特許第6840007号(P6840007)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6840007
(24)【登録日】2021年2月18日
(45)【発行日】2021年3月10日
(54)【発明の名称】凹版の製造方法および凹版製造装置
(51)【国際特許分類】
   G03F 7/38 20060101AFI20210301BHJP
   G03F 7/00 20060101ALI20210301BHJP
   G03F 7/20 20060101ALI20210301BHJP
【FI】
   G03F7/38 511
   G03F7/00 505
   G03F7/20 511
   G03F7/20 505
【請求項の数】11
【全頁数】20
(21)【出願番号】特願2017-58458(P2017-58458)
(22)【出願日】2017年3月24日
(65)【公開番号】特開2018-159897(P2018-159897A)
(43)【公開日】2018年10月11日
【審査請求日】2019年12月23日
(73)【特許権者】
【識別番号】000207551
【氏名又は名称】株式会社SCREENホールディングス
(74)【代理人】
【識別番号】100105935
【弁理士】
【氏名又は名称】振角 正一
(74)【代理人】
【識別番号】100136836
【弁理士】
【氏名又は名称】大西 一正
(72)【発明者】
【氏名】村元 秀次
(72)【発明者】
【氏名】川越 理史
(72)【発明者】
【氏名】増尾 純一
【審査官】 塚田 剛士
(56)【参考文献】
【文献】 特公昭47−041361(JP,B1)
【文献】 特開2016−188926(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G03F 7/00 − 7/40
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
平坦部と前記平坦部に開口する複数の凹部とを有する凹版の製造方法において、
光硬化性材料により形成された感光層のうち前記平坦部となる領域を、前記凹部のうち開口サイズが最も小さい第1サイズであるものを目標深さとするために必要な第1の露光量で露光して硬化させる第1工程と、
前記感光層のうち前記第1サイズを有する前記凹部となる第1領域を露光させることなく、前記感光層のうち開口サイズが前記第1サイズより大きい第2サイズである前記凹部となる第2領域を第2の露光量で露光する第2工程と
を備える凹版の製造方法。
【請求項2】
前記第2工程では、前記第2領域に光を照射する請求項1に記載の凹版の製造方法。
【請求項3】
前記第2の露光量は、未露光の前記感光層を硬化させるために必要な露光量より小さい請求項2に記載の凹版の製造方法。
【請求項4】
前記第2工程では、前記第2領域の周囲領域に光を照射する請求項1に記載の凹版の製造方法。
【請求項5】
前記第2工程では、前記第2領域および前記周囲領域に光を照射し、前記第2の露光量は、未露光の前記感光層を硬化させるために必要な露光量より小さい請求項4に記載の凹版の製造方法。
【請求項6】
前記第2工程では、前記第2領域に光を照射せず前記周囲領域に光を照射する請求項4に記載の凹版の製造方法。
【請求項7】
前記第2の露光量は、前記第2サイズの前記凹部を当該凹部に対応して設定された目標深さとするために必要な露光量である請求項1ないし6のいずれかに記載の凹版の製造方法。
【請求項8】
前記複数の凹部のうち開口サイズが互いに同一であるものについて、一括して前記第2工程を実行する請求項1ないし7のいずれかに記載の凹版の製造方法。
【請求項9】
前記第1工程および前記第2工程の後に、前記感光層のうち露光により硬化した部位以外の未硬化部位を除去する第3工程を備える請求項1ないし8のいずれかに記載の凹版の製造方法。
【請求項10】
平坦部と前記平坦部に開口する複数の凹部とを有する凹版を製造する凹版製造装置において、
基材の表面に光硬化性材料による感光層が形成されたワークを保持する保持部と、
前記ワークに光を照射して前記光硬化性材料を露光させる照射部と、
前記照射部から前記ワークへの光の入射パターンを制御する制御部と
を備え、前記制御部は、
前記感光層のうち前記平坦部となる領域を、前記凹部のうち開口サイズが最も小さい第1サイズであるものを目標深さとするために必要な第1の露光量で露光して硬化させ、
前記感光層のうち前記第1サイズを有する前記凹部となる第1領域を露光させることなく、前記光硬化性材料層のうち開口サイズが前記第1サイズより大きい第2サイズである前記凹部となる第2領域を第2の露光量で露光させる、凹版製造装置。
【請求項11】
前記照射部が、前記ワークに対し入射位置を変更しながら所定の点灯パターンで断続的に光ビームを出射することで前記感光層を走査露光し、
前記制御部が、前記点灯パターンを制御する請求項10に記載の凹版製造装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、平坦部に開口する複数の凹部を有する凹版の製造方法および製造装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
導電性インクなどの印刷材料で形成されたパターンを平板状の凹版から平板状の印刷媒体(ガラス、樹脂フィルム等)に転写して印刷する印刷技術が知られている。このような印刷技術に用いられる凹版としては、例えば金属またはガラスなどの平板に凹部が刻設されたものが用いられる。凹部を形成する工程では、フォトリソグラフィ、エッチング、めっき、蒸着などの手法が用いられている。このような製造方法では、大掛かりな製造設備が必要となるため製造コストが高く、また製造に要する時間も長い。また、多品種少量生産に対応することが難しい。
【0003】
このような問題を解消するために、感光性樹脂を露光することで凹版を作製する技術も提案されている。凹版を用いた印刷における印刷特性を考慮すると、一般的に開口サイズの小さい凹部は深く、大きい凹部は浅くなっていることが望ましい。しかしながら、単一条件の露光では開口サイズの異なる凹部の深さをそれぞれ個別に制御することが困難である。
【0004】
露光により形成される凹部の深さを制御する技術としては、例えば特許文献1に記載されたものがある。この技術では、感光性樹脂層の塗布、露光、ベーキングの一連の工程で形成される層を積層することで、深さが異なる複数の凹部を形成している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2016−188926号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記従来技術では、凹部の深さを精度よくコントロールすることが可能である反面、塗布、露光、ベーキングを含む一連の工程が繰り返されるため、作製に要する時間は比較的長くなってしまう。このため、製造工程をより簡単なものとして短時間で凹版を作製することのできる技術の確立が望まれている。
【0007】
この発明は上記課題に鑑みなされたものであり、感光性材料を露光することで凹版を製造する技術において、凹部の深さを開口サイズごとに個別に制御することができ、しかも製造に要する時間を短縮することのできる技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
この発明の一の態様は、平坦部と前記平坦部に開口する複数の凹部とを有する凹版の製造方法であって、上記目的を達成するため、光硬化性材料により形成された感光層のうち前記平坦部となる領域を、前記凹部のうち開口サイズが最も小さい第1サイズであるものを目標深さとするために必要な第1の露光量で露光して硬化させる第1工程と、前記感光層のうち前記第1サイズを有する前記凹部となる第1領域を露光させることなく、前記感光層のうち開口サイズが前記第1サイズより大きい第2サイズである前記凹部となる第2領域を第2の露光量で露光する第2工程とを備えている。
【0009】
また、この発明の他の態様は、平坦部と前記平坦部に開口する複数の凹部とを有する凹版を製造する凹版製造装置であって、上記目的を達成するため、基材の表面に光硬化性材料による感光層が形成されたワークを保持する保持部と、前記ワークに光を照射して前記光硬化性材料を露光させる照射部と、前記照射部から前記ワークへの光の入射パターンを制御する制御部とを備え、前記制御部は、前記感光層のうち前記平坦部となる領域を、前記凹部のうち開口サイズが最も小さい第1サイズであるものを目標深さとするために必要な第1の露光量で露光して硬化させ、前記感光層のうち前記第1サイズを有する前記凹部となる第1領域を露光させることなく、前記光硬化性材料層のうち開口サイズが前記第1サイズより大きい第2サイズである前記凹部となる第2領域を第2の露光量で露光させる。
【0010】
このように構成された発明では、光硬化性材料を露光して部分的に硬化させることで、硬化部位が平坦部、未硬化部位が凹部となる凹版を製造する。凹部としては種々の開口サイズを有するものが混在し得るが、凹版印刷における印刷特性を考えると、開口サイズの小さい凹部は深く、開口サイズが大きい凹部は浅くなっていることが好ましい。しかしながら、詳しくは後述するが、露光されていない未硬化部位を凹部として利用する態様においては、単一の露光条件では開口サイズの大きい凹部ほど深くなるという特徴がある。
【0011】
そこで、この発明では、まず最も開口サイズが小さい第1サイズの凹部が目標深さとなるような露光条件、すなわち第1の露光量で、感光層のうち平坦部となる領域が露光される。露光により光硬化性材料が硬化することで、第1領域においては所望の開口サイズおよび深さの凹部が形成される。一方、より大きい開口サイズの凹部となるべき第2領域においては、この時点では第1サイズの凹部よりも深い凹部が形成されている。そこで、このような第2領域については追加的に第2の露光量で露光を行うことでその深さが調整される。このとき、既に所望の深さとなっている第1領域についてはそれ以上に露光されないようにすることで、第2の露光量については任意に設定することができる。したがって、第2領域に形成される凹部の深さを自在に調節することが可能である。
【0012】
この発明では、未硬化の光硬化性材料を追加的に露光し硬化させることで凹部の深さを調節する。そのため、第1の露光量での露光の後、露光条件を変更して直ちに第2の露光量での露光を行うことができ、その間に感光層の塗布やベーキングを必要としない。したがって、従来よりも短時間で凹版を製造することが可能となる。
【0013】
なお、形成すべき凹部の開口サイズが3種類以上ある場合には、そのうち最も小さいものを「第1サイズ」とみなして第1の露光量での露光を行い、より大きい開口サイズのものをそれぞれ個別に「第2サイズ」とみなして第2の露光量で露光を行うようにすればよい。こうすることで、開口サイズごとに深さを個別に制御しつつ凹版を製造することが可能となる。
【発明の効果】
【0014】
以上のように、本発明によれば、開口サイズに応じて凹部の深さを個別に制御することができ、しかも短時間で凹版を製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】本発明に係る凹版製造装置の2つの態様を示す図である。
図2】感光層に入射する光の広がりを模式的に示す図である。
図3】凹部の深さを調節する方法の原理を示す図である。
図4】露光パターンの第1の態様を模式的に示す図である。
図5】露光パターンの第2の態様を模式的に示す図である。
図6】露光パターンの第3の態様を模式的に示す図である。
図7】この実施形態における凹版の製造方法の流れを示すフローチャートである。
図8】露光パターンを作成するための処理を示すフローチャートである。
図9】凹部の配置と露光パターンとの関係を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
図1は本発明に係る凹版製造装置の2つの態様を示す図である。より詳しくは、図1(a)は本発明に係る凹版製造装置の第1実施形態の概略構成を示す図であり、図1(b)は本発明に係る凹版製造装置の第2実施形態の概略構成を示す図である。これらの凹版製造装置1,2は、本発明に係る凹版の製造方法を実行可能な装置である。例えばガラス板、金属板、樹脂板等の平坦な基材32の表面に光硬化性樹脂材料による均一な感光層31が例えば塗布により形成されたワーク3を露光して、凹版を製造する目的に使用される。光硬化性樹脂材料としては、例えば、プリンタイト(登録商標)、PGプレート、SU−8などを使用可能である。
【0017】
図1(a)に示す第1実施形態の凹版製造装置1は、露光装置10と制御ユニット100とを備えている。露光装置10は、光発生部11と、光路調整部12と、光走査部13と、ワーク保持部14とを備えている。ワーク保持部14は上面が水平なステージ面141となっており、該ステージ面141に感光層31を上向きにして載置されるワーク3を保持する。ワーク保持部14は制御ユニット100に設けられた駆動機構105により、水平方向に移動可能となっている。
【0018】
光発生部11は例えば半導体レーザー、ガスレーザーのような光源を有し、制御ユニット100に設けられた点灯制御部101からの制御指令に応じて点灯し光ビームL1を出射する。光ビームL1としては、感光層31に用いられる光硬化性樹脂材料を硬化させるために必要なエネルギーを有するものが用いられる。例えば光硬化性樹脂材料が紫外線硬化型のものである場合、光ビームL1としては紫外線が用いられる。
【0019】
光路調整部12は光発生部11から出射される光を光走査部13に案内する機能を有し、例えば反射ミラーを含んで構成される。光走査部13は、光路調整部12を介して光発生部11から入射する光ビームL1の光路を、制御ユニット100に設けられた走査制御部102からの制御指令に応じて変化させる。これにより、ワーク保持部14に保持されるワーク3への光ビームL1の入射位置が刻々と変化し、ワーク3上面の感光層31が走査露光される。露光装置10としては、公知の一般的な構成を有する露光装置を適用可能である。このため、露光装置10の各構成についての詳細な説明を省略する。
【0020】
制御ユニット100はさらに、凹版製造装置1の各部を制御して所定の動作を実行させるための制御プログラムを実行するプロセッサであるCPU(Central Prosessing Unit)103と、制御プログラムや各種のデータを記憶するためのメモリ104とを備えている。また、図示を省略しているが、制御ユニット100は上記の他に、ユーザや外部装置との間での情報交換を担うインターフェース部を備えている。
【0021】
メモリ104は、ワーク3を露光して形成すべき凹版のパターンを表すパターンデータを記憶している。CPU103は、メモリ104に記憶された露光データに基づき点灯制御部101および走査制御部102を制御して、ワーク3の感光層31を露光データに対応するパターンに露光させる。具体的には、走査制御部102により感光層31への光ビームL1の入射位置を順次変化させながら、露光データに応じた点灯パターンで光発生部11から断続的に光ビームL1を出射させることで、ワーク3の感光層31を選択的に走査露光する。なお、光源が連続的に発生する光ビームをパターンデータに応じて作動するシャッタにより開閉する構成でもよい。
【0022】
一方、図1(b)に示す第2実施形態の凹版製造装置2は、露光装置20と制御ユニット200とを備えている。露光装置20は、光発生部21と、光路調整部22と、光走査部23と、ワーク保持部24とを備えている。ワーク保持部24は上面が水平なステージ面241となっており、該ステージ面241に感光層31を上向きにして載置されるワーク3を保持する。ワーク保持部24は制御ユニット200に設けられた駆動機構205により、水平方向に移動可能となっている。
【0023】
光発生部21は例えば半導体レーザー、ガスレーザーのような光源を有し、制御ユニット200に設けられた点灯制御部201からの制御指令に応じて点灯し光ビームL2を出射する。光路調整部22は光発生部21から出射される光を光走査部23に案内する機能を有し、例えば反射ミラーを含んで構成される。光走査部23は、光路調整部22を介して光発生部21から入射する光ビームL2の光路を、制御ユニット200に設けられた走査制御部202からの制御指令に応じて変化させる。これにより、ワーク保持部24に保持されるワーク3への光ビームL2の入射位置が刻々と変化し、ワーク3上面の感光層31が走査露光される。
【0024】
光走査部23とワーク保持部24に保持されるワーク3との間にはマスク25が配置される。具体的には、光走査部23とワーク保持部24との間にマスク保持部26が設けられており、ワーク3を露光して形成すべき凹版のパターンに対応したマスク25がマスク保持部26に載置される。これにより、光走査部23からワーク3へ向かう光ビームL2が部分的に遮蔽され、ワーク3の感光層31がマスク25からのマスクパターンに応じて露光される。なお、レーザー光ビームのような光ビームL2を走査する態様に代えて、より広い断面積を有する光束を出射する光源からの光をマスク25全体に入射させて、感光層31を一括露光する構成であってもよい。
【0025】
制御ユニット200はさらに、凹版製造装置2の各部を制御して所定の動作を実行させるための制御プログラムを実行するプロセッサであるCPU203と、制御プログラムや各種のデータを記憶するためのメモリ204とを備えている。また、図示を省略しているが、制御ユニット200は上記の他に、ユーザや外部装置との間での情報交換を担うインターフェース部を備えている。
【0026】
また、後述するように、この凹版製造装置2による凹版製造方法では、複数種のマスク25が使用される。このため、マスクパターンの異なる複数のマスク25が予め用意されており、制御ユニット200に設けられたマスク切替部206が、複数のマスク25を選択的にマスク保持部26に載置する。このようにして複数のマスク25が切り替えられる。
【0027】
これらの凹版製造装置1,2の間では、感光層31に入射する光のパターンを決定するための具体的手段が異なっているものの、いずれの装置も、感光層31を所定のパターンで部分的に露光することができるものである。このため、以下に説明する方法による凹版の製造は、凹版製造装置1,2のいずれを用いても実行可能である。そこで、以下の説明では、特に必要のない限り、使用される装置がいずれであるかを限定しない。
【0028】
次に、本発明に係る凹版の製造方法について説明する。前記したように、凹版は、ワーク3に形成された感光層31を凹版のパターンに応じて露光することにより形成される。感光層31は光硬化性材料により形成されている。したがって、感光層31の露光された部分が硬化して平坦部として残る一方、露光されなかった部分は硬化せず、最終的に除去されることにより凹部となる。言い換えれば、感光層31の露光は、平坦部として残すべき領域を露光して硬化させ、凹部となるべき領域を露光せず除去する、いわゆるネガ露光型となる。
【0029】
まず本願発明をなすに至った発明者らの知見について説明する。なお、以下では説明の便宜のため、ワーク3に形成された感光層31のうち光が入射する側の面を「表面」と称して図では符号31aを付す一方、これと反対側で基材32に接する側の面を「裏面」と称し符号31bを付すこととする。
【0030】
図2は感光層に入射する光の広がりを模式的に示す図である。図2(a)に示すように、感光層31に断面積の小さいビーム状の光Lが入射する場合を考える。感光層31の表面31aに入射した光Lは、感光層31の内部で散乱され、さらに感光層31の裏面31bで反射、散乱される。そのため、感光層31の内部において光が到達する範囲は、ハッチングを付して示すように表面31a側から裏面31b側に向けて次第に広がってゆく。こうして光が到達する範囲のうち、光強度と照射時間との積で表される露光量が感光層31をなす光硬化性材料によって決まる閾値以上となった領域が露光されて硬化する。
【0031】
硬化は光が入射する表面31a側からというよりむしろ裏面31b側から始まり表面31a側に向けて進行するという現象が観測されている。感光層31の裏面31b付近では表面31a側から入射する光と裏面31bで反射される光とが重畳されることで局所的に光強度が高くなることが、その理由と考えられる。また、感光層表面31aへの光照射がなされていない領域でも、その周囲領域に入射した光の回り込みによって間接的に露光され、感光層31の裏面31b側から硬化が進行することになる。
【0032】
図2(b)および図2(c)に示すように、所定の幅Daを有する領域を挟むようにその両側に光Lを照射した場合について考える。両図において光Lを表す矢印の密度は露光量の違いを模式的に示したものである。すなわち、矢印の密度が高い図2(b)の例は、矢印の密度がより低い図2(c)の例よりも露光量が大きいことを示している。これらの図に示すように、露光量が大きいほど感光層31内での光の広がりも大きくなる。
【0033】
感光層31のうち上記のように直接的または間接的に露光された領域の露光量が光硬化性材料を硬化させるのに十分な大きさであればこれらの領域が硬化する一方、これらの領域で囲まれた図2(b)における領域Raおよび図2(c)における領域Rbは硬化せず、この部分の未硬化の光硬化性材料が除去されることにより凹部となる。図からわかるように、こうして形成される凹部は露光量が多いほど浅くなる。
【0034】
また、露光量が一定であっても、光が照射される領域に挟まれた領域の幅によっても、当該領域に形成される凹部の深さが異なる。すなわち、図2(d)に示すように、光が照射される領域の間隔Daが比較的大きい場合に比べて、間隔Dbが小さい場合には、裏面側に回り込む光で露光されることにより、形成される凹部の深さはより小さくなる。
【0035】
以上より、露光された領域が硬化して平坦部となるネガ露光においては、露光量が大きいほど凹部が浅くなり、また露光量が同じでも凹部の開口サイズが小さければ凹部が浅くなることがわかる。つまり、一定の露光条件の下では、凹部の開口サイズが大きいほど凹部は深く、小さいほど浅くなるということができる。このように、形成される凹部の深さが開口サイズに依存するため、凹部の開口サイズと深さとを独立に制御することが困難である。
【0036】
凹版による印刷を良好に行うためには、上記とは反対に、開口サイズの小さい凹部を深く、大きい凹部を浅くすることが好ましい。これを可能とするためには、露光条件を異ならせた複数回の露光が必要となる。
【0037】
図3は凹部の深さを調節する方法の原理を示す図である。図3(a)は平坦部311に開口する凹部312の望ましい断面プロファイルを示しており、開口サイズの小さい凹部は深く、大きい凹部はより浅くなっている。これを作製するために、例えば図3(b)に示すように、感光層31のうち平坦部311として残したい領域を一定の露光量で露光すると、各凹部の深さはその開口サイズに応じたものとなり、図3(a)に示す望ましいプロファイルとは異なる。なお、以後の各図では、凹部の断面プロファイルを倒立台形により近似的に表すこととする。
【0038】
露光直後の感光層31では、露光により硬化した部位(図3(b)下図において斜線を付した部位)で囲まれる凹部に未硬化の光硬化性材料が担持された状態となっている。したがって、図3(c)に示すように、このような未硬化の光硬化性材料を追加的に露光して硬化させれば、凹部の深さを調節することができる。必要な深さに応じて個別に露光条件を変更することで、複数の凹部をそれぞれ所望の深さとすることが可能となる。
【0039】
なお、不可逆の光硬化反応においてはいったん硬化した部位を未硬化の状態に戻すことはできないから、浅く形成された凹部を深くすることはできない。当初は深く形成された凹部を追加的な露光により浅くすることができるだけである。このことから、当初の露光条件は、最も深さを必要とする、つまり開口サイズが最も小さい凹部に合わせたものとする必要がある。
【0040】
前記したように、同じ露光条件でも開口サイズが小さいほど凹部は浅くなるから、最も開口サイズが小さい凹部の深さが当該凹部に設定された目標深さとなるように露光を行えば、より開口サイズの大きい凹部はより深いものとなる。そのような凹部については、追加的な露光により個別に深さを調節することで、それぞれの目標深さを実現することが可能となる。
【0041】
上記原理に基づき各凹部の深さを目標深さとするための具体的な露光プロセスについて、以下に3つの態様を順に説明する。ここでは開口サイズが異なる2種類の凹部を形成する例について説明するが、後述するように、この考え方は開口サイズが3種類以上の場合にも拡張することが可能である。また、感光層31に対する選択的な露光の状態をわかりやすく可視化するために、マスクを用いて所定の露光パターンを実現する例を示す。つまり図1(b)に示す第2実施形態の凹版製造装置2を用いた例である。しかしながら、マスクを用いず光源の点灯タイミングを制御することで露光パターンを実現する、図1(a)に示す第1実施形態の凹版製造装置1を用いた場合も同様に考えることができる。
【0042】
図4は露光パターンの第1の態様を模式的に示す図である。図4(a)は製造しようとする凹版の望ましい断面プロファイルであり、感光層31の表面がなす平坦部311に、比較的開口サイズは小さいが深い凹部313と、より開口サイズが大きく浅い凹部314とが設けられる。以下では、感光層31のうち最終的に光硬化性材料が除去されて凹部313となるべき領域を「第1領域R1」、凹部314となるべき領域を「第2領域R2」と称することとする。また、凹部313の開口サイズを「第1サイズS1」、凹部314の開口サイズを「第2サイズS2」と称する。また、凹部313および凹部314の目標深さをそれぞれ符号D1および符号D2により表す。
【0043】
なお、ここでは凹版印刷の印刷特性の観点から凹部の開口サイズが小さいほど深くなるようにしているが、開口サイズと深さとの間の望ましい関係はこれに限定されるものではない。例えば開口サイズによらず凹部の深さが一定となるような断面プロファイルが目標とされてもよく、また特定の開口サイズの凹部が他と違う深さを有するような断面プロファイルが目標とされてもよい。いずれの場合にも開口サイズと深さとを独立に設定することが可能となる点が、本技術の大きな特徴となっている。
【0044】
最初に、図4(b)に示すように、第1回の露光として、凹部313,314に対応する領域を遮蔽するマスク251を用いることにより、感光層31のうち平坦部311となる領域のみに選択的に光Lが照射される。このときの露光量は、開口サイズが第1サイズS1である凹部313の深さを目標深さD1とするのに必要な露光量とされる。このときの露光量を「第1の露光量」と称する。未露光の感光層31を露光して、開口サイズが第1サイズS1で深さが目標深さD1となるような露光量、つまり第1の露光量については、予め実験的に求めておくことが可能である。
【0045】
このような露光条件で露光を行うことにより、感光層31のうち平坦部311となるべき領域は、露光により光硬化性材料が硬化した「硬化領域」となる。一方、凹部313,314となるべき第1領域R1および第2領域R2の中央部は、光が入射せず実質的に全く露光されていない「未露光領域」となっている。そして、硬化領域と未露光領域との間には、ある程度の光が入射したものの、光硬化性材料が硬化するのに十分な露光量には達していない「未硬化領域」が形成されている。なお、実際には、硬化領域、未硬化領域および未露光領域の間の境界はこのように明確なものではなく、未露光領域から硬化領域に向けて露光量は連続的に増加し、露光量が所定の閾値を超えた部分が硬化領域となっている。
【0046】
第1の露光量で露光されたことにより、凹部313に対応する第1領域R1においては表面31aから硬化領域までの深さがほぼ目標深さD1となっている。一方、凹部314に対応する第2領域R2においては、表面から硬化領域までの深さが目標深さD2より大きくなっている。ただし、その底部付近には、ある程度露光されたが硬化には至っていない未硬化領域が生じている。
【0047】
次に、図4(c)に示すように、凹部314に対応する第2領域R2だけに光を入射させるマスク252を用いて追加的な露光(第2回の露光)を行う。このときの露光量は、第1の露光量より小さく、未露光の感光層31を硬化させるために必要な露光量よりも小さな値とされる。このため、第1回の露光後において未露光の状態にあった第2領域R2中央部は、第2回の露光によって露光されるが、露光量が不足するため硬化しない「未硬化領域」となる。一方、第1回の露光によって未硬化領域となっていた領域は、さらなる露光を受けることにより累積の露光量が増加し、その値が光硬化性材料を硬化させるのに十分なものであれば硬化する。これにより、凹部314の深さが小さくなり、このときの露光量を適切に設定することで、凹部314の深さを目標深さD2とすることができる。
【0048】
目標深さを得るための露光量については、例えば次のようにして求めることができる。未露光の状態から直接的に凹部を形成する場合における露光量と凹部の深さとの関係については、光硬化性材料の種類やその厚さ、照射光の波長等から、凹部のサイズごとに予め求めておくことが可能である。この関係から、未露光の状態から直接的に凹部314を形成する場合に凹部314を目標深さD2とするために必要な露光量を求めることができる。
【0049】
実際の処理において凹部314の深さが調節される際には、そのための露光に先立って第1回の露光が行われており、その際に第2領域R2も他の領域から回り込んでくる光によってある程度の露光を受けている。したがって、第1回の露光で第2領域R2が受ける露光量を、未露光の状態から凹部314を形成する際に必要な露光量から差し引いたものが、第2回の露光において必要な露光量となる。言い換えれば、2回の露光で受ける露光量の合計が凹部314を目標深さD2とするために必要な露光量となるようにすることで、凹部314を所望の深さにすることができる。例えば、予め試験的に第1回の露光を行い、そのときの第2領域R2における硬化領域までの深さを計測して露光量を見積もることが可能である。
【0050】
凹部313に対応する第1領域R1への光入射はマスク252により規制されている。そのため、凹部313の深さは変わらず目標深さD1のままである。未露光領域および未硬化領域の光硬化性材料は流動性を保った状態であり、これを除去することにより、図4(d)に示すように、望ましい断面プロファイルに近い断面プロファイルを有する凹版を形成することができる。
【0051】
図5は露光パターンの第2の態様を模式的に示す図である。図5(a)および図5(b)に示すように、凹部313,314に対応する領域を遮蔽するマスク251を用い、第1の露光量で露光を行うところまでは第1の態様と同じである。これにより、第1領域R1に目標深さD1の凹部313が形成される。一方、凹部314に対応する第2領域R2への追加的な露光(第2回の露光)に際しては、図5(c)に示すように、凹部314の開口サイズS2よりも大きな開口サイズS3の開口を有するマスク253が用いられる。このため、第2回の露光では、凹部314に対応する第2領域R2と、第2領域R2を取り囲む周囲領域に対して光が照射される。この場合も、露光量は未露光の感光層31を硬化させない程度の小さな値に設定される。
【0052】
感光層31のうち凹部314となるべき部分とその周辺部分との境界では、感光層31の表面に入射する光が感光層31内で散乱されることにより露光量が不安定となりやすい。特に図5(c)において長円で囲んだ部分、つまり凹部314の側壁面や底面の隅部分において、露光量が不安定となって凹部314の断面形状がばらつくことがあり得る。第2の態様では、凹部314となるべき部分とその外側の部分との境界付近を第2回の露光で追加的に露光して確実に硬化させることで、このような形状の不安定さを解消することが可能となる。
【0053】
例えば図4に示す第1の態様では、第2領域R2の近傍においては第1回の露光と第2回の露光との間でマスクパターンがちょうど反転した状態となっている。そのため、両マスクの僅かな位置ずれによっても境界部分での露光量が変動し、結果として凹部314の断面形状のばらつきを生じることがあり得る。一方、図5に示す例では、第2回の露光範囲に第2領域R2の周囲領域を含ませることで、ある程度のマスク間の位置ずれを許容することが可能になる。なお、既に硬化領域となった部分にさらなる光照射が行われても、当該領域には何ら変化は生じない。すなわち、第2回の露光範囲を第2領域R2よりも外側まで広げることによるデメリットはない。ただし、既に目標深さとなった他の凹部にさらなる露光を生じさせることは避ける必要がある。この点に関しては後に再度触れる。
【0054】
このように、第2の露光態様においても、図5(d)に示すように、図4に示す第1の態様と同様、望ましい断面プロファイルに近い断面プロファイルを有する凹版を形成することができる。凹部の形状を安定させることができるという点において、第2の態様は第1の態様を改良したものと位置付けることもできる。
【0055】
図6は露光パターンの第3の態様を模式的に示す図である。図6(a)および図6(b)に示すように、凹部313,314に対応する領域を遮蔽するマスク251を用い、第1の露光量で露光を行うところまでは第1および第2の態様と同じである。これにより、第1領域R1に目標深さD1の凹部313が形成される。
【0056】
一方、凹部314に対応する第2領域R2への追加的な露光に際しては、図6(c)に示すように、凹部314に対応する第2領域R2への光入射はマスク254によりマスクされ、その周囲領域のみに光が照射される。このような構成によっても、第2の露光態様と同様に、凹部314の側壁面や底面の隅部分に対応する部位の露光量を選択的に増大させることで、凹部314の断面形状の安定化を図ることができる。この場合、凹部314となる第2領域R2への光照射はマスク254により防止されているので、第2回の露光で第2領域R2の中央部が硬化することはない。そのため、第2回の露光における露光量、すなわち「第2の露光量」の設定については、第1および第2の露光態様におけるものより自由度が高くなる。
【0057】
このように、第3の露光態様においても、図6(d)に示すように、図4に示す第1の態様および図5に示す第2の態様と同様、望ましい断面プロファイルに近い断面プロファイルを有する凹版を形成することができる。凹部の形状を安定させることができるという点において、第3の態様も、第1の態様を改良したものと位置付けることができる。
【0058】
この例からわかるように、第2回の露光による第2領域R2への追加的な露光は、対象となる領域に直接光を入射させる態様に限定されるものではなく、その周囲領域に光を照射することで、光の回り込みにより間接的に第2領域R2を露光させるものであってもよい。なお、図6(c)から明らかなように、この態様におけるマスク254のマスクパターンは、第1回の露光におけるマスク251と図5(c)に示す第2の態様におけるマスク253とを重ね合わせたものと等価である。
【0059】
ここでは、開口サイズの異なる2種類の凹部を形成する場合の露光態様について説明した。しかしながら、凹部の開口サイズが3種類以上ある場合でも考え方は同じである。すなわち、第1の露光量で第1回の露光を行った後、最小の第1サイズよりも大きい開口サイズを有する凹部については、それぞれの開口サイズを「第2サイズ」とみなして個別に第2回の露光を行うことで、それぞれを目標深さで形成することが可能となる。
【0060】
具体的には、例えば、互いに開口サイズの異なる凹部A、凹部B、および凹部Cの3種類があり、このうち凹部Aが最も開口サイズの小さいものであるとする。この場合、最初に、凹部Aをその目標深さとするために必要な露光量を「第1の露光量」に設定して、凹部A,B,C以外の平坦部に光を照射する第1回の露光を行う。次に、凹部Bおよび/またはその周囲領域への第2回の露光として、凹部Bをその目標深さとするために必要な露光量を「第2の露光量」に設定した露光を行う。このとき、凹部A,Cについては露光されないようにする対策(例えばマスクによる遮蔽)がなされる。これにより、凹部Bの深さが調節される。
【0061】
さらに、凹部Cおよび/またはその周囲領域への第2回の露光として、凹部Cをその目標深さとするために必要な露光量を「第2の露光量」に設定した露光を行う。このとき、凹部A,Bについては露光されないようにする対策がなされる。これにより、凹部Cの深さが調節される。こうして凹部A,B,Cがそれぞれ目標深さに調節される。開口サイズが4種類以上である場合も同様である。
【0062】
なお、同一サイズ、同一深さの凹部が複数ある場合には、それらの凹部は同タイミングの露光により一括形成されてもよい。この場合、一括形成される複数の凹部のサイズは厳密に同じである必要はない。すなわち、互いのサイズの差異が小さい複数の凹部については実質的に同サイズとみなし、それらの凹部について同タイミングで露光がなされてもよい。このことから、凹版に配置される複数の凹部をその開口サイズに応じて複数のグループに区分し、同一グループ内の凹部については同じタイミングで露光を行うことで深さが調節されるようにしてもよい。
【0063】
図7はこの実施形態における凹版の製造方法の流れを示すフローチャートである。この処理は、第1実施形態の凹版製造装置1においてはCPU103、第2実施形態の凹版製造装置2においてはCPU203が予め用意された制御プログラムを実行し装置各部に所定の動作をさせることにより実現される。前記したように、第1実施形態と第2実施形態とでは露光パターンの生成方法が異なるものの、基本的な処理の流れは共通である。
【0064】
最初に、CPU103(203)はワーク3を露光するための露光レシピをメモリ104(204)から取得する(ステップS101)。なお、露光レシピは外部装置あるいはユーザの設定操作により取得される態様でもよい。第1実施形態の凹版製造装置1における露光レシピは、各回の露光における露光パターンを表す露光データと露光量とを規定したものとなる。第2回の露光における露光パターンは、上記した3つの態様のいずれかとすることができる。また、第2実施形態の凹版製造装置2における露光レシピは、各回の露光において使用されるマスク25と露光量とを規定したものとなる。この場合も、第2回の露光における露光パターンは上記した3つの態様のいずれかとすることができる。
【0065】
次いで、基材32の表面に光硬化性材料による感光層31が形成されたワーク3が装置に搬入され、ワーク保持部14(24)に載置される(ステップS102)。なお、基材32のみが搬入され装置内で感光層31が塗布形成される態様でもよい。そして、露光レシピで規定された第1の露光量および第1の露光パターンで感光層31が露光される(ステップS103)。
【0066】
形成すべき凹部の開口サイズが全て同じであればこの時点で各凹部は目標深さとなっており、追加的な露光は不要である。一方、異なる開口サイズの凹部がある場合、露光パターンを変更して第2回以降の追加的な露光が必要となる。そこで、CPU103は、露光レシピに追加的な露光が規定されている場合には(ステップS104においてYES)、露光レシピに従って露光量および露光パターンを変更設定し(ステップS105)、追加的な露光を実行する(ステップS106)。凹部の開口サイズが3種類以上ある場合には、必要な回数だけ追加露光が実行される。
【0067】
各凹部について深さの調節が終了していれば、追加露光は不要である(ステップS104においてNO)。この場合には、露光済みのワーク3が装置から搬出され(ステップS107)、外部の装置で感光層31のうち未硬化の部分を除去する処理が行われる(ステップS108)。このとき、感光層31のうち硬化領域が残留し、未硬化領域および未露光領域が除去される。これにより、所定の開口サイズおよび深さを有する凹部が所定の位置に配置された凹版が完成する。未硬化部分の除去については、例えば処理液による洗浄処理、ベーキング、液体成分の吸引除去等によって行うことが可能である。またこの処理は当該凹版製造装置内で行われてもよい。
【0068】
図8は露光パターンを作成するための処理を示すフローチャートである。この処理はCPU103(203)が実行してもよいが、凹版製造装置とは別体のデータ処理装置、例えばパーソナルコンピュータやワークステーションにより事前に実行されて露光パターンが作成されてもよい。第1実施形態の凹版製造装置1に対しては、露光パターンは制御ユニット100が露光装置10を制御するための描画データ(露光データ)として作成される。また、第2実施形態の凹版製造装置2に対しては、露光パターンはマスク25または当該マスクを作製するための加工データとして作成される。
【0069】
最初に、製造すべき凹版における凹部のサイズと配置とを特定した設計パターンデータが取得される(ステップS201)。この設計パターンデータに基づき、第1の露光パターンが作成される(ステップS202)。第1の露光パターンは、例えば図4(b)に示したように、感光層31のうち平坦部となるべき領域に光を入射させ、凹部となるべき領域には光を入射させないためのネガパターンである。こうして第1回の露光において使用される第1の露光パターンが準備される。
【0070】
次に、第1の露光パターンを反転させたポジパターンに対応するデータが作成される(ステップS203)。こうして形成されるポジデータは後の処理に使用するための中間データであり実際に露光に使用されるものではない。仮にこのパターンで露光を行った場合、第1の露光パターンとは逆に、感光層31のうち平坦部となるべき領域に光が入射せず、凹部となるべき領域に光が入射することになる。
【0071】
ネガパターンのデータでは凹部を取り囲む平坦部の占める領域が指定されているため、各凹部の開口サイズをデータから直接的に把握することが難しい。これに対して、ポジデータは互いに孤立した凹部が占める領域を特定するものであるから、各凹部の開口サイズや配置を容易に導出することができる。また、ポジデータはネガパターンを単純に反転させたパターンとして容易に作成することが可能である。このように中間データとしてポジデータを作成しておくことで、以後の演算処理が簡単になる。
【0072】
ポジデータで表される凹部の開口サイズのうち最小サイズ(前記した第1サイズ)の凹部については、第1の露光パターンでの露光により所望の深さに形成することができる。一方、これより開口サイズの大きい他の凹部については、深さを調節するための追加露光が必要であり、そのための露光パターンを求める必要がある。
【0073】
この目的のために、まず第1サイズより大きい開口サイズのうち1つが選択される(ステップS204)。このときに選択されるサイズは単一の値でもよく、ある程度の幅を有する数値範囲で表されてもよい。そして、ポジデータで表される凹部のうち選択されたサイズに該当するものが抽出され(ステップS205)、抽出された凹部に対し、前記した第1ないし第3の露光態様で第2回の露光を行うための露光パターンが作成される(ステップS206)。このとき、抽出された凹部以外の凹部については光が照射されないように露光パターンが決定される。
【0074】
第1の露光態様を用いる場合、ポジデータが表すパターンのうち上記で抽出された凹部のみを残したものを露光パターンとすることができる。また第2の露光態様では、ポジデータが表すパターンのうち上記で抽出された凹部のみを残し、こうして残された凹部を一定のルールで拡張させたものを露光パターンとすることができる。また第3の露光態様では、上記の第2の露光態様のための露光パターンとネガパターンである第1の露光パターンとを合成したものを露光パターンとすることができる。
【0075】
他の開口サイズの凹部がある場合には(ステップS207においてYES)、当該サイズに対してステップS204ないしS206が実行され露光パターンが作成される。このようにして、各開口サイズに対応する露光パターンがそれぞれ作成される。
【0076】
こうして作成された露光パターンのそれぞれを用いて複数回の露光プロセスが実行される。各開口サイズに対応する露光パターンでは、当該サイズに該当するもの以外の凹部に対応する領域が露光されないようになっている。したがって、最も小さい第1サイズの凹部については、第1回の露光においてのみ露光され、以後の露光プロセスではさらなる露光を受けない。また、より大きい開口サイズを有する凹部についても、第1回の露光プロセスと、当該凹部のサイズに対応する露光プロセスでのみ露光を受け、それ以外の露光プロセスでは露光されない。これにより、多数種の開口サイズの凹部が混在する場合でも、サイズごとに凹部の深さを適切に調節することが可能である。
【0077】
なお、上記した3つの露光態様のうち第2および第3の態様では、第2回の露光プロセスにおいて対象となる凹部の周囲領域に光が照射される。この周囲領域の外縁をどこまで拡張することができるかについて、その考え方を次に説明する。
【0078】
図9は凹部の配置と露光パターンとの関係を示す図である。これまでの説明と同様、ここでは理解を容易にするために露光パターンをマスクにより実現する例を用いて説明するが、マスクを用いない場合でも考え方は同じである。図9(a)に示すように、4つの凹部315〜318が並べて配置されるケースを考える。ここで、中央の2つの凹部316,317は互いに開口サイズが等しい。これに対し、隣接する凹部315と凹部316とは開口サイズが異なり、また凹部317と凹部318も開口サイズが異なるものとする。
【0079】
第2の露光態様において、特に凹部316を十分に浅くする必要がある場合には、第2回の露光で周囲からの光の回り込みによる深さ調節を有効に機能させるために、マスクを通過する光が入射する、図9(b)に示す周囲領域Rpをできるだけ広くすることが好ましい。周囲領域Rpは第1回の露光により既に硬化した平坦部となっているので、ここへの光照射は平坦部には影響を与えない。
【0080】
一方、凹部315と凹部316とは互いに開口サイズが異なっているため、深さ調整のための露光は個別に行われる必要がある。したがって、凹部316に対して第2回の露光が実行される場合、凹部315は露光されないようにする必要がある。特に、既に深さが調節された凹部をさらに露光することで深さが変化することは避けなければならない。この意味からは、凹部316について設定される周囲領域Rpの外縁は他の凹部315からできるだけ離れていることが望ましい。これらを両立させるためには、図9(b)に示すマスク255のように、周囲領域Rpの外縁については最大でも隣接する凹部との中間点までとするのが好ましい。この条件が満たされる限り、周囲領域Rpの外縁の形状も特に限定されず任意である。凹部317と凹部318との間についても同様である。
【0081】
ここで、凹部316と凹部317とは開口サイズが同じである。そのため、これらの間では、同じタイミングで第2回の露光を行うことが可能である。この場合、両凹部間の平坦部がさらに露光されることは問題とならないので、図9(c)に示すように、互いの周囲領域が連続したパターンのマスク256とすることも可能である。なお、もし凹部の開口サイズが2種類のみである場合には、開口サイズが小さい方の凹部に対応する領域への露光が防止されればよいので、マスクパターンとしては例えば開口サイズが小さい方の凹部およびその周囲領域のみをマスクするものを用いることも可能である。
【0082】
第3の露光態様においても同様である。すなわち、図9(d)に示すマスク257のように、例えば図9(c)に示されるマスク256に凹部316,317に対応する領域を遮蔽するパターンを加えたものを、第3の露光態様に用いられるマスクとしてもよい。
【0083】
以上のように、上記実施形態の凹版製造装置1,2は、光硬化性材料により形成された感光層を部分的に露光し、未硬化部分を除去することにより、平坦部とそれに開口する凹部とを有する凹版を製造するプロセスに用いられる装置である。これらの装置では、凹部の開口サイズとは独立にその深さを調節するために、次のような露光プロセスが採られる。
【0084】
最初に、感光層のうち凹部以外の領域、つまり平坦部となるべき領域が広く露光される。光が照射された部分の感光層は硬化して平坦部を形成し、また感光層内部での光の散乱や反射により、凹部となるべき領域の底部も部分的に硬化する。このときの露光条件が、開口サイズが最も小さい凹部が目標深さとなるような露光量に設定されることで、当該凹部については目標深さに形成することができる。次に、より開口サイズの大きい凹部については、開口サイズごとに個別に追加的な露光が行われて未硬化の材料が硬化することにより、それぞれ所望の深さに調節される。
【0085】
こうして第1回の露光および第2回以降の追加的な露光の実行後に未硬化の部分が除去されることで、開口サイズおよび深さがそれぞれ目標値に調整された複数の凹部を有する凹版が作製される。単一の露光条件では形成される凹部の深さは開口サイズに依存するが、本実施形態では追加的な露光によって凹部の深さを開口サイズごとに個別に調節することができるので、異なる開口サイズの凹部をそれぞれ目標深さに形成することが可能である。また、未硬化の感光層を残したまま繰り返し露光を行い、その後に未硬化部分が除去されるので、複数回の露光プロセスの間に感光層の再塗付や未硬化部分の除去を必要としない。そのため、短時間で凹版を製造することが可能である。また、ガラス板や金属板等の基材表面を直接加工して凹部を形成するよりも低コストで凹版を製造することができる。
【0086】
なお、本発明は上記した実施形態に限定されるものではなく、その趣旨を逸脱しない限りにおいて上述したもの以外に種々の変更を行うことが可能である。例えば上記の説明では、凹部の深さが開口サイズに応じて設定され、同一サイズの凹部は同一深さとすることが前提とされている。しかしながら、例えば同一の開口サイズを有する複数の凹部の間で目標深さが異なっている場合にも、上記プロセスを一部改変することで対応可能である。すなわち、上記の例では開口サイズが同じである複数の凹部に対して1つの露光パターンが設定されるが、開口サイズが同じでも目標深さの異なる凹部を区別してそれぞれに対応する露光パターンおよび露光量を設定し、それに基づき追加露光を行うことで、同一の開口サイズでも深さの異なる凹部を形成することが可能である。
【0087】
また、上記の説明では凹部の開口サイズを1つの断面における幅によって表している。しかしながら、開口サイズを表す指標としては、これ以外に、例えば開口面積を用いることも可能である。断面における幅が同じ凹部でも、奥行き方向の長さが異なれば同一の露光条件で形成される凹部の深さが互いに異なることもあり得る。また、同じ開口面積の凹部でも、その開口形状によって、同一の露光条件で形成される凹部の深さが互いに異なることもあり得る。これらのことから、開口サイズを表す指標として何を用いるかについては、凹版の版面に配置される凹部がどのような形状のものであるかに応じて選択されることが好ましい。
【0088】
より厳密には、幅または面積の一方が同一であることのみを以って「同一サイズ」とせず、両者が開口形状まで含めて同一または実質的に同一であるものを「同一サイズ」として取り扱うようにすることで、個々の凹部の深さ調節をより精度よく行うことが可能となる。この場合にも、具体的な露光プロセスについては上記した考え方を適用することができる。
【0089】
以上説明したように、上記実施形態の凹版製造装置1,2においては、ワーク保持部14,24が本発明の「保持部」として機能する。また、光発生部11、光路調整部12および光走査部13が一体的に、また光発生部21、光路調整部22および光走査部23が一体的に、それぞれ本発明の「照射部」として機能している。また、制御ユニット100,200が本発明の「制御部」として機能している。
【0090】
また、図7に示す凹版製造プロセスにおいては、ステップS103が本発明の「第1工程」に相当し、ステップS106が本発明の「第2工程」に相当している。また、ステップS108が、本発明の「第3工程」に相当している。
【0091】
以上、具体的な実施形態を例示して説明してきたように、本発明に係る凹版の製造方法は、例えば、第2工程では第2領域に光を照射するように構成されてもよい。本願発明者らの知見によれば、照射された光が感光層の内部で散乱することに起因して、硬化は光が入射する表面とは反対の裏面側から進行する。このため、第1工程である程度の露光を受けた第2領域の底部に光を入射させることは、第2領域に形成される凹部の深さを小さくするように作用する。このときの露光量を適切に設定することで、第2領域に形成される凹部の深さを所望の値に調節することが可能となる。例えば、第2の露光量は、未露光の感光層を硬化させるために必要な露光量より小さいことが好ましい。こうすることで、第2領域の全体が硬化してしまうことが回避される。
【0092】
また、第2工程では、第2領域の周囲領域に光を照射するように構成されてもよい。このような構成によれば、第1工程において露光された領域と露光されていない領域との境界部分に追加的な露光がなされるので、形成される凹部の断面形状を安定したものとすることができる。
【0093】
具体的には、例えば第2領域および周囲領域の両方に光を照射してもよく、この場合、第2の露光量は、未露光の感光層を硬化させるために必要な露光量より小さいことが好ましい。こうすることで、第2領域に形成される凹部の深さを調節しつつ、その断面形状も安定したものとすることができる。
【0094】
あるいは例えば、第2工程は、第2領域に光を照射せず周囲領域に光を照射するように構成されてもよい。このような構成によれば、第2工程における露光光が直接第2領域に入射して露光させてしまうことがないため、第2の露光量の設定の自由度が高くなる。
【0095】
また、第2の露光量は、第2サイズの凹部を当該凹部に対応して設定された目標深さとするために必要な露光量とされることが好ましい。このような構成によれば、第2工程を実行することで第2領域に形成される凹部の深さを目標深さにすることができる。この場合、未露光の感光層を目標深さで硬化させるための露光量ではなく、当該露光量から、第1工程において第2領域が受ける露光量を差し引いたものを第2の露光量とするのが望ましい。
【0096】
また例えば、複数の凹部のうち開口サイズが互いに同一であるものについては、一括して第2工程が実行されてもよい。このような構成によれば、同一の露光条件で露光することのできる領域をまとめて露光することで、必要な露光の回数を少なくして処理時間を短縮することができる。
【0097】
また例えば、第1工程および第2工程の後に、感光層のうち露光により硬化した部位以外の未硬化部位を除去する第3工程がさらに備えられてもよい。このような構成とすることで、所望の開口サイズおよび深さの複数の凹部を有する凹版を製造することができる。
【0098】
また、本発明に係る凹版製造装置は、照射部がワークに対し入射位置を変更しながら所定の点灯パターンで断続的に光ビームを出射することで感光層を走査露光し、制御部がその点灯パターンを制御するものであってもよい。このような構成によれば、所定の露光パターンを実現するのにマスクを使用する必要がない。このため、特に小ロットの凹版を製造する目的に好適である。
【産業上の利用可能性】
【0099】
この発明は、凹版印刷技術に用いられる各種の凹版の製造に適用可能であり、印刷の目的や対象物は限定されないが、特に小ロットの印刷に供される凹版の製造に好適である。
【符号の説明】
【0100】
1,2 凹版製造装置
3 ワーク
11,21 光発生部(照射部)
12,22 光路調整部(照射部)
13,23 光走査部(照射部)
14,24 ワーク保持部(保持部)
31 感光層
32 基材
100,200 制御ユニット(制御部)
R1 第1領域
R2 第2領域
Rp 周囲領域
S103 第1工程
S106 第2工程
S108 第3工程
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9