特許第6838550号(P6838550)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6838550
(24)【登録日】2021年2月16日
(45)【発行日】2021年3月3日
(54)【発明の名称】ジカルボン酸化合物の精製方法
(51)【国際特許分類】
   C07C 67/52 20060101AFI20210222BHJP
   C07C 69/75 20060101ALI20210222BHJP
   C08F 20/28 20060101ALN20210222BHJP
   C08F 2/00 20060101ALN20210222BHJP
【FI】
   C07C67/52
   C07C69/75 Z
   !C08F20/28
   !C08F2/00 Z
【請求項の数】8
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2017-508169(P2017-508169)
(86)(22)【出願日】2016年3月7日
(86)【国際出願番号】JP2016056917
(87)【国際公開番号】WO2016152470
(87)【国際公開日】20160929
【審査請求日】2019年1月7日
(31)【優先権主張番号】特願2015-57157(P2015-57157)
(32)【優先日】2015年3月20日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000004466
【氏名又は名称】三菱瓦斯化学株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100092783
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 浩
(74)【代理人】
【識別番号】100110663
【弁理士】
【氏名又は名称】杉山 共永
(74)【代理人】
【識別番号】100156476
【弁理士】
【氏名又は名称】潮 太朗
(74)【代理人】
【識別番号】100104282
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 康仁
(72)【発明者】
【氏名】田中 博康
(72)【発明者】
【氏名】堀越 裕
(72)【発明者】
【氏名】古川 喜久夫
(72)【発明者】
【氏名】水阪 哲彦
(72)【発明者】
【氏名】棚木 宏幸
【審査官】 前田 憲彦
(56)【参考文献】
【文献】 特開2008−214604(JP,A)
【文献】 特開2013−056856(JP,A)
【文献】 特開2002−040652(JP,A)
【文献】 国際公開第2014/148548(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07C 67/00
C07C 69/00
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
式(1)で表されるジカルボン酸の精製方法であって、式(1)で表されるジカルボン酸及び式(2)で表されるジカルボン酸を含有する混合物に対し、エーテル溶媒及び/又はケトン溶媒を含む溶媒を用いて前記混合物を溶解させ、前記溶媒を留去して濃縮させた後に芳香族炭化水素を含む貧溶媒を使用して晶析を行う晶析工程を有する、式(1)で表されるジカルボン酸の精製方法。
【化1】

(式中、Rは、水素原子又はメチル基を表し、Rは炭素数2〜4の直鎖又は分岐状のアルキレン基を表す。)
【化2】

(式中、R、Rは一般式(1)と同義である。)
【請求項2】
前記エーテル溶媒及び/又はケトン溶媒が、テトラヒドロフラン、1,4−ジオキサン、ジイソプロピルエーテル、メチルエチルケトン及びメチルイソブチルケトンからなる群より選ばれるいずれか1種以上である、請求項1に記載の精製方法。
【請求項3】
前記溶媒の使用量が、前記混合物に対して0.5〜50質量倍である、請求項1又は2に記載の精製方法。
【請求項4】
前記貧溶媒の使用量が使用前の溶液全体の質量の0.5〜5倍である、請求項1〜3のいずれか一項に記載の精製方法。
【請求項5】
前記貧溶媒がベンゼン又はトルエンを含む、請求項1〜4のいずれか一項に記載の精製方法。
【請求項6】
LCRI純度99.0%以上の式(1)で表されるジカルボン酸が得られる、請求項1〜5のいずれか一項に記載の精製方法。
【請求項7】
式(1)で表されるジカルボン酸の製造方法であって、式(1)で表されるジカルボン酸及び式(2)で表されるジカルボン酸を含有する混合物に対し、エーテル溶媒及び/又はケトン溶媒を含む溶媒を用いて前記混合物を溶解させ、前記溶媒を留去して濃縮させた後に芳香族炭化水素を含む貧溶媒を使用して晶析を行う晶析工程を有する、式(1)で表されるジカルボン酸の製造方法。
【化3】

(式中、Rは、水素原子又はメチル基を表し、Rは炭素数2〜4の直鎖又は分岐状のアルキレン基を表す。)
【化4】

(式中、R、Rは一般式(1)と同義である。)
【請求項8】
前記貧溶媒がベンゼン又はトルエンを含む、請求項7に記載のジカルボン酸の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、KrFおよびArF、F2エキシマレーザー用レジストや、X線、電子ビーム、EUV(極端紫外光)用化学増幅型レジスト原料に適したメタクリル基を有する高純度なジカルボン酸化合物の精製方法ならびに製造方法、およびそれらの方法により得られるジカルボン酸に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体デバイスは、記憶デバイスであるフラッシュメモリーの大容量化や、携帯電話やスマートフォンの高解像度カメラ向けのイメージセンサー等の市場の広がりと共に更なる微細化への強い要望がある。その各種電子デバイス製造において、フォトリソグラフィ法が広く利用されている。フォトリソグラフィにおいては、光源を短波長化させることにより、微細化が推進されてきた。光源としてKrFエキシマレーザー以降の短波長光源を使用する際には、一般的に化学増幅型レジストが使用され、溶液として使用される化学増幅型レジストの組成は、一般に、主剤の機能性樹脂および光酸発生剤、さらには数種の添加剤を含む。その中で主剤である機能性樹脂は、エッチング耐性、基板密着性、使用する光源に対する透明性、現像速度などの特性の各特性をバランス良く備えていることが重要であり、レジスト性能を決定付ける。
【0003】
KrFエキシマレーザー用フォトレジストで使用される機能性樹脂は、一般的にビニル化合物やアクリレートなどを繰り返し単位とする高分子である。例えば、KrFエキシマレーザーリソグラフィ用レジストでは、ヒドロキシスチレン系樹脂が提案され(特許文献1)、ArFエキシマレーザーリソグラフィ用レジストでは、アダマンチル(メタ)アクリレートを基本骨格とするアクリル系樹脂が提案されており(特許文献2〜6)、機能性樹脂の基本骨格は定まりつつある。しかし、単一の繰り返し単位を有する機能性樹脂が使用されることはない。理由として、単一の繰り返し単位ではエッチング耐性などの特性をすべて満たすことはできないからである。実際には、各特性を向上させるための官能基を有した繰り返し単位を複数、すなわち2種類以上の繰り返し単位の共重合体を機能性樹脂として、さらにその機能性樹脂に光酸発生剤などを添加して溶剤に溶解させて感光性樹脂組成物として使用している。
【0004】
近年のリソグラフィプロセスはさらに微細化を進めており、ArFエキシマレーザーリソグラフィは、液浸露光、さらにはダブルパターニング露光へと進歩し続けている。また、次世代リソグラフィー技術として注目されている極端紫外光(EUV)を利用したリソグラフィーや、電子線での直接描画、ネガティブトーン現像についても様々な開発が続けられている。このような状況の中で、さらなる微細化に対応した新たな機能性モノマーの開発、及びレジストモノマー及びその原料化合物の高純度化が望まれている。
【0005】
式(1)で表される(メタ)アクリル基を有するジカルボン酸化合物は、シクロヘキサン環上に2つのCOOH基を有している。このCOOH基を3級炭素などの酸解離性官能基で置換した化合物は酸解離性モノマーとして使用することができ、酸解離性置換基を2つ有するため高感度なレジストモノマーとしても使用することができる有用な化合物である(特許文献7)。式(1)で表されるジカルボン酸化合物の合成方法としては、シクロヘキサン−1,2,4−トリカルボン酸−1,2−無水物と2−ヒドロキシエチルメタクリレートを反応させる方法が知られているが、この方法では、目的とするジカルボン酸化合物に加え、式(2)で表されるジカルボン酸化合物の位置異性体を相当量含む混合物として得られる(特許文献7,8)。
また、式(1)で表されるジカルボン酸と式(2)で表されるジカルボン酸は、極性が近いため、分離精製が非常に困難である。
【0006】
【化1】

(ここでRは、水素原子、または、メチル基を表し、Rは炭素数2〜4の直鎖、または分岐状のアルキレン基を表す。)
【0007】
【化2】

(式中、R、Rは一般式(1)と同義である。)
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2006−243474号公報
【特許文献2】特開平4−39665号公報
【特許文献3】特開平10−319595号公報
【特許文献4】特開2003−167346号公報
【特許文献5】特開2004−323704号公報
【特許文献6】特開2006−16379号公報
【特許文献7】特願2014−16877号公報
【特許文献8】特開2005−154304号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明の目的は、このような状況に鑑み、フォトリソグラフィ分野において用いられ、KrFエキシマレーザー、ArFエキシマレーザー、F2エキシマレーザーX線、電子ビーム、EUVに感応する化学増幅型レジストとして、式(1)で表されるジカルボン酸化合物を特定の溶媒中で晶析させることにより、極めて高純度に精製する方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、上記の課題を解決する目的で鋭意検討した結果、式(1)で表されるジカルボン酸が、特定の溶媒で極めて高い結晶性を有し、それを晶析して精製することで極めて高純度の式(1)で表されるジカルボン酸を得ることができることを見出し、本発明に到達した。
すなわち本発明は以下に示すものである。
【0011】
1. 式(1)で表されるジカルボン酸の精製方法であって、式(1)で表されるジカルボン酸及び式(2)で表されるジカルボン酸を含有する混合物に対し、エーテル溶媒及び/又はケトン溶媒を含む溶媒を用いて晶析を行う晶析工程を有する、式(1)で表されるジカルボン酸の精製方法。
【化3】

(ここでRは、水素原子、または、メチル基を表し、Rは炭素数2〜4の直鎖、または分岐状のアルキレン基を表す。)
【化4】

(式中、R、Rは一般式(1)と同義である。)
【0012】
2. 前記エーテル溶媒及び/又はケトン溶媒が、テトラヒドロフラン、1,4−ジオキサン、ジイソプロピルエーテル、メチルエチルケトン及びメチルイソブチルケトンからなる群より選ばれるいずれか1種以上である、1.に記載の精製方法。
【0013】
3. 前記溶媒の使用量が、前記混合物に対して0.5〜50質量倍である、1.又は2.に記載の精製方法。
【0014】
4. 前記晶析工程において、更に貧溶媒を使用する、1.〜3.のいずれかの一に記載の精製方法。
【0015】
5. 前記貧溶媒の使用量が使用前の溶液全体の質量の0.5〜5倍である、1.〜4.のいずれかの一に記載の精製方法。
【0016】
6. 前記貧溶媒がベンゼン又はトルエンを含む、4.又は5.に記載の精製方法。
【0017】
7. 1.〜6.のいずれかの一に記載の方法により得られる、LCRI純度99.0%以上の式(1)で表されるジカルボン酸。
【0018】
8. 上記式(1)で表されるジカルボン酸の製造方法であって、式(1)で表されるジカルボン酸及び上記式(2)で表されるジカルボン酸を含有する混合物に対し、エーテル溶媒及び/又はケトン溶媒を含む溶媒を用いて晶析工程を有する、式(1)で表されるジカルボン酸の製造方法。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、KrFエキシマレーザー、ArFエキシマレーザー、F2エキシマレーザーX線、電子ビーム、EUV等に感応する化学増幅型レジストとして有用な式(1)で表されるジカルボン酸化合物を高純度に精製する方法等が提供される。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明を詳細に説明する。
【0021】
本発明は、式(1)で表されるジカルボン酸の精製方法であって、式(1)で表されるジカルボン酸及び式(2)で表されるジカルボン酸を含有する混合物に対し、エーテル溶媒及び/又はケトン溶媒を含む溶媒を加えて式(1)のジカルボン酸の結晶のみの選択的な晶析を行う工程を有する、式(1)で表されるジカルボン酸の精製方法を含む。
【0022】
本発明で使用される混合物の取得方法は、発明の効果を奏する限りにおいて特に限定されないが、例えば、式(3)で表されるシクロヘキサン−1,2,4−トリカルボン酸−1,2−無水物と式(4)で表されるヒドロキシル基を有する(メタ)アクリル化合物を反応させて得ることができる。そして上記反応により得られた混合物は、上記式(1)で表されるジカルボン酸、及び少なくともその位置異性体(以下、単に異性体と呼ぶこともある。)である上記式(2)で表されるジカルボン酸を含有する。
【化5】

【化6】

(式中、R、Rは一般式(1)と同義である。)
式(3)及び式(4)で表される化合物の種類によって、混合物に含まれる式(1)及び式(2)で表されるジカルボン酸の構造は決まる。式(1)で表されるジカルボン酸としては具体例として下記に示される。但しこれらに限定されるものではない。
【化7】
【0023】
また、式(2)で表されるジカルボン酸は具体例として下記に示される。但しこれらに限定されるものではない。
【化8】
【0024】
混合物における式(1)で表されるジカルボン酸の含有量が30質量%以上の混合物が、生産効率の観点から好ましく、50質量%以上のものがより好ましく、特に、70質量%以上のものが好ましい。
混合物における式(2)で表されるジカルボン酸の含有量は、1〜50質量%、好ましくは1〜30質量%、より好ましくは1〜20質量%であることが、生産効率の観点から好ましい。
【0025】
式(4)で表される化合物の具体例としては、メタクリル酸2−ヒドロキシエチル、アクリル酸2−ヒドロキシエチル及びメタクリル酸2−ヒドロキシプロピル等が挙げられ、式(3)及び式(4)で表される化合物は市販品を容易に入手することができる。
【0026】
式(3)及び式(4)で表される化合物の反応条件としては、特に制限されないが、具体例としては下記に例示できる。
上記反応は、式(4)で表される化合物のヒドロキシル基1モル対して、式(3)で表される化合物の酸無水物1モルが反応して、環状酸無水物基が開環してカルボキシル基1モルが生成する開環ハーフエステル化反応である。この反応は、公知の方法で行うことができ、例えば触媒として有機塩基化合物を添加し、反応を阻害しない任意の有機溶媒中で行うことができる。
【0027】
式(4)で表される化合物の添加量は、式(3)で表される酸無水物に対して、0.5〜5.0当量、好ましくは0.6〜3.0当量、さらに好ましくは0.8〜1.5当量である。この範囲であれば、十分に反応が進行し、経済的に好ましい。
【0028】
触媒として用いることができる有機塩基化合物としては、例えば、トリメチルアミン、トリエチルアミン、トリプロピルアミン、ジイソプロピルエチルアミン等の第3級アミン類;アニリン、N−メチルアニリン、N、N−ジメチルアニリン、ベンジルアミン等の芳香環を有する脂肪族アミン類;1−メチルピロールピリジン、2−メチルピリジン、3−メチルピリジン、4―メチルピリジン、2,6−ジメチルピリジン、N,N−ジメチル−5−アミノピリジン等のピリジン類;テトラメチルアンモニウムヒドロキシド、テトラエチルアンモニウムヒドロキシド等の第4級アンモニウム塩等が挙げられる。前記の触媒は1種単独で、または2種以上を混合して使用できる。触媒を添加する量は、式(3)で表される酸無水物において既に含まれている置換基であるカルボキシル基と、式(4)で表される化合物との反応により環状酸無水物基から新たに生成するカルボキシル基を合わせたモル数の合計に対して、0.0001〜20当量であり、好ましくは0.001〜10当量、より好ましくは0.005〜3当量である。
【0029】
式(3)及び式(4)で表される化合物の反応で用いることができる溶媒としては、ジメチルスルホキシド、ジエチルエーテル、ジイソプロピルエーテル、メチル−t−ブチルエーテル、テトラヒドロフラン、ジオキサン、ジメチルアセトアミド、ジメチルホルムアミド、アセトニトリル、ベンゼン、トルエン、キシレン、メチシレン、プソイドクメン、クロロホルム、クロロベンゼン、ジクロロエタン、ジクロロメタン、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトンが挙げられるが、無溶媒でも反応可能である。
【0030】
式(3)及び式(4)で表される化合物、有機塩基化合物を添加する順番に特に制限はないが、式(4)で表される化合物と有機塩基化合物とを溶媒に溶解させた溶液に、式(3)で表される化合物を添加する順番が、副生成物の生成が少ない点で好ましい。式(3)で表される酸無水物の添加方法は、溶媒に溶解させて滴下しても良く、無溶媒で添加しても良い。
【0031】
上記の具体的な反応温度および反応時間は、基質濃度や用いる触媒に依存するが、一般的に、反応温度は−20℃から100℃、好ましくは0℃〜50℃であり、反応時間は1時間から20時間、好ましくは1時間〜10時間であり、圧力については、常圧、減圧又は加圧下で反応を行なうことができる。また、反応は、回分式、半回分式、連続式などの公知の方法を適宜選択して行なうことができる。
【0032】
反応終了後の溶液に水を加えて分液操作を行い、溶媒を留去することによって式(1)および式(2)のジカルボン酸の混合物が得られる。このとき使用する水には、副生成物や有機塩基化合物等を除去するために、酸または塩基を添加することができる。なお混合物は、本発明の効果を奏する限りにおいて反応で使用した有機溶媒を含んでいてもよい。また以下、混合物質量とは溶媒を除いた成分の質量を表す。
【0033】
次に、晶析工程について詳述する。
晶析工程においては、式(1)で表されるジカルボン酸及び式(2)で表されるジカルボン酸を含有する混合物に、前記混合物の溶解性が高い有機溶媒を加えて混合物を溶解させ、均一な溶液にした後に、溶媒を留去して濃縮することにより、式(1)で表されるジカルボン酸の結晶のみを選択的に析出させる。また、上述の溶液を濃縮した後、濃縮溶液に式(1)で表されるジカルボン酸の溶解性の低い有機溶媒を加えて式(1)のジカルボン酸の結晶を得ることも可能であり、この方法は、取得できる結晶量の点から好ましい。なお、式(1)で表されるジカルボン酸の結晶を晶析させるときの温度範囲は、−20〜60℃、好ましくは−10〜40℃、さらに好ましくは0〜15℃である。
また、上記結晶を晶析させるために、ジカルボン酸の混合溶液を徐冷することは必要ではないが、0.5℃/分〜50℃/分、好ましくは1℃/分〜30℃/分程度で徐々に冷却させることが好ましい。
【0034】
前記ジカルボン酸の混合物を溶解させる有機溶媒としては、当該混合物の溶解性が高いもの、例えば、エーテル溶媒又はケトン溶媒を少なくとも含む溶媒が使用可能である。
エーテル溶媒としては、エーテル結合を有する有機溶媒であれば特に限定されないが、ジエチルエーテル、ジイソプロピルエーテル、メチル−t−ブチルエーテル、テトラヒドロフラン、1,4−ジオキサンが例示される。
ケトン溶媒としては、カルボニル基を有する有機溶媒であれば特に限定されないが、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトンが例示される。その中でもメチルエチルケトン、およびメチルイソブチルケトンが、混合物の晶析により得られる式(1)で表されるジカルボン酸の純度向上の点から好ましい。
前記晶析工程に用いる溶媒としては、エーテル溶媒、ケトン溶媒を単独で用いても良いし、複数の種類を混合して使用しても良い。
【0035】
前記溶媒の使用量は、ジカルボン酸の混合物質量の0.5〜50質量倍、好ましくは0.8〜20質量倍、さらに好ましくは1〜10質量倍である。この範囲であれば、混合物を完全に溶解することができ、晶析時に目的物の純度が向上するため好ましい。
【0036】
次に、溶媒を留去して混合物を濃縮する。溶媒を留去して混合物を濃縮する際は、溶液質量が溶解前の混合物質量の1〜10質量倍、さらに好ましくは1〜5質量倍になるまで溶媒を留去する。この範囲であれば、晶析時の目的物の収率が向上するため好ましい。
【0037】
濃縮後の溶液に添加することができる一般式(1)で表されるジカルボン酸化合物の溶解性が低い溶媒(単に貧溶媒と呼ぶこともある)の具体例としてヘキサン、ヘプタン、オクタン、ベンゼン、トルエンなどの炭化水素溶媒が挙げられる。これらの中で、ベンゼン、またはトルエンなどの芳香族炭化水素溶媒が異性体等の副生成物の除去性が高い点で好ましく、特にトルエンが、安価で取り扱いが容易なためより好ましい。また、ベンゼンとトルエンなどの複数の芳香族炭化水素を含む溶媒も好適に使用可能であり、芳香族炭化水素溶媒は、芳香族炭化水素以外の成分も含んでいても良い。貧溶媒を使用する場合の使用量は、溶媒留去後の溶液全体の質量の0.5〜5倍、好ましくは0.5〜3質量倍である。この範囲であれば、溶媒へのジカルボン酸化合物の溶解量が少なく、高い収率で式(1)で表されるジカルボン酸化合物を取得することができる。
【0038】
析出したジカルボン酸化合物の濾別方法は特に制限は無く、重力を利用した自然濾過、加圧濾過、減圧濾過、遠心分離等の公知の方法を選択できる。濾過に用いるフィルターの形状も、プロセスや設備など所望に応じ選択することができる。
【0039】
上記の濾別により分離されたジカルボン酸化合物は乾燥させて紛体として取り扱うことができる。乾燥方法は、特に制限は無く、風乾、加熱乾燥、減圧乾燥など方法を選択できるが、乾燥時間が短縮できる減圧乾燥が好ましく選択される。また、乾燥温度には、特に制限はなく、常圧〜減圧下であれば0〜120℃が好ましく、30〜80℃がより好ましいが、乾燥温度は乾燥圧力に応じて適宜選択されなければならない。
【0040】
本発明の式(1)で表されるジカルボン酸の製造方法は、上述の晶析工程を含む。このため、本発明の製造方法によれば、高い純度の式(1)で表されるジカルボン酸を提供することが可能である。
【実施例】
【0041】
以下、実施例により本発明を具体的に説明するが、本発明は実施例に何らの制限を受けるものではなく、発明の効果を奏する限りにおいて実施形態を適宜変更することができる。なお、実施例において、ジカルボン酸の純度及び収率は、高速液体クロマトグラフィー(HPLC)で決定した。HPLCの測定条件は以下のとおりである。
<HPLC測定条件>
カラム:化学物質評価機構L−column2 ODS(5μm、4.6φ×250mm)、展開溶媒:アセトニトリル/100mMリン酸緩衝液=30/70(v/v)、流量:1mL/分、カラム温度:40℃、検出器:RI(示差屈折)
【0042】
<混合物の取得>
[合成例1]
【化9】

滴下ロート、撹拌子、温度計を備えた3L四ツ口丸底フラスコに、フェノチアジン100mg、N−ニトロフェニルヒドロキシルアミンアルミニウム20mgを仕込み、反応容器を窒素置換した。その後、テトラヒドロフラン100g、トリエチルアミン107g(1.1mol)、メタクリル酸2−ヒドロキシエチル69g(530mmol)を仕込み、水浴で溶液温度を25℃に保持した。滴下ロートにシクロヘキサン−1,2,4−トリカルボン酸−1,2−無水物100g(505mmol)、テトラヒドロフラン350gを仕込み、これらを反応容器に滴下した後、溶液温度35℃で攪拌した。攪拌1時間後、LC−RIで反応の経時変化を確認したところ、原料の転化率100%であり、目的物が94%の収率で生成していた。反応容器を20℃以下に冷却し、15%硫酸水溶液762g、メチルイソブチルケトン1200gを反応溶液に加え、分液した。有機層をイオン交換水600gで2回洗浄した。分液後の溶液を濃縮し、目的物(式(1)のジカルボン酸)と異性体(式(2)のジカルボン酸)の混合物の149gを得た(目的物90.1%、位置異性体5.3%)。
【0043】
[実施例1]
1000mLナスフラスコに、合成例1で得られた、ジカルボン酸と位置異性体との混合物30.0g(目的物90.1%、位置異性体5.3%)、メチルイソブチルケトン300gを仕込み、40℃に加熱しながらロータリーエバポレーターで45gまで濃縮した。濃縮液にトルエン90gを仕込み、氷冷下2時間攪拌し、ジカルボン酸の結晶を析出させた。結晶をろ別した後、減圧乾燥し、ジカルボン酸の結晶20.3gを取得した。結晶のLC−RI面積純度は99.8%であった。
【0044】
[合成例2]
実施例1で得られたろ液1000gを濃縮し、目的物と異性体の混合物90gを得た(目的物75.2%、位置異性体14.4%)。
【0045】
[実施例2]
合成例2で得られた、ジカルボン酸と位置異性体との混合物30.0g(目的物75.2%、位置異性体14.4%)を使用する以外は実施例1と同様の操作を行い、ジカルボン酸の結晶16.9gを取得した。結晶のLC−RI面積純度は99.5%であった。
【0046】
[合成例3]
メチルイソブチルケトンを添加したのち、溶液を33gまで濃縮することを除いて実施例1と同様の操作を行って得られたろ液を濃縮し、目的物と異性体の混合物5gを得た(目的物61.7%、位置異性体32.2%)。
【0047】
[実施例3]
合成例3で得られた、混合物5.0g(目的物61.7%、位置異性体32.2%)とメチルイソブチルケトン50gを仕込み、40℃に加熱しながらロータリーエバポレーターで7.5gまで濃縮した。濃縮液にトルエン15gを仕込み、氷冷下2時間攪拌し、ジカルボン酸の結晶を析出させた。結晶をろ別した後、減圧乾燥し、ジカルボン酸の結晶2.0gを取得した。結晶のLC−RI面積純度は99.1%であった。
【0048】
[実施例4]
イソブチルケトンに替えてメチルエチルケトンを使用する以外は実施例1と同様の操作を行い、ジカルボン酸の結晶18.9gを取得した。結晶のLC−RI面積純度は99.6%であった。
【0049】
[実施例5]
イソブチルケトンに替えてテトラヒドロフランを使用する以外は実施例1と同様の操作を行い、ジカルボン酸の結晶19.4gを取得した。結晶のLC−RI面積純度は99.7%であった。
【0050】
[実施例6]
トルエンに替えてベンゼンを使用する以外は実施例1と同様の操作を行い、ジカルボン酸の結晶19.2gを取得した。結晶のLC−RI面積純度は99.4%であった。
【0051】
[合成例4]
【化10】

メタクリル酸2−ヒドロキシエチルに替えてアクリル酸2−ヒドロキシエチルを使用する以外は合成例1と同様の操作を行い、目的物と異性体の混合物の132gを得た(目的物94.5%、位置異性体3.0%)。
【0052】
[実施例7]
合成例4で得られた、ジカルボン酸と位置異性体との混合物30.0g(目的物94.5%、位置異性体3.0%)を使用する以外は実施例1と同様の操作を行い、ジカルボン酸の結晶16.3gを取得した。結晶のLC−RI面積純度は99.9%であった。
【0053】
[合成例5]
【化11】

メタクリル酸2−ヒドロキシエチルに替えてメタクリル酸2−ヒドロキシプロピルを使用する以外は合成例1と同様の操作を行い、目的物と異性体の混合物の152gを得た(目的物89.4%、位置異性体6.8%)。
【0054】
[実施例8]
合成例5で得られた、ジカルボン酸と位置異性体との混合物30.0g(目的物89.4%、位置異性体6.8%)を使用する以外は実施例1と同様の操作を行い、ジカルボン酸の結晶13.1gを取得した。結晶のLC−RI面積純度は99.0%であった。
【0055】
[比較例1]
イソブチルケトンに替えて酢酸エチルを使用する以外は実施例1と同様の操作を行ったところ、結晶は析出しなかった。
【0056】
[比較例2]
イソブチルケトンに替えてメタノールを使用する以外は実施例1と同様の操作を行ったところ、結晶は析出しなかった。
【0057】
[比較例3]
トルエンに替えてクロロホルムを使用する以外は実施例1と同様の操作を行ったところ、結晶21gが得られた。結晶純度92.2%、位置異性体4%であった。
【0058】
【表1】
【0059】
以上のように、各実施例の結果から、特定の溶媒を用いてジカルボン酸の混合物を溶解させた後に、式(1)で表されるジカルボン酸のみを晶析させることにより、非常に高い純度で目的の化合物(式(1)のジカルボン酸)を精製および製造できることが確認された。