(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記第3パターン形成ステップにおいて前記彩色材料に前記電磁波熱変換材料が含まれる場合は、当該第3パターン形成ステップは、前記第1膨張ステップの後であって、かつ、前記第2膨張ステップの前に行う、
ことを特徴とする請求項4に記載の構造物形成方法。
【発明を実施するための形態】
【0012】
<第1実施形態>
図1(a)〜(c)は、本発明の第1実施形態に係る構造物形成工程を示す断面図であり、
図2は、本発明の第1実施形態に係る構造物形成方法を説明するためのフローチャートである。各図面を参照しながら、本発明の実施形態の構造物形成用加工媒体M12、M12’、M12” 、M14’及び構造物M14”の形成方法について説明する。なお、本明細書では、媒体M11、加工媒体M12、M12’、M12” 、M14’の膨張層102を少なくともその厚さ方向に膨張させることによって、表面に凹凸が形成されたものを構造物M14”と称する。
【0013】
[構造物形成用加工媒体]
図1(a)に示す構造物形成用加工媒体(以下、単に「加工媒体」と記す)M12は、基材101と膨張層102とインク受容層103とが順に積層された媒体M11から加工されたものであり、膨張層102を加熱により膨張させる前の状態である。媒体M11は、膨張層102を加熱により膨張させる前は表面が平坦であり、印刷により表面に層を形成した場合であっても、膨張層102を加熱により膨張させない限り表面の平坦性は維持される。本明細書において、媒体の表面が平坦であるとは、表面が平坦な印刷媒体に印刷することを前提として設計された汎用的なインクジェット方式やレーザー方式のプリンタを用いた印刷によって、作成しようとする印刷物の本来の色合いが所望の印刷品質で再現できる程度に、媒体の表面が平滑であるか、又は媒体表面の凹凸が小さい或いは少ないことを意味する。また、媒体の表面に形成された凹凸の細かさや断面形状にかかわらず、媒体のインク吐出方向の厚み、即ち、媒体の表面に凹凸がある場合には媒体の裏面から凹凸の最も高い部分までの厚みが、例えば5mm以下であればその表面は平坦であると言う。
【0014】
基材101は、紙、キャンバス地などの布、プラスチックなどのパネル材などからなり、材質は特に限定されるものではない。
膨張層102は、基材101上に設けられた熱可塑性樹脂であるバインダー内に熱発泡剤(熱膨張性マイクロカプセル)が分散配置されている。これにより、膨張層102は、吸収した熱量(熱エネルギー)に応じて膨張する。
インク受容層103は、膨張層102の上面全体を覆うように、例えば、10μmの厚さに形成されている。インク受容層103は、インクジェット方式のプリンタに用いられる印刷用のインクやレーザー方式のプリンタに用いられる印刷用のトナー、ボールペンや万年筆のインク、鉛筆の黒鉛などを受容し、少なくともその表面に定着させるために好適な材料からなり、インクジェット用紙などに用いられている汎用的なインク受容層を用いることができる。なお、膨張層の表面に対して適切な加工処理(インク受容層の塗布処理等)を施すことによりインクを受容できるようにし、これを膨張層102としてもよく、この場合、インク受容層103は備えなくてよい。また、膨張層102のバインダー材料を、インクを受容できる材料により作製するようにしてもよい。インク受容層103は、表面の少なくとも一部が、後述する第1電磁波熱変換材料層104、及び、彩色材料層106によって覆われずに露出した状態とされている。これにより、インク受容層103の表面の露出された部分に、印刷用のインクやトナー、その他筆記具のインクなどにより、メッセージや図表、絵などを追記しやすくしておくことができる。
【0015】
インク受容層103と、第1電磁波熱変換材料層104、及び、彩色材料層106とが、それぞれ伸縮性を有する場合には、これらの層が膨張層102の膨張に追従して変形することで、インク受容層103と第1電磁波熱変換材料層104の間、及び、第1電磁波熱変換材料層104と彩色材料層106の間に隙間が生じにくくなる。このような隙間が生じると、後述する電磁波熱変換材料層104から膨張層102への熱伝導量が抑制されるおそれがあるため、インク受容層103、第1電磁波熱変換材料層104、及び、彩色材料層106は、伸縮性が比較的高いことが望ましい。
【0016】
[構造物形成方法]
以下に、実施形態に係る構造物形成方法について説明する。まず、上述の媒体M11を準備し、次いで、媒体M11の膨張層102が設けられた側の面である第1面11A、即ち、インク受容層103の上面において、膨張層102を膨張させたい部分のうち、その膨張により、細かいパターンである第1パターンに対応する凹凸を形成しようとする領域に、予め準備した第1パターン形成用画像データに基づいて、電磁波熱変換特性を有する電磁波熱変換材料としてのカーボンブラックを含む黒色インク(黒色材料)を、
図7に示す汎用的なインクジェットプリンタ部300を用いて、インクジェット方式により印刷することにより、第1電磁波熱変換材料層104を形成する(ステップS1:第1電磁波熱変換材料形成工程)。第1電磁波熱変換材料層104が形成された媒体M11を加工媒体M12と称する。第1電磁波熱変換材料層104は、媒体M11に含まれる、基材101、膨張層102、インク受容層103の各層の材料よりも、電磁波エネルギーを熱エネルギーに変換しやすい材料により形成される。第1パターン形成用画像データについて、詳しくは後述する。インクジェットプリンタ部300は、第1パターン形成用画像データにおいて座標毎に設定されたグレースケール値を読み取り、読取った値に基づいて、黒色材料(黒色インク)を、例えば、面積階調によりその濃度を制御しながら印刷する。
【0017】
媒体M11は膨張層102を膨張させる前であるので、表面が平坦な印刷媒体に印刷することを前提として設計された汎用的なインクジェット方式のプリンタを用いて、印刷により表現しようとする本来の色合いが高品位に再現された構造物を形成することができる。本明細書において、汎用的なプリンタとは、ある厚み(例えば0.5mm)以下の媒体に対しては、インク吐出方向のヘッド位置を変更することなく高品質に印刷を行うことができるように設計された一般的なプリンタのことである。このような汎用的なプリンタには、例えば、家庭用のインクジェットプリンタやオフィス用のレーザープリンタが含まれる。なお、媒体M11の印刷面が平坦ではない場合は、このような汎用的なインクジェット方式やレーザー方式のプリンタを用いると、印刷ができないか、又は、表面が平坦な媒体に印刷する場合に比べて、印刷品質が低下、即ち、作成しようとした本来の色合いが高品位に再現されなくなってしまう。
【0018】
ここで、一つの構造物を形成するために使用される複数の画像データについて、
図3乃至
図5を用いて説明する。
図3乃至
図5はそれぞれ、第1乃至第3の構造物を形成する際に用いられる複数の画像データを示す図である。
【0019】
図3(a)、
図4(a)、及び、
図5(a)は、古墳、微生物、及び、魚をそれぞれ表現する第1の構造物M14”、第2の構造物M14”、及び、第3の構造物M14”を形成する際に、媒体M11の膨張層102が設けられた側である第1面11Aに黒色材料を用いて形成される第1電磁波熱変換材料層104を平面視したときの、当該黒色材料の濃度分布を示す第1の画像(第1パターン)104Pを表す図である。第1の画像104Pは、形成する構造物M14”のうち細かいパターンに忠実に対応した凹凸を形成しようとする部分に対応させて、媒体M11の第1面11Aに形成される画像である。第1の画像104Pを特定する第1パターン形成用画像データは、当該画像104Pに対応する二次元座標の座標毎に設定されたグレースケール値を含むデータである。媒体M11等の第1面11Aに第1の画像104Pを形成する際には、このグレースケール値が大きい座標では、グレースケール値が小さい座標よりも高い濃度で、黒色材料が形成される。
【0020】
図3(a)の第1の画像104Pは、第1の構造物M14”によって表現しようとする古墳に関する情報を含む点字からなる第1部分104P1を表現している。
図4(a)の第1の画像104Pは、第2の構造物M14”によって表現しようとする微生物に関する情報を含む点字からなる第1部分104P1、及び、微生物のうち触覚や足といったように他の部分に比べて細かく描画しようとする第2部分104P2を表現している。
図5(a)の第1の画像104Pは、第3の構造物M14”によって表現しようとする魚に関する情報を含む点字からなる第1部分104P1、及び、魚の輪郭やひれといったように他の部分に比べて細かく描画しようとする第2部分104P2を表現している。いずれの場合も、第1部分104P1、及び、第2部分104P2の部分内においては均一のグレースケール値が設定されている。また、第1部分104P1の方は、第2部分104P2よりも大きいグレースケール値が設定されている。
【0021】
図3(a)、
図4(a)及び
図5(a)の第1の画像104Pの第1部分104P1を指定する第1部分用第1パターン形成用画像データは、
図4(a)及び
図5(a)の第1の画像104Pの第2部分104P2を指定する第2部分用第1パターン形成用画像データとは別の画像ファイル又は画像レイヤーとして管理される。また、第1部分用第1パターン形成用画像データは、次に述べる第2部分用第1パターン形成用画像データのように、予め準備される彩色画像である原画像を画像解析することにより生成されるものではなく、彩色画像とは独立した別の画像データとして予め準備される。
【0022】
図4(a)及び
図5(a)の第1の画像104Pの第2部分104P2は、予め準備される彩色画像である原画像を画像解析し、予め定めた条件の少なくとも一部を満たす部分(細かいパターン)を抽出し、抽出された部分に対して所望の均一のグレースケール値を設定することにより生成されたものである。上述の画像解析は、
図4(c)及び
図5(c)に示す各第3の画像106Pを原画像として行ってよい。また、画像解析の手法は、任意の既知の方法であってよい。上述の予め定めた条件とは、例えば、次のものが挙げられる。
【0023】
具体的には、複数のライン領域からなるストライプ柄である。換言すれば、各ライン領域内にのみ黒色材料が形成され、該ライン領域のそれぞれに隣接する領域には黒色材料が形成されないような部分であって、当該ストライプ柄の空間周波数が、後述する第2画像における黒色材料の濃度分布の空間周波数よりも小さいか、又は予め定めた空間周波数値よりも小さい部分のことである。
【0024】
また、具体的には、ライン領域であって、原画像の輪郭を示す部分や、輪郭以外を示す部分である。換言すれば、該ライン領域内にのみ黒色材料が形成され、該ライン領域のそれぞれに隣接する領域には黒色材料が形成されないような部分であって、当該部分のライン領域の幅が、後述する第2画像における黒色材料の濃度分布によるライン領域の幅よりも小さいか、又は予め定めた幅値よりも小さい部分のことである。なお、ライン領域の幅とは、ラインの延在方向に交差する方向(例えば、直交方向)の大きさのことである。
【0025】
上述した予め定めた面積値、予め定めた空間周波数値、及び、ライン領域の幅は、予備実験や要求仕様等によって、適宜決定してよい。また、領域内にのみ黒色材料が形成され、該ライン領域のそれぞれに隣接する領域には黒色材料が該領域内よりも薄く形成された部分、又は、その濃度差が既定値を超える部分を、上記の予め定めた条件に含めてよい。さらには、上述の予め定めた条件として、要求仕様等に応じて別の条件を適宜付加してもよい。
【0026】
なお、上述の第1部分用第1パターン形成用画像データを、彩色画像とは独立した別の画像データとして予め準備しない場合、彩色画像である原画像を画像解析することにより生成するようにしてもよい。その場合、具体的には、複数のドット領域からなる領域を点字領域として識別してよい。この点字領域は、換言すれば、各ドット領域内にのみ黒色材料が形成され、該ドット領域に隣接する領域には黒色材料が形成されないような部分であって、当該部分の面積が、後述する第2画像に含まれる閉領域の面積よりも小さいか、又は予め定めた面積値よりも小さい部分のことである。
【0027】
なお、点字の各ドット領域のサイズは、JIS(日本工業規格)、ISO規格(国際標準化機構規格)、IEC規格(国際電気標準会議規格)などによって定められている。従って、加工媒体M12等を膨張させて製造される構造物M14”に形成される点字が、各規格で定めされたサイズとなるような領域、又は、該各規格で定められたサイズのドット領域を、上述の予め定めた条件に含めてもよい。例えば、JISの規格番号JIST0921では、直径:1.3〜1.7mm、高さ:0.3〜0.5mmの点字サイズが定められているので、加工媒体M12等を膨張させて製造される構造物M14”に形成される点字が直径:1.3〜1.7mm、高さ:0.3〜0.5mmとなるような領域、又は直径1.7mm以下のドット領域を、上述の予め定めた条件に含めることができる。
【0028】
図3(b)、
図4(b)、及び、
図5(b)は、上述の第1の構造物M14”、第2の構造物M14”、及び、第3の構造物M14”を形成する際に、媒体M11の膨張層102が設けられた側とは反対側である第2面11Bに黒色材料を用いて形成される第2電磁波熱変換材料層105を平面視したときの、当該黒色材料の濃度分布を示す第2の画像(第2パターン)105Pの例を表す図である。第2の画像105Pは、形成する構造物M14”のうち上述の第1パターンよりも粗いパターンに対応した凹凸を形成しようとする含む部分に対応させて、媒体M11の第2面11Bに形成される画像である。また、第2の画像105Pは、基本的には、後述する第3の画像106Pの鏡像である。また、第2の画像105Pは、媒体11の第2面11Bの領域のうち、媒体11の第1面11Aに対して第1の画像104Pが形成される部分に重ならない領域に、上述の粗いパターンが少なくとも配置されるように、媒体11の第2面11Bに形成される。第2の画像105Pを特定する第2パターン形成用画像データは、当該画像105Pに対応する二次元座標の座標毎に設定されたグレースケール値を含むデータである。第1パターン形成用画像データと同様、媒体M11等の第2面11Bに第2の画像105Pを形成する際には、このグレースケール値が大きい座標では、グレースケール値が小さい座標よりも高い濃度で、黒色材料が形成される。
【0029】
図3(b)、
図4(b)、及び、
図5(b)の第2の画像105Pは、第1の構造物M14”、第2の構造物M14”、及び、第3の構造物M14”に形成しようとする凹凸に対応する濃淡画像であり、別途予め定められた当該画像濃度と膨張量との対応関係に基づいて、膨張層102を膨張させる量が比較的大きい部分は、膨張させる量が比較的小さい部分に比べて、画像濃度が濃くなるように設定されている。具体的には、第2の画像105Pは、
図1(c)、
図9(b)、
図11(b)及び
図14(b)等に示すように、比較的濃度が薄い第1の部分105Aと、第1の部分よりも濃度が濃い第2の部分105Bとを含む。第1の部分105Aは、形成する構造物M14”において膨張層102を盛上げる高さが第2の部分105Bに対応する部分に比べて低い部分であり、第2の部分105Bは、膨張層102を盛上げる高さが第1の部分105Aに対応する部分に比べて高い部分である。
【0030】
図3(b)、
図4(b)、及び、
図5(b)の各第2の画像105Pは、予め準備される彩色画像である原画像を画像解析し、前述した予め定めた条件のいずれも満たさない部分(第1パターンよりも粗いパターン)を含む第2パターンを抽出し、抽出された部分に対して所望のグレースケール値を設定することにより生成してもよい。具体的には、粗いパターンは、複数のドット領域からなる点字、複数のライン領域からなるストライプ柄、原画像の輪郭部分を示すライン領域、及び、輪郭部分以外の部分を示すライン領域の少なくともいずれかを満たさないパターンである。また、前述の通り、適宜付加される予め定めた別の条件に該当するパターンを満たさないものであってもよい。
【0031】
図3(b)の第2の画像105Pは、古墳の原画像を画像解析し、古墳の木々を示す緑色の部分を抽出し、抽出された部分に対して所望の均一のグレースケール値を設定することにより生成されたものである。
【0032】
図4(b)の第2の画像105Pは、微生物の原画像を画像解析し、微生物の輪郭部分と内部組織の部分を抽出し、輪郭部分に対して最も大きいグレースケール値を設定し、内部組織の部分に対してその次に大きいグレースケール値を設定し、残りの部分に対しては最も小さいグレースケール値を設定することにより生成されたものである。
【0033】
図5(b)の第2の画像105Pは、魚の原画像を画像解析し、魚の尾ひれ部分と腹の部分を抽出し、尾ひれ部分に対して最も大きいグレースケール値を設定し、腹の部分に対してその次に大きいグレースケール値を設定し、残りの部分に対しては最も小さいグレースケール値を設定することにより生成されたものである。
【0034】
図3(c)、
図4(c)、及び、
図5(c)は、上述の第1の構造物M14”、第2の構造物M14”、及び、第3の構造物M14”を形成する際に、媒体M11の第1面11Aに彩色材料を用いて形成される彩色材料層106を平面視したときの、当該彩色材料の明暗の濃度分布を示す第3の画像(第3のパターン)106Pの例を示す図である。なお、
図3(c)、
図4(c)、及び、
図5(c)は、実際にはカラー画像が用いられるが、図示の都合上、グレースケール画像である。第3の画像106Pは、上述の原画像と同じ画像であってもよいし、当該原画像を元に、例えば、油絵風やパステル調といった所望の画調に変換する絵画変換処理や、輪郭を強調させる処理、HDR処理といった、各種の既知の画像処理を行った変換画像であってもよい。第3の画像106Pを特定する第3パターン形成用画像データは、当該画像106Pに対応する二次元座標の座標毎に設定された、例えばRGBの各表示色のグレースケール値を含むデータである。媒体M11等の第2面11Bに第2の画像105Pを形成する際には、RGBの各表示色のグレースケール値を、CMYの各印刷色のグレースケール値に変換し、グレースケール値が大きい座標では、グレースケール値が小さい座標よりも高い濃度で、CMYの各彩色材料が形成される。
【0035】
また、第3の画像106Pは、本第1実施形態の
図1(c)、後述する第2実施形態の
図9(b)、第2実施形態の変形例の
図11(b)及び第3実施形態の
図14(b)と、前述の
図3(b)、
図4(b)及び
図5(b)とに示すように、第1の部分106A、第2の部分106B及び第3の部分106Cを含む。第2の画像105Pの第1の部分105Aは、第3の画像106Pの第1の部分106Aに重なるように形成される部分であり、第1の部分106Aの鏡像である。第2の画像105Pの第1の部分105Bは、第3の画像106Pの第2の部分106Bに重なるように形成される部分であり、第1の部分106Aの全くの鏡像ではないが、その鏡像に基づいて生成された部分である。第3の画像106Pの第3の部分106Cに対応する、第2の画像105Pの部分はない。
【0036】
次に、電磁波熱変換材料の形成密度やそこへ向けて照射される電磁波エネルギーの量と、それにより膨張層102が膨張する量との関係について説明する。第1電磁波熱変換材料層104に対して、その表面の位置によらず一様に電磁波を照射した場合、第1電磁波熱変換材料層104における電磁波熱変換材料の形成濃度が高い部分ほど、当該部分において生じる熱エネルギー(熱量)が大きくなる。これにより、第1電磁波熱変換材料層104における電磁波熱変換材料の形成濃度が高く設定された部分に重なる膨張層102の部分は、その形成濃度が低く設定された部分に重なる膨張層102の部分よりも多くの熱量が伝導され、ひいては、より多くの熱量を吸収する。また、膨張層102のある部分が膨張する高さは、その部分が吸収する熱量に正の相関を有する。従って、第1電磁波熱変換材料層104に対して、それらが形成される媒体M11の第1面11A上の位置によらず一様に電磁波を照射した場合、第1電磁波熱変換材料層104の電磁波熱変換材料の形成濃度が高く設定された部分に重なる膨張層102の部分は、形成濃度が低く設定された部分に重なる膨張層102の部分よりも、膨張する高さは高くなる。
【0037】
また、膨張層102の膨張量には限度があるが、その限度の範囲内においては、第1電磁波熱変換材料層104の形成密度が同じであれば、単位面積及び単位時間当たりに第1電磁波熱変換材料層104に向けて照射される電磁波エネルギーの量が多いほど、電磁波が照射された部分の膨張層102の膨張量は大きい。従って、第1電磁波熱変換材料層104の電磁波熱変換材料の形成濃度と、そこへ向けて照射される電磁波エネルギーの量とは、互いの影響を考慮して、適宜変更して設定されてよい。膨張層102のうち第1電磁波熱変換材料層104を形成されていない部分では、電磁波のエネルギーが熱エネルギーに変換されにくいので、その部分では、第1電磁波熱変換材料層104は実質的に膨張しないか、他の部分に比べれば膨張量は無視できるほど小さい。なお、これと同様に、後述する第2電磁波熱変換材料層105についても、その形成濃度とそこへ向けて照射される電磁波エネルギーの量とは、互いの影響を考慮して、適宜変更して設定されてよい。
【0038】
ここで、電磁波熱変換材料へ向けて照射される電磁波の波長は、電磁波熱変換材料によって適宜変更してよい。電磁波熱変換材料としてのカーボンブラックは、他の波長の電磁波に比べ、近赤外領域(750〜1400nm)を中心に、可視光領域(380〜750nm)及び中赤外領域(1400〜4000nm)を含む波長の電磁波を吸収しやすい。カーボンブラック以外の材料を電磁波熱変換材料として用いてもよく、用いる材料に応じて、全波長領域のうちから所望の波長領域の電磁波を照射すればよい。従って、材料によっては、近紫外領域(200〜380nm)、遠紫外領域(10〜200nm)、近赤外、中赤外を除く赤外領域(4000〜15000nm)等、他の波長の電磁波を照射してもよい。なお、上記の数値は一例であり、波長領域の境界はこの数値に限らない。
【0039】
本第1実施形態の構造物形成方法の説明に戻る。第1電磁波熱変換材料形成工程S1に続いて、加工媒体M12をその第1面11Aを上へ向けた状態で照射部200に搬入する。
図8(a),(b)に示すように、照射部200は、その鉛直方向上部にハロゲンランプ等の光源54aを含む光源ユニット54(放射部)を有する。
図1(b)に示すように、照射部200の光源54aは、電磁波Lを、照射部200内に搬入された加工媒体M12へ向けて、当該加工媒体M12の膨張層102が形成された第1面11A側から照射する。加工媒体M12へ向けて照射された電磁波Lの一部は、第1電磁波熱変換材料層104において熱エネルギーに変換され、変換された熱エネルギーが膨張層102へ伝導することにより膨張層102が加熱されて膨張する(ステップS2:第1膨張工程)。この第1膨張工程S2を経て、加工媒体M12の膨張層102のうち、第1電磁波熱変換材料層104の電磁波熱変換材料が形成された部分102Aが膨張し、
図1(b)に示す、一部が膨張された構造物形成用加工媒体M12’が得られる。このとき、膨張する高さが最大でも0.5mm以下になるように、第1電磁波熱変換材料層104の電磁波熱変換材料の形成濃度と、そこへ向けて照射される電磁波エネルギーの量とが適宜設定されている。
【0040】
また、
図1(b)、後述する第2実施形態の
図9(b)、第2実施形態の変形例の
図11(b)及び第3実施形態の
図14(b)と、前述の
図3(a)、
図4(a)及び
図5(a)とに示すように、第1電磁波熱変換材料層104の電磁波熱変換材料の形成パターンは、前述の細かいパターンである第1パターンである。このような第1パターンを媒体M11の第2面11B、即ち、媒体M11の膨張層102との間に基材101を介して配置された面に直接形成した場合、第1電磁波熱変換材料層104で生じた熱量が基材101を介して膨張層102へ伝導する間に媒体M11の第2面11Bに平行な方向にその熱量が分散してしまい、当該第1パターンに忠実に対応する凹凸を媒体M11の第1面11A側に形成することはできない。しかしながら、本第1実施形態では、上述のように、このような第1パターンを媒体M11の第2面11A、即ち、媒体M11の膨張層102との間に基材101を介さずして配置された面に直接形成しているので、熱量が膨張層102へ伝導する間に媒体M11の第2面11Bに平行な方向にその熱量が分散してしまうことがなく、ひいては、当該第1パターンに忠実に対応する凹凸を媒体M11の第1面11A側に形成することができる。なお、本明細書において、パターンに忠実に対応する凹凸とは、例えば、パターンとそれに対応する凹凸の断面の幅が実質的に同一であることを意味する。
【0041】
次いで、予め準備した第3パターン形成用画像データに基づいて、加工媒体M12’の膨張層102が設けられた側の面に、彩色材料としてのシアンC、マゼンタM、イエローY、ブラックKの4色のカラーインクを、
図7に示す汎用的なインクジェットプリンタ部300を用いて、インクジェット方式により印刷することにより彩色材料層106を形成する(ステップS3:彩色材料形成工程)。これにより、
図1(c)に示す、彩色材料層106が形成された加工媒体M12’として、加工媒体M13’が得られる。この彩色材料形成工程S3又は後述の第2電磁波熱変換材料形成工程S4では、第2の画像105Pとその鏡像である第3の画像106Pとの対応する部分どうしが互いに重なるように、黒色材料又は彩色材料が形成される。
【0042】
彩色材料形成工程S3では、4色のカラーインクが用いられるので、この工程を経ることにより、加工媒体M12’の表面全体が視覚的に所望の色合いになるように彩色される。彩色材料形成工程S3を行う段階では、加工媒体12’の厚みが5mm以下に抑えられているので、前述の通り、汎用的なインクジェットプリンタ部300を用いて、彩色材料層106を形成することができる。また、同じ理由により、汎用的なインクジェットプリンタ部300を用いて、
図1(c)に示すように、彩色材料層106を、第1電磁波熱変換材料層104の少なくとも一部を覆うように設けることもできる。
【0043】
また、彩色材料形成工程S3では、黒又はグレーに彩色したい部分に対して、電磁波熱変換材料を含むブラックKのインクを用いて印刷を行う。これにより、シアンC、マゼンタM、イエローYの3色のカラーインクの混色により黒又はグレーを表現する場合に比べて、より見栄えのよい色合いを表現できる。また、第1電磁波熱変換材料層104及び第2電磁波熱変換材料層105を形成する際にも電磁波熱変換材料を含むブラックKのインクを用いて印刷を行うので、インクジェットプリンタ部300は、ブラックKのインクに関して、電磁波熱変換材料を含むブラックKのインクが収容されるカートリッジだけを備えていればよく、電磁波熱変換材料を含まないブラックKのインクが収容されるカートリッジは備えていなくてもよい。ここで、この場合のブラックKの形成濃度は、膨張層102を膨張させようとする高さに対応したものではなく、単に、形成しようとする構造物M14”の視覚的効果としての黒又はグレーの色合いに対応したものであるので、彩色材料形成工程S3において印刷されたブラックKのインクの形成濃度は、膨張層102を膨張させようとする高さとは独立に設定される。また、本第1実施形態では、第1膨張工程S2の後に、彩色材料形成工程S3を実行しているので、電磁波熱変換材料を含むブラックKのインクにより彩色材料層106を形成したとしても、第2パターン形成用画像によって指定される膨張層102を膨張させようとする高さに影響を及ぼすことなく、形成しようとする構造物M14”に黒又はグレーの所望の色合いを見栄え良く施すことができる。
【0044】
加工媒体M12’は、最大でも膨張層102の膨張高さが5mm以下に抑えられているので、彩色材料形成工程S3でも、前述の第1電磁波熱変換材料形成工程S1と同様、汎用的なインクジェット方式のプリンタを用いて印刷を行うことができる。
【0045】
なお、第1電磁波熱変換材料層104、及び、彩色材料層106を形成する場合に、インク受容層103の少なくとも一部において、第1電磁波熱変換材料層104、及び、彩色材料層106のいずれもが形成されない部分、即ち、インク受容層103の表面の露出された部分を設けておいてよい。第1パターン形成用画像データ、及び、第3パターン形成用画像データに共通する一部の座標領域について、値を0に設定しておくことで、インク受容層103の表面の露出された部分を設けることができる。これにより、構造物M14”の形成後に、使用者がボールペンなどを用いて手書き文字などを書き加えることができる露出部分を、当該構造物M14”の表面に設けることができる。
【0046】
ここで、後述する第2膨張工程S5において、膨張層102が膨張してその表面積が拡がるに伴い、形成された彩色材料層106の密度も小さくなり、これにより、加工媒体12’を膨張させて形成した構造物M15は、膨張前の加工媒体M12’に比べて、視覚的な色合いが薄くなる。このため、第3パターン形成用画像データは、加工媒体M12’が膨張後において視覚的に所望の色合いになるように値が設定されてよい。即ち、加工媒体M12’の膨張量が大きく設定された部分ほど、その部分へ形成される彩色材料の形成濃度が大きくなるように、第3パターン形成用画像データが設定されてよい。
【0047】
次いで、媒体M11の膨張層102が設けられた側とは反対側の面である第2面11B、即ち、基材101の下面において、膨張層102を膨張させたい部分のうち、その膨張により、前述の粗いパターンを含む第2パターンに対応する凹凸を形成しようとする領域に、予め準備した第2パターン形成用画像データに基づいて、電磁波熱変換特性を有する電磁波熱変換材料としてのカーボンブラックを含む黒色インク(黒色材料)を、
図7に示す汎用的なインクジェットプリンタ部300を用いて、インクジェット方式により印刷することにより、第2電磁波熱変換材料層105を形成する(ステップS4:第2電磁波熱変換材料形成工程)。これにより、
図1(c)に示す、第2電磁波熱変換材料層105が形成された加工媒体M12’として、加工媒体M13’が得られる。
【0048】
次いで、加工媒体M13’をその第2面11Bを上へ向けた状態で照射部200に搬入する。
図1(d)に示すように、照射部200の光源54aは、電磁波Lを、照射部200内に搬入された加工媒体M13’へ向けて、当該加工媒体M13’の膨張層102が形成された側とは反対側の第2面11B側から照射する。加工媒体M13’へ向けて照射された電磁波Lの一部は、第2電磁波熱変換材料層105において熱エネルギーに変換され、変換された熱エネルギーが基材101を介して膨張層102へ伝導することにより膨張層102が加熱されて膨張する(ステップS5:第2膨張工程)。この第2膨張工程S5を経て、加工媒体M13’の膨張層102のうち、第2電磁波熱変換材料層105の電磁波熱変換材料が形成された部分102Bが膨張し、
図1(d)に示す所望の構造物M14”が得られる。
【0049】
図1(c)、後述する第2実施形態の
図9(b)、第2実施形態の変形例の
図11(b)及び第3実施形態の
図14(b)と、前述の
図3(b)、
図4(b)及び
図5(b)とに示すように、第2電磁波熱変換材料層105の電磁波熱変換材料の形成パターンは、粗いパターンを含む第2パターンである。このような第2パターンを媒体M11の第2面11B、即ち、媒体M11の膨張層102との間に基材101を介して配置された面に直接形成した場合、第2電磁波熱変換材料層105で生じた熱量が基材101を介して膨張層102へ伝導する間に媒体M11の第2面11Bに平行な方向にその熱量が分散してしまい、当該第1パターンに忠実に対応する凹凸を媒体M11の第1面11A側に形成することはできない。従って、
図1(d)、
図9(d)、
図11(c)及び
図14(d)、又は
図14(c)に示すように、構造物M14”、又は加工媒体M14’における膨張部分102Bの上面の、媒体M11の第2面11Bに沿った幅102Wは、第2の画像105Pの第1の部分105A、及び、第3の画像106Pの第1の部分106Aのそれぞれの、媒体M11の第2面11Bに沿った幅105Wよりも大きくなってしまっている。
【0050】
次に、上述の第1膨張工程S2を経て得られた加工媒体M12’と、上述の第2膨張工程S5を経て得られた構造物M14”について説明する。
第1電磁波熱変換材料層104は媒体M11の膨張層102が形成された側の第1面11Aに形成されており、第1電磁波熱変換材料層104と膨張層102との間に基材101が介在していない。従って、第1電磁波熱変換材料層104において生じた熱エネルギーが膨張層102へ伝導する間に基材101の面方向に分散することがない。このため、第1電磁波熱変換材料層104の電磁波熱変換材料が、細かいパターンである第1パターンの濃淡画像に従って形成されたものであっても、そのようなパターンの濃淡画像に忠実に対応する凹凸が媒体M11の膨張層102側の表面に設けられた加工媒体M12’を形成することができる。
【0051】
また、第2電磁波熱変換材料層105は媒体M11の膨張層102が形成された側とは反対側の第2面11Bに形成されており、第2電磁波熱変換材料層105と膨張層102との間に基材101が介在している。従って、第2電磁波熱変換材料層105において生じた熱エネルギーが膨張層102へ伝導する間に基材101の面方向に分散してしまう。このため、第2電磁波熱変換材料層105の電磁波熱変換材料が、細かいパターンである第1パターンの濃淡画像に従って形成されたものであった場合、そのようなパターンの濃淡画像に忠実に対応する凹凸を媒体M11の膨張層102が設けられた側に形成することができない。しかしながら、上述の通り、第2電磁波熱変換材料層105の電磁波熱変換材料は、粗いパターンを含む第2パターンの濃淡画像になるように形成されたものである。このようなパターンの濃淡画像であれば、第2電磁波熱変換材料層105が媒体M11の第2面11Bに形成されていたとしても、当該第2パターンに対応する凹凸が媒体M11の膨張層102側の表面に設けられた構造物M14”を形成することができる。
【0052】
また、以上の各工程を経て形成された構造物M14”は、媒体M11の第1面11Aの第1パターンに対応する領域に形成された電磁波熱変換材料の一部が露出しているので、媒体M11の第1面11A側から見るとその領域が黒ずんで見える。しかしながら、前述したように、第1パターンが点字や輪郭を示すデータである場合には、この部分は黒ずんで見えても差し支えない場合が多い。また、第2パターンに対応する領域については、媒体M11の第1面11Aではなく、媒体M11の第2面11Bに電磁波熱変換材料を形成しているので、媒体M11の第1面11A側から見るとその領域が黒ずんで見えることはない。従って、本第1実施形態では、媒体M11の第1面11Aから見たときの黒ずみを抑えるために白色材料を形成する必要がないので、白色材料を形成する工程がなくても、見栄えのよい彩色された構造物を形成することができる。なお、第1電磁波熱変換材料層104に重なるように、彩色材料層106が設けられている部分については、当該彩色材料層106によって、第1電磁波熱変換材料層104による黒ずみが抑えられている。
【0053】
[構造物形成装置]
図6は、本発明の実施形態に係る構造物形成装置1の制御ブロック図である。構造物形成装置1の制御部400は、インクジェットプリンタ部(材料形成部)200及び照射部200を制御し、これらと協働して構造物を形成する構造物形成制御部401として機能する。また、構造物形成装置1の制御部400は、メモリ制御回路600に記憶された印刷データ及び印刷制御データを、印刷データ取得部402を制御することにより取得し、取得したデータに基づいて構造物形成を制御する構造物形成制御部401として機能する。
【0054】
次に、
図7を参照し、材料形成部の一例としてのインクジェットプリンタ部300の一般的な構成について説明する。本発明の実施形態において、インクジェットプリンタ部300は、本実施形態に特有の構成を備えるものではなく、汎用的なものを利用できる。インクジェットプリンタ部300は、用紙搬送方向(副走査方向)に直交する両方向矢印aで示す方向(主走査方向)に往復移動可能に設けられたキャリッジ31を備える。このキャリッジ31には、インクが収容されたカートリッジ33と、カートリッジ33内のインクを用いて媒体への印刷を行う印刷ヘッド32とが、取り付けられている。
【0055】
インクジェットプリンタ部300のカートリッジ33には、シアンC、マゼンタM、イエローYの各カラーインク、及び、ブラックKの黒色インクが互いに分離されて収容されている。カートリッジ33のインク収容部は、各インクに対応する個別の印刷ヘッド32に連結されている。
【0056】
キャリッジ31には貫通孔が設けられ、貫通孔を貫通するガイドレール34により滑動自在に支持されている。また、キャリッジ31には被挟持部が設けられ、この被挟持部が駆動ベルト35に挟持されており、駆動ベルト35を駆動することで、キャリッジ31とともに印刷ヘッド32及びカートリッジ33が主走査方向に移動する。
【0057】
構造物形成装置1の制御部400は、フレキシブル通信ケーブル36を介して印刷ヘッド32に接続されている。構造物形成制御部401は、取得した印刷データ及び印刷制御データを、フレキシブル通信ケーブル36を介して印刷ヘッド32に送出し、これらのデータに基づいて印刷ヘッド32を制御する。
【0058】
内部フレーム37の下部には、印刷ヘッド32に対向する位置に、主走査方向に延在するように、プラテン38が配設されている。このプラテン38は、用紙搬送路の一部を構成している。加工媒体M12及び加工媒体M13は、下面がプラテン38上に接した状態で、給紙ローラ対39(下のローラは不図示)及び排紙ローラ対41(下のローラは不図示)によって、副走査方向に間欠的に搬送される。給紙ローラ対39及び排紙ローラ対41は、構造物形成装置1の制御部400により駆動される。
【0059】
構造物形成装置1の制御部400は、モータ42、印刷ヘッド32、給紙ローラ対39及び排紙ローラ対41を制御することで、モータ42に連結された駆動ベルト35を介してキャリッジ31とともに印刷ヘッド32を主走査方向の適切な位置へと搬送させるとともに、媒体M11及び加工媒体M13’の搬送の停止期間中に、印刷ヘッド32によりブラックKの黒色インク滴を各媒体へ向けて噴射させることにより、媒体M11の第1面11A及び加工媒体M13’の第2面11Bに、第1電磁波熱変換材料層104及び第2電磁波熱変換材料層105の印刷がそれぞれ行われる。また、加工媒体M12’の搬送の停止期間中に、印刷ヘッド32によりシアンC、マゼンタM、イエローYの各カラーインク滴、及び、ブラックKの黒色インク滴を加工媒体M12’へ向けて噴射させることにより、加工媒体M12’の第1面11Aに彩色材料層106の印刷が行われる。
【0060】
図8(a)は、照射部200の構成を示す斜視図であり、
図8(b)は、照射部200の構成を示す側面図である。
図8(a)に示すように、照射部200内に搬入される際、加工媒体M12又は加工媒体M14’は、照射部200の載置台50a,50bそれぞれに組み込まれた搬送ローラ55a,55bによって白抜き矢印fの方向(以下、方向fともいう)に沿って搬送可能に、載置台50a,50b上に載置される。照射部200は、光源ユニット54が組み込まれた熱源部51が、載置台50a,50bの上方に配置されるように設けられている。熱源部51は、その両側を支持柱52a,52bによって支持されている。構造物形成装置1の制御部400は、搬送ローラ55a,55bを制御することにより、載置台50a,50bに載置された加工媒体M12又は加工媒体M14’を、熱源部51に対して相対移動させる。加工媒体M12又は加工媒体M14’と熱源部51とを相対移動させる間、構造物形成装置1の制御部400は、熱源部51が有する光源ユニット54の光源54aを制御し、光源ユニット54により、加工媒体M14に向けて電磁波を照射させる。光源ユニット54は反射鏡54bを有し、反射鏡54bによって、光源54aから放射された電磁波を効率的に加工媒体M12又は加工媒体M14’に対して照射させることができる。
【0061】
前述したように、膨張層102は、その表面に形成された電磁波熱変換材料層104に向けて単位面積及び単位時間当たりに照射される電磁波エネルギーの量が多いほど、大きく膨張する。構造物形成装置1の制御部400は、例えば、熱源部51の加工媒体M12又は加工媒体M14’に対する相対移動速度が一定で、かつ、光源54aの出力が一定になるように、支持柱52a,52b及び光源54aを制御してよい。しかし、膨張層102の電磁波熱変換材料層104に向けて単位面積及び単位時間当たりに照射される電磁波エネルギーの量が加工媒体M12又は加工媒体M14’の全体にわたって一様になるのであれば、構造物形成装置1の制御部400による制御の方法は、これに限らない。
【0062】
光源54aとしては、例えば900Wのハロゲンランプが使用され、加工媒体M12又は加工媒体M14’から約4cm離れて配置される。光源ユニット27の加工媒体M12又は加工媒体M14’に対する相対移動速度は、約20mm/秒に設定される。この条件下で、加工媒体M12又は加工媒体M14’は100℃〜110℃に熱せられ、加工媒体M12又は加工媒体M14’のうち第1電磁波熱変換材料層104又は第2電磁波熱変換材料層105を形成された部分が膨張する。
【0063】
以上に説明した第1実施形態の構造物形成方法によれば、加熱により膨張する膨張層102を含む媒体11の膨張層102が設けられた側である第1面11Aに、電磁波熱変換材料を用いて、細かいパターンである第1パターン104を少なくとも形成する第1電磁波熱変換材料形成工程S1と、その後に、第1パターン104に形成された電磁波熱変換材料に向けて電磁波を照射して、膨張層102の第1パターン104に対応する部分を膨張させる第1膨張工程S2とを行う第1工程と、媒体M11の膨張層102が設けられた側とは反対側である第2面11Bの第1パターン104に対応しない領域に、電磁波熱変換材料を用いて、第1パターン104よりも粗いパターンを含む第2パターン105を形成する第2電磁波熱変換材料形成工程S4と、その後に、第2パターン105に形成された電磁波熱変換材料に向けて電磁波を照射して、膨張層102の第2パターン105に対応する部分を膨張させる第2膨張工程S5とを行う第2工程と、を含む。従って、本第1実施形態によれば、細かいパターンである第1パターン104に忠実に対応する凹凸と、第1パターン104よりも粗いパターンを含む第2パターン105に対応する凹凸とが、媒体M11の膨張層102が設けられた側に形成された構造物M14”を形成することができる。
【0064】
以下に、上述の第1実施形態の変形例について説明する。上述の第1実施形態では、第2電磁波熱変換材料形成工程S4を、彩色材料形成工程S3の後に行ったが、第2電磁波熱変換材料形成工程S4は少なくとも第2膨張工程S5よりも先に行えばよく、例えば、第1膨張工程S2よりも先に行ってもよい。この場合、第2電磁波熱変換材料層105を加工媒体に形成してから、第1膨張工程S2、及び、第2膨張工程S5を行うことになるので、第1膨張工程S2において、膨張層102の第2の画像105Pに対応する部分が膨張し、第2膨張工程S5において、膨張層102の第1の画像104Pに対応する部分が膨張するおそれがあるが、各部分の電磁波熱変換材料は、電磁波Lの照射方向にみて、基材101を挟んで反対側に形成されているので、その影響は小さいか又は無視できる程度である。なお、膨張層102の第2の画像105Pに対応する部分と、膨張層102の第1の画像104Pに対応する部分とが、媒体M11の厚さ方向にみて、互いに重ならないように予め設定しておくことで、この影響をなくすことができる。
【0065】
また、上述の第1実施形態では、第1膨張工程S2と第2膨張工程S5とでは、熱源部51の熱量も同じであり、かつ、熱源部51と加工媒体M12又は加工媒体M14’との相対移動の速度は同じであった。言い換えると、単位時間及び単位面積当たりに、光源54aから加工媒体M12又は加工媒体M14’に対して照射される電磁波エネルギーの量は同じであった。そこで、第1膨張工程S2と第2膨張工程S5とで、単位時間及び単位面積当たりに照射される電磁波エネルギーの量を同じにしながら、例えば、第1膨張工程S2では、第2膨張工程S5よりも、熱源部51の熱量を大きくし、かつ、相対移動の速度を速くしてもよい。これによって、上述の第1実施形態に比べると、構造物M14”を形成するのに要する時間を短縮することができ、かつ、媒体M11の第1面11A側から電磁波Lを照射している間に、媒体M11の第2面11Bに形成した第2の画像105Pにおいて電磁波から変換されて生じる熱量、即ち、膨張層102への余分な伝熱量を低く抑えることができる。
【0066】
また、第1電磁波熱変換材料層104に含まれる電磁波熱変換材料の形成濃度が大きい場合は、それだけ見た目にも黒色が濃く見えることになり、その上に彩色材料を形成したときに、彩色材料層106の色合いがよりくすんで見えてしまうことになりかねない。一方、ある所望の高さに膨張層102を膨張させようとするときに、上述の第1実施形態よりも熱源部51の熱量を大きくし、かつ、相対移動の速度を速くすることで、上述の第1実施形態に比べて、第1電磁波熱変換材料層104に含まれる電磁波熱変換材料の形成濃度を小さく抑えることができる。これにより、第1電磁波熱変換材料層104の上に彩色材料層106を重ねて印刷する場合には、彩色材料層106の色合いをより鮮明に、見栄え良くすることができる。
【0067】
また、上述の第1実施形態において、彩色材料形成工程S3は、第1膨張工程S2の後であって、第2膨張工程S5の前であれば、いつ行ってもよい。構造物M14”の黒又はグレーの色合いを表現するために、彩色材料層106にカーボンブラックが含まれている場合、彩色材料形成工程を第1膨張工程の前に行ってしまうと、膨張層102が膨張する高さはカーボンブラックによる影響を受けてしまい、当初予定した通りの所望の高さに膨張させることができなくなってしまう。また、第2膨張工程S5を経た後は、媒体11’の第1面11Aが5mmを超えて膨張してしまうので、汎用的なインクジェット方式のプリンタを用いた印刷が行えないようになってしまう。上述のように、第1実施形態の彩色材料形成工程S3を、第1膨張工程の後であって、第2膨張工程の前に行うことによって、これらの問題を避けることができる。
【0068】
<第2実施形態>
以下、本発明の第2実施形態について、図面を用いて説明する。第2実施形態について、上述の第1実施形態と共通する構成については、簡便のため、共通する符号を用いた上で説明を適宜省略する。第2実施形態は、第1電磁波熱変換材料及び彩色材料を、膨張層102の第1面11Aに、同じ工程で同時に形成する点で、第1実施形態と異なる。
図9は、第2実施形態の構造物形成工程を示す断面図であり、
図10は、第2実施形態の構造物形成方法を示すフローチャートである。
【0069】
まず、上述の媒体M11を準備し、次いで、インクジェットプリンタ部300を用いて、媒体M11の第1面11Aに、予め準備した第1パターン形成用画像データに基づいて黒色インク(黒色材料)を印刷することにより、第1電磁波熱変換材料層104を形成すると同時に、予め準備した第3パターン形成用画像データに基づいてシアンC、マゼンタM、イエローYの3色のカラーインク(彩色材料)を印刷することにより、彩色材料層106を形成する(ステップS11:第1電磁波熱変換材料及び彩色材料形成工程)。この工程により、
図9(a)に示す、第1電磁波熱変換材料層104及び彩色材料層106が形成された媒体M11である加工媒体M13が得られる。
図9(a)では、第1電磁波熱変換材料層104と彩色材料層106とを重ねて形成したが、これらの層が重ならないように形成してもよい。これらの層を重ねて形成する場合、彩色材料層106を第1電磁波熱変換材料層104の上に形成することで、第1電磁波熱変換材料層104の黒ずみを目立たなくすることができる。
【0070】
この第1電磁波熱変換材料及び彩色材料形成工程S11では、黒又はグレーに彩色したい部分に対して、カーボンブラックのような電磁波熱変換材料を含むブラックKのインクを用いずに、電磁波熱変換材料を含まないシアンC、マゼンタM、イエローYの3色のカラーインクを用いて印刷を行う。これにより、彩色材料層106の黒又はグレーの部分は電磁波熱変換材料を含まないので、後述する第1膨張工程S13で、媒体M11の第1面11A側から電磁波Lを照射したときに、彩色材料層106の黒又はグレーの部分において電磁波のエネルギーが熱量に変換されることがない。従って、前述の第1実施形態とは異なり、彩色材料層106を形成後に第1膨張工程S13を実施してもよいので、第1電磁波熱変換材料層104と彩色材料層106とを同時に形成することができるようになり、ひいては、それらを別の工程で形成する場合に比べて、工程数を一つ減らすことができる。
【0071】
次いで、媒体M13の第2面11Bに、予め準備した第2パターン形成用画像データに基づいて黒色インクを印刷することにより、第2電磁波熱変換材料層105を形成する(ステップS12:第2電磁波熱変換材料形成工程)。この工程により、
図9(b)に示す、第2電磁波熱変換材料層105が形成された加工媒体M13である加工媒体M14が得られる。
【0072】
これらの第1電磁波熱変換材料及び彩色材料形成工程S11、第2電磁波熱変換材料形成工程S12では、各材料層104、105、106を形成する面は表面が平坦であるので、上述の第1実施形態と同様、汎用的なインクジェット方式のプリンタを用いて、印刷により表現しようとする本来の色合いが高品位に再現された構造物を形成することができる。
【0073】
次いで、加工媒体M14をその第1面11Aを上へ向けた状態で照射部200に搬入する。加工媒体M14へ向けて照射された電磁波Lの一部は、第1電磁波熱変換材料層104において熱エネルギーに変換され、変換された熱エネルギーが膨張層102へ伝導することにより膨張層102が加熱されて膨張する(ステップS13:第1膨張工程)。この第1膨張工程S13を経て、加工媒体M13の膨張層102のうち、彩色材料層106の彩色材料が形成された部分104は膨張することなく、第1電磁波熱変換材料層104の電磁波熱変換材料が形成された部分102Aのみが膨張し、
図9(c)に示す、一部が膨張された構造物形成用加工媒体M14’が得られる。このとき、膨張する高さが最大でも0.5mm以下になるように、第1電磁波熱変換材料層104の電磁波熱変換材料の形成濃度と、そこへ向けて照射される電磁波エネルギーの量とが適宜設定されている。
【0074】
次いで、加工媒体M14’をその第2面11Bを上へ向けた状態で照射部200に搬入する。加工媒体M14’へ向けて照射された電磁波Lの一部は、第2電磁波熱変換材料層105において熱エネルギーに変換され、変換された熱エネルギーが基材101を介して膨張層102へ伝導することにより膨張層102が加熱されて膨張する(ステップS14:第2膨張工程)。この第2膨張工程S14を経て、加工媒体M14’の膨張層102のうち、第2電磁波熱変換材料層105の電磁波熱変換材料が形成された部分102Bが膨張し、
図9(d)に示す所望の構造物M14”が得られる。
【0075】
以上に説明した第2実施形態の構造物形成方法によれば、加熱により膨張する膨張層102を含む媒体11の膨張層102が設けられた側である第1面11Aに、電磁波熱変換材料を用いて、細かいパターンである第1パターン104を少なくとも形成する第1電磁波熱変換材料及び彩色材料形成工程S11と、その後に、第1パターン104に形成された電磁波熱変換材料に向けて電磁波を照射して、膨張層102の第1パターン104に対応する部分を膨張させる第1膨張工程S13とを行う第1工程と、媒体M11の膨張層102が設けられた側とは反対側である第2面11Bの第1パターン104に対応しない領域に、電磁波熱変換材料を用いて、第1パターン104よりも粗いパターンを含む第2パターン105を形成する第2電磁波熱変換材料形成工程S12と、その後に、第2パターン105に形成された電磁波熱変換材料に向けて電磁波を照射して、膨張層102の第2パターン105に対応する部分を膨張させる第2膨張工程S14とを行う第2工程と、を含む。従って、本第2実施形態によれば、細かいパターンである第1パターン104に忠実に対応する凹凸と、第1パターン104よりも粗いパターンを含む第2パターン105に対応する凹凸とが、媒体M11の膨張層102が設けられた側に形成された構造物M14”を形成することができる。
【0076】
<第2実施形態の変形例>
以下、本発明の第2実施形態の変形例について、図面を用いて説明する。第2実施形態の変形例について、上述の第2実施形態と共通する構成については、簡便のため、共通する符号を用いた上で説明を適宜省略する。
図11は、第2実施形態の変形例の構造物形成工程を示す断面図であり、
図12は、第2実施形態の変形例の構造物形成方法を示すフローチャートであり、
図13は、第2実施形態の変形例の照射部200’の構成を示す側面図である。
図12に示すように、第2実施形態の変形例は、第2実施形態で2工程に分けて行っていた膨張工程(第1膨張工程S13と第2膨張工程S14)を同時に行う点で、第2実施形態と異なる。これにより、膨張工程を2工程に分けて行う場合に比べて、工程数を減らすことができる。
【0077】
第2実施形態の変形例では、
図13に示す照射部200’が用いられる。照射部200’は、光源ユニット54が組み込まれた熱源部51が、載置台50a,50bの上方に配置されるように設けられているとともに、光源ユニット54’が組み込まれた熱源部51’が、載置台50a,50bの下方に配置されるように設けられている。
図11(c)に示すように、照射部200’の光源54a及び54’aは、電磁波L及びL’を、照射部200’内に搬入された加工媒体M14へ向けて、当該加工媒体M14の第1面11A側及び第2面11B側から照射する。加工媒体M14へ向けて照射された電磁波L、L’の一部は、第1電磁波熱変換材料層104において熱エネルギーに変換され、変換された熱エネルギーが膨張層102へ伝導することにより膨張層102が加熱されて膨張する(ステップS23:膨張工程)。この第1膨張工程S2を経て、加工媒体M14の膨張層102のうち、第1電磁波熱変換材料層104の電磁波熱変換材料が形成された部分102Aが膨張し、
図11(c)に示す、一部が膨張された構造物M14”が得られる。
【0078】
以上に説明した第2実施形態の変形例の構造物形成方法によれば、前述の第2実施形態と同様の効果が得られることに加え、膨張工程を2工程に分けて行う場合に比べて、工程数を減らすことができる。
【0079】
<第3実施形態>
以下、本発明の第2実施形態の変形例について、図面を用いて説明する。第3実施形態について、上述の第2実施形態と共通する構成については、簡便のため、共通する符号を用いた上で説明を適宜省略する。
図14は、第3実施形態の構造物形成工程を示す断面図であり、
図15は、第3実施形態の構造物形成方法を示すフローチャートである。
【0080】
まず、上述の媒体M11を準備し、次いで、インクジェットプリンタ部300を用いて、媒体M11の第1面11Aに、予め準備した第1パターン形成用画像データに基づいて黒色インク(黒色材料)を印刷することにより、第1電磁波熱変換材料層104を形成すると同時に、予め準備した第3パターン形成用画像データに基づいてブラックK、シアンC、マゼンタM、イエローYの4色のカラーインク(彩色材料)を印刷することにより、彩色材料層106を形成する(ステップS31:第1電磁波熱変換材料及び彩色材料形成工程)。この工程により、
図14(a)に示す、第1電磁波熱変換材料層104及び彩色材料層106が形成された媒体M11である加工媒体M13が得られる。
【0081】
この第1電磁波熱変換材料及び彩色材料形成工程S31では、第2実施形態、及び、その変形例と同様、黒又はグレーに彩色したい部分に対して、カーボンブラックのような電磁波熱変換材料を含まないブラックKのインクを用いて印刷を行う。彩色材料層106の黒又はグレーの部分は電磁波熱変換材料を含まないので、後述する第1膨張工程S34で、媒体M11の第1面11A側から電磁波Lを照射したときに、彩色材料層106の黒又はグレーの部分において電磁波のエネルギーが熱量に変換されることがない。このため、第3実施形態では、彩色材料層106を形成後に、後述する第1膨張工程S34を行うことができる。
【0082】
次いで、媒体M13の第2面11Bに、予め準備した第2パターン形成用画像データに基づいて黒色インクを印刷することにより、第2電磁波熱変換材料層105を形成する(ステップS32:第2電磁波熱変換材料形成工程)。この工程により、
図14(b)に示す、第2電磁波熱変換材料層105が形成された加工媒体M13である加工媒体M14が得られる。
【0083】
次いで、加工媒体M14をその第2面11Bを上へ向けた状態で照射部200に搬入する。加工媒体M14へ向けて照射された電磁波Lの一部は、第1電磁波熱変換材料層104において熱エネルギーに変換され、変換された熱エネルギーが膨張層102へ伝導することにより膨張層102が加熱されて膨張する(ステップS33:第2膨張工程)。この第2膨張工程S33を経て、加工媒体M13の膨張層102のうち、彩色材料層106の彩色材料が形成された部分104は膨張することなく、第1電磁波熱変換材料層104の電磁波熱変換材料が形成された部分102Aのみが膨張し、
図14(c)に示す、一部が膨張された構造物形成用加工媒体M14’が得られる。
【0084】
次いで、加工媒体M14’をその第1面11Aを上へ向けた状態で照射部200に搬入する。加工媒体M14’へ向けて照射された電磁波Lの一部は、第2電磁波熱変換材料層105において熱エネルギーに変換され、変換された熱エネルギーが基材101を介して膨張層102へ伝導することにより膨張層102が加熱されて膨張する(ステップS34:第1膨張工程)。この第1膨張工程S34を経て、加工媒体M14’の膨張層102のうち、第2電磁波熱変換材料層105の電磁波熱変換材料が形成された部分102Bが膨張し、
図14(d)に示す所望の構造物M14”が得られる。
【0085】
以上に説明した第3実施形態の構造物形成方法によれば、彩色材料層106の黒又はグレーに彩色したい部分に対して、電磁波熱変換材料を含むブラックKのインクを用いて印刷を行っているので、第1実施形態と同様、シアンC、マゼンタM、イエローYの3色のカラーインクの混色により黒又はグレーを表現する場合に比べて、より見栄えのよい色合いを表現でき、また、インクジェットプリンタ部300は、ブラックKのインクに関して、電磁波熱変換材料を含むブラックKのインクが収容されるカートリッジだけを備えていればよく、電磁波熱変換材料を含まないブラックKのインクが収容されるカートリッジは備えていなくてもよい。なお、第3実施形態においても、第2実施形態の変形例と同様に、第2膨張工程S33と第1膨張工程S34を同時に行ってもよい。
【0086】
なお、上述の第3実施形態では、彩色材料層106の黒又はグレーの部分は電磁波熱変換材料を含まないものとしたが、一定の条件下では、彩色材料層106の黒又はグレーの部分は電磁波熱変換材料を含んでいてもよい。即ち、第1電磁波熱変換材料層104における黒色材料の濃度が、彩色材料層106の黒又はグレーの部分の濃度よりも薄い場合には、彩色材料層106の黒又はグレーの部分における膨張量は、第1電磁波熱変換材料層104による膨張量より少ないので、影響が比較的小さいとも言える。そのため、その場合には、彩色材料層106の黒又はグレーの部分が電磁波熱変換材料を含んでいたとしても、彩色材料層106を形成後に、後述する第1膨張工程S34を行ってもよい。また、彩色材料層106の黒又はグレーの部分の黒色材料の形成濃度が、第1電磁波熱変換材料層104における黒色材料の濃度よりも小さい値であって、かつ、予備実験等により予め定めた値であるときには、彩色材料層106の黒又はグレーの部分による影響が比較的小さいと言えるので、電磁波熱変換材料を含む材料によって、彩色材料層106の黒又はグレーの部分を形成してよい。
【0087】
本発明の実施形態は、上述したものに限られることなく、本発明の目的の範囲内で適宜変形してよい。以下に、変形例を具体的に例示するが、これらの変形例のみに限るものではない。
【0088】
例えば、媒体の第1面側から電磁波を照射して膨張層を膨張させることは、少なくとも当該第1面に電磁波熱変換材料を用いて第1パターンを形成した後であれば、いつ行ってもよく、媒体の当該第1面とは反対側である第2面に電磁波熱変換材料を用いて第2パターンを形成することは、少なくとも媒体の第2面側から電磁波を照射して膨張層を膨張させることの前に行っていれば、いつ行ってもよい。この場合、媒体の第1面側と第2面側とから電磁波を同時に照射して膨張層を膨張させてもよい。
【0089】
また、第2実施形態、第2実施形態の変形例、及び、第3実施形態の第1電磁波熱変換材料及び彩色材料形成工程S11、S21及びS31では、第1パターン形成用画像データと第3パターン形成用画像データとに基づいて印刷を行っているが、これらの合成画像データである合成パターン形成用画像データに基づいて印刷してもよい。この合成画像データは、第1パターン形成用画像データに対応する部分ではブラックKの黒色インク滴を用いてインクジェットプリンタ部300に印刷させる印刷制御情報を含み、第3パターン形成用画像データに対応する部分ではシアンC、マゼンタM、イエローYの各カラーインク滴を用いてインクジェットプリンタ部300に印刷させる印刷制御情報を含むものであってよい。これにより、第3パターン形成用画像データで黒又はグレーの色が指定された部分では、電磁波熱変換材料を含まないインク滴のみを用いて、印刷を行うことができる。
【0090】
また、第2実施形態では、第1膨張工程S13の後に、第2実施形態の変形例では、膨張工程S23の後に、さらに、第3実施形態では、第1膨張工程S34の後に、それぞれ、媒体の第1面11Aに対して印刷を行う必要がないので、これらの各膨張工程S13、S23及びS34では、膨張する高さが0.5mmを超えるように、第1電磁波熱変換材料層104の電磁波熱変換材料の形成濃度と、そこへ向けて照射される電磁波エネルギーの量とが適宜設定されていてもよい。これにより、形成された構造物M14”のうち膨張層102の第1面11A側の部分102Aの膨張された高さが0.5mmを超える場合は、その高さが0.5mm以下である場合よりも、その部分102Aを手で触ったときに、点字や輪郭の凹凸を把握しやすくなる。一方で、第1膨張工程S13により得られた加工媒体M14’の部分102Aの高さが0.5mm以下であれば、汎用的なプリンタを用いて、追加で、その加工媒体M14’の第1面11Aに対して第1の画像や第3の画像を形成したり、第2面11Bに対して第2の画像を形成したりできる。
【0091】
なお、第1実施形態において、構造物M14”を彩色する必要がない場合は、彩色材料形成工程S3を省略してよいことは言うまでもない。また、構造物M14”を彩色する必要がない場合、第2実施形態、第2実施形態の変形例、及び、第3実施形態では、第1電磁波熱変換材料及び彩色材料形成工程S11、S21及びS31において、彩色材料の形成を省略できる。また、インクジェットプリンタ部300は、第1電磁波熱変換材料層104、第2電磁波熱変換材料層105、及び、彩色材料層106を形成する手段である材料形成部の一例であり、レーザー方式のプリンタ等を用いてあってもよいことは言うまでもない。レーザー方式のプリンタの場合、黒色材料及び彩色材料は、各色のインクではなく各色のトナーを用いる。
【0092】
また、上述の各実施形態及びその変形例において、媒体M13の膨張層102が設けられた側とは反対側である第2面11Bの第1パターンに対応しない領域に、電磁波熱変換材料を用いて、第1パターンよりも粗いパターンを含む第2パターンを形成するとしたが、第2パターンは、媒体M13の第2面11Bの第1パターンに対応する領域に形成してもよい。
【0093】
以上、本発明の実施の形態を説明したが、本願発明は特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲を含む。以下に、本願の出願当初の特許請求の範囲に記載された発明を付記する。
【0094】
[付記1]
加熱により膨張する膨張層を含む媒体の前記膨張層が設けられた側である第1面に、電磁波熱変換材料を用いて、細かいパターンである第1パターンを形成することと、その後、前記電磁波熱変換材料に向けて電磁波を照射して、前記膨張層の前記第1パターンに対応する部分を膨張させることとを含む第1工程と、
前記媒体の前記膨張層が設けられた側とは反対側である第2面に、電磁波熱変換材料を用いて、前記第1パターンよりも粗いパターンを含む第2パターンを形成することと、その後、前記電磁波熱変換材料に向けて電磁波を照射して、前記膨張層の前記第2パターンに対応する部分を膨張させることとを含む第2工程と、を有する、
ことを特徴とする構造物形成方法。
[付記2]
前記第1工程における前記第1パターンを形成した後であって、かつ、前記第2工程における前記第2パターンに対応する部分を膨張させる前に、前記媒体の前記第1面の前記第2パターンに対応する領域に、電磁波熱変換材料を含む彩色材料を用いて、画像に対応する第3パターンを形成することを含む第3工程を、さらに有する、
ことを特徴とする付記1に記載の構造物形成方法。
[付記3]
前記第1工程は、
前記第1パターンを形成すると同時に、前記媒体の前記第1面の前記第2パターンに対応する領域に、電磁波熱変換材料を含まない彩色材料を用いて、画像に対応する第3パターンを形成することを含む、
ことを特徴とする付記1に記載の構造物形成方法。
[付記4]
前記第1工程は、前記媒体の前記第1面側から前記電磁波を照射して、前記膨張層を膨張させることを含み、かつ、前記第2工程は、前記媒体の前記第2面側から前記電磁波を照射して、前記膨張層を膨張させる、ことを含み、
前記第1工程の前記膨張層を膨張させることと、前記第2工程の前記膨張層を膨張させることとを、同時に行う、
ことを特徴とする付記1乃至3のいずれか一項に記載の構造物形成方法。
[付記5]
前記第1工程は、前記媒体の前記第1面側から前記電磁波を照射して、前記膨張層を膨張させることを含み、かつ、前記第2工程は、前記媒体の前記第2面側から前記電磁波を照射して、前記膨張層を膨張させる、ことを含み、
前記第2工程の前記膨張層を膨張させることを、前記第1工程の前記膨張層を膨張させることよりも前に行う、
ことを特徴とする付記1乃至3のいずれか一項に記載の構造物形成方法。
[付記6]
前記第1パターンは、点字、及び、ライン領域の少なくとも一方を示すパターンであり、
前記第1工程は、前記媒体の前記第1面側から前記電磁波を照射して、前記膨張層を膨張させることを含む、
ことを特徴とする付記1乃至7のいずれか一項に記載の構造物形成方法。
[付記7]
前記第1パターンは、前記第3パターンの輪郭を示すパターンであり、
前記第1工程は、前記媒体の前記第1面側から前記電磁波を照射して、前記膨張層を膨張させることを含む、
ことを特徴とする付記2又は3に記載の構造物形成方法。
[付記8]
前記第2工程は、前記媒体の前記第2面側から前記電磁波を照射して、前記膨張層を膨張させることを含む、
ことを特徴とする付記1乃至3、及び、付記6、7のいずれか一項に記載の構造物形成方法。
[付記9]
加熱により膨張する膨張層を含む媒体の前記膨張層上に電磁波熱変換材料を形成する材料形成部と、
前記電磁波熱変換材料に向けて電磁波を照射して、前記電磁波熱変換材料が形成された前記膨張層を膨張させる照射部と、
前記媒体の前記膨張層が設けられた側である第1面に、電磁波熱変換材料を用いて、細かいパターンである第1パターンを、前記形成部によって形成させることと、その後、前記膨張層の前記第1パターンに対応する部分を、前記膨張部によって膨張させることとを含む第1工程と、前記媒体の前記膨張層が設けられた側とは反対側である第2面に、電磁波熱変換材料を用いて、前記第1パターンよりも粗いパターンを含む第2パターンを、前記形成部によって形成させことと、その後、前記膨張層の前記第2パターンに対応する部分を、前記膨張部によって膨張させることとを含む第2工程と、を実行させる制御部と、を備える、
ことを特徴とする構造物形成装置。
[付記10]
加熱により膨張する膨張層を含む媒体の前記膨張層上に電磁波熱変換材料を形成する形成部と、前記電磁波熱変換材料に向けて電磁波を照射して、前記電磁波熱変換材料が形成された前記膨張層を膨張させる膨張部と、前記形成部及び前記膨張部を制御する制御部と、を備える構造物形成装置の制御部に、
前記媒体の前記膨張層が設けられた側である第1面に、電磁波熱変換材料を用いて、細かいパターンである第1パターンを、前記形成部によって形成させることと、その後、前記膨張層の前記第1パターンに対応する部分を、前記膨張部によって膨張させることとを含む第1工程と、前記媒体の前記膨張層が設けられた側とは反対側である第2面に、電磁波熱変換材料を用いて、前記第1パターンよりも粗いパターンを含む第2パターンを、前記形成部によって形成させることと、その後、前記膨張層の前記第2パターンに対応する部分を、前記膨張部によって膨張させることとを含む第2工程と、を実行させる、
ことを特徴とする構造物形成プログラム。
[付記11]
加熱により膨張する膨張層を含む媒体であって、
前記媒体の前記膨張層が設けられた側である第1面に、細かいパターンである第1パターンに、電磁波熱変換材料が形成され、前記膨張層の前記第1パターンに対応する部分の厚みが前記膨張層の残りの部分の厚みよりも大きい、
ことを特徴とする構造物形成用加工媒体。
[付記12]
前記媒体の前記膨張層が設けられた側とは反対側である第2面に、前記第1パターンよりも粗いパターンを含む第2パターンに、電磁波熱変換材料が形成され、前記膨張層の前記第2パターンのみに対応する部分の厚みが前記第1パターンに対応する部分の厚みよりも小さい、
ことを特徴とする付記11に記載の構造物形成用加工媒体。