(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
構造物の振動を検出する一対のセンサと、これらセンサからの検出信号を受け入れる制御部とを備え、地盤に設置された前記構造物の固有振動数を特定する固有振動数特定装置であって、前記制御部は、
振動数帯を前記地盤に設置される構造物の固有振動数の範囲として仮定できる振動数範囲を有する複数の分割振動数帯に分割して設定する振動数帯設定部と、
前記分割振動数帯における前記構造物の振動中心の高さを、前記一対のセンサのセンサ間距離と前記一対のセンサのそれぞれの水平方向と鉛直方向の波形の値のリサージュの線形回帰直線の傾きの和とに基づいて算出する振動中心位置算出部と、
前記一対のセンサにより検出された前記構造物の前記分割振動数帯の振動及び前記振動中心位置算出部によって算出された前記振動中心の高さに基づいて前記地盤の振動を算出する地盤振動算出部と、
前記一対のセンサにより検出された前記構造物の振動のフーリエ変換の振幅と前記地盤振動算出部により算出された前記地盤の振動のフーリエ変換の振幅との比を算出する振幅比算出部と、
前記振幅比算出部により算出された前記比を前記比の理論値にあてはめた際のパラメータを算出する理論振幅比算出部と、
前記振幅比算出部により算出された比と前記比の理論値との間の決定係数を算出する決定係数算出部と、
前記理論振幅比算出部により算出された前記パラメータ及び前記決定係数算出部により算出された決定係数に基づいて前記固有振動数を特定する固有振動数特定部とを有することを特徴とする固有振動数特定装置。
構造物の振動を検出する一対のセンサと、これらセンサからの検出信号を受け入れる制御部とを備えた固有振動数特定装置により、地盤に設置された前記構造物の固有振動数を特定する方法であって、
振動数帯を前記地盤に設置される構造物の固有振動数の範囲として仮定できる振動数範囲を有する複数の分割振動数帯に分割して設定し、
前記一対のセンサにより検出された前記構造物の前記分割振動数帯の振動及び前記一対のセンサのセンサ間距離と前記一対のセンサのそれぞれの水平方向と鉛直方向の波形の値のリサージュの線形回帰直線の傾きの和とに基づいて算出された前記振動中心の高さに基づいて前記地盤の振動を算出し、
前記一対のセンサにより検出された前記構造物の振動のフーリエ変換の振幅と算出された前記地盤の振動のフーリエ変換の振幅との比を算出し、
算出された前記比を前記比の理論値にあてはめた際のパラメータを算出し、
算出された前記比と前記比の理論値との間の決定係数を算出し、
算出された前記パラメータ及び前記決定係数に基づいて前記固有振動数を特定することを特徴とする固有振動数特定方法。
【発明を実施するための形態】
【0020】
(固有振動数特定装置の全体構成)
以下、この発明の実施の形態を図面に基づいて説明する。
図1は、本実施の形態である固有振動数特定装置の概略構成を示すブロック図である。
【0021】
本実施の形態である固有振動数特定装置(以下、単に特定装置と称する)10は、構造物の一例である橋脚1の固有振動数を特定する。橋脚1は、
図2に模式的に示すように、河川2に架設された鉄道橋脚(図略)の一部であり、地盤3に立設されている。
【0022】
なお、以下の説明において、紙面の左右方向(橋軸直角方向:枕木方向)にX軸を取り、紙面の上下方向(鉛直方向)にZ軸を取り、紙面右側をX軸の正方向、紙面上側をZ軸の正方向とする。また、河川2は紙面左から右方向に流れており、従って、左側が河川2の上流側、右側が河川2の下流側となる。
【0023】
本実施の形態である特定装置10は、橋脚1の振動を測定する一対のセンサ11a、11b、これらセンサ11a、11bからの測定信号が入力される本体部12を有する。
【0024】
センサ11a、11bは、
図1、2に示すように、橋脚1の天端(上端)面に取り付けられ、それぞれ、橋軸直角方向(X軸方向)に所定の距離を置いて、河川2の上流側端部及び下流側端部に設けられている(
図2(b)参照)。センサ11a、11bは、X軸方向及びZ軸方向の振動(速度又は加速度)を検出可能な公知の速度センサ又は加速度センサであることが好ましいが、一方は少なくとも鉛直方向の振動を検出すれば足りる。これらセンサ11a、11bは、検出された鉛直方向の振動に橋軸方向(レール方向)のロッキング振動の影響が含まれることを抑制するために、
図2(b)の点線で示す橋軸方向の中心線上に設置されることが好ましい。センサ11a、11bは、検出した橋脚1の振動を例えば電位差として出力する。
【0025】
本体部12は例えばパーソナルコンピュータ等であり、制御部20、記憶部21、入力インタフェース(I/F)22及び出力インタフェース(I/F)23を有する。
【0026】
制御部20はCPU等の演算素子を備える。記憶部21内に格納されている図略の制御用プログラムが特定装置10の起動時に実行され、この制御用プログラムに基づいて、制御部20は記憶部21等を含む特定装置10全体の制御を行うとともに、振動数帯設定部30、振動中心位置算出部31、振動中心位置判定部32、地盤振動算出部33、振幅比算出部34、理論振幅比算出部35、決定係数算出部36及び固有振動数特定部37としての機能を実行する。これら各機能部の動作については後述する。
【0027】
記憶部21はハードディスクドライブ等の大容量記憶媒体、及びROM、RAM等の半導体記憶媒体を備える。この記憶部21には上述の制御用プログラムが格納されているとともに、制御部20の制御動作時に必要とされる各種データが一時的に格納される。
【0028】
入力インタフェース22は、本体部12に接続された入力装置13からの各種入力を受け入れ、これを制御部20に出力する。本実施例の入力装置13は例えばキーボードやマウス等である。
【0029】
出力インタフェース23は、制御部20から出力された出力信号を受け入れ、これを表示装置14に出力する。本実施例の表示装置14は例えば液晶ディスプレイ装置であり、出力インタフェース23を介して出力された表示制御信号に基づいて図略の表示面に表示画面を表示する。
【0030】
(固有振動数特定装置の原理)
以下、本発明と同一発明者による、上述した特許文献2に開示された手法も含めて、本実施の形態である特定装置10の原理について説明する。
【0031】
橋脚1の振動(微動)を、地盤3から強制加振されている粘性減衰のある1自由度系の振動に単純化して考える。ここで、地盤3には、河川の流水、及び周辺の工場や道路等の振動が伝播される。従って、以下の説明では、橋軸方向の橋脚1の振動については考慮しないことにする。
【0032】
図2は本実施の形態である固有振動数特定装置の原理を説明するための図であり、
図2(a)は側面図、
図2(b)は平面図である。
【0033】
橋脚1が1次振動し、その振動中心1aを底面に投影した点1bは、
図2(a)に示すように、センサ11a、11bの設置位置を底面に投影した点1c、1dに対してa:b(いずれも正の値)の比で内分する点であると仮定する。ここで、振動中心1aからセンサ11a、11bまでの高さをh
0とすると、2つのセンサ11a、11bの間の距離は(a+b)h
0である。
【0034】
また、橋脚1の天端で計測される振動波形は、構造物である橋脚1の1次振動(橋脚1のみの振動)と地盤3の振動のみの和とみなし、高次振動や桁などその他構造物の影響についてはここでは無視して考える。
【0035】
橋脚1天端の上流側端部に設置されたセンサ11aで計測された橋軸直角方向の波形をx
a(t)、鉛直方向の波形をz
a(t)、下流側端部に設置されたセンサ11bで計測された橋軸直角方向の波形をx
b(t)、鉛直方向の波形をz
b(t)、地盤3の振動の橋軸直角方向の波形をx
g(t)、鉛直方向の波形をz
g(t)とする。
【0036】
なお、センサ11a、11bにより測定される振動の波形は、センサ11a、11bのそれぞれにおいて同じ物理量を計測していれば、速度波形、加速度波形のいずれでも良い。また、波形の向きは、ここでは橋軸直角方向については上流から下流方向を、鉛直方向については下から上方向を正として説明する。また、固有振動数特定に使用する波形は、列車振動やスパイクノイズ等が含まれていないものである必要がある。
【0037】
センサ11a、11bにより検出された波形の橋軸直角方向成分のうち、橋脚1の1次振動による振動成分をx
as(t)、x
bs(t)、鉛直成分のうち橋脚1の1次振動による振動成分をz
as(t)、z
bs(t)とすると
z
a(t)=z
as(t)+z
g(t) …(1)
z
b(t)=z
bs(t)+z
g(t) …(2)
と近似することができる。また、幾何学的に
z
as(t)=−a/b×z
bs(t) …(3)
となる。式(1)〜(3)より、
z
as(t)=a/(a+b)×{z
a(t)−z
b(t)} …(4)
が得られる。幾何学的に
x
as(t)=1/a×z
as(t) …(5)
であるから、式(4)及び式(5)より
x
as(t)=1/(a+b)×{z
a(t)−z
b(t)} …(6)
である。また、上述した条件から
x
a(t)=x
as(t)+x
g(t) …(7)
と近似できるから、式(6)及び式(7)により
x
g(t)=x
a(t)−1/(a+b)×{z
a(t)−z
b(t)} …(8)
となる。これにより、センサ11a、11bにより検出された波形に基づいて地盤3の波形を推測することができる。
【0038】
ここで、振動中心1aが橋脚1の底面に存在する、すなわちh
0=hならば、式(8)の算出に必要なa+bの値は幾何学的に算出可能であるが、橋脚1の特性により曲げ振動などの影響で振動中心がみかけ上高くなる可能性が考えられる。これまでの本発明者らの検討結果では、模型の橋脚では振動中心がほぼ橋脚底面に存在するが、実際の橋脚1では橋脚1底面よりやや上に振動中心1aが存在し、根入深さによって振動中心1aの高さが変わることが示唆されている。
【0039】
振動中心1aが橋脚1の底面に無い場合、以下のようにa+bを算出することができる。式(1)、(5)、(7)から、
x
a(t)−x
g(t)=1/a×{z
a(t)−z
b(t)} …(9)
【0040】
固有振動数付近の振動数帯では一次振動が卓越し、橋脚1上の振動が地盤3の振動よりもはるかに大きくなる。微動計測が連続的に行われており、直近の時刻t−1のデータから橋脚1の固有振動数f(t−1)が得られているならば、時刻tにおいてセンサ11aが検出した波形データx
a(t)、z
a(t)に対してそれぞれ固有振動数f(t−1)を含むバンドパスフィルタを適用した波形f
bpx
a(t)、f
bpz
a(t)について、式(9)から近似的に以下の関係が得られる。
f
bpx
a(t)=1/a×f
bpz
a(t) …(10)
【0041】
同様に、時刻tにおいてセンサ11bが検出した波形データx
b(t)、z
b(t)に対してそれぞれ固有振動数f(t−1)を含むバンドパスフィルタを適用した波形f
bpx
b(t)、f
bpz
b(t)について、近似的に以下の関係が得られる。
f
bpx
b(t)=1/a×f
bpz
b(t) …(11)
【0042】
式(10)、(11)は、センサ11aについてのf
bpx
a(t)とf
bpz
a(t)、及びセンサ11bについてのf
bpx
b(t)とf
bpz
b(t)とが、
図2(a)における矢印Aで示すように、振動中心1aに対して互いに直交する軌跡を描くことを示している。
【0043】
実際のセンサ11a、11bの振動の軌跡にはばらつきが生じるが、最小二乗法により近似的に
【数1】
を得ることができ、式(12)、(13)よりa+bが求まる。式(12)、(13)の意味は、固有振動数f(t−1)を含むバンドパスフィルタを適用した橋軸直角方向及び鉛直方向の波形の値をプロットして得られるリサージュの線形回帰直線の傾きにほかならない。
図4は、このようなリサージュの一例を示す図である。
【0044】
なお、本発明者らは、式(10)、(11)において、時刻t−1及びtにおける固有振動数f(t−1)とf(t)との間に若干の乖離があっても、バンドパスフィルタの幅を適切に設定することで計算結果にはほとんど影響しないことを模型実験結果から確認している。従って、仮に固有振動数の値に変化が生じても、連続的に微動計測を行っていれば本手法により値の変化を追跡可能である。
【0045】
そして、式(8)に式(12)、(13)で求めたa、bを代入することにより、地盤振動の推定値x
g(t)を得ることができる。
【0046】
上述した特許文献2においては、x
a(t)と式(8)で得られたx
g(t)のフーリエ変換^x
a(t)、^x
g(t)の位相差に着目し、位相差が90°(π/2(ラジアン))となるときの振動数を固有振動数とする方法を採っていた。本出願では、フーリエ変換^x
a(t)、^x
g(t)のフーリエ振幅比に着目した手法を提案する。なお、数学的に厳密な記載法からすれば記号ハット(^)はxの上に記載すべきであるが、表記の制限から記号ハットを前に書くことで以下代用する。
【0047】
今まで説明した内容から理解できるように、波形x
a(t)とx
g(t)のフーリエ振幅比の値がピークとなるときの振動数が、時刻tにおける橋脚1の固有振動数である。しかし、実際の波形データにおいては、スペクトルの平滑化の状況によってピーク値が変わり、また、桁や電化柱等によるノイズの影響により、実際の波形x
a(t)及び推定した波形x
g(t)からフーリエ変換をして得られたフーリエスペクトルのフーリエ振幅比の値からでは、固有振動数の判断が難しいケースがありうる。そこで、理論式にフィッティングさせてそのパラメータを基に固有振動数を特定する、以下の手法を提案する。
【0048】
x
a(t)と式(8)で得られたx
g(t)のフーリエ変換^x
a(t)、^x
g(t)のフーリエ振幅比は、理論的には以下の共振曲線によって表現される。
【数2】
ここに、
ω:振動数(Hz)
f(t):時刻tにおける橋脚の固有振動数(Hz)
h(t):時刻tにおける減衰定数
である。
【0049】
波形x
a(t)及びx
g(t)から得られるフーリエ振幅比を式(14)にフィッティングさせることで、時刻tにおけるf(t)及びh(t)が得られる。
【0050】
特許文献2で開示された手法では、a+bの値を求めるために、既知である直前の橋脚の固有振動数の値を含むバンドパスフィルタをx
a(t)、z
a(t)、x
b(t)、z
b(t)に対して適用する必要がある。そのため、衝撃振動試験等により橋脚の固有振動数の初期値を事前に得ておく必要があった。
【0051】
そこで、本出願では、橋脚1の固有振動数の初期値が事前に知られていない(測定していない)場合でも、橋脚1の固有振動数を特定する手法として、以下の手順を提案する。
【0052】
(1)橋脚1の固有振動数は、構造や基礎地盤の状態にもよるが、例えば鉄道橋脚においては通常20Hz未満である。そこで、この範囲の振動数帯を所定の振動数帯の範囲を有するn個(nは自然数)の分割振動数帯ω
1Hz〜ω
2Hz、ω
2Hz〜ω
3Hz…ω
n−1Hz〜ω
nHzに分割する。そして、式(12)、(13)において、分割振動数帯ω
k〜ω
k+1(1≦k≦n)について係数a
k、b
kの値を求める。
【0053】
(2)上述の(1)で求めたそれぞれのa
k、b
kを用いて、式(8)により地盤振動x
g(t)を推定する。このとき、橋脚1の振動中心1aは橋脚1の底面付近、もしくは曲げ振動の影響を受ける場合は底面よりやや上方に位置するはずである。振動中心1aが底面よりも大きく下方になる場合や、天端付近になる場合は、正しい振動中心1aとは考えられないため、該当する分割振動数帯(ω
kHz〜ω
k+1Hz)には橋脚1の固有振動数が含まれないと判断することができる。
【0054】
(3)橋脚1の振動x
a(t)と上述の(2)で推定したそれぞれの地盤振動x
g(t)とについてフーリエ変換して得られたフーリエスペクトルのフーリエ振幅比を求め、このフーリエ振幅比について式(14)を用いて理論式とのフィッティングを行う。
【0055】
理論式とのフィッティングは、分割振動数帯の範囲内において固有振動数f(t)及び減衰定数h(t)を仮に設定して共振曲線を描き、この共振曲線と上述のフーリエ振幅比とについての自由度調整済み決定係数あるいは相関係数(以下、決定係数)を求め、分割振動数帯の範囲内において最も高い決定係数が得られたときのf(t)及びh(t)を最適な固有振動数f(t)及び減衰定数h(t)として求める。このとき、減衰定数h(t)のとりうる値の範囲は、一般的な減衰定数のとりうる値の範囲をやや広げた、例えば鉄道橋脚においては0.01〜0.40程度とするのが良い。
【0056】
決定係数は、理論値である共振曲線とフーリエ振幅比とが全く一致すれば1となり相関が良いほど大きな値を取る。従って、決定係数が高いということは、共振曲線とフーリエ振幅比とがよく一致している(フィッティングされている)ということである。
【0057】
(4)全ての分割振動数帯について上述の(3)の処理を行い、決定係数が最も良い(大きい)ときのf(t)を求める固有振動数とする。
【0058】
振動数帯ω
k〜ω
k+1に固有振動数が含まれていない場合、a
k+b
kの正しい値が得られず、推定した地盤振動x
g(t)が正しくないものとなる。そのため正しい伝達関数が得られず、(3)によるフィッティングにおいて決定係数が小さくなると考えられる。また、仮に振動数帯ω
k〜ω
k+1に固有振動数が含まれていないにもかかわらずa
k+b
kの値が偶然正しい値を得た場合でも、(3)でフィッティングさせる際のf(t)のとりうる値の範囲(つまり分割振動数帯の範囲)に固有振動数が含まれていなければ、やはり決定係数は小さくなると考えられる。
【0059】
(固有振動数特定装置の機能部)
次に、制御部20に構成される各機能部の説明をする。
【0060】
振動数帯設定部30は、上述の原理(1)で示したように、特定の振動数帯、例えば20HZの範囲内において、この振動数帯を所定の振動数帯、例えば3Hzの範囲を有するn個(nは自然数)のω
1Hz〜ω
2Hz、ω
2Hz〜ω
3Hz…ω
n−1Hz〜ω
nHzの分割振動数帯に分割して設定する。なお、上述した数値は一例であり、適宜変更は可能である。
【0061】
振動中心位置算出部31は、特定の分割振動数帯ω
k〜ω
k+1内に固有振動数があると仮定した上で、この固有振動数を含むバンドパスフィルタを適用したf
bpx
a(t)、f
bpz
a(t)について式(12)、(13)を適用することで、橋脚1の振動中心1aの高さに関するパラメータであるa
k+b
kを算出する。
【0062】
振動中心位置判定部32は、振動中心位置算出部31により算出された、橋脚1の振動中心1aの高さに関するパラメータa
k+b
kに基づいて、上述の原理(2)で示したように、この分割振動数帯内に固有振動数が存在するか否かを判定する。繰り返し説明すれば、振動中心1aが底面よりも大きく下方になる場合や、天端付近になる場合は、正しい振動中心1aとは考えられないため、該当する分割振動数帯(ω
kHz〜ω
k+1Hz)には橋脚1の固有振動数が含まれないと判断する。
【0063】
地盤振動算出部33は、振動中心位置判定部32により固有振動数が含まれるとした分割振動数帯において、振動中心位置算出部31が算出した振動中心1aの高さに関するパラメータa
k+b
kを用い、上述の原理の式(8)で示したように、橋脚1に設けられたセンサ11a、11bで検出された振動の波形x
a(t)、z
a(t)及びz
b(t)から地盤振動x
g(t)を推定する。
【0064】
振幅比算出部34は、センサ11aで検出された振動の波形x
a(t)及び地盤振動算出部33により算出された地盤振動x
g(t)についてフーリエ変換を行い、上述の原理(3)で示したように、フーリエスペクトルのフーリエ振幅比を算出する。
【0065】
理論振幅比算出部35は、上述の原理(3)に示す理論式とのフィッティング処理、言い換えれば、振幅比算出部34により算出された比を振動中心位置判定部32により固有振動数が含まれるとした分割振動数帯に式(14)に示すフーリエ振幅比の理論値にあてはめた際のパラメータの算出を行う。ここでいうパラメータとは、固有振動数f(t)及び減衰定数h(t)のことである。
【0066】
決定係数算出部36は、振幅比算出部34により算出されたフーリエ振幅比と理論振幅比算出部35により算出されたフーリエ振幅比の理論値との間の決定係数を算出する。
【0067】
そして、固有振動数特定部37は、上述の原理(4)に示すように、全ての分割振動数帯において決定係数が最も良い(大きい)ときのf(t)を、求める固有振動数として特定する。
【0068】
(固有振動数特定装置の動作)
次に、
図3のフローチャートを参照して、本実施の形態である固有振動数特定装置10の動作について説明する。なお、制御部20を構成する各部の説明について詳述した内容については繰り返しの説明を省略することがある。
【0069】
特定装置10の動作が開始されると、まず、ステップS10において、センサ11a、11bで検出された振動の波形について、列車の振動等に起因するノイズを除去する処理が制御部20により行われる。このノイズ除去処理自体は既知のものであり、ここでは詳細な説明を省略するが、一例として、振幅等に一定の閾値を設け、この閾値を超える振動をノイズとして除去するような処理が挙げられる。
【0070】
次に、ステップS11において、振動数帯設定部30が、特定の振動数帯に対して複数の分割振動数帯ω
k〜ω
k+1(k=1、2、…n)を設定する。ステップS12では、ステップS11で設定された複数の分割振動数帯のうち、特定(k=1)の分割振動数帯ω
k〜ω
k+1が制御部20により選択される。
【0071】
ステップS13では、振動中心位置算出部31により、ステップS12で選択された分割振動数帯における橋脚1の振動中心1aの高さに関するパラメータa
k+b
kが算出される。
【0072】
そして、ステップS14では、ステップS13において算出された振動中心1aの高さに関するパラメータa
k+b
kが合理的な範囲内にあるか否か、すなわち、振動中心1aが底面よりも大きく下方になるか、天端付近になるか否かが判定される。そして、判定が肯定される(ステップS14において振動中心1aが底面よりも大きく下方にもならず、また、天端付近にもならない)と、プログラムはステップS15に進み、判定が否定されるとプログラムはステップS20に進む。
【0073】
ステップS15では、ステップS13で振動中心位置算出部31により算出された振動中心1aの高さに関するパラメータa
k+b
kを用いて、地盤振動算出部33により地盤振動x
g(t)が算出される。そして、センサ11aにより測定された橋脚1の振動x
a(t)、及び地盤振動算出部33により算出された地盤振動x
g(t)を用いて、振幅比算出部34により、これら振動のフーリエ振幅比が算出される。
【0074】
ステップS16では、固有振動数特定のための特定用振動数ω
j(初期値はj=k)が制御部20により選択される。
【0075】
ステップS17では、理論振幅比算出部35により、ステップS16において選択された特定用振動数ω
jを、式(14)に代入することで、振動のフーリエ振幅比の理論値へのフィッティング処理が行われる。
【0076】
ステップS18では、ステップS15において算出されたフーリエ振幅比とステップS17において算出されたフーリエ振幅比の理論値とを用いて、決定係数算出部36により決定係数が算出される。
【0077】
ステップS19では、特定用振動数ω
jが分割振動数帯の上端、すなわちω
k+1に至ったか否かが制御部20により判定され、判定が肯定される(ステップS19においてω
j=ω
k+1)とプログラムはステップS20に進み、判定が否定されるとプログラムはステップS21に進み、制御部20により特定用振動数ω
jに所定の増分Δωを加算してステップS16に戻る。
【0078】
ステップS20では、全ての分割振動数帯について上述した処理が行われたか否か、すなわち、ω
k=ω
nであるか否かが制御部20により判定され、判定が肯定される(ステップS20においてω
k=ω
n)と、プログラムはステップS22に進み、判定が否定されるとプログラムはステップS23に進み、制御部20により次の分割振動数帯が選択され、すなわち、分割振動数帯がω
k=ω
k+1に設定されてプログラムはステップS13に戻る。
【0079】
ステップS22では、固有振動数特定部37により橋脚1の固有振動数が特定される。
【0080】
(固有振動数特定装置の効果)
このように構成された本実施の形態である特定装置10では、制御部20が、振動数帯を所定の振動数範囲を有する複数の分割振動数帯に分割して設定する振動数帯設定部30と、センサ11a、11bにより検出された橋脚1の振動から地盤3の振動を算出する地盤振動算出部33と、センサ11a、11bにより検出された橋脚1の振動のフーリエ変換の振幅と地盤振動算出部33により算出された地盤3の振動のフーリエ変換の振幅との比を算出する振幅比算出部34と、振幅比算出部34により算出された比を比の理論値にあてはめた際のパラメータを算出する理論振幅比算出部35と、振幅比算出部34により算出された比と比の理論値との間の決定係数を算出する決定係数算出部36と、理論振幅比算出部35により算出されたパラメータ及び決定係数算出部36により算出された決定係数に基づいて固有振動数を特定する固有振動数特定部37とを有する。
【0081】
このようにすることで、橋脚1の固有振動数が既知でなくとも構造物の微動データのみを用いることでこの橋脚1の固有振動数を特定することができ、固有振動数が既知でない橋脚1に対しても高精度に固有振動数の特定が可能となる。
【0082】
ここで、制御部20は、特定の分割振動数帯における橋脚1の振動中心1aの高さを算出する振動中心位置算出部31と、算出された振動中心1aの高さに基づいて特定の分割振動数帯内に固有振動数が存在するか否かを判定する振動中心位置判定部32とを有し、制御部20は、振動中心位置判定部32により固有振動数が存在しないと判定された特定の分割振動数帯については固有振動数特定作業を行わないので、固有振動数特定作業の簡略化を図ることができる。
【0083】
また、センサ11a、11bを橋脚1の上端部(天端)に設けており、橋脚1の上端部は振動が最も大きくなると考えられるので、センサ11a、11bによる構造物の振動検出を高精度にかつ確実に行うことができる。
但し、上述した原理からも理解できるように、センサ11a、11bは橋脚1の底面から同一高さにあればよく、必ずしも上端部に設けられる必要はない。一方、センサ11a、11bの設置間隔、つまり橋軸垂直方向の間隔はできるだけ広いほうが好ましい。つまり、
図2(a)においてセンサ11a、11bの振動軌跡と天端とのなす角度α、βが大きいほうが、振動中心1aの位置を決定する上で有利であるので、かかる条件を満足する観点からは、センサ11a、11bは橋脚1の両端部に設けられることが好ましい。
【0084】
(実験例)
実際の鉄道橋脚について、本実施の形態である固有振動数特定装置10による固有振動数特定作業を実施した。この鉄道橋脚について実際に衝撃振動試験を行った結果、固有振動数が6.0Hzであることが測定できた。この鉄道橋脚の天端にセンサを取り付け、その微動のフーリエスペクトルを算出した結果を
図5に示す。
図5に見るように、フーリエスペクトル上ではピークが2つ出現し、このピークから鉄道橋脚の固有振動数を特定することは困難である。
【0085】
そこで、1Hz〜19Hzまでの振動数帯を3Hz毎の分割振動数帯に分割し、各々の分割振動数帯において上述した固有振動数特定作業を行った結果を次表に示す。
【表1】
【0086】
この表に示すように、分割振動数帯4Hz〜7Hzにおいて最も高い決定係数(0.62)が得られ、その際の最適な固有振動数f(t)は5.91Hzであった。この数値は、実際の衝撃振動試験で得られた固有振動数の値に十分近い値であり、従って、本実施の形態である特定装置10により橋脚1の固有振動数を十分特定できることがわかった。
【0087】
なお、
図6〜
図11に、個々の分割振動数帯における鉄道橋脚の振動と地盤振動とのフーリエ振幅比の算出値40と理論値41とをグラフにして示す。分割振動数帯4Hz〜7Hzにおいてもっともよいフィッティング結果が得られていることがわかる。
【0088】
以上、図面を参照して、本発明の実施の形態を詳述してきたが、具体的な構成は、この実施の形態及び実施例に限らず、本発明の要旨を逸脱しない程度の設計的変更は、本発明に含まれる。
【0089】
例えば、上述の実施の形態である特定装置10では橋脚1の固有振動数の特定動作について説明を行ったが、本発明の特定装置は橋脚のみならず地盤に設置された構造物であればその固有振動数を特定することが可能である。
【0090】
そして、上述の実施例において、特定装置10を動作させるプログラムは記憶部21に格納されて提供されていたが、不図示の光学ディスクドライブ等を用いて、プログラムが格納されたDVD(Digital Versatile Disc)、USB外部記憶装置、メモリーカード等を接続し、このDVD等からプログラムを特定装置10に読み込んで動作させてもよい。また、インターネット上のサーバ装置内にプログラムを格納しておき、特定装置10に通信部を設けてこのプログラムを特定装置10に読み込んで動作させてもよい。さらに、上述の実施例において、特定装置10は複数のハードウェア要素により構成されていたが、これらハードウェア要素の一部の動作を制御部20がプログラムの動作により実現することも可能である。