(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
天然ゴム20〜45質量%、スチレンブタジエンゴム20〜45質量%およびブタジエンゴム20〜45質量%の合計100質量%からなるジエン系ゴム100質量部に、無機フィラーを80〜100質量部および炭素数7〜20のアルキル基を有するアルキルシランを0.5〜5質量部配合してなるゴム組成物であって、23℃のゴム硬度が68以上であるタイヤ用ゴム組成物で形成されたトレッド部を有する空気入りタイヤであって、
前記トレッド部にタイヤ周方向に延びる一対の内側主溝及び一対の外側主溝を含む4本の主溝が設けられ、これら主溝によりセンター陸部と該センター陸部の外側に位置する一対の中間陸部と該中間陸部の外側に位置する一対のショルダー陸部とが区画され、
前記センター陸部、前記中間陸部及び前記ショルダー陸部の各々にタイヤ周方向に間隔をおいて複数本のサイプが設けられ、前記センター陸部のサイプはその一方の端部に溝幅が広く形成された拡幅部を有し、前記ショルダー陸部のサイプは接地端のタイヤ幅方向外側から前記外側主溝の側に向かって延在し、前記センター陸部及び前記ショルダー陸部のサイプのタイヤ周方向に対する向きが前記中間陸部のサイプとは逆向きであることを特徴とする空気入りタイヤ。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明のタイヤ用ゴム組成物は、ジエン系ゴムとして、天然ゴム、スチレンブタジエンゴム及びブタジエンゴムを含み、これらの合計が、ジエン系ゴム100質量%になる。
天然ゴムは、通常タイヤ用ゴム組成物に用いられるものであれば特に制限されるものではない。天然ゴムを含むことにより、雪上性能をより優れたものにすることができる。天然ゴムの含有量は、ジエン系ゴム100質量%中、20〜45質量%、好ましくは25〜40質量%である。天然ゴムが20質量%未満であると、雪上性能を十分に改良することができない。また45質量%を超えると、ウェット操縦安定性能を十分に改良することができない。
【0015】
ブタジエンゴムは、通常タイヤ用ゴム組成物に用いられるものであれば特に制限されるものではなく、未変性のブタジエンゴム、変性ブタジエンゴムのいずれでもよい。ブタジエンゴムは、ガラス転移温度が低いため、タイヤ用ゴム組成物に配合することにより、雪上性能を改良することができる。しかし、ブタジエンゴムを配合するとシリカを含む無機フィラーの分散性が悪化する虞があり、これによりドライ操縦安定性能、ウェット操縦安定性能および低転がり抵抗性が十分に改良されないことがある。これに対し、本発明の構成にすることにより、ブタジエンゴムの存在下でもシリカを含む無機フィラーの分散性を良好にし、ドライ操縦安定性能、ウェット操縦安定性能、低転がり抵抗性および雪上性能のバランスを優れたものにすることができる。
【0016】
ブタジエンゴムの含有量は、ジエン系ゴム100質量%中、20〜45質量%、好ましくは25〜40質量%である。ブタジエンゴムが20質量%未満であると、雪上性能が低下する。また、−10℃の貯蔵弾性率E′が過大になる。ブタジエンゴムが45質量%を超えると、ウェット操縦安定性能が低下する。
【0017】
スチレンブタジエンゴムは、末端が変性された変性スチレンブタジエンゴム、未変性のスチレンブタジエンゴムのいずれでもよい。好ましくは変性スチレンブタジエンゴムがよく、ウェット操縦安定性能および雪上性能をより優れたものにすることができる。
【0018】
スチレンブタジエンゴムの含有量は、ジエン系ゴム100質量%中、20〜45質量%、好ましくは25〜40質量%である。スチレンブタジエンゴムが20質量%未満であると、ウェット操縦安定性能が低下する。スチレン能ブタジエンゴムが45質量%を超えると、雪上性能を十分に改良することができない。
【0019】
好ましい変性スチレンブタジエンゴムが有する変性基の種類は、特に限定されるものではないが、例えばエポキシ基、カルボキシ基、アミノ基、ヒドロキシ基、アルコキシ基、シリル基、アルコキシシリル基、アミド基、オキシシリル基、シラノール基、イソシアネート基、イソチオシアネート基、カルボニル基、アルデヒド基、等が挙げられる。好ましくは、アルコキシシリル基、アミノ基、ヒドロキシ基、アルコキシ基、シリル基、アミノシリル基、グリシジル基、等がよい。
【0020】
タイヤ用ゴム組成物は無機フィラーが配合される。無機フィラーとしてシリカおよびカーボンブラックが挙げられる。無機フィラーを配合することにより、ゴム組成物のゴム硬度を高くし、空気入りタイヤにしたとき、操縦安定性を優れたものにすることができる。無機フィラーは、ジエン系ゴム100質量部に対し、80〜100質量部、好ましくは95質量部以下、より好ましくは83〜94質量部配合する。無機フィラーが80質量部未満であると、ゴム硬度が低くなり、ドライ操縦安定性能およびウェット操縦安定性能を十分に改良することができない。100質量部を超えると、転がり抵抗が大きくなり、雪上性能が低下する。また、−10℃の貯蔵弾性率E′が過大になる。また無機フィラーを95質量部以下にすることにより、転がり抵抗を一層小さくすることができる。
【0021】
無機フィラーは、シリカおよびカーボンブラックを含有することができる。シリカおよびカーボンブラックを配合することにより、ゴム硬度を高くし、かつ転がり抵抗を小さくすることができる。シリカの配合量(Ms)およびカーボンブラックの配合量(Mc)の合計(Ms+Mc)は、ジエン系ゴム100質量部に対し好ましくは80〜100質量部、より好ましくは95質量部以下、さらに好ましくは83〜94質量部である。また、カーボンブラックの配合量(Mc)に対するシリカの配合量(Ms)の質量比(Ms/Mc)は、好ましくは2.5〜19、より好ましくは3.0〜18である。質量比(Ms/Mc)が2.5未満であると、転がり抵抗を十分に小さくすることができない。また19を超えると、ドライ操縦安定性能を十分に改良することができない。
【0022】
シリカとして、例えば湿式シリカ(含水ケイ酸)、乾式シリカ(無水ケイ酸)、ケイ酸カルシウム、ケイ酸アルミニウム等が挙げられ、これらを単独または2種以上を組合わせて使用してもよい。またシリカの表面をシランカップリング剤により表面処理が施された表面処理シリカを使用してもよい。
【0023】
シリカのCTAB吸着比表面積は、特に制限されるものではないが、好ましくは140〜300m
2/g、より好ましくは160〜260m
2/gであるとよい。シリカのCTAB吸着比表面積を140m
2/g以上にすることにより、ゴム組成物のウェット操縦安定性能を確保することができる。またシリカのCTAB吸着比表面積を300m
2/g以下にすることにより、ドライ操縦安定性能、ウェット操縦安定性能および低転がり抵抗性を良好にすることができる。本明細書において、シリカのCTAB吸着比表面積は、ISO 5794により測定された値とする。
【0024】
カーボンブラックは、窒素吸着比表面積(N
2SA)が好ましくは50〜180m
2/g、より好ましくは70〜160m
2/gであるとよい。カーボンブラックの窒素吸着比表面積が50m
2/g未満であると、ドライ操縦安定性能を十分に改良することができない。また180m
2/gを超えると、転がり抵抗を十分に小さくすることができない。本明細書においてカーボンブラックの窒素吸着比表面積は、JIS K6217−2により測定された値とする。
【0025】
タイヤ用ゴム組成物は、シリカおよびカーボンブラック以外の他の充填剤を配合することができる。他の充填材として、例えば、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、タルク、クレー、アルミナ、水酸化アルミニウム、酸化チタン、硫酸カルシウムを挙げることができる。これら他の充填剤は単独または2種以上を組合わせて使用してもよい。
【0026】
タイヤ用ゴム組成物は、シリカと共にシランカップリング剤を配合することが好ましい。シランカップリング剤により、シリカの分散性を改良することができる。シランカップリング剤の配合量は、好ましくはシリカ重量の4〜16重量%、より好ましくは5〜15重量%であるとよい。シランカップリング剤の配合量が4重量%未満では、シリカの分散性を十分に改良することができない虞がある。シランカップリング剤の配合量が20重量%を超えると、ゴム組成物が早期加硫を起こしやすくなり成形加工性が悪化する虞がある。
【0027】
シランカップリング剤としては、タイヤ用ゴム組成物に使用可能なものであれば特に制限されるものではないが、例えば、ビス−(3−トリエトキシシリルプロピル)テトラサルファイド、ビス(3−トリエトキシシリルプロピル)ジサルファイド、3−トリメトキシシリルプロピルベンゾチアゾールテトラサルファイド、γ−メルカプトプロピルトリエトキシシラン、3−オクタノイルチオプロピルトリエトキシシラン等の硫黄含有シランカップリング剤を例示することができる。なかでもメルカプト基を有するシランカップリング剤が好ましく、シリカとの親和性を高くしその分散性を改良することができる。これらシランカップリング剤は、単独で配合してもよいし、複数を組合わせて配合してもよい。
【0028】
また、タイヤ用ゴム組成物は、炭素数3〜20のアルキル基を有するアルキルシランを配合することにより、シリカの分散を促進し、ウェット性能と氷雪性能を向上させることができる。アルキルシランは、炭素数7〜20のアルキル基を有するアルキルトリエトキシシランが好ましい。炭素数7〜20のアルキル基として、ヘプチル基、オクチル基、ノニル基、デシル基、ウンデシル基、ドデシル基、トリデシル基、テトラデシル基、ペンタデシル基、ヘキサデシル基、ヘプタデシル基、オクタデシル基、ノナデシル基、イコシル基が挙げられる。なかでもジエン系ゴムとの相溶性の観点から、炭素数8〜10のアルキル基がより好ましく、オクチル基、ノニル基がさらに好ましい。
【0029】
アルキルシランの配合量は、シリカ重量に対し、好ましくは1〜20重量%、より好ましくは2〜15重量%にすると良い。
【0030】
タイヤ用ゴム組成物は、−10℃の貯蔵弾性率E′が好ましくは45MPa以下、より好ましくは25〜43MPaであるとよい。−10℃の貯蔵弾性率E′を45MPa以下にすることにより、雪上性能をより優れたものにすることができる。本明細書において、−10℃の貯蔵弾性率E′は、粘弾性スペクトロメーターを用いて、伸張変形歪率10±2%、振動数20Hz、-10℃の条件にて測定された値とする。
【0031】
タイヤ用ゴム組成物は、加硫又は架橋剤、加硫促進剤、老化防止剤、可塑剤、加工助剤、液状ポリマー、テルペン系樹脂、熱硬化性樹脂などのタイヤ用ゴム組成物に一般的に使用される各種添加剤を、本発明の目的を阻害しない範囲内で配合することができる。またかかる添加剤は一般的な方法で混練してゴム組成物とし、加硫又は架橋するのに使用することができる。これらの添加剤の配合量は本発明の目的に反しない限り、従来の一般的な配合量とすることができる。
【0032】
タイヤ用ゴム組成物は、例えば空気入りタイヤのトレッド部、サイド部を成形するのに好適に使用され、ドライ操縦安定性能、ウェット操縦安定性能、低転がり抵抗性および雪上性能において高次元の優れたバランスを有するオールシーズンタイヤにすることができる。
【0033】
以下、好適な空気りタイヤの構成について添付の図面を参照しながら詳細に説明する。
図1〜3は本発明の実施形態からなる空気入りタイヤを示すものである。なお、
図2及び
図3において、Tcはタイヤ周方向、Twはタイヤ幅方向を示している。
【0034】
図1に示すように、本発明の実施形態からなる空気入りタイヤは、タイヤ周方向に延在して環状をなすトレッド部1と、該トレッド部1の両側に配置された一対のサイドウォール部2,2と、これらサイドウォール部2のタイヤ径方向内側に配置された一対のビード部3,3とを備えている。
【0035】
一対のビード部3,3間にはカーカス層4が装架されている。このカーカス層4は、タイヤ径方向に延びる複数本の補強コードを含み、各ビード部3に配置されたビードコア5の廻りにタイヤ内側から外側へ折り返されている。ビードコア5の外周上には断面三角形状のゴム組成物からなるビードフィラー6が配置されている。
【0036】
一方、トレッド部1におけるカーカス層4の外周側には複数層のベルト層7が埋設されている。これらベルト層7はタイヤ周方向に対して傾斜する複数本の補強コードを含み、かつ層間で補強コードが互いに交差するように配置されている。ベルト層7において、補強コードのタイヤ周方向に対する傾斜角度は例えば10°〜40°の範囲に設定されている。ベルト層7の補強コードとしては、スチールコードが好ましく使用される。ベルト層7の外周側には、高速耐久性の向上を目的として、補強コードをタイヤ周方向に対して例えば5°以下の角度で配列してなる少なくとも1層のベルトカバー層8が配置されている。ベルトカバー層8の補強コードとしては、ナイロンやアラミド等の有機繊維コードが好ましく使用される。
【0037】
なお、上述したタイヤ内部構造は空気入りタイヤにおける代表的な例を示すものであるが、これに限定されるものではない。
【0038】
図2に示すように、トレッド部1には、タイヤ周方向に延びる4本の主溝9が形成されている。主溝9は、タイヤ中心線CLの両側に位置する一対の内側主溝9A,9Aと、タイヤ幅方向最外側に位置する一対の外側主溝9B,9Bとを含んでいる。これら4本の主溝9により、トレッド部1には陸部10が区画されている。陸部10は、タイヤ中心線CL上に位置するセンター陸部10Aと、センター陸部10Aのタイヤ幅方向外側に位置する一対の中間陸部10B,10Bと、各中間陸部10Bのタイヤ幅方向外側に位置する一対のショルダー陸部10C,10Cとを含んでいる。
【0039】
センター陸部10A、中間陸部10B及びショルダー陸部10Cには、タイヤ周方向に間隔をおいて複数本のサイプ11,12,13がそれぞれ形成されている。また、中間陸部10B及びショルダー陸部10Cには、タイヤ周方向に対して傾斜する複数本のラグ溝21,24がそれぞれタイヤ周方向に間隔をおいて形成されている。
【0040】
センター陸部10Aのサイプ11は、両端部の各々が一対の内側主溝9A,9Aに対して連通している。即ち、サイプ11はオープンサイプである。サイプ11は、エッジ成分を増やすために、溝幅が広く形成された単一の拡幅部14を有している。この拡幅部14はサイプ11の一方側に対して配置され、サイプ11は拡幅部14を介して内側主溝9Aに対して連通する構造を有している。このようなサイプ11がタイヤ周方向に交互に配置されている。
【0041】
中間陸部10Bのサイプ12は、一方の端部が内側主溝9Aに対して連通し、他方の端部が外側主溝9Bに対して連通している。即ち、サイプ12はオープンサイプである。このサイプ12はラグ溝21の存在により複数の部位に分割された構造を有するが、同一のサイプ12におけるそれぞれの分割された部位は互いに同一直線上に配置されている。
【0042】
ショルダー陸部10Cのサイプ13は、両端部がショルダー陸部10C内で終端している。即ち、サイプ13はクローズドサイプである。サイプ13は、雪上性能を向上させるため、接地端Eのタイヤ幅方向外側から外側主溝9Bに向かって延在している。
【0043】
このようなセンター陸部10Aのサイプ11、中間陸部10Bのサイプ12及びショルダー陸部10Cのサイプ13はいずれもタイヤ周方向に対して傾斜している。これらサイプ11〜13はタイヤ周方向に対して同一方向には傾斜していない。即ち、センター陸部10Aのサイプ11及びショルダー陸部10Cのサイプ13のタイヤ周方向に対する向きは同じである一方で、中間陸部10Bのサイプ12のタイヤ周方向に対する向きはサイプ11,13とは逆向きである。
【0044】
これらサイプ11〜13において、タイヤ周方向に対する傾斜角度をθとする。このとき、センター陸部10Aのサイプ11の傾斜角度θ
CEと、中間陸部10Bのサイプ12の傾斜角度θ
MDと、ショルダー陸部10Cのサイプ13の傾斜角度θ
SHとはθ
CE<θ
MD<θ
SH<90°の関係を満たすことができる。このようにショルダー陸部10Cのサイプ13はタイヤ周方向に対して略直角に設定されている。特に、傾斜角度θ
CEは、60°〜75°の範囲にあり、傾斜角度θ
MDは70°〜85°の範囲にあり、傾斜角度θ
SHは83°〜88°の範囲にあることが好ましい。或いは、傾斜角度θ
MDに対する傾斜角度θ
CEの比率は85%〜95%の範囲にあり、傾斜角度θ
SHに対する傾斜角度θ
MDの比率は80%〜95%の範囲にあることが好ましい。なお、傾斜角度θは、サイプのタイヤ周方向に対する鋭角側の傾斜角度とする。
【0045】
図3に示すように、中間陸部10Bのサイプ12における内側主溝9Aの側の端部12aは、センター陸部10Aのタイヤ周方向に隣接するサイプ11における該内側主溝9Aの側の端部11aの間に配置されるのが好ましい。即ち、各サイプ12の端部12aは、内側主溝9Aを挟んで対向するタイヤ周方向の区間S内に配置されるとよい。また、タイヤ全周のいずれの位置においてもタイヤ子午線上にセンター陸部10Aのサイプ11及び中間陸部10Bのサイプ12の少なくとも一方が存在するとよい。言い換えれば、トレッド部1をタイヤ幅方向に沿って切り欠いて見ると、センター陸部10Aのサイプ11と中間陸部10Bのサイプ12とは互いにタイヤ周方向に重なるように配置されるのがよい。
【0046】
上述した空気入りタイヤでは、センター陸部10A、中間陸部10B及びショルダー陸部10Cの各々にタイヤ周方向に間隔をおいて複数本のサイプ11〜13が設けられ、センター陸部10Aのサイプ11はその一方の端部に溝幅が広く形成された拡幅部14を有し、ショルダー陸部10Cのサイプ13は接地端Eのタイヤ幅方向外側から外側主溝9Bに向かって延在しているので、エッジ成分を効率的に増やしながら、雪上性能(特に、雪上路面での操縦安定性能)を向上させることができる。また、センター陸部10A及びショルダー陸部10Cのサイプ11,13のタイヤ周方向に対する向きが中間陸部10Bのサイプ12とは逆向きであるので接地前端線に対して各陸部10A〜10Cのサイプ11〜13が適切に作用すると共に、傾斜角度θ
CEと傾斜角度θ
MDと傾斜角度θ
SHとはθ
CE<θ
MD<θ
SH<90°の関係を満たしているので、雪上性能を向上させながらパターンノイズの発生を抑制することができる。更に、中間陸部10Bのサイプ12の端部12aはセンター陸部10Aのタイヤ周方向に隣接するサイプ11の端部11aの間に配置され、タイヤ全周のいずれの位置においてもタイヤ子午線上にセンター陸部10Aのサイプ11及び中間陸部10Bのサイプ12の少なくとも一方が存在しているので、接地前端線での溝面積の変動を抑制することができ、パターンノイズの発生を低減させることに寄与する。
【0047】
図2において、ショルダー陸部10Cのサイプ13は、外側主溝9Bに対して非連通である。サイプ13がこのような構造を有することで、ショルダー陸部10Cにおけるブロック剛性の低下を抑制し、パターンノイズの発生を効果的に抑制することができる。これに対して、ショルダー陸部10Cのサイプ13を外側主溝9Bに連通させた場合、ブロック剛性の低下を招き、パターンノイズの悪化に繋がるため好ましくない。
【0048】
また、センター陸部10Aの幅W1と、中間陸部10Bの幅W2と、ショルダー陸部10Cの接地領域内での幅W3とはW1<W2<W3の関係を満たすように構成されている。このような関係を満たすように各陸部10A〜10Cの幅W1〜W3を設定することで、スノー制動及びスノートラクションの向上に寄与するエッジ成分を増やすことができ、雪上性能を効果的に改善することができる。なお、ショルダー陸部10Cの接地領域内での幅W3は、具体的に、ショルダー陸部10Cの外側主溝9Bの側の端部から接地端Eまでの幅である。
【0049】
更に、中間陸部10Bのラグ溝21は、一方の端部21aが外側主溝9Bに開口する一方で、他方の端部21bが中間陸部10B内で終端している。ラグ溝21の各々は、サイプ12と交差しながら、タイヤ周方向に互いに重ならずに配置されている。特に、雪上性の向上のため、ラグ溝21は複数本のサイプ12と交差していると良い。また、ラグ溝21は、一方の端部21aと他方の端部21bの中途位置において鋭角状に形成された屈曲部22を有している。一方、ショルダー陸部10Cのラグ溝24は、外側主溝9Bに対して非連通である。ショルダー陸部10Cのラグ溝24は、接地端Eのタイヤ幅方向外側から外側主溝9Bに向かって延在している。
【0050】
上述のように、中間陸部10Bに、中間陸部10Bのサイプ12と交差しながらタイヤ周方向に延在する複数本のラグ溝21が設けられていることで、雪上性能を向上させることができると共に、接地前端線での溝面積の変動を低減することができる。また、これらラグ溝21は、一方の端部21aが外側主溝9Bに開口する一方で他方の端部21bが中間陸部10B内で終端しているので、パターンノイズの発生を抑制することができる。更に、中間陸部10Bのラグ溝21の各々は鋭角な屈曲部22を有することで、エッジ成分を増やすことができ、雪上性能を効果的に抑制することができる。
【0051】
上述した
図2及び
図3の実施形態では、センター陸部10Aのサイプ11及び中間陸部10Bのサイプ12として、両端部が主溝9に対して連通するオープンサイプの例を示したが、一方の端部が主溝9に対して非連通であるセミクローズドサイプ、或いは、両端部が主溝9に対して非連通であるクローズドサイプの構造を採用することもできる。
【0052】
上述した
図2の実施形態では、ラグ溝24が外側主溝9Bに対して非連通である例を示したが、ラグ溝24が別のサイプを介して外側主溝9Bに対して連通した構造を採用することもできる。この場合、別のサイプは、ラグ溝24における外側主溝9Bの側の端部と外側主溝9Bとの間に、タイヤ幅方向に沿って延在するサイプである。
【0053】
以下、実施例によって本発明をさらに説明するが、本発明の範囲はこれらの実施例に限定されるものではない。
【実施例】
【0054】
表3に示す配合剤を共通配合とし、表1,2に示す配合からなる19種類のタイヤ用ゴム組成物(実施例1〜8、標準例、比較例1〜10)を、硫黄および加硫促進剤を除く成分を、1.7Lの密閉式バンバリーミキサーで5分間混練りした後、ミキサーから放出して室温冷却した。これを1.7Lの密閉式バンバリーミキサーに投入し、硫黄および加硫促進剤を加えて混合することにより、タイヤ用ゴム組成物を調製した。なお表1のスチレンブタジエンゴム(SBR)の欄に、製品の配合量に加え、括弧内に油展成分を除く正味のSBRの配合量を記載した。また表3に記載した配合剤の配合量は、表1,2に記載したジエン系ゴム100質量部に対する質量部で示した。
【0055】
得られたタイヤ用ゴム組成物を所定の金型を使用し160℃で20分間プレス加硫して試験片を作製し、以下に示す試験方法で23℃のゴム硬度および−10℃の貯蔵弾性率E′を測定し、表1,2に示した。
【0056】
23℃のゴム硬度
試験片のゴム硬度を、JIS K 6253に準拠しデュロメータのタイプAにより23℃で測定した。
【0057】
−10℃の貯蔵弾性率E′
得られた試験片の動的粘弾性を、岩本製作所社製粘弾性スペクトロメーターを用いて、伸長変形歪率10%±2%、周波数20Hz、温度−10℃で測定し、貯蔵弾性率E′(−10℃)を測定した。
【0058】
上記で得られたタイヤ用ゴム組成物をトレッドゴムに使用した19種類のオールシーズンタイヤ(タイヤサイズ195/65R15)を加硫成形し、以下に示す試験方法でドライ操縦安定性能、ウェット操縦安定性能、雪上性能および転がり抵抗性を測定した。上述のオールシーズンタイヤのトレッドパターンは、タイヤ周方向に延びる一対の内側主溝及び一対の外側主溝を含む4本の主溝が設けられ、これら主溝によりセンター陸部と該センター陸部の外側に位置する一対の中間陸部と該中間陸部の外側に位置する一対のショルダー陸部とが区画された空気入りタイヤにおいて、前記センター陸部、前記中間陸部及び前記ショルダー陸部の各々にタイヤ周方向に間隔をおいて複数本のサイプが設けられ、前記センター陸部のサイプはその一方の端部に溝幅が広く形成された拡幅部を有し、前記ショルダー陸部のサイプは接地端のタイヤ幅方向外側から前記外側主溝の側に向かって延在し、前記センター陸部及び前記ショルダー陸部のサイプのタイヤ周方向に対する向きが前記中間陸部のサイプとは逆向きであり、前記センター陸部のサイプのタイヤ周方向に対する傾斜角度θ
CEと、前記中間陸部のサイプのタイヤ周方向に対する傾斜角度θ
MDと、前記ショルダー陸部のサイプのタイヤ周方向に対する傾斜角度θ
SHとがθ
CE<θ
MD<θ
SH<90°の関係を満たし、前記中間陸部のサイプにおける前記内側主溝の側の端部が前記センター陸部のタイヤ周方向に隣接するサイプの端部の間に配置され、タイヤ全周のいずれの位置においてもタイヤ子午線上に前記センター陸部のサイプ及び前記中間陸部のサイプの少なくとも一方が存在するものとした。
【0059】
ドライ操縦安定性能
上記で得られたタイヤ用ゴム組成物を標準リムに組み付け、空気圧250kPaを充填し、試験車両に装着した。試験車両を比較的凸凹の少ない乾燥路面上を走行させ、ハンドルをきったときの応答性を評点1〜5を付けて官能評価し、表1,2の「ドライ操縦安定性能」の欄に記載した。この指数が大きいほどドライ操縦安定性能が優れることを意味し、評点3が合格レベルとする。
【0060】
ウェット操縦安定性能
上記で得られたタイヤ用ゴム組成物を標準リムに組み付け、空気圧250kPaを充填し、試験車両に装着した。試験車両を比較的凸凹の少ない湿潤路面上を走行させ、ハンドルをきったときの応答性を評点1〜5を付けて官能評価し、表1,2の「ウェット操縦安定性能」の欄に記載した。この指数が大きいほどウェット操縦安定性能が優れることを意味し、評点3が合格レベルとする。
【0061】
雪上性能
上記で得られたタイヤ用ゴム組成物を標準リムに組み付け、空気圧250kPaを充填し、試験車両に装着した。試験車両を圧雪路面上を走行させ、ハンドルをきったときの応答性を評点1〜5を付けて官能評価し、表1,2の「雪上性能」の欄に記載した。この指数が大きいほど雪上グリップ性能が優れることを意味し、評点3が合格レベルとする。
【0062】
転がり抵抗
上記で得られたタイヤ用ゴム組成物を標準リムに組み付け、空気圧210kPaを充填し、ドラム径1707mmで、JIS D4230に準拠する室内ドラム試験機にかけて、試験荷重4.82kN、速度80km/時の抵抗力を測定し、転がり抵抗とした。得られた結果は、標準例の値を100にする指数として表1,2の「転がり抵抗」の欄に記載した。この指数が小さいほど転がり抵抗が小さく、指数が98以下であれば低転がり抵抗性が優れることを意味する。
【0063】
【表1】
【0064】
【表2】
【0065】
【表3】
【0066】
表3において、使用した原材料の種類は、以下の通りである。
・NR:天然ゴム、STR20
・SBR:変性スチレンブタジエンゴム、旭化成社製TUFDENE E581、スチレン量36%、ゴム100質量部に37.5質量部の油展品
・BR:ブタジエンゴム、タイシンセティック社製UBEPOL BR150
・カーボンブラック:THAI TOKAI CARBON社製N−134、窒素吸着比表面積が142m
2/g
・シリカ:EVONIK社製ULTRASIL 7000GR、CTAB吸着比表面積が158m
2/g
・カップリング剤:スルフィド系シランカップリング剤、Evonik Degussa社製Si69、ビス(トリエトキシシリルプロピル)テトラスルフィド
・アルキルシラン:信越化学工業社製KBE−3083、オクチルトリエトキシシラン
・アロマオイル:H&Rケミカル社製VIVATEC 500
・酸化亜鉛:正同化学工業社製酸化亜鉛3種
・ステアリン酸:日油社製ビーズステアリン酸
・老化防止剤−1:Solutia Europe社製SANTOFLEX 6PPD
・老化防止剤−2:NOCIL LIMITED社製PILNOX TDQ
・硫黄:鶴見化学工業社製金華印油入微粒硫黄(硫黄の含有量95.24質量%)
・加硫促進剤−1:大内新興化学工業社製ノクセラーCZ-G(CZ)
・加硫促進剤−2:住友化学社製ソクシノールD−G(DPG)
【0067】
表1,2から明らかなように実施例1〜10のゴム組成物により得られたタイヤ用ゴム組成物は、ドライ操縦安定性能、ウェット操縦安定性能、雪上性能および低転がり抵抗性に優れることが確認された。
【0068】
比較例1で得られたタイヤ用ゴム組成物は、アルキルシランを配合しないので、転がり抵抗が大きく、雪上性能が劣る。
比較例2のタイヤ用ゴム組成物は、正味のSBRの含有量が45質量部を超えるので、雪上性能が劣る。
比較例3のタイヤ用ゴム組成物は、正味のSBRの含有量が20未満であるので、転がり抵抗が大きく、ウェット操縦安定性能が劣る。
比較例4のタイヤ用ゴム組成物は、ブタジエンゴムの含有量が45質量部を超えるので、ウェット操縦安定性能が劣る。また転がり抵抗を十分に小さくすることができない。
比較例5のタイヤ用ゴム組成物は、ブタジエンゴムの含有量が20未満であるので、雪上性能が劣る。
比較例6のタイヤ用ゴム組成物は、天然ゴムの含有量が45質量部を超えるので、ウェット操縦安定性能が劣り、転がり抵抗を十分に改良できない。
比較例7のタイヤ用ゴム組成物は、天然ゴムの含有量が20未満であるので、雪上性能が劣る。
比較例8のタイヤ用ゴム組成物は、ゴム硬度が68未満であるので、ドライ操縦安定性能が劣る。
比較例9のタイヤ用ゴム組成物は、無機フィラーが100質量部を超えるので、転がり抵抗が大きく、雪上性能が劣る。
比較例10のタイヤ用ゴム組成物は、無機フィラーが80質量部未満、ゴム硬度が68未満なので、ドライ操縦安定性能およびウェット操縦安定性能を十分に改良することができない。