(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明の実施形態の説明においては、静電誘導装置用基板としてもっとも広く採用されているエレクトレット基板を事例として説明する。
以下、図面を用いて静電誘導装置用基板(以下「エレクトレット基板」と略記する。)の製造工程の具体的な実施形態を詳述する。
説明にあたっては、実施形態において用いる図面は模式図とし、寸法や形状や配置位置は実際の形状や状況を正確に反映したものではなく、図面を見やすく、また、理解しやすくするため一部誇張している。
【0015】
[第1実施形態におけるエレクトレット基板の製造工程の説明:
図1、
図2]
本発明の第1実施形態における、エレクトレット基板の製造工程は三つの工程を持つ。その三つの工程は、シリコン基板に溝及び凸部を形成する凹凸形成工程、凸部のすべてをシリコン酸化膜にする加熱酸化工程及びシリコン酸化膜を帯電させる帯電工程である。
【0016】
以下第1実施形態における、エレクトレット基板の製造工程を、
図1〜
図4を用いて説
明する。
図1及び
図2は、第1実施形態における、エレクトレット基板の製造工程を示す断面図である。
エレクトレット基板の製造工程の第一番目の工程は、シリコン基板1の表面1aに、溝3及び凸部2を形成する凹凸形成工程である。
【0017】
図1(a)を用いて、第一番目の工程であるシリコン基板1の表面1aに、溝3及び凸部2を形成する凹凸形成工程を説明する。
溝3及び凸部2を形成する凹凸形成工程においては、まず、シリコン基板1の表面1aにパターン化されたレジスト層(図示を省略)を配置する。レジスト層のパターンは、幅P1のレジスト層を隣り合うレジスト層との間に間隔G1を設けて配置した。本実施形態では、レジスト層のパターン幅P1を1μm、隣り合うレジスト層との間の間隔G1を1μmとした。ここで、凸部2となる部分は、レジスト層が配置された部分であり、溝3となる部分は、レジスト層が無い部分である。
【0018】
次に、D−RIE(深堀反応性イオンエッチング)装置を用いて、エッチングを行う。すると、シリコン基板の表面1aのレジスト層で覆われていない部分が深さ方向に除去されて溝3となる。そして、レジスト層で覆われた部分はエッチングされずに残り凸部2となる。溝3の深さdは、D―RIE装置によるエッチング時間で決定され、本実施形態においては、溝3の深さdが5μm、すなわち凸部2の高さdが5μmとなるようエッチング時間を制御した。エッチング終了後にパターン化されたレジスト層を除去することによってシリコン基板1の表面1aに凹凸形状が形成される。
【0019】
図1(a)においては、エッチング前の平坦な表面1aが、凹凸形状に変化している。凹凸形状を作る面は、凸部2の上面2U、左側面2L、右側面2R及び溝3の底面3Bの4個の面である。しかし、凸部2の上面2U及び溝3の底面3Bは、エッチング前の表面1aに対応するので、新たに増加した表面は、凸部2の左側面2Lと右側面2Rの2個の面である。この結果、シリコン基板1の表面積は、これら2個の面の分、増大する。
【0020】
次の、第二番目の工程は、凸部2のすべてをシリコン酸化膜にする加熱酸化工程である。加熱酸化工程で用いる装置は、
図3に示す加熱酸化装置30であり、まず、
図3を用いて、加熱酸化装置30の構成を説明する。
加熱酸化装置30の構成要素は、窒素ガスボンベ31、密閉容器33、加熱酸化炉36及び配管32、35である。
窒素ボンベ31には、窒素ガスN
2が高圧力で充填されている。密閉容器33は、水酸化カリウム水溶液34を収納している。入力配管32は、窒素ボンベ31と密閉容器33を繋ぎ、その端は水酸化カリウム水溶液の液中に配置する。出力配管35は、密閉容器33と加熱酸化炉36を繋ぐ配管である。そして、出力配管35の端の一方は、密閉容器33の中にあって、水酸化カリウム水溶液34の液面より上に配置し、他の端は加熱酸化炉36の中に配置する。
【0021】
次に、加熱酸化工程を、
図3で示す加熱酸化装置30を使って説明する。
まず、シリコン基板1を、
図3に示す加熱酸化炉36の中に配置する。ごみの付着を抑えるために、図のように立てて配置するとよい。加熱酸化炉35は加熱ヒーター(図示を省略)を用いて1000℃に加熱する。
シリコン基板1の温度が十分に昇温されたのちに、窒素ボンベ31のバルブ(図示を省略)を開いて窒素ガスN
2を入力配管32に流す。すると、窒素ガスN
2は
、入力配管32の他の端から水酸化カリウム水溶液34の液中にバブリングされる。窒素ガスN
2は
、キャリアガスとして機能し、出力配管35を介して、水酸化カリウムを含んだ水蒸気を加熱酸化炉36に導入する。すると加熱されたシリコン基板1の表面は、水酸化カリウムの
アルカリイオンを含んだ雰囲気中で熱酸化されて、カリウムイオンを含んだシリコン酸化膜となる。
【0022】
次に、カリウムイオンを含んだシリコン酸化膜が成長する様子を、
図1(b)及び
図1(c)に示すシリコン基板1の断面図を用いて説明する。
図1(b)は、加熱酸化工程の途中まで進行した状態であり、
図1(c)は、加熱酸化工程が終了した状態である。
【0023】
加熱酸化工程の説明に先立って、シリコン酸化膜の成長機構を説明する。シリコンの酸化は、シリコン原子の間に酸素原子やカリウム原子が入り込むことで行われるので、シリコンがシリコン酸化膜に変化するときに体積が増大する。この結果、シリコン酸化膜は、シリコン基板の凸部の外側の溝側と凸部の芯側の両側に向かって、その体積を増やしながら成長する。
【0024】
加熱酸化工程が途中まで進行したときのシリコン酸化膜の形状を、
図1(b)に示す。ここで、酸化前のシリコン基板1の凹凸形状は点線で示されている。
カリウムを含むシリコン酸化膜Dは、酸化前のシリコン基板1の凹凸形状の外側と内側の両側に成長する。
【0025】
シリコン酸化膜Dinは、酸化前の凹凸形状の内側に向かって成長する酸化膜であり、その酸化の開始面である凸部2の上面2U、右側面2R及び左側面2Lの3面を出発面として凸部2の内部に向かって成長する。その結果、凸部2の内部のシリコンは酸化されてシリコン酸化膜となるので、凸部2の内部のシリコン部分は減少し、シリコンの芯2aが残る形になる。
一方、シリコン酸化膜Doutは、酸化前の凹凸形状の外側に向かって成長する酸化膜であり、その酸化の開始面である溝3の底面3B、凸部2の右側面2R及び左側面2Lの3面を出発面として溝3を埋める方向に成長する。その結果、溝の形状は酸化前の溝3の形状に比較してその幅が狭く、その深さが浅くなっている。
【0026】
さらに加熱酸化工程を進め、加熱酸化を開始してから12時間経過後に加熱酸化工程を終了する。加熱酸化工程を終了した段階でのシリコン基板1の断面図を、
図1(c)に示す。
酸化膜Dinは、凸部2の内部にさらに成長した結果、凸部2の内部に残ったシリコンの芯2aの部分も酸化膜となり、凸部2の内部のすべてがカリウムイオンを含むシリコン酸化膜2Dで埋まった状態となる。
また、凸部2の外側となる溝3側に成長した酸化膜Doutは、さらに成長して溝3aを埋め尽くした結果、隣り合う凸部2の間はすべてカリウムイオンを含むシリコン酸化膜3Dとなる。
その結果、酸化前の凸部2のシリコン部分と溝3の空隙部分は、両者ともにシリコン酸化膜Dとなって一体となる。
【0027】
なお、カリウムイオンは正に帯電しているが、カリウムイオンはシリコン原子がもつ電子と対を作っているので、カリウムイオンの正電荷と電子の負電荷が打ち消しあって、電気的には中性である。
したがって、シリコン酸化膜Dは電気的に中性であり、表面電位を持たないので、エレクトレット膜としての性能を発現していない。
【0028】
上記加熱酸化工程の結果、
図1(c)に示されるシリコン酸化膜Dの厚さt1は、6μmとなった。その内訳は、凸部2の高さdの5μmとシリコン基板1の表面の熱酸化膜の厚さt0の1μmである。熱酸化膜の厚さt0の1μmは、加熱酸化工程における12時
間の加熱酸化処理によって作られた厚さである。
一方、シリコン基板の平坦な表面を熱酸化する方法で厚さが6μmのシリコン酸化膜を得るには数百時間以上必要なので、実質的に製造が困難であり、第1実施形態によるシリコン酸化膜を形成する方法は、極めて効率がよい方法である。
【0029】
次の、第三番目の工程は、シリコン酸化膜を帯電させる工程であり、電気的に中性であるシリコン酸化膜Dを帯電させて、表面電位を有するエレクトレット膜の性質を発現させる工程である。
帯電工程で用いる装置は、
図4に示す帯電装置40であり、その構成要素は、帯電用電源43、二つの電極である負極電極端子41と正極電極板42、及びスイッチ44である。
ここで、正極電極板42は、前の加熱酸化工程でシリコン酸化膜Dが形成されたシリコン基板1がその上に置かれる板である。そして、正極電極板42には、帯電用電源43の正極が接続され、もう一方の電極である負極電極端子41には、スイッチ44を介して帯電用電源43の負極が接続されている。
【0030】
帯電工程を、
図4の帯電装置40及び
図2を用いて説明する。
図2は、シリコン基板1の断面図であり、シリコン酸化膜Dの中のカリウムイオンの存在や電子の存在を模式的に示す。
まず、
図2(a)に示すシリコン基板1を、
図4に示す正極電極板42に載せる。この時点でシリコン酸化膜Dの内部には、
図2(a)に示すカリウムイオンKが存在している。
【0031】
次に、シリコン酸化膜Dの表面に
図4に示す負極電極端子41を接触させて、スイッチ44を閉じて通電する。帯電用電源43の電圧は1kvとした。
このとき、アルカリイオンであるカリウムイオンKは、プラスに帯電しているので、
図4に示されるように、シリコン酸化膜Dの内部で、負極となる負極電極端子41に引き寄せられ、電子と結合して正電荷を失って中性になる。
【0032】
すると、
図2(b)に示すように、シリコン酸化膜Dの内部には、カリウムイオンKが出て行ってしまった結果として、カリウムイオンKと対を形成していた電子Eだけが残る。
電子Eは負電荷を持つので、シリコン酸化膜Dは負に帯電して、表面電位を有するエレクトレット膜21となる。
このようにして、シリコン基板1は、エレクトレット膜21を有するエレクトレット基板20となる。
【0033】
なお、上記帯電工程は、コロナ帯電で行ってもよい。コロナ帯電とは、高電圧で発生させたコロナ放電が生み出す電子をシリコン酸化膜に照射して、シリコン酸化膜に電子を注入して、シリコン酸化膜を帯電する方法である。
【0034】
[第2実施形態におけるエレクトレット基板の製造工程の説明:
図5、
図6]
本発明の第2実施形態における、エレクトレット基板の製造工程は四つの工程を持つ。
この四つの工程は、シリコン基板に溝及び凸部を形成する凹凸形成工程、凸部のすべてをシリコン酸化膜にする加熱酸化工程、シリコン酸化膜を厚さ方向に除去し、部分的にシリコン基板を露出させる極分離工程及びシリコン酸化膜を帯電させる帯電工程である。ここで、シリコン酸化膜を厚さ方向に除去し、部分的にシリコン基板を露出させる極分離工程は、第1実施形態にはなく、本実施形態の特徴となる工程である。
【0035】
次に第2実施形態における、エレクトレット基板の製造工程を、
図5及び
図6を用いて
説明する。
図5及び
図6は、第2実施形態における、エレクトレット基板の製造工程を示すシリコン基板1の断面図である。
第2実施形態によるエレクトレット基板の製造工程は、第1実施形態による製造工程とほぼ同様であり、相違点は、
図5(c)、(d)で示す極分離工程が追加されたことである。すなわちシリコン酸化膜を厚さ方向に除去し、部分的にシリコン基板1を露出させる工程を備えたことである。
【0036】
第2実施形態での第一番目の工程は、シリコン基板1の表面1aに、溝3と溝4及び凸部2を形成する凹凸形成工程であり、
図5(a)を用いて説明する。
図5(a)は、凹凸形成工程を終了した段階でのシリコン基板1の断面図であり、溝3と溝4及び凸部2を形成する凹凸形成工程は、基本的に第1実施形態と同様であるので、同一要素には同一符号を付し、重複する部分の説明を省略する。
【0037】
まず、凸部2の幅に対応するストライプ状パターンのレジスト層をシリコン基板1の表面1aに配置する。次に、D−RIE装置を使ってシリコン基板1をエッチングする。すると、レジスト層で覆われていない部分は、シリコン基板1の厚み方向にエッチングされて溝3及び溝4となり、レジスト層で覆われてエッチングされずに残った部分が凸部2となる。
溝3と溝4及び凸部2の配置を、
図5(a)に示す。3個の凸部2が互いに溝3で隔てられて配置された形のグループTを作り、そのグループTが溝4で隔てられた配置である。
【0038】
ここで、溝3と溝4及び凸部2の形状寸法を説明する。凸部2の幅P1を1μmとし、溝3の幅G1は1μmであり、溝4の幅G2は4μmとした。そして、溝3及び溝4の深さを5μmとしたので凸部2の高さdも5μmである。
【0039】
次の二番目の工程は、シリコン基板1の表面をシリコン酸化膜にする加熱酸化工程であり、
図5(b)を用いて説明する。
図5(b)は加熱酸化工程が終了した状態を示すシリコン基板1の断面図であり、
図5(b)に示す第2実施形態による加熱酸化工程は、基本的に
図1で説明した第1実施形態の加熱酸化工程と同様であるので、重複する部分の説明を省略する。
【0040】
図5(b)は、加熱酸化を開始してから12時間経過後に加熱酸化工程を終了したときのシリコン基板1の状態を示している。
第1実施形態と同様に、凸部2の内部のすべてがシリコン酸化膜2Dとなる。
また、溝3は、第1実施形態と同様に、溝3を両側から挟む凸部から成長してきた酸化膜で埋め尽くされて、シリコン酸化膜3Dとなる。
その結果、酸化前に、3個の凸部2が互いに溝3で隔てられて配置された形のグループTにおいては、凸部2のシリコンと溝3の間隙は、すべてシリコン酸化膜となって一体となり、シリコン酸化膜Dとなる。
一方、溝4aは、溝の幅が広いので、シリコン酸化膜で埋め尽くされることはなく、溝の形状を保っている。
【0041】
次の第三番目の工程は、シリコン酸化膜を厚さ方向に除去して、部分的にシリコン基板を露出させる極分離工程であり、
図5(c)、(d)を用いて説明する。
【0042】
極分離工程においては、シリコン基板1にレジスト層を設けずにエッチングを行い、
図5(c)のハッチングで示したE1、E2のシリコン酸化膜を除去する。E1はグループTの部分のシリコン酸化膜であり、E2は溝4aの底の部分のシリコン酸化膜である。
ここで、エッチングの終了は、エッチングされる物質をモニターして判断する。すなわ
ち、エッチングの当初には酸化シリコンだけが検出されるが、エッチング時間が進むと酸化シリコンに加えて、シリコンが検出されだすので、この時点でエッチングを終了する。このモニターされたシリコンは、
図5(d)に示される溝4bの底面5において、シリコン基板1が露出されたことを意味する。
このようにして、シリコン酸化膜Dは溝4bで完全に隣同士が断ち切られ、互いに独立した極形状になる。
【0043】
次の第四番目の工程は、シリコン酸化膜Dを帯電させる帯電工程であり、シリコン基板1の断面図である
図6を用いて説明するが、基本的に
図4で説明した第1実施形態と同じ工程なので、重複する部分の説明を省略する。
【0044】
図6に示す帯電工程において、帯電電圧が印加される前は、シリコン酸化膜DにはカリウムイオンKが含まれ、
図6(a)に示されるように、このカリウムイオンKは、シリコン原子の電子と対を作っている。帯電電圧の印加によって、カリウムイオンKが出て行ってしまった後には、
図6(b)に示される電子Eだけが残る。電子Eは負電荷を持つので、シリコン酸化膜Dは負に帯電して、表面電位を発現するエレクトレット膜61となる。
【0045】
このようにして、シリコン基板1は、極形状に分離されて配置されたエレクトレット膜61を有するエレクトレット基板60となる。
静電誘導作用を利用した電気機械変換器であるエレクトレットモーターやエレクトレット発電機においては、用いる基板は、分離配置されたエレクトレット膜を有することが必須であるので、分離配置されたエレクトレット膜61を有するエレクトレット基板60は最適な基板となる。
【0046】
[酸化膜を形成する寸法の条件の説明:
図7A、
図7B、
図7C]
次に第1実施形態及び第2実施形態における溝3、溝4及び凸部2を形成する寸法の条件を、
図7A、
図7B及び
図7Cを用いて説明する。
図7A、
図7B及び
図7Cは、溝3と凸部2の寸法関係を示すシリコン基板1の断面図であり、(a)は溝3と凸部2を形成する凹凸形成工程を示し、(b)はそのシリコン基板1を加熱処理してその表面をシリコン酸化膜にする加熱酸化工程を示す。
【0047】
図7A、
図7B、
図7Cを用いての酸化膜形成説明の前に、シリコン酸化膜の膜厚と酸化時間の関係を
図8により説明する。
シリコン酸化膜の厚さは、酸化時間に依存する。
図8は、酸化時間とシリコン酸化膜の厚さの関係を示すグラフであり、横軸が酸化時間、縦軸がシリコン酸化膜の膜厚である。
加熱酸化時間が12時間のとき、シリコン酸化膜の膜厚T1は1μmとなる。さらに加熱酸化時間を長くすると、例えば、50時間ではシリコン酸化膜の膜厚T2は2μm、200時間ではシリコン酸化膜の膜厚T3は3μmとなる。このように、酸化時間が長くなるにしたがって、シリコン酸化膜の厚さは増えるが、その増加分は小さくなる。したがって、シリコン基板の平坦な表面を熱酸化して厚いシリコン酸化膜を得ることは長時間を要し非常に難しい。
【0048】
図7A、
図7B、
図7Cの各図において、酸化時間は12時間であるので、シリコン基板1の表面に形成されるシリコン酸化膜の膜厚は1μmである。
そして、溝3の深さ、すなわち凸部2の高さは5μmとしたが、シリコン基板1の全ての面において1μの酸化膜が成長するので、この値は、下記に説明する酸化膜を形成する条件に影響を与えない。したがって、凸部2の高さを高くすることにより、厚い酸化膜を得ることができる。
【0049】
最初に、
図7Aを用いて、酸化膜を形成する条件を説明する。本条件は、
図1に示す第
1実施形態と
図5に示す第2実施形態に適用した条件である。
図7A(a)において、凸部2の幅は1μm、溝3の幅も1μmである。
【0050】
図7A(b)に示すように、加熱酸化時間が12時間なので、シリコン基板1の表面の酸化膜の膜厚は1μmであり、凸部2はその幅が1μmなので、凸部2のシリコンは、そのすべてがシリコン酸化膜2Dとなる。
一方、溝3であるが、シリコンがシリコン酸化膜に変化するときにその体積が増大するので、溝3の空隙に向かって、両側の凸部2からシリコン酸化膜が成長する。ここで、酸化膜の表面は、溝を埋める方向に、表面の酸化膜の厚さ1μmの半分の値である0.5μm成長していると考えられる。すると、溝幅が1μmの溝3は、溝3の両側の凸部2からそれぞれ0.5μm成長したシリコン酸化膜により溝が埋められ、シリコン酸化膜3Dとなる。
【0051】
この結果、溝3を埋め尽くしたシリコン酸化膜3Dと凸部2の内部のシリコン酸化膜2Dは一体となり、シリコン基板1の上面全体がシリコン酸化膜Dとなる。
図7Aの条件においては、シリコン基板1の表面に形成されるシリコン酸化膜の厚さは6μmとなる。これは、凸部2の高さ5μmとシリコン基板の表面に形成された酸化膜の厚さ1μmの和である。
【0052】
次に、
図7Bを用いて、酸化膜を形成する条件を説明する。本条件は、
図5(b)に示す第2の実施形態に適用した条件である。
図7B(a)において、凸部2の幅は1μmであり、溝3の幅は2μmである。
図7B(b)に示される加熱酸化工程においては、凸部2はその幅が1μmなので、凸部2のすべてのシリコンは酸化され、シリコン酸化膜2Dとなる。
一方、溝3はその幅が2μmなので、溝3の空隙に、両側の凸部2からのシリコン酸化膜が成長しても、その空隙を埋めきることはできず、溝3aとして空隙が残る。
【0053】
このように、
図7Bの条件で酸化膜を形成すると酸化膜Dの間に溝を形成すことができる。したがって、第2実施形態の
図6で説明した、酸化膜Dの間の溝にある酸化膜を除去する工程を加えることで、シリコン基板の表面に形成されたシリコン酸化膜を完全に極形状に配置することができる。
極形状に配置されたシリコン酸化膜を帯電処理して得られるエレクトレット膜を有するエレクトレット基板は、静電誘導作用を利用した電気機械変換器用の極を形成するエレクトレット基板として有用である。
【0054】
次に、
図7Cを用いて、酸化膜を形成する条件を説明する。本条件は、本願に対する参考例の条件を示すものである。
図7C(a)において、凸部2の幅は2μmであり、溝3の幅は1μmである。
図7C(b)に示される加熱酸化処理後においては、凸部2はその幅が2μmなので、凸部2の芯の部分2aは酸化されずにシリコンとしてそのまま残る。一方、溝3はその幅が1μmなので、両側の凸部2からのシリコン酸化膜が成長して溝3空隙が埋められてシリコン酸化膜3Dとなる。
すると、シリコン酸化膜Dはその内部にシリコン部分を有する酸化膜となるので、酸化膜を帯電してエレクトレット膜としたときに不均一なエレクトレット膜となり、表面電位の均一性が得られない。
上記のようにシリコン基板1の表面に厚くて一様な酸化膜を形成するには、
図7A、
図7Bのような形成条件が重要となる。
【0055】
[第3実施形態及び第4実施形態における溝及び凸部のパターン配置の説明:
図9A、
図9B]
本発明においては、シリコン基板の表面に多数の溝及び凸部を形成するので、製造工程においてシリコン基板に反り返りが発生し、シリコン酸化膜の均一性が低下する懸念がある。とくにサイズの大きい大判シリコン基板を用いる場合には、この反り返りが大きくなり、対策が必要となる。
第3実施形態及び第4実施形態は大判シリコン基板を用いる場合における、反り返り対策が目的である。
【0056】
本発明の第3実施形態による溝及び凸部のパターンの配置を、
図9Aを用いて説明する。
図9A(a)は、大判のシリコン基板90に形成した溝及び凸部のパターンの配置を示す斜視図であり、
図9A(b)は、加熱酸化工程後における
図9A(a)のA−A’断面図であり、
図9A(c)は、同様に加熱酸化工程後の
図9A(a)のB−B’断面図である。
【0057】
図9A(a)を用いて、シリコン基板90に形成する溝及び凸部のパターン配置を説明する。
シリコン基板90の上の面90uには、その長手方向がY軸に平行な溝及び凸部のパターンPuを形成し、下の面90dには、その長手方向がX軸に平行な溝及び凸部のパターンPdを設ける。したがって、溝及び凸部のパターンの長手方向は、シリコン基板90の上の面90uと下の面90dにおいて直交している。
そして、溝及び凸部の形状寸法は、
図7Aで説明した条件であり、溝の幅及び凸部の幅が1μm、溝の深さ及び凸部の高さが5μmである。
【0058】
次に、
図9A(b)及び
図9A(c)を用いて、加熱酸化工程におけるシリコン酸化膜の形状を説明する。
図9A(b)では、
図7Aによる酸化膜形成の条件で説明したように、パターンPuの溝はシリコン酸化膜で埋まり、凸部は芯までシリコン酸化膜となり、両者が一体化したシリコン酸化膜PuSとなる。パターンPdの溝及び凸部も同様に一体化してシリコン酸化膜PdSとなる。
図9A(c)においても、溝及び凸部の両者はシリコン酸化膜となって一体化し、シリコン酸化膜PuS及びPdSとなる。
【0059】
本パターン配置により、上下面にその長手方向が直交する溝及び凸部を形成することで、凹凸形成加工によって発生する応力が緩和され、加熱酸化工程での加熱時に生じる、シリコン基板の反り返りが緩和される。その結果、シリコン基板の表面は平坦で均一に酸化され、均質なシリコン酸化膜を得ることができる。
さらに、本パターン配置によると、一枚の基板の両面にエレクトレット膜を形成することができるので、とくに、エレクトレット基板でその両面にエレクトレット膜を持つ基板が要求される静電誘導作用を利用した電気機械変換器用の基板として有用である。
【0060】
次に、本発明の第4実施形態による溝及び凸部のパターンの配置を、
図9Bを用いて説明する。
図9B(a)は、大判のシリコン基板91に形成した溝及び凸部のパターンの配置を示す斜視図であり、
図9B(b)は加熱酸化工程後の
図9B(a)におけるC−C’断面図である。
第4実施形態における溝及び凸部のパターン配置は、
図9B(a)に示すように、その長手方向がX軸に平行な溝及び凸部のパターンPxと、Y軸に平行な溝及び凸部のパターンPyが互い違いである。したがって、溝及び凸部のパターンの長手方向は、隣接パターンにおいて、互いに直交している。
【0061】
図9B(b)を用いて、加熱酸化工程のシリコン酸化膜の形状を説明する。
図7Aによる酸化膜形成の条件で説明したように、パターンPyの溝はシリコン酸化膜で埋まり、凸部は芯までシリコン酸化膜となり、両者が一体化したシリコン酸化膜PySとなる。パターンPxの溝及び凸部も同様に一体化してシリコン酸化膜PxSとなる。
【0062】
本パターン配置により、溝及び凸部のパターンの長手方向が、隣接パターンにおいて、互いに直交することで、凹凸形成加工によって発生する応力が緩和され、加熱酸化工程での加熱時に生じる、シリコン基板の反り返りが緩和される。その結果、シリコン基板の表面は平坦で均一に酸化され、均質なシリコン酸化膜を得ることができる。
とくに、エレクトレット基板でその片面にエレクトレット膜を持つ基板が要求される静電誘導作用を利用した電気機械変換器用の基板として有用である。
【0063】
以上、説明したとおり、本発明による静電誘導装置用基板の製造方法によれば、溝及び凸部をすべてシリコン酸化膜にすることにより、厚みが大きなシリコン酸化膜を短時間で形成することができるので、シリコン酸化膜からなる、表面電位が高いエレクトレット膜を得ることができ、その結果、高性能なエレクトレット膜を具備する静電誘導装置用基板を容易に得ることができる。