【0021】
有機溶剤は、塗布面において常温でも揮発するが、加熱・乾燥工程によって揮発が促進される。また、熱硬化性樹脂は、加熱・乾燥工程によって熱硬化する。このように有機溶剤が揮発することで、疎水性微粒子の凝集体(二次粒子)はバインダー(熱硬化性樹脂)によって、更に成長して三次粒子になる。そして、硬化した樹脂によってその三次粒子が物品表面に付着すると考えられる。図示すると、
図1のようになる。塗料の状態では、疎水性微粒子は、複数粒子の二次粒子として分散している。物品表面に塗布された直後の塗膜の状態を
図1(A)に示す。物品表面への塗布後、有機溶剤が揮発することで、疎水性微粒子は三次粒子に成長し、更にエポキシ樹脂の硬化に伴って、三次粒子が物品表面に固定されると考えられる。その結果、物品表面には、ちょうど自然界における蓮の葉の表面凹凸構造に類似した、疎水性微粒子の三次粒子による凹凸構造が形成される。
図1(B)に示すように、物品表面に三次粒子が配列した状態になっていると考えられる。また、物品表面の凸部(三次粒子)を拡大して見ると、1つの凸部の表面には、一次粒子(または二次粒子)からなるナノオーダーの構造体が形成されていると考えられる。凸部の表面においては、一次粒子(または二次粒子)の表面が完全に樹脂に覆われておらず、疎水性微粒子の表面の半分以上が露出しているものと考えられる。なお、硬化した樹脂は、三次粒子と物品表面とのバインダーとして機能していると考えられる。同時に、樹脂が一次粒子同士(または二次粒子と)のバインダーとして機能している。
【実施例1】
【0025】
以下、実施例に基づいて本発明についてさらに詳しく説明するが、本発明はこれら実施例の内容に限定されるものではない。
【0026】
<試験例1:撥水性試験>(疎水性シリカ+一液系加熱硬化エポキシフェノール樹脂)
エポキシ樹脂溶液(SK−2305:桜宮化学社製;一液系エポキシ樹脂,硬化剤:フェノール樹脂,溶媒:キシレン,エチルセロソルブ等)と平均粒径12nmの疎水化シリカ微粒子(アエロジルRY200:日本アエロジル社製)を撹拌混合し、疎水性シリカの添加量が0PHR、10PHR、20PHR、30PHR、40PHR、50PHRとなる撥水性塗料をそれぞれ作成した。これらを表1に記載された塗付量(5〜150mg/dm
2)となるように鋼板にそれぞれバーコート塗装し、200℃で10分間焼付して、試験片を作成した。
【0027】
それぞれの試験片について接触角と水転落角を測定し、撥水性の評価を行った。具体的には、試験片の塗膜表面に10μLの水滴を滴下し、接触角計CA−DT(協和界面科学社製)を用いて、水接触角及び水転落角をそれぞれ測定した。接触角が約150度以上であり、かつ、転落角が数度程度までである場合を、「超撥水性である」と評価し、接触角が約150度以上であり、かつ、転落角が数十度程度までである場合を、「超撥水性に準じる」と評価し、それ以外の場合を「超撥水性を示さない」と評価した。
【0028】
結果を表1に示す。30PHR未満では超撥水性を発現せず、30PHR以上の試験片で超撥水性が確認された。表1には記載していないが、150mg/dm
2以上の塗付量では、30PHRの添加量の塗料を用いれば、超撥水性を示した。ただし、塗付量を200mg/dm
2より多くしても、それ以上の撥水効果の向上が見られず、経済性の点から望ましくない。従って、疎水性シリカの塗付量は5〜200mg/dm
2が好ましく、より好ましくは15〜150mg/dm
2の範囲である。
【0029】
【表1】
【0030】
<試験例2:耐摩耗試験>
次に、試験片の耐摩耗試験を行った。ここでは、試験例1と同じ、エポキシ樹脂溶液および疎水化シリカ微粒子を用いて、表2に示すように、疎水性シリカの添加量が40PHR、60PHR、100PHR、200PHR、300PHRとなる撥水性塗料をそれぞれ作成した。そして、30mg/dm
2の塗付量で鋼板に塗布した後、200℃で10分間焼付して試験片をそれぞれ作成した。
【0031】
各試験片について、
図2に示すように、トライボギア表面測定機TYPE:38(新東科学社製)を用いて、試験片の塗膜と平面圧子の間にガーゼを挟み、平面圧子に10g/cm
2の荷重を負荷して塗膜を押圧する。この状態で、押圧部を200mm/minの速さで押圧面に平行に50mmの区間を所定回数だけ往復移動させた。そして、1往復毎に水接触角と水転落角を試験例1と同様に測定し、その撥水性の低下状態から耐摩耗性を評価した。
【0032】
結果を表2に示す。耐摩耗性については100PHRが最も良好であり、好ましい添加量は40〜200PHRであった。なお、添加量が300PHR以上では、塗液がペースト状になってしまって塗装性が悪化し、また、添加量を増やしたことでバインド力が低下したため、耐摩耗性がほとんど得られなかった。
【0033】
【表2】
【0034】
<試験例3:1回塗付量の調査>
次に、試験例1と同じ、エポキシ樹脂溶液および疎水化シリカ微粒子を用いて、表3に示すように、疎水性シリカの添加量が、0PHRから80PHRの範囲の各値となる撥水性塗料をそれぞれ作成した。そして、
図3に示すシートコーターを用いて塗料を鋼板にシートコート塗装し、1回の塗装で塗布できる塗付量、塗料の固形分(質量%)、および、塗料の粘度(秒)を調査した。なお、塗料の粘度として、オリフィス径が3ミリのザーンカップ(#3)から規定量の塗料が流出するまでの時間(秒)を測定した。
【0035】
ここで、疎水性シリカの添加量が多くなると、チキソトロピー性が高くなるため、塗装ムラを回避できるレベルまで、有機溶剤を増やした。表3に示す塗料の固形分(質量%)や粘度(秒)は、有機溶剤を増やした結果の値となっている。これに伴い、疎水性シリカの添加量の多い試験では、固形分が低下するため、1回の塗付量も少なくなる傾向になった。表中には示していないが、添加量を80PHRより大きくしても、1回の塗付量は約10mg/dm
2が頭打ちとなり、それ以上に良い数値は得られなかった。
【0036】
結果を表3に示す。1回の塗付量が少ないと、必要な塗膜厚を確保するために、複数回の塗装作業を繰り返す必要があるため、実用上は1回の塗布で20mg/dm
2以上の塗付量を確保することが好ましい。従って、塗装性の観点からは、疎水性シリカの添加量は50PHR以下とするのが好ましい。
【0037】
【表3】
【0038】
以上の試験例1〜3の結果より、疎水性シリカの添加量は、30〜200PHRが好ましい。さらに耐摩耗性の観点からは40〜100PHRが好ましく、さらに塗装性の観点を加味すると40〜50PHRとするのが最も好ましい。
【0039】
<試験4:18リットル缶の内容物の吐出実験>
次に、本発明の塗料を塗布した鋼板を製造し、これに加工を施して18リットル缶を製罐した。そして、18リットル缶に高粘度液状食品を充填して、その内容物を吐出する実験を行った。
【0040】
ベース塗料としてSK−2305を用い、疎水性シリカの添加量を40PHRとした撥水性塗料を作成した。これを50mg/dm
2の塗付量になるように鋼板に塗装し、200℃で10分間焼付けを行って、塗膜付き鋼板を製造し、この鋼板を用いて18リットル缶を作成した(撥水品と呼ぶ)。また、比較のため、疎水性シリカを添加しない塗料を鋼板に塗装し、その鋼板を用いて18リットル缶を作成した(通常品と呼ぶ)。
いずれの18リットル缶も、胴部、底部、吐出口を有する蓋部からなる角形状缶である。胴部は、所定面積に切断した塗装鋼板を、角筒状に折り曲げ加工し、筒部の軸方向に接合部を設けて形成する。この胴部に板状の底部および蓋部を接合することによって18リットル缶になる。蓋部には予め直径33mmの吐出口が設けられている。
【0041】
吐出実験では、それぞれの缶に高粘度シロップであるPO−20シロップ(三菱商事フードテック株式会社製:5℃の粘度11713mP・s)を20kg充填し、密封した。この缶を逆向きにして、垂直から吐出口側に15度傾けた状態で開栓し、10分間、30秒毎に吐出重量を測定した。
図4に缶の吐出状態を示す。
【0042】
結果を
図5に示す。撥水品では、約5分後に吐出重量が充填重量(20kg)にほぼ達し、約8分後には完全に塗出を終了した。これに対し、通常品では吐出が終了するまで10分以上の時間を要した。また、吐出が終了した後、缶内に残った内容物の重量を測定したところ、通常品で約400gであったのに対し、撥水品では30gであった。本発明の撥水性塗料を用いることにより、吐出時間の短縮および缶内の残液量の削減に大きな効果があることが分かった。
【0043】
また、本発明の塗膜を有した金属板を用いて形成された18リットル缶を試験対象にしていることから、本発明の塗膜には、耐摩耗性の他に、折り曲げ等の加工を金属板に施す際に必要な加工追従性も具備していることが分かった。