(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記芯鞘型複合糸において、芯部が引張強力1000cN以上かつ総繊度150dtex以下の長繊維からなり、かつ鞘部が短繊維からなる、請求項1または請求項2に記載の織物。
前記芯鞘型複合糸において、芯部にパラ型全芳香族ポリアミド繊維が含まれ、鞘部にパラ型全芳香族ポリアミド繊維とメタ型全芳香族ポリアミド繊維が含まれる、請求項2または請求項3に記載の織物。
前記糸条2が、3.5cN/dtex以上の引張強度、2.5dtex以下の単繊維繊度、35〜80mmの繊維長を有する短繊維からなる紡績糸である、請求項6に記載の織物。
前記糸条2において、撚係数Kbが6000〜14000の下撚りが掛けられた、英式綿番手30〜50の紡績糸(単糸)を2本以上合糸し、さらに、撚係数K2が17000〜23000の上撚りが掛けられている、請求項7に記載の織物。
ただし、Kb=Nb×√Db
Nb:撚数(回/m)
Db:紡績糸(単糸)の総繊度(dtex)
K2=N2×√D2
N2:撚数(回/m)
D2:糸条2の総繊度(dtex)
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の実施の形態について詳細に説明する。まず、本発明の織物は、全芳香族ポリアミド繊維を含む。また、かかる全芳香族ポリアミド繊維には、メタ型全芳香族ポリアミド繊維とパラ型全芳香族ポリアミド繊維が含まれる。
【0016】
ここで、メタ型全芳香族ポリアミド繊維とは、その繰返し単位の85モル%以上がm−フェニレンイソフタルアミドであるポリマーからなる繊維である。かかるメタ型全芳香族ポリアミドは、15モル%未満の範囲内で第3成分を含んだ共重合体であってもよい。
【0017】
このようなメタ型全芳香族ポリアミドは、従来から公知の界面重合法により製造することができ、そのポリマーの重合度としては、0.5g/100mlの濃度のN−メチル−2−ピロリドン溶液で測定した固有粘度(I.V.)が1.3〜1.9dl/gの範囲のものが好ましく用いられる。
【0018】
上記メタ型全芳香族ポリアミドにはアルキルベンゼンスルホン酸オニウム塩が含有されていてもよい。アルキルベンゼンスルホン酸オニウム塩としては、ヘキシルベンゼンスルホン酸テトラブチルフォスフォニウム塩、ヘキシルベンゼンスルホン酸トリブチルベンジルフォスフォニウム塩、ドデシルベンゼンスルホン酸テトラフェニルフォスフォニウム塩、ドデシルベンゼンスルホン酸トリブチルテトラデシルフォスフォニウム塩、ドデシルベンゼンスルホン酸テトラブチルフォスフォニウム塩、ドデシルベンゼンスルホン酸トリブチルベンジルアンモニウム塩等の化合物が好ましく例示される。なかでもドデシルベンゼンスルホン酸テトラブチルフォスフォニウム塩、又はドデシルベンゼンスルホン酸トリブチルベンジルアンモニウム塩は、入手しやすく、熱的安定性も良好なうえ、N−メチル−2−ピロリドンに対する溶解度も高いため特に好ましく例示される。
【0019】
上記アルキルベンゼンスルホン酸オニウム塩の含有割合は、十分な染色性の改良効果を得るために、ポリ−m−フェニレンイソフタルアミドに対して2.5モル%以上、好ましくは3.0〜7.0モル%の範囲にあるものが好ましい。
【0020】
また、ポリ−m−フェニレンイソフタルアミドとアルキルベンゼンスルホン酸オニウム塩を混合する方法としては、溶媒中にポリ−m−フェニレンイソフタルアミドを混合、溶解し、それにアルキルベンゼンスルホン酸オニウム塩を溶媒に溶解する方法などが用いられそのいずれを用いてもよい。このようにして得られたドープは、従来から公知の方法により繊維に形成される。
【0021】
メタ型全芳香族ポリアミド繊維に用いるポリマーは、染着性や耐変褪色性を向上させる等目的で、下記の式(1)で示される反復構造単位を含む芳香族ポリアミド骨格中に、反復構造の主たる構成単位とは異なる芳香族ジアミン成分、または芳香族ジカルボン酸ハライド成分を、第3成分として芳香族ポリアミドの反復構造単位の全量に対し1〜10mol%となるように共重合させることも可能である。
−(NH−Ar1−NH−CO−Ar1−CO)− ・・・式(1)
ここで、Ar1はメタ配位または平行軸方向以外に結合基を有する2価の芳香族基である。
【0022】
また、第3成分として共重合させることも可能であり、式(2)、(3)に示した芳香族ジアミンの具体例としては、例えば、p−フェニレンジアミン、クロロフェニレンジアミン、メチルフェニレンジアミン、アセチルフェニレンジアミン、アミノアニシジン、ベンジジン、ビス(アミノフェニル)エーテル、ビス(アミノフェニル)スルホン、ジアミノベンズアニリド、ジアミノアゾベンゼン等が挙げられる。式(4)、(5)に示すような芳香族ジカルボン酸ジクロライドの具体例としては、例えば、テレフタル酸クロライド、1,4−ナフタレンジカルボン酸クロライド、2,6−ナフタレンジカルボン酸クロライド、4,4’−ビフェニルジカルボン酸クロライド、5−クロルイソフタル酸クロライド、5−メトキシイソフタル酸クロライド、ビス(クロロカルボニルフェニル)エーテルなどが挙げられる。
【0023】
H
2N−Ar2−NH
2 ・・・式(2)
H
2N−Ar2−Y−Ar2−NH
2 ・・・式(3)
XOC−Ar3−COX ・・・式(4)
XOC−Ar3−Y−Ar3−COX ・・・式(5)
ここで、Ar2はAr1とは異なる2価の芳香族基、Ar3はAr1とは異なる2価の芳香族基、Yは酸素原子、硫黄原子、アルキレン基からなる群から選ばれる少なくとも1種の原子又は官能基であり、Xはハロゲン原子を表す。
【0024】
また、メタ型全芳香族ポリアミド繊維の結晶化度は、染料の吸尽性がよく、より少ない染料でまたは染色条件が弱くても狙いの色に調整し易いという点で、5〜35%であることが好ましい。さらには、染料の表面偏在が起こり難く耐変褪色性も高い点および実用上必要な寸法安定性も確保できる点で15〜25%であることがより好ましい。
【0025】
また、メタ型全芳香族ポリアミド繊維の残存溶媒量は、メタ型全芳香族ポリアミド繊維の優れた難燃性能を損なわない点で、0.1重量%以下(好ましくは0.001〜0.1重量%)であることが好ましい。
【0026】
かかるメタ型全芳香族ポリアミド繊維として、優れた耐光堅牢度を得る上で国際公開公報第2013/061901号パンフレットに記載されているような原着メタ型全芳香族ポリアミド繊維でもよい。
【0027】
すなわち、用いられる顔料としては、アゾ系、フタロシアニン系、ペリノン系、ペリレン系、アンスラキノン系等の有機顔料、あるいは、カーボンブラック、群青、ベンガラ、酸化チタン、酸化鉄等の無機顔料が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0028】
また、メタ型全芳香族ポリアミドと顔料との混合方法は、アミド系溶媒中に顔料を均一分散したアミド系溶媒スラリーを作成し、当該アミド系溶媒スラリーをメタ型全芳香族ポリアミドがアミド系溶媒に溶解した溶液に添加する方法、あるいは顔料粉末を直接、メタ型全芳香族ポリアミドがアミド系溶媒に溶解した溶液に添加する方法等が挙げられるが、特に限定されるものではない。
【0029】
顔料配合量としては、メタ型全芳香族ポリアミドに対して10.0質量%以下、好ましくは5.0質量%以下である。10.0質量%より多く添加した場合には、得られる繊維の物性が低下し好ましくない。
【0030】
前記のようなメタ型全芳香族ポリアミド繊維は以下の方法により製造することができ、特に後述する方法により、結晶化度や残存溶媒量を上記範囲とすることができる。
【0031】
メタ型全芳香族ポリアミドポリマーの重合方法としては、特に限定する必要はなく、例えば特公昭35−14399号公報、米国特許第3360595号公報、特公昭47−10863号公報などに記載された溶液重合法、界面重合法を用いてもよい。
【0032】
紡糸溶液としては、とくに限定する必要はないが、上記溶液重合や界面重合などで得られた、芳香族コポリアミドポリマーを含むアミド系溶媒溶液を用いても良いし、上記重合溶液から該ポリマーを単離し、これをアミド系溶媒に溶解したものを用いても良い。
【0033】
ここで用いられるアミド系溶媒としては、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、N−メチル−2−ピロリドン、ジメチルスルホキシドなどを例示することができるが、とくにN,N−ジメチルアセトアミドが好ましい。
【0034】
上記の通り得られた共重合芳香族ポリアミドポリマー溶液は、さらにアルカリ金属塩又はアルカリ土類金属塩を含むことにより安定化され、より高濃度、低温での使用が可能となり好ましい。好ましくはアルカリ金属塩及びアルカリ土類金属塩がポリマー溶液の全重量に対して1重量%以下、より好ましくは0.1重量%以下である。その際、前記のような難燃剤を含ませることが好ましい。
【0035】
紡糸・凝固工程においては、上記で得られた紡糸液(メタ型全芳香族ポリアミド重合体溶液または原着メタ型全芳香族ポリアミド重合体溶液)を凝固液中に紡出して凝固させる。
【0036】
紡糸装置としては特に限定されるものではなく、従来公知の湿式紡糸装置を使用することができる。また、安定して湿式紡糸できるものであれば、紡糸口金の紡糸孔数、配列状態、孔形状等は特に制限する必要はなく、例えば、孔数が1000〜30000個、紡糸孔径が0.05〜0.2mmのスフ用の多ホール紡糸口金等を用いてもよい。
【0037】
また、紡糸口金から紡出する際の紡糸液(メタ型全芳香族ポリアミド重合体溶液)の温度は、20〜90℃の範囲が適当である。
【0038】
繊維を得るために用いる凝固浴としては、実質的に無機塩を含まない、アミド系溶媒、好ましくはNMPの濃度が45〜60質量%の水溶液を、浴液の温度10〜50℃の範囲で用いる。アミド系溶媒(好ましくはNMP)の濃度が45質量%未満ではスキンが厚い構造となってしまい、洗浄工程における洗浄効率が低下し、繊維の残存溶媒量を低減させることが困難となる。一方、アミド系溶媒(好ましくはNMP)の濃度が60質量%を超える場合には、繊維内部に至るまで均一な凝固を行うことができず、このためやはり、繊維の残存溶媒量を低減させることが困難となる。なお、凝固浴中への繊維の浸漬時間は、0.1〜30秒の範囲が適当である。
【0039】
引続き、アミド系溶媒、好ましくはNMPの濃度が45〜60質量%の水溶液であり、浴液の温度を10〜50℃の範囲とした可塑延伸浴中にて、3〜4倍の延伸倍率で延伸を行う。延伸後、10〜30℃のNMPの濃度が20〜40質量%の水溶液、続いて50〜70℃の温水浴を通して十分に洗浄を行う。
【0040】
洗浄後の繊維は、温度270〜290℃にて乾熱処理を施し、上記の結晶化度および残存溶媒量の範囲を満たすメタ型全芳香族アラミド繊維を得ることができる。
【0041】
前記メタ型全芳香族アラミド繊維において、繊維は、長繊維(マルチフィラメント)でもよいし短繊維でもよい。特に、他の繊維と混紡する上で繊維長25〜200mmの短繊維が好ましい。また、単繊維繊度としては1〜5dtexの範囲が好ましい。
【0042】
また、パラ型全芳香族ポリアミド繊維としては、パラフェニレンテレフタラミド繊維またはコパラフェニレン・3、4’オキシジフェニレンテレフタルアミド繊維がより好ましい。
【0043】
かかるパラ型全芳香族ポリアミド繊維において、繊維は、長繊維(マルチフィラメント)でもよいし短繊維でもよい。また、単繊維繊度としては1〜5dtexの範囲が好ましい。
【0044】
本発明の織物において、引張強力1700cN以上(好ましくは2000〜8000cN)かつ総繊度600dtex以下(好ましくは300〜600dtex)の糸条1が格子状に配されている。
【0045】
ここで、前記糸条1において、引張強力が1700cNよりも小さいと織物の引張強さや引裂き強さが低下するおそれがあり好ましくない。また、前記糸条1の総繊度が600dtexよりも大きいと、織物の耐摩耗性が低下するおそれがあり好ましくない。
【0046】
前記糸条1は単独糸でもよいが、複合糸が好ましく特に芯鞘型複合糸が好ましい。その際、かかる芯鞘型複合糸において、芯部が引張強力1000cN以上(好ましくは1500〜6000cN)かつ総繊度150dtex以下(好ましくは70〜140dtex)の長繊維からなり、かつ鞘部が短繊維からなると、芯部を保護することができ、摩擦係数を低減することができ好ましい。
【0047】
かかる芯鞘型複合糸を構成する繊維としては、引張強力、引裂き強力、難燃性の点で、芯部にパラ型全芳香族ポリアミド繊維(好ましくは長繊維)が含まれ、鞘部にパラ型全芳香族ポリアミド繊維(好ましくは短繊維)とメタ型全芳香族ポリアミド繊維(好ましくは短繊維)が含まれることが好ましい。
【0048】
また、前記糸条1に撚係数K1が18000〜33000の撚りが掛けられていることが好ましい。該撚係数K1が18000より小さいと、撚りが甘くなり耐摩耗性が低下するおそれがある。逆に、該撚係数K1が33000より大きいと、撚りが不均一になり平滑性が低下し解撚トルクにより製織性が低下するおそれがある。
ただし、K1=N1×√D1
N1:撚数(回/m)
D1:糸条1の総繊度(dtex)
【0049】
なお、前記糸条1の製造方法としては特に限定されず、例えば、特開平2−221432号公報に記載されているようなムラタ空気ジェット紡糸装置(MJS)や、特開2017−36526号公報に記載されたような豊田自動織機製リング精紡機を用いたコアスパンや、公知のカバリングなどが例示される。
【0050】
本発明の織物において、前記格子以外の箇所には、引張強力500cN以上(好ましくは500〜3000cN)かつ総繊度500dtex以下(好ましくは100〜500texの糸条2が配されることが好ましい。また、糸条2は平織組織で配されることが好ましい。糸条2の引張強力が500cNより小さいと擦過により糸が損耗するおそれがある。また、糸条2の総繊度が500dtexより大きいと織物の目付けを小さくするためには密度を低くせざるをえず、耐摩耗性が低下するおそれがある。
【0051】
前記糸条2の繊維形態としては、毛羽の放熱効果が耐摩耗性に有利に働くため、長繊維ならばタスラン(登録商標)加工糸または仮撚捲縮加工糸、または短繊維からなる紡績糸が好ましい。なかでも収束し細かい毛羽を有する紡績糸、または単糸紡績糸をさらに合撚する形態が摩擦係数低減の上でより好ましい。
【0052】
かかる紡績糸において、構成繊維は機械物性の発現のため3.5cN/dtex以上(より好ましくは3.5〜50.0cN/dtex)であることが好ましい。単繊維繊度としては2.5dtex以下(より好ましくは0.001〜1.9dtex)であることが好ましい。繊維長は35〜80mmの範囲が好ましい。繊維長が35mmより小さいと機械物性が十分発現しないおそれがある。逆に80mmより大きいと、糸としての平滑性が失われるおそれがある。また、番手としては英式綿番手で30〜50の範囲が好ましい。該番手が30より小さいと織物目付けが大きくなってしまうおそれがある。逆に、該番手が50より大きいと、細繊度の紡績糸は生産上効率的ではないばかりか、構成本数が少ないため、機械物性が十分発現できないおそれがある。
【0053】
前記糸条2において、撚係数Kbが6000〜14000の下撚りが掛けられた、英式綿番手30〜50の紡績糸(単糸)を2本以上(好ましくは2本)合糸し、さらに、撚係数K2が17000〜23000の上撚りが掛けられていることが好ましい。
ただし、Kb=Nb×√Db
Nb:撚数(回/m)
Db:紡績糸(単糸)の総繊度(dtex)
K2=N2×√D2
N2:撚数(回/m)
D2:糸条2の総繊度(dtex)
【0054】
ここで、撚係数Kbが6000より小さいと、収束性が劣り、摩擦係数が下がらず強度、耐摩耗性に劣る恐れがある。逆に撚係数Kbが14000より大きいと、トルクにより製織性が悪化するおそれがある。また、撚係数K2が17000より小さいと、摩擦係数が十分低減しないおそれがある。逆に、撚係数K2が23000より大きいと、トルクにより製織性が悪化するおそれがある。
【0055】
前記糸条2は、パラ型全芳香族ポリアミド繊維とメタ型全芳香族ポリアミド繊維を含む紡績糸であることが好ましい。さらには、発色性の改善、耐摩耗性の改善、吸放湿性、快適性を調整する目的で、導電性繊維、ポリエステル繊維、ポリアミド繊維、レーヨン繊維、難燃レーヨン繊維など他の繊維をさらに追加してもよい。その際、その使用用途、使用目的に応じて難燃性能を補うために任意に難燃剤を含んでいてよく、難燃剤を繊維に内包させたり外周に付与してもよい。
【0056】
ここで、導電性繊維としては、導電部の導電体として、カーボンブラック、導電性酸化チタン、導電性ウィスカー、およびカーボンナノチューブの少なくとも一つを含む繊維が好ましい。
【0057】
導電性繊維の形態は、繊維全体が導電部からなる構造でもよいし、非導電部と導電部が芯鞘、サンドイッチ、偏芯などの断面形状を有していてもよい。導電部、非導電部を形成する樹脂は、繊維形成性を有していれば、特段限定されるものではない。
【0058】
市販されている導電性繊維としては、クラレ社製「クラカーボ」(商品名)、KBセーレン社製「ベルトロン」(商品名)、東レ社製「ルアナ」(商品名)、ユニチカトレーディング社製「メガーナ」(商品名)などが例示される。特に、導電性成分が鞘部に配された芯鞘型複合繊維が好ましい。かかる芯鞘型複合繊維としては、ソルシア社製「NO SHOCK(登録商標)」が好ましい。
【0059】
ポリエステル繊維を形成するポリエステルとしては、テレフタル酸を主たる酸成分とし、炭素数2〜6のアルキレングリコール、すなわちエチレングリコール、トリメチレングリコール、テトラメチレングリコール、ペンタメチレングリコール、ヘキサメチレングリコールからなる群より選ばれた少なくとも1種を主たるグリコール成分とするポリエステルが好ましい。なかでも、エチレングリコールを主たるグリコール成分とするポリエステル(ポリエチレンテレフタレート)またはトリメチレングリコールを主たるグリコール成分とするポリエステル(ポリトリメチレンテレフタレート)が特に好ましい。
【0060】
かかるポリエステルには、必要に応じて少量(通常30モル%以下)の共重合成分を有していてもよい。その際、使用されるテレフタル酸以外の二官能性カルボン酸としては、例えばイソフタル酸、ナフタリンジカルボン酸、ジフェニルジカルボン酸、ジフェノキシエタンジカルボン酸、β−ヒドロキシエトキシ安息香酸、p−オキシ安息香酸、5−ナトリウムスルホイソフタル酸、アジピン酸、セバシン酸、1,4−シクロヘキサンジカルボン酸のごとき芳香族、脂肪族、脂環族の二官能性カルボン酸をあげることができる。また、上記グリコール以外のジオール化合物としては、例えばシクロヘキサン−1,4−ジメタノール、ネオペンチルグリコール、ビスフェノールA、ビスフェノールSのごとき脂肪族、脂環族、芳香族のジオール化合物およびポリオキシアルキレングリコール等をあげることができる。
【0061】
前記ポリエステルは任意の方法によって合成したものでよい。例えばポリエチレンテレフタレートの場合について説明すると、テレフタル酸とエチレングリコールとを直接エステル化反応させるか、テレフタル酸ジメチルのごときテレフタル酸の低級アルキルエステルとエチレングリコールとをエステル交換反応させるかまたはテレフタル酸とエチレンオキサイドとを反応させるかしてテレフタル酸のグリコールエステルおよび/またはその低重合体を生成させる第1段階の反応と、第1段階の反応生成物を減圧下加熱して所望の重合度になるまで重縮合反応させる第2段階の反応によって製造されたものでよい。また、前記ポリエステルは、マテリアルリサイクルまたはケミカルリサイクルされたポリエステル、または、特開2004−270097号公報や特開2004−211268号公報に記載されているような、特定のリン化合物およびチタン化合物を含む触媒を用いて得られたポリエステルであってもよい。さらには、ポリ乳酸やステレオコンプレックスポリ乳酸などの生分解性を有するポリエステルでもよい。
【0062】
前記ポリエステルには、着色剤のほか、紫外線吸収剤がポリエステル重量対比0.1重量%以上(好ましくは0.1〜5.0重量%)含まれていると、布帛に紫外線遮蔽性が付加され好ましい。かかる紫外線吸収剤としては、ベンゾオキサジン系有機紫外線吸収剤、ベンゾフェノン系有機紫外線吸収剤、ベンゾトリアゾール系有機紫外線吸収剤、サリチル酸系有機紫外線吸収剤などが例示される。なかでも、紡糸の段階で分解しないという点からベンゾオキサジン系有機紫外線吸収剤が特に好ましい。
【0063】
また、前記ポリエステルには、必要に応じて、艶消し剤(二酸化チタンなど)、微細孔形成剤(有機スルホン酸金属塩など)、熱安定剤、難燃剤(三酸化二アンチモンなど)、蛍光増白剤、帯電防止剤(スルホン酸金属塩など)、吸湿剤(ポリオキシアルキレングリコールなど)、抗菌剤、その他の無機粒子の1種以上が含まれていてもよい。
【0064】
前記糸条2の製造方法としては特に限定されず、例えば通常の紡績法でよい。
【0065】
本発明の織物において、組織は特に限定されないが、優れた引裂き強力を得る上で組織点の多い平織組織が好ましい。
【0066】
本発明の織物において、糸条1が格子状(リップ部)に配されている。その際、糸条1が経糸および緯糸において、2.54cmあたり8本以上(より好ましくは8〜20本)配されていると引裂き強力が向上し好ましい。
【0067】
本発明の織物において製造方法は特に限定されず、レピア織機やグリッパー織機など公知の織機を用いて常法により製織する方法でもよい。
【0068】
さらには、織物に染色加工を施すことが好ましい。その際、着色手段としては公知の手段が可能である。すなわち全芳香族ポリアミド繊維(アラミド繊維)は原着であってもよいし、キャリア剤を用いて染色してもよい。セルロース系繊維やポリエステル繊維を用いる場合の着色方法としては、原着でもよいが、染色加工による着色が好ましい。
【0069】
かくして得られた織物において、目付けが170〜230g/m
2の範囲内であることが好ましい。該目付けが170g/m
2より小さいと、引張強さや引裂き強さが低下するおそれがある。逆に、該目付けが230g/m
2より大きいと、軽量性が損なわれるおそれがある。
【0070】
また、織物のカバーファクターCFが1000〜1600の範囲内であることが好ましい。織物のカバーファクターCFが1000より小さいと引張強度が低下するおそれがある。逆に、織物のカバーファクターCFが1600より大きいと、糸と糸間の拘束力が強すぎ、応力が分散しないため、かえって引張強さと引裂き強さが低下するおそれがある。
ただし、カバーファクターCFは下記式により算出される。
CF=wp×√Dp+wf×√Df
wp:経糸密度(本/2.54cm)、wf:緯糸密度(本/2.54cm)、Dp:経糸総繊度(dtex)、Df:緯糸総繊度(dtex)
本発明の織物は、前記の構成を有するので、引張強さ、引裂き強さ、耐摩耗性、難燃性、および軽量性に優れる。
【0071】
ここで、経方向または緯方向のJIS L1096A法(ラベルドストリップ法)による引張強さが1000N以上(より好ましくは1000〜3000N)であることが好ましい。
【0072】
また、経方向または緯方向のJIS L1096法(ペンジュラム法)による引裂き強さが100N以上(より好ましくは100〜300N)であることが好ましい。
【0073】
また、JIS L1096 A−1法による平面摩耗が240以上(より好ましくは240〜500)である、請求項1〜14のいずれかに記載の織物。
【0074】
また、JIS L1096 A−3法による折り目摩耗が90以上(より好ましくは、90〜200)であることが好ましい。
【0075】
本発明の繊維製品は、前記の織物を用いてなり、消防服、防火服、執務服、モータースポーツ用レーシングスーツ、作業服、手袋、帽子、およびベストからなる群より選択されるいずれかの繊維製品である。
【0076】
ここで、前記の織物を単独で用いてもよいし、他の布帛と複合して用いてもよい。その際、前記織物を表地層とする多層構造体で構成されていることが好ましい。特に好ましい多層構造としては、(a)本発明の織物からなる表地層、(b)難燃性繊維からなる布帛に透湿防水性フィルムを積層してなる中間層、(c)難燃性繊維からなる布帛からなる遮熱層、をこの順序に重ね合わせた多層構造体が挙げられる。
【0077】
前記繊維製品は前記の織物を用いているので、引張強さ、引裂き強さ、耐摩耗性、難燃性、および軽量性に優れる。
【実施例】
【0078】
以下、実施例をあげて本発明を詳細に説明するが、本発明はこれらによって何ら限定されるものではない。なお、実施例中の各物性は下記の方法により測定したものである。
(1)カバーファクターCF
下記式により算出した。
CF=wp×√Dp+wf×√Df
wp:経糸密度(本/2.54cm)、wf:緯糸密度(本/2.54cm)、Dp:経糸総繊度(dtex)、Df:緯糸総繊度(dtex)
(2)目付け
JIS L1096により測定した。
(3)引張強さ
JIS L1096A法(ラベルドストリップ法)により測定した。
(4)引裂き強さ
JIS L1096法(ペンジュラム法)により測定した。
(5)平面摩耗
JIS L1096 A−1法により測定した。
(6)折り目摩耗
JIS L1096 A−3法により測定した。
[用いた繊維原綿]
「メタ型全芳香族ポリアミド繊維短繊維」帝人株式会社社製、「コーネックス」(登録商標)、平均単繊維繊度1.7dtex、繊維長51mm
「パラ型全芳香族ポリアミド短繊維」帝人株式会社製、「テクノーラ」(登録商標)、平均単繊維繊度1.7dtex、繊維長51mm
「パラ型全芳香族ポリアミド長繊維(マルチフィラメント)」帝人株式会社製、「テクノーラ」(登録商標)、総繊度110dtex、フィラメント数40本
【0079】
[実施例1〜6、比較例1〜3]
表1に示すように、繊維原綿を用いて単糸(紡績糸)を得た後、該単糸を2本用いて合撚し糸条2を得た。また、芯糸と糸条2を用いて糸条1(a)を得た。また、芯糸のみで糸条1(b)とした。糸条の評価結果を表1に示す。
次いで、表2に示すように、平織組織の織物を得た後、常法の毛焼き、精練、染色加工を行った。織物の評価結果を表2に示す。なお、実施例1〜6では、糸条1が格子状(リップ部)に配されている。
【0080】
【表1】
【0081】
【表2】