(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6838561
(24)【登録日】2021年2月16日
(45)【発行日】2021年3月3日
(54)【発明の名称】冷凍機油用エステル
(51)【国際特許分類】
C10M 105/38 20060101AFI20210222BHJP
C09K 5/04 20060101ALI20210222BHJP
C10N 20/02 20060101ALN20210222BHJP
C10N 30/00 20060101ALN20210222BHJP
C10N 30/06 20060101ALN20210222BHJP
C10N 30/08 20060101ALN20210222BHJP
C10N 40/30 20060101ALN20210222BHJP
【FI】
C10M105/38
C09K5/04 E
C10N20:02
C10N30:00 A
C10N30:06
C10N30:08
C10N40:30
【請求項の数】2
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2017-558103(P2017-558103)
(86)(22)【出願日】2016年12月19日
(86)【国際出願番号】JP2016087713
(87)【国際公開番号】WO2017110711
(87)【国際公開日】20170629
【審査請求日】2019年8月5日
(31)【優先権主張番号】特願2015-253706(P2015-253706)
(32)【優先日】2015年12月25日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000004341
【氏名又は名称】日油株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100097490
【弁理士】
【氏名又は名称】細田 益稔
(74)【代理人】
【識別番号】100097504
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 純雄
(72)【発明者】
【氏名】加治木 武
(72)【発明者】
【氏名】吉川 文隆
(72)【発明者】
【氏名】上田 成大
【審査官】
川嶋 宏毅
(56)【参考文献】
【文献】
特表2015−508842(JP,A)
【文献】
特開2015−140352(JP,A)
【文献】
国際公開第2013/123186(WO,A1)
【文献】
国際公開第2013/046822(WO,A1)
【文献】
国際公開第2000/075258(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C10M
C10N 20/02
C10N 30/06
C10N 30/08
C10N 40/30
C09K 5/04
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
R−32冷媒を冷媒とする冷凍機用作動流体組成物用の冷凍機油用エステルであって、
ジペンタエリスリトールとトリペンタエリスリトールの質量比が90/10〜99.7/0.3である混合アルコールと、n−ペンタン酸と2−メチルブタン酸の質量比が50/50〜80/20である混合モノカルボン酸とのエステルからなり、40℃における動粘度が50〜150mm2/sであることを特徴とする、冷凍機油用エステル。
【請求項2】
請求項1記載の冷凍機油用エステル、およびR−32冷媒を含有することを特徴とする、冷凍機用作動流体組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、R−32冷媒を用いた冷凍機用潤滑油に好適なカルボン酸エステルに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、代替フロン冷媒は、地球温暖化係数が高いことからその使用量を削減すべく、代替となる冷媒の検討が進められている。家庭用冷蔵庫に使用する冷媒については、地球温暖化係数の低いR−600a冷媒のような炭化水素冷媒へとシフトしている。また、ルームエアコン用の冷媒については、その代替となる冷媒について精力的に検討されている。
【0003】
現在、ルームエアコン用冷媒として主に使用されているR−410A冷媒の代替冷媒として種々の候補があるが、中でもR−32冷媒が有力とされ、R−32冷媒と相溶性のある冷凍機油用エステルの開発が進められている。
【0004】
特許文献1では、このようなエステルとして、炭素数4の脂肪族モノカルボン酸である酪酸やイソ酪酸と炭素数7〜9の脂肪酸を使用したエステルが提案されている。特許文献2では、ペンタエリスリトールとイソ酪酸および3,5,5−トリメチルヘキサン酸の冷凍機油用エステルが開示されている。
【0005】
ルームエアコンのような空調システムのコンプレッサーには、ロータリー式やスクリュー式のものが使用されており、これらのコンプレッサーに使用する冷凍機油には、高い潤滑性が求められている。冷凍機油用エステルとしては、40℃動粘度が50mm
2/s以上の粘度が必要とされている。加えて、最近では、省エネルギー性向上の観点から、インバーター制御によって効率よく状況に応じて柔軟に機器を稼働させることが一般的となっている。このため、コンプレッサー、凝集器、膨張弁、蒸発器などの冷凍装置の各箇所における運転時の温度は、低温から高温まで従来よりも幅広い範囲を取ることとなる。冷凍機油は冷媒と共に冷凍装置内を循環することから、幅広い温度・濃度範囲で冷媒と相溶する性能が求められる。従って、動粘度が高く、R−32冷媒と高い相溶性を有する冷凍機油用エステルが求められている。
【0006】
また、R−32冷媒は、その温度特性からR−410A冷媒よりも優れた冷却性能を示すことが知られている。しかしながら、その優れた性能を引き出すためには、R−410A冷媒よりも高温・高圧でコンプレッサーを効率よく稼働させる必要があるため、使用する冷凍機油用エステルには高い耐熱性が求められる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】WO 2012/026214号公報
【特許文献2】WO 2012/026303号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
従って、本発明の課題は、R−32冷媒との相溶性が高く、潤滑性が高く、優れた耐熱性を有する冷凍機油用エステルを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、
R−32冷媒を冷媒とする冷凍機用作動流体組成物用の冷凍機油用エステルであって、
ジペンタエリスリトールとトリペンタエリスリトールの混合アルコールと、n−ペンタン酸と2−メチルブタン酸の混合モノカルボン酸のエステルであり、ジペンタエリスリトールとトリペンタエリスリトールの質量比が90/10〜99.7/0.3であり、n−ペンタン酸と2−メチルブタン酸の質量比が50/50〜80/20であり、40℃における動粘度が50〜150mm
2/sである冷凍機油用エステルに関する。
【0010】
また、本発明は、上記の冷凍機油用エステルとR−32冷媒との混合物である冷凍機用作動流体組成物に関する。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、R−32冷媒との相溶性が高く、潤滑性が高く、優れた耐熱性を有する冷凍機油用エステルを提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明において用いる冷凍機油用エステルは、ジペンタエリスリトールとトリペンタエリスリトールの混合アルコールと、n−ペンタン酸と2−メチルブタン酸の混合モノカルボン酸のエステルである。
【0013】
ジペンタエリスリトールとトリペンタエリスリトールとの合計質量を100質量%としたとき、トリペンタエリスリトールの含有率が0.3質量%以上(好ましくは0.5質量%以上)であることにより、高い潤滑性を有する冷凍機油用エステルを得ることが出来る。
また、トリペンタエリスリトールの含有量が10質量%以下(好ましくは8質量%以下)であることにより、R−32冷媒との相溶性が高く、R−32冷媒を使用する機器における高温での運転にも耐えうる高い熱安定性を有する冷凍機油用エステルを得ることが出来る。
【0014】
本発明の冷凍機油用エステルに使用される、n−ペンタン酸と2−メチルブタン酸の比率については、R−32冷媒への溶解性と潤滑性、耐熱性の観点から、n−ペンタン酸の質量が50質量%から80質量%であり、2−メチルブタン酸の質量が20質量%から50質量%の範囲にあることが良い。ただし、n−ペンタン酸と2−メチルブタン酸との合計質量を100質量%とする。n−ペンタン酸の比率が50質量%以上(更に好ましくは55質量%以上)であれば、高い潤滑性を有する冷凍機油用エステルを得ることができる。n−ペンタン酸の比率が80質量%以下(更に好ましくは75質量%以下)であれば、耐熱性に優れる冷凍機油用エステルを得ることが出来る。
【0015】
本発明における冷凍機油用エステルは、40℃での動粘度が50から150mm
2/sである。40℃動粘度が50mm
2/s未満の場合、潤滑性が不足する。40℃動粘度が150mm
2/sを越える場合、R−32冷媒との相溶性の悪化や、機器の省エネルギー性に悪影響を与える。
【0016】
本発明に示される冷凍機油用エステルは、下記の式で定義される比率Rが、3以上であることが好ましく、6以上であることが更に好ましい。また、下記比率Rは、200以下であることが好ましく、130以下であることが更に好ましい。冷凍機油用エステルの混合アルコールと混合カルボン酸の組成の比率Rが、この範囲にある場合、本発明が求めるR−32冷媒との相溶性が高く、耐熱性と潤滑性を高いレベルで両立する性能を達成することが出来る。
【0018】
本発明においては、ジペンタエリスリトールとトリペンタエリスリトールを含む混合アルコールとn−ペンタン酸と2−メチルブタン酸からなる混合カルボン酸の冷凍機油用エステルを使用するが、冷凍機油用エステルの水酸基価が10.0mgKOH/g以下、酸価が0.1mgKOH/g以下のものが好適である。この水酸基価は、好ましくは5.0mgKOH/g以下であり、最も好ましくは1.0mgKOH/g以下である。また、この酸価は、低いほど好ましく、好ましくは0.05mgKOH/g、より好ましくは0.02mgKOH/g以下である。
【0019】
本発明の冷凍機油用エステルは、カルボン酸とアルコールとの通常の直接エステル化反応によって製造することができる。具体的には、上記の特定のアルコールとカルボン酸の当量比は、通常、アルコールの水酸基1当量に対し、カルボン酸のカルボキシル基を過剰に加えれば良く、必要に応じて触媒を加えることができる。また、必要に応じて溶剤を使用しても良い。使用する溶剤は沸点が100℃以上から150℃のものであり、ヘプタンなどの炭化水素系溶剤や、トルエン等の芳香族系溶剤が好ましい。これを窒素気流下、120から260℃で5から20時間反応させ、水酸基価が例えば3.0mgKOH/g以下となった時点で過剰のカルボン酸を減圧下で除去する。その後、アルカリによる脱カルボン酸を行い、活性白土、酸性白土および合成系の吸着剤を用いた吸着処理やスチーミングなどの操作を単独または組み合わせて行うことによって、冷凍機油用エステルを得ることができる。
【0020】
本発明では、上記の方法で合成した2種以上の冷凍機用エステルを混合して使用することもできる。
【0021】
本発明の冷凍機用エステルは、公知の添加剤、例えば、フェノール系の酸化防止剤、ベンゾトリアゾ−ル、チアジアゾールまたはジチオカーバメートなどの金属不活性化剤、エポキシ化合物またはカルボジイミドなどの酸補足剤、リン系の極圧剤などの添加剤を目的に応じて適宜配合することができる。
【実施例】
【0022】
以下に本発明を実施例により詳しく説明する。
(合成方法)
ジペンタエリスリトールとトリペンタエリスリトールは、広栄化学工業社製「D−PE」、「T−PE」を用いた。n−ペンタン酸、2−メチルブタン酸は、東京化成工業社製試薬を用いて合成した。
【0023】
温度計、窒素導入管、攪拌機およびジムロート冷却管と容量30mLの油水分離管を取り付けた2Lの4つ口フラスコに、ジペンタエリスリトール440g(1.7mol)と、トリペンタエリスリトール23g(0.06mol)を仕込んだ。次に、仕込んだアルコールの水酸基に対し、カルボン酸が1.05倍のモル比となるようにn−ペンタン酸700g(6.85mol)と2−メチルブタン酸467g(4.57mol)を加え、最後に、仕込んだアルコールの水酸基に対し、0.2mol当量のチタンイソプロポキシド6.2g(0.02mol)を仕込んだ。
【0024】
窒素気流下、仕込んだ反応液を加熱し、220℃の温度でエステルの水酸基が3以下となるまで反応した。その後、反応器内を200℃まで冷却し、80Torrまで減圧して、酸価が5mgKOH/g以下となるまで過剰の脂肪酸を留去した。
【0025】
85℃まで反応器を冷却した後、酸価から算出される水酸化カリウム量の1.5当量をイオン交換水で希釈して10%の水溶液を作製し、それを反応液に加えて1時間撹拌した。撹拌を止めた後、30分静置して、下層に分離した水層を除去した。次に、反応液に対して20質量%のイオン交換水を加えて85℃で10分撹拌して、15分静置した後、分離した水層を除去する操作を、水層のpHが7から8になるまで繰り返した。その後、100℃、30Torrで1時間撹拌することで脱水した。最後に、反応液に対して2質量%の活性白土を加え、80℃、30Torrの条件で1時間撹拌し、ろ過して吸着剤を除去することで、所望の冷凍機油用エステルを得た。
【0026】
組成分析方法:
得られた冷凍機油用エステル1gに0.5NのKOHエタノール溶液を10mL加え、80℃で8時間ケン化分解を行った。過剰量の塩酸を加えて得られた試料を中和した後、ヘキサン40mLとイオン交換水20mLを加えて攪拌し、静置・分層した。
【0027】
ヘキサン層は、ヘキサンを留去した後、三フッ化ホウ素メタノール溶液を2mL加え、60℃で30分加熱してメチルエステル化し、ガスクロマトグラフィーを用いてモノカルボン酸を定量した。
【0028】
水層は、イオン交換水を減圧留去して105℃の恒温槽に1時間保管して乾燥した後、10mLのイソプロピルアルコールを用いてアルコールを抽出した。イソプロピルアルコールを留去し、定法に従いTMS化してガスクロマトグラフィーを用いてアルコールを定量した。
【0029】
色相: JOCS 2.2.1.4−1996に準拠して測定した。
酸価: JIS K−0070に準拠して測定した。
全酸価: JIS C−2101に準拠して測定した。
水酸基価: JIS K−0070に準拠して測定した。
【0030】
上記と同様の操作を用い、アルコールとカルボン酸の比率を変えて冷凍機油用エステルを合成し、得られた冷凍機油用エステルの組成分析を行った。組成分析の結果と、前述したR値、各冷凍機油用エステルの色相、酸価、水酸基価を表1にまとめた。
【0031】
【表1】
【0032】
各冷凍機油用エステルを、以下の方法に従って評価した。
(動粘度)
JIS K−2283に準拠して測定した。
(2層分離温度)
JIS K-2211に準拠し、R−32冷媒と冷凍機油用エステルの質量比が8:2となる条件で、低温領域での2層分離温度を測定した。得られた分離温度について、下記の基準に従い評価した。
◎:-35℃以下であるもの。
○:-35℃を越え-30℃以下であるもの。
△:-30℃を越え-20℃以下であるもの。
×:-20℃を越えるもの。
【0033】
(耐熱性試験(シールドチューブ試験))
肉厚パイレックス(登録商標)チューブ(全長300mm、外経10mm、内径6mm)に予め水分量を約1000ppmに調整した冷凍機油用エステルを2g、冷媒R−32を3g、及び長さ10mmの鉄、銅、およびアルミの金属片を各1枚ずつ封入し、封管した。これを200℃にて10日間加熱した後、開封して冷媒を抜き取り、JIS C−2101に準拠して酸価を測定した。得られた酸価について、下記の基準に従い評価した。
◎:0.05mgKOH/g以下であるもの。
○:0.05mgKOH/gを越え0.1mgKOH/g以下であるもの。
△:0.1mgKOH/gを越え0.15mgKOH/g以下であるもの。
×:0.15mgKOH/gを越えるもの。
【0034】
(潤滑性試験)
Falex試験ピン摩耗量:
ASTM D−2670に準拠して、冷凍機油用エステル中にR−32冷媒を150ml/分の割合で吹き込みつつ、Falex摩耗試験を行った。試料温度を100℃とし、150ポンドの荷重で1分間ならし運転した後に、300ポンドの荷重のもとで1時間運転し、運転終了後のピンの摩耗量を測定した。得られたピン摩耗量について、下記の基準に従い評価した。
◎:8.0mg以下であるもの。
○:8.0mgを越え10.0mg以下であるもの。
△:10.0mgを越え13.0mg以下であるもの。
×:13.0mgを越えるもの。
上記の評価結果を表2にまとめた。
【0035】
【表2】
【0036】
実施例1〜7に示すように、本発明によれば、R−32冷媒との相溶性に優れ、熱安定性と潤滑性に優れる冷凍機油用エステルを得ることが出来る。
【0037】
比較例1では、ジペンタエリスリトールの比率が高いが、潤滑性が劣る。
比較例2では、ジペンタエリスリトールの比率が低いが、耐熱性が劣る。
比較例3では、n−ペンタン酸の比率が低いが、潤滑性が劣る。
比較例4では、n−ペンタン酸の比率が高いが、耐熱性が劣り、また低温側での2層分離温度が高い。