(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6839265
(24)【登録日】2021年2月16日
(45)【発行日】2021年3月3日
(54)【発明の名称】バチルス属細菌由来ナノ小胞およびその用途
(51)【国際特許分類】
C12Q 1/6851 20180101AFI20210222BHJP
A23L 33/135 20160101ALI20210222BHJP
A61P 35/00 20060101ALI20210222BHJP
A61K 8/9728 20170101ALI20210222BHJP
A61Q 7/00 20060101ALI20210222BHJP
G01N 33/50 20060101ALI20210222BHJP
G01N 33/493 20060101ALI20210222BHJP
【FI】
C12Q1/6851 ZZNA
A23L33/135
A61P35/00
A61K8/9728
A61Q7/00
G01N33/50 P
G01N33/493 A
【請求項の数】26
【全頁数】22
(21)【出願番号】特願2019-507291(P2019-507291)
(86)(22)【出願日】2017年8月7日
(65)【公表番号】特表2019-528688(P2019-528688A)
(43)【公表日】2019年10月17日
(86)【国際出願番号】KR2017008497
(87)【国際公開番号】WO2018030732
(87)【国際公開日】20180215
【審査請求日】2019年2月25日
(31)【優先権主張番号】10-2016-0102650
(32)【優先日】2016年8月12日
(33)【優先権主張国】KR
(31)【優先権主張番号】10-2017-0098860
(32)【優先日】2017年8月4日
(33)【優先権主張国】KR
(73)【特許権者】
【識別番号】516348577
【氏名又は名称】エムディー ヘルスケア インコーポレイテッド
【氏名又は名称原語表記】MD HEALTHCARE INC.
(74)【代理人】
【識別番号】110000729
【氏名又は名称】特許業務法人 ユニアス国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】キム、ユン−クン
【審査官】
西垣 歩美
(56)【参考文献】
【文献】
特表2013−503858(JP,A)
【文献】
特表2013−534830(JP,A)
【文献】
特開2003−221342(JP,A)
【文献】
特開2007−084504(JP,A)
【文献】
国際公開第2015/007464(WO,A1)
【文献】
国際公開第2016/099076(WO,A1)
【文献】
韓国公開特許第10−2016−0110232(KR,A)
【文献】
特表2013−503857(JP,A)
【文献】
韓国公開特許第10−2011−0082481(KR,A)
【文献】
特表2017−517569(JP,A)
【文献】
特表2018−511583(JP,A)
【文献】
特開2008−206427(JP,A)
【文献】
特開2006−347985(JP,A)
【文献】
特表2007−518394(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12Q 1/00−3/00
A23L 33/135
A61K 8/9728
A61P 35/00
A61Q 7/00
G01N 33/493
G01N 33/50
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS/WPIDS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記のステップを含む、癌、炎症疾患、または代謝疾患の診断のための情報提供方法:
(a)正常なヒトおよび被検者由来サンプルから分離した小胞からDNAを抽出するステップ;
(b)前記抽出したDNAに対して16S rDNA配列を増幅するプライマー対でPCRを行って、それぞれのPCR産物を収得するステップ;
(c)前記PCR産物をメタゲノム分析して、バチルス属細菌由来小胞の割合を得るステップ;および
(d)正常なヒトに比べて前記バチルス属細菌由来小胞の割合が低い場合、癌、炎症疾患、または代謝疾患と判定するステップ。
【請求項2】
前記癌は、肝癌、膀胱癌、乳癌、または卵巣癌であることを特徴とする、請求項1に記載の情報提供方法。
【請求項3】
前記炎症疾患は、喘息、慢性肝炎、またはアトピー皮膚炎であることを特徴とする、請求項1又は2に記載の情報提供方法。
【請求項4】
前記代謝疾患は、糖尿病、または肝硬変であることを特徴とする、請求項1〜3のいずれか一項に記載の情報提供方法。
【請求項5】
前記被検者由来サンプルは、血液、尿、または糞便であることを特徴とする、請求項1〜4のいずれか一項に記載の情報提供方法。
【請求項6】
下記の段階を含む、糖尿病の診断のための情報提供方法:
(a)正常なヒトおよび被検者由来サンプルから分離した小胞からDNAを抽出するステップ;
(b)前記抽出したDNAに対して16S rDNAを増幅するプライマー対でPCRを行って、それぞれのPCR産物を収得するステップ;
(c)前記PCR産物をメタゲノム分析して、エシェリキア属細菌由来小胞の割合を得るステップ;および
(d)正常なヒトに比べて前記エシェリキア属細菌由来小胞の割合が高い場合、糖尿病と判定するステップ。
【請求項7】
前記被検者由来サンプルは、血液、尿、または糞便であることを特徴とする、請求項6に記載の情報提供方法。
【請求項8】
バチルス属細菌由来小胞を有効成分として含み、前記バチルス属細菌は、枯草菌(Bacillus subtilis)であることを特徴とする、炎症疾患の予防または治療用薬学的組成物。
【請求項9】
前記炎症疾患は、喘息、慢性肝炎、脱毛、またはアトピー皮膚炎であることを特徴とする、請求項8に記載の薬学的組成物。
【請求項10】
前記炎症疾患は、IL−6またはTNF−αにより媒介される疾患であることを特徴とする、請求項8または9に記載の薬学的組成物。
【請求項11】
前記TNF−αにより媒介される炎症疾患は、脱毛、関節リウマチ、または炎症性腸炎であることを特徴とする、請求項10に記載の薬学的組成物。
【請求項12】
前記枯草菌(Bacillus subtilis)は、納豆菌(Bacillus subtilis natto)であることを特徴とする、請求項8〜11のいずれか一項に記載の薬学的組成物。
【請求項13】
前記小胞は、前記バチルス属細菌の培養液からの分離物であることを特徴とする、請求項8〜12のいずれか一項に記載の薬学的組成物。
【請求項14】
前記小胞は、前記バチルス属細菌を添加して培養した食品からの分離物であることを特徴とする、請求項8〜12のいずれか一項に記載の薬学的組成物。
【請求項15】
前記小胞は、平均直径が10〜1,000nmであることを特徴とする、請求項8〜14のいずれか一項に記載の薬学的組成物。
【請求項16】
バチルス属細菌由来小胞を有効成分として含み、前記バチルス属細菌は、枯草菌(Bacillus subtilis)であることを特徴とする、炎症疾患改善用健康機能性食品組成物。
【請求項17】
前記炎症疾患は、喘息、慢性肝炎、脱毛、関節リウマチ、炎症性腸炎、およびアトピー皮膚炎よりなる群から選ばれることを特徴とする、請求項16に記載の健康機能性食品組成物。
【請求項18】
前記小胞は、前記バチルス属細菌の培養液からの分離物であることを特徴とする、請求項16または17に記載の健康機能性食品組成物。
【請求項19】
前記小胞は、前記バチルス属細菌を添加して培養した食品からの分離物であることを特徴とする、請求項16または17に記載の健康機能性食品組成物。
【請求項20】
前記枯草菌(Bacillus subtilis)は、納豆菌(Bacillus subtilis natto)であることを特徴とする、請求項16〜19のいずれか一項に記載の健康機能性食品組成物。
【請求項21】
バチルス属細菌由来小胞を有効成分として含み、前記バチルス属細菌は、枯草菌(Bacillus subtilis)であることを特徴とする、炎症疾患の予防または治療用吸入剤組成物。
【請求項22】
前記枯草菌(Bacillus subtilis)は、納豆菌(Bacillus subtilis natto)であることを特徴とする、請求項21に記載の吸入剤組成物。
【請求項23】
バチルス属細菌由来小胞を有効成分として含み、前記バチルス属細菌は、枯草菌(Bacillus subtilis)であることを特徴とする、炎症疾患改善用化粧料組成物。
【請求項24】
前記炎症疾患は、アトピー皮膚炎、脱毛、乾癬、脂漏性皮膚炎、およびにきびよりなる群から選ばれる疾患であることを特徴とする、請求項23に記載の化粧料組成物。
【請求項25】
前記枯草菌(Bacillus subtilis)は、納豆菌(Bacillus subtilis natto)であることを特徴とする、請求項23または24に記載の化粧料組成物。
【請求項26】
枯草菌(Bacillus subtilis)由来小胞の、炎症疾患の予防または治療用の組成物の製造のための使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、バチルス属細菌由来ナノ小胞およびその用途に関し、より具体的に、バチルス属細菌に由来するナノ小胞を利用した癌、炎症疾患、または代謝疾患の診断方法、および前記小胞を含む予防または治療用組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
21世紀に入って、過去伝染病と認識された急性感染性疾患の重要性が減少するのに対し、疾病のパターンがヒトとマイクロバイオームとの不調和により発生する慢性疾患が生活の質と人間の寿命を決定する主な疾患へと変わった。前記慢性疾患は、免疫機能の異常を伴った慢性炎症を特徴とし、癌、慢性炎症疾患、代謝疾患等が国民保健に大きな問題になっている。
【0003】
炎症(Inflammation)は、細胞および組織の損傷や感染に対する局部的または全身的な防御機序であり、主に免疫系をなす体液性媒介体(humoral mediator)が直接反応したり、局部的または全身的作動システム(effector system)を刺激することにより起こる連鎖的な生体反応により誘発される。主な炎症性疾患としては、胃炎、炎症性腸炎等の消化器疾患、歯周炎等の口腔疾患、喘息、慢性閉鎖性肺疾患(COPD)、鼻炎等の呼吸器疾患、アトピー皮膚炎、脱毛、乾癬等の皮膚疾患、退行性関節炎、関節リウマチ等のような関節炎;および肥満、糖尿病、肝硬変等の代謝疾患が含まれる。また、多様な研究を通じて持続的な炎症が癌を誘発することができるという結果が報告されてきた(Cancers 2014,6,926−957)。
【0004】
人体に共生する微生物は、100兆に達してヒト細胞より10倍多く、微生物の遺伝子数は、ヒト遺伝子数の100倍を超えることが知られている。微生物叢(microbiotaあるいはmicrobiome)は、与えられた居住地に存在する真正細菌(bacteria)、古細菌(archaea)、真核生物(eukarya)を含む微生物群集(microbial community)を言い、腸内微生物叢は、ヒトの生理現象に重要な役割をし、人体細胞と相互作用を通じてヒトの健康と疾病に大きい影響を及ぼすことが知られている。
【0005】
人体に共生する真正細菌および古細菌は、他の細胞への遺伝子、タンパク質等の情報を交換するために、ナノメートルサイズの小胞(vesicle)を分泌する。粘膜は、200ナノメートル(nm)サイズ以上の粒子は通過できない物理的な防御膜を形成して、粘膜に共生する細菌である場合には、粘膜を通過しないが、細菌由来小胞は、サイズが略100ナノメートルサイズ以下であるので、比較的自由に粘膜を通じて上皮細胞を通過して人体に吸収される。人体に吸収される病原性細菌由来小胞は、アトピー皮膚炎のような炎症性皮膚疾患、慢性鼻炎、喘息、慢性閉鎖性肺疾患(COPD)等の炎症性呼吸器疾患、潰瘍性大腸炎、クローン病等の炎症性腸疾患等のような炎症性疾患の病因に重要な因子であることが明らかにされている。また、糖尿病、肥満等の代謝疾患、および肺癌、胃癌、大腸癌等の固形癌の発生とも緊密な関係があることが最近明らかにされて、注目を受けている。しかしながら、まだ臨床サンプルでバチルス属細菌由来小胞を定量して、癌、慢性炎症疾患、または代謝疾患を診断する事例は全然ないのが現況である。
【0006】
バチルス属細菌は、フィルミクテス門に属するグラム陽性桿菌であって、好気性環境だけでなく、嫌気性環境でも成長し、ストレス状況では、胞子を形成して、長期間生存することができる。バチルス属細菌のうち枯草菌(Bacillus subtilis)は、非病原性、好気性環境で成長することができ、空気中はもちろん、枯れ草、下水、土壌、塵埃等自然系に広く分布するグラム陽性桿菌である。また、枯草菌の亜型である納豆菌(Bacillus subtilis natto)は、嫌気性環境でも成長することができ、稲の藁に多く生息し、清麹醤(チョングクチャン)を作るとき、稲の藁を配置し、40℃近くまで熱が形成された状態で空気が遮断されながら大量増殖する。清麹醤は、豆を発酵させて作った韓国伝統料理であって、日本国の納豆と類似している。味噌は、発酵させて食べるまで数ヶ月がかかるが、清麹醤は、漬けて2〜3日なら食べることができる。すなわち、豆発酵食品類のうち最も短い期日に作ることができるものが清麹醤である。自然発酵による清麹醤は、味噌玉麹豆を10〜20時間お湯にふやかして水を注いでじっくり煮込んで柔らかく熟した後、保温だけで発酵させたものである。容器に稲の藁を数本ずつ敷いて入れて60℃まで冷ました後、暖かいところに配置し、毛布やふとんをかぶせて45℃に保温すると、納豆菌等の枯草菌が繁殖して発酵物質に変わる。
【0007】
慢性炎症疾患を治療または予防するために使用されている一般的な組成物としては、大きく、ステロイド性および非ステロイド性組成物に区分され、このうち大部分が様々な副作用を伴う場合が多い。また、関節リウマチ、脱毛、炎症性腸炎等の炎症疾患の病因にTNF−αの重要性が強調されており、関節リウマチの治療剤としてTNF−αの抑制剤が注目を受けている。しかしながら、未だバチルス属細菌あるいは枯草菌から分泌される小胞内遺伝子の定量を通じて癌、慢性炎症疾患、または代謝疾患を診断するか、または前記小胞を通じて炎症疾患の予防、または治療のために用いられた場合はないのが現況である。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明者らは、前記のような従来の問題点を解決するために鋭意研究した結果、ヒトのサンプル内に存在する細菌由来小胞メタゲノム分析を通じて正常なヒトに比べて肝癌、膀胱癌、乳癌、卵巣癌等の固形癌、喘息、アトピー皮膚炎等の慢性炎症疾患、および糖尿病、肝硬変等の代謝疾患患者由来サンプルでバチルス属細菌由来小胞の含量が顕著に減少していることを確認し、バチルス属細菌、特に枯草菌を体外で培養して小胞を分離して、小胞の治療効能を評価した結果、抗炎症効果に優れていることを確認したところ、これに基づいて本発明を完成した。
【0009】
これより、本発明は、癌、慢性炎症疾患、および代謝疾患の診断のための情報提供方法を提供することを目的とする。
【0010】
また、本発明は、バチルス属細菌由来小胞を有効成分として含む、癌、慢性炎症疾患、および代謝疾患の予防または治療用組成物を提供することを他の目的とする。
【0011】
しかしながら、本発明が達成しようとする技術的課題は、以上で言及した課題に制限されず、言及されていない他の課題は、下記の記載から当業者に明確に理解することができる。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記のような本発明の目的を達成するために、本発明は、下記のステップを含む、癌、慢性炎症疾患、または代謝疾患の診断のための情報提供方法を提供する。
(a)正常なヒトおよび被検者由来サンプルから分離した小胞からDNAを抽出するステップ;
(b)前記抽出したDNAに対して16S rDNA配列に存在するバチルス属細菌由来小胞検出プライマー対を利用してPCRを行って、それぞれのPCR産物を収得するステップ;および
(c)前記PCR産物の定量分析を通じて正常なヒトに比べてバチルス属細菌由来小胞の含量が低い場合、癌、炎症疾患、または代謝疾患と判定するステップ。
【0013】
本発明の一具現例において、前記癌は、肝癌、膀胱癌、乳癌、または卵巣癌であってもよい。
【0014】
本発明の他の具現例において、前記慢性炎症疾患は、喘息、慢性肝炎、またはアトピー皮膚炎であってもよい。
【0015】
本発明のさらに他の具現例において、前記代謝疾患は、糖尿病または肝硬変であってもよい。
【0016】
本発明のさらに他の具現例において、前記患者由来サンプルは、血液、尿、または糞便であってもよい。
【0017】
また、本発明は、バチルス属細菌由来小胞を有効成分として含む、癌、炎症疾患、または代謝疾患の予防または治療用薬学的組成物を提供する。
【0018】
本発明の一具現例において、バチルス属細菌由来小胞を有効成分として含む、癌、炎症疾患、または代謝疾患改善用健康機能性食品組成物を提供する。
【0019】
本発明の他の具現例において、バチルス属細菌由来小胞を有効成分として含む、癌、炎症疾患、または代謝疾患の予防または治療用吸入剤組成物を提供する。
【0020】
本発明の他の具現例において、バチルス属細菌由来小胞を有効成分として含む、炎症疾患改善用化粧料組成物を提供する。
【0021】
本発明の他の具現例において、前記バチルス属細菌由来小胞は、枯草菌(Bacillus subtilis)由来小胞であってもよい。
【0022】
本発明の他の具現例において、前記枯草菌由来小胞は、納豆菌由来小胞であってもよい。
【0023】
本発明の他の具現例において、前記癌は、肝癌、膀胱癌、乳癌、および卵巣癌よりなる群から選ばれ;前記炎症疾患は、喘息、慢性肝炎、脱毛、関節リウマチ、炎症性腸炎、およびアトピー皮膚炎よりなる群から選ばれ;前記代謝疾患は、糖尿病または肝硬変であってもよい。
【0024】
本発明の他の具現例において、前記炎症疾患は、炎症性サイトカインであるIL−6またはTNF−αが病因に関与する関節リウマチ、脱毛、炎症性腸炎よりなる群から選ばれる一つ以上の疾患であってもよい。
【0025】
本発明の他の具現例において、前記小胞は、平均直径が10〜200nmであるものであってもよい。
【0026】
本発明の他の具現例において、前記小胞は、バチルス属細菌から自然的にまたは人工的に分泌されるものであってもよい。
【0027】
本発明の他の具現例において、前記小胞は、バチルス属細菌の培養液から分離されるものであってもよい。
【0028】
また、本発明は、バチルス属細菌由来小胞を有効成分として含む薬学的組成物を個体に投与するステップを含む、癌、炎症疾患、または代謝疾患の予防または治療方法を提供する。
【0029】
また、本発明は、バチルス属細菌由来小胞の、炎症疾患の予防または治療用途を提供する。
【発明の効果】
【0030】
本発明者らは、腸内細菌である場合には、体内に吸収されないが、細菌由来小胞である場合には、体内に吸収されて、全身的に分布し、腎臓、肝、肺を通じて体外に排泄されることを確認し、患者の血液、尿、糞便等に存在する細菌由来小胞メタゲノム分析を通じて肝癌、膀胱癌、乳癌、卵巣癌等の固形癌、喘息、アトピー皮膚炎等の慢性炎症疾患、糖尿病、肝硬変等の代謝疾患患者の血液に存在するバチルス属細菌由来小胞が正常なヒトに比べて有意に減少していることを確認した。
【0031】
また、プロテウス属細菌の一種である枯草菌標準菌株および枯草菌の亜型である納豆菌を体外で培養して小胞を分離して、体外で炎症細胞に投与したとき、病原性小胞による炎症媒介体の分泌を有意に抑制することを観察したところ、本発明によるバチルス属細菌由来小胞は、癌、慢性炎症疾患、または代謝疾患の診断または予測方法、および食品、吸入剤、化粧品、あるいは、薬物等の予防用あるいは治療用組成物に有用に用いられる。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【
図1a】
図1aは、マウスに細菌と細菌由来小胞(EV)を口腔で投与した後、時間別に細菌と小胞の分布様相を撮影した写真である。
【
図1b】
図1bは、口腔で投与した後12時間目に、血液、腎臓、肝、および様々な臓器を摘出して、細菌と小胞の体内分布様相を評価した図である。
【
図2】
図2は、人体由来物で細菌由来小胞メタゲノム分析方法を模式化した図である。
【
図3】
図3は、肝癌患者および正常なヒトの血液に存在する細菌由来小胞メタゲノム分析を実施した後、バチルス属細菌由来小胞の分布を比較した結果である。
【
図4】
図4は、膀胱癌患者および正常なヒトの血液に存在する細菌由来小胞メタゲノム分析を実施した後、バチルス属細菌由来小胞の分布を比較した結果である。
【
図5】
図5は、乳癌患者および正常なヒトの血液に存在する細菌由来小胞メタゲノム分析を実施した後、バチルス属細菌由来小胞の分布を比較した結果である。
【
図6】
図6は、卵巣癌患者および正常なヒトの血液に存在する細菌由来小胞メタゲノム分析を実施した後、バチルス属細菌由来小胞の分布を比較した結果である。
【
図7】
図7は、喘息患者および正常なヒトの血液に存在する細菌由来小胞メタゲノム分析を実施した後、バチルス属細菌由来小胞の分布を比較した結果である。
【
図8】
図8は、アトピー皮膚炎患者および正常なヒトの血液に存在する細菌由来小胞メタゲノム分析を実施した後、バチルス属細菌由来小胞の分布を比較した結果である。
【
図9】
図9は、糖尿病患者および正常なヒトの血液に存在する細菌由来小胞メタゲノム分析を実施した後、バチルス属細菌由来小胞の分布を比較した結果である。
【
図10】
図10は、肝硬変患者および正常なヒトの血液に存在する細菌由来小胞メタゲノム分析を実施した後、バチルス属細菌由来小胞の分布を比較した結果である。
【
図11】
図11は、糖尿病患者および正常なヒトの血液に存在する細菌由来小胞メタゲノム分析を実施した後、エシェリキア属細菌由来小胞の分布を比較した結果である。
【
図12a】
図12aは、枯草菌培養液から超遠心分離法で分離した小胞に対して電子顕微鏡(a)を通じて枯草菌由来小胞の形態およびサイズを測定した結果である。
【
図12b】
図12bは、枯草菌培養液から超遠心分離法で分離した小胞に対して動的光散乱法(b)を通じて枯草菌由来小胞の形態およびサイズを測定した結果である。
【
図13a】
図13aは、癌、炎症疾患、代謝疾患に原因因子である大腸菌由来小胞(E.coli EV)を陽性対照群とし、枯草菌標準菌株由来小胞(Bacillus subtilis EV)および納豆菌由来小胞(Bacillus subtilis natto EV)をマクロファージ細胞株(Raw 264.7)に多様な濃度で処理した後、炎症媒介体であるIL−6の濃度をELISA法で測定して、炎症媒介体の分泌程度を比較した結果である[NC:陰性対照群(PBS)、EV:細胞外小胞]。
【
図13b】
図13bは、癌、炎症疾患、代謝疾患に原因因子である大腸菌由来小胞(E.coli EV)を陽性対照群とし、枯草菌標準菌株由来小胞(Bacillus subtilis EV)および納豆菌由来小胞(Bacillus subtilis natto EV)をマクロファージ細胞株(Raw 264.7)に多様な濃度で処理した後、炎症媒介体であるTNF−αの濃度をELISA法で測定して、炎症媒介体の分泌程度を比較した結果である[NC:陰性対照群(PBS)、EV:細胞外小胞]。
【
図14a】
図14aは、枯草菌標準菌株および枯草菌納豆菌ジュ(納豆菌)由来小胞の抗炎症効果を評価するためのものとして、マクロファージ細胞株(Raw 264.7)に対照薬物としてラクトバチルスプランタラム由来小胞(L.plantarum EV)、枯草菌標準菌株由来小胞(Bacillus subtilis EV)、および納豆菌由来小胞(Bacillus subtilis natto EV)を前処理し、12時間後に炎症誘発の原因因子として大腸菌由来小胞を処理した後、ELISA法でIL−6の濃度を測定した結果である[NC:陰性対照群(PBS)、PC:陽性対照群、EV:細胞外小胞]。
【
図14b】
図14bは、枯草菌標準菌株および枯草菌納豆菌株(納豆菌)由来小胞の抗炎症効果を評価するためのものであって、マクロファージ細胞株(Raw 264.7)に対照薬物としてラクトバチルスプランタラム由来小胞(L.plantarum EV)、枯草菌標準菌株由来小胞(Bacillus subtilis EV)、および納豆菌由来小胞(Bacillus subtilis natto EV)を前処理し、12時間後に炎症誘発の原因因子として大腸菌由来小胞を処理した後ELISA法でTNF−αの濃度を測定した結果である[NC:陰性対照群(PBS)、PC:陽性対照群、EV:細胞外小胞]。
【発明を実施するための形態】
【0033】
本発明は、バチルス属細菌由来小胞およびその用途に関する。
【0034】
本発明者らは、メタゲノム分析を通じて正常なヒトに比べて肝癌、膀胱癌、乳癌、卵巣癌等の固形癌、喘息、アトピー皮膚炎等の慢性炎症疾患、糖尿病、肝硬変等の代謝疾患患者由来サンプルでバチルス属細菌由来小胞の含量が顕著に減少していることを確認し、また、バチルス属細菌に属する枯草菌標準菌株および枯草菌の亜型である納豆菌由来小胞を分離して炎症細胞に投与したとき、病原性小胞である大腸菌由来小胞による炎症反応を効率的に抑制することを確認したところ、これに基づいて本発明を完成した。
【0035】
これにより、本発明は、下記のステップを含む癌、慢性炎症疾患、および代謝疾患の診断のための情報提供方法を提供する。
(a)正常なヒトおよび被検者由来サンプルから分離した小胞からDNAを抽出するステップ;
(b)前記抽出したDNAに対して16S rDNA配列に存在するバチルス属細菌由来小胞検出プライマー対を利用してPCRを行って、それぞれのPCR産物を収得するステップ;および
(c)前記PCR産物の定量分析を通じて正常なヒトに比べてバチルス属細菌由来小胞の含量が低い場合、癌、炎症疾患、または代謝疾患と判定するステップ。
【0036】
また、本発明者らは、メタゲノム分析を通じて正常なヒトに比べて糖尿病患者由来サンプルでエシェリキア属細菌由来小胞の含量が顕著に増加していることを確認したところ、本発明は、下記のステップを含む糖尿病の診断のための情報提供方法を提供する。
(a)正常なヒトおよび被検者由来サンプルから分離した小胞からDNAを抽出するステップ;
(b)前記抽出したDNAに対して16S rDNA配列に存在するエシェリキア属細菌由来小胞検出プライマー対を利用してPCRを行って、それぞれのPCR産物を収得するステップ;および
(c)前記PCR産物の定量分析を通じて正常なヒトに比べてエシェリキア属細菌由来小胞の含量が高い場合、糖尿病と判定するステップ。
【0037】
本発明で使用される用語「診断」とは、広い意味では、患者の病の実態をすべての面にわたって判断することを意味する。判断の内容は、病名、病因、病型、軽重、病床の詳細な様態、合併症の有無、および予後等である。本発明で診断は、癌、慢性炎症疾患、または代謝疾患の発病の有無および疾患の水準等を判断することである。
【0038】
また、本発明の他の様態として、本発明は、バチルス属細菌由来小胞を有効成分として含む、癌、慢性炎症疾患、または代謝疾患の予防または治療用食品、化粧品、吸入剤、または薬物組成物を提供する。
【0039】
本発明で使用される用語「予防」とは、本発明による食品、化粧品、吸入剤、または薬物組成物の投与により、癌、慢性炎症疾患、または代謝疾患を抑制させたり発病を遅延させるすべての行為を意味する。
【0040】
本発明で使用される用語「治療」とは、本発明による食品、化粧品、吸入剤、または薬物組成物の投与により癌、慢性炎症疾患、または代謝疾患に対する症状が好転したり有利に変更されるすべての行為を意味する。
【0041】
本発明の前記バチルス属細菌由来小胞は、バチルス属細菌培養液またはバチルス属細菌で発酵させた食品から分離することができ、好ましくは枯草菌または納豆菌の培養液または枯草菌または納豆菌で発酵させた食品から分離することができ、枯草菌または納豆菌から自然的または人工的に分泌されたものであってもよいが、これらに制限されるものではない。
【0042】
本発明の前記バチルス属細菌の培養液または醗酵食品から小胞を分離する方法は、小胞を含めば、特に制限されない。例えば、遠心分離、超高速遠心分離、フィルターによる濾過、ゲル濾過クロマトグラフィー、フリーフロー電気泳動、またはキャピラリー電気泳動等の方法、およびこれらの組合せを利用して小胞を分離することができ、また、不純物の除去のための洗浄、収得された小胞の濃縮等の過程をさらに含むことができる。
【0043】
本発明で前記方法により分離した小胞は、平均直径が10〜1,000nmであってもよく、より好ましくは40〜100nmであってもよいが、これらに制限されるものではない。
【0044】
本発明による薬学的組成物は、バチルス属細菌由来小胞を有効成分として含み、薬学的に許容可能な担体を含むことができる。前記薬学的に許容可能な担体は、製剤の際に通常的に用いられるものであって、食塩水、滅菌水、リンガー液、緩衝食塩水、シクロデキストリン、デキストロース溶液、マルトデキストリン溶液、グリセロール、エタノール、リポソーム等を含むが、これらに限定されず、必要に応じて抗酸化剤、緩衝液等他の通常の添加剤をさらに含むことができる。また、希釈剤、分散剤、界面活性剤、結合剤、潤滑剤等を付加的に添加して、水溶液、懸濁液、乳濁液等のような注射用の剤形、丸薬、カプセル、顆粒、または錠剤に製剤化することができる。適切な薬学的に許容される担体および製剤化に関しては、レミントンの文献に開示されている方法を利用して各成分に応じて好ましく製剤化することができる。本発明の薬学的組成物は、剤形に特別な制限はないが、注射剤、吸入剤、皮膚外用剤、または経口摂取剤等に製剤化することができる。
【0045】
本発明の薬学的組成物は、目的とする方法により経口投与したり、非経口投与(例えば、静脈内、皮下、皮膚、鼻腔、気道に適用)することができ、投与量は、患者の状態および体重、疾病の程度、薬物の形態、投与の経路および時間によって異なるが、当業者により適切に選択することができる。
【0046】
本発明の薬剤学的組成物は、薬学的に有効な量で投与する。本発明において「薬学的に有効な量」は、医学的治療に適用可能な合理的な恩恵/リスクの比率で疾患を治療するのに十分な量を意味し、有効用量のレベルは、患者の疾患の種類、重症度、薬物の活性、薬物に対する敏感度、投与時間、投与経路および排出の比率、治療期間、同時に用いられる薬物を含む要素およびその他医学分野によく知られている要素に応じて決定することができる。本発明による薬学的組成物は、個々の治療剤として投与したり、他の治療剤と併用して投与することができ、従来の治療剤とは、順次または同時に投与することができ、単一または多重投与することができる。上記の要素をすべて考慮して副作用なしに最小限の量で最大の効果を得ることができる量を投与することが重要であり、これは、当業者により容易に決定することができる。
【0047】
具体的に、本発明の薬剤学的組成物の有効量は、患者の年齢、性別、体重によって異なってもよく、一般的には、体重1kg当たり0.001〜150mg、好ましくは0.01〜100mgを毎日または隔日投与したり、1日に1〜3回に分けて投与することができる。しかしながら、投与経路、肥満の重症度、性別、体重、年齢等によって増減することができるので、前記投与量がどのような方法でも、本発明の範囲を限定するものではない。
【0048】
本発明の他の様態として、本発明は、バチルス属細菌由来小胞を有効成分として含む癌、炎症疾患、または代謝疾患改善用健康機能性食品組成物を提供する。
【0049】
本発明で使用される用語「改善」とは、治療される状態と関連したパラメーター、例えば症状の程度を少なくとも減少させるすべての行為を意味する。
【0050】
本発明の健康機能食品組成物において有効成分を食品にそのまま添加したり他の食品または食品成分と共に使用することができ、通常の方法により適切に使用することができる。有効成分の混合量は、その使用目的(予防または改善用)によって適切に決定することができる。一般的に、食品または飲料の製造時に本発明の組成物は、原料に対して15重量%以下、好ましくは10重量%以下の量で添加される。しかしながら、健康および衛生を目的としたりまたは健康調節を目的とする長期間の摂取の場合には、前記量は、前記範囲以下であってもよい。
【0051】
本発明の健康機能食品組成物は、指示された割合で必須成分として前記有効成分を含有するもの以外に、他の成分には特別な制限がなく、通常の飲料のように様々な香味剤または天然炭水化物等を追加成分として含有することができる。上述した天然炭水化物の例としては、モノサッカライド、例えば、ブドウ糖、果糖等;ジサッカライド、例えばマルトース、スクロース等;およびポリサッカライド、例えばデキストリン、シクロデキストリン等のような通常の糖、およびキシリトール、ソルビトール、エリトリトール等の糖アルコールである。上述したもの以外の香味剤として、天然香味剤(タウマチン、ステビア抽出物(例えばレバウジオシドA、グリシルリジン等)および合成香味剤(サッカリン、アスパルタム等)を有利に使用することができる。前記天然炭水化物の割合は、当業者の選択によって適切に決定することができる。
【0052】
上記以外に本発明の健康機能食品組成物は、様々な栄養剤、ビタミン、ミネラル(電解質)、合成風味剤および天然風味剤等の風味剤、着色剤および増進剤(チーズ、チョコレート等)、ペクチン酸およびその塩、アルギン酸およびその塩、有機酸、保護性のコロイド増粘剤、pH調節剤、安定化剤、防腐剤、グリセリン、アルコール、炭酸飲料に使用される炭酸化剤等を含有することができる。このような成分は、独立的に、または組み合わせて使用することができる。このような添加剤の割合も、当業者によって適切に選択することができる。
【0053】
本発明のさらに他の様態として、本発明は、バチルス属細菌由来小胞を有効成分として含む炎症疾患の予防または治療用吸入剤組成物を提供する。
【0054】
本発明の吸入剤組成物において有効成分を吸入剤にそのまま添加したり、他の成分と一緒に使用することができ、通常の方法により適切に使用することができる。有効成分の混合量は、その使用目的(予防または治療用)に応じて適切に決定することができる。
【0055】
本発明のさらに他の様態として、本発明は、バチルス属細菌由来小胞を有効成分として含む、炎症疾患または脱毛改善用化粧料組成物を提供する。
【0056】
本発明の前記化粧料組成物は、バチルス属細菌由来小胞だけでなく、化粧料組成物に通常用いられる成分を含むことができる、例えば、抗酸化剤、安定化剤、溶解化剤、ビタミン、顔料、および香料のような通常の補助剤、そして担体を含むことができる。
【0057】
また、本発明の組成物は、バチルス属細菌由来小胞以外に、バチルス属細菌由来小胞と反応して皮膚保護効果を損傷させない限度で従来から使用されてきた有機紫外線遮断剤を混合して使用することもできる。前記有機紫外線遮断剤としては、グリセリルPABA、ドロメトリゾールトリシロキサン、ドロメトリゾール、ジガロイルトリオレエート、フェニルジベンズイミダゾールテトラスルホン酸二ナトリウム、ジエチルヘキシルブタミドトリアゾン、ジエチルアミノヒドロキシベンゾイル安息香酸ヘキシル、メトキシケイヒ酸DEA、ローソンとジヒドロキシアセトンの混合物、メチレンビスベンゾトリアゾリルテトラメチルブチルフェノール、4−メチルベンジリデンカンファー、アントラニル酸メチル、ベンゾフェノン−3(オキシベンゾン)、ベンゾフェノン−4、ベンゾフェノン−8(ジオキシベンゾン)、ブチルメトキシジベンゾイルメタン、ビスエチルヘキシルオキシフェノールメトキシフェニルトリアジン、シノキセート、エチルジヒドロキシプロピルPABA、オクトクリレン、ジメチルPABAエチルヘキシル、メトキシケイヒ酸エチルヘキシル、サリチル酸エチルヘキシル、エチルヘキシルトリアゾン、パラメトキシケイヒ酸イソアミル、ポリシリコーン−15(ジメチコジエチルベンザルマロネート)、テレフタリリデンジカンフルスルホン酸およびその塩類、サリチル酸TEAおよびアミノ安息香酸(PABA)よりなる群から選ばれる1種以上を使用することができる。
【0058】
本発明の化粧料組成物を添加できる製品としては、例えば、収れん化粧水、柔軟化粧水、栄養化粧水、各種クリーム、エッセンス、パック、ファンデーション等のような化粧品類とクレンジング、洗顔料、石鹸、トリートメント、美容液等がある。本発明の化粧料組成物の具体的な剤形としては、スキンローション、スキンソフナー、スキントナー、アストリンゼント、ローション、ミルクローション、モイスチャーローション、栄養ローション、マッサージクリーム、栄養クリーム、モイスチャークリーム、ハンドクリーム、エッセンス、栄養エッセンス、パック、石鹸、シャンプー、クレンジングフォーム、クレジングローション、クレンジングクリーム、ボディーローション、ボディークレンザー、乳液、リップスティック、メイクアップベース、ファンデーション、プレスパウダー、ルースパウダー、アイシャドウ等の剤形を含む。
【0059】
本発明の好ましい具現例によれば、本発明のバチルス属細菌由来小胞の含量は、組成物の総重量に対して0.00001〜30重量%であり、好ましくは0.5〜20%であり、より好ましくは1.0〜10重量%である。前記バチルス属細菌由来小胞の含量が0.00001重量%未満なら紫外線吸収効果が大きく減少し、30重量%を超過する場合には、皮膚刺激を招くことがあり、剤形上の問題点が発生し得る。
【0060】
本発明のさらに他の様態として、本発明は、バチルス属細菌由来小胞を有効成分として含む組成物を個体に投与するステップを含む、癌、炎症疾患、または代謝疾患の予防または治療方法を提供する。
【0061】
本発明で「個体」とは、疾病の治療を必要とする対象を意味し、より具体的には、ヒトまたは非ヒトである霊長類、マウス、ラット、犬、猫、馬、および牛等の哺乳類を意味する。
【0062】
本発明の診断対象疾病である癌(cancer)は、周囲組織に浸潤しつつ速く成長し、身体の各部位に拡散したり、転移して、生命を威嚇する悪性腫瘍(malignant tumor)を意味する。身体を構成する最も小さい単位である細胞(cell)は、正常的には細胞自体の調節機能により分裂および成長し、寿命が尽きるか、損傷すると、自ら死滅して全般的な数の均衡を維持するが、様々な原因によりこのような細胞自体の調節機能に問題が生ずると、正常的には死滅しなければならない非正常細胞が過多増殖することになり、周囲組織および臓器に侵入して腫塊を形成し、既存の構造を破壊したり変形させることになる。本発明において、癌は、好ましくは肝癌、膀胱癌、乳癌、または卵巣癌であってもよいが、これらに制限されるものではない。
【0063】
本発明で使用される用語「炎症疾患(inflammatory disease)」は、哺乳動物体内の炎症反応により誘発される疾患を意味し、代表的な例としては、喘息、慢性閉鎖性肺疾患、鼻炎等の呼吸器系炎症疾患;アトピー皮膚炎、乾癬、にきび、接触皮膚炎、脱毛等の皮膚炎症疾患;胃炎、消化器潰瘍、炎症性腸炎等の消化器炎症疾患;膣炎;骨関節炎、関節リウマチ等の関節炎;およびその合併症等を含む。また、前記炎症性疾患は、一般的な炎症性疾患以外にも、炎症反応に関連した癌を含む意味に使用され、例えば、乳癌、卵巣癌、膀胱癌、肝癌等を含む。また、前記炎症性疾患は、一般的な炎症性疾患以外にも、炎症反応に関連した代謝疾患を含む意味に使用され、例えば、糖尿病、肥満、肝硬変等を含む。本発明において、慢性炎症疾患は、好ましくは喘息、慢性肝炎、脱毛、またはアトピー皮膚炎を意味するが、これらに制限されるものではない。
【0064】
本発明で使用される用語「代謝疾患(metabolic disease)」は、哺乳動物の体内で代謝障害により様々な臓器に合併症が発生する疾患を意味し、例えば、糖尿のような炭水化物代謝障害およびその合併症として肝硬変等を含み、本発明において、代謝疾患は、好ましくは糖尿病および肝硬変を含むが、これらに制限されるものではない。
【0065】
本発明で使用される用語「ナノ小胞(Nanovesicle)」あるいは「小胞(Vesicle)」とは、多様な細菌から分泌されるナノサイズの膜からなる構造物を意味する。グラム陰性細菌(gram−negative bacteria)由来小胞、または外膜小胞体(outer membrane vesicles,OMVs)は、内毒素(リポ多糖)だけでなく、毒性タンパク質および細菌DNAとRNAも有しており、グラム陽性細菌(gram−positive bacteria)由来小胞は、タンパク質と核酸の他にも、細菌の細胞壁構成成分であるペプチドグリカンとリポタイコ酸も有している。本発明において、ナノ小胞あるいは小胞は、バチルス属細菌から自然的に分泌されたりまたは人工的に生産するものであり、球形の形態であり、10〜200nmの平均直径を有している。
【0066】
本発明で使用される用語「メタゲノム」とは、「群遺伝体」とも言い、土、動物の腸等孤立した地域内のすべてのウイルス、細菌、かび等を含む遺伝体の総合を意味するものであり、主に培養にならない微生物を分析するために配列分析器を使用して一度に多くの微生物を同定することを説明する遺伝体の概念として使用される。特に、メタゲノムは、一種のゲノム、遺伝体を言うものではなく、一つの環境単位のすべての種の遺伝体であって、一種の混合遺伝体をいう。これは、オミックス的に生物学が発展する過程で一種を定義するとき、機能的に既存の一種だけでなく、多様な種が互いに相互作用して完全な種を作るという観点から出た用語である。技術的には、迅速配列分析法を用いて、種に関係なくすべてのDNA、RNAを分析して、一つの環境内でのすべての種を同定し、相互作用、代謝作用を究明する技法の対象である。
【0067】
本発明で細菌由来小胞は、細菌を含む培養液を遠心分離、超高速遠心分離、押出、超音波分解、細胞溶解、均質化、冷凍−解凍、電気穿孔、機械的分解、化学物質処理、フィルターによる濾過、ゲル濾過クロマトグラフィー、フリーフロー電気泳動、およびキャピラリー電気泳動よりなる群から選ばれる一つ以上の方法を使用して分離することができる。また、不純物の除去のための洗浄、収得された小胞の濃縮等の過程をさらに含むことができる。
【0068】
本発明の実施例では、細菌および細菌由来小胞をマウス経口で投与して細菌および小胞の体内吸収、分布、および排泄様相を評価して、細菌である場合には、腸粘膜を通じて吸収されないのに比べて、小胞は、投与5分以内に吸収されて全身的に分布し、腎臓、肝等を通じて排泄されることを確認した(実施例1参照)。
【0069】
本発明の一実施例では、肝癌、膀胱癌、乳癌、および卵巣癌患者、および前記癌患者に年齢と性別をマッチングした正常なヒトの血液から分離した小胞を利用して細菌メタゲノム分析を実施した。その結果、正常なヒトサンプルに比べて、肝癌、膀胱癌、乳癌、および卵巣癌患者のサンプルにバチルス属細菌由来小胞が有意に減少していることを確認した(実施例3、4、5、および6参照)。
【0070】
本発明の他の実施例では、喘息およびアトピー皮膚炎患者、および前記患者の年齢および性別をマッチングした正常なヒトのサンプルから分離した小胞を利用して細菌メタゲノム分析を実施した。その結果、正常なヒトサンプルに比べて、喘息およびアトピー皮膚炎患者のサンプルにバチルス属細菌由来小胞が有意に減少していることを確認した(実施例7および8参照)。
【0071】
本発明の他の実施例では、糖尿病および肝硬変患者、および前記患者の年齢および性別をマッチングした正常なヒトのサンプルから分離した小胞を利用して細菌メタゲノム分析を実施した。その結果、正常なヒトサンプルに比べて、糖尿病および肝硬変患者のサンプルにバチルス属細菌由来小胞が有意に減少していることを確認した(実施例9および10参照)。
【0072】
本発明の他の実施例では、糖尿病患者、および年齢および性別をマッチングした正常なヒトのサンプルから分離した小胞を利用して細菌メタゲノム分析を実施した。その結果、正常なヒトサンプルに比べて、糖尿病患者のサンプルにエシェリキア属細菌由来小胞が有意に増加していることを確認した(実施例11参照)。
【0073】
また、本発明の他の実施例では、バチルス属細菌由来小胞が癌、慢性炎症疾患、および代謝疾患の原因因子により炎症反応を抑制するかを評価するために鋭意研究した結果、枯草菌(標準菌株)由来小胞および枯草菌の亜型である納豆菌由来小胞である場合、大腸菌由来小胞に比べて炎症誘発酵果が殆どなく、枯草菌または納豆菌由来小胞を前処理したとき、病原性原因因子である大腸菌由来小胞による炎症反応を効率的に抑制することを観察したところ、これに基づいて本発明を完成した(実施例13および14参照)。
【0074】
以下、本発明の理解を助けるために好ましい実施例を提示する。しかしながら、下記の実施例は、本発明をより容易に理解するために提供されるものに過ぎず、下記実施例により本発明の内容が限定されるものではない。
【実施例】
【0075】
[実施例1.細菌および細菌由来小胞の体内吸収、分布、および排泄様相分析]
バチルス属細菌および由来小胞が胃腸管を通じて全身的に吸収されるかを評価するために、次のような方法で実験を行った。マウスの胃腸に蛍光で標識した細菌と細菌由来小胞をそれぞれ50μgの用量で胃腸管で投与し、0分、5分、3時間、6時間、12時間後に蛍光を測定した。マウス全体イメージを観察した結果、細菌である場合には、全身的に吸収されなかったが、細菌由来小胞である場合には、投与後5分に全身的に吸収され、投与30分には、肝および膀胱に蛍光が濃く観察されて、小胞が肝および泌尿器系に排泄されることが分かった。また、小胞は、投与12時間まで体内に存在することが分かった(
図1a参照)。
【0076】
細菌および細菌由来小胞が全身的に吸収された後、様々な臓器に浸潤した様相を評価するために、蛍光で標識した50μgの細菌および細菌由来小胞を前記の方法のように投与した後、投与12時間後に血液、心臓、肝、腎臓、脾臓、脂肪、筋肉を採取した。採取した組織で蛍光を観察した結果、細菌由来小胞が血液、心臓、肺、肝、腎臓、脾臓、脂肪、筋肉に分布したが、細菌は吸収されないことが分かった(
図1b参照)。
【0077】
[実施例2.臨床サンプルで細菌由来小胞メタゲノム分析]
血液等の臨床サンプルをまず10mlのチューブに入れ、遠心分離法(3,500×g、10分、4℃)で浮遊物を沈殿させ、上澄み液のみを新しい10mlのチューブに移した。0.22μmのフィルターを使用して細菌および異物を除去した後、セントリプレップチューブ(centrifugal filters 50kD)に移して、1500×g、4℃で15分間遠心分離して、50kDより小さい物質は捨てて、10mlまで濃縮させた。さらに、0.22μmのフィルターを使用して細菌および異物を除去した後、小胞を分離して生理食塩水(PBS)で溶かした。
【0078】
前記方法から分離した小胞100μlを100℃で沸かして、内部のDNAを脂質外に出るようにし、その後、氷に5分間冷ました。そして、残った浮遊物を除去するために、10,000×g、4℃で30分間遠心分離し、上澄み液のみを集めた。そして、Nanodropを利用してDNA量を定量した。その後、前記抽出されたDNAに細菌由来DNAが存在するかを確認するために、下記表1に示した16s rDNAプライマーでPCRを行って、前記抽出された遺伝子に細菌由来遺伝子が存在することを確認した。
【0079】
【表1】
【0080】
前記方法で抽出したDNAを前記の16S rDNAプライマーを使用して増幅を行った後、シーケンシングを行い(Illumina MiSeq sequencer)、結果を標準フローグラム形式(Standard Flowgram Format;SFF)ファイルで出力し、GS FLX software(v2.9)を利用してSFFファイルをシーケンスファイル(.fasta)とヌクレオチドクオリティスコアファイルに変換した後、リードの信用度評価を確認し、window(20bps)平均ベースコール精度が99%未満(フレッドスコア<20)である部分を除去した。操作的分類単位(operational taxonomic unit;OTU)分析のためには、UCLUSTとUSEARCHを利用してシーケンス類似度に応じてクラスタリングを行い、属(genus)は、94%、科(family)は、90%、目(order)は、85%、綱(class)は、80%、門(phylum)は、75%シーケンス類似度を基準としてクラスタリングを行い、各OTUの門、綱、目、科、属レベルの分類を行い、BLASTNとGreenGenesの16S RNAシーケンスデータベース(108,453シーケンス)を用いて属水準で97%以上のシーケンス類似度を有する細菌をプロファイリングした(QIIME)。
【0081】
[実施例3.肝癌患者血液細菌由来小胞メタゲノム分析を通じたバチルス属細菌由来小胞の減少確認]
実施例2の方法で肝癌患者91人の血液と性別と年齢をマッチングした正常対照群99人の血液を対象に、血液内に存在する小胞から遺伝子を抽出してメタゲノム分析を行った後、バチルス属細菌由来小胞の分布を評価した。その結果、正常なヒトの血液に比べて胃癌患者の血液にバチルス属細菌由来小胞が有意に減少していることを確認した(正常なヒトvs肝癌患者:0.37%vs0.13%;倍率変化(fold change):0.37;p=0.0002)(
図3参照)。
【0082】
[実施例4.膀胱癌患者血液細菌由来小胞メタゲノム分析を通じたバチルス属細菌由来小胞の減少確認]
実施例2の方法で膀胱癌患者96人の血液と性別と年齢をマッチングした正常対照群184人の血液を対象に、血液内に存在する小胞から遺伝子を抽出してメタゲノム分析を行った後、バチルス属細菌由来小胞の分布を評価した。その結果、正常なヒトの血液に比べて膀胱癌患者の血液にバチルス属細菌由来小胞が有意に減少していることを確認した(正常なヒトvs膀胱癌患者:0.38%vs0.10%;倍率変化:0.27;p=0.001)(
図4参照)。
【0083】
[実施例5.乳癌患者血液細菌由来小胞メタゲノム分析を通じたバチルス属細菌由来小胞の減少確認]
実施例2の方法で乳癌患者96人の血液と性別と年齢をマッチングした正常対照群192人の血液を対象に、血液内に存在する小胞から遺伝子を抽出してメタゲノム分析を行った後、バチルス属細菌由来小胞の分布を評価した。その結果、正常なヒトの血液に比べて乳癌患者の血液にバチルス属細菌由来小胞が有意に減少していることを確認した(正常なヒトvs乳癌患者:0.59%vs0.26%;倍率変化:0.44;p=0.0006)(
図5参照)。
【0084】
[実施例6.卵巣癌患者血液細菌由来小胞メタゲノム分析を通じたバチルス属細菌由来小胞の減少確認]
実施例2の方法で卵巣癌患者137人の血液と性別と年齢をマッチングした正常対照群139人の血液を対象に、血液内に存在する小胞から遺伝子を抽出してメタゲノム分析を行った後、バチルス属細菌由来小胞の分布を評価した。その結果、正常なヒトの血液に比べて卵巣癌患者の血液にバチルス属細菌由来小胞が有意に減少していることを確認した(正常なヒトvs卵巣癌患者:0.61%vs0.27%;倍率変化:0.44;p=0.01)(
図6参照)。
【0085】
[実施例7.喘息患者血液細菌由来小胞メタゲノム分析を通じたバチルス属細菌由来小胞の減少確認]
実施例2の方法で喘息患者277人の血液と性別と年齢をマッチングした正常対照群246人の血液を対象に、血液内に存在する小胞から遺伝子を抽出してメタゲノム分析を行った後、バチルス属細菌由来小胞の分布を評価した。その結果、正常なヒトの血液に比べて喘息患者の血液にバチルス属細菌由来小胞が有意に減少していることを確認した(正常なヒトvs喘息患者:0.47%vs0.09%;倍率変化:0.20;p<0.000001)(
図7参照)。
【0086】
[実施例8.アトピー皮膚炎患者血液細菌由来小胞メタゲノム分析を通じたバチルス属細菌由来小胞の減少確認]
実施例2の方法でアトピー皮膚炎患者25人の血液と性別と年齢をマッチングした正常対照群138人の血液を対象に、血液内に存在する小胞から遺伝子を抽出してメタゲノム分析を行った後、バチルス属細菌由来小胞の分布を評価した。その結果、正常なヒトの血液に比べてアトピー皮膚炎患者の血液にバチルス属細菌由来小胞が有意に減少していることを確認した(正常なヒトvsアトピー皮膚炎患者:0.10%vs0.04%;倍率変化:0.44;p=0.01)(
図8参照)。
【0087】
[実施例9.糖尿病患者血液細菌由来小胞メタゲノム分析を通じたバチルス属細菌由来小胞の減少確認]
実施例2の方法で糖尿病患者73人の血液と性別と年齢をマッチングした正常対照群146人の血液を対象に、血液内に存在する小胞から遺伝子を抽出してメタゲノム分析を行った後、バチルス属細菌由来小胞の分布を評価した。その結果、正常なヒトの血液に比べて糖尿病患者の血液にバチルス属細菌由来小胞が有意に減少していることを確認した(正常なヒトvs糖尿病患者:0.46%vs0.04%;倍率変化:0.10;p<0.000001)(
図9参照)。
【0088】
[実施例10.肝硬変患者血液細菌由来小胞メタゲノム分析を通じたバチルス属細菌由来小胞の減少確認]
実施例2の方法で肝硬変患者73人の血液と性別と年齢をマッチングした正常対照群146人の血液を対象に、血液内に存在する小胞から遺伝子を抽出してメタゲノム分析を行った後、バチルス属細菌由来小胞の分布を評価した。その結果、正常なヒトの血液に比べて肝硬変患者の血液にバチルス属細菌由来小胞が有意に減少していることを確認した(正常なヒトvs肝硬変患者:0.54%vs0.25%;倍率変化:0.47;p=0.003)(
図10参照)。
【0089】
[実施例11.糖尿病患者血液細菌由来小胞メタゲノム分析を通じたエシェリキア属細菌由来小胞の増加確認]
実施例2の方法で糖尿病患者73人の血液と性別と年齢をマッチングした正常対照群146人の血液を対象に、血液内に存在する小胞から遺伝子を抽出してメタゲノム分析を行った後、エシェリキア属細菌由来小胞の分布を評価した。その結果、正常なヒトの血液に比べて糖尿病患者の血液にエシェリキア属細菌由来小胞が顕著に増加していることを確認した(正常なヒトvs糖尿病患者:0.008%vs0.8.165%;倍率変化:947.3;p<0.000001)(
図11参照)。
【0090】
[実施例12.枯草菌(Bacillus subtilis)培養液で小胞分離および特性評価]
バチルス属細菌由来小胞の特性を評価するために、枯草菌標準菌株の培養液から小胞を分離して特性を評価したところ、小胞を分離するために枯草菌を滅菌したブレインハートインフュージョン培地(BD237500)2Lに接種し、72時間の間吸光度(O.D)の値が1.5になるようにチャンバーで培養した後、培養液を20分間高速遠心分離(10,000×g)して、菌沈殿ペレットを除いた上層液を得た。上層液は、順に0.45μmのフィルターと0.22μmのフィルターを利用して濾過した後、Quixstand benchtop systemを利用して約14倍程度濃縮された培養液を得た。前記培養液に対してさらに150,000×g、4℃で2時間の間超高速遠心分離を行って、ペレットを得た後、滅菌生理食塩水(PBS)で溶かして蛋白質を定量した。
【0091】
前記方法により枯草菌培養液から収得した枯草菌由来小胞の形態およびサイズを観察および測定した。まず、小胞の形態を評価するために、タンパク質の定量により50μg/mlのサンプルを得て、JEM 1011電子顕微鏡(Jeol,Japan)で観察した結果、
図12aに示されたように、枯草菌由来小胞が球形であることを確認した。次に、50μg/mlのサンプルを有し、ゼータサイザーナノZS(Malverk,UK)を通じて動的光散乱法(dynamic light scattering;DLS)で枯草菌由来小胞のサイズを測定した結果、
図12bに示されたように、枯草菌由来小胞の平均直径が40〜100nmの範囲であることが分かった。
【0092】
[実施例13.枯草菌由来小胞と大腸菌由来小胞による炎症誘発性差異比較]
前記実施例12の方法により分離した枯草菌由来小胞の炎症誘発性を評価するために、陽性対照群として病原性原因因子である大腸菌由来小胞を利用して炎症細胞であるマクロファージ細胞株(Raw 264.7)で炎症誘発性を比較しようとした。このために、前記マクロファージ細胞株に大腸菌由来小胞(E.coli EV、1μg/ml)、または多様な濃度の枯草菌標準菌株由来小胞(Bacillus subtilis EV、0.1.1、10μg/ml)および枯草菌の亜型である納豆菌株由来小胞(Bacillus subtilis natto EV、0.1.1、10μg/ml)を処理し、12時間後に炎症性サイトカインであるIL−6およびTNF−αの濃度をELISA法で測定して、炎症誘発能力を比較した。この際、陰性対照群(NC)としては、リン酸緩衝液(PBS)を処理した。
【0093】
その結果、
図13に示されたように、大腸菌由来小胞を処理した場合には、IL−6の分泌が誘導されたが、枯草菌標準菌株由来小胞または枯草菌納豆菌株(納豆菌)由来小胞を処理した場合には、処理濃度に関係なく、IL−6の分泌が誘導されないことを確認した(
図13a参照)。また、TNF−αの分泌と関連しては、同じ濃度で大腸菌由来小胞に比べて枯草菌標準菌株由来小胞または納豆菌由来小胞によるTNF−αの分泌能が顕著に低いことを確認した(
図13b参照)。
【0094】
[実施例14.大腸菌由来小胞による炎症の発生で枯草菌由来小胞による抗炎症効果確認]
エシェリキア属細菌のうち代表的な細菌である大腸菌(Escherichia coli)は、大腸だけでなく、周辺環境に棲息する主な細菌であって、抗生剤耐性をよく起こす。また、大腸菌由来小胞が、喘息、慢性閉鎖性肺疾患(COPD)等のような慢性閉鎖性気道疾患の主な原因因子であることが明らかにされて、慢性炎症疾患の主な原因因子であると知られることになった。したがって、本発明では、大腸菌由来小胞による炎症の発生に枯草菌由来小胞の抗炎症効果を評価しようとした。このために、マクロファージ細胞株(Raw 264.7)に枯草菌標準菌株由来小胞(B.subtilis EV、0.1、1、10μg/ml)、あるいは枯草菌納豆菌株由来小胞(B.subtilis natto EV、0.1、1、10μg/ml)を処理し、12時間後に大腸菌小胞(1μg/ml)をマクロファージに処理して、炎症性サイトカインであるIL−6およびTNF−αの濃度をELISA法で測定した。この際、陰性対照群(NC)としては、前記実施例13と同一にPBSを処理し、陽性対照群(PC)としては、大腸菌由来小胞(1μg/ml)のみを処理し、比較群としては、抗炎症効果があると知られているラクトバチルスプランタラム由来小胞(Lactobacillus plantarum EV、1μg/ml)を枯草菌由来小胞と同じ条件で前処理した。
【0095】
その結果、
図14に示されたように、大腸菌由来小胞刺激によるIL−6の分泌が枯草菌標準菌株由来小胞の前処理にラクトバチルスプランタラム由来小胞と類似した程度で抑制され、枯草菌納豆菌株由来小胞の前処理によりラクトバチルスプランタラム由来小胞に比べてさらに確実に抑制された(
図14a参照)。また、ラクトバチルスプランタラム由来小胞である場合には、TNF−αの分泌が抑制されなかったが、枯草菌標準菌株および納豆菌株由来小胞により用量依存的にTNF−αの分泌を抑制することを観察した(
図14b参照)。前記結果は、IL−6およびTNF−α等の炎症媒介体により発生する炎症を枯草菌由来小胞が効率的に抑制することができることを意味するものである。
【0096】
以上述べた本発明の説明は、例示のためのものであり、本発明の属する技術分野における通常の知識を有する者は、本発明の技術的思想や必須的な特徴を変更することなく、他の具体的な形態な容易に変形が可能であることを理解することができる。したがって、以上で記述した実施例は、すべての面において例示的なものであり、限定的ではないものと理解しなければならない。
【産業上の利用可能性】
【0097】
本発明者らは、腸内細菌である場合には、体内に吸収されないが、細菌由来小胞である場合には、体内に吸収されて、全身的に分布し、腎臓、肝、肺を通じて体外に排泄されることを確認し、患者の血液、尿、糞便等に存在する細菌由来小胞メタゲノム分析を通じて肝癌、膀胱癌、乳癌、卵巣癌等の固形癌、喘息、アトピー皮膚炎等の慢性炎症疾患、糖尿病、肝硬変等の代謝疾患患者の血液に存在するバチルス属細菌由来小胞が正常なヒトに比べて有意に減少していることを確認した。
【0098】
また、プロテウス属細菌の一種である枯草菌標準菌株および枯草菌の亜型である納豆菌を体外で培養して小胞を分離して、体外で炎症細胞に投与したとき、病原性小胞による炎症媒介体の分泌を有意に抑制することを観察したところ、本発明によるバチルス属細菌由来小胞は、癌、慢性炎症疾患、または代謝疾患の診断または予測方法、および食品、吸入剤、化粧品、あるいは薬物等の予防用あるいは治療用組成物に有用に用いられる。
【配列表】
[この文献には参照ファイルがあります.J-PlatPatにて入手可能です(IP Forceでは現在のところ参照ファイルは掲載していません)]