特許第6838977号(P6838977)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6838977モス型液化ガス貯蔵タンクの断熱構造、液化ガス運搬船及びモス型液化ガス貯蔵タンクの断熱構造の施工方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6838977
(24)【登録日】2021年2月16日
(45)【発行日】2021年3月3日
(54)【発明の名称】モス型液化ガス貯蔵タンクの断熱構造、液化ガス運搬船及びモス型液化ガス貯蔵タンクの断熱構造の施工方法
(51)【国際特許分類】
   F17C 3/04 20060101AFI20210222BHJP
   B63B 25/16 20060101ALI20210222BHJP
【FI】
   F17C3/04 E
   B63B25/16 F
   B63B25/16 Z
   B63B25/16 101
【請求項の数】7
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2017-12099(P2017-12099)
(22)【出願日】2017年1月26日
(65)【公開番号】特開2018-119626(P2018-119626A)
(43)【公開日】2018年8月2日
【審査請求日】2019年10月3日
(73)【特許権者】
【識別番号】000006208
【氏名又は名称】三菱重工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000785
【氏名又は名称】誠真IP特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】四方 健太郎
(72)【発明者】
【氏名】川水 努
(72)【発明者】
【氏名】岡藤 孝史
(72)【発明者】
【氏名】藤井 篤
【審査官】 杉田 剛謙
(56)【参考文献】
【文献】 実開昭61−113291(JP,U)
【文献】 特開昭63−130998(JP,A)
【文献】 特開昭62−194097(JP,A)
【文献】 特開平09−119599(JP,A)
【文献】 特開2014−066468(JP,A)
【文献】 特開2003−128182(JP,A)
【文献】 米国特許第4140073(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B63B 25/16
B65D 90/00−90/66
F17C 1/00−13/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
タンク外壁の表面を覆う保護カバーを備えるモス型液化ガス貯蔵タンクの断熱構造であって、
前記断熱構造は、
前記タンク外壁と前記保護カバーとの間に設けられ、前記タンク外壁及び前記保護カバーとの間に隙間を有して配置された少なくとも1枚の輻射熱反射板を備え
前記輻射熱反射板は、互いに並列に配置された複数の輻射熱反射板を含み、
前記複数の輻射熱反射板の各々の間に隙間が形成され、
前記断熱構造は、前記保護カバーの内側面から前記タンク外壁側へ突設された補強リブを備え、
前記輻射熱反射板は、前記補強リブに固定され、
前記補強リブは、前記保護カバーの内側面から前記タンク外壁側へ突出する補強リブ本体と、前記補強リブ本体の先端部から前記タンク外壁の表面に沿って延在する支持部とを含み、
前記輻射熱反射板は前記支持部と前記保護カバーとの間の形成される空間に配置され、かつ前記支持部に固定される
ことを特徴とするモス型液化ガス貯蔵タンクの断熱構造。
【請求項2】
前記断熱構造は、前記輻射熱反射板と前記支持部との間、又は前記複数の輻射熱反射板の間の各々に介装されるスペーサを備えることを特徴とする請求項1に記載のモス型液化ガス貯蔵タンクの断熱構造。
【請求項3】
タンク外壁の表面を覆う保護カバーを備えるモス型液化ガス貯蔵タンクの断熱構造であって、
前記断熱構造は、
前記タンク外壁と前記保護カバーとの間に設けられ、前記タンク外壁及び前記保護カバーとの間に隙間を有して配置された少なくとも1枚の輻射熱反射板を備え、
前記輻射熱反射板は、互いに並列に配置された複数の輻射熱反射板を含み、
前記複数の輻射熱反射板の各々の間に隙間が形成され、
前記複数の輻射熱反射板の間に形成される前記隙間は、対流発生限界以下の隙間である
ことを特徴とするモス型液化ガス貯蔵タンクの断熱構造。
【請求項4】
前記保護カバー又は前記輻射熱反射板に遮熱性被膜が形成されることを特徴とする請求項1乃至の何れか一項に記載のモス型液化ガス貯蔵タンクの断熱構造。
【請求項5】
請求項1乃至の何れか一項に記載のモス型液化ガス貯蔵タンクの断熱構造を備えるモス型液化ガス貯蔵タンクが設けられることを特徴とする液化ガス運搬船。
【請求項6】
タンク外壁の表面を覆う保護カバーを備えるモス型液化ガス貯蔵タンクの断熱構造の施工方法であって、
前記タンク外壁に取り付けられる前の前記保護カバーに対して、前記保護カバーの内側面との間に隙間を有して少なくとも1枚の輻射熱反射板を固定する輻射熱反射板固定ステップと、
前記輻射熱反射板が固定された前記保護カバーを前記タンク外壁に取り付けると共に、前記輻射熱反射板と前記タンク外壁との間に隙間を形成する保護カバー取付けステップと、
を備え
前記輻射熱反射板は、互いに並列に配置された複数の輻射熱反射板を含み、
前記複数の輻射熱反射板の各々の間に隙間が形成され、
前記断熱構造は、前記保護カバーの内側面から前記タンク外壁側へ突設された補強リブを備え、
前記輻射熱反射板は、前記補強リブに固定され、
前記補強リブは、前記保護カバーの内側面から前記タンク外壁側へ突出する補強リブ本体と、前記補強リブ本体の先端部から前記タンク外壁の表面に沿って延在する支持部とを含み、
前記輻射熱反射板は前記支持部と前記保護カバーとの間の形成される空間に配置され、かつ前記支持部に固定される
ことを特徴とするモス型液化ガス貯蔵タンクの断熱構造の施工方法。
【請求項7】
タンク外壁の表面を覆う保護カバーを備えるモス型液化ガス貯蔵タンクの断熱構造の施工方法であって、
前記タンク外壁に取り付けられる前の前記保護カバーに対して、前記保護カバーの内側面との間に隙間を有して少なくとも1枚の輻射熱反射板を固定する輻射熱反射板固定ステップと、
前記輻射熱反射板が固定された前記保護カバーを前記タンク外壁に取り付けると共に、前記輻射熱反射板と前記タンク外壁との間に隙間を形成する保護カバー取付けステップと、
を備え、
前記輻射熱反射板は、互いに並列に配置された複数の輻射熱反射板を含み、
前記複数の輻射熱反射板の各々の間に隙間が形成され、
前記複数の輻射熱反射板の間に形成される前記隙間は、対流発生限界以下の隙間である
ことを特徴とするモス型液化ガス貯蔵タンクの断熱構造の施工方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、モス型液化ガス貯蔵タンクの断熱構造、液化ガス運搬船及びモス型液化ガス貯蔵タンクの断熱構造の施工方法に関する。
【背景技術】
【0002】
LNG(液化天然ガス)やLPG(液化石油ガス)等の低温液化ガスを貯蔵するタンクは、タンクへの入熱量を抑制するため、タンク外壁に断熱材が被覆される。近年、ボイルオフガス(BOG)の発生率を減らすことが求められ、液化ガス貯蔵タンクの防熱性能の要求がさらに高まっている。しかし、液化ガス貯蔵タンクを搭載した液化ガス運搬船は、船体抵抗が増加するなどの理由により、船幅に制限があるため、断熱材の増厚による対策には限度がある。
【0003】
他方、球形のタンクを備えるモス型液化ガス貯蔵タンクの外壁を保護カバーで覆う保護手段が採用されている。保護カバーの表面には遮熱塗料などが塗布されるが、遮熱塗料だけでは太陽光などの輻射熱を完全に防いでBOGを低下させることはできない。
特許文献1には、モス型液化ガス貯蔵タンクにおいて、上記保護カバーとタンク外壁との間に断熱材を設けた防熱手段が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】実開昭61−113291号の明細書及び図面
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
保護カバーを備えるモス型液化ガス貯蔵タンクの場合、特許文献1に開示された断熱構造も含めて、保護カバーとタンク外壁との間に形成される空間で空気の対流が発生し、断熱効果を弱めるという問題がある。
特許文献1に開示された断熱構造は、保護カバーと断熱材との間にデッドスペースがあるため、このデッドスペースで空気の対流が発生しやすく、かつ断熱材の設置スペース分だけタンクが大型化する問題がある。
【0006】
少なくとも一実施形態は、保護カバーを備えるモス型液化ガス貯蔵タンクの断熱性能を向上させ、かつ貯蔵タンクの大型化を回避可能にすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
(1)少なくとも一実施形態に係るモス型液化ガス貯蔵タンクの断熱構造は、
タンク外壁の表面を覆う保護カバーを備えるモス型液化ガス貯蔵タンクの断熱構造であって、
前記断熱構造は、
前記タンク外壁と前記保護カバーとの間に設けられ、前記タンク外壁及び前記保護カバーとの間に隙間を有して配置された少なくとも1枚の輻射熱反射板を備える。
ここで、「輻射熱反射板」とは、太陽光などの輻射熱を反射する板状体を言う。
上記(1)の構成によれば、タンク外壁及び保護カバーとの間に隙間を有して配置された少なくとも1枚の輻射熱反射板を備えることで、太陽光などの輻射熱を抑制できるため、タンク内への入熱量を抑制できる。また、輻射熱反射板は断熱材と異なり板厚を必要とせず薄厚化できるため、圧縮荷重に対して自在に変形して圧縮荷重を吸収可能であると共に、設置スペースを多く取らないので、タンクの大型化を回避でき、かつタンク外壁と保護カバーとの間にデッドスペースが形成されるのを回避できる。
これによって、対流の発生を抑制できるため、対流の形成による断熱性能の低下を抑制できる。従って、BOGの発生率を低下できる。
【0008】
(2)一実施形態では、前記(1)の構成において、
前記輻射熱反射板は、互いに並列に配置された複数の輻射熱反射板を含み、
前記複数の輻射熱反射板の各々の間に隙間が形成される。
上記(2)の構成によれば、保護カバーとタンク外壁との間に、互いに並列に配置された複数の輻射熱反射板を設け、複数の輻射熱反射板の各々の間に隙間を形成することで、輻射熱の反射率を高めることができる。輻射熱反射板の枚数を多くするほど、反射率を高めタンク内への入熱を低減できる。即ち、輻射熱反射板の枚数をN枚とすると、各輻射熱反射板の反射率が同一であれば、タンクへの入熱量は、輻射熱反射板が設置されていない場合と比べて、1/(1+N)まで低減できる。
【0009】
(3)一実施形態では、前記(2)の構成において、
前記断熱構造は、前記保護カバーの内側面から前記タンク外壁側へ突設された補強リブを備え、
前記輻射熱反射板は、前記補強リブに固定される。
上記(3)の構成によれば、上記補強リブを備えることで、保護カバーの強度を増加できると共に、輻射熱反射板を補強リブに固定することで、輻射熱反射板の保護カバーへの取付けが容易になる。
【0010】
(4)一実施形態では、前記(3)の構成において、
前記補強リブは、前記保護カバーの内側面から前記タンク外壁側へ突出する補強リブ本体と、前記補強リブ本体の先端部から前記タンク外壁の表面に沿って延在する支持部とを含み、
前記輻射熱反射板は前記支持部と前記保護カバーとの間の形成される空間に配置され、かつ前記支持部に固定される。
上記(4)の構成によれば、輻射熱反射板は上記支持部と保護カバーとの間の形成される空間に配置されるため、保護カバーとタンク外壁との間に形成される空間にデッドスペースを生じない。従って、タンクの大型化を回避できると共に、上記空気の対流が形成されるのを抑制できるため、対流形成による断熱性能の低下を抑制できる。
【0011】
(5)一実施形態では、前記(4)の構成において、
前記断熱構造は、前記輻射熱反射板と前記支持部との間、又は前記複数の輻射熱反射板の間の各々に介装されるスペーサを備える。
上記(5)の構成によれば、上記スペーサを備えることで、輻射熱反射板と補強リブとの間又は輻射熱反射板同士の間で所望の隙間を形成でき、これによって、各輻射熱反射板は輻射熱反射効果を発揮できる。
【0012】
(6)一実施形態では、前記(2)〜(5)の何れかの構成において、
前記複数の輻射熱反射板の間に形成される前記隙間は、対流発生限界以下の隙間である。
上記(6)の構成によれば、複数の輻射熱反射板間に形成される隙間が対流発生限界以下の隙間であるため、保護カバーとタンク外壁との間の空間において空気の対流発生を効果的に抑制できる。これによって、対流の形成による断熱性能の低下を抑制できる。従って、BOGの発生率を低下できる。
【0013】
(7)一実施形態では、前記(1)〜(6)の何れかの構成において、
前記保護カバー又は前記輻射熱反射板に遮熱性被膜が形成される。
上記(7)の構成によれば、保護カバー又は輻射熱反射板に遮熱性被膜が形成されることで、タンク内への入熱量をさらに抑制できる。
【0014】
(8)少なくとも一実施形態に係る液化ガス運搬船は、
前記(1)〜(7)の何れかの構成を有するモス型液化ガス貯蔵タンクの断熱構造を備えるモス型液化ガス貯蔵タンクが設けられる。
上記(8)の構成によれば、上記液化ガス貯蔵タンクの断熱構造を備える液化ガス運搬船は、保護カバーとタンク外壁との間にこれらと隙間を有して上記輻射熱反射板を備えることで、液化ガス貯蔵タンク内への入熱を抑制できる。また、保護カバーとタンク外壁間のスペースの増加をまねかないので、容積や船幅が限られた液化ガス運搬船でも配置の自由度を広げることができる。また、液化ガス貯蔵タンクの重量増加を抑制できるため、液化ガス運搬船の運行性能の悪化を抑制できる。
【0015】
(9)少なくとも一実施形態に係るモス型液化ガス貯蔵タンクの断熱構造の施工方法は、
タンク外壁の表面を覆う保護カバーを備えるモス型液化ガス貯蔵タンクの断熱構造の施工方法であって、
前記タンク外壁に取り付けられる前の前記保護カバーに対して、前記保護カバーの内側面との間に隙間を有して少なくとも1枚の輻射熱反射板を固定する輻射熱反射板固定ステップと、
前記輻射熱反射板が固定された前記保護カバーを前記タンク外壁に取り付けると共に、前記輻射熱反射板と前記タンク外壁との間に隙間を形成する保護カバー取付けステップと、
を備える。
【0016】
上記(9)の方法によれば、上記輻射熱反射板固定ステップにおいて、前記タンク外壁に取り付けられる前の前記保護カバーに対して、前記保護カバーの内側面との間に隙間を有して少なくとも1枚の輻射熱反射板を固定するため、保護カバーへの輻射熱反射板の固定作業を地上の作業場で行うことができる。
これによって、輻射熱反射板の固定作業が容易になると共に、上記保護カバー取付けステップにおいて、輻射熱反射板がない保護カバーの取付けと同様の施工方法で、輻射熱反射板付き保護カバーをタンク外壁に取り付けることができる。従って、従来の液化ガス貯蔵タンクと比べて施工工数をほぼ同等に抑えることができる。
【0017】
こうして施工されたモス型液化ガス貯蔵タンクは、タンク外壁と保護カバーとの間に、これらに対して隙間を有して輻射熱反射板を備えることで、太陽光などの輻射熱を抑制でき、従って、タンク内への入熱量を抑制できる。また、輻射熱反射板は断熱材のように板厚を必要とせず薄厚化できるため、設置スペースを多く取らず、かつ圧縮荷重に対して自在に変形して吸収可能である。さらに、輻射熱反射板は薄厚化できるため設置スペースを多く取らないので、保護カバーとタンク外壁との間にデッドスペースが形成されるのを回避できる。また、デッドスペースをなくすことで、対流の発生を抑制でき、これによって、断熱性能の低下を抑制できる。従って、BOGの発生率を低下できる。
【発明の効果】
【0018】
少なくとも一実施形態によれば、保護カバーを備える液化ガス貯蔵タンクの断熱性能を向上でき、BOGの発生を低下できると共に、タンクの大型化を回避できる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】液化ガス運搬船に設けられた一実施形態に係る液化ガス貯蔵タンクの断熱構造の断面図である。
図2図1中のA部の拡大断面図である。
図3】液化ガス貯蔵タンク内に流入する熱流速の例を示す図表である。
図4】一実施形態に係る液化ガス貯蔵タンクの断熱構造の施工方法の工程図である。
図5】一実施形態に係る液化ガス貯蔵タンクの断熱構造の施工工程において、(A)は保護カバー取付け前を示す断面図であり、(B)は保護カバー取付け後を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、添付図面を参照して本発明の幾つかの実施形態について説明する。ただし、実施形態として記載されている又は図面に示されている構成部品の寸法、材質、形状、その相対的配置等は、本発明の範囲をこれに限定する趣旨ではなく、単なる説明例にすぎない。
例えば、「ある方向に」、「ある方向に沿って」、「平行」、「直交」、「中心」、「同心」或いは「同軸」等の相対的或いは絶対的な配置を表す表現は、厳密にそのような配置を表すのみならず、公差、若しくは、同じ機能が得られる程度の角度や距離をもって相対的に変位している状態も表すものとする。
また例えば、四角形状や円筒形状等の形状を表す表現は、幾何学的に厳密な意味での四角形状や円筒形状等の形状を表すのみならず、同じ効果が得られる範囲で、凹凸部や面取り部等を含む形状も表すものとする。
一方、一の構成要素を「備える」、「具える」、「具備する」、「含む」、又は、「有する」という表現は、他の構成要素の存在を除外する排他的な表現ではない。
【0021】
図1は、一実施形態に係るモス型液化ガス貯蔵タンク10の断熱構造11の断面図であり、図2は、図1中のA部の拡大断面図である。
図1に示すように、モス型液化ガス貯蔵タンク10は球形のタンクを備え、タンク外壁12の表面を覆う保護カバー14を備える。図2に示すように、断熱構造11は、タンク外壁12と保護カバー14との間に形成された空間に少なくとも1枚の輻射熱反射板16を備える。輻射熱反射板16とタンク外壁12及び保護カバー14との間に夫々隙間sが形成される。
【0022】
上記構成の断熱構造11によれば、タンク外壁12と保護カバー14との間に輻射熱反射板16を備え、輻射熱反射板16とタンク外壁12及び保護カバー14との間に夫々隙間sが形成されることで、太陽光Lsなどの輻射熱を抑制できるため、タンク内への入熱量を抑制できる。また、輻射熱反射板16は断熱材と異なり板厚を必要とせず薄厚化できるため、圧縮荷重に対して自在に変形して圧縮荷重を吸収可能であると共に、設置スペースを多く取らないので、タンクの大型化を回避でき、かつタンク外壁12と保護カバー14との間にデッドスペースが形成されるのを回避できる。
これによって、対流の発生を抑制できるため、対流の形成による断熱性能の低下を抑制できる。従って、BOGの発生率を低下できる。
【0023】
一実施形態では、タンク外壁12は多数枚のアルミ合金又は鋼板を溶接接合し、その全体形状をほぼ球状に形成され、タンク外壁12の内部に、例えば、LNGやLPG等の低温液化ガスが貯蔵される。
一実施形態では、保護カバー14は、全体形状が逆碗形に形成され、タンク外壁12を外側から覆うように配置される。
一実施形態では、図1に示すように、モス型液化ガス貯蔵タンク10は液化ガス運搬船18に設けられる。
【0024】
一実施形態では、図2に示すように、輻射熱反射板16は、互いに並列に配置された複数の輻射熱反射板16を含み、複数の輻射熱反射板16の各々の間に隙間sが形成される。
この実施形態によれば、複数の輻射熱反射板16を設け、複数の輻射熱反射板16の各々の間に隙間sを形成することで、太陽光Lsなどの輻射熱の反射率を高めることができる。輻射熱反射板16の枚数が多くなるほど、タンク内への入熱を低減できる。即ち、輻射熱反射板16の枚数をN枚とすると、各輻射熱反射板の反射率が同一であれば、タンクへの入熱は、輻射熱反射板16が設置されていない場合と比べて、1/(1+N)まで低減できる。
また、対流熱伝達率をαとすると(ここでは、αを一定値とする。)、対流による入熱量も、輻射熱反射板16が設置されていない場合と比べて、((2N+2)/α−1)/(2/α−1)まで低減できる。
以上から、タンク内への入熱量を大幅に抑制でき、BOGの発生率を大幅に低下できる。
【0025】
図3は、本発明者等が試算したタンク内への入熱する合計熱流束の一例を示す。図2から、輻射熱反射板16を1枚設けるだけで、タンク内の入熱量を20%程度減少できることがわかる。
【0026】
一実施形態では、図2に示すように、保護カバー14の内側面からタンク外壁12側へ突設された補強リブ20を備え、輻射熱反射板16は補強リブ20に固定される。
この実施形態によれば、補強リブ20を備えることで、保護カバー14の強度を増加できると共に、輻射熱反射板16を補強リブ20に固定することで、輻射熱反射板16の保護カバー14への取付けが容易になる。
【0027】
一実施形態では、図2に示すように、補強リブ20は、保護カバー14の内側面からタンク外壁12側へ突出する補強リブ本体22と、補強リブ本体22の先端からタンク外壁12の表面に沿って延在する支持部24とを含む。輻射熱反射板16は支持部24と保護カバー14との間の形成される空間に配置され、かつ支持部24に固定される。
この実施形態によれば、輻射熱反射板16は支持部24と保護カバー14との間に形成される空間に配置されるため、保護カバー14とタンク外壁12との間に形成される空間にデッドスペースを生じない。従って、タンクの大型化を回避できると共に、上記空間に空気の対流が形成されるのを抑制できるため、対流形成による上記空間の断熱性能の低下を抑制できる。
【0028】
一実施形態では、図2に示すように、補強リブ20の支持部24は保護カバー14とほぼ平行な方向へ延在する板状体を形成し、該板状体の中央に補強リブ本体22が固着されている。補強リブ20は補強リブ本体22と支持部24とで逆T字形の断面を有する。そして、複数の補強リブ20が保護カバー14の内側面にほぼ一定間隔を有して設けられ、複数の補強リブ20の間の各々において、複数の輻射熱反射板16は互いに隙間sを有して並列に配置され、これらの両端は、保護カバー14の内側面と支持部24とで形成される凹部に挿入され、ボルト26で支持部24に固定される。
上記構成によって、複数の輻射熱反射板16の両端は上記凹部に配置され、かつ支持部24によって支持される。
これによって、複数の輻射熱反射板16は、各補強リブ20の間であって保護カバー14とタンク外壁12との間に形成される空間にデッドスペースを生じず、かつタンクの大型化を回避でき、さらに、上記空間に空気の対流が形成されるのを抑制できるため、対流形成による上記空間の断熱性能の低下を抑制できる。
【0029】
一実施形態では、図2に示すように、複数の輻射熱反射板16の1つと補強リブ20との間又は複数の輻射熱反射板同士の間の各々にスペーサ28が介装される。
この実施形態によれば、複数のスペーサ28を備えることで、輻射熱反射板16と補強リブ20との間又は輻射熱反射板同士の間で所望の隙間を形成でき、これによって、各輻射熱反射板の輻射熱反射効果を維持できる。
【0030】
一実施形態では、図2に示すように、複数のスペーサ28が輻射熱反射板16と補強リブ20の支持部24との間又は輻射熱反射板同士の間に介装される。各スペーサ28は同一形状及び同一の大きさを有する板状体を有する。
これによって、輻射熱反射板16と支持部24との間隔及び輻射熱反射板同士の間隔をスペーサ28の大きさに応じた所望の間隔に保持できる。
一実施形態では、複数のスペーサ28を板状体に形成し、複数のスペーサ28の厚さを同一にすることで、輻射熱反射板16と支持部24との間に形成される隙間s、及び輻射熱反射板同士の間隔を同一間隔に保持できる。
これによって、複数の輻射熱反射板16を同一間隔で並列に整列させることができる。
【0031】
一実施形態では、図2に示すように、複数の輻射熱反射板16の間に形成される隙間は対流発生限界以下の隙間δである。
この実施形態によれば、複数の輻射熱反射板16間に形成される隙間が対流発生限界以下の隙間δであるため、タンク外壁12と保護カバー14との間の空間において空気の対流発生を効果的に抑制できる。これによって、タンク外壁12と保護カバー14との間の空間に存在する空気が熱伝導率0.02〜0.03W/mKの断熱材として防熱に寄与するため、タンク内の入熱量を低減でき、BOGの発生率を低下できる。
【0032】
対流発生限界以下の隙間δは以下の式で求めることができる。
レイリー数;Ra=Gr・Pr<657 (1)
グラスホフ数;Gr=g・β・ρ・ΔT・δ/η (2)
プラントル数;Pr=η・Cp/λ (3)
ここで、g;重力、ρ;密度、β;体膨張係数[1/K]、ΔT;輻射熱反射板と空気との温度差[K]、η;粘度、Cp;比熱、λ;熱伝導率。
実際に複数の輻射熱反射板16を互いに隙間sを設けて層状に配置すると、各輻射熱反射板16の表裏面側の空気温度差は小さくなるため、必要な隙間δは大きくなる。
【0033】
一実施形態では、保護カバー14又は輻射熱反射板16に遮熱性被膜が形成される。保護カバー14又は輻射熱反射板16に遮熱性被膜が形成されることで、保護カバー14又は輻射熱反射板16の表裏面の輻射熱を抑制でき、タンク内への入熱量を抑制できるため、BOGの発生率を低下できる。
遮熱性被膜として、例えば、遮熱塗料やアルミ製テープなどの反射材を保護カバー14又は輻射熱反射板16の表裏面に塗布又は施工する。
【0034】
一実施形態では、図1に示すように、上記幾つかの実施形態に係る断熱構造11を備えるモス型液化ガス貯蔵タンク10は液化ガス運搬船18に設けられる。
この実施形態によれば、断熱構造11を備える液化ガス運搬船18は、モス型液化ガス貯蔵タンク10は、タンク内への入熱を抑制できると共に、タンク外壁12と保護カバー14間のスペースの増加をまねかないので、容積や船幅が限られた液化ガス運搬船でも配置の自由度を広げることができる。また、薄厚化が可能な輻射熱反射板16を設けるため、重量増加を抑制でき、これによって、液化ガス運搬船18の運行性能の悪化を抑制できる。
【0035】
図4は、一実施形態に係るモス型液化ガス貯蔵タンク10の断熱構造11の施工方法の工程図であり、図5(A)は、上記施工方法において、保護カバー14をタンク外壁12に固定する前の状態を示し、図5(B)は、保護カバー14をタンク外壁12の固定した後の状態を示している。
図4に示すように、タンク外壁12に取り付けられる前の保護カバー14に対して、保護カバー14の内側面との間に隙間sを有して少なくとも1枚の輻射熱反射板16を固定する(輻射熱反射板固定ステップS10)。
次に、輻射熱反射板16が固定された保護カバー14をタンク外壁12に取り付けると共に、輻射熱反射板16とタンク外壁12との間に隙間sを形成する(保護カバー取付けステップS12)。
【0036】
上記方法によれば、輻射熱反射板固定ステップS10において、タンク外壁12に取り付けられる前の保護カバー14に対して、保護カバー14の内側面と間に隙間sを有して少なくとも1枚の輻射熱反射板16を固定するため、保護カバー14への輻射熱反射板16の固定作業を地上の作業場で行うことができる。
これによって、輻射熱反射板16の固定作業が容易になると共に、保護カバー取付けステップS12において、輻射熱反射板16がない保護カバー14の取付けとほぼ同等の施工方法で、輻射熱反射板付き保護カバー14をタンク外壁12に取り付けることができる。
【0037】
こうしてモス型液化ガス貯蔵タンク10に施工された断熱構造11は、タンク外壁12と保護カバー14との間に、これらに対して隙間sを有して輻射熱反射板16を備えることで、簡易かつ低コストで太陽光などの輻射熱を抑制でき、従って、タンク内への入熱量を抑制できる。また、輻射熱反射板16は断熱材のように板厚を必要とせず薄厚化できるため、設置スペースを多く取らず、かつ圧縮荷重に対して自在に変形して吸収可能である。さらに、輻射熱反射板16は薄厚化できるため設置スペースを多く取らないので、タンク外壁12と保護カバー14との間にデッドスペースが形成されるのを回避できる。また、デッドスペースをなくすことで、対流の発生を抑制でき、これによって、断熱性能の低下を抑制できる。従って、BOGの発生率を低下できる。
【0038】
一実施形態では、図5に示すように、上記施工方法によって断熱構造11を備えるモス型液化ガス貯蔵タンク10は液化ガス運搬船18に設けられる。上記施工方法を採用することで、輻射熱反射板16を設けない場合と比べて、液化ガス運搬船18の建造工数をほぼ同等に抑えることができる。
【産業上の利用可能性】
【0039】
幾つかの実施形態によれば、簡易かつ低コストな手段で、保護カバーを備える液化ガス貯蔵タンクの断熱性能を向上でき、モス型液化ガス貯蔵タンクが陸上又は液化ガス運搬船にいずれに設けられた場合であっても有効に適用できる。
【符号の説明】
【0040】
10 モス型液化ガス貯蔵タンク
11 断熱構造
12 タンク外壁
14 保護カバー
16 輻射熱反射板
18 液化ガス運搬船
20 補強リブ
22 補強リブ本体
24 支持部
26 ボルト
28 スペーサ
Ls 太陽光
s 隙間
図1
図2
図3
図4
図5