(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6838436
(24)【登録日】2021年2月16日
(45)【発行日】2021年3月3日
(54)【発明の名称】濾過膜評価方法及び濾過膜評価装置
(51)【国際特許分類】
B01D 65/10 20060101AFI20210222BHJP
G01N 15/08 20060101ALI20210222BHJP
G01N 33/18 20060101ALI20210222BHJP
【FI】
B01D65/10
G01N15/08 A
G01N33/18 106Z
【請求項の数】2
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2017-47948(P2017-47948)
(22)【出願日】2017年3月14日
(65)【公開番号】特開2018-149500(P2018-149500A)
(43)【公開日】2018年9月27日
【審査請求日】2019年12月13日
(73)【特許権者】
【識別番号】000006105
【氏名又は名称】株式会社明電舎
(74)【代理人】
【識別番号】100086232
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 博通
(74)【代理人】
【識別番号】100092613
【弁理士】
【氏名又は名称】富岡 潔
(74)【代理人】
【識別番号】100104938
【弁理士】
【氏名又は名称】鵜澤 英久
(72)【発明者】
【氏名】細野 奈穂子
(72)【発明者】
【氏名】久住 美代子
【審査官】
川崎 良平
(56)【参考文献】
【文献】
国際公開第2017/017994(WO,A1)
【文献】
国際公開第2014/170423(WO,A2)
【文献】
特開2010−051956(JP,A)
【文献】
特開平11−076775(JP,A)
【文献】
特表2011−502775(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01D 61/00−71/82
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
濾過膜の切片を挟む一対の弾性部材とこの一対の弾性部材をさらに挟む一対の固定治具とを有する固定部を備えた濾過膜評価装置による濾過膜評価方法であって、
前記固定部に固定された前記切片の膜面に純水を供して当該切片から流出した第一の処理水の流量を計測する工程と、
前記第一の処理水の流量を計測した後に被処理水を前記膜面に供する工程と、
前記被処理水を前記膜面に供した後に前記切片を薬剤洗浄する工程と、
薬剤洗浄後の前記切片の膜面に純水を供して当該切片から流出した第二の処理水の流量を計測する工程と、
前記第一の処理水と前記第二の処理水の流量の差に基づき前記濾過膜を評価する工程とを有することを特徴とする濾過膜評価方法。
【請求項2】
濾過膜に純水を供して得られた第一の処理水の流量と薬剤洗浄後の当該濾過膜に純水を供して得られた第二の処理水の流量との差に基づき当該濾過膜を評価する濾過膜評価装置であって、
純水を供給する静水圧装置と、
前記濾過膜の切片が固定され、前記第一の処理水を得る際に当該切片の膜面に前記静水圧装置から前記純水が供される一方で前記第二の処理水を得る際に薬剤洗浄後の当該切片の膜面に当該純水が供される固定部と
を備え、
前記固定部は、前記切片を挟む一対の弾性部材と、この一対の弾性部材をさらに挟む一対の固定治具と、を有し、
前記第一の処理水の流量が計測された後に、被処理水が前記膜面に供され、
前記被処理水が前記膜面に供された後に、前記切片が薬剤洗浄に供されること
を特徴とする濾過膜評価装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水処理分野に適用されている濾過膜の評価技術に関する。
【背景技術】
【0002】
近年の排水処理技術においては、微生物を含む活性汚泥により排水を生物学的に処理する一方で活性汚泥に浸漬させたセラミックからなる濾過膜により固液分離処理する膜分離活性汚泥法(MBR)が着目されている。MBRは、従来の排水処理で一般的に使われている生物学的排水処理技術と膜処理技術とを組み合わせた方式である。この方式は、処理水が清澄になり、最終沈殿池が不要となるため、装置プラント全体がコンパクトになるメリットがある。
【0003】
しかしながら、MBRにおいて、運転時間が経過すると濾過膜の目詰まりが進行して濾過水量が低下する。MBRは常に濾過膜の閉塞の問題が付随するので、膜濾過の導入に際し、処理対象となる排水(以下、被処理水)を濾過膜により固液分離処理する際の濾過性能を評価する必要がある。そのため、濾過膜の実機において通常の膜透過流束(0.3〜1.0m
3/[m
2・日])の条件で膜濾過試験を行うと、試験の準備及び実行の時間が長いことに加えてコストも高くなる。
【0004】
特許文献1に例示の濾過膜評価法は、膜分離活性汚泥法の標準的な膜透過流束よりも大きい膜透過流束での所定膜差圧に到達する時間の実測値に基づき評価すべき標準的な膜透過流束での膜差圧の到達時間を算出することにより、濾過膜評価の短時間化を図る。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2001−281130号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1のような濾過膜評価法は、濾過膜を評価装置に取り付ける際、濾過膜の膜面に開口部分を形成し、この開口部分から濾過後の処理水を取り出す吸引ラインを液密に取り付ける必要がある。板状の濾過膜は一般的にその厚さは10〜20mm程度となるが、この濾過膜を前記濾過膜評価法に供する際、当該濾過膜に前記開口部分を形成することは作業的に困難であり、濾過膜試験の作業時間及びコストの観点から実用的でない。
【0007】
本発明は、上記の事情に鑑み、濾過膜の評価にあたり濾過膜の形態に関わらず濾過膜試験の短縮化及び低コスト化を図ることを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
そこで、本発明の濾過膜評価方法の一態様は、濾過膜の切片の膜面に純水を供して当該切片から流出した第一の処理水の流量を計測する工程と、薬剤洗浄後の前記切片の膜面に純水を供して当該切片から流出した第二の処理水の流量を計測する工程と、前記第一の処理水と前記第二の処理水の流量の差に基づき前記濾過膜を評価する工程を有する。
【0009】
前記濾過膜評価方法の一態様は、前記第一の処理水の流量を計測した後に被処理水を前記膜面に供する工程と、前記被処理水を前記膜面に供した後に前記切片を薬剤洗浄する工程とをさらに有する。
【0010】
また、本発明の濾過膜評価装置の一態様は、濾過膜に純水を供して得られた第一の処理水の流量と薬剤洗浄後の当該濾過膜に純水を供して得られた第二の処理水の流量との差に基づき当該濾過膜を評価する濾過膜評価装置であって、純水を供給する静水圧装置と、濾過膜の切片が固定され、前記第一の処理水を得る際に当該切片の膜面に前記静水圧装置から前記純水が供される一方で前記第二の処理水を得る際に薬剤洗浄後の当該切片の膜面に当該純水が供される固定部とを備える。
【発明の効果】
【0011】
以上の本発明によれば、濾過膜の形態に関わらず濾過膜試験の短縮化及び低コスト化が図られる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】本発明の濾過膜評価方法を実行する試験装置の一態様を示した構成図。
【
図2】本発明の濾過膜評価方法に供される濾過膜の一態様を例示した斜視図。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下に図面を参照しながら本発明の実施形態について説明する。
【0014】
[試験装置(濾過膜評価装置)1の態様例]
図1に例示の試験装置1は、第一の処理水と第二の処理水の流量の差に基づき中空状セラミック膜10を評価する。第一の処理水は、評価対象の濾過膜である中空状セラミック膜10に純水を供して得られた処理水である。第二の処理水は薬剤洗浄後の中空状セラミック膜10に純水を供して得られた処理水である。
【0015】
試験装置1は、静水圧装置20と固定部30とを備える。
【0016】
静水圧装置20は純水または被処理水21を一定の圧力で供給する。静水圧装置20としては実験室等で採用されている周知の静水圧装置を適用すればよい。
【0017】
固定部30は、中空状セラミック膜10の切片が固定され、第一の処理水を得る際に当該切片の膜面に静水圧装置20から純水が一定の圧力で供される。一方、第二の処理水を得る際に薬剤洗浄後の当該切片の膜面に前記純水が一定の圧力で供される。
【0018】
固定部30は、中空状セラミック膜10の切片を挟む第一の弾性部材33,第二の弾性部材34と、さらに、この第一の弾性部材33,第二の弾性部材34を挟む第一の固定治具31,第二の固定治具32とを有する。
【0019】
第一の固定治具31には、静水圧装置20と中空状セラミック膜10の切片とを連通させて静水圧装置20から供された被処理水21を中空状セラミック膜10の切片の膜面に供給する配管22が接続される。
【0020】
また、第一の固定治具31には、被処理水21を中空状セラミック膜10の切片の膜面に供給する開口部が形成されている。さらに、第一の固定治具31と中空状セラミック膜10の切片との間に介在する第一の弾性部材33においても、被処理水21を中空状セラミック膜10の切片に供給する開口部が第一の固定治具31の開口部と同径に形成されている。
【0021】
第一の弾性部材33及び第二の弾性部材34は、中空状セラミック膜の態様に応じて形成される。例えば、中空状セラミック膜10の態様が円柱状や中空円筒状である場合、その態様に応じて第一の弾性部材33及び第二の弾性部材34が形成される。
【0022】
図2(a)〜(c)に中空状セラミック膜10の態様を例示した。通常、中空状セラミック膜10は、被処理水11に浸漬された状態で使用される。中空状セラミック膜10はその内部に複数の流路13が形成されている。流路13内はポンプ等により減圧状態となることにより被処理水11が中空状セラミック膜10の膜面から流路13に侵入して処理水12として系外に排出される。被処理水11に含まれる濁質14は、中空状セラミック膜10の膜面にて補足されるので、流路13には侵入することがない。中空状セラミック膜10は、アルミナやPVDF(ポリフッ化ビニリデン)等で形成することできるが、機械的強度を有していれば、本態様の試験装置1に供することができる。また、公称孔径は例えば0.1μm程度の細菌を補足できるレベルであることが一般的であるが、特に限定しない。
【0023】
第一の弾性部材33及び第二の弾性部材34は、応力を加えるとひずみが生じるが、除荷すれば元の寸法に戻る性質を有する材料で構成すればよく、中空状セラミック膜10と圧接させることにより気密性が確保できる程度の材料であれば弾性率等では限定しない。具体的には、耐摩耗性、耐老化性がよいニトリルゴム(NBR)や力学的強度が特に優れるウレタンゴムや耐摩耗性等の機械的強度が大きく弾性を有する天然ゴムが例示される。特に、ウレタンゴムや天然ゴムは中空状セラミック膜10との密着性に優れ、気密性を確保できるため、試験精度の向上と試験結果の安定性をもたらす。
【0024】
[中空状セラミック膜10の評価法の一例]
図1を参照しながら中空状セラミック膜10の評価の手順S1〜S7について説明する。
【0025】
S1:中空状セラミック膜10から切り出した中空状セラミック膜10の切片の膜面を静水圧装置20と連通させる。具体的には、中空状セラミック膜10を所定の大きさ(例えば、30〜40mm四方)の切片に切り出し、この切片を固定部30に固定した後、配管22を介して固定部30を静水圧装置20と接続させる。
【0026】
S2:静水圧装置20により純水を前記切片の膜面に一定の圧力で通水し、この切片の流路13から流出した第一の処理水の流量を計測する。例えば、100kPa、25℃の条件で通水した場合、40m
3/(m
2・日)の性能を有する中空状セラミック膜10であれば、1分当たり0.0278m
3/m
2の第一の処理水が得られる。実際は、第一の弾性部材33と第一の固定治具31に設けられた開口部の面積からm
2当たりの第一の処理水の流量を算出する。
【0027】
S3:第一の処理水の流量を計測した後、静水圧装置20から供給する純水を被処理水21に切り替え、この被処理水21を所定の時間、前記切片の膜面に一定の圧力で通水する。本工程では、実際のFLUXと通水時間と同様の条件とすることが好ましい。FLUX:0.5〜1.0m
3/(m
2・日)で9.5分間通水し、0.5分間逆洗する運転の場合、同様のFLUXになるように静水圧装置20の圧力を調整し、9.5分間通水する。静水圧装置20の圧力は被処理水21によって異なるため、事前に計測しておく。被処理水21として、下水汚泥や下水二次処理水、工場排水、シェールガス回収時に発生する随伴水、食品排水、河川・湖沼等の環境水、海水等が適用できる。
【0028】
S4:被処理水21を中空状セラミック膜10の切片の膜面に通水した後、前記切片を薬剤洗浄する。例えば、被処理水21が通水された後の中空状セラミック膜10の切片を固定部30から取り外して次亜塩素酸水溶液やクエン酸水溶液等に例示される洗浄用の薬剤に浸漬させる。また、前記切片の被処理水21が通水する部分を除いて中空状セラミック膜10の細孔を封止して前記薬液を通水方向と逆の方向に通水させる方式いわゆる逆洗方式により当該切片の洗浄を行ってもよい。
【0029】
S5:洗浄後の前記切片を固定部30に再度固定する。すなわち、洗浄後の前記切片を固定部30に再度固定した後に静水圧装置20と連通させる。前記切片はS2の工程にて通水させた部位が静水圧装置20の配管22と対向するように固定部30に固定される。
【0030】
S6:静水圧装置20により純水をS5の工程で固定された前記切片の膜面に一定の圧力で通水した後、この切片の流路13から流出した第二の処理水の流量を計測する。
【0031】
S7:第一の処理水と第二の処理水の流量の差を計測し、この差の値に基づき中空状セラミック膜10を評価する。S4の工程において、第一の処理水の流量と第二の処理水の流量の差が限りなく0に近い場合は、薬剤洗浄により不可逆的な膜閉塞を回避できると判断できる。一般的に中空状セラミック膜10を使用した水処理設備は平常運転においては通水と逆洗を交互に繰り返して実行しており、定期的に中空状セラミック膜10を浸漬洗浄する。この運転サイクルを模擬した中空状セラミック膜10の評価が可能となる。
【0032】
以上のように本態様の濾過膜評価方法及び試験装置1によれば、濾過膜を用いて被処理水21を固液分離処理する際の膜濾過性能と濾過膜の閉塞の原因となる濁質に対応した濾過膜とその洗浄方法の評価を行うことができる。
【0033】
特に、本態様においては、濾過膜の切片を試験に供すればよいので、従来の試験方法のような濾過膜の膜面に開口部分を形成する作業や当該開口部分と処理水吸引ラインとの接続作業が不要となる。したがって、濾過膜の評価にあたり濾過膜の形態に関わらず濾過膜試験の短縮化及び低コスト化を図ることができる。
【0034】
また、S4の工程における洗浄時間や薬剤を適宜変更しながらS1〜S7の工程を複数繰り返すことにより、被処理水21の効果的な処理方法を短時間及び簡便に導き出すことができる。
【0035】
さらに、中空状セラミック膜10の公称孔径を変更し、本実施形態の評価法を利用することにより、被処理水21に適した中空状セラミック膜10を簡便に見出すことも可能となる。
【0036】
また、第一の処理水の流量を計測した後に被処理水21を前記膜面に供する工程(S3)と被処理水21を前記膜面に供した後に当該膜面を薬剤洗浄する工程(S4)が実行されることにより、濾過膜のメンテナンスを想定した濾過膜試験が行える。したがって、被処理水21に適した中空状セラミック膜10を備えた膜モジュールの最適運転方法(吸引と逆洗の時間)を簡便に導くことができる。
【0037】
尚、本発明は、以上の実施形態に限定されるものではなく、本発明の特許請求の範囲内で様々な態様で実施が可能である。
【実施例】
【0038】
以下に本発明の実施例を示す。
【0039】
(実施例1)
(1)試験条件
被処理水:下水処理場汚泥(MLSS:2000mg/L)
被試験濾過膜:中空状セラミック膜
静水圧装置圧力:20kPa
膜洗浄薬剤:次亜塩素酸ナトリウム水溶液(pH10.0)
洗浄方式:浸漬洗浄(60分)
通水条件:S2,S6の工程で下水処理汚泥を中空状セラミック膜に10分間通水した。
【0040】
(2)試験結果
第一の処理水の流量:10.8ml/min
第二の処理水の流量:10.8ml/min
第一の処理水と第二の処理水の流量差:0.0ml/min、通水量回復率:100%
(3)評価結果
下水処理場汚泥(MLSS:2000mg/L)を中空状セラミック膜に通水しても、次亜塩素酸ナトリウム水溶液(pH10.0)で浸漬洗浄すれば、不可逆的な膜閉鎖の抑制を図ることができることが確認された。
【0041】
(実施例2)
(1)試験条件
被処理水:下水処理場汚泥(MLSS:2000mg/L)
被試験濾過膜:中空状セラミック膜
静水圧装置圧力:20kPa
膜洗浄薬剤:次亜塩素酸ナトリウム水溶液(pH8.0)
洗浄方式:S4の工程での逆洗(10分)
通水条件:S2,S6の工程で下水処理汚泥を中空状セラミック膜に10分間通水した。
【0042】
(2)試験結果
第一の処理水の流量:10.8ml/min
第二の処理水の流量:9.5ml/min
第一の処理水と第二の処理水の流量差:1.3ml/min、通水量回復率:64%
(3)評価結果
下水処理場汚泥(MLSS:2000mg/L)を中空状セラミック膜に通水しても、次亜塩素酸ナトリウム水溶液(pH8.0)で逆洗した場合、不可逆的な膜閉鎖が発生する可能性があることが確認された。そして、実施例1の結果を考慮すると定期的に浸漬洗浄することが好ましいことも示唆される。
【符号の説明】
【0043】
1…試験装置(濾過膜評価装置)
10…中空状セラミック膜(濾過膜)
11,21…被処理水
12…処理水
20…静水圧装置
30…固定部