(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6839623
(24)【登録日】2021年2月17日
(45)【発行日】2021年3月10日
(54)【発明の名称】鋼矢板用連結具
(51)【国際特許分類】
E02D 5/08 20060101AFI20210301BHJP
【FI】
E02D5/08
【請求項の数】9
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2017-136297(P2017-136297)
(22)【出願日】2017年7月12日
(65)【公開番号】特開2019-19470(P2019-19470A)
(43)【公開日】2019年2月7日
【審査請求日】2019年12月3日
(73)【特許権者】
【識別番号】000001373
【氏名又は名称】鹿島建設株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100113435
【弁理士】
【氏名又は名称】黒木 義樹
(74)【代理人】
【識別番号】100122781
【弁理士】
【氏名又は名称】近藤 寛
(74)【代理人】
【識別番号】100133064
【弁理士】
【氏名又は名称】大野 新
(72)【発明者】
【氏名】白井 俊輔
(72)【発明者】
【氏名】三室 恵史
(72)【発明者】
【氏名】亀井 良至
【審査官】
湯本 照基
(56)【参考文献】
【文献】
特開平06−033448(JP,A)
【文献】
特開2000−345556(JP,A)
【文献】
特開平05−287743(JP,A)
【文献】
米国特許出願公開第2004/0013474(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E02D 5/08
E02D 5/06
E02D 5/16
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1鋼矢板の第1継手部と第2鋼矢板の第2継手部とが互いに連結されている状態において使用される鋼矢板用連結具であって、
互いに連結されている前記第1継手部と前記第2継手部との境界線の一端の側から前記第1鋼矢板の端面を跨ぐように前記第1鋼矢板の表面及び裏面に固定される第1固定部と、
前記境界線の前記一端の側から前記第2鋼矢板の端面を跨ぐように前記第2鋼矢板の表面及び裏面に固定される第2固定部と、
前記境界線に平行な方向への前記第1継手部に対する前記第2継手部の移動を制限しつつ、前記境界線を回転軸とする前記第1継手部に対する前記第2継手部の角度の変動を許容するように、前記第1固定部と前記第2固定部とを保持する保持部と、
を備え、
前記保持部は、前記第1固定部及び前記第2固定部のいずれか一方の端部から前記第1固定部及び前記第2固定部のいずれか他方の側に突出した凸部と、前記第1固定部及び前記第2固定部のいずれか他方の端部から前記第1固定部及び前記第2固定部のいずれか一方の側とは反対側に窪む凹部とを有し、前記凸部と前記凹部とが互いに嵌合することにより、前記境界線に平行な方向への前記第1継手部に対する前記第2継手部の移動を制限しつつ、前記境界線を回転軸とする前記第1継手部に対する前記第2継手部の角度の変動を許容するように、前記第1固定部と前記第2固定部とを保持する、鋼矢板用連結具。
【請求項2】
前記保持部は、互いに嵌合させられた前記凸部と前記凹部とを前記境界線に平行な方向に貫通するピン孔部と、前記ピン孔部に挿入されるピンとを有し、前記ピンにより、前記第1固定部と前記第2固定部とを互いに分離しないように保持する、請求項1に記載の鋼矢板用連結具。
【請求項3】
前記保持部は、前記第1鋼矢板及び前記第2鋼矢板の表面及び裏面の両方の側に前記凸部と前記凹部とを有する、請求項1に記載の鋼矢板用連結具。
【請求項4】
前記保持部は、前記第1鋼矢板及び前記第2鋼矢板の表面及び裏面の少なくとも片方の側に、互いに嵌合させられた前記凸部と前記凹部とを前記境界線に平行な方向に貫通するピン孔部と、前記ピン孔部に挿入されるピンとを有し、前記ピンにより、前記第1固定部と前記第2固定部とを互いに分離しないように保持する、請求項3に記載の鋼矢板用連結具。
【請求項5】
前記保持部は、前記凸部において前記境界線に平行な外周面と、前記凹部において前記境界線に平行な内周面とを有し、前記外周面と前記内周面とが互いに摺動することにより、前記境界線を回転軸とする前記第1継手部に対する前記第2継手部の角度の変動を許容するように、前記第1固定部と前記第2固定部とを保持する、請求項1に記載の鋼矢板用連結具。
【請求項6】
前記保持部は、互いに摺動する前記外周面と前記内周面とを貫通するピン孔部と、前記ピン孔部に挿入されるピンとを有し、前記ピンにより、前記第1固定部と前記第2固定部とを互いに分離しないように保持する、請求項5に記載の鋼矢板用連結具。
【請求項7】
第1鋼矢板の第1継手部と第2鋼矢板の第2継手部とが互いに連結されている状態において使用される鋼矢板用連結具であって、
互いに連結されている前記第1継手部と前記第2継手部との境界線の一端の側から前記第1鋼矢板の端面を跨ぐように前記第1鋼矢板の表面及び裏面に固定される第1固定部と、
前記境界線の前記一端の側から前記第2鋼矢板の端面を跨ぐように前記第2鋼矢板の表面及び裏面に固定される第2固定部と、
前記境界線に平行な方向への前記第1継手部に対する前記第2継手部の移動を制限しつつ、前記境界線を回転軸とする前記第1継手部に対する前記第2継手部の角度の変動を許容するように、前記第1固定部と前記第2固定部とを保持する保持部と、
を備え、
前記第1固定部は、前記第1鋼矢板の表面及び裏面のそれぞれに当接する一対の当接部を有し、
一対の前記当接部の少なくともいずれか一方は、前記第1固定部から前記第1鋼矢板に向けて突出する長さを変更自在であり、前記第1固定部から前記第1鋼矢板に向けて突出する長さを変更自在な前記当接部は球面座を介して前記第1鋼矢板の表面及び裏面のいずれかに当接する、鋼矢板用連結具。
【請求項8】
前記第1固定部は、前記第1鋼矢板の表面及び裏面のそれぞれに当接する一対の当接部を有し、
一対の前記当接部の少なくともいずれか一方は、前記第1固定部から前記第1鋼矢板に向けて突出する長さを変更自在であり、前記第1固定部から前記第1鋼矢板に向けて突出する長さを変更自在な前記当接部は球面座を介して前記第1鋼矢板の表面及び裏面のいずれかに当接する、請求項1〜6のいずれか1項に記載の鋼矢板用連結具。
【請求項9】
前記第2固定部は、前記第2鋼矢板の表面及び裏面のそれぞれに当接する一対の当接部を有し、
一対の前記当接部の少なくともいずれか一方は、前記第2固定部から前記第2鋼矢板に向けて突出する長さを変更自在であり、前記第2固定部から前記第2鋼矢板に向けて突出する長さを変更自在な前記当接部は球面座を介して前記第2鋼矢板の表面及び裏面のいずれかに当接する、請求項1〜8のいずれか1項に記載の鋼矢板用連結具。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鋼矢板用連結具に関する。
【背景技術】
【0002】
土木工事における掘削及び土留めのための鋼矢板は、通常はセクションと呼ばれる継手部により隣接する他の鋼矢板の継手部と長手方向に嵌合するように順次地盤中に貫入設置することで連結し全体として面を構成する。このようにして設置した鋼矢板は、全体として面を構成し、土圧及び水圧に対抗する。このとき、面は全体として面外方向にたわむ。当該構成面の一部、すなわち一部の鋼矢板に面の他の部分より大きな外力が作用すると、継ぎ手部にせん断変形が生じ、継ぎ手部の相対的なずれを生じようとする。しかし、長手方向に嵌合しているだけの継ぎ手部に置いては当該せん断変形を抑制する手段がなく、面全体の変形量が大きくなる。したがって、一般に、面の変形を抑制する目的で鋼矢板の継ぎ手部の頂部付近を溶接もしくは添接金物で締結し継ぎ手部のせん断変形を抑止する方法がとられる。しかし、従来方法では鋼矢板設置時の作業工数のみでなく撤去時にもせん断抑止構造の除去が必要となり工数が多く煩雑である。そこで、簡単な継手頂部締結方法が求められる。特許文献1には、継手部同士が互いに連結された2枚の鋼矢板の上端面のそれぞれを跨ぐように取付けられた2個のチャックのフレームを相互に連結した一体フレームから構成された鋼矢板用連結具が開示されている。特許文献1の鋼矢板用連結具は、鋼矢板の継手部同士の連結を強固にすることにより、列をなして連結された鋼矢板をより強固に一体化し、外力により一部の鋼矢板のみが動くことを防止している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2000‐345556号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、一般の施工現場においては、互いに連結されている鋼矢板の継手部同士の連結の施工精度、特に設置角度のばらつきが大きく、上記のような鋼矢板用連結具を取付ける場合各々の鋼矢板のウェブ部の角度が異なる場合がある。一方、従来の鋼矢板用連結具の締結用ボルトは締結想定面に対し、法線方向に装備されていることから、隣接する鋼矢板の内、一の鋼矢板に対し適切に螺着した場合、他の鋼矢板に対して螺着角度が適切ではなく、接続部を固定することが困難な場合がある。
【0005】
そこで本発明は、鋼矢板の継手部同士の連結の施工精度のばらつきにより対応しつつ鋼矢板同士が一体化するように連結することができる鋼矢板用連結具を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、第1鋼矢板の第1継手部と第2鋼矢板の第2継手部とが互いに連結されている状態において使用される鋼矢板用連結具であって、互いに連結されている第1継手部と第2継手部との境界線の一端の側から第1鋼矢板の端面を跨ぐように第1鋼矢板の表面及び裏面に固定される第1固定部と、境界線の一端の側から第2鋼矢板の端面を跨ぐように第2鋼矢板の表面及び裏面に固定される第2固定部と、境界線に平行な方向への第1継手部に対する第2継手部の移動を制限しつつ、境界線を回転軸とする第1継手部に対する第2継手部の角度の変動を許容するように、第1固定部と第2固定部とを保持する保持部とを備えた鋼矢板用連結具である。
【0007】
この構成によれば、第1鋼矢板の第1継手部と第2鋼矢板の第2継手部とが互いに連結されている状態において使用される鋼矢板用連結具は、互いに連結されている第1継手部と第2継手部との境界線の一端の側から第1鋼矢板の端面を跨ぐように第1鋼矢板の表面及び裏面に固定される第1固定部と、境界線の一端の側から第2鋼矢板の端面を跨ぐように第2鋼矢板の表面及び裏面に固定される第2固定部と、境界線に平行な方向への第1継手部に対する第2継手部の移動を制限しつつ、境界線を回転軸とする第1継手部に対する第2継手部の角度の変動を許容するように、第1固定部と第2固定部とを保持する保持部とを備えるため、互いに連結されている第1継手部と第2継手部との連結の施工精度のばらつきにより対応しつつ第1鋼矢板と第2鋼矢板とが一体化するように連結することができる。
【0008】
この場合、保持部は、第1固定部及び第2固定部のいずれか一方の端部から第1固定部及び第2固定部のいずれか他方の側に突出した凸部と、第1固定部及び第2固定部のいずれか他方の端部から第1固定部及び第2固定部のいずれか一方の側とは反対側に窪む凹部とを有し、凸部と凹部とが互いに嵌合することにより、境界線に平行な方向への第1継手部に対する第2継手部の移動を制限しつつ、境界線を回転軸とする第1継手部に対する第2継手部の角度の変動を許容するように、第1固定部と第2固定部とを保持することが好適である。
【0009】
この構成によれば、保持部は、第1固定部及び第2固定部のいずれか一方の端部から第1固定部及び第2固定部のいずれか他方の側に突出した凸部と、第1固定部及び第2固定部のいずれか他方の端部から第1固定部及び第2固定部のいずれか一方の側とは反対側に窪む凹部とを有し、凸部と凹部とが互いに嵌合することにより、境界線に平行な方向への第1継手部に対する第2継手部の移動を制限しつつ、境界線を回転軸とする第1継手部に対する第2継手部の角度の変動を許容するように、第1固定部と第2固定部とを保持するため、保持部の構造を単純にすることができる。
【0010】
保持部が凸部と凹部とを有する場合に、保持部は、互いに嵌合された凸部と凹部とを境界線に平行な方向に貫通するピン孔部と、ピン孔部に挿入されるピンとを有し、ピンにより、第1固定部と第2固定部とを互いに分離しないように保持することが好適である。
【0011】
この構成によれば、保持部は、互いに嵌合された凸部と凹部とを境界線に平行な方向に貫通するピン孔部と、ピン孔部に挿入されるピンとを有し、ピンにより、第1固定部と第2固定部とを互いに分離しないように保持するため、例えば、施工現場において、互いに嵌合する凸部を有する第1固定部と凹部を有する第2固定部とを過不足無く用意することが容易となる。
【0012】
また、保持部が凸部と凹部とを有する場合に、保持部は、第1鋼矢板及び第2鋼矢板の表面及び裏面の両方の側に凸部と凹部とを有することが好適である。
【0013】
この構成によれば、保持部は、第1鋼矢板及び第2鋼矢板の表面及び裏面の両方の側に凸部と凹部とを有するため、第1鋼矢板及び第2鋼矢板の表面及び裏面の片方の側のみに凸部と凹部とを有する場合に比べて、同様の凸部及び凹部であっても、境界線に平行な方向に第1継手部に対して第2継手部を移動させる力に対する凸部及び凹部の強度や、境界線に交差する回転軸周りに第1継手部に対して第2継手部を捩じる力に対する凸部及び凹部の強度を向上させることができる。また、第1鋼矢板及び第2鋼矢板の表面及び裏面の片方の側のみに凸部と凹部とを有する場合に比べて、同様の強度であっても、凸部及び凹部を小さくすることができる。
【0014】
この場合、保持部は、第1鋼矢板及び第2鋼矢板の表面及び裏面の少なくとも片方の側に、互いに嵌合させられた凸部と凹部とを境界線に平行な方向に貫通するピン孔部と、ピン孔部に挿入されるピンとを有し、ピンにより、第1固定部と第2固定部とを互いに分離しないように保持することが好適である。
【0015】
この構成によれば、保持部は、第1鋼矢板及び第2鋼矢板の表面及び裏面の少なくとも片方の側に、互いに嵌合させられた凸部と凹部とを境界線に平行な方向に貫通するピン孔部と、ピン孔部に挿入されるピンとを有し、ピンにより、第1固定部と第2固定部とを互いに分離しないように保持するため、例えば、施工現場において、互いに嵌合する凸部を有する第1固定部と凹部を有する第2固定部とを過不足無く用意することが容易となる。
【0016】
また、保持部が凸部と凹部とを有する場合に、保持部は、凸部において境界線に平行な外周面と、凹部において境界線に平行な内周面とを有し、外周面と内周面とが互いに摺動することにより、境界線を回転軸とする第1継手部に対する第2継手部の角度の変動を許容するように、第1固定部と第2固定部とを保持することが好適である。
【0017】
この構成によれば、保持部は、凸部において境界線に平行な外周面と、凹部において境界線に平行な内周面とを有し、外周面と内周面とが互いに摺動することにより、境界線を回転軸とする第1継手部に対する第2継手部の角度の変動を許容するように、第1固定部と第2固定部とを保持するため、保持部の構造を単純にすることができる。
【0018】
この場合、保持部は、互いに摺動する外周面と内周面とを貫通するピン孔部と、ピン孔部に挿入されるピンとを有し、ピンにより、第1固定部と第2固定部とを互いに分離しないように保持することが好適である。
【0019】
この構成によれば、保持部は、互いに摺動する外周面と内周面とを貫通するピン孔部と、ピン孔部に挿入されるピンとを有し、ピンにより、第1固定部と第2固定部とを互いに分離しないように保持するため、例えば、施工現場において、互いに嵌合する凹部を有する第1固定部と凸部を有する第2固定部とを過不足無く用意することが容易となる。
【0020】
また、第1固定部は、第1鋼矢板の表面及び裏面のそれぞれに当接する一対の当接部を有し、一対の当接部の少なくともいずれか一方は、第1固定部から第1鋼矢板に向けて突出する長さを変更自在であり、第1固定部から第1鋼矢板に向けて突出する長さを変更自在な当接部は球面座を介して第1鋼矢板の表面及び裏面のいずれかに当接することが好適である。
【0021】
この構成によれば、第1固定部は、第1鋼矢板の表面及び裏面のそれぞれに当接する一対の当接部を有し、一対の当接部の少なくともいずれか一方は、第1固定部から第1鋼矢板に向けて突出する長さを変更自在であり、第1固定部から第1鋼矢板に向けて突出する長さを変更自在な当接部は球面座を介して第1鋼矢板の表面及び裏面のいずれかに当接するため、第1鋼矢板の各部位において厚さが一定ではなく、例えば、厚さを構成する板の両側が平行面ではなく、球面座を有しない場合に対向する当接面の法線方向が互いに異なり、所期の接合力が得られない場合がある場合にも対応し易い。
【0022】
また、第2固定部は、第2鋼矢板の表面及び裏面のそれぞれに当接する一対の当接部を有し、一対の当接部の少なくともいずれか一方は、第2固定部から第2鋼矢板に向けて突出する長さを変更自在であり、第2固定部から第2鋼矢板に向けて突出する長さを変更自在な当接部は球面座を介して第2鋼矢板の表面及び裏面のいずれかに当接することが好適である。
【0023】
この構成によれば、第2固定部は、第2鋼矢板の表面及び裏面のそれぞれに当接する一対の当接部を有し、一対の当接部の少なくともいずれか一方は、第2固定部から第2鋼矢板に向けて突出する長さを変更自在であり、第2固定部から第2鋼矢板に向けて突出する長さを変更自在な当接部は球面座を介して第2鋼矢板の表面及び裏面のいずれかに当接するため、第2鋼矢板の各部位において厚さが一定ではなく、例えば、厚さを構成する板の両側が平行面ではなく、球面座を有しない場合に対向する当接面の法線方向が互いに異なり、所期の接合力が得られない場合がある場合にも対応し易い。
【発明の効果】
【0024】
本発明の鋼矢板用連結具によれば、鋼矢板の継手部同士の連結の施工精度のばらつきにより対応しつつ鋼矢板同士が一体化するように連結することができる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【
図1】第1実施形態の鋼矢板用連結具により連結された第1鋼矢板と第2鋼矢板とを示す平面図である。
【
図2】第1実施形態の鋼矢板用連結具を示す斜視図である。
【
図3】
図2の鋼矢板用連結具の分解した状態をしめす斜視図である。
【
図4】
図1の当接部の周辺を拡大して示す平面図である。
【
図5】第2実施形態の鋼矢板用連結具の分解した状態を示す斜視図である。
【
図6】第3実施形態の鋼矢板用連結具の分解した状態を示す斜視図である。
【
図7】
図6の鋼矢板用連結具の保持部の周辺を拡大して示す平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、図面を参照しつつ本発明に係る鋼矢板用連結具について詳細に説明する。
図1に示すように、本発明の第1実施形態に係る鋼矢板用連結具1aは、第1鋼矢板110の第1継手部111と第2鋼矢板120の第2継手部121とが互いに連結されている状態において使用される。第1鋼矢板110及び第2鋼矢板120は、土木工事における掘削及び土留めのために地中に打ち込まれ、その両端の第1継手部111,112及び第2継手部121,122により隣接する他の鋼矢板の継手部と列をなすように連結される。
【0027】
第1鋼矢板110の第1継手部111と第2鋼矢板120の第2継手部121とが互いに連結されている状態で、互いに連結されている第1継手部111と第2継手部121との境界線130の一端の側の端面113及び端面123の側に(通常は上面の側に)鋼矢板用連結具1aが取り付けられる。鋼矢板用連結具1aにより、第1継手部111と第2継手部121との位置が少なくとも境界線130に平行な方向にずれないように制限される。
【0028】
図1、
図2及び
図3に示すように、鋼矢板用連結具1aは、例えば、炭素鋼等により構成され、溶接、機械加工、鍛造、鋳造などにより製造される。互いに連結されている第1継手部111と第2継手部121との境界線130に平行な方向の鋼矢板用連結具1aの長さは例えば150[mm]程度であり、第1鋼矢板110の表面114及び裏面115や第2鋼矢板120の表面124及び裏面125に平行な方向の鋼矢板用連結具1aの長さは例えば500[mm]程度である。
【0029】
鋼矢板用連結具1aは、第1固定部2、第2固定部3及び保持部4aを備える。第1固定部2は、互いに連結されている第1継手部111と第2継手部121との境界線130の一端の側(通常は上方の側)から第1鋼矢板110の端面113を跨ぐように第1鋼矢板110の表面114及び裏面115に固定される。第2固定部3は、境界線130の一端の側から第2鋼矢板120の端面123を跨ぐように第2鋼矢板120の表面124及び裏面125に固定される。
【0030】
図2及び
図3に示すように、保持部4aは、境界線130に平行な方向への第1継手部111に対する第2継手部121の移動を制限しつつ、境界線130を回転軸とする第1継手部111に対する第2継手部121の角度の変動を許容するように、第1固定部2と第2固定部3とを保持する。
【0031】
具体的には、保持部4aは、第1固定部2及び第2固定部3のいずれか一方の端部から第1固定部2及び第2固定部3のいずれか他方の側に突出した凸部7と、第1固定部2及び第2固定部3のいずれか他方の端部から第1固定部2及び第2固定部3のいずれか一方の側とは反対側に窪む凹部8とを有する。
図2及び
図3の例では、保持部4aは、第1固定部2の端部から第2固定部3の側に突出した凸部7と、第2固定部3の端部から第1固定部2の側とは反対側に窪む凹部8とを有する。しかし、保持部4aは、第2固定部3の端部から第1固定部2の側に突出した凸部7と、第1固定部2の端部から第2固定部3の側とは反対側に窪む凹部8とを有していてもよい。
【0032】
保持部4aは、凸部7と凹部8とが互いに嵌合することにより、境界線130に平行な方向への第1継手部111に対する第2継手部121の移動を制限しつつ、境界線130を回転軸とする第1継手部111に対する第2継手部121の角度の変動を許容するように、第1固定部2と第2固定部3とを保持する。
【0033】
つまり、第1鋼矢板110及び第2鋼矢板120に鋼矢板用連結具1aが取り付けられるときには、施工精度のばらつきにより境界線130を回転軸とする第1継手部111に対する第2継手部121の角度が正規の角度からずれていたとしても、鋼矢板用連結具1aの取付けが可能である。また、第1鋼矢板110及び第2鋼矢板120に鋼矢板用連結具1aが取り付けられた後には、鋼矢板用連結具1aにより、第1継手部111と第2継手部121との位置が境界線130に平行な方向にずれないように制限される。
【0034】
図2及び
図3に示すように、凸部7の強度を保つために、凸部7の境界線130に平行な方向の長さは、例えば、鋼矢板用連結具1aの境界線130に平行な方向の長さの1/3である50[mm]程度である。また、凹部8の強度を保つために、凹部8の境界線130に平行な方向の長さは、例えば、鋼矢板用連結具1aの境界線130に平行な方向の長さの1/3である50[mm]程度である。なお、凸部7と凹部8とが互いに嵌合し、境界線130に平行な方向への第1継手部111に対する第2継手部121の移動が数〜十数[mm]程度に制限され、境界線130を回転軸とする第1継手部111に対する第2継手部121の角度の変動が許容されればよいため、凸部7及び凹部8には厳密な寸法精度は要求されない。
【0035】
図2及び
図3に示すように、保持部4aは、互いに嵌合させられた凸部7と凹部8とを境界線130に平行な方向に貫通するピン孔部9と、ピン孔部9に挿入されるピン5とを有し、ピン5により、第1固定部2と第2固定部3とを互いに分離しないように保持する。ピン5の一方の端部は、運搬、挿入及び抜去の便宜のための環状又はT字状のハンドル6を含む。ピン5がピン孔部9に挿入された後には、ピン5のハンドル6とは反対側の端部がナットによりピン孔部9に固定されてもよい。
【0036】
ピン5は、単に第1固定部2と第2固定部3とを互いに分離しないように保持するためのものであるため、ピン5の外径よりもピン孔部9の内径は1〜数[mm]以上大きく、ピン孔部9に挿入されたピン5がピン孔部9の中で移動可能である。ピン孔部9は、その横断面が楕円形や長方形等の長孔であってもよい。また、ピン5は必須ではなく、鋼矢板用連結具1aの保持部4aはピン5を備えていなくてもよい。
【0037】
図4に示すように、第1固定部2は、第1鋼矢板110の表面114及び裏面115のそれぞれに当接する一対の当接部10,11を有する。また、第2固定部3は、第2鋼矢板120の表面124及び裏面125のそれぞれに当接する一対の当接部10,11を有する。当接部10,11は、具体的には、例えば工具鋼から製造され、第1固定部2及び第2固定部3に捩じ込まれたボルトである。
【0038】
第1固定部2の一対の当接部10,11の少なくともいずれか一方は、第1固定部2から第1鋼矢板110に向けて突出する長さを変更自在である。また、第2固定部3の一対の当接部10,11の少なくともいずれか一方は、第2固定部3から第2鋼矢板120に向けて突出する長さを変更自在である。
図4の例では、第1固定部2の当接部10が第1固定部2から第1鋼矢板110に向けて突出する長さを変更自在であり、第2固定部3の当接部10が第2固定部3から第2鋼矢板120に向けて突出する長さを変更自在である。しかし、第1固定部2の一対の当接部10,11の両方が第1固定部2から第1鋼矢板110に向けて突出する長さを変更自在であり、第2固定部3の一対の当接部10,11の両方が第2固定部3から第2鋼矢板120に向けて突出する長さを変更自在でもよい。
【0039】
第1固定部2から第1鋼矢板110に向けて突出する長さを変更自在な当接部10は球面座12を介して第1鋼矢板110の表面114に当接する。また、第2固定部3から第2鋼矢板120に向けて突出する長さを変更自在な当接部10は球面座12を介して第2鋼矢板120の表面124に当接する。当接部10が突出する方向に対して第1鋼矢板110の表面114及び第2鋼矢板120の表面124が垂直ではない場合であっても、球面座12により当接部10の先端の角度が変動し、当接部10の先端の多くの面積が表面114,124に当接する。
【0040】
本実施形態によれば、第1鋼矢板110の第1継手部111と第2鋼矢板120の第2継手部121とが互いに連結されている状態において使用される鋼矢板用連結具1aは、互いに連結されている第1継手部111と第2継手部121との境界線130の一端の側から第1鋼矢板110の端面113を跨ぐように第1鋼矢板110の表面114及び裏面115に固定される第1固定部2と、境界線130の一端の側から第2鋼矢板120の端面123を跨ぐように第2鋼矢板120の表面124及び裏面125に固定される第2固定部3と、境界線130に平行な方向への第1継手部111に対する第2継手部121の移動を制限しつつ、境界線130を回転軸とする第1継手部111に対する第2継手部121の角度の変動を許容するように、第1固定部2と第2固定部3とを保持する保持部4aとを備えるため、互いに連結されている第1継手部111と第2継手部121との連結の施工精度のばらつきにより対応しつつ第1鋼矢板110と第2鋼矢板120とが一体化するように連結することができる。
【0041】
また、本実施形態によれば、保持部4aは、第1固定部2及び第2固定部3のいずれか一方の端部から第1固定部2及び第2固定部3のいずれか他方の側に突出した凸部7と、第1固定部2及び第2固定部3のいずれか他方の端部から第1固定部2及び第2固定部3のいずれか一方の側とは反対側に窪む凹部8とを有し、凸部7と凹部8とが互いに嵌合することにより、境界線130に平行な方向への第1継手部111に対する第2継手部121の移動を制限しつつ、境界線130を回転軸とする第1継手部111に対する第2継手部121の角度の変動を許容するように、第1固定部2と第2固定部3とを保持するため、保持部4aの構造を単純にすることができる。
【0042】
また、本実施形態によれば、保持部4aは、互いに嵌合させられた凸部7と凹部8とを境界線130に平行な方向に貫通するピン孔部9と、ピン孔部9に挿入されるピン5とを有し、ピン5により、第1固定部2と第2固定部3とを互いに分離しないように保持するため、例えば、施工現場において、互いに嵌合する凸部7を有する第1固定部2と凹部8を有する第2固定部3とを過不足無く用意することが容易となる。
【0043】
また、本実施形態によれば、第1固定部2は、第1鋼矢板110の表面114及び裏面115のそれぞれに当接する一対の当接部10,11を有し、一対の当接部10,11の少なくともいずれか一方は、第1固定部2から第1鋼矢板110に向けて突出する長さを変更自在であり、第1固定部2から第1鋼矢板110に向けて突出する長さを変更自在な当接部10は球面座12を介して第1鋼矢板110の表面114及び裏面115のいずれかに当接するため、例えば、第1鋼矢板110の厚さが一定ではなく、例えば、厚さを構成する第1鋼矢板110の両側の表面114及び裏面115が平行面ではなく、球面座12を有しない場合に対向する当接面の法線方向が互いに異なり、所期の接合力が得られない場合がある場合にも対応し易い。
【0044】
また、本実施形態によれば、第2固定部3は、第2鋼矢板120の表面124及び裏面125のそれぞれに当接する一対の当接部10,11を有し、一対の当接部10,11の少なくともいずれか一方は、第2固定部3から第2鋼矢板120に向けて突出する長さを変更自在であり、第2固定部3から第2鋼矢板120に向けて突出する長さを変更自在な当接部10は球面座12を介して第2鋼矢板120の表面124及び裏面125のいずれかに当接するため、第2鋼矢板120の厚さが一定ではなく、例えば、厚さを構成する第2鋼矢板120の両側の表面124及び裏面125が平行面ではなく、球面座12を有しない場合に対向する当接面の法線方向が互いに異なり、所期の接合力が得られない場合がある場合にも対応し易い。
【0045】
以下、本発明の第2実施形態について説明する。
図5に示すように、本実施形態の鋼矢板用連結具1bの保持部4bは、第1鋼矢板110の表面114及び裏面115並びに第2鋼矢板120の表面124及び裏面125の両方の側に凸部7と凹部8とを有する。
図5の例では、第1固定部2が第1鋼矢板110の表面114及び裏面115の両方の側に凸部7を有し、第2固定部3が第2鋼矢板120の表面124及び裏面125の両方の側に凹部8を有している。
【0046】
しかし、第1固定部2が第1鋼矢板110の表面114及び裏面115の両方の側に凹部8を有し、第2固定部3が第2鋼矢板120の表面124及び裏面125の両方の側に凸部7を有していてもよい。また、凸部7と凹部8とが互いに嵌合するように、第1固定部2が第1鋼矢板110の表面114及び裏面115のいずれか一方の側に凸部7を有し、表面114及び裏面115のいずれか他方の側に凹部8を有し、第2固定部3が第2鋼矢板120の表面124及び裏面125のいずれか一方の側に凸部7を有し、表面124及び裏面125のいずれか他方の側に凹部8を有していてもよい。
【0047】
保持部4bは、第1鋼矢板110の表面114及び裏面115並びに第2鋼矢板120の表面124及び裏面125の少なくとも片方の側に、互いに嵌合させられた凸部7と凹部8とを境界線130に平行な方向に貫通するピン孔部9と、ピン孔部9に挿入されるピン5とを有し、ピン5により、第1固定部2と第2固定部3とを互いに分離しないように保持する。
【0048】
図5に示すように、保持部4bは、第1鋼矢板110の表面114及び裏面115並びに第2鋼矢板120の表面124及び裏面125の両方の側にピン5を備えていてもよい。また、上記第1実施形態について上述したように、ピン5は必須ではなく、鋼矢板用連結具1bの保持部4bは、第1鋼矢板110の表面114及び裏面115並びに第2鋼矢板120の表面124及び裏面125のいずれの側にもピン5を備えていなくてもよい。
【0049】
本実施形態によれば、保持部4bは、第1鋼矢板110の表面114及び裏面115並びに第2鋼矢板120の表面124及び裏面125の両方の側に凸部7と凹部8とを有するため、第1鋼矢板110の表面114及び裏面115並びに第2鋼矢板120の表面124及び裏面125の片方の側のみに凸部7と凹部8とを有する場合に比べて、同様の凸部7及び凹部8であっても、境界線130に平行な方向に第1継手部111に対して第2継手部121を移動させる力に対する凸部7及び凹部8の強度や、境界線130に交差する回転軸周りに第1継手部111に対して第2継手部121を捩じる力に対する凸部7及び凹部8の強度を向上させることができる。また、第1鋼矢板110の表面114及び裏面115並びに第2鋼矢板120の表面124及び裏面125の片方の側のみに凸部7と凹部8とを有する場合に比べて、同様の強度であっても、凸部7及び凹部8を小さくすることができる。
【0050】
また、本実施形態によれば、保持部4bは、第1鋼矢板110の表面114及び裏面115並びに第2鋼矢板120の表面124及び裏面125の少なくとも片方の側に、互いに嵌合させられた凸部7と凹部8とを境界線130に平行な方向に貫通するピン孔部9と、ピン孔部9に挿入されるピン5とを有し、ピン5により、第1固定部2と第2固定部3とを互いに分離しないように保持するため、例えば、施工現場において、互いに嵌合する凸部7を有する第1固定部2と凹部8を有する第2固定部3とを過不足無く用意することが容易となる。
【0051】
以下、本発明の第3実施形態について説明する。
図6に示すように、本実施形態では、鋼矢板用連結具1cの保持部4cは、第1固定部2の側に凹部8を有し、第2固定部3の側に凸部7を有している。保持部4cは、凸部7において境界線130に平行な外周面13と、凹部8において境界線130に平行な内周面14とを有し、外周面13と内周面14とが互いに摺動することにより、境界線130を回転軸とする第1継手部111に対する第2継手部121の角度の変動を許容するように、第1固定部2と第2固定部3とを保持する。外周面13と内周面14とには、互いに嵌合しつつ摺動し合う複数の溝が境界線の垂直方向に沿って設けられている。
【0052】
図6及び
図7に示すように、保持部4cは、互いに摺動する外周面13と内周面14とを貫通するピン孔部9と、ピン孔部9に挿入されるピン5とを有し、ピン5により、第1固定部2と第2固定部3とを互いに分離しないように保持する。ピン5は、具体的には、例えば、外周面13のピン孔部9に捩じ込まれるボルトである。境界線130を回転軸とする第1継手部111に対する第2継手部121の角度の変動を許容するように、内周面14を貫通するピン孔部9は、その横断面が境界線130に直交する方向を長手方向とする楕円形や長方形等の長孔である。なお、鋼矢板用連結具1cの保持部4cは、ピン5を備えていなくてもよい。
【0053】
本実施形態によれば、保持部4cは、凸部7において境界線130に平行な外周面13と、凹部8において境界線130に平行な内周面14とを有し、外周面13と内周面14とが互いに摺動することにより、境界線130を回転軸とする第1継手部111に対する第2継手部121の角度の変動を許容するように、第1固定部2と第2固定部3とを保持するため、保持部4cの構造を単純にすることができる。
【0054】
また、本実施形態によれば、保持部4cは、互いに摺動する外周面13と内周面14とを貫通するピン孔部9と、ピン孔部9に挿入されるピン5とを有し、ピン5により、第1固定部2と第2固定部3とを互いに分離しないように保持するため、例えば、施工現場において、互いに嵌合する凹部8を有する第1固定部2と凸部7を有する第2固定部とを過不足無く用意することが容易となる。
【0055】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は上記実施形態に限定されることなく様々な形態で実施される。
【符号の説明】
【0056】
1a,1b,1c…鋼矢板用連結具、2…第1固定部、3…第2固定部、4a,4b,4c…保持部、5…ピン、6…ハンドル、7…凸部、8…凹部、9…ピン孔部、10,11…当接部、12…球面座、13…外周面、14…内周面、110…第1鋼矢板、111,112…第1継手部、113…端面、114…表面、115…裏面、120…第2鋼矢板、121,122…第2継手部、123…端面、124…表面、125…裏面、130…境界線。