特許第6839775号(P6839775)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6839775
(24)【登録日】2021年2月17日
(45)【発行日】2021年3月10日
(54)【発明の名称】乗員拘束装置
(51)【国際特許分類】
   B60R 21/2338 20110101AFI20210301BHJP
   B60R 21/207 20060101ALI20210301BHJP
【FI】
   B60R21/2338
   B60R21/207
【請求項の数】21
【全頁数】26
(21)【出願番号】特願2019-557262(P2019-557262)
(86)(22)【出願日】2018年11月28日
(86)【国際出願番号】JP2018043743
(87)【国際公開番号】WO2019107398
(87)【国際公開日】20190606
【審査請求日】2020年3月4日
(31)【優先権主張番号】PCT/JP2018/040867
(32)【優先日】2018年11月2日
(33)【優先権主張国】JP
(31)【優先権主張番号】特願2017-229934(P2017-229934)
(32)【優先日】2017年11月30日
(33)【優先権主張国】JP
(31)【優先権主張番号】特願2018-45485(P2018-45485)
(32)【優先日】2018年3月13日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】503358097
【氏名又は名称】オートリブ ディベロップメント エービー
(74)【代理人】
【識別番号】100124110
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 大介
(74)【代理人】
【識別番号】100120400
【弁理士】
【氏名又は名称】飛田 高介
(72)【発明者】
【氏名】齋藤 博之
(72)【発明者】
【氏名】松下 徹也
【審査官】 飯島 尚郎
(56)【参考文献】
【文献】 特開2014−051138(JP,A)
【文献】 特開2014−012495(JP,A)
【文献】 特開2009−029182(JP,A)
【文献】 米国特許第05636862(US,A)
【文献】 特開2013−212775(JP,A)
【文献】 特開2014−043127(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60R 21/16−21/33
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両の座席に着座した乗員を拘束する乗員拘束装置であって、
当該乗員拘束装置は、
前記座席のシートバック部に少なくとも一部が収納されていて該座席に着座した乗員の側方に膨張展開する1つ以上のエアバッグと、
前記エアバッグの前記乗員とは反対側の側面を通って前記座席のシートバック部からシートクッション部にわたって収納されている1つ以上の張力布と、
前記シートバック部の内部に埋設され前記エアバッグを前記乗員側に付勢する付勢機構とを備え、
前記張力布は、前記エアバッグの膨張展開によって該座席の外部に展開し、前記シートバック部の上面から前記シートクッション部まで張り渡され、
前記膨張展開時のエアバッグの上方からの平面視において、左右方向に平行な直線上でエアバッグ幅の最も長い部分における中心を通り車両前後方向に延びる第1仮想線と、該第1仮想線と直交しエアバッグ前後長における当該第1仮想線の中心を通り左右方向に延びる第2仮想線によって区画される4つの領域のうち、少なくとも該第1仮想線の前記乗員と反対側且つ該第2仮想線の車両前方側の領域を前記張力布が通過するように構成され、
前記付勢機構によって前記張力布が乗員側に付勢されることを特徴とする乗員拘束装置。
【請求項2】
車両の座席に着座した乗員を拘束する乗員拘束装置であって、
当該乗員拘束装置は、
前記座席のシートバック部に少なくとも一部が収納されていて該座席に着座した乗員の側方に膨張展開する1つ以上のエアバッグと、
前記エアバッグの前記乗員とは反対側の側面を通って前記座席のシートバック部からシートクッション部にわたって収納されている1つ以上の張力布と、
前記シートバック部の内部に埋設され前記エアバッグを前記乗員側に付勢する付勢機構とを備え、
前記張力布は、前記エアバッグの膨張展開によって該座席の外部に展開し、前記シートバック部の上面から前記シートクッション部まで張り渡され、
前記膨張展開時のエアバッグの上方からの平面視において、平面図形における重心である図心を通る車両前後方向に延びる第1仮想線と、該第1仮想線と直交し左右方向に延びる第2仮想線によって区画される4つの領域のうち、少なくとも該第1仮想線の前記乗員と反対側且つ該第2仮想線の車両前方側の領域を前記張力布が通過するように構成され、
前記付勢機構によって前記張力布が乗員側に付勢されることを特徴とする乗員拘束装置。
【請求項3】
前記張力布の前記シートバック部の上面の取り付け箇所は、左右方向における前記乗員の肩部より内側近傍であることを特徴とする請求項1または2に記載の乗員拘束装置。
【請求項4】
前記張力布は、前記エアバッグの膨張展開時に、前記座席の表皮が開裂することにより該座席の外部に展開することを特徴とする請求項1から3のいずれか1項に記載の乗員拘束装置。
【請求項5】
前記張力布の少なくとも一部は、前記座席の側方に設けられたケースに収容されており、前記エアバッグの膨張展開時に、当該ケースから該座席の外部に展開することを特徴とする請求項1から3のいずれか1項に記載の乗員拘束装置。
【請求項6】
前記張力布は、前記シートバック部から前記シートクッション部に向かうにしたがって幅が広くなることを特徴とする請求項1または2に記載の乗員拘束装置。
【請求項7】
前記張力布を複数備えることを特徴とする請求項1から3のいずれか1項に記載の乗員拘束装置。
【請求項8】
前記膨張展開時のエアバッグの上方からの平面視における前記張力布は、前記第1仮想線の前記乗員と反対側且つ前記第2仮想線の車両前方側の領域において前記エアバッグの輪郭線と交差することを特徴とする請求項1から4のいずれか1項に記載の乗員拘束装置。
【請求項9】
前記1つ以上のエアバッグは、前記座席の両側に設けられ、該座席に着座した乗員の左右に膨張展開する一対のエアバッグで構成されることを特徴とする請求項1から8のいずれか1項に記載の乗員拘束装置。
【請求項10】
前記付勢機構は、
前記シートバック部において前記1つのエアバッグ側の乗員の肩部に相当する位置に配置され該シートバック部を左右方向にスライド移動可能なシャフトと、
前記1つのエアバッグとは反対側のエアバッグと前記シャフトとに接続されるテザーとを含み、
前記張力布は、左右方向における前記シャフトの内側の位置で前記シートバック部に固定されていて、
前記一対のエアバッグの膨張展開時に、
前記張力布は該座席の外部に展開し、前記シートバック部の上面の左右方向における前記乗員の肩部より内側近傍から前記シートクッション部まで張り渡され、
前記一対のエアバッグの膨張展開時に前記テザーが前記座席の外部に展開されるとき、前記反対側のエアバッグによって該テザーが牽引されて前記シャフトが前記シートバック部を前記乗員の他方の肩部に相当する位置まで移動することにより、前記張力布が該シャフトに引っ張られて前記1つのエアバッグが前記乗員に付勢されることを特徴とする請求項9に記載の乗員拘束装置。
【請求項11】
前記付勢機構は、
前記シートバック部において前記1つのエアバッグ側の乗員の肩部に相当する位置に配置され前記張力布が挿通され前方に移動可能な環状のスライドリングと、
前記1つのエアバッグとは反対側のエアバッグと前記スライドリングとに接続されるテザーとを含み、
前記張力布は、前記スライドリングに挿通された後に前記シートバック部に固定されていて、
前記一対のエアバッグの膨張展開時に、
前記張力布は、該座席の外部に展開し、前記シートバック部の上面の左右方向における前記乗員の肩部より内側近傍から前記シートクッション部まで張り渡され、
前記一対のエアバッグの膨張展開時に前記テザーおよび前記スライドリングが前記座席の外部に露出し、前記反対側のエアバッグによって前記テザーが牽引されて前記スライドリングが前方に移動し、前記張力布が前記シートバック部に固定されている位置から前記スライドリングが離れることにより、前記張力布が引っ張られて前記1つのエアバッグが前記乗員に付勢されることを特徴とする請求項9に記載の乗員拘束装置。
【請求項12】
前記張力布および前記付勢機構は、前記一対のエアバッグの両方に対して設けられていることを特徴とする請求項10または11に記載の乗員拘束装置。
【請求項13】
前記張力布および前記付勢機構は、前記一対のエアバッグの両方に対して設けられていて、
前記両方に設けられた付勢機構の前記スライドリングが連結されていることを特徴とする請求項11に記載の乗員拘束装置。
【請求項14】
前記張力布は、前記膨張展開時のエアバッグの上方からの平面視での前後長の中央よりも前方の当該張力布の中間部でエアバッグに接続されていることを特徴とする請求項1から13のいずれか1項に記載の乗員拘束装置。
【請求項15】
前記付勢機構は、前記張力布の一端が接続されて該張力布を巻き取るリトラクタを含み、
前記エアバッグの膨張展開時に、前記張力布が前記リトラクタによって巻き取られることにより、前記エアバッグが前記乗員側に付勢されることを特徴とする請求項1または2に記載の乗員拘束装置。
【請求項16】
前記張力布は、第1張力布および第2張力布を含み、
前記第1張力布は、シートバックの上部から、エアバッグ上の少なくとも前記第1仮想線の前記乗員と反対側且つ前記第2仮想線の車両前方側の領域を通過し、
前記第2張力布は、前記第1張力布よりも後方において前記エアバッグ上を通過しシートクッションに接続され、
前記付勢機構は、前記リトラクタから前記エアバッグまでの間で前記第1張力布および前記第2張力布を引き込む方向を変更する方向変更部を更に備えることを特徴とする請求項15に記載の乗員拘束装置。
【請求項17】
前記付勢機構は、
前記シートバック部の左右方向のいずれかの端部から中央までの間を移動可能な方向変更部と、
前記エアバッグの膨張展開時に前記方向変更部を前記左右方向の中央寄りに牽引するプリテンショナ機構とを含み、
前記張力布は、前記シートバック部の左右方向のいずれかの端部から前記方向変更部を経由して前記エアバッグに到達していて、
前記エアバッグの膨張展開時に、前記プリテンショナ機構が前記方向変更部を牽引することにより、前記張力布によって前記エアバッグが前記乗員側に付勢されることを特徴とする請求項1または2に記載の乗員拘束装置。
【請求項18】
前記付勢機構は、
前記シートバック部の中央部近傍から左右方向のいずれかの端部までの間を移動可能な第1方向変更部と、
前記シートバック部の左右方向の中央の前記第1方向変更部より前側に配置された第2方向変更部と、
前記エアバッグの膨張展開時に前記第1方向変更部を前記シートバック部の左右いずれかの端部に向かって押し出すプッシュ機構とを含み、
前記張力布は、前記シートバック部の左右方向の中央から前記第1方向変更部および前記第2方向変更部を経由して前記エアバッグに到達していて、
前記エアバッグの膨張展開時に、前記プッシュ機構が前記第1方向変更部を押し出すことにより、前記張力布によって前記エアバッグが前記乗員側に付勢されることを特徴とする請求項1または2に記載の乗員拘束装置。
【請求項19】
前記第1張力布および前記第2張力布は、前記リトラクタから前記エアバッグまでの間で合流するように設けられる請求項16に記載の乗員拘束装置。
【請求項20】
前記張力布は、第1張力布、第2張力布および第3張力布を含み、
前記第1張力布は、前記エアバッグの膨張展開によって該座席の外部に展開し、前記シートバック部の上面から、該エアバッグの前記第1仮想線の前記乗員と反対側且つ前記第2仮想線の車両前方側の領域まで張り渡され、
前記第2張力布は、前記第1張力布のエアバッグ上の端部から下方に向かうにしたがって前方に傾斜しながら前記シートクッション部まで張り渡され、
前記第3張力布は、前記第1張力布のエアバッグ上の端部から下方に向かうにしたがって後方に傾斜しながら前記シートクッション部まで張り渡されることを特徴とする請求項15、17および18のいずれか1項に記載の乗員拘束装置。
【請求項21】
前記張力布は、第1張力布および第2張力布を含み、
前記第1張力布は、前記エアバッグの膨張展開によって該座席の外部に展開し、前記シートバック部の上面から、該エアバッグの前記第1仮想線の前記乗員と反対側且つ前記第2仮想線の車両前方側の領域まで張り渡され、
前記第2張力布は、前記第1張力布のエアバッグ上の端部から下方に向かうにしたがって幅が広くなる面状の部材であり、前記シートクッション部まで張り渡されることを特徴とする請求項15、17および18のいずれか1項に記載の乗員拘束装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両の座席に着座した乗員を拘束する乗員拘束装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年の車両にはエアバッグ装置がほぼ標準装備されている。エアバッグ装置は、車両衝突などの緊急時に作動する安全装置であって、ガス圧で膨張展開して乗員を受け止めて保護する。エアバッグ装置には、設置箇所や用途に応じて様々な種類がある。例えば特許文献1の乗員保護装置では、座席の両側の側部に乗員のすぐ脇へ膨張展開するサイドエアバッグが設けられている。特許文献1によれば、衝突時における衝突側(車幅方向の一方側)への移動の揺り戻し等による反衝突側(車幅方向の他方側)への移動を規制することができるとしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2014−034356号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1のように乗員を側方で受け止めるエアバッグ装置では、エアバッグが車幅方向において乗員から離れる方向に移動してしまうと乗員を拘束する性能が低下してしまう。このため、特許文献1では、内側エアバッグの車幅方向内側の側部にテンションクロス装置を設けている。特許文献1のテンションクロス装置は、側方展開部材としてのテンションクロスと、展開手段としてのポップアップバー構造とを有する。
【0005】
特許文献1の構成によれば、車幅方向内側の側部に設けられたテンションクロスによって支持されることで内側エアバッグの車幅方向への移動が抑制される。したがって、乗員の車幅方向内側への移動が規制されると考えられる。しかしながら、特許文献1の構成であると、内側エアバッグは、側面のみしかテンションクロスによって支持されない。このため、エアバッグの車両前後方向への移動を規制することができない。よって、特許文献1の乗員保護装置には未だ改善の余地がある。
【0006】
本発明は、このような課題に鑑み、車両の衝突時等における膨張展開状態のエアバッグの移動をより効果的に規制し、エアバッグによる乗員拘束性能の向上を図ることが可能な乗員拘束装置を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、本発明にかかる乗員拘束装置の代表的な構成は、車両の座席に着座した乗員を拘束する乗員拘束装置であって、当該乗員拘束装置は、座席のシートバック部に少なくとも一部が収納されていて座席に着座した乗員の側方に膨張展開する1つ以上のエアバッグと、エアバッグの乗員とは反対側の側面を通って座席のシートバック部からシートクッション部にわたって収納されている1つ以上の張力布とを備え、張力布は、エアバッグの膨張展開によって座席の外部に展開し、シートバック部の上面からシートクッション部まで張り渡され、膨張展開時のエアバッグの上方からの平面視において、左右方向に平行な直線上でエアバッグ幅の最も長い部分における中心を通り車両前後方向に延びる第1仮想線と、第1仮想線と直交しエアバッグ前後長における当該第1仮想線の中心を通り左右方向に延びる第2仮想線によって区画される4つの領域のうち、少なくとも第1仮想線の乗員と反対側且つ第2仮想線の車両前方側の領域を張力布が通過するように構成されることを特徴とする。
【0008】
上記構成では、車両の衝突時にエアバッグが膨張展開することによって張力布が座席の外部に展開する。これにより、エアバッグの乗員とは反対側の側面に沿うようにシートクッション部の側面まで張力布が張り渡される。座席の外部に展開した張力布は、エアバッグの第1仮想線の乗員と反対側且つ第2仮想線の車両前方側の領域を通過する。これにより、張力布は、上方からの平面視において車両前方に向かうにしたがって乗員から離れる方向に斜めにエアバッグに掛け渡される。掛け渡された張力布によって、エアバッグは、乗員と反対側の面および前方側が保持される。したがって、乗員から離れる方向への移動および前方への移動の両方を規制することができ、エアバッグによる乗員拘束性能の向上を図ることが可能となる。
【0009】
上記課題を解決するために、本発明にかかる乗員拘束装置の他の構成は、車両の座席に着座した乗員を拘束する乗員拘束装置であって、当該乗員拘束装置は、座席のシートバック部に少なくとも一部が収納されていて座席に着座した乗員の側方に膨張展開する1つ以上のエアバッグと、エアバッグの乗員とは反対側の側面を通って座席のシートバック部からシートクッション部にわたって収納されている1つ以上の張力布とを備え、張力布は、エアバッグの膨張展開によって該座席の外部に展開し、シートバック部の上面からシートクッション部まで張り渡され、膨張展開時のエアバッグの上方からの平面視において、平面図形における重心である図心を通る車両前後方向に延びる第1仮想線と、第1仮想線と直交し左右方向に延びる第2仮想線によって区画される4つの領域のうち、少なくとも第1仮想線の乗員と反対側且つ第2仮想線の車両前方側の領域を張力布が通過するように構成されることを特徴とする。
【0010】
上記構成では、第1仮想線を、エアバッグの上方からの平面視における図心を通る線分としている。このような構成であっても、座席の外部に展開した張力布が、エアバッグの第1仮想線の乗員と反対側且つ第2仮想線の車両前方側の領域を通過することにより、上記と同様の効果を得ることができる。
【0011】
上記張力布のシートバック部の上面の取り付け箇所は、左右方向における乗員の肩部より内側近傍であるとよい。これにより、乗員の肩部近傍では、張力布によって乗員側に寄せる方向の力がエアバッグに対して付与される。したがって、エアバッグの乗員から離れる方向への移動をより効果的に抑制することが可能となる。
【0012】
上記張力布は、エアバッグの膨張展開時に、座席の表皮が開裂することにより座席の外部に展開するとよい。または上記張力布の少なくとも一部は、座席の側方に設けられたケースに収容されており、エアバッグの膨張展開時に、当該ケースから座席の外部に展開するとよい。いずれの構成によっても、上述した効果を良好に得ることが可能となる。
【0013】
上記張力布は、シートバック部からシートクッション部に向かうにしたがって幅が広くなるとよい。かかる構成によれば、張力布がより広い面積でエアバッグを保持することができる。したがって、エアバッグの移動をより確実に規制することができ、上述した効果を高めることが可能となる。
【0014】
上記張力布を複数備えるとよい。これにより、張力布によってエアバッグを保持する箇所が多くなる。したがって、エアバッグの移動をより確実に規制することができ、上述した効果を高めることが可能となる。
【0015】
上記膨張展開時のエアバッグの上方からの平面視における張力布は、第1仮想線の乗員と反対側且つ第2仮想線の車両前方側の領域においてエアバッグの輪郭線と交差するとよい。かかる構成のように、張力布が展開時に第1仮想線の乗員と反対側且つ第2仮想線の車両前方側の領域の輪郭線と交差する場合においても、上述した効果が得られる。
【0016】
上記1つ以上のエアバッグは、座席の両側に設けられ、座席に着座した乗員の左右に膨張展開する一対のエアバッグで構成されるとよい。これにより、乗員の左右両側をエアバッグにより拘束することができ、より高い乗員拘束性能が得られる。
【0017】
当該乗員拘束装置は、シートバック部の内部に埋設され、一対のエアバッグのうち1つのエアバッグを乗員側に付勢する付勢機構を更に備え、付勢機構は、シートバック部において1つのエアバッグ側の乗員の肩部に相当する位置に配置されシートバック部を左右方向にスライド移動可能なシャフトと、1つのエアバッグとは反対側のエアバッグとシャフトとに接続されるテザーとを含み、張力布は、左右方向におけるシャフトの内側の位置でシートバック部に固定されていて、一対のエアバッグの膨張展開時に、張力布は座席の外部に展開し、シートバック部の上面の左右方向における乗員の肩部より内側近傍からシートクッション部まで張り渡され、一対のエアバッグの膨張展開時にテザーが座席の外部に展開されるとき、反対側のエアバッグによってテザーが牽引されてシャフトがシートバック部を乗員の他方の肩部に相当する位置まで移動することにより、張力布がシャフトに引っ張られて1つのエアバッグが乗員に付勢されるとよい。
【0018】
上記構成によれば、付勢機構によって、それが設けられた1つのエアバッグを乗員に付勢される。これにより、張力布によるエアバッグの左右方向への移動を抑制する効果を高めることができる。したがって、エアバッグによる乗員拘束性能の更なる向上を図ることが可能となる。
【0019】
当該乗員拘束装置は、シートバック部の内部に埋設され、一対のエアバッグのうちの1つのエアバッグを乗員側に付勢する付勢機構を更に備え、付勢機構は、シートバック部において1つのエアバッグ側の乗員の肩部に相当する位置に配置され張力布が挿通され前方に移動可能な環状のスライドリングと、1つのエアバッグとは反対側のエアバッグとスライドリングとに接続されるテザーとを含み、張力布は、スライドリングに挿通された後にシートバック部に固定されていて、一対のエアバッグの膨張展開時に、張力布は、座席の外部に展開し、シートバック部の上面の左右方向における乗員の肩部より内側近傍から前記シートクッション部まで張り渡され、一対のエアバッグの膨張展開時にテザーおよびスライドリングが座席の外部に露出し、反対側のエアバッグによってテザーが牽引されてスライドリングが前方に移動し、張力布がシートバック部に固定されている位置からスライドリングが離れることにより、張力布が引っ張られて1つのエアバッグが乗員に付勢されるとよい。
【0020】
かかる構成によっても、上述した付勢機構と同様に1つのエアバッグを乗員に付勢する効果が得られる。したがって、エアバッグによる乗員拘束性能を更に高めることが可能である。
【0021】
上記張力布および付勢機構は、一対のエアバッグの両方に対して設けられているとよい。かかる構成によれば、一対のエアバッグの両方において上述した付勢機構による効果が得られる。したがって、乗員拘束性能を更に高めることが可能となる。
【0022】
上記張力布および付勢機構は、一対のエアバッグの両方に対して設けられていて、両方に設けられた付勢機構のスライドリングが連結されているとよい。これにより、一対のエアバッグそれぞれに対して設けられた付勢機構を連動させることができる。
【0023】
上記張力布は、膨張展開時のエアバッグの上方からの平面視での前後長の中央よりも前方の当該張力布の中間部でエアバッグに接続されているとよい。これにより、張力布が、膨張展開時のエアバッグを前後方向でバランスよく受けることができる。したがって、上述した効果を安定して得ることが可能となる。
【0024】
当該乗員拘束装置は、シートバック部の内部に埋設され、エアバッグを乗員側に付勢する付勢機構を更に備え、付勢機構は、張力布の一端が接続されて張力布を巻き取るリトラクタを含み、エアバッグの膨張展開時に、張力布がリトラクタによって巻き取られることにより、エアバッグが乗員側に付勢されるとよい。リトラクタの一例として、電動モータによるものまたは、マクロガスジェネレータなどガス発生装置によるガス圧力でリトラクタのスピンドルを急速回転させるような一般的シートベルトリトラクタとして知られている構造に類似するものが使用可能である。
【0025】
上記構成によれば、上述した付勢機構と同様にエアバッグを乗員に付勢する効果が得られる。したがって、エアバッグによる乗員拘束性能をより高めることが可能となる。また上記構成では、一対のエアバッグを設けることなく、1つのエアバッグのみを設ける場合においても、そのエアバッグを乗員に対して付勢する効果を得ることが可能である。
【0026】
上記張力布は、第1張力布および第2張力布を含み、第1張力布は、シートバックの上部から、エアバッグ上の少なくとも第1仮想線の乗員と反対側且つ第2仮想線の車両前方側の領域を通過し、第2張力布は、第1張力布よりも後方においてエアバッグ上を通過しシートクッションに接続され、付勢機構は、リトラクタからエアバッグまでの間で第1張力布および第2張力布を引き込む方向を変更する方向変更部を更に備えるとよい。
【0027】
上記構成によれば、張力布が2本設けられる構成において、エアバッグの膨張展開時に、2本の張力布が方向変更部において合流してまとめられる。まとめられた張力布は、リトラクタまでの途中でそれを支持する方向変更部によって引き込み方向が変更されて、リトラクタに巻き取られる。これにより、2本の張力布が絡まることなく同時にリトラクタに巻き取られるため、張力布が2本設けられる構成においても、上述した効果を安定して得ることができる。
【0028】
なお、方向変更部は、例えばピンのような棒状のものでもよいし、シートバックの上部に設けられた細長いスロット状の開口部でもよいし、楕円形または円形の開口部でもよい。いずれにせよ相対的に張力布の引き込む方向を変更可能な部材であればよい。
【0029】
当該乗員拘束装置は、シートバック部の内部に埋設され、エアバッグを乗員側に付勢する付勢機構を更に備え、付勢機構は、シートバック部の左右方向のいずれかの端部から中央までの間を移動可能な方向変更部と、エアバッグの膨張展開時に方向変更部を左右方向の中央寄りに牽引するプリテンショナ機構とを含み、張力布は、シートバック部の左右方向のいずれかの端部から方向変更部を経由してエアバッグに到達していて、エアバッグの膨張展開時に、プリテンショナ機構が方向変更部を牽引することにより、張力布によってエアバッグが乗員側に付勢されるとよい。
【0030】
かかる構成においても、上述した付勢機構と同様にエアバッグを乗員に付勢する効果が得られる。したがって、エアバッグによる乗員拘束性能をより高めることが可能となる。またこの構成においても、1つのエアバッグのみを設ける場合に、そのエアバッグを乗員に対して付勢する効果を得ることが可能である。
【0031】
なお、プリテンショナの一例としては、マイクロガスジェネレータによってシリンダ内のピストンを移動させワイヤなどを急速牽引するバックルプリテンショナの構造に類似するものが使用可能である。方向変更部としては、例えばシャフトやピンのような棒状のものでもよいし、シートバックの上部に設けられた移動可能な細長いスロット状の開口部、楕円形または円形の開口部でもよい。いずれにせよ相対的に張力布の引き込む方向を変更可能な部材であればよい。
【0032】
当該乗員拘束装置は、シートバック部の内部に埋設され、エアバッグを乗員側に付勢する付勢機構を更に備え、付勢機構は、シートバック部の中央部近傍から左右方向のいずれかの端部までの間を移動可能な第1方向変更部と、シートバック部の左右方向の中央の第1方向変更部より前側に配置された第2方向変更部と、エアバッグの膨張展開時に第1方向変更部をシートバック部の左右いずれかの端部に向かって押し出すプッシュ機構とを含み、張力布は、シートバック部の左右方向の中央から第1方向変更部および第2方向変更部を経由してエアバッグに到達していて、エアバッグの膨張展開時に、プッシュ機構が第1方向変更部を押し出すことにより、張力布によってエアバッグが乗員側に付勢されるとよい。
【0033】
このような構成においても、付勢機構によってエアバッグを乗員に付勢する効果が得られるため、エアバッグによる乗員拘束性能をより高めることが可能となる。またこのような構成においても、1つのエアバッグのみを設ける場合に、そのエアバッグを乗員に対して付勢する効果を得ることが可能である。
【0034】
上記のプッシュ機構の一例としては、マイクロガスジェネレータによってシリンダ内のピストンを押し出すようなプッシュアウト機構に類似するものを使用可能である。また第1方向変更部および第2方向変更部は、張力布の引き込み方向を変えることができるものであればよく、例えば移動可能なシャフトやピンのような棒状のものでもよいし、シートバックの上部に設けられた移動可能な細長いスロット状の開口部、楕円形または円形の開口部などでもよい。いずれにせよ相対的に張力布の引き込む方向を変更可能な部材であればよい。
【0035】
上記第1張力布および第2張力布は、リトラクタからエアバッグまでの間で合流するように設けられるとよい。これにより、第1張力布および第2張力布を絡まることなく同時にリトラクタにおいて巻き取ることが可能となる。
【0036】
上記張力布は、第1張力布、第2張力布および第3張力布を含み、第1張力布は、エアバッグの膨張展開によって座席の外部に展開し、シートバック部の上面から、エアバッグの第1仮想線の乗員と反対側且つ第2仮想線の車両前方側の領域まで張り渡される。第2張力布は、第1張力布のエアバッグ上の端部から下方に向かうにしたがって前方に傾斜しながらシートクッション部まで張り渡され、第3張力布は、第1張力布のエアバッグ上の端部から下方に向かうにしたがって後方に傾斜しながらシートクッション部まで張り渡されるとよい。すなわち張力布は、エアバッグ上の経路途中で二股に分かれている。これにより、膨張展開時のエアバッグを前後方向でバランスよく受けることができるため、上述した効果を安定して得ることが可能となる。
【0037】
上記張力布は、第1張力布および第2張力布を含み、第1張力布は、エアバッグの膨張展開によって座席の外部に展開し、シートバック部の上面から、エアバッグの第1仮想線の乗員と反対側且つ第2仮想線の車両前方側の領域まで張り渡され、第2張力布は、第1張力布のエアバッグ上の端部から下方に向かうにしたがって幅が広くなる面状の部材であり、シートクッション部まで張り渡されるとよい。
【0038】
このように第2張力布が面状の部材であることにより、張力布がより広い面積で膨張展開時のエアバッグを受けることができる。したがって、張力布によってエアバッグを乗員に付勢する効果を高めることが可能となる。
【発明の効果】
【0039】
本発明によれば、車両の衝突時等における膨張展開状態のエアバッグの移動をより効果的に規制し、エアバッグによる乗員拘束性能の向上を図ることが可能な乗員拘束装置を提供することを目的としている。
【図面の簡単な説明】
【0040】
図1】第1実施形態にかかる乗員拘束装置を例示する図である。
図2図1の座席に乗員が着座している状態を例示する図である。
図3】第1実施形態の乗員拘束装置の他の例を説明する図である。
図4】第2実施形態にかかる乗員拘束装置を例示する図である。
図5図1の第1実施形態または図2の第2実施形態に適用可能な張力布のバリエーションを例示する図である。
図6】エアバッグのバリエーションを例示する図である。
図7】第3実施形態にかかる乗員拘束装置を例示する図である。
図8】第4実施形態にかかる乗員拘束装置を例示する図である。
図9】第5実施形態にかかる乗員拘束装置を例示する図である。
図10】第6実施形態にかかる乗員拘束装置を例示する図である。
図11】第7実施形態にかかる乗員拘束装置を例示する図である。
図12】第8実施形態にかかる乗員拘束装置を例示する図である。
図13】張力布のバリエーションを例示する図である。
図14】張力布のバリエーションを例示する図である。
【符号の説明】
【0041】
L1…第1仮想線、F…前後長、F1…中央、R1…第1領域、L2…第2仮想線、R2…第2領域、R3…第3領域、R4…第4領域、100…乗員拘束装置、100a…乗員拘束装置、110…座席、112…シートバック部、114…シートクッション部、116…ヘッドレスト、118…カバー、120a…エアバッグ、120b…エアバッグ、130a…左側張力布、130b…右側張力布、132a…第1張力布、132b…第1張力布、134a…第2張力布、134b…第2張力布、135a…一端、135b…中間部、135c…中間部、200…乗員拘束装置、230a…左側張力布、230b…右側張力布、232a…第3張力布、232b…第3張力布、332…張力布、334…張力布、336…張力布、338…張力布、430a…左側張力布、530a…左側張力布、600…乗員拘束装置、610…付勢機構、612…シャフト、614…テザー、700…乗員拘束装置、710…付勢機構、712…スライドリング、800…乗員拘束装置、810…付勢機構、812…リンク部材、900…乗員拘束装置、910…付勢機構、912…リトラクタ、914…ピン、1000…乗員拘束装置、1010…付勢機構、1012…シャフト、1014…プリテンショナ機構、1100…乗員拘束装置、1110…付勢機構、1112…シャフト、1114…ピン、1116…プッシュ機構、1202…第1張力布、1204…第2張力布、1206…第3張力布、1212…第1張力布、1214…第2張力布、C…中心、P…乗員、P1…肩部
【発明を実施するための形態】
【0042】
以下に添付図面を参照しながら、本発明の好適な実施形態について詳細に説明する。かかる実施形態に示す寸法、材料、その他具体的な数値などは、発明の理解を容易とするための例示に過ぎず、特に断る場合を除き、本発明を限定するものではない。なお、本明細書及び図面において、実質的に同一の機能、構成を有する要素については、同一の符号を付することにより重複説明を省略し、また本発明に直接関係のない要素は図示を省略する。
【0043】
なお、本実施形態においては、乗員が正規の姿勢で座席に着座した際に、乗員が向いている方向を前方、その反対方向を後方と称する。また乗員が正規の姿勢で座席に着座した際に、乗員の右側を右方向、乗員の左側を左方向と称する。更に、乗員が正規の姿勢で着座した際に、乗員の頭部方向を上方、乗員の腰部方向を下方と称する。そして、以下の説明において用いる図面では、必要に応じて、上述した乗員を基準とした前後左右上下方向を、Fr、Rr、L、R、Up、Downと示す。
【0044】
(第1実施形態)
図1は、第1実施形態にかかる乗員拘束装置100を例示する図である。理解を容易にするために、図1では、座席110の内部に収納されている部材(後述するエアバッグ120a・120bおよび左側張力布130a・右側張力布130b)を仮想線にて示している。また図1では、非膨張展開時のエアバッグ120a・120bおよび左側張力布130a・右側張力布130bを例示している。
【0045】
第1実施形態の乗員拘束装置100は、座席110に着座した乗員を拘束するための装置である。図1に例示するように、第1実施形態の乗員拘束装置100は、車両(全体は不図示)の座席110、エアバッグ120a・120bおよび左側張力布130a・右側張力布130bを備える。座席110は、乗員の上半身を支持するシートバック部112を備える。シートバック部112の下方には乗員が着座するシートクッション部114が設けられている。シートバック部114の上方には乗員の頭部を支持するヘッドレスト116が設けられている。
【0046】
エアバッグ120a・120b(サイドエアバッグ)は、図1に例示するように座席110のシートバック部112の左右両側の内部にそれぞれ収納されている。後述するように、左右両側の一対のエアバッグ120a・120bは、車両の衝突時等に、座席110に着座した乗員の左右両側方に膨張展開する。
【0047】
左側張力布130a・右側張力布130bは、本実施形態では一対のエアバッグ120a・120bそれぞれに対して設けられる。左側張力布130a・右側張力布130bは、収納されている一対のエアバッグ120a・120bの乗員とは反対側の側面をそれぞれ通って座席110のシートバック部112からシートクッション部114にわたって収納されている。
【0048】
図2は、図1の座席110に乗員Pが着座している状態を例示する図である。図2(a)は、図1の座席110を車両正面から観察した状態を例示している。図2(b)は、図1の座席110を車両斜め前方から観察した状態を例示している。図2(c)は、図2(a)のエアバッグ120aを上方から観察した模式図である。
【0049】
図2(a)〜図2(c)では、エアバッグ120a・120bが膨張展開した状態を例示し、乗員PとしてAM50ダミーを例示している。左右一対のエアバッグ120a・120b、およびそれらに対してそれぞれ設けられる左側張力布130a・右側張力布130bの位置関係は左右共通である。したがって、図2(b)および図2(c)については左側のエアバッグ120aおよび左側張力布130aを例示して説明する。
【0050】
図2(c)では、膨張展開時のエアバッグ120aに対して、車両前後方向に延びる第1仮想線L1、および左右方向に延びる第2仮想線L2を図示している。第1仮想線L1は、膨張展開時のエアバッグの上方からの平面視において、左右方向に平行な直線上でエアバッグ幅の最も長い部分における中心Cを通り、車両前後方向に延びる。第2仮想線L2は、エアバッグ前後長における第1仮想線L1の中心で第1仮想線L1と直交し、左右方向に延びる。本実施形態では、図2(c)に例示するように、第1仮想線L1および第2仮想線L2で区画される4つの領域をそれぞれ、第1領域R1、第2領域R2、第3領域R3および第4領域R4と称する。
【0051】
図2(a)および図2(b)に例示するように、第1実施形態の乗員拘束装置100では、左側張力布130aは、第1張力布132aおよび第2張力布134aを備える。同様に、右側張力布130bも、第1張力布132bおよび第2張力布134bを備える。以下、左右それぞれの第1張力布および第2張力を区別しない場合には、単に左側張力布130aおよび右側張力布130bと称する。
【0052】
図2(a)および図2(b)に例示するように、車両の衝突時等にはエアバッグ120a・120bが膨張展開する。左側張力布130aおよび右側張力布130bは、エアバッグ120a・120bの膨張展開によって座席110の表皮を開裂することにより、座席110の外部にそれぞれ展開する。展開した左側張力布130aおよび右側張力布130bは、シートバック部112の上面の左右方向で乗員Pの肩部より内側近傍からシートクッション部114まで張り渡される。これにより、左側張力布130aおよび右側張力布130bが、車両前方に向かうにしたがって乗員Pから離れる方向に斜めにエアバッグ120a・120bに掛け渡される。
【0053】
このとき本実施形態の特徴として、図2(c)に例示するように、展開した左側張力布130aの第1張力布132aは、4つの領域のうち、第1仮想線L1の乗員Pと反対側且つ第2仮想線L2の車両前方側の領域である第3領域R3を通過する。これにより、図2(a)および図2(b)に例示するように、膨張展開したエアバッグ120aは、乗員Pと反対側の面および前方側が第1張力布132aによって保持される。したがって、膨張展開したエアバッグ120aの乗員Pから離れる方向への移動および前方への移動を規制することができ、エアバッグ120aによる乗員拘束性能の向上を図ることが可能となる。
【0054】
更に本実施形態では、図2(c)に例示するように、エアバッグ120aに対して設けられた左側張力布130aのうち、第2張力布134aは、膨張展開時のエアバッグ120aを上方から平面視したときに、第3領域R3においてエアバッグ120aの輪郭線OLと交差するよう配置される。これにより、エアバッグ120aの特に乗員Pと反対側の側面を更に確実に保持することができる。したがって、エアバッグ120aの乗員Pから離れる方向への移動をより規制することが可能となる。
【0055】
また第1実施形態の乗員拘束装置100のように各エアバッグ120a・120bに対して張力布を2本ずつ、すなわち複数本設ける構成とすることにより、張力布によるエアバッグ120a・120bの保持箇所が多くなる。したがって、膨張展開したエアバッグ120a・120bの移動をより確実に規制することができ、エアバッグ120a・120bの乗員拘束性能を高めることが可能となる。なお、第1実施形態における張力布の数は例示にすぎず、これに限定するものではない。張力布は、各エアバッグ120a・120bに対してそれぞれ1本以上設けられていればよく、3本以上の張力布を設ける構成とすることも可能である。
【0056】
更に本実施形態では、図1に例示するように、一対のエアバッグ120a・120bそれぞれに対して設けられる一対の張力布130a・130bの一端は、シートバック部112のうち乗員Pの肩部近傍の位置F1・F2に固定されている。この位置F1・F2同士の間隔D(図1参照)は、AM50ダミーの肩幅よりも狭くなるように設定される。すなわち、張力布130a・130bのシートバック部112の上面への取り付け箇所である位置F1・F2は、左右方向における乗員の肩部より内側近傍に位置する。これにより張力布130a・130bはエアバッグ120a・120bの膨張展開時に上記の位置F1・F2を起点として座席110の外部に展開し張り渡される。
【0057】
上記のようにAMダミー50の肩幅よりも狭い間隔Dをおいた位置F1・F2を起点として張り渡される張力布130a・130bにより、乗員Pの肩部近傍では一対のエアバッグ120a・120bに対して乗員P側に寄せる方向の力が付与される。したがって、エアバッグ120a・120bの乗員Pから離れる方向への移動をより効果的に抑制することが可能となる。このため、エアバッグ120a・120bがより確実に乗員Pを拘束することができ、乗員拘束装置100の乗員拘束性能が向上する。
【0058】
図3は、第1実施形態の乗員拘束装置の他の例を説明する図である。図3に示す乗員拘束装置100aは、座席110の側部に配置されるケース118a・118bを備える。ケース118aは、エアバッグ120a・120bを収容するケースである。ケース118bは、張力布130a・130bを収容するケースである。図3に例示する乗員拘束装置100aでは、エアバッグ120a・120bの膨張展開時に、張力布130a・130bは、ケース118bから座席110の側部に展開する。このような構成によっても、上述した乗員拘束装置と同様の効果を得ることができる。
【0059】
(第2実施形態)
図4は、第2実施形態にかかる乗員拘束装置200を例示する図である。図4(a)は、図1の座席110を車両正面から観察した状態を例示している。図4(b)は、図1の座席110を車両斜め前方から観察した状態を例示している。図4(c)は、図4(a)のエアバッグ120aを上方から観察した模式図である。
【0060】
図4に例示する乗員拘束装置200は、左側張力布および右側張力布の構成のみが乗員拘束装置100と異なる。したがって、左側張力布および右側張力布以外の構成要素については、同一の符号を付すことにより説明を省略する。
【0061】
図4(a)および(b)に例示するように、第2実施形態の乗員拘束装置200の左側張力布230aは、第1張力布132aおよび第2張力布134aに加え、更に第3張力布232aを備える。同様に、右側張力布230bにおいても、第1張力布132bおよび第2張力布134bに加え、更に第3張力布232bを備える。
【0062】
図4(c)に例示するように、第3張力布232aは、第1張力布132aより乗員側に近い位置で第3領域R3を通過する。このように第3領域R3を通過する張力布の数が増えることにより、エアバッグ120aの移動をより好適に規制することができる。したがって、エアバッグ120aによる乗員拘束性能を更に高めることが可能となる。
【0063】
(張力布のバリエーション)
図5は、図1の第1実施形態または図2の第2実施形態に適用可能な張力布のバリエーションを例示する図である。図5では、左側のエアバッグ120aに対して設けられる左側張力布を例示している。図5(a)に例示する左側張力布330aは、第3領域R3を通過する4本の張力布332・334・336・338を備える。これにより、エアバッグ120aの移動を規制する効果を更に高めることができる。図5(b)に例示する左側張力布430aは、第1張力布132aおよび第2張力布134aの両方がエアバッグ120aの第3領域R3を通過するように配置されている。このような配置によっても上記と同様の効果を得ることが可能である。
【0064】
図5(c)では、エアバッグ120aに対して1本の左側張力布530aが設けられている。この左側張力布530aは、シートバック部112からシートクッション部114(図1参照)に向かうにしたがって幅が広くなる形状である。これにより、張力布が1本の場合であっても、エアバッグ120aを広い面積で保持することができる。したがって、張力布によってエアバッグ120aを保持する効果が十分に得られる。このため、膨張展開時のエアバッグ120aの移動をより確実に規制することができ、エアバッグ120aの乗員拘束性能の向上を図ることが可能となる。
【0065】
(エアバッグのバリエーション)
図6は、エアバッグのバリエーションを例示する図である。図6(a)はエアバッグ220の上方からの平面視を例示する図であり、図6(b)はエアバッグ220の側面視を例示する図である。上述した本発明は、図6(a)および(b)に例示するように膨張展開時の上方からの平面視での形状が楕円形ではないエアバッグ220を備える乗員拘束装置にも適用することができる。
【0066】
図6(a)に例示するように、膨張展開時のエアバッグ220の上方からの平面視において、第1仮想線L1は、平面図形における重心である図心C1を通って車両前後方向に延びている。第2仮想線L2は、図心C1において第1仮想線L1と直交し左右方向に延びている。そして、これらの第1仮想線L1および第2仮想線L2によって、第1領域R1、第2領域R2、第3領域R3および第4領域R4が区画される。
【0067】
4つの領域のうち、第1仮想線L1の乗員Pと反対側且つ第2仮想線L2の車両前方側の領域は、第3領域R3である。この第3領域R3を、上述した張力布(図1図5参照)が通過することにより、上記と同様の効果が得られる。これにより、膨張展開時の上方からの平面視での形状が楕円形状ではないエアバッグ220を備える乗員拘束装置においても、第1実施形態の乗員拘束装置100と同様の効果を得ることができる。
【0068】
なお、膨張展開時の上方からの平面視での形状が楕円形ではなく、更に側面視での形状が上下対称ではないエアバッグ220に本発明を適用する場合には、側面視における図心についても考慮することが好ましい。詳細には、図6(b)に示すようにエアバッグ220の側面視での形状が上下非対称である場合、まず側面視での平面図形における重心である図心C2を決定する。
【0069】
次に、図心C2において直行する第1仮想線L1および第3仮想線L3のうち、第1仮想線L1の位置での水平断面を平面図形としてその図心を算出する。これにより、エアバッグ220の側面視での形状を反映して上方からの平面視での図心を算出することができる。したがって、エアバッグ220の上方からの平面視における図心をより正確に決定することが可能となる。
【0070】
(第3実施形態)
図7は、第3実施形態にかかる乗員拘束装置600を例示する図である。理解を容易にするために、図7では、エアバッグ120a・120bの膨張展開後の座席110を上方から観察した状態を例示している。なお、以下の実施形態では、先に説明した実施形態と共通する構成要素については、同一の符号を付すことにより、説明を省略する。また以下の実施形態の説明に用いる図面では、部材の移動前の位置を実線において例示し、部材の移動後の位置を破線において例示する。
【0071】
図7に例示するように、第3実施形態の乗員拘束装置600は、上述したエアバッグ120a・エアバッグ120bおよび張力布(左側張力布130a・右側張力布130b)を備える。本実施形態では、左側張力布130aは、第1張力布132aおよび第2張力布134aを有し、右側張力布130bも、第1張力布132bおよび第2張力布134bを有する。
【0072】
上記の張力布のうち、左側張力布130aは、左右方向において、後述するシャフト612の内側の位置でシートバック部112に固定されている。なお、本実施形態では、左側張力布130aおよび右側張力布130bともに2本ずつの張力布を有するが、これに限定するものではない。左側張力布130aおよび右側張力布130bのそれぞれの張力布の数は、適宜変更することが可能である。
【0073】
第3実施形態の乗員拘束装置600は、エアバッグ120a・120bおよび張力布(左側張力布130a・右側張力布130b)に加え、エアバッグ120a(1つのエアバッグ)を乗員P側に付勢する付勢機構610を更に備える。付勢機構610は、シャフト612およびテザー614を有する。
【0074】
シャフト612は、シートバック部112において1つのエアバッグ側(本実施形態では左側のエアバッグ120a)の乗員Pの肩部P1に相当する位置に配置され、シートバック部112を左右方向にスライド移動可能である。テザー614は、1つのエアバッグとは反対側のエアバッグ(右側のエアバッグ120b)とシャフト612とに接続される。これらの部材は、エアバッグ120a・120bが膨張展開する前はシートバック部112の内部に埋設されている。
【0075】
第1実施形態の乗員拘束装置100と同様に、第3実施形態の乗員拘束装置600においても、図7に例示するようにエアバッグ120a・120bが膨張展開すると、張力布(左側張力布130a・右側張力布130b)は、座席110の表皮が開裂することにより座席110の外部に展開する。これにより、張力布は、シートバック部112の上面の左右方向における乗員Pの肩部P1より内側近傍からシートクッション部114(図1参照)まで張り渡される。
【0076】
このとき、テザー614は、座席110の表皮が開裂することにより座席110の外部に展開する。そして、シャフト612は、反対側のエアバッグであるエアバッグ120bによってテザー614(二点鎖線にて図示)が牽引されることにより、シートバック部112を乗員Pの他方の肩部に相当する位置、すなわち破線円で例示する位置まで矢印10の方向に移動する。これにより、張力布のうち左側張力布130aが、シャフト612によって二点鎖線に例示するように引っ張られた状態となり、エアバッグ120aが乗員Pに付勢される。なお、シャフト612は移動後にロックされるように構成しても良い。こうすることにより、乗員拘束中において、張力布の張力が変化しにくくなり、拘束における安定性が向上する。
【0077】
上記構成によれば、エアバッグ120a・120bの膨張展開時に、付勢機構610によって1つのエアバッグである左側のエアバッグ120aが乗員に付勢される。これにより、張力布によるエアバッグ120a・120bの左右方向への移動をより効率的に抑制し、エアバッグ120a・120bによる乗員拘束性能の更なる向上を図ることが可能となる。
【0078】
なお、本実施形態では、左側のエアバッグ120aに対して付勢機構610を設ける構成を例示したが、これに限定するものではない。付勢機構610は、右側のエアバッグ120bに対して設けられていてもよいし、一対のエアバッグ120a・120bの両方に対して設けられてもよい。
【0079】
(第4実施形態)
図8は、第4実施形態にかかる乗員拘束装置700を例示する図である。図8では、エアバッグ120a・120bの膨張展開後の座席110を上方から観察した状態を例示している。図8(b)に例示するように、第4実施形態の乗員拘束装置700は、一対のエアバッグ120a・120bそれぞれに対して、スライドリング712およびテザー614を有する付勢機構710を備える。
【0080】
スライドリング712は、環状の部材であり、張力布が挿通される。スライドリング712は、シートバック部112において1つのエアバッグ側の乗員Pの肩部に相当する位置に配置される。詳細には、左側のスライドリング712には左側張力布130aが挿通され、右側のスライドリング712には右側張力布130bが挿通される。これにより、スライドリング712は、張力布(左側張力布130a・右側張力布130b)に沿って前方に移動可能となる。張力布は、スライドリング712に挿通された後にシートバック部112に固定される。
【0081】
テザー614は、1つのエアバッグとは反対側のエアバッグとスライドリング712とに接続される。すなわち左側のエアバッグ120aに対して設けられた付勢機構710では、左側のスライドリング712に接続されたテザー614は右側のエアバッグ120bに接続される。一方、右側のエアバッグ120bに対して設けられた付勢機構710では、右側のスライドリング712に接続されたテザー614は左側のエアバッグに接続される。
【0082】
第4実施形態においても、エアバッグ120a・120bが膨張展開すると、張力布(左側張力布130a・右側張力布130b)が、座席110の外部に展開し、シートバック部112とシートクッション部(図1参照)との間に張り渡される。このとき、テザー614およびスライドリング712は、座席110の表皮が開裂することにより、座席110の外部に露出する。
【0083】
そして、反対側のエアバッグによってテザー614が牽引されてスライドリング712が前方に移動し、張力布がシートバック部112に固定されている位置からスライドリング712が離れる。これにより、張力布が引っ張られて1つのエアバッグが乗員Pに付勢される。
【0084】
具体的には、左側の付勢機構710では、左側のスライドリング712に接続されているテザー614が右側のエアバッグ120bによって牽引される。これにより、左側のスライドリング712が前方に移動し、左側張力布130aが引っ張られる。すると、左側張力布130aによって左側のエアバッグ120aが引っ張られ、左側のエアバッグ120aが乗員に付勢される。
【0085】
上記説明した第4実施形態の付勢機構710のように、シャフト612に替えてスライドリング712を用いる構成においても、1つのエアバッグを乗員Pに付勢する効果が得られる。したがって、エアバッグ120a・120bによる乗員拘束性能を更に高めることが可能である。
【0086】
また第4実施形態では、左側張力布130a・右側張力布130bおよび付勢機構710は、一対のエアバッグ120a・120bの両方に対して設けられている。これにより、一対のエアバッグ120a・120bの両方において上述した付勢機構710による効果が得られる。したがって、乗員拘束性能の更なる向上を図ることが可能となる。ただし、これに限定するものではなく、第4実施形態の付勢機構710を一対のエアバッグ120a・120bのいずれか一方に設ける構成も当然にして可能である。
【0087】
更に第4実施形態の付勢機構710では、テザー614は、エアバッグ120a・120bの乗員Pと接する側の面に接続される。これにより、テザー614の長さを短くすることができる。また第4実施形態では、一対のエアバッグ120a・120bそれぞれに付勢機構710を設け、エアバッグ120a・120bの乗員Pと接する側の面にテザー614を接続している。これにより、図8に例示するように、交差する2つのテザー614によって、乗員Pの上半身、特に肩部が囲まれた状態となる。
【0088】
上記構成によれば、例えば大柄な乗員Pであればテザー614および張力布(左側張力布130a・右側張力布130b)によるエアバッグ120a・120bの付勢力が高くなる。一方、小柄な乗員Pであれば、テザー614および張力布(左側張力布130a・右側張力布130b)によるエアバッグ120a・120bの付勢力は低くなる。したがって、乗員Pの体格に応じた付勢力(拘束力)の調整が可能となる。
【0089】
(第5実施形態)
図9は、第5実施形態にかかる乗員拘束装置800を例示する図である。図9においても、エアバッグ120a・120bの膨張展開後の座席110を上方から観察した状態を例示している。図9に例示するように、第5実施形態の乗員拘束装置800は、スライドリング712、テザー614およびリンク部材812を有する付勢機構810を備える。
【0090】
第5実施形態の付勢機構810の特徴として、両方に設けられた付勢機構810のスライドリング712がリンク部材812によって連結されている。第5実施形態の付勢機構810においても、エアバッグ120a・120bが膨張展開すると、張力布(左側張力布130a・右側張力布130b)が、座席110の外部に展開し、シートバック部112とシートクッション部(図1参照)との間に張り渡される。
【0091】
そして、テザー614およびリンク部材812によって連結された2つのスライドリング712は、座席110の表皮が開裂することにより、座席110の外部に露出する。すると、エアバッグ120a・120bによってテザー614が牽引されてスライドリング712が前方に移動し、張力布(左側張力布130a・右側張力布130b)がシートバック部112に固定されている位置からスライドリング712が離れる。これにより、張力布が引っ張られてエアバッグ120a・120bが乗員Pに付勢される。このとき、2つのスライドリング712がリンク部材812によって連結されていることにより、一対のエアバッグ120a・120bそれぞれに対して設けられた付勢機構810を連動させることが可能となる。
【0092】
(第6実施形態)
図10は、第6実施形態にかかる乗員拘束装置900を例示する図であり、座席110を上方から観察した状態を例示している。なお、第6実施形態以降は、上記説明したエアバッグ120a・120bのうち、左側のエアバッグ120aの動作を例示して説明する。ただし、これは左側のエアバッグ120aにのみ後述する付勢機構が設けられていることを意図するものではなく、付勢機構は片側のエアバッグ120bに対して設けられていてもよいし、エアバッグ120a・120bの両方に対して設けられていてもよい。
【0093】
図10(a)に例示するように、第6実施形態の乗員拘束装置900では、エアバッグ120aを乗員側に付勢する付勢機構910が設けられている。付勢機構910は、リトラクタ912を含んで構成される。リトラクタ912は、シートバック部112の内部に埋設され、第1張力布132aおよび第2張力布134aの一端135aが接続されている。
【0094】
図10(a)に例示するように、エアバッグ120aの膨張展開初期には、エアバッグ120aは乗員Pからやや離れた位置に展開する。展開と同時か直後に、瞬時にリトラクタ912が作動し、第1張力布132aおよび第2張力布134aがリトラクタ912によって巻き取られる。これにより、リトラクタ912によって巻き取られた分だけ第1張力布132aおよび第2張力布134aの長さが短くなる。その結果、図10(b)に示すように、エアバッグ120aが乗員側に付勢され、乗員Pがエアバッグ120aによって確実に拘束される。
【0095】
第6実施形態の付勢機構910によれば、先に説明した実施形態の付勢機構と同様にエアバッグ120aを乗員Pに対して付勢する効果が得られ、エアバッグ120aによる乗員拘束性能を更に高めることが可能となる。特に、第6実施形態の付勢機構910では、一対のエアバッグ120a・120bを協同させるのではなく、一方のエアバッグ120aのみで、そのエアバッグ120aを乗員Pに対して付勢する効果を得ることが可能である。
【0096】
また図10(a)に例示するように、第1張力布132aおよび第2張力布134aの一端135aは、乗員Pの肩部P1よりも内側の位置でシートバック部112内部に引き込まれ、シートバック部112内のリトラクタ912に接続されている。なお、このリトラクタ912は、シートベルトを巻き取るために用いられるシートベルトリトラクタと同様な機構を有するものであり、本発明で詳述はしない。これにより、第1張力布132aおよび第2張力布134aによってエアバッグ120aを乗員Pに対して付勢する力を高めることが可能となる。
【0097】
更に、図10(a)に例示するように、第1張力布132aおよび第2張力布134aのうち、第1張力布132aは、の中間部135bで、膨張展開時のエアバッグ120aの上方からの平面視での前後長Fの中央F1よりも前方でエアバッグ120aに接続され、それを経由し、シートクッション部114に接続されている。これにより、第1張力布132aは、エアバッグ120a上の第1仮想線L1の乗員Pと反対側、且つ第2仮想線L2の車両前方側の領域R3を通過する。
【0098】
第2張力布134aは、中間部135cで、第1張力布132aの中間部135bよりも後方においてエアバッグ120aに接続され、それを経由して、シートクッション部114に接続されている。このようにエアバッグ120aの前部および後部それぞれに第1張力布132aの中間部135bおよび第2張力布134aの中間部135cが接続されていることにより、膨張展開時のエアバッグ120aを前後方向でバランスよく受けることができ、上述した効果を安定して得ることが可能となる。なお、第1張力布132aおよび第2張力布134aをエアバッグ120a上の所定の位置に配置可能であれば、中間部135b・135cはエアバッグ120aと必ずしも接続されている必要はない。
【0099】
また図10(a)に例示するように、第6実施形態の付勢機構910は、リトラクタ912からエアバッグ120aまでの間で第1張力布132aおよび第2張力布134aがまとめられた、すなわち一体的な張力布を支持するピン914(方向変更部)を備える。そして、エアバッグ120aの膨張展開時に、第1張力布132aおよび第2張力布134aがピン914においてリトラクタ912に巻き取られる。これにより、張力布が2本設けられる構成において、2本の張力布(第1張力布132aおよび第2張力布134a)を、絡まることなく同時にリトラクタによって巻き取ることが可能となる。
【0100】
なお、第1張力布132aおよび第2張力布134aはピン914で合流してリトラクタ912で巻き取られてもよい。また、本実施例では座席110(シート)に対して片側のエアバッグと張力布を示しているが、座席110の(正規着座の乗員の)左右方向の両側に同様な装置を配置してもよい。
【0101】
(第7実施形態)
図11は、第7実施形態にかかる乗員拘束装置1000を例示する図であり、座席110を上方から観察した状態を例示している。図11(a)に例示するように、第7実施形態の乗員拘束装置1000では、エアバッグ120aを乗員側に付勢する付勢機構1010が設けられている。張力布は第6実施形態と同じであり、詳述は割愛する。
【0102】
付勢機構1010は、シャフト1012およびプリテンショナ機構1014を含んで構成される。シャフト1012は、シートバック部112の左側の端部から中央までの間を移動可能に配置されている。プリテンショナ機構1014は、エアバッグ120aの膨張展開時にシャフト1012を左右方向の中央寄りに牽引する。第1張力布132aおよび第2張力布134aは、シートバック部の左側からシャフトを経由してエアバッグ120aに到達している。なお、このプリテンショナ機構1014は、シートベルトのバックルを引き込むために用いられるバックルプリテンショナと同様な機構を有するものであり、本発明で詳述はしない。
【0103】
図11(a)に例示するように、エアバッグ120aの膨張展開初期には、エアバッグ120aは乗員Pからやや離れた位置に展開する。展開と同時かその直後、瞬時にプリテンショナ機構1014が作動し、プリテンショナ機構1014がシャフト1012(方向変更部)を牽引する。これにより、シャフト1012がシートバック部112の中央に牽引され、第1張力布132aおよび第2張力布134aがシートバック部112の中央に向かって引っ張られる。その結果、図11(b)に示すように、第1張力布132aおよび第2張力布134aによってエアバッグ120aが乗員側に付勢され、乗員Pがエアバッグ120aによって確実に拘束される。
【0104】
第7実施形態の付勢機構1010によれば、先に説明した実施形態の付勢機構と同様にエアバッグ120aを乗員Pに対して付勢する効果が得られ、エアバッグ120aによる乗員拘束性能を更に高めることが可能となる。また第7実施形態の付勢機構1010によれば、第6実施形態の付勢機構910と同様に、一方のエアバッグ120aのみで、そのエアバッグ120aを乗員Pに対して付勢する効果を得ることが可能である。
【0105】
なお、第7実施形態では、シャフト1012がシートバック部112の左側の端部に配置されている構成を例示した。これは、エアバッグ120aが乗員Pの左側に設けられるからであり、乗員Pの右側に設けられるエアバッグ120b(図1参照)の場合には、シャフト1012を右側の端部に設ける構成とする。また乗員Pの右側に設けられるエアバッグ120bの場合には、張力布(第1張力布132aおよび第2張力布134a)は、シートバック部112の右側からシャフト1012を経由してエアバッグ120bに到達する構成とする。
【0106】
(第8実施形態)
図12は、第8実施形態にかかる乗員拘束装置1100を例示する図であり、座席110を上方から観察した状態を例示している。図12(a)に例示するように、第8実施形態の乗員拘束装置1100では、エアバッグ120aを乗員側に付勢する付勢機構1110が設けられている。張力布は第6実施形態と同じであり、詳述は割愛する。
【0107】
付勢機構1110は、シャフト1112(第1方向変更部)、ピン1114(第2方向変更部)およびプッシュ機構1116を含んで構成される。シャフト1112は、シートバック部112の左側の端部から中央までの間を移動可能に配置される。ピン1114は、シートバック部112の左右方向の中央のシャフトより1112前側に配置される。第1張力布132aおよび第2張力布134aは、シートバック部112の左右方向の中央からシャフト1112およびピン1114を経由してエアバッグ120aに到達している。このプッシュ機構1116は、シートベルトのアンカー部分などをガス発生器により生じるガスにより急速移動させる機構と同様な機構を有するものであり、本発明で詳述はしない。
【0108】
図12(a)に例示するように、エアバッグ120aの膨張展開初期には、エアバッグ120aは乗員Pからやや離れた位置で展開する。展開と同時かその直後、瞬時にプッシュ機構1116が作動し、プッシュ機構1116によってシャフト1112がシートバック部112の左側の端部に向かって押し出される。これにより、シートバック部112への接続箇所である一端135aとピン1114との間で第1張力布132aおよび第2張力布134aがシャフト1112によって引っ張られる。その結果、図12(b)に示すように、第1張力布132aおよび第2張力布134aによってエアバッグ120aが乗員側に付勢され、乗員Pがエアバッグ120aによって確実に拘束される。
【0109】
第8実施形態の付勢機構1110によれば、先に説明した実施形態の付勢機構と同様にエアバッグ120aを乗員Pに対して付勢する効果が得られ、エアバッグ120aによる乗員拘束性能を更に高めることができる。また第8実施形態の付勢機構1110によれば、第6実施形態の付勢機構910および第7実施形態の付勢機構1010と同様に、一方のエアバッグ120aのみで、そのエアバッグ120aを乗員Pに対して付勢する効果を得ることが可能である。
【0110】
なお、第8実施形態では、シャフト1112は、シートバック部112の左側の端部から中央までの間を移動可能に配置され、プッシュ機構1116は、シャフト1112をシートバック部112の左側の端部に向かって押し出す構成を例示した。これは、エアバッグ120aが乗員Pの左側に設けられるからである。乗員Pの右側に設けられるエアバッグ120b(図1参照)の場合には、シャフト1112は、シートバック部112の右側の端部から中央までの間を移動可能に配置され、プッシュ機構1116は、シャフト1112をシートバック部112の右側の端部に向かって押し出す構成とする。
【0111】
また第6実施形態の付勢機構910、第7実施形態の付勢機構1010、および第8実施形態の付勢機構1110では、エアバッグ120aに対して第1張力布132aおよび第2張力布134aの2本の張力布を設ける構成を例示したが、これに限定するものではない。張力布は、1つのエアバッグに対して1本設けられてもよいし、3本以上設ける構成としてもよい。
【0112】
(張力布のバリエーション)
図13および図14は、張力布のバリエーションを例示する図である。図13(a)および図14(a)は、エアバッグ120aを上方から観察した状態を例示していて、図13(b)および図14(b)は、エアバッグ120aを乗員Pとは反対側から観察した状態を例示している。なお、理解を容易にするために、図13および図14では、シートバック部112およびシートクッション部114を破線にて模式的に図示している。
【0113】
図13(a)および(b)の例では、エアバッグ120aに対して、第1張力布1202、第2張力布1204および第3張力布1206が設けられている。これらの張力布は、エアバッグ120aの膨張展開によって座席(図1参照)の外部に展開する。第1張力布1202、第2張力布1204および第3張力布1206のいずれかの一部分が、エアバッグ120aの第1仮想線L1の乗員と反対側且つ第2仮想線L2の車両前方側の領域R3を通るように配置するのが好ましい。
【0114】
本例では、第1張力布1202は、シートバック部112の上面から、エアバッグ120aの第1仮想線L1の乗員と反対側且つ第2仮想線L2の車両前方側の領域R3まで張り渡される。第2張力布1204は、第1張力布1202のエアバッグ120a上の端部から下方に向かうにしたがって前方に傾斜しながらシートクッション部114まで張り渡される。第3張力布1206は、第1張力布1202のエアバッグ120a上の端部から下方に向かうにしたがって後方に傾斜しながらシートクッション部114まで張り渡される。
【0115】
図13(a)および(b)の例によれば、エアバッグ120aの上部は第1張力布1202によって保持される。エアバッグ120aの下部は、前側が第2張力布1204によって保持され、後側が第3張力布1206によって保持される。これにより、膨張展開時のエアバッグ120bを前後方向および上下方向でバランスよく受けることが可能となる。
【0116】
図14(a)および(b)の例では、エアバッグ120aに対して、第1張力布1212および第2張力布1214が設けられている。これらの張力布は、エアバッグ120aの膨張展開によって座席(図1参照)の外部に展開する。第1張力布1212、第2張力布1214のいずれかの一部分が、エアバッグ120aの第1仮想線L1の乗員Pと反対側且つ第2仮想線L2の車両前方側の領域R3を通るように配置するのが好ましい。
【0117】
この例では、第1張力布1212は、シートバック部112の上面から、エアバッグ120aの第1仮想線L1の乗員と反対側且つ第2仮想線L2の車両前方側の領域R3まで張り渡される。第2張力布1214は、第1張力布1212のエアバッグ120a上の端部から下方に向かうにしたがって幅が広くなる面状の部材であり、シートクッション部114まで張り渡される。このように第2張力布が面状の部材であることにより、張力布がより広い面積で膨張展開時のエアバッグを受けることが可能となる。
【0118】
以上、添付図面を参照しながら本発明の好適な実施例について説明したが、以上に述べた実施形態は、本発明の好ましい例であって、これ以外の実施態様も、各種の方法で実施または遂行できる。特に本願明細書中に限定される主旨の記載がない限り、この発明は、添付図面に示した詳細な部品の形状、大きさ、および構成配置等に制約されるものではない。また、本願明細書の中に用いられた表現および用語は、説明を目的としたもので、特に限定される主旨の記載がない限り、それに限定されるものではない。
【0119】
したがって、当業者であれば、特許請求の範囲に記載された範疇内において、各種の変更例または修正例に想到し得ることは明らかであり、それらについても当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。
【産業上の利用可能性】
【0120】
本発明は、車両の座席に着座した乗員を拘束する乗員拘束装置に利用することができる。
図1
図2
図3
図4
図5
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図9
図10
図11
図12
図13
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