(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、上記技術は、機械式の振れ角検出装置であるため、コンテナの振れ角度が最大となる最大振れ角度は、コンテナの振れ角度が最大となる時点まで待たなければならない。コンテナの振れは、周期が数10秒にもなるため、最大振れ角になるまで待機することは、荷役作業の作業効率を低下させることになり、好ましくない。
【0006】
そこで、本発明は、吊り荷をロープで吊り上げた時に発生する振れの最大振れ角度を迅速に予測し、予測結果に応じて振れを短時間に抑制することができる吊り荷の振れ止め方法及びクレーンを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の一態様は、クレーンにおける吊り荷の振れ止め方法である。当該振れ止め方法は、
トロリがロープで吊り荷を吊り上げたときに発生する前記吊り荷の振れによる前記吊り荷の位置の変動中、前記吊り荷の振れ角度あるいは前記吊り荷の振れ変位の計測情報と前記ロープのロープ長の情報を取得するステップと、
前記計測情報と前記ロープ長の情報の取得後、変動中の前記吊り荷が最初に前記吊り荷の最大振れ角度の位置に到達するタイミングの前に、前記吊り荷の前記計測情報と前記ロープ長の情報を用いて前記最大振れ角度を予測するステップと、
前記最大振れ角度の予測結果に応じて、前記吊り荷の振れ止めの要否を判定し、前記判定が振れ止め要の場合、前記振れを止める振れ止め制御を行うステップと、
を含む。
前記振れ止め制御では、前記トロリの現在の位置と前記トロリの目標位置の指令情報の差分に基づいて前記トロリの目標速度を生成し、生成した前記目標速度と前記トロリの現在の速度の差分に応じて定まる量、前記吊り荷の前記トロリに対する振れ変位に応じて定まる量、及び前記吊り荷の前記トロリに対する振れ速度に応じて定まる量の合計を、生成した前記目標速度を変更する変更量として定めて、前記トロリを駆動させる駆動装置に与える前記トロリの速度の指令情報を変更する。
その際、前記吊り荷の振れ止めの要否の判定は、前記吊り荷の移送中に行い、
前記振れ止め制御では、前記吊り荷の振れを小さくするために、前記目標速度と前記変更量の合計を前記吊り荷の移送中の前記トロリの速度の前記指令情報として設定する、ことが好ましい。
【0008】
前記振れ角度をφ、前記吊り荷の振れ角速度をφ’、前記ロープのロープ長をl、及び、重力加速度をg、としたとき、前記最大振れ角度は、cos
−1{cosφ−(l・φ’)
2/(2g・l)}として求められる、ことが好ましい。
【0009】
前記計測情報と前記ロープ長の情報の取得から前記振れ止め制御の開始までの時間は、前記吊り荷の振れの周期の100分の1以下である、ことが好ましい。例えば、前記時間は、100m秒以下であることが好ましく、50m秒以下であることが好ましく、40m秒以下であることがよりいっそう好ましい。前記時間は、例えば、前記計測情報のサンプリングタイムと同じ時間長さである。前記サンプリングタイムは、例えば40m秒以下であることが好ましく、例えば20m秒である。
【0010】
前記振れ止め制御は、前記タイミングの前に開始される、ことが好ましい。
【0011】
前記振れ止め制御は、前記吊り荷の振れが小さくなるように、前記トロリの位置を変動させる制御により行われる、ことが好ましい。
【0012】
前記トロリの速度の指令情報をuTとし、前記トロリの現在の位置と目標位置の差分に基づいて定まる目標速度をvTrefとし、前記トロリの現在の速度をvTとし、前記吊り荷の前記トロリに対する振れ変位をxとし、前記吊り荷の前記トロリに対する振れ速度をvとしたとき、f1、f2、及びf3をゲイン係数として、
前記指令情報uTは、vTref + f1・(vTref−vT)−f2・x−f3・vに従って算出される、ことが好ましい。
【0014】
本発明の一態様はクレーンである。当該クレーンは、
トロリ、吊り荷を吊り上げる前記トロリから延びるロープ、及び前記トロリの移送経路を形成するレール、を備えるクレーン本体部と、
前記吊り荷の吊り上げと前記トロリの移送を制御する制御装置と、を備える。
前記制御装置は、
変動中の前記吊り荷の振れ角度あるいは前記吊り荷の振れ変位の計測情報と前記ロープのロープ長の情報を取得する情報取得部と、
前記計測情報と前記ロープ長の情報の取得後、前記吊り荷が最初に前記吊り荷の最大振れ角度の位置に到達するタイミングの前に、前記計測情報と前記ロープ長の情報を用いて前記最大振れ角度を予測する予測部と、
前記最大振れ角度の予測結果に応じて、前記吊り荷の振れ止めの要否を判定する判定部と、
前記判定が振れ止め要の場合、前記振れを止める振れ止め制御を行う振れ止め制御部と、
を含む。
前記振れ止め制御では、前記トロリの現在の位置と前記トロリの目標位置の指令情報の差分に基づいて前記トロリの目標速度を生成し、生成した前記目標速度と前記トロリの現在の速度の差分に応じて定まる量、前記吊り荷の前記トロリに対する振れ変位に応じて定まる量、及び前記吊り荷の前記トロリに対する振れ速度に応じて定まる量の合計を、生成した前記目標速度を変更する変更量として定めて、前記トロリを駆動させる駆動装置に与える前記トロリの速度の指令情報を変更する。
その際、前記判定部は、前記吊り荷の移送中に、前記吊り荷の振れ止めの要否を判定し、
前記振れ止め制御部は、前記判定が振れ止め要の場合、前記吊り荷の振れを小さくするために、前記目標速度と前記変更量の合計を前記吊り荷の移送中の前記トロリの速度の指令情報として設定することにより、前記振れ止め制御を行う、ことが好ましい。
【0015】
前記振れ止め制御部は、前記吊り荷の振れが小さくなるように、前記トロリの位置を変動させる制御を行う、ことが好ましい。
【0017】
前記トロリの速度の指令情報をuTとし、前記トロリの現在の位置と目標位置の差分に基づいて定まる目標速度をvTrefとし、前記トロリの現在の速度をvTとし、前記吊り荷の前記トロリに対する振れ変位をxとし、前記吊り荷の前記トロリに対する振れ速度をvとしたとき、f1、f2、及びf3をゲイン係数として、
前記指令情報uTは、vTref + f1・(vTref−vT)−f2・x−f3・vに従って算出される、ことが好ましい。
【発明の効果】
【0018】
上記態様の吊り荷の振れ止め方法及びクレーンによれば、吊り荷をロープで吊り上げた時に発生する振れの最大振れ角度を迅速に予測し、予測結果に応じて振れを短時間に抑制することができる。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本実施形態のコンテナの振れ止め制御方法及び制御装置について詳細に説明する。
本実施形態では、コンテナを吊り荷とするが、吊り荷はコンテナに限定されない。吊り荷をロープで吊り上げ、吊り上げた吊り荷を、トロリを用いて移動するものであれば、吊り荷及びクレーンはコンテナ及びコンテナクレーンに限定されない。
【0021】
図1は、本実施形態で用いるコンテナクレーン4の構成の一例を示す図である。コンテナクレーン4は、岸壁に設けられ、コンテナ船とコンテナヤードとの間で、コンテナの積み卸しを行なう装置である。
図1には、コンテナ船1等を係留する岸壁2のコンテナヤードとコンテナ船1との間でコンテナ3の積み卸しを行うコンテナクレーン4を示している。コンテナクレーン4は、岸壁2上に岸壁に沿って移動自在に設けられた前脚5及び後脚6を有している。前脚5及び後脚6の頂部には、ガーダ9aが水平に設けられている。ガーダ9aの海側端には、コンテナ船1の接岸時に邪魔にならないように、起伏自在にブーム9bが取り付けられている。ガーダ9a及びブーム9bによって構成された水平梁9は、バックステー10によって補強されている。
【0022】
コンテナクレーン4は、クレーン本体部12と、制御装置20と、駆動装置40と、を主に有する。
クレーン本体部12は、トロリ7、コンテナ3を吊り上げるトロリ7に接続されたロープ8、及びトロリ7の移送経路を形成するレール11、を備える。ロープ8はトロリ7から延びている。
トロリ7は、水平梁9に設けられたレール11上を移動する。トロリ7には、コンテナ3を吊るロープ8とコンテナのサイズに合わせて把持部を伸縮させるスプレッダ(図示されない)と、トロリ7の移動機構と、が設けられている。トロリ7は、コンテナ3を吊り上げて、コンテナ船1とコンテナヤードの間を移動する。このとき、トロリ7の目標位置x
Trefに対する位置制御を含んだコンテナ3の振れ止めフィードバック制御が行なわれる。コンテナ3を吊り上げた際あるいはコンテナ3を移送する際、コンテナ3とトロリ7の位置ずれ等により、コンテナ3は、コンテナ3を吊っているロープ8のロープ長に応じた振り子振動、すなわち、振れが発生する場合がある。本実施形態では、この振れが許容される範囲にあるか否かを判定し、判定の結果、振れが許容範囲にない場合、振れ止めを行なう。
【0023】
図2は、本実施形態のコンテナクレーン4におけるコンテナ3の振れ角度φ、コンテナ3の振れ変位x、及びトロリ7の位置x
Tを模式的に説明する図である。
振れ角度φは、トロリ7のロープ8が鉛直方向に垂れた鉛直下方向の直線を基準とした角度である。コンテナ3の振れ変位xは、トロリ7からロープ8が延びる位置を基準とした相対的な位置(コンテナ3の移送方向における位置)であり、ロープ8のロープ長lとすると、x=l・φとして表される。トロリ7の位置x
Tは、所定の基準位置からのレール11に沿った方向の距離を表す。ロープ長lは、コンテナ3を吊り上げるため時間的に変化する。振れ角度φも時間的に変化する。コンテナ3の振れ速度はφ’として表されている。トロリ7は、コンテナ3の振れ止め制御を行うとき、微小に位置x
Tが変動する、あるいはトロリ7の速度が変動することによりコンテナ3の振れ止め抑制が行われる。
【0024】
本実施形態のコンテナクレーン4のトロリ7には、トロリ7からコンテナ3を画像として撮像する撮像装置7a(
図2参照)が設けられている。撮像装置7aは、撮像された画像からコンテナ3の振れ変位xを求め、制御装置20に送るように構成されている。さらに、コンテナクレーン4には、トロリ7の移送速度を計測するセンサ7bが設けられている。センサ7bは、トロリ7の速度v
Tを制御装置20に出力する。
【0025】
制御装置20は、コンテナ3の吊り上げとトロリ7の移送を制御する。具体的には、制御装置20は、コンテナ3のロープ8による吊り上げの制御信号を駆動装置40に送る。制御装置20は、コンテナ3を吊り上げたとき、コンテナ3の振れがあるか否かを判定し、判定結果に応じてコンテナ3の振れ止めの制御を行う制御信号を駆動装置40に送る。さらに、制御装置20は、振れが抑制されたコンテナ3に移送中振れが生じないように制御された移送を行う制御信号を駆動装置40に送る。
駆動装置40は、ロープ8の巻上げ及びコンテナ3の移送を行う装置であり、これらの動作は、制御装置20から送られる制御信号に基づいて行われる。
【0026】
図3は、制御装置20の構成の一例を説明する図である。
制御装置20は、コンピュータで構成されている。制御装置20は、情報取得部22、予測部24、判定部26、及び振れ止め制御部28を有する。情報取得部22、予測部24、判定部26、及び振れ止め制御部28の各部分は、コンピュータのメモリに記録したプログラムをコンピュータが呼び出し起動することにより形成されるソフトウェアモジュールである。このため、各部分の機能は、実質的には、プログラムに従がってコンピュータの中央演算ユニット(CPU)が司る。
【0027】
情報取得部22は、トロリ7がロープ8でコンテナ3を吊り上げたときに発生するコンテナ3の振れによるコンテナ3の振れ変位x、この振れ変位xから得られる振れ速度x’(=v)、及びロープ長lを取得する。ロープ長lは、ロープ8の繰り出し、巻き上げを行う機構に設けられたセンサから制御装置20に送られる。振れ速度vは、振れ変位xの時間変化Δx(一定のサンプリング時間間隔Δtで送られてくる振れ変位xの隣り合う振れ変位のデータx1、x2の差分)を振れ変位xのサンプリング時間間隔Δtで除算することにより得られる。
振れ角度φは、x/lを算出することにより得られ、振れ角速度φ’は、振れ角度φの時間変化Δφ(一定のサンプリング時間間隔Δt毎の振れ角度φの隣り合う振れ角度φ1、φ2の差分)を振れ角度φのサンプリング時間間隔Δtで除算することにより得られる。
【0028】
予測部24は、情報取得部22で得たコンテナ3の振れ変位x、振れ角速度φ’、及びロープ長lを用いて、コンテナ3の振れにおける振れ角度φの最大角である最大振れ角度φ
maxを予測する。具体的には、重力加速度をgとしたとき、予測部24は、最大振れ角度φ
maxを、cos
−1{cosφ−(l・φ’)
2/(2g・l)}として算出する。
上記算出式は、コンテナ3の振れの全エネルギは、コンテナ3の運動エネルギと重力に対する位置エネルギの合計量が一定であることから求めることができる。
【0029】
判定部26は、予測部24が算出した最大振れ角度φ
maxに応じて、コンテナ3の振れ止めの要否を判定する。具体的には、最大振れ角度φ
maxが許容範囲内であれば、振れ止めはする必要はない。最大振れ角度φ
maxが許容範囲を超える場合、振れ止めを行なう。
【0030】
振れ止め制御部28は、判定部26の判定結果が、コンテナ3の振れ止めが不要である場合、コンテナ3の振れを止める振れ止め制御を行う。具体的には、振れ止め制御部28は、オペレータから入力されたトロリ7の目標位置x
Trefに基づいてトロリ7によるコンテナ3の移送を行う制御信号を生成する。この制御信号は、コンテナ3の移送を行う信号であり、かつ、コンテナ3の移送中、コンテナ3の振れを止める振れ止め制御の制御信号である。
コンテナ3の振れ止めが必要である場合、トロリ7の現在の位置に静止するような目標位置x
Trefが設定され、この設定した目標位置x
Trefに基づいてロープ8による吊り上げによって生じたコンテナ3の振れを抑制する振れ止めの制御信号を生成する。
情報取得部22、予測部24、及び判定部26は、振れ止めが不要になるまで、上述の各処理を継続して行う。
ロープ8によるコンテナ3の吊り上げ時に生じる振れ止めの制御及びコンテナ3の移送中の振れ止めの制御は、後述する同一の振れ止めの制御方法で行われる。
【0031】
本実施形態では、予測部24は、計測したコンテナ3の振れ角度φが最大振れ角度φ
maxでない限り、振れ変位xとロープ長lの取得後、コンテナ3が最初に最大振れ角度φ
maxの位置に到達するタイミングの前に、最大振れ角度φ
maxを予測する。振れ変位x及びロープ長lの情報は、例えば20m秒毎に制御装置20に送られるが、制御装置20は、情報取得部22、予測部24及び判定部26の全処理を、例えば20m秒で行うことができる。したがって、コンテナ3が最初に最大振れ角度φ
maxの位置に到達するタイミングの前に、最大振れ角度φ
maxを予測することができる。
このように、制御装置20は、コンテナ3の最大振れ角度φ
maxを迅速に予測することができる。したがって、この予測結果に応じて振れを抑制する制御を短時間に開始し、振れを短時間に抑えることができる。
本実施形態では、コンテナ3の振れ変位xを計測して、制御装置20は振れ変位xを取得するが、x=l・φの関係にあることから、振れ変位xの代わりに振れ角度φを取得してもよい。
【0032】
本実施形態のコンテナクレーン4では、
(1)トロリ7がロープ8でコンテナ3を吊り上げたときに発生するコンテナ3の振れによるコンテナ3の位置の変動中、情報取得部22が、コンテナ3の振れ角度φあるいは振れ変位xの計測情報とロープ長lの情報を取得し、
(2)上記計測情報とロープ長lの情報の取得後、変動中のコンテナ3が最初にコンテナ3の最大振れ角度φ
maxの位置に到達するタイミングの前に、予測部24が、計測情報とロープ長lの情報を用いて最大振れ角度φ
maxを予測し、
(3)判定部26が、最大振れ角度φ
maxの予測結果に応じて、コンテナ3の振れ止めの要否を判定し、判定が振れ止め要の場合、振れ止め制御部28は、コンテナ3の振れを止める振れ止め制御を行う。
【0033】
この場合、制御装置20は、コンテナ3の振れ角度φ、ロープ長l、コンテナ3の振れ速度v、及び、重力加速度gに対して、最大振れ角度φ
maxを、cos
−1{cosφ−(l・v)
2/(2g・l)}として算出することが好ましい。
【0034】
本実施形態では、コンテナ3の振れ角度φが最大振れ角度φ
maxになる前に迅速に最大振れ角度φ
maxを算出するので、コンテナ3の振れを迅速に抑制するには、短時間に振れ止めの制御を開始することが好ましい。
このため、本実施形態では、振れ変位xの計測情報とロープ長lの情報の取得から振れ止めの制御の開始までの時間は、コンテナ3の振れの周期の100分の1以下であることが好ましい。この時間は、例えば100m秒以下であることが好ましく、50m秒以下であることがより好ましく、40m秒以下であることがよりいっそう好ましい。例えば、20m秒である。また、この時間は、例えば、振れ変位xの計測等のサンプリングタイムと同じ時間長さである。また、振れ止めの制御は、コンテナ3の振れ角度φが最大振れ角度φ
maxになるタイミングの前に開始されることが好ましい。
【0035】
(振れ止め制御)
本実施形態で用いるコンテナ3の振れ止めの制御方法を以下説明する。
図4は、制御装置20の振れ止め制御部28の構成の一例を説明する図である。
図5は、本実施形態の振れ止め制御部28の制御の一例を説明する図である。
【0036】
図4に示すように、振れ止め制御部28は、位置制御補償部28aと速度指令値生成部28bを備える。振れ止め制御部28は、トロリ7の目標位置x
Trefの入力をオペレータから受けると、トロリ7の位置x
T、トロリ7の速度v
T、コンテナ3の振れ変位x及びその振れ速度vの情報を用いてフィードバック制御信号として駆動装置40にトロリ7の速度指令値u
Tを出力する。この場合、コンテナ3の振れのオーバシュートが小さく、迅速に減衰するように、振れ止めの制御パラメータが予め与えられる。
なお、トロリ7の速度v
Tは、トロリ7に設けられたセンサ7bから制御装置20に継続して送られ、コンテナ3の振れ変位x、トロリ7に設けられた撮像装置7aから制御装置20に継続して送られる。制御装置20は、トロリ7が基準位置に位置する時刻からトロリ7の速度v
Tを積分(累積)することにより、トロリ7の位置x
Tを求め取得する。制御装置20は、コンテナ3の振れ変位xの時間変化を振れ変位xのサンプリング時間間隔Δtで除算することによりコンテナ3の振れ速度vを求め取得する。
【0037】
図5に示すように、トロリ7の目標位置x
Trefが振れ止め制御部28に入力されると、振れ止め制御部28の位置制御補償部28aは、トロリ7の現在の位置x
Tと目標位置x
Trefとの差分に対して、位置制御補正関数H(sは制御工学における複素数)の演算を施す。位置制御補償部28aは、位置制御補正関数H(s)の演算により、トロリ7の目標速度v
Trefを算出する。位置補正関数H(s)は、例えば、分母及び分子がsの多項式で表された関数である。
速度指令値生成部28bは、位置制御補償部28aで算出した目標速度v
Trefに、f
1・(v
Tref−v
T)を加算し、目標速度v
Trefからf
2・x及びf
3・vを減算することにより、トロリ7の速度指令値u
Tを算出する。すなわち、下記式(1)に従がって、速度指令値生成部28bは、速度指令値u
Tを算出する。
【0038】
u
T= v
Tref+f
1・(v
Tref−v
T)−f
2・x−f
3・v ・・・式(1)
なお、v
Trefは、v
Tref= H(s)・(x
Tref−x
T) である。
【0039】
ここで、f
1、f
2、及びf
3は、フィードバック制御におけるゲイン係数である。このゲイン係数は、数学モデルで振れ止め制御を再現した制御シミュレーションモデルを求めることにより得ることができる。具体的には、制御シミュレーションモデルは、コンテナ3とトロリ7の運動を表した状態方程式のシステムモデルとクレーン本体部12の上記式(1)で表したフィードバック制御の式とを連成させたモデルである。上記状態方程式では、クレーン本体12におけるトロリ7の位置x
T、トロリ7の速度v
T、コンテナ3の振れ変位x及びその振れ速度vの4つの状態変数が用いられる。
【0040】
具体的には、上記状態方程式のシステムモデルは、トロリ7の速度v
T、トロリ7の位置x
T、コンテナ3の振れ速度v、及びコンテナ3の振れ変位xを状態ベクトルXで表したとき、下記式(2)で表すことができる。
dX/dt = A・X+bu
T ・・・ 式(2)
ここで、dX/dtは、状態ベクトルXの時間微分を表す。Aは、クレーン本体12のシステムモデルを表す行列であり、bは、このシステムモデルに入力される速度指令値u
Tに係る係数を表すベクトルである。したがって、制御シミュレーションモデルは、上記式(1)及び(2)を連立させたモデルである。
連立させた制御シミュレーションモデルは下記式(3)で表される。
dX/dt = A’・X+b’v
Tref ・・・ 式(3)
ここで、A’は、フィードバック制御を含んだ制御シミュレーションモデルの行列であり、b’は、この制御シミュレーションに入力されるトロリ7の目標速度v
Trefに係る係数を表すベクトルである。式(1)中のf
1、f
2、及びf
3は、行列A’に含まれる。この制御シミュレーションモデルを用いてシミュレーションを行うことにより、コンテナ3の振れのオーバシュートが小さく、迅速に減衰するように定めた制御パラメータに基づいて定めることができる。制御パラメータは、例えば、制御シミュレーションモデルにおける極の固有角振動数を定めるパラメータと、この固有角振動数における減衰の程度を表すパラメータ(減衰比)を含むことができる。この制御パラメータを用いて、f
1、f
2、及びf
3を表すことができる。したがって、f
1、f
2、及びf
3は、制御パラメータの値を設定することにより、コンテナ3の振れのオーバシュートが小さく、迅速に減衰するようなf
1、f
2、及びf
3の値を求めることができる。
【0041】
このような振れ止めの制御では、目標位置x
Trefに0を入力すれば、トロリ7がコンテナ3の移送をせずに振れ止め制御を行うことができる。すなわち、コンテナ3の移送の前に、コンテナ3の振れ止め制御を行うことができる。
また、目標位置x
Trefに0より大きい値を入力すれば、トロリ7は移送を行い、コンテナ3の移送中、コンテナ3に振れが生じないように、トロリ7の移送速度を制御することができる。
【0042】
図6は、上記制御シミュレーションモデルを用いてクレーン本体12におけるコンテナ3の振れ止めの抑制をシミュレーションした結果の一例を示す図である。この例では、目標位置x
Trefに0を入力している。時刻T
1でコンテナ3の振れが発生し、時刻T
2でf
1、f
2、及びf
3を用いた振れ止め制御を開始している。時刻T
1〜T
2では、コンテナ3の振れが自由減衰している。なお、
図6では、振れの波形を正負折り返して重ね書きしている。
図6からわかるように、時刻T
2以降では、振れ角度φが急激に減少している。また、このシミュレーション結果は、実際のコンテナクレーンにおけるコンテナ3の振れ止め制御における挙動と略一致している。これより、本実施形態で用いるコンテナの振れ止め制御は適切であることがわかる。
【0043】
このように、本実施形態の振れ止めの制御は、コンテナ3の振れが小さくなるように、トロリ7の速度指令値u
Tを駆動装置40に与える制御により、すなわち、トロリ7の位置x
Tを変動させる制御により行われることが好ましい。
また、本実施形態のコンテナ3の振れ止めの制御は、トロリ7の速度v
T、コンテナ3のトロリ7に対する振れ変位x、トロリ7の位置x
T、及びコンテナ3のトロリ7に対する振れ速度vに応じて、トロリ7を駆動させる駆動装置40に与えるトロリ7の速度指令値u
Tを変更することで行われることが、正確な振れの抑制を行う点で好ましい。
その際、トロリ7の位置x
Tとトロリ7の目標位置x
Trefの指令情報の差分に基づいて、トロリ7の速度指令値u
Tは生成されることが、トロリ7の位置を正確に制御する点で好ましい。
【0044】
図7は、本実施形態で行うコンテナ3の振れ止めの制御による振れの挙動を模式的に説明する図である。
図7では、波形Aは振れ角度φを示し、波形Bは最大振れ角度φ
maxの予測結果を示す。波形Aでは、時刻T
1において、コンテナ3の振れが発生している。この後、時刻T
2に到達する前に、予測部24で最大振れ角度φ
maxを予測し、時刻T
2で振れ止めの制御が開始されている。しかし、時刻T
2におけるコンテナ3は振れ角度φが増大する状態にあるので、即座に振れは減衰せず、時刻T
3で最大振れ角度となっている。そして、時刻T
4で、振れが略0になっている。波形Bは、予測部24で予測される最大振れ角度φ
maxの時系列波形である。このように、本実施形態では、予測部24では、コンテナ3の振れ角度φが最大振れ角度φ
maxになる前に、最大振れ角度φ
maxを迅速に予測することができ、この予測結果に応じてコンテナ3の振れを短時間に抑制することができる。
【0045】
以上、本発明の吊り荷の振れ止め方法及びクレーンについて詳細に説明したが、本発明は上記実施形態に限定されず、本発明の主旨を逸脱しない範囲において、種々の改良や変更をしてもよいのはもちろんである。