】
シールリング14は、芯金17と、シール材18とから構成されている。このうちの芯金17は、外輪2の軸方向外端部内周面に内嵌固定された固定筒部19と、固定筒部19の軸方向外端部から径方向外方に向けて直角に折れ曲がった外向鍔部20と、固定筒部19の軸方向内端部から軸方向外側に向けて180度折り返されると共に径方向内方に向けて折れ曲がった内径支持部21とを備える。又、外向鍔部20の径方向中間部乃至外端部の軸方向内側に除肉部22を設ける事で、この外向鍔部20の径方向中間部乃至外端部を薄板部23としている。尚、
図9を含め各図には、自由状態でのシールリップの形状を示している。
【0007】
シール材18は、弾性材製で、芯金17に対し加硫接着により結合固定されており、3本のシールリップ24〜26と、外向鍔部20の周囲を覆う様に設けられた外径側覆部27と、この外径側覆部27の外周面から径方向外方に延出した突出部28とを備えている。
【0008】
3本のシールリップ24〜26のうち、軸方向外方に延出する状態で設けられた、サイドリップと呼ばれる軸方向シールリップ24、25は、それぞの先端縁を回転側フランジ12の基端部の軸方向内側面に全周に亙り摺接させている。又、径方向内方に突出する状態で設けられた径方向シールリップ26は、その先端縁をハブ本体7の軸方向中間部外周面に全周に亙り摺接させている。これにより、内部空間15の軸方向外端開口部を塞ぎ、泥水等の異物が内部空間15に侵入するのを防止している。又、外径側覆部27の径方向中間部から軸方向内方に向けて突出する状態で設けられた突起部29を、外輪2の軸方向外端面に弾性的に接触させている。これにより、シールリング14と外輪2の軸方向外端面との間部分を密封している。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
ところで、上述した様なシールリングを構成する芯金は、一般的に、金属板(鋼板)にプレス加工を施す事により造られているが、前記
図9に示した構造の様に、外向鍔部20の軸方向内側に除肉部22が設けられた芯金17を造るには、コイニング加工(圧印加工)を施す必要がある。コイニング加工は、通常の曲げ加工を施す場合に比べて、大きなプレス荷重が必要になり、大型のプレス機が必要になる為、製造コストが嵩む原因となる。
【0011】
又、一般的なシールリングの製造方法としては、下型内に接着剤を塗布した芯金を配置すると共に、この芯金上にリング状の未加硫ゴムを載置した状態で、下型に対して上型を締め、加硫接着成形する事が行われている。但し、この様な方法により前記
図9に示した様なシールリング14を造る場合には、溶融したゴムが、外向鍔部20の径方向外側から除肉部22内に流動する(廻る)際に、この除肉部22内の空気が抜けずに残留し、溶融したゴムに気泡が形成されてしまい、突起部29が設計通りに成形されない可能性がある。
【0012】
この様な事情に鑑みて、下型の一部に、除肉部22内のエア抜きを行う為の大気と連通した空間を設け、この空間に意図的に溶融ゴムを流して、余分な溶融ゴムと共に残留空気を下型の成形空間の外へ押し出す事が考えられる。具体的には、
図10に示す様に、除肉部22の内径側端部近傍にフラッシュランド54を設け、その中にフラッシュ30を形成する。ところが、この場合には、フラッシュ30を切除した際に生じるフラッシュ30の一部が、外径側覆部27に残留し易くなる。そして、フラッシュ30の残留部(バリ部)の先端縁が、突起部29の先端縁よりも軸方向に突出してしまうと、この突起部29による密封効果が損なわれてしまう。この様な問題の発生を防止する為に、突起部29の突出量を大きくする事が考えられるが、この場合には、外輪2の軸方向外端面との接触によって弾性変形した(潰れた)突起部29を収容する空間を、この突起部29の径方向両側に設ける必要があり、除肉部22の径方向寸法を大きく確保しなければならなくなる。そして、この様に除肉部22の形成範囲を大きくする事は、プレス荷重の増大に繋がる為、製造コストが更に嵩む原因となる。
【0013】
本発明は、上述の様な事情に鑑みて、外輪に相当する使用時にも回転しない外径側軌道輪部材の軸方向端面との間部分の密封性を確保できるシールリングを、低コストで得られる構造を実現すべく発明したものである。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明のシールリング及びシールリング付転がり軸受ユニットのうち、シールリングは、使用時に回転する内径側軌道輪部材の外周面と使用時にも回転しない外径側軌道輪部材の内周面との間に存在する内部空間の軸方向片端開口部を塞ぐ為に使用されるもので、芯金と、この芯金に支持固定された弾性材製のシール材とを備える。
このうちの芯金は、金属板製で全体が円環状に構成されており、前記外径側軌道輪部材の軸方向片端部に固定される固定筒部と、この固定筒部の軸方向片端部から径方向外方に向けて折れ曲がった外向鍔部とを有している。
更にこの外向鍔部は、内径寄り部分に設けられ、前記芯金の中心軸に対し直交する方向に延出した平板部と、この平板部の径方向外側に隣接して設けられ、径方向外方に向かう程軸方向片方に向かう方向に曲線的に屈曲した屈曲部と、この屈曲部の径方向外側に隣接して設けられ、径方向外方に向かう程軸方向片方に向かう方向に直線的に傾斜した傾斜板部とを有している。
前記シール材は、前記外向鍔部の周囲を覆った外径側覆部と、この外径側覆部のうち前記外向鍔部の軸方向他側を覆った背面覆部から軸方向他方に突出する状態で設けられ、前記外径側軌道輪部材の軸方向片端面と全周に亙り接触する突起部と、先端縁を前記内径側軌道輪部材の表面に全周に亙り摺接させる1乃至複数本のシールリップとを有する。
そして、前記平板部の軸方向他側面(直線部)と前記屈曲部の軸方向他側面(曲線部)との境界位置を、前記突起部又は前記背面覆部のうちこの突起部よりも内径側に存在する部分と軸方向に重畳させている。
【0015】
本発明のシールリング
の第1態様では
、前記背面覆部の内径側端部に前記突起部を設け、前記境界位置を、この突起部と軸方向に重畳させる事ができる。
【0016】
本発明のシールリングの第2態様では、前記境界位置を、前記背面覆部のうち前記突起部よりも内径側に存在する背面内径部と軸方向に重畳させる事ができる。
又、前記背面内径部を、前記突起部に近い外径寄り部分に設けられた厚肉部と、この厚肉部の径方向内側に隣接して設けられ、この厚肉部よりも軸方向厚さ寸法が小さい薄肉部とを有するものとする。
更に、前記薄肉部の軸方向他側面を、前記厚肉部の軸方向他側面よりも軸方向片側に位置(オフセット)させる。
この様なシールリングを製造するには、例えば、前記芯金に前記シール材を加硫接着する際に、前記薄肉部の軸方向他側面に連続する状態で設けられたフラッシュランド内に、フラッシュを形成する。その後、このフラッシュを切除する。これにより、このフラッシュの一部(残留部)が前記薄肉部に残存した場合にも、このフラッシュの残留部が、前記厚肉部の軸方向他側面よりも軸方向他側に突出しない様にする。
【0017】
本発明のシールリング付転がり軸受ユニットは、外輪と、ハブと、複数個の転動体と、シールリングとを備える。
このうちの外輪は、前記外径側軌道輪部材に相当し、使用時にも回転しないもので、例えば略円筒状に構成され、内周面に外輪軌道が設けられている。
前記ハブは、前記内径側軌道輪部材に相当し、使用時に回転するもので、前記外輪の内径側にこの外輪と同心に配置されており、外周面のうちで、前記外輪軌道と対向する部分に内輪軌道が設けられている。
前記各転動体は、前記外輪軌道と前記内輪軌道との間に、例えば保持器により保持された状態で、転動自在に設けられている。
前記シールリングは、前記外輪の内周面と前記ハブの外周面との間に存在する内部空間の軸方向外端開口部を塞ぐものであり、芯金と、この芯金に支持されたゴムの如きエラストマー等の弾性材製のシール材とを有している。
そして、前記シールリングとして、本発明のシールリングを使用する。
【発明の効果】
【0018】
上述の様な構成を有する本発明によれば、外径側軌道輪部材の軸方向片端面との間部分の密封性を確保できるシールリングを低コストで得られる。
即ち、本発明の場合には、シールリングを構成する芯金の外向鍔部の外径寄り部分に、径方向外方に向かう程軸方向片方に向かう方向に傾斜した傾斜板部を設けている為、従来構造の様に薄肉部を設けた場合と同様に、外向鍔部の軸方向他側に、外径側軌道輪部材の軸方向片端面との間部分を密封する為の背面覆部の成形空間を設ける事ができる。しかも、傾斜板部は、コイニング加工ではなく、通常の曲げ加工により形成できる為、大型のプレス装置を用いずに、小型のプレス装置により加工する事が可能になる。従って、本発明によれば、外径側軌道輪部材の軸方向片端面との間部分の密封性を確保できるシールリングを、低コストで得られる。
【発明を実施するための形態】
【0020】
[実施の形態の第1例]
本発明の実施の形態の第1例に就いて、
図1〜4を参照しつつ説明する。本例のシールリング付転がり軸受ユニット1aは、自動車の車輪(従動輪)を懸架装置に対して回転自在に支持する為のもので、外輪2aと、ハブ3aと、複数個の転動体(玉)4a、4aと、シールリング14aと、カバー16aとを備えている。
【0021】
外輪2aは、例えば中炭素鋼等の鉄系合金製で略円筒状に構成されており、内周面に複列の外輪軌道6c、6dを、外周面に静止側フランジ5aを、それぞれ有している。この様な外輪2aは、使用時に、静止側フランジ5aを、図示しない懸架装置のナックルに結合固定する事により、この懸架装置に支持された状態で回転しない。
【0022】
ハブ3aは、ハブ本体7aと内輪8aとを結合する事により構成されており、外輪2aの内径側にこの外輪2aと同心に配置されている。ハブ本体7aは、例えば中炭素鋼等の鉄系合金製で、外周面に例えば高周波焼き入れ処理などの硬化熱処理が施されている。
【0023】
ハブ本体7aの外周面のうち、外輪2aの軸方向外端開口から軸方向外方に突出した部分には、車輪やディスクロータを支持固定する為の円輪状の回転側フランジ12aが設けられている。回転側フランジ12aのうち、径方向内端部(基端部)を、軸方向に関する厚さ寸法(肉厚)が大きい基半部31としており、径方向中間部乃至外端部(先端部)を、軸方向に関する厚さ寸法が基半部31に比べて小さい先半部32としている。これにより、旋回走行等に伴って、車輪から回転側フランジ12aに加わるモーメント(旋回モーメント)に対する強度及び剛性を確保している。又、基半部31と先半部32とを、回転側フランジ12aの軸方向内側面の内径寄り部分に設けられた段部33により連続させている。
【0024】
又、ハブ本体7aの外周面のうち、外輪2aの内周面に設けられた外側列の外輪軌道6cと対向する部分には、断面形状が部分円弧状である内輪軌道10cを設けている。又、ハブ本体7aの外周面のうち、内輪軌道10cの軸方向外側に隣接した部分には、外径寸法が軸方向に亙り変化しない円筒面部34を設けている。又、この円筒面部34と、回転側フランジ12a(基半部31)の軸方向内側面との間には、断面形状が部分円弧形の凹曲面部35を設けている。更に、ハブ本体7aの外周面の軸方向内端部には、小径段部36を設けている。
【0025】
ハブ本体7aと共にハブ3aを構成する内輪8aは、例えばSUJ2等の高炭素クロム軸受鋼製で略円環状に構成されており、ズブ焼き入れ等の熱処理が施されている。又、内輪8aの外周面には、断面形状が部分円弧形である内側列の内輪軌道10dが形成されている。この様な内輪8aは、ハブ本体7aの軸方向内端部に設けられた小径段部36に、締り嵌めにより外嵌固定されている。そして、内輪8aは、ハブ本体7aの軸方向内端部を径方向外方に塑性変形する事により形成されたかしめ部37により、軸方向内端面が抑え付けられている。尚、ハブ本体7aの軸方向内端部にかしめ部37を形成する構造に代えて、ハブ本体の軸方向内端部にナットを螺着する構造を採用する事もできる。
【0026】
転動体4a、4aは、外側列の外輪軌道6c及び内輪軌道10cとの間部分、並びに、内側列の外輪軌道6d及び内輪軌道10dとの間部分に、それぞれ保持器11a、11aにより保持された状態で転動自在に配置されている。又、転動体4a、4aには、かしめ部37による押し付け力を利用して、背面組合せ型の接触角と適正な予圧が付与されている。尚、図示の例では、転動体4a、4aとして玉を使用しているが、重量が嵩む自動車の車輪支持用のシールリング付転がり軸受ユニットの場合には、玉に代えて円すいころを使用する事もできる。
【0027】
外輪2aの内周面とハブ3aの外周面との間に存在する、内部空間(転動体設置空間)15aの軸方向両端開口を、シールリング14a及びカバー16aにより塞いでいる。このうちのカバー16aは、外輪2aの軸方向内端開口部を塞ぐ事により、内部空間15aの軸方向内端開口を塞ぐもので、全体を有底円筒状に構成されており、円筒状の支持筒部38と、この支持筒部38の軸方向内端部から径方向内方に折れ曲がった底板部39とを備えている。そして、このうちの支持筒部38を、外輪2aの軸方向内端部に内嵌固定する事で、中実体であるハブ本体7aの軸方向内側面と共に、内部空間15aの軸方向内端開口を塞いでいる。
【0028】
シールリング14aは、内部空間15aの軸方向外端開口を塞ぐもので、芯金17aと、シール材18aとから構成されている。このうちの芯金17aは、鋼板等の金属板に打ち抜き及び曲げ等のプレス加工を施す事により、断面略横T字形で全体を円環状に構成されており、円筒状の固定筒部19aと、固定筒部19aの軸方向外端部から径方向外方に向けて折れ曲がった外向鍔部20aと、固定筒部19aの軸方向内端部から軸方向外側に向けて折り返されると共に径方向内方に向けて折れ曲がった内径支持部21aとを備えている。そして、このうちの固定筒部19aを、外輪2aの軸方向外端部内周面に締り嵌めで内嵌固定している。
【0029】
本例の場合、外向鍔部20aを、平板部40と、屈曲部41と、傾斜板部42とにより構成しており、その外径寸法を、外輪2aの軸方向外端部外周面の外径寸法よりも大きくしている。この様な外向鍔部20aを構成する平板部40は、芯金17aの中心軸に対し直交する方向に延出する状態で、外向鍔部20aの内径側部分に設けられている。又、屈曲部41は、平板部40の径方向外側に隣接する状態で、外向鍔部20aの径方向中間部に設けられている。又、屈曲部41は、径方向外方に向かう程軸方向外方に向かう方向に曲線的に屈曲している。又、傾斜板部42は、屈曲部41の径方向外側に隣接する状態で、外向鍔部20aの外径側部分に設けられている。又、傾斜板部42は、径方向外方に向かう程軸方向外方に向かう方向に直線的に傾斜しており、平板部40に対する傾斜角度は、3°〜20°(好ましくは4°〜5°、図示の例は4.5°)である。本例の場合には、この様な構成を有する芯金17aを、大きなプレス荷重が必要になるコイニング加工によらず、小さなプレス荷重での加工が可能である通常の曲げ加工により形成している。
【0030】
シール材18aは、ゴムの如きエラストマー等の弾性材製で、芯金17aの軸方向外側面及び内外両周面を覆う状態で、この芯金17aに加硫接着により結合されている。この様なシール材18aには、3本の接触式シールリップ24a〜26aと、外径側覆部27aと、突起部29aと、補助リップ43とを備えている。
【0031】
3本のシールリップ24a〜26aのうち、軸方向外方に延出する状態で設けられた、サイドリップと呼ばれる軸方向シールリップ24a、25aは、それぞの先端縁を回転側フランジ12aの基端部の軸方向内側面に全周に亙り摺接させている。又、径方向内方に突出する状態で設けられた径方向シールリップ26aは、その先端縁をハブ本体7aの軸方向中間部外周面(円筒面部34)に全周に亙り摺接させている。これにより、内部空間15aの軸方向外端開口部を塞ぎ、泥水等の異物が内部空間15aに侵入するのを防止している。
【0032】
又、図示の例では、軸方向シールリップ24a、25aを、それぞれ基端縁から先端縁に向かう程、外部空間(内部空間15aと反対側)に向かう方向に傾斜させている。これにより、軸方向シールリップ24a、25aによる異物侵入防止機能を高めている。これに対し、径方向シールリップ26aを、基端縁である外径側端縁から先端縁である内径側端縁に向かう程、内部空間15aの軸方向中央側に向かう方向に傾斜させている。これにより、径方向シールリップ26aによるグリース漏洩防止機能を高めている。
【0033】
外径側覆部27aは、外向鍔部20aの周囲(軸方向両側及び径方向外側)を覆う様に設けられており、シールリング14aを外輪2aに対して取り付けた状態で、この外輪2aの軸方向外端部外周面よりも径方向外側に突出している。又、外径側覆部27aは、外向鍔部20aの軸方向外側を覆った表面覆部44と、外向鍔部20aの軸方向内側を覆った背面覆部45と、外向鍔部20の径方向外側を覆った外周覆部46とを有している。又、これら表面覆部44と背面覆部45と外周覆部46とは、それぞれ連続している。
【0034】
表面覆部44の内径側部分は、芯金17aを構成する内径支持部21aの軸方向外側を覆ったシール材18aの一部に連続している。これに対し、背面覆部45は、外向鍔部20aの軸方向内側面の径方向中間部乃至外端部に亙る範囲を覆っており、この外向鍔部20aの軸方向内側面の内径側端部は覆っていない。より具体的には、背面覆部45の内径側端縁部は、直線状の平板部40の軸方向内側面と曲線状(円弧状)の屈曲部41の軸方向内側面との境界位置(R止まり)Xよりも、僅かに径方向内側に位置している。又、表面覆部44の軸方向厚さ寸法は、背面覆部45の軸方向厚さ寸法よりも大きくなっている。
【0035】
突起部29aは、断面略三角形状(直角三角形状)であり、背面覆部45の内径側端部から軸方向内方に突出する状態で、全周に亙り設けられている。特に本例の場合には、突起部29aを、直線状の平板部40の軸方向内側面と曲線状の屈曲部41の軸方向内側面との境界位置(R止まり)Xと軸方向に重畳させている。又、突起部29aの先端縁(軸方向内端縁)は、外径側覆部27aのうちで最も軸方向内方に位置している。この様な突起部29aは、シールリング14aを外輪2aに取り付けた状態で、この外輪2aの軸方向外端面と接触して、径方向内方に弾性的に変形し(潰れ)、外輪2aの軸方向外端面と平板部40の軸方向内側面との間に形成された空間47内に収容される。又、シールリング14aの取付状態では、背面覆部45のうち、突起部29aが設けられた部分よりも径方向外側部分に就いても、外輪2aの軸方向外端面と弾性的に面接触する。
【0036】
補助リップ43は、表面覆部44の径方向中間部に、軸方向外方に突出する状態で全周に亙り設けられている。又、補助リップ43は、軸方向外方(先端側)に向かう程、径方向外方に向かう方向に傾斜しており、その先端縁を、回転側フランジ12aの段部33に対し、微小隙間を介して近接対向させている。これにより、補助リップ43の先端縁と段部33との間に、ラビリンスシールを形成している。
【0037】
本例の場合には、以下の手順により、シール材18aを芯金17aに対して加硫接着させる。
先ず、
図4に示した様に、所定の形状に曲げ加工した芯金17aの表面に、接着剤(図示省略)を塗布した状態で、金型装置(加硫型)を構成する下型48内にセットする。次いで、芯金17a上(
図4の左側)に、リング状の未加硫ゴム(図示省略)を載置した状態で、下型48に対して上型49を締め付け(型締めを行い)、内部に熱及び圧力を加える。本例の場合には、この様に型締めを行った状態で、上型49の内側に間欠的に設けられた複数の抑え部50を、外向鍔部20aの内径側端部(平板部40)の軸方向外側面に対して押し付ける。この際、外向鍔部20aの内径側端部の軸方向内側面を、下型48に設けられた平坦面状の支承面51によって支持する。つまり、外向鍔部20aの内径側端部を、上型49の抑え部50と下型48の支承面51との間で強く挟持して、金型に対する芯金17aの位置決めを図る。
【0038】
溶融したゴムは、外向鍔部20aの径方向外側を通過し、この外向鍔部20の軸方向内側面と下型48の内面との間に形成された背面覆部成形空間52に流動する。そして、この背面覆部成形空間52を、径方向外側から径方向内側に向けて流動する。本例の場合には、下型48の内面のうち、背面覆部成形空間52の内径側端部で、且つ、前記境界位置Xと対向する部分に、突起部29aを形成する為の突起部成形空間53が形成されていると共に、この突起部成形空間53の奥端部に連通する状態で、フラッシュランド54が形成されたものを使用している。この為、背面覆部成形空間52を径方向内側に向けて流動した溶融ゴムは、突起部成形空間53に残留した空気を排出しつつ、突起部成形空間53及びフラッシュランド54に順次流動する。
【0039】
この結果、金型装置から取り出されたシールリング14aには、外向鍔部20aの軸方向内側面の径方向中間部乃至外端部に亙る範囲(傾斜板部42及び屈曲部41の全面並びに平板部40の外径側端部)を、それぞれ覆う状態で、背面覆部45が形成される。又、背面覆部45の内径側端部で且つ前記境界位置Xと軸方向に重畳する部分に、環状の突起部29aが形成される。更に、突起部29aの先端縁部に連続する状態で、例えば断面略五角形状のフラッシュ30aが形成される。尚、フラッシュ30aは、突起部29aの先端部の円周方向一部又は複数箇所に形成しても良いし、全周に亙り形成する事もできる。本例の場合には、この様な工程を経て製造されたシールリング14aに対して、フラッシュ30aを突起部29aの先端部から取り除く為の切除作業を行う。これにより、前記
図2に示した様な、シールリング14aを得る。
【0040】
以上の様な構成を有する本例の場合には、外輪2aの軸方向外端面との間部分の密封性を十分に確保できるシールリング14aを低コストで得られる為、この様なシールリング14aを備えたシールリング付転がり軸受ユニット1aのコスト低減を図れる。
即ち、本例の場合には、芯金17aの外向鍔部20aの外径寄り部分に、径方向外方に向かう程軸方向外方に向かう方向に傾斜した傾斜板部42を設けている為、従来構造の様に薄板部23(
図9参照)を設けた場合と同様に、外向鍔部20aの軸方向内側に、外輪2aの軸方向外端面との間部分を密封する為の背面覆部45を形成する為の空間(背面覆部成形空間52)を設ける事ができる。しかも、傾斜板部42(及び屈曲部41)は、コイニング加工ではなく、通常の曲げ加工により形成できる為、大型のプレス装置を用いずに、小型のプレス装置により加工する事が可能になる。従って、本例の場合には、外輪2aの軸方向外端面との間部分の密封性を十分に確保できるシールリング14aを、低コストで造る事ができる。この結果、この様なシールリング14aを備えたシールリング付転がり軸受ユニット1aのコスト低減を図れる。
【0041】
又、本例の場合には、外向鍔部20aの外径寄り部分に存在する傾斜板部42及び屈曲部41を径方向外方に向かう程軸方向外方に向かう方向に傾斜させると共に、前記境界位置Xを突起部29aと軸方向に重畳させ、この突起部29aを背面覆部45の内径側端部に設けている為、溶融ゴムを突起部成形空間53へと効率良く供給する事ができる。
即ち、背面覆部
成形空間52の軸方向幅は、傾斜板部42及び屈曲部41の存在に基づいて径方向内側に向かう程狭くなる(断面形状がくさび状になる)為、溶融ゴムの流速は、径方向内側に移動する程上昇する。そして、この様に流速が上昇した溶融ゴムは、屈曲部41の軸方向内側面と背面覆部成形空間52の軸方向外側面に案内されて突起部成形空間53に供給されるので、溶融ゴムは、背面覆部成形空間52の内径側端部を塞いだ下型48の外面(外周面)に勢い良く突き当たり、突起部成形空間53に供給される。従って、本例の場合には、溶融ゴムを突起部成形空間53へと効率良く供給する事ができ、突起部29aの成形性を良好にできる。
【0042】
又、突起部成形空間53の先端部にフラッシュランド54を設けている為、突起部29a内に気泡が形成される事で、この突起部29aが成形不良になる事を有効に防止できる。しかも、本例の場合には、以下の理由により、フラッシュランド54側に気泡(空気)を効率良く排出できる。
即ち、
図4に示した様に、シールリング14aの加硫接着工程時には、外向鍔部20aの軸方向内側面を下型48の支承面51に強く押し付け、粘度の低い溶融ゴムが、背面覆部成形空間52及び突起部成形空間53よりも径方向内側に流れ出ない様にしている。この為、背面覆部
成形空間52及び突起部成形空間53内に存在する気泡(空気)も、突起部成形空間53よりも径方向内側には逃げられなくなる。ここで、背面覆部成形空間52を径方向内側に移動する溶融ゴムは、屈曲部41の軸方向内側面と背面覆部成形空間52の軸方向外側面に接する部分では流速が遅く、軸方向中央部では流速が速くなる。背面覆部成形空間52の軸方向外側面近傍の溶融ゴムは、突起部成形空間53の入口側から奥部側に向かい、径方向外側から径方向内側に、流路断面の変化(断面積の増加)に伴って流速を落としながら斜め下方に流れる(
図4中矢印α)。又、屈曲部41の軸方向内側面近傍の溶融ゴムは、流路断面の変化が少ない為、流速をあまり落とす事なく、突起部成形空間53を形成する下型48の外面に突き当たる。一方、軸方向中央の溶融ゴムは、突起部成形空間53を形成する下型48の外面に勢い良く突き当たった後、径方向内側から径方向外側に斜め上方に流れる(
図4中矢印β)。そして、この2つの流れ(矢印αと矢印β)は、突起部成形空間53の奥部で交わるので、背面覆部成形空間52内及び突起部成形空間53内の空気を、フラッシュランド54側に効率良く排出できる。
【0043】
更に、本例の場合には、下型48の突起部29aの先端部を形成する部分の軸方向内側にフラッシュランド54を設けている為、加硫接着成形したシールリング14aを下型48から取り外すだけで、フラッシュ30aを切除する事が可能である。又、突起部29aの先端部にフラッシュ30aを設けている為、このフラッシュ30aを切除した際に生じるバリ部(残留部)が、突起部29aの密封性を阻害する事もない。
【0044】
[実施の形態の第2例]
本発明の実施の形態の第2例に就いて、
図5〜7を参照しつつ説明する。本例の場合には、突起部29bを背面覆部45aの径方向中間部に設け、背面覆部45aのうち突起部29bよりも内径側に背面内径部55を設けている。そして、この背面内径部55を、芯金17aを構成する外向鍔部20aのうち、直線状の平板部40の軸方向内側面と曲線状の屈曲部41の軸方向内側面との境界位置(R止まり)Xと軸方向に重畳させている。
【0045】
又、背面内径部55を、突起部29bに近い外径寄り部分の厚肉部56と、この厚肉部56の径方向内側に隣接した状態で設けられ、この厚肉部56よりも軸方向厚さ寸法の小さい薄肉部57とから構成している。背面内径部55は、
図7の(A)に示した様に、それぞれの軸方向厚さ寸法を一定とした厚肉部56と薄肉部57とを段差面58を介して連続させる事により構成しても良いし、同図の(B)に示した様に、軸方向に関する厚さ寸法が径方向内側に向かう程徐々に(曲線的に又は直線的に)小さくなった薄肉部57と、厚肉部56とを直接連続させる事により構成しても良い。何れにしても、本例の場合には、薄肉部57の軸方向内側面を、厚肉部56の軸方向内側面よりも軸方向外側に位置(オフセット)させている。
【0046】
以上の様な構成を有する本例のシールリング14bを得るには、芯金17aにシール材18bを加硫接着する際に、外向鍔部20aの軸方向内側に流動した溶融ゴムにより形成される薄肉部57の軸方向内側面の内径側端縁部に、
図6に破線で示した様なフラッシュ30bを形成する。その後、下型48から加硫接着成形したシールリング14bを取り外す事で、このフラッシュ30bを除去する。
【0047】
この為、本例の場合には、薄肉部57の内径側端縁部に、フラッシュ30bの残留部であるバリ部59が残存してしまう可能性がある。但し、この様なバリ部59が形成された場合にも、このバリ部59は、軸方向内側面が厚肉部56よりも軸方向外側にオフセットした薄肉部57に形成される様にしている為、或いは、フラッシュ30bの軸方向外側位置を、厚肉部56よりも軸方向外側にしている為、バリ部59の先端縁が、厚肉部56の軸方向内側面よりも軸方向内方に突出しない様にする事ができる。又、バリ部59の先端縁を、厚肉部56の軸方向内側面よりも軸方向内方に突出させずに済む為、突起部29bの突出量を小さく抑えた場合にも、この突起部29bに十分な密封効果を発揮させる事ができる。
【0048】
更に本例の場合には、前記境界位置Xを突起部29bよりも径方向内側に位置させている為、前述した実施の形態の第1例の場合に比べて、突起部29bを形成する為の突起部成形空間53(
図4参照)と外向鍔部20aとの間の隙間を大きく確保できる。この為、溶融ゴムの流動性を高める事ができ、又、薄肉部57の絞り効果で突起部29bの成形圧力を上げる事ができるので、突起部29bを小型化した場合にも、この突起部29bに関する成形性を十分に確保できる。
その他の構成及び作用効果に就いては、前記実施の形態の第1例の場合と同様である。