(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6840178
(24)【登録日】2021年2月18日
(45)【発行日】2021年3月10日
(54)【発明の名称】ヒドロキシアニゴルホンの使用
(51)【国際特許分類】
A61K 31/122 20060101AFI20210301BHJP
A61P 25/20 20060101ALI20210301BHJP
A61P 25/00 20060101ALI20210301BHJP
A61P 9/12 20060101ALI20210301BHJP
A61P 7/04 20060101ALI20210301BHJP
A61P 37/02 20060101ALI20210301BHJP
A23L 33/10 20160101ALI20210301BHJP
【FI】
A61K31/122
A61P25/20
A61P25/00
A61P9/12
A61P7/04
A61P37/02
A23L33/10
【請求項の数】7
【外国語出願】
【全頁数】15
(21)【出願番号】特願2019-53868(P2019-53868)
(22)【出願日】2019年3月20日
(65)【公開番号】特開2020-59691(P2020-59691A)
(43)【公開日】2020年4月16日
【審査請求日】2019年4月24日
(31)【優先権主張番号】107135407
(32)【優先日】2018年10月8日
(33)【優先権主張国】TW
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】512256812
【氏名又は名称】大江生醫股▲ふん▼有限公司
【氏名又は名称原語表記】TCI Co.Ltd
(74)【代理人】
【識別番号】100064012
【弁理士】
【氏名又は名称】浜田 治雄
(72)【発明者】
【氏名】林 詠翔
(72)【発明者】
【氏名】余 錦秀
(72)【発明者】
【氏名】蘇 郁虹
(72)【発明者】
【氏名】林 珊瑜
(72)【発明者】
【氏名】鐘 ▲ぎょく▼旻
【審査官】
古閑 一実
(56)【参考文献】
【文献】
国際公開第2018/134962(WO,A1)
【文献】
米国特許出願公開第2010/0028469(US,A1)
【文献】
特開2012−036195(JP,A)
【文献】
特開平07−309713(JP,A)
【文献】
特表2013−501772(JP,A)
【文献】
Human Molecular Genetics,2014年,Vol.23, No.20,p.5429-5440
【文献】
Orphanet Journal of Rare Diseases,2017年,Vol.12,p.1-21,DOI:10.1186/s13023-016-0522-z
【文献】
日本生理人類学会誌,2010年,Vol.15, No.4,p.97-103
【文献】
Phytochemistry,2014年,Vol.103,p.171-177
【文献】
J. Agric. Food Chem.,2002年,Vol.50,p.6330-6334
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 31/00−33/44
A23L 31/00−33/29
A61P 1/00−43/00
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
メラトニン合成の増加、メラトニン分泌の促進、神経代謝障害に関連する疾患の治療、神経代謝障害に関連する疾患の予防、食欲制御、気分制御、血管収縮制御、止血機能制御、および免疫応答制御のうち少なくとも1つのための組成物であって、以下の式(I
)
【化1】
の化合物と、
製薬上の許容される担体と
で構成される組成物
。
【請求項2】
前記式(I)の化合物が、経口投与、経皮投与、静脈内注射、および皮下注射のうち少なくとも1つによって投与される請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
前記組成物が医薬組成物であり、かつメラトニン合成の増加、メラトニン分泌の促進、神経代謝障害に関連する疾患の治療、および神経代謝障害に関連する疾患の予防のうち少なくとも1つのための組成物である請求項1に記載の組成物。
【請求項4】
不眠を治療するための組成物である請求項3に記載の組成物。
【請求項5】
前記組成物が食品組成物であり、かつ睡眠障害改善、ならびに睡眠制御、食欲制御、気分制御、血管収縮制御、止血機能制御、および免疫応答制御のうち少なくとも1つのための組成物である請求項1に記載の組成物。
【請求項6】
TPH1遺伝子発現の増加、DDC遺伝子発現の増加、AANAT遺伝子発現の増加、およびASMTL遺伝子発現の増加のうち少なくとも1つのための組成物であって、以下の式(I)
【化2】
の化合物と、
製薬上の許容される担体と
で構成される組成物
。
【請求項7】
前記式(I)の化合物が、経口投与、経皮投与、静脈内注射、および皮下注射のうち少なくとも1つによって投与される請求項6に記載の組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、メラトニン合成の増加および/またはメラトニン分泌の促進における式(I)の化合物の使用を含む、次の式(I)の化合物(すなわち、ヒドロキシアニゴルホン)の使用に関する:
【化1】
本発明はまた、神経代謝障害に関連する疾患の治療、神経代謝障害に関連する疾患の予防、食欲制御、気分制御、血管収縮制御、止血機能制御、および/または免疫応答制御における、式(I)の化合物の使用に関する。本発明はまた、TPH1遺伝子発現の増加、DDC遺伝子発現の増加、AANAT遺伝子発現の増加、および/またはASMTL遺伝子発現の増加における、式(I)の化合物の使用に関する。
【背景技術】
【0002】
関連出願の相互参照
本出願は、2018年10月8日に台湾経済部知的財産局へ出願された台湾特許出願第107135407号の優先権を主張するものであり、その開示は、参照によりその全体が本明細書に組み込まれる。
【0003】
メラトニンは松果体から分泌されるホルモンであり、生体時計を調節する機能を果たす。メラトニン分泌は光に曝露することで抑えられるため、人間は昼間に起きていることができる。一方で、メラトニン分泌が夜間に増加することで、眠ることができる。夜間のメラトニン分泌は、夜勤もしくは不規則な勤務、神経過敏、および/または長時間にわたる電子機器使用などの生活様式を続けた場合、不充分となる。不十分なメラトニン分泌は、睡眠の質の低下をもたらしたり、または睡眠障害(例えば、不眠)および/もしくは問題(例えば、昼間の疲労感、生体時計の乱れ、免疫力の低下)を引き起こしたりすることで、日常生活に深刻な影響を及ぼす。
【0004】
睡眠障害を治療するために臨床で一般的に使用される薬剤には、催眠鎮静薬(例えば、ベンゾジアゼピンおよびバルビツール酸)ならびに抗うつ薬(例えば、クロミプラミンおよびイミプラミン)が含まれる。しかしながら、前述の薬剤は嗜癖を起こしやすく、過眠症、悪心、頭痛、嘔吐、胃腸の不快感、記憶障害、反跳性不眠、意識喪失、運動失調、呼吸困難、および/または夢遊症などの副作用を有することがある。現在、ウシの松果体から抽出されるメラトニン、および/または化学的に合成されるメラトニンも市販されているが、そのようなメラトニンは、狂牛病および/または不確かなメラトニン安全量を懸念する国では厳しく管理または禁止されている。したがって、嗜癖および副作用を引き起こすことなく、不眠治療および/または睡眠障害の効果的改善のための薬剤または方法を継続的に開発する必要性および緊急性が存在する。
【0005】
メラトニンの発現は、TPH1遺伝子、DDC遺伝子、AANAT遺伝子、およびASMTL遺伝子のような遺伝子により制御され、TPH1遺伝子、DDC遺伝子、AANAT遺伝子、および/またはASMTL遺伝子の発現増加は、メラトニン合成を増加させ、かつメラトニン分泌を促進することによって不眠を治療し、睡眠障害を改善し、睡眠を制御する効果を達成することが明らかとなった。
【0006】
本発明者らは、次の式(I)の化合物(すなわち、ヒドロキシアニゴルホン)が、TPH1遺伝子、DDC遺伝子、AANAT遺伝子、およびASMTL遺伝子といった遺伝子の発現を増加させるのに有効であり、したがってメラトニン合成の増加および/またはメラトニン分泌の促進に用いることができるため、不眠治療、睡眠障害の改善、および睡眠制御の効果を奏することを発見した。式(I)の化合物はまた、上記遺伝子に関連する疾患または生理機能の治療、予防、または制御にも有効である:
【化2】
【発明の概要】
【0007】
本発明の目的は、メラトニン合成の増加および/またはメラトニン分泌の促進のための医薬組成物の製造における次の式(I)の化合物(すなわち、ヒドロキシアニゴルホン)の使用を提供することである:
【化3】
好ましくは、医薬組成物は、経口投与、経皮投与、静脈内注射、または皮下注射の形態で提供される。好ましくは、医薬組成物は、不眠治療用である。
【0008】
本発明の別の目的は、神経代謝障害に関連する疾患の治療、および神経代謝障害に関連する疾患の予防のうち少なくとも1つのための医薬組成物の製造における、前述の式(I)の化合物の使用を提供することである。好ましくは、医薬組成物は、経口投与、経皮投与、静脈内注射、または皮下注射の形態で提供される。
【0009】
本発明のさらに別の目的は、睡眠障害の改善、食欲制御、睡眠制御、気分制御、血管収縮制御、止血機能制御、および免疫応答制御のうち少なくとも1つにおいて、前述の式(I)の化合物の使用を提供することである。好ましくは、式(I)の化合物は、睡眠障害の改善および/または睡眠制御のために使用され、経口、経皮、または注射経路を介して摂取される。より好ましくは、式(I)の化合物は食品組成物の形態で使用することができ、この場合食品組成物とは、健康食品、健康補助食品、機能性食品、栄養補助食品、または特別な栄養食品である。
【0010】
本発明のさらに別の目的は、医薬組成物の製造における前述の式(I)の化合物の使用を提供することである。医薬組成物は、TPH1遺伝子発現の増加、DDC遺伝子発現の増加、AANAT遺伝子発現の増加、およびASMTL遺伝子発現の増加のうちの少なくとも1つのために使用される。好ましくは、医薬組成物は、経口投与、経皮投与、静脈内注射、または皮下注射の形態で提供される。
【0011】
本発明のさらに別の目的は、メラトニン合成の増加およびメラトニン分泌の促進のうち少なくとも1つのための方法であって、有効量の下記式(I)の化合物を必要とする対象に投与することを含む方法を提供することである:
【化4】
好ましくは、本発明の方法は、不眠の治療、睡眠障害の改善、および睡眠制御のためのものである。本発明による方法において、式(I)の化合物を上述の医薬組成物として投与することができる。
【0012】
本発明のさらに別の目的は、神経代謝障害に関連する疾患の治療、神経代謝障害に関連する疾患の予防、食欲制御、気分制御、血管収縮制御、止血機能制御、および免疫応答制御のうち少なくとも1つの方法であって、有効量の前述の式(I)の化合物を必要とする対象に投与することを含む方法を提供することである。本発明による方法において、式(I)の化合物は、上記の医薬組成物または食品組成物として投与することができる。
【0013】
本発明のさらに別の目的は、TPH1遺伝子発現の増加、DDC遺伝子発現の増加、AANAT遺伝子発現の増加、およびASMTL遺伝子発現の増加のうち少なくとも1つの方法であって、有効量の前述の式(I)の化合物を必要とする対象に投与することを含む方法を提供することである。本発明による方法において、式(I)の化合物は、上記の医薬組成物として投与することができる。
【0014】
本発明のために実施される詳細な技術および好ましい実施形態は、本分野の当業者が請求された発明の特徴を充分に理解するために、添付の図面に付随する以下の段落で説明される。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】
図1は、TPH1遺伝子、DDC遺伝子、AANAT遺伝子、およびASMTL遺伝子の発現の増加における本発明による式(I)の化合物の効果を示す。「対照群」における細胞を前述の式(I)の化合物を含まない培地中で48時間培養し、「実験群」における細胞を前述の式(I)の化合物を含有する培地中で48時間培養した。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の実施形態の一部を詳細に説明する。しかしながら、本発明の範囲から逸脱しない限りにおいて、本発明は様々な実施形態で実施することができ、かつ本明細書に記載された実施形態または添付の特許請求の範囲に定義された実施形態に限定されるべきではない。
【0017】
本明細書にて特に断りのない限り、本発明の明細書に記載される(特に請求項における)「ひとつの(a)」、「ひとつの(an)」、または「その(the)」といった表現は、単数形および複数形の両方を含むよう意図される。本明細書に記載される用語「予防する(prevent)」または「予防(preventing)」とは、特定の疾病状態の発生を阻害もしくは予防すること、またはデリケートな対象が疾患に耐えられるよう良好な健康を維持することを指す。本明細書に記載される用語「治療する(treat)」または「治療(treating)」とは、対象が完全に回復するまで対象を治療するものと解釈されるべきではなく、実質的に静的な状態で、疾患の進行もしくは症状を維持すること、対象の回復率を増加させること、疾病の特定の状態の重篤度を軽減すること、または患者の生活の質を高めることを含むべきである。本明細書に記載される用語「制御する(regulate)」または「制御(regulating)」とは、対象における生理機能を正常状態に向けて上方制御(誘発、刺激、および増強を含む)または下方制御(抑制および弱化を含む)することを指す。本明細書に記載される用語「対象(subject)」と用語は、ヒトおよび非ヒト動物を含む哺乳類を指す。
【0018】
TPH1遺伝子は主にセロトニン合成と関与していることが知られており、食欲、睡眠、気分、血管収縮、止血機能、および免疫応答などの生理機能に関連している。したがって、TPH1遺伝子発現の減少は、セロトニンに関連する上記の生理機能に影響を及ぼす。例えば、「Analysis of tryptophan hydroxylase I and II mRNA expression in the human brain: a post−mortem study. J Psychiatr Res. 2007 Jan−Feb;41(1−2):168−73」、「Role of Serotonin in the Immune System and in Neuroimmune Interactions. BRAIN, BEHAVIOR, AND IMMUNITY 12, 249−271 (1998)」、「Serotonin and sleep. Sleep Medicine Reviews, Vol. 6, No. 1, pp 57−69, 2002」、「Effects of Serotonin on Intracellular pH and Contraction in Vascular Smooth Muscle. Circulation Research Vol 71,1992,1294−1304」、「Serotonin and Appetite Regulation. CNS Drugs 1998 Jun; 9 (6): 473−495」、「Serotonin and emotion, learning and memory. Rev. Neurosci. 2012; 23(5−6): 543−553」、および「The role of serotonin in haemostasis. Hamostaseologie. 2009 Nov;29(4):356−9」にて記述されており、参照により本明細書へその全体が組み込まれる。したがって、TPH1遺伝子発現を増加させることができれば、上記のセロトニンに関する生理機能を制御することができる。
【0019】
メラトニン合成にはDDC遺伝子が関与していることが知られており、またDDC遺伝子の欠損は神経代謝障害にもつながることも知られている。これらは「A comprehensive picture of the mutations associated with aromatic amino acid decarboxylase deficiency: from molecular mechanisms to therapy implications. Hum Mol Genet. 2014 Oct 15;23(20):5429−40」などに記述されており、参照により本明細書へその全体が組み込まれる。したがって、DDC遺伝子の発現を増加させることができれば、神経代謝障害に関連する疾患を治療または予防することができ、そしてメラトニン合成に関連する生理機能を制御することができる。
【0020】
AANAT遺伝子はメラトニン合成において重要な役割を果たすことが知られている。これらは「Diurnal variation in mRNA encoding serotonin N−acetyltransferase in pineal gland. Nature. 1995 Dec 21−28;378(6559):783−5」および「Role of a pineal cAMP−operated arylalkylamine N−acetyltransferasey14−3−3−binding switch in melatonin synthesis.PNAS July 3, 2001. 98 (14) 8083−8088」などに記述されており、参照により本明細書へその全体が組み込まれる。したがって、AANAT遺伝子発現を増加させることができれば、メラトニン合成に関連する生理機能を制御することができる。
【0021】
ASMTL遺伝子は、メラトニンの合成経路の最終触媒工程の要因となる鍵遺伝子であることが知られている。これらは、「Melatonin synthesis: Acetylserotonin Omethyltransferase (ASMT) is strongly expressed in a subpopulation of pinealocytes in the male rat pineal gland. Endocrinology. 2016 May;157(5):2028−40」などに記述されており、参照により本明細書へその全体が組み込まれる。したがって、ASMTL遺伝子発現を増加させることができれば、メラトニン合成に関連する生理機能を制御することができる。
【0022】
本発明者らは、次の式(I)の化合物が、TPH1遺伝子、DDC遺伝子、AANAT遺伝子、およびASMTL遺伝子の発現を効果的に増加させ得ることを偶然にも発見した:
【化5】
したがって、本発明は、睡眠障害改善、食欲制御、睡眠制御、気分制御、血管収縮制御、止血機能制御、および/または免疫応答制御において式(I)の化合物を使用すること、医薬組成物の製造において式(I)の化合物を使用すること、ならびに有効量の式(I)の化合物を必要とする対象に投与する方法を提供することを含む、式(I)の化合物の使用に関する。本発明に従って提供される医薬組成物および方法はまた、TPH1遺伝子、DDC遺伝子、AANAT遺伝子、および/またはASMTL遺伝子の発現を増加させるためのものでもある。
【0023】
本発明に従って採用される式(I)の化合物は、あらゆる好適な供給源から得ることができる。例えば、式(I)の化合物は市場より購入してもよく、精製され、植物の抽出物から精製および単離してもよく、または化学合成によって得てもよい。例えば、式(I)の化合物は、ChemFaces社(Rainbow Biotechnology CO., LTD)から購入することができる。
【0024】
本発明に従って提供される医薬組成物は、必要とする対象に全身的または局所的に投与することができ、経口薬物送達システム、経皮薬物送達システム、注射可能薬物送達システムなどといった種々の薬物送達システム(DDS)によって送達することができる。例えば、生物学的利用能を高め、薬物放出速度を調節し、病変を正確に標的化し、副作用を低減するために、医薬組成物を、リポソーム、マイクロカプセル、ナノ粒子、マイクロニードルによって送達することができるが、それによって限定されるわけではない。
【0025】
所望の目的に応じて、本発明の医薬組成物は、特に限定されることなく、あらゆる好適な形態で提供され得る。例えば、医薬組成物は、経口または非経口(経皮、静脈内注射、および皮下注射など)経路によって必要とする対象へ投与するのに好適な形態で提供され得るが、これによって限定されない。形態および目的に応じて好適な担体を選択することができ、かつ医薬組成物を提供するために使用することができる。担体の例としては、賦形剤、希釈剤、添加剤、安定剤、吸収抑制剤、崩壊剤、ハイドロトロープ剤、乳化剤、抗酸化剤、接着剤、結合剤、粘着付与剤、分散剤、懸濁剤、潤滑剤、吸湿剤などが挙げられる。
【0026】
経口投与のための形態として、本発明の医薬組成物は、活性成分(すなわち、式(I)の化合物)の所望の効果に悪影響を及ぼさないあらゆる薬学的に許容される担体を含み得る。好適な担体の例としては、水、生理食塩水、デキストロース、グリセロール、エタノールまたはその類似体、セルロース、デンプン、糖ベントナイト、およびそれらの組み合わせが挙げられるが、これらに限定されない。医薬組成物は、錠剤(例えば、糖衣丸)、丸薬、カプセル、顆粒剤、散剤、流エキス剤、液剤、シロップ、懸濁液、またはチンキ剤の形態といった経口投与のためのあらゆる好適な形態で、あらゆる好適な方法によって提供することができるが、それによって限定されるものではない。
【0027】
経皮投与の形態として、本発明の医薬組成物は、パッチ、エマルジョン、クリーム、ゲル(ヒドロゲルなど)、ペースト(分散ペースト、軟膏など)、スプレー、または外用溶液(サスペンションなど)の形態で提供することができるが、これに限定されるものではない。
【0028】
皮下または静脈内注射投与に好適な注射または点滴の形態に関しては、医薬組成物は、等張液、塩緩衝生理食塩水(例えば、リン酸緩衝生理食塩水またはクエン酸緩衝生理食塩水)、ハイドロトロープ剤、乳化剤、5%糖溶液、および点滴、乳化点滴、注射用粉末、注射用懸濁液、または注射用粉末懸濁液として医薬組成物を提供するための他の担体などのうち1つ以上の成分を含んでもよい。あるいは、医薬組成物は、前注射固体として調製してもよい。前注射固体は、他の溶液もしくは懸濁液に溶解する形態、または乳化可能な形態で提供することができる。所望の注射は、必要とする対象へ投与される前に、前注射固体を他の溶液もしくは懸濁液へ溶解するか、またはそれを乳化することによって提供される。
【0029】
対象の必要性、年齢、体重、および健康状態に応じて、本発明に従って提供される医薬組成物は、1日に1回、1日に複数回、または数日に1回など、様々な投与頻度で投与され得る。さらに、医薬組成物中の式(I)の化合物の量は、実際の用途の要件に応じて調節され得る。随意に、本発明に従って提供される医薬組成物は、他の活性成分が本発明の活性成分(すなわち、式(I)の化合物)の所望の効果に悪影響を及ぼさない限り、1つ以上の他の活性成分(例えば、催眠薬、抗うつ薬、およびメラトニン)をさらに含むか、または1つ以上の他の活性成分を含む薬剤と組み合わせて使用され、医薬組成物の効果をさらに増強するか、またはこのようにして提供される調製物の適用の柔軟性および順応性を高めることができる。
【0030】
随意に、本発明に従って提供される医薬組成物および食品組成物は、医薬組成物または食品組成物の嗜好性および視覚認知を高めるための香味剤、トナー、もしくは着色剤、および/または医薬組成物または食品組成物の安定性および保存性を改善するための緩衝剤、保存剤、防腐剤、もしくは抗真菌剤といった、好適な量の添加剤をさらに含むことができる。
【0031】
本発明に従って提供される食品組成物は、健康食品、健康補助食品、機能性食品、栄養補助食品、または特殊栄養食品であってもよく、そして乳製品、肉製品、パン、パスタ、クッキー、トローチ、カプセル、果汁、茶、スポーツ飲料、栄養飲料などとして製造することができるが、これらによって限定されるものではない。好ましくは、本発明に従って提供される食品組成物は健康食品である。
【0032】
対象の年齢、体重、および健康状態に応じて、本発明に従って提供される健康食品、健康補助食品、機能性食品、栄養補助食品、および特殊栄養食品は、1日に1回、1日に数回、または数日に1回といった、様々な頻度で摂取することができる。本発明に従って提供される健康食品、健康補助食品、機能性食品、栄養補助食品、および特殊栄養食品中における式(I)の化合物の量は、特定の集団に応じて、毎日摂取すべき量に調整することが好ましい。
【0033】
特定の集団(例えば、不眠症患者、うつ病患者、および妊婦)に推奨される1日投与量、使用基準、および使用条件、または他の食品または薬剤と組み合わせて使用するための推奨は、本発明に従って提供される健康食品、健康補助食品、機能性食品、栄養補助食品、および/または特殊栄養食品の外装に表示することができる。したがって、健康食品、健康補助食品、機能性食品、栄養補助食品、および/または特殊栄養食品は、医師、薬剤師、または関係する管理者の指示なしに、使用者自身が安全かつ確実に摂取するのに適している。
【0034】
本発明はまた、メラトニン合成の増加および/またはメラトニン分泌の促進のための方法であって、有効量の前述の式(I)の化合物を必要とする対象へ投与することを含む方法を提供する。この場合、用語「必要とする対象」とは、メラトニンの合成および/または分泌が不充分な対象を指す。本発明はまた、神経代謝障害に関連する疾患の治療、神経代謝障害に関連する疾患の予防、食欲制御、気分制御、血管収縮制御、止血機能制御、および/または免疫応答制御のための方法であって、有効量の前述の式(I)の化合物を必要とする対象へ投与することを含む方法を提供する。この場合、用語「必要とする対象」とは、神経代謝障害に関連する疾患、食欲増加、食欲不振、気分障害、血管収縮神経異常、止血異常、および/または異常免疫応答を患う対象を指す。上記方法において、式(I)の化合物は、上述のように医薬組成物または食品組成物として必要とする対象へ投与することができ、医薬組成物および食品組成物の投与型、投与経路、投与形態、投与頻度、および用途もまた全て上記の記載と同様である。
【0035】
本発明はまた、TPH1遺伝子発現の増加、DDC遺伝子発現の増加、AANAT遺伝子発現の増加、および/またはASMTL遺伝子発現の増加のための方法であって、有効量の式(I)の化合物を必要とする被験体へ投与すること包む方法を提供する。この場合、用語「必要とする対象」とは、TPH1遺伝子、DDC遺伝子、AANAT遺伝子、および/またはASMTL遺伝子が、欠失、変異、または低発現している対象を指す。この方法では、式(I)の化合物を上記の医薬組成物として必要とする対象へ投与することができ、医薬組成物の投与型、投与経路、投与形態、投与頻度、および用途もまた全て上記の記載と同様である。
【0036】
本発明は、以下の通りに具体例を用いて詳細にさらに説明する。ただし以下の実施例は、本発明を例示するためだけのものであり、本発明の範囲はこれに限定されるものではない。本発明の範囲は、添付の特許請求の範囲に示される。
【実施例】
【0037】
次の実施例において使用される材料の供給元は以下の通りである:
1.本発明の式(I)の化合物:ChemFaces社(Rainbow Biotechnology CO., LTD)より購入、製品番号:CFN96877、CAS番号:56252−02−9。
2.SHSY5Y細胞:ATCCより購入、製品番号:CRL−2266。
3.DMEM培地:90%DMEM、10%FBS、および1%ペニシリン/ストレプトマイシン含有;DMEMはGibcoより購入(製品番号:12100−046)、FBSはGibcoより購入(製品番号:10437−028)、およびペニシリン/ストレプトマイシンはGibcoより購入。
4.RNA抽出キット:Geneaidより購入。
5.逆転写酵素(SuperScript(登録商標)III逆転写酵素):Invitrogen社より購入。
6.KAPA SYBR FAST qPCRキット:KAPA Biosystems社より購入。
7.Step One Plusシステム:ABI社より購入。
【0038】
実施例1
【0039】
SHSY5Y細胞を6ウェルプレート(1×10
5細胞/ウェル)に播種し、次いで24時間培養した。その後、細胞を対照群と実験群とに分け、次の培地で48時間別々に培養した:
1.対照群:DMEM培地;
2.実験群:対照群と同様の培地に、0.0625μg/mlの式(I)の化合物を加えたもの。
【0040】
その後、上記群の細胞を回収し、RNA抽出キットによるRNA抽出に供した。そして、得られたRNAは逆転写酵素を用いてcDNAに転写した。その後、Step One PlusシステムおよびKAPA SYBR FAST qPCRキットを用いてcDNAを定量的ポリメラーゼ連鎖反応(qPCR)に供して、各群の細胞におけるメラトニンに関連する遺伝子(TPH1、DDC、AANAT、およびASMTLを含む)の発現レベルを測定した。
【0041】
上記の実験ステップを3回繰り返し、次いで3回の実験の結果を平均した。その後、対照群の結果を基本として(すなわち、対照群の遺伝子発現レベルを1倍に設定した)、実験群の相対的遺伝子発現レベルを計算した。結果を
図1に示す。
【0042】
図1に示すように、対照群と比較して、実験群の細胞におけるTPH1、DDC、AANAT、およびASMTL遺伝子の発現レベルはすべて有意に増加した。これらの結果は、本発明の式(I)の化合物がメラトニン合成の増加およびメラトニン分泌の促進に有効であることを示している。したがって、本発明の式(I)の化合物は、不眠治療、睡眠障害改善、神経代謝障害に関連する疾患の治療、神経代謝障害に関連する疾患の予防、食欲制御、睡眠制御、気分制御、血管収縮制御、止血機能制御、および免疫応答制御、特に不眠の治療、睡眠障害の改善、および睡眠の制御に使用することができる。