特許第6838646号(P6838646)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6838646
(24)【登録日】2021年2月16日
(45)【発行日】2021年3月3日
(54)【発明の名称】生体振動センサー
(51)【国際特許分類】
   A61B 5/00 20060101AFI20210222BHJP
   A61B 5/026 20060101ALI20210222BHJP
【FI】
   A61B5/00 101R
   A61B5/026 140
【請求項の数】5
【全頁数】15
(21)【出願番号】特願2019-505719(P2019-505719)
(86)(22)【出願日】2017年12月21日
(86)【国際出願番号】JP2017045981
(87)【国際公開番号】WO2018168145
(87)【国際公開日】20180920
【審査請求日】2019年7月24日
(31)【優先権主張番号】特願2017-51651(P2017-51651)
(32)【優先日】2017年3月16日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000004075
【氏名又は名称】ヤマハ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100120329
【弁理士】
【氏名又は名称】天野 一規
(72)【発明者】
【氏名】植屋 夕輝
【審査官】 山口 裕之
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2015/064217(WO,A1)
【文献】 特開2016−116623(JP,A)
【文献】 特開2007−139566(JP,A)
【文献】 特開2004−101283(JP,A)
【文献】 特開平11−226011(JP,A)
【文献】 特開2003−284697(JP,A)
【文献】 国際公開第2015/170772(WO,A2)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61B 5/00
A61B 5/026
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
シート状の圧電体及びこの圧電体の表裏に積層される一対の電極を有する振動検出素子を備え、
前記振動検出素子が部分的に可撓性を変化させる弱化構造を有しており、
この弱化構造が、前記振動検出素子に形成された1又は複数のスリットであり
上記圧電体が多孔質であり、
前記スリットの長手方向が前記振動検出素子の伸縮方向と異なる向きに形成されている生体振動センサー。
【請求項2】
前記振動検出素子の外縁と前記スリットとの間、及び隣接する前記スリット同士の間に、前記振動検出素子の一部からなる片持ち梁又は両端固定梁の構造が形成される請求項1に記載の生体振動センサー。
【請求項3】
前記スリットが、複数であり、平行且つ千鳥状に配置される請求項1又は請求項2に記載の生体振動センサー。
【請求項4】
前記スリットが、複数であり、放射状に形成される請求項1又は請求項2に記載の生体振動センサー。
【請求項5】
前記振動検出素子を覆う絶縁体をさらに備える請求項1から請求項4のいずれか1項に記載の生体振動センサー。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、生体振動センサーに関する。
【背景技術】
【0002】
例えば心拍、脈波、血流音、呼吸音等の生体の内部で発生する振動(可聴域の音波振動に限定されず、非可聴域の低周波振動や超音波振動を含む)を測定又は観測することによって、例えば診断、健康管理等を行うことができる。なお、これら生体内部で発生する振動をまとめて「生体振動」という。生体振動の中で人体の脈波については、皮膚に光線を照射して反射光をセンサーで受光することで血管の動きを測定する装置が実用化されている。しかしながら、この方法では、脈波以外の生体振動を測定することは難しい。特に血流音は、心拍数だけでなく、血管や血液の状態を示す様々な情報を含んでいる。このため、各種の生体振動を直接検出できる生体振動センサーが望まれる。
【0003】
生体の振動を検出する装置としては、例えば特開2005−156531号公報に、高分子圧電体膜と、この高分子圧電体膜の表裏面に積層され、電極として用いられる一対の導電体膜と、一方の導電体膜の外面側に積層される弾性体とを備える振動センサー記載されている。前記公報に記載の振動センサーは、高分子圧電体膜及び導電体膜の積層体を弾性体によって測定対象の表面に押しつけることで、圧電体膜及び導電体膜の積層体を測定対象に密着させる。
【0004】
しかしながら、測定対象の表面の曲率が大きい場合には、比較的可撓性に優れる高分子圧電体膜を用いていたとしても、圧電体膜及び導電体膜の積層体が十分に測定対象の表面に合わせて屈曲することができないので、圧電体膜及び導電体膜の積層体を測定対象に十分に密着させることができず、正確に振動を検出できない可能性がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2005−156531号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
前記不都合に鑑みて、本発明は、測定対象の表面の曲率が大きい場合でも生体振動を正確に検出できる生体振動センサーを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記課題を解決するためになされた本発明の一態様に係る生体振動センサーは、シート状の圧電体及びこの圧電体の表裏に積層される一対の電極を有する振動検出素子を備え、前記振動検出素子が部分的に可撓性を変化させる弱化構造を有しており、この弱化構造が、前記振動検出素子に形成された、1又は複数のスリット、切欠又は開口を含んでいる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】本発明の一実施形態の生体振動センサーを示す模式的平面図である。
図2図1の生体振動センサーの模式的A−A線断面図である。
図3】本発明の図1とは異なる実施形態の生体振動センサーを示す模式的平面図である。
図4図3の生体振動センサーの模式的B−B線断面図である。
図5】本発明の図1及び図3とは異なる実施形態の生体振動センサーを示す模式的平面図である。
図6】本発明の図1図3及び図5とは異なる実施形態の生体振動センサーを示す模式的平面図である。
図7】本発明の図1図3図5及び図6とは異なる実施形態の生体振動センサーを示す模式的平面図である。
図8】本発明の図1図3及び図5乃至図7とは異なる実施形態の生体振動センサーを示す模式的平面図である。
図9】本発明の図1図3及び図5乃至図8とは異なる実施形態の生体振動センサーを示す模式的平面図である。
図10図9の生体振動センサーの模式的C−C線断面図である。
図11】本発明の図1図3及び図5乃至図9とは異なる実施形態の生体振動センサーを示す模式的平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、適宜図面を参照しつつ、本発明の実施の形態を詳説する。
【0010】
本発明の一態様に係る生体振動センサーは、シート状の圧電体及びこの圧電体の表裏に積層される一対の電極を有する振動検出素子を備え、前記振動検出素子が部分的に可撓性を変化させる弱化構造を有しており、この弱化構造が、前記振動検出素子に形成された、1又は複数のスリット、切欠又は開口を含んでいる。
【0011】
当該生体振動センサーは、弱化構造を有するので、生体表面の形状に合わせて曲げやすい。このため、当該生体振動センサーは、測定対象の表面の曲率が大きい場合でも、測定対象に密着させることができるので、生体振動を正確に検出できる。この弱化構造は1又は複数のスリット、切欠又は開口を含んでいるので、比較的簡単な構成で確実に可撓性を変化させることができる。
【0012】
本発明の一態様に係る生体振動センサーにおいて、前記振動検出素子の外縁と前記スリットとの間、前記振動検出素子の外縁と前記切欠との間、前記振動検出素子の外縁と前記開口との間、隣接する前記スリット同士の間、隣接する前記切欠同士の間、又は、隣接する前記開口同士の間に、前記振動検出素子の一部からなる片持ち梁又は両端固定梁の構造が形成されていてもよい。この梁構造の幅及び長さを変更することにより、この領域の可撓性が調整されうる。
【0013】
本発明の一態様に係る生体振動センサーにおいて、前記弱化構造が、平行且つ千鳥状に配置される複数のスリットを含んでもよい。この構成によれば、平行且つ千鳥状に配置される複数のスリットにより、前記振動検出素子の有効面積の減少を抑制しつつ前記振動検出素子の可撓性を効率よく向上できる。
【0014】
本発明の一態様に係る生体振動センサーにおいて、前記弱化構造が、放射状に形成される複数のスリットを含んでもよい。この構成によれば、放射状に形成される複数のスリットによって前記振動検出素子の有効面積の減少を抑制しつつ前記振動検出素子を3次元曲面に近似させることができる。
【0015】
本発明の一態様に係る生体振動センサーにおいて、前記振動検出素子を覆う絶縁体をさらに備えることが好ましい。この構成によれば、振動検出素子の異なる部分が重なり合ったとしても、絶縁体が電極間の接触を防止して短絡を防止することができる。
【0016】
以上のように、本発明の一態様に係る生体振動センサーは、測定対象の表面の曲率が大きい場合でも生体振動を正確に検出できる。
【0017】
[第一実施形態]
図1及び図2に、本発明の第一実施形態に係る生体振動センサーを示す。当該生体振動センサーは、生体の表面に密接して配置され、生体内部の振動を検出する。
【0018】
当該生体振動センサーは、シート状の振動検出素子1を備える。
【0019】
<振動検出素子>
振動検出素子1は、シート状の圧電体2と、この圧電体2の表裏に積層される一対の膜状乃至シート状の電極3、4とを有する。また、振動検出素子1は、平面視で部分的に可撓性を増大させる弱化構造を有する。
【0020】
(圧電体)
圧電体2は、圧力を電圧に変換する圧電材料から形成され、生体振動の圧力波によって応力を受け、この応力変化の加速度に応じて電位差を生じる。
【0021】
この圧電体2を形成する圧電材料としては、例えばチタン酸ジルコン酸鉛等の無機材料であってもよいが、生体の表面に密着できるよう可撓性を有する高分子圧電材料であることが好ましい。
【0022】
前記高分子圧電材料としては、例えばポリフッ化ビニリデン(PVDF)、フッ化ビニリデン−3フッ化エチレン共重合体(P(VDF/TrFE))、シアン化ビニリデン−酢酸ビニル共重合体(P(VDCN/VAc))等を挙げることができる。
【0023】
また、圧電体2として、圧電特性を有しない例えばポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリプロピレン(PP)、ポリエチレン(PE)、ポリエチレンテレフタレート(PET)等に多数の扁平な気孔を形成し、例えばコロナ放電等によって扁平な気孔の対向面を分極して帯電させることによって圧電特性を付与したものを使用することもできる。
【0024】
圧電体2の平均厚さの下限としては、10μmが好ましく、50μmがより好ましい。一方、圧電体2の平均厚さの上限としては、500μmが好ましく、200μmがより好ましい。圧電体2の平均厚さが前記下限に満たない場合、圧電体2の強度が不十分となるおそれがある。逆に、圧電体2の平均厚さが前記上限を超える場合、圧電体2の変形能が小さくなり、検出感度が不十分となるおそれがある。
【0025】
(電極)
電極3、4は、圧電体2の両面に積層され、圧電体2の表裏の電位差を検出するために用いられる。このため、電極3、4には、不図示の検出回路に接続するための配線が接続される。
【0026】
電極3、4の材質としては、導電性を有するものであればよく、例えばアルミニウム、銅、ニッケル等の金属や、カーボン等を挙げることができる。
【0027】
電極3、4の平均厚さとしては、積層方法にもよるが、例えば0.1μm以上30μm以下とすることができる。電極3、4の平均厚さが前記下限に満たない場合、電極3、4の強度が不十分となるおそれがある。逆に、電極3、4の平均厚さが前記上限を超える場合、圧電体2への振動の伝達を阻害するおそれがある。
【0028】
電極3、4の圧電体2への積層方法としては、特に限定されず、例えば金属の蒸着、カーボン導電インクの印刷、銀ペーストの塗布乾燥等が挙げられる。
【0029】
電極3、4は、平面視で複数の領域に分割して形成され、実効的に振動検出素子1を複数の圧電素子として機能させるものであってもよい。
【0030】
(弱化構造)
本実施形態の生体振動センサーにおいて、振動検出素子1の弱化構造は、平行且つ千鳥状に配置される複数のスリット5を含む。より詳しくは、本実施形態の弱化構造は、それぞれ複数のスリット5を含む複数のスリット列を有し、この複数のスリット列が互いに平行且つ振動検出素子1の長さ又は幅全体に亘って配置されている。各スリット列は、それぞれ複数のスリット5が長さ方向に等間隔で並んで配置されて破線状に形成されている。また、スリット列におけるスリット5の配置の位相は、隣接するスリット列間で反対になっている。なお、この振動検出素子1では、一列置きのスリット列のスリット5同士は、同一位相となって対向している。したがって、対向するスリット5同士の間には両端固定梁構造が形成されている。振動検出素子1の外縁とこれに平行に隣接するスリット5との間にも両端固定梁構造が形成されている。また、振動検出素子1の外縁に開口するスリット5同士の間には、片持ち梁構造が形成されている。
【0031】
当該生体振動センサーは、振動検出素子1が、複数のスリット5を有するスリット列に沿って折り曲げやすくなっているので、生体表面に沿って湾曲させることが容易であり、生体表面に対する密着度を大きくして生体振動を比較的正確に検出することができる。
【0032】
本実施形態の弱化構造は、複数のスリット5を千鳥状に整然と配置することで、複数のスリット5の総延長を比較的大きくすることができる。このため、当該生体振動センサーは、振動検出素子1の可撓性を効率よく増大させて、生体表面に対する密着性を比較的容易に向上することができる。
【0033】
また、当該生体振動センサーは、各スリット5の幅を拡げるようにして振動検出素子1をスリット列に垂直な方向に引き延ばすことができ、伸縮性が向上していることによって、生体表面に対する密着度をより大きくして生体振動をさらに正確に検出することができる。
【0034】
スリット5は、図示するように幅を有していてもよいが、振動検出素子1に線状に形成した切断線であってもよい。スリット5の幅を大きくすると、振動検出素子1の有効面積が小さくなるため、スリット5の幅は形成のために必要な最小限とすることが好ましい。また、スリット5の端部エッジを半円弧状にしたり、スリット5の端部にスリットの幅より大きい開口を形成したりして、スリット5の端部を起点に振動検出素子1が破断することを防止する構成としてもよい。
【0035】
各スリット列におけるスリット5の存在率(スリット5の合計長さのスリット列の全長、つまりスリット5の中心線上での振動検出素子1の幅に対する比率)の下限としては、50%が好ましく、60%がより好ましい。一方、各スリット列におけるスリット5の存在率の上限としては、90%が好ましく、80%がより好ましい。各スリット列におけるスリット5の存在率が前記下限に満たない場合、振動検出素子1のスリット列に垂直な方向への伸長を十分に促進できないおそれがある。逆に、各スリット列におけるスリット5の存在率が前記上限を超える場合、振動検出素子1の強度が不十分となるおそれがある。
【0036】
スリット5の平均長さの下限としては、配置されるスリット列の長さの10%が好ましく、15%がより好ましい。一方、スリット5の平均長さの上限としては、配置されるスリット列の長さの35%が好ましく、30%がより好ましい。スリット5の平均長さが前記下限に満たない場合、振動検出素子1のスリット列に垂直な方向への伸長を十分に促進できないおそれがある。逆に、スリット5の平均長さが前記上限を超える場合、振動検出素子1の強度が不十分となるおそれがある。
【0037】
<使用方法>
当該生体振動センサーは、例えば粘着テープ、サポーター等を用いて生体表面に密着させ生体振動が伝播することによって生じる圧電体2の歪みによる起電力を電極3、4を介して検出することで、生体振動を検出する。
【0038】
当該生体振動センサーは、初期状態において圧電体2を僅かに圧縮した与圧状態とするために、生体表面と反対側に弾性部材を配置し、この弾性部材を介して生体表面に押圧されるよう配置してもよい。
【0039】
[第二実施形態]
図3及び図4に、本発明の第二実施形態に係る生体振動センサーを示す。当該生体振動センサーは、生体の表面に密接して配置され、生体内部の振動を検出する。
【0040】
当該生体振動センサーは、シート状の振動検出素子1aと、この振動検出素子1aの表面を覆う絶縁体層6を備える。
【0041】
<振動検出素子>
図3及び図4の生体振動センサーの振動検出素子1aは、シート状の圧電体2と、この圧電体2の表裏に積層される一対の膜状乃至シート状の電極3、4とを有する。図3及び図4の生体振動センサーの振動検出素子1aにおける圧電体及び一対の電極3、4を有する積層構造は、図1及び図2の生体振動センサーの振動検出素子1における積層構造と同様である。このため、図3及び図4の生体振動センサーの振動検出素子1aについて、図1及び図2の生体振動センサーの振動検出素子1と同じ構成要素には同じ符号を付して重複する説明を省略する。
【0042】
図3の生体振動センサーの振動検出素子1aは、平面視で部分的に可撓性を増大させる弱化構造を有するが、この弱化構造は図1の生体振動センサーの振動検出素子1の弱化構造とは平面形状が異なる。
【0043】
(弱化構造)
本実施形態の生体振動センサーにおいて、振動検出素子1aの弱化構造は、平面視で放射状に配置される複数のスリット7を含む。具体的には、複数のスリット7は、それぞれ振動検出素子1aの外縁から中央部に向かって延びているが、中央部には延在せず、内側端部が互いに離間するよう形成されている。なお、「放射状」とは複数のスリット7の中心軸が完全に一致することを必要としない。
【0044】
このような放射状のスリット7を形成した振動検出素子1aは、スリット7に沿って折り曲げやすくなっていると共に、スリット7の内側端部間の距離が小さいため、スリット7の内側端部間を結ぶ線に沿っても折り曲げやすくなっている。このため、振動検出素子1aは、隣接する2つのスリット7間に挟まれる複数の舌片状の領域を中央部に対して独立して折り曲げるよう変形することができる。従って、本実施形態の生体振動センサーは、生体の表面形状が凸状又は凹状の3次元曲面である場合にも、生体表面に略沿うよう変形させて生体表面への密着度を大きくすることができる。なお、上記「舌片状の領域」は片持ち梁構造を有している。この舌片状領域の幅及び長さを変更することにより、この領域の可撓性が調整されうる。これは、前述した梁構造及び後述する梁構造についても同様である。
【0045】
振動検出素子1aは、複数のスリット7の幅が大きいほどより曲率が大きい3次元曲面に近似させることができるが、複数のスリット7の幅が大きくなるとその有効面積が小さくなる。このため、複数のスリット7の幅は、要求される変形能に応じて、できるだけ小さい幅とすることが好ましい。
【0046】
<絶縁体層>
絶縁体層6は、振動検出素子1aの表面側(生体表面に接する側と反対側)の電極3を被覆するよう設けられている。
【0047】
この絶縁体層6は、振動検出素子1aのスリット7間の舌片状の領域同士が重なり合って、表側の電極3と裏面側の電極4とが接触して短絡することを防止する。
【0048】
短絡防止の効果をより確実にできるよう、絶縁体層6は、平面視で振動検出素子1aからはみ出していてもよく、特にスリット7の内側にはみ出しているとよい。具体的には、絶縁体層6は、スリット7全体を覆うよう、スリット7に対応する切欠形状を有しないフィルム状に形成されることが好ましい。
【0049】
絶縁体層6は、例えば樹脂等、絶縁性を有し、振動検出素子1aの曲げを阻害しない程度の伸縮性を有する材料から形成される。この絶縁体層6の振動検出素子1aへの積層方法としては、例えば塗工による形成、接着剤による接着、熱プレスによる接着等を挙げることができる。
【0050】
絶縁体層6の材質としては、例えばポリオレフィン、ポリエステル、ポリアミド等の樹脂等を挙げることができる。
【0051】
絶縁体層6の平均厚さの下限としては、10μmが好ましく、15μmがより好ましい。一方、絶縁体層6の平均厚さの上限としては、100μmが好ましく、50μmがより好ましい。絶縁体層6の平均厚さが前記下限に満たない場合、強度が不十分となるおそれがある。逆に、絶縁体層6の平均厚さが前記上限を超える場合、振動検出素子1aの変形を阻害するおそれがある。
【0052】
[第三実施形態]
図5に、本発明の第三実施形態に係る生体振動センサーを示す。当該生体振動センサーは、生体の表面に密接して配置され、生体内部の振動を検出する。
【0053】
当該生体振動センサーは、シート状の振動検出素子1bを備える。
【0054】
<振動検出素子>
図5の生体振動センサーの振動検出素子1bは、シート状の圧電体2と、この圧電体2の表裏に積層される一対の膜状乃至シート状の電極3、4とを有する。図5の生体振動センサーの振動検出素子1bにおける圧電体及び一対の電極3、4を有する積層構造は、図1の生体振動センサーの振動検出素子1における積層構造と同様である。このため、図5の生体振動センサーの振動検出素子1bについて、図1の生体振動センサーの振動検出素子1と同じ構成要素には同じ符号を付して重複する説明を省略する。
【0055】
図5の生体振動センサーの振動検出素子1bは、平面視で部分的に可撓性を増大させる弱化構造を有するが、この弱化構造は図1の生体振動センサーの振動検出素子1の弱化構造とは平面形状が異なる。
【0056】
(弱化構造)
本実施形態の生体振動センサーにおいて、振動検出素子1bの弱化構造は、外周に設けられる複数の切欠8を含む。具体的には、振動検出素子1bは、平面視で重心位置を中心として一定の角度で設けられる複数のV字状の切欠8を有することで、概略星形に形成されている。
【0057】
この振動検出素子1bは、この切欠8に挟まれる腕状部分の幅が狭く、可撓性が大きくなっている。従って、本実施形態の生体振動センサーは、生体の表面形状が凸状又は凹状の3次元曲面である場合にも、生体表面に略沿うよう変形させて生体表面への密着度を大きくすることができる。なお、上記「腕状部分」は片持ち梁構造を有している。
【0058】
また、V字状の切欠8を有する振動検出素子1bは、切欠8間の腕状部分の幅が外側ほど小さくなっているため、この腕状部分を折り曲げても腕状部分同士が重なりにくい。このため、本実施形態の生体振動センサーは、例えば指先等の曲率が大きい生体表面に配置した場合にも比較的密着度を大きくすることができるので、より正確な生体振動の検出が可能となる。
【0059】
[第四実施形態]
図6に、本発明の第四実施形態に係る生体振動センサーを示す。当該生体振動センサーは、生体の表面に密接して配置され、生体内部の振動を検出する。
【0060】
当該生体振動センサーは、シート状の振動検出素子1cを備える。
【0061】
<振動検出素子>
図6の生体振動センサーの振動検出素子1cは、シート状の圧電体2と、この圧電体2の表裏に積層される一対の膜状乃至シート状の電極3、4とを有する。図6の生体振動センサーの振動検出素子1cにおける圧電体及び一対の電極3、4を有する積層構造は、図1の生体振動センサーの振動検出素子1における積層構造と同様である。このため、図6の生体振動センサーの振動検出素子1cについて、図1の生体振動センサーの振動検出素子1と同じ構成要素には同じ符号を付して重複する説明を省略する。
【0062】
図6の生体振動センサーの振動検出素子1cは、平面視で部分的に可撓性を増大させる弱化構造を有するが、この弱化構造は図1の生体振動センサーの振動検出素子1の弱化構造とは平面形状が異なる。
【0063】
(弱化構造)
本実施形態の生体振動センサーにおいて、振動検出素子1cの弱化構造は、互いに平行且つ等間隔に形成され、振動検出素子1cの外縁に開放されない複数のスリット9を含む。つまり、この弱化構造は、複数のスリット9によって振動検出素子1cの中央領域を複数の帯状部分に分割したものである。この複数の帯状部分は、それぞれが独立して生体表面の凹凸に合わせて屈曲できるため、生体表面に密着して生体振動を比較的正確に検出することができる。なお、上記「帯状部分」は両端固定梁構造を有している。
【0064】
[第五実施形態]
図7に、本発明の第五実施形態に係る生体振動センサーを示す。当該生体振動センサーは、生体の表面に密接して配置され、生体内部の振動を検出する。
【0065】
当該生体振動センサーは、シート状の振動検出素子1dを備える。
【0066】
<振動検出素子>
図7の生体振動センサーの振動検出素子1dは、シート状の圧電体2と、この圧電体2の表裏に積層される一対の膜状乃至シート状の電極3、4とを有する。図7の生体振動センサーの振動検出素子1dにおける圧電体及び一対の電極3、4を有する積層構造は、図1の生体振動センサーの振動検出素子1における積層構造と同様である。このため、図7の生体振動センサーの振動検出素子1dについて、図1の生体振動センサーの振動検出素子1と同じ構成要素には同じ符号を付して重複する説明を省略する。
【0067】
図7の生体振動センサーの振動検出素子1dは、平面視で部分的に可撓性を増大させる弱化構造を有するが、この弱化構造は図1の生体振動センサーの振動検出素子1の弱化構造とは平面形状が異なる。
【0068】
(弱化構造)
本実施形態の生体振動センサーにおいて、振動検出素子1dの弱化構造は、平面視で例えばW字状等ジグザグに屈曲した複数のスリット10を含む。複数のスリット10は、互いに等しい形状に屈曲し、等間隔に配列されている。このため、隣接するスリット10間には、平面視でジグザグに屈曲した帯状部分がそれぞれ形成される。
【0069】
このようにジグザグに屈曲した帯状部分は、それぞれが独立して生体表面の凹凸に合わせて屈曲できる。また、このようにジグザグに屈曲した帯状部分は、直線状に延びる帯状部分と比べて変形能が大きいため、生体表面に対する密着度をより大きくして、生体振動をより正確に検出することができる。なお、上記「帯状部分」は両端固定梁構造を有している。
【0070】
[第六実施形態]
図8に、本発明の第六実施形態に係る生体振動センサーを示す。当該生体振動センサーは、生体の表面に密接して配置され、生体内部の振動を検出する。
【0071】
当該生体振動センサーは、シート状の振動検出素子1eを備える。
【0072】
<振動検出素子>
図8の生体振動センサーの振動検出素子1eは、シート状の圧電体2と、この圧電体2の表裏に積層される一対の膜状乃至シート状の電極3、4とを有する。図8の生体振動センサーの振動検出素子1eにおける圧電体及び一対の電極3、4を有する積層構造は、図1の生体振動センサーの振動検出素子1における積層構造と同様である。このため、図8の生体振動センサーの振動検出素子1eについて、図1の生体振動センサーの振動検出素子1と同じ構成要素には同じ符号を付して重複する説明を省略する。
【0073】
図8の生体振動センサーの振動検出素子1eは、平面視で部分的に可撓性を増大させる弱化構造を有するが、この弱化構造は図1の生体振動センサーの振動検出素子1の弱化構造とは平面形状が異なる。
【0074】
(弱化構造)
本実施形態の生体振動センサーにおいて、振動検出素子1eの弱化構造は、振動検出素子1eの中央部を舌片状に他の部分から独立させる1本の屈曲したスリット11を含む。このスリット11は、例えば一対の平行部と一対の平行部の一方の端部を接続する接続部とを有する形状、U字状等とすることができる。
【0075】
振動検出素子1eは、スリット11によって画定される舌片部分が周囲の部分から独立して屈曲することができるので、生体表面に対する密着度を比較的大きくすることができる。なお、上記「舌片部分」は片持ち梁構造を有している。また、振動検出素子1eの外縁とこれに平行に隣接するスリット11の部分との間には両端固定梁構造が形成されている。
【0076】
[第七実施形態]
図9及び図10に、本発明の第七実施形態に係る生体振動センサーを示す。当該生体振動センサーは、生体の表面に密接して配置され、生体内部の振動を検出する。
【0077】
当該生体振動センサーは、シート状の振動検出素子1fと、この振動検出素子1fの表面側に積層される接着テープ12とを備える。
【0078】
<振動検出素子>
図9の生体振動センサーの振動検出素子1fは、シート状の圧電体2と、この圧電体2の表裏に積層される一対の膜状乃至シート状の電極3、4とを有する。図9の生体振動センサーの振動検出素子1fにおける圧電体及び一対の電極3、4を有する積層構造は、図1の生体振動センサーの振動検出素子1における積層構造と同様である。このため、図9の生体振動センサーの振動検出素子1fについて、図1の生体振動センサーの振動検出素子1と同じ構成要素には同じ符号を付して重複する説明を省略する。
【0079】
図9の生体振動センサーの振動検出素子1fは、平面視で部分的に可撓性を増大させる弱化構造を有するが、この弱化構造は図1の生体振動センサーの振動検出素子1の弱化構造とは平面形状が異なる。
【0080】
(弱化構造)
本実施形態の生体振動センサーにおいて、振動検出素子1fの弱化構造は、振動検出素子1の一対の対向する側縁に交互に開口するよう、互いに平行且つ等間隔に形成された複数のスリット13を有する。これにより、本実施形態の振動検出素子1fは、幅方向に往復するよう大きく蛇行した帯状に形成されている。本実施形態の生体振動センサーにおいて、振動検出素子1fは、比較的自由に変形できるので、曲率が大きい凸状又は凹状の生体表面に対しても密着度を比較的大きくすることができ、生体振動を比較的正確に検出できる。なお、振動検出素子1fにおける蛇行した帯状部分のうち、U字状を呈する部分、及び、左右両端それぞれの部分は、いずれも片持ち梁構造を有している。
【0081】
<接着テープ>
接着テープ12は、絶縁性及び伸縮性を有する絶縁体フィルム14と、この絶縁体フィルム14の裏面に積層される接着剤層15とを有する。この接着テープ12は、振動検出素子1fのスリット13上にも連続して存在すると共に、平面視で振動検出素子1fの全周外側に突出している。
【0082】
接着テープ12は、振動検出素子1fのスリット13間に画定される複数の帯状部分同士が重なり合って、電極3、4間が短絡することを防止する。また、接着テープ12は、振動検出素子1fを生体表面に密着状態に固定するために使用される。
【0083】
(絶縁体フィルム)
絶縁体フィルム14の材質としては、例えば天然ゴム(NR)、ブチルゴム(IIR)、イソプレンゴム(IR)、エチレン・プロピレンゴム(EPDM)、ブタジエンゴム(BR)、ウレタンゴム(U)、スチレン・ブタジエンゴム(SBR)、シリコーンゴム(Q)、クロロプレンゴム(CR)、クロロスルフォン化ポリエチレンゴム(CSM)、アクリロニトリルブタジエンゴム(NBR)、塩素化ポリエチレン(CM)、アクリルゴム(ACM)、エピクロルヒドリンゴム(CO、ECO)、フッ素ゴム(FKM)、ポリジメチルシロキサン(PDMS)等、例えばスチレン系エラストマー、オレフィン系エラストマー、塩化ビニル系エラストマー、ウレタン系エラストマー、アミド系エラストマー等のエラストマーなどを挙げることができる。
【0084】
絶縁体フィルム14の平均厚さの下限としては、10μmが好ましく、20μmがより好ましい。一方、絶縁体フィルム14の平均厚さの上限としては、200μmが好ましく、100μmがより好ましい。絶縁体フィルム14の平均厚さが前記下限に満たない場合、絶縁体フィルム14が強度不足により破断するおそれがある。逆に、絶縁体フィルム14の平均厚さが前記上限を超える場合、振動検出素子1fの変形を阻害するおそれがある。
【0085】
(接着剤層)
接着剤層15は、絶縁体フィルム14を振動検出素子1fの表面側に接着すると共に、振動検出素子1fの平面視外側で生体表面に絶縁体フィルム14を接着することで振動検出素子1fを生体表面に固定する。なお、電極4を直接肌へ接触させてもよいが、生体表面に触れる電極4の表面を絶縁層で被覆しておいてもよいし、または絶縁性のシートを予め生体表面に配設した上に電極4が接触するようにしてもよい。
【0086】
この接着剤層15を構成する接着剤としては、粘着剤が好ましく、例えばアクリル系粘着剤等、皮膚に直接貼着しても皮膚の炎症等を招来しにくく、皮膚からの剥離が容易であるものが特に好ましい。
【0087】
接着剤層15の平均厚さの下限としては、15μmが好ましく、20μmがより好ましい。一方、接着剤層15の平均厚さの上限としては、300μmが好ましく、200μmがより好ましい。接着剤層15の平均厚さが前記下限に満たない場合、接着力が不十分となるおそれがある。逆に、接着剤層15の平均厚さが前記上限を超える場合、振動検出素子1fの変形を阻害するおそれがある。
【0088】
このように、振動検出素子1fの平面視外側に延出する接着テープ12を備える生体振動センサーは、裏面に離型シートが積層され、振動検出素子1fの外側裏面に露出する接着剤層15を覆った状態で提供することが好ましい。
【0089】
[第八実施形態]
図11に、本発明の第八実施形態に係る生体振動センサーを示す。当該生体振動センサーは、生体の表面に密接して配置され、生体内部の振動を検出する。
【0090】
当該生体振動センサーは、シート状の振動検出素子1gを備える。
【0091】
<振動検出素子>
図11の生体振動センサーの振動検出素子1gは、シート状の圧電体2と、この圧電体2の表裏に積層される一対の膜状乃至シート状の電極3、4とを有する。図9の生体振動センサーの振動検出素子1gにおける圧電体及び一対の電極3、4を有する積層構造は、図1の生体振動センサーの振動検出素子1における積層構造と同様である。このため、図9の生体振動センサーの振動検出素子1gについて、図1の生体振動センサーの振動検出素子1と同じ構成要素には同じ符号を付して重複する説明を省略する。
【0092】
図9の生体振動センサーの振動検出素子1gは、平面視で部分的に可撓性を増大させる弱化構造を有するが、この弱化構造は図1の生体振動センサーの振動検出素子1の弱化構造とは平面形状が異なる。
【0093】
(弱化構造)
本実施形態の生体振動センサーにおいて、振動検出素子1gの弱化構造は、複数の開口16を含む。具体的には、複数の開口16は、振動検出素子1gを縦断する1又は複数の仮想線上及び振動検出素子1gを縦横する1又は複数の仮想線上にそれぞれ並んで配置されている。
【0094】
振動検出素子1gは、複数の開口16が並んだ仮想線に沿って折り曲げやすくなっており、生体表面に対する密着度を比較的大きくすることができる。なお、振動検出素子1gにおける隣接する開口16同士の間の部分は、両端固定梁構造を有している。
【0095】
[その他の実施形態]
前記実施形態は、本発明の構成を限定するものではない。従って、前記実施形態は、本明細書の記載及び技術常識に基づいて前記実施形態各部の構成要素の省略、置換又は追加が可能であり、それらは全て本発明の範囲に属するものと解釈されるべきである。
【0096】
当該生体振動センサーにおいて、振動検出素子の弱化構造は、スリット、切欠及び開口に限られず、例えば振動検出素子の厚さを減じる溝等であってもよい。
【0097】
当該生体振動センサーにおいて、振動検出素子の弱化構造は、スリット、切欠及び開口の2種以上を含んでもよい。
【0098】
当該生体振動センサーにおいて、振動検出素子の裏面又は両面に絶縁体が積層されていてもよい。
【0099】
当該生体振動センサーは、ラミネート層によって片面又は両面を被覆されていてもよい。その場合、当該生体振動センサーと同様にラミネート層も測定対象の表面の曲率が大きい場合でも測定対象に密着できるものが好ましい。ラミネート層としては当該生体振動センサーと同様に弱化構造を備えるものであってもよいし、第七実施形態の絶縁体フィルムと同様の伸縮可能なゴムやエラストマーから形成されるものであってもよい。なお、当該生体振動センサーはラミネート層と少なくとも一部で固定されていてもよいし、固定されていなくてもよい。
【産業上の利用可能性】
【0100】
本発明に係る生体振動センサーは、人や動物の体内で発生する様々な振動を測定するために利用することができる。
【符号の説明】
【0101】
1、1a、1b、1c、1d、1e、1f、1g 振動検出素子
2 圧電体
3、4 電極
5、7、9、10、11、13 スリット
6 絶縁体層
8 切欠
12 接着テープ
14 絶縁体フィルム
15 接着剤層
16 開口
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11