(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下に、本発明を実施するための最良の形態を説明する。なお、特に断らない限り、本明細書に記載された数値範囲「x〜y」は、下限xおよび上限yをその範囲に含む。そして、これらの上限値および下限値、ならびに実施例中に列記した数値も含めてそれらを任意に組み合わせることで数値範囲を構成し得る。さらに数値範囲内から任意に選択した数値を上限、下限の数値とすることができる。
【0018】
本発明の負極活物質は、4〜6族の金属を含有する炭素層で被覆されたシリコン材料からなることを特徴とする。換言すれば、本発明の負極活物質は、コア部分のシリコン材料と、表面部分の4〜6族の金属を含有する炭素層からなる。
【0019】
シリコン材料は、ケイ素を含む材料であって、二次電池の活物質として機能するものであればよい。具体的なシリコン材料として、ケイ素単体、SiOx(0.3≦x≦1.6)、特許文献5に記載のシリコン材料を例示できる。なお、シリコン材料には、酸素、アルカリ金属、アルカリ土類金属などの不純物が含まれていてもよい。
【0020】
特許文献5に記載のシリコン材料について詳細に説明する。当該シリコン材料は、CaSi
2と酸とを反応させて、ポリシランを主成分とする層状シリコン化合物を合成し、さらに、当該層状シリコン化合物を300℃以上で加熱して水素を離脱させる方法で製造される。当該シリコン材料は、複数枚の板状シリコン体が厚さ方向に積層されてなる構造を有する。この構造は、走査型電子顕微鏡などによる観察で確認できる。リチウムイオンの効率的な挿入及び脱離反応のためには、板状シリコン体は厚さが10nm〜100nmの範囲内のものが好ましく、20nm〜50nmの範囲内のものがより好ましい。また、板状シリコン体の長手方向の長さは、0.1μm〜50μmの範囲内のものが好ましい。また、板状シリコン体は、(長手方向の長さ)/(厚さ)が2〜1000の範囲内であるのが好ましい。
【0021】
特許文献5に記載のシリコン材料の製造方法を、理想的な反応式で示すと以下のとおりとなる。なお、酸としては塩化水素を用いることとした。
3CaSi
2+6HCl → Si
6H
6+3CaCl
2
Si
6H
6 → 6Si+3H
2↑
【0022】
シリコン材料には、アモルファスシリコン及び/又はシリコン結晶子が含まれるのが好ましい。シリコン結晶子のサイズは、0.5nm〜300nmの範囲内が好ましく、1nm〜100nmの範囲内がより好ましく、1nm〜50nmの範囲内がさらに好ましく、1nm〜10nmの範囲内が特に好ましい。なお、シリコン結晶子のサイズは、シリコン材料に対してX線回折測定を行い、得られたX線回折チャートのSi(111)面の回折ピークの半値幅を用いたシェラーの式から算出される。
【0023】
本発明の負極活物質において、ケイ素は50〜99質量%で存在するのが好ましく、60〜97質量%で存在するのがより好ましく、70〜95質量%で存在するのがさらに好ましい。
【0024】
本発明の負極活物質において、炭素層はシリコン材料の表面全体を被覆しているのが好ましい。本発明の負極活物質において、炭素は0.5〜10質量%で存在するのが好ましく、1〜8質量%で存在するのがより好ましく、2〜6質量%で存在するのがさらに好ましい。
【0025】
炭素層の厚みとしては、1〜100nmが好ましく、5〜50nmがより好ましい。
【0026】
炭素層をラマン分光法で分析すると、1590cm
−1付近にG−bandと称される炭素由来ピークが観察され、さらに、1350cm
−1付近にD−bandと称される炭素由来ピークが観察される。G−bandはグラファイトに由来し、D−bandはダングリングボンドなどの炭素に由来すると考えられている。本発明の負極活物質において、(D−bandのピーク強度)/(G−bandのピーク強度)の値(以下、D/G比という。)が、0.80〜1の範囲内で観察される場合がある。
【0027】
本発明の負極活物質において、4〜6族の金属は炭素と結合していると考えられ、そして、当該結合は共有結合及び/又は配位結合と考えられる。かかる結合により、本発明の負極活物質における炭素層の強度が増加したと推察できる。
【0028】
4〜6族の金属は、炭素層に存在する炭素元素のモル数に対して、0.01〜10モル%で存在するのが好ましく、0.1〜7モル%で存在するのがより好ましく、1〜5モル%で存在するのがさらに好ましい。
【0029】
ここで、4〜6族の金属は、炭素と結合して炭化物を形成することが知られている。例えば、国際公開第2012/018082号には、n−ヘキサデシルアミンとn−オクチルエーテルとヘキサカルボニルモリブデンの共存下、280℃で加熱したところ、Mo
2Cが生成されたことが記載されている。後述する本発明の負極活物質の製造方法の加熱温度からみて、本発明の負極活物質においても、4〜6族の金属が炭素と結合した炭化物が生成している場合があると考えられる。
【0030】
4〜6族の金属が炭素と結合した炭化物は、熱や酸化などに対して、あるいは溶剤との接触に対して、比較的安定であり、また、一定程度の導電性を示す。したがって、本発明の負極活物質において、4〜6族の金属が炭素と結合した炭化物の存在が、本発明の負極活物質の好適な機能の要因とも考えられる。
【0031】
表1に、4〜6族の金属が炭素と結合した炭化物と、その電気抵抗率について示す。なお、電気抵抗率の逆数が導電率である。
【0033】
本発明の負極活物質において、4〜6族の金属は、1種類でもよいし、複数種類でもよい。4〜6族の金属としては、Ti、Zr、V、Nb、Ta、Cr、Mo、Wが好ましい。
【0034】
本発明の負極活物質において、4〜6族の金属は0.001〜1質量%で存在するのが好ましく、0.005〜0.5質量%で存在するのがより好ましく、0.01〜0.3質量%で存在するのがさらに好ましい。4〜6族の金属が多すぎると、本発明の負極活物質の導電率は増加するものの、4〜6族の金属は、本発明の負極活物質を具備するリチウムイオン二次電池におけるリチウムイオン拡散に対する抵抗となる懸念がある。
【0035】
本発明の負極活物質の電気抵抗率は、0.1〜3.0Ω・cmの範囲内が好ましく、0.2〜2.5Ω・cmの範囲内がより好ましく、0.3〜1.0Ω・cmの範囲内がさらに好ましい。
【0036】
本発明の負極活物質の粒度分布としては、平均粒子径が0.5〜30μmの範囲内のものが好ましく、1〜10μmの範囲内のものがより好ましい。なお、平均粒子径とは、一般的なレーザー回折式粒度分布測定装置で測定した場合における、D50を意味する。
【0037】
以下、本発明の負極活物質の製造方法について説明する。
【0038】
本発明の負極活物質の製造方法は、シリコン材料と4〜6族の金属を含有する化合物と炭素源との共存下、加熱により、当該化合物と炭素源を分解させる工程(以下、「本発明の工程」ということがある。)を有することを特徴とする。
【0039】
本発明の工程は、以下の機序で進行すると推定される。
【0040】
1.炭素源が分解してタール状物質が生成する。
2.当該タール状物質に、4〜6族の金属を含有する化合物が分解して生成した金属が取り込まれる。
3.シリコン材料の表面に、金属を含むタール状物質が付着する。
4.3のタール状物質が炭化して炭素層となり、4〜6族の金属を含有する炭素層で被覆されたシリコン材料が得られる。
【0041】
上記機序で本発明の負極活物質が製造されると考えられるため、本発明の負極活物質に含まれる4〜6族の金属は、炭素層中に分散して存在すると考えられる。
【0042】
SiCの生成を避けるとの観点から、本発明の工程の加熱温度は600〜1000℃が好ましく、700〜1000℃がより好ましく、800〜1000℃がさらに好ましい。加熱時間は製造スケールなどに応じて適宜決定すればよい。
【0043】
4〜6族の金属を含有する化合物は、600〜1000℃の加熱で分解するものが好ましい。4〜6族の金属を含有する化合物としては、カルボニルやシクロペンタジエニルなどの配位子と4〜6族の金属との錯体、4〜6族の金属を含有する塩、並びにこれらの水和物などを挙げることができる。
【0044】
4〜6族の金属を含有する具体的な化合物として、シュウ酸チタンカリウム、テトラキス(エチルメチルアミノ)チタン、テトラキス(ジメチルアミノ)チタン、テトラメトシキチタン、テトラエトシキチタン、テトラ−n−プロポキシチタン、テトライソプロポキシチタン、テトラブトキシチタン、チタンテトラキス(2−エチル−1−ヘキサノラート)、ビス(シクロペンタジエニル)ジクロロチタン、シクロペンタジエニルトリベンジルチタン、ジルコニウムアセチルアセトナート、テトラメトシキジルコニウム、テトラエトシキジルコニウム、テトラ−n−プロポキシジルコニウム、テトライソプロポキシジルコニウム、テトラブトキシジルコニウム、テトラキス(エチルメチルアミノ)ジルコニウム、テトラキス(ジメチルアミノ)ジルコニウム、ジクロロビス(シクロペンタジエニル)ジルコニウム、ビス(シクロペンタジエニル)ジメチルジルコニウム、メチルトリス(シクロペンタジエニル)ジルコニウム、ビス(シクロペンタジエニル)ジブチルジルコニウム、ビス(シクロペンタジエニル)ジクロロバナジウム、バナジウム(III)アセチルアセトナート、ビス(シクロペンタジエニル)ニオブジクロライド、テトラクロロ(2,3,4,5−テトラメチル−2,4−シクロペンタジエニル)ニオブ、ニオブ(V)ペンタエトキシド、ペンタ−n−プロポキシニオブ(V)、ペンタイソプロポキシニオブ(V)、ペンタブトキシニオブ(V)、ペンタフェノキシニオブ(V)、ペンタメトキシタンタル(V)、ペンタエトキシタンタル(V)、ペンタキス(ジメチルアミノ)タンタル、テトラクロロ(2,3,4,5−テトラメチル−2,4−シクロペンタジエニル)タンタル、三酢酸クロム(III)、クロム(III)アセチルアセトナート、ヘキサカルボニルモリブデン、窒化モリブデン、ジカルボニルシクロペンタジエニルモリブデンダイマー、トリカルボニルシクロペンタジエニルモリブデンダイマー、ビピリジルテトラカルボニルモリブデン、ナフテン酸モリブデン、オクタン酸モリブデン、ヘキサカルボニルタングステン、窒化タングステン、ビス(イソプロピルシクロペンタジエニル)タングステン(IV)二水素化物、ビス(シクロペンタジエニル)タングステン(IV)二水素化物を挙げることができる。
【0045】
炭素源は、本発明の工程の加熱で分解して炭素を供給できるものであればよい。炭素源として、具体的に、メタン、エタン、プロパン、ブタン、ペンタン、ヘキサンなどの飽和炭化水素、エチレン、プロピレン、アセチレンなどの不飽和炭化水素、メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノールなどのアルコール類、酢酸エチル、酢酸ブチル、酢酸アミルなどのエステル類、ベンゼン、トルエン、キシレン、スチレン、エチルベンゼン、ジフェニルメタン、ナフタレン、フェノール、クレゾール、安息香酸、サリチル酸、ニトロベンゼン、クロルベンゼン、インデン、フラン、ベンゾフラン、ピロール、ピリジン、インドール、アントラセン、フェナントレンなどの芳香族化合物、並びに、各種の樹脂を例示できる。炭素源としては、上記のものを単独で用いてもよいし、複数を併用してもよい。
【0046】
4〜6族の金属を含有する化合物が炭素を多く含む場合は、当該化合物が炭素源を兼ねていてもよい。
【0047】
本発明の工程以降に、4〜6族の金属を含有する炭素層で被覆されたシリコン材料を粉砕する粉砕工程、水などの極性溶媒で洗浄する洗浄工程、乾燥工程及び/又は分級工程を行ってもよい。
【0048】
本発明の負極活物質は、リチウムイオン二次電池などの二次電池の負極活物質として使用することができる。
【0049】
本発明のリチウムイオン二次電池は、本発明の負極活物質を具備する。具体的には、本発明のリチウムイオン二次電池は、正極、本発明の負極活物質を具備する負極、電解液及びセパレータを具備する。
【0050】
正極は、集電体と、集電体の表面に結着させた正極活物質層を有する。
【0051】
集電体は、リチウムイオン二次電池の放電又は充電の間、電極に電流を流し続けるための化学的に不活性な電子伝導体をいう。集電体としては、銀、銅、金、アルミニウム、タングステン、コバルト、亜鉛、ニッケル、鉄、白金、錫、インジウム、チタン、ルテニウム、タンタル、クロム、モリブデンから選ばれる少なくとも一種、並びにステンレス鋼などの金属材料を例示することができる。集電体は公知の保護層で被覆されていても良い。集電体の表面を公知の方法で処理したものを集電体として用いても良い。
【0052】
集電体は箔、シート、フィルム、線状、棒状、メッシュなどの形態をとることができる。そのため、集電体として、例えば、銅箔、ニッケル箔、アルミニウム箔、ステンレス箔などの金属箔を好適に用いることができる。集電体が箔、シート、フィルム形態の場合は、その厚みが1μm〜100μmの範囲内であることが好ましい。
【0053】
正極活物質層は正極活物質、並びに必要に応じて導電助剤及び/又は結着剤を含む。
【0054】
正極活物質としては、層状化合物のLi
aNi
bCo
cMn
dD
eO
f(0.2≦a≦2、b+c+d+e=1、0≦e<1、DはLi、Fe、Cr、Cu、Zn、Ca、Mg、S、Si、Na、K、Al、Zr、Ti、P、Ga、Ge、V、Mo、Nb、W、Laから選ばれる少なくとも1の元素、1.7≦f≦3)、Li
2MnO
3を挙げることができる。また、正極活物質として、LiMn
2O
4等のスピネル、及びスピネルと層状化合物の混合物で構成される固溶体、LiMPO
4、LiMVO
4又はLi
2MSiO
4(式中のMはCo、Ni、Mn、Feのうちの少なくとも一種から選択される)などで表されるポリアニオン系化合物を挙げることができる。さらに、正極活物質として、LiFePO
4FなどのLiMPO
4F(Mは遷移金属)で表されるタボライト系化合物、LiFeBO
3などのLiMBO
3(Mは遷移金属)で表されるボレート系化合物を挙げることができる。正極活物質として用いられるいずれの金属酸化物も上記の各組成式を基本組成とすればよく、基本組成に含まれる金属元素を他の金属元素で置換したものも正極活物質として使用可能である。また、正極活物質として、充放電に寄与するリチウムイオンを含まない正極活物質材料、たとえば、硫黄単体、硫黄と炭素を複合化した化合物、TiS
2などの金属硫化物、V
2O
5、MnO
2などの酸化物、ポリアニリン及びアントラキノン並びにこれら芳香族を化学構造に含む化合物、共役二酢酸系有機物などの共役系材料、その他公知の材料を用いることもできる。さらに、ニトロキシド、ニトロニルニトロキシド、ガルビノキシル、フェノキシルなどの安定なラジカルを有する化合物を正極活物質として採用してもよい。リチウムを含まない正極活物質材料を用いる場合には、正極及び/又は負極に、公知の方法により、予めイオンを添加させておく必要がある。ここで、当該イオンを添加するためには、金属または当該イオンを含む化合物を用いればよい。
【0055】
導電助剤は、電極の導電性を高めるために添加される。そのため、導電助剤は、電極の導電性が不足する場合に任意に加えればよく、電極の導電性が十分に優れている場合には加えなくても良い。導電助剤としては化学的に不活性な電子高伝導体であれば良く、炭素質微粒子であるカーボンブラック、黒鉛、気相法炭素繊維(Vapor Grown Carbon Fiber)、および各種金属粒子などが例示される。カーボンブラックとしては、アセチレンブラック、ケッチェンブラック(登録商標)、ファーネスブラック、チャンネルブラックなどが例示される。これらの導電助剤を単独または二種以上組み合わせて活物質層に添加することができる。
【0056】
活物質層中の導電助剤の配合割合は、質量比で、活物質:導電助剤=1:0.005〜1:0.5であるのが好ましく、1:0.01〜1:0.2であるのがより好ましく、1:0.03〜1:0.1であるのがさらに好ましい。導電助剤が少なすぎると効率のよい導電パスを形成できず、また、導電助剤が多すぎると活物質層の成形性が悪くなるとともに電極のエネルギー密度が低くなるためである。
【0057】
結着剤は、活物質や導電助剤を集電体の表面に繋ぎ止め、電極中の導電ネットワークを維持する役割を果たすものである。結着剤としては、ポリフッ化ビニリデン、ポリテトラフルオロエチレン、フッ素ゴム等の含フッ素樹脂、ポリプロピレン、ポリエチレン等の熱可塑性樹脂、ポリイミド、ポリアミドイミド等のイミド系樹脂、アルコキシシリル基含有樹脂、ポリ(メタ)アクリル酸等のアクリル系樹脂、スチレン−ブタジエンゴム(SBR)、カルボキシメチルセルロース、アルギン酸ナトリウム、アルギン酸アンモニウム等のアルギン酸塩、水溶性セルロースエステル架橋体、デンプン−アクリル酸グラフト重合体を例示することができる。これらの結着剤を単独で又は複数で採用すれば良い。
【0058】
活物質層中の結着剤の配合割合は、質量比で、活物質:結着剤=1:0.001〜1:0.3であるのが好ましく、1:0.005〜1:0.2であるのがより好ましく、1:0.01〜1:0.15であるのがさらに好ましい。結着剤が少なすぎると電極の成形性が低下し、また、結着剤が多すぎると電極のエネルギー密度が低くなるためである。
【0059】
負極は、集電体と、集電体の表面に結着させた負極活物質層を有する。集電体については、正極で説明したものを適宜適切に採用すれば良い。負極活物質層は負極活物質、並びに必要に応じて導電助剤及び/又は結着剤を含む。
【0060】
負極活物質としては、本発明の負極活物質を用いればよく、本発明の負極活物質のみを採用してもよいし、本発明の負極活物質と公知の負極活物質を併用してもよい。
【0061】
負極に用いる導電助剤及び結着剤については、正極で説明したものを同様の配合割合で適宜適切に採用すれば良い。
【0062】
集電体の表面に活物質層を形成させるには、ロールコート法、ダイコート法、ディップコート法、ドクターブレード法、スプレーコート法、カーテンコート法などの従来から公知の方法を用いて、集電体の表面に活物質を塗布すればよい。具体的には、活物質、溶剤、並びに必要に応じて結着剤及び/又は導電助剤を混合し、スラリーを調製する。上記溶剤としては、N−メチル−2−ピロリドン、メタノール、メチルイソブチルケトン、水を例示できる。該スラリーを集電体の表面に塗布後、乾燥する。電極密度を高めるべく、乾燥後のものを圧縮しても良い。
【0063】
電解液は、非水溶媒と非水溶媒に溶解した電解質とを含んでいる。
【0064】
非水溶媒としては、環状エステル類、鎖状エステル類、エーテル類等が使用できる。環状エステル類としては、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、ブチレンカーボネート、ガンマブチロラクトン、ビニレンカーボネート、2−メチル−ガンマブチロラクトン、アセチル−ガンマブチロラクトン、ガンマバレロラクトンを例示できる。鎖状エステル類としては、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、ジブチルカーボネート、ジプロピルカーボネート、エチルメチルカーボネート、プロピオン酸アルキルエステル、マロン酸ジアルキルエステル、酢酸アルキルエステル等を例示できる。エーテル類としては、テトラヒドロフラン、2−メチルテトラヒドロフラン、1,4−ジオキサン、1,2−ジメトキシエタン、1,2−ジエトキシエタン、1,2−ジブトキシエタンを例示できる。非水溶媒としては、上記具体的な溶媒の化学構造のうち一部又は全部の水素がフッ素に置換した化合物を採用しても良い。
【0065】
電解質としては、LiClO
4、LiAsF
6、LiPF
6、LiBF
4、LiCF
3SO
3、LiN(SO
2F)
2、LiN(CF
3SO
2)
2等のリチウム塩を例示できる。
【0066】
電解液としては、エチレンカーボネート、ジメチルカーボネート、プロピレンカーボネート、ジエチルカーボネートなどの非水溶媒に、LiClO
4、LiPF
6、LiBF
4、LiCF
3SO
3、LiN(SO
2F)
2などのリチウム塩を0.5mol/Lから3.0mol/L程度の濃度で溶解させた溶液を例示できる。
【0067】
セパレータは、正極と負極とを隔離し、両極の接触による短絡を防止しつつ、リチウムイオンを通過させるものである。セパレータとしては、ポリテトラフルオロエチレン、ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリイミド、ポリアミド、ポリアラミド(Aromatic polyamide)、ポリエステル、ポリアクリロニトリル等の合成樹脂、セルロース、アミロース等の多糖類、フィブロイン、ケラチン、リグニン、スベリン等の天然高分子、セラミックスなどの電気絶縁性材料を1種若しくは複数用いた多孔体、不織布、織布などを挙げることができる。また、セパレータは多層構造としてもよい。
【0068】
次に、リチウムイオン二次電池の製造方法について説明する。
【0069】
正極および負極に必要に応じてセパレータを挟装させ電極体とする。電極体は、正極、セパレータ及び負極を重ねた積層型、又は、正極、セパレータ及び負極を捲いた捲回型のいずれの型にしても良い。正極の集電体および負極の集電体から、外部に通ずる正極端子および負極端子までの間を、集電用リード等を用いて接続した後に、電極体に電解液を加えてリチウムイオン二次電池とするとよい。また、本発明のリチウムイオン二次電池は、電極に含まれる活物質の種類に適した電圧範囲で充放電を実行されればよい。
【0070】
本発明のリチウムイオン二次電池の形状は特に限定されるものでなく、円筒型、角型、コイン型、ラミネート型等、種々の形状を採用することができる。
【0071】
本発明のリチウムイオン二次電池は、車両に搭載してもよい。車両は、その動力源の全部あるいは一部にリチウムイオン二次電池による電気エネルギーを使用している車両であればよく、たとえば、電気車両、ハイブリッド車両などであるとよい。車両にリチウムイオン二次電池を搭載する場合には、リチウムイオン二次電池を複数直列に接続して組電池とするとよい。リチウムイオン二次電池を搭載する機器としては、車両以外にも、パーソナルコンピュータ、携帯通信機器など、電池で駆動される各種の家電製品、オフィス機器、産業機器などが挙げられる。さらに、本発明のリチウムイオン二次電池は、風力発電、太陽光発電、水力発電その他電力系統の蓄電装置及び電力平滑化装置、船舶等の動力及び/又は補機類の電力供給源、航空機、宇宙船等の動力及び/又は補機類の電力供給源、電気を動力源に用いない車両の補助用電源、移動式の家庭用ロボットの電源、システムバックアップ用電源、無停電電源装置の電源、電動車両用充電ステーションなどにおいて充電に必要な電力を一時蓄える蓄電装置に用いてもよい。
【0072】
以上、本発明の実施形態を説明したが、本発明は、上記実施形態に限定されるものではない。本発明の要旨を逸脱しない範囲において、当業者が行い得る変更、改良等を施した種々の形態にて実施することができる。
【実施例】
【0073】
以下に、実施例および比較例などを示し、本発明をより具体的に説明する。なお、本発明は、これらの実施例によって限定されるものではない。
【0074】
(実施例1)
以下のとおり、実施例1の負極活物質及びリチウムイオン二次電池を製造した。
【0075】
平均粒子径3μmのケイ素15g(株式会社高純度化学研究所)とヘキサカルボニルモリブデン38mg(株式会社高純度化学研究所)をロータリーキルン型の反応器に入れ、プロパンガス通気下にて880℃、滞留時間5分間の条件で熱CVDを行い、モリブデンを含有する炭素層で被覆されたシリコン材料を得た。なお、上記反応器の炉芯管は水平方向に配設されている。そして、炉芯管の回転速度は1rpmとした。炉心管の内周壁には邪魔板が配設されており、反応器は炉芯管の回転に伴って邪魔板上に堆積した内容物が所定の高さで邪魔板から落下するように構成され、その構成によって内容物が撹拌される。また、上記の条件下では、ケイ素15gに対して炭素が750mg程度で被覆する。
【0076】
モリブデンを含有する炭素層で被覆されたシリコン材料を水で洗浄し、乾燥して、実施例1の負極活物質とした。
【0077】
実施例1の負極活物質85質量部、結着剤としてポリアミドイミドを10質量部、導電助剤としてアセチレンブラックを5質量部及び適量のN−メチル−2−ピロリドンを混合してスラリーとした。
【0078】
集電体として厚さ30μmの電解銅箔を準備した。該銅箔の表面に、ドクターブレードを用いて上記スラリーが膜状になるように塗布した。スラリーが塗布された銅箔を80℃で20分間乾燥することでN−メチル−2−ピロリドンを揮発により除去し、その結果、表面に負極活物質層が形成された銅箔を得た。該銅箔を負極活物質層の厚みが20μmとなるように、ロールプレス機で圧縮して接合物を得た。この接合物を180℃で2時間減圧加熱乾燥し、負極とした。
【0079】
上記負極を径11mmに裁断し、評価極とした。厚さ500μmの金属リチウム箔を径13mmに裁断し対極とした。セパレータとしてガラスフィルター(ヘキストセラニーズ社)及び単層ポリプロピレンであるcelgard2400(ポリポア株式会社)を準備した。また、エチレンカーボネート50容量部及びジエチルカーボネート50容量部を混合した溶媒にLiPF
6を1mol/Lで溶解した電解液を準備した。対極、ガラスフィルター、celgard2400、評価極の順に、2種のセパレータを対極と評価極で挟持し電極体とした。この電極体をコイン型電池ケースCR2032(宝泉株式会社)に収容し、さらに電解液を注入して、コイン型電池を得た。これを実施例1のリチウムイオン二次電池とした。
【0080】
(実施例2)
ヘキサカルボニルモリブデンを76mg用いた以外は、実施例1と同様の方法で、モリブデンを含有する炭素層で被覆されたシリコン材料からなる実施例2の負極活物質及びリチウムイオン二次電池を製造した。
【0081】
(実施例3)
ヘキサカルボニルモリブデン38mgに代えて、窒化モリブデン38mg(株式会社高純度化学研究所)を用いた以外は、実施例1と同様の方法で、モリブデンを含有する炭素層で被覆されたシリコン材料からなる実施例3の負極活物質及びリチウムイオン二次電池を製造した。
【0082】
(実施例4)
ヘキサカルボニルモリブデン38mgに代えて、シュウ酸チタンカリウム二水和物38mg(株式会社高純度化学研究所)を用いた以外は、実施例1と同様の方法で、チタンを含有する炭素層で被覆されたシリコン材料からなる実施例4の負極活物質及びリチウムイオン二次電池を製造した。
【0083】
(実施例5)
ヘキサカルボニルモリブデン38mgに代えて、ペンタメトキシタンタル(V)1.05gを用いた以外は、実施例1と同様の方法で、タンタルを含有する炭素層で被覆されたシリコン材料からなる実施例5の負極活物質及びリチウムイオン二次電池を製造した。
【0084】
(実施例6)
ヘキサカルボニルモリブデン38mgに代えて、ヘキサカルボニルタングステン1.10gを用いた以外は、実施例1と同様の方法で、タングステンを含有する炭素層で被覆されたシリコン材料からなる実施例6の負極活物質及びリチウムイオン二次電池を製造した。
【0085】
(実施例7)
ヘキサカルボニルモリブデン38mgに代えて、三酢酸クロム(III)0.77gを用いた以外は、実施例1と同様の方法で、クロムを含有する炭素層で被覆されたシリコン材料からなる実施例7の負極活物質及びリチウムイオン二次電池を製造した。
【0086】
(実施例8)
ヘキサカルボニルモリブデン38mgに代えて、テトラエトシキジルコニウム0.85gを用いた以外は、実施例1と同様の方法で、ジルコニウムを含有する炭素層で被覆されたシリコン材料からなる実施例8の負極活物質及びリチウムイオン二次電池を製造した。
【0087】
(実施例9)
ヘキサカルボニルモリブデン38mgに代えて、ニオブ(V)ペンタエトキシド0.99gを用いた以外は、実施例1と同様の方法で、ニオブを含有する炭素層で被覆されたシリコン材料からなる実施例9の負極活物質及びリチウムイオン二次電池を製造した。
【0088】
(実施例10)
ヘキサカルボニルモリブデン38mgに代えて、ビス(シクロペンタジエニル)ジクロロバナジウム0.79gを用いた以外は、実施例1と同様の方法で、バナジウムを含有する炭素層で被覆されたシリコン材料からなる実施例10の負極活物質及びリチウムイオン二次電池を製造した。
【0089】
(比較例1)
ヘキサカルボニルモリブデンを用いなかった以外は、実施例1と同様の方法で、炭素層で被覆されたシリコン材料からなる比較例1の負極活物質及びリチウムイオン二次電池を製造した。
【0090】
(実施例11)
氷浴中の35質量%HCl水溶液100mLに、アルゴンガス雰囲気下、CaSi
25gを加え、90分間撹拌した。反応液中に暗緑粉末が分散するのが確認できた。反応液を濾過し、残渣を蒸留水及びアセトンで洗浄し、さらに、室温で12時間減圧乾燥して、ポリシランを含有する層状シリコン化合物を得た。
【0091】
層状シリコン化合物をアルゴンガス雰囲気下、900℃で1時間加熱して、シリコン材料を製造した。当該シリコン材料を粉砕し、目開き25μmの篩を通過させた後に、以下の製造に使用した。
【0092】
平均粒子径3μmのケイ素(株式会社高純度化学研究所)に代えて、上記シリコン材料を用いた以外は、実施例3と同様の方法で、モリブデンを含有する炭素層で被覆されたシリコン材料からなる実施例11の負極活物質及びリチウムイオン二次電池を製造した。
【0093】
(実施例12)
平均粒子径3μmのケイ素(株式会社高純度化学研究所)に代えて、実施例11と同様の方法で製造したシリコン材料を用いた以外は、実施例5と同様の方法で、タンタルを含有する炭素層で被覆されたシリコン材料からなる実施例12の負極活物質及びリチウムイオン二次電池を製造した。
【0094】
(実施例13)
平均粒子径3μmのケイ素(株式会社高純度化学研究所)に代えて、実施例11と同様の方法で製造したシリコン材料を用いた以外は、実施例6と同様の方法で、タングステンを含有する炭素層で被覆されたシリコン材料からなる実施例13の負極活物質及びリチウムイオン二次電池を製造した。
【0095】
(実施例14)
平均粒子径3μmのケイ素(株式会社高純度化学研究所)に代えて、実施例11と同様の方法で製造したシリコン材料を用いた以外は、実施例7と同様の方法で、クロムを含有する炭素層で被覆されたシリコン材料からなる実施例14の負極活物質及びリチウムイオン二次電池を製造した。
【0096】
(実施例15)
平均粒子径3μmのケイ素(株式会社高純度化学研究所)に代えて、実施例11と同様の方法で製造したシリコン材料を用いた以外は、実施例8と同様の方法で、ジルコニウムを含有する炭素層で被覆されたシリコン材料からなる実施例15の負極活物質及びリチウムイオン二次電池を製造した。
【0097】
(実施例16)
平均粒子径3μmのケイ素(株式会社高純度化学研究所)に代えて、実施例11と同様の方法で製造したシリコン材料を用いた以外は、実施例9と同様の方法で、ニオブを含有する炭素層で被覆されたシリコン材料からなる実施例16の負極活物質及びリチウムイオン二次電池を製造した。
【0098】
(実施例17)
平均粒子径3μmのケイ素(株式会社高純度化学研究所)に代えて、実施例11と同様の方法で製造したシリコン材料を用いた以外は、実施例10と同様の方法で、バナジウムを含有する炭素層で被覆されたシリコン材料からなる実施例17の負極活物質及びリチウムイオン二次電池を製造した。
【0099】
(比較例2)
窒化モリブデンを用いなかった以外は、実施例11と同様の方法で、炭素層で被覆されたシリコン材料からなる比較例2の負極活物質及びリチウムイオン二次電池を製造した。
【0100】
(評価例1)
実施例1〜10、比較例1の各負極活物質をペレット状に成型して、四端子測定法にて電気抵抗を測定した。結果を表2に示す。
【0101】
【表2】
【0102】
表2を見ると、4〜6族の金属が炭素層に含まれることにより、負極活物質の電気抵抗が低下することがわかる。
【0103】
また、実施例3、比較例1の各負極活物質とは炭素被覆の対象となるシリコン材料を変えた実施例11及び比較例2の負極活物質につき、上記と同様の評価を行った結果を表3に示す。
【0104】
【表3】
【0105】
表3を見ると、炭素被覆の対象となるシリコン材料が変わった負極活物質においても、4〜6族の金属が炭層層に含まれることにより、負極活物質の電気抵抗が低下する現象が確認できた。
【0106】
(評価例2)
実施例1〜4、11、比較例1〜2の各負極活物質に対し、高周波誘導結合プラズマ発光分光分析を行い、各負極活物質に含まれている元素の量を測定した。結果を表4に示す。表4の数値の単位は質量%である。
【0107】
【表4】
【0108】
本発明の負極活物質には、4〜6族の金属が含まれることが裏付けられた。なお、実施例4の負極活物質におけるカリウムの量について述べると、カリウムは加熱により飛散しやすいことに加えて、水による洗浄で除去されやすいため、実施例4の負極活物質中のカリウムの量が低くなったといえる。
【0109】
(評価例3)
実施例1、3〜4、比較例1の各負極活物質に対し、ラマン分光分析を行った。得られた各ラマンスペクトルには、1590cm
−1付近にG−bandと称されるピーク、及び、1350cm
−1付近にD−bandと称されるピークが観察された。D/G比を算出し、その結果を表5に示す。
【0110】
【表5】
【0111】
4〜6族の金属が含まれることにより、D−bandの割合が増加し、G−bandの割合が減少しているといえる。本発明の負極活物質においては、炭素が4〜6族の金属と結合しているため、炭素のみで安定構造となるグラファイトに由来するG−bandの割合が減少したといえる。
【0112】
(評価例4)
粉末X線回折装置にて、実施例1、3〜4、比較例1の各負極活物質のX線回折を測定した。実施例1、3〜4、比較例1の各負極活物質のX線回折チャートからは、シリコン結晶及び炭素結晶に由来するピークが観察されたものの、4〜6族の金属結晶に由来するピークは観察されなかった。
図1に実施例1の負極活物質のX線回折チャートを示し、
図2に実施例4の負極活物質のX線回折チャートを示し、
図3に比較例1の負極活物質のX線回折チャートを示す。各図の●はシリコン結晶に由来するピークであり、◆は炭素結晶に由来するピークである。
【0113】
(評価例5)
実施例1〜17、比較例1〜2の各リチウムイオン二次電池につき、評価極の対極に対する電圧が0.0085Vになるまで0.2mAで放電を行い、評価極の対極に対する電圧が1.2Vになるまで0.2mAで充電を行う充放電サイクルを20サイクル行った。なお、評価例5では、評価極にLiを吸蔵させることを放電といい、評価極からLiを放出させることを充電という。初回の充電容量に対する20サイクル時の充電容量の比率を容量維持率として算出した。また、初期放電容量に対する初期充電容量の比を初期効率として算出した。これらの結果を、初期充電容量の値と共に、表6に示す。
【0114】
【表6】
【0115】
本発明の負極活物質を具備するリチウムイオン二次電池は、好適に容量を維持できることがわかる。本発明の負極活物質は、膨張及び収縮を伴う充放電を経ても、その構造を比較的安定に維持できるといえる。本発明の負極活物質が、その強度に優れていることが裏付けられた。