特許第6840111号(P6840111)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6840111
(24)【登録日】2021年2月18日
(45)【発行日】2021年3月10日
(54)【発明の名称】既存建物の解体方法
(51)【国際特許分類】
   E04G 23/08 20060101AFI20210301BHJP
   E04B 5/43 20060101ALI20210301BHJP
   F16F 15/02 20060101ALI20210301BHJP
【FI】
   E04G23/08 Z
   E04B5/43 H
   F16F15/02 K
【請求項の数】3
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2018-134944(P2018-134944)
(22)【出願日】2018年7月18日
(65)【公開番号】特開2020-12292(P2020-12292A)
(43)【公開日】2020年1月23日
【審査請求日】2020年10月6日
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000206211
【氏名又は名称】大成建設株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100124084
【弁理士】
【氏名又は名称】黒岩 久人
(72)【発明者】
【氏名】川畑 秀夫
【審査官】 西村 隆
(56)【参考文献】
【文献】 特開2018−096073(JP,A)
【文献】 特開2003−083803(JP,A)
【文献】 特開2012−162959(JP,A)
【文献】 特開2014−034813(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E04G 23/08
F16F 15/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
既存建物の解体方法であって、
地表面近傍の所定階の床スラブ上に、上方からの衝撃を緩和する防振床構造を構築するとともに、当該防振床構造の上階の各階の床スラブに開口を設けて、前記既存建物の解体対象階から前記防振床構造に至るガラ投入路を形成する工程と、
前記解体対象階を解体し、解体ガラを前記ガラ投入路に投入して前記防振床構造の上面で受け止めて、その後、当該受け止めた解体ガラを搬出する工程と、を備え、
前記防振床構造は、床スラブの上に設けられた防水層と、当該防水層の上に設けられて防振マット、砕石、および敷鉄板のうち少なくとも2つを含んで形成された防振層と、を備えることを特徴とする既存建物の解体方法。
【請求項2】
前記防振床構造を構築する工程では、当該防振床構造を地下階の設備室の直上階または2層以上の上階に設けることを特徴とする請求項1に記載の既存建物の解体方法。
【請求項3】
前記解体対象階を解体する工程では、前記既存建物に取り付けた振動計測器により振動を計測し、当該計測値が所定値を超えた場合には、警報装置から現場内に警報を発令するとともに、所定の携帯端末に異常が発生した旨を報知することを特徴とする請求項1または2に記載の既存建物の解体方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、既存建物の解体工事において、解体作業に伴い発生する振動を低減可能な既存建物の解体方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、建物の新築工事や解体工事において、建設重機の走行や建設重機による躯体の解体により、大きな振動が発生する場合がある。特に市街地ではこのような振動が近隣に及ぼす影響が大きくなる。このような振動を低減するため、建設重機の振動を吸収可能な、防振マットや重機上載用防振構造が提案されている(特許文献1、2参照)。また、既存建物の解体工事において、既存建物外壁面の解体ガラ搬出口付近に騒音防止部材を設置した状態で、既存躯体の地上と地下とを同時に解体する解体工法が提案されている(特許文献3参照)。
【0003】
特許文献1の防振マットは、平面視矩形状で合成樹脂の硬質発泡フォームである防振材と、防振材の上面に敷積層された鉄板と、敷鉄板の周縁部に設けられて防振材を抱持する抱持片と、を備える。
特許文献2の重機上載用防振構造は、熱硬化性樹脂である板状の連続気泡ポリウレタンフォームと、そのポリウレタンフォーム上に載置される剛性敷板と、で構成されている。
【0004】
特許文献3の解体工法では、既存躯体に解体する最上階から最深部の地下階に連通して到るガラ投入用貫通路を形成し、既存躯体の地上部分を最上階から解体してその解体したガラをガラ投入用貫通路によって地下部分に投下しながら、地上1階のスラブにおけるガラ投入用開口部以外の部分を残すとともに、地下柱のうち山留めに必要な地下柱を残して他の地下躯体を解体し、解体期間の一部において地上部分と地下部分とを同時に解体する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平7−279443号公報
【特許文献2】特開2014−34813号公報
【特許文献3】特開2012−162959号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、既存建物の解体工事において、解体作業に伴い発生する振動を低減可能な既存建物の解体方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、既存建物の解体方法として、解体対象階から投下される解体ガラをガラ投入路の下端に設けた防振床構造上で受け止めることで、解体工事に伴い発生する振動を吸収可能な点に着眼して、本発明に至った。
特に、既存建物の一部の部屋を使用しながら解体する際には、使用中の部屋の直上階または2層以上の上階に防振床構造を設けることで、防振床構造および部屋と防振床構造殿間の建物躯体が解体工事に伴って発生する振動エネルギーを吸収するため、既存建物の一部を使用しながら、防振床構造よりも上階を解体できる。
【0008】
第1の発明の既存建物の解体方法は、地表面近傍の所定階(例えば、後述の地上1階)の床スラブ(例えば、後述の本設床スラブおよび仮設床スラブ47、48)上に、上方からの衝撃を緩和する防振床構造(例えば、後述の防振床構造40)を構築するとともに、当該防振床構造の上階の各階の床スラブに開口を設けて、前記既存建物の解体対象階から前記防振床構造に至るガラ投入路(例えば、後述のガラ投入路11)を形成する工程(例えば、後述のステップS2)と、前記解体対象階を解体し、解体ガラを前記ガラ投入路に投入して前記防振床構造の上面で受け止めて、その後、当該受け止めた解体ガラを搬出する工程(例えば、後述のステップS3)と、を備えることを特徴とする。
【0009】
この発明によれば、既存建物を解体し、その解体ガラをガラ投入路の下端に設けた防振床構造上で受け止めることで、ガラ投入路を通って落下した解体ガラが防振床構造に衝突する際の振動エネルギーが防振床構造で吸収されるため、解体作業に伴い発生する振動を低減できる。よって、解体工事に伴って発生する振動レベルが低下し、振動が近隣に及ぼす影響を減らすことができる。
【0010】
第2の発明の既存建物の解体方法は、前記防振床構造を構築する工程では、当該防振床構造を使用中の部屋(例えば、後述の設備室10)の直上階または2層以上の上階に設け、前記解体対象階を解体する工程では、前記部屋の使用を継続しながら前記解体対象階を解体することを特徴とする。
【0011】
この発明によれば、使用中の部屋の上側に、解体ガラを一旦受け止めるための防振床構造を設置することで、既存建物の一部の部屋を使用しながら、防振床構造の上側を解体できる。具体的には、所定階の床スラブ上に防振床構造を構築するとともに、既存建物の解体対象階から防振床構造に至るガラ投入路を形成する。そして、解体対象階を解体した解体ガラをガラ投入路に投入して防振床構造の上面で受け止めて、その後、受け止めた解体ガラを搬出する。
このとき、使用中の部屋の直上階または2層以上の上階に防振床構造を設けたので、防振床構造や使用中の部屋と防振床構造との間の建物躯体によって、解体ガラが防振床構造に衝突する際の振動エネルギーが吸収されるため、使用中の部屋に伝わる振動を低減できる。
【0012】
第3の発明の既存建物の解体方法は、前記解体対象階を解体する工程では、前記既存建物に取り付けた振動計測器(例えば、後述の振動計測器55)により振動を計測し、当該計測値が所定値を超えた場合には、警報装置(例えば、後述の警報装置56)から現場内に警報を発令するとともに、工事関係者の携帯端末(例えば、後述の携帯端末58)に異常が発生した旨を報知することを特徴とする。
【0013】
この発明によれば、既存建物の一部を使用しながらこの既存建物を解体する際、既存建物に取り付けた振動計測器により振動を計測し、この計測値が予め設定した閾値を超える場合には、警報を発令するとともに、工事関係者の携帯端末に異常である旨を通知する。よって、許容値を超える振動が発生した場合、工事関係者が直ちに解体手段を変更して振動を低減させることが可能となる。
【0014】
第4の発明の既存建物の解体方法は、前記防振床構造は、床スラブの上に設けられた防水層(例えば、後述の防水層41)と、当該防水層の上に設けられて防振マット(例えば、後述の防振マット44)、砕石(例えば、後述の砕石45)、および鋼板(例えば、後述の敷鉄板46)のうち少なくとも2つを含んで形成された防振層(例えば、後述の防振層42)と、を備えることを特徴とする。
【0015】
この発明によれば、防振床構造を、防水層と、防振マット、砕石、敷鉄板から形成された防振層と、を含んで構成したので、解体対象階やガラ投入路の上端が外部に開放されていても、防振床構造の下に位置する室に雨水が浸入するのを防止できる。
また、防振床構造を構成する防振層を、防振マット、砕石、敷鉄板といった複数の防振抵抗材を組み合わせて形成した。よって、防振床構造の設置箇所ごとに、防振抵抗材の特性を考慮して適宜組み合わせて、防振性能を確保しつつ厚みを抑えた防振床構造を低コストで実現できる。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、解体対象階から投下される解体ガラを防振床構造上で一旦受け止めることで、解体ガラが防振床構造に衝突する際の振動エネルギーが防振床構造で吸収されるため、解体作業に伴い発生する振動を低減できる。また、使用中の部屋の上側に防振床構造を設置したので、既存建物の一部の部屋を使用しながら、防振床構造の上側を解体することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】本発明の一実施形態に係る既存建物の解体方法が適用される既存建物の縦断面図である。
図2図1に示す既存建物の1階平面図である。
図3】実施形態に係る既存建物の解体方法による解体手順のフローチャートである。
図4】既存建物の解体手順の説明図(その1、ガラ投入路)である。
図5】既存建物の解体手順の説明図(その2、階段室、DS、PSの止水処理)である。
図6】既存建物の解体手順の説明図(その3、エレベータシャフトの止水処理)である。
図7】既存建物の解体手順の説明図(その4、防振床構造)である。
図8】既存建物の解体手順の説明図(その5、防振床構造の平断面図)である。
図9】既存建物の解体手順の説明図(その6、防振床構造の縦断面図)である。
図10】既存建物の解体手順の説明図(その7、振動監視システムの構成を示す模式図)である。
図11】振動監視システムによる振動計測結果である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明は、既存建物の解体方法として、地表面近傍の所定階の床スラブ上に、解体対象階から投下される解体ガラの衝撃を緩和する防振床構造を設置することで、解体工事に伴い発生する振動レベルを低減することが可能な既存建物の解体方法である。主な特徴は、以下の3点である。まず、防水層上に複数の防振材を組み合わせて配置して防振床構造を構成したので、防振床構造の下階への雨水浸入を防止できるとともに、解体ガラの落下位置付近とその他の位置とで異なる防振性能を比較的容易に実現できる。また、既存建物の一部を使用している場合であっても、使用中の部屋の直上階または2層以上の上階に防振床構造を設けることで、既存建物の一部を使用しながら既存建物を解体できる。また、既存建物内に設置した振動計測器により解体中の振動を計測し、この計測値に基づいて既存建物の破砕解体手段を適宜変更することで、振動レベルを低下させることができる。
【0019】
以下、本発明の一実施形態について、図面を参照しながら説明する。
図1は、本発明の一実施形態に係る既存建物の解体方法が適用される既存建物1の縦断面図である。図2は、図1に示す既存建物1の1階平面図である。
既存建物1は、地下5階、地上n階建ての建物である。この既存建物1のコア部2には、地下3階からn階まで延びる2つの高層用エレベータシャフト3A、3B、地下3階から途中階であるm階まで延びる2つの低層用エレベータシャフト3C、3D、階段室4、DS(ダクトスペース)5、PS(パイプスペース)6などが設けられている。
エレベータシャフト3A〜3Dには、其々3基のエレベータ7が収容されている。
この既存建物1の地下5階および地下4階は、機械設備あるいは電気設備が収容された設備室10となっている。また、この設備室10の上階である地下3階および地下2階は、駐車場であり、床面に本設の床防水8が施されている。
【0020】
以下、既存建物1を解体する手順について、図3のフローチャートを参照しながら説明する。
本発明の解体方法では、地下5階および地下4階を設備室10として使用しながら、エレベータシャフト3A、3Dの地上1階から上の部分をガラ投入路11とし、このガラ投入路11を通して、解体対象階から地上1階まで解体ガラを投下し、地上1階において投下された解体ガラを搬出する。つまり、本実施形態では、地上1階が地表面近傍の所定階となり、エレベータを撤去したエレベータシャフト3A、3Dがガラ投入路となる。また、地下4階および地下5階の設備室10が既存建物内の使用中の部屋となり、地下1階から地下3階までの建物躯体を挟んで地上1階床上に防振床構造40を設置する。
まず、ステップS1では、図4に示すように、既存建物1の内装材を撤去するとともに、エレベータシャフト3A〜3Dのエレベータ7を撤去する。なお、本ステップおよび以下の各ステップS2、S3において、設備室10の使用を継続している。
【0021】
ステップS2では、図4に示すように、地下3階、地下2階、地下1階、地上(m+1)階に止水処理20を行う。止水処理とは、上階から流入する雨水を受け止めて、雨水が下階に浸入するのを防止する処置を施すことである。
具体的には、図5に示すように、地下3階、地下2階、地下1階、地上(m+1)階において、開口である階段室4、DS5、PS6を仮設床スラブ22で塞ぐ。すなわち、まず、階段室4、DS5、PS6を板材21で塞いで、この板材21の上にコンクリートを打設して仮設床スラブ22とする。階段室4、DS5、PS6には、雨水配管や排水配管など上下に延びる既存配管23が設けられているので、この既存配管23を仮設床スラブ22表面の高さで切断して、中継ドレン24を形成する。次に、この仮設床スラブ22の上に塗布防水であるウレタン防水を施工して防水層25を形成する。これにより、階段室4、DS5、PS6の防水層25上に溜まった水を、中継ドレン24から既存配管23を通して排水する。
【0022】
また、図6に示すように、地下3階、地下2階、地下1階、地上(m+1)階において、エレベータシャフト3A〜3Dのうちガラ投入路として使用しない部分については、エレベータシャフト3A〜3Dを囲む壁30を一部解体して壁開口31を設け、これら壁開口31間に仮設床32を架設して、この仮設床32を利用してエレベータシャフト3B内に雨水を受け止める雨受け仮設屋根33を架設する。さらに、この仮設屋根33の直上階において、エレベータシャフト3Bを囲む壁30を一部解体して壁開口31を設け、これら壁開口31間に、エレベータシャフト3B内にコンクリートガラを受け止める養生屋根34を架設する。
【0023】
また、地下2階の天井付近に、仮設屋根12を架設する。
また、1階床スラブ上に、上方からの衝撃を緩和する防振床構造40を構築する。防振床構造40は、図7に示すように、1階の全面に亘って設けられている。この防振床構造40は、図8および図9に示すように、1階の床スラブ上に設けられた防水層41と、この防水層41の上に設けられた防振層42と、を備える。
防水層41は、コンクリート表面に塗布された塗布防水である。
防振層42は、防水層41の上に所定間隔おきに配置された矩形平板状の防振マット44と、これら防振マット44同士の間に敷き詰められた砕石45と、防振マット44および砕石45の上に敷設された鋼板としての敷鉄板46と、を備える。
ここで、防振マット44の配置、砕石45の層厚さ、および敷鉄板46の仕様は、以下のようにして決定した。すなわち、床スラブのみの第1の試験体と、防振マット上に敷鉄板を敷設した第2の試験体、および砕石上に敷鉄板を敷設した第3の試験体に対して、重量物を落下させる実験を行った。その結果、第2の試験体では第1の試験体よりも振動を50%低減できることが確認できた。この実験結果に基づいて、防振マット44を厚さ150mmの架橋ポリエチレン、具体的には、ミラブロック(登録商標)とした。また、敷鉄板46を厚さ22mmとした。その結果、防振床構造40の厚さは、150mm〜200mm程度となった。
【0024】
防振床構造40を構築する手順は、以下のようになる。まず、地上1階において、図7に示すように、地下3階、地下2階、地下1階、地上(m+1)階と同様に、開口である階段室4、DS5、PS6を仮設床スラブ47で塞ぐ。さらに、エレベータシャフト3A〜3Dについても、仮設床スラブ48で塞ぐ。このようにして、1階床レベルを本設床スラブおよび仮設床スラブ47、48で完全に塞ぐ。次に、本設床スラブおよび仮設床スラブ47、48の上に塗布防水を施工して防水層41を構築し、この防水層41の上に防振マット44を配置し、これら防振マット44同士の間に砕石45を敷き詰める。そして、防振マット44および砕石45の上に、敷鉄板46を敷設する。
これにより、図4に示すように、エレベータシャフト3A、3Dが、防振床構造40の直上に位置する各階の床スラブに設けられた開口となり、解体対象階から防振床構造40に至るガラ投入路11が形成される。
【0025】
また、図4に示すように、解体対象階(屋上階)でかつガラ投入路11の上方に、仮設屋根35を設けて、ガラ投入路11内に雨水が入り込まないようにする。防振床構造40の下方に使用中の設備室10があるため、防振床構造40および仮設屋根35により、雨水進入阻止手段を二重に設けることとする。
【0026】
さらに、既存建物1に振動監視システム50を取り付ける。振動監視システム50は、既存建物1の解体作業により設備室10に生じる振動を監視し、振動が所定値以上となった場合、警報を発令したりその旨を報知したりするものである。
図10に示すように、この振動監視システム50は、入力装置51、表示装置52、制御装置53、記憶装置54、振動計測器55、警報装置56、および無線通信装置57を備える。
【0027】
入力装置51は、制御装置53に情報を入力する装置であり、キーボードやマウスのほか、タッチパネルなどがある。
表示装置52は、入力装置51で入力された情報や制御装置53から出力された情報を表示する装置であり、例えばモニタである。
記憶装置54は、種々の情報を記憶する装置であり、例えばハードディスクである。
制御装置53は、例えばコンピュータであり、記憶装置54に記憶されたプログラムを読み出して、動作制御を行うOS(Operating System)上に展開して実行するものである。
振動計測器55は、振動を計測して制御装置53に送信する装置であり、設備室10の壁面および柱面に複数設置されている。
警報装置56は、警報を発令する装置であり、現場内に設置されている。この警報装置56は、例えば、スピーカやパトランプである。
無線通信装置57は、現場内の工事関係者の携帯端末58と無線通信を行う装置であり、例えば無線ルータである。
【0028】
制御装置53は、振動計測器55の計測値が所定値を超えるか否かを判定し、この計測値が所定値を超えた場合には、異常が発生したと判定する判定手段60と、判定手段60により異常が発生したと判定された場合には、警報装置56を制御して現場内に警報を発令するとともに、無線通信装置57を介して現場内の工事関係者の携帯端末58に異常が発生した旨を報知する報知手段61と、を備える。
【0029】
ステップS3では、最上階から下方に向かって順に既存建物1を解体し、図4中白抜き矢印で示すように、解体対象階の解体ガラをガラ投入路11に投入して防振床構造40の上面で受け止めて、その後、受け止めた解体ガラを水平移動して搬出する。このとき、設備室10の使用を継続しているので、振動監視システム50により、設備室10に生じる振動を監視し、振動計測器55の計測値が所定値を超えた場合には、警報装置56により現場内に警報を発令するとともに、現場内の工事関係者の携帯端末58に異常が発生した旨を報知する。
工事関係者は、携帯端末58から異常が発生した旨の情報を受け取ると、解体方法を変更する。具体的には、例えば、ガラ投入路11に投入する解体ガラの大きさを小さくする。その結果、振動計測値が許容値以下になった場合には、この新たな解体方法を継続し、振動計測値が許容値以下にならなかった場合には、さらに別の解体方法に変更する。
【0030】
[実施例]
以下、本発明の実施例について説明する。図11は、振動監視システムによる振動計測結果である。
本実施例では、地上1階の防振床構造上においてバックホーによる解体ガラの破砕作業を行い、この破砕作業により生じた振動を、地下3階に設置した振動計測器で計測した。
防振床構造の防振マットは、厚さ150mmのミラブロック(登録商標)を用いた。敷鉄板46は、厚さ22mmを用いた。
バックホーとしては、0.45m、0.70m、1.20m、1.60mを使用した。振動分析法としては、1/3オクターブバンド ピークホールド分析 rms値を採用した。
【0031】
また、振動計測器の計測値について異常が発生したと判定する閾値を、注意レベルと警戒レベルとの2種類設定した。注意レベルの閾値は、変位50μmおよび加速度40galのうち少なくとも一方とした。つまり、振動計測器で計測された振動の変位が50μmを超えるか、あるいは、振動の加速度が40galを超えた場合には、注意レベルの異常が発生したと判定し、現場内に注意レベルの警報を発令するとともに、工事関係者の携帯端末に注意レベルの異常が発生した旨を報知する。
また、警戒レベルの閾値は、変位100μmおよび加速度80galのうち少なくとも一方とした。つまり、振動計測器で計測された振動の変位が100μmを超えるか、あるいは、振動の加速度が80galを超えた場合には、警戒レベルの異常が発生したと判定し、現場内に警戒レベルの警報を発令するとともに、工事関係者の携帯端末に警戒レベルの異常が発生した旨を報知する。
【0032】
図11に示すように、0.45m、0.70m、1.20mのバックホーによる破砕作業では、振動が注意レベルに達しなかった。一方、1.60mのバックホーによる破砕作業では、振動が注意レベルに達したものの、警戒レベルには達しなかった。よって、防振床構造により破砕作業による振動を十分に軽減でき、地下5階および地下4階を設備室として使用できることが判る。
【0033】
本実施形態によれば、以下のような効果がある。
(1)1階の床スラブ上に防振床構造40を構築するとともに、既存建物1の解体対象階から防振床構造40に至るガラ投入路11を形成する。そして、解体対象階を解体した解体ガラをガラ投入路11に投入して防振床構造40の上面で受け止めて、その後、受け止めた解体ガラを水平移動して搬出する。
このとき、使用中の設備室10の上に防振床構造40を設けたので、防振床構造40が解体ガラによる衝撃を緩和するから、使用中の設備室10に伝わる振動を低減できる。
また、既存建物1の一部である設備室10を使用しながらであっても、使用中の設備室10の3層上階である地上1階に防振床構造40を設けることで、既存建物1を解体できる。
【0034】
(2)設備室10を使用しながら既存建物1を解体する際、既存建物1に取り付けた振動計測器55により振動を計測し、この計測値が予め設定した閾値を超える場合には、警報装置56から警報を発令するとともに、工事関係者の携帯端末58に異常である旨を通知する。よって、許容値を超える振動が発生した場合に、工事関係者が直ちに振動を低減させる対策をとることが可能となる。
【0035】
(3)防振床構造40を、防水層41と、防振マット44、砕石45、敷鉄板46から形成された防振層42と、を含んで構成したので、解体対象階やガラ投入路11の上端が外部に開放されていても、防振床構造の下に位置する設備室10に雨水が浸入するのを防止できる。
また、防振床構造40を構成する防振層42を、防振マット44、砕石45、敷鉄板46といった複数の防振抵抗材を組み合わせて形成した。よって、防振床構造40の設置箇所ごとに、必要な防振性能を確保するために、防振抵抗材の特性を考慮して適宜組み合わせることで、低コストかつ薄い防振床構造を実現できる。
【0036】
なお、本発明は前記実施形態に限定されるものではなく、本発明の目的を達成できる範囲での変形、改良等は本発明に含まれるものである。
例えば、本実施形態では、防振床構造40を防水層41および防振層42で構成したが、これに限らない。例えば、既存建物の一部を使用せずに解体工事を行う場合には、防水層を設けず、防振層のみで防振床構造を形成してもよい。
また、本実施形態では、防振床構造40を使用中の設備室10の上階である地上1階に設けたが、これに限らない。例えば、平面視で、使用中の部屋が既存建物1の一端側に位置する場合は、既存建物1の他端側であれば、使用中の部屋の下階に防振床構造を設けてもよい。
また、本実施形態では、エレベータ7を撤去したエレベータシャフト3A、3Dをガラ投入路11として使用したが、これに限らず、配管設備や電機設備等のDS(ダクトスペース)5やPS(パイプスペース)6をガラ投入路として使用してもよい。
【符号の説明】
【0037】
1…既存建物 2…コア部 3A、3B…高層用エレベータシャフト
3C、3D…低層用エレベータシャフト 4…階段室 5…DS 6…PS
7…エレベータ 8…床防水 10…設備室(部屋) 11…ガラ投入路
12…仮設屋根
20…止水処理 21…板材 22…仮設床スラブ 23…既存配管
24…中継ドレン 25…防水層
30…壁 31…壁開口 32…仮設床 33…仮設屋根 34…養生屋根
35…仮設屋根
40…防振床構造 41…防水層 42…防振層 44…防振マット 45…砕石
46…敷鉄板(鋼板) 47、48…仮設床スラブ
50…振動監視システム 51…入力装置 52…表示装置 53…制御装置
54…記憶装置 55…振動計測器 56…警報装置 57…無線通信装置
58…携帯端末 60…判定手段 61…報知手段
図1
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図11