特許第6839504号(P6839504)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 日本特殊陶業株式会社の特許一覧

<>
  • 特許6839504-圧電アクチュエータ 図000002
  • 特許6839504-圧電アクチュエータ 図000003
  • 特許6839504-圧電アクチュエータ 図000004
  • 特許6839504-圧電アクチュエータ 図000005
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6839504
(24)【登録日】2021年2月17日
(45)【発行日】2021年3月10日
(54)【発明の名称】圧電アクチュエータ
(51)【国際特許分類】
   H02N 2/04 20060101AFI20210301BHJP
   H01L 41/09 20060101ALI20210301BHJP
   H01L 41/053 20060101ALI20210301BHJP
【FI】
   H02N2/04
   H01L41/09
   H01L41/053
【請求項の数】2
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2016-154770(P2016-154770)
(22)【出願日】2016年8月5日
(65)【公開番号】特開2018-23251(P2018-23251A)
(43)【公開日】2018年2月8日
【審査請求日】2019年4月25日
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000004547
【氏名又は名称】日本特殊陶業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100114258
【弁理士】
【氏名又は名称】福地 武雄
(72)【発明者】
【氏名】柴田 清人
【審査官】 若林 治男
(56)【参考文献】
【文献】 特開2015−060982(JP,A)
【文献】 特開2014−011337(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02N 2/04
H01L 41/053
H01L 41/09
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
電圧の印加により変位する圧電アクチュエータであって、
一端に変位伝達体を有し、電圧の印加により伸縮する圧電アクチュエータ本体と、
前記圧電アクチュエータ本体の他端を支持する座と、
前記圧電アクチュエータ本体を収容し、開口部を前記座に固着された金属製のキャップと、を備え、
前記変位伝達体と前記圧電アクチュエータ本体とが接着されており、
前記変位伝達体と前記キャップの内側とが接着されることなく当接し、
前記圧電アクチュエータ本体は、予圧がかけられた状態で収容されており、
マスフローコントローラ内に捩りの力を与えて組み込まれ、前記キャップの先端が開閉弁の機構に当接することを特徴とする圧電アクチュエータ。
【請求項2】
前記予圧により、200℃以下では、前記変位伝達体が前記キャップに当接し、電圧印加に対する不感帯が生じないことを特徴とする請求項1記載の圧電アクチュエータ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電圧の印加により変位する圧電アクチュエータに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、内部電極と圧電層とが交互に積層された圧電素子を複数連結した積層型の圧電アクチュエータが知られている。積層型の圧電アクチュエータは、マスフローコントローラや位置決めステージ等に用いられ、耐湿性を保ち、耐久性を確保するために積層型の圧電素子を多連化した圧電アクチュエータ本体に金属製のキャップを被せて構成される。圧電アクチュエータ本体の先端に設けられた凸部は、キャップの先端内面に接着され、変位を外部へ伝えている(特許文献1参照)。
【0003】
これに対し、圧電アクチュエータ本体の先端に設けられた半球とキャップの先端内面を接着しないことで圧電素子に引張応力を発生させない技術も知られている(特許文献2参照)。特許文献2記載の圧電アクチュエータは、主にキャップの熱膨張を低減するために、キャップを熱膨張係数の異なる2種類の金属で構成している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平3−124669号公報
【特許文献2】特開2014−193035号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記のような圧電アクチュエータは、マスフローコントローラ等の装置に組み込まれる際に、一定の予圧がかかるように押し込みながら組み込まれる。このとき、キャップに外部応力がかかることがあり、その場合にはキャップにかかった外部応力が内部の圧電素子に伝わる。これが内部の圧電素子に伝わると圧電素子の絶縁不良のおそれが生じる。特に、ねじり応力が圧電素子に伝わると圧電素子が容易に破壊し、絶縁不良が生じうる。
【0006】
また、上記の特許文献2に記載されるように半球とキャップの先端内面を接着しない構造の圧電アクチュエータでは、キャップにかかった外部応力は内部の圧電素子に伝わらない。しかし、急速に駆動された場合には、圧電アクチュエータ本体の先端とキャップの先端内面との間に隙間が生じ、その後、両者が衝突することがある。
【0007】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであり、キャップに生じた外部応力が内部の圧電素子に伝わることを抑制し、圧電素子に応力を与えたり、その結果、絶縁破壊させたりすることを防止できる圧電アクチュエータを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
(1)上記の目的を達成するため、本発明の圧電アクチュエータは、電圧の印加により変位する圧電アクチュエータであって、一端に変位伝達体を有し、電圧の印加により伸縮する圧電アクチュエータ本体と、前記圧電アクチュエータ本体の他端を支持する座と、前記圧電アクチュエータ本体を収容し、開口部を前記座に固着された金属製のキャップと、を備え、前記変位伝達体と前記圧電アクチュエータ本体とが接着されており、前記変位伝達体と前記キャップの内側とが接着されることなく当接し、前記圧電アクチュエータ本体は、予圧がかけられた状態で収容されていることを特徴としている。
【0009】
これにより、圧電アクチュエータの装置への組み込みの際に、先端に捩りの力が加わっても変位伝達体とキャップとの間が接着されていないことから、圧電アクチュエータ本体の先端に過大な応力が残留しない。一方、キャップと変位伝達体との間に予圧がかけられていることで、駆動時にキャップと変位伝達体との間に隙間が生じない。その結果、圧電アクチュエータ本体の破壊やそれに伴う絶縁不良を防止できる。また、変位伝達体と圧電アクチュエータ本体とが接着されていることで、変位伝達体がキャップの受け部に支えられ圧電アクチュエータが両端で支持される構造が形成され、圧電アクチュエータは、横方向の衝撃による破壊やそれに伴う絶縁不良を防ぐことができる。
【0010】
(2)また、本発明の圧電アクチュエータは、前記特定の予圧により、200℃以下では、前記変位伝達体が前記キャップに当接し、電圧印加に対する不感帯が生じないことを特徴としている。これにより、駆動時にキャップと変位伝達体との間に隙間が発生するのを防止し、圧電アクチュエータ本体の破壊やそれに伴う絶縁不良を防止できる。
【0011】
(3)また、本発明の圧電アクチュエータは、マスフローコントローラ内に組み込まれ、前記キャップの先端が開閉弁の機構に当接することを特徴としている。これにより、圧電アクチュエータがマスフローコントローラ内に組み込まれる際に、圧電アクチュエータ本体の先端に捩りが加わってもその部分にかかる応力を緩和できる。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、キャップを有する積層型圧電アクチュエータにおいて、キャップに生じた外部応力が内部の圧電素子に伝わることを抑制し、圧電素子に応力を与えたり、駆動中にキャップと変位伝達体との間に隙間が生じたりしない。その結果、圧電アクチュエータ本体の絶縁破壊や、圧電アクチュエータ本体の先端とキャップとの衝突による圧電アクチュエータ本体の破損を防止できる圧電アクチュエータが得られる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】本発明の圧電アクチュエータを示す側断面図である。
図2】(a)〜(c)それぞれ温度と予圧の関係、各温度における印加電圧と変位の関係を示す図である。
図3】アルミニウム部材に先端を固定した圧電アクチュエータの斜視図である。
図4】回転トルクを与えたときの圧電素子の静電容量の変化率を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
次に、本発明の実施の形態について、図面を参照しながら説明する。説明の理解を容易にするため、各図面において同一の構成要素に対しては同一の参照番号を付し、重複する説明は省略する。
【0015】
(圧電アクチュエータの構成)
図1は、圧電アクチュエータ100を示す側断面図である。圧電アクチュエータ100は、電圧の印加により伸縮し、電圧に応じて先端が変位するものであり、例えばマスフローコントローラの開閉弁や位置決め装置のステージの駆動に用いられる。図1に示すように、圧電アクチュエータ100は、圧電アクチュエータ本体105、変位伝達体130、座140およびキャップ160を備えている。
【0016】
圧電アクチュエータ本体105は、複数個の圧電素子110を、直列方向(電圧印加による伸縮方向)に端面で接着して多連化したものである。圧電素子110を多連化することで、効率よく大きな変位を得ることができる。図1に示す例では、圧電アクチュエータ本体105は、6個の圧電素子110を多連化して形成されている。それぞれの圧電素子110は、圧電層と内部電極とが交互に積層された構造を有する。なお、圧電アクチュエータ本体105は、圧電素子110の単体であってもよい。
【0017】
圧電アクチュエータ本体105の一端には、変位伝達体130が接着されている。図1に示すように、変位伝達体130は、シム131および凸部132からなる。シム131は、SUS製やアルミナ製で板状に形成されており、凸部132は、ベアリング鋼またはSUSで半球状に形成されている。凸部132は、半球状に形成されていることが好ましいが、圧電アクチュエータ本体105の変位が伝達できる形状であれば、例えば、球状、円柱状、半楕円体状や錐台状であってもよい。シム131と凸部132とは接着され、圧電アクチュエータ本体105の一端に接着されている。圧電アクチュエータ本体105の他端は、座140と固着されている。なお、変位伝達体130が、シム131を有さず、凸部132からなり、圧電アクチュエータ本体105の一端に直接接着されていてもよい。
【0018】
圧電アクチュエータ本体105は、リード部材120を介して外部電極115に電圧が印加されることで伸縮する。リード部材120は、金属製で板状に形成されており、圧電素子110の側面に形成された外部電極115に接着されている。一対のリード部材120は、座140において一対の端子150に接続されている。
【0019】
圧電素子110は、圧電層と内部電極とが交互に積層されている。また、圧電素子110の側面には内部電極に接続された外部電極115が設けられている。圧電層は、例えばPZT等の圧電材料で構成され、内部電極は、Ag−Pd等で構成されている。
【0020】
キャップ160は、例えばSUSのような金属製であり、有底開口の円筒形状に形成されている。そして、底側には、凸部の当接を受ける中空凸部としてドーム162が形成されている。キャップ160は、圧電アクチュエータ本体105を内部に収容し、開口部は座140と固着され、キャップ160内は封止されている。圧電素子110に接続されるリード線は座140の貫通孔を通して設けられ、貫通孔は樹脂等で封止されている。キャップ160は、圧電アクチュエータ本体105の伸縮に応じて先端の変位が可能になっている。また、ドーム162は、変位伝達体130に合わせた形状であれば、球状でなくてもよい。
【0021】
座140は、圧電アクチュエータ本体105を支持している。キャップ160のドーム162の内面と変位伝達体130との間が、接着をしないで当接された状態になるように、予圧がかけられた状態で、キャップ160と座140が固着されている。固着方法は、溶接、ネジ止め、カシメ等がある。ドーム162の内面と変位伝達体130との間が接着されていないことから、マスフローコントローラ等の装置に圧電アクチュエータ100を組み込む際に、先端に捩りの力が加わっても圧電アクチュエータ本体105の先端に過大な応力が残留しない。
【0022】
上記の予圧は20N〜1000Nの範囲内である。キャップ160と変位伝達体130との間に予圧がかけられていることで、駆動時にキャップ160と変位伝達体130との間に隙間が生じない。また、予圧が1000N以下であることから、電圧を印加しても予圧が大きすぎて圧電アクチュエータ100が動かないということはない。
【0023】
また、変位伝達体130とキャップ160との間の予圧は、200℃以下で、変位伝達体130がドーム162の内面に当接し、電圧印加に対する不感帯が生じないようにかけられている。このように予圧が制御されているので、必要な温度帯において、変位伝達体130とキャップ160との間に隙間が生じない程度の圧力がかけられている。以下に予圧と不感帯の関係について説明する。
【0024】
(予圧と不感帯)
図2(a)〜(c)は、それぞれ温度と予圧の関係、各温度における印加電圧と変位の関係を示す図である。主に圧電セラミックスで構成された圧電アクチュエータ本体105の熱膨張係数に比べて金属製のキャップ160の熱膨張係数の方が大きい。そのため、図2(a)に示すように、温度aで所定の予圧がかかっているとしても温度bでは予圧がゼロになり、温度cでは予圧がかからず不感帯が生じる。すなわち、温度b以下では、図2(b)に示すように、電圧の印加に対して必ず圧電アクチュエータ100は変位し、温度bを超えると、図2(c)に示すように、電圧の印加が一定値を超えるまで圧電アクチュエータは変位せず不感帯が生じることになる。したがって、予圧がゼロになる温度bを特定することで予圧の大きさを特定できることになる。
【0025】
(圧電アクチュエータの製造方法)
次に、上記のように構成された圧電アクチュエータ100の製造方法の一例を説明する。まず、圧電セラミックスのグリーンシートにAg−Pd等の電極ペーストを印刷して積層、圧着し、焼成する。次に、圧電素子110の側面に積層方向に沿って、内部電極に接続された外部電極115を形成する。圧電素子110の側面に電極ペーストを印刷して焼成することで外部電極115を形成できる。
【0026】
そして、得られた複数の圧電素子110の積層方向の端面に、エポキシ等の接着材を塗布して接着し、直列方向に連結する。このようにして多連化を行ない、接着材を硬化させる。金属製で板状のリード部材120を外部電極115に固着させ、分極処理することで多連化した圧電アクチュエータ本体105を作製できる。
【0027】
次に、変位伝達体130としてシム131および凸部132を準備する。圧電アクチュエータ本体105の一端に変位伝達体130を接着する。変位伝達体130は、半球等の凸部のみでもよいし、凸部とシムが接着されたものでもよい。
【0028】
さらに、キャップ160および座140を準備する。そして、圧電アクチュエータ本体105の他端側から圧電素子110のリード線を座140の貫通孔を通し、圧電アクチュエータ本体105と座140を接着する。貫通孔は樹脂で封止する。このようにして形成された圧電アクチュエータ本体105をキャップ160内に挿入する。この際、変位伝達体130とドーム162の内面は接着しない。
【0029】
そして、最後に、圧電アクチュエータ本体105とキャップ160との間に予圧がかかった状態で、キャップ160と座140とを固着し、リード線を通した孔を封止する。固着は、溶接、ネジ止め、カシメ等で行なう。溶接する場合には、キャップ160を封止した際の機密性を維持できる。溶接の方法としては、突き当て溶接、ビード溶接、ろう付け等が挙げられる。また、ネジ止めとする場合には予圧を制御しやすい。
【0030】
このようにして、キャップに生じた外部応力が内部の素子に伝わることを抑制し、素子に応力を発生させたり、絶縁破壊させたりすることを防止できる圧電アクチュエータ100を製造できる。その際には、ドーム162の内面と凸部132とを接着材等で接着することなく、当接させる。また、リード部材120は、座140に挿通され、端子150として外部と電気的に接続する。このようにして、圧電アクチュエータ100を作製することができる。
【0031】
(実施例)
上記の製造方法により半球(凸部)とキャップとを接着していない圧電アクチュエータ(実施例)を作製した。また、サイズ、材料等その他のすべての条件を同一とし、半球とキャップとを接着した圧電アクチュエータ(比較例)を作製した。
【0032】
そして、圧電アクチュエータより十分に大きいアルミニウム部材を準備し、アルミ部材の表面に圧電アクチュエータの先端部を接着材で固定した。図3は、アルミニウム部材200に先端を固定した圧電アクチュエータ100の斜視図である。図3に示すように、圧電アクチュエータ100の先端と矩形体のアルミニウム部材200とを接着材210で固定した。そして、座140側から圧電アクチュエータ100に回転トルクを与え、圧電アクチュエータ100内部の圧電素子の容量の変化を測定した。このとき圧電素子に外力が加わるほど圧電素子の変形が大きくなり、容量の変化も大きくなる。同様に比較例についても回転トルクを与えたときの容量の変化率を測定した。
【0033】
図4は、回転トルクを与えたときの圧電素子の静電容量の変化率を示す図である。図4に示すように、比較例では、250cN・mの回転トルクを与えたときの静電容量の変化率が2%を超えたのに対し、実施例では、0.5%未満に収まった。このようにして、半球とキャップを接着した比較例より接着しない実施例の方が、外力が圧電素子に伝わっておらず、静電容量への影響が小さいことを確認できた。
【符号の説明】
【0034】
100 圧電アクチュエータ
105 圧電アクチュエータ本体
110 圧電素子
115 外部電極
120 リード部材
130 変位伝達体
131 シム
132 凸部
140 座
150 端子
160 キャップ
162 ドーム
200 アルミニウム部材
210 接着材
図1
図2
図3
図4