(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6840022
(24)【登録日】2021年2月18日
(45)【発行日】2021年3月10日
(54)【発明の名称】サッシ衝撃音測定システムおよびサッシ衝撃音測定方法
(51)【国際特許分類】
G01H 17/00 20060101AFI20210301BHJP
G01M 7/08 20060101ALI20210301BHJP
【FI】
G01H17/00 Z
G01M7/08 C
【請求項の数】4
【全頁数】7
(21)【出願番号】特願2017-84673(P2017-84673)
(22)【出願日】2017年4月21日
(65)【公開番号】特開2018-179944(P2018-179944A)
(43)【公開日】2018年11月15日
【審査請求日】2020年3月4日
(73)【特許権者】
【識別番号】000206211
【氏名又は名称】大成建設株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100124084
【弁理士】
【氏名又は名称】黒岩 久人
(72)【発明者】
【氏名】河原塚 透
(72)【発明者】
【氏名】柵木 宏司
【審査官】
瓦井 秀憲
(56)【参考文献】
【文献】
実開昭60−141535(JP,U)
【文献】
特開昭60−114738(JP,A)
【文献】
特開2012−237741(JP,A)
【文献】
特開昭60−135741(JP,A)
【文献】
特開2010−071773(JP,A)
【文献】
特開平05−164749(JP,A)
【文献】
欧州特許出願公開第02189603(EP,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01H 17/00
G01M 7/08
G01M 99/00
E05F 1/02
E05F 7/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
サッシを閉めた際に当該サッシがサッシ枠に衝突する衝撃音を測定するサッシ衝撃音測定システムであって、
サッシを閉鎖するサッシ閉鎖装置と、前記サッシの近傍に配置されて音を測定する音測定装置と、を備え、
前記サッシ閉鎖装置は、床面に設けられた支持部材と、当該支持部材に回転可能に支持された滑車と、当該滑車に掛けられて一端側が前記サッシに仮固定されたワイヤと、当該ワイヤの他端側に吊り下げられた錘と、を備え、
当該錘は、水が入った容器であることを特徴とするサッシ衝撃音測定システム。
【請求項2】
前記サッシに吸盤で吸着する仮固定部材をさらに備え、
前記ワイヤの一端側は、当該仮固定部材に取り付けられることを特徴とする請求項1に記載のサッシ衝撃音測定システム。
【請求項3】
前記支持部材の上端部に設けられたカメラをさらに備えることを特徴とする請求項1または2に記載のサッシ衝撃音測定システム。
【請求項4】
サッシを閉めた際に当該サッシがサッシ枠に衝突する衝撃音を測定するサッシ衝撃音測定方法であって、
請求項1から3のいずれかに記載のサッシ衝撃音測定システムのワイヤを前記サッシに仮固定する手順と、
当該サッシを所定寸法だけ開く工程と、
当該サッシから手を離すことで、前記錘の自重により前記サッシを閉じる方向に移動させ、音測定装置により当該サッシが前記サッシ枠に衝突する衝撃音を測定する手順と、を備えることを特徴とするサッシ衝撃音測定方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、サッシを閉鎖するサッシ閉鎖装置、および、このサッシ閉鎖装置を用いてサッシがサッシ枠に衝突する際の開口衝撃音を測定するサッシ衝撃音測定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、集合住宅やホテルなどの居室には静けさが要求されるため、建築学会の指針などにより、室内騒音の目標値が示されている。
よって、サッシについて、設計段階から発生音の検討が行われ、発生音の目標値を満たすように仕様を選定する。例えば、サッシ枠の引き戸当接部に戸当たりクッションを設ける構成(特許文献1参照)や、ドアの吊り元に中空構造の容器を設けて、ドアを閉める際の衝撃音を緩和する構成(特許文献2参照)が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平9−60415号公報
【特許文献2】特開2010−261291号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
サッシを取り付けた後、取り付け場所にて実際に発生音を測定することで、サッシが目標とする性能を満足しているか否かを確認する必要がある。この場合、作業員が手でサッシを閉めて、サッシを閉める際の衝撃音を測定している。よって、個人差や力加減などにより衝撃音が大きく異なるため、所定の性能を満足しているか否かを客観的に評価することが難しかった。
【0005】
本発明は、サッシの衝撃音についての性能を客観的に評価できる、
サッシ衝撃音測定システムおよびサッシ衝撃音測定方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
請求項1に記載の
衝撃音測定システムは、サッシを閉めた際に当該サッシがサッシ枠に衝突する衝撃音を測定するサッシ衝撃音測定システムであって、サッシ(例えば、後述のサッシ12)を閉鎖するサッシ閉鎖装置
(例えば、後述のサッシ閉鎖装置2)と、前記サッシの近傍に配置されて音を測定する音測定装置と、を備え、前記サッシ閉鎖装置は、床面(例えば、後述の床面21)に設けられた支持部材(例えば、後述の支持部材20)と、当該支持部材に回転可能に支持された滑車(例えば、後述の滑車30)と、当該滑車に掛けられて一端側が前記サッシに仮固定されてワイヤ(例えば、後述のワイヤ50)と、当該ワイヤの他端側に吊り下げられた錘(例えば、後述の錘60)と、を備え
、当該錘は、水が入った容器であることを特徴とする。
【0007】
この発明によれば、サッシ閉鎖装置のワイヤをサッシに仮固定する。次に、サッシを所定寸法だけ開いて、この状態から、サッシを支えていた手を離す。すると、錘の自重によりワイヤが下方に引っ張られて、このワイヤによりサッシが閉じる方向に引っ張られて移動し、サッシ枠に衝突する。このとき、音測定装置により、サッシがサッシ枠に衝突する衝撃音を測定する。
よって、滑車の位置、錘の重量、サッシとサッシ枠との距離などの条件を一定にすることにより、サッシ閉鎖装置によるサッシの衝撃音の再現性が高くなり、サッシの衝撃音についての性能を客観的に評価できる。
また、滑車、錘、ワイヤ、音測定部を含んでサッシ閉鎖装置を構成したので、サッシ閉鎖装置を低コストで容易に製作できる。
【0008】
請求項2に記載の
サッシ衝撃音測定システムは、前記サッシに吸盤で吸着する仮固定部材をさらに備え、前記ワイヤの一端側は、当該仮固定部材に取り付けられることを特徴とする。
【0009】
この発明によれば、サッシに吸盤で吸着する仮固定部材を介して、ワイヤをサッシに仮固定した。よって、サッシを損傷することなく、ワイヤをサッシに確実に仮固定できる。
【0010】
請求項3に記載の
サッシ衝撃音測定システムは、前記支持部材の上端部に設けられたカメラ(例えば、後述のカメラ70)をさらに備えることを特徴とする。
【0011】
この発明によれば、支持部材の上端部にカメラを設けたので、このカメラでサッシが閉じる様子を撮影することで、衝撃音の発生原因の特定が容易になる。
【0012】
請求項4に記載のサッシ衝撃音測定方法は、サッシを閉めた際に当該サッシがサッシ枠に衝突する衝撃音を測定するサッシ衝撃音測定方法であって、上述の
サッシ衝撃音測定システムのワイヤを前記サッシに仮固定する手順(例えば、後述のステップS1)と、当該サッシを所定寸法だけ開く工程(例えば、後述のステップS2)と、当該サッシから手を離すことで、前記錘の自重により前記サッシを閉じる方向に移動させ、音測定装置(例えば、後述の音測定装置3)により当該サッシが前記サッシ枠に衝突する衝撃音を測定する手順(例えば、後述のステップS3)と、を備えることを特徴とする。
【0013】
この発明によれば、上述の請求項1と同様の効果がある。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、錘の重量、滑車の位置、サッシとサッシ枠との距離などの条件を一定にすることにより、サッシの衝撃音の再現性が高くなり、サッシの衝撃音についての性能を客観的に評価できる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】本発明の一実施形態に係るサッシ閉鎖装置が適用されたサッシ衝撃音測定システムの構造を示す模式図である。
【
図2】前記実施形態に係るサッシ衝撃音測定システムを用いてサッシの衝撃音を測定する手順のフローチャートである。
【
図3】本発明の比較例に係る衝撃音測定実験の実験結果を示す図である。
【
図4】本発明の実施例に係る衝撃音測定実験の実験結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の一実施形態について、図面を参照しながら説明する。
図1は、本発明の一実施形態に係るサッシ閉鎖装置2が適用されたサッシ衝撃音測定システム1の構造を示す模式図である。
サッシ衝撃音測定システム1は、サッシ12を閉めた際にサッシ12がサッシ枠11に衝突する開口衝撃音を測定するものである。このサッシ衝撃音測定システム1は、サッシ構造10に取り付けられるサッシ閉鎖装置2と、サッシ構造10の近傍に配置されて音を測定する音測定装置3と、を備える。
【0017】
サッシ構造10は、矩形枠状のサッシ枠11と、このサッシ枠11に開閉可能に設けられた引き戸としてのサッシ12と、を備える。
【0018】
サッシ閉鎖装置2は、床面21に設けられて鉛直方向に延びる棒状の支持部材20と、支持部材20に回転可能に支持された滑車30と、サッシ12のガラス面121に吸盤で仮固定された仮固定部材40と、滑車30に掛けられて一端側が仮固定部材40に取り付けられたワイヤ50と、ワイヤ50の他端側に吊り下げられた錘60と、支持部材20の上端部に取り付けられたカメラ70と、を備える。
また、床面21のうちカメラ70の撮影範囲内には、サッシ構造10の設置場所が記載されたホワイトボード80が配置されている。
【0019】
支持部材20は、錘60の重量により変形しない程度の剛性を有している。この支持部材20は、例えば、木製、アルミ製、スチール製の角材やパイプである。
仮固定部材40は、サッシ12のガラスやスチールなどの平滑な面ここではガラス面121に吸盤で吸着している。ワイヤ50の一端側は、この仮固定部材40を介して、サッシ12に仮固定されている。
滑車30は、支持部材20の仮固定部材40と略同じ高さ位置に回転自在に支持されている。
錘60は、ペットボトルなどの容器に水を入れたものであり、容器に入れる水量を調整することで、錘60の重量を任意の重さに設定して、サッシ12を閉める力を調整できる。
【0020】
以上のサッシ衝撃音測定システム1を用いてサッシ12の開口衝撃音を測定する手順について、
図2のフローチャート参照しながら説明する。
ステップS1では、サッシ衝撃音測定システム1をサッシ構造10に取り付ける。すなわち、
図1に示すように、サッシ閉鎖装置2を床面21上に配置し、サッシ12に仮固定部材40を取付けて、この仮固定部材40にサッシ衝撃音測定システム1のワイヤ50を取付ける。また、サッシ12が衝突するサッシ枠11の近傍に、音測定装置3を配置する。
【0021】
ステップS2では、
図1に示すように、サッシ12を所定寸法d(開き寸法)だけ開いて、錘60によりワイヤ50に張力がかかるようにする。
【0022】
ステップS3では、音測定装置3により衝撃音の測定を開始するとともに、カメラ70によりサッシ12およびホワイトボード80の撮影を開始し、サッシ12を支えていた手を離す。
すると、錘60の自重によりワイヤ50が下方(
図1中黒矢印で示す)に引っ張られて、サッシ12が閉じる方向(
図1中白抜き矢印で示す)に移動し、サッシ枠11に衝突する。このとき、音測定装置3により、サッシ12がサッシ枠11に衝突する開口衝撃音を測定するとともに、カメラ70でサッシ12の動きを撮影する。
【0023】
[実施例]
以下、本発明の比較例および実施例について説明する。
図3は、本発明の比較例に係る衝撃音測定実験の実験結果を示す図である。
図4は、本発明の実施例に係る衝撃音測定実験の実験結果を示す図である。
比較例では、サッシ構造に本発明のサッシ衝撃音測定システムを取り付けず、手動でサッシを閉じて、このサッシの開口衝撃音を測定した。
【0024】
これに対し、実施例では、サッシ構造に本発明のサッシ衝撃音測定システムを取り付けて、サッシ閉鎖装置によりサッシを閉じて、音測定装置によりサッシの開口衝撃音を測定した。
【0025】
以上の比較例および実施例では、サッシ構造およびサッシの開き寸法を同一とし、それぞれ実験を5回ずつ繰り返した。また、実施例では、各回の衝撃音測定実験について、滑車の位置および錘の重量を一定とした。また、衝撃音の測定では、所定の周波数毎の音圧レベルを測定するとともに、A特性の音圧レベル(騒音レベル)を測定した。
【0026】
図3および
図4より、本発明のサッシ衝撃音測定システムを用いて開口衝撃音を測定した場合、騒音レベルが44.2dBから45.1dBまでの範囲内に収まっているが、手動により開口衝撃音を測定した場合、騒音レベルは44.4dBから49.7dBまでの広い範囲となっている。よって、本発明のサッシ衝撃音測定システムを用いることにより、騒音レベルのばらつきを少なくでき、開口衝撃音の再現性が高いことが判る。
【0027】
本実施形態によれば、以下のような効果がある。
(1)滑車30の位置、錘60の重量、サッシ12とサッシ枠11との距離dなどの条件を一定にすることにより、サッシ閉鎖装置2によるサッシ12の衝撃音の再現性が高くなり、サッシ12の衝撃音についての性能を客観的に評価できる。
また、滑車30、錘60、およびワイヤ50を含んでサッシ閉鎖装置2を構成したので、サッシ閉鎖装置2を低コストで容易に製作できる。
【0028】
(2)サッシ12のガラス面121に吸盤で吸着する仮固定部材40を介して、ワイヤ50をサッシ12に仮固定した。よって、サッシ12を損傷することなく、ワイヤ50をサッシ12に確実に仮固定できる。
(3)支持部材20の上端部にカメラ70を設けたので、このカメラ70でサッシ12が閉じる様子を動画で撮影することで、開口衝撃音の発生原因の特定が容易になる。
【0029】
(4)錘60をペットボトルなどの容器に水を入れて構成したので、容器に入れる水量を調整することで、錘60の重量を任意の重さに設定して、サッシ12を閉める力を容易に調整できる。
(5)カメラ70でホワイトボード80を撮影することで、実験の正確な場所や日時を記録できる。
【0030】
なお、本発明は前記実施形態に限定されるものではなく、本発明の目的を達成できる範囲での変形、改良等は本発明に含まれるものである。
本実施形態では、本発明を引き戸であるサッシ構造10に適用したが、これに限らず、開き戸にも適用できる。
また、本実施形態では、カメラ70によりサッシ12およびホワイトボード80を動画で撮影したが、これに限らず、静止画で撮影してもよい。
【符号の説明】
【0031】
1…サッシ衝撃音測定システム 2…サッシ閉鎖装置 3…音測定装置
10…サッシ構造 11…サッシ枠 12…サッシ
20…支持部材 21…床面 30…滑車 40…仮固定部材 50…ワイヤ
60…錘 70…カメラ 80…ホワイトボード 121…ガラス面