特許第6838377号(P6838377)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6838377
(24)【登録日】2021年2月16日
(45)【発行日】2021年3月3日
(54)【発明の名称】化粧シート及び化粧板
(51)【国際特許分類】
   B32B 27/00 20060101AFI20210222BHJP
   B32B 29/00 20060101ALI20210222BHJP
   B32B 27/10 20060101ALI20210222BHJP
【FI】
   B32B27/00 E
   B32B29/00
   B32B27/10
【請求項の数】16
【全頁数】20
(21)【出願番号】特願2016-240999(P2016-240999)
(22)【出願日】2016年12月13日
(65)【公開番号】特開2018-94791(P2018-94791A)
(43)【公開日】2018年6月21日
【審査請求日】2019年11月22日
(73)【特許権者】
【識別番号】000003193
【氏名又は名称】凸版印刷株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100105854
【弁理士】
【氏名又は名称】廣瀬 一
(74)【代理人】
【識別番号】100116012
【弁理士】
【氏名又は名称】宮坂 徹
(72)【発明者】
【氏名】太田 新
【審査官】 相田 元
(56)【参考文献】
【文献】 特開2016−137699(JP,A)
【文献】 特開2015−077709(JP,A)
【文献】 特開2016−064628(JP,A)
【文献】 特開2008−179024(JP,A)
【文献】 特開2006−231540(JP,A)
【文献】 特開2003−205589(JP,A)
【文献】 特開平08−132582(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B32B 1/00−43/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1及び第2の紙基材層と、前記第1及び第2の紙基材層の間に配置され前記第1及び第2の紙基材層を接着する熱可塑性樹脂層と、前記第1の紙基材層の上に形成される絵柄層と、前記絵柄層の上に形成される表面保護層と、を備えた化粧シートであって、
前記化粧シートの前記表面保護層が形成される表面側には複数のエンボス凹部が形成されており、当該複数のエンボス凹部の最大深度は、前記化粧シートのエンボス加工前の総厚に対して15%以上となっており、
前記表面保護層は、無機粒子及び合成樹脂粒子の少なくとも一方を含有し、前記化粧シートの表面に前記無機粒子及び前記合成樹脂粒子の少なくとも一方の一部分が表出しており、前記表面保護層の表面は、接触式粗さ計で測定した最大高さRmax値が3μm以上であり、
前記絵柄層と前記表面保護層との間には艶消し層が形成されており、
前記艶消し層の厚さは、20μm以上55μm以下の範囲内であることを特徴とする化粧シート。
【請求項2】
記艶消し層と前記表面保護層との間の艶差は、JIS Z−8741に準じた鏡面光沢度測定法により測定された60°入射の光沢値で、1以上30以下の範囲内であることを特徴とする請求項1に記載の化粧シート。
【請求項3】
前記表面保護層は、前記合成樹脂粒子を少なくとも含有し、
前記合成樹脂粒子は、アクリル樹脂系粒子であることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の化粧シート。
【請求項4】
前記表面保護層が含有する前記粒子の平均粒径は、10μm以上60μm以下の範囲内であることを特徴とする請求項1から請求項3のいずれか1項に記載の化粧シート。
【請求項5】
前記表面保護層の表面は、前記最大高さRmax値が30μm以上であることを特徴とする請求項1から請求項4のいずれか1項に記載の化粧シート。
【請求項6】
前記複数のエンボス凹部の最大深度は、70μm以上であることを特徴とする請求項1から請求項5のいずれか1項に記載の化粧シート。
【請求項7】
前記第1及び前記第2の紙基材層に用いる紙材の厚みは、それぞれ15μm以上60μm未満の範囲内であることを特徴とする請求項1から請求項6のいずれか1項に記載の化粧シート。
【請求項8】
前記熱可塑性樹脂層の厚みは、20μm以上70μm以下の範囲内であり、前記第2の紙基材層に用いる紙材の厚みよりも厚くなっていることを特徴とする請求項1から請求項7のいずれか1項に記載の化粧シート。
【請求項9】
前記化粧シートの前記表面側に位置する前記第1の紙基材層に用いる紙材の厚みは、前記第2の紙基材層に用いる紙材の厚みよりも厚いことを特徴とする請求項1から請求項8のいずれか1項に記載の化粧シート。
【請求項10】
前記化粧シートの裏面側には複数の凹部が形成されていることを特徴とする請求項1から請求項9のいずれか1項に記載の化粧シート。
【請求項11】
前記艶消し層に含まれる艶消し剤の含有量は、前記艶消し層を構成する樹脂100質量部に対し、20質量部以上30質量部以下の範囲内であることを特徴とする請求項1から請求項10のいずれか1項に記載の化粧シート。
【請求項12】
前記艶消し剤は、ポリカーボネート、ナイロン、またはウレタン樹脂であることを特徴とする請求項11に記載の化粧シート。
【請求項13】
前記複数のエンボス凹部の最大深度は、前記化粧シートのエンボス加工前の総厚に対して30%以上であることを特徴とする請求項1から請求項12のいずれか1項に記載の化粧シート。
【請求項14】
前記化粧シートの前記表面側に位置する前記第1の紙基材層に用いる紙材の厚みは、前記第2の紙基材層に用いる紙材の厚みよりも厚く、
前記熱可塑性樹脂層の厚みは、前記第1の紙基材層に用いる紙材の厚みよりも厚く、
前記表面保護層の厚みは、前記第1の紙基材層に用いる紙材の厚みよりも厚く、且つ前記熱可塑性樹脂層の厚みよりも薄いことを特徴とする請求項1から請求項13のいずれか1項に記載の化粧シート。
【請求項15】
前記化粧シートの裏面側には複数の凹部が形成されており、
前記化粧シートの裏面側に形成された前記複数の凹部と、前記化粧シートの表面側に形成された前記複数のエンボス凹部とは、積層方向において形成位置が異なっていることを特徴とする請求項1から請求項14のいずれか1項に記載の化粧シート。
【請求項16】
請求項1から請求項1のいずれか1項に記載の化粧シートと、
前記化粧シートが少なくとも一方の面に貼り合わされた基材と、を備えたことを特徴とする化粧板。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、化粧シート及び化粧板に関する。
【背景技術】
【0002】
印刷を施した熱可塑性樹脂フィルムに透明フィルムのラミネート又はエンボス加工などを行って意匠性及び耐久性を高めた化粧シートが、実用化され広く用いられている。
その一方で、印刷を施した紙が、化粧シートあるいは化粧紙として用いられることがある。この場合には、原紙に印刷を施し、それに熱硬化性樹脂を含浸した後、プレスで熱及び圧をかけて化粧板にする方法が知られている。この方法によれば、熱硬化性樹脂が化粧板の表面にあることにより、表面硬度及び耐摩耗性が高い化粧板(若しくは化粧シート)を得ることができる。
【0003】
特許文献1には、このような紙を基材として用いた化粧シートの例が開示されている。特許文献1に記載の化粧シートでは、2枚の薄葉紙(原紙)の間に熱可塑性樹脂からなる押出し層を設けて両薄葉紙を貼り合せるようにしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平8−132582号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1に記載の化粧シートでは、熱可塑性樹脂からなる押出しコート層を介して2枚の薄葉紙を接着している。このような接着により、これら紙基材の抗張力が大きくなり紙の破れ等は防止しやすくなるものの、化粧シートの柔軟性が比較的低いため、エンボスを深くすることによる化粧シートの意匠性の向上及び触感が十分ではなく、更なる意匠性及び触感の向上が望まれていた。
そこで、本発明では、意匠性及び触感を向上させた化粧シート及び当該化粧シートを備えた化粧板を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するため、本発明の一態様に係る化粧シートは、第1及び第2の紙基材層と、第1及び第2の紙基材層の間に配置され第1及び第2の紙基材層を接着する熱可塑性樹脂層と、第1の紙基材層の上に形成される絵柄層と、絵柄層の上に形成される表面保護層と、を備えている。この化粧シートでは、化粧シートの表面保護層が形成される表面側には複数のエンボス凹部が形成されており、当該複数のエンボス凹部の最大深度は、化粧シートのエンボス加工前の総厚に対して15%以上となっている。また、表面保護層は、無機粒子及び合成樹脂粒子の少なくとも一方を含有しており、化粧シートの表面に無機粒子及び合成樹脂粒子の少なくとも一方の一部分が表出している。また、表面保護層の表面は、接触式粗さ計で測定した最大高さRmax値が3μm以上である。
【発明の効果】
【0007】
この化粧シートでは、複数のエンボス凹部の最大深度が化粧シートのエンボス加工前の総厚に対して15%以上となるようにしている。このため、化粧シートの表面により深い凹凸形状を設けることになり、より意匠性を高めることが可能となる。
また、この化粧シートでは、表面保護層に無機粒子及び合成樹脂粒子の少なくとも一方を含有させて、表面保護層の表面に上記粒子の一部分が表出するようにしている。さらに、表面保護層の表面は、接触式粗さ計で測定した最大高さRmax値が3μm以上である。このため、化粧シートの表面に凹凸形状を設けると共に、触感を付与することが可能となる。
このように、本発明の一態様に係る化粧シートであれば、エンボス凹部を深くすることで意匠性が向上し、さらに触感を付与することで立体感(立体意匠感)が向上することが可能となる。つまり、本発明の一態様に係る化粧シートであれば、より優れた触感と立体意匠感とを有する化粧シートを提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】本発明の第1実施形態に係る化粧シートの断面構成を示す模式的な断面図である。
図2】本発明の第1実施形態に係る化粧シートにおける各種の厚みを示す断面図である。
図3】本発明の第1実施形態で用いるエンボス装置の概略構成図である。
図4】本発明の第2実施形態に係る化粧シートの断面構成を示す模式的な断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、図面を参照しつつ、本発明の各実施形態に係る化粧シート及び化粧板について詳細に説明する。ここで、図面は模式的なものであり、厚さと平面寸法との関係、各層の厚さの比率等は現実のものとは異なる。他にも、図面を簡潔にするために、周知の構造が略図で示されている。また、説明において、同一要素又は同一機能を有する要素には、同一符号を用いる場合があり、重複する説明は省略する。また、以下に示す各実施形態は、本発明の技術的思想を具体化するための構成を例示するものであって、本発明の技術的思想は、構成部品の材質、形状、及び構造等が下記のものに特定するものでない。本発明の技術的思想は、特許請求の範囲に記載された請求項が規定する技術的範囲内において、種々の変更を加えることができる。
【0010】
[第1実施形態]
(化粧シートの全体構成)
図1は、本発明の第1実施形態に係る化粧シートの断面構成を示す模式的な断面図である。図1に示すように、化粧シート10(10A)は、第1の紙基材層1と、第2の紙基材層2と、熱可塑性樹脂層3と、絵柄印刷層4(絵柄層)と、表面保護層5と、を備えて構成されている。第1及び第2の紙基材層1、2は、それらの間に配置される熱可塑性樹脂層3を介して互いに接着固定されている。
【0011】
化粧シート10は、表面10aにエンボス加工が施されており、表面10aに複数のエンボス凹部6が形成されている。各エンボス凹部6は、例えば絵柄の木目等に沿って長手方向に延びる溝状に形成されている。また、化粧シート10は、裏面10bにも複数の凹部7が形成されている。各凹部7も、エンボス凹部6と同様に例えば長手方向に延びる溝状に形成されている。裏面10b側の凹部7は、表面10a側のエンボス凹部6が形成される箇所とは積層方向における位置が異なるようにずれて形成されていることが好ましいが、エンボス凹部6が形成される箇所とは積層方向における位置が同じになるように形成されていてもよい。換言すると、裏面10b側の凹部7と、表面10a側のエンボス凹部6とは、化粧シート10の厚み方向から見て、互いに重ならないように形成されていることが好ましいが、凹部7とエンボス凹部6とは、化粧シート10の厚み方向から見て、互いに重なるように形成されていてもよい。
【0012】
このような積層体からなる化粧シート10は、所定の温度に加熱され、エンボスロールとゴムバックロールとからなるエンボスユニットを通過することにより、その両面10a、10bに凹凸が付与される。化粧シート10では、加熱されることによって、積層体が可塑性を備えることができる。また、積層体は、熱可塑性樹脂層3があることによって、抗張力も増すことができる。これにより、積層体のエンボス適性が向上する。
【0013】
(第1の紙基材層1及び第2の紙基材層2)
第1及び第2の紙基材層1、2としては、例えばセルロース繊維を50%以上含有する各種の紙材を用いることができる。第1及び第2の紙基材層1、2を構成する紙材は、例えばその厚さが15μm以上60μm未満の範囲内であることが好ましく、25μm以上35μm以下の範囲内であることがより好ましい。第1及び第2の紙基材層1、2に用いる紙材が15μmよりも薄い場合には、強度において印刷及び後加工に適さないことがある。一方、紙材が60μm以上の場合には、エンボス適性が低く、エンボス加工が困難となる、若しくは深いエンボス加工が難しくなるといったことが生じることがある。
【0014】
また、第1及び第2の紙基材層1、2を構成する紙材の厚みとして、第1及び第2の紙基材層1、2に用いる紙材それぞれの厚みが互いに同じであってもよい。或いは、第1の紙基材層1に用いる紙材の方が第2の紙基材層2に用いる紙材よりも厚くなる、つまり、第2の紙基材層2の紙材の方が第1の紙基材層1の紙材よりも薄くなるように設定してもよいし、その逆でもよい。但し、第2の紙基材層2の紙材の方を薄くした場合、エンボス処理が施される表面10a側での紙材の破損等が抑制される。また、第2の紙基材層2の紙材を薄くすることで、化粧シート10全体の総厚をより薄くすることが可能となるため、第2の紙基材層2の紙材の厚みを第1の紙基材層1の紙材の厚みよりも薄くしておくことが好ましい。なお、このように第1の紙基材層1を構成する紙材の方が第2の紙基材層2を構成する紙材よりも厚いことで、第1の紙基材層1への印刷がし易くなる(印刷適性が良くなる)。
【0015】
(熱可塑性樹脂層3)
熱可塑性樹脂層3は、第1及び第2の紙基材層1、2の間に積層され、第1及び第2の紙基材層1、2を互いに接着するための層である。また、熱可塑性樹脂層3は、エンボス処理をされた際に変形しその形状を保持固定するための層でもある。熱可塑性樹脂層3は、その厚さは限定されるものではないが、例えば20μm以上70μm以下の範囲内であることが好ましく、45μm以上55μm以下の範囲内であることがより好ましい。また、熱可塑性樹脂層3は、その厚みが第1及び第2の紙基材層1、2を構成する紙材よりも厚いことが好ましい。特に、熱可塑性樹脂層3が第2の紙基材層2を構成する紙材よりも厚いこと、つまり第2の紙基材層2の紙材が熱可塑性樹脂層3よりも薄いことが好ましい。このような熱可塑性樹脂層3は、例えば押出機を用いて熱可塑性樹脂層を形成し、第1及び第2の紙基材層1、2を貼り合せるといったことにより設けられる。
【0016】
熱可塑性樹脂層3は、例えば100℃以上200℃以下の融点を有する熱可塑性樹脂によって構成されることが好ましく、例えば、ポリ塩化ビニル、ポリフッ化ビニリデン、ナイロン12、ポリアミド、ポリビニルアルコール、ポリスチレン、スチレン・アクリロニトリル共重合体、スチレン・ブタジエン・アクリロニトリル共重合体、高密度ポリエチレン、中密度ポリエチレン、低密度ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレン・酢酸ビニル共重合体、ポリアセタール、ポリメチルメタクリレート、変成アクリル、ポリカーボネート、ポリアセタール、ニトロセルロース、プロピオン酸セルロース、エチルセルロース、酢酸セルロース、ポリウレタンなどの何れかによって構成される。
【0017】
熱可塑性樹脂層3を構成する樹脂の融点を100℃以上200℃以下の範囲とすることで、紙の熱劣化を招くことなく、且つ、ラインスピードなど生産性を損なうことなくエンボス加工を行なうことができる。熱可塑性樹脂層3を構成する熱可塑性樹脂は、融点を考慮して適宜選択することができるが、樹脂価格や溶融時の流動性などを考慮して、例えば高密度ポリエチレン、中密度ポリエチレン、低密度ポリエチレンなどを用いることが好ましい。
【0018】
(絵柄印刷層4)
絵柄印刷層4は、第1の紙基材層1上に形成され、化粧シート10に絵柄等を付与するための層であり、例えばインキ等により構成される。絵柄としては、例えば木目等が例示される。このような絵柄印刷層4を設ける印刷の方法としては、既知の印刷方法や印刷装置を用いることができる。その方法は特に限定されるものではないが、例えば生産性の観点などからグラビア印刷法を用いることができる。
絵柄印刷層4を構成する印刷インキについては、特に限定されるものではなく、水性インキ又は溶剤タイプのインキを用いることができ、装置との適合性、又は、化粧シート、化粧板に求められる性能を考慮して適宜選択することができる。インキに含まれる着色剤は、化粧シートや化粧板の場合には、一般に耐光性を考慮して顔料タイプを用いることが好ましい。
【0019】
(表面保護層5)
表面保護層5は、絵柄印刷層4上に形成され、絵柄印刷層4の全体を被覆するシート状の層である。表面保護層5は、表面保護層5を通して、絵柄印刷層4の絵柄を透視できる程度に透明または半透明な材料(樹脂)で形成されている。透明樹脂で形成された表面保護層5を設けることにより、化粧シート10の表面10aの光沢を調節し、好ましい意匠性を得ることが可能となる。また、表面保護層5を設けることにより、化粧シート10において、耐摩耗性などの表面物性の向上を図ることも可能となる。また、表面保護層5には、たとえば木目の導管部分のような光沢の差を部分的に設けることができる。これにより、凹凸感を視覚的に作りだして、エンボス凹部6による凹凸形状と組み合わせてより高度な意匠性を表現することも可能である。
【0020】
表面保護層5を設けるには、既知のコーティング装置を用いてもよく、またグラビア印刷装置を用いてもよい。
表面保護層5の材料としては、例えば、熱硬化性樹脂が好ましい。熱硬化性樹脂としては、例えば、絵柄印刷層4との接着性、化粧シート10の変形追従性、耐擦傷性等を考慮すれば、2液硬化型ウレタン樹脂等のウレタン結合を有する熱硬化性樹脂(バインダー)を用いるのが好ましい。ここで、熱硬化性樹脂には、無機粒子及び合成樹脂粒子の少なくとも一方が添加されている。また、溶剤としては、酢酸エチル、酢酸nブチルを用いることができる。
【0021】
2液硬化型ウレタン樹脂としては、例えば、ポリオールを主体とし、イソシアネートを架橋剤(硬化剤)とするウレタン樹脂を用いることができる。ポリオールとしては、分子中に2個以上の水酸基を有するものであって、例えば、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、アクリルポリオール、ポリエステルポリオール、ポリエーテルポリオール、ポリカーボネートポリオール、ポリウレタンポリオールを用いることができる。
また、イソシアネートとしては、分子中に2個以上のイソシアネート基を有する多価イソシアネートを用いることができる。例えば、2,4−トリレンジイソシアネート、キシレンジイソシアネート、4,4′−ジフェニルメタンジイソシアネート等の芳香族イソシアネート、或いは、1,6−ヘキサメチレンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、水素添加トリレンジイソシアネート、水素添加ジフェニルメタンジイソシアネート等の脂肪族(乃至は脂環式)イソシアネートを用いることができる。また、上記各種イソシアネートの付加体又は多量体を用いることができる。例えば、トリレンジイソシアネートの付加体、トリレンジイソシアネート3量体(trimer)等がある。なお、上記イソシアネートにおいて脂肪族(乃至は脂環式)イソシアネートは、耐候性、耐熱黄変性も良好にできる点で好ましく、例えば1,6−ヘキサメチレンジイソシアネートを使用できる。
【0022】
本実施形態では、熱硬化性樹脂に添加可能な粒子(以下、「表面粒子」とも称する)として、無機粒子及び合成樹脂粒子の少なくとも一方を用いる。また、その表面粒子の一部分は、化粧シート10(表面保護層5)の表面10aに表出している。さらに、その表面粒子の平均粒径は、10μm以上60μm以下の範囲内である。
以下、表面粒子について説明する。
熱硬化性樹脂に添加可能な無機粒子は、例えば、シリカ粒子である。
シリカ粒子は、熱硬化性樹脂の全質量に対し、5質量部以上含むのが好ましい。これにより、表面保護層5に凹凸形状を付与することができ、触感による立体感を得ることができる。それゆえ、表面保護層5に形成したエンボス凹部6の深さDが浅くても、視覚的な立体感を適切に感じさせることができる。なお、シリカ粒子の添加量の上限は、熱硬化性樹脂の全質量に対し、35質量部以下とする。
【0023】
熱硬化性樹脂に添加可能な合成樹脂粒子としては、例えば、透明度の高いアクリル樹脂ビーズ(アクリル樹脂系粒子)を用いることができる。これにより、表面保護層5の透明度を向上でき、意匠を付与するための絵柄印刷層4の絵柄をより明瞭に透視することができる。
合成樹脂粒子は、熱硬化性樹脂の全質量に対し、5質量部以上含むのが好ましい。これにより、表面保護層5に凹凸形状を付与することができ、触感による立体感を得ることができる。それゆえ、表面保護層5に形成したエンボス凹部6の深さDが浅くても、視覚的な立体感を適切に感じさせることができる。なお、合成樹脂粒子の添加量の上限は、熱硬化性樹脂の全質量に対し、35質量部以下とする。
【0024】
また、表面保護層5の表面(化粧シート10の表面10a)は、接触式粗さ計で測定した最大高さRmax値を3μm以上とし、より好ましくは30μm以上とする。これにより、触感による立体感をより適切に感じさせることができる。
なお、本実施形態では、バインダーとして、熱硬化性樹脂を用いる例を示したが、他の構成を採用することもできる。例えば、電離放射線硬化性樹脂を用いる構成としてもよい。電離放射線硬化性樹脂としては、例えば、紫外線硬化性樹脂が好ましい。紫外線硬化性樹脂としては、例えば、(メタ)アクリル系樹脂、シリコーン系樹脂、ポリエステル系樹脂、ウレタン系樹脂、アミド系樹脂、エポキシ系樹脂を使用できる。これにより、表面保護層5、つまり、化粧シート10の最表面層の硬度を向上でき、化粧シート10の耐摩耗性や、耐擦傷性、耐溶剤性等の表面物性を向上できる。また、例えば、バインダーとして、熱硬化性樹脂と電離放射線硬化性樹脂との混合物を用いる構成としてもよい。
また、本実施形態では、熱硬化性樹脂に、合成樹脂ビーズを添加する例を示したが、他の構成を採用してもよく、例えば、無機化合物のフィラーを添加する構成としてもよい。
【0025】
(エンボス凹部6及び凹部7の加工方法)
以下、熱可塑性樹脂層3により互いに接着された第1及び第2の紙基材層1、2を含む積層体に対してエンボス加工を施す方法について、図2及び図3を参照しながら説明する。なお、第1及び第2の紙基材層1、2を構成する紙材を熱可塑性樹脂層3により接着する方法については、従来の方法を用いることができるため、その説明を省略する。
まず、図2(a)に示すように、第2の紙基材層2、熱可塑性樹脂層3、第1の紙基材層1、絵柄印刷層4、表面保護層5がこの順に積層された積層体100を準備する。積層体100の総厚Dは、例えば、60μm〜160μmであり、より好ましくは、80μm〜120μmである。なお、積層体100を形成する際、熱及び圧をかけて積層するため、第1及び第2の紙基材層1、2を構成する紙材等の厚みが多少は縮められる。
【0026】
そして、図3に示すように、かかる積層体100に対して、エンボス装置20を用いてエンボス加工を施す。エンボス装置20は、メインヒートドラム21、インフラヒーター22、バーヒーター23、エンボスロール24、ゴムバックロール25、及びテイクオフロール26を備える。
メインヒートドラム21は、円筒形を呈し、中心軸線回りに回転可能である。エンボス装置20に供給された積層体100は、まず、メインヒートドラム21の外周に巻き付いて進行する。インフラヒーター22は、メインヒートドラム21に巻き付いた状態の積層体100を加熱するためのヒーターである。インフラヒーター22は、メインヒートドラム21の近傍に、メインヒートドラム21の外周の一部に沿って配置されている。積層体100は、メインヒートドラム21の回転に伴って下流側に向かって進行しつつ、インフラヒーター22によって加熱される。
【0027】
バーヒーター23は、メインヒートドラム21から下流側に送り出された積層体100を更に加熱するためのヒーターである。バーヒーター23は、メインヒートドラム21と、エンボスロール24及びゴムバックロール25との間を積層体100が進行する領域に沿って配置されている。
エンボスロール24及びゴムバックロール25は、エンボスユニットを構成し、協働して積層体100にエンボス加工を施す。エンボスロール24及びゴムバックロール25は、メインヒートドラム21の下流側に配置されている。エンボスロール24及びゴムバックロール25のそれぞれは、円筒形を呈し、それぞれの中心軸線回りに回転可能である。エンボスロール24及びゴムバックロール25は、互いに外周が接し、その間を積層体100が通過する際に積層体100に対してエンボス加工を施す。エンボスロール24及びゴムバックロール25の詳細な構成については後述する。
【0028】
テイクオフロール26は、エンボスロール24及びゴムバックロール25の下流側に配置され、エンボスロール24及びゴムバックロール25を通過した積層体100(すなわち、エンボス加工を施された化粧シート10)をエンボス装置20から排出する。
上述したように、ここで用いるエンボス装置20は、例えば積層体100を加熱する装置を有している。加熱された積層体100は、次いで表面に凹凸を有するエンボスロール24とゴムバックロール25からなるエンボスユニットに挟み込まれて図2(b)に示すようにエンボス加工が施される。積層体100を加熱することによって、熱可塑性樹脂層3が軟化して表面100aにエンボスが入りやすくなる。また第1及び第2の紙基材層1、2を構成する紙材の中間に熱可塑性樹脂層3が位置しているため、加熱された積層体100の抗張力が増し、積層体100が破断しにくくなるなどの効果を得ることができる。
【0029】
エンボス加工に用いるエンボスは、例えば15μm以上の深度を持つものを用いて行なう。これはエンボスが意匠的に凹凸感を持ち効果的に視覚に感知できるのは、仕上がりの化粧シート又は化粧板において、エンボス凹部6のD1(高低差)が15μm以上であることによる。
また、本実施形態で用いるゴムバックロール25は、特にその硬度が50°以上80°以下を用いるのが好ましく、より好ましくは50°のゴムバックロール25が適しているが、限定されない。硬度は、例えばISO7619により測定される。本実施形態では、好ましくは、硬度が50°のゴムバックロール25を用いることが好ましい。なお、硬度が90°のゴムバックロール25を用いた場合にはエンボス意匠が劣ってしまう場合がある。なお、ゴムバックロール25の硬度は、JIS K 6301 A型又はJIS K 6253に基づいて測定されてもよく、これらに基づいて測定される硬度は、ISO7619に基づいて測定される硬度と同等である。
【0030】
上記のような構成を備えたエンボス装置20を用いてエンボス加工を行い、化粧シートの表面に凹凸を付与された積層体を得ることができ、これにより、化粧シート10を得ることが可能となる。また、本実施形態で用いるゴムバックロール25の硬度は、通常のゴムバックロールの硬度よりも低めとなっている。このため、ゴムバックロール25とエンボスロール24との挟み込みにより、エンボスロール24により積層体100の表面100a側にエンボス凹部6が形成されると同時に、裏面100b側に所定の深さの凹部7が互い違いに形成される。なお、上述した製造方法では、積層体100に対して、その表面100a及び裏面100bにエンボス凹部6と凹部7とを略同時に形成するようにしたが、表面100a及び裏面100bのそれぞれに、エンボス装置を用いて、エンボス凹部6と凹部7とを別々に設けるようにしてももちろんよい。
【0031】
次に、エンボス加工前の化粧シート10(積層体100)の総厚Dと、表面10a側のエンボス凹部6の深さD1(以下、「最大深度」とも称する)との関係について説明する。
本実施形態に係る化粧シート10では、上述したエンボス加工方法を採用しているため、従来よりも深いエンボスを化粧シート10に施すことができる。そこで、本実施形態に係る化粧シート10では、エンボス凹部6の深さD1が化粧シート10のエンボス加工前の総厚Dに対して15%以上の比率となるようになっており、より好ましくは、エンボス凹部6の深さD1が化粧シート10のエンボス加工前の総厚Dに対して10%より大きく200%以下の比率である。エンボス凹部6がこのような深い凹部(溝)であることから、化粧シート10の意匠性、例えば、より自然な木目調のシートとすることが可能となる。なお、エンボス凹部6の深さD1は、具体的には、例えば15μm以上であり、より好ましくは30μm以上であり、更に好ましくは45μm以上であり、また更に好ましくは70μm以上である。エンボス凹部6の深さD1が深くなるに従って視覚的な立体感が増すと共に、触感による立体感も増すという効果を奏する。また、エンボス凹部6の深さD1は、200μm以下であると好ましく、この場合、化粧シートの強度を十分に維持することができるという効果を奏する。
【0032】
なお、化粧シート10は、裏面10b側、つまり化粧シート10を基材等に貼り付ける側にも複数の溝状の凹部7を備えている。このため、基材等への貼付強度を容易に高めることが可能となる。また、裏面側に凹部7を設けることにより、化粧シート10を貼り合せる際の皺寄りを抑制することもできる。
また、熱可塑性樹脂がエンボス時に再加熱されることで、第1の紙基材層1又は第2の紙基材層2を構成する紙材と熱可塑性樹脂層3の相関剥離強度を高めることが可能となる。例えば、幅が25mmの化粧シートを厚さが3mmであるMDF(medium density fiberboard)の基材に両面テープ(積水化学工業(株)製両面テープ#5760)で固定した後、引張試験機((株)オリエンテック製RTM−100)で引張速度が200mm/minで180°引張を行い評価した場合に、ピーリング強度(相関剥離強度)を1.8N/25mm以上、より好ましくは2.3N/25mm以上とすることが可能となる。
なお、このような化粧シート10は、例えば接着剤を用いて基材の一方の面に貼りあわせて化粧板として用いることも可能である。化粧板に用いられる基材としては、例えば、木質系のMDF、合板、又はパーティクルボード、無機質系であれば石膏ボードや金属板などを用いることができる。
【0033】
[第2実施形態]
(化粧シートの全体構成)
図4は、本発明の第2実施形態に係る化粧シートの断面構成を示す模式的な断面図である。図4に示すように、化粧シート10(10B)は、第1の紙基材層1と、第2の紙基材層2と、熱可塑性樹脂層3と、絵柄印刷層4(絵柄層)と、艶消し層8と、表面保護層5と、を備えて構成されている。つまり、第2実施形態に係る化粧シート10(10B)は、艶消し層8を備えている以外は、第1実施形態に係る化粧シート10(10A)と同じ構成である。
そこで、ここでは、第1実施形態に係る化粧シート10(10A)と異なる部分である艶消し層8についてのみ説明し、その他の部分は説明を省略する。
【0034】
(艶消し層8)
艶消し層8は、絵柄印刷層4を覆う層であり、化粧シート10の表面の光沢を調整するために形成される。
艶消し層8の厚さは、例えば、20μm以上55μm以下の範囲内が好ましい。
艶消し層8は、少なくとも、透明な樹脂に艶消し剤が添加されて形成されている。
透明な樹脂としては、例えば、アクリル系樹脂等、透明熱可塑性樹脂層等を用いることが可能である。
【0035】
艶消し剤は、マット剤や艶調整剤とも呼称され、化粧シート10の表面に与える艶に応じて添加される。艶消し剤としては、例えば、無機物や有機物(樹脂)の微粒子を用いることが可能である。
無機物としては、例えば、シリカ、アルミナ(α−アルミナ等)、炭酸カルシウム、硫酸バリウム、カオリナイト、アルミノシリケート等を用いることが可能である。
有機物(樹脂)としては、例えば、ポリカーボネート、ナイロン、ウレタン樹脂等を用いることが可能である。
【0036】
上述したなかでも、艶消し剤としては、シリカを用いることが好適である。
艶消し剤の平均粒径は、1μm以上10μm以下の範囲内とすることが好適である。
艶消し剤の添加量は、所望の光沢に応じて適宜選択するが、通常は、艶消し層8を構成する樹脂100質量部に対し、粒径が10μm以下の粒子で、20質量部以上30質量部以下の範囲内で添加される。
なお、艶消し層8には、適宜、公知の紫外線吸収剤等を添加してもよい。
【0037】
[実施例]
以下、実施例及び比較例を用いて本発明をさらに具体的に説明する。但し本発明はこれらの例にのみ限定されるものではない。なお、本実施例及び比較例で製造する化粧シートは、第2実施形態に係る化粧シート10(10B)、即ち艶消し層8を備えた化粧シート10である。
【0038】
<実施例1>
以下の材料と手順で、化粧シートを作成し、それを用いた化粧板を作製した。
(1)第1の紙基材(第1の紙基材層1)として、坪量23g/m(厚み33μm)の混抄紙(天間特殊製紙(株)製TP23)を準備し、その表面に硝化綿インキ(東洋インキ(株)製PCNTインキ)及びウレタンインキ(東洋インキ(株)製PCRNTインキ)を用いて絵柄を印刷して絵柄印刷層4を形成した。その後、その印刷面上に、艶消し層形成用塗液(DICグラフィック(株)製G125HV)を用いて艶消し層8を形成した。そして、その艶消し層8上に、アクリルポリオールを主成分とし、合成樹脂粒子(表面粒子)として平均粒径40μmのアクリルビーズを含有する主剤にイソシアネート硬化剤を添加した透明な表面保護コート(表面保護層5)を乾燥重量で7g/m施し、化粧シート用の紙基材を作成した。
【0039】
(2)前述の絵柄印刷が施された紙基材に60℃48時間の養生を行って表面保護層5の硬化反応を促進させた。その後、当該紙基材の印刷が施されていない側と、第2の紙基材(第2の紙基材層2)である坪量23g/m(厚み30μm)の混抄紙(王子製紙(株)製FIXW23)との間に、300℃に熱して熱溶融した高密度ポリエチレンを2〜20g/10minにて膜状に押し出して圧着し、直後に冷却した。これにより、ポリエチレン層(熱可塑性樹脂層3)の表裏に第1及び第2の紙基材層1、2を有する積層体100を得た。ポリエチレン層の厚みは50μmで、積層体100の総厚D(エンボス加工前のシート総厚D)は101μmであった。
【0040】
(3)得られた積層体100の表面保護層5の表面温度がポリエチレンの融点に近い130℃になるように加熱した。腐食方式にて作成した最大深度150μmのエンボスロール24と、JIS K6301:1975による硬度計でHS(Hardness spring)50°の硬度を有するゴムバックロール25との間に、この積層体100を挟むことにより積層体100の表裏両面100a、100bに凹凸形状を付与し、直後に積層体100を冷却した。
これにより、実施例1に係る凹凸形状を有する化粧シート10(10B)を作成した。得られた化粧シート10の表面10a側のエンボス凹部6の深さD1は、最大100μmの高低差を有しており、また、エンボス加工前の総厚Dに対して深さD1の比率(厚み比率)が99%であった。また、艶消し層8と表面保護層5との間の艶差は、15であった。また、得られた化粧シート10の表面保護層5の最大高さ(Rmax)は、35μmであった。
【0041】
このような化粧シート10は、化粧シートとして、触感及び意匠性の両方が優れていることが確認された。また、エンボス加工も容易に行うことができた。また、ラミネートも容易に行うことができた。
なお、エンボス凹部の深さD1の高低差(深さ)は、接触式粗さ計である表面粗さ形状測定器((株)東京精密製サーフコム120A)で最大高さ(Rmax)を測定した。また、艶消し層8と表面保護層5との間の艶差は、JIS Z−8741に準じた鏡面光沢度測定法により測定された60°入射の光沢値とした。
【0042】
(4)2.5mm厚のMDF(中密度繊維)基材に1液のエチレン酢酸ビニルエマルジョン接着剤を塗液重量で55g/m塗布し、得られた凹凸形状を有する化粧シート10を表面温度を100℃に熱したラミネートロールを用いてこのMDF基材に貼りあわせた。これにより、凹凸形状を有する化粧板を作製した。得られた化粧板のエンボス凹部6は最大で59μmの深さがあり、良好な凹凸意匠性を有する化粧板を作製することができた。
【0043】
<実施例2>
表面保護層5に含有される合成樹脂粒子(表面粒子)の平均粒径を47μmにした以外は、実施例1と同様にした。
こうして、実施例2に係る凹凸形状を有する化粧シート10を作成した。得られた化粧シート10の表面10a側のエンボス凹部6の深さD1は、最大100μmの高低差を有しており、また、エンボス加工前の総厚Dに対して深さD1の比率が99%であった。また、艶消し層8と表面保護層5との間の艶差は、2であった。また、得られた化粧シート10の表面保護層5の最大高さ(Rmax)は、10μmであった。
このような化粧シート10は、化粧シートとして、触感が良好であり、意匠性が優れていることが確認された。また、エンボス加工も容易に行うことができた。また、ラミネート加工も容易に行うことができた。
【0044】
<実施例3>
第1の紙基材(第1の紙基材層1)の厚みを52μmとし、第2の紙基材(第2の紙基材層2)の厚みを55μmとし、化粧シート10の表面10a側のエンボス凹部6の深さD1を21μmにした以外は、実施例1と同様にした。なお、積層体100の総厚Dは140μmであった。
こうして、実施例3に係る凹凸形状を有する化粧シート10を作成した。得られた化粧シート10の表面10a側のエンボス凹部6の深さD1は、最大21μmの高低差を有しており、また、エンボス加工前の総厚Dに対して深さD1の比率が15%であった。また、艶消し層8と表面保護層5との間の艶差は、15であった。また、得られた化粧シート10の表面保護層5の最大高さ(Rmax)は、32μmであった。
このような化粧シート10は、化粧シートとして、触感が優れており、意匠性が好ましいことが確認された。また、エンボス加工も容易に行うことができた。また、ラミネート加工も容易に行うことができた。
【0045】
<実施例4>
ポリエチレン層(熱可塑性樹脂層3)の厚みを18μmとし、化粧シート10の表面10a側のエンボス凹部6の深さD1を72μmにした以外は、実施例1と同様にした。なお、積層体100の総厚Dは72μmであった。
こうして、実施例4に係る凹凸形状を有する化粧シート10を作成した。得られた化粧シート10の表面10a側のエンボス凹部6の深さD1は、最大72μmの高低差を有しており、また、エンボス加工前の総厚Dに対して深さD1の比率が100%であった。また、艶消し層8と表面保護層5との間の艶差は、29であった。また、得られた化粧シート10の表面保護層5の最大高さ(Rmax)は、15μmであった。
このような化粧シート10は、化粧シートとして、触感が良好であり、意匠性が優れていることが確認された。また、エンボス加工も容易に行うことができた。なお、本実施例では、化粧板を作製しなかった。
【0046】
<実施例5>
ポリエチレン層(熱可塑性樹脂層3)の厚みを90μmとし、化粧シート10の表面10a側のエンボス凹部6の深さD1を140μmにし、表面保護層5に含有される合成樹脂粒子の平均粒径を5μmにした以外は、実施例1と同様にした。なお、積層体100の総厚Dは136μmであった。
こうして、実施例5に係る凹凸形状を有する化粧シート10を作成した。得られた化粧シート10の表面10a側のエンボス凹部6の深さD1は、最大140μmの高低差を有しており、また、エンボス加工前の総厚Dに対して深さD1の比率が103%であった。また、艶消し層8と表面保護層5との間の艶差は、5であった。また、得られた化粧シート10の表面保護層5の最大高さ(Rmax)は、3μmであった。
このような化粧シート10は、化粧シートとして、触感が好ましく、意匠性が優れていることが確認された。また、エンボス加工も容易に行うことができた。また、ラミネート加工も容易に行うことができた。
【0047】
<実施例6>
ポリエチレン層(熱可塑性樹脂層3)の厚みを105μmとし、化粧シート10の表面10a側のエンボス凹部6の深さD1を148μmにし、表面保護層5に含有される合成樹脂粒子の平均粒径を15μmにした以外は、実施例1と同様にした。なお、積層体100の総厚Dは150μmであった。
こうして、実施例6に係る凹凸形状を有する化粧シート10を作成した。得られた化粧シート10の表面10a側のエンボス凹部6の深さD1は、最大148μmの高低差を有しており、また、エンボス加工前の総厚Dに対して深さD1の比率が99%であった。また、艶消し層8と表面保護層5との間の艶差は、15であった。また、得られた化粧シート10の表面保護層5の最大高さ(Rmax)は、30μmであった。
このような化粧シート10は、化粧シートとして、触感及び意匠性の両方が優れていることが確認された。また、エンボス加工も容易に行うことができた。また、ラミネート加工も容易に行うことができた。
【0048】
<実施例7>
第1の紙基材(第1の紙基材層1)の厚みを50μmとし、化粧シート10の表面10a側のエンボス凹部6の深さD1を17μmにし、表面保護層5に含有される合成樹脂粒子の平均粒径を49μmにした以外は、実施例1と同様にした。なお、積層体100の総厚Dは116μmであった。
こうして、実施例7に係る凹凸形状を有する化粧シート10を作成した。得られた化粧シート10の表面10a側のエンボス凹部6の深さD1は、最大17μmの高低差を有しており、また、エンボス加工前の総厚Dに対して深さD1の比率が15%であった。また、艶消し層8と表面保護層5との間の艶差は、15であった。また、得られた化粧シート10の表面保護層5の最大高さ(Rmax)は、30μmであった。
このような化粧シート10は、化粧シートとして、触感が優れており、意匠性が好ましいことが確認された。また、エンボス加工も行うことができた。なお、本実施例では、化粧板を作製しなかった。
【0049】
<実施例8>
化粧シート10の表面10a側のエンボス凹部6の深さD1を29μmにした以外は、実施例1と同様にした。なお、積層体100の総厚Dは101μmであった。
こうして、実施例8に係る凹凸形状を有する化粧シート10を作成した。得られた化粧シート10の表面10a側のエンボス凹部6の深さD1は、最大29μmの高低差を有しており、また、エンボス加工前の総厚Dに対して深さD1の比率が28%であった。また、艶消し層8と表面保護層5との間の艶差は、15であった。また、得られた化粧シート10の表面保護層5の最大高さ(Rmax)は、30μmであった。
このような化粧シート10は、化粧シートとして、触感が優れており、意匠性が好ましいことが確認された。また、エンボス加工も行うことができた。また、ラミネート加工も容易に行うことができた。
【0050】
<比較例1>
表面保護層5に含有される合成樹脂粒子の平均粒径を2μmにした以外は、実施例1と同様にした。
こうして、比較例1に係る凹凸形状を有する化粧シート10を作成した。得られた化粧シート10の表面10a側のエンボス凹部6の深さD1は、最大100μmの高低差を有しており、また、エンボス加工前の総厚Dに対して深さD1の比率が99%であった。また、艶消し層8と表面保護層5との間の艶差は、15であった。また、得られた化粧シート10の表面保護層5の最大高さ(Rmax)は、1μmであった。
このような化粧シート10は、化粧シートとして、触感が劣っており、意匠性が優れていることが確認された。また、エンボス加工も容易に行うことができた。なお、本比較例では、化粧板を作製しなかった。
【0051】
<比較例2>
表面保護層5に合成樹脂粒子を含有しない以外は、実施例1と同様にした。
こうして、比較例2に係る凹凸形状を有する化粧シート10を作成した。得られた化粧シート10の表面10a側のエンボス凹部6の深さD1は、最大100μmの高低差を有しており、また、エンボス加工前の総厚Dに対して深さD1の比率が99%であった。また、艶消し層8と表面保護層5との間の艶差は、15であった。また、得られた化粧シート10の表面保護層5の最大高さ(Rmax)は、0μmであった。
このような化粧シート10は、化粧シートとして、触感が劣っており、意匠性が優れていることが確認された。また、エンボス加工も容易に行うことができた。なお、本比較例では、化粧板を作製しなかった。
【0052】
<比較例3>
第1の紙基材(第1の紙基材層1)の厚みを60μmとし、第2の紙基材(第2の紙基材層2)の厚みを60μmとし、化粧シート10の表面10a側のエンボス凹部6の深さD1を10μmにした以外は、実施例1と同様にした。なお、積層体100の総厚Dは151μmであった。
こうして、比較例3に係る凹凸形状を有する化粧シート10を作成した。得られた化粧シート10の表面10a側のエンボス凹部6の深さD1は、最大10μmの高低差を有しており、また、エンボス加工前の総厚Dに対して深さD1の比率が6%であった。また、艶消し層8と表面保護層5との間の艶差は、15であった。また、得られた化粧シート10の表面保護層5の最大高さ(Rmax)は、35μmであった。
このような化粧シート10は、化粧シートとして、触感が優れており、意匠性が劣っていることが確認された。また、エンボス加工も容易に行うことができた。なお、本比較例では、化粧板を作製しなかった。
【0053】
<比較例4>
第1の紙基材(第1の紙基材層1)の厚みを52μmとし、化粧シート10の表面10a側のエンボス凹部6の深さD1を12μmにした以外は、実施例1と同様にした。なお、積層体100の総厚Dは117μmであった。
こうして、比較例4に係る凹凸形状を有する化粧シート10を作成した。得られた化粧シート10の表面10a側のエンボス凹部6の深さD1は、最大12μmの高低差を有しており、また、エンボス加工前の総厚Dに対して深さD1の比率が10%であった。また、艶消し層8と表面保護層5との間の艶差は、15であった。また、得られた化粧シート10の表面保護層5の最大高さ(Rmax)は、35μmであった。
このような化粧シート10は、化粧シートとして、触感が優れており、意匠性が劣っていることが確認された。また、エンボス加工も容易に行うことができた。なお、本比較例では、化粧板を作製しなかった。
【0054】
<比較例5>
第1の紙基材(第1の紙基材層1)の厚みを52μmとし、第2の紙基材(第2の紙基材層2)の厚みを55μmとし、化粧シート10の表面10a側のエンボス凹部6の深さD1を5μmにした以外は、実施例1と同様にした。なお、積層体100の総厚Dは140μmであった。
こうして、比較例5に係る凹凸形状を有する化粧シート10を作成した。得られた化粧シート10の表面10a側のエンボス凹部6の深さD1は、最大5μmの高低差を有しており、また、エンボス加工前の総厚Dに対して深さD1の比率が4%であった。また、艶消し層8と表面保護層5との間の艶差は、15であった。また、得られた化粧シート10の表面保護層5の最大高さ(Rmax)は、35μmであった。
このような化粧シート10は、化粧シートとして、触感が優れており、意匠性が劣っていることが確認された。また、エンボス加工も容易に行うことができた。なお、本比較例では、化粧板を作製しなかった。
【0055】
以下の表1に、上述した実施例1〜実施例8と比較例1〜比較例5をまとめたものを示す。なお、表1中の触感の項目において、より触感の優れている順に、「優」、「良」、「可」、「不可」とした。これと同様に、意匠性の項目において、より意匠性の優れている順に、「優」、「良」、「可」、「不可」とした。また、「優」、「良」、及び「可」を合格とし、「不可」を不合格とした。また、表1中のエンボスの項目において、エンボス加工が容易であった場合を「良好」とし、エンボス加工が容易ではないものの可能であった場合を「可」とした。なお、表1中の表面粒子粒径の項目において、表面粒子を添加しなかった場合を「―」とした。また、表1中のラミネートの項目において、良好な凹凸意匠性を有する化粧板を作製できた場合を「良好」とし、化粧板を作製しなかった場合を「―」とした。
【0056】
【表1】
【0057】
上記の表1から明らかなように、厚み比率が15%以上、より好ましくは30%以上のエンボス深さを有し、且つ最大高さ(Rmax値)が3μm以上、より好ましくは30μm以上の表面粗さを有する化粧シート及び当該化粧シートを備えた化粧板であれば、触感及び意匠性の両方を高められることが確認できた。また、エンボス凹部の深さD1が45μm以上、より好ましくは70μm以上である化粧シートが特に高い意匠性を有していることが確認できた。
【0058】
(各実施形態の効果)
第1及び第2の各実施形態に係る発明は、以下の効果を奏する。
(1)本実施形態に係る化粧シート10は、第1の紙基材層1と、第2の紙基材層2と、第1の紙基材層1及び第2の紙基材層2の間に配置され、第1の紙基材層1及び第2の紙基材層2を接着する熱可塑性樹脂層3と、第1の紙基材層1の上に形成される絵柄印刷層4と、絵柄印刷層4の上に形成される表面保護層5と、を備えている。そして、化粧シート10の表面保護層5が形成される表面10a側には複数のエンボス凹部6が形成されており、複数のエンボス凹部6の最大深度は、化粧シート10のエンボス加工前の総厚に対して15%以上となっている。また、表面保護層5は、無機粒子及び合成樹脂粒子の少なくとも一方を含有しており、化粧シート10の表面10aに無機粒子及び合成樹脂粒子の少なくとも一方の一部分が表出している。また、表面保護層5の表面は、接触式粗さ計で測定した最大高さRmax値が3μm以上である。
【0059】
このような構成であれば、複数のエンボス凹部6の最大深度が化粧シート10のエンボス加工前の総厚に対して15%以上となっている。また、化粧シート10の表面10aに無機粒子及び合成樹脂粒子の少なくとも一方の一部分が表出しており、その表面は、接触式粗さ計で測定した最大高さRmax値が3μm以上となっている。このため、化粧シート10の表面10a側に、より深い凹凸形状を設けるとともに触感を付与することになり、より意匠性(立体意匠感)を高めることが可能となる。
【0060】
(2)また、本実施形態に係る化粧シート10は、絵柄印刷層4と表面保護層5との間に形成された艶消し層8をさらに備え、その艶消し層8と表面保護層5との間の艶差を、JIS Z−8741に準じた鏡面光沢度測定法により測定された60°入射の光沢値で、1以上30以下の範囲内としてもよい。
このような構成であれば、表面保護層5の光沢の影響を受けずに視覚的な立体感を表現することができる。
【0061】
(3)また、本実施形態に係る化粧シート10を構成する表面保護層5が含有する合成樹脂粒子をアクリル樹脂系粒子としてもよい。
このような構成であれば、表面保護層5の透明度を向上でき、意匠を付与するための絵柄印刷層4の絵柄をより明瞭に透視することができる。
(4)また、本実施形態に係る化粧シート10を構成する表面保護層5が含有する粒子(無機粒子及び合成樹脂粒子の少なくとも一方)の平均粒径を10μm以上60μm以下の範囲内としてもよい。
このような構成であれば、十分な触感を容易に表面保護層5に付与することができる。
【0062】
(5)また、本実施形態に係る化粧シート10を構成する表面保護層5の表面の最大高さRmax値を30μm以上としてもよい。
このような構成であれば、最適な触感を表面保護層5に付与することができる。
(6)また、本実施形態に係る化粧シート10は、複数のエンボス凹部6の最大深度を45μm以上としてもよい。
このような構成であれば、化粧シート10の意匠性を極めて良好なものとすることができ、また、エンボス加工性も良好にすることができる。
【0063】
(7)また、本実施形態に係る化粧シート10は、第1の紙基材層1及び第2の紙基材層2に用いる紙材の厚みをそれぞれ15μm以上60μm未満の範囲内としてもよい。
各紙材の厚みが60μm以上であると、化粧シート10に適正なエンボス加工を施すことが難しくなることがあり、意匠性の高い化粧シート10を得ることが困難となる。一方、各紙材の厚みが15μmよりも薄くなると、エンボス加工を施す際に紙材に破れ等が生じやすくなる可能性がある。
よって、上記構成であれば、エンボス加工が施された意匠性の高い化粧シート10を容易に得ることができる。
【0064】
(8)また、本実施形態に係る化粧シート10は、熱可塑性樹脂層3の厚みを20μm以上70μm以下の範囲内とし、第2の紙基材層2に用いる紙材より厚くしてもよい。
このような構成であれば、熱可塑性樹脂層3が20μm以上の厚みを有しているので、エンボス加工を施した際に化粧シート10にエンボス凹部6がより確実に形成されて意匠性を高めることができると共に、化粧シート10にラミネート処理等を施したとしても形成されたエンボス形状が元に戻ってしまうといったことを抑制することが可能となる。
【0065】
(9)また、本実施形態に係る化粧シート10は、化粧シート10の表面10a側に位置する第1の紙基材層1に用いる紙材の厚みを、第2の紙基材層2に用いる紙材の厚みより厚くしてもよい。
このような構成であれば、印刷がし易くなる(印刷適性が良くなる)。
(10)また、本実施形態に係る化粧シート10は、表面10a側の反対側となる化粧シート10の裏面10b側に複数の凹部7を形成してもよい。
このような構成であれば、化粧シート10を基材に接着等する際に凹部7に接着剤が入り込むことによって、化粧シート10の接着性を向上させることができる。その結果、使用する接着剤の量を減らすことも可能となる。また、裏面側に凹部7を設けることにより、化粧シート10を貼り合せる際の皺寄りを抑制することもできる。
【0066】
(11)また、本実施形態に係る化粧シート10は、複数の凹部7を、エンボス凹部6が形成されている箇所とは積層方向における位置が異なるように形成してもよい。
このような構成であっても上述した効果を奏することは可能である。
(12)また、本実施形態に係る化粧板は、上述した何れかの構成を備えた化粧シート10と、その化粧シート10が少なくとも一方の面に貼り合わされた基材とを備えている。
このような構成であれば、化粧シート10と同様に、上述した効果を奏することが可能となる。
本発明によれば、触感及び意匠性をより一層高めた化粧シート及びその化粧シートを備えた化粧板を得ることが可能となる。
【符号の説明】
【0067】
1…第1の紙基材層
2…第2の紙基材層
3…熱可塑性樹脂層
4…絵柄印刷層(絵柄層)
5…表面保護層
5a…表面粒子
6…エンボス凹部
7…凹部
8…艶消し層
10…化粧シート
10A…化粧シート
10B…化粧シート
10a…表面
10b…裏面
100…積層体
100a…表面
100b…裏面
D…化粧シートのエンボス加工前の総厚
D1…エンボス凹部の深さ。
図1
図2
図3
図4