(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
駆動源からの動力を断接可能なクラッチと、前記クラッチの出力側の回転を変速して出力可能な主変速部および前記主変速部の変速段を細分化する副変速部を有する機械式変速装置を備えた車両の変速制御装置であって、
前記副変速部で最低変速段が選択されていると仮定した場合の前記クラッチの出力側の回転数が入力される入力部と、
前記クラッチが切断された後、前記回転数が、前記車両を再加速させるために変速が必要となる回転数として予め定められた所定回転数と略一致した場合に、前記主変速部において現在の変速段からのギヤ抜きを行うとともに前記クラッチを接続する制御部と、を備える、
変速制御装置。
前記制御部は、前記ギヤ抜きを行うとともに前記クラッチを接続した後に新たな目標変速段が決定された場合、前記クラッチを再び切断して、前記クラッチの出力側の回転数を前記新たな目標変速段における同期回転数である目標回転数まで低下させる、
請求項1に記載の変速制御装置。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の実施形態について、図面を参照して詳細に説明する。なお、以下に説明する実施形態は一例であり、本発明はこの実施形態により限定されるものではない。
【0011】
まず、
図1を参照して、車両1の全体構成について説明する。
図1には、車両1の前後方向が描かれている。以下の説明では、車両前側を単に「前」、車両後側を単に「後」と呼ぶことがある。
【0012】
車両1は、駆動源10と、クラッチ20と、変速装置30と、制御装置40とを備えている。そして、変速装置30の出力側に、プロペラシャフト51、デファレンシャル52およびドライブシャフト53を介して、駆動輪54が動力伝達可能に連結されている。
【0013】
駆動源10は、例えばディーゼルエンジンである。なお、駆動源10は、ガソリンエンジン、電動機等でも構わない。なお、本実施形態では、駆動源10がディーゼルエンジンであるとして説明を行う。以下の説明において、駆動源10をエンジン10と呼ぶ。
【0014】
エンジン10は、アクセル開度センサ101によって検出されるアクセルペダル(不図示)のアクセル開度に基づいて、制御装置40によって制御される。具体的には、エンジン10の出力回転数(以下、「エンジン回転数NE」という。)および出力トルクが、制御装置40によって燃料噴射量が制御されることにより、調整される。エンジン10の出力軸11には、エンジン回転数NEを検出するエンジン回転数センサ102が設けられている。なお、エンジン回転数NEは、本開示における「クラッチの入力側の回転数」に相当する。
【0015】
クラッチ20は、乾式の単板クラッチである。クラッチ20は、制御装置40によって制御されるクラッチアクチュエータ(不図示)により自動断接される。また、クラッチ20は、クラッチペダル(不図示)による手動断接を行うこともできる。クラッチ20の入力側は、エンジン10の出力軸11と連結されている。クラッチ20の出力側は、変速装置30のインプットシャフト31と連結されている。クラッチ20の構造は一般的な乾式の単板クラッチの構造と同様であるため、詳細な説明を省略する。なお、クラッチ20は、乾式の単板クラッチには限定されない。クラッチ20は、湿式のクラッチでもよい。クラッチ20は、複板または多板のクラッチでもよい。
【0016】
変速装置30は、常時噛み合い式の機械式変速機である。変速装置30は、入力側から順に、スプリッタ変速部310、メイン変速部320およびレンジ変速部330を備えている。変速装置30は、インプットシャフト31、カウンタシャフト32、メインシャフト33およびアウトプットシャフト34を備えている。インプットシャフト31、メインシャフト33およびアウトプットシャフト34は同軸上に配置されている。カウンタシャフト32は、それらの下方にそれらと平行に配置されている。
【0017】
まず、スプリッタ変速部310およびメイン変速部320について説明する。インプットシャフト31の前端は、上述のとおり、クラッチ20の出力側と連結されている。インプットシャフト31の後端には、入力ハブ31aが、インプットシャフト31と一体回転するように設けられている。入力ハブ31aの前側には、インプットギヤIGが、インプットシャフト31と相対回転可能に設けられている。インプットシャフト31には、インプットシャフト回転数Ninを検出するインプットシャフト回転数センサ103が設けられている。なお、インプットシャフト回転数Ninは、本開示における「クラッチの出力側の回転数」に相当する。
【0018】
カウンタシャフト32には、入力側(前側)から順に、第1カウンタギヤCG1、第2カウンタギヤCG2、第3カウンタギヤCG3、第4カウンタギヤCG4、第5カウンタギヤCG5および第6カウンタギヤCG6が、それぞれカウンタシャフト32と一体回転するように設けられている。第1カウンタギヤCG1は、インプットギヤIGと噛合している。
【0019】
カウンタシャフト32の前端には、カウンタシャフト32の回転を制動するカウンタシャフトブレーキ32aが設けられている。カウンタシャフトブレーキ32aは、制御装置40によって制御される。なお、カウンタシャフトブレーキ32aが設けられる位置は、カウンタシャフト32の前端には限定されない。例えば、カウンタシャフトブレーキ32aは、カウンタシャフト32の後端または中間部に設けられてもよい。
【0020】
本実施形態において、カウンタシャフトブレーキ32aは、湿式多板型の摩擦ブレーキである。なお、カウンタシャフトブレーキ32aは、湿式多板型の摩擦ブレーキには限定されない。カウンタシャフトブレーキ32aは、乾式でもよいし、単板でもよい。また、カウンタシャフトブレーキ32aは、ドラム式ブレーキでもよい。さらに、カウンタシャフト32の制動するために、カウンタシャフトブレーキ32a以外の装置を用いることもできる。例えば、カウンタシャフト32の回転数を制御するために、電動機を用いてもよい。
【0021】
メインシャフト33には、入力側(前側)から順に、第1メインギヤMG1、第2メインギヤMG2、第3メインギヤMG3、第4メインギヤMG4および第5メインギヤMG5が、それぞれメインシャフト33と相対回転可能に設けられている。
【0022】
第1メインギヤMG1は、第2カウンタギヤCG2と噛合している。第2メインギヤMG2は、第3カウンタギヤCG3と噛合している。第3メインギヤMG3は、第4カウンタギヤCG4と噛合している。第4メインギヤMG4は、第5カウンタギヤCG5と噛合している。第5メインギヤMG5は、リバースアイドラギヤRIGを介して、第6カウンタギヤCG6と噛合している。また、メインシャフト33の後端には、サンギヤSGがメインシャフト33と一体回転するように設けられている。
【0023】
変速装置30には、インプットシャフト31とインプットギヤIGまたは第1メインギヤMG1とを、選択的に一体回転可能に連結する第1連結機構61が設けられている。第1連結機構61は、上述の入力ハブ31aと、インプットギヤIGと一体に設けられた第1クラッチギヤ31bと、第1メインギヤMG1と一体に設けられた第2クラッチギヤ33aと、第1スリーブ62とを備えている。
【0024】
第1スリーブ62は、入力ハブ31aの外周側に、入力ハブ31aと一体回転可能かつ軸方向に相対移動可能に設けられている。第1スリーブ62が
図1に示す中央位置の場合、インプットシャフト31とインプットギヤIGおよび第1メインギヤMG1とは相対回転可能である。
【0025】
第1スリーブ62を前位置とすることで、インプットギヤIGは、インプットシャフト31と一体に回転する。第1スリーブ62を後位置とすることで、第1メインギヤMG1は、インプットシャフト31と一体に回転する。本実施形態では、第1連結機構61として、一般的なシンクロナイザ方式の同期機構を使用している。シンクロナイザ方式の同期機構は公知であるため、詳細な説明は省略する。
【0026】
変速装置30には、メインシャフト33と第1メインギヤMG1または第2メインギヤMG2とを、選択的に一体回転可能に連結する第2連結機構63が設けられている。第2連結機構63は、メインシャフト33と一体回転するように設けられた第1メインハブ33bと、第1メインギヤMG1と一体に設けられた第3クラッチギヤ33cと、第2メインギヤMG2と一体に設けられた第4クラッチギヤ33dと、第2スリーブ64とを備えている。第1メインハブ33bは、第1メインギヤMG1および第2メインギヤMG2の間に設けられている。
【0027】
第2スリーブ64は、第1メインハブ33bの外周側に、第1メインハブ33bと一体回転可能かつ軸方向に相対移動可能に設けられている。第2スリーブ64が
図1に示す中央位置の場合、メインシャフト33と第1メインギヤMG1および第2メインギヤMG2とは相対回転可能である。
【0028】
第2スリーブ64を前位置とすることで、第1メインギヤMG1は、メインシャフト33と一体に回転する。第2スリーブ64を後位置とすることで、第2メインギヤMG2は、メインシャフト33と一体に回転する。なお、本実施形態では、第2連結機構63には、同期機構は設けられていない。
【0029】
変速装置30には、メインシャフト33と第3メインギヤMG3または第4メインギヤMG4とを、選択的に一体回転可能に連結する第3連結機構65が設けられている。第3連結機構65は、メインシャフト33と一体回転するように設けられた第2メインハブ33eと、第3メインギヤMG3と一体に設けられた第5クラッチギヤ33fと、第4メインギヤMG4と一体に設けられた第6クラッチギヤ33gと、第3スリーブ66とを備えている。第2メインハブ33eは、第3メインギヤMG3および第4メインギヤMG4の間に設けられている。
【0030】
第3スリーブ66は、第2メインハブ33eの外周側に、第2メインハブ33eと一体回転可能かつ軸方向に相対移動可能に設けられている。第3スリーブ66が
図1に示す中央位置の場合、メインシャフト33と第3メインギヤMG3および第4メインギヤMG4とは相対回転可能である。
【0031】
第3スリーブ66を前位置とすることで、第3メインギヤMG3は、メインシャフト33と一体に回転する。第3スリーブ66を後位置とすることで、第4メインギヤMG4は、メインシャフト33と一体に回転する。なお、本実施形態では、第3連結機構65には、同期機構は設けられていない。
【0032】
変速装置30には、メインシャフト33と第5メインギヤMG5とを選択的に一体回転可能に連結する第4連結機構67が設けられている。第4連結機構67は、メインシャフト33と一体回転するように設けられた第3メインハブ33hと、第5メインギヤMG5と一体に設けられた第7クラッチギヤ33jと、第4スリーブ68とを備えている。第3メインハブ33hは、第5メインギヤMG5およびサンギヤSGの間に設けられている。
【0033】
第4スリーブ68は、第3メインハブ33hの外周側に、第3メインハブ33hと一体回転可能かつ軸方向に相対移動可能に設けられている。第4スリーブ68が
図1に示す後位置の場合、メインシャフト33と第5メインギヤMG5とは相対回転可能である。第4スリーブ68を前位置とすることで、第5メインギヤMG5は、メインシャフト33と一体に回転する。なお、本実施形態では、第4連結機構67には、同期機構は設けられていない。
【0034】
図1に示すように、第1メインギヤMG1および第2カウンタギヤCG2から前の部分がスプリッタ変速部310である。また、第1メインギヤMG1および第2カウンタギヤCG2から第5メインギヤMG5、リバースアイドラギヤRIGおよび第6カウンタギヤCG6までの部分がメイン変速部320である。
【0035】
次に、レンジ変速部330について説明する。本実施形態では、レンジ変速部330として、遊星歯車機構70を採用している。レンジ変速部330では、ハイおよびローのいずれかのポジションにのみ切り替え可能である。
【0036】
遊星歯車機構70は、上述のサンギヤSGと、サンギヤSGの外周に等間隔に設けられ、それぞれサンギヤSGと噛合する複数のプラネタリギヤPGと、複数のプラネタリギヤPGを取り囲み、それぞれのプラネタリギヤPGと噛合する内歯を有するリングギヤRGとを備える。
【0037】
それぞれのプラネタリギヤPGは、共通のキャリヤ71によって軸支されている。キャリヤ71は上述のアウトプットシャフト34と連結されている。具体的には、アウトプットシャフト34の前端に、キャリヤ71が一体回転するように設けられている。アウトプットシャフト34の後端には、上述のプロペラシャフト51が連結されている。また、アウトプットシャフト34には、アウトプットシャフト回転数Noutを検出するアウトプットシャフト回転数センサ104が設けられている。
【0038】
リングギヤRGは、後側に延在する円筒軸72を一体的に備えている。円筒軸72は、アウトプットシャフト34と同軸かつアウトプットシャフト34の外周側に、アウトプットシャフト34と相対回転可能に設けられている。
【0039】
変速装置30には、円筒軸72をハウジング3に対して固定するか、または、円筒軸72とアウトプットシャフト34とを一体回転可能に連結するかを選択する第5連結機構73が設けられている。第5連結機構73は、円筒軸72の後端に一体に設けられた第8クラッチギヤ34aと、ハウジング3と一体に設けられた固定ギヤ34bと、アウトプットシャフト34と一体回転するように設けられた出力ハブ34cと、第5スリーブ74とを備えている。
【0040】
第5スリーブ74は、第8クラッチギヤ34aの外周側に、第8クラッチギヤ34aと一体回転可能かつ軸方向に相対移動可能に設けられている。第5スリーブ74が
図1に示す前位置の場合、リングギヤRGはハウジング3に対して固定される。この場合、レンジ変速部330は「ロー」状態となり、メインシャフト33の回転は、減速されてアウトプットシャフト34へ伝達される。
【0041】
第5スリーブ74を後位置とすることで、リングギヤRGはアウトプットシャフト34と一体回転する。この場合、レンジ変速部330は「ハイ」状態となり、メインシャフト33の回転は、そのままアウトプットシャフト34へ伝達される。本実施形態では、第5連結機構73として、一般的なシンクロナイザ方式の同期機構を使用している。シンクロナイザ方式の同期機構は公知であるため、詳細な説明は省略する。
【0042】
制御装置40には、アクセル開度センサ101からの信号、エンジン回転数センサ102からの信号、インプットシャフト回転数センサ103からの信号、アウトプットシャフト回転数センサ104からの信号等が入力される。すなわち、制御装置40は、本開示における「入力部」を備える。
【0043】
また、制御装置40は、エンジン10、クラッチ20および変速装置30(第1スリーブ62、第2スリーブ64、第3スリーブ66、第4スリーブ68、第5スリーブ74およびカウンタシャフトブレーキ32a)の制御を行う。すなわち、制御装置40は、本開示における「制御部」を備える。
【0044】
制御装置40は、エンジン10を制御するエンジン制御部41と、クラッチ20を制御するクラッチ制御部42と、第1スリーブ62ないし第5スリーブ74を制御する変速制御部43と、カウンタシャフトブレーキ32aを制御するカウンタシャフトブレーキ制御部44とを機能要素として備える。なお、本実施形態では、各制御部を制御装置40に含まれるものとして説明するが、各制御部はそれぞれ独立したハードウェアとすることもできる。
【0045】
次に、
図2を参照して、第1スリーブ62ないし第5スリーブ74の動作状態と、変速段との関係について説明する。
【0046】
1速は、第1スリーブ62を後位置、第2スリーブ64を中央位置、第3スリーブ66を後位置、第4スリーブ68を後位置、第5スリーブ74を前位置とした状態である。2速は、1速状態における第1スリーブ62の位置を前位置とした状態である。3速は、第1スリーブ62を後位置、第2スリーブ64を中央位置、第3スリーブ66を前位置、第4スリーブ68を後位置、第5スリーブ74を前位置とした状態である。4速は、3速状態における第1スリーブ62の位置を前位置とした状態である。
【0047】
5速は、第1スリーブ62を後位置、第2スリーブ64を後位置、第3スリーブ66を中央位置、第4スリーブ68を後位置、第5スリーブ74を前位置とした状態である。6速は、5速状態における第1スリーブ62の位置を前位置とした状態である。7速は、第1スリーブ62を後位置、第2スリーブ64を前位置、第3スリーブ66を中央位置、第4スリーブ68を後位置、第5スリーブ74を前位置とした状態である。8速は、7速状態における第1スリーブ62の位置を前位置とした状態である。
【0048】
9速ないし16速は、1速状態ないし8速状態における第5スリーブ74の位置を後位置とした状態である。後進1速は、第1スリーブ62を後位置、第2スリーブ64を中央位置、第3スリーブ66を中央位置、第4スリーブ68を前位置、第5スリーブ74を前位置とした状態である。後進2速は、後進1速状態における第1スリーブ62の位置を前位置とした状態である。
【0049】
次に、
図3Aないし
図3Cのフローチャートを参照して、アクセルオフにおける変速制御処理について説明する。
図3Aないし
図3Cに示す処理は、例えば、車両走行中に所定の制御周期で実行される。
【0050】
ステップS1で、制御装置40は、アクセルオフか否かを判定する。この判断は、例えば、アクセル開度センサ101によって検出されたアクセル開度に基づいて行うことができる。
【0051】
アクセルオフでない場合(ステップS1:NO)、処理を終了する。一方、アクセルオフである場合(ステップS1:YES)、処理はステップS2へ進む。
【0052】
ステップS2で、制御装置40は、エンジン回転数センサ102によって検出されたエンジン回転数NEが閾値NE1以下となったか否かを判定する。なお、この閾値NE1は、例えば、現在のギヤ段でエンジン回転数NEが閾値NE1を下回ると、トルク不足により車両にガクガクと振動が発生するような値であり、例えば、エンジン10のアイドル回転数NE
idleよりも数百rpm程度高い回転数が、予め設定されている。
【0053】
エンジン回転数NEがNE1以下でない場合(ステップS2:NO)、ステップS2の処理を繰り返す。一方、エンジン回転数NEがNE1以下となった場合(ステップS2:YES)、処理はステップS3へ進む。
【0054】
ステップS3で、制御装置40は、クラッチ20を切断する。
【0055】
続くステップS4で、制御装置40は、スプリッタLOW側におけるインプットシャフト回転数Ninlが、エンジン10のアイドル回転数NE
idleと略一致したか否かを判定する。
【0056】
ここで、「スプリッタLOW側におけるインプットシャフト回転数Ninl」について簡単に説明する。「スプリッタLOW側におけるインプットシャフト回転数Ninl」は、その時点でスプリッタ変速部310がLOW側(第1スリーブ62が後位置にあり、第1メインギヤMG1がインプットシャフト31と一体に回転する状態)であると仮定した場合に、その時点でのアウトプットシャフト回転数Noutに対応するインプットシャフト31の回転数である。
【0057】
スプリッタ変速部310におけるスプリッタLOW側の変速比をRSLとすると、「スプリッタLOW側におけるインプットシャフト回転数Ninl」は、Ninl=Nout×Rm×Rr×RSL(ただし、Rmはメイン変速部320における変速比であり、Rrはレンジ変速部330における変速比)と表すことができる。また、「スプリッタLOW側におけるインプットシャフト回転数Ninl」は、スプリッタLOW側の変速比RSLおよびスプリッタHIGH側の変速比RSHを用いて、インプットシャフト回転数Ninに基づいて算出することもできる。
【0058】
スプリッタLOW側におけるインプットシャフト回転数Ninlが、エンジン10のアイドル回転数NE
idleと略一致したか否かの判断は、例えば、インプットシャフト回転数センサ103によって検出されたインプットシャフト回転数Ninから算出されたスプリッタLOW側におけるインプットシャフト回転数Ninlと、エンジン10のアイドル回転数NE
idleとの差に基づいて行うことができる。
【0059】
また、スプリッタLOW側におけるインプットシャフト回転数Ninlが、エンジン10のアイドル回転数NE
idleと略一致したか否かの判断は、例えば、スプリッタLOW側におけるインプットシャフト回転数Ninlと、エンジン10のアイドル回転数NE
idleとの比に基づいて行うことができる。
【0060】
なお、ステップS4での判断基準を、「スプリッタLOW側におけるインプットシャフト回転数Ninlと、エンジン10のアイドル回転数NE
idleとが略一致したか否か」としたのは、以下の理由による。本実施形態では、基本的に、インプットシャフト回転数Ninが、現在のギヤ段で走行し続けるのが困難であり、再加速するためにメイン変速部320でのシフトダウン動作が必要となるような回転数まで低下したことを、ステップS4における判断基準としている。
【0061】
ここで、アイドル回転数NE
idleは、アクセルペダルが踏み込まれていない状態でのエンジン10の回転数である。アイドル回転数NE
idleは、補機の作動状態、DPD再生の有無等により変化する。本実施形態では、実験等に基づき、このアイドル回転数NE
idleを、「インプットシャフト回転数Ninが、現在のギヤ段で走行し続けるのが困難であり、再加速するためにメイン変速部320でのシフトダウン動作が必要となるような回転数」であるとして、ステップS4における判断基準としている。
【0062】
なお、「インプットシャフト回転数Ninが、現在のギヤ段で走行し続けるのが困難であり、再加速するためにメイン変速部320でのシフトダウン動作が必要となるような回転数」は、エンジン10のアイドル回転数NE
idleには限定されない。上述のとおり、「インプットシャフト回転数Ninが、現在のギヤ段で走行し続けるのが困難であり、再加速するためにメイン変速部320でのシフトダウン動作が必要となるような回転数」は、実験等に基づいて決定されるものであり、様々な条件により可変なものである。例えば、車両ごとに異なってもよく、変速段ごとに異なってもよい。
【0063】
スプリッタLOW側におけるインプットシャフト回転数Ninlと、エンジン10のアイドル回転数NE
idleとが略一致していない場合(ステップS4:NO)、ステップS4の処理を繰り返す。一方、スプリッタLOW側におけるインプットシャフト回転数Ninlと、エンジン10のアイドル回転数NE
idleとが略一致した場合(ステップS4:YES)、処理はステップS5へ進む。
【0064】
ステップS5で、制御装置40は、メイン変速部320をニュートラル状態とする。具体的には、制御装置40は、第2スリーブ64および第3スリーブ66のうち、中央位置にないスリーブを、中央位置に移動させる。
【0065】
続くステップS6で、制御装置40は、クラッチ20を接続する。具体的には、制御装置40は、クラッチ20においてスリップが発生しないように、クラッチアクチュエータに対して接続信号を出力する。クラッチ20が接続されることにより、インプットシャフト回転数Ninと、エンジン回転数NEとが一致する。
【0066】
続くステップS7で、制御装置40は、変速を実行するか否かを判定する。この判断には、アクセル開度、車速、シフト操作等、変速判断に用いられる一般的なパラメータを用いることができる。
【0067】
変速を実行しない場合(ステップS7:NO)、ステップS7の処理を繰り返す。一方、変速を実行する場合(ステップS7:YES)、処理はステップS8へ進む。
【0068】
ステップS8で、制御装置40は、変速にスプリッタ変速部310またはレンジ変速部330での切り替えが伴うか否かを判定する。
【0069】
変速にスプリッタ変速部310またはレンジ変速部330での切り替えが伴わない場合(ステップS8:NO)、処理はステップS9へ進む。一方、変速にスプリッタ変速部310またはレンジ変速部330での切り替えが伴う場合(ステップS8:YES)、処理はステップS8−1に進む。ステップS8−1以降の処理内容については後述する。
【0070】
ステップS9で、制御装置40は、インプットシャフト回転数Ninが、目標インプットシャフト回転数Nint(目標変速段における同期回転数)と同期しているか否かを判定する。この判断は、例えば、目標インプットシャフト回転数Nintと、インプットシャフト回転数センサ103によって検出されたインプットシャフト回転数Ninとの差に基づいて行うことができる。また、この同期判断は、例えば、目標変速段におけるクラッチギヤの回転数とスリーブの回転数とに基づいて行うことができる。
【0071】
また、インプットシャフト回転数Ninが目標インプットシャフト回転数Nintと同期しているか否かの判断は、例えば、目標インプットシャフト回転数Nintと、インプットシャフト回転数Ninとの比に基づいて行うことができる。
【0072】
なお、この時点では、インプットシャフト回転数Ninは、エンジン回転数NEと等しい。そのため、インプットシャフト回転数Ninが、目標インプットシャフト回転数Nintと同期しているか否かの判定には、インプットシャフト回転数Ninに代えて、エンジン回転数NEを用いてもよい。
【0073】
インプットシャフト回転数Ninが、目標インプットシャフト回転数Nintと同期している場合(ステップS9:YES)、処理はステップS10へ進む。そして、ステップS10で、制御装置40は、クラッチ20を切断する。そして、処理は、ステップS15へ進む。
【0074】
一方、インプットシャフト回転数Ninが、目標インプットシャフト回転数Nintと同期していない場合(ステップS9:NO)、処理はステップS11へ進む。
【0075】
ステップS11で、制御装置40は、目標インプットシャフト回転数Nintが、インプットシャフト回転数Ninよりも小さいか否かを判定する。
【0076】
目標インプットシャフト回転数Nintが、インプットシャフト回転数Ninより小さくない(すなわち、インプットシャフト回転数Ninより大きい)場合(ステップS11:NO)、処理を終了する。なお、目標インプットシャフト回転数Nintがインプットシャフト回転数Ninより大きい場合には、エンジン回転数NEを上昇させて、インプットシャフト回転数Ninの目標インプットシャフト回転数Nintへの同期が図られた後に、クラッチ20が切断され、目標変速段へのギヤ入れが行われる。
【0077】
一方、目標インプットシャフト回転数Nintが、インプットシャフト回転数Ninより小さい場合(ステップS11:YES)、処理はステップS12へ進む。
【0078】
ステップS12で、制御装置40は、クラッチ20を切断する。
【0079】
続くステップS13で、制御装置40は、カウンタシャフトブレーキ32aを作動させる。ここで、ステップS13において行われるカウンタシャフトブレーキ32aの制御内容について説明する。
【0080】
本実施形態において、カウンタシャフトブレーキ32aは、上述のとおり、湿式多板型の摩擦ブレーキである。具体的には、カウンタシャフトブレーキ32aは、複数の固定側ブレーキ板および複数の回転側ブレーキ板が交互に配置されており、エア圧作動式のピストンによりこれらの各ブレーキ板同士を圧接させることでカウンタシャフト32を制動する形式のものである。
【0081】
カウンタシャフトブレーキ32aによる制動力は、ピストンの作動エア室に供給される作動エアの圧力(制御圧力)に応じて変化する。本実施形態において、制御圧力は、電磁バルブによって制御される。一例において、電磁バルブは、オン・オフソレノイドバルブである。なお、電磁バルブは、デューティソレノイドバルブ、リニアソレノイドバルブ等の公知の電磁バルブを用いてもよい。
【0082】
本実施形態において、電磁バルブの1サイクルにおけるオン時間とオフ時間とは等しい。また、電磁バルブの1サイクルあたりの時間(周波数)は、変更可能である。以下、1サイクルあたりの時間を長くすることを、「制御値を大きくする」といい、1サイクルあたりの時間を短くすることを、「制御値を小さくする」という。
【0083】
なお、1サイクルにおけるオン時間とオフ時間との比率を変更することができる場合には、1サイクルにおけるオン時間を長くすることが「制御値を大きくする」ことになる。また、デューティソレノイドバルブの場合には、デューティ比を変更することが「制御値を変更する」ことになる。また、リニアソレノイドバルブの場合には、駆動電流を変更することが、「制御値を変更する」ことになる。
【0084】
電磁バルブの制御値は、クラッチギヤとスリーブとの回転数差の大小に応じて切り替えられる。具体的には、クラッチギヤとスリーブとの回転数差が大きい場合、電磁バルブの制御値は第1の制御値とされる。また、クラッチギヤとスリーブとの回転数差が小さい場合、電磁バルブの制御値は第1の制御値よりも小さな第2の制御値とされる。これにより、クラッチギヤとスリーブとの回転数差が大きい場合の制動力は、クラッチギヤとスリーブとの回転数差が小さい場合の制動力よりも大きなものとなる。
【0085】
ところで、カウンタシャフトブレーキ32aは、現在のインプットシャフト回転数Ninが、目標変速段における同期回転数である目標インプットシャフト回転数Nintよりも大きい場合に、インプットシャフト回転数Ninを目標インプットシャフト回転数Nintまで低下させるために用いられる。
【0086】
カウンタシャフトブレーキ32aによりカウンタシャフト32に制動力を付与する必要が生じる状況として、上述のステップS13の他に、パワーオンアップシフトを行う場合が考えられる。本実施形態では、ステップS13においてカウンタシャフトブレーキ32aを制御するための制御値を、パワーオンアップシフトを行う場合の制御値と異ならせている。
【0087】
これは以下の理由による。一般に、パワーオンアップシフトを行う場合、インプットシャフト回転数Ninは比較的高い回転数で推移する。それに対して、上述のステップS13の制御を行う状況では、インプットシャフト回転数Ninはエンジン10のアイドル回転数NE
idle付近の低い回転数である。
【0088】
カウンタシャフトブレーキ32aの制動力は、電磁バルブを同じ制御値で制御した場合でも、インプットシャフト回転数Ninによって異なる。また、カウンタシャフトブレーキ32aの制動力は、同じインプットシャフト回転数Ninであっても、供給されるエア圧、制動対象のイナーシャ、抵抗等により異なる。
【0089】
そこで、インプットシャフト回転数Ninが低い状況で、インプットシャフト回転数Ninを目標インプットシャフト回転数Nintまで適切に低下させるため、本実施形態では、ステップS13においてカウンタシャフトブレーキ32aを制御するための制御値を、パワーオンアップシフトを行う場合の制御値と異ならせている。
【0090】
ここで、一例として、電磁バルブを同じ制御値で制御した際に、インプットシャフト回転数Ninが高いときより、インプットシャフト回転数Ninが低いときのほうが、制動力が高くなる場合について説明する。
【0091】
このような場合、インプットシャフト回転数Ninが低い状況で、インプットシャフト回転数Ninを目標インプットシャフト回転数Nintまで適切に低下させるために、ステップS13においてカウンタシャフトブレーキ32aを制御するための制御値を、パワーオンアップシフトを行う場合の制御値よりも小さくする。
【0092】
具体的には、ステップS13でカウンタシャフトブレーキ32aを制御する際に、クラッチギヤとスリーブとの回転数差が大きい場合に出力される第1の制御値は、パワーオンアップシフトを行う際に、クラッチギヤとスリーブとの回転数差が大きい場合に出力される制御値よりも小さい。また、第2の制御値についても同様であり、第2の制御値は、パワーオンアップシフトを行う際に、クラッチギヤとスリーブとの回転数差が小さい場合に出力される制御値よりも小さい。
【0093】
このようにすることで、インプットシャフト回転数Ninが低い状況でも、インプットシャフト回転数Ninを適切に目標インプットシャフト回転数Nintと同期させることができる。
【0094】
ステップS13に続くステップS14で、制御装置40は、インプットシャフト回転数Ninが、目標インプットシャフト回転数Nintと同期したか否かを判定する。この同期判断は、例えば、目標変速段におけるクラッチギヤの回転数とスリーブの回転数とに基づいて行うこともできる。以下の説明における同期判断についても同様である。
【0095】
インプットシャフト回転数Ninが、目標インプットシャフト回転数Nintと同期していない場合(ステップS14:NO)、処理はステップS13へ戻る。
【0096】
一方、インプットシャフト回転数Ninが、目標インプットシャフト回転数Nintと同期した場合(ステップS14:YES)、処理はステップS15へ進む。
【0097】
ステップS15で、制御装置40は、第2スリーブ64または第3スリーブ66を制御してギヤ入れを行う。
【0098】
続くステップS16で、制御装置40は、クラッチ20を接続する。これにより、変速が完了する。
【0099】
次に、
図3Cを参照して、ステップS8−1以降の処理について説明する。ステップS8−1で、制御装置40は、クラッチ20を切断する。続くステップS8−2で、制御装置40は、必要に応じてスプリッタ変速部310における第1スリーブ62およびレンジ変速部330における第5スリーブ74を目標変速段における動作位置へ移動させる。さらに続くステップS8−3で、制御装置40は、インプットシャフト回転数Ninが、目標インプットシャフト回転数Nint(目標変速段における同期回転数)と同期しているか否かを判定する。
【0100】
インプットシャフト回転数Ninが、目標インプットシャフト回転数Nintと同期している場合(ステップS8−3:YES)、処理はステップS8−7へ進む。一方、インプットシャフト回転数Ninが、目標インプットシャフト回転数Nintと同期していない場合(ステップS8−3:NO)、処理はステップS8−4へ進む。
【0101】
ステップS8−4で、制御装置40は、目標インプットシャフト回転数Nintが、インプットシャフト回転数Ninよりも小さいか否かを判定する。
【0102】
目標インプットシャフト回転数Nintが、インプットシャフト回転数Ninより小さくない(すなわち、インプットシャフト回転数Ninより大きい)場合(ステップS8−4:NO)、処理を終了する。なお、目標インプットシャフト回転数Nintがインプットシャフト回転数Ninより大きい場合には、クラッチ20が接続され、エンジン回転数NEを上昇させて、インプットシャフト回転数Ninの目標インプットシャフト回転数Nintへの同期が図られた後に、クラッチ20が切断され、目標変速段へのギヤ入れが行われる。
【0103】
一方、目標インプットシャフト回転数Nintが、インプットシャフト回転数Ninより小さい場合(ステップS8−4:YES)、処理はステップS8−5へ進む。ステップS8−5で、制御装置40は、カウンタシャフトブレーキ32aを作動させる。
【0104】
続くステップS8−6で、制御装置40は、インプットシャフト回転数Ninが、目標インプットシャフト回転数Nintと同期したか否かを判定する。
【0105】
インプットシャフト回転数Ninが、目標インプットシャフト回転数Nintと同期していない場合(ステップS8−6:NO)、処理はステップS8−5へ戻る。一方、インプットシャフト回転数Ninが、目標インプットシャフト回転数Nintと同期した場合(ステップS8−6:YES)、処理はステップS8−7へ進む。
【0106】
ステップS8−7で、制御装置40は、第2スリーブ64または第3スリーブ66を制御してギヤ入れを行う。続くステップS8−8で、制御装置40は、クラッチ20を接続する。これにより、変速が完了する。
【0107】
次に、
図4Aのタイムチャートを参照して、
図3Aないし
図3Cに示す処理を行い、6速から3速への変速が実行された場合の各パラメータの推移の一例について説明する。なお、以下の説明では、車両1は、時刻t
0において、アクセルペダルが踏み込まれた状態で、6速で定速走行しているとする。6速では、スプリッタ変速部310はHIGH側である。また、この状態から、スプリッタ変速部310をLOW側にすることで、5速が形成される。
【0108】
時刻t
1で、アクセルペダルが開放されると、車速が徐々に低下するのに伴い、インプットシャフト回転数Ninも徐々に低下する。このとき、クラッチ20は接続されているため、エンジン回転数NEはインプットシャフト回転数Ninと等しい。
【0109】
時刻t
2で、エンジン回転数NEが第1の閾値NE1となると、クラッチ20が切断される。これにより、本例では、インプットシャフト31と切り離されたエンジン10のエンジン回転数NEは、急減する。そして、時刻t
3で、アイドル回転数NE
idleとなる。一方、インプットシャフト回転数Ninは、時刻t
2以前と同様に、車速の低下に伴って徐々に低下する。
【0110】
時刻t
4で、インプットシャフト回転数Ninが、エンジン10のアイドル回転数NE
idleと一致する。さらに、時刻t
4−1で、5速で走行していると仮定した場合のインプットシャフト回転数Ninlが、エンジン10のアイドル回転数NE
idleと一致すると、第2スリーブ64が後位置から中央位置に移動されるとともに、クラッチ20が接続される。これ以降、インプットシャフト回転数Ninは、エンジン10のアイドル回転数NE
idleと一致した状態を維持するようになる。
【0111】
時刻t
5で、目標変速段が3速段に設定されたとする。このとき、インプットシャフト回転数Ninは、3速段における同期回転数(目標インプットシャフト回転数Nint)より高い。そのため、クラッチ20が再び切断されるとともに、スプリッタ変速部310における切り替えが行われ、その後カウンタシャフトブレーキ32aが作動される。
【0112】
カウンタシャフトブレーキ32aの作動により、インプットシャフト回転数Ninは、速やかに低下する。そして、時刻t
6で、インプットシャフト回転数Ninが目標インプットシャフト回転数Nintと一致すると、第3スリーブ66が中央位置から前位置へ移動され、3速のギヤ入れが完了する。さらにこの後、クラッチ20が接とされる(不図示)。
【0113】
次に、
図4Bのタイムチャートを参照して、5速で走行していると仮定した場合のインプットシャフト回転数Ninlがエンジン10のアイドル回転数NE
idleと一致する前に、6速から5速への変速が実行される場合について説明する。時刻t
10から時刻t
14までは、
図4Aにおける時刻t
0から時刻t
4までと同様であるため、説明を省略する。
【0114】
図4Bに示す例では、時刻t
14以降において、5速で走行していると仮定した場合のインプットシャフト回転数Ninlが、エンジン10のアイドル回転数NE
idleと一致する前に、例えばアクセル踏み込みに伴って5速への変速判断が行われている。なお、このような変速判断は、例えば、
図3Aないし
図3Cに示すフローチャートとは別の制御処理において行われる。そして、5速で走行していると仮定した場合のインプットシャフト回転数Ninlがエンジン10のアイドル回転数NE
idleと一致する前に6速から5速への変速判断が行われた場合に、
図3Aないし
図3Cに示す制御フローを抜けるように構成されている。
【0115】
本実施形態では、5速への変速判断が行われた時点で、第2スリーブ64は後位置とされ、クラッチ20は切断されている。この状態で、第1スリーブ62が後位置から前位置へ移動される。第1連結機構61は、上述のとおり、同期機構を有しているため、インプットシャフト31の回転数と第1スリーブ62の回転数とが一致していなくとも、ギヤ鳴りを伴わずに早期に5速へ変速することができる。さらにその後、クラッチ20が接続される。
【0116】
図4Cに、参考例として、インプットシャフト回転数Ninとエンジン回転数NEとが略一致した場合にメイン変速部320におけるギヤ抜きおよびクラッチ20の接続を行うものを示す。時刻t
20から時刻t
23までは、
図4Bにおける時刻t
10から時刻t
13までと同様であるため、説明を省略する。
【0117】
図4Cに示す例では、時刻t
24において、インプットシャフト回転数Ninが、エンジン10のアイドル回転数NE
idleと一致することに伴い、第2スリーブ64が後位置から中央位置へ移動されるとともに、クラッチ20の接続が行われる。
【0118】
そして、その直後の時刻t
25において、5速への変速判断が行われたとする。この場合、クラッチ20が再び切断されるとともに、スプリッタ変速部310において第1スリーブ62が前位置から後位置へ移動される。さらに、その後、メイン変速部320において同期を図ってから再び第2スリーブ64が中央位置から後位置へ移動される。
【0119】
このように、参考例では、スプリッタ変速部310における変速のみを行う場合にも、メイン変速部320におけるギヤ抜き、クラッチ20の接続、クラッチ20の切断およびメイン変速部320におけるギヤ入れが行われることになる。そのため、変速完了までに長時間を要する。
【0120】
一方、本実施形態によれば、上述のとおり、スプリッタLOW側におけるインプットシャフト回転数Ninlがエンジン回転数NEと略一致した場合にメイン変速部320におけるギヤ抜きおよびクラッチ20の接続が行われる。そのため、スプリッタ変速部310における変速のみを行う場合には、メイン変速部320におけるスリーブの移動およびクラッチ20の断接が行われず、変速を速やかに完了させることができる。
【0121】
以上説明したように、本実施形態に係る変速制御装置によれば、クラッチ20が切断された後、スプリッタLOW側におけるインプットシャフト回転数Ninlが、エンジン10のアイドル回転数NE
idleと略一致した場合に、メイン変速部320をニュートラルにするとともにクラッチ20を接続する。これにより、変速スリーブが係合しようとするギヤの回転速度と、変速スリーブの回転速度との同期を適切に行うことができる。そのため、変速時に、ギヤ鳴りの発生を防止することが可能となる。
【0122】
さらに、本実施形態に係る変速制御装置によれば、ダウンシフトがスプリッタ変速部310における変速のみで行われる可能性がある場合には、メイン変速部320におけるスリーブの移動およびクラッチ20の断接が行われない。これにより、メイン変速部320におけるスリーブの移動およびクラッチ20の断接が不要に行われることを防止することができる。
【0123】
また、本実施形態に係る変速制御装置によれば、メイン変速部320をニュートラルにするとともにクラッチ20を接続した後に新たな目標変速段が決定された場合、クラッチ20を再び切断する。そして、カウンタシャフトブレーキ32aを用いてインプットシャフト回転数Ninを目標インプットシャフト回転数Nint(目標変速段における同期回転数)まで低下させる。これにより、インプットシャフト回転数Ninを速やかに目標インプットシャフト回転数Nintまで低下させることができる。そのため、変速時間を短縮することが可能となる。
【0124】
また、本実施形態に係る変速制御装置によれば、カウンタシャフトブレーキ32aの制御量を、パワーオンアップシフト時の制御量と異なる値とした。そのため、インプットシャフト回転数Ninを適切に目標インプットシャフト回転数Nintと同期させることができる。
【0125】
なお、上述の実施形態では、スプリッタ変速部およびレンジ変速部を有するものを例に説明を行ったが、これに限定されない。具体的には、例えば、レンジ変速部は省略されてもよい。
【0126】
また、上述の実施形態では、カウンタシャフトブレーキを備えるものを例に説明を行ったが、これに限定されない。具体的には、例えば、カウンタシャフトブレーキは省略されてもよい。
【0127】
また、上述の実施形態では、メイン変速部がノンシンクロ構造である(メイン変速部にシンクロナイザリング等の同期機構を有しない)ものを例に説明を行ったが、これに限定されない。具体的には、例えば、メイン変速部にシンクロナイザリング等の同期機構を有していてもよい。
【0128】
また、上述の実施形態では、スプリッタ変速部が高低2段のものを例に説明を行ったが、これに限定されない。具体的には、例えば、スプリッタ変速部は3段以上の多段変速部でもよい。
【0129】
(変形例)
次に、変形例について、
図5A、
図5B、
図5C、
図5Dおよび
図6を参照して説明する。まず、
図5Aないし
図5Dのフローチャートを参照して、アクセルオフにおける変速制御処理について説明する。
図5Aないし
図5Dに示す処理は、例えば、車両走行中に所定の制御周期で実行される。
【0130】
ステップS21からステップS26までは、上述の実施形態におけるステップS1からステップS6と同様であるため、説明を省略する。
【0131】
ステップS26−2で、制御装置40は、ブレーキオフか否かを判定する。この判定は、例えば、ブレーキスイッチ(不図示)の検出結果に基づいて行うことができる。
【0132】
ブレーキオフでない場合(ステップS26−2:NO)、処理はステップS27へ進む。ステップS27で、制御装置40は、変速を実行するか否かを判定する。変速を実行しない場合(ステップS27:NO)、処理はステップS26−2へ戻る。一方、変速を実行する場合(ステップS27:YES)、処理はステップS28へ進む。ステップS28以降は、上述の実施形態におけるステップS8以降と同様であるため、説明を省略する。
【0133】
ステップS26−2において、ブレーキオフである場合(ステップS26−2:YES)、処理はステップS26−3へ進む。ステップS26−3で、制御装置40は、変速を実行するか否かを判定する。この判断には、ステップS7と同様に、アクセル開度、車速、シフト操作等、変速判断に用いられる一般的なパラメータを用いることができる。
【0134】
変速を実行する場合(ステップS26−3:YES)、処理はステップS28へ進む。ステップS28以降は、上述の実施形態におけるステップS8以降と同様であるため、説明を省略する。
【0135】
一方、変速を実行しない場合(ステップS26−3:NO)、処理はステップS26−4へ進む。ステップS26−4で、制御装置40は、発進ギヤ段におけるインプットシャフト回転数Ninsがアイドル回転数NE
idle以下となったか否かを判定する。
【0136】
ここで、「発進ギヤ段におけるインプットシャフト回転数Nins」について簡単に説明する。「発進ギヤ段におけるインプットシャフト回転数Nins」は、その時点で変速段が仮に車両発進時の発進ギヤ段であるとした場合に、その時点でのアウトプットシャフト回転数Noutに対応するインプットシャフト31の回転数である。発進ギヤ段における変速比をRsとすると、Nins=Nout×Rsである。
【0137】
発進ギヤ段におけるインプットシャフト回転数Ninsがアイドル回転数NE
idle以下となっていない場合(ステップS26−4:NO)、処理はステップS26−2に戻る。一方、発進ギヤ段におけるインプットシャフト回転数Ninsがアイドル回転数NE
idle以下となった場合(ステップS26−4:YES)、処理はステップS26−5へ進む。
【0138】
ステップS26−5で、制御装置40は、クラッチ20を切断し、必要に応じてスプリッタ変速部310における第1スリーブ62およびレンジ変速部330における第5スリーブ74を発進ギヤ段における動作位置へ移動させる。
【0139】
続くステップS26−6で、制御装置40は、発進ギヤ段へのギヤ入れを行う。
【0140】
次に、
図6のタイムチャートを参照して、
図5Aないし
図5Dに示す処理を行った場合の各パラメータの推移について説明する。なお、以下の説明では、車両1は、時刻t
40において、アクセルペダルが踏み込まれた状態で、6速で定速走行しているとする。また、発進ギヤ段は2速であるとする。
【0141】
時刻t
40から時刻t
44−1までは、
図4における時刻t
0から時刻t
4−1までと同様であるため、説明を省略する。
【0142】
時刻t
44−1以降、ブレーキオフの状態で、変速判断がなされないまま車速がさらに低下していくと、時刻t
46で、発進ギヤ段におけるインプットシャフト回転数Ninsがアイドル回転数NE
idleと略一致する。そして、クラッチ20が切断され、第3スリーブ66が中央位置から後位置へ移動され、発進ギヤ段である2速のギヤ入れが完了する。
【0143】
なお、上述の変形例では、発進ギヤ段におけるインプットシャフト回転数Ninsがアイドル回転数NE
idleと略一致した場合に、クラッチ20を切断して発進ギヤ段へのギヤ入れを行ったが、これに限定されない。
【0144】
例えば、発進ギヤ段におけるインプットシャフト回転数Ninsがアイドル回転数NE
idleよりも所定回転数高い状態で、エンジン回転数NEを上昇させた後にクラッチ20を切断して回転同期を図りつつ発進ギヤ段へのギヤ入れを行ってもよい。
【0145】
また、例えば、発進ギヤ段におけるインプットシャフト回転数Ninsがアイドル回転数NE
idleよりも所定回転数低くなってから、クラッチ20を切断した後にカウンタシャフトブレーキ32aを作動させて回転同期を図りつつ発進ギヤ段へのギヤ入れを行ってもよい。
【0146】
以上説明したように、変形例によれば、上述の実施形態と同様の効果が得られる。さらに、変形例によれば、ブレーキオフの状態でアウトプットシャフト回転数Noutが十分に低下した場合に発進ギヤ段へのギヤ入れを行うため、次回の発進における発進動作を速やかに行うことができる。また、停車する前の微速走行状態からの再加速動作も速やかに行うことができる。