特許第6838858号(P6838858)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6838858
(24)【登録日】2021年2月16日
(45)【発行日】2021年3月3日
(54)【発明の名称】機能剤
(51)【国際特許分類】
   A61K 36/82 20060101AFI20210222BHJP
   A61K 47/10 20060101ALI20210222BHJP
   A61P 39/06 20060101ALI20210222BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20210222BHJP
   A61P 17/18 20060101ALI20210222BHJP
   A61K 8/9789 20170101ALI20210222BHJP
   A61Q 19/02 20060101ALI20210222BHJP
   A61K 127/00 20060101ALN20210222BHJP
【FI】
   A61K36/82
   A61K47/10
   A61P39/06
   A61P43/00 111
   A61P17/18
   A61K8/9789
   A61Q19/02
   A61K127:00
【請求項の数】6
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2015-250759(P2015-250759)
(22)【出願日】2015年12月23日
(65)【公開番号】特開2016-130234(P2016-130234A)
(43)【公開日】2016年7月21日
【審査請求日】2018年9月7日
(31)【優先権主張番号】特願2015-2998(P2015-2998)
(32)【優先日】2015年1月9日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000234328
【氏名又は名称】白井松新薬株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100145953
【弁理士】
【氏名又は名称】真柴 俊一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100087882
【弁理士】
【氏名又は名称】大石 征郎
(72)【発明者】
【氏名】猪飼 勝重
(72)【発明者】
【氏名】西本 有貴
(72)【発明者】
【氏名】野田 君久
【審査官】 菊池 美香
(56)【参考文献】
【文献】 特開2014−205658(JP,A)
【文献】 特開2011−006623(JP,A)
【文献】 特公昭61−008694(JP,B1)
【文献】 特開2013−203714(JP,A)
【文献】 特公昭44−021759(JP,B1)
【文献】 特開2011−098912(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 36/82
A61K 8/97
A61K 47/10
A61P 17/18
A61P 39/06
A61P 43/00
A61Q 19/02
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
減圧機構を備えた乾留装置を用いて含水状態にある植物原料を低温かつ減圧条件下に乾留したときに留出する成分を「低温減圧乾留留出液(D)」としかつその低温減圧乾留操作後にその乾留装置内に残る乾燥状態の粉末ないしフレーク状の缶残を「低温減圧乾留残渣(R)」と称するとき、
前記の植物原料が茶又はツバキの葉部であること、および、
その茶の葉部の低温減圧乾留残渣(R)を水、エタノール若しくは水とエタノールとの混合物により抽出したときの抽出分(E)又はツバキの葉部の低温減圧乾留残渣(R)をエタノール若しくは水とエタノールとの混合物により抽出したときの抽出分(E)を有効成分とするものであること、
を特徴とする抗酸化剤。
【請求項2】
減圧機構を備えた乾留装置を用いて含水状態にある植物原料を低温かつ減圧条件下に乾留したときに留出する成分を「低温減圧乾留留出液(D)」としかつその低温減圧乾留操作後にその乾留装置内に残る乾燥状態の粉末ないしフレーク状の缶残を「低温減圧乾留残渣(R)」と称するとき、
前記の植物原料が茶又はツバキの葉部であること、および、
その茶又はツバキの葉部の低温減圧乾留残渣(R)を水、エタノール又は水とエタノールとの混合物により抽出したときの抽出分(E)を有効成分とするものであること、
を特徴とするメイラード反応抑制剤。
【請求項3】
減圧機構を備えた乾留装置を用いて含水状態にある植物原料を低温かつ減圧条件下に乾留したときに留出する成分を「低温減圧乾留留出液(D)」としかつその低温減圧乾留操作後にその乾留装置内に残る乾燥状態の粉末ないしフレーク状の缶残を「低温減圧乾留残渣(R)」と称するとき、
前記の植物原料が茶の葉部であること、および、
その茶の葉部の低温減圧乾留残渣(R)をエタノールが50体積%である水とエタノールとの混合物により抽出したときの抽出分(E)を有効成分とするものであること、
を特徴とするチロシナーゼ阻害剤。
【請求項4】
前記の低温減圧乾留操作が、水分率が90重量%以下の含水状態にある茶又はツバキの葉部を、60〜20℃の低温条件下にかつゲージ圧で−88kPa以下の減圧条件下に行う乾留操作であることを特徴とする請求項に記載の抗酸化剤
【請求項5】
前記の低温減圧乾留操作が、水分率が90重量%以下の含水状態にある茶又はツバキの葉部を、60〜20℃の低温条件下にかつゲージ圧で−88kPa以下の減圧条件下に行う乾留操作であることを特徴とする請求項2に記載のメイラード反応抑制剤。
【請求項6】
前記の低温減圧乾留操作が、水分率が90重量%以下の含水状態にある茶又はツバキの葉部を、60〜20℃の低温条件下にかつゲージ圧で−88kPa以下の減圧条件下に行う乾留操作であることを特徴とする請求項3に記載のチロシナーゼ阻害剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ツバキ科植物の「葉部」から特定の工程を経て分離取得した抽出分を有効成分とする抗酸化活性を有する機能剤(または抗酸化活性と共に他の活性も併せ有する機能剤)に関するものである。
【背景技術】
【0002】
(特許文献1)
本出願人の出願にかかる特開2014−205658(特許文献1)の請求項1〜3には、下記の発明が示されている。本願発明の構成要件と紛らわしい点があるので、少し詳しく引用する。
【0003】
−1−
その請求項1:植物原料を減圧条件下に乾留して得られる減圧乾留物を有効成分とすることを特徴とするメイラード反応抑制剤。
念のため述べると、上記の「乾留物」とは、「減圧乾留装置の塔頂から留出する留出液」のことである。
【0004】
−2−
その請求項2:前記の減圧乾留物が、乾燥または非乾燥の状態にある植物原料を、常温から350℃の範囲内の温度条件下にかつ圧力100mmHg以下の減圧条件下に乾留して得られるものであること、を特徴とする請求項1記載のメイラード反応抑制剤。
【0005】
−3−
その請求項3:ペントシジン生成阻害剤である請求項1または2記載のメイラード反応抑制剤。
【0006】
−4−
その段落0025には、原料植物として用いられる植物の例として、「ショウガ、茶、ヨモギ、月桃、カキノハ、イグサ、シソヨウ(紫蘇葉)、ケイヒ、オレガノ、カモミール、セイジ、タイム、バジル、ペパーミント、ラベンダー、レモンバーム、ローズマリー、シークワーサー、バラ、ノニ、もみがら、米ぬか、そばがら、小麦ふすま、菜種油粕、椿油粕、ごま油粕、ごま、オウバク、ケイヒ、クマザサ、竹、ネギ、スダチ、秋ウコン、ユズ、カサブランカ、ミカン、ジャバラなど」があげられている。
【0007】
−5−
その段落0038には、原料植物からの減圧乾留液の調製につき記載がある。すなわち、植物を容器に入れ、精製水を加えてから、常圧下に220℃にて4時間加熱することにより「常圧蒸留液」を得、ついで容器内の液を常圧下にさらに220℃にて加熱し、このとき留出する水分に富む液は廃棄し、次に上記のように減水を行った容器内の液につき、25〜30mmHgの減圧条件下に300℃にて4時間加熱する減圧乾留操作を行って、この操作により留出した液である「減圧乾留液」を取得している。
【0008】
−6−
その段落0039以降には、先に述べた種々の植物を原料として用いたときの「常圧および減圧蒸留液」の収量、それらの「常圧および減圧蒸留液」の阻害率(ペントシジン生成阻害率)、切断率(AGE−タンパク質架橋形成物モデル切断活性)などについての実施例が示されている。
【0009】
−7−
その実施例の個所:表1には茶の常圧蒸留液および減圧蒸留液の収量、表2には茶の常圧蒸留液および減圧蒸留液の阻害率(ペントシジン生成阻害率)、表3には茶の減圧蒸留液の阻害率(ペントシジン生成阻害率)、表4には茶の減圧乾留液の収量、表5には茶の減圧乾留液の阻害率、表6には表2と表5における茶の阻害率の比較が示されている。表8には、参考例として、茶の減圧乾留液の阻害率が示されている。
【0010】
−8−
ところで、この特許文献1における「常圧蒸留液」(その段落0038を参照)とは、裁断した原料植物200gを容器に入れ、精製水400gを加えてから、常圧下に「220℃」にて4時間加熱することにより常圧蒸留を行って、蒸留液を得る方法である。水を加えたのは、水蒸気蒸留を行うためである。
「減圧乾留液」(その段落0038を参照)とは、上記の常圧蒸留において、容器内に残った液を常圧下に加熱して留出する水分に富む液を廃棄し、そのように減水を行った容器内の液につき、25〜30mmHgの減圧条件下に300℃にて4時間加熱する減圧乾留操作を行ったときに「留出する液」のことである。
【0011】
−9−
上記のように、特許文献1においては、減圧乾留時に乾留装置内に残る残渣(つまり「缶残」)については、何の関心も払われておらず、説明もない。そのような缶残は、通常の蒸留の場合と同じく、廃棄物として処理されるわけである。
【0012】
(特許文献2)
−1−
本出願人の出願にかかる特開2011−006623(特許第5437709号)(特許文献2)の請求項1には、ヨモギを260〜350℃、100mmHg以下の減圧条件下で乾留して得られた乾留液を含有する抗酸化剤が示されている。
念のため述べると、この特許文献2における減圧乾留は、「260〜350℃という高温での減圧乾留」にかかるものである。また、この文献1における「乾留液」とは、その「高温減圧乾留時」に「塔頂から留出する留出液」のことである。
【0013】
−2−
この特許文献2の表1および表2には、実施例1として、「ヨモギ」を「300℃、25mmHg」という高温での減圧乾留を行った乾留液の抗酸化能が「1003nmol α−トコフェロール相当量/アッセイ」であることが示されている。
なお、その段落0021の表2およびその段落0022には、「ヨモギを220℃で乾留したときには、抗酸化能が15nmol α−トコフェロール相当量/アッセイとなったこと、原料として同じヨモギを用いた場合でも、乾留温度の違いにより抗酸化能が格段に異なることが分かった。」との説明がなされている。
【0014】
−3−
この特許文献2の表1には、比較例1として、上記のヨモギの場合と同じ条件(300℃、100mmHg以下の減圧条件)で、「茶」を用いたときの抗酸化能が「301nmol α−トコフェロール相当量/アッセイ」であることが示されている。
茶を高温で減圧乾留したときの留出液の抗酸化能は、ヨモギの場合の3割にしかならないのである。
また、特許文献2の表1によれば、比較例2〜15の各種の植物にあっても、ヨモギに比しては抗酸化能がかなり低いことがわかる。
【0015】
−4−
特許文献2に記載の発明は、上述のように「高温」減圧乾留時に「塔頂から留出する留出液」にかかるものである。
また、特許文献2においては、上述の特許文献1におけると同様に、減圧乾留時に乾留装置内に残る「残渣(つまり「缶残」)」については、何の関心も払われていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0016】
【特許文献1】特開2014−205658
【特許文献2】特開2011−006623
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0017】
−1−(特許文献1について)
特許文献1においては、その請求項1に「植物原料を減圧条件下に乾留して得られる減圧乾留物を有効成分とすることを特徴とするメイラード反応抑制剤。」とあるように、「減圧乾留装置の塔頂から留出する留出液」につき記載があるものの、その減圧乾留時に塔内の底部に残存する残渣(缶残)については何の関心も払われていない。
【0018】
−2−(特許文献2について)
特許文献2に記載の発明は、「高温」減圧乾留時に「塔頂から留出する留出液」にかかるものであるにとどまる。
特許文献1と同様に、特許文献2においても、その減圧乾留時に塔内の底部に残存する残渣(缶残)については何の関心も払われていない。
【0019】
−3−(特許文献1、2との基本的な相違点)
これらの特許文献1、2に記載の発明は、作用効果の優劣について比較対照するまでもなく、本願発明とは着眼点や技術思想が根本的に相違しているのである。
【課題を解決するための手段】
【0020】
本発明の抗酸化活性を有する機能剤は、
減圧機構を備えた乾留装置を用いて含水状態にある植物原料を低温かつ減圧条件下に乾留したときに留出する成分を「低温減圧乾留留出分(D)」としかつその低温減圧乾留操作後にその乾留装置内に残る乾燥状態の粉末ないしフレーク状の缶残を「低温減圧乾留残渣(R)」と称するとき、
前記の植物原料がツバキ科植物の葉部であること、および、
そのツバキ科植物の葉部の低温減圧乾留残渣(R)を溶媒により抽出したときの抽出分(E)を有効成分とするものであること、
を特徴とするものである。
【発明の効果】
【0021】
(着想の特異性と作用効果について)
−1−
特許文献1のように、原料植物中の着目成分(「f」とする)は、蒸留により塔頂から留出する留分(留出液)に含まれるとするのが技術上の通念であり、乾留装置内に残る固体状の残渣(缶残)は、本来は廃棄物として処理されるべきものである。
【0022】
−2−
蒸留操作により留出液中に移行するはずの着目成分fの一部が残渣(缶残)側に若干は残るおそれがあるので、その着目成分fを残渣側から少しでも回収しようとすることは考えられるが、残渣から回収した着目成分fは純度が劣りかつ不純物や着色物が入り込むおそれがあるので、人体に適用する使い方が想定されるケースにおいては、そのような回収はしないのが通常である。
たとえ回収するときでも、その回収物につき精製処理を施すことが必要となるため、かえってコスト的に割高になってしまうのである。
【0023】
−3−
本出願人は、以前より茶葉を「高温で減圧乾留」したときの留出物を商品化しているが(消臭性を必要とする広範な用途に「フレッシュシライマツ」の登録商標で販売)、その高温減圧乾留を行ったときの残渣(缶残)は原料葉がそのまま炭化した状態のものであることから、廃棄処分するほかはなかった。というより、その破棄処分にも苦慮するほどであった。
【0024】
−4−
さて、茶葉を「低温かつ減圧条件下に乾留」したときには、その塔頂からの留出液を製品として利用することを狙っていたわけであるが、本発明者らは、突然、「その低温減圧乾留を行ったときの残渣(缶残)は利用できるかも知れない」との予感を抱いた。研究にたずさわる者の直感である。
そこで、「考えるよりも試みよ」、「成功率がゼロであっても、そのことを確認できるだけでも意味がある(収穫がある)」ということで、その「残渣(缶残)そのもの」および「その残渣の溶媒による抽出分」につき検討を行い、後者の場合にはその溶媒についても種々検討したところ、低温減圧乾留時の「塔頂からの留出物」よりも「抗酸化活性」の点でむしろすぐれた結果が得られること(というより、格段にすぐれた結果が得られること)が判明した。
【0025】
−5−
後述の実施例のように、「抗酸化活性」に関しては、低温減圧乾留の留出液の活性は事実上ゼロかゼロに近いものであるのに対し、上記の「低温減圧乾留残渣の溶媒による抽出分」はかなり高く、特に溶媒として50体積%のエタノール水を用いたときの上記の残渣(缶残)の抽出分は、後述の実施例のように、極めて高い「抗酸化活性」を示したのである。
加えて、抗酸化活性のほか、メイラード反応抑制活性(ペントシジン生成阻害)、AGE−タンパク質架橋形成物モデル切断活性、チロシナーゼ阻害活性についても、低温減圧乾留を行ったときの残渣(缶残)やその溶媒による抽出分は、好ましい結果を示すことが多いという知見が得られた。
【発明を実施するための形態】
【0026】
(植物原料)
−1−
本発明においては、植物原料としてツバキ科植物の葉部を用いる。ツバキ科植物の葉部を用いたときに、本発明の目的に沿う有効成分を含む目的物が得られるからである。ただし、葉部以外の他の部位(茎部など)が多少混在していても、特に支障とはならない。
−2−
ツバキ科植物としては、茶、ツバキ、モッコク、サザンカ、サカキ、ヒサカキ、ヤブツバキ、ナツツバキ、ヒメシャラなどがあげられる。
これらの中では作用効果(抗酸化活性)の点で特に茶が重要であり、一番茶、二番茶、三番茶、四番茶のいずれもが好適に用いられる。四番茶であっても好適に用いることができるので、原料の入手量、原料の入手期間、原料の入手コストの点でも有利である。
なお、茶種については、普通煎茶、玉露茶・碾茶、玉緑茶、紅茶などがあり、かつそれぞれの茶種に属する品種数も相応の数があるが、本発明の目的にはこれらの茶種および品種のいずれもが用いられる。たとえば、品種の一例は普通煎茶に主に用いられる「やぶきた」であり、品種の他の一例は紅茶や半発酵茶に主に用いられる「べにふうき」である。
製茶工程において副生する粉状の部分、茶製品の流通過程において商品化されなかったものや回収されたものなども使用可能である。
ツバキも、茶ほどではないが、好ましい結果を示すので(後述の実施例を参照)、有用である。
【0027】
(低温減圧乾留時の水分率の条件)
本発明においては、減圧機構を備えた乾留装置を用いて含水状態にあるツバキ科植物の葉部を低温かつ減圧条件下に乾留する。ただし、水分率が余りに高いときは乾留に長時間を要し、工業性を欠くことになるので、水分率は90重量%程度以下、特に70〜80重量%程度にとどめることが望ましい。ちなみに、生茶葉の水分率は、たとえば70〜80重量%程度であることが多く、放置により水分率が漸減していく。
【0028】
(低温減圧乾留時の温度条件と圧力条件)
−1−
低温減圧乾留を行うときの温度条件としては、60〜20℃の範囲内の低温が適当であり、より好ましい範囲は55〜25℃、さらに好ましい範囲は50〜30℃である。
温度条件が60℃を越えるような条件で減圧乾留を行うと、乾留装置内に残る粉末ないしフレーク状の残渣を溶媒で抽出しても、その抽出分(E)中の有効成分の量が少なくなる上、取得した抽出分(E)を用いたときの抗酸化機能やその他の機能(メイラード反応抑制機能など)が不足するようになる傾向がある。
−2−
低温減圧乾留を行うときの圧力条件(減圧条件)としては、ゲージ圧表記で、−88kPa以下(−660mmHg以下)、通常は−96〜−100kPa(−720〜−750mmHg)とすることが好ましい。
絶対圧表記では、13.3kPa以下(100mmHg以下)、通常は1.3〜5.3kPa(10〜40mmHg)とすることが好ましい。
減圧の度合いが上記範囲よりも緩くなると(減圧度が不足すると)乾留に長時間を要することになり、一方、減圧の度合いを余りに大きくすることは真空装置上の制約があるので、いずれも工業性を欠くことになる。
−3−
上述のような条件下での低温減圧乾留により、所期の目的物を工業的に効率良く取得できる。
【0029】
(低温減圧乾留残渣(R)、その残渣からの抽出分(E))
−1−
上記のようにして低温減圧乾留を行ったときに、その低温減圧乾留操作後に乾留装置内に残る乾燥粒子状の缶残が「低温減圧乾留残渣(R)」であるが、その残渣からの溶媒による「抽出分(E)」が、本発明の目的物である。
【0030】
−2−
ここで溶媒としては種々の溶媒が使用できるが、人体に適用する機能剤を得ることについても考慮すると、水、エタノール、または水とエタノールとの混合物が好適である。特に、エタノールの重量割合が20〜80体積%(なかんずく30〜70体積%)である水とエタノールとの混合溶媒(つまり「エタノール水」)が最適である。
【0031】
−3−
前者の「低温減圧乾留残渣(R)」はそれ自体が製品となるが、その製品の購入業者はその残渣(R)を用いて溶媒による抽出を行って抽出分(E)となし、その抽出分(E)を自ら使用して二次製品や三次製品を製造・販売したり、その抽出分(E)をさらに第三者に販売したりすることもできる。
【0032】
−4−
後者の「低温減圧乾留残渣(R)からの溶媒による抽出分(E)」は、抗酸化活性がすぐれているのみならず、メイラード反応抑制活性(ペントシジン生成阻害活性)、AGE−タンパク質架橋形成モデル切断活性、チロシナーゼ阻害活性の点でも好ましい活性を示すので、これらの活性(機能)を併せ有する機能剤としても、極めて有用である。
【0033】
(低温減圧乾留留出液(D))
なお、上記の低温減圧乾留時の留出液(低温減圧乾留留出液(D))は、本発明の目的物ではないが、抗菌成分や香気成分を含むので他の用途に使用することができ、無駄にはならないという利点もある。
【実施例】
【0034】
次に、実施例と参考例をあげて本発明をさらに説明する。
【0035】
(植物原料の準備)
−1−
植物原料として、普通煎茶に主に用いられる四番茶の「やぶきた」の生茶葉(生茶葉A)を準備した。生茶葉として四番茶を用いたのは、今回の試験開始時(9月)には四番茶しか入手できなかったからである。(もし四番茶で良好な結果が得られるときは、一番茶、二番茶、三番茶を用いたときには、四番茶を用いた場合との対比で、少なくとも同等か、それ以上の好ましい結果が得られるであろうことが期待できる。)
また、その後の実験においては、植物原料として、紅茶や半発酵茶に主に用いられる「べにふうき」の生茶葉(生茶葉B)を用いた。
準備したこれらの生茶葉A、Bは、文字通り全葉の形状をしており、その水分率はそれぞれ74.7%と75.0%であった。この生茶葉を、後述の低温減圧乾留に供した。(ちなみに、この生茶葉を乾燥すると細かな破砕片状となり、その破砕片をコーヒーミルで粉砕すると微粉状となる。)
−2−
また、対比のための植物原料として、青ミカン(果実の搾り滓、水分率は80重量%程度)、青ジソ(葉部)、ツバキ(葉部)、イヨカン(果実の搾り滓)、レモン(果実の搾り滓)、ゴーヤ(果実)を準備した。これらの植物原料の水分率は、いずれも60〜95重量%の範囲内にあった。
【0036】
(低温減圧乾留操作)
減圧機構を備えた槽状の乾留装置の槽内に、上記において準備した含水状態の植物原料(生の植物原料)を投入し、攪拌下、低温(35〜40℃)かつ減圧(ゲージ圧で−98kPa(−735mmHg)、絶対圧では3.3kPa(25mmHg))条件下に乾留操作を行った。乾留時間は、原料の仕込み時間、槽内の残渣の取り出しに要する時間、減圧に要する時間と常圧に戻す時間を除いて、おおよそ8時間であった。
これらの低温減圧乾留操作は、同じ減圧乾留装置(全体の高さが1.5メートル程度の実験装置)を用いて行った。
【0037】
(低温減圧乾留により得られた「残渣(缶残)(R)」と「その残渣(缶残)(R)の各種溶媒による抽出分(E)」)
−1−
上記の「生茶葉A、B、青ミカン、青ジソ、ツバキ、イヨカン、レモン、ゴーヤ」の8種のそれぞれを低温減圧乾留したときの「残渣(缶残)(R)」の性状は、いずれも乾燥粉末状(粉末またはフレーク状)であった。
−2−
得られた8種の「乾燥粉末状(粉末またはフレーク状)の残渣(缶残)(R)」については、それぞれの5.0gを秤量し、下記の抽出溶媒を50mL加えてから室温下に4時間撹拌することにより抽出を行った。
・抽出溶媒1:エタノール
・抽出溶媒2:50体積%エタノール水(以下「50%エタノール水」と略称)
・抽出溶媒3:水
これにより、上記の8種の「乾燥粉末状(粉末またはフレーク状)の残渣(缶残)(R)」のそれぞれについて抽出溶媒1、2、3のそれぞれにより抽出を行ったときの「抽出分(E)」24種(8種×3種=24種)を得た。
【0038】
−3−
(低温減圧乾留により得られた「留出液(D)」)
なお、上記の8種の植物原料のそれぞれについて低温減圧乾留操作を行ったときに「塔頂より留出する8種の留出液(D)」についても回収して、抗酸化活性などの各種活性に関する上記−2−の「抽出分(E)」との対比に供した。
【0039】
(測定項目)
測定項目は次の通りである。
(その1)抗酸化活性
(その2)メイラード反応抑制活性(ペントシジン生成阻害)
(その3)AGE−タンパク質架橋形成物モデル切断活性
(その4)チロシナーゼ阻害活性(美白)
【0040】
(その1)抗酸化活性
(1)方法
(1−1)400μM DPPH(1,1−diphenyl−2−picrylhydrazyl)エタノール溶液の調製
DPPH 3.94mgを秤量し、エタノール25mLに攪拌溶解する。
【0041】
(1−2)検量線の作成
ア:400μM DPPHエタノール溶液をエタノールで3倍に希釈し、その希釈液0.9mLを試験管に分注する。
イ:希釈液の入った試験管にエタノール300,250,200,150,100μLをn=2で添加する。
ウ:0.2mM α−トコフェロールエタノール溶液(8.6mg→エタノール100mL)をイで加えたエタノールと0.2mM α−トコフェロールエタノール溶液の合計が300μLになるよう試験管(n=2)に添加し、攪拌する。このとき、α−トコフェロールの量は0,10,20,30,40nmol/アッセイとなる。
エ:添加20分後に516nmで吸光度を測定する。
オ:横軸にα−トコフェロール量(nmol/アッセイ)、縦軸に吸光度をプロットし、最小二乗法により、検量線を作成する。
【0042】
(1−3)試験液の測定
ア:DPPH希釈液0.9mLを試験管に分注し、それにエタノール250μLを添加する。
イ:試験液50μLを試験管(n=2)に添加し、攪拌する。
ウ:添加20分後に516nmで吸光度を測定する。
エ:得られた吸光度より、検量線を用いてα−トコフェロール相当量を算出する。
【0043】
(その2)メイラード反応抑制活性(ペントシジン生成阻害)
−1−
以下の表に示す組成の反応液を1.5mL容量のプラスチックチューブに調製し、60℃、24時間の条件にてヒートブロック上でインキュベートした。
【0044】
(表1)

反応液組成 添加量
50mM リボース 100μL
50mM リジン 100μL
50mM アルギニン 100μL
100mM Na2HPO4(pH7.4) 100μL
試料溶液 or Blank 100μL
【0045】
−2−
反応終了後、反応液100μLに400μLの精製水を加え、その希釈液をHPLC分析することにより得られるペントシジンのピーク面積を測定し、阻害率を求めた。
また、アミノグアニジン塩酸塩の10mM液を陽性コントロールとした。
【0046】
・HPLC分析条件
カラム: YMC−Pack ODS A−312
150×6mmI.D.
溶出液: 3% CH3CN/0.1% TFA
流量: 1.0mL/min
カラム温度 40℃
検出器: 分光蛍光検出器 EX335nm、EM380nm
注入量: 20μL
保持時間:約12分
【0047】
・阻害率
下記の式により阻害率を求めた。
阻害率(%)=100−[(試料溶液のペントシジンのピーク面積/ブランクのペントシジンのピーク面積)×100]
【0048】
(その3)AGE−タンパク質架橋形成物モデル切断活性
−1−
S.Vasanらの方法(Nature,Vol.382,p275−278,1966)に従って、AGE−タンパク質架橋形成物モデルの切断活性を測定した。
すなわち、下記の表2に示す組成の反応液を1.5mL容量のプラスチックチューブに調製し、37℃、4時間振盪した。
−2−
反応終了後、2N HCl 200μmを加えて攪拌し、反応を停止した。
その液を0.2μmのフィルターで濾過し、HPLC分析試料溶液とした。
【0049】
(表2)

反応液組成 添加量
500mM Na2HPO4(pH7.4) 800μL
100mM 1−フェニル−1,2−プロパンジオン 100μL
試 料 溶 液 100μL
【0050】
−1−
・HPLC分析条件
カラム: YMC−Pack ODS A−312
150×6mmI.D.
溶出液: 40% MeOH/0.1% TFA
流量: 1.0mL/min
カラム温度: 40℃
検出器: UV波長 273nm
注入量: 20μL
保持時間:約12分
−2−
・切断率の求め方
切断率は、全ての1−フェニル−1,2−プロパンジオンが切断された場合は10mMの安息香酸が遊離すると仮定できるので、以下の式に従って算出した。
切断率(%)=(各分析試料から発生する安息香酸のピーク面積/10mM安息香酸のピーク面積)×100
【0051】
(その4)チロシナーゼ阻害活性
−1−
ア.30mM リン酸緩衝液(pH6.8) 1.8mL、
1.66mM L−チロシン溶液 1.0mL、
各試料溶液 0.1mL
を混合し、37℃の恒温槽中で5分間予備加温を行った。
−2−
イ.チロシナーゼ溶液0.1mLを添加後、攪拌し、再度37℃の恒温槽中で10分間加温した。
−3−
ウ.1M アジ化ナトリウム0.1mLを加え、475nmでの吸光度を測定し、チロシナーゼ活性阻害率(%)を算出した。なお、3mM アルブチン溶液を陽性コントロールとした。
【0052】
(各測定項目と結果について)

上記の測定項目についての結果を下記の表3〜5に示す。
表3:抗酸化活性
表4:メイラード反応抑制活性(ペントシジン生成阻害)
表5:AGE−タンパク質架橋形成物モデル切断活性
表6:チロシナーゼ阻害活性
【0053】
(表3)

(1)抗酸化活性

抗酸化活性(n mole α−トコフェロール相当量/アッセイ)
植物名 乾留残渣(缶残)の溶媒による抽出分(E) 留出液(D)
エタノール 50%エタノール水 水
青ミカン 20 133 121 0
青ジソ 37 41 6 0
ツバキ 1028 1856 42 0
イヨカン 8 106 94 0
レモン 34 230 194 0
ゴーヤ 6 53 77 2
生茶葉A 1210 3990 1290 0
生茶葉B 3180 5930 2190 1

(注)抽出分E:低温減圧乾留残渣(缶残)の溶媒による抽出分
(注)留出液D:低温減圧乾留時における塔頂からの留出液のこと
(注)生茶葉Aは「やぶきた」の葉部、生茶葉Bは「べにふうき」の葉部
【0054】
−1−
上記の表3に関連して付言するに、生茶葉Bの乾留残渣(缶残)の50%エタノール水による抽出分(E)の抗酸化活性は「5930 n mole α−トコフェロール相当量/アッセイ」である。
この数値は、本出願の明細書の段落0012〜0015の個所で述べた特許文献2における「高温減圧条件下に乾留して得られたヨモギの抗酸化能(1003 n mole α−トコフェロール相当量/アッセイ)や茶の抗酸化能(301 n mole α−トコフェロール相当量/アッセイ)」と対比すると、驚異的とも言える極めて強い抗酸化活性である。
この特許文献2の出願人は本願と同じであり、発明者も一部共通しているが、本願により、特許文献2の出願のチャンピオン・データを自らが一挙に塗り替えたのである。
−2−
さらに付言するに、上記の表3において用いている生茶葉B乾燥粉末は、低温減圧乾留時の缶残(乾燥状態にある粉末またはフレーク状の残渣)であって、低温減圧乾留時に塔頂側から留出する留出物ではない。そのような缶残を用いているにもかかわらず、上記の表3のように、その缶残の50%エタノール水抽出液の抗酸化活性は「5930 n mole α−トコフェロール相当量/アッセイ」であったのである。
【0055】
(表4)

(2)メイラード反応抑制活性(ペントシジン生成阻害)

阻 害 率(%)
植物名 乾燥粉末(缶残)の抽出液 留出液(D)
エタノール 50%エタノール水 水
青ミカン 24 64 92 91
青ジソ 12 89 89 85
ツバキ 97 99 93 67
イヨカン 7 83 93 86
レモン 32 49 83 92
ゴーヤ 0 0 51 93
生茶葉A 97 100 99 93
生茶葉B 99 100 99 60

(注)陽性コントロールの10mMアミノグアニジン塩酸塩の阻害率は、青ミカン、青
ジソ、ツバキ、イヨカン、生茶葉Aのアッセイのときは41%、ゴーヤのアッセイのと
きは52%、生茶葉Bのアッセイのときは45%であった。
(注)生茶葉Aは「やぶきた」の葉部、生茶葉Bは「べにふうき」の葉部
【0056】
(表5)

(3)AGE−タンパク質架橋形成物モデル切断活性

切 断 率(%)
植物名 乾燥粉末(缶残)の抽出液 留出液(D)
エタノール 50%エタノール水 水
青ミカン 3 4 4 7
青ジソ 3 4 4 2
ツバキ 7 8 6 2
イヨカン 4 5 5 2
レモン 7 11 10 6
ゴーヤ 8 9 9 8
生茶葉A 10 32 15 2
生茶葉B 16 24 12 2

(注)陽性コントロールの10mM−PTBの切断率は、次の如くであった。
青ミカン、青ジソ、ツバキ、イヨカンのアッセイのとき:40%
レモンのアッセイのとき: 43%
ゴーヤのアッセイのとき: 46%
生茶葉Aのアッセイのとき:39%
生茶葉Bのアッセイのとき:44%
(注)生茶葉Aは「やぶきた」の葉部、生茶葉Bは「べにふうき」の葉部

【0057】
(表6)

(4)チロシナーゼ阻害活性

阻 害 率(%)
植物名 乾燥粉末(缶残)の抽出液 留出液(D)
エタノール 50%エタノール水 水
青ミカン 3 3 0 2
青ジソ 0 1 0 0
ツバキ 0 0 0 2
イヨカン 0 0 0 0
レモン 0 0 0 0
ゴーヤ 0 1 3 0
生茶葉A 0 14 4 0
生茶葉B 3 18 0 0

(注)乾燥粉末抽出液については、10倍希釈液を用いて試験を行った。
(注)生茶葉Aは「やぶきた」の葉部、生茶葉Bは「べにふうき」の葉部
(注)陽性コントロールの3mM アルブチンの阻害率は、次の如くであった。
青ミカン、青ジソ、ツバキ、イヨカンのアッセイのとき:
・エタノール抽出液は20%
・50%エタノール水抽出液は17%
・水抽出液および留出液は18%
レモン、生茶葉Aのアッセイのとき:
・エタノール抽出液は18%
・50%エタノール水抽出液は19%
・水抽出液および留出液は20%
ゴーヤのアッセイのとき:
・エタノール抽出液は23%
・50%エタノール水抽出液は20%
・水抽出液および留出液は19%
生茶葉Bのアッセイのとき:
・エタノール抽出液および50%エタノール水抽出液は23%
・水抽出液および留出液は17%
【産業上の利用可能性】
【0058】
ツバキ科植物の葉部の低温減圧乾留残渣(R)からの溶媒による抽出分(E)を有効成分とする本発明の機能剤は、ずば抜けた抗酸化機能を有する上、メイラード反応抑制活性(ペントシジン生成阻害活性)、AGE−タンパク質架橋形成物モデル切断活性、チロシナーゼ阻害活性の点でも好ましい機能を有するので、食品、化粧品、医薬部外品などへの添加剤として有用である。