特許第6839585号(P6839585)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 花王株式会社の特許一覧

<>
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6839585
(24)【登録日】2021年2月17日
(45)【発行日】2021年3月10日
(54)【発明の名称】印刷インキ用分散剤組成物
(51)【国際特許分類】
   C09D 11/03 20140101AFI20210301BHJP
【FI】
   C09D11/03
【請求項の数】13
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2017-66605(P2017-66605)
(22)【出願日】2017年3月30日
(65)【公開番号】特開2018-168285(P2018-168285A)
(43)【公開日】2018年11月1日
【審査請求日】2019年12月6日
(73)【特許権者】
【識別番号】000000918
【氏名又は名称】花王株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100087642
【弁理士】
【氏名又は名称】古谷 聡
(74)【代理人】
【識別番号】100098408
【弁理士】
【氏名又は名称】義経 和昌
(72)【発明者】
【氏名】石橋 洋一
【審査官】 山本 悦司
(56)【参考文献】
【文献】 特開2009−138115(JP,A)
【文献】 特公昭41−17852(JP,B1)
【文献】 特開2014−125594(JP,A)
【文献】 特表2002−510341(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09D 11/00−13/00
C09C 1/00−3/12
C09D 15/00−17/00
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
オレフィンと不飽和二塩基酸との共重合体の、炭素数6以上10以下の分岐鎖アルキル基を有するアミンによるアミド化物又はその塩(a)と、酢酸エステル(b1)と低級アルコール(b2)との混合有機溶剤(b)とを含有する、印刷インキ用分散剤組成物。
【請求項2】
前記アミド化物の塩が、下記式(1)のイミダゾリン化合物の塩である、請求項1記載の印刷インキ用分散剤組成物。
【化1】

〔式中、Rは炭素数7以上21以下の炭化水素基、Rは炭素数1以上5以下の2価の炭化水素基である。〕
【請求項3】
酢酸エステル(b1)が、酢酸エチル及び酢酸ブチルからなる群から選ばれる少なくとも1種であり、低級アルコール(b2)が、イソプロピルアルコール及びn−ブチルアルコールからなる群から選ばれる少なくとも1種である請求項1又は2記載の印刷インキ用分散剤組成物。
【請求項4】
オレフィンが、ジイソブチレン及びイソブチレンからなる群から選ばれる少なくとも1種である請求項1〜3に記載の印刷インキ用分散剤組成物。
【請求項5】
不飽和二塩基酸が、無水マレイン酸、マレイン酸及びイタコン酸からなる群から選ばれる少なくとも1種である請求項1〜4に記載の印刷インキ用分散剤組成物。
【請求項6】
(a)の含有量と(b)の含有量との質量比(a)/(b)が0.1以上0.9以下である、請求項1〜5いずれかに記載の印刷インキ用分散剤組成物。
【請求項7】
(a)を分散剤組成物中10質量%以上80質量%以下含有する、請求項1〜6いずれかに記載の印刷インキ用分散剤組成物。
【請求項8】
(b1)の含有量と(b2)の含有量の質量比(b1)/(b2)が0.01以上100以下である、請求項1〜7いずれかに記載の印刷インキ用分散剤組成物。
【請求項9】
印刷インキ用粉体と、
オレフィンと不飽和二塩基酸との共重合体の、炭素数6以上10以下の分岐鎖アルキル基を有するアミンによるアミド化物又はその塩(a)と、
酢酸エステル(b1)と低級アルコール(b2)との混合有機溶剤(b)と、
を含有する、印刷インキ組成物。
【請求項10】
印刷インキ用粉体が着色剤である、請求項9記載の印刷インキ組成物。
【請求項11】
印刷インキ用粉体100質量部に対して、(a)を1質量部以上30質量部以下含有する、請求項9又は10記載の印刷インキ組成物。
【請求項12】
オレフィンと不飽和二塩基酸とを、酢酸エステル(b1)と低級アルコール(b2)とを含む反応溶媒中で反応させて共重合体を得る工程、及び
前記共重合体を、炭素数6以上10以下の分岐鎖アルキル基を有するアミンでアミド化して前記共重合体のアミド化物を得る工程、
を有する、印刷インキ用分散剤組成物の製造方法。
【請求項13】
前記共重合体のアミド化物を、下記式(1)のイミダゾリン化合物で中和する工程を有する、請求項12記載の印刷インキ用分散剤組成物の製造方法。
【化2】

〔式中、Rは炭素数7以上21以下の炭化水素基、Rは炭素数1以上5以下の2価の炭化水素基である。〕
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、印刷インキ用分散剤組成物、印刷インキ組成物及び印刷インキ用分散剤組成物の製造方法に関する
【背景技術】
【0002】
印刷方式には、グラビア印刷、オフセット印刷、フレキソグラフィー印刷などが知られており、それぞれに適した印刷インキが用いられている。通常、インキは、有機溶剤や水などの溶剤を含有している。例えば、グラビア印刷用インキの溶剤としては、トルエン、キシレン、ベンゼン等の芳香族系溶剤や、酢酸エチル、イソプロピルアルコール等のような非芳香族系溶剤が使用されてきた。トルエンは、インキに使用される樹脂や添加剤に対する高い溶解性、印刷時の適切な乾燥性等のために、従来、好んで使用されてきた。しかしながら、労働安全衛生法の改正により、トルエンの濃度規制が強化され、そのための環境改善への対応からインキ中の溶剤組成の見直しが迫られており、トルエンを使用しないインキ、例えば、酢酸エチル、イソプロピルアルコールを用いたインキの需要が高まっている。
【0003】
特許文献1には、オレフィンと不飽和二塩基酸との共重合体のアミド化物又はエステル化物で、不飽和二塩基酸に対するアミド化率又はエステル化率が10〜60モル%であるものから選ばれる少なくとも1種の分散剤と、溶解度パラメーターが8.5〜22(cal/cm1/2の非芳香族系有機溶剤とを含有する電子材料用油中分散剤組成物を用いて、カーボンブラックなどの電子材料用粉体の油中分散体を得ることが記載されている。
また、特許文献2には、オレフィンと不飽和二塩基酸との共重合体のアミド化物を用いて、染料や顔料などの非水溶媒中に微粒子を分散させることが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2009−138115号公報
【特許文献2】特公昭41−17852号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、環境に影響の少ない非芳香族系有機溶剤を用いても着色剤に対する充分な分散性能を有し、インキが乾燥しても有機溶剤に再度混合した際に容易に分散し、且つ保存後の分散性に優れた印刷インキが得られる印刷インキ用分散剤組成物を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、オレフィンと不飽和二塩基酸との共重合体の、炭素数6以上10以下の分岐鎖アルキル基を有するアミンによるアミド化物又はその塩(a)と、酢酸エステル(b1)と低級アルコール(b2)との混合有機溶剤(b)とを含有する、印刷インキ用分散剤組成物に関する。
【0007】
また、本発明は、
印刷インキ用粉体と、
オレフィンと不飽和二塩基酸との共重合体の、炭素数6以上10以下の分岐鎖アルキル基を有するアミンによるアミド化物又はその塩(a)と、
酢酸エステル(b1)と低級アルコール(b2)との混合有機溶剤(b)と、
を含有する、印刷インキ組成物に関する。
【0008】
また、本発明は、
オレフィンと不飽和二塩基酸とを、酢酸エステル(b1)と低級アルコール(b2)とを含む反応溶媒中で反応させて共重合体を得る工程、及び
前記共重合体を、炭素数6以上10以下の分岐鎖アルキル基を有するアミンでアミド化して前記共重合体のアミド化物を得る工程、
を有する、印刷インキ用分散剤組成物の製造方法に関する。
【0009】
以下、オレフィンと不飽和二塩基酸との共重合体の、炭素数6以上10以下の分岐鎖アルキル基を有するアミンによるアミド化物又はその塩(a)を(a)成分、酢酸エステル(b1)を(b1)成分、低級アルコール(b2)を(b2)成分、前記混合有機溶剤(b)を(b)成分として説明する。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、環境に影響の少ない非芳香族系有機溶剤を用いても着色剤に対する充分な分散性能を有し、インキが乾燥しても有機溶剤に再度混合した際に容易に分散し、且つ保存後、例えば高温、長期間の保存後の分散性に優れた印刷インキが得られる印刷インキ用分散剤組成物が提供される。例えば、グラビア印刷をする場合、グラビア印刷機のロール上で印刷インキが乾燥固結し、ロールが回転している間に本固結物がロールから落下して、新たに供給される印刷インキ中に混入するような事態が生じても、本発明の印刷インキ用分散剤組成物を用いて調製された印刷インキ組成物であれば、印刷インキ用粉体は容易に印刷インキに再分散するため、作業効率や印刷インキの品質を維持できる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
〔印刷インキ用分散剤組成物〕
(a)成分は、オレフィンと不飽和二塩基酸との共重合体の、炭素数6以上10以下の分岐鎖アルキル基を有するアミンによるアミド化物又はその塩である。(a)成分は、印刷インキ用粉体の分散剤として機能する。
【0012】
(a)成分を構成するオレフィンとしては、良好な分散性能を得る観点から、炭素数3以上12以下のオレフィンが好ましく、ジイソブチレン及びイソブチレンからなる群から選ばれる少なくとも1種がより好ましく、ジイソブチレンが更に好ましい。
【0013】
(a)成分を構成する不飽和二塩基酸としては、良好な分散性能を得る観点から、炭素数4以上6以下の脂肪族不飽和二塩基酸が好ましく、無水マレイン酸、マレイン酸及びイタコン酸からなる群から選ばれる少なくとも1種がより好ましく、無水マレイン酸及びマレイン酸からなる群から選ばれる少なくとも1種が更に好ましい。
【0014】
(a)成分の構成モノマーとしてのオレフィンと不飽和二塩基酸の割合は、良好な分散性能を得る観点から、オレフィン/不飽和二塩基酸のモル比が、好ましくは0.25以上、より好ましくは0.40以上、更に好ましくは0.50以上、そして、好ましくは4以下、より好ましくは2.5以下、更に好ましくは2.0以下である。
【0015】
(a)成分のオレフィンと不飽和二塩基酸との共重合体のアミド化物は、オレフィン及び不飽和二塩基酸の共重合体と、炭素数6以上10以下の分岐鎖アルキル基を有するアミンとを反応させることにより得ることができる。ここで用いられるアミンは、炭素数6以上10以下の分岐鎖アルキル基を有するアミンであり、炭素数6以上10以下の分岐鎖アルキル基を有する1級アミンが好ましい。具体的には、イソヘキシルアミン、2−エチルヘキシルアミン、イソオクチルアミン、イソデシルアミン等が挙げられる。これらのアミンは1種又は2種以上を混合して用いることができる。当該アミンが有する前記分岐鎖アルキル基は、好ましくは炭素数8以上10以下の分岐鎖アルキル基である。
【0016】
(a)成分であるアミド化物のアミド化率(対不飽和二塩基酸)は、良好な分散性能、及び(b)成分への良好な溶解性を得る観点から、好ましくは60モル%超、より好ましくは70モル%以上、更に好ましくは80モル%以上、そして、好ましくは150モル%以下、より好ましくは120モル%以下、更に好ましくは110モル%以下である。
尚、このアミド化率は、(a)成分製造時の原料の仕込みモル%に基づいて算出できる。アミド化率が、200モル%を超える場合は、遊離アミド化物が存在するものと推察される。
【0017】
オレフィンと不飽和二塩基酸との共重合体のアミド化物は、塩であってもよい。塩は、アミン、ベタイン等で中和して得ることができる。塩は、イミダゾリン塩が好ましく、下記式(1)のイミダゾリン化合物の塩がより好ましい。
【0018】
【化1】
【0019】
〔式中、Rは炭素数7以上21以下の炭化水素基、Rは炭素数1以上5以下の2価の炭化水素基である。〕
【0020】
前記式(1)中、Rの炭化水素基は、アルキル基、アルケニル基が挙げられる。また、Rの炭素数は、好ましくは8以上、より好ましくは10以上、そして、好ましくは22以下、より好ましくは20以下である。Rの2価の炭化水素基は、アルキレン基が挙げられる。Rの炭素数は、好ましくは1以上、そして、好ましくは4以下である。
【0021】
オレフィンと不飽和二塩基酸との共重合体のアミド化物が塩である場合、中和度は、好ましくは50モル%以上、より好ましくは60モル%、そして、好ましくは100モル%以下、より好ましくは90モル%以下である。
【0022】
(a)成分である、前記アミド化物の重量平均分子量は、良好な分散性能、及び非芳香族系有機溶剤への良好な溶解性を得る観点から、好ましくは700以上、より好ましくは3000以上、更に好ましくは5000以上、そして、好ましくは50万以下、より好ましくは30万以下、更に好ましくは10万以下である。なお、本明細書における(a)成分のアミド化物の重量平均分子量は、下記条件のGPC(ゲルパーミエーションクロマトグラフィー、ポリスチレン換算)で測定した値である。
カラム:α−M+α−M(東ソー株式会社製)
カラム温度:40℃
検出器:RI
溶離液:60mmol/Lリン酸、50mmol/L臭化リチウム、DMF溶剤
流速:1.0mL/min
注入量:0.1mL
標準:ポリスチレン
【0023】
本発明では共重合体の重合率の向上並びに好ましい重量平均分子量を得る観点から、共重合体を製造する際に重合開始剤を使用できる。重合開始剤は、有機過酸化物、アゾ系等が挙げられ、このうち有機過酸化物が好ましく、具体的にはパーオキシケタール、ハイドロパーオキサイド、ジアルキルパーオキサイド、ジアシルパーオキサイド、パーオキシジカーボネート、パーオキシエステルが挙げられ、更に具体的には過酸化ベンゾイル、過酸化ラウロイル、t−ブチルパーオキシ−2−エチルヘキサノエート等が挙げられる。
重合開始剤の使用量(対不飽和二塩基酸)は、良好な重合率並びに分散性能を得る観点から、好ましくは0.1モル%以上、より好ましくは0.3モル%以上、更に好ましくは0.5モル%以上、そして、好ましくは20モル%以下、より好ましくは10モル%以下、更に好ましくは5モル%以下である。
重合開始剤は重合終了後の熟成工程において共重合体の重合率を更に向上させる目的で添加しても良い。その際の使用量は0.01モル%以上0.1モル%以下(対不飽和二塩基酸)が好ましい。
【0024】
本発明では、(a)成分と共に未反応のオレフィンや不飽和二塩基酸等を本発明の効果を阻害しない範囲で含有する混合物を、(a)成分の供給原料として用いてもよい。
【0025】
(a)成分は、前記アミド化合物の塩が好ましく、前記アミド化物のイミダゾリン塩がより好ましい。
【0026】
本発明に用いられる(b)成分の混合有機溶剤は、環境への配慮から、非芳香族系有機溶剤であり、また、(a)成分の溶解性を向上させる観点から、(b1)成分の酢酸エステルと(b2)成分の低級アルコールとの混合有機溶剤が用いられる。本発明の印刷インキ用分散剤組成物は、いわゆる油中分散型スラリーの形態の印刷インキ組成物の調製に好適に用いられる。
【0027】
(b1)成分の酢酸エステルとしては、総炭素数2以上6以下の酢酸エステルが挙げられ、具体的には、酢酸エチル、酢酸プロピル、酢酸ブチル等が挙げられる。(b1)成分は、酢酸エチル及び酢酸ブチルからなる群から選ばれる少なくとも1種が好ましい。
また、(b2)成分の低級アルコールとしては、炭素数2以上6以下のアルコールが挙げられ、具体的には、イソプロピルアルコール、n−プロピルアルコール、イソブチルアルコール、n−ブチルアルコール等が挙げられる。(b2)成分は、イソプロピルアルコール及びn−ブチルアルコールからなる群から選ばれる少なくとも1種が好ましい。
【0028】
(b)成分は、良好な分散性能、及び(a)成分の(b)成分への良好な溶解性を得る観点から、(b1)成分の含有量と(b2)成分の含有量の質量比(b1)/(b2)が、好ましくは0.01以上、より好ましくは0.25以上、更に好ましくは0.45以上、より更に好ましくは0.8以上、そして、好ましくは100以下、より好ましくは99以下、更に好ましくは50以下、より更に好ましく9は以下、より更に好ましくは3以下である。
【0029】
本発明の印刷インキ用分散剤組成物は、(b)成分以外の有機溶剤を含有してもよいが、全有機溶剤中、(b)成分の占める割合は、好ましくは10質量%以上、より好ましくは30質量%以上、更に好ましくは70質量%以上、そして、好ましくは100質量%以下であり、100質量%であってもよい。
また、本発明の印刷インキ用分散剤組成物は、水の含有量が少ないものが好ましい。更に好ましくは、水を実質的に含有しないものが好ましい。ここで、「水を実質的に含有しない」とは、組成物中の水の含有量が好ましくは5質量%以下、より好ましくは3質量%以下、更に好ましくは1質量%以下であることをいう。
【0030】
本発明の印刷インキ用分散剤組成物は、分散性向上の観点から、(a)成分の含有量と(b)成分の含有量との質量比(a)/(b)が、好ましくは0.1以上、より好ましくは0.2以上、更に好ましくは0.3以上、そして、好ましくは0.9以下、より好ましくは0.7以下、更に好ましくは0.5以下である。
【0031】
本発明の印刷インキ用分散剤組成物は、分散性向上の観点から、(a)成分を、好ましくは10質量%以上、より好ましくは15質量%以上、更に好ましくは20質量%以上、そして、好ましくは80質量%以下、より好ましくは60質量%以下、更に好ましくは40質量%以下含有する。
【0032】
本発明の印刷インキ用分散剤組成物は、任意成分として、高級アルコール、脂肪酸、脂肪酸エステル、脂肪アミンなどを含有することができる。
【0033】
なお、本発明の印刷インキ用分散剤組成物は、(b)成分をそのまま印刷インキ組成物の溶剤として用いることができるため、組成によっては、本発明の印刷インキ用分散剤組成物に印刷インキ用粉体を混合するだけで、本発明の印刷インキ組成物を得ることができる。例えば、本発明の印刷インキ用分散剤組成物は、印刷インキ用ビヒクルやその溶剤、更には、印刷インキ組成物用溶剤等として使用することができる。
【0034】
本発明の印刷インキ組成物は、印刷インキ用粉体又は他の有機溶剤との混合性の向上の観点から、液体であることが好ましい。
【0035】
〔印刷インキ組成物〕
本発明の印刷インキ組成物は、印刷インキ用粉体と、前記(a)成分と、前記(b)成分とを含有する。(a)成分、及び(b)成分の具体例及び好ましい態様は、本発明の印刷インキ用分散剤組成物と同じである。
【0036】
印刷インキ用粉体としては、着色剤、着色剤以外の無機粉体が挙げられる。
着色剤は、顔料が挙げられる。顔料としては、印刷インキで一般的に用いられている各種無機顔料、有機顔料等が使用できる。無機顔料としては、例えば、酸化チタン、ベンガラ、アンチモンレッド、カドミウムイエロー、コバルトブルー、紺青、群青、カーボンブラック、黒鉛、サチンホワイト、亜鉛華、等の有色顔料、シリカ、炭酸カルシウム、カオリン、クレー、硫酸バリウム、水酸化アルミニウム、タルク等の体質顔料、アクリル樹脂で表面処理したアルミニウム粒子を含有するアルミペースト、表面に酸化チタンと酸化スズと酸化ジルコニウムとがコーティングされたマイカ等のパール顔料を挙げることができる。有機顔料としては、例えば、溶性アゾ顔料、不溶性アゾ顔料、アゾレーキ顔料、縮合アゾ顔料、銅フタロシアニン顔料、縮合多環顔料等を挙げることができる。
また、着色剤以外の無機粉体としては、リン酸カルシウム、リン酸亜鉛、ベントナイト、フェライト、アルミナ、酸化マグネシウム、ホワイトカーボン、セメント、石膏、チタン酸塩、珪酸塩等が挙げられる。
【0037】
印刷インキ用粉体は、着色剤を含むことが好ましい。本発明の印刷インキ組成物は、良好な分散性が得られる観点から、着色剤を、好ましくは5質量%以上、より好ましくは7質量%以上、更に好ましくは9質量%以上、そして、好ましくは50質量%以下、より好ましくは30質量%以下含有する。
【0038】
また、本発明の印刷インキ組成物が、印刷インキ用粉体として着色剤以外の無機粉体を含有する場合、印刷インキ用粉体中、着色剤以外の無機粉体を、好ましくは10質量%以上、より好ましくは20質量%以上、更に好ましくは30質量%以上、そして、好ましくは70質量%以下、より好ましくは60質量%以下含有する。
【0039】
本発明の印刷インキ組成物は、良好な分散性が得られる観点から、(a)成分を、印刷インキ用粉体100質量部に対し、好ましくは1質量部以上、より好ましくは2質量部以上、更に好ましくは5質量部以上、そして、好ましくは30質量部以下、より好ましくは20質量部以下含有する。
【0040】
本発明の印刷インキ組成物は、(b)成分を、好ましくは80質量%以上、より好ましくは85質量%以上、そして、好ましくは95質量%以下、より好ましくは90質量%以下含有する。
【0041】
本発明の印刷インキ組成物の組成は種々設定できるが、例えば、グラビア印刷用インキ組成物であれば、各成分の含有量は、例えば、以下の通りとすることができる。
・着色剤 組成物中、好ましくは7質量%以上30質量%以下
・(a)成分 着色剤100質量部に対して、好ましくは0.5質量部以上30質量部以下
・(b)成分 組成物中、好ましくは40質量%以上92.5質量%以下
【0042】
本発明の印刷インキ組成物は、25℃での分散粒子の平均粒径が、好ましくは3μm以下、より好ましくは2.5μm以下であり、一例として、2μm近傍が好ましい。平均粒径の下限値は、1.1μm以上が好ましい。尚、平均粒径は、実施例に記載した方法で測定する。
【0043】
本発明の印刷インキ組成物は、バインダー、可塑剤等を含有することができる。バインダーとしては例えば、エチルセルロース、アクリル、ポリビニルブチラール、ポリビニルアセタール、ポリビニルアルコール、ポリオレフィン、ポリウレタン、ポリスチレン、あるいはこれらの混合物等が挙げられる。可塑剤としては例えば、フタル酸ジオクチル、アジピン酸、リン酸エステル、グリコール等が挙げられる。
【0044】
また、本発明の印刷インキ組成物の粘度も、印刷方式に応じて設定することができる。例えば、グラビア印刷用インキ組成物であれば、25℃の粘度は、好ましくは0.5mPa・s以上20mPa・s以下である。
【0045】
本発明の印刷インキ組成物の、分散安定化のメカニズムは明らかではないが、本発明の(a)成分を構成する不飽和二塩基酸から誘導される基が印刷インキ用粉体に吸着し、本発明の(a)成分を構成するオレフィンから誘導される基が有機溶剤中に溶解拡散することにより、印刷インキ用粉体の分散安定化が向上するものと推察される。
【0046】
本発明の印刷インキ組成物は、油中分散型スラリーであることが好ましい。本発明の印刷インキ組成物を得る方法としては、通常のスラリー化の方法を用いることができる。例えば本発明の印刷インキ用分散剤組成物に印刷インキ用粉体を添加して撹拌、混合する方法、印刷インキ用粉体に本発明の印刷インキ用分散剤組成物を加えて撹拌、混合する方法等が挙げられる。撹拌、混合する方法としては、例えば高速ディスパー、ホモミキサー、ボールミル等一般に用いられる撹拌装置を使用することができる。
また、印刷インキ用粉体の顔料又は粗粒子を粉砕と同時にスラリー化する場合には、印刷インキ用粉体の鉱石又は粗粒子に本発明の印刷インキ用分散剤組成物を添加して、粉砕と同時にスラリー化する方法等を行うこともできる。粉砕と同時にスラリー化する方法には、ビーズミル等一般に用いられる湿式粉砕機を使用することが出来る。
【0047】
〔印刷インキ用分散剤組成物又は印刷インキ組成物の製造方法〕
本発明は、オレフィンと不飽和二塩基酸とを、酢酸エステル(b1)と低級アルコール(b2)とを含む反応溶媒中で反応させて共重合体を得る工程、及び
前記共重合体を、炭素数6以上10以下の分岐鎖アルキル基を有するアミンでアミド化して前記共重合体のアミド化物を得る工程、
を有する、印刷インキ用分散剤組成物の製造方法を提供する。
【0048】
上記製造方法においては、前記共重合体のアミド化物は、(a)成分である。(b1)成分と(b2)成分とを含む反応溶媒はそのまま印刷インキ用分散剤組成物の(b)成分とすることができる。
本発明の印刷インキ用分散剤組成物や本発明の印刷インキ組成物で述べた事項は、本発明の印刷インキ用分散剤組成物の製造方法に適用できる。
本発明の印刷インキ用分散剤組成物の製造方法は、前記共重合体のアミド化物を、前記式(1)のイミダゾリン化合物で中和する工程を有することができる。
【0049】
また、本発明は、
印刷インキ用粉体と、
オレフィンと不飽和二塩基酸との共重合体の、炭素数6以上10以下の分岐鎖アルキル基を有するアミンによるアミド化物又はその塩(a)と、
酢酸エステル(b1)と低級アルコール(b2)との混合有機溶剤(b)と、
を混合する、印刷インキ組成物の製造方法を提供する。
【0050】
上記製造方法においては、(a)成分及び(b)成分を含有する本発明の印刷インキ用分散剤組成物を用いることができる。その場合、必要に応じて、(b1)成分及び/又は(b2)成分を添加して組成を調整することができる。本発明の印刷インキ用分散剤組成物や本発明の印刷インキ組成物で述べた事項は、この印刷インキ組成物の製造方法に適用できる。
【実施例】
【0051】
製造例1
攪拌機、温度計、還流冷却管、窒素導入管、滴下ロートを備えた反応容器に無水マレイン酸(三井化学(株)製)70.6g、酢酸エチル(シノケム・ジャパン(株)製)32.5g及びイソプロピルアルコール(以下IPAと略記)(JXエネルギー(株)製)32.5gを仕込み、窒素気流下で93℃に加熱後、この温度を維持しながら、85質量%ジイソブチレン(丸善石油化学(株)製)の酢酸エチルとIPA混合溶液95.0g及び重合開始剤として2質量%パーブチルO(日油社製、t−ブチルパーオキシ−2−エチルヘキサノエート)の酢酸エチルとIPA混合溶液74.0gをそれぞれ別の滴下ロートから1.5時間かけて滴下し重合反応を行った。滴下終了15分後に2質量%パーブチルOの酢酸エチルとIPA混合溶液3.0gを一括で添加し、その後、93℃で9時間熟成し、重合反応を完結させた。反応終了後、冷却し、65℃に保持しながら2−エチルヘキシルアミン(広栄化学工業(株)製)93.0gを滴下ロートから1時間かけて滴下しアミド化反応を行った。滴下終了後、65℃で2時間熟成した。その後、冷却し、40℃に保持しながら中和剤であるオレイルヒドロキシエチルイミダゾリン((株)八代製)185.5gを滴下ロートから1.5時間かけて滴下し中和反応を行った。滴下終了後、40℃で1時間熟成し、反応を完結させ、無水マレイン酸/ジイソブチレン共重合体アミド化物のオレイルエチルイミダゾリンによる中和物を得た。本アミド化物の中和物のアミド化率、重量平均分子量(前記方法により測定した値、以下同じ)、合成時の使用溶剤、中和剤及び中和度を表1に示す。なお、オレイルヒドロキシエチルイミダゾリンは、式(1)中のRがオレイル基、Rがエチレン基の化合物である。
この方法により得られた反応生成物を、そのまま印刷インキ用分散剤組成物とした。
【0052】
製造例2〜4、比較製造例1〜8
製造条件を表1の通りとする以外は製造例1と同様にして、表1に示すアミド化物もしくはその中和物又はエステル化物を含む反応生成物を得た。得られた反応生成物は、そのまま印刷インキ用分散剤組成物とした。
尚表1中、イタコン酸は磐田化学工業(株)製、イソブチレンは(株)クラレ社製、オレイルアミン、ステアリルアミン、n−オクチルアミンは花王(株)製、n−ブチルアミン、n−デシルアミン、2−エチルヘキシルアルコール、プロピレングリコールメチルエーテルアセテート(PGMEA)、メチルイソブチルケトン(MIBK)、トルエン、メチルエチルケトン(MEK)、キシレンは和光純薬工業(株)製、イソヘキシルアミン、イソオクチルアミン、イソデシルアミン、イソペンチルアミン、イソドデシルアミン、ステアリルエチルイミダゾリン、ラウリルエチルイミダゾリンは東京化成工業(株)製である。
【0053】
【表1】
【0054】
表1中、モル%は、いずれも不飽和二塩基酸に対するモル%である。
表1中、製造例1〜4では、共重合体のアミド化物が(a)成分、合成時の使用溶剤が(b)成分である。
【0055】
実施例1〜4、比較例1〜9
表1の印刷インキ用分散剤組成物と比較の分散剤とを用いて印刷インキ組成物を調製し、以下の評価を行った。結果を表2に示した。
【0056】
(1)分散性の評価(I)(調製直後の分散性)
100mLのスクリュー管に、平均粒径が24nmのカーボンブラック(三菱化学(株)製MA100)4g、溶剤、表1の印刷インキ用分散剤組成物又は比較の分散剤を仕込んだ。ここで、比較の分散剤は、ルブリゾール24000(ポリエチレンイミン系分散剤、ルブリゾール社製)であった。また、表1の印刷インキ用分散剤組成物と比較の分散剤は、それぞれ、合成時に使用した溶剤と同じ溶剤で希釈して固形分30質量%に調製したものを使用した。表1の印刷インキ用分散剤組成物については、固形分の量は、共重合体のアミド化物もしくはエステル化物又は塩の量であるとみなすことができる。なお、比較の分散剤では、溶剤は、酢酸エチル/IPAの質量比が1/1の混合有機溶剤を用いた。
その後、ブランソン社製の超音波分散装置B1510で3時間処理を行い、スラリーを調製した。これを印刷インキ組成物とした。印刷インキ組成物におけるカーボンブラック濃度が10質量%となるように溶剤の量を調製した。
印刷インキ用分散剤組成物又は比較の分散剤の添加量が、8、10、又は12質量%(対カーボンブラック(固形分換算))の印刷インキ組成物を用意した。
各分散剤添加量の印刷インキ組成物について、調製直後に、堀場製作所社製のレーザー散乱粒度分布計LA−920を用いて、25℃における印刷インキ組成物のカーボンブラックの平均粒径を測定した。結果を表2に示す。
尚、印刷インキ組成物は、各分散剤添加量において平均粒径が2μm以下であるものを分散性が良好であるとした。
【0057】
(2)分散性の評価(II)(再分散性)
(1)で得られた印刷インキ組成物を、アドバンテック社製減圧乾燥機VO−320で80℃、24時間で減圧乾燥を行い、溶剤を完全に除去した。その後、再度、酢酸エチル/IPAの質量比が1/1の混合有機溶剤を加えてカーボンブラック濃度10質量%に調整し、超音波分散装置で1時間分散処理を行い、カーボンブラックを再分散させた印刷インキ組成物を得た。次いで(1)と同様に印刷インキ組成物のカーボンブラックの平均粒径を測定した。結果を表2に示す。
尚、印刷インキ組成物は、各分散剤添加量において平均粒径が2μm以下であるものを再分散性が良好であるとした。
【0058】
(3)分散性の評価(III)(保存後の分散性)
(2)で得られた印刷インキ組成物を、ヤマト社製乾燥機DK600中に50℃、7日間静置した。その後、(1)と同様に印刷インキ組成物のカーボンブラックの平均粒径を測定した。結果を表2に示す。
尚、印刷インキ組成物は、各分散剤添加量において平均粒径が2μm以下であるものを分散性が良好であるとし、2μmを超える場合は、2μmにより近いものの方がより分散性が良好であるとした。
【0059】
【表2】