【文献】
金沢毅 ほか,新しいダブル機構の叩解機と離解機 −AWN型ダブルデイスクリファイナーおよびADF型ダブルフレーカー−,紙パ技協誌,1998年,Vol. 52, No. 4,pp. 62-71
スラリー中のパルプ繊維に対して、酸化処理、加水分解処理又はこれらの組み合わせからなる化学的処理を施す化学的処理機構を上記コニカル型リファイナーの前にさらに備える請求項1、請求項2又は請求項3に記載のセルロースナノファイバーの製造装置。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、以上のような事情に基づいてなされたものであり、その目的は、機械的な微細化処理回数を減らし、省エネルギーでセルロースナノファイバーを生産可能なセルロースナノファイバーの製造装置及びセルロースナノファイバーの製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
発明者らは、パルプ繊維を機械的に微細化する高圧ホモジナイザーの前処理機構として、パルプ繊維を叩解する装置であるコニカル型リファイナーを用いることで、高圧ホモジナイザーによる微細処理回数の低減が図られることを見出し、本発明の完成に至った。
【0007】
すなわち、上記課題を解決するためになされた発明は、スラリー中のパルプ繊維を粗解繊する1又は複数のコニカル型リファイナーと、上記スラリー中のパルプ繊維を微細化する高圧ホモジナイザーとを備えるセルロースナノファイバーの製造装置である。
【0008】
当該セルロースナノファイバーの製造装置においては、高圧ホモジナイザーによってパルプ繊維に対する機械的(物理的)な処理により微細化すなわち解繊が施される前に、コニカル型リファイナーにより粗解繊する機械的な前処理が施される。この前処理により、パルプ繊維が柔軟になり、予備的な解繊が効率的に生じる。具体的には、上記スラリー中のパルプ繊維は、コニカル型リファイナーが備える円錐台形状の固定刃と円錐台形状の回転刃との間を通過することで、剪断力が効果的に付与され、パルプ繊維に毛羽立ちが生じ、パルプ繊維が柔軟になり、予備的な解繊が施される。この結果、高圧ホモジナイザーによる処理回数を低減し、省エネルギーでセルロースナノファイバーを製造することができる。なお、高圧ホモジナイザーによる処理回数とは、処理されるパルプ繊維を含むスラリーが高圧ホモジナイザーを通過する回数をいう。
【0009】
複数の上記コニカル型リファイナーを備え、これらの複数のコニカル型リファイナーが直列に接続されていることが好ましい。このように複数のコニカル型リファイナーを備えることで、上記スラリー中のパルプ繊維は、複数のコニカル型リファイナーを順に通過して粗解繊処理されるため、各コニカル型リファイナーを制御することでより高圧ホモジナイザーによる機械的処理に適した粗解繊を施すことができる。このため、高圧ホモジナイザーによる処理回数をより低減し、より省エネルギーでセルロースナノファイバーを製造することができる。
【0010】
上記各コニカル型リファイナーに対してパルプ繊維を含むスラリーを循環させる循環機構をさらに備えることが好ましい。このように上記各コニカル型リファイナーに対する循環機構を備えることで、上記スラリー中パルプ繊維は、上記循環機構によって上記各コニカル型リファイナーに送られ、予備的な解繊が施される。上記各コニカル型リファイナーによって予備的な解繊が施された上記スラリー中のパルプ繊維は、上記循環機構によって再度上記コニカル型リファイナーに送られ予備的な解繊が施される。このように、上記スラリー中のパルプ繊維は、上記循環機構によって各コニカルリファイナーを循環されて粗解繊処理がなされるため、各コニカル型リファイナーによる粗解繊処理の時間を制御してより高圧ホモジナイザーによる機械的処理に適した粗解繊を施すことができる。このため、効果的に予備的な解繊が施され、高圧ホモジナイザーによる処理回数をより低減し、より省エネルギーでセルロースナノファイバーを製造することができる。
【0011】
スラリー中のパルプ繊維に対して、酸化処理、加水分解処理又はこれらの組み合わせからなる化学的処理を施す化学的処理機構をさらに備えることが好ましい。このような化学的処理がさらに施されることで、パルプ繊維がより柔軟になり、予備的な解繊がより効率的に生じる。具体的には、化学的処理機構によって、スラリーにおけるパルプ繊維中の化学結合の一部が分断されると共に、パルプ繊維が膨潤されることで、化学的処理が施される。このため、高圧ホモジナイザーによる処理回数をより低減し、より省エネルギーでセルロースナノファイバーを製造することができる。
【0012】
上記課題を解決するためになされた別の発明は、スラリー中のパルプ繊維に対して前処理を施す工程と、前処理された上記スラリー中のパルプ繊維を高圧ホモジナイザー処理により微細化する工程とを備えるセルロースナノファイバーの製造方法であって、上記前処理工程が、上記パルプ繊維をコニカル型リファイナーにより粗解繊する工程を備えることを特徴とするセルロースナノファイバーの製造方法である。当該製造方法によれば、パルプ繊維に対する高圧ホモジナイザーによる機械的(物理的)な処理により微細化すなわち解繊を行う前に、コニカル型リファイナーを用いて粗解繊するといった機械的な前処理を施す。この前処理により、パルプ繊維が柔軟になり、予備的な解繊が効率的に生じる。具体的には、コニカル型リファイナーを用いた前処理により、スラリー中のパルプ繊維がコニカル型リファイナーが備える円錐台形状の固定刃と円錐台形状回転刃との間を通過してスラリー中のパルプ繊維に対して剪断力が効果的に付与され、パルプ繊維に毛羽立ちが生じ、パルプ繊維が柔軟になり、予備的な解繊が生じる。この結果、後工程の微細化工程の処理回数を低減し、省エネルギーでセルロースナノファイバーを製造することができる。
【0013】
なお、「セルロースナノファイバー」とは、パルプ繊維を解繊して得られる微細なセルロース繊維をいい、一般的に繊維幅がナノサイズ(1nm以上1000nm以下)のセルロース微細繊維を含むセルロース繊維をいう。
【発明の効果】
【0014】
本発明のセルロースナノファイバーの製造装置によれば、機械的な微細化処理回数を減らし、省エネルギーでセルロースナノファイバーを生産することができる。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、適宜図面を参照にしつつ、本発明の一実施形態に係るセルロースナノファイバーの製造装置について詳説する。
【0017】
<セルロースナノファイバーの製造装置>
本願発明のセルロースナノファイバーの製造装置は、セルロースナノファイバーを製造するための装置であり、上記スラリー中のパルプ繊維を粗解繊する1又は複数のコニカル型リファイナーと、上記スラリー中のパルプ繊維を微細化する高圧ホモジナイザーとを備える。具体的には、
図1に示すように、本発明の一実施形態に係るセルロースナノファイバーの製造装置1は、スラリー中のパルプ繊維に対して、上記スラリー中のパルプ繊維を粗解繊する第1コニカル型リファイナー3及び第2コニカル型リファイナー4と、スラリー中のパルプ繊維を微細化する高圧ホモジナイザー5とをこの順に備える。
【0018】
スラリー中のパルプ繊維は、第1コニカル型リファイナー3及び第2コニカル型リファイナー4が備える円錐台形状の固定刃と円錐台形状回転刃との間を通過することで、剪断力が効果的に付与され、パルプ繊維に毛羽立ちが生じ、パルプ繊維が柔軟になり、予備的な解繊が施される。このため、高圧ホモジナイザー5による処理回数を低減し、省エネルギーでセルロースナノファイバーを製造することができる。
【0019】
第1コニカル型リファイナー3及び第2コニカル型リファイナー4は、例えば
図2において部分的に示されるように、円錐台形状の固定刃31と、円錐台形状の回転刃32との間隙をスラリー中のパルプ繊維を通過させることで、パルプ繊維を叩解して前処理を行う装置である。固定刃31と回転刃32とは、略同一形状であり、回転刃32の側面が固定刃31の側面の内側となるように、固定刃31の側面と回転刃32の側面とが所定の間隔をもって対向して配設されている。また、固定刃31と回転刃32とは、高さ方向の軸が同一であり、この軸を回転軸Rとして回転可能に設けられている。そして、固定刃31の側面と回転刃32の側面とが対向する面には、スラリー中のパルプ繊維を叩解する叩解面が設けられている。スラリー中のパルプ繊維は、固定刃31の側面と回転刃32の側面との間に設けられる間隙に上底側から送られると、回転刃32が回転するにつれて、遠心力によって上底の半径方向外側に移動しながら下底側に送られて、第1コニカル型リファイナー3から流出される。スラリー中のパルプ繊維は、固定刃31と回転刃32との間隙を通過することで、固定刃31と回転刃32との間隙が極小さいため、負荷を付与されながら叩解され、また叩解面によって剪断力が効果的に付与されてパルプ繊維に毛羽立ちが生じ、パルプ繊維が柔軟になり、予備的な解繊が生じる。コニカル型リファイナーでは、同一半径のディスク型リファイナーと比べて、叩解面が大きくなり、スラリー中のパルプ繊維が固定刃と回転刃との間隙を通過して叩解面に接する時間が長くなる。また。コニカル型リファイナーでは、同一半径のディスク型リファイナーと比べて、より負荷のかかる回転半径方向外側の叩解面にパルプ繊維が接する時間が長くなる。これらのため、より効率的に予備的な解繊が施される。
【0020】
第1コニカル型リファイナー3としては、パルプ繊維が回転刃の側面と固定刃の側面との間に設けられる間隙を循環する循環式コニカル型リファイナーが好ましく、循環式コニカル型リファイナーとしては、例えばバルメット社のオプティファインプロ等が挙げられる。
【0021】
例えば
図2において部分的に示されるように、循環式コニカル型リファイナー30においては、固定刃31にはパルプ繊維が通過する穴310が設けられ、回転刃32にはパルプ繊維が通過する穴320が設けられている。
図3において
図2の一部分として示されるように、固定刃31の側面と回転刃32の側面との間隙に流入するスラリーS1は、一部はこの間隙を通過して下底側からS1として流出されるが、一部は、穴310及び穴320からそれぞれスラリーS2及びS3として流出され、再度固定刃31と回転刃32との間隙にスラリーS1として流入する。このように固定刃31及び回転刃32にパルプ繊維が通過する穴310及び穴320がそれぞれ設けられていることで、パルプ繊維はこれらの刃の間隙を循環するため、叩解面に接する時間が長くなる。このため、より効率的に予備的な解繊が施される。
【0022】
本願発明のセルロースナノファイバーの製造装置では、上記複数のコニカル型リファイナーが直列に接続されていることが好ましい。具体的には、セルロースナノファイバーの製造装置1では、第1コニカル型リファイナー3が、第2コニカル型リファイナー4より先にパルプ繊維を粗解繊するように、第2コニカル型リファイナー4より上流側に設けられている。つまり、第1コニカル型リファイナー3及び第2コニカル型リファイナー4が直列に接続されている。このように複数のコニカル型リファイナーが直列に接続されているため、各コニカル型リファイナーを制御することでより高圧ホモジナイザーによる機械的処理に適した粗解繊を施すことができる。
【0023】
第2コニカル型リファイナー4としては、例えば第1コニカルリフィアナー3として例示したもの等が挙げられる。第2コニカル型リファイナー4は、第1コニカルリフィアナー3と同一であってもよく、異なっていてもよいが、異なっていることが好ましい。第1コニカルリフィアナー3及び第2コニカル型リファイナー4によって異なる粗解繊を施すことができ、より高圧ホモジナイザーによる機械的処理に適した粗解繊を施すことができる。
【0024】
本願発明のセルロースナノファイバーの製造装置は、上記各コニカル型リファイナーに対してパルプ繊維を含むスラリーを循環させる循環機構をさらに備えることが好ましい。具体的には、セルロースナノファイバーの製造装置1は、第1コニカル型リファイナー3に対してパルプ繊維を含むスラリーを循環させる循環機構としての第1ポンプ6と、第2コニカル型リファイナー4に対してパルプ繊維を含むスラリーを循環させる循環機構としての第2ポンプ7とをさらに備える。スラリー中のパルプ繊維は、第1ポンプ6によって第1コニカル型リファイナー3に送られ、第1コニカル型リファイナー3によって予備的な解繊が施される。第1コニカル型リファイナー3によって予備的な解繊が施された上記スラリー中のパルプ繊維は、第1ポンプ6によって再度第1コニカル型リファイナー3に送られ予備的な解繊が施される。このように、上記スラリー中のパルプ繊維は、上第1ポンプ6によって第1コニカル型リファイナー3を循環されて粗解繊処理がなされるため、第1コニカル型リファイナー3による粗解繊処理の時間を適宜制御することができる。第1ポンプ6によって予備的な解繊がなされたスラリー中のパルプ繊維は、第1ポンプ6による場合と同様に、第2ポンプ7によって第2コニカル型リファイナー4を循環されて粗解繊処理がなされるため、第2コニカル型リファイナー4による粗解繊処理の時間を適宜制御することができる。このため、より高圧ホモジナイザーによる機械的処理に適した粗解繊を施すことができる。
【0025】
高圧ホモジナイザー5は、前処理された上記スラリー中のパルプ繊維を機械的な処理により微細化する装置である。高圧ホモジナイザー5によってセルロースナノファイバーが製造される。セルロースナノファイバーの製造装置1によれば、上述した第1コニカル型リファイナー3及び第2コニカル型リファイナー4を備えているため、高圧ホモジナイザー5による処理回数の低減を図ることができる。
【0026】
高圧ホモジナイザー5は、細孔から高圧でスラリー等を吐出する分散機として用いられるものである。高圧ホモジナイザー5とは、例えば10MPa以上、好ましくは100MPa以上の圧力でスラリーを吐出できる能力を有するホモジナイザーをいう。パルプ繊維に対して高圧ホモジナイザー5で処理することで、パルプ繊維同士の衝突、圧力差、マイクロキャビテーションなどが作用し、解繊が効果的に生じる。これにより、微細化工程の処理回数を低減(短縮化)でき、セルロースナノファイバーの製造効率をより高めることができる。
【0027】
高圧ホモジナイザー5としては、対向衝突型高圧ホモジナイザー(マイクロフルイダイザー、湿式ジェットミル)が好ましく、上記スラリーを一直線上で対向衝突させることが好ましい。具体的には、
図4において部分的に示されるように、対向衝突型高圧ホモジナイザー50においては、加圧されたスラリーS6、S7が合流部Xで対向衝突するように上流側流路501が形成されている。スラリーS6、S7は合流部Xで衝突し、衝突したスラリーS8は、下流側流路502から流出する。上流側流路501に対して、下流側流路502は垂直に設けられており、上流側流路501と下流側流路502とでT型の流路を形成している。このような対向衝突型高圧ホモジナイザー50を用いることで、高圧ホモジナイザーから与えられるエネルギーを衝突エネルギーに最大限に変換することができ、より効率的なパルプ繊維の解繊が生じる。
【0028】
セルロースナノファイバーの製造装置1は、スラリー中のパルプ繊維に対して、酸化処理、加水分解処理又はこれらの組み合わせからなる化学的処理を施す化学的処理機構8をさらに備える。
【0029】
スラリー中のパルプ繊維は、化学的処理機構8によって、酸化処理、加水分解処理又はこれらの組み合わせからなる化学的処理が施される。このように、セルロースナノファイバーの製造装置1が化学的処理機構8を備えることで化学的処理が施され、パルプ繊維中の化学結合の一部が分断されると共に、パルプ繊維が膨潤され、予備的な解繊がなされる。このため、高圧ホモジナイザー5による処理回数をより低減し、より省エネルギーでセルロースナノファイバーを製造することができる。
【0030】
化学的処理機構8は、スラリー中のパルプ繊維に対して、酸化処理、加水分解処理又はこれらの組み合わせからなる化学的処理を施す。化学的処理手段としては、例えば酸化剤、酸、酵素等の投入手段を有する反応槽を挙げることができる。反応槽としては、例えば晒タワー等の製紙用タワーを用いることができる。
【0031】
<セルロースナノファイバーの製造方法>
図5に示すように、本発明の一実施形態に係るセルロースナノファイバーの製造方法は、前処理工程(s1)及び微細化工程(s2)を備え、前処理工程(s1)は粗解繊工程(s1a)を備える。当該製造方法によれば、粗解繊工程(s1a)による前処理により、パルプ繊維が柔軟になり、予備的な解繊が効率的に生じ、後工程の微細化工程の短縮化、すなわち処理回数の低減化を図ることができる。以下、各工程を詳説する。
【0032】
<前処理工程(s1)>
前処理工程(s1)は、スラリー中のパルプ繊維に対して前処理を施す工程であり、パルプ繊維を機械的な処理により微細化する前に、パルプ繊維に対して前処理を施す工程である。前処理工程(s1)は、粗解繊工程(s1a)を備える。以下に、セルロースナノファイバーの原料となるパルプ繊維について説明する。
【0033】
パルプ繊維としては、例えば
広葉樹晒クラフトパルプ(LBKP)、広葉樹未晒クラフトパルプ(LUKP)等の広葉樹クラフトパルプ(LKP)、針葉樹晒クラフトパルプ(NBKP)、針葉樹未晒クラフトパルプ(NUKP)等の針葉樹クラフトパルプ(NKP)等の化学パルプ;
ストーングランドパルプ(SGP)、加圧ストーングランドパルプ(PGW)、リファイナーグランドパルプ(RGP)、ケミグランドパルプ(CGP)、サーモグランドパルプ(TGP)、グランドパルプ(GP)、サーモメカニカルパルプ(TMP)、ケミサーモメカニカルパルプ(CTMP)、晒サーモメカニカルパルプ(BTMP)等の機械パルプ;
茶古紙、クラフト封筒古紙、雑誌古紙、新聞古紙、チラシ古紙、オフィス古紙、段ボール古紙、上白古紙、ケント古紙、模造古紙、地券古紙、更紙古紙等から製造される古紙パルプ;
古紙パルプを脱墨処理した脱墨パルプ(DIP)などが挙げられる。これらは、本発明の効果を損なわない限り、単独で用いてもよく、複数種を組み合わせて用いてもよい。
【0034】
<粗解繊工程(s1a)>
前処理工程(s1)の一つである粗解繊工程(s1a)は、スラリー中のパルプ繊維をコニカル型リファイナーにより粗解繊する工程である。コニカル型リファイナーが備える円錐台形状の固定刃と円錐台形状回転刃との間隙をスラリー中のパルプ繊維を通過させることで、パルプ繊維を叩解して前処理が施される。具体的には、上記間隙を極小さくして負荷をかけながら叩解するコニカル型リファイナーを用いた前処理により、パルプ繊維に対して剪断力が効果的に付与され、パルプ繊維に毛羽立ちが生じ、パルプ繊維が柔軟になり、予備的な解繊が生じる。コニカル型リファイナーとしては、例えば第1コニカル型リファイナー3として説明したもの等を用いることができる。
【0035】
粗解繊工程(s1a)に供するパルプスラリーのパルプ繊維濃度の下限としては、1質量%が好ましく、2質量%がより好ましい。一方、この上限としては、8質量%が好ましく、6質量%がより好ましい。上記範囲のパルプ繊維濃度とすることで、パルプスラリーが好適な粘度となるため、コニカル型リファイナーによりパルプ繊維が効率的に粗解繊される。
【0036】
粗解繊工程(s1a)によるスラリー中のパルプ繊維の処理時間は、スラリー中のパルプ繊維の濃度や温度、処理剤の添加量等に応じて変更されるが、下限としては、例えば1分が好ましく、5分がより好ましく、上限としては、1時間が好ましく、30分がより好ましい。複数のコニカル型リファイナーによって粗解繊工程(s1a)がなされる場合は、上記処理時間は、各コニカル型リファイナーによる処理時間の合計である。
【0037】
粗解繊工程(s1a)においては、複数のコニカル型リファイナーを用意し、これらの複数のコニカル型リファイナーが直列に接続されるように配設してパルプ繊維を処理することが好ましい。複数のコニカル型リファイナーが直列に接続されるように配設されていることで、上記スラリー中のパルプ繊維は、複数のコニカル型リファイナーを順に通過して粗解繊処理されるため、各コニカル型リファイナーを適宜制御することでより高圧ホモジナイザーによる機械的処理に適した粗解繊を施すことができる。また、粗解繊工程(s1a)が複数のコニカル型リファイナーによって粗解繊工程(s1a)がなされる場合、複数のコニカル型リファイナーは同一であっても異なっていてもよいが、異なっていることが好ましい。複数のコニカル型リファイナーが異なることで、異なる粗解繊を施すことができ、より高圧ホモジナイザーによる機械的処理に適した粗解繊を施すことができる。
【0038】
粗解繊工程(s1a)においては、各コニカル型リファイナーに対して、例えばポンプ等の循環機構によってスラリーを循環させて処理することが好ましい。上記スラリー中のパルプ繊維は、上記循環機構によって各コニカルリファイナーを循環されて粗解繊処理がなされるため、各コニカル型リファイナーによる粗解繊処理の時間を適宜制御して、より高圧ホモジナイザーによる機械的処理に適した粗解繊を施すことができる。
【0039】
<微細化工程(s2)>
微細化工程(s2)は、前処理された上記スラリー中のパルプ繊維を高圧ホモジナイザー処理により微細化する工程である。本工程を経ることによりセルロースナノファイバーを得ることができる。本発明のセルロースナノファイバーの製造方法によれば、上述した2種類の前処理を行っているため、本微細化工程(s2)の短縮(処理回数の低減)を図ることができる。
【0040】
高圧ホモジナイザーは、「セルロースナノファイバーの製造装置」において説明したもの等を用いることができる。
【0041】
微細化工程(s2)に供するパルプスラリーのパルプ繊維濃度の下限としては、0.5質量%が好ましく、1質量%がより好ましい。一方、この上限としては、10質量%が好ましく、5質量%がより好ましい。上記範囲のパルプ繊維濃度とすることで、パルプスラリーが好適な粘度となるため、高圧ホモジナイザー等を用いた機械的処理によりパルプ繊維が効率的に粗解繊される。
【0042】
微細化工程(s2)においては、例えば一台の高圧ホモジナイザーに対して、スラリーを循環させて複数回の微細化処理を施すことができる。また、複数の高圧ホモジナイザーを用意し、連続的にパルプ繊維を処理することもできる。
【0043】
本願発明のセルロースナノファイバーの製造方法は、上記前処理工程が化学的処理工程をさらに備えることが好ましい。
【0044】
<化学的処理工程>
化学的処理工程は、前処理工程の一つであり、スラリー中のパルプ繊維に対して、酸化処理、加水分解処理又はこれらの組み合わせからなる化学的処理を施す工程である。このような化学的処理を施すことにより、パルプ繊維中の化学結合の一部を分断すると共に、パルプ繊維を膨潤させることができる。このため、予備的な解繊がより効率的に生じ、後工程の微細化工程のより短縮化、すなわち処理回数のより低減化を図ることができる。
【0045】
化学的処理工程に供するパルプスラリーにおけるパルプ繊維濃度の下限としては、3質量%が好ましく、5質量%がより好ましい。一方、この上限としては、例えば30質量%である。上記濃度範囲とすることで、効率的な化学的処理を行うことができる。濃度が上記下限値未満の場合は、一回の処理で処理されるパルプ繊維の量が少なく、効率性が低い。一方、濃度が上記上限を超える場合は、十分な撹拌を行うことができず、反応性等が低下する。
【0046】
化学的処理工程に供するパルプスラリーの温度としては、例えば40℃以上90℃以下が好ましい。なお、酵素を用いた場合の処理は、40℃以上70℃以下程度が好ましい。
【0047】
酸化処理に用いられる酸化剤としては、オゾン、次亜塩素酸又はその塩、亜塩素酸又はその塩、過塩素酸又はその塩、過硫酸又はその塩、過有機酸等を挙げることができる。これらの中でも、過硫酸類(過硫酸及びその塩)が好ましい。酸化処理を行う際は、N−オキシル化合物等の酸化触媒を併用することもできる。加水分解処理に用いられる触媒としては、酸や酵素が挙げられる。酸としては、硫酸、過硫酸類、塩酸等が挙げられるが、硫酸及び過硫酸類が好ましい。酸を用いる場合の反応槽中のpHとしては、3以下が好ましく、0.5以上2以下がより好ましい。酵素としては、セルラーゼ系酵素や、ヘミセルラーゼ系酵素等を挙げることができ、セルラーゼ系酵素が好ましい。酸化処理及び加水分解処理は、複数種の処理剤を用いてもよいし、酸化処理と加水分解処理とを組み合わせてもよい。なお、過硫酸等、酸化剤としても機能する酸を用いた場合、酸化反応と加水分解反応とが共に生じる。
【0048】
化学的処理工程は、公知の反応槽にスラリーを貯め、酸化剤等の処理剤を添加することによって行うことができる。上記反応槽としては、晒タワー等の製紙用タワーを用いることができる。化学的処理工程の処理(反応)時間は、スラリーの濃度や温度、処理剤の添加量等に応じて変更されるが、例えば0.5時間以上12時間以下とすることができる。
【0049】
化学的処理工程を経たスラリーは、必要に応じ中和処理、洗浄処理等が施され、次工程に供される。なお、酵素を用いた化学的処理の場合は、スラリーへの熱水(温水)の注入などにより、スラリー温度を上げ、酵素を失活させることにより、反応を終了させることもできる。
【0050】
<化学的処理工程と粗解繊工程との順番>
本願発明のセルロースナノファイバーの製造方法が化学的処理工程を備える場合、化学的処理工程と粗解繊工程とは、いずれの工程を先に行ってもよいが、化学的処理工程を先に行うことが好ましい。化学的処理工程及び上記粗解繊工程の順に行うことで、化学的前処理により膨潤したパルプ繊維に対して、コニカル型リファイナーにより剪断力が効率的に付与されるため、予備的な解繊の効率性を高め、消費エネルギー量を低減することができる。
【0051】
また、本願発明のセルロースナノファイバーの製造方法が化学的処理工程を備える場合、化学的処理工程と粗解繊工程とを重複して行うこともできる。例えば酸、酵素、酸化剤等が添加されたスラリーを粗解繊工程に供することで、化学的処理と粗解繊処理とを同時に行うことができる。
【0052】
<その他の実施形態>
本願発明のセルロースナノファイバーの製造装置は、化学的処理機構を備えなくてもよい。本願発明のセルロースナノファイバーの製造装置が化学的処理機構を備える場合、化学的処理機構とコニカル型リファイナーとは、コニカル型リファイナーが上流側、つまり化学的処理機構による化学的処理とコニカル型リファイナーによる粗解繊とのいずれが先に施されるように配設されて、化学的処理と粗解繊処理とが施されてもよい。また、コニカル型リファイナーは1つ備えられていてもよく、3つ以上備えられて粗解繊処理が施されてもよい。コニカル型リファイナーが複数備えられている場合、複数のコニカル型リファイナーは直列に接続されて粗解繊処理が施されなくてもよい。また、循環機構としては、パルプ繊維をコニカル型リファイナーに対して循環させることができればポンプに限定されず、公知のものを用いることができる。また、パルプ繊維をコニカル型リファイナーに対してパルプ繊維を循環させる循環機構が備えられていなくてもよい。また、改質手段、フィルタやスクリュープレス等の脱水手段、乾燥手段などが備られ、改質処理、脱水処理、乾燥処理等が施されてもよい。
【0053】
(ファイン率)
前処理工程を経て微細化工程に供されるパルプ繊維のファイン率の下限としては、例えば60%が好ましく、70%がより好ましく、75%がさらに好ましい。また、このファイン率の上限としては、例えば90%が好ましく、85%がより好ましい。このファイン率を上記下限以上とすることで、十分な前処理(解繊)が進んだパルプ繊維となり、微細化工程において効率的に更なる微細化を行うことができる。また、ファイン率を上記下限以上とすることで、微細化工程において高圧ホモジナイザーを用いて処理した際、パルプ繊維の流路内での詰まりの発生を低減することもできる。一方、このパルプ繊維のファイン率が上記上限以下とすることで、過剰に前処理、特に粗解繊処理を施すことを抑制することができ、製造工程全体としての、省エネルギー化及び高効率化を図ることができ、セルロースナノファイバーの生産性を高めることができる。なお、前処理工程と微細化工程との間に、パルプ繊維のファイン率を測定するファイン率測定工程を設けてもよい。ここで、「ファイン率」とは、繊維長が0.2mm以下、かつ繊維幅が75μm以下であるパルプ繊維の質量基準の割合をいう。このファイン率は、バルメット社製の繊維分析計「FS5」によって測定することができる。繊維分析計「FS5」は、希釈したセルロース繊維が繊維分析計内部の測定セルを通過する際の画像分析により高い精度でセルロース繊維の長さ、幅を測定できる。
【0054】
このファイン率は、前処理工程、特に粗解繊処理における処理量等によって調整することができる。ファイン率は、例えばコニカル型リファイナーによる処理時間を長くすることや、コニカル型リファイナーによる処理の際、ディスク(プレート)の間隔(クリアランス)を狭くする、ディスクの刃幅、溝幅、刃の高さ、刃の交差角度、ディスクのパタ−ンの組み合わせなどによって、高めることができる。
【0055】
(平均繊維長)
前処理工程を経て微細化工程に供されるパルプ繊維の平均繊維長としては特に限定されないが、下限としては、0.15mmが好ましく、0.2mmがより好ましく、0.25mmがさらに好ましい。一方、この上限としては、0.5mmが好ましく、0.4mmがより好ましい。このような繊維長のパルプ繊維を微細化工程に供することで、製造工程全体としての省エネルギー化及び高効率化を図ることができ、セルロースナノファイバーの生産性を高めることができる。
【0056】
当該セルロースナノファイバーの製造装置及びセルロースナノファイバーの製造方法は、TEMPOをはじめとしたN−オキシル化合物等の高価な酸化触媒等を使用しなくとも、機械的な微細化処理回数を減らし、省エネルギーでセルロースナノファイバーを得ることができるため、セルロースナノファイバーの製造コストを抑えることができる。また、TEMPO等を用いなかった場合、過剰な酸化が抑えられるため、得られるセルロースナノファイバーのカルボキシ基の含有量が低含される。セルロースナノファイバーのカルボキシ基の量が少ない場合、過剰な親水性や水素結合が抑えられ、乾燥性や分散性などが高まるといった利点もある。得られるセルロースナノファイバーのカルボキシ基の含有量としては、例えば0.1mmol/g以下であり、0.05mmol/g以下とすることもできる。