(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
特許文献1記載の技術を用いて製剤を得る場合、非晶質化のための溶媒留去を造粒機内で行うことによって、トルバプタンの非晶質化と造粒を一つの工程で同時に行い、製造工程を簡略化することが考えられる。
【0009】
しかしながら、ジクロロメタンは、沸点が低い点で溶媒除去の際に有利である反面、化学物質排出把握管理促進法における第一種指定化学物質リストに挙げられているため、環境配慮の観点から、使用後の回収が望まれる。そのため、ジクロロメタンは、流動層造粒装置のように使用後に溶媒回収のできない造粒機には用いることができない。つまり、特許文献1記載の技術のように、非晶質化にジクロロメタンを使用すると、製剤化にあたり製造工程を簡略化できない、という欠点があった。
【0010】
また、製造工程でジクロロメタンを使用した場合、得られた製剤にジクロロメタンが残留して毒性が問題となることが懸念される。
【0011】
そこで、本発明の目的は、製造にジクロロメタンを用いる必要がなく、かつ、溶出性のよいトルバプタン製剤およびその製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明に従ったトルバプタン製剤は、賦形剤によって構成される核部と、非晶質のトルバプタンと安定化剤とを含み核部を被覆する被覆層とを有する造粒物を含有する。
【0013】
本発明に従ったトルバプタン製剤においては、安定化剤は、ヒドロキシプロピルセルロース、ポリビニルピロリドン、ビニルピロリドン・酢酸ビニル共重合物、メチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロースおよびアミノアルキルメタクリレートコポリマーEからなる群より選択される少なくとも1種であることが好ましい。
【0014】
本発明に従ったトルバプタン製剤においては、安定化剤は、2%水溶液における20℃での粘度が3mPa・s未満であるヒドロキシプロピルセルロースであることが好ましい。
【0015】
本発明に従ったトルバプタン製剤は、ジクロロメタンを含まないことが好ましい。
【0016】
本発明に従ったトルバプタン製剤の製造方法は、エタノールまたはエタノール水溶液にトルバプタンと安定化剤とを含有させたトルバプタン含有液を得る工程と、賦形剤によって構成される核部にトルバプタン含有液を噴霧し、エタノールまたはエタノール水溶液を留去させることにより造粒物を得る工程とを含む。
【0017】
本発明に従ったトルバプタン製剤の製造方法においては、造粒物を得る工程は、流動層造粒機にて行われることが好ましい。
【0018】
本発明に従ったトルバプタン製剤の製造方法においては、安定化剤は、ヒドロキシプロピルセルロース、ポリビニルピロリドン、ビニルピロリドン・酢酸ビニル共重合物、メチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロースおよびアミノアルキルメタクリレートコポリマーEからなる群より選択される少なくとも1種であることが好ましい。
【0019】
本発明に従ったトルバプタン製剤の製造方法においては、安定化剤は、2%水溶液における20℃での粘度が3mPa・s未満であるヒドロキシプロピルセルロースであることが好ましい。
【0020】
本発明に従ったトルバプタン製剤の製造方法においては、ジクロロメタンを使用しないことが好ましい。
【発明の効果】
【0021】
以上のように、本発明によれば、製造にジクロロメタンを用いる必要がなく、かつ、溶出性のよいトルバプタン製剤およびその製造方法を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0023】
本発明に従ったトルバプタン製剤は、賦形剤によって構成される核部と、非晶質のトルバプタンと安定化剤とを含み核部を被覆する被覆層とを有する造粒物を含有する。
【0024】
トルバプタンは、次の式(I)で表される構造を有する化合物およびその鏡像異性体であり、IUPAC名では、「N-{4-[(5RS)-7-Chloro-5-hydroxy-2,3,4,5-tetrahydro-1H-benzo[b]azepine-1-carbonyl]-3-methylphenyl}-2-methylbenzamide」であり、バソプレシンV
2受容体阻害作用を有する医薬品の有効成分として用いられている。
【化1】
【0025】
非晶質(アモルファスともいう。)のトルバプタンは、結晶構造を有しない不定形の状態である。非晶質であるか否かは、X線回折によって判断することができる。トルバプタン(結晶性のトルバプタン)は、後述する本発明の製造方法に従い、安定化剤とともにエタノールまたはエタノール水溶液に含有させ、これを核部に噴霧することにより、非晶質化できる。このようにして核部の表面に形成された被覆層は、非晶質のトルバプタンが安定化剤からなるマトリクス中に分散した固体分散体によって構成されている。
【0026】
本発明において、安定化剤とは、結晶性のトルバプタンを非晶質化しうるポリマーを意味する。安定化剤は、結晶性トルバプタンを非晶質化しうるものであれば特に限定されないが、例えば、ヒドロキシプロピルセルロース、ポビドン(ポリビニルピロリドン)、コポリビドン(ビニルピロリドン・酢酸ビニル共重合物)、メチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース(ヒプロメロース)、およびアミノアルキルメタクリレートコポリマーEからなる群より選択される少なくとも1種が好ましく挙げられる。より好ましくは、ヒドロキシプロピルセルロース、ポビドン、コポリビドンが挙げられ、具体的には、ヒドロキシプロピルセルロースとして、日本曹達社のHPCシリーズ、信越化学工業社のL−HPC(登録商標)等、ポビドンとして、第一工業製薬社のアイフタクト(登録商標)シリーズ、BASF社のコリドン(登録商標)シリーズ、ウイルバー・エリスファーマ社(プラスドン(登録商標)シリーズ)等、コポリビドンとして、BASF社のコリドン(登録商標)シリーズ、ウイルバー・エリスファーマ社(プラスドン(登録商標)シリーズ)等が挙げられる。
【0027】
安定化剤としては、粘度が低いものが好ましい。低粘度の安定化剤であれば、より優れた溶出性を実現できる。具体的には、2%水溶液における20℃での粘度が6mPa・s以下であるものが好ましく、より好ましくは3mPa・s未満である。このような低粘度の安定化剤としては、ヒドロキシプロピルセルロースまたはコポリビドンであって、前記粘度範囲のものが好適である。特に好ましくは、2%水溶液における20℃での粘度が3mPa・s未満であるヒドロキシプロピルセルロースである。
【0028】
被覆層中におけるトルバプタンに対する安定化剤の重量比率は、トルバプタン(結晶性トルバプタン)が非晶質化する限りにおいては特に限定されないが、例えば、トルバプタン:安定化剤が1:0.25〜1:2、好ましくは1:0.25〜1:1の範囲で設定される。なお、本発明において、この重量比率は、後述する本発明の製造方法で使用する「トルバプタン含有液」におけるトルバプタンに対する安定化剤の重量比率と同一と見なすことができる。
【0029】
核部を構成する賦形剤としては、例えば、糖類(ブドウ糖、果糖、乳糖(乳糖水和物を含む)、白糖、トレハロース、麦芽糖、オリゴ糖等)、結晶セルロース類(結晶セルロース等)、デンプン類(トウモロコシデンプン、バレイショデンプン、コメデンプン、コムギデンプン等)、糖アルコール類(マンニトール、エリスリトール、キシリトール、ソルビトール、マルチトール等)、リン酸ナトリウム類、リン酸カルシウム類(リン酸水素カルシウム等)、ゼラチンなどが挙げられるが、これらに限定されない。賦形剤は、1種を単独で、又は2種以上を組み合わせて使用できる。賦形剤としては、乳糖、トウモロコシデンプン及び結晶セルロースを組合せて用いることが好ましい。
【0030】
核部への被覆層の被覆は、例えば後述する本発明の製造方法に従い、行うことができる。得られる造粒物においては、被覆層は、核部の表面の少なくとも一部に付着して存在していればよく、必ずしも被覆層が核部の表面全体を覆っていなくてもよい。
【0031】
本発明のトルバプタン製剤では、有効成分となるトルバプタンが造粒物の被覆層に存在することにより、造粒物の核部に存在する場合に比べ、優れた溶出性を発揮する。
なお、核部および被覆層には、本発明の効果を損なわない範囲で、必要に応じて、後述する各種添加剤を含有させることもできる。
【0032】
本発明のトルバプタン製剤は、目的や剤形に応じて、有効成分として非晶質トルバプタンを含む前記造粒物とともに、各種添加剤を含有することができる。トルバプタン製剤が含み得る添加剤の種類や量などは特に限定されない。各種添加剤としては、例えば、通常の賦形剤、結合剤、崩壊剤、滑沢剤、着色剤等が挙げられる。
【0033】
トルバプタン製剤が前記造粒物とは別に含み得る賦形剤としては、特に制限はなく、例えば、核部を構成する賦形剤として前述したものと同様のものが挙げられる。
【0034】
トルバプタン製剤が含み得る結合剤としては、例えば、アクリル酸エチル・メタクリル酸メチルコポリマー、アミノアルキルメタクリレートコポリマーRS、アミノアルキルメタクリレートコポリマーE、メタクリル酸コポリマーL、メタクリル酸コポリマーLD、メタクリル酸コポリマーS、ポビドン、ポリビニルアルコールポリエチレングリコールグラフトコポリマー、ポリビニルアルコール、カルボキシビニルポリマー、アルギン酸ナトリウム、ラウリル硫酸ナトリウム、メチルセルロース、エチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシエチルメチルセルロース、ヒドロキシプロピルスターチ、ヒプロメロース、カルボキシメチルエチルセルロース、カラギーナン、寒天、精製セラック、デキストリン、アルファー化デンプン、部分アルファー化デンプン、プルラン、ペクチン、アラビアゴム等が挙げられるが、これらに限定されない。結合剤は、1種を単独で、又は2種以上を組み合わせて使用できる。
【0035】
なお、結合剤の中には、結合剤としての機能とともに安定化剤としての機能を兼ね備えた化合物がある。前記造粒物の被覆層に含まれる安定化剤として、そのような結合剤、安定化剤の両機能を備えた化合物を選択することは、結合剤を別に用いる必要がなくなる点で、好ましい。勿論、本発明のトルバプタン製剤は、安定化剤および結合剤として、それぞれ別の化合物を採用することもできる。
【0036】
トルバプタン製剤が含み得る崩壊剤としては、例えば、カルメロースカルシウム、カルボキシメチルスターチナトリウム、クロスカルメロースナトリウム、クロスポピドン、セルロース及びその誘導体(例えば、低置換度ヒドロキシプロピルセルロース等)、アルファー化デンプン、部分アルファー化デンプン、デンプングリコール酸ナトリウム等が挙げられるが、これらに限定されない。これらの中では、クロスカルメロースナトリウムが好ましい。崩壊剤は、1種を単独で、又は2種以上を組み合わせて使用できる。
【0037】
トルバプタン製剤が含み得る滑沢剤としては、例えば、カルメロースカルシウム、カルメロースナトリウム、グリセリン、グリセリン脂肪酸エステル、コムギデンプン、ショ糖脂肪酸エステル、ステアリルアルコール、ステアリン酸マグネシウム、セタノール、ゼラチン、トウモロコシデンプン、バレイショデンプン、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレングリコール、ポリソルベート、マクロゴール、モノステアリン酸グリセリン、ラウリル硫酸ナトリウム、タルク、コロイドシリカ等が挙げられるが、これらに限定されない。これらの中では、ステアリン酸マグネシウムが好ましい。滑沢剤は、1種を単独で、又は2種以上を組み合わせて使用できる。
【0038】
トルバプタン製剤が含み得る着色剤としては、例えば、食用青色2号、食用赤色3号、食用黄色4号、食用黄色5号、三二酸化鉄、黄色三二酸化鉄、アルミニウムキレート、酸化チタン、タルクなどが挙げられるが、これらに限定されない。例えば、サムスカ(登録商標)錠と同じ青色を呈する製剤を得るためには、食用青色2号が選択される。着色剤は、1種を単独で、又は2種以上を組み合わせて使用できる。
【0039】
なお、着色剤は、前記造粒物とは別に含有させてもよいが、製剤における色むらを防止するためには、造粒物に含有させることが好ましく、具体的には、造粒物を形成する核部に含有させることが好ましい。核部に着色剤を含有させるにあたっては、核部を構成する賦形剤表面の少なくとも一部を予め着色剤で被覆しておけばよい。賦形剤への着色剤の被覆は、例えば、流動層造粒機にて浮遊状態とした賦形剤に、着色剤の溶液を噴霧することにより実施できる。噴霧する溶液に用いる溶媒としては、一般的には水系溶媒を用いることができ、例えば着色剤として食用青色2号を用いる場合、水及びエタノールの混合溶媒(水:エタノール(重量比)=1:0.5〜8)を用いればよい。その噴霧条件は、溶媒の留去を考慮して適宜設定すればよく、例えば、吸気温度70〜100℃、吸気風量0.5〜1.5m
3/分、噴霧時間5〜40分で設定される。
【0040】
本発明に従ったトルバプタン製剤は、製造工程の簡略化や毒性回避の観点から、ジクロロメタンを含まないことが好ましい。
【0041】
本発明のトルバプタン製剤の剤形は、非晶質のトルバプタンを有する造粒物を含む限りにおいては特に限定されず、例えば、第十六改正日本薬局方の製剤総則に記載された剤形(素錠、フィルムコーティング錠、口腔内崩壊錠、チュアブル錠、散剤、顆粒剤、細粒、カプセル剤、トローチ剤等)のうち、いずれの剤形であってもよいが、服用性がよくかつ製造が容易である観点から、素錠を選択することが一般的である。また、各種液剤に製剤化されてもよい。
【0042】
本発明に従ったトルバプタン製剤は、非晶質化したトルバプタンを含む造粒物と、さらに所望の剤形に応じて各種添加剤とを含むものである。本発明のトルバプタン製剤は、有効成分であるトルバプタンが良好な溶解性を備えた造粒物として含有されているので、良好なバイオアベイラビリティが期待できる。
【0043】
次に、本発明に従ったトルバプタン製剤の製造方法を説明する。
【0044】
本発明に従ったトルバプタン製剤の製造方法は、エタノールまたはエタノール水溶液にトルバプタンと安定化剤とを含有させたトルバプタン含有液を得る工程(調液工程)と、賦形剤によって構成される核部に前記トルバプタン含有液を噴霧し、エタノールまたはエタノール水溶液を留去させることにより造粒物を得る工程(造粒工程)とを含む。
【0045】
調液工程においては、エタノールまたはエタノール水溶液(エタノールと水との混液)を溶媒とする。本発明の製造方法では、有機溶媒として、毒性が懸念される溶媒(例えば、ジクロロメタン、メタノール等)は使用せず、残留しても毒性が問題にならない(あるいは、なりにくい)エタノールを使用するので、得られるトルバプタン製剤における残留溶媒の問題を回避することができる。エタノール単独には溶けにくい安定化剤を用いる場合には、エタノールと水との混液を用いることが好ましい。
エタノール水溶液を用いる場合、エタノール水溶液中に占める水の割合は、50重量%以下であることが好ましく、より好ましくは30重量%以下、更に好ましくは20重量%以下がよい。水の割合が多くなりすぎると、溶媒を除去しにくくなり、乾燥の際に高温を要する等のおそれが生じる。なお、本発明の製造方法においては、エタノールおよび水の他に、残留が許容されうる溶媒を本発明の効果を損なわない範囲内で併用することもできる。
【0046】
調液工程において用いるトルバプタンとしては、造粒工程で非晶質化することを考慮すると、通常、結晶性のトルバプタンが用いられるが、非晶質のトルバプタンを用いてもよい。
【0047】
調液工程において、エタノール/エタノール水溶液にトルバプタンおよび安定化剤を含有させる方法は、特に限定されず、例えば、トルバプタンと安定化剤とをエタノールまたはエタノール水溶液に溶解させてもよいし、あるいはトルバプタンを溶解した第1のエタノールまたはエタノール水溶液と、安定化剤を溶解した第2のエタノールまたはエタノール水溶液とを混合してもよい。調液(溶解、混合)する際の温度は特に限定されず、例えば室温でもよいし、加熱(例えば70℃以下の温度)しながら溶解、混合してもよい。
【0048】
調製されたトルバプタン含有液において、トルバプタンに対する安定化剤の重量比率は、前述の通りである。また、調製されたトルバプタン含有液におけるトルバプタンおよび安定化剤の濃度は、いずれも、後にエタノールまたはエタノール水溶液を留去させることを考慮して、適宜設定すればよく、特に限定されない。
【0049】
なお、トルバプタン含有液には、必要に応じてトルバプタンおよび安定化剤以外の各種添加剤を含有させることもでき、これによって非晶質化が妨げられるものではない。
【0050】
調液工程で得られたトルバプタン含有液は、造粒工程において、核部となる賦形剤に噴霧する。これにより、核部(賦形剤)の表面の少なくとも一部にトルバプタン含有液を付着させる。そして、噴霧により核部表面に付着させたトルバプタン含有液に含まれる溶媒(エタノールまたはエタノール水溶液)を乾燥等により留去させることによって、トルバプタンと安定化剤とを含む被覆層を形成する。この被覆層に含まれるトルバプタンは非晶質化されているので、核部と被覆層とを備えてなる造粒物は、良好な溶出性を発揮し、当該造粒物と各種添加剤を含有するトルバプタン製剤は、良好なバイオアベイラビリティが期待できるものとなる。
【0051】
造粒工程で核部(賦形剤)の表面にトルバプタン含有液を付着させる際には、トルバプタン含有液は、必ずしも核部の表面に均一に付着させる必要はないが、好ましくは、できるだけ均一に付着させる方がよく、そのためには、核部となる賦形剤を浮遊させた状態で噴霧することが好ましい。かかる観点から、造粒工程は、流動層造粒機にて行うことが好ましい。
【0052】
核部表面に付着させたトルバプタン含有液からの溶媒の留去は、トルバプタン含有液の噴霧と同時に行うことが、工程簡略化の観点から好ましい。それには、噴霧を加熱された雰囲気中で行えばよく、例えば流動層造粒機を用いれば、簡便に、加熱された雰囲気中での噴霧を実現できる。この点からも、造粒工程は、流動層造粒機にて行うことが好ましい。
【0053】
造粒工程を流動層造粒機にて行う場合の噴霧の条件は、通常、安定化剤の種類、トルバプタン含有液の溶媒の種類、実施スケール等を考慮して適宜設定される。
【0054】
なお、核部表面に付着させたトルバプタン含有液からの溶媒の留去方法は、上記に限定されるものではなく、例えば、真空乾燥、凍結乾燥、通風乾燥等の公知の乾燥方法を採用することもできる。例えば、通風乾燥の場合の乾燥条件は、好ましくは40〜70℃、より好ましくは50〜60℃で、好ましくは2〜16時間、より好ましくは8〜12時間である。
【0055】
本発明の製造方法では、以上のようにして得られた造粒物に、所望の剤形に応じて、各種添加剤を混合した後、公知の方法で製剤化することにより、トルバプタン製剤を得ることができる。
【0056】
本発明の製造方法によれば、製造にジクロロメタンを用いる必要がなく、溶出性のよい非晶質のトルバプタンを有効成分とするトルバプタン製剤を、簡便に製造することができる。
【0057】
本発明にかかるトルバプタン製剤は、製造にジクロロメタンを使用する必要がないので、工程の簡略化によって安価な提供が期待できるものであり、かつ、毒性の懸念も払拭できるものである。しかも、本発明にかかるトルバプタン製剤は、良好な溶解性を備えた非晶質のトルバプタンを有効成分として含有するものであるので、有効成分の溶出性に優れ、良好なバイオアベイラビリティが期待できる。
【実施例】
【0058】
以下、実施例等により本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0059】
実施例1
賦形剤として、乳糖水和物118.8g、トウモロコシデンプン10g及び結晶セルロース20.0gを流動層造粒機に投入した。次いで、水30g及びエタノール30gからなるエタノール水溶液に食用青色2号0.04gを溶解した溶液を、流動層造粒機内に噴霧することにより賦形剤を青色に着色させた。次いで、結晶性トルバプタン15g及び2%水溶液における20℃での粘度が3〜6mPa・sであるヒドロキシプロピルセルロース9gをエタノール726gに溶解した溶液を流動層造粒機内に噴霧し、噴霧と同時に溶媒(エタノール水溶液)を留去させて、造粒物を得た。
【0060】
この造粒物172.8gに、クロスカルメロースナトリウム5.4g及びステアリン酸マグネシウム1.8gを添加し、混合した後、重量180mgとなるよう打錠し、非晶質のトルバプタンを有効成分とするトルバプタン製剤として錠剤を得た。
【0061】
実施例2
実施例1における「2%水溶液における20℃での粘度が3〜6cPであるヒドロキシプロピルセルロース」の代わりに、2%水溶液における20℃での粘度が2〜2.9mPa・sであるヒドロキシプロピルセルロースを用い、実施例1と同様に処理し、非晶質のトルバプタンを有効成分とするトルバプタン製剤として錠剤を得た。
【0062】
実施例3
実施例1における「2%水溶液における20℃での粘度が3〜6mPa・sであるヒドロキシプロピルセルロース」の代わりに、2%水溶液における20℃での粘度が約2mPa・s以下であるコポリビドンを用い、実施例1と同様に処理し、非晶質のトルバプタンを有効成分とするトルバプタン製剤として錠剤を得た。
【0063】
実施例4
賦形剤として、乳糖水和物112.8g、トウモロコシデンプン10g及び結晶セルロース20.0gを流動層造粒機に投入した。次いで、水30g及びエタノール30gからなるエタノール水溶液に食用青色2号0.04gを溶解した溶液を、流動層造粒機内に噴霧することにより賦形剤を青色に着色させた。次いで、結晶性トルバプタン15g及びポビドン(K30)15gをエタノール726gに溶解した溶液を噴霧し、噴霧と同時に溶媒(エタノール水溶液)を留去させて、造粒物を得た。
【0064】
この造粒物172.8gに、低置換度ヒドロキシプロピルセルロース5.4g及びステアリン酸マグネシウム1.8gを添加し、混合した後、重量180mgとなるよう打錠し、非晶質のトルバプタンを有効成分とするトルバプタン製剤として錠剤を得た。
【0065】
比較例1
乳糖水和物112.8g、トウモロコシデンプン10g及び結晶セルロース20.0g、結晶性トルバプタン15g、コポリビドン15g、低置換度ヒドロキシプロピルセルロース5.4g及びステアリン酸マグネシウム1.8gを混合した後、重量180mgとなるよう打錠し、トルバプタンの結晶を含む錠剤を得た。
【0066】
参考例1
従来のトルバプタンを含有する錠剤として、市販品である「サムスカ(登録商標)錠15mg」(製造販売:大塚製薬株式会社)を参考例1のトルバプタン錠剤として用いた。
【0067】
参考例2
賦形剤として、乳糖水和物123.8g、トウモロコシデンプン10g及び結晶セルロース20.0gを流動層造粒機に投入した。次いで、水30g及びエタノール30gからなるエタノール水溶液に食用青色2号0.04gを溶解した溶液を、流動層造粒機内に噴霧に噴霧することにより賦形剤を青色に着色させた。次いで、2%水溶液における20℃での粘度が3〜6mPa・sであるヒドロキシプロピルセルロース9gをエタノール726gに溶解した溶液を流動層造粒機内に噴霧して造粒物を得た。
【0068】
この造粒物172.8gに、クロスカルメロースナトリウム5.4g及びステアリン酸マグネシウム1.8gを添加し、混合した後、重量180mgとなるよう打錠し、トルバプタンを含まないプラセボ錠を得た。
【0069】
試験例1
結晶性トルバプタン、実施例1〜4および参考例1〜2についてX線回折法(SmartLab(リガク)、光源:CuKα、電圧:40kV、電流40mA、スキャンスピード:10°/分)により、結晶形について評価した。その結果を
図1に示す。
【0070】
実施例1〜4および参考例1では、結晶構造を有する結晶性トルバプタン特有のピークが観察されず、参考例2のプラセボ錠と同様のハローパターンを示した。このことは、実施例1〜4および参考例1で得られた粉末が非晶質であることを意味する。
【0071】
以上の結果から、本発明の製造方法に従って製造されたトルバプタン製剤は、製造にジクロロメタンを用いる必要がなく、かつ、トルバプタンを非晶質状態にできることが示された。
【0072】
試験例2
実施例1〜4と比較例1及び参考例1で得られた錠剤について、日本薬局方溶出試験法第2法(パドル法)に準じ、パドル回転数50rpmにて、水に対するトルバプタンの溶出率(%)を測定した。試験液としては、pH6.8(日本薬局方溶出試験第2液)を用いて行った。結果を
図2に示す。
【0073】
以上の結果から、本発明の製造方法に従って製造されたトルバプタン製剤(実施例1〜4)は、製造にジクロロメタンを用いる必要がなく、かつ、少なくとも従来のトルバプタン製剤(参考例1)と同程度であり、結晶性のトルバプタンを含むトルバプタン製剤(比較例1)に比べると格段に優れた、良好な溶出性を示すことがわかった。特に、低粘度の安定化剤を使用した実施例2,3のトルバプタン製剤は、より優れた溶出性を発揮するものであった。
【0074】
本発明を要約すれば、以下の通りである。
【0075】
(1)本発明に従ったトルバプタン製剤は、賦形剤によって構成される核部と、非晶質のトルバプタンと安定化剤とを含み核部を被覆する被覆層とを有する造粒物を含有する。
【0076】
(2)本発明に従ったトルバプタン製剤においては、安定化剤は、ヒドロキシプロピルセルロース、ポリビニルピロリドン、ビニルピロリドン・酢酸ビニル共重合物、メチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロースおよびアミノアルキルメタクリレートコポリマーEからなる群より選択される少なくとも1種であることが好ましい。
【0077】
(3)本発明に従ったトルバプタン製剤においては、安定化剤は、2%水溶液における20℃での粘度が3mPa・s未満であるヒドロキシプロピルセルロースであることが好ましい。
【0078】
(4)本発明に従ったトルバプタン製剤は、ジクロロメタンを含まないことが好ましい。
【0079】
(5)本発明に従ったトルバプタン製剤の製造方法は、エタノールまたはエタノール水溶液にトルバプタンと安定化剤とを含有させたトルバプタン含有液を得る工程と、賦形剤によって構成される核部にトルバプタン含有液を噴霧し、エタノールまたはエタノール水溶液を留去させることにより造粒物を得る工程とを含む。
【0080】
(6)本発明に従ったトルバプタン製剤の製造方法においては、造粒物を得る工程は、流動層造粒機にて行われることが好ましい。
【0081】
(7)本発明に従ったトルバプタン製剤の製造方法においては、安定化剤は、ヒドロキシプロピルセルロース、ポリビニルピロリドン、ビニルピロリドン・酢酸ビニル共重合物、メチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロースおよびアミノアルキルメタクリレートコポリマーEからなる群より選択される少なくとも1種であることが好ましい。
【0082】
(8)本発明に従ったトルバプタン製剤の製造方法においては、安定化剤は、2%水溶液における20℃での粘度が3mPa・s未満であるヒドロキシプロピルセルロースであることが好ましい。
【0083】
(9)本発明に従ったトルバプタン製剤の製造方法においては、ジクロロメタンを使用しないことが好ましい。
【0084】
以上のように、本発明によれば、製造にジクロロメタンを用いる必要がなく、かつ、溶出性のよいトルバプタン製剤およびその製造方法を提供することができる。
【0085】
以上に開示された実施の形態と実施例はすべての点で例示であって制限的なものではないと考慮されるべきである。本発明の範囲は、以上の実施の形態と実施例ではなく、請求の範囲によって示され、請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての修正や変形を含むものである。