特許第6840137号(P6840137)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6840137
(24)【登録日】2021年2月18日
(45)【発行日】2021年3月10日
(54)【発明の名称】摩擦クラッチ
(51)【国際特許分類】
   F16D 13/70 20060101AFI20210301BHJP
【FI】
   F16D13/70 A
【請求項の数】10
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2018-517423(P2018-517423)
(86)(22)【出願日】2016年9月5日
(65)【公表番号】特表2018-531349(P2018-531349A)
(43)【公表日】2018年10月25日
(86)【国際出願番号】DE2016200416
(87)【国際公開番号】WO2017059852
(87)【国際公開日】20170413
【審査請求日】2019年9月2日
(31)【優先権主張番号】102015219151.6
(32)【優先日】2015年10月5日
(33)【優先権主張国】DE
(73)【特許権者】
【識別番号】515009952
【氏名又は名称】シェフラー テクノロジーズ アー・ゲー ウント コー. カー・ゲー
【氏名又は名称原語表記】Schaeffler Technologies AG & Co. KG
(74)【代理人】
【識別番号】100114890
【弁理士】
【氏名又は名称】アインゼル・フェリックス=ラインハルト
(74)【代理人】
【識別番号】100098501
【弁理士】
【氏名又は名称】森田 拓
(74)【代理人】
【識別番号】100116403
【弁理士】
【氏名又は名称】前川 純一
(74)【代理人】
【識別番号】100135633
【弁理士】
【氏名又は名称】二宮 浩康
(74)【代理人】
【識別番号】100162880
【弁理士】
【氏名又は名称】上島 類
(72)【発明者】
【氏名】クリストフ ラーバー
【審査官】 中島 亮
(56)【参考文献】
【文献】 特開2004−036898(JP,A)
【文献】 実公昭47−025395(JP,Y1)
【文献】 米国特許出願公開第2002/0179396(US,A1)
【文献】 特表2001−526362(JP,A)
【文献】 特開平07−269593(JP,A)
【文献】 特開平09−250562(JP,A)
【文献】 実開平03−053628(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16D 11/00− 23/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
自動車のパワートレーン用の摩擦クラッチ(1)であって、
少なくとも1つのカウンタプレッシャプレート(2)と、
前記カウンタプレッシャプレート(2)に結合される少なくとも1つのクラッチカバー(5)と、
前記カウンタプレッシャプレート(2)に関して前記摩擦クラッチ(1)の軸方向(A)で制限された範囲で変位可能な少なくとも1つの圧着プレート(4)であって、クラッチディスク(3)を前記カウンタプレッシャプレート(2)と前記圧着プレート(4)との間で摩擦結合式に締め付ける圧着プレート(4)と、
を備え、前記クラッチカバー(5)には、前記摩擦クラッチ(1)の周方向(U)で分配配置される複数の皿ばねセンタリング装置(13)が設けられており、
前記皿ばねセンタリング装置(13)により、軸方向(A)で前記圧着プレート(4)と前記クラッチカバー(5)との間に配置されている皿ばね(6)が、前記摩擦クラッチ(1)の回転軸線(D)に関してセンタリングされた位置に保持されており、
前記皿ばねセンタリング装置(13)には、板ばね(9)が設けられており、前記板ばね(9)により前記圧着プレート(4)は、相対回動不能にかつ軸方向(A)で制限された範囲で変位可能に前記クラッチカバー(5)に結合されており、かつ
前記皿ばね(6)は、作用縁(7)を有し、前記作用縁(7)は、前記摩擦クラッチ(1)の半径方向(R)で前記皿ばねセンタリング装置(13)よりも外側に配置されるピボット部(10)を介して傾倒可能に前記クラッチカバー(5)に支持されており、前記皿ばね(6)の非操作時、前記クラッチディスク(3)を摩擦結合式に締め付けるべく、前記圧着プレート(4)を前記カウンタプレッシャプレート(2)に向かって変位させるように、半径方向(R)で前記ピボット部(10)よりも外側で前記圧着プレート(4)に作用する、
摩擦クラッチ(1)において、
前記板ばね(9)は、前記皿ばね(6)の操作状態で前記皿ばね(6)用のストッパを形成しており、前記皿ばね(6)の前記作用縁(7)が半径方向(R)で前記ピボット部(10)よりも外側で前記クラッチカバー(5)の内面(11)に接触する前に、前記ストッパには、前記皿ばね(6)が接触することを特徴とする摩擦クラッチ(1)。
【請求項2】
前記圧着プレート(4)は、カム部分を有し、前記カム部分は、半径方向(R)で前記圧着プレート(4)への前記板ばね(9)の結合部よりも外側に配置されており、前記カム部分には、前記皿ばね(6)の前記作用縁(7)が当接する、請求項1記載の摩擦クラッチ(1)。
【請求項3】
前記板ばね(9)は、周方向(U)で略円弧部分の形状を呈し、前記パワートレーンのコースティング運転時、圧着力を高めるようになっている、請求項1または2記載の摩擦クラッチ(1)。
【請求項4】
前記板ばね(9)は、第1の直径上で前記皿ばねセンタリング装置(13)に結合されており、かつ前記板ばね(9)は、前記第1の直径より大きい第2の直径上で前記圧着プレート(4)に結合されている、請求項1から3までのいずれか1項記載の摩擦クラッチ(1)。
【請求項5】
前記摩擦クラッチ(1)の支持力は、専ら前記板ばね(9)により加えられ、前記板ばね(9)の前記圧着プレート(4)側の端部に結合される摩擦プレート(18)を介してカムリング(19)に導入され、該カムリング(19)から前記皿ばね(6)の前記作用縁(7)に導入される、請求項1から4までのいずれか1項記載の摩擦クラッチ(1)。
【請求項6】
前記皿ばね(6)は、少なくとも非操作状態で前記皿ばねセンタリング装置(13)の領域において軸方向(A)で支持されていない、請求項1から5までのいずれか1項記載の摩擦クラッチ(1)。
【請求項7】
前記皿ばねセンタリング装置(13)は、皿ばねセンタリングピン(14)として形成されており、各皿ばねセンタリングピン(14)は、前記皿ばねセンタリングピン(14)を前記クラッチカバー(5)に結合する第1のピン頭(15)と、前記皿ばねセンタリングピン(14)を前記板ばね(9)の少なくとも1つに結合する第2のピン頭(16)と、軸方向(A)で前記第1および第2のピン頭(15,16)間に配置され、前記皿ばね(6)を前記摩擦クラッチ(1)の前記回転軸線(D)に関してセンタリングされた位置に保持する、前記第1および第2のピン頭(15,16)の直径より大きい直径を有するセンタリング部分(17)とを有する、請求項1から6までのいずれか1項記載の摩擦クラッチ(1)。
【請求項8】
前記ピボット部(10)は、半径方向(R)で少なくとも部分的に前記板ばね(9)よりも外側に配置されている、請求項1から7までのいずれか1項記載の摩擦クラッチ(1)。
【請求項9】
前記ピボット部(10)は、前記クラッチカバー(5)に、環状に延びる1つのビードとして、または周方向(U)で互いに間隔を置いた複数のビード(12)として形成されている、請求項1から8までのいずれか1項記載の摩擦クラッチ(1)。
【請求項10】
前記圧着プレート(4)は、少なくとも2つの部分からなる金属薄板構成部材として形成されており、一方では、前記クラッチディスク(3)に当接する摩擦プレート(18)を有し、他方では、前記カム部分を有するカムリング(19)を有し、前記カムリング(19)には、前記皿ばね(6)の前記作用縁(7)が当接し、前記カムリング(19)は、前記摩擦プレート(18)内に差し込まれている、請求項2を引用する請求項9記載の摩擦クラッチ(1)。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、請求項1の上位概念部に記載の自動車のパワートレーン用の摩擦クラッチに関する。
【背景技術】
【0002】
独国特許出願公開第4311908号明細書において、自動車のパワートレーン用の摩擦クラッチが公知である。この公知の摩擦クラッチが、カウンタプレッシャプレートと、カウンタプレッシャプレートに結合されるクラッチカバーと、カウンタプレッシャプレートに関して摩擦クラッチの軸方向で制限された範囲で変位可能な圧着プレートであって、クラッチディスクをカウンタプレッシャプレートと圧着プレートとの間で摩擦結合式に締め付ける圧着プレートと、を備えている。クラッチカバーには、摩擦クラッチの周方向で分配配置される複数の皿ばねセンタリングピンが設けられており、皿ばねセンタリングピンにより、軸方向で圧着プレートとクラッチカバーとの間に配置されている皿ばねが、摩擦クラッチの回転軸線に関してセンタリングされた位置に保持されている。皿ばねセンタリングピンには、板ばねが設けられており、板ばねにより圧着プレートは、相対回動不能にかつ軸方向で制限された範囲で変位可能にクラッチカバーに結合されている。皿ばねは、作用縁を有し、作用縁は、摩擦クラッチの半径方向で皿ばねセンタリングピンよりも外側に配置される2つのワイヤリングを介して傾倒可能にクラッチカバーに支持されており、皿ばねの非操作時、クラッチディスクを摩擦結合式に締め付けるべく、圧着プレートをカウンタプレッシャプレートに向かって変位させるように、半径方向でワイヤリングよりも外側で圧着プレートに作用している。
【0003】
独国特許出願公開第4311908号明細書では、皿ばねは、2つのワイヤリングにより摩擦クラッチの軸方向で所定の位置に保持されている。第1のワイヤリングは、クラッチカバー側のワイヤリングとして形成されており、クラッチカバーと皿ばねとの間に配置されている。第2のワイヤリングは、圧着プレート側のワイヤリングとして形成されており、皿ばねと、板ばねの、クラッチカバーに面する当接面との間に配置されている。皿ばねセンタリングピンは、クラッチカバー側でクラッチカバーにリベット止めされており、圧着プレート側で板ばねにリベット止めされている。クラッチカバーとのリベット止めにより、かつワイヤリングおよび板ばねの当接面と協働して、皿ばねセンタリングピンは、皿ばね用のセンタリング機能の他に、皿ばね用の支持力機能を担っている。すなわち、皿ばねセンタリングピンは、皿ばねをクラッチカバー側のワイヤリングにより皿ばねの非操作状態でクラッチカバーに向かって、かつ圧着プレート側のワイヤリングにより皿ばねの操作状態で圧着プレートに向かって支持している。
【0004】
独国特許出願公開第4311908号明細書において、支持力を皿ばねに導入するために2つのワイヤリングの形態の付加的な構成部材が必要であることは、不都合である。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の課題は、摩擦クラッチの操作中、何らかの不都合な点が生じることなく、必要とされる構成部材の数を減じることが可能な摩擦クラッチを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明によれば、この課題は、請求項1に記載の、自動車のパワートレーン用の摩擦クラッチであって、少なくとも1つのカウンタプレッシャプレートと、カウンタプレッシャプレートに結合される少なくとも1つのクラッチカバーと、カウンタプレッシャプレートに関して摩擦クラッチの軸方向で制限された範囲で変位可能な少なくとも1つの圧着プレートであって、クラッチディスクをカウンタプレッシャプレートと圧着プレートとの間で摩擦結合式に締め付ける圧着プレートと、を備え、クラッチカバーには、摩擦クラッチの周方向で分配配置される複数の皿ばねセンタリング装置が設けられており、皿ばねセンタリング装置により、軸方向で圧着プレートとクラッチカバーとの間に配置されている皿ばねが、摩擦クラッチの回転軸線に関してセンタリングされた位置に保持されており、皿ばねセンタリング装置には、板ばねが設けられており、板ばねにより圧着プレートは、相対回動不能にかつ軸方向で制限された範囲で変位可能にクラッチカバーに結合されており、かつ皿ばねは、作用縁を有し、作用縁は、摩擦クラッチの半径方向で皿ばねセンタリング装置よりも外側に配置されるピボット部を介して傾倒可能にクラッチカバーに支持されており、皿ばねの非操作時、クラッチディスクを摩擦結合式に締め付けるべく、圧着プレートをカウンタプレッシャプレートに向かって変位させるように、半径方向でピボット部よりも外側で圧着プレートに作用する、摩擦クラッチにより解決される。
【0007】
皿ばねの操作時、特に皿ばねの超過行程中、すなわち、皿ばねが最大の係合解除行程を超えて動かされるとき、摩擦クラッチの機能性を保証すべく、かつ超過行程中、特にクラッチディスクに向かう圧着プレートの運動、場合によっては、摩擦クラッチの意図しない閉鎖を阻止すべく、板ばねおよび/または圧着プレートへの板ばねの取り付け部は、皿ばねの操作状態で皿ばね用のストッパを形成しており、皿ばねの作用縁が半径方向でピボット部よりも外側でクラッチカバーの内面に接触する前に、ストッパには、皿ばね、特に皿ばねフィンガ部の少なくとも1つが接触する。
【0008】
これにより、皿ばねが、最大の係合解除行程を超えて操作される超過行程中、超過行程の臨界領域へと変位されてしまうことが阻止される。超過行程の臨界領域では、板ばねにより圧着プレートを介して皿ばねに導入される支持力は、皿ばねを摩擦クラッチの軸方向で所定の位置に保持するには不十分である。板ばねおよび/または圧着プレートへの板ばねの取り付け部におけるストッパの位置次第で、ストッパは、さらに、付加的な軸方向の力成分をクラッチディスクに向かって、かつ半径方向でピボット部よりも内側で導入することにより、半径方向でピボット部よりも外側で皿ばねに導入される支持力を高めるために利用されることができる。いずれにしても、ストッパにより、最大の係合解除行程の超過時、皿ばねの超過行程を、摩擦クラッチの機能にとって臨界的でない大きさに制限することができる。
【0009】
本発明の好ましい実施例は、従属請求項に記載されている。
【0010】
好ましい一実施例によれば、圧着プレートは、カム部分を有し、カム部分は、半径方向で圧着プレートへの板ばねの結合部よりも外側に配置されており、カム部分には、皿ばねの作用縁が当接する。板ばねは、周方向で互いに間隔を置いて圧着プレートに、半径方向でカム部分よりも内側において結合されている。結合は、好ましくは、圧着プレートと板ばねとのリベット止めにより実施されるが、ねじ止めまたはかしめにより実施されてもよい。
【0011】
圧着プレート側のカム部分は、閉じたカムリングとして形成されていてもよいし、単数または複数の箇所で中断されたカムリングとして形成されていてもよい。同様に、カム部分は、周方向で互いに間隔を置いた、軸方向で延在する複数のカムピンを有していてもよい。カム部分の、皿ばねに面し、皿ばねの作用縁が当接する表面は、フラットに形成されていてもよいが、好ましくは、皿ばねの傾倒を促進すべくあるいは皿ばねの作用縁とカム部分の表面との間の摩擦を低減すべく、丸み付けられて形成されている。
【0012】
好ましい別の一実施例によれば、板ばねは、周方向で略円弧部分の形状を呈している。円弧部分状の板ばねを摩擦クラッチの回転軸線に関して同心に結合することが可能である。しかし、圧着プレートへの板ばねの取り付け点と、クラッチカバーあるいはクラッチカバー側の皿ばねセンタリング装置への板ばねの取り付け点とが、互いに異なる直径上に配置されていてもよい。この場合、隣り合う板ばねの、圧着プレート側の端部とクラッチカバー側の端部とが、半径方向で見て部分的にオーバラップすることが可能である。
【0013】
好ましくは、板ばねは、パワートレーンのコースティング運転時、圧着力を高めるように配置されている。トランスミッション側から見て、自動車の内燃機関のクランク軸は、反時計回りに回転する。これにより摩擦クラッチも、トランスミッション側から見て反時計回りに回転する。圧着プレートの圧着力を高めるために、板ばねが、トランスミッション側から見て反時計回りに、クラッチカバーから圧着プレートに向かって下り勾配をなすように、すなわち、各板ばねのクラッチカバー側の端部が、反時計回りに、対応する板ばねの圧着プレート側の端部の手前に配置されるように、各板ばねは配置されている。
【0014】
特に板ばねは、第1の直径上で皿ばねセンタリング装置に結合されており、かつ第1の直径より大きい第2の直径上で圧着プレートに結合されていると、有利である。したがって、板ばねは、摩擦クラッチの回転軸線に関して同心に配置されておらず、これにより、隣り合う板ばねの端部は、半径方向で見て部分的にオーバラップすることができ、このことは、板ばねの長さを延長させる可能性を開く。
【0015】
好ましい別の一実施例によれば、摩擦クラッチの支持力は、専ら板ばねにより加えられ、圧着プレートを介して皿ばねの作用縁に導入される。加えて、例えば多層の板ばねや、特に厚い個々の板ばねを使用することで、板ばねの力が高められると、有利である。
【0016】
さらに皿ばねは、少なくとも非操作状態で皿ばねセンタリング装置の領域において軸方向で支持されていないと、有利である。特にこの領域には、皿ばねを支持するワイヤリングまたは支持ばねが設けられていない。このことは、特に、圧着プレートと、皿ばねの、圧着プレートに面した表面との間の領域に関する。
【0017】
好ましくは、皿ばねセンタリング装置は、皿ばねセンタリングピンとして形成されている。各皿ばねセンタリングピンは、好ましくは、皿ばねセンタリングピンをクラッチカバーに結合する第1のピン頭と、皿ばねセンタリングピンを板ばねの少なくとも1つに結合する第2のピン頭とを有する。さらに、各皿ばねセンタリングピンは、軸方向で第1および第2のピン頭間に配置され、皿ばねを摩擦クラッチの回転軸線に関してセンタリングされた位置に保持するセンタリング部分を有する。好ましくは、センタリング部分は、胴形に形成されている。すなわち、センタリング部分は、両ピン頭より大きい直径を有する。センタリング部分は、中間に1つの皿ばね窓孔が配置されている隣り合う2つの皿ばねフィンガ部間を軸方向で延在している。皿ばねフィンガ部は、半径方向で外向きに皿ばねの作用縁に向かって延在している。
【0018】
好ましい別の一実施例によれば、ピボット部は、半径方向で少なくとも部分的に板ばねよりも外側に配置されている。このことは、摩擦クラッチの特にコンパクトな構造を可能にする。
【0019】
特にピボット部は、クラッチカバーに形成されていると、有利である。好ましくは、ピボット部は、環状に延びる1つのビードとしてか、または周方向で互いに間隔を置いた複数のビードとして形成されている。ピボット部は、半径方向で圧着プレート側のカム部分とクラッチカバー側の皿ばねセンタリング装置との間に配置されている。
【0020】
さらに圧着プレートは、少なくとも2つの部分からなる金属薄板構成部材として形成されており、一方では、クラッチディスクに当接する摩擦プレートを有し、他方では、カム部分を有するカムリングを有し、カムリングには、皿ばねの作用縁が当接すると、有利である。カムリングは、堅固に摩擦プレートに好ましくは力結合(kraftschluessig)および/または形状結合(formschluessig)および/または素材結合(stoffschluessig)式に結合されていることができる。摩擦クラッチの全支持力が板ばねにより加えられ、圧着プレートを介して皿ばねの作用縁に導入、より正確にいえば、摩擦プレートを介してカムリングに、そしてカムリングから皿ばねの作用縁に導入されるので、カムリングと摩擦プレートとを緩やかに(ルーズに)組み合わせることも可能であり、その結果、この緩やかな結合の保持を、板ばねの支持力により実施可能である。このために、例えば、摩擦プレートの、クラッチディスクから背離した表面に、リング形の溝を設け、この溝内にカムリングを緩挿することが可能である。場合によっては、カムリングは、摩擦クラッチの組み立て時に脱落することを防止すべく、力結合および/または形状結合および/または素材結合式に保持されてもよい。
【0021】
以下に、好ましい実施例に基づいて、添付の図面を参照しながら、本発明について詳しく説明する。
【図面の簡単な説明】
【0022】
図1】カウンタプレッシャプレートと、カウンタプレッシャプレートに結合されるプレッシャプレート構成群と、プレッシャプレート構成群の圧着プレートとカウンタプレッシャプレートとの間に配置されるクラッチディスクと、を備える摩擦クラッチの断面図である。
図2図1に示したプレッシャプレート構成群の斜視断面図である。
図3図1および2に示した組み立てられた圧着プレートの斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
図1ないし3は、自動車のパワートレーン用の摩擦クラッチ1あるいは内部に圧着プレート4が含まれるプレッシャプレート構成群の好ましい実施例に関する。本明細書において本発明にとって本質的な特徴でない特徴は、任意選択的な特徴と解すべきである。それゆえ、以下の説明は、摩擦クラッチ1あるいはプレッシャプレート構成群の、以下に説明する特徴の部分的な組み合わせを含むさらなる実施例にも関する。
【0024】
摩擦クラッチ1は、回転軸線Dに関して回転可能に配置されている。圧着プレート4の他に、摩擦クラッチ1は、少なくとも1つのカウンタプレッシャプレート2と、摩擦クラッチ1の軸方向Aで圧着プレート4とカウンタプレッシャプレート2との間に配置される少なくとも1つのクラッチディスク3とを備えている。カウンタプレッシャプレート2は、単数または複数のハウジング構成部材、特にクラッチカバー5に堅固に結合、特にねじ止めされている。圧着プレート4は、カウンタプレッシャプレート2に関してかつクラッチカバー5に関して相対回動不能に支持されており、かつ軸方向Aで制限された範囲で変位可能である。
【0025】
クラッチカバー5には、摩擦クラッチ1の周方向Uで分配配置される複数の皿ばねセンタリング装置13が設けられている。皿ばねセンタリング装置13は、好ましくは皿ばねセンタリングピン14として形成されており、軸方向Aで圧着プレート4とクラッチカバー5との間に配置されている皿ばね6は、皿ばねセンタリングピン14により、摩擦クラッチ1の回転軸線Dに関してセンタリングされた位置に保持されている。
【0026】
皿ばねセンタリングピン14の各々は、第1のピン頭15と、第2のピン頭16と、軸方向Aで第1および第2のピン頭15,16間に配置されるセンタリング部分17とを有している。第1のピン頭15により、皿ばねセンタリングピン14は、クラッチカバー5に結合されている。第2のピン頭16により、皿ばねセンタリングピン14は、摩擦クラッチ1の少なくとも1つの板ばね9に結合されている。皿ばねセンタリングピン14のセンタリング部分17は、胴形に形成されている。すなわち、両ピン頭15,16の直径より大きい直径を有する。センタリング部分17により、皿ばね6は、摩擦クラッチ1の回転軸線Dに関してセンタリングされた位置に保持されている。
【0027】
皿ばね6は、皿ばね6の外側領域に環状に延びる作用縁7を有している。作用縁7を起点として、摩擦クラッチ1の半径方向Rで内向きに、皿ばねフィンガ部8が延在している。隣り合う皿ばねフィンガ部8は、間隙により互いに間隔を置いている。間隙は、半径方向Rで外向きに、すなわち作用縁7に向かって拡幅し、皿ばね窓孔を形成している。皿ばね窓孔を貫いて、皿ばねセンタリングピン14が軸方向Aで延在し、これにより、皿ばね6を摩擦クラッチ1の回転軸線Dに関してセンタリングすることができる。皿ばねフィンガ部8の自由端部には、操作システム、例えばコンセントリックスレーブシリンダが作用し、これにより、摩擦クラッチ1を係合および/または係合解除することができる。
【0028】
周方向Uで分配配置される複数の板ばね9により、圧着プレート4は、相対回動不能にかつ軸方向Aで制限された範囲で変位可能にクラッチカバー5に結合されている。板ばね9は、圧着プレート4をクラッチディスク3から軸方向Aで離間させる、すなわち、カウンタプレッシャプレート2とクラッチディスク3との間あるいはクラッチディスク3と圧着プレート4との間の摩擦結合を解消するように形成されており、これにより、摩擦クラッチ1を係合解除することができる。板ばね9は、周方向Uで複数の円弧部分の形状を呈している。これらの円弧部分は、摩擦クラッチ1の回転軸線Dに関して同心的に配置されていない。むしろ板ばね9は、第1の直径上で皿ばねセンタリングピン14の第2のピン頭16に結合され、第1の直径とは異なる第2の直径上で圧着プレート4に結合されている。図示の実施例では、第2の直径は、第1の直径より大きい。さらに板ばね9は、パワートレーンのコースティング運転中、圧着力を高めるように配置されている。
【0029】
摩擦クラッチ1が自動車のパワートレーン内に組み込まれているとき、摩擦クラッチ1は、トランスミッション側から見て反時計回りに方向付けられた回転方向Tを有する。板ばね9に関して、パワートレーンのコースティング運転中、圧着力を高めるような配置とは、各板ばね9の第1の端部が、皿ばねセンタリングピン14に結合されており、同じ板ばね9の、反時計回りに配置される第2の端部が、圧着プレート4に結合されていること、すなわち図1に関して、板ばね9が、反時計回りに下り勾配に方向付けられていることを意味する。
【0030】
圧着プレート4は、カム部分を有し、カム部分は、半径方向Rで圧着プレートへの板ばね9の結合部よりも外側に配置されており、カム部分には、皿ばね6の作用縁7が当接している。図示の実施例では、圧着プレート4は、2つの部分からなる金属薄板構成部材として形成されており、摩擦プレート18とカムリング19とを有する。摩擦プレート18は、クラッチディスク3に当接するように形成されており、これにより、クラッチディスク3を摩擦結合式に圧着プレート4の摩擦プレート18とカウンタプレッシャプレート2との間で締め付けることができる。カムリング19は、図示の実施例では、開いたカムリング19として形成されているが、閉じたカムリング19として形成されていてもよい。カムリング19の、皿ばね6に面した表面には、皿ばね6の作用縁7が当接している。
【0031】
摩擦クラッチ1の支持力は、専ら板ばね9により加えられ、圧着プレート4を介して、より正確にいえば、板ばね9の圧着プレート側の端部に結合される摩擦プレート18を介してカムリング19に導入され、カムリング19から皿ばね6の作用縁7に導入される。これにより、カムリング19が堅固に摩擦プレート18に、例えば力結合および/または形状結合および/または素材結合により結合されていることは、もはや不要であり、カムリング19は、緩やかに(ルーズに)摩擦プレート18に結合されていれば、十分である。図示の実施例では、このために、リング形の溝が摩擦プレート18内に、この摩擦プレート18の、クラッチディスク3から背離した表面において凹設されており、この溝内に、カムリング19が緩装されている。軸方向での保持は、板ばねの支持力により実施される。
【0032】
皿ばね6は、摩擦クラッチ1の少なくとも非操作状態で、皿ばねセンタリング装置13の領域、すなわち、皿ばねセンタリングピン14のセンタリング部分17の領域において、軸方向Aで支持されていない。このことは、皿ばね6がこの領域で摩擦クラッチ1の回転軸線Dに関してセンタリングされているだけで、この領域では軸方向力が皿ばね6に伝達され得ない、あるいはこの領域では皿ばね6が軸方向力を隣接する構成部材に伝達し得ないこと意味する。
【0033】
さらに皿ばね6は、半径方向Rで皿ばねセンタリングピン14よりも外側に配置されるピボット部10を介して傾倒可能にクラッチカバー5に支持されている。半径方向Rでピボット部10よりも外側で、皿ばね6、より正確にいえば、皿ばね6の作用縁7が、皿ばね6の非操作時、クラッチディスク3を摩擦結合式に締め付けるべく、板ばね9の、係合解除方向で作用する支持力に抗して、圧着プレート4をカウンタプレッシャプレート2に向かって変位させるように、カムリング19に作用している。これにより、摩擦クラッチ1は、好ましくは、常閉形の摩擦クラッチ1として形成される。
【0034】
皿ばね6が、操作システム、例えばコンセントリックスレーブシリンダにより操作されると、皿ばね6の傾倒中、圧着プレート4に及ぼされる皿ばね力は、減少し、その結果、板ばね9は、圧着プレート4を係合解除方向で変位させることができ、これにより、クラッチディスクの摩擦結合式の締め付けを解消することができる。
【0035】
ピボット部10は、半径方向Rで少なくとも部分的に板ばね9よりも外側に配置されている。図示の実施例では、ピボット部10は、クラッチカバー5に形成されており、周方向Uで互いに間隔を置いた複数のビード12を有し、ビード12は、軸方向Aでクラッチカバー5の内面11から皿ばね6に向かって突出し、これにより、皿ばね6を皿ばね6の作用縁7の領域で傾倒可能に支持することができる。周方向Uで互いに間隔を置いた複数のビード12の代わりに、環状に延びる単一のビードも可能である。
【0036】
板ばね9および/または圧着プレート4への板ばね9の取り付け部は、皿ばね6の操作状態で皿ばね6用のストッパを形成しており、皿ばね6の作用縁7が半径方向Rでピボット部10よりも外側でクラッチカバー5の内面11に接触する前に、ストッパには、皿ばね6の少なくとも1つの皿ばねフィンガ部8が接触する。これにより、皿ばね6の最大の係合解除行程の超過時、皿ばね6のある程度の超過行程を実現するが、同時に、板ばねの支持力が皿ばね6を支持するにはもはや十分でないほど、皿ばね6が超過行程方向に動かされてしまうことを阻止することができる。板ばねの支持力が皿ばね6を支持するにはもはや十分でないほど、皿ばね6が超過行程方向に動かされてしまうと、圧着プレート4は、超過行程中、クラッチディスク3に向かって動かされ、これにより、摩擦クラッチ1を意図せず閉鎖してしまうことがある。
【0037】
上述の実施例は、自動車のパワートレーン用の摩擦クラッチ1であって、少なくとも1つのカウンタプレッシャプレート2と、カウンタプレッシャプレート2に結合される少なくとも1つのクラッチカバー5と、カウンタプレッシャプレート2に関して摩擦クラッチ1の軸方向Aで制限された範囲で変位可能な少なくとも1つの圧着プレート4であって、クラッチディスク3をカウンタプレッシャプレート2と圧着プレート4との間で摩擦結合式に締め付ける圧着プレート4と、を備え、クラッチカバー5には、摩擦クラッチ1の周方向Uで分配配置される複数の皿ばねセンタリング装置13が設けられており、皿ばねセンタリング装置13により、軸方向Aで圧着プレート4とクラッチカバー5との間に配置されている皿ばね6が、摩擦クラッチ1の回転軸線Dに関してセンタリングされた位置に保持されており、皿ばねセンタリング装置13には、板ばね9が設けられており、板ばね9により圧着プレート4は、相対回動不能にかつ軸方向Aで制限された範囲で変位可能にクラッチカバー5に結合されており、かつ皿ばね6は、作用縁7を有し、作用縁7は、摩擦クラッチ1の半径方向Rで皿ばねセンタリング装置13よりも外側に配置されるピボット部10を介して傾倒可能にクラッチカバー5に支持されており、皿ばね6の非操作時、クラッチディスク3を摩擦結合式に締め付けるべく、圧着プレート4をカウンタプレッシャプレート2に向かって変位させるように、半径方向Rでピボット部10よりも外側で圧着プレート4に作用し、板ばね9および/または圧着プレート4への板ばね9の取り付け部は、皿ばね6の操作状態で皿ばね6用のストッパを形成しており、皿ばね6の作用縁7が半径方向Rでピボット部10よりも外側でクラッチカバー5の内面11に接触する前に、ストッパには、皿ばね6が接触する、摩擦クラッチ1に関する。
【符号の説明】
【0038】
1 摩擦クラッチ
2 カウンタプレッシャプレート
3 クラッチディスク
4 圧着プレート
5 クラッチカバー
6 皿ばね
7 作用縁
8 皿ばねフィンガ部
9 板ばね
10 ピボット部
11 内面
12 ビード
13 皿ばねセンタリング装置
14 皿ばねセンタリングピン
15 第1のピン頭
16 第2のピン頭
17 センタリング部分
18 摩擦プレート
19 カムリング
A 軸方向
D 回転軸線
R 半径方向
U 周方向
T 回転方向
図1
図2
図3