特許第6838622号(P6838622)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6838622熱電変換材料及びそれを用いた熱電変換素子
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6838622
(24)【登録日】2021年2月16日
(45)【発行日】2021年3月3日
(54)【発明の名称】熱電変換材料及びそれを用いた熱電変換素子
(51)【国際特許分類】
   H01L 35/24 20060101AFI20210222BHJP
   H01L 51/00 20060101ALI20210222BHJP
   H01L 51/30 20060101ALI20210222BHJP
   C01B 32/20 20170101ALI20210222BHJP
   C01B 32/158 20170101ALI20210222BHJP
   C01B 32/159 20170101ALI20210222BHJP
   C01B 32/182 20170101ALI20210222BHJP
   C07C 211/61 20060101ALI20210222BHJP
   C07D 209/88 20060101ALN20210222BHJP
   C07D 487/04 20060101ALN20210222BHJP
   C07D 235/18 20060101ALN20210222BHJP
   C07D 513/04 20060101ALN20210222BHJP
   C07D 498/04 20060101ALN20210222BHJP
【FI】
   H01L35/24
   H01L29/28 100Z
   H01L29/28 250H
   C01B32/20
   C01B32/158
   C01B32/159
   C01B32/182
   C07C211/61
   !C07D209/88
   !C07D487/04 137
   !C07D235/18
   !C07D513/04 301
   !C07D498/04 101
【請求項の数】7
【全頁数】78
(21)【出願番号】特願2019-120137(P2019-120137)
(22)【出願日】2019年6月27日
(65)【公開番号】特開2020-98899(P2020-98899A)
(43)【公開日】2020年6月25日
【審査請求日】2019年7月8日
(31)【優先権主張番号】特願2018-236680(P2018-236680)
(32)【優先日】2018年12月18日
(33)【優先権主張国】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000222118
【氏名又は名称】東洋インキSCホールディングス株式会社
(72)【発明者】
【氏名】岩田 貫
(72)【発明者】
【氏名】倉内 啓輔
【審査官】 田邊 顕人
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2014/133029(WO,A1)
【文献】 国際公開第2015/129877(WO,A1)
【文献】 特開2015−092557(JP,A)
【文献】 国際公開第2014/156717(WO,A1)
【文献】 米国特許出願公開第2017/0069814(US,A1)
【文献】 特開2013−084947(JP,A)
【文献】 特開2004−087714(JP,A)
【文献】 特表2009−522765(JP,A)
【文献】 特開2014−075442(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 35/24
C01B 32/158
C01B 32/159
C01B 32/182
C01B 32/20
C07C 211/61
H01L 51/00
H01L 51/30
C07D 209/88
C07D 235/18
C07D 487/04
C07D 498/04
C07D 513/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
炭素材料、金属材料、及び導電性高分子からなる群から選ばれる少なくとも1種の導電材料(A)及び有機化合物(B)を含有し、導電材料(A)及び有機化合物(B)が、下記数式(1)を満たし、
前記有機化合物(B)の含有量が、前記導電材料(A)の全量に対して3〜400質量%であり、
前記有機化合物(B)が、下記一般式(1)〜(4)のいずれかで表される化合物である、熱電変換材料。
数式(1)
−1.29eV≦(有機化合物(B)のHOMO)−(導電材料(A)のHOMO)≦0.24eV
[数式(1)中、(有機化合物(B)のHOMO)は有機化合物(B)のHOMO(最高被占軌道)のエネルギー準位を、(導電材料(A)のHOMO)は導電材料(A)のHOMO(最高被占軌道)のエネルギー準位をそれぞれ表す。但し、導電材料(A)が金属材料である場合は、(導電材料(A)のHOMO)は導電材料(A)のフェルミ準位を表す。]
(但し、有機化合物(B)は、前記導電材料(A)、ペリレンカルボジイミド骨格を有する化合物および下記化学式Xで表される化合物除く。)
化学式X
【化X】
一般式(1)
【化1】
[一般式(1)中、R1〜R12 は、それぞれ独立に、水素原子、ハロゲン原子、シアノ基、ニトロ基、置換もしくは未置換のアリールオキシ基、置換もしくは未置換のアリールチオ基、置換もしくは未置換のアリール基、置換もしくは未置換の複素環基、又は、置換もしくは未置換のアミノ基であり、R1〜R12は、隣り合う2つの基同士で結合して環を形成していても良い。]

一般式(2)
【化2】
[一般式(2)中、X1〜X4は、それぞれ独立に、水素原子、置換もしくは未置換のアリール基、又は置換もしくは未置換の複素環基を表し、Y1及びY2は、それぞれ独立に、酸素原子、硫黄原子、又はジシアノメチレン基を表す。]

一般式(3)
【化3】
[一般式(3)中、Z1及びZ2は、それぞれ独立に、酸素原子もしくは硫黄原子を表し、R13及びR14は、それぞれ独立に、水素原子、ハロゲン原子、シアノ基、ニトロ基、カルボキシル基、置換もしくは未置換のアリールオキシ基、置換もしくは未置換のアリールチオ基、置換もしくは未置換のアリール基、置換もしくは未置換の複素環基、又は、置換もしくは未置換のアミノ基を表す。]

一般式(4)
【化4】
[一般式(4)中、Z3及びZ4は、それぞれ独立に、酸素原子もしくは硫黄原子を表す。R15〜R18は、それぞれ独立に、水素原子、ハロゲン原子、シアノ基、ニトロ基、カルボキシル基、置換もしくは未置換のアリールオキシ基、置換もしくは未置換のアリールチオ基、置換もしくは未置換のアリール基、置換もしくは未置換の複素環基、又は、置換もしくは未置換のアミノ基を表す。]
【請求項2】
前記導電材料(A)のHOMOが、前記有機化合物(B)のHOMOよりもエネルギー準位が高い、請求項1に記載の熱電変換材料。
【請求項3】
前記有機化合物(B)が、一般式(2)で表される化合物であり、一般式(2)におけるX1及びX3が、置換もしくは未置換のアリール基、又は置換もしくは未置換の複素環基である、請求項1または2に記載の熱電変換材料。
【請求項4】
前記有機化合物(B)が、一般式(2)で表される化合物であり、一般式(2)におけるY1及びY2が、酸素原子、又は硫黄原子である、請求項1〜3いずれか1項に記載の熱電変換材料。

【請求項5】
前記導電材料(A)が、カーボンナノチューブ、ケッチェンブラック、グラフェンナノプレート及びグラフェンからなる群から選ばれる少なくとも1種を含む、請求項1〜いずれか1項に記載の熱電変換材料。
【請求項6】
導電材料(A)が、カーボンナノチューブである、請求項1〜いずれか1項に記載の熱電変換材料。
【請求項7】
請求項1〜いずれか1項に記載の熱電変換材料からなる熱電変換膜と、電極とを有し、該熱電変換膜及び該電極が互いに電気的に接続されている熱電変換素子。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、熱電変換材料及び該材料を用いた熱電変換素子に関する。
【背景技術】
【0002】
熱エネルギーと電気エネルギーを相互に変換できる熱電変換材料は、熱電発電素子やペルチェ素子のような熱電変換素子に用いられている。熱電変換素子は、熱を電力に変換する素子であり、半導体や金属の組合せによって構成される。代表的な熱電変換素子としては、p型半導体単独、n型半導体単独、又はp型半導体とn型半導体との組合せ、に分類される。熱電変換素子では、半導体の両端に温度差が生じるように熱を加えると起電力が生じるゼーベック効果を利用する。より大きな電位差を得るために、熱電変換素子では、一般的に、材料としてp型半導体とn型半導体とを組合せて使用する。
【0003】
また、熱電変換素子は、多数の素子を板状、又は円筒状に組合せてなる熱電モジュールとして使用される。熱エネルギーを直接電力に変換することが出来、例えば、体温で作動する腕時計、地上用発電及び人工衛星用発電における電源として利用できる。熱電変換素子の性能は、熱電変換材料の性能、及びモジュールの耐久性等に依存する。
【0004】
非特許文献1に記載されているとおり、熱電変換材料の性能を表す指標として、無次元熱電性能指数(ZT)が用いられる。また、熱電変換材料の性能を表す指標として、パワーファクターPF(=S2・σ)を用いる場合もある。
上記無次元熱電性能指数「ZT」は、下式(1)により表される。
ZT=(S2・σ・T)/κ ・・・式(1)
ここで、Sはゼーベック係数(V/K)、σは導電率(S・m)、Tは絶対温度(K)、及びκは熱伝導率(W/(m・K))である。熱伝導率κは下式(2)で表される。
κ=α・ρ・C ・・・式(2)
ここで、αは熱拡散率(m2/s)、ρは密度(kg/m3)、及びCは比熱容量(J/(kg・K))である。
つまり、熱電変換の性能(以下、熱電特性とも称す)を向上させるには、ゼーベック係数又は導電率を向上させ、その一方で熱伝導率を低下させることが重要である。
【0005】
代表的な熱電変換材料として、例えば、常温から500Kまではビスマス・テルル系(Bi−Te系)、常温から800Kまでは鉛・テルル系(Pb−Te系)、及び常温から1000Kまではシリコン・ゲルマニウム系(Si−Ge系)等の無機材料が使用されている。
【0006】
しかし、これらの無機材料を含む熱電変換材料は、しばしば希少元素を含み高コストであるか、又は有害物質を含む場合がある。また、無機材料は加工性に乏しいため、製造工程が複雑となる。そのため、無機材料を含む熱電変換材料については、製造エネルギー及び製造コストが高くなり、汎用化が困難である。さらに、無機材料は剛直であるため、平面ではない形状にも設置可能な、フルキシブル性を有する熱電変換素子を形成することは困難である。
【0007】
これに対し、従来の無機材料に代えて、有機材料を用いた熱電変換素子に関する検討が進められている。有機材料は、優れた成形性を有し、かつ無機材料よりも優れた可撓性を有するため、それ自身が分解しない温度範囲での汎用性が高い。また、印刷技術等を容易に活用できるため、製造エネルギーや製造コストの面でも無機材料より有利である。
【0008】

例えば、特許文献1では、有機色素骨格を高分子分散剤に結合させ、カーボンナノチューブ(CNT)と共に含有させることで、CNT分散性が良く塗布方法に適し、且つ優れた熱起電力を示す熱電材料が記載されている。また、特許文献2には、ポルフィリン骨格とアルキル基を含む置換基とが結合した、高いゼーベック係数を示す熱電変換材料が記載されている。しかしながら、特許文献1の発明では、高分子分散剤のポリマー鎖がCNTとの相互作用を阻害し十分な性能が得られてはいなかった。また、特許文献2の発明では、導電率が10-8〜10-7S/cmと低く、熱電素子として実用的な値を得ることはできていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】国際公開第2015/050113号
【特許文献2】国際公開第2015/129877号
【非特許文献】
【0010】
【非特許文献1】梶川武信著「熱電変換技術ハンドブック(初版)」エヌ・ティー・エス出版、p.19
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は、ゼーベック係数と導電性との両立を達成し、高いパワーファクターを示す熱電変換材料を提供することを課題とする。また、当該材料を用いて、優れた熱電性能を発揮する熱電変換素子を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明は、上記課題に鑑みなされたものであって、下記〔1〕〜〔7〕に関する。
【0013】
〔1〕 炭素材料、金属材料、及び導電性高分子からなる群から選ばれる少なくとも1種の導電材料(A)及び有機化合物(B)(但し、前記導電材料(A)を除く)を含有し、
導電材料(A)及び有機化合物(B)が、下記数式(1)を満たす、熱電変換材料。
数式(1)
0eV≦|(有機化合物(B)のHOMO)−(導電材料(A)のHOMO)|≦1.64eV
[数式(1)中、(有機化合物(B)のHOMO)は有機化合物(B)のHOMO(最高被占軌道)のエネルギー準位を、(導電材料(A)のHOMO)は導電材料(A)のHOMO(最高被占軌道)のエネルギー準位をそれぞれ表す。但し、導電材料(A)が金属材料である場合は、(導電材料(A)のHOMO)は導電材料(A)のフェルミ準位を表す。]
【0014】
〔2〕 前記導電材料(A)のHOMOが、前記有機化合物(B)のHOMOよりもエネルギー準位が高い、〔1〕に記載の熱電変換材料。
【0015】
〔3〕 前記有機化合物(B)の含有量が、前記導電材料(A)の全量に対して400質量%以下である、〔1〕又は〔2〕に記載の熱電変換材料。
【0016】
〔4〕 前記有機化合物(B)が、ペリレン骨格、ピロロピロール骨格、チアゾロチアゾール骨格、オキサゾロチアゾール骨格、オキサゾロオキサゾール骨格、ベンゾビスチアゾール骨格、ベンゾビスオキサゾール骨格、チアゾロベンゾオキサゾール骨格のいずれかを有する化合物である、〔1〕〜〔3〕いずれか1項に記載の熱電変換材料。
(但し、有機化合物(B)が、ペリレンカルボジイミド骨格を有する化合物および下記化学式Xで表される化合物は除く。)
化学式X
【化X】
【0017】
〔5〕 前記導電材料(A)が、カーボンナノチューブ、ケッチェンブラック、グラフェンナノプレート及びグラフェンからなる群から選ばれる少なくとも1種を含む、〔1〕〜〔4〕いずれか1項に記載の熱電変換材料。
【0018】
〔6〕 導電材料(A)が、カーボンナノチューブである、〔1〕〜〔5〕いずれか1項に記載の熱電変換材料。
【0019】
〔7〕 〔1〕〜〔6〕いずれか1項に記載の熱電変換材料からなる熱電変換膜と、電極とを有し、該熱電変換膜及び該電極が互いに電気的に接続されている熱電変換素子。
【発明の効果】
【0020】
本発明により、ゼーベック係数と導電性との両立を達成する熱電変換材料を提供することができる。また、当該材料を用いて、優れた熱電性能を発揮する熱電変換素子を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1】本発明の実施形態である熱電変換素子の一例の構造を示す模式図である。
図2】本発明の実施形態である熱電変換素子の起電力の測定方法を説明する模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
<熱電変換材料>
本発明の熱電変換材料は、|(有機化合物(B)のHOMO)−(導電材料(A)のHOMO)|(以下、ΔHOMOともいう)が小さい導電材料(A)及び有機化合物(B)を含むことを特徴とする。このような特定の組み合わせにより、高いゼーベック係数と導電性とを両立し、優れた熱電性能を発揮することができる。これは、熱励起エネルギーの小さい有機化合物から効率的に導電材料へ正孔(キャリア)が移動し、その正孔が導電材料内を移動することで、高いゼーベック係数と導電率とを達成することによる。
以下、本発明の実施形態について詳細に説明する。
【0023】
<導電材料(A)>
導電材料(A)は、導電性向上に寄与するものである。導電材料(A)の含有量を増やすことで導電性を向上させることができる。
導電材料(A)は、導電性を持つ炭素材料、金属材料、導電性高分子であれば特に制限されず、例えば、炭素材料としては、黒鉛、カーボンナノチューブ、ケッチェンブラック、グラフェンナノプレート、グラフェン等が挙げられ、金属材料としては、金、銀、銅、ニッケル、クロム、パラジウム、ロジウム、ルテニウム、インジウム、ケイ素、アルミニウム、タングステン、モリブデン、ゲルマニウム、ガリウム及び白金等の金属粉、並びに
ZnSe、CdS、InP、GaN、SiC、SiGeこれらの合金、並びにこれらの複合粉が挙げられる。また、核体と、前記核体物質とは異なる物質で被覆した微粒子、具体的には、例えば、銅を核体とし、その表面を銀で被覆した銀コート銅粉等が挙げられる。また、例えば酸化銀、酸化インジウム、酸化スズ、酸化亜鉛、酸化ルテニウム、ITO(スズドープ酸化インジウム)、AZO(アルミドープ酸化亜鉛)、及びGZO(ガリウムドープ酸化亜鉛)等の金属酸化物の粉末、並びにこれらの金属酸化物で表面被覆した粉末等が挙げられ、導電性高分子としては、PEDOT/PSS、ポリアニリン、ポリアセ
チレン、ポリピロール、ポリチオフェン、ポリパラフェニレン等が挙げられる。
使用する導電材料の種類は1種でもよいし、2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0024】
導電材料(A)の形状は特に限定されず、不定形、凝集状、鱗片状、微結晶状、球状、フレーク状、ワイヤー状等を適宜用いることができる。
【0025】
ゼーベック係数と導電率との両立の観点で、カーボンナノチューブ、ケッチェンブラック、グラフェンナノプレート及びグラフェンからなる群から選ばれる少なくとも1種が好ましく、より好ましくはカーボンナノチューブであり、特に好ましくは単層カーボンナノチューブである。
【0026】
導電材料(A)としては、例えば、薄片状黒鉛として、日本黒鉛工業社製のCMX、UP−5、UP−10、UP−20、UP−35N、CSSP、CSPE、CSP、CP、CB−150、CB−100、ACP、ACP−1000、ACB−50、ACB−100、ACB−150、SP−10、SP−20、J−SP、SP−270、HOP、GR−60、LEP、F#1、F#2、F#3、中越黒鉛工業所社製のBF−3AK、FBF、BF−15AK、CBR、CPB−6S、CPB−3、96L、96L−3、K−3、SC−120、SC−60、HLP、CP−150、SB−1、伊藤黒鉛工業社製のEC1500、EC1000、EC500、EC300、EC100、EC50、西村黒鉛社製の10099M、PB−99等が挙げられる。球状天然黒鉛としては、日本黒鉛工業社製のCGC−20、CGC−50、CGB−20、CGB−50が挙げられる。土状黒鉛としては、日本黒鉛工業社製の青P、AP、AOP、P#1、中越黒鉛社製のAPR、K−5、AP−2000、AP−6、300F、150Fが挙げられる。人造黒鉛としては、日本黒鉛工業社製のPAG−60、PAG−80、PAG−120、PAG−5、HAG−10W、HAG−150、中越黒鉛社製のG−4AK、G−6S、G−3G−150、G−30、G−80、G−50、SMF、EMF、SFF、SFF−80B、SS−100、BSP−15AK、BSP−100AK、WF−15C、SECカーボン社製のSGP−100、SGP−50、SGP−25、SGP−15、SGP−5、SGP−1、SGO−100、SGO−50、SGO−25、SGO−15、SGO−5、SGO−1、SGX−100、SGX−50、SGX−25、SGX−15、SGX−5、SGX−1が挙げられる。市販のカーボンブラックとしては、例えば、東海カーボン社製のトーカブラック#4300、#4400、#4500、#5500、デグサ社製のプリンテックスL、コロンビヤン社製のRaven7000、5750、5250、5000ULTRAIII、5000ULTRA、Conductex SC ULTRA、Conductex 975 ULTRA、PUERBLACK100、115、205、三菱化学社製の#2350、#2400B、#2600B、#3050B、#3030B、#3230B、#3350B、#3400B、#5400B、キャボット社製のMONARCH1400、1300、900、VulcanXC−72R、BlackPearls2000、TIMCAL社製のEnsaco250G、Ensaco260G、Ensaco350G、SuperP−Li等のファーネスブラック)、ライオン社製のEC−300J、EC−600JD等のケッチェンブラック、電気化学工業社製のデンカブラック、デンカブラックHS−100、FX−35等のアセチレンブラックが挙げられる。市販の導電性炭素繊維やカーボンナノチューブとしては、昭和電工社製のVGCF等の気相法炭素繊維、名城ナノカーボン社製のEC1.5,EC1.5−P、楠本化成社製のTUBALL、ゼオンナノテクノロジー社製のZEONANO等の単層カーボンナノチューブ、CNano社製のFloTube9000、FloTube7000、FloTube2000、Nanocyl社製のNC7000、Knano社製の100T、200Pが挙げられる。これらは特に限定されず、単独、又は2種以上を混合して使用することができる。
【0027】
<有機化合物(B)>
有機化合物(B)は、下記数式(1)を満たすもの、また、導電材料(A)に含まれるものでなければ特に制限されず、公知の有機化合物から選択することができる。
数式(1)
0eV≦|(有機化合物(B)のHOMO)−(導電材料(A)のHOMO)|≦1.64eV
[数式(1)中、(有機化合物(B)のHOMO)は有機化合物(B)のHOMO(最高被占軌道)のエネルギー準位を、(導電材料(A)のHOMO)は導電材料(A)のHOMO(最高被占軌道)のエネルギー準位をそれぞれ表す。但し、導電材料(A)が金属材料である場合は、(導電材料(A)のHOMO)は導電材料(A)のフェルミ準位を表す。]
【0028】
熱電変換のメカニズムは以下のように考えられる。
熱励起をした有機化合物(B)内に、正孔が生じ、その正孔が導電材料(A)へと移動し、導電材料(A)内での電位差が生じ電流が流れる。よって、導電材料(A)と有機化合物(B)とが数式(1)を満たすことで、有機化合物(B)と導電材料(A)とのHOMOの値が近くなり、有機化合物(B)から導電材料(A)へと効率的に正孔移動が起こる。これにより、導電材料(A)内での電位差が大きくなり、ゼーベック係数が向上する。
また、導電材料(A)のHOMOが、有機化合物(B)のHOMOよりもエネルギー準位が高い場合、より効率的に有機化合物(B)から導電材料(A)への正孔移動が起こるため、導電材料(A)のHOMOが、有機化合物(B)のHOMOよりもエネルギー準位が高いことが好ましい。
【0029】
また、上記メカニズムにおける正孔移動の効率は、導電材料(A)と有機化合物(B)との間の分子間距離が関係し、より分子間距離が近い即ち両者の親和性が優れている方が好ましい。例えば、CNT等のπ平面があるものに対しては、芳香環、複素環又は、酸性官能基が含まれている化合物が好ましく。銀等の金属に対しては、酸性官能基、塩基性官能基、複素環、又は金属配位骨格を含むものがより好ましい。
【0030】
前述したように、有機化合物(B)は熱励起することで正孔(キャリア)を発生させる役割を担う。よって、熱励起のしやすい材料、つまり、バンドギャップ(HOMO-LU
MO間のエネルギー差)が小さいものが好ましい。有機化合物(B)のバンドギャップは、2.5eV以下が好ましく、より好ましくは1.5eV以下であり、特に好ましくは1.0eV以下である。
【0031】
また、有機化合物(B)は、熱電変換材料中でゼーベック係数の向上に寄与する。有機化合物(B)の含有量を増やすことでゼーベック係数を向上させることができるが、有機化合物(B)の含有量を増やすと絶縁性が増して導電性が低下するため、ゼーベック係数と導電率との両立の観点から、有機化合物(B)の含有量は、前記導電材料(A)の全量に対して400質量%以下が好ましく、より好ましくは200質量%以下であり、更に好ましくは3〜120質量%であり、特に好ましくは5〜100質量%である。
【0032】
また、導電材料(A)に対する表面吸着及び均一化を促進し、さらに分子割合を増加させるために、有機化合物(B)の分子量は、小さいほうが好ましく、質量平均分子量(Mw)は、好ましくは2,000以下であり、より好ましくは1,000以下である。
【0033】
上記の条件を満たす、有機化合物(B)として特に好ましくは、ペリレン骨格、ピロロピロール骨格、チアゾロチアゾール骨格、オキサゾロチアゾール骨格、オキサゾロオキサゾール骨格、ベンゾビスチアゾール骨格、ベンゾビスオキサゾール骨格、チアゾロベンゾオキサゾール骨格のいずれかを有する化合物であることが好ましく、更に、下記一般式(1)〜(4)のいずれかで表される化合物であることが好ましい。(但し、有機化合物(B)が、ペリレンカルボジイミド骨格を有する化合物および化学式Xで表される化合物は除く。)
【0034】
一般式(1)
【化1】
【0035】
[一般式(1)中、R1〜R12 は、それぞれ独立に、水素原子、ハロゲン原子、シアノ基、ニトロ基、置換もしくは未置換のアルキル基、置換もしくは未置換のアルコキシ基、置換もしくは未置換のアリールオキシ基、置換もしくは未置換のアルキルチオ基、置換もしくは未置換のアリールチオ基、置換もしくは未置換のアリール基、置換もしくは未置換の複素環基、又は、置換もしくは未置換のアミノ基であり、R1〜R12は、隣り合う2つの基同士で結合して環を形成していても良い。]
【0036】
一般式(2)
【化2】
【0037】
[一般式(2)中、X1〜X4は、それぞれ独立に、水素原子、置換もしくは未置換のアルキル基、置換もしくは未置換のアリール基、又は置換もしくは未置換の複素環基を表し、Y1及びY2は、それぞれ独立に、酸素原子、硫黄原子、又はジシアノメチレン基を表す。]
【0038】
一般式(3)
【化3】
【0039】
[一般式(3)中、Z1及びZ2は、それぞれ独立に、酸素原子もしくは硫黄原子を表し、R13及びR14は、それぞれ独立に、水素原子、ハロゲン原子、シアノ基、ニトロ基、カルボキシル基、置換もしくは未置換のアルキル基、置換もしくは未置換のアルコキシ基、置換もしくは未置換のアリールオキシ基、置換もしくは未置換のアルキルチオ基、置換もしくは未置換のアリールチオ基、置換もしくは未置換のアリール基、置換もしくは未置換の複素環基、又は、置換もしくは未置換のアミノ基を表す。]
【0040】
一般式(4)
【化4】
【0041】
[一般式(4)中、Z3及びZ4は、それぞれ独立に、酸素原子もしくは硫黄原子を表す。R15〜R18は、それぞれ独立に、水素原子、ハロゲン原子、シアノ基、ニトロ基、カルボキシル基、置換もしくは未置換のアルキル基、置換もしくは未置換のアルコキシ基、置換もしくは未置換のアリールオキシ基、置換もしくは未置換のアルキルチオ基、置換もしくは未置換のアリールチオ基、置換もしくは未置換のアリール基、置換もしくは未置換の複素環基、又は、置換もしくは未置換のアミノ基を表す。]
【0042】
ここで、一般式(1)〜(4)中の置換基R1〜R18について説明する。
【0043】
ハロゲン原子としては、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、又はヨウ素原子等が挙げられる。
【0044】
置換もしくは未置換のアルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、ステアリル基といった炭素数1〜30の未置換のアルキル基;2−フェニルイソプロピル基、トリクロロメチル基、トリフルオロメチル基、ベンジル基、α−フェノキシベンジル基、α,α−ジメチルベンジル基、α,α−メチルフェニルベンジル基、α,α−ビス(トリフルオロメチル)ベンジル基、トリフェニルメチル基、α−ベンジルオキシベンジル基等の炭素数1〜30の置換アルキル基;又は、シクロペンチル基、シクロヘキシル基等の未置換のシクロアルキル基が挙げられる。
【0045】

置換もしくは未置換のアルコキシ基としては、例えば、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、ブトキシ基、tert−ブトキシ基、オクチルオキシ基、tert−オクチルオキシ基といった炭素数1〜20の未置換のアルコキシ基;又は、3,3,3−トリフルオロエトキシ基、ベンジルオキシ基といった炭素数1〜20の置換アルコキシ基が挙げられる。
【0046】
置換もしくは未置換のアリールオキシ基としては、例えば、フェノキシ基、1−ナフチルオキシ基、2−ナフチルオキシ基、9−アンスリルオキシ基といった炭素数6〜20の未置換のアリールオキシ基;又は、4−tert−ブチルフェノキシ基、4−ニトロフェノキシ基、3−フルオロフェノキシ基、ペンタフルオロフェノキシ基、3−トリフルオロメチルフェノキシ基等の炭素数6〜20の置換アリールオキシ基が挙げられる。
【0047】
置換もしくは未置換のアルキルチオ基としては、例えば、メチルチオ基、エチルチオ基、tert−ブチルチオ基、ヘキシルチオ基、オクチルチオ基といった炭素数1〜20の未置換のアルキルチオ基;又は、1,1,1−テトラフルオロエチルチオ基、べンジルチオ基、トリフルオロメチルチオ基といった炭素数1〜20の置換アルキルチオ基等が挙げられる。
【0048】
置換もしくは未置換のアリールチオ基としては、例えば、フェニルチオ基、といった炭素数6〜20の未置換のアリールチオ基、又は、2−メチルフェニルチオ基、4−tert−ブチルフェニルチオ基、3−フルオロフェニルチオ基、ペンタフルオロフェニルチオ基、3−トリフルオロメチルフェニルチオ基等の炭素数6〜20の置換アリールチオ基が挙げられる。
【0049】
置換もしくは未置換のアリール基としては、例えば、フェニル基、o−トリル基、m−トリル基、p−トリル基、2,4−キシリル基、p−クメニル基、メシチル基、1−ナフチル基、2−ナフチル基、1−アンスリル基、9−フェナントリル基、1−アセナフチル基、2−アズレニル基、1−ピレニル基、2−トリフェニレル基等の炭素数6〜30の未置換のアリール基;又は、p−シアノフェニル基、p−ジフェニルアミノフェニル基、p−スチリルフェニル基、4−[(2−トリル)エテニル]フェニル基、4−[(2,2−ジトリル)エテニル]フェニル基等の炭素数6〜30の置換アリール基が挙げられる。
【0050】
置換もしくは未置換の複素環基としては、例えば、2−フリル基、3−フリル基、2−チエニル基、3−チエニル基、1−ピローリル基、2−ピローリル基、3−ピローリル基、2−ピリジル基、3−ピリジル基、4−ピリジル基、2−ピラジル基、2−オキサゾリル基、3−イソオキサゾリル基、2−チアゾリル基、3−イソチアゾリル基、2−イミダゾリル基、3−ピラゾリル基、2−キノリル基、3−キノリル基、4−キノリル基、5−キノリル基、6−キノリル基、7−キノリル基、8−キノリル基、1−イソキノリル基、2−キノキサリニル基、2−ベンゾフリル基、2−ベンゾチエニル基、N−インドリル基、N−カルバゾリル基、N−アクリジニル基といった炭素数3〜20の未置換の芳香族複素環基;又は、2−(5−フェニル)フリル基、2−(5−フェニル)チエニル基、2−(3−シアノ)ピリジル基といった炭素数3〜20の置換芳香族複素環基が挙げられる。
【0051】
置換もしくは未置換のアミノ基としては、例えば、未置換のアミノ基(NH2);又は、N−メチルアミノ基、N−エチルアミノ基、N,N−ジエチルアミノ基、N,N−ジイソプロピルアミノ基、N,N−ジブチルアミノ基、N−ベンジルアミノ基、N,N−ジベンジルアミノ基、N−フェニルアミノ基、N−フェニル−N−メチルアミノ基、N,N−ジフェニルアミノ基、N,N−ビス(m−トリル)アミノ基、N,N−ビス(p−トリル)アミノ基、N,N−ビス(p−ビフェニリル)アミノ基、ビス[4−(4−メチル)ビフェニリル]アミノ基、N−p−ビフェニリル−N−フェニルアミノ基、N−α−ナフチル−N−フェニルアミノ基、N−β−ナフチル−N−フェニルアミノ基、N−フェナントリル−N−フェニルアミノ基、N,N−ビス(m−フルオロフェニル)アミノ基、N,N−ビス(3−(9−フェニル)カルバゾール)アミノ基、N,N−ビス(p−シアノフェニル)アミノ基、ビス[4−(α,α’−ジメチルベンジル)フェニル]アミノ基等の炭素数1〜30の置換アミノ基が挙げられる。
【0052】
材料の性能、実用性の観点で、有機化合物(B)は、前述のとおりバンドギャップが小さく、かつ後述する溶剤等への親和性に優れているものが好ましい。上記観点から、一般式(1)中の置換基R1〜R12は、水素原子、シアノ基、ニトロ基、置換もしくは未置換のアルキル基、置換もしくは未置換のアリール基、置換もしくは未置換の芳香族複素環基、置換もしくは未置換のアミノ基が好ましく、より好ましくは、水素原子、シアノ基、置換もしくは未置換のアリール基、置換もしくは未置換の芳香族複素環基、又は置換もしくは未置換のアミノ基であり、特に好ましくは、水素原子、又は置換アミノ基である。
【0053】
中でも、R11が置換もしくは未置換のアミノ基であることが好ましく、より好ましくは、アリール基、又は複素環基、特にカルバゾリル基等の芳香族複素環基等で置換されたアミノ基である。
【0054】
次に、一般式(2)中の置換基X1〜X4、Y1及びY2について説明する。
【0055】
置換もしくは未置換のアルキル基、置換もしくは未置換のアリール基、又は置換もしくは未置換の複素環基は、前記一般式(1)で説明したものと同義である。
【0056】
置換基X1、X3は、各々独立に、バンドギャップの低減、導電材料(A)への親和性の観点で、π共役拡張が期待される、置換もしくは未置換のアリール基、又は置換もしくは未置換の複素環基が好ましい。
【0057】
置換基X2及びX4は、各々独立に、溶剤などへの親和性の観点から、水素原子、又は置換もしくは未置換のアルキル基が好ましい。
【0058】
1及びY2は、酸素原子、又は硫黄原子が好ましく、特に好ましくは酸素原子である。
【0059】
一般式(1)〜(4)で表される化合物の具体例を下記表1〜表28、表31〜40に示すが、これらに限定されるものではない。ただし、表1〜表28、表31〜40中、Phはフェニル基を、Tolはp−トリル基を、Meはメチル基を、Etはエチル基を、n−C49はブチル基を、t−Bu、tert−Bu、およびButはtert−ブチル基を、n−C613はヘキシル基を、それぞれ表す。
【0060】
【表1】
【0061】
【表2】
【0062】
【表3】
【0063】
【表4】
【0064】
【表5】
【0065】
【表6】
【0066】
【表7】
【0067】
【表8】
【0068】
【表9】
【0069】
【表10】
【0070】
【表11】
【0071】
【表12】
【0072】
【表13】
【0073】
【表14】
【0074】
【表15】
【0075】
【表16】
【0076】
【表17】
【0077】
【表18】
【0078】
【表19】
【0079】
【表20】
【0080】
【表21】
【0081】
【表22】
【0082】
【表23】
【0083】
【表24】
【0084】
【表25】
【0085】
【表26】
【0086】
【表27】
【0087】
【表28】
【0088】
【表31】
【0089】
【表32】
【0090】
【表33】
【0091】
【表34】
【0092】
【表35】
【0093】
【表36】
【0094】
【表37】
【0095】
【表38】
【0096】
【表39】
【0097】
【表40】
【0098】
<その他の成分>
本発明の熱電変換材料は、その特性を向上させる観点から、必要に応じて、追加の成分を含んでよい。例えば、以下に例示する助剤を添加することによって、塗工性、導電性及び熱電特性のさらなる向上が可能となる。
【0099】
(溶剤)
本発明において使用する溶剤は、導電材料(A)と有機化合物(B)の混合媒として使用され、インキ化による塗工性向上が可能とする。使用できる溶剤としては、導電材料(A)と有機化合物(B)とを溶解又は良分散できれば特に限定されず、有機溶剤や水を挙げることができ、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
有機溶剤としては、例えば、メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール、エチレングリコールメチルエーテル、ジエチレングリコールメチルエーテル等のアルコール類、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン等のケトン類、テトラヒドロフラン、ジオキサン、エチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテル等のエーテル類、ヘキサン、ヘプタン、オクタン等の炭化水素類、ベンゼン、トルエン、キシレン、クメン等の芳香族類、酢酸エチル、酢酸ブチル等のエステル類、ターピネオール、ジヒドロターピネオール、2,4-ジエチル-1,5-ペンタンジオール、1、3−ブチレングリコール、イソボルニルシクロヘキサノール、
N−メチルピロリドン等から、必要に応じて適宜選択することができる。
導電材料(A)と有機化合物(B)を分散する溶剤としては、N−メチルピロリドンが特に好ましい。
【0100】
(助剤)
使用可能な助剤は、特に限定されず、例えば、ラクタム類、アルコール類、アミノアルコール類、カルボン酸類、酸無水物類、及びイオン性液体が挙げられる。具体例は以下のとおりである。
ラクタム類:N−メチルピロリドン、ピロリドン、カプロラクタム、N−メチルカプロラクタム、及びN−オクチルピロリドン等。
アルコール類:ショ糖、グルコース、フルクトース、ラクトース、ソルビトール、マンニトール、キシリトール、エチレングリコール、1,3−プロパンジオール、1,4−ブタンジオール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、グリセリン、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、トリフルオロエタノール、m−クレゾール、及びチオジグリコール等。
アミノアルコール類:ジエタノールアミン、及びトリエタノールアミン等。 カルボン酸類:2−フランカルボン酸、3−フランカルボン酸、ジクロロ酢酸、及びトリフルオロ酢酸等。
酸無水物類:無水酢酸、無水プロピオン酸、無水アクリル酸、無水メタクリル酸、無水安息香酸、無水コハク酸、無水マレイン酸、無水イタコン酸、無水グルタル酸、無水フタル酸、テトラヒドロ無水フタル酸、ヘキサヒドロ無水フタル酸(別名:シクロヘキサン−1,2−ジカルボン酸無水物)、無水トリメリット酸、ヘキサヒドロ無水トリメリット酸、無水ピロメリット酸、無水ハイミック酸、ビフェニルテトラカルボン酸無水物、1,2,3,4−ブタンテトラカルボン酸無水物、ナフタレンテトラカルボン酸無水物、及び9,9−フルオレニリデンビス無水フタル酸等。スチレン−無水マレイン酸コポリマー、エチレン−無水マレイン酸コポリマー、イソブチレン−無水マレイン酸コポリマー、アルキルビニルエーテル−無水マレイン酸コポリマー等の、無水マレイン酸と他のビニルモノマーとを共重合したコポリマー等。
【0101】
導電性及び熱電特性の観点から、助剤として、ラクタム類及びアルコール類の少なくとも一方を使用することが好ましい。助剤の含有量は、熱電変換材料の全質量を基準として、0.1〜30質量%の範囲が好ましく、1〜10質量%の範囲がより好ましく、1〜5質量%の範囲がさらに好ましい。助剤の含有量を0.1質量%以上にすることで、導電性及び熱電特性の向上効果を容易に得ることができる。また、助剤の含有量を50質量%以下にした場合、膜物性の低下を抑制することができる。
【0102】
(樹脂)
本発明の熱電変換材料は、成膜性や膜強度の調整等を目的として、導電性及び熱電特性に影響しない範囲で、樹脂を含んでもよい。
樹脂は、熱電変換材料の各成分に相溶又は混合分散するものであればよい。熱硬化性樹脂及び熱可塑性樹脂のいずれを用いても良い。使用可能な樹脂の具体例として、ポリエステル樹脂、ポリイミド樹脂、ポリアミド樹脂、フッ素樹脂、ビニル樹脂、エポキシ樹脂、キシレン樹脂、アラミド樹脂、ポリウレタン樹脂、ポリウレア樹脂、メラミン樹脂、フェノール樹脂、ポリエーテル樹脂、アクリル樹脂、アクリルアミド樹脂、及びこれらの共重合樹脂等が挙げられる。特に限定するものではないが、一実施形態において、ポリウレタン樹脂、ポリエーテル樹脂、アクリル樹脂、及びアクリルアミド樹脂からなる群から選択される少なくとも1種を使用することが好ましい。
【0103】
(無機熱電材料から成る微粒子)
本発明の熱電変換材料は、熱電変換性能を高めるために、必要に応じて、無機熱電材料から成る微粒子を含んでもよい。 無機熱電材料の一例として、Bi−(Te、Se)系、Si−Ge系、Mg−Si系、Pb−Te系、GeTe−AgSbTe系、(Co、Ir、Ru)−Sb系、(Ca、Sr、Bi)Co25系等を挙げることができる。より具体的には、Bi2Te3、PbTe、AgSbTe2、GeTe、Sb2Te3、NaCo24、CaCoO3、SrTiO3、ZnO、SiGe、Mg2Si、FeSi2、Ba8Si46、MnSi1.73、ZnSb、Zn4Sb3、GeFe3CoSb12、及びLaFe3CoSb12からなる群から選択される少なくとも1種を使用することができる。このとき、上記無機熱電材料に不純物を加えて極性(p型、n型)や導電率を制御して利用してもよい。無機熱電材料を使用する場合、その使用量は、成膜性や膜強度に影響しない範囲で調整する。
【0104】
<熱電変換素子>
本発明の熱電変換素子は、上記熱電変換材料を用いて構成されることを特徴とする。一実施形態において、熱電変換素子は、上記熱電変換材料を用いて形成された熱電変換膜と、電極とを有し、上記熱電変換膜及び上記電極は互いに電気的に接続されている。熱電変換膜は、導電性及び熱電特性に加えて、耐熱性及び可撓性の点でも優れる。そのため、本実施形態によれば、高品質な熱電変換素子を容易に実現することができる。
【0105】
熱電変換膜は、基材上に熱電変換材料を塗布して得られる膜であってよい。熱電変換材料は優れた成形性を有するため、塗布法によって良好な膜を得ることが容易である。熱電変換膜の形成には、主に湿式製膜法が用いられる。具体的には、スピンコート法、スプレー法、ローラーコート法、グラビアコート法、ダイコート法、コンマコート法、ロールコート法、カーテンコート法、バーコート法、インクジェット法、ディスペンサー法、シルクスクリーン印刷、フレキソ印刷等の各種手段を用いた方法が挙げられる。塗布する厚み、及び材料の粘度等に応じて、上記方法から適宜選択することができる。
【0106】
熱電変換膜の膜厚は、特に限定されるものではないが、後述するように、熱電変換膜の厚さ方向又は面方向に温度差を生じ、かつ伝達できるように、一定以上の厚みを有するように形成されることが好ましい。一実施形態において、熱電特性の点から、熱電変換膜の膜厚は、0.1〜200μmの範囲が好ましく、1〜100μmの範囲が好ましく、1〜50μmの範囲がさらに好ましい。
【0107】
また、熱電変換材料を塗布する基材として、ポリエチレン、ポリエチレンテレフテレート、ポリエチレンナフタレート、ポリエーテルサルフォン、ポリプロピレン、ポリイミド、ボリカーボネート、及びセルローストリアセテート等の材料からなるプラスチックフィルム、又はガラス等を用いることができる。
【0108】
基材と熱電変換膜との密着性を向上させる目的で、基材表面に様々な処理を行うことができる。具体的には、熱電変換材料の塗布に先立ち、UVオゾン処理、コロナ処理、プラズマ処理、又は易接着処理を行ってもよい。
【0109】
本発明の実施形態である熱電変換素子は、上記熱電変換材料を用いて構成されることを除き、当技術分野で周知の技術を適用して構成することができる。代表的に、熱電変換素子のより具体的な構成、及びその製造方法について説明する。
【0110】
一実施形態において、熱電変換素子は、熱電変換材料を用いて得た熱電変換膜と、この熱電変換膜と電極的に接続する一対の電極とを有する。ここで、「電気的に接続する」とは、互いに接合しているか、又はワイヤー等の他の構成部材を介して通電できる状態であることを意味する。
【0111】
電極の材料は、金属、合金、及び半導体から選択することができる。一実施形態において、導電率が高いこと、熱電変換膜を構成する本発明による熱電変換材料との接触抵抗が低いことから、金属及び合金が好ましい。具体例として、電極は、金、銀、銅、及びアルミニウムからなる群から選択される少なくとも1種を含むことが好ましい。電極は、銀を含むことがさらに好ましい。
【0112】
電極は、真空蒸着法、電極材料箔や電極材料膜を有するフィルムの熱圧着、電極材料の微粒子を分散したペーストの塗布、等の方法によって形成することができる。プロセスが簡便な観点で、電極材料箔や電極材料膜を有するフィルムの熱圧着、電極材料を分散したペーストの塗布による方法が好ましい。
【0113】
熱電変換素子の構造の具体例は、熱電変換膜と一対の電極との位置関係から、(1)本発明による熱電変換膜の両端に電極が形成されている構造、(2)本発明の熱電変換膜が2つの電極で挟持されている構造に大別される。
例えば、上記(1)の構造を有する熱電変換素子は、基材上に熱電変換膜を形成した後に、その両端にそれぞれ銀ペーストを塗布して第1及び第2の電極を形成することによって得ることができる。このように熱電変換膜の両端に電極が形成された熱電変換素子は、2つの電極間の距離を広くすることが容易である。そのため、2つの電極間で大きな温度差を発生させて、効率良く熱電変換を行うことが容易である。
【0114】
上記(2)の構造を有する熱電変換素子は、例えば、基材上に銀ペーストを塗布して第1の電極を形成し、その上に本発明の熱電変換膜を形成し、さらにその上に銀ペーストを塗工して第2の電極を形成することによって得ることができる。このように2つの電極で本発明の熱電変換膜を挟持する熱電変換素子では、二つの電極間の距離を広くすることは難しい。そのため、2つの電極間に大きな温度差を発生させることは難しいが、熱電変換膜の膜厚を大きくすることによって、温度差を大きくすることが可能である。また、このような構造を有する熱電変換素子は、基材に対して垂直な方向の温度差を利用できることから、発熱体に貼り付ける形態での利用が可能である。そのため、熱源の広い面積の活用が容易となる点で好ましい。
【0115】
熱電変換素子は、直列に接続することで高い電圧を発生させることが可能であり、並列に接続することで大きな電流を発生させることが可能である。また、熱電変換素子は、2つ以上の熱電変換素子を接続したものであってもよい。本発明によれば、熱電変換素子が優れた可撓性を有するため、平面ではない形状を有する熱源に対しても追随して良好に設置することが可能である。
【0116】
一実施形態において、本発明の熱電変換素子を他の熱電材料から成る熱電変換素子と組み合わせることも有効である。例えば、無機熱電材料として、Bi−(Te、Se)系、Si−Ge系、Mg−Si系、Pb−Te系、GeTe−AgSbTe系、(Co、Ir、Ru)−Sb系、(Ca、Sr、Bi)Co25系等を挙げることができ、具体的には、Bi2Te3、PbTe、AgSbTe2、GeTe、Sb2Te3、NaCo24、CaCoO3、SrTiO3、ZnO、SiGe、Mg2Si、FeSi2、Ba8Si46、MnSi1.73、ZnSb、Zn4Sb3、GeFe3CoSb12、及びLaFe3CoSb12などからなる群から選択される少なくとも1種を使用することができる。このとき、上記無機熱電材料に、不純物を加えて、極性(p型、n型)や導電率を制御して利用しても良い。その他、有機熱電材料として、ポリチオフェン、ポリアニリン、ポリアセチレン、フラーレン、及びそれらの誘導体からなる群から選択される少なく1種を使用することができる。これら材料から構成される他の熱電変化素子を組合せる場合、素子のフレキシブル性を損なわない範囲内で、他の熱電変換素子を作製することが好ましい。
【0117】
複数の熱電変換素子を接続する場合、1つの基材に集積した状態で接続して利用することもできる。このような実施形態において、本発明による熱電変換素子と、n型としての極性を示す熱電材料から成る熱電変換素子との組合せが好ましく、これらを直列に接続することがより好ましい。本実施形態によれば、熱電変換素子を緻密に集積することが容易となる。
【実施例】
【0118】
以下、実験例により、本発明をより具体的に説明する。なお、例中、「部」とあるのは「質量部」を、「%」とあるのは「質量%」をそれぞれ意味するものとする。また、NMPはN−メチルピロリドンを示す。
【0119】
<質量平均分子量(Mw)の測定方法>
Mwの測定は東ソー株式会社製GPC(ゲルパーミエーションクロマトグラフィー)「HPC−8020」を用いた。GPCは溶剤(THF;テトラヒドロフラン)に溶解した物質をその分子サイズの差によって分離定量する液体クロマトグラフィーである。本発明における測定は、カラムに「LF−604」(昭和電工株式会社製:迅速分析用GPCカラム:6mmID×150mmサイズ)を直列に2本接続して用い、流量0.6ml/min、カラム温度40℃の条件で行い、質量平均分子量(Mw)の決定はポリスチレン換算で行った。
【0120】
<HOMO値、フェルミ準位の測定方法>
導電材料(A)及び有機化合物(B)のHOMO準位(又は、導電材料が金属である場合はフェルミ準位)の測定は、単一の各成分をITOガラス基板上に張った導電テープの上に固着させ、測定サンプルとした後、光電子分光法(理研計器社製:AC−2)により測定した。測定値及び測定値から算出した|(有機化合物(B)のHOMO)−(導電材料(A)のHOMO)|の値は、表29および表41に記載した。
【0121】
<有機化合物(B)の合成>
(合成例1:有機化合物(B4))
ニトロベンゼン20ml中に、3−アミノペリレン5.0g、3−ブロモ−9−フェニルカルバゾール15.2g、水酸化ナトリウム1.5g、及び酸化銅1.0gを加え、窒素雰囲気下、200℃にて50時間加熱撹拌した。放冷後、上記混合物を500mlの水で希釈し、トルエンで抽出した。抽出液を濃縮した後、シリカゲルを用いたカラムクロマトグラフィーにより精製を行い、有機化合物(B4)7.3gを得た。
【0122】
有機化合物(B4)
【化6】
【0123】
(合成例2:有機化合物(B30))
ニトロベンゼン20ml中に、3−アミノペリレン5.0g、4−ブロモビフェニル12.3g、水酸化ナトリウム1.5g、及び酸化銅1.0gを加え、窒素雰囲気下、200℃にて50時間加熱撹拌した。放冷後、上記混合物を500mlの水で希釈し、トルエンで抽出した。抽出液を濃縮した後、シリカゲルを用いたカラムクロマトグラフィーにより精製を行い、有機化合物(B30)5.6gを得た。
【0124】
有機化合物(B30)
【化7】
【0125】
(合成例3:有機化合物(B128))
コハク酸ジメチル18.5g、2−シアノチオフェン30g、水素化ナトリウム13.5gをアミルアルコール300gに溶解し、8時間還流させた 。冷却した後、沈殿物をろ過し、酢酸、メタノールで洗浄することにより、赤褐色固体17.67g得た。その後、得られた固体10g、1−ヨード−2−メチルプロパン26.1g、tert−ブトキシナトリウム10.3gをジメチルアセトアミド300gに溶解し、8時間還流させた。放冷後、上記混合物をメタノール1000mlに入れ、固体を析出させ、ろ集後、シリカゲルを用いたカラムクロマトグラフィーにより精製を行い、有機化合物(B128)9.58gを得た。
【0126】
有機化合物(B128)
【化8】
【0127】
(合成例4:有機化合物(B166))
コハク酸ジメチル18.5g、2−シアノフラン28.5g、水素化ナトリウム13.5gをアミルアルコール300gに溶解し、8時間還流させた 。冷却した後、沈殿物をろ過し、酢酸、メタノールで洗浄して、有機化合物(B166)15.67g得た。
【0128】
有機化合物(B166)
【化9】
【0129】
(合成例5:有機化合物(B187))
コハク酸ジイソプロピル20.2g、ジ(p−トリル)アミノベンゾニトリル59.6g、tert−ブトキシカリウム22.4gをtert−ペンチルアルコール150gに溶解し、8時間還流させた 。冷却した後、沈殿物をろ過し、酢酸、メタノールで洗浄することにより、赤色固体36.8g得た。この赤色固体34gをニトロベンゼン340gに懸濁させた後、p−トルエンスルホン酸エチル75g及び炭酸カリウム41.4gを添加した。200℃まで加熱昇温し、この温度において窒素雰囲気下に3時間攪拌を行った。その後室温まで冷却し、析出物をろ過した後メタノールで洗浄した。次に1700gの水中に懸濁させ、80〜90℃で30分間攪拌した後、ろ過、水洗、乾燥して有機化合物(B187)27.6gを得た。
【0130】
有機化合物(B187)
【化10】
【0131】
(合成例6:有機化合物(B192))
コハク酸ジメチル18.4g、4−トリフルオロメチルベンゾニトリル53.1g、ナトリウムブトキシド25.3gをアミルアルコール200gに溶解し、8時間還流させた 。冷却した後、沈殿物をろ過し、酢酸、メタノールで洗浄して、有機化合物(B192)を21.2g得た。
【0132】
有機化合物(B192)
【化11】
【0133】
(合成例7:有機化合物(B0))
2−(2−アミノフェニル)ベンズイミダゾール(Aldrich社製試薬)21.00gを脱水ピリジン190gに室温にて溶解し、この溶液に2,4,6−トリメチルベンゾイルクロライド19.24gを数回に分けて加え、室温を保持しながら2 時間撹拌した。得られた溶液を氷水1000g に注ぎ、塩酸を添加してpHを3 に調整してから析出物をろ別し、水洗した後、100℃ で減圧乾燥した。得られた固体にアセトニトリル400mlを加え、沸点にて1時間リスラリーした。得られたスラリー中の固体をろ別し、冷アセトニトリルで洗浄した後、100℃ で減圧乾燥することにより、有機化合物(B0)を21.59g 得た。
【0134】
有機化合物(B0)
【化12】
【0135】
(合成例10:有機化合物(B248))
コハク酸ジメチル10.0g、1−ナフトニトリル28.1g、ナトリウムブトキシド15.8gをアミルアルコール200gに溶解し、8時間還流させた 。冷却した後、沈殿物をろ過し、酢酸、メタノールで洗浄して、有機化合物(B248)を14.5g得た。
【0136】
有機化合物(B248)
【化13】
【0137】
(合成例11:有機化合物(B242))
コハク酸ジメチル10.0g、2−シアノピリジン17.1g、ナトリウムブトキシド15.8gをアミルアルコール200gに溶解し、8時間還流させた 。冷却した後、沈殿物をろ過し、酢酸、メタノールで洗浄して、有機化合物(B242)を21.2g得た。
【0138】
有機化合物(B242)
【化14】
【0139】
(合成例12:有機化合物(B254))
コハク酸ジメチル20.0g、4−(ジメチルアミノ)ベンゾニトリル48.0g、水素化ナトリウム31.6gをアミルアルコール400gに溶解し、8時間還流させた 。冷却した後、沈殿物をろ過し、酢酸、メタノールで洗浄することにより、紫色固体13.9g得た。その後、得られた固体10g、ヨードエタン17.2g、ナトリウムブトキシド10.3gをジメチルアセトアミド300gに溶解し、8時間還流させた。放冷後、上記混合物をメタノール1000mlに入れ、固体を析出させ、ろ集後、シリカゲルを用いたカラムクロマトグラフィーにより精製を行い、有機化合物(B254)9.46gを得た。
【0140】
有機化合物(B254)
【化15】
【0141】
(合成例13:有機化合物(B250))
コハク酸ジメチル10.0g、4−ブロモベンゾニトリル29.9g、水素化ナトリウム15.8gをアミルアルコール200gに溶解し、8時間還流させた 。冷却した後、沈殿物をろ過し、酢酸、メタノールで洗浄することにより、赤色固体16.1g得た。その後、得られた固体10g、1−チアントレニルボロン酸29.1g、テトラキス(トリフェニルホスフィン)パラジウム(0)0.65gをキシレン100gに溶解し窒素で置換、6時間還流させた。放冷後、反応液から溶剤を揮発させたのち、シリカゲルを用いたカラムクロマトグラフィーにより精製を行い、有機化合物(B250)4.53gを得た。
【0142】
有機化合物(B250)
【化16】
【0143】
(合成例14:有機化合物(B257))
ルベアン酸10.0g、ベンズアルデヒド24.7g、フェノール100gを混合し、160℃で6時間加熱した。冷却した後、反応液を1000gのメタノールに加え、析出した沈殿物をろ集、メタノールで洗浄することで有機化合物(B257)を17.4g得た。
【0144】
有機化合物(B257)
【化17】
【0145】
(合成例15:有機化合物(B277))
ルベアン酸10.0g、3−ホルミル−N−エチルカルバゾール52.0g、フェノール100gを混合し、160℃で6時間加熱した。冷却した後、反応液を1000gのメタノールに加え、析出した沈殿物をろ集、メタノールで洗浄することで有機化合物(B277)を22.5g得た。
【0146】
有機化合物(B277)
【化18】
【0147】
(合成例16:有機化合物(B351))
2,5−ジアミノ−1,4−ベンゼンジチオール二塩酸塩10.0g、4−ブチルベンゾイルクロリド40.1g、テトラヒドロフラン50gとN−メチル−2−ピロリドン50gをフラスコに加え、48時間還流した。放冷後、水酸化ナトリウム水溶液を加え反応系を中和、析出した固体をろ集し、有機化合物(B351)8.2gを得た。
【0148】
有機化合物(B351)
【化19】
【0149】
(合成例17:有機化合物(B339))
2,5−ジアミノヒドロキノンニ塩酸塩10.0g、チオフェン−2−カルボニルクロリド34.4g、ポリリン酸33.3gとテトラヒドロフラン100gをフラスコに加え、25時間還流した。放冷後、水酸化ナトリウム水溶液を加え反応系を中和、析出した固体をろ集し、有機化合物(B339)8.0gを得た。
【0150】
有機化合物(B339)
【化20】
【0151】
<側鎖に有機色素を導入したポリマーの合成>
(合成例8:色素導入ポリマー1)
国際公開第2015/050113号の段落0074及び0075を参考にして、質量平均分子量(Mw)が約21,000の、下記構造で表される側鎖にペリレン骨格導入したアクリルポリマーである色素導入ポリマー1を得た。
【0152】
色素導入ポリマー1
【化21】
【0153】
<樹脂成分の合成>
(合成例9:バインダー樹脂1)
攪拌機、温度計、還流冷却器、滴下装置、窒素導入管を備えた反応容器に、テレフタル酸とアジピン酸と3−メチル−1,5−ペンタンジオールとから得られるポリエステルポリオール((株)クラレ製「クラレポリオールP−2011」、Mn=2,011)455.5部、ジメチロールブタン酸16.5部、イソホロンジイソシアネート105.2部、トルエン140部を仕込み、窒素雰囲気下90℃3時間反応させ、これにトルエン360部を加えてイソシアネート基を有するウレタンプレポリマー溶液を得た。次に、イソホロンジアミン19.9部、ジ−n−ブチルアミン0.63部、2−プロパノール294.5部、トルエン335.5部を混合したものに、得られたイソシアネート基を有するウレタンプレポリマー溶液969.5部を添加し、50℃で3時間続いて70℃2時間反応後、100℃の真空乾燥を行い、質量平均分子量(Mw)=61,000の、ウレタンウレア樹脂であるバインダー樹脂1を得た。
【0154】
<熱電変換材料の製造>
[実施例1]
(分散液1)
XGSciences社製グラフェンナノプレートレット「xGNP−M−5」0.4部、有機化合物(B4)0.4部、NMP79.2部をそれぞれ秤量して混合した。更にジルコニアビーズ(φ1.25mm)を140部加え、スキャンデックスで2時間振とう後、ろ過してジルコニアビーズを取り除き、熱電変換材料の分散液1を得た。
【0155】
.
[実施例2〜38および77〜85]
(分散液2〜38および77〜85)
構成成分及びその含有量を表29および表41に示す内容に変更した以外は、分散液1と同様にして、熱電変換材料の分散液2〜38および77〜85を得た。
【0156】
[比較例1]
(分散液101)
分散液1の有機化合物(B4)を、色素導入ポリマー1又に変更した以外は分散液1と同様にして、色素導入ポリマーを含む分散液101を得た。
【0157】
[比較例2]
(分散液102)
有機化合物(B30)0.8部、NMP79.2部をそれぞれ秤量して混合した。更にジルコニアビーズ(φ1.25mm)を140部加え、スキャンデックスで2時間振とう後、ろ過してジルコニアビーズを取り除き、導電材料を含まない分散液102を得た。
【0158】
<熱電変換材料の評価>
得られた分散液1〜38、及び101を、シート状基材である厚さ75μmのPETフィルム上にアプリケータを用いて塗布した後、120℃で30分間加熱乾燥して、PET基材上に、膜厚5μmの熱電変換膜を有する積層体を得た。また、分散液102を、10cm角のガラス基板上に約2g滴下し、スピンコート(2000rpm、10秒)を行った後、120℃で30分加熱乾燥して、ガラス基材上に、膜厚452nmの熱電変換膜を有する積層体を得た。
得られた熱電変換膜(以下、塗膜ともいう)を有する積層体について、以下のとおり導電性、ゼーベック係数、及びパワーファクター(PF)を評価した。結果を表29および表41に示す。
【0159】
(導電率)
得られた積層体を2.5cm×5cmに切り取り、JIS−K7194に準じて、ロレスタGX MCP−T700(三菱化学アナリテック社製)を用いて4端子法で導電率を測定した。ガラス基材の積層体はガラスカッターを用いてカットした。
【0160】
(ゼーベック係数)
得られた積層体を3mm×10mmに切り取り、アドバンス理工株式会社製のZEM−3LWを用いて、80℃におけるゼーベック係数(μW/K)を測定した。
【0161】
(パワーファクター(PF))
得られた導電率及びゼーベック係数を用いて、80℃におけるPF(=S2・σ)を算出し、以下の基準に従って評価した。PFが2.5μW/(mK2)以上であれば、実用
可能なレベルである。
◎:PFが20μW/(mK2)以上である(非常に良好)
○:PFが10μW/(mK2)以上、20μW/(mK2)未満である(良好)
△:PFが2.5μW/(mK2)以上、10μW/(mK2)未満である(実用可能)
×:PFが2.5μW/(mK2)未満である(実用不可)
【0162】
【表29】
【0163】
【表41】
【0164】
表29および表41中の略語は以下のとおりである。
GNP:XGSciences社製グラフェンナノプレートレット「xGNP−M−5」
KB:ライオン社製 ケッチェンブラック 「EC−300J」
黒鉛:日本黒鉛社製 黒鉛「CPB」
MWCNT:Knano社製 多層カーボンナノチューブ「100P」
SWCNT:楠本化成社製単層カーボンナノチューブ「TUBALL」
PEDOT/PSS:Heraeus社製 「Clevios PH1000」
Ag粉:DOWA社製 「FA-D-5」
Cu粉:DOWA社製 「2.5μm-TypeA」
B375:[1,3]оxazоlо[5,4‐d][1,3]оxazоle‐2,5‐dicarbоxylic acid (FCH Group社製オキサゾロオキサゾール)
(B375)
【化22】
【0165】
表29および表41が示すように、本発明の熱電変換材料は、導電率とゼーベック係数とを両立し、高いPFを示した。高い導電率を持つ単層カーボンナノチューブを用いた場合に、PFに優れ、特に、単層カーボンナノチューブとΔHOMOが小さい有機化合物(B)とを組み合わせた場合に、より高いPFを示した(実施例14、17、及び18)。
一方、色素導入ポリマーを用いた比較例1は、ΔHOMOが1.64を超えており、また、ゼーベック係数を向上させるための色素ユニット(ペリレン骨格)の密度が低いため、ゼーベック係数の低下を招き、低いPFを示した。また、炭素材料を含まない比較例2は、導電率が低下し、低いPFを示した。
【0166】
<熱電変換素子の製造>
[実施例39]
(熱電変換素子1)
50μmのPETフィルム上に、実施例1で調製した熱電変換材料の分散液1を塗布し、5mm×30mmの形状を有する熱電変換膜を、それぞれ10mm間隔に5つ作製した(図1の符号2を参照)。次いで、各熱電変換膜がそれぞれ直列に接続されるように、銀ペーストを用いて、5mm×33mmの形状を有する銀回路を4つ作製し(図1の符号3を参照)、熱電変換素子1を得た。上記銀ペーストとしては、トーヨーケム株式会社製のREXALPHA RA FS 074を使用した。
【0167】
[実施例40〜76、86〜94、比較例3]
(熱電変換素子2〜38、77〜85、101)
熱電変換素子1で使用した熱電変換材料の分散液を表30および表42に示す分散液に変更した以外は、熱電変換素子1と同様にして、熱電変換素子2〜38、77〜85、101を得た。
【0168】
<熱電変換素子の評価>
得られた熱電変換素子について、以下のようにして起電力を評価した。結果を表30および表42に示す。
【0169】
(起電力の測定)
各熱電変換素子について、熱電変換膜及び銀回路が内側になるように(図2に示すA−A’線に沿うように)折り曲げ、その状態のまま、100℃に加熱したホットプレート上に設置した。なお、折り曲げの程度は、図2のB−B’間の距離が10mmになるようにそれぞれ調整した。上記のように折り曲げたサンプルをホットプレート上に設置して10分後の塗膜間の起電力について電圧計を用いて測定した。測定は、室温下(20℃)で実施した。以下の基準に従い、測定値から熱電特性について評価した。
◎:起電力が1mV以上である(良好)
〇:起電力が500μV以上、1mV未満である(実用可能)
×:起電力が500μV未満である(不良)
【0170】
【表30】
【0171】
【表42】
【0172】
表30および表42が示すように、本発明の熱電変換素子は、比較例3に比べて優れた熱電特性を有していた。以上のことから、本願発明の実施形態によれば、ゼーベック係数及び導電性に優れ、高いPFを示す、優れた熱電特性を有する熱電変換材料を実現することができ、高効率の熱電変換素子を実現できることが分かる。
【産業上の利用可能性】
【0173】
本発明の実施形態である導電性組成物は、導電性及びゼーベック係数を両立し、熱電特性にも優れるため、上記材料を使用して、高性能の熱電変換素子を提供することができる。
【符号の説明】
【0174】
1:基材(ペットフィルム)
2:熱電変換膜
3:回路
10:熱電変換素子の試験サンプル
20:ホットプレート
図1
図2