【実施例】
【0034】
次に、実施例と参考例をあげて本発明をさらに説明する。
【0035】
(植物原料の準備)
−1−
植物原料として、普通煎茶に主に用いられる四番茶の「やぶきた」の生茶葉(生茶葉A)を準備した。生茶葉として四番茶を用いたのは、今回の試験開始時(9月)には四番茶しか入手できなかったからである。(もし四番茶で良好な結果が得られるときは、一番茶、二番茶、三番茶を用いたときには、四番茶を用いた場合との対比で、少なくとも同等か、それ以上の好ましい結果が得られるであろうことが期待できる。)
また、その後の実験においては、植物原料として、紅茶や半発酵茶に主に用いられる「べにふうき」の生茶葉(生茶葉B)を用いた。
準備したこれらの生茶葉A、Bは、文字通り全葉の形状をしており、その水分率はそれぞれ74.7%と75.0%であった。この生茶葉を、後述の低温減圧乾留に供した。(ちなみに、この生茶葉を乾燥すると細かな破砕片状となり、その破砕片をコーヒーミルで粉砕すると微粉状となる。)
−2−
また、対比のための植物原料として、青ミカン(果実の搾り滓、水分率は80重量%程度)、青ジソ(葉部)、ツバキ(葉部)、イヨカン(果実の搾り滓)、レモン(果実の搾り滓)、ゴーヤ(果実)を準備した。これらの植物原料の水分率は、いずれも60〜95重量%の範囲内にあった。
【0036】
(低温減圧乾留操作)
減圧機構を備えた槽状の乾留装置の槽内に、上記において準備した含水状態の植物原料(生の植物原料)を投入し、攪拌下、低温(35〜40℃)かつ減圧(ゲージ圧で−98kPa(−735mmHg)、絶対圧では3.3kPa(25mmHg))条件下に乾留操作を行った。乾留時間は、原料の仕込み時間、槽内の残渣の取り出しに要する時間、減圧に要する時間と常圧に戻す時間を除いて、おおよそ8時間であった。
これらの低温減圧乾留操作は、同じ減圧乾留装置(全体の高さが1.5メートル程度の実験装置)を用いて行った。
【0037】
(低温減圧乾留により得られた「残渣(缶残)(R)」と「その残渣(缶残)(R)の各種溶媒による抽出分(E)」)
−1−
上記の「生茶葉A、B、青ミカン、青ジソ、ツバキ、イヨカン、レモン、ゴーヤ」の8種のそれぞれを低温減圧乾留したときの「残渣(缶残)(R)」の性状は、いずれも乾燥粉末状(粉末またはフレーク状)であった。
−2−
得られた8種の「乾燥粉末状(粉末またはフレーク状)の残渣(缶残)(R)」については、それぞれの5.0gを秤量し、下記の抽出溶媒を50mL加えてから室温下に4時間撹拌することにより抽出を行った。
・抽出溶媒1:エタノール
・抽出溶媒2:50体積%エタノール水(以下「50%エタノール水」と略称)
・抽出溶媒3:水
これにより、上記の8種の「乾燥粉末状(粉末またはフレーク状)の残渣(缶残)(R)」のそれぞれについて抽出溶媒1、2、3のそれぞれにより抽出を行ったときの「抽出分(E)」24種(8種×3種=24種)を得た。
【0038】
−3−
(低温減圧乾留により得られた「留出液(D)」)
なお、上記の8種の植物原料のそれぞれについて低温減圧乾留操作を行ったときに「塔頂より留出する8種の留出液(D)」についても回収して、抗酸化活性などの各種活性に関する上記−2−の「抽出分(E)」との対比に供した。
【0039】
(測定項目)
測定項目は次の通りである。
(その1)抗酸化活性
(その2)メイラード反応抑制活性(ペントシジン生成阻害)
(その3)AGE−タンパク質架橋形成物モデル切断活性
(その4)チロシナーゼ阻害活性(美白)
【0040】
(その1)抗酸化活性
(1)方法
(1−1)400μM DPPH(1,1−diphenyl−2−picrylhydrazyl)エタノール溶液の調製
DPPH 3.94mgを秤量し、エタノール25mLに攪拌溶解する。
【0041】
(1−2)検量線の作成
ア:400μM DPPHエタノール溶液をエタノールで3倍に希釈し、その希釈液0.9mLを試験管に分注する。
イ:希釈液の入った試験管にエタノール300,250,200,150,100μLをn=2で添加する。
ウ:0.2mM α−トコフェロールエタノール溶液(8.6mg→エタノール100mL)をイで加えたエタノールと0.2mM α−トコフェロールエタノール溶液の合計が300μLになるよう試験管(n=2)に添加し、攪拌する。このとき、α−トコフェロールの量は0,10,20,30,40nmol/アッセイとなる。
エ:添加20分後に516nmで吸光度を測定する。
オ:横軸にα−トコフェロール量(nmol/アッセイ)、縦軸に吸光度をプロットし、最小二乗法により、検量線を作成する。
【0042】
(1−3)試験液の測定
ア:DPPH希釈液0.9mLを試験管に分注し、それにエタノール250μLを添加する。
イ:試験液50μLを試験管(n=2)に添加し、攪拌する。
ウ:添加20分後に516nmで吸光度を測定する。
エ:得られた吸光度より、検量線を用いてα−トコフェロール相当量を算出する。
【0043】
(その2)メイラード反応抑制活性(ペントシジン生成阻害)
−1−
以下の表に示す組成の反応液を1.5mL容量のプラスチックチューブに調製し、60℃、24時間の条件にてヒートブロック上でインキュベートした。
【0044】
(表1)
反応液組成 添加量
50mM リボース 100μL
50mM リジン 100μL
50mM アルギニン 100μL
100mM Na2HPO4(pH7.4) 100μL
試料溶液 or Blank 100μL
【0045】
−2−
反応終了後、反応液100μLに400μLの精製水を加え、その希釈液をHPLC分析することにより得られるペントシジンのピーク面積を測定し、阻害率を求めた。
また、アミノグアニジン塩酸塩の10mM液を陽性コントロールとした。
【0046】
・HPLC分析条件
カラム: YMC−Pack ODS A−312
150×6mmI.D.
溶出液: 3% CH3CN/0.1% TFA
流量: 1.0mL/min
カラム温度 40℃
検出器: 分光蛍光検出器 EX335nm、EM380nm
注入量: 20μL
保持時間:約12分
【0047】
・阻害率
下記の式により阻害率を求めた。
阻害率(%)=100−[(試料溶液のペントシジンのピーク面積/ブランクのペントシジンのピーク面積)×100]
【0048】
(その3)AGE−タンパク質架橋形成物モデル切断活性
−1−
S.Vasanらの方法(Nature,Vol.382,p275−278,1966)に従って、AGE−タンパク質架橋形成物モデルの切断活性を測定した。
すなわち、下記の表2に示す組成の反応液を1.5mL容量のプラスチックチューブに調製し、37℃、4時間振盪した。
−2−
反応終了後、2N HCl 200μmを加えて攪拌し、反応を停止した。
その液を0.2μmのフィルターで濾過し、HPLC分析試料溶液とした。
【0049】
(表2)
反応液組成 添加量
500mM Na2HPO4(pH7.4) 800μL
100mM 1−フェニル−1,2−プロパンジオン 100μL
試 料 溶 液 100μL
【0050】
−1−
・HPLC分析条件
カラム: YMC−Pack ODS A−312
150×6mmI.D.
溶出液: 40% MeOH/0.1% TFA
流量: 1.0mL/min
カラム温度: 40℃
検出器: UV波長 273nm
注入量: 20μL
保持時間:約12分
−2−
・切断率の求め方
切断率は、全ての1−フェニル−1,2−プロパンジオンが切断された場合は10mMの安息香酸が遊離すると仮定できるので、以下の式に従って算出した。
切断率(%)=(各分析試料から発生する安息香酸のピーク面積/10mM安息香酸のピーク面積)×100
【0051】
(その4)チロシナーゼ阻害活性
−1−
ア.30mM リン酸緩衝液(pH6.8) 1.8mL、
1.66mM L−チロシン溶液 1.0mL、
各試料溶液 0.1mL
を混合し、37℃の恒温槽中で5分間予備加温を行った。
−2−
イ.チロシナーゼ溶液0.1mLを添加後、攪拌し、再度37℃の恒温槽中で10分間加温した。
−3−
ウ.1M アジ化ナトリウム0.1mLを加え、475nmでの吸光度を測定し、チロシナーゼ活性阻害率(%)を算出した。なお、3mM アルブチン溶液を陽性コントロールとした。
【0052】
(各測定項目と結果について)
上記の測定項目についての結果を下記の表3〜5に示す。
表3:抗酸化活性
表4:メイラード反応抑制活性(ペントシジン生成阻害)
表5:AGE−タンパク質架橋形成物モデル切断活性
表6:チロシナーゼ阻害活性
【0053】
(表3)
(1)抗酸化活性
抗酸化活性(n mole α−トコフェロール相当量/アッセイ)
植物名
乾留残渣(缶残)の溶媒による抽出分(E) 留出液(D)
エタノール 50%エタノール水 水
青ミカン 20 133 121 0
青ジソ 37 41 6 0
ツバキ 1028 1856 42 0
イヨカン 8 106 94 0
レモン 34 230 194 0
ゴーヤ 6 53 77 2
生茶葉A 1210 3990 1290 0
生茶葉B 3180 5930 2190 1
(注)抽出分E:低温減圧乾留残渣(缶残)の溶媒による抽出分
(注)留出液D:低温減圧乾留時における塔頂からの留出液のこと
(注)生茶葉Aは「やぶきた」の葉部、生茶葉Bは「べにふうき」の葉部
【0054】
−1−
上記の表3に関連して付言するに、生茶葉Bの乾留残渣(缶残)の50%エタノール水による抽出分(E)の抗酸化活性は「5930 n mole α−トコフェロール相当量/アッセイ」である。
この数値は、本出願の明細書の段落0012〜0015の個所で述べた特許文献2における「高温減圧条件下に乾留して得られたヨモギの抗酸化能(1003 n mole α−トコフェロール相当量/アッセイ)や茶の抗酸化能(301 n mole α−トコフェロール相当量/アッセイ)」と対比すると、驚異的とも言える極めて強い抗酸化活性である。
この特許文献2の出願人は本願と同じであり、発明者も一部共通しているが、本願により、特許文献2の出願のチャンピオン・データを自らが一挙に塗り替えたのである。
−2−
さらに付言するに、上記の表3において用いている生茶葉B乾燥粉末は、低温減圧乾留時の缶残(乾燥状態にある粉末またはフレーク状の残渣)であって、低温減圧乾留時に塔頂側から留出する留出物ではない。そのような缶残を用いているにもかかわらず、上記の表3のように、その缶残の50%エタノール水抽出液の抗酸化活性は「5930 n mole α−トコフェロール相当量/アッセイ」であったのである。
【0055】
(表4)
(2)メイラード反応抑制活性(ペントシジン生成阻害)
阻 害 率(%)
植物名
乾燥粉末(缶残)の抽出液 留出液(D)
エタノール 50%エタノール水 水
青ミカン 24 64 92 91
青ジソ 12 89 89 85
ツバキ 97 99 93 67
イヨカン 7 83 93 86
レモン 32 49 83 92
ゴーヤ 0 0 51 93
生茶葉A 97 100 99 93
生茶葉B 99 100 99 60
(注)陽性コントロールの10mMアミノグアニジン塩酸塩の阻害率は、青ミカン、青
ジソ、ツバキ、イヨカン、生茶葉Aのアッセイのときは41%、ゴーヤのアッセイのと
きは52%、生茶葉Bのアッセイのときは45%であった。
(注)生茶葉Aは「やぶきた」の葉部、生茶葉Bは「べにふうき」の葉部
【0056】
(表5)
(3)AGE−タンパク質架橋形成物モデル切断活性
切 断 率(%)
植物名
乾燥粉末(缶残)の抽出液 留出液(D)
エタノール 50%エタノール水 水
青ミカン 3 4 4 7
青ジソ 3 4 4 2
ツバキ 7 8 6 2
イヨカン 4 5 5 2
レモン 7 11 10 6
ゴーヤ 8 9 9 8
生茶葉A 10 32 15 2
生茶葉B 16 24 12 2
(注)陽性コントロールの10mM−PTBの切断率は、次の如くであった。
青ミカン、青ジソ、ツバキ、イヨカンのアッセイのとき:40%
レモンのアッセイのとき: 43%
ゴーヤのアッセイのとき: 46%
生茶葉Aのアッセイのとき:39%
生茶葉Bのアッセイのとき:44%
(注)生茶葉Aは「やぶきた」の葉部、生茶葉Bは「べにふうき」の葉部
【0057】
(表6)
(4)チロシナーゼ阻害活性
阻 害 率(%)
植物名
乾燥粉末(缶残)の抽出液 留出液(D)
エタノール 50%エタノール水 水
青ミカン 3 3 0 2
青ジソ 0 1 0 0
ツバキ 0 0 0 2
イヨカン 0 0 0 0
レモン 0 0 0 0
ゴーヤ 0 1 3 0
生茶葉A 0 14 4 0
生茶葉B 3 18 0 0
(注)乾燥粉末抽出液については、10倍希釈液を用いて試験を行った。
(注)生茶葉Aは「やぶきた」の葉部、生茶葉Bは「べにふうき」の葉部
(注)陽性コントロールの3mM アルブチンの阻害率は、次の如くであった。
青ミカン、青ジソ、ツバキ、イヨカンのアッセイのとき:
・エタノール抽出液は20%
・50%エタノール水抽出液は17%
・水抽出液および留出液は18%
レモン、生茶葉Aのアッセイのとき:
・エタノール抽出液は18%
・50%エタノール水抽出液は19%
・水抽出液および留出液は20%
ゴーヤのアッセイのとき:
・エタノール抽出液は23%
・50%エタノール水抽出液は20%
・水抽出液および留出液は19%
生茶葉Bのアッセイのとき:
・エタノール抽出液および50%エタノール水抽出液は23%
・水抽出液および留出液は17%