特許第6839085号(P6839085)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6839085
(24)【登録日】2021年2月16日
(45)【発行日】2021年3月3日
(54)【発明の名称】ロボットシステム
(51)【国際特許分類】
   B25J 3/00 20060101AFI20210222BHJP
   A61B 34/30 20160101ALI20210222BHJP
【FI】
   B25J3/00 A
   A61B34/30
【請求項の数】8
【全頁数】17
(21)【出願番号】特願2017-536186(P2017-536186)
(86)(22)【出願日】2016年6月24日
(86)【国際出願番号】JP2016003064
(87)【国際公開番号】WO2017033379
(87)【国際公開日】20170302
【審査請求日】2019年5月22日
(31)【優先権主張番号】特願2015-165479(P2015-165479)
(32)【優先日】2015年8月25日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000000974
【氏名又は名称】川崎重工業株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】514063179
【氏名又は名称】株式会社メディカロイド
(74)【代理人】
【識別番号】110000556
【氏名又は名称】特許業務法人 有古特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】東條 剛史
【審査官】 臼井 卓巳
(56)【参考文献】
【文献】 特開2008−194789(JP,A)
【文献】 特開昭56−039884(JP,A)
【文献】 特開平07−194609(JP,A)
【文献】 特開2003−039348(JP,A)
【文献】 特開2006−102866(JP,A)
【文献】 特開2011−224696(JP,A)
【文献】 特開2014−148037(JP,A)
【文献】 特開昭58−132474(JP,A)
【文献】 特表平04−506635(JP,A)
【文献】 特表2014−512976(JP,A)
【文献】 国際公開第2012/029227(WO,A1)
【文献】 米国特許出願公開第2014/0303644(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B25J 3/00− 9/22
A61B 34/30
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
マスターアームによりスレーブアームが遠隔操作されるロボットシステムであって、
ロボットアームと、前記ロボットアームに取り付けられたエンドエフェクタと、を備え、前記スレーブアームであるロボット本体と、
操作部を有し、操作部が操作されると当該操作に応じた操作情報を出力し、前記マスターアームである操作装置と、
前記操作装置から出力される操作情報に従って前記ロボット本体の動作を制御する動作制御部と、
前記エンドエフェクタの先端の速度を検出する速度検出手段と、
前記エンドエフェクタ先端の速度に対して正の相関を有する第1の力成分を含む力情報を、仮想反力情報として出力する仮想反力情報生成器と、
前記仮想反力情報生成器から出力される前記仮想反力情報に応じた力を操作者に知覚させるために前記操作部に力を付与する力付与装置と、
を備える、ロボットシステム。
【請求項2】
前記仮想反力情報生成器は、前記第1の力成分のみから成る力情報を、前記仮想反力情報として出力する、請求項1に記載のロボットシステム。
【請求項3】
前記仮想反力情報生成器は、前記エンドエフェクタの先端の速度の正負を判定し、前記エンドエフェクタの先端の速度が正の場合は前記仮想反力情報を出力し、前記エンドエフェクタの先端の速度が負の場合はゼロの値を出力する、請求項1又は2に記載のロボットシステム。
【請求項4】
前記ロボット本体が、前記エンドエフェクタの先端に加わる力を検知する力検知装置を備え、
前記仮想反力情報生成器は、前記第1の力成分に、前記力検知装置が検知する力に応じた第2の力成分を加えた力情報を、前記仮想反力情報として出力する、請求項1に記載のロボットシステム。
【請求項5】
前記力検知装置は、前記エンドエフェクタの基端に取付けられ、当該エンドエフェクタの先端に加わる力を検知するように構成された力覚センサである、請求項に記載のロボットシステム。
【請求項6】
前記第1の力成分は、前記エンドエフェクタ先端の速度に比例した力成分である、請求項1又は2に記載のロボットシステム。
【請求項7】
前記ロボット本体の動作を制御する前記動作制御部の運転モードを、前記操作情報を前記ロボット本体の動作に反映させることなしに、予め設定された所定のプログラムを用いて前記ロボット本体の動作を制御する自動モードと、前記操作情報を前記ロボット本体の動作に反映させることが可能な状態で、予め設定された所定のプログラムを用いて前記ロボット本体の動作を制御する修正自動モードと、前記所定のプログラムを用いることなしに、前記操作情報を用いて前記ロボット本体の動作を制御する手動モードのいずれかを選択可能に構成されたモード選択部を更に備え、
前記動作制御部は、前記運転モードが前記修正自動モードであるときに、前記ロボット本体が前記所定のプログラムを用いて動作している途中に前記操作情報を受けて、前記所定のプログラムに関する動作から修正された動作を行うよう前記ロボット本体を制御する請求項1乃至のいずれか一項に記載のロボットシステム。
【請求項8】
前記ロボットシステムは外科手術システムに適用され、前記エンドエフェクタは手術器具である、請求項1乃至のいずれか一項に記載のロボットシステム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ロボットシステムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来からロボットシステムにおいて触覚情報を利用した技術が知られている。例えば特許文献1には、ジョイスティックとモバイルロボットとの間で力覚フィードバックを得ながらモバイルロボットを操作するロボットシステムが開示されている。近年、ロボットシステムは高い精度が要求される様々な作業に適用されている。例えばマスタースレーブ式のロボットシステムの適用例として、パーツの嵌め合い作業、外科手術システム等が挙げられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2009−282720号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、上記従来のロボットシステムによる作業中にスレーブアームが作業対象物から受ける力に応じた力成分をマスターアームに提示した場合には、操作者がマスターアームから手を離すとこの力によってマスターアーム自身が動いてしまう。このため、操作性に悪影響を及ぼし、その結果、作業精度が低下する。このような課題はロボットシステムをパーツの嵌め合い作業等の高い精度が必要な作業に適用した場合で共通する。
【0005】
そこで、本発明は、ロボットシステムにおいて高精度な作業を可能にすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の一態様に係るロボットシステムは、ロボットアームと、前記ロボットアームに取り付けられたエンドエフェクタと、を備えるロボット本体と、操作部を有し、操作部が操作されると当該操作に応じた操作情報を出力する操作装置と、前記操作装置から出力される操作情報に従って前記ロボット本体の動作を制御する動作制御部と、前記エンドエフェクタの先端の速度を検出する速度検出手段と、前記エンドエフェクタ先端の速度に対して正の相関を有する第1の力成分を含む力情報を、仮想反力情報として出力する仮想反力情報生成器と、前記仮想反力情報生成器から出力される前記仮想反力情報に応じた力を前記操作者に知覚させるために前記操作部に力を付与する力付与装置と、を備える。
【0007】
上記構成によれば、操作者によって操作部が操作されると、操作装置は当該操作に応じた操作情報を出力する。すると、動作制御部は、操作装置から出力される操作情報に従ってロボット本体の動作を制御する。ロボット本体の動作中において、速度検出手段は、ロボットアームに取り付けられたエンドエフェクタの先端の速度を検出する。仮想反力情報生成器は、エンドエフェクタ先端の速度に対して正の相関を有する第1の力成分を含む力情報を、仮想反力情報として出力する。すると、力付与装置は、仮想反力情報生成器から出力される仮想反力情報に応じた力を操作者に知覚させるために操作部に力を付与する。操作者は、操作部に付与された仮想反力情報に応じた力を知覚することができる。つまり、操作者は、粘性抵抗が強調された仮想反力を操作部から感じながら、作業対象物に対しロボットが適切な作業を行うようにロボットを操作すべく操作部を操作することができる。従って、高精度な作業が可能になる。
【0008】
上記ロボットシステムでは、前記ロボット本体はスレーブアームであり、前記操作装置はマスターアームであり、前記マスターアームにより前記スレーブアームが遠隔操作されてもよい。
【0009】
前記仮想反力情報生成器は、前記第1の力成分のみから成る力情報を、前記仮想反力情報として出力してもよい。
【0010】
上記構成によれば、第1の力成分のみから成る力情報が仮想反力情報として出力され、力付与装置は第1の力成分のみから成る力情報に応じた力を操作者に知覚させるために操作部に力を付与する。これにより、操作者が操作部から手を離した場合であっても、操作部が勝手に動作することはないので、操作性に悪影響を与えることはない。
【0011】
前記仮想反力情報生成器は、前記エンドエフェクタの先端の速度の正負を判定し、前記エンドエフェクタの先端の速度が正の場合は前記仮想反力情報を出力し、前記エンドエフェクタの先端の速度が負の場合はゼロの値を出力してもよい。
【0012】
上記構成によれば、エンドエフェクタの先端の速度が正の場合は、力付与装置は粘性抵抗が強調された仮想反力情報に応じた力を操作部に付与する一方で、エンドエフェクタの先端の速度が負の場合は、力付与装置は操作部に何ら力を付与しない。例えば外科手術システムにおいて手術器具を切開部から抜き取るような場合、術者は、手術器具から粘性抵抗を感じることないので、スムーズな操作が可能になる。
【0013】
前記ロボット本体が、前記エンドエフェクタの先端に加わる力を検知する力検知装置を備え、前記仮想反力情報生成器は、前記第1の力成分に、前記力検知装置が検知する力に応じた第2の力成分を加えた力情報を、前記仮想反力情報として出力してもよい。ここで力検知装置によって検知される力は、互いに直交する3軸の各方向の力とこれらの各軸回りに作用するモーメントとを含む。
【0014】
上記構成によれば、力検知装置がエンドエフェクタの先端に加わる力を検知すると、仮想反力情報生成器は、第1の力成分に、力検知装置が検知する力に応じた第2の力成分を加えた力情報を、仮想反力情報として出力する。すると、力付与装置は第1及び第2の力成分から成る力情報に応じた力を操作者に知覚させるために操作部に力を付与する。ここで操作部に付与される力は、操作者が操作部から手を離したときに、操作部の移動が許容される範囲に納まる程度の力である。これにより、操作者は、操作部から粘性抵抗がより強調された仮想反力を感じることができる。
【0015】
前記力検知装置は、前記エンドエフェクタの基端に取付けられ、当該エンドエフェクタの先端に加わる力を検知するように構成された力覚センサであってもよい。
【0016】
前記第1の力成分は、前記エンドエフェクタ先端の速度に比例した力成分であってもよい。
【0017】
上記ロボットの遠隔操作システムは前記ロボット本体の動作を制御する前記動作制御部の運転モードを、前記操作情報を前記ロボット本体の動作に反映させることなしに、予め設定された所定のプログラムを用いて前記ロボット本体の動作を制御する自動モードと、前記操作情報を前記ロボット本体の動作に反映させることが可能な状態で、予め設定された所定のプログラムを用いて前記ロボット本体の動作を制御する修正自動モードと、前記所定のプログラムを用いることなしに、前記操作情報を用いて前記ロボット本体の動作を制御する手動モードのいずれかを選択可能に構成されたモード選択部を更に備え、前記動作制御部は、前記運転モードが前記修正自動モードであるときに、前記ロボット本体が前記所定のプログラムを用いて動作している途中に前記操作情報を受けて、前記所定のプログラムに関する動作から修正された動作を行うよう前記ロボット本体を制御してもよい。
【0018】
上記構成によれば、モード選択部により動作制御部の運転モードとして自動モードを選択することができるため、ロボットの動作修正が必要でない場合には自動モードを選択して、不用意に操作装置が操作されて動作が修正されることを防止することができる。また、モード選択部により動作制御部の運転モードとして手動モードを選択することができるため、所定のプログラムを用いずに、ロボット本体を操作することができる。
【0019】
前記ロボットシステムは外科手術システムに適用され、前記エンドエフェクタは手術器具であってもよい。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、ロボットシステムにおいて高精度な作業が可能になる。
【0021】
本発明の上記目的、他の目的、特徴、及び利点は、添付図面参照の下、以下の好適な実施態様の詳細な説明から明らかにされる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
図1図1は、第1実施形態に係るロボットシステムの構成例を示す模式図である。
図2図2は、図1のスレーブアーム先端の構成例を示す模式図である。
図3図3は、図1のマスターアーム及び制御装置の構成を示すブロック図である。
図4図4は、図2のロボットハンドの先端に働く力を作業段階に応じて模式的に示した図である。
図5図5は、第1実施形態の変形例に係るロボットシステムのマスターアーム及び制御装置の構成を示すブロック図である。
図6図6は、第2実施形態に係るロボットシステムの構成を示す模式図である。
図7図7は、図6の手術器具の先端に働く力を施術段階に応じて模式的に示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明に係る実施形態について図面を参照しつつ説明する。以下では、全ての図面を通じて同一又は相当する要素には同じ符号を付して、重複する説明は省略する。
(第1実施形態)
図1は、本発明の第1実施形態に係るロボットシステムの構成例を示す模式図である。図1に示すように、本実施形態のロボットシステム100は、スレーブアーム1がマスターアーム2により遠隔操作されるマスタースレーブ式のロボットの遠隔操作システムで構成される。
【0024】
ロボットの遠隔操作システム100(以下、単に遠隔操作システムという)は、第1のロボットで構成されるスレーブアーム1と、第2のロボットで構成されるマスターアーム2と、制御装置3と、力覚センサ5と、入力装置9と、カメラ11と、モニタ12と、を備える。スレーブアーム1は、任意のタイプのロボットで構成され得る。スレーブアーム1は、本発明の「ロボット本体」に相当する。スレーブアーム1は、本実施形態では、例えば、周知の多関節ロボットで構成され、基台1aと、基台1aに設けられた多関節のアーム1bと、アーム1bの先端に設けられた手首1cとを備える。多関節のアーム1bの各関節は駆動用のサーボモータ、及び、サーボモータの回転角度位置を検出するエンコーダ、サーボモータに流れる電流を検出する電流センサを備える(いずれも図示せず)。手首1cにはエンドエフェクタ4が取り付けられる。エンドエフェクタ4には力覚センサ5が取り付けられる。
【0025】
マスターアーム2は、任意のタイプのロボットで構成され得る。マスターアーム2は、本発明の「操作装置」に相当する。マスターアーム2は、操作部26を有し、操作部26が操作されると当該操作に応じた操作情報を制御装置3に出力するように構成される。操作部26は、本実施形態では、スレーブアーム1の多関節アーム1bと相似構造をしているが、操作者が操作することによりスレーブアーム1を操作することができれば、例えばスイッチ、調整ツマミ、操作レバー又はタブレットなどの携帯端末でもよいし、操縦桿のような簡易なものであってもよい。
【0026】
入力装置9は、タッチパネル、キーボード等のマン−マシンインターフェースで構成される。入力装置9は、主に、スレーブアーム1の後述する自動モード、修正動作モード、及び手動モードの3つのモードの切り替え、各種データ等を入力するために用いられる。入力装置9に入力された情報は制御装置3に送信される。
【0027】
遠隔操作システム100では、スレーブアーム1の作業領域から離れた位置(作業エリア外)にいる操作者がマスターアーム2を動かして操作情報を入力することで、スレーブアーム1が操作情報に対応した動作を行い、特定の作業を行うことができる。また、遠隔操作システム100では、スレーブアーム1は、操作者によるマスターアーム2の操作なしに、所定の作業を自動的に行うこともできる。
【0028】
本明細書では、マスターアーム2を介して入力された操作情報に従って、スレーブアーム1を動作させる運転モードを「手動モード」と称する。なお、上述の「手動モード」には、操作者がマスターアーム2を操作することによって入力された操作情報に基づいて動作中のスレーブアーム1の動作の一部が自動で動作補正される場合も含む。また、予め設定された所定のプログラムに従ってスレーブアーム1を動作させる運転モードを「自動モード」と称する。
【0029】
更に、本実施形態の遠隔操作システム100では、スレーブアーム1が自動で動作している途中に、マスターアーム2の操作をスレーブアーム1の自動の動作に反映させて、自動で行うことになっていた動作を修正することができるように構成されている。本明細書では、マスターアーム2を介して入力された操作情報を反映可能な状態で、予め設定された所定のプログラムに従ってスレーブアーム1を動作させる運転モードを「修正自動モード」と称する。なお、上述の「自動モード」は、スレーブアーム1を動作させる運転モードが自動モードであるときはマスターアーム2の操作がスレーブアーム1の動作に反映されないという点で、「修正自動モード」と区別される。
【0030】
カメラ11は、スレーブアーム1の可動範囲の全部又は一部における当該スレーブアーム1の動作を撮像可能なように設けられる。カメラ11が撮像した画像情報は制御装置3に送信され、制御装置3は、この画像情報に対応する画像を表示するようモニタ12を制御する。
【0031】
図2は、スレーブアーム1先端の構成例を示す模式図である。図2に示すように、手首1c先端の取り付け面1dにエンドエフェクタ4が取り付けられる。本実施形態では、エンドエフェクタ4は嵌合部品200を把持可能なロボットハンドである。ロボットハンドは、手首1c先端の取り付け面1dに取り付けられたハンド本体と、例えばモータで構成されたアクチュエータ(図示せず)で駆動される2本の指部とを備える。アクチュエータが動作すると2本の指部がハンド本体に対して移動する。つまり、ロボットハンドの2本の指部は互いに近接又は離隔するように移動可能であり、2本の指部で嵌合部品200を把持することができる。本実施形態の遠隔操作システム100では、ロボットハンド(4)に保持されたシャフト(200)をスレーブアーム1の作動によってギヤ(210)の穴(211)に挿入する。ギヤ(210)の表面及び穴(211)の側面には潤滑油212が塗布されている。この作業は高い精度が必要なため、組立作業のなかでも操作者の熟練を要する。
【0032】
力覚センサ5は、手首1c先端の取り付け面1dとエンドエフェクタ4の間に取り付けられる。力覚センサ5は、本発明の「力検知装置」に相当する。力覚センサ5は、本実施形態ではエンドエフェクタ4の基端に取付けられ、エンドエフェクタ4の先端に加わる力を検知するように構成される。力覚センサ5は、本実施形態では、手首座標系で定義されるXYZ軸方向の力と、各軸回りに作用するモーメントとを検出することが可能な六軸力覚センサである。ここで手首座標系とは手首1cを基準とした座標系である。図2では、手首1cの取り付け面1dに平行にX軸及びY軸が定義され、取り付け面1dに垂直な方向にZ軸が定義される。力覚センサ5は、無線又は有線により制御装置3に検出信号を送信する。
【0033】
図3は、マスターアーム2及び制御装置3の構成を示すブロック図である。図3に示すように、マスターアーム2は、操作部26と、操作情報生成部27と、力付与装置28を備える。操作部26はスレーブアーム1と相似な多関節アームで構成され(図1参照)、操作者によって操作されるとともに力付与装置28によって各関節軸に対し力(トルク)が付与される。操作情報生成部27は操作部26が操作者によって操作されるとその操作に応じた操作情報を生成し、動作制御部6に出力するように構成される。力付与装置28は、多関節アーム(操作部26)の各関節軸に対し力(トルク)を付与するように構成される。
【0034】
制御装置3は、動作制御部6と、力覚情報処理部7と、モニタ制御部8と、記憶部10と、インターフェース部(図示しない)を含む。制御装置3は、コンピュータ、マイクロコントローラ、マイクロプロセッサ等の演算処理機能を有する装置で構成される。動作制御部6、力覚情報処理部7、及びモニタ制御部8は、制御装置3の記憶部10に格納された所定のプログラムが制御装置3の演算処理部(図示せず)によって実行されることによって実現される。制御装置3のハードウェア上の構成は任意であり、制御装置3は、スレーブアーム1等の他の装置から独立して設けられてもよく、他の装置と一体的に設けられてもよい。
【0035】
動作制御部6は、マスターアーム2から送信された操作情報及び入力装置9から入力された情報に従ってスレーブアーム1の動作を制御する。ここで入力装置9のモード選択部25は、スレーブアーム1を動作させる運転モードとして、上述した「自動モード」、「修正自動モード」及び「手動モード」のうちのいずれかを、操作者が選択するためのものである。操作者により選択されたモードに関する情報はモード選択部25から動作制御部6に入力される。記憶部10は、読み書き可能な記録媒体であり、スレーブアーム1に自動で所定の動作をさせるための所定のプログラム及び各種データが、予め、記憶されている。所定のプログラムは、例えば、教示作業により所定の作業を行うようスレーブアーム1を動作させて記憶された教示情報である。本実施形態では、教示情報は、マスターアーム2を操作することによりスレーブアーム1の動作を指示し記憶させた情報でもよいし、ダイレクト教示により記憶された情報であってもよい。なお、記憶部10は、制御装置3と一体として設けられているが制御装置3と別体に設けられていてもよい。動作制御部6は、具体的には、マスターアーム2からの操作情報、及び、予め記憶された情報の少なくともいずれか一方の情報に基づいて、スレーブアーム1の各関節軸を駆動するサーボモータを制御する。動作制御部6は、スレーブアーム1の各関節軸の位置指令値を生成し、生成した位置指令値とエンコーダの検出値(実際値)の偏差に基づいて速度指令値を生成する。そして、生成した速度指令値と速度現在値の偏差に基づいてトルク指令値(電流指令値)を生成し、生成した電流指令値と電流センサの検出値(実際値)との偏差に基づいてサーボモータを制御する。
【0036】
力覚情報処理部7は、位置算出器21と、速度算出器22と、仮想反力情報生成器23を備える。
【0037】
位置算出器21は、エンコーダ20の検出信号を取得し、スレーブアーム1の各関節軸の回転角度位置とスレーブアーム1を構成するリンクの寸法とにより、共通のベース座標系におけるスレーブアーム1の手首1cの位置及び姿勢を特定できる。そして、位置算出器21は、手首1cを基準とした手首座標系における手首1cの位置からエンドエフェクタ4の先端までのベクトルを予め記憶しておくことにより、ベース座標系を基準としたエンドエフェクタ4の先端の位置を算出し、これを速度算出器22に出力する。尚、遠隔操作システム100が空間上の任意の点を計測し且つその座標データを生成可能な計測装置(図示せず)を備え、位置算出器21が計測点の座標データを計測装置の所定の座標系からベース座標系に座標変換することにより、ベース座標系を基準としたエンドエフェクタ4の先端の位置を算出してもよい。
【0038】
速度算出器22は、位置算出器21から出力されるエンドエフェクタ4の先端の位置を取得し、所定時間毎の移動量からエンドエフェクタ4の先端の速度成分を算出し、これを仮想反力情報生成器23に出力する。
【0039】
仮想反力情報生成器23は、力覚センサ5の検出信号、及び、速度算出器22で算出されたエンドエフェクタ4の先端の速度成分を取得し、これらの情報に基づいて、仮想反力情報を生成し、これをマスターアーム2に出力する。ここでは仮想反力情報生成器23は、力覚センサ5の検出信号に基づいてエンドエフェクタ4の先端に加わる力が時間経過とともに増加しているか否かを判定する。そして、エンドエフェクタ4の先端に加わる力が増加している場合は、エンドエフェクタ4先端の速度に対して正の相関を有する第1の力成分を含む力情報を仮想反力情報として力付与装置28に出力する。仮想反力情報生成器23は、エンドエフェクタ4の先端に加わる力が時間経過とともに減少している場合は、ゼロの値を力付与装置28に出力する。
【0040】
力付与装置28は、仮想反力情報生成器23から出力される仮想反力情報に相当する力を操作者に知覚させるために操作部26に力を付与する。ここで合成反力情報はマスターアーム2(操作部26)の各関節軸に対するトルク値に変換される。例えば変換されたトルク値は各関節を駆動するサーボモータのドライバ回路へのトルク指令に相当する。
【0041】
モニタ制御部8は、カメラ11で撮像された画像情報に対応する画像を表示するようモニタ12を制御する。操作者は、モニタ12を見ながらマスターアーム2(操作部26)を操作することにより、スレーブアーム1を操作者が意図するように操作することができる。
[動作]
次に、遠隔操作システム100の動作について図2図4を用いて説明する。本実施形態の遠隔操作システム100では、ロボットハンド(4)に保持されたシャフト(200)をスレーブアーム1の作動によってギヤ(210)の穴(211)に挿入する(図2参照)。ここでは操作者によりモード選択部25で選択された運転モードが「手動モード」である場合について説明する。動作制御部6は、スレーブアーム1を動作させる運転モードが「手動モード」であるとき、所定のプログラムを用いず、マスターアーム2を操作することにより送られた操作情報(入力指令)に従って、スレーブアーム1の動作を制御する(図3参照)。
【0042】
図4は、ロボットハンド(4)の先端に働く力を作業段階に応じて模式的に示した図である。まず、図4(A)に示すように、操作者は、モニタ12を見ながらマスターアーム2(操作部26)を操作することにより、そのスレーブアーム1の作動によってシャフト(200)を把持したロボットハンド(4)を、ギヤ(210)の方向(同図ではZ軸のプラス方向)に押下げる。このときシャフト(200)の中心線は、ギヤ(210)の穴(211)の中心線と一致するように制御する。本実施形態では、力覚センサ5の検出信号により、シャフト(200)の先端がギヤ(210)に触れたか否かの接触判定が行われる。シャフト(200)の先端がギヤ(210)に接触するまでは、ロボットハンド(4)先端には何ら力が加わることはないので、力覚センサ5で検出される力の値はゼロである。尚、本実施形態では、シャフト(200)はロボットハンド(4)によって把持されているので、ロボットハンド(4)によって把持されたシャフト(200)の先端に加わる力とロボットハンド(4)の先端に加わる力は同じ程度である。
【0043】
次に、図4(B)に示すように、操作者は、シャフト(200)の先端がギヤ(210)に接触すると、モニタ12を見ながらマスターアーム2を操作することにより、スレーブアーム1の作動によってシャフト(200)をギヤ(210)に挿入する作業を開始する。スレーブアーム1の先端に取り付けられた力覚センサ5がロボットハンド(4)の先端に加わる力Fを検知すると、仮想反力情報生成器23は、力覚センサ5の検出信号に基づいてエンドエフェクタ4の先端に加わる力Fが時間経過とともに増加しているか否かを判定する。図4(B)では、シャフト(200)先端は、ギヤ(210)の表面又は穴(211)の側面に接触した際に、Z軸のマイナス方向の力を受ける。この場合は、ロボットハンド(4)の先端に加わる力は時間の経過とともに増加するので、仮想反力情報生成器23は、式(1)に示すように、ロボットハンド(4)先端の速度に対して正の相関を有する第1の力成分を含む力情報を仮想反力情報P(t)としてマスターアーム2(力付与装置28)に出力する。
P(t)=(K×(dr/dt))×h(t)・・・(1)
ここでrはロボットハンド(4)先端の位置,tは時間,Kは比例定数を示している。h(t)は式(2)で示される単位ステップ関数である。Fはロボットハンド(4)先端に加わる力である。
h(t)=1(dF/dt≧0),h(t)=0(dF/dt<0)・・・(2)
式(1)より、ロボットハンド(4)先端の速度に対して正の相関を有する第1の力成分はロボットハンド(4)先端の速度成分に比例した力成分である。つまり、仮想反力情報生成器23は、ロボットハンド(4)先端の速度成分dr/dtを適正なレンジに変換し、これを仮想反力情報としてマスターアーム2の力付与装置28に出力する。尚、ローパスフィルタ(図示せず)により仮想反力情報の雑音成分が除去されてもよい。
【0044】
力付与装置28は、仮想反力情報生成器23から出力される仮想反力情報に応じた力を操作者に知覚させるためにマスターアーム2(操作部26)に力を付与する。操作者は、操作部26に付与された仮想反力情報に応じた力を知覚することができる。つまり、操作者は、粘性抵抗が強調された仮想反力を操作部26から感じながら、スレーブアーム1の作動によってシャフト(200)を潤滑油(212)が塗布されたギヤ(210)に挿入するように操作部26を操作することができる。従って、高精度な作業が可能になる。
【0045】
また、力付与装置28は、第1の力成分のみから成る力情報に応じた力を操作者に知覚させるために操作部26に力を付与するので(式(1)参照)、操作者が操作部26から手を離した場合であっても、操作部26が勝手に動作することはないので、操作性に悪影響を与えることはない。
【0046】
一方、図4(C)に示すように、操作者は、作業中に、一旦、挿入されたシャフト(200)の先端部を穴(211)から引き抜く場合がある。穴(211)の内部には潤滑油(212)が塗布されているので、シャフト(200)の先端はZ軸のマイナス方向に力を受ける。この場合は、シャフト(200)の先端に加わる力F(Z軸のマイナス方向)は図4(B)の場合と比べて減少する。その結果、ロボットハンド(4)の先端に加わる力は時間経過とともに減少するので、仮想反力情報生成器23は、ゼロの値をマスターアーム2の力付与装置28に出力する。その結果、力付与装置28は操作部26に何ら力を付与しない。操作者は、操作部26から粘性抵抗を感じることないので、スムーズな操作が可能になる。
【0047】
尚、本実施形態では、仮想反力情報生成器23は、ロボットハンド(4)先端の速度に対して正の相関を有する第1の力成分を含む力情報を、仮想反力情報として出力したが(式(1)参照)、この構成に限定されない。仮想反力情報生成器23は、式(3)に示すように、第1の力成分に、力覚センサ5が検知する力に応じた第2の力成分を加えた力情報を、仮想反力情報P(t)として出力してもよい。
P(t)=(K×(dr/dt))×h(t)+f(t)・・・(3)
ここでf(t)は力覚センサ5が検知する力に応じた第2の力成分である。これにより、操作者は、操作部26から粘性抵抗がより強調された仮想反力を感じることができる。
【0048】
尚、仮想反力情報生成器23は、第2の力成分f(t)を生成する際には、力覚センサ5が検知されたロボットハンド(4)の先端に加わる力を適正なレンジに変換することにより、操作部26に付与される力は、操作者が操作部26から手を離したときに、操作部26の移動が許容される範囲に納まる程度の力に設定することができる。
【0049】
尚、本実施形態では、仮想反力情報生成器23は、ロボットハンド(4)の先端に加わる力が減少している場合にゼロの値を出力したが(式(1)参照)、その力の絶対値が所定値よりも小さい場合に、ゼロの値を出力してもよい。
【0050】
図5は、本実施形態の変形例に係るロボットの遠隔操作システムの制御装置3Aの構成を示すブロック図である。図5に示すように、本変形例の遠隔操作システムは力覚センサ5(図3参照)を備えていない点が、本実施形態と異なる。力覚情報処理部7Aは、力算出器24を更に備える。力算出器24は、電流センサ30からスレーブアーム1の各関節軸を駆動するサーボモータに流れる電流値を取得し、電流指令値と電流センサ30の検出値との偏差の変化率に基づいて、スレーブアーム1のエンドエフェクタ4の先端に働く力を算出するが、各関節軸の位置偏差又は速度偏差の変化率に基づいて、スレーブアーム1のエンドエフェクタ4の先端に働く力を算出してもよい。本変形例では仮想反力情報生成器23Aは、力算出器24の出力信号に基づいて、シャフト(200)の先端がギヤ(210)に触れたか否かを判定する。また、仮想反力情報生成器23Aは、ロボットハンド(4)先端の速度のみに基づいて仮想反力情報を生成する。仮想反力情報生成器23Aは、ロボットハンド(4)先端の速度の正負を判定し、上述の式(1)及び式(4)に従って、ロボットハンド(4)の先端の速度が正の場合は仮想反力情報P(t)を出力し、ロボットハンド(4)の先端の速度が負の場合はゼロの値を出力する。
P(t)=(K×(dr/dt))×h(t)・・・(1)
h(t)=1(dr/dt≧0),h(t)=0(dr/dt<0)・・・(4)
本変形例の遠隔操作システムでは、力覚センサ5が不要になるので、簡単な構成で、本実施形態と同様な効果を奏することができる。
【0051】
また、本変形例においても、仮想反力情報生成器23Aは、上述の式(3)に示した仮想反力情報P(t)を出力してもよい。
【0052】
尚、本実施形態では、モード選択部25で選択された運転モードが「手動モード」である場合について説明したが、モード選択部25で選択されている運転モードが「自動モード」でもよい。動作制御部6は、スレーブアーム1を動作させる運転モードが「自動モード」であるとき、マスターアーム2から送られた操作情報を用いず、予め設定された所定のプログラムに従ってスレーブアーム1の動作を制御する。
【0053】
また、モード選択部25で選択されている運転モードは「修正自動モード」でもよい。動作制御部6は、運転モードが「修正自動モード」であるときに、所定のプログラムと操作情報の両方を用いる。なお、運転モードが「修正自動モード」であるときに、操作情報が動作制御部6に送られていない場合は、動作制御部6は所定のプログラムのみを用いる。より詳しくは、動作制御部6は、スレーブアーム1を動作させる運転モードが「修正自動モード」であるとき、スレーブアーム1が所定のプログラムを用いて自動で動作している途中に操作情報を受けると、所定のプログラムと操作情報の両方を用いてスレーブアーム1の動作を制御する。これにより、スレーブアーム1は、所定のプログラムに関する動作、すなわち自動で行うことになっていた動作から修正された動作を行う。
【0054】
尚、本実施形態では、動作制御部6は、操作者により入力装置9のモード選択部25で選択された「自動モード」、「修正自動モード」及び「手動モード」のうちのいずれかの運転モードに従い、スレーブアーム1の動作を行うように構成されたが、このような構成に限定されない。例えば動作制御部6がスレーブアーム1を所定のステップまで「自動モード」により動作させるように制御したとき、操作者に対して、スレーブアーム1の自動運転の継続許可に関する問い合わせを出力する出力制御部(図示せず)と、出力制御部(図示せず)による問い合わせの出力後に受信部(図示せず)によって受信した入力信号に基づき、自動運転の継続を許可するか否か判定する継続判定部(図示せず)と、を有してもよい。これにより、操作者の熟練が必要な場面では、「自動モード」から「手動モード」に切り替えて作業を行うことができる。
【0055】
尚、本実施形態では、潤滑油(212)がすでに塗られているパーツに対して他のパーツを装着する作業に遠隔操作システム100を適用したがこれに限られない。高い精度が必要な作業であれば、例えば液体中の作業対象物に対する作業、又は、高粘性液の攪拌作業に適用してもよい。操作装置に提示する力に粘性抵抗を加えることで作業対象物が液体中に在るのか否かを判別し易くなる。
(第2実施形態)
次に、第2実施形態について説明する。本実施形態の遠隔操作システムの基本的な構成は、上記実施形態と同様である。以下では、第1実施形態と共通する構成の説明は省略し、相違する構成を中心に説明する。本実施形態の遠隔操作システムは外科手術システムに適用され、エンドエフェクタは手術器具である。外科手術システムは、マスタースレーブ型の手術支援ロボットである。ここでは医師などの術者が患者に内視鏡外科手術を施すシステムである。
【0056】
尚、本実施形態の外科手術システムは手術支援用であるため、スレーブアーム1は「手動モード」でのみ動作するように構成される。このため、入力装置9は、操作者によって運転モードを選択するためのモード選択部25を備えていない(図3参照)。術者は、モニタ12を見ながら、マスターアーム2の操作部26を操作することにより、スレーブアーム1を術者が意図するように操作する。操作部26は術者が操作することによりスレーブアーム1を操作することができれば周知の構成でもよい。スレーブアーム1もまた、マスターアーム2から出力される操作情報に従って制御であれば周知の構成でもよい。例えばスレーブアーム1は基端部に対して先端部を3次元空間内で移動可能な構成を有する。
【0057】
図6は、第2実施形態に係るロボットの遠隔操作システムの構成を示す模式図である。図6に示すように、スレーブアーム1の先端の手首1cには、インストゥルメント(外科用器具)42を保持するホルダ36(器具保持部)が形成される。スレーブアーム1先端の手首1cの取り付け面1d(ホルダ36の裏面)とインストゥルメント42の間には力覚センサ5が取り付けられている。ホルダ36には、インストゥルメント42が着脱可能に保持されている。ホルダ36に保持されたインストゥルメント42のシャフト43は、基準方向Dと平行に延在するように構成されている。尚、このホルダ36に内視鏡アセンブリが着脱可能に保持されてもよい。本実施形態では、術者は、そのスレーブアーム1の作動によってスレーブアーム1のインストゥルメント42を動作させる。
【0058】
インストゥルメント42は、その基端部に設けられた駆動ユニット45と、その先端部に設けられたエンドエフェクタ(処置具)4と、駆動ユニット45とエンドエフェクタ4の間を繋ぐ細長いシャフト43とで構成されている。インストゥルメント42には基準方向Dが規定されており、駆動ユニット45、シャフト43、及びエンドエフェクタは基準方向Dと平行に並ぶ。インストゥルメント42のエンドエフェクタ4は、動作する関節を有する手術器具(例えば、鉗子、ハサミ、グラスパー、ニードルホルダ、マイクロジセクター、ステープルアプライヤー、タッカー、吸引洗浄ツール、スネアワイヤ、及び、クリップアプライヤーなど)や、関節を有しない器具(例えば、切断刃、焼灼プローブ、洗浄器、カテーテル、及び、吸引オリフィスなど)からなる群より選択される。
【0059】
外科手術システム(100)では、スレーブアーム1の先端の手術器具(4)により、患者214に対して種々の施術が行われる。一般の施術だけでなく、外科手術システム(100)を用いた施術もまた術者の熟練を要する。
【0060】
図7は、手術器具(4)の先端に働く力を施術段階に応じて模式的に示した図である。まず、図7(A)に示すように、術者は、モニタ12を見ながらマスターアーム2(操作部26)を操作することにより、そのスレーブアーム1の作動によってシャフト43に取り付けられた手術器具(4)先端を、患者214の方向(同図ではZ軸のプラス方向)に押下げる。このとき例えば手術器具(4)の先端が患者214の切開部Qに位置するように制御する。本実施形態では、力覚センサ5の検出信号により、手術器具(4)の先端が患者214に触れたか否かの接触判定が行われる。手術器具(4)の先端が切開部Qに接触するまでは、先端には何ら力が加わることはないので、力覚センサ5で検出される力の値はゼロである。
【0061】
次に、図7(B)に示すように、術者は、手術器具(4)の先端が切開部Qに接触すると、モニタ12を見ながらマスターアーム2を操作することにより、スレーブアーム1の作動によって手術器具(4)による施術を開始する。スレーブアーム1の先端に取り付けられた力覚センサ5が手術器具(4)の先端に加わる力を検知すると、仮想反力情報生成器23は、力覚センサ5の検出信号に基づいて手術器具(4)の先端に加わる力Fが時間経過とともに増加しているか否かを判定する。図7(B)では、手術器具(4)先端は、患者214の切開部Qに接触した際に、Z軸のマイナス方向の力を受ける。この場合は、手術器具(4)の先端に加わる力は時間の経過とともに増加するので、仮想反力情報生成器23は、上述の式(1)で示したように、手術器具(4)先端の速度に対して正の相関を有する第1の力成分を含む力情報を仮想反力情報P(t)としてマスターアーム2(力付与装置28)に出力する。式(1)より、ロボットハンド(4)先端の速度に対して正の相関を有する第1の力成分はロボットハンド(4)先端の速度成分に比例した力成分である。
【0062】
力付与装置28は、仮想反力情報生成器23から出力される仮想反力情報に応じた力を操作者に知覚させるためにマスターアーム2(操作部26)に力を付与する。術者は、操作部26に付与された仮想反力情報に応じた力を知覚することができる。つまり、術者は、粘性抵抗が強調された仮想反力を操作部26から感じながら、手術器具(4)によって、患者214の切開部Qを切開するように操作部26を操作することができる。従って、高精度な作業が可能になる。
【0063】
また、力付与装置28は、第1の力成分のみから成る力情報に応じた力を術者に知覚させるために操作部26に力を付与するので(式(1)参照)、術者が操作部26から手を離した場合であっても、操作部26が勝手に動作することはないので、操作性に悪影響を与えることはない。
【0064】
一方、図7(C)に示すように、術者は、施術中又は施術後に、一旦、挿入した手術器具(4)を患者214の体内から取り出す場合がある。この場合、手術器具(4)の先端はZ軸のマイナス方向に力を受ける。手術器具(4)の先端に加わる力F(Z軸のマイナス方向)は図7(B)の場合と比べて減少する。その結果、手術器具(4)の先端に加わる力は時間経過とともに減少するので、仮想反力情報生成器23は、ゼロの値をマスターアーム2の力付与装置28に出力する。その結果、力付与装置28は操作部26に何ら力を付与しない。操作者は、操作部26から粘性抵抗を感じることないので、スムーズな操作が可能になる。
【0065】
尚、本実施形態では、仮想反力情報生成器23は、手術器具(4)先端の速度に対して正の相関を有する第1の力成分を含む力情報を、仮想反力情報として出力したが(式(1)参照)、この構成に限定されない。仮想反力情報生成器23は、上述の式(3)に示した仮想反力情報P(t)を出力してもよい。
【0066】
尚、仮想反力情報生成器23は、式(3)の第2の力成分f(t)を生成する際には、力覚センサ5が検知された手術器具(4)の先端に加わる力を適正なレンジに変換することにより、操作部26に付与される力は、操作者が操作部26から手を離したときに、操作部26の移動が許容される範囲に納まる程度の力に設定することができる。
【0067】
尚、本実施形態では、仮想反力情報生成器23は、手術器具(4)の先端に加わる力が減少している場合にゼロの値を出力したが(式(1)参照)、その力の絶対値が所定値よりも小さい場合にゼロの値を出力してもよい。
【0068】
尚、本実施形態の変形例として、第1実施形態の変形例の構成(図5参照)と同様に、力覚センサ5を備えていなくてもよい。この場合は手術器具(4)先端の速度のみに基づいて仮想反力情報が生成される。力覚センサ5が不要になるので、簡単な構成で、本実施形態と同様な効果を奏することができる。
【0069】
尚、上記各実施形態では、エンドエフェクタ4先端の速度に対して正の相関を有する第1の力成分は、エンドエフェクタ4先端の速度成分に比例した力成分であったが(式(1)参照)、速度成分の増加に従って増加する力成分であれば、例えば速度成分の二乗に比例した力成分であってもよい。
(その他の実施形態)
尚、上記各実施形態のロボットシステム100は、マスタースレーブ式の遠隔操作システムで構成されたが、これに限られるものではない。例えばその他のロボットシステムにおいて、ロボットアームに取り付けられたエンドエフェクタで作業を行う際に、仮想反力を周囲の人間又はシステムの管理者に知覚させるような構成でもよい。
【0070】
上記説明から、当業者にとっては、本発明の多くの改良や他の実施形態が明らかである。従って、上記説明は、例示としてのみ解釈されるべきであり、本発明を実行する最良の態様を当業者に教示する目的で提供されたものである。本発明の精神を逸脱することなく、その構造及び機能の一方又は双方の詳細を実質的に変更できる。
【産業上の利用可能性】
【0071】
本発明は、ロボットシステムを高い精度が必要な作業に適用する場合に有用である。
【符号の説明】
【0072】
1 スレーブアーム(ロボット本体)
2 マスターアーム(操作装置)
3 制御装置
4 エンドエフェクタ
5 力覚センサ
6 動作制御部
7 力覚情報処理部
8 モニタ制御部
9 入力装置
10 記憶部
20 エンコーダ
21 位置算出器
22 速度算出器
23 仮想反力情報生成器
25 モード選択部
26 操作部
27 操作情報生成部
28 力付与装置
30 電流センサ
100 遠隔操作システム
200 嵌合部品(シャフト)
210 被嵌合部品(ギヤ)
211 嵌合穴
212 潤滑油
214 患者
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7