特許第6838600号(P6838600)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6838600
(24)【登録日】2021年2月16日
(45)【発行日】2021年3月3日
(54)【発明の名称】プレス加工装置及びプレス加工方法
(51)【国際特許分類】
   B21D 37/02 20060101AFI20210222BHJP
   B21D 24/16 20060101ALI20210222BHJP
   B21D 28/24 20060101ALI20210222BHJP
   B21D 19/08 20060101ALI20210222BHJP
【FI】
   B21D37/02 Z
   B21D24/16 A
   B21D28/24 D
   B21D19/08 B
【請求項の数】5
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2018-239945(P2018-239945)
(22)【出願日】2018年12月21日
(65)【公開番号】特開2020-99926(P2020-99926A)
(43)【公開日】2020年7月2日
【審査請求日】2019年11月20日
(73)【特許権者】
【識別番号】000002853
【氏名又は名称】ダイキン工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100101454
【弁理士】
【氏名又は名称】山田 卓二
(74)【代理人】
【識別番号】100084146
【弁理士】
【氏名又は名称】山崎 宏
(74)【代理人】
【識別番号】100176463
【弁理士】
【氏名又は名称】磯江 悦子
(74)【代理人】
【識別番号】100183232
【弁理士】
【氏名又は名称】山崎 敏行
(72)【発明者】
【氏名】中田 英樹
【審査官】 石田 宏之
(56)【参考文献】
【文献】 特開2012−166215(JP,A)
【文献】 特開2004−243344(JP,A)
【文献】 実開昭62−077622(JP,U)
【文献】 特開平06−099230(JP,A)
【文献】 特開平07−009045(JP,A)
【文献】 実開昭62−165017(JP,U)
【文献】 実開平02−059820(JP,U)
【文献】 実開昭56−105327(JP,U)
【文献】 実開昭61−004820(JP,U)
【文献】 特開昭57−160599(JP,A)
【文献】 米国特許第04480782(US,A)
【文献】 実開昭62−159926(JP,U)
【文献】 実開昭62−029829(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B21D 37/02
B21D 19/08
B21D 24/16
B21D 28/24
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
被加工物(2)を加圧するための第1状態と、上記被加工物(2)を加圧しないための第2状態とに切り替え可能なようにそれぞれ構成されている複数のセグメント(S1〜S7)に分割された成形面を有する金型(3)を備え、
上記複数のセグメント(S1〜S7)のうち少なくとも2つのセグメントを上記第1状態に切り替えて上記被加工物(2)をプレス加工でき
上記複数のセグメント(S1〜S8)は、上記被加工物(2)のうち予め定められた加工領域を加圧するように配置されており、
上記複数のセグメント(S1〜S7)のうち少なくとも2つのセグメントを上記第1状態に切り替えて上記被加工物(2)をプレス加工した後に、上記少なくとも2つのセグメントのうちの一部のセグメントを上記第1状態に維持するとともに、上記少なくとも2つのセグメントのうちの残りのセグメントを上記第2状態に切り替えて上記被加工物(2)をプレス加工して、上記被加工物(2)のうち上記一部のセグメントにより一度加圧された加工領域を上記一部のセグメントにより再度加圧することを特徴とする、プレス加工装置(1)。
【請求項2】
請求項に記載のプレス加工装置(1)であって、
上記複数のセグメント(S1〜S7)のうち、上記被加工物(2)の外周部分(2a)に隣接する部分に対応するセグメントを上記第1状態に切り替えて上記被加工物(2)をプレス加工するとき、上記被加工物(2)の上記外周部分(2a)にフランジを形成することを特徴とする、プレス加工装置(1)。
【請求項3】
請求項1又は2のいずれか1項に記載のプレス加工装置(1)であって、
上記被加工物(2)は、長方形状であり、
上記被加工物(2)の長手方向の両端部をプレス加工した後に、上記被加工物(2)の長手方向の中央部をプレス加工することを特徴とする、プレス加工装置(1)。
【請求項4】
請求項1からのいずれか1項に記載のプレス加工装置(1)であって、
最大成形荷重が、上記複数のセグメント(S1〜S7)の全部を上記第1状態に切り替えて上記被加工物(2)をプレス加工する場合に必要な成形荷重よりも小さく、かつ、上記複数のセグメント(S1〜S7)のうちの最大の加圧面積を有するセグメントを上記第1状態に切り替えて上記被加工物(2)をプレス加工する場合に必要な成形荷重よりも大きいことを特徴とする、プレス加工装置(1)。
【請求項5】
被加工物(2)を加圧するための第1状態と、上記被加工物(2)を加圧しないための第2状態とに切り替え可能なようにそれぞれ構成されている複数のセグメント(S1〜S7)に分割された成形面を有する金型(3)を備え、上記複数のセグメント(S1〜S8)は、上記被加工物(2)のうち予め定められた加工領域を加圧するように配置されているプレス加工装置(1)を用いたプレス加工方法において、
上記複数のセグメント(S1〜S7)のうち少なくとも2つのセグメントを上記第1状態に切り替えて上記被加工物(2)をプレス加工し、
上記複数のセグメント(S1〜S7)のうち少なくとも2つのセグメントを上記第1状態に切り替えて上記被加工物(2)をプレス加工した後に、上記少なくとも2つのセグメントのうちの一部のセグメントを上記第1状態に維持するとともに、上記少なくとも2つのセグメントのうちの残りのセグメントを上記第2状態に切り替えて上記被加工物(2)をプレス加工して、上記被加工物(2)のうち上記一部のセグメントにより一度加圧された加工領域を上記一部のセグメントにより再度加圧することを有することを特徴とする、プレス加工方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、プレス加工装置及びプレス加工方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来のプレス加工装置としては、1個のワークに対し、同一の金型で曲げ絞り成形と、胴突き成形(決め押し)を順に行うものがある(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2008−105094号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、上記従来のプレス加工装置では、ワークをプレス加工する金型の加工面積が大きい場合、ワークをプレス加工するときに発生する荷重が大きくなるので、加圧能力の高いプレス加工装置が必要となる。その結果、ワークをプレス加工するためのプレス加工装置が大型になるという問題がある。
【0005】
本開示の課題は、装置を小型化できるプレス加工装置及びそれを用いたプレス加工方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示に係るプレス加工装置は、
被加工物を加圧するための第1状態と、上記被加工物を加圧しないための第2状態とに切り替え可能なようにそれぞれ構成されている複数のセグメントに分割された成形面を有する金型を備え、
上記複数のセグメントのうち少なくとも2つのセグメントを上記第1状態に切り替えて上記被加工物をプレス加工でき
上記複数のセグメントは、上記被加工物のうち予め定められた加工領域を加圧するように配置されており、
上記複数のセグメントのうち少なくとも2つのセグメントを上記第1状態に切り替えて上記被加工物をプレス加工した後に、上記少なくとも2つのセグメントのうちの一部のセグメントを上記第1状態に維持するとともに、上記少なくとも2つのセグメントのうちの残りのセグメントを上記第2状態に切り替えて上記被加工物(2)をプレス加工して、上記被加工物のうち上記一部のセグメントにより一度加圧された加工領域を上記一部のセグメントにより再度加圧することを特徴とする。
【0007】
本開示によれば、被加工物をプレス加工できる第1状態と、上記被加工物をプレス加工できない第2状態とをセグメント毎に切り替えできるので、複数のセグメントのうちの一部のセグメントを第1状態に切り替えた場合、複数のセグメントの全部を第1状態に切り替えた場合の加圧面積よりも小さい加圧面積で被加工物をプレス加工できる。その結果、複数のセグメントのうちの一部のセグメントを第1状態に切り替えて被加工物をプレス加工する場合、複数のセグメントの全部を第1状態に切り替えて被加工物をプレス加工する場合と比較して、被加工物を成形するために必要なプレス加工装置の加圧能力を抑制できるので、プレス加工装置を小型化できる。また、少なくとも2つのセグメントを第1状態に切り替えて被加工物をプレス加工した後に、このプレス加工で用いたセグメントのうちの一部のセグメントを第1状態に維持して被加工物をプレス加工する。これにより、先のプレス加工で生じたスプリングバック量が、後のプレス加工で矯正されるので、寸法精度を向上できる。
【0010】
一実施形態のプレス加工装置は、
上記複数のセグメントのうち、上記被加工物の外周部分に隣接する部分に対応するセグメントを上記第1状態に切り替えて上記被加工物をプレス加工するとき、上記被加工物の上記外周部分にフランジを形成する。
【0011】
上記実施形態によれば、被加工物の外周部分に隣接する部分をプレス加工するときに、被加工物の外周部分にフランジを同時に形成できるので、被加工物をプレス加工する工程数が少なくなり生産効率を向上できる。
【0012】
一実施形態のプレス加工装置では、
上記被加工物は、長方形状であり、
上記被加工物の長手方向の両端部をプレス加工した後に、上記被加工物の長手方向の中央部をプレス加工する。
【0013】
上記実施形態によれば、被加工物の長手方向の両端部をプレス加工した後に、被加工物の長手方向の中央部をプレス加工することで、先のプレス加工によって被加工物の長手方向の両端部が成形されて強度が増すので、後のプレス加工によって生じるスプリングバック量を抑制できる。
【0014】
一実施形態のプレス加工装置は、
最大成形荷重が、上記複数のセグメントの全部を上記第1状態に切り替えて上記被加工物をプレス加工する場合に必要な成形荷重よりも小さく、かつ、上記複数のセグメントのうちの最大の加圧面積を有するセグメントを上記第1状態に切り替えて上記被加工物をプレス加工する場合に必要な成形荷重よりも大きい。
【0015】
上記実施形態によれば、最大成形荷重が複数のセグメントの全部を第1状態に切り替えて被加工物をプレス加工する場合に必要な成形荷重よりも小さいので、プレス加工装置の加圧能力を抑制でき、プレス加工装置を小型化できる。
【0016】
本開示の他の態様に係るプレス加工方法は、
被加工物を加圧するための第1状態と、上記被加工物を加圧しないための第2状態とに切り替え可能なようにそれぞれ構成されている複数のセグメントに分割された成形面を有する金型を備え、上記複数のセグメントは、上記被加工物のうち予め定められた加工領域を加圧するように配置されているプレス加工装置を用いたプレス加工方法において、
上記複数のセグメントのうち少なくとも2つのセグメントを上記第1状態に切り替えて上記被加工物をプレス加工し、
上記複数のセグメントのうち少なくとも2つのセグメントを上記第1状態に切り替えて上記被加工物をプレス加工した後に、上記少なくとも2つのセグメントのうちの一部のセグメントを上記第1状態に維持するとともに、上記少なくとも2つのセグメントのうちの残りのセグメントを上記第2状態に切り替えて上記被加工物をプレス加工して、上記被加工物のうち上記一部のセグメントにより一度加圧された加工領域を上記一部のセグメントにより再度加圧することを有することを特徴とする。

【0017】
本開示に係るプレス加工方法によれば、被加工物をプレス加工できる第1状態と、上記被加工物をプレス加工できない第2状態とを金型毎に切り替えできるので、複数のセグメントのうちの一部のセグメントを第1状態に切り替えた場合、複数のセグメントの全部を第1状態に切り替えた場合の加圧面積よりも小さい加圧面積で被加工物をプレス加工できる。その結果、複数のセグメントのうちの一部のセグメントを第1状態に切り替えた場合、複数のセグメントの全部を第1状態に切り替えて被加工物をプレス加工する場合と比較して、被加工物を成形するために必要なプレス加工装置の加圧能力を抑制できるので、プレス加工装置を小型化できる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】本開示の第1実施形態に係るプレス加工装置の模式図である。
図2】上記プレス加工装置の要部の模式図である。
図3】上記プレス加工装置を用いた抜き加工を説明するための模式図である。
図4】上記プレス加工装置を用いた絞り加工を説明するための模式図である。
図5】上記プレス加工装置の上金型を下方から見た模式図である。
図6】本開示の実施形態に係るプレス加工工程の第1工程を示す模式図である。
図7】本開示の実施形態に係るプレス加工工程の第2工程を示す模式図である。
図8】本開示の実施形態に係るプレス加工工程の第3工程を示す模式図である。
図9】本開示の実施形態に係るプレス加工工程の第4工程を示す模式図である。
図10】本開示の実施形態に係るプレス加工工程の第5工程を示す模式図である。
図11】本開示の実施形態に係るプレス加工工程におけるダイハイトに関する加工条件を説明するための図である。
図12】本開示の実施形態に係るプレス加工工程における荷重曲線である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本開示の実施形態に係るプレス加工装置及びプレス加工方法を添付図面を参照して説明する。
【0020】
図1は、本開示の実施形態に係るプレス加工装置1の模式図である。
【0021】
図1を参照すると、本実施形態に係るプレス加工装置1は、ベッド10と、ベッド10上に配置されたボルスタ11と、ベッド10から上方に延びた4本(図1では2本のみ示す)のアップライト12と、アップライト12によって支持されたクラウン13と、クラウン13の下方に設けられ、アップライト12に沿って昇降自在に設けられたスライド14とを備える。また、プレス加工装置1は、被加工物2を成形するための金型3を備える。プレス加工装置1の金型3は、スライド14の下面に取り付けられた上金型20と、ボルスタ11の上面に載置された下金型30とを有する。
【0022】
本実施形態のプレス加工装置1は、スライド14を駆動するための4つ(図1では2つのみ示す)の駆動機構15を備える。4つの駆動機構15は、サーボモータ15aと、サーボモータ15aの回転をボールねじによって直線運動に変換するサーボシリンダ15bとをそれぞれ備える。サーボシリンダ15bの下端は、スライド14の上面に接続されており、サーボモータ15aが回転すると、スライド14が昇降する。本実施形態のプレス加工装置1は、いわゆる4軸制御のサーボプレスである。また、本実施形態の4つの駆動機構15は、それぞれ20tonの加圧能力を有する。すなわち、本実施形態のプレス加工装置1は、80tonの加圧能力を有する。
【0023】
図2は、本実施形態に係るプレス加工装置1の要部を示す模式図である。本実施形態のプレス加工装置1は、抜き加工、穴抜き加工、曲げ加工、及び絞り加工などが実行できるように構成されている。図3は、本実施形態のプレス加工装置1を用いた抜き加工を説明するための模式図である。また、図4は、本実施形態のプレス加工装置1を用いた絞り加工を説明するための模式図である。なお、図2から図4は、プレス加工装置1がプレス加工を行うときの金型3の動作を説明するためのものであり、金型3を模式的に示しているため、図5図10で説明する金型3の構造とは異なる。
【0024】
図2を参照すると、プレス加工装置1の上金型20は、スライド14(図1に示す)の下面に取り付けられた上ダイセット21と、上ダイセット21に取り付けられたホルダ22A,22Bと、上ダイセット21に取り付けられたスペーサ23とを備える。また、上金型20は、その成形面が複数のセグメントに分割されるように構成されている。具体的には、上金型20は、絞りダイ24と、抜きパンチ25と、パッド26とを備える。絞りダイ24と、抜きパンチ25とは、ホルダ22A,22Bを介して上ダイセット21に取り付けられている。また、パッド26は、スプリング27を介してスペーサ23に取り付けられている。絞りダイ24と、抜きパンチ25と、パッド26とは、セグメントの一例である。
【0025】
また、上金型20は、上ダイセット21とホルダ22Aの間に配置されたカムブロック28Aと、カムブロック28Aを駆動するエアシリンダ29Aとを備える。エアシリンダ29Aが駆動して、カムブロック28Aが移動することで、絞りダイ24は、被加工物2を加圧するための第1状態と、被加工物2を加圧しないための第2状態とに切り替えられるように構成されている。具体的には、カムブロック28Aが絞りダイ24と上ダイセット21との間に介在しているとき、スライド14(図1に示す)が降下すると、スライド14からの加圧力が、上ダイセット21及びカムブロック28Aを介して、絞りダイ24に作用することで、絞りダイ24は被加工物2を加圧する。一方で、カムブロック28Aが絞りダイ24と上ダイセット21との間に介在していないとき、スライド14が降下しても、絞りダイ24にはスライド14からの加圧力が作用せず、絞りダイ24は被加工物2を加圧しない。
【0026】
また、上金型20は、ホルダ22Aとホルダ22Bの間に配置されたカムブロック28Bと、カムブロック28Bを駆動するエアシリンダ29Bとを備える。エアシリンダ29Bが駆動して、カムブロック28Bが移動することで、抜きパンチ25は、被加工物2を加圧する第1状態と、被加工物2を加圧しない第2状態とに切り替えられるように構成されている。具体的には、カムブロック28Bが抜きパンチ25とホルダ22Aとの間に介在しているとき、スライド14(図1に示す)が降下すると、スライド14からの加圧力が、上ダイセット21、ホルダ22A、及びカムブロック28Bを介して、抜きパンチ25に作用することで、抜きパンチ25は被加工物2を加圧する。一方で、カムブロック28Bが抜きパンチ25とホルダ22Aとの間に介在していないとき、スライド14が降下しても、抜きパンチ25にはスライド14からの加圧力が作用せず、抜きパンチ25は被加工物2を加圧しない。
【0027】
プレス加工装置1の下金型30は、下ダイセット31と、下ダイセット31の上面に載置された絞りパンチ32と、下ダイセット31に取り付けられたダイクッション33と、ダイクッション33に支持されたブランクホルダ34とを備える。絞りパンチ32は、上金型20のパッド26と対向する位置に配置されており、ブランクホルダ34は、上金型20の絞りダイ24と対向する位置に配置されている。ダイクッション33は、上下に直動可能なように構成されている。
【0028】
前述したように、図2では、プレス加工装置1を模式的に示しているため、図5図10で説明する金型3の構造とは異なる。すなわち、絞りダイ24、抜きパンチ25、パッド26、絞りパンチ32、ダイクッション33、及びブランクホルダ34の数や配置などはこれに限定されない。例えば、絞りダイ24、抜きパンチ25、パッド26、絞りパンチ32、ダイクッション33、及びブランクホルダ34は2つ以上あってもよい。また、例えば、上金型20が絞りパンチ32を備えてもよいし、下金型30が絞りダイ24を備えてもよい。また、プレス加工装置1は、上述した構成要素以外の構成要素を備えてもよい。
【0029】
図3を参照して、本実施形態のプレス加工装置1を用いて被加工物2を抜き加工する方法を説明する。前述したように、図3は、本実施形態に係るプレス加工装置1を用いた抜き加工を説明するための模式図である。図3において、図2の構成要素と同一の構成要素には、同一の符号を付して示す。
【0030】
図3に示すように、カムブロック28Aが上ダイセット21と絞りダイ24との間に介在しないように、エアシリンダ29Aを駆動する。一方で、カムブロック28Bがホルダ22Aと抜きパンチ25との間に介在するように、エアシリンダ29Bを駆動する。すなわち、絞りダイ24を被加工物2を加圧しないための第2状態に切り替えるとともに、抜きパンチ25を被加工物2を加圧するための第1状態に切り替える。この状態で、スライド14(図1に示す)を降下させると、抜きパンチ25とブランクホルダ34とによって、被加工物2にせん断力が作用して、被加工物2が抜きパンチ25とブランクホルダ34との間で破断する。すなわち、ブランクホルダ34は、抜きダイとして機能する。このとき、パッド26は、スプリング27によって絞りパンチ32に向かって付勢されることで、被加工物2を押さえるように働く。
【0031】
次に、図4を参照して、本実施形態のプレス加工装置1を用いて被加工物2を絞り加工する方法を説明する。前述したように、図4は、本実施形態に係るプレス加工装置1を用いた絞り加工を説明するための模式図である。図4において、図2の構成要素と同一の構成要素には、同一の符号を付して示す。
【0032】
図4に示すように、カムブロック28Aが上ダイセット21と絞りダイ24との間に介在するように、エアシリンダ29Aを駆動する。一方で、カムブロック28Bがホルダ22Aと抜きパンチ25との間に介在しないようにエアシリンダ29Bを駆動する。すなわち、絞りダイ24を被加工物2を加圧するための第1状態に切り替えるとともに、抜きパンチ25を被加工物2を加圧しないための第2状態に切り替える。この状態で、スライド14(図1に示す)を降下させると、絞りダイ24と絞りパンチ32とによって、被加工物2が絞り加工される。このとき、被加工物2の一部が絞りダイ24とブランクホルダ34との間に保持されるように、ダイクッション33は、絞りダイ24の降下にあわせて降下する。
【0033】
図5は、本実施形態の上金型20を下方から見た模式図である。
【0034】
図5を参照すると、本実施形態の上金型20は、空気調和機の室外機の底フレームを成形するためのものである。上記底フレームは、略長方形状の底面と、上記底面の外周から立ち上がるように形成されたフランジとを有する。上記底面には、上金型20の凹凸形状に対応する凹凸模様が形成されている。また、図示はしないが、本実施形態の下金型30(図1に示す)は、上金型20に対応する形状を有している。
【0035】
上金型20は、その成形面が複数のセグメントに分割されている。具体的には、上金型20は、上記底フレームの底面の長手方向の中央部を成形するための第1セグメントS1と、上記底フレームの底面の長手方向の一方側の端部を成形するための第2セグメントS2と、上記底フレーム底面の長手方向の他方側の端部を成形するための第3セグメントS3とを有する。なお、図5において、第1セグメントS1と第2セグメントS2との分割線L1と、第1セグメントS1と第3セグメントS3との分割線L2とを2点鎖線で示している。
【0036】
また、上金型20は、上記底フレームの外形抜き加工をするための第4セグメントS4及び第5セグメントS5と、上記底フレームの底面に穴抜き加工をするための第6セグメントS6と、上記底フレームの底面にバーリング加工をするための第7セグメントS7とを備える。なお、図5において、第1セグメントS1、第2セグメントS2、及び第3セグメントS3と、第4セグメントS4との分割線L3を2点鎖線で示している。
【0037】
本実施形態では、第1セグメントS1と第2セグメントS2と第3セグメントS3とは、絞りパンチであり、第4セグメントS4は抜きダイであり、第5セグメントS5と第6セグメントS6は抜きパンチである。また、第7セグメントS7は、バーリングパンチである。また、本実施形態の第1セグメントS1は、第1〜第7セグメントS1〜S7のうち最大の加圧面積を有する。
【0038】
また、第1〜第7セグメントS1〜S7の周囲を取り囲むように複数のエアシリンダ29が配置されている。本実施形態の第1〜第7セグメントS1〜S7は、それぞれに対応するエアシリンダ29によって、被加工物2(図1に示す)を加圧するための第1状態と、被加工物2を加圧しないための第2状態とに切り替えられるようにそれぞれ構成されている。
【0039】
以下、本実施形態のプレス加工装置を用いたプレス加工工程について説明する。図6図10は、本実施形態に係るプレス加工工程の第1工程〜第5工程の各工程をそれぞれ説明するための図である。図6図10では、上金型20を下方からみた模式図を用いて、各工程で第1状態に切り替えるセグメントをハッチングして示す。なお、本実施形態では、プレス加工工程の第1工程よりも前に図5の第4セグメントS4と第5セグメントS5とによって、被加工物2に外形抜き加工を行う。
【0040】
また、図11は、本実施形態に係るプレス加工工程でのダイハイトH(図1に示す)についての加工条件(スライドモーション)を説明するための図である。ここで、ダイハイトとは、スライド14(図1に示す)の下面からボルスタ11(図1に示す)の上面までの高さをいう。図11において、横軸は、プレス加工工程の開始からの加工時間を示し、縦軸は、ダイハイトH[mm]を示す。
【0041】
図6を参照すると、本実施形態に係るプレス加工工程の第1工程では、上金型20の第1セグメントS1と第2セグメントS2と第3セグメントS3とを第1状態に切り替えた状態で被加工物2を加圧する。このとき、図11に示すように、ダイハイトHがH0からH1に減少するように、スライド14(図1に示す)を降下させる。例えば、H0は、900mmであり、H1は、612mmである。
【0042】
また、本実施形態のプレス加工工程の第1工程では、被加工物2の加圧とともに、被加工物2の外周部分2aにフランジを形成する。具体的には、被加工物2の外周部分2aに隣接する第1セグメントS1と第2セグメントS2と第3セグメントS3とを第1状態に切り替えた状態で被加工物2を加圧するときに、分割線L3を基点として被加工物2の外周部分2aを曲げ加工して、被加工物2の外周部分2aを分割線L3を基点として立ち上げることでフランジを形成する。
【0043】
図11に示すように、第1工程の後、かつ第2工程の前に、ダイハイトHがH1からH2に増加するように、スライド14(図1に示す)を上昇させる。H2は、例えば、639mmである。
【0044】
次に、図7を参照すると、本実施形態に係るプレス加工工程の第2工程では、上金型20の長手方向の両端部に位置する第2セグメントS2と第3セグメントS3とを第1状態に維持するとともに、上金型20の長手方向の中央部に位置する第1セグメントS1を第2状態に切り替えて、被加工物2を加圧する。すなわち、第1工程で第1状態にあった第1〜第3セグメントS1〜S3のうちの第2セグメントS2と第3セグメントS3とを第1状態に維持するとともに、第1工程で第1状態にあった第1〜第3セグメントS1〜S3のうちの第1セグメントS1を第2状態にして、被加工物2を加圧する。言い換えれば、第2工程で加圧される被加工物2の加工領域は、第1工程で一度加圧されている。このとき、図11に示すように、ダイハイトHがH2からH3に減少するように、スライド14(図1に示す)を降下させる。H3は、例えば、610mmであり、第2工程の絞り深さは、第1工程の絞り深さよりも深い。
【0045】
図11に示すように、第2工程の後、かつ第3工程の前に、ダイハイトHがH3からH2に増加するように、スライド14(図1に示す)を上昇させる。
【0046】
次に、図8を参照すると、本実施形態に係るプレス加工工程の第3工程では、上金型20の長手方向の中央部に位置する第1セグメントS1を第1状態に切り替えるとともに、上金型20の長手方向の両端部に位置する第2セグメントS2と第3セグメントS3とを第2状態に切り替えて、被加工物2を加圧する。すなわち、第1工程で第1状態にあった第1〜第3セグメントS1〜S3のうちの第1セグメントS1を第1状態にするとともに、第1工程で第1状態にあった第1〜第3セグメントS1〜S3のうちの第2セグメントS2及び第3セグメントS3を第2状態にして、被加工物2を加圧する。言い換えれば、第3工程で加圧される被加工物2の加工領域は、第1工程で一度加圧されている。このとき、図11に示すように、ダイハイトHがH2からH3に減少するように、スライド14(図1に示す)を降下させる。すなわち、第3工程の絞り深さは、第1工程の絞り深さよりも深い。
【0047】
図11に示すように、第3工程の後、かつ第4工程の前に、ダイハイトHがH3からH2に増加するように、スライド14(図1に示す)を上昇させる。
【0048】
次に、図9を参照すると、本実施形態に係るプレス加工工程の第4工程では、複数の第6セグメントS6を第1状態に切り替えるとともに、第1セグメントS1と第2セグメントS2と第3セグメントS3とを第2状態に切り替えて、被加工物2を加圧する。このとき、図11に示すように、ダイハイトHがH2からH1に減少するように、スライド14を降下させる。この第4工程によって、被加工物2に穴が形成される。
【0049】
図11に示すように、第4工程の後、かつ第5工程の前に、ダイハイトHがH1からH2に増加するように、スライド14(図1に示す)を上昇させる。
【0050】
最後に、図10を参照すると、本実施形態に係るプレス加工工程の第5工程では、第7セグメントS7を第1状態に切り替えるとともに、第1セグメントS1と第2セグメントS2と第3セグメントS3と第6セグメントS6とを第2状態にして、被加工物2を加圧する。このとき、図11に示すように、ダイハイトHがH2からH1に減少するように、スライド14を降下させる。この第5工程によって、被加工物2にねじ穴のためのバーリング形状が形成される。
【0051】
第5工程の後、図11に示すように、ダイハイトHがH1からH0に増加するように、スライド14(図1に示す)が上昇してプレス加工工程は終了する。
【0052】
図12は、本実施形態に係るプレス加工工程での荷重曲線である。図12において、横軸は、プレス加工工程の開始からの加工時間を示し、縦軸は、加圧力[ton]を示す。
【0053】
図12を参照すると、本実施形態に係る加工方法での加工工程において、最大成形荷重は、75ton程度である。なお、第1セグメントS1と第2セグメントS2と第3セグメントS3との全部を第1状態に切り替えて、ダイハイトHがH3となる高さまで、スライド14を降下させる場合、250ton程度の成形荷重が必要となる。すなわち、本実施形態のプレス加工工程における最大成形荷重は、被加工物2を1回のスライド工程で成形する場合に必要となる成形荷重と比較して、1/3程度に低減される。
【0054】
上記構成によれば、被加工物2を加圧するための第1状態と、被加工物2を加圧しないための第2状態とを第1〜第7セグメントS1〜S7毎に切り替えできるので、第1〜第7セグメントS1〜S7のうちの一部のセグメントを第1状態に切り替えて被加工物2をプレス加工する場合、第1〜第7セグメントS1〜S7の全部を第1状態に切り替えた場合の加圧面積よりも小さい加圧面積で被加工物2をプレス加工できる。その結果、第1〜第7セグメントS1〜S7の一部のセグメントを第1状態に切り替えて被加工物2をプレス加工する場合、第1〜第7セグメントS1〜S7の全部を第1状態に切り替えて被加工物2をプレス加工する場合と比較して、被加工物2を成形するために必要なプレス加工装置1の加圧能力を抑制できるので、プレス加工装置1を小型化できる。
【0055】
上記実施形態では、第1工程において第1〜第3セグメントS1〜S3を第1状態に切り替えて被加工物2をプレス加工した後に、第2工程において第1〜第3セグメントS1〜S3のうち第2セグメントS2と第3セグメントを第1状態に維持して被加工物2をプレス加工する。これにより、第1工程において第1〜第3セグメントS1〜S3を用いたプレス加工で生じたスプリングバック量が、第2工程において第2セグメントS2と第3セグメントS3とを用いたプレス加工で矯正されるので、寸法精度を向上できる。
【0056】
上記実施形態では、第1工程において第1〜第3セグメントS1〜S3を第1状態に切り替えて被加工物2をプレス加工した後に、第3工程において第1〜第3セグメントS1〜S3のうち第1セグメントS1を第1状態に切り替えて被加工物2をプレス加工する。これにより、第1工程において第1〜第3セグメントS1〜S3を用いたプレス加工で生じたスプリングバック量が、第3工程において第1セグメントS1を用いたプレス加工で矯正されるので、寸法精度を向上できる。
【0057】
上記実施形態によれば、被加工物2の外周部分2aに隣接する部分をプレス加工するときに、被加工物2の外周部分2aにフランジを同時に形成できるので、被加工物2をプレス加工する工程数が少なくなり生産効率を向上できる。
【0058】
上記実施形態によれば、第2工程で被加工物2の長手方向の両端部をプレス加工した後に、第3工程で被加工物2の長手方向の中央部をプレス加工することで、第2工程によって被加工物の長手方向の両端部が成形されて強度が増すため、第3工程によって生じるスプリングバック量を抑制できる。
【0059】
上記実施形態によれば、最大成形荷重が第1〜第7セグメントS1〜S7の全部を第1状態に切り替えて被加工物2をプレス加工する場合に必要な成形荷重よりも小さいので、プレス加工装置1の加圧能力を抑制でき、プレス加工装置1を小型化できる。
【0060】
また、上記実施形態のプレス加工方法によれば、被加工物2を加圧するための第1状態と、被加工物2を加圧しないための第2状態とを第1〜第7セグメントS1〜S7毎に切り替えできるので、第1〜第7セグメントS1〜S7のうちの一部のセグメントを第1状態に切り替えて被加工物2をプレス加工場合、第1〜第7セグメントS1〜S7の全部を第1状態に切り替えた場合の加圧面積よりも小さい加圧面積で被加工物2をプレス加工できる。その結果、第1〜第7セグメントS1〜S7の一部のセグメントを第1状態に切り替えて被加工物2をプレス加工する場合、第1〜第7セグメントS1〜S7の全部を第1状態に切り替えて被加工物2をプレス加工する場合と比較して、被加工物2を成形するために必要なプレス加工装置1の加圧能力を抑制できるので、プレス加工装置1を小型化できる。
【0061】
以上、実施形態を説明したが、特許請求の趣旨及び範囲から逸脱することなく、形態や詳細の多様な変更が可能なことが理解されるであろう。
【0062】
例えば、上記実施形態では、プレス加工装置は、サーボプレスであったが、これに限定されず、機械プレスや液圧プレスなどの他のプレス機械であってもよい。
【0063】
また、上記実施形態では、上金型20は、第1〜第7セグメントS1〜S7を有していたが、上金型20は、より少ないセグメントに分割されてもよいし、より多いセグメントに分割されてもよい。
【0064】
上記実施形態では、上金型20は、空気調和機の室外機の底フレームを成形するためのものであったが、これに限定されない。
【符号の説明】
【0065】
1…プレス加工装置
2…被加工物
2a…外周部分
3…金型
10…ベッド
11…ボルスタ
12…アップライト
13…クラウン
14…スライド
15…駆動機構
15a…サーボモータ
15b…サーボシリンダ
20…上金型
21…上ダイセット
22A,22B…ホルダ
23…スペーサ
24…絞りダイ
25…抜きパンチ
26…パッド
27…スプリング
28A,28B…カムブロック
29,29A,29B…エアシリンダ
30…下金型
31…下ダイセット
32…絞りパンチ
33…ダイクッション
34…ブランクホルダ
S1…第1セグメント
S2…第2セグメント
S3…第3セグメント
S4…第4セグメント
S5…第5セグメント
S6…第6セグメント
S7…第7セグメント
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12