特許第6839873号(P6839873)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6839873水素含有遷移金属酸化物、調製方法及び一次電池
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6839873
(24)【登録日】2021年2月18日
(45)【発行日】2021年3月10日
(54)【発明の名称】水素含有遷移金属酸化物、調製方法及び一次電池
(51)【国際特許分類】
   C01G 51/00 20060101AFI20210301BHJP
   H01M 4/48 20100101ALI20210301BHJP
【FI】
   C01G51/00 C
   H01M4/48
【請求項の数】8
【全頁数】16
(21)【出願番号】特願2019-547756(P2019-547756)
(86)(22)【出願日】2017年11月23日
(65)【公表番号】特表2020-513398(P2020-513398A)
(43)【公表日】2020年5月14日
(86)【国際出願番号】CN2017112667
(87)【国際公開番号】WO2018095376
(87)【国際公開日】20180531
【審査請求日】2019年7月3日
(31)【優先権主張番号】201611046871.2
(32)【優先日】2016年11月23日
(33)【優先権主張国】CN
(73)【特許権者】
【識別番号】598098331
【氏名又は名称】ツィンファ ユニバーシティ
(74)【代理人】
【識別番号】110002262
【氏名又は名称】TRY国際特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】于 浦
(72)【発明者】
【氏名】魯 年鵬
(72)【発明者】
【氏名】呉 健
(72)【発明者】
【氏名】周 樹云
【審査官】 小野 久子
(56)【参考文献】
【文献】 特表2020−513672(JP,A)
【文献】 KATAYAMA, Tsukasa et al.,AIP Advances,2015年,Vol.5,p. 107147-1- 107147-7
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01G 51/00
H01M 4/48
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
水素含有遷移金属酸化物であって、この水素含有遷移金属酸化物の構造式はSrCoOxHyであり、xの値の範囲は1〜3であり、0<y≦2.5であり、水素イオンは+1価であり、水素イオンと酸素四面体中の酸素イオンが互いに接続してOH結合を形成する、ことを特徴とする水素含有遷移金属酸化物。
【請求項2】
xは2.5であ、ことを特徴とする請求項に記載の水素含有遷移金属酸化物。
【請求項3】
水素含有遷移金属酸化物の調製方法であって、以下のステップS100〜S300を含むことを特徴とする水素含有遷移金属酸化物の調製方法。
S100では、構造式SrCoOzを有する遷移金属酸化物を提供し、zは2以上且つ3以下であり、
S200では、前記遷移金属酸化物をイオン液体に浸漬し、前記イオン液体中の水は電場の作用下で水素イオン及び酸素イオンに分解し、
S300では、前記遷移金属酸化物に電場を印加して、イオン液体中の水素イオンを前記遷移金属酸化物に挿入する。
【請求項4】
前記ステップS100は、以下のステップS110〜S130を含むことを特徴とする請求項に記載の水素含有遷移金属酸化物の調製方法。
S110では、基板を提供し、
S120では、構造式SrCoOzを有する遷移金属酸化物薄膜を前記基板の表面に堆積して形成し、
S130では、前記遷移金属酸化物薄膜の表面に第1電極を形成する。
【請求項5】
前記基板はセラミック基板、シリコン基板、ガラス基板、金属基板、又はポリマーのうちの1つであり、前記ステップS120は、パルスレーザー堆積の方法によって前記基板の表面でエピタキシャル成長により前記遷移金属酸化物薄膜を取得する、ことを特徴とする請求項に記載の水素含有遷移金属酸化物の調製方法。
【請求項6】
前記ステップS130では、前記第1電極は前記遷移金属酸化物薄膜と接触して底部電極を形成する、ことを特徴とする請求項に記載の水素含有遷移金属酸化物の調製方法。
【請求項7】
前記ステップS300は、以下のステップS310〜S330を含むことを特徴とする請求項に記載の水素含有遷移金属酸化物の調製方法。
S310では、第2電極及び電源を提供し、
S320では、前記第2電極と前記第1電極とを間隔をおいて配置し、それぞれ前記電源に電気的に接続し、
S330では、前記第2電極を前記イオン液体に浸漬し、前記電源により前記第2電極から前記第1電極へ向かう電場を印加する。
【請求項8】
一次電池であって、陰極電極、前記陰極電極と間隔をおいて配置された陽極電極、及び前記陰極電極と前記陽極電極との間に配置された電解質を含み、前記陰極電極及び前記陽極電極は請求項1または2に記載の水素含有遷移金属酸化物である、ことを特徴とする一次電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
<関連出願>
本出願は、2016年11月23日に出願された「水素含有遷移金属酸化物、調製方法及び一次電池」という第201611046871.2号の中国特許出願の優先権を主張し、その内容をここで援用する。
【0002】
本出願は材料技術の分野に関し、特に水素含有遷移金属酸化物、調製方法及び一次電池に関する。
【背景技術】
【0003】
酸化物を水素化するための従来の方法はすべて、例えば、幾つかの水素化物(CaH、NaH)により酸化物を還元するなど、熱的方法を用いて実現される。これらのHイオンは酸化物中のOを置換して、H−M結合(Mは遷移金属である)を形成する。H−M結合はM−Oより短いため、これらの水素化酸化物は格子体積の減少を特徴とする。遷移金属酸化物の水素化により、その格子構造を変えることができるとともに、電子又は正孔のドーピングに伴い、材料の電気的又は磁気的特性を変えることができる。また、水素化プロセスにおいて、酸化物中の酸素を奪って、酸素欠損構造相になることもある。水素熱還元の方法により、水素化されたLaSrCoO、BaTiO、VO、TiOなどの幾つかの水素含有酸化物が調製されてきた。材料構造の転移を実現するために、水素化の方法に加えて、熱酸化の方法により実現することもできる。例えば、高酸素圧酸化の方法によって、ブラウンミラライト構造SrCoO2.5からペロブスカイト構造SrCoOへの変換を実現することができる。
【0004】
上述した方法はすべて二相間での調節制御に限定されている。従来の技術案では、三相転移を実現することができる水素含有遷移金属酸化物や、電場調節制御により水素含有遷移金属酸化物の三相の相転移を実現する方法がない。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
これに基づいて、上記の技術的課題に対して、三相転移を実現することができる水素含有遷移金属酸化物、調製方法及び一次電池を提供する必要がある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
水素含有遷移金属酸化物が提供される。この水素含有遷移金属酸化物の構造式はABOである。Aはアルカリ土類金属元素及び希土類金属元素のうちの1つ以上であり、Bは遷移金属元素のうちの1つ以上であり、xの値の範囲は1〜3であり、yの値の範囲は0〜2.5である。
【0007】
一実施例では、アルカリ土類金属元素はBe、Mg、Ca、Sr及びBaを含み、前記希土類金属元素はLa、Ce、Pr、Nd、Pm、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm及びYbを含み、前記遷移金属元素はCo、Cr、Fe、Mn、Ni、Cu、Ti、Zn、Sc及びVを含む。
【0008】
一実施例では、Bは遷移金属元素Coである。
【0009】
一実施例では、Aはアルカリ土類金属元素Srである。
【0010】
一実施例では、xは2.5であり、yは0〜2.5である。
【0011】
水素含有遷移金属酸化物の調製方法は、以下のステップS100〜S300を含む:
S100では、構造式ABOを有する遷移金属酸化物を提供し、zは2以上且つ3以下であり、
S200では、前記遷移金属酸化物をイオン液体に浸漬し、前記イオン液体中の水は電場の作用下で水素イオン及び酸素イオンに分解することができ、
S300では、前記遷移金属酸化物に電場を印加して、イオン液体中の水素イオンを前記遷移金属酸化物に挿入する。
【0012】
一実施例では、前記ステップS100は以下のステップS110〜S130を含む:
S110では、基板を提供し、
S120では、構造式ABOを有する遷移金属酸化物薄膜を前記基板の表面に堆積して形成し、
S130では、前記遷移金属酸化物薄膜の表面に第1電極を形成する。
【0013】
一実施例では、前記基板はセラミック基板、シリコン基板、ガラス基板、金属基板、又はポリマーのうちの1つであり、前記ステップS120は、パルスレーザー堆積の方法により前記基板の表面でエピタキシャル成長により前記遷移金属酸化物薄膜を取得する。
【0014】
一実施例では、前記ステップS130において、前記第1電極は前記遷移金属酸化物薄膜と接触して底部電極を形成する。
【0015】
一実施例では、前記ステップS300は以下のステップS310〜S330を含む:
S310では、第2電極及び電源を提供し、
S320では、前記第2電極と前記第1電極とを間隔をおいて配置し、それぞれ前記電源に電気的に接続し、
S330では、前記第2電極を前記イオン液体に浸漬し、前記電源により前記第2電極から前記第1電極へ向かう電場を印加する。
【0016】
一次電池は、陰極電極、前記陰極電極と間隔をおいて配置された陽極電極、及び前記陰極電極と前記陽極電極との間に配置された電解質を含む。前記陰極電極及び前記陽極電極は上記実施例に記載の水素含有遷移金属酸化物である。
【発明の効果】
【0017】
本出願は、電場により水素化を制限する方法によって、新たな結晶構造を有する水素含有遷移金属酸化物、及び調製方法を実現する。電場制御による水素化及び酸化の方法と組み合わせて、前記水素含有遷移金属酸化物は、電場下で3つの異なる構造相の制御可能な転移を実現し、豊富な物理的状態及び物理的特性の調節制御を実現する。また、本出願は、上記水素含有遷移金属酸化物を電極としての一次電池を更に提供する。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】本出願の実施例による水素含有遷移金属酸化物の調製方法のフローチャートである。
図2】本出願の実施例によるSrCoO2.80.82(a,b)、SrCoO1.95(c,d)、SrCoO2.52.38(e,f)のラザフォード後方散乱法(RBS)及び水素前方散乱スペクトル(HFS)の測定グラフである。
図3】本出願の実施例によるイオン液体ゲート電圧調節制御方法の装置及び原理図である。
図4】本出願の実施例によるin−situイオン液体ゲート電圧調節制御方法におけるXRDの回折ピークの変化である。それに対応する相は、それぞれSrCoO2.5、SrCoO3−δ、SrCoO2.5Hである。
図5】本出願の実施例によるSrCoO2.5、SrCoO3−δ、SrCoO2.5HのX線回折の構造特性評価図である。
図6】本出願の実施例によるイオン液体ゲート電圧調節制御前後の薄膜の結晶品質の特性評価である。
図7】本出願の実施例による異なる厚さを有する3つの相のXRDであり、即ち、それぞれ(a)20nm、(b)40nm、(c)60nm及び(d)100nmに対応する。
図8】本出願の実施例によるSrTiO(001)(a)及びLaAlO(001)(b)の異なる応力を有する基板上のSrCoO2.5相のイオン液体ゲート電圧調節制御後のex−situXRD結果である。
図9】本出願の実施例による3つの構造相に対応する、XRDから得られた擬似立方格子体積である。
図10】本出願の実施例による3つの相SrCoO2.5、SrCoO3−δ及びSrCoO2.5HのCoのL帯域エッジ(a)及びOのK帯域エッジ(b)の吸収スペクトルである。
図11】本出願の実施例による二次イオン質量スペクトルで測定された3つの相SrCoO2.5、SrCoO3−δ及びSrCoO2.5HにおけるH及びAlの原子濃度の深さ依存関係である。
図12】本出願の実施例による新たな相ABOの調製方法及び3相間の調節制御方法である。
図13】本出願の実施例によるエレクトロクロミックの3つの構造相の実物図及び光学的バンドギャップの変化である。
図14】本出願の実施例によるエレクトロクロミックの3つの構造相の異なる透過スペクトル及びスマートガラスの原理図である。
図15】本出願の実施例による透過スペクトルからの光学吸収スペクトルである。
図16】本出願の実施例による3つの構造相SrCoO2.5、SrCoO3−δ及びSrCoO2.5Hの電気輸送特性、即ち抵抗率の温度依存性である。
図17】本出願の実施例による3つの構造相の磁気特性評価である。
図18】本出願の実施例による反強磁気性絶縁体の特性を有するSrCoO2.5、強磁気性絶縁体の特性を有するSrCoO2.5H、及び強磁気性金属の特性を有するSrCoO3−δの3つの構造相の間の多状態電気磁気結合である。
図19】本出願の実施例による異なる温度で異なる磁気基底状態の相転移に対応する電気磁気結合である。
図20】電気磁気結合効果及びスピンバルブ構造に基づいて構築された5状態記憶モデルを示す。
図21】本出願の実施例による一次電池の構造模式図である。
図22】本出願の実施例による一次電池の動作原理の模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本出願の目的、技術的手段及び利点をさらに明らかにするために、以下、図面及び実施例を参照しながら、本出願の水素含有遷移金属酸化物及びその調製方法をさらに詳細に説明する。ここで述べる具体的な実施例は本出願の解釈のために用いられ、本出願を限定するためのものではないことを理解するべきである。
【0020】
本出願の実施例は、三相の相転移の調節制御を実現することができる水素含有遷移金属酸化物を提供する。前記水素含有遷移金属酸化物の構造式はABOである。Aはアルカリ土類金属及び希土類元素のうちの1つ以上であり、Bは遷移金属元素であり、xの値の範囲は1〜3であり、yの値の範囲は0〜2.5である。ABO中のAとB比は必ずしも厳密に1:1である必要はなく、酸化物に遍在する空格子点や格子間原子の存在により偏ることもある。そのため、AとBの比が1:1に近い前記水素含有遷移金属酸化物はすべて本出願の保護範囲内にある。好ましくは、前記xの値の範囲は1〜3であり、yの値の範囲は0〜2.5である。前記アルカリ土類金属元素は、Be、Mg、Ca、Sr、Baを含む。前記希土類金属元素はLa、Ce、Pr、Nd、Pm、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、Ybを含む。前記遷移元素はCo、Cr、Fe、Mn、Ni、Cu、Ti、Zn、Sc及びVのうちの1つ以上を含む。また、Aはアルカリ土類金属元素と希土類金属との合金であってもよく、Bは遷移金属と主族金属との合金であってもよいことが理解され得る。
【0021】
前記水素含有遷移金属酸化物ABOは、常温で安定な結晶構造を有する。常温でイオン液体ゲート電圧調節制御の方法を使用して、電場の作用により、イオン液体に浸漬された前記水素含有遷移金属酸化物に対して水素化及び脱水素化、又は酸素加及び脱酸素化を実現することができる。さらに、第1相から第2相への相転移及び前記第2相から前記第1相への相転移、前記第1相から第3相への相転移及び第3相から第1相への遷移、並びに前記第2相から第3相への相転移及び前記第3相から第2相への相遷移を実現することができる。前記第1相の格子体積は前記第2相の格子体積よりも大きく、前記第2相の格子体積は前記第3相の格子体積よりも大きい。当然のことながら、前記イオン液体ゲート電圧調節制御の方法により、上記3つの相の循環遷移を実現することもできることが理解され得る。前記3つの相で前記水素含有遷移金属酸化物の物理的性質が異なるため、上述の3つの相の遷移により電気デバイス上の応用を実現することができる。前記3つの相での材料の分子式は異なる。第1相での材料は前記水素含有遷移金属酸化物ABOxHyである。前記第2相は、前記水素含有遷移金属酸化物ABOに基づいて、前記イオン液体ゲート電圧調節制御方法により、前記水素含有遷移金属酸化物ABOに水素を析出させるか又は酸素を注入することによって実現される。前記第3相は、前記水素含有遷移金属酸化物ABOに基づいて、前記イオン液体ゲート電圧調節制御方法により、前記第2相に基づいて前記水素含有遷移金属酸化物ABOにさらに水素を析出させるか又は酸素を注入することによって実現される。一実施例では、前記三相転移は、ABOからABO2.5及びABO3−δへの三相間の変化を実現することである。同時に、上記相転移は、電場の制御下で3つの完全に異なる相の間で可逆的な構造相転移を形成することができる。これら3つの相は、完全に異なる電気的、光学的及び磁気的特性を有する。本出願の水素含有遷移金属酸化物及びその調製方法、三相の相転移、及び用途について、以下に詳細に説明する。
【0022】
図1を参照すると、本出願は水素含有遷移金属酸化物の調製方法を提供する。この方法は、以下のステップS100〜S300を含む:
S100では、構造式ABOを有する遷移金属酸化物を提供し、zは2以上且つ3以下であり、
S200では、前記遷移金属酸化物をイオン液体に浸漬し、
S300では、前記遷移金属酸化物に電場を印加して、イオン液体中の水素イオンを前記遷移金属酸化物に挿入する。
【0023】
ステップS100では、Aはアルカリ土類金属及び遷移元素のうちの1つ以上であり、Bは遷移金属元素Co、Cr、Fe、Mn、Ni、Cu、Ti、Zn、Sc、Vのうちの1つ以上である。前記アルカリ土類金属は、Be、Mg、Ca、Sr、Baを含む。前記希土類金属元素は、La、Ce、Pr、Nd、Pm、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、Ybのうちの1つ以上を含む。前記構造式ABOを有する遷移金属酸化物の構造は限定されず、薄膜、粉末、バルク材料、ナノ粒子、又は他の材料との複合材料であってもよい。一実施例では、前記構造式ABOを有する遷移金属酸化物は薄膜である。薄膜としての前記遷移金属酸化物を調製する方法は限定されず、様々な方法によって調製することができることが理解され得る。
【0024】
一実施例では、前記ステップS100は、以下のステップS110〜S130を含む:
S110では、基板を提供し、
S120では、構造式ABOを有する遷移金属酸化物薄膜を前記基板の表面に堆積して形成し、
S130、前記遷移金属酸化物薄膜の表面に第1電極を形成する。
前記基板は限定されず、セラミック基板、シリコン基板、ガラス基板、金属基板、又はポリマーのうちの1つであってもよい。成膜に使用することができる基板はすべてステップS110に使用することができる。前記構造式ABOを有する遷移金属酸化物の薄膜を形成する方法は限定されず、例えば、イオンスパッタリング法、化学気相成長法、マグネトロンスパッタリング法、ゲル法、パルスレーザー堆積などの様々な成膜方法であってもよい。一実施例では、前記ステップS120は、パルスレーザー堆積の方法により前記基板上でエピタキシャル成長により前記遷移金属酸化物薄膜を取得する。成長した遷移金属酸化物薄膜の厚さは限定されない。好ましくは、前記遷移金属酸化物薄膜の厚さは5nm〜200nmである。前記ステップS130では、前記第1電極と前記遷移金属酸化物薄膜とを接触させて底部電極を形成する。前記第1電極の位置は、前記遷移金属酸化物薄膜の前記基板に近接する表面であってもよいし、前記遷移金属酸化薄膜の前記基板から離れた表面であってもよい。前記第1電極は、金属又は様々な導電薄膜、及び前記遷移金属酸化物薄膜自体であってもよい。一実施例では、前記第1電極はITO薄膜である。前記イオン液体は様々な種類のイオン液体であってもよい。一実施例では、前記イオン液体はDEME−TFSIである。
【0025】
前記ステップS200では、前記遷移金属酸化物の表面にイオン液体層を形成することができる。前記イオン液体は、所望の水素イオン及び酸素イオンを加水分解又は他の手段によって提供することができ、かつ前記遷移金属酸化物を覆うことができる限り、様々な種類のイオン液体であってもよい。前記遷移金属酸化物及び前記イオン液体が電場内にある場合、前記イオン液体中の水素イオン及び酸素イオンは電場の方向により制御されて、前記遷移金属酸化物に挿入するか又はそれから析出させることができる。前記イオン液体中の水の量は制限されず、実験によると、前記イオン液体が少量の水(>100ppm)を有する限り、上述の水素イオン及び酸素イオンの注入及び析出を実現することができる。
【0026】
前記ステップS300では、前記遷移金属酸化物に電場を印加する方法は複数あってもよいことが理解され得る。一実施例では、前記ステップS300は、以下のステップS310〜S330を含む:
S310では、第2電極及び電源を提供し、
S320では、前記第2電極と前記第1電極とを間隔をおいて配置し、それぞれ前記電源に電気的に接続し、
S330では、前記第2電極を前記イオン液体に浸漬し、前記電源により前記第2電極から前記第1電極へ向かう電場を印加する。
【0027】
前記ステップS310では、前記第2電極の形状は限定されず、平行板電極、棒状電極、又は金網電極であってもよい。一実施例では、前記第2電極は、バネ状金属線からなる電極である。前記電源は、様々な直流電源、交流電源などであってもよい。前記電源の電圧は調整可能であり、反応時間を制御するために使用することができる。一実施例では、前記電源は直流電源である。
【0028】
前記ステップS320では、前記第2電極と前記第1電極とは間隔をおいて対向して配置されるので、前記第2電極と前記第1電極との間に配向の電場を形成することができる。前記第2電極、前記第1電極と前記直流電源との接続方法は限定されず、スイッチ制御により前記第2電極及び前記第2電極に電圧を印加することができる。
【0029】
前記ステップS330では、前記第2電極を前記イオン液体に浸漬し、前記第1電極及び前記第2電極に通電すると、前記第1電極を直流電源の負極に接続し、前記第2電極を直流電源の正極に接続することができる。それにより、前記第1電極と前記第2電極との間に前記第2電極から前記第1電極へ向かう電場を生成することができる。前記第1電極と前記第2電極との間にイオン液体があるため、電場の作用下でイオン液体中の正に帯電した水素イオンは前記第1電極に向かって移動し、前記遷移金属酸化物薄膜の表面に集まり、さらに前記遷移金属酸化物に挿入する。それにより、水素含有遷移金属酸化物が得られる。負に帯電した酸素イオンはサンプルから析出し、イオン液体中に注入される。電場が反転されると、上記のイオン変化プロセスは対応する反転を実行することが理解され得る。従って、電場方向の変化により、上記プロセスは可逆プロセスとなる。
【0030】
前記イオン液体ゲート電圧調節制御方法により、異なる水素含有量及び酸素含有量を有するストロンチウムコバルタイトの薄膜SrCoOを得ることができる。一実施例では、前記水素含有遷移金属酸化物ABOは、SrCoO2.80.82、SrCoO2.5H、SrCoO1.95、SrCoO2.52.38である。
【0031】
図2を参照されたい。上記方法により得られたSrCoO薄膜中のHとOの含有量を確定するために、本実施例は、水素前方散乱(Hydrogen Forward Scattering)とラザフォード後方散乱(Rutherford Back Scattering)の方法を組み合わせて、3つのSrCoO薄膜中のHとOの含有量を定量的に測定した。測定結果によれば、複数の異なる薄膜中のCoとHとの原子比はそれぞれ1:0.82(図2a及び2b)、1:1.95(図2c及び2d)及び1:2.38(図2e及び2f)であった。前記3つのSrCoOの元素化学量論比はSrCoO2.80.82、SrCoO1.95及びSrCoO2.52.38である。上述のSrCoO2.80.82、SrCoO2.5H、SrCoO1.95、SrCoO2.52.38はいずれも可逆電場の制御下で3つの完全に異なる相の間のトポロジカル相転移を実現し、3つの構造相は完全に異なる電気的、光学的及び磁気的特性を有する。前記水素含有遷移金属酸化物ABOは、SrCoO2.80.82、SrCoO2.5H、SrCoO1.95、SrCoO2.52.38である。
【0032】
以下、SrCoO2.5Hを例として、SrCoO2.5、SrCoO3−δ、SrCoO2.5Hの3相間の相転移を説明する。SrCoO2.5Hは第1相に対応し、SrCoO2.5は第2相に対応し、SrCoO3−δは第3相に対応する。
【0033】
図3を参照すると、ゲート電圧によりSrCoO2.5H相転移を調節制御装置が示される。図3の装置により、イオン液体ゲート電圧調節制御方法を使用して、室温下で電場制御による新たな相SrCoO2.5Hの調製並びに3つの構造相の間の可逆的及び不揮発性変換を実現した。図3では、前記SrCoO2.5H薄膜の縁部に導電性銀ペーストを電極として塗布し、前記SrCoO2.5H薄膜の表面をイオン液体で覆っている。前記導電性銀ペーストと間隔をおいて配置された螺旋状のPt電極は他の電極として機能する。本実施例では、水分子を加水分解して相転移に必要な水素イオン及び酸素イオンを得ることができるDEME−TFSI型のイオン液体を用いた。所望の水素イオン及び酸素イオンを取得し、電場駆動下で材料中に注入又は析出させることができる限り、その効果は他のイオン液体、イオン塩、ポリマー、及び極性材料などに広く適用することができる。
【0034】
図4を参照すると、この図は、ゲート電圧調節制御法により三相転移を制御するin−situXRDを示す。図に示すように、イオン液体において、SrCoO2.5薄膜に対して正のゲート電圧を使用した後(電圧の増加速度は2mV/sである)、45.7度(004)の回折ピークは徐々に弱くなり最終的に消滅する。同時に、新たな相に対応する44度の回折ピークが現れ始め、それにより、新たな構造物相SrCoO2.5Hが得られる。徐々に負のゲート電圧になると、新たな相SrCoO2.5HはすぐにSrCoO2.5に戻り、負のゲート電圧を印加し続けると、SrCoO2.5Hはペロブスカイト構造を有するSrCoO3−δ相に転移する。また、このin−situ電場調節制御による構造相転移は、可逆的に調節制御することができる。正のゲート電圧になると、SrCoO3−δ相はすぐにSrCoO2.5相及びSrCoO2.5Hに変換される。従って、電場制御の方式によって、ブラウンミラライト構造を有するSrCoO2.5、ペロブスカイト構造を有するSrCoO3−δ及びSrCoO2.5H相の間の可逆的な構造相転移が実現される。さらに重要なことには、これらの調節制御された新たな相は不揮発性を有する。即ち、構造相及び対応する物理的特性は電場が除去された後も維持される。
【0035】
図5を参照すると、3つの構造相SrCoO2.5、SrCoO3−δ及びSrCoO2.5HのX線回折パターンが示される。ペロブスカイト構造を有するSrCoO3−δと比較して、ブラウンミラライト構造を有するSrCoO2.5相は、酸素八面体及び酸素四面体の面外方向の交互配列に由来する一連の超構造ピークを示す。対応するブラッグ回折角に基づいて、SrCoO2.5及びSrCoO3−δ構造の擬立方c軸格子定数はそれぞれ0.397nm及び0.381nmである。新たな相SrCoO2.5Hも一連の超構造回折ピークを有する。それは、SrCoO2.5HがSrCoO2.5構造と同じ長周期格子構造を有することを示す。新たな相SrCoO2.5Hのc軸格子定数は0.411nmであり、対応するSrCoO2.5及びSrCoO3−δよりも3.7%及び8.0%大きい。また、図6を参照すると、これら3つの構造相SrCoO2.5、SrCoO3−δ及びSrCoO2.5Hは、ほぼ同じロッキング曲線半値全幅(FWHM)、及び基板と同じ面内格子定数(逆格子空間の面内Q値が一致する)を有する。それは、in−situ成長及びゲート電圧調節制御後の薄膜が依然として高い結晶品質を維持することを示す。また、図7及び図8を参照すると、LSAT(001)上に成長した異なる厚さを有する薄膜(20nm〜100nm)、並びにSTO(001)及びLAO(001)基板上に成長した異なる応力を有する薄膜が提供され、同様の結果が得られた。これは、SrCoO2.5、SrCoO3−δ及びSrCoO2.5Hの三相の可逆相転移の電場制御の有効性及び本質を十分に示している。即ち、この効果は、応力とは無関係であり、材料の厚さやサイズに関係なく、様々な構造形式の材料系に広く適用することができる。
【0036】
図9を参照すると、XRD測定から得られた3つの構造、並びにそれらと既存のSrCoO及びSrCoO2.5バルク材料との格子体積の比較が示される。図9からわかるように、前記第1相の格子体積は前記第2相の格子体積よりも大きく、前記第2相の格子体積は前記第3相の格子体積よりも大きい。
【0037】
図10を参照されたい。新たな相SrCoO2.5Hを形成する電子構造を深く理解するために、3つの構造相SrCoO2.5、SrCoO3−δ及びSrCoO2.5HにおけるCoのL吸収端及びOのK吸収端に対してX線吸収スペクトル測定を行った。CoのL2,3吸収端は、2p軌道から3d軌道への電子の遷移を検出し、対応する化合物の原子価状態を判断するための基準として使用できる。図10aに示すように、新たな相SrCoO2.5HからSrCoO2.5に、そしてSrCoO3−δ相に、CoのL吸収端のピーク位置が徐々に高エネルギー端に移動している。これは、Coの原子価状態が順に増加することを示す。特に、新たな相SrCoO2.5Hの吸収スペクトル特性はCoOとほぼ同じスペクトル形状とピーク位置を有し、新たな相SrCoO2.5HにおけるCoの原子価状態は+2価であることを示す。同時に、SrCoO2.5相におけるCoのX線吸収スペクトルも以前の研究とよく一致する。即ち、SrCoO2.5相におけるCoは+3価である。SrCoO2.5相と比較して、SrCoO3−δ相におけるCoのL吸収端のピーク位置は約0.8eV高い。これは、SrCoO3−δ相における酸素空格子点が少ない(δ<0.1)ことを示す。また、OのK吸収スペクトルを測定することによって、3つの構造相の電子状態をさらに研究した(図10b)。ここで、OのK吸収は、O1s被占軌道から空軌道のO2p軌道への遷移を測定した。SrCoO3−δにおけるOのK吸収端と比較して、SrCoO2.5相において、527.5eVピーク位置での明らかな減衰及び528.5eVピーク位置での明らかな増強は、それが完全な酸素八面体配位から一部の酸素八面体及び一部の酸素四面体配位に変換したことを示す。しかしながら、新たな相において、528eV吸収ピークが完全に消失したことは、OとCoとの間のハイブリダイゼーションがが大幅に減衰したことを示す。
【0038】
図11を参照されたい。SrCoO2.5格子への水素イオンの挿入を確認するために、二次イオン質量スペクトルの方法を使用して、3つの構造相におけるH元素及びAl元素(LSAT基板由来)の深さ依存曲線を測定した。LSAT基板及び他の2つの相と比較して、新たな相における明らかなH信号は、著しい量のHがSrCoO2.5の格子中に挿入し、新たな相中に均一に分布していることを明らかに示す。さらに前の吸収スペクトル試験によると、Coイオンの+2価の原子価状態の実験的証拠を確定することができ、新たな相の化学式がSrCoO2.5Hであることを確定することができる。また、OのK前置吸収端(図11b)では、532.5eVでの強い吸収ピークはO−H結合に起因する可能性がある。これはまた、新たな相におけるHイオンの存在について強い証拠を提供する。
【0039】
図12を参照されたい。イオン液体ゲート電圧調節制御のプロセス及びその3つの相に対する可逆的調節制御をまとめた。この構造において、SrCoOはペロブスカイト構造を有し、Coイオンは酸素イオンに囲まれて酸素八面体構造を形成する。SrCoO2.5はブラウンミラライト構造を有する。SrCoOと比較して、2つのCoイオンごとに1つの酸素イオンが失われるので、材料は、八面体と四面体が互いに重なり合うように形成される。SrCoO2.5Hでは、水素イオンと酸素四面体における酸素イオンとは接続されて、OH結合を形成する。これら3つの構造の間では、電場駆動下での酸素イオン及び水素イオンの挿入及び析出により、可逆的構造相転移を実現することができる。
【0040】
図13を参照すると、エレクトロクロミックの3つの相の実物図及び光学的バンドギャップの変化が提供される。図13aを参照すると、LSAT(001)基板上に成長した、50nmの厚さを有するSrCoO2.5、SrCoO3−δ及びSrCoO2.5Hの3つの異なる相の間の光透過度の実物の比較が示される。SrCoO2.5Hは第1相に対応して、SrCoO2.5は第2相に対応し、SrCoO3−δは第3相に対応する。図13aから、上記3つの構造相の光透過度の大きさがわかる。SrCoO2.5H及びLSAT(001)基板は無色であり、SrCoO2.5は褐色であり、SrCoO3−δ相は黒色であることがわかる。電場制御による構造相転移と組み合わせて、この方法はエレクトロクロミック効果を実現するための効果的な手段となり得ることがわかる。3つの構造相の間の異なる光吸収特性をより直感的に区別するために、図13bは3つの構造相の直接バンドギャップを示す。(αω)−ω式のフィッティングによって、金属特性を有するSrCoO3−δ及び半導体特性を有するSrCoO2.5(直接バンドギャップ2.12eV)と比較して、Co2+を有する新たな相SrCoO2.5Hの直接バンドギャップは2.84eVに達することがわかる。挿入図は、構造相転移中の対応するバンドギャップの変化も明らかに示す。
【0041】
図14aの対応する光透過スペクトルを参照すると、三相相転移における二重帯域を有するエレクトロクロミック効果も明確に示される。可視光領域において、SrCoO2.5H相(第1相)の透過率は他の2つの相よりも30%以上高い。赤外領域(波長は8000nmに達する)において、SrCoO2.5H相(第1相)及びSrCoO2.5相(第2相)の透過スペクトルは、SrCoO3−δ相(第3相)よりも60%高い。また、図14bは、赤外及び可視光波帯を調節制御することによって生じる透過度及び熱効果の相違、即ちスマートガラスの原理を示す。電場制御による可逆構造相転移と組み合わせて、現在のSrCoO2.5Hはエレクトロクロミズムに大きな応用将来性を提供する。即ち、ゲート電圧を調節制御する方法によって、赤外波帯及び可視光波帯で選択的に独立して光透過性の電場調節制御を行うことができる。具体的には、例えば、第1相(SrCoO2.5H相)の場合、赤外と可視光部分の透過率が比較的高いため、より多くの赤外線と可視光を室内に同時に入射させることができ、それにより、室内温度が高くなり、明るさが増す。第2相(SrCoO2.5相)の場合、可視光部分の吸収が明らかであるため、室内の低い明るさ及び比較的高い温度を実現することができる。第3相(SrCoO3−δ相)の場合、可視光と赤外波帯での同時の吸収のため、室内の明るさは低いが比較的低い温度を実現することができる。従って、本出願の材料は三相の相転移を実現し、スマートガラスの応用範囲を広げる。
【0042】
図15を参照すると、本出願の実施例による材料の3つの相の透過スペクトルから得られた光学吸収スペクトルの吸収係数の比較が示される。光子エネルギー4.0eVより低いエネルギー範囲内では、3つの構造相すべてについて2つの主な吸収ピーク、即ち、低エネルギー端のd−dバンド内遷移(α,σ及びδ)及び高エネルギー端のp−dバンド間遷移(β,ε及びγ)があることが分かる。SrCoO3−δは全スペクトルで強い光吸収を示し、その金属特性と一致する。また、SrCoO2.5及びSrCoO2.5Hはいずれも絶縁体特性を表し、直接バンドギャップ付近で強い吸収(β及びε)を形成する。さらに、SrCoO2.5相の光吸収は、直接バンドギャップよりも大きいエネルギー範囲内においてSrCoO3−δ相よりも強い。それは、SrCoO2.5相における比較的大きなp−d遷移に起因し得る。しかしながら、SrCoO2.5H相については、直接バンドギャップが増加するにつれて、吸収は強く抑制される。
【0043】
図16を参照すると、透過スペクトルの変調は、3つの異なる相の間のエネルギーバンド構造の違いとして理解することができ、これは電気輸送にも反映される。図16は、3つの構造相の抵抗率の温度依存性を示す。これからわかるように、SrCoO3−δは非常に良好な金属であり、約200uΩ・cmの抵抗率を有し、SrCoO2.5及びSrCoO2.5Hの2つの相は、半導体の挙動を表し、それぞれ8Ω・cm及び450Ω・cmの室温抵抗率を有する。挿入図は、電場調節制御下での3つの構造相の異なる抵抗状態の間の可逆的変化、即ち、中間抵抗状態・高抵抗状態・中間抵抗状態・低抵抗状態・中間抵抗状態を示す。従って、本出願によって実現される多抵抗状態間の電場制御可能な相転移は、抵抗変化基づく記憶のモデルデバイスユニットを構成する。
【0044】
図17を参照すると、構造相転移に密接に関連する3状態電気磁気結合現象が示される。即ち、電場により材料の磁気特性を調節制御して、多状態磁気記憶を実現することができる。巨視的な磁気特性測定により、得られたSrCoO3−δ相の飽和磁気モーメントは2.4μ/Coであり、キュリー温度が240Kである一方、SrCoO2.5は材料の固有の反強磁気特性挙動のみを表す。また、図17のSrCoO2.5H相も明らかな磁気ヒステリシスループを表し、その飽和磁気モーメントは0.6μ/Coであり、キュリー温度は125Kである。
【0045】
図18を参照すると、この図は、電場制御による酸素イオン及び水素イオンの注入/析出によって引き起こされた3つの電気と磁気的状態の間の調整制御を示す。それは、電場によって磁気特性を制御する次世代の電子デバイスに対して、新規で潜在的に有用な3状態電気磁気結合メカニズムを提供する。
【0046】
図19を参照すると、この図は、電場によって相転移又はCoの原子価状態を制御して、異なる温度で磁気特性間の変換を実現することを示す。例えば、温度が125K未満であるとき、強磁気特性−反強磁気特性−強磁気特性の変換を実現することができる。125K〜250Kでは、強磁気特性−反強磁気特性−常磁気特性の変換を実現することができる。250K〜537Kでは、常磁気特性−反強磁気特性−常磁気特性の変換を実現することができる。実際の応用において、電場によってイオン移動を制御するか又は電場によって相転移を制御する方法により、異なる温度での異なる磁気基底状態の間の切り替えを実現することができ、電気による磁気制御の範囲及び内容を大幅に充実させる。
【0047】
図20を参照すると、三相磁気基底状態の調節制御に基づいて、その磁気電気結合及びスピントロニクス効果に従って5状態記憶のモデルが構築される。異なるスピン基底状態を有するSrCoO三相をスピン固定層として用い、エピタキシャル磁性金属をスピンフリー層として用いることによって、スピンバルブ構造が構成される。ゲート電圧磁気基底状態を調節制御すると、高抵抗状態、低抵抗状態−I及び低抵抗状態−IIを実現することができる。さらに、低抵抗状態では、高抵抗状態及び低抵抗状態を区別することができる。それにより、最終的に5状態記憶を実現することができる。
【0048】
図21を参照すると、本出願の実施例は一次電池100を更に提供する。この一次電池は、間隔をおいて配置された陰極電極110及び陽極電極130、並びに前記陰極電極110と陽極電極130との間に配置された電解質120を含む。前記陰極電極110及び前記陽極電極130は、本出願の実施例による構造式ABOを有する水素含有遷移金属酸化物である。前記電解質120は制限されず、十分な酸素イオン及び(又は)水素イオン伝導を有する既存の電解質であれば使用することができる。
【0049】
図22を参照すると、前記一次電池100の動作原理は図21に示される。可逆的相転移に基づいて、前記一次電池100は、水素化生成物(第1相)及び酸化生成物(第3相)が電極材料として使用される一次電池である。放電中に、前記陽極電極130及び前記陰極電極110はそれぞれHイオンとO2−イオンを放出し、HイオンとO2−イオンは結合してHOを形成すると同時に、電流が発生する。充電中に、電場の作用下で、HOは分解され、前記陽極電極130及び前記陰極電極110は可逆的に地水素化及び酸化されて、元の生成物を再生成する。従って、可逆的相転移に基づいて、前記一次電池は可逆的な充放電を達成することができる。
【0050】
以上の実施例は本出願の幾つかの実施形態のみを詳細且つ具体的に示しているが、本出願の保護範囲を限定するものではないと理解すべきである。当業者にとって、本出願の創造的構想から逸脱しない前提で、幾つかの変形や改善を行うことができ、これらはすべて本出願の保護範囲に属するべきであると理解しなければならない。従って、本出願の保護範囲は、特許請求の範囲で指定された内容を基準とする。
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