(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記溶剤が、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール、グリセリン、トリプロピレングリコールモノメチルエーテル、トリエチレングリコールモノメチルエーテル、トリエチレングリコールモノブチルエーテル、ポリエチレングリコールモノメチルエーテル、テトラエチレングリコールジメチルエーテル、及び、ポリエチレングリコールジメチルエーテルからなる群より選択される少なくとも1種である請求項1、2、3、4又は5記載の組成物。
【発明を実施するための形態】
【0029】
本発明の組成物は、沸点が205℃以上の溶剤を含むことに特徴があり、この特徴によって、基材との密着性に優れ、しかも、非粘着性に優れる塗膜を形成することができる。
【0030】
上記溶剤は、沸点が205℃以上であることが必要である。溶剤の沸点が低すぎると、非粘着性に優れる塗膜を形成することができないおそれがある。上記沸点は、220℃以上であることが好ましく、235℃以上であることがより好ましく、265℃以上であることが更に好ましい。上記沸点はまた、300℃以下であってよい。
上記沸点は、1気圧(atm)において測定する値である。
2種以上の溶剤を併用する場合は、そのうち少なくとも1種の溶剤の沸点が205℃以上であればよい。
【0031】
上記溶剤は、表面張力が25dyn/cm以上であることが好ましい。溶剤の表面張力が上記範囲内にあると、非粘着性に一層優れる塗膜を形成することができる。上記表面張力は、35dyn/cm以上であることがより好ましく、44dyn/cm以上であることが更に好ましい。上記表面張力はまた、72dyn/cm以下であることが好ましい。
上記表面張力は、プレート法、リング法、ペンダント・ドロップ法等により測定することができる。尚、上記表面張力は溶剤の温度が20℃の時の数値とする。
【0032】
上記溶剤としては、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール、グリセリン、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、トリプロピレングリコールモノメチルエーテル、トリエチレングリコールモノメチルエーテル、トリエチレングリコールモノブチルエーテル、ポリエチレングリコールモノメチルエーテル、トリエチレングリコールジメチルエーテル、テトラエチレングリコールジメチルエーテル、ポリエチレングリコールジメチルエーテル、及び、1,4−ブタンジオールからなる群より選択される少なくとも1種が好ましく、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール、グリセリン、トリプロピレングリコールモノメチルエーテル、トリエチレングリコールモノメチルエーテル、トリエチレングリコールモノブチルエーテル、ポリエチレングリコールモノメチルエーテル、トリエチレングリコールジメチルエーテル、テトラエチレングリコールジメチルエーテル、及び、ポリエチレングリコールジメチルエーテルからなる群より選択される少なくとも1種がより好ましい。また、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール、グリセリン、トリエチレングリコールモノブチルエーテル、ポリエチレングリコールモノメチルエーテル、トリエチレングリコールジメチルエーテル、テトラエチレングリコールジメチルエーテル、及び、ポリエチレングリコールジメチルエーテルからなる群より選択される少なくとも1種がより更に好ましく、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール及びグリセリンからなる群より選択される少なくとも1種が特に好ましい。
【0033】
上記組成物において、上記溶剤の含有量が、上記組成物を構成するフッ素樹脂、耐熱性樹脂、水及び上記溶剤の合計量に対して5〜50質量%であることが好ましく、10質量%以上であることがより好ましく、15質量%以上であることが更に好ましく、40質量%以下であることがより好ましく、30質量%以下であることが更に好ましい。上記溶剤の含有量が上記範囲内にあると、基材との密着性に一層優れ、非粘着性に一層優れた塗膜を形成できる。
【0034】
本発明の組成物は、更に、フッ素樹脂を含むことにも特徴がある。上記フッ素樹脂は、主鎖又は側鎖を構成する炭素原子に直接結合しているフッ素原子を有する重合体である。
【0035】
上記フッ素樹脂は、溶融加工性を有することが好ましい。上記フッ素樹脂が溶融加工性を有するものであると、非粘着性に一層優れる塗膜を形成することができる。上記「溶融加工性」とは、押出機及び射出成形機等の従来の加工機器を用いて、ポリマーを溶融して加工することが可能であることを意味する。従って、上記フッ素樹脂は、メルトフローレート(MFR)が0.01〜100g/10分であることが通常である。
【0036】
本明細書において、上記MFRは、ASTM D 1238に従って、メルトインデクサー((株)安田精機製作所製)を用いて、フルオロポリマーの種類によって定められた測定温度(例えば、後述するPFAやFEPの場合は372℃、ETFEの場合は297℃)、荷重(例えば、PFA、FEP及びETFEの場合は5kg)において内径2mm、長さ8mmのノズルから10分間あたりに流出するポリマーの質量(g/10分)として得られる値である。
【0037】
上記フッ素樹脂は、融点が100〜333℃であることが好ましく、140℃以上であることがより好ましく、160℃以上であることが更に好ましく、180℃以上であることが特に好ましく、332℃以下であることがより好ましい。
【0038】
本明細書において、上記含フッ素重合体の融点は、示差走査熱量計〔DSC〕を用いて10℃/分の速度で昇温したときの融解熱曲線における極大値に対応する温度である。
【0039】
上記フッ素樹脂としては、低分子量ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、テトラフルオロエチレン(TFE)/パーフルオロ(アルキルビニルエーテル)(PAVE)共重合体(PFA)、TFE/ヘキサフルオロプロピレン(HFP)共重合体(FEP)、エチレン(Et)/TFE共重合体(ETFE)、Et/TFE/HFP共重合体、ポリクロロトリフルオロエチレン(PCTFE)、クロロトリフルオロエチレン(CTFE)/TFE共重合体、Et/CTFE共重合体及びポリフッ化ビニリデン(PVDF)等が挙げられ、PFA及びFEPからなる群より選択される少なくとも1種が好ましく、FEPがより好ましい。
【0040】
上記低分子量PTFEは、数平均分子量が60万以下であるPTFEである。数平均分子量が60万を超える「高分子量PTFE」は、非溶融加工性であり、PTFE特有のフィブリル化特性が発現する(例えば、特開平10−147617号公報参照。)。
【0041】
上記低分子量PTFEは、変性ポリテトラフルオロエチレン(以下、「変性PTFE」ともいう。)であってもよいし、ホモポリテトラフルオロエチレン(以下、「ホモPTFE」ともいう。)であってもよい。
【0042】
上記変性PTFEは、テトラフルオロエチレン(TFE)とTFE以外のモノマー(以下、「変性モノマー」ともいう。)とからなる変性PTFEである。
【0043】
上記変性モノマーとしては、TFEとの共重合が可能なものであれば特に限定されず、例えば、ヘキサフルオロプロピレン(HFP)等のパーフルオロオレフィン;クロロトリフルオロエチレン(CTFE)等のクロロフルオロオレフィン;トリフルオロエチレン、フッ化ビニリデン(VDF)等の水素含有フルオロオレフィン;パーフルオロビニルエーテル;パーフルオロアルキルエチレン、エチレン等が挙げられる。また、用いる変性モノマーは1種であってもよいし、複数種であってもよい。
【0044】
上記パーフルオロビニルエーテルとしては特に限定されず、例えば、下記一般式(1)
CF
2=CF−ORf(1)
(式中、Rfは、パーフルオロ有機基を表す。)で表されるパーフルオロ不飽和化合物等が挙げられる。本明細書において、上記「パーフルオロ有機基」とは、炭素原子に結合する水素原子が全てフッ素原子に置換されてなる有機基を意味する。上記パーフルオロ有機基は、エーテル酸素を有していてもよい。
【0045】
上記パーフルオロビニルエーテルとしては、例えば、上記一般式(1)において、Rfが炭素数1〜10のパーフルオロアルキル基であるパーフルオロ(アルキルビニルエーテル)(PAVE)が挙げられる。上記パーフルオロアルキル基の炭素数は、好ましくは1〜5である。
【0046】
上記PAVEにおけるパーフルオロアルキル基としては、例えば、パーフルオロメチル基、パーフルオロエチル基、パーフルオロプロピル基、パーフルオロブチル基、パーフルオロペンチル基、パーフルオロヘキシル基等が挙げられるが、パーフルオロアルキル基がパーフルオロプロピル基であることが好ましい。すなわち、上記PAVEは、パーフルオロプロピルビニルエーテル(PPVE)が好ましい。
【0047】
上記パーフルオロビニルエーテルとしては、更に、上記一般式(1)において、Rfが炭素数4〜9のパーフルオロ(アルコキシアルキル)基であるもの、Rfが下記式:
【0049】
(式中、mは、0又は1〜4の整数を表す。)で表される基であるもの、Rfが下記式:
【0051】
(式中、nは、1〜4の整数を表す。)で表される基であるもの等が挙げられる。
【0052】
パーフルオロアルキルエチレン(PFAE)としては特に限定されず、例えば、パーフルオロブチルエチレン(PFBE)、パーフルオロヘキシルエチレン等が挙げられる。
【0053】
上記変性PTFEにおける変性モノマーとしては、HFP、CTFE、VDF、PAVE、PFAE及びエチレンからなる群より選択される少なくとも1種であることが好ましい。より好ましくは、PAVEであり、更に好ましくは、PPVEである。
【0054】
上記ホモPTFEは、実質的にTFE単位のみからなるものであり、例えば、変性モノマーを使用しないで得られたものであることが好ましい。
【0055】
上記変性PTFEは、変性モノマー単位が0.001〜2モル%であることが好ましく、0.001〜1モル%であることがより好ましい。
【0056】
本明細書において、PTFEを構成する各単量体の含有量は、NMR、FT−IR、元素分析、蛍光X線分析を単量体の種類によって適宜組み合わせることで算出できる。
【0057】
上記PFAとしては、特に限定されないが、TFE単位とPAVE単位とのモル比(TFE単位/PAVE単位)が70/30以上99/1未満である共重合体が好ましい。より好ましいモル比は、70/30以上98.9/1.1以下であり、更に好ましいモル比は、80/20以上98.9/1.1以下である。TFE単位が少なすぎると機械物性が低下する傾向があり、多すぎると融点が高くなりすぎ成形性が低下する傾向がある。上記PFAは、TFE及びPAVEと共重合可能な単量体に由来する単量体単位が0.1〜10モル%であり、TFE単位及びPAVE単位が合計で90〜99.9モル%である共重合体であることも好ましい。TFE及びPAVEと共重合可能な単量体としては、HFP、CZ
3Z
4=CZ
5(CF
2)
nZ
6(式中、Z
3、Z
4及びZ
5は、同一若しくは異なって、水素原子又はフッ素原子を表し、Z
6は、水素原子、フッ素原子又は塩素原子を表し、nは2〜10の整数を表す。)で表されるビニル単量体、及び、CF
2=CF−OCH
2−Rf
7(式中、Rf
7は炭素数1〜5のパーフルオロアルキル基を表す。)で表されるアルキルパーフルオロビニルエーテル誘導体等が挙げられる。
【0058】
上記PFAは、融点が180〜322℃未満であることが好ましく、230〜320℃であることがより好ましく、280〜320℃であることが更に好ましい。
【0059】
上記PFAは、メルトフローレート(MFR)が1〜100g/10分であることが好ましい。
【0060】
上記PFAは、熱分解開始温度が380℃以上であることが好ましい。上記熱分解開始温度は、400℃以上であることがより好ましく、410℃以上であることが更に好ましい。
【0061】
本明細書において、熱分解開始温度は、示差熱・熱重量測定装置〔TG−DTA〕(商品名:TG/DTA6200、セイコー電子社製)を用い、試料10mgを昇温速度10℃/分で室温から昇温し、試料が1質量%減少した温度である。
【0062】
上記FEPとしては、特に限定されないが、TFE単位とHFP単位とのモル比(TFE単位/HFP単位)が70/30以上99/1未満である共重合体が好ましい。より好ましいモル比は、70/30以上98.9/1.1以下であり、更に好ましいモル比は、80/20以上98.9/1.1以下である。TFE単位が少なすぎると機械物性が低下する傾向があり、多すぎると融点が高くなりすぎ成形性が低下する傾向がある。上記FEPは、TFE及びHFPと共重合可能な単量体に由来する単量体単位が0.1〜10モル%であり、TFE単位及びHFP単位が合計で90〜99.9モル%である共重合体であることも好ましい。TFE及びHFPと共重合可能な単量体としては、PAVE、アルキルパーフルオロビニルエーテル誘導体等が挙げられる。
【0063】
上記FEPは、融点が150〜322℃未満であることが好ましく、200〜320℃であることがより好ましく、240〜320℃であることが更に好ましい。
【0064】
上記FEPは、MFRが1〜100g/10分であることが好ましい。
【0065】
上記FEPは、熱分解開始温度が360℃以上であることが好ましい。上記熱分解開始温度は、380℃以上であることがより好ましく、390℃以上であることが更に好ましい。
【0066】
上記フッ素樹脂の各単量体単位の含有量は、NMR、FT−IR、元素分析、蛍光X線分析を単量体の種類によって適宜組み合わせることで算出できる。
【0067】
本発明の組成物は、更に、耐熱性樹脂(但し、上記フッ素樹脂を除く)を含むことにも特徴がある。
【0068】
上記耐熱性樹脂は、連続使用可能温度が150℃以上であることが好ましい。
【0069】
上記耐熱性樹脂としては、ポリアリーレンサルファイド、ポリエーテルスルフォン、ポリアミドイミド、ポリイミド、ポリエーテルイミド、ポリエーテルエーテルケトン、芳香族ポリエステル等が挙げられる。
【0070】
上記ポリアリーレンサルファイド〔PAS〕は、下記一般式
【0072】
(式中、Arはアリーレン基を表す。)で表される繰り返し単位を有する重合体からなる樹脂である。上記PASとしては特に限定されず、例えば、ポリフェニレンサルファイド〔PPS〕等が挙げられる。
【0073】
上記ポリエーテルスルフォン〔PES〕は、下記一般式
【0075】
で表される繰り返し単位を有する重合体からなる樹脂である。上記PESとしては特に限定されず、例えば、ジクロロジフェニルスルホンとビスフェノールとの重縮合により得られる重合体からなる樹脂等が挙げられる。
【0076】
上記ポリアミドイミド〔PAI〕は、分子構造中にアミド結合及びイミド結合を有する重合体からなる樹脂である。上記PAIとしては特に限定されず、例えば、アミド結合を分子内に有する芳香族ジアミンとピロメリット酸等の芳香族四価カルボン酸との反応;無水トリメリット酸等の芳香族三価カルボン酸と4,4−ジアミノフェニルエーテル等のジアミンやジフェニルメタンジイソシアネート等のジイソシアネートとの反応;芳香族イミド環を分子内に有する二塩基酸とジアミンとの反応等の各反応により得られる高分子量重合体からなる樹脂等が挙げられる。上記PAIとしては、耐熱性に優れる点から、主鎖中に芳香環を有する重合体からなるものが好ましい。
【0077】
上記ポリイミド〔PI〕は、分子構造中にイミド結合を有する重合体からなる樹脂である。上記PIとしては特に限定されず、例えば、無水ピロメリット酸等の芳香族四価カルボン酸無水物の反応等により得られる高分子量重合体からなる樹脂等が挙げられる。上記PIとしては、耐熱性に優れる点から、主鎖中に芳香環を有する重合体からなるものが好ましい。
【0078】
上記耐熱性樹脂は、基材との密着性に優れ、しかも、非粘着性に優れる塗膜を形成できることから、PAS又はPESであることが好ましく、PASであることがより好ましい。
PAS及びPESは、それぞれが1種又は2種以上からなるものであってよい。
【0079】
上記耐熱性樹脂は、PAS又はPESと、PAIとであることも好ましい。すなわち、上記耐熱性樹脂は、PASとPAIとの混合物、又は、PESとPAIとの混合物であってよい。上記耐熱性樹脂として、PAS又はPESに加えて、PAIを含むと、二次密着性(塗膜の加熱と冷却を繰り返した後の基材との密着性)に優れた塗膜が得られる。上記耐熱性樹脂は、PASとPAIとであること、すなわち、PASとPAIとの混合物であることがより好ましい。
PAS、PES及びPAIは、それぞれが1種又は2種以上からなるものであってよい。
【0080】
上記耐熱性樹脂が、PAS又はPESと、PAIとである場合、上記PAS又はPESは、該PAS又はPESと、PAIとの合計量の80〜99質量%であることが好ましい。より好ましくは、90〜95質量%である。
【0081】
上記組成物において、上記フッ素樹脂と上記耐熱性樹脂との質量比(フッ素樹脂/耐熱性樹脂)が、1/99〜40/60であることが好ましく、5/95〜30/70であることがより好ましく、10/90〜25/75であることが更に好ましい。上記フッ素樹脂と上記耐熱性樹脂との質量比が上記範囲内にあると、非粘着性に一層優れた塗膜を形成できる。その理由としては、上記ポリアリーレンサルファイド、ポリエーテルスルフォン等の上記耐熱性樹脂を比較的多量に含む組成物から塗膜を形成すると、調理材料等から生じる水が上記塗膜に侵入しにくく、上記塗膜の表面に水の薄膜が形成され、この水の薄膜により、上記調理材料等が上記塗膜に付着しにくいものと推測される。
【0082】
上記組成物において、上記フッ素樹脂及び上記耐熱性樹脂の合計量が、上記組成物を構成するフッ素樹脂、耐熱性樹脂、水及び上記溶剤の合計量に対して20〜50質量%であることが好ましく、25質量%以上であることがより好ましく、30質量%以上であることが更に好ましく、45質量%以下であることがより好ましく、40質量%以下であることが更に好ましい。上記フッ素樹脂及び上記耐熱性樹脂の合計量が上記範囲内にあると、基材との密着性に一層優れ、非粘着性に一層優れた塗膜を形成できる。
【0083】
本発明の組成物は、更に、水を含むことにも特徴がある。組成物中に水が存在することで、組成物の粘度及び粘性を高くすることができる。これにより、塗装性や膜厚のコントロールが改善され、塗膜物性(例えば、耐食性)を向上させることができる。
【0084】
上記組成物は、取扱いが一層容易であり、物性に一層優れた塗膜を形成できることから、固形分濃度が5〜70質量%であることが好ましく、10質量%以上であることがより好ましく、60質量%以下であることがより好ましい。
【0085】
本発明の組成物は、更に、充填材を含むことが好ましい。充填材を含むことよって、基材との密着性に一層優れ、非粘着性、高温下での硬度、及び、耐摩耗性に一層優れた塗膜を形成できる。
【0086】
上記充填材は、新モース硬度が7以上であることが好ましい。特定の硬度を有する充填材を含むことよって、基材との密着性に一層優れ、非粘着性、高温下での硬度、及び、耐摩耗性に一層優れた塗膜を形成できる。
【0087】
上記充填材は、ダイヤモンド、フッ素化ダイヤモンド、コランダム、ケイ石、窒化ホウ素、炭化ホウ素、炭化ケイ素、シリカ、マイカ、クリソベリル、トパーズ、ベリル、ガーネット、石英、ガラスフレーク、溶融ジルコニア、炭化タンタル、チタンカーバイド、アルミナ、及び、タングステンカーバイドからなる群より選択される少なくとも1種であることが好ましく、ダイヤモンド、炭化ホウ素、炭化ケイ素、アルミナ及び溶融ジルコニアからなる群より選択される少なくとも1種であることがより好ましく、ダイヤモンド及び炭化ケイ素が更に好ましい。
【0088】
フッ素化ダイヤモンドはダイヤモンドをフッ素化することにより得ることができる。ダイヤモンドのフッ素化は、例えば、第26回フッ素化学討論会要旨集、平成14年11月14日発行、p24〜25において開示された公知の方法で行うことができる。すなわち、ニッケル若しくはニッケルを含む合金等の、フッ素に耐食性を有する材料からなる反応器中に、ダイヤモンドを封入し、フッ素ガスを導入してフッ素化すればよい。
【0089】
上記組成物において、上記充填材の含有量が、上記フッ素樹脂及び上記耐熱性樹脂の合計量に対して0.1〜10質量%であることが好ましく、0.3質量%以上であることがより好ましく、5.0質量%以下であることがより好ましい。上記充填材の含有量が上記範囲内にあると、基材との密着性に一層優れ、非粘着性、高温下での硬度、及び、耐摩耗性に一層優れた塗膜を形成できる。
【0090】
上記組成物は、界面活性剤を含むことも好ましい。上記界面活性剤としては、従来公知のものを使用できる。
【0091】
上記組成物は、添加剤を更に含んでもよい。上記添加剤としては特に限定されず、例えば、レベリング剤、固体潤滑剤、沈降防止剤、水分吸収剤、表面調整剤、チキソトロピー性付与剤、粘度調節剤、ゲル化防止剤、紫外線吸収剤、光安定剤、可塑剤、色分かれ防止剤、皮張り防止剤、スリ傷防止剤、防カビ剤、抗菌剤、酸化防止剤、帯電防止剤、シランカップリング剤、カーボンブラック、クレー、体質顔料、鱗片状顔料、硫酸バリウム、ガラス、各種強化材、各種増量材、導電性フィラー、金、銀、銅、白金、ステンレス等の金属粉末等が挙げられる。
【0092】
上記添加剤の含有量は、上記フッ素樹脂及び上記耐熱性樹脂の合計量に対して0.1〜30質量%であることが好ましく、1質量%以上であることがより好ましく、25質量%以下であることがより好ましい。
【0093】
上記組成物は、上記フッ素樹脂、上記耐熱性樹脂、上記水及び上記溶剤、必要ならば上記充填材、上記界面活性剤及び上記添加剤をミキサー、ロールミルでの混合といった通常の混合方法で混合することにより調製できる。
【0094】
上記組成物は、塗料であることが好ましい。上記組成物は、水性塗料であってよい。
【0095】
上記組成物を基材に塗布することにより塗膜を形成することができる。形成される塗膜は、基材との密着性に優れ、しかも、非粘着性に優れる。
【0096】
上記組成物は、塗り重ねることも可能であるが、1回の塗装で所望の特性を有する塗膜を形成することができる。上記組成物は、ワンコート用塗料として好適に利用可能である。更に、上記組成物は、1回の塗装で厚い塗膜を形成することも可能である。
【0097】
上記組成物の塗布方法としては特に限定されず、例えば、スプレー塗装、ロール塗装、ドクターブレードによる塗装、ディップ(浸漬)塗装、含浸塗装、スピンフロー塗装、カーテンフロー塗装等が挙げられ、なかでも、スプレー塗装が好ましい。
【0098】
上記組成物を塗布したのち、塗膜を乾燥させてもよいし、焼成してもよい。上記乾燥は、70〜300℃の温度で5〜60分間行うことが好ましい。上記焼成は、260〜410℃の温度で10〜30分間行うことが好ましい。
【0099】
本発明は、上記組成物から形成された塗膜(以下、第1の塗膜ともいう。)でもある。本発明の第1の塗膜は、上記組成物から形成されたものであるので、基材との密着性に優れ、しかも、非粘着性に優れる。
【0100】
本発明は、水を含む組成物から形成され、フッ素樹脂及び耐熱性樹脂を含み、餅接着性試験による餅に対する接着性が20.0g/cm
2以下であることを特徴とする塗膜(以下、第2の塗膜ともいう。)でもある。本発明の第2の塗膜は、上記特徴により、基材との密着性に優れ、しかも、非粘着性に優れる。
【0101】
上記第2の塗膜は、餅接着性試験による餅に対する接着性が20.0g/cm
2以下であることを特徴とする。上記接着性が上記範囲内にあると、調理材料等に含まれるアミロースやアミロペクチン等の粘着性の高い物質が付着しにくい。上記接着性は18.0g/cm
2以下であることが好ましく、15.0g/cm
2以下であることがより好ましく、14.0g/cm
2以下であることが更に好ましい。また、上記接着性は0.1g/cm
2以上であってよい。
上記接着性は、以下の餅接着性試験により測定した値である。
厚さ2.0mmの純アルミニウム板上に接着性を測定する塗膜を厚さ20μmで形成し、塗装板(3cm×3cm)を作製する。上記塗装板の塗膜と反対側の面に2枚の銅板(それぞれ3cm×3cm×2.0mm)を、100℃以上の耐熱性を有するテープで固定し、更に上記銅板の上に針金で取っ手を作製し、サンプルを得る。90℃に加熱したホットプレート上に、ブラストで粗面化したアルミニウム板(3cm×5cm)、切り餅(佐藤食品工業社製サトウのスライス切りもち)、及び、上記サンプルをこの順に重ねて乗せる。この際、上記サンプルは、塗膜が切り餅と直接接するように重ねるものとする。90℃で2分30秒間加熱したのち、ばねばかりを上記取っ手に引っ掛けて上記サンプルを垂直方向に引張り、切り餅から塗膜が離れた時点での重量(g)を記録する。得られた重量からサンプル重量(銅板、テープ、針金を含む)を引いて塗装板の面積(9cm
2)で除することで、塗膜の餅に対する接着性(g/cm
2)を得る。
なお、上記テープ及び針金は、上記サンプルに対し無視できる程度の重量のものを用いる。
【0102】
図1は、上記餅接着性試験の方法を模式的に示す図である。
図1に示すように、ホットプレート8の上にアルミニウム板6が配置され、アルミニウム板6の上に切り餅7が配置され、切り餅7の上にサンプル5が配置される。サンプル5は、塗膜1a及びアルミニウム板1bを備える塗装板1と、塗装板1の塗膜1aと反対側の面に固定された2枚の銅板2及び3と、銅板3の上に設けられた取っ手4とからなる。サンプル5は、塗膜1aが切り餅7と直接接するように配置される。
【0103】
上記第2の塗膜は、フッ素樹脂及び耐熱性樹脂を含むことにも特徴がある。上記フッ素樹脂及び上記耐熱性樹脂の好適な態様は、上述した通りである。
【0104】
上記第2の塗膜において、上記フッ素樹脂及び上記耐熱性樹脂の合計量が、当該塗膜に対して80〜99質量%であることが好ましく、85〜95質量%であることがより好ましい。
【0105】
上記第2の塗膜は、水を含む組成物から形成されることにも特徴がある。組成物中に水が存在することで、組成物の粘度及び粘性を高くすることができる。これにより、塗装性や膜厚のコントロールが改善され、塗膜物性(例えば、耐食性)を向上させることができる。すなわち、上記第2の塗膜は、水を含まない組成物から形成された塗膜と比較して、優れた塗膜物性を有している。
【0106】
上記第2の塗膜は、碁盤目試験の結果が100/100であることが好ましい。これにより、上記第2の塗膜は、基材との密着性に一層優れる。
上記碁盤目試験は、JIS K5400に準拠し、セロハンテープ剥離を10回繰り返すことにより行う。
【0107】
上記第2の塗膜は、例えば、上述した本発明の組成物を上述した方法で基材に塗布し、必要に応じて乾燥し、次いで焼成することにより形成することができる。
【0108】
本発明は、基材と、上記基材上に形成された上述した第2の塗膜とを備える積層体でもある。上記積層体は、上記基材及び上記塗膜の2層のみからなる場合であっても、当該2層が強固に密着しており、また、非粘着性に優れる。従って、炊飯器等の調理器具として好適に利用可能である。
【0109】
上記基材の材料としては特に限定されず、例えば、鉄、アルミニウム、銅等の金属単体及びこれらの合金類等の金属;ホーロー、ガラス、セラミックス等の非金属無機材料等が挙げられる。上記合金類としては、ステンレス等が挙げられる。上記基材の材料としては、金属が好ましく、アルミニウム又はステンレスがより好ましく、アルミニウムが更に好ましい。
【0110】
上記基材は、必要に応じ、脱脂処理、粗面化処理等の表面処理を行ったものであってもよい。上記粗面化処理の方法としては特に限定されず、例えば、酸又はアルカリによるケミカルエッチング、陽極酸化(アルマイト処理)、サンドブラスト等が挙げられる。
【0111】
上記塗膜の膜厚は1〜50μmであることが好ましく、5μm以上であることがより好ましく、40μm以下であることがより好ましい。膜厚が小さすぎると、耐食性及び耐摩耗性に劣るおそれがあり、膜厚が大きすぎると、クラックが生じやすくなるおそれがある。
【0112】
上記塗膜は、上述した本発明の組成物を上述した方法で上記基材に塗布し、必要に応じて乾燥し、次いで焼成することにより形成することができる。
【0113】
上記積層体は、上記基材及び上記塗膜以外の層を含むものであってもよいが、上記基材と上記塗膜との高い接着性と、上記塗膜の優れた特性とを充分に活かすことができることから、上記基材及び上記塗膜のみを有することが好ましい。
【0114】
上述した本発明の第1の塗膜、本発明の第2の塗膜、及び、本発明の積層体は、フッ素樹脂が有する非粘着性、耐熱性、滑り性等を利用した用途に使用することができ、例えば、非粘着性を利用したものとして、フライパン、圧力鍋、鍋、グリル鍋、炊飯器、オーブン、ホットプレート、パン焼き型、包丁、ガステーブル等の調理器具;電気ポット、製氷トレー、金型、レンジフード等の厨房用品;練りロール、圧延ロール、コンベア、ホッパー等の食品工業用部品;オフィースオートメーション(OA)用ロール、OA用ベルト、OA用分離爪、製紙ロール、フィルム製造用カレンダーロール等の工業用品;発泡スチロール成形用等の金型、鋳型、合板・化粧板製造用離型板等の成形金型離型、工業用コンテナ(特に半導体工業用)等が挙げられ、滑り性を利用したものとして、のこぎり、やすり等の工具;アイロン、鋏、包丁等の家庭用品;金属箔、電線、食品加工機、包装機、紡織機械等のすべり軸受、カメラ・時計の摺動部品、パイプ、バルブ、ベアリング等の自動車部品、雪かきシャベル、すき、シュート等が挙げられる。
中でも、調理器具や厨房用品に好適に用いることができ、特に炊飯器の内釜に好適に用いることができる。
【0115】
本発明は、上述した本発明の第1の塗膜を備える調理器具でもある。本発明はまた、上述した本発明の第1の塗膜を備える内釜を備える炊飯器でもある。また、上述した本発明の第2の塗膜を備える調理器具、上述した本発明の第2の塗膜を備える内釜を備える炊飯器、上述した本発明の積層体を備える調理器具、及び、上述した本発明の積層体を備える内釜を備える炊飯器も、本発明の好適な態様である。
【実施例】
【0116】
次に本発明を実施例を挙げて説明するが、本発明はかかる実施例のみに限定されるものではない。
【0117】
実施例の各数値は以下の方法により測定した。
【0118】
塗装板の作製
厚さ2.0mmの純アルミニウム板(A−1050P)の表面をアセトンで脱脂した後、サンドブラストを行い、JIS B 1982に準拠して測定した表面粗度Ra値が2.0〜3.0μmとなるように粗面化した。エアーブローにより表面のダストを除去した後、実施例及び比較例で得た組成物を、ノズル径1.0mmの重力式スプレーガンを用い、吹き付け圧力0.2MPaでスプレー塗装した。上記アルミニウム板上の塗膜を80〜100℃で15分間乾燥した。その後、380℃で20分間焼成し、膜厚約20μmの塗膜を有する塗装板を作製した。
【0119】
餅接着性試験(非粘着性)
厚さ2.0mmの純アルミニウム板上に接着性を測定する塗膜を厚さ20μmで形成し、塗装板(3cm×3cm)を作製した。上記塗装板の塗膜と反対側の面に2枚の銅板(それぞれ3cm×3cm×2.0mm)を、100℃以上の耐熱性を有するテープで固定し、更に上記銅板の上に針金で取っ手を作製し、サンプルを得た。90℃に加熱したホットプレート上に、ブラストで粗面化したアルミニウム板(3cm×5cm)、切り餅(佐藤食品工業社製サトウのスライス切りもち)、及び、上記サンプルをこの順に重ねて乗せた。この際、上記サンプルは、塗膜が切り餅と直接接するように重ねた。90℃で2分30秒間加熱したのち、ばねばかりを上記取っ手に引っ掛けて上記サンプルを垂直方向に引張り、切り餅から塗膜が離れた時点での重量(g)を記録した。得られた重量からサンプル重量(銅板、テープ、針金を含む)を引いて塗装板の面積(9cm
2)で除することで、塗膜の餅に対する接着性(g/cm
2)を得た。
【0120】
碁盤目試験(密着性)
JIS K5400に準拠した(セロハンテープ剥離を10回繰り返した)。
【0121】
実施例及び比較例
実施例1
第1成分 FEPの60%水性分散液
第2成分 PPSの40%水性分散液(PPS粉体40重量部、TEG20重量部、イオン交換水33重量部、ポリオキシエチレンアルキルエーテル6重量部、アセチレンジオール1重量部をサンドミル中で混合粉砕して得た水性分散液)
上記各成分を表1に記載の配合比となるように混合し、攪拌機中で約30分間攪拌して組成物を調製した。上記方法により塗装板を作製し、塗膜の非粘着性及び密着性を評価した。結果を表1に示す。
【0122】
実施例2
PPS粉体の代わりにPES粉体を使用した以外は、実施例1と同様の手順を繰り返した。結果を表1に示す。
【0123】
実施例3
FEP水性分散液の代わりにPFA水性分散液を使用した以外は、実施例1と同様の手順を繰り返した。結果を表1に示す。
【0124】
実施例4
TEGの代わりにBDGを使用した以外は、実施例1と同様の手順を繰り返した。結果を表1に示す。
【0125】
実施例5
TEGの代わりにBTGを使用した以外は、実施例1と同様の手順を繰り返した。結果を表1に示す。
【0126】
実施例6
フッ素樹脂とバインダーの配合比を変更した以外は、実施例1と同様の手順を繰り返した。結果を表1に示す。
【0127】
実施例7
第1成分 FEPの60%水性分散液
第2成分 PPSの40%水性分散液(PPS粉体40重量部、TEG20重量部、イオン交換水33重量部、ポリオキシエチレンアルキルエーテル6重量部、アセチレンジオール1重量部をサンドミル中で混合粉砕して得た水性分散液)
第3成分 カーボンブラックの20%水性分散液
第4成分 硫酸バリウムの20%水性分散液
上記各成分を表1に記載の配合比となるように混合し、攪拌機中で約30分間攪拌して組成物を調製した。その後の加工方法については実施例1と同様の方法を用いた。結果を表1に示す。
【0128】
実施例8
TEGの代わりにTEG/PG=1/1(質量比)混合溶剤を使用した以外は、実施例7と同様の手順を繰り返した。結果を表1に示す。
【0129】
比較例1
TEGの代わりにイオン交換水を使用した以外は、実施例1と同様の手順を繰り返した。結果を表1に示す。
【0130】
比較例2
TEGの代わりにMMBを使用した以外は、実施例1と同様の手順を繰り返した。結果を表1に示す。
【0131】
比較例3
TEGの代わりにNMPを使用した以外は、実施例1と同様の手順を繰り返した。結果を表1に示す。
【0132】
【表1】
【0133】
表中の比は質量比を表す。
表中の溶剤量はフッ素樹脂、バインダー(耐熱性樹脂)、水及び溶剤の合計量に対する溶剤量(質量%)を意味する。
表中の添加剤についての数値は、フッ素樹脂及びバインダー(耐熱性樹脂)の合計量に対する添加剤の量(質量%)を意味する。
また、実施例、比較例及び表中の略号は以下の通りである。
FEP:テトラフルオロエチレン/ヘキサフルオロプロピレン共重合体
PFA:テトラフルオロエチレン/パーフルオロ(アルキルビニルエーテル)共重合体
PPS:ポリフェニレンサルファイド
PES:ポリエーテルスルフォン
TEG:トリエチレングリコール
BDG:ジエチレングリコールモノブチルエーテル
BTG:トリエチレングリコールモノブチルエーテル
PG:プロピレングリコール
MMB:3−メチル−3−メトキシブタノール
NMP:N-メチル−2−ピロリドン