(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、添付図面に示す実施の形態に基づいてこの発明を詳細に説明する。
本実施形態における磁気シールド部材10は、
図1に示すように、矩形の平面形状を有しており、その断面は複数の非晶質磁性層1と複数の非磁性金属接合層5とが交互に積層された構造を有している。磁気シールド部材10は、それぞれの非晶質磁性層1とそれぞれの非磁性金属接合層5は、アンカー効果により接合されている。磁気シールド部材10は、積層体として1〜3mm程度の厚さを有している。
以下、磁気シールド部材10の構成を詳しく説明した後に、磁気シールド部材10の製造方法について言及する。
【0017】
[非晶質磁性層1]
磁気シールド部材10を構成する非晶質磁性層1は、非晶質金属薄帯からなり、磁気シールド部材10における磁気シールドの効果を担う。
非晶質金属には、Co系非晶質金属とFe系非晶質金属を用いることができる。通常の軟磁性部材として、高透磁率が要求される用途においてはCo系非晶質金属が用いられ、高密度の磁束を遮蔽する用途においては飽和磁束密度の高いFe系非晶質金属が用いられる。本実施形態における非晶質金属には、Co系非晶質金属及びFe系非晶質金属の両者を用いることができるが、具体的な磁気シールドの用途に応じていずれかを選択すればよい。例えば、生体磁気計測装置には低磁界及び低周波における磁気シールドが求められるので、低磁界及び低周波で高透磁率であるCo系非晶質金属を用いることが好ましい。
【0018】
Co系非晶質金属は、典型的な組成系としてCo−Fe−Si−B系、Co−Si−B系、Co−B系が知られており、具体的には下記式(1)の原子比で示される化学組成を採用できる。
[Co
1−c・Fe
c]
100−a−b・X
a・Y
b …式(1)
式(1)において、X,Y,a,b,cは以下の通りである。
X:Si、B、C、P、Geから選ばれる少なくとも一種類以上の元素
Y:Zr、Nb、Ti、Hf、Ta、W、Cr、Mo、V、Ni、Al、Pt、Rh、Ru、Sn、Sb、Cu、Mnまたは希土類元素から選ばれる少なくとも一種類以上の元素
a:10<a≦35
b:0≦b≦30
c:0≦c≦0.3
【0019】
元素Xは、非晶質金属薄帯を製造する際に、非晶質化のために結晶化速度を低減するために有効な元素である。aが10より小さい場合には非晶質化が低下して一部結晶質が混在する恐れがあり、またaが35を超えると、非晶質構造は得られるものの合金薄帯の機械的強度が低下し、連続的な薄帯が得られなくなる恐れがある。従って、本実施形態において10<a≦35とするのが好ましく、12≦a≦30であることがより好ましい。
元素Yは、非晶質金属薄帯のキュリー温度を下げることで軟磁性を引き出す熱処理をし易くする効果があり、特にZr、Nb、W、Mo、Cr、V、Ni、Al、Pt、Rh、Ru、Mn、が有効である。bが30を超えると非晶質金属薄帯が脆弱になる恐れがある。従って、本実施形態において0≦b≦30とするのが好ましく、0≦b≦20であることがより好ましい。
非晶質金属薄帯において、Coの一部をFeで置換することにより飽和磁化を増加できる。また、Co:Feの原子比の調整により磁歪定数を低減し、軟磁性をより高める効果がある。典型的にはCo:Fe=94:6で飽和磁歪定数は零となることが知られている。従って、本実施形態において0≦c≦0.3であり、0≦c≦0.25であることがより好ましい。
【0020】
Fe系非晶質金属としては、典型的な組成系としてFe−B−Si系、Fe−B系、Fe−P−C系などのFe−半金属系非晶質金属材料や、Fe−Zr系、Fe−Hf系、Fe−Ti系などのFe−遷移金属系非晶質金属材料が知られており、本実施形態においていずれの組成系を用いることができる。例えばFe−Si−B系においては、Fe
78Si
9B
13(at%)、Fe
78Si
10B
12(at%)、Fe
81Si
13.5B
13.5(at%)、Fe
81Si
13.5B
13.5C
2(at%)、Fe
77Si
5B
16Cr
2(at%)、Fe
66Co
18Si
1B
15(at%)、Fe
74Ni
4Si
2B
17Mo
3(at%)などを挙げることができる。
【0021】
本発明は、非晶質金属のほかにFe系ナノ結晶性磁性金属を用いることができる。このナノ結晶性磁性金属は、ナノ結晶とする熱処理前は非晶質であるから、熱処理前の積層状態においてはFe系非晶質金属である。
ナノ結晶性磁性金属としては、以下の一般式で表される組成を有し、組織の少なくとも50%が1000Å以下の平均粒径を有するα−Fe主体のbcc構造の微細な結晶粒からなり、残部はCu主体のクラスターが分散された実質的に非晶質な相からなるものを適用できる。
一般式:(Fe
1−aM
a)100
−x−y−z−αCu
xSi
yB
zM′
α
ただし、M、M′、a、x、y、z及びαは以下の通りである。
M:Co及び/又はNi
M′:Nb、W、Ta、Zr、Hf、Ti及びMoからなる群から選ばれた少なくとも1種の元素
a:0≦a≦0.5
x:0.1≦x≦3
y:0≦y≦30
z:0≦z≦25、
y+z:5≦y+z≦30
α:0.1≦α≦
【0022】
以上のナノ結晶性磁性金属としては、以下の元素を含有することができる。
M″:V,Cr,Mn,Al、白金属元素、Sc,Y,希土類元素、Au,Zn,Sn,Reからなる群から選ばれた少なくとも1種の元素
X:C,Ge,P,Ga,Sb,In,Be,Asからなる群から選ばれた少なくとも1種の元素
【0023】
本発明に用いる非晶質金属薄帯は、所定の組成に調整された溶融金属を高速回転するロールの表面にて超急冷して製造されるものであり、5〜50μmの厚さを有し、好ましくは10〜30μmの厚さを有している。また、この非晶質金属薄帯は、12.7〜213.4mm(0.5〜8.4inch)の幅を有している。また、この非晶質金属薄帯は、長さは製法に起因してきわめて長尺にできる。
【0024】
溶湯急冷法により得られる非晶質金属薄帯は熱処理に供されることで優れた軟磁気特性を発現させる。熱処理の条件は発現させたい磁気特性や非晶質金属の種類によって異なるが、概ね不活性雰囲気下において温度300〜500℃程度、時間0.1〜100時間で行われる。この熱処理を経ることによって優れた磁気特性が発現されるものの、非晶質金属構造が変化するため極めて脆弱な薄帯になる。そこで本実施形態においては、非晶質金属薄帯を単体で熱処理するのではなく、非磁性金属接合層5との接合体として熱処理を行う。
【0025】
[非磁性金属接合層5]
次に、非磁性金属接合層5は、そのおもて面及びうら面に接する非晶質磁性層1をアンカー効果により接合する役割を担う。この接合についてはさらに後述するが、非磁性金属接合層5を構成する金属薄帯が塑性変形することを前提とする。
非磁性金属接合層5は、軽金属製の薄帯から構成されるのが好ましく、これにより磁気シールド部材10の軽量化に寄与する。軽金属としては、アルミニウム又はアルミニウム合金、若しくは、マグネシウム又はマグネシウム合金を用いることができるが、薄帯を入手する容易性及び価格の点から、アルミニウム又はアルミニウム合金を用いるのが好ましい。なお、アルミニウム(Al)、マグネシウム(Mg)、鉄(Fe)及びコバルト(Co)の比重は、2.7、1.7、7.9及び8.9であるから、アルミニウム又はマグネシウムを用いる非磁性金属接合層5は、Co系非晶質金属又はFe系非晶質金属を用いる非晶質磁性層1に比べて比重が小さい。
【0026】
非磁性金属接合層5は塑性変形することにより非晶質磁性層1を接合するものであるから、塑性変形能の高いアルミニウム又はアルミニウム合金(以下、アルミニウム合金と総称する)は、この点からも本実施形態にとって好ましい素材である。接合の取付け対象であるCo系非晶質金属、Fe系非晶質金属は塑性変形能が低い。
【0027】
非磁性金属接合層5は、アルミニウム合金などの非磁性金属からなるものであるが、時間変動する磁界に対し磁気シールド効果を奏する。これは非磁性金属接合層5に対し垂直に鎖交する磁界変動に抗するように渦電流が導体である非磁性金属接合層5に流れることによって磁界が遮蔽されるためである。周波数の高い帯域においても効果が高く、この点で電波シールド効果をも持つともいえる。したがって、非晶質磁性層1と非磁性金属接合層5が積層された磁気シールド部材10は、面に平行な磁界に対しての磁気シールド効果に加えて面に対し垂直に入射する変動磁界に対しての磁気シールド効果を補強し、また電波シールドの効果が重畳される。
【0028】
アルミニウム合金としては、JISの1000系合金(純アルミニウム系)、2000系(Al−Cu系)、3000系(Al−Mn系)、4000系(Al−Si系)、5000系(Al−Mg系)、6000系(Al−Mg−Si系)、7000系(Al−Zn−Mg系)などが存在する。本実施形態はいずれのアルミニウム合金も適用できるが、伸びの大きい、つまり塑性変形能の高い1000系、3000系のアルミニウム合金を用いるのが好ましい。
【0029】
非磁性金属接合層5を構成する軽金属薄帯は、通常、鋳造、熱間圧延、冷間圧延および熱処理を経て製造され、この薄帯は5〜100μmの厚さを有している。本実施形態における金属薄帯はこの厚さの範囲の中から適宜選択すればよいが、薄すぎると塑性変形が不足する恐れがあり、厚すぎると磁気シールド部材10における非晶質磁性層1の比率が少なくなるので、10〜40μmの厚さであることが好ましく、10〜30μmの厚さであることがより好ましい。
また、この非磁性金属薄帯は、Alの場合、50〜1030mmの幅を有し、好ましくは50〜150mmの幅を有している。
【0030】
[磁気シールド部材10の製造方法]
次に、磁気シールド部材10の製造方法について説明する。
なお、非晶質磁性層1としてCo系非晶質金属薄帯2を用い、非磁性金属接合層5としてアルミニウム合金薄帯6を用いるものとし、所定寸法のCo系非晶質金属薄帯2及び所定寸法のアルミニウム合金薄帯6が用意されているものとする。用意されるCo系非晶質金属薄帯2は、熱処理が施されていない。
磁気シールド部材10の製造方法は、
図2に示すように、積層工程と、接合工程と、熱処理工程と、を備えている。熱処理工程は接合工程と兼ねることができる。
【0031】
[積層工程]
積層工程は、あらかじめ用意された複数枚のCo系非晶質金属薄帯2と複数枚のアルミニウム合金薄帯6を交互に積層する。この積層の際には、幅方向及び長さ方向の位置を合わせる。
積層工程に先立って、Co系非晶質金属薄帯2の表面及びアルミニウム合金薄帯6の表面を脱脂洗浄するなどの処理を行うことができる。
【0032】
[接合工程]
Co系非晶質金属薄帯2とアルミニウム合金薄帯6からなる積層体8が得られたならば、
図2に示すように、Co系非晶質金属薄帯2とアルミニウム合金薄帯6を接合するための接合工程に移行する。接合工程は、積層体8に加圧P及び加熱Hを同時に加える。
この接合工程は、アルミニウム合金薄帯6の表面近傍に塑性変形を生じさせて、Co系非晶質金属薄帯2の表面に存在する微小な窪みに充填させることを意図している。
【0033】
Co系非晶質金属薄帯2は、前述したように、高速で回転する冷却ロールの表面に溶融金属を噴出して作製されるが、以下説明するように、この急冷凝固法により作製されるCo系非晶質金属薄帯2のおもて面及びうら面には、窪みが形成される。
冷却ロールはその表面が鏡面に研磨されているので、冷却ロールの表面に接触した薄帯の面(ロール接触面)の表面粗さは比較的小さくて平滑であるのに対して、接触面のうら側の面(ロール非接触面)は溶融金属の流れを拘束する要素がないので表面粗さが大きく、比較的大きな凹凸が存在する。ロール接触面には、表面粗さとして数μm以下、代表的には平均面粗さにして2μm以下の表面凹凸が存在し、ロール非接触面にはそれよりやや大きな材料表面のうねり状のフロー(大きな表面凹凸)がある。すなわち、作製されたCo系非晶質金属薄帯2のロール接触面には、エアポケットが形成されている。これは、冷却ロールの回転に伴い発生する連れ回りガスが、パドルと称される湯だまり部分と冷却ロールとの境界層に巻き込まれた際、凝固するまでにパドルの内部で膨張するためと解されている。また、ロール非接触面のうねり状の凹凸は、ロール接触面の凹凸を反映しつつ、パドルの振動にも関係している。
【0034】
本実施形態は、Co系非晶質金属薄帯2のロール接触面及びロール非接触面に存在する窪み、凹凸を利用して、アルミニウム合金薄帯6との接合を実現する。以下、
図3を参照してこの接合について説明する。
図3(a)に示すように、Co系非晶質金属薄帯2とアルミニウム合金薄帯6との積層体8において、Co系非晶質金属薄帯2のロール接触面2A及びロール非接触面2Bに窪み3が空隙として存在する。
この積層体8を加熱するとともにその表裏から圧力を加えて、アルミニウム合金薄帯6の表面近傍に塑性変形を生じさせる。そうすると、Co系非晶質金属薄帯2は塑性変形能が低いので、Co系非晶質金属薄帯2の窪み3はその形態を維持する一方、塑性変形が生じたアルミニウム合金はその表層が突起7となって窪み3に圧入される。こうして、
図3(b)に示すように、接触面2A及び非接触面2Bの窪み3に突起7が圧入されることで生じるアンカー効果により、Co系非晶質金属薄帯2とアルミニウム合金薄帯6が接合されることで、厚さ方向に隣接する非晶質磁性層1と非磁性金属接合層5が接合された磁気シールド部材10が得られる。
【0035】
後述する実施例による磁気シールド部材10におけるCo系非晶質金属薄帯2とアルミニウム合金薄帯6の接合界面を確認したところ、Co系非晶質金属薄帯2とアルミニウム合金薄帯6の間の元素の拡散層を観察できなかった。したがって、Co系非晶質金属薄帯2及びアルミニウム合金薄帯6は、それぞれが有する機能を果たすことができる。
【0036】
接合工程は、アルミニウム合金薄帯6に塑性変形を生じさせてCo系非晶質金属薄帯2の窪みに圧入するという目的を達成できる条件を採用すればよく、積層体8を加圧する圧力及び加熱する温度の二つの要素がある。
上述した寸法のCo系非晶質金属薄帯2とアルミニウム合金薄帯6からなる積層体8であれば、0.1〜50MPaの圧力を付与すればよい。積層体8の加熱は塑性変形を容易にするために行うものであり、300〜500℃の範囲から選択すればよい。積層体8の加熱温度を高くすれば、相対的に圧力を低くしてもCo系非晶質金属薄帯2とアルミニウム合金薄帯6を接合できる。好ましい圧力は1〜40MPaであり、より好ましい圧力は3〜35MPaである。
【0037】
加圧と加熱を伴う接合工程を実行する装置は任意であるが、ホットプレス、オートクレーブなどの加圧と加熱を同時に加えることのできる装置を広く適用できる。
【0038】
[熱処理工程]
熱処理は、Co系非晶質金属薄帯2が所望する磁気特性を発現するために行われ、すでにCo系非晶質金属薄帯2とアルミニウム合金薄帯6からなる積層体8に対して施される。
この熱処理の条件は、発現させたい磁気特性や非晶質金属の種類によって異なるが、不活性雰囲気下において、300〜500℃の温度、0.1〜100時間の保持時間の範囲から適宜選択される。
Co系非晶質金属薄帯2はこの熱処理を経ると極めて脆弱となりハンドリングが難しくなる。ところが、本実施形態においては、Co系非晶質金属薄帯2とアルミニウム合金薄帯6が積層されており、アルミニウム合金薄帯6がCo系非晶質金属薄帯2を支持するので、Co系非晶質金属薄帯2の単体の脆弱化を克服できる。
【0039】
上述した接合工程も加熱を伴うので、接合工程と熱処理工程を兼ねることもできる。
この場合、接合工程の雰囲気を不活性ガス雰囲気とし、かつ、熱処理工程に要求されるのに相当する時間だけ、接合のための加圧及び加熱を行う。
または、接合工程の雰囲気を不活性ガス雰囲気とし、かつ、熱処理工程に要求されるのに相当する時間の特定の時間域だけに接合のための加圧を行い、その後は圧力の付与を開放してもよい。加圧を行うのは、初期、中期、終期のいずれであってもよい。
【0040】
以上のように、接合工程と熱処理工程とを兼ねることができるが、後述する実施例から明らかなように、接合工程と熱処理工程を個別に行うことが好ましい。
【0041】
[実施例]
以下、本発明を実施例及び比較例に基づいて説明する。
以下に示すCo系非晶質金属薄帯とアルミニウム箔を用意し、交互に積層することで評価試料を作製し、磁気特性などを評価した。評価方法、評価試料の作製方法を下記する。また、評価試料について行った熱処理条件も下記する。
【0042】
[使用材料]
Co系非晶質金属薄帯:
VITROVAC6025A 幅:50mm 板厚:0.023mm(23μm)
ヴァキュームシュメルツ社製(キュリー温度T
C=200℃、結晶化温度Tx=530℃)
アルミニウム箔:製品名N905 幅:300mm 板厚:0.020mm(20μm)
東洋アルミエコープロダクツ(株)製
【0043】
[評価方法]
インダクタンス透磁率:周波数5、60、300Hzの条件でインピーダンスアナライザー(HIOKI 3522−50 LCR HiTESTER)によって測定した。
直流の初透磁率、最大透磁率:B−Hアナライザー(RIKEN DENSHI BHS−40)によって測定した。初透磁率の測定磁界は0.4A/mである。
引張強度:日本工業規格JIS−K7127に準じて測定した。
ヤング率:日本工業規格JIS−Z2280に準じて、共振法にて自由共振モードで常温のヤング率を測定した。
【0044】
[評価試料作製法]
[磁気特性測定用リング試料]
非晶質金属薄帯とアルミニウム箔を外径45mm、内径33mmのリング状に打抜いた。
このリング状の非晶質金属薄帯20枚とアルミニウム箔19枚を交互に重ね、積層されたリングの内径側端部を事務用糊で仮固定し、この試料を熱プレス機((株)井元製作所製IMC−187C)により、圧力(0.1〜37)MPa、温度(350〜500)℃、保持時間30分の条件で、大気中で成形し積層体とした。
【0045】
[引張試験用試料]
非晶質金属薄帯とアルミニウム箔から引張試験用にJIS−K7127の試験片を打抜き、打ち抜かれた非晶質金属薄帯40枚とアルミニウム箔39枚を交互に重ねた。積層された試料のつかみ部側の一端部を事務用糊で仮固定し、この試料を熱プレス機((株)井元製作所製IMC−187C)により、圧力(0.1〜37)MPa、温度(350〜500)℃、保持時間30分の条件で、大気中で成形し積層体とした。
【0046】
[ヤング率測定用試料]
非晶質金属薄帯とアルミニウム箔からヤング率測定用にJIS−Z2280に準じ、幅10mm、長さ60mmの矩形片を打抜いた。長さ60mmは非晶質金属薄帯の長手方向に合わせた。この矩形状の非晶質金属薄帯40枚とアルミニウム箔39枚を交互に重ね、積層された試料の一端部を事務用糊で仮固定し、熱プレス機((株)井元製作所製IMC−187C)を用いて、圧力(0.1〜37)MPa、温度(350〜500)℃、保持時間ファスナ30分の条件で、大気中で成形し積層体とした。
【0047】
[熱処理]
成形後の積層体は、一部はそのまま評価に供したが、非晶質金属薄帯の軟磁気特性を引き出すために、無加圧、温度450℃で、保持時間30分にて、窒素雰囲気中で熱処理を行った。
【0048】
[比較例1]
磁気シールドに多用されているPCパーマロイとして、下記の厚さ1mmの板を選び評価を行った。磁気測定用に外径45mm、内径33mmのリング状試料を打抜き、また引張試験用にJIS−K7127の試験片を打抜き、これらを1100℃、保持時間120分で、水素気流中で熱処理して、評価に供した。
評価結果を
図4に示す。以下の比較例及び実施例も同様である。
PCパーマロイ:ティッセンクルップ VDM社製Magnifer7904
【0049】
[比較例2]
上記したコバルト系非晶質金属薄帯を、外径45mm、内径33mmのリング状に打抜き、40枚を測定用ケースに重ねて入れて磁気測定に、また引張試験用にJIS−K7127の試験片を打抜いて引張試験に供した。各々熱処理は行わず評価に供した。
その結果、初透磁率は4,800、最大透磁率は224,200、また引張強度は970MPaであった。PCパーマロイの比較例1と対比して、磁気シールド用途で最重要な指標である初透磁率が著しく低く、PCパーマロイの169,700との懸隔が大きい。最大透磁率はPCパーマロイの2/3程であった。一方、引張強度は970MPaと高く、熱処理をしていない非晶質金属薄帯の高強度を示している。
【0050】
[比較例3]
比較例2と同じ非晶質金属薄帯を比較例2と同様に打ち抜いて試験片を作製した。これら試験片を、無加圧、温度350℃で、保持時間30分にて、窒素雰囲気中で熱処理した。熱処理されたリング状の試験片40枚を測定用ケースに重ね入れて磁気測定に供した。また、熱処理した引張試験片は脆く、チャッキングができないため、引張試験を行えなかった。
その結果、初透磁率は142,000、最大透磁率は303,100であった。初透磁率はPCパーマロイにやや劣るが最大透磁率は同等であった。
【0051】
[比較例4]
比較例2と同じ非晶質金属薄帯を比較例2と同様に打ち抜いて試験片を作製した。これら試験片を、無加圧、温度450℃で、保持時間30分にて、窒素雰囲気中で熱処理した。磁気測定は可能だったが、熱処理後の試料は比較例3よりさらに脆く、引張試験を行えなかった。
磁気測定の結果、初透磁率は326,400、最大透磁率は463,400と高く、インダクタンス透磁率は各周波数でPCパーマロイ(比較例1)を上回った。これらは非晶質金属薄帯の素材特性がPCパーマロイに勝る傾向であることを示すものである。
【0052】
[実施例1〜6]
上記したコバルト系非晶質金属薄帯から比較例2と同様にして試験片を打ち抜いた。同時に、上記したアルミニウム合金箔からコバルト系非晶質金属薄帯と同一形状で打ち抜いて試験片を作製した。
これら試験片を用いて上記した方法で作製した積層体からなる磁気測定用リングの内径側の端部を、また、引張試験片はチャッキング部の一端を、それぞれ少量の事務用糊で仮固定し、上述した熱プレス機を用いて、大気中成形(350℃×{0.1、1、3、9、29、37}MPa)をして積層体とした。
これら積層体は熱処理を行うことなく評価に供された。
【0053】
その結果、成形圧力が増すとともに、成形体の密度が上がって密になる傾向が見られ、初透磁率、最大透磁率、および引張強度が増す傾向が認められた。また、実施例6の5Hzにおけるインダクタンス透磁率は59,100で、PCパーマロイの55,800に遜色ない結果が得られた。
【0054】
[実施例7〜9]
実施例1〜6と同様に事前調整した材料を熱プレスで大気中成形(350℃×{0.1、1、3}MPa)をして積層体とし、上記の熱処理を施した。
その結果、この3つの実施例中、成形圧力が3MPaと最も高い実施例9の初透磁率が最も高く、初透磁率124,100、最大透磁率は268,100、引張強度は44MPaという結果が得られた。また、実施例1〜6と比較するとわかるように、熱処理を施すことで磁気特性が向上する。
【0055】
[実施例10〜11]
実施例7〜9と同様に熱プレスで大気中成形(350℃×{9、29}MPa)をした積層体試料を同様に熱処理してから評価した。
その結果、実施例10では、初透磁率285,800、最大透磁率422,300、引張強度76MPa、実施例11では、初透磁率340,000、最大透磁率516,100、引張強度100MPaであった。初透磁率、最大透磁率、インダクタンス透磁率ともPCパーマロイと同等以上である。引張強は、使用に耐えうる一定の水準が得られた。
【0056】
[実施例12〜16]
実施例10〜11と同様に熱プレスで大気中成形した。条件は450℃×{0.1、1、3、9、29}MPa)である。
得られた積層体試料は熱処理せずに評価に供した。
その結果、いずれにおいても、初透磁率、最大透磁率、インダクタンス透磁率ともPCパーマロイと同等以上であった。引張強度については、使用に耐えうる一定の水準を示している。
【0057】
[実施例17〜19]
実施例10〜11と同様に熱プレスで大気中成形した。条件は450℃×{3、9、29}MPa)である。
得られた積層体試料に上記した熱処理を施してから評価した。
その結果、実施例17〜19のいずれにおいても、初透磁率、最大透磁率、インダクタンス透磁率ともPCパーマロイと同等以上であった。実施例12〜実施例16と比べると、熱処理を加えることでさらに磁気特性の向上が見られた。引張強度については、使用に耐えうる一定の水準を示している。
【0058】
[実施例20〜22]
実施例10〜11と同様に熱プレスで大気中成形した。条件は(500℃×{0.1、1、3}MPa)である。得られた積層体試料は熱処理せずに評価した。
【0059】
以上の実施例1〜22から、温度、圧力など条件を最適化すれば、コバルト系非晶質金属薄帯とアルミニウム箔の磁気特性に優れた積層体が得られることが明らかとなった。
磁気シールド、代表的には磁気シールドルームを構成する際は、軟磁性材料は、アルミニウムフレームなど構造材料で強度を補強して使われるため、材料強度としての引張強度は二義的な位置づけではある。しかしながら、構造物として組み立てる際に十分な信頼性あることが望ましい。そこで、実際の厚さでヤング率を測定し、構造物として壁面としてのたわみにくさなどの指標となる曲げ剛性を算定見積した。比較例と合わせて結果を以下に示す。
曲げ剛性は材料特性ではなく、厚みに依存する材料力学的指標の代表的なもので、曲げ剛性Dは、ヤング率E、厚さt、ポアソン比νとして以下の式(1)で示される。
D=Et
3/12(1−ν
2) … (1)
【0060】
[比較例5]
比較例1のPCパーマロイの厚さ1mmの板から、幅10mm、長さ60mmの矩形片を打抜いた。これを1100℃、時間60分で、水素気流中で熱処理して、共振法にてヤング率を測定した。結果を
図5に示す。以下の実施例も同様である。
測定されたヤング率は170GPaであった。この試験片は、板厚が0.99mmであり、既知のポアソン比0.3から計算すると曲げ剛性Dは15.6Pa・m
3となる。
【0061】
[実施例23]
実施例10と同様にして、幅10mm、長さ60mm、厚さ0.85mmの積層体を作製した。得られた積層体試料に実施例10と同様の熱処理を施し、比較例5と同様にヤング率を評価した。
ヤング率は、25GPaであった。この結果に基づいて、比較例5と同様に曲げ剛性Dを求めた。ポアソン比は0.3を採用した。なお、計算は積層体試料の全体の厚さを1.87mmとしたが、非晶質金属薄帯の部分だけ、つまり磁性体としての厚さは、比較例5のPCパーマロイと同等の1.01mmとなる。
その結果、曲げ剛性Dは15.0Pa・m
3であった。この値は比較例5における0.99mmの厚さのPCパーマロイの曲げ剛性にほぼ等しい。
【0062】
[実施例24]
実施例15と同様にして、幅10mm、長さ60mm、厚さ0.84mmの積層体を作製した。得られた積層体試料に実施例15と同様の熱処理を施し、比較例5と同様にヤング率を評価した。
ヤング率は、27GPaであった。この結果に基づき、実施例23と同様に曲げ剛性Dを求めた。ポアソン比は0.3を採用した。計算は積層体試料の全体の厚さを1.87mmとしたが、非晶質金属薄帯の部分だけ、つまり磁性体としての厚さは、比較例5のPCパーマロイと同等の1.01mmとなる。その結果、曲げ剛性Dは16.2Pa・m
3であった。この値は比較例5における0.99mmの厚さのPCパーマロイの曲げ剛性を若干上回っている。
【0063】
実施例23、24の積層体試料は、各々実施例10、15に相当する。実施例10、15の引張強度は、76MPa、84MPaであり、比較例1のPCパーマロイの135MPaと懸隔があるが、磁性体の厚さが同じになる、アルミニウム箔と積層した積層体の厚みを1.87mmとすれば、PCパーマロイと同等の曲げ剛性を有し、信頼性の高いシールドの構築がなされ得ることを示唆するものである。
この現象の遠因はアルミニウムのヤング率が70GPaで、軟質材料としては比較的高いことにも依っていると解される。因みに、非晶質金属薄帯でヤング率を実測することは難しいが、文献値では100GPaのレベルである。
【0064】
次に、実施例に係る磁気シールド部材10の積層方向の断面を
図6に示す。
図6に示すように、Co系非晶質金属薄帯2の窪み3に塑性変形が生じたアルミニウム合金薄帯6の突起7が窪み3に圧入されることでアンカー効果が生じ、Co系非晶質金属薄帯2とアルミニウム合金薄帯6が接合されることが確認できた。
【0065】
[磁気シールドパネル]
次に、本実施形態に係る磁気シールド部材10は非晶質金属を要素とするが、非晶質金属は急冷凝固法という製造プロセスに起因するために、その幅方向の寸法が制約される。したがって、広い面積を有する領域を磁気シールドする必要がある場合には、複数の磁気シールド部材10を平面上に並べてパネルの形態にすることが望まれる。そこで、磁気シールド部材10を用いた好ましい磁気シールドパネル20の例を説明する。なお、磁気シールドパネル20は、磁気シールドルーム又は磁気シールドチャンバ等の磁気シールド装置の内壁、外壁に設置することによって、磁気シールド装置内部に外部磁界の影響が及ばないようにするのに用いられる。また、磁気シールドパネル20は、磁気シールド装置内部に設置した磁界発生源の影響を外部に及ぼさないようにするのに用いられる。
【0066】
図7(c)に示すように、本実施形態の磁気シールドパネル20は、第一シールド群11と、第二シールド群12と、第一シールド群11及び第二シールド群12が固定される基材15と、を備える。
第一シールド群11は、複数の帯状の第一磁気シールド部材10Aが、それぞれの第一長手方向が平行になるように所定の間隔を設けて配列されることで構成される。第二シールド群12は、複数の帯状の第二磁気シールド部材10Bが、それぞれの第二長手方向が平行になるように所定の間隔を設けて配列されることで構成される。
磁気シールドパネル20は、第一磁気シールド部材10Aと第二磁気シールド部材10Bが直交するように、第一シールド群11と第二シールド群12とが基材15に固定される。例えば。第一シールド群11を先に基材15に固定し、その後に第二シールド群12を第一シールド群11の上に積層して、基材15に固定することができる。
基材15への第一シールド群11と第二シールド群12の固定は基材15を挟み込むようにしてもよく、第一シールド群11と第二シールド群12をそれぞれ異なる基材15に固定し、それぞれの長手方向が直交するように貼り合わせてもよい。さらに、第一磁気シールド部材10Aを横糸に、また、第二磁気シールド部材10Bを縦糸に見立てて、平織り状に交互に積層し、これを基材15に固定することもできる。
【0067】
第一磁気シールド部材10A及び第二磁気シールド部材10Bは、前述した磁気シールド部材10から構成されており、それぞれが例えば500mmの長さL、100mmの幅Wを有する。なお、第一磁気シールド部材10A及び第二磁気シールド部材10Bの寸法がすべて同じである必要はなく、形成する磁気シールドパネル20の形状に合わせて設定することができる。
【0068】
基材15は、磁気シールドルームの壁面等にタイル状に配列して固定することを考慮すると、方形であることが好ましいが、壁面等の形状に合わせて任意の形状とすることができる。
基材15は、ABS(Acrylonitrile Butadiene Styrene)樹脂やアクリル樹脂等の剛性のある合成樹脂材料でもよく、ポリイミドフィルムやPET(Polyethyleneterephthalate)フィルム等の薄く可撓性のある材料や、フィルムの両面に接着剤が塗布された両面テープを用いることができる。PETフィルムのような可撓性のある材料を基材15として用いる場合には、平面状の壁面等に限らず、多少の曲面を有する壁面等への施工も可能となる。合成樹脂のような絶縁材料に限らず、Cuの薄板やCu箔のような金属材料を用いてもよい。金属材料を基材15として用いると、基材15に対して垂直方向の磁界によって渦電流を生じるので、渦電流による損失を生じる結果、磁気シールド効果を発揮する。なお、基材15は、第一磁気シールド部材10A及び第二磁気シールド部材10Bを固定する際の作業性を考慮すると、少なくとも第一磁気シールド部材10A及び第二磁気シールド部材10Bの固定時には固定する面が平坦であることが好ましい。
【0069】
第一磁気シールド部材10A及び第二磁気シールド部材10Bは、接着剤を用いて基材15に固定される。第一磁気シールド部材10A及び第二磁気シールド部材10Bを基材15に固定するには、両面テープ等の他の周知の方法を用いてもよい。
基材15には、例えば磁気シールドルームの壁面にねじを用いて磁気シールドパネル20を固定するための固定孔13が開口されている。
図7(c)に示すように、固定孔13を穿孔する際に第一磁気シールド部材10A及び第二磁気シールド部材10Bへ外力が加わらないようにするために、固定孔13は、基材15に固定される第一磁気シールド部材10A及び第二磁気シールド部材10Bの存在しない箇所に開口される。なお、本実施形態における磁気シールドパネル20は、軽量にすることが可能なので、磁気シールドパネル20を壁面等に固定する場合には、ねじ止めによらず、接着剤や両面テープを用いて固定するようにしてもよい。その場合には、固定孔13を開口する必要はない。
【0070】
図7(a)に示すように、矢印で示すシールドすべき磁界MFの方向に対して、垂直な方向に第一磁気シールド部材10Aの長手方向が配列されている場合には、シールドすべき磁界MFの方向を遮るように間隙が形成される。このような場合には、磁気シールド効果が著しく減少する。一方、
図7(b)に示すように、矢印で示したシールドすべき磁界MFの方向に平行な方向に沿って形成されている第二磁気シールド部材10Bの間隙に対しては、高い磁気シールド効果が維持される。
【0071】
以上のように第一磁気シールド部材10A及び第二磁気シールド部材10Bが備える非晶質金属薄帯間に間隙を設けると、シールドすべき磁界MFに対して方向依存性が生ずる。よって、シールドすべき磁界MFの方向を特定の方向に限定することができる場合を除いて、2次元方向で磁気シールド効果を発揮できるように、第一磁気シールド部材10Aと第二磁気シールド部材10Bを交差、典型的には直交するように配置し、シールドすべき磁界MFの方向依存性を除去することが好ましい。つまり、本実施形態の磁気シールドパネル20によれば、
図7(c)に示すように、横方向の磁界MF
1に対しては第一磁気シールド部材10Aが、縦方向の磁界MF
2に対しては第二磁気シールド部材10Bが、主に磁気シールド効果を発揮する。