特許第6840187号(P6840187)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 長興材料工業股▲ふん▼有限公司の特許一覧

<>
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6840187
(24)【登録日】2021年2月18日
(45)【発行日】2021年3月10日
(54)【発明の名称】架橋性コポリマーおよびその使用
(51)【国際特許分類】
   C09J 175/04 20060101AFI20210301BHJP
   C09J 7/38 20180101ALI20210301BHJP
   C08F 220/18 20060101ALI20210301BHJP
【FI】
   C09J175/04
   C09J7/38
   C08F220/18
【請求項の数】11
【外国語出願】
【全頁数】21
(21)【出願番号】特願2019-87037(P2019-87037)
(22)【出願日】2019年4月30日
(65)【公開番号】特開2020-117677(P2020-117677A)
(43)【公開日】2020年8月6日
【審査請求日】2019年4月30日
(31)【優先権主張番号】107144221
(32)【優先日】2018年12月7日
(33)【優先権主張国】TW
(73)【特許権者】
【識別番号】500202322
【氏名又は名称】長興材料工業股▲ふん▼有限公司
【氏名又は名称原語表記】ETERNAL MATERIALS CO.,LTD.
(74)【代理人】
【識別番号】100064012
【弁理士】
【氏名又は名称】浜田 治雄
(72)【発明者】
【氏名】陳啓▲章▼
(72)【発明者】
【氏名】林辰▲羽▼
(72)【発明者】
【氏名】蕭伯卓
【審査官】 牟田 博一
(56)【参考文献】
【文献】 特表2005−507962(JP,A)
【文献】 特開2015−140382(JP,A)
【文献】 特開2017−82035(JP,A)
【文献】 特開平10−231332(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08F220/
C09D133/、175/
C09J133/、175/
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
架橋性コポリマーおよびイソシアネート系の架橋剤を含む感圧接着剤組成物であって、架橋性コポリマーは以下のモノマーから誘導される構造単位を含
モノマー(A)は、式(I)のモノマー、式(II)のモノマー又はそれらの組み合わせであり、
【化1】
【化2】
式(I)および式(II)において、
Aは、ヒドロキシルを有するC―Cアルキレンであり、
は、Hまたはメチルであり、
、RおよびRは、独立して、C―Cアルキルであって、
モノマー(B)は、C1―C18アルキル(メタ)アクリレートモノマーであり、
モノマー(C)は、ヒドロキシル含有共重合性モノマーであ
ここで、モノマー(B)はヒドロキシルを含まず、および
モノマー(B)およびモノマー(C)は式(I)の構造または式(II)の構造を含まず、および
架橋性コポリマーを形成するモノマーの総重量に基づいて、モノマー(A)の含有量が3重量%〜20重量%の範囲であり、モノマー(B)の含有量が75重量%〜90重量%の範囲であり、モノマー(C)の含有量が5重量%〜15重量%の範囲である架橋性コポリマーおよびイソシアネート系の架橋剤を含む感圧接着剤組成物。
【請求項2】
式(I)のモノマーにおいてAが第一級ヒドロキシルまたは第二級ヒドロキシルを有するC―Cアルキレンであり、Rがメチルであり、RおよびRの炭素原子の総数が3〜9の範囲である請求項1に記載の感圧接着剤組成物
【請求項3】
前記モノマー(A)が式(I)のモノマーまたは式(I)のモノマーと式(II)のモノマーとの組み合わせである請求項1に記載の感圧接着剤組成物
【請求項4】
式(I)のモノマーが以下の式(I―1)〜(I―3)の少なくとも1つであって、
【化3】
【化4】
【化5】
式(I―1)〜(I―3)において、RおよびRの炭素原子の総数は3〜9の範囲である請求項2に記載の感圧接着剤組成物
【請求項5】
モノマー(B)が2―エチルヘキシルアクリレート、メチルメタクリレート、ブチルアクリレート、およびそれらの組み合わせからなる群から選択される請求項1に記載の感圧接着剤組成物
【請求項6】
モノマー(C)がヒドロキシルを有するアクリレートモノマーである請求項1に記載の感圧接着剤組成物
【請求項7】
モノマー(C)が2―ヒドロキシエチルメタクリレート、4―ヒドロキシブチルアクリレート、2―ヒドロキシエチルアクリレート、およびそれらの組み合わせからなる群より選択される請求項に記載の感圧接着剤組成物
【請求項8】
前記架橋性コポリマーが0〜−65℃の範囲のガラス転移温度、おび200,000〜700,000の範囲の重量平均分子量を有する請求項1に記載の感圧接着剤組成物
【請求項9】
前記イソシアネート系の架橋剤が脂肪族環状イソシアネート化合物、脂肪族非環状イソシアネート化合物またはそれらの組み合わせである請求項に記載の感圧接着剤組成物。
【請求項10】
保護フィルムであって、
基板と、
基板の表面上に配置された感圧接着剤層とを備え、
その感圧接着剤層は請求項に記載の感圧接着剤組成物を含む保護フィルム。
【請求項11】
30m/分の高い剥離速度で測定された感圧接着剤層の接着力が0.3m/分の低い剥離速度で測定されたものよりも1〜7倍高い請求項10に記載の保護フィルム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、架橋性コポリマー、架橋性コポリマーを含む感圧接着剤組成物、および感圧接着剤組成物を含む保護フィルムを提供する。保護フィルムは、光学部品の保護に有用である。
【背景技術】
【0002】
本出願は、2018年12月7日に出願された台湾特許出願第107144221号の利益を主張し、その主題は、参照によりその全体が本明細書に組み込まれる。
【0003】
液晶ディスプレイ(LCDs)などの表示装置は様々な分野で使用されている。表示装置の作製中、偏光板などの光学部品は一時的な保護を提供し、したがって光学部品が汚染または損傷を受けるのを防止するために適切な保護フィルムを必要とする。一時的な保護の役目が終了した後、保護フィルムは容易に除去され適用された光学部品の表面上に残渣を残さないようにすべきである。
【0004】
一般に保護フィルムは感圧接着剤層と基板とを含む。通常、感圧接着剤層は感圧接着剤組成物から形成される。表示装置の寸法が増大し、保護されるべき光学部品の面積も増大した結果、保護フィルムの感圧接着剤層はより厳しい性能要件が求められる。具体的には感圧接着剤層は少なくとも以下の特性を有することが期待される。(1)低速剥離強度と高速剥離強度のバランスが良好である、(2)帯電防止性能に優れている、(3)加工性が良好である、(4)感圧接着剤残渣がない。しかしながら上記(1)〜(4)の特徴を同時に満たすことができる感圧接着剤層は存在しない。前述の特性を有する感圧接着剤層を提供することができる感圧接着剤組成物の必要性が依然として存在する。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明者らは分岐構造を有する共重合性モノマー(A)に由来する構造単位を含む本発明の架橋性コポリマーが高い立体障害を形成することができ、これを含む感圧接着剤組成物が優れた粘度安定性を有することができることを見出した。感圧接着剤組成物から調製された保護フィルムは適用された被験体から除去された後にいかなる残留物も残らず、剥離速度によって大きく変化しない剥離強度を有する。さらに保護フィルムはより良好な帯電防止性能を提供するために帯電防止剤をさらに含むことができる。したがって本発明は少なくとも以下に示す本発明の目的を含む。
【0006】
本発明の目的は、以下のモノマーから誘導される構造単位を含む架橋性コポリマーを提供することである。
モノマー(A)は、式(I)のモノマー、式(II)のモノマー又はそれらの組み合わせである。
【化1】
【化2】
式(I)および式(II)において、
Aは、ヒドロキシルを有するC―Cアルキレンであり、
は、Hまたはメチルであり、
、RおよびRは、独立してC―Cアルキルである。
モノマー(B)は、C―C18アルキル(メタ)アクリレートモノマーであり、
モノマー(C)は、ヒドロキシル含有共重合性モノマーである。
ここで、モノマー(B)は、ヒドロキシルを含有せず、モノマー(B)およびモノマー(C)は、式(I)の構造または式(II)の構造を有さない。
【0007】
本発明の別の目的は、前述の架橋性コポリマーおよびイソシアネート系の架橋剤を含む感圧接着剤組成物を提供することである。
【0008】
本発明のさらに別の目的は、
基板と、
基板の表面上に配置された感圧接着剤層を含む保護フィルムを提供することであり、
ここで、感圧接着剤層は、前述の感圧接着剤組成物を含む。
【0009】
本発明の有効性は、本発明の架橋性コポリマーが分枝構造を有するモノマー(A)から誘導される構造単位を含み、それによって高い立体障害を有することにある。高い立体障害は架橋性コポリマーとイソシアネート系の架橋剤との間の架橋反応を遅くすることができ、その結果架橋性コポリマーおよびイソシアネート系の架橋剤を含む感圧接着剤組成物の粘度安定性を改善でき、したがって作業ウィンドウを長くすることができる(すなわち加工性を改善できる)ことが見出された。その結果モノマー(A)に由来する構造単位を有する架橋性コポリマーから調製される感圧接着剤組成物は良好な加工性およびコーティング特性を提供することができる。本発明の感圧接着剤組成物は光学部品に適用可能な保護フィルムの調製に用いることができる。保護フィルムは接着剤残渣を残すことなく光学部品の表面から容易にかつきれいに除去することができる。また保護フィルムの剥離強度も剥離速度によって大きく変化しない。
【0010】
上記の目的、本発明の技術的特徴および利点をより明らかにするために以下にいくつかの実施形態を参照して本発明を詳細に説明する。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の実施形態について詳細に説明する。しかしながら本発明の精神から逸脱することなく、本発明は様々な実施形態において具現化されてもよく本明細書に記載された実施形態に限定されるべきではない。
【0012】
付加的に説明されない限り、明細書(特に特許請求の範囲)において列挙される表現「a」、「the」などは、単数形および複数形の両方を含むべきである。
【0013】
なお本明細書において溶液、混合物、組成の各成分については別途説明しない限り各成分の含有量は、乾燥重量、すなわち溶媒の重量に関係なく算出する。
【0014】
本明細書で使用するとき、用語「約」は、指定された量が当業者にとって一般的かつ合理的である大きさを増加または減少し得ることを意味する。
【0015】
本明細書中で使用される場合、用語「構造単位」は、コポリマーにおいて同一の化学構成を有する最小単位を意味し、ここで、コポリマーは、重合によって2つ以上のモノマーから形成される。構造単位は、繰り返し単位とも呼ばれる。
【0016】
本明細書中で使用される場合、用語「アルキル」は飽和直鎖または分枝鎖アルキルを意味する。アルキルの例としては、メチル、エチル、n―プロピル、イソプロピル、n―ブチル、イソブチル、tert―ブチル、ペンチル(アミル)、ヘキシルなどが挙げられるが、これらに限定されない。
【0017】
本明細書中で使用される場合、用語「ヒドロキシル」は、第一級、第二級または第三級ヒドロキシルを意味し、ここで、第一級ヒドロキシルはヒドロキシルが結合している炭素原子が唯一の他の炭素原子に結合していることを意味し、第二級ヒドロキシルはヒドロキシルが結合している炭素原子が2つの他の炭素原子に結合していることを意味し、第三級ヒドロキシルはヒドロキシルが結合している炭素原子が3つの他の炭素原子に結合していることを意味する。
【0018】
本明細書で使用するとき、用語「作業ウィンドウ」は架橋性コポリマーとイソシアネート系架橋剤とを組み合わせて感圧接着剤組成物を形成する時間から、感圧接着剤組成物が粘性になりすぎて滑らかなコーティングを形成することができなくなるまでの時間を意味する。
【0019】
1.架橋性コポリマー
本発明の架橋性コポリマーは特定のモノマーを共重合することによって形成される。特定のモノマーは高い立体障害を有する架橋性コポリマーが提供され得るように分枝構造を有するモノマーを含む。これにより架橋性共重合体を用いて調製された感圧接着剤組成物は、より良好な粘度安定性(すなわち、加工性)を有することができ、この組成物から調製された保護フィルムは、以下の利点を提供することができる。すなわち、保護フィルムは接着残留物を残すことなく除去することができ、剥離速度によって大きく変化しない剥離強度を有する。具体的には架橋性コポリマーは以下のモノマー(A)、モノマー(B)、およびモノマー(C)から誘導される構造単位を含む。
モノマー(A)は、式(I)のモノマー、式(II)のモノマー又はそれらの組み合わせである。
【化3】
【化4】
式(I)および式(II)において、
Aは、ヒドロキシルを有するC―Cアルキレンであり、
は、Hまたはメチルであり、
、RおよびRは、独立して、C―Cアルキルである。
モノマー(B)は、C―C18アルキル(メタ)アクリレートモノマーであり、
モノマー(C)は、ヒドロキシル含有共重合性モノマーである。
ここで、モノマー(B)は、ヒドロキシルを含有せず、モノマー(B)およびモノマー(C)は、式(I)または式(II)の構造を有さない。
【0020】
架橋性コポリマーを形成するために使用されるモノマーの総重量に基づいて、モノマー(A)の含有量は好ましくは約3重量%〜約20重量%、例えば約4重量%、5重量%、6重量%、7重量%、8重量%、9重量%、10重量%、11重量%、12重量%、13重量%、14重量%、15重量%、17重量%、または18重量%の範囲である。モノマー(A)の含有量が約3重量%より低いとこうして調製された感圧接着剤組成物の加工性が低下し、モノマー(A)の含有量が約20重量%より高いと架橋性コポリマーの合成が困難になることがある。架橋性コポリマーを形成するために使用されるモノマーの総重量に基づいて、モノマー(B)の含有量は約75重量%〜約90重量%、例えば約77重量%、78重量%、80重量%、82重量%、83重量%、84重量%、85重量%、87重量%、88重量%、または89重量%の範囲である。架橋性コポリマーを形成するために使用されるモノマーの総重量に基づいてモノマー(C)の含有量は、好ましくは約5重量%〜約15重量%、例えば約6重量%、7重量%、8重量%、9重量%、10重量%、11重量%、12重量%、13重量%、または14重量%の範囲である。モノマー(C)の含有量が約5重量%より低い場合、このように提供される保護フィルムの剥離強度は剥離速度と共により深刻に変化し、モノマー(C)の含有量が約15重量%より高い場合、モノマー(A)によって提供される高い立体障害保護はより高いヒドロキシル含有量によって影響を受け、感圧接着剤組成物の加工性が低下する。
【0021】
1.1.モノマー(A)
本発明の架橋性コポリマーにおいて、モノマー(A)は、式(I)のモノマー、式(II)のモノマー、またはそれらの組み合わせである。
【化5】
【化6】
式(I)および(II)において、
Aは、ヒドロキシルを有するC―Cアルキレンであり、
は、Hまたはメチルであり、
、RおよびRは、独立して、C―Cアルキルである。
【0022】
本発明の一実施形態によれば、式(I)において、Aは、ヒドロキシル、好ましくは第一ヒドロキシルまたは第二ヒドロキシルを有するC―Cアルキレンであり、
はHまたはメチルであり、
はメチルであり、
およびRの総炭素数は3〜9の範囲であり、
その結果、モノマー(A)は、分枝構造を有し得る。
本発明のいくつかの実施形態において、式(I)および(II)において、RおよびRの総炭素数は、4〜8、例えば、5、6、または7の範囲である。
【0023】
―Cアルキレンの例としては、エチレン、n―プロピレン、イソプロピレン、n―ブチレン、イソブチレン、ペンチレン、およびヘキシレンが挙げられるが、これらに限定されない。C―Cアルキルの例としては、メチル、エチル、n―プロピル、イソプロピル、n―ブチル、イソブチル、sec―ブチル、tert―ブチル、n―ペンチル、イソペンチル、tert―ペンチル、ネオペンチル、n―ヘキシル、イソヘキシル、n―ヘプチル、イソヘプチル、ネオヘプチル、n―オクチル、およびイソオクチルが挙げられるが、これらに限定されない。
【0024】
モノマー(A)の分枝構造は、高い立体障害を有する架橋性コポリマーを形成し得ることが見出された。高い立体障害はヒドロキシルとイソシアネート系の架橋剤との間の架橋反応を遅くすることができ、その結果架橋性コポリマーおよびイソシアネート系の架橋剤を含む感圧接着剤組成物の粘度安定性を改善することができ、したがって作業ウィンドウを長くすることができる(すなわち加工性を改善することができる)。本発明は高い立体障害を有する架橋性コポリマーを利用して架橋反応を遅くし、粘度安定性、したがって感圧接着剤組成物の加工性を改善する。
【0025】
本発明のいくつかの実施形態において、モノマー(A)は、ネオデカン酸の誘導体であり、ここで、四級炭素構造(すなわち、式(I)および(II)において、R、RおよびRが結合している炭素原子)は、熱分解質量分析法(PyMS)の分析により、29、41、71、87、102、116および130に質量対電荷比の特徴的なピークを有する。
【0026】
本発明の一実施形態によれば、モノマー(A)は式(I)のモノマー、または式(I)のモノマーと式(II)のモノマーとの組み合わせである。
【0027】
モノマー(A)が式(I)のモノマーである場合、モノマー(A)は分枝ヒドロキシル結合およびオレフィン結合を有する共重合性モノマーである。本明細書中で使用される場合、分枝ヒドロキシルはヒドロキシルが、分子構造(例えばR、RまたはR)の末端ではなく、式(I)の分子構造の中央に結合される(すなわちAの炭素原子に結合される)ことを意味する。この場合式(I)のモノマーから誘導される構造単位を含む架橋性コポリマーは、式(I)の四級炭素構造および分岐ヒドロキシルのために、より高い立体障害を有することができ、その結果ヒドロキシルとイソシアネート系の架橋剤との間の架橋反応をさらに遅らせることができ、調製された感圧接着剤組成物の作動ウィンドウをより長くすることができる。
【0028】
式(I)のモノマーの例としては、以下の式(I―1)〜(I―3)で表されるモノマーの少なくとも1つが挙げられるが、これらに限定されない。
【化7】
【化8】
【化9】
式(I―1)〜(I―3)において、
およびRは、独立して、C―Cアルキルであり、
およびRの総炭素数は、3〜9、より具体的には4〜8、例えば5、6または7である。
【0029】
式(I)のモノマーを調製する方法は、第三級炭酸グリシジルエステルを(メタ)アクリル酸と反応させることを含むが、これに限定されない。例えば式(I)のモノマーはC―C13ネオカルボン酸グリシジルエステルを(メタ)アクリル酸と反応させることによって、または代わりにグリシジル(メタ)アクリレートをC―C13ネオカルボン酸と反応させることによって得ることができる。C―C13ネオカルボン酸グリシジルエステルの例としては、グリシジルネオペンタノエート、グリシジルネオヘプタノエート、グリシジルネオノナノエート、グリシジルネオデカノエート、グリシジルネオウンデカノエート、およびグリシジルネオトリデカノエートが挙げられるが、これらに限定されない。C―C13ネオカルボン酸の例としては、ネオペンタン酸、ネオヘプタン酸、ネオノナン酸、ネオデカン酸、ネオウンデカン酸、ネオドデカン酸、およびネオトリデカン酸が挙げられるが、これらに限定されない。
【0030】
式(II)のモノマーを調製する方法にはネオデカン酸およびビニル含有アルコールのエステル化が含まれるが、これらに限定されない。式(II)のモノマーも市販されている。HEXION社のVeoVa10という製品は式(II)のモノマーの商業的に入手可能な製品の一例である。
【0031】
1.2.モノマー(B)
本発明の架橋性コポリマーにおいて、モノマー(B)は、C―C18アルキル(メタ)アクリレートモノマーであり、但しモノマー(B)は、式(I)または(II)の構造を有さず、ヒドロキシルを含有しない。
【0032】
本発明の実施形態によれば、モノマー(B)は下記式(III)で表される。
【化10】
式(III)において、
11はHまたはメチルであり、
12はC―C18アルキルである。
【0033】
式(III)のモノマーの例としては、メチルアクリレート、メチルメタクリレート、エチルアクリレート、エチルメタクリレート、n―プロピルアクリレート、n―プロピルメタクリレート、イソプロピルアクリレート、イソプロピルメタクリレート、n―ブチルアクリレート、n―ブチルメタクリレート、イソブチルアクリレート、イソブチルメタクリレート、sec―ブチルアクリレート、sec―ブチルメタクリレート、tert―ブチルアクリレート、tert―ブチルメタクリレート、n―ペンチルアクリレート、n―ペンチルメタクリレート、イソペンチルアクリレート、イソペンチルメタクリレート、n―ヘキシルアクリレート、n―ヘキシルメタクリレート、n―ヘプチルアクリレート、n―ヘプチルメタクリレート、n―オクチルアクリレート、n―オクチルメタクリレート、2―エチルへキシルアクリレート、2―エチルへキシルメタクリレート、イソオクチルメタクリレート、n―ノニルアクリレート、n―ノニルメタクリレート、イソノニルアクリレート、イソノニルメタクリレート、n―デシルアクリレート、n―デシルメタクリレート、イソデシルアクリレート、イソデシルメタクリレート、ウンデシルアクリレート、ウンデシルメタクリレート、ドデシルアクリレート、ドデシルメタクリレート、トリデシルアクリレート、トリデシルメタクリレート、テトラデシルアクリレート、テトラデシルメタクリレート、ペンタデシルアクリレートが挙げられるが、これらに限定されない。
【0034】
本発明の好ましい実施形態において、モノマー(B)は2―エチルヘキシルアクリレート、メチルメタクリレート、ブチルアクリレート、およびそれらの組み合わせからなる群から選択される。
【0035】
1.3.モノマー(C)
本発明の架橋性コポリマーにおいて、モノマー(C)はヒドロキシル含有共重合性モノマーである。ヒドロキシル含有共重合性モノマーはヒドロキシルと、モノマー(A)および(B)との重合反応を行うことができる反応性官能基とを含有する任意のモノマーであることができ、但しヒドロキシル含有共重合性モノマーは、式(I)または(II)の構造を有さない。反応性官能基の例としては炭素―炭素二重結合(オレフィン結合)、カルボキシル、およびアミノが挙げられるが、これらに限定されない。
【0036】
モノマー(C)の例としては、ヒドロキシル含有アクリレートモノマー、例えば、2―ヒドロキシエチルアクリレート、2―ヒドロキシエチルメタクリレート、2―ヒドロキシプロピルアクリレート、2―ヒドロキシプロピルメタクリレート、3―ヒドロキシプロピルアクリレート、3―ヒドロキシプロピルメタクリレート、2―ヒドロキシブチルアクリレート、2―ヒドロキシブチルメタクリレート、4―ヒドロキシブチルアクリレート、4―ヒドロキシブチルメタクリレート、6―ヒドロキシヘキシルアクリレート、6―ヒドロキシヘキシルメタクリレート、ヒドロキシオクチルアクリレート、ヒドロキシオクチルメタクリレート、ヒドロキシデシルアクリレート、ヒドロキシデシルメタクリレート、ヒドロキシラウリルアクリレート、ヒドロキシラウリルメタクリレート、4―(ヒドロキシメチル シクロヘキシル)アクリレート、および、4―(ヒドロキシメチル シクロヘキシル)メタクリレート;オレフィンで結合されたアルコールであるビニールアルコールおよびアリルアルコールが挙げられるが、これらに限定されない。
【0037】
本発明のいくつかの実施形態では、モノマー(C)は2―ヒドロキシエチルメタクリレート、4―ヒドロキシブチルアクリレート、2―ヒドロキシエチルアクリレート、およびそれらの組み合わせからなる群から選択される。
【0038】
1.4.架橋性コポリマーの調製
架橋性コポリマーは溶液重合、乳化重合、懸濁重合、バルク重合、光重合などの周知の重合方法によって調製することができる。本発明のいくつかの実施形態では、溶液重合は費用効果が高くしたがって好ましい。架橋性コポリマーを溶液重合により調製する場合には熱重合開始剤を用いることができる。熱重合開始剤の例としてはアゾ化合物および過酸化物が挙げられるが、これらに限定されない。アゾ化合物の例としては、2,2’―アゾビスイソブチロニトリル、2,2’―アゾビス―2―メチルブチロニトリル、2,2’―アゾビス(メチル 2―メチル プロピオネート)、4,4’―アゾビス―4―シアノペンタン酸、およびアゾビスペンタンニトリルが挙げられるが、これらに限定されない。過酸化物の例としては限定されるものではないが、tert―ブチルヒドロペルオキシド、ジ―tert―ブチルペルオキシド、1,1―ビス(tert―ブチルペルオキシ)―3,3,5―トリメチルシクロヘキサン、1,1―ビス(tert―ブチルペルオキシ)シクロドデカン、およびジクミルペルオキシドが挙げられる。熱重合開始剤は単独で用いてもよいし2種以上を混合して用いてもよい。
【0039】
溶液重合に適した溶媒の例としては酢酸エチル(EA)および酢酸n―ブチルなどのエステル;トルエンおよびベンゼンなどの芳香族炭化水素;n―ヘキサンおよびn―ヘプタンなどの脂肪族炭化水素;シクロヘキサンおよびメチルシクロヘキサンなどの脂環式炭化水素;ならびにメチルエチルケトンおよびメチルイソブチルケトンなどのケトンが挙げられるが、これらに限定されない。溶媒は単独でまたは2つ以上の混合物で使用することができる。
【0040】
各任意成分の含有量は特に限定されず、必要に応じて当業者が調整することができるのでここでは詳細に説明しない。
【0041】
1.5.架橋性コポリマーの性質
架橋性コポリマーは、約−5℃、−10℃、−15℃、−20℃、−25℃、−30℃、−35℃、−40℃、−45℃、−50℃、または−55℃など、約0℃〜−65℃の範囲のガラス転移温度(Tg)を有することができる。ガラス転移温度(Tg)は、示差走査熱量測定(DSC)によって測定される。架橋性コポリマーのTgが上記指定範囲内にある場合、架橋性共コポリマーを含む感圧接着剤組成物は、剥離速度によって大きく変化しない剥離強度、すなわち高速剥離強度と低速剥離強度との差が少ない感圧接着剤層を提供することができる。
【0042】
さらに架橋性コポリマーは、約200,000、250,000、300,000、350,000、400,000、450,000、500,000、550,000、600,000、650,000、または700,000など、約200,000〜約700,000の範囲の重量平均分子量を有することができる。重量平均分子量はゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)によって測定される。架橋性コポリマーの重量平均分子量が上記指定範囲内にある場合、架橋性コポリマーを用いた感圧接着剤組成物の粘度はその後の用途に適している。
【0043】
2.感圧接着剤成分
本発明はまた、前述の架橋性コポリマーおよびイソシアネート系の架橋剤を含む感圧接着剤組成物を提供する。
【0044】
一般に滑らかなコーティング(例えば筋状欠陥のない表面を有するコーティング)を形成するためには、感圧接着剤組成物は良好な流動性を提供するのに適した粘度を有するべきである。一旦感圧接着剤組成物の調製が行われると架橋性コポリマーおよびイソシアネート系の架橋剤は互いに架橋し始め、感圧接着剤組成物の粘度は架橋の程度に従って増加する。ある瞬間に感圧接着剤組成物は滑らかなコーティング(例えば筋状欠陥のない表面を有するコーティング)を形成するには粘稠すぎる。そこで本発明は立体障害の高い架橋性コポリマーを用いて架橋反応を遅くし、粘度安定性を高めることにより感圧接着剤組成物の加工性を向上させることができる。また作製した保護フィルムは塗布した被験者から除去した後に残渣を残さず剥離速度に大きく変化しない剥離強度を有する。これに対し立体障害が高くなくヒドロキシル比が過剰に高い架橋性コポリマーをイソシアネート系架橋剤と混合して感圧接着剤組成物を調製すると、20時間後の架橋性コポリマーとイソシアネート系架橋剤との架橋反応による調製感圧接着剤組成物の粘度上昇が過剰に高くなり塗膜に筋欠陥が生じる。
【0045】
2.1.イソシアネート系架橋剤
本明細書中で使用される場合、イソシアネート系の架橋剤は前述の架橋性コポリマーとの架橋反応を行って架橋構造を形成することができるイソシアネート系の成分を指す。ここでイソシアネート系の架橋剤としては、脂肪族環状イソシアネート化合物、脂肪族非環状イソシアネート化合物、またはそれらの組み合わせが挙げられるが、これらに限定されない。脂肪族環状イソシアネート化合物とは脂肪族環構造を含むイソシアネート化合物をいう。脂肪族非環状イソシアネート化合物は、脂肪族直鎖または分枝イソシアネート化合物を意味する。脂肪族環状イソシアネート化合物の例としては、イソホロンジイソシアネート、メチレンジシクロヘキシルジイソシアネート、シクロヘキサンジイソシアネート、それらの誘導体、または前述の化合物とポリアルコールとの反応生成物(例えばトリメチロールプロパン)が挙げられるが、これらに限定されない。脂肪族非環状イソシアネート化合物の例としては、C―C20アルキレンジイソシアネート化合物、その誘導体または前述の化合物とポリアルコールとの反応生成物(例えばトリメチロールプロパン)が挙げられるが、これらに限定されない。C―C20アルキレンジイソシアネート化合物としてはヘキサメチレンジイソシアネート(HDI)、1,2―エチレンジイソシアネート、および1,4―ブチレンジイソシアネートが挙げられるが、これらに限定されない。上記イソシアネート系架橋剤は単独でまたは2種以上を混合して用いることができる。
【0046】
本発明の感圧接着剤組成物において、架橋性コポリマー100重量部に対して、イソシアネート系架橋剤の含有量は、約5重量部〜約10重量部、例えば、約5.2重量部、5.5重量部、5.7重量部、6.0重量部、6.2重量部、6.5重量部、6.7重量部、7.0重量部、7.2重量部、7.5重量部、7.7重量部、8.0重量部、8.2重量部、8.5重量部、8.7重量部、9.0重量部、9.2重量部、9.5重量部または9.8重量部とすることができる。
【0047】
2.2.任意添加剤
本発明の感圧接着剤組成物では、当業者に周知の任意の添加剤、例えば下記の帯電防止剤をさらに使用して感圧接着剤組成物の物理化学的特性を標的として改善することができる。
【0048】
本発明の感圧接着剤組成物は、このように調製された保護フィルムの帯電防止性能を改善し保護フィルムの適用中の静電気の蓄積を減少させるために、帯電防止剤を含んでもよい。帯電防止剤は、通常、イオン性、非イオン性または両性の表面活性物質であり、静電荷の蓄積を防止しその強力な吸着性、イオン性および表面活性に起因する静電荷の漏れを促進することができる。帯電防止剤は特に限定されず、任意の従来の帯電防止剤であり得る。例えば帯電防止剤は、カチオン含有金属塩またはアニオン含有有機化合物などのイオン化合物であることができる。カチオンの例としては、Li、Na、K、Rb、Cs、Be2+、Mg2+、Ca2+、Sr2+、およびBa2+が挙げられるが、これらに限定されず;そしてLiが好ましい。アニオンの例としては、PF、AsF、NO、F、Cl、Br、I、ClO、OH、CO2−、NO、CFSO、SO2−、CHCOO、CFCOOおよびBFが挙げられるが、これらに限定されない。
【0049】
帯電防止剤の含有量は特に限定されずここでは詳細に説明しない。当業者は必要に応じて帯電防止剤の含有量を調整することができる。
【0050】
2.3.感圧接着剤組成物の調製
本発明の感圧接着剤組成物は、次の用途のために次のように調製することができる。感圧接着剤組成物の成分(架橋性コポリマー、イソシアネート系の架橋剤、および他の任意の成分を含む)を、得られた混合物を撹拌しながら、および場合によっては適切な溶媒で所望の濃度まで希釈しながら均一に混合する。溶媒は本発明の感圧接着剤組成物の成分を溶解または分散させることができるが、架橋性コポリマーの溶液重合で使用することができる溶媒を含めて成分と反応しない任意の不活性溶媒とすることができる。添付の実施例では酢酸エチルを使用する。溶媒の量は感圧接着剤組成物の成分が均一に溶解または分散され得る限り、特に限定されない。例えば感圧接着剤組成物の全重量に基づいて溶媒の含有量は約55量%〜約65量%、好ましくは約56量%〜約60量%の範囲であり得る。
【0051】
3.保護フィルム
また本発明は、光学部品を一時的に保護する材料として用いることができる保護フィルムを提供する。本発明の保護フィルムは、
基板と、
基板の表面上に配置された感圧接着剤層とを備え、
ここで、感圧接着剤層は前述の感圧接着剤組成物を含む。
【0052】
3.1.板
本発明の保護フィルムにおいて、前記基板は前記感圧接着剤層を担持するために使用される。基板は、薄膜、シート、またはプレートなどの任意の形状で提供することができる。可撓性光学部品の開発の観点からおよび可撓性光学部品における保護フィルムの使用を容易にするために、保護フィルムの基板は可撓性または柔軟性があることが好ましい。基板の材料は、ポリエステル、ポリカーボネート、ポリエチレン、ポリテトラフルオロエチレン、ポリプロピレン、ポリブチレン、ポリブタジエン、ポリクロロエチレン、ポリイミド、ポリスルホン、ポリウレタン、ポリ(メチルメタクリレート)(PMMA)「アクリル樹脂」としても知られる)、シクロオレフィンポリマー、およびそれらの組合せからなる群から選択することができるが、本発明はこれらに限定されない。ポリエステルの例としては、ポリエチレンテレフタレート(PET)およびポリブチレンテレフタレート(PBT)が挙げられるが、これらに限定されない。
【0053】
基板は単層構造でも多層積層構造でもよく汚染防止層や帯電防止層などの機能層を含んでもよいが、本発明はこれに限定されない。
【0054】
基板は感圧接着剤層を形成する前に任意に表面処理を施すことができる。表面処理はプラズマ処理またはコロナ放電処理などの物理的表面処理または下塗り処理などの化学的表面処理とすることができる。
【0055】
基板の厚さは特に限定されず必要に応じて当業者によって調節することができる。一般に基板の厚さは、約10μm〜約100μmの範囲である。
【0056】
3.2.感圧接着剤層
感圧接着剤層は本発明の感圧接着剤組成物から架橋硬化反応により形成される。本発明の感圧接着剤組成物から形成された感圧接着剤層は、剥離速度によって大きく変化しない剥離強度を有する。本発明のいくつかの実施形態では、30m/分の高い剥離速度で測定された感圧接着剤層の接着力は0.3m/分の低い剥離速度で測定された接着力よりも約1〜7倍高いだけである。本発明の保護フィルムにおいて高い剥離速度で測定された接着力と低い剥離速度で測定された接着力との間の差は、従来の保護フィルムにおけるものよりも著しく小さい。したがって本発明の保護フィルムの感圧接着剤層は被保護表面から感圧接着剤層を除去する際の静電気の蓄積を回避または改善することができ、本発明の保護フィルムを大型の光学部品に非常に有用なものにする。本発明の好ましい実施形態では、30m/分の高い剥離速度で測定される感圧接着剤層の接着力は0.3/分の低い剥離速度で測定される接着力よりも約1〜4倍高いだけである。また感圧接着剤層は剥離性に優れる。それは光学部品の表面から除去された後、光学部品の表面上に残渣を残さない。本明細書で使用するとき特定の剥離速度での感圧接着剤層の接着力は、引張試験機を使用して特定の剥離速度で180°方向に感圧接着剤層を剥離することによって測定される剥離強度である。本発明の保護フィルムの感圧接着剤層の形成方法は特に限定されない。例えば本発明の感圧接着剤組成物を基板上にコーティングし、次いでコーティングされた感圧接着剤組成物を硬化させることによって感圧接着剤層を基板上に形成することができる。塗布方法は特に限定されない。コーティング方法の例としてはグラビアコーティング、ロールコーティング、バーコーティング、ナイフコーティング、スロットコーティング、スプレーコーティング、およびダイコーティングが挙げられるが、これらに限定されない。また感圧接着剤組成物の硬化方法も特に限定されない。硬化方法の例としては熱硬化または光学放射線(例えば紫外線(UV)放射線)硬化が挙げられるが、これらに限定されない。
【0057】
本発明の保護フィルムにおいて、感圧接着剤層の厚みは特に限定されず必要に応じて当業者により調整することができる。コストおよび良好な保護を考慮すると感圧接着剤層の厚さは一般に約5μm〜約30μmの範囲である。
【0058】
3.3.他の成分
本発明の保護フィルムは、塗布前に基板と接触していない感圧接着剤層の表面を汚染から保護するための剥離フィルムをさらに含むことができる。剥離フィルムの材料は特に限定されず、感圧接着剤層から容易に分離され得る任意のフィルム材料であり得る。剥離フィルムの厚さも特に限定されない。コストおよび良好な保護を考慮すると剥離フィルムの厚さは一般に約10μm〜約100μmの範囲である。また剥離フィルムを感圧接着剤層から容易に剥離するために剥離フィルムの表面に予め表面処理を施しておくことができる。表面処理にはシリコーンまたはフッ素処理が含まれるが、これらに限定されない。
【0059】
3.4.保護フィルムの塗布
本発明の保護フィルムは、感圧接着剤層が部品の表面に向くように部品の表面に取り付けられた後、様々な部品を一時的に保護することができる。保護要求がなくなると保護膜を容易に除去することができる。部品は光学部品を含む。光学部品の例としては偏光板、波長板、光学補償フィルム、輝度向上フィルム、導光板、反射フィルム、反射防止フィルム、透明導電フィルムおよびカラーフィルタが挙げられるが、これらに限定されない。
【0060】
4.例
4.1.測定法
本発明は、以下の実施形態によってさらに説明され測定機器および方法はそれぞれ以下の通りである。
【0061】
[高速剥離強度および低速剥離強度測定]
23℃、相対湿度50%で7日間エージングした剥離フィルム付き保護フィルムを幅25mm、長さ100mmの試験片に切断し、剥離フィルムを試験片から取り出した。この試験片を幅70mm、長さ100mmのトリアセテートセルロース(TAC)フィルム(Fuji社製)の表面上に置き、0.25MPaおよび0.3m/分でラミネート装置(ChemInstruments社製、小型ラミネート装置)で重ね合わせ試験サンプルを作製した。試験サンプルを23℃、相対湿度50%下に24時間置いた後、ユニバーサル引張試験機を用い30m/分の高剥離速度または0.3m/分の低剥離速度で180°方向に剥離し感圧接着剤層のTACへの接着力を得た。接着の単位は「N/25mm」である。
【0062】
[粘度測定]
感圧接着剤組成物の溶液の粘度を回転粘度計(Brookfield社製、LV―3スピンドル)を用い、25℃下、30rpmで測定した。粘度の単位は「cps」である。
【0063】
[粘度安定性(加工性)評価]
粘度安定性(すなわち、加工性)は、長期保存後の感圧接着剤組成物の粘度変化を測定することにより評価した。粘度変化率(%)は次式により算出した。
{[(調製した粘着剤組成物を15時間または24時間放置した後の粘度)―(調製した感圧接着剤組成物を1時間放置した後の粘度)] / (感圧接着剤組成物を1時間放置後の粘度)}10×100%
【0064】
15時間後の粘度変化率が25%未満であり24時間後の粘度変化率が60%未満であれば、感圧接着剤組成物の粘度安定性(加工性)が良好であると考えられる。
【0065】
[コーティング性能評価]
感圧接着剤組成物をポリエチレンテレフタレート(PET)フィルム材料上にコーティングした。このようにして形成した塗膜を炉内で5分間直接焼成し、または室温で3分間放置した後、焼成した。その後塗膜の表面を観察した。炉内で5分間直接焼成した塗膜の表面に機械方向(MD)に沿った塗膜縞は見られなかった場合、コーティング性能は良好であり、「◎」として記録した。炉内で5分間直接焼成した塗膜の表面に機械方向(MD)に沿った塗膜稿が見られたが、室温に3分放置した後に5分間焼成した塗膜の表面に塗膜稿は見られなかった場合、コーティング性能は許容範囲であり「○」として記録した。室温で3分間放置した後、炉内で5分間焼成した塗膜の表面に塗膜縞が見つかった場合、コーティング性能は悪く、「×」と記録した。
【0066】
[表面インピーダンス測定]
剥離フィルムを保護フィルムから取り外すことによって感圧接着剤層を露出させた。感圧接着剤層の表面インピーダンスは抵抗率計(三菱化学社製、商品名: Hiresta UP―HT450)により測定した。表面インピーダンスの単位は「Ω/」である。
【0067】
4.2.架橋性コポリマーの調製
4.2.1.実施例1〜6
機械的撹拌装置、還流凝縮器、温度計、および窒素入口管を備えた反応器を準備した。表1に示す比率に従って、モノマー(A)、モノマー(B)、モノマー(C)、および溶媒としての酢酸エチル(EA)を反応器に添加した。次に重合開始剤としてのアゾビスイソブチロニトリル(AIBN)0.03重量部を2時間後に反応器に滴下し、実施例1〜6の反応物を窒素雰囲気下75℃で8時間反応させた。その後各生成物を酢酸エチルで希釈し、固形分約40重量%の実施例1〜6の架橋性コポリマーを得た。
【0068】
表1:実施例の架橋性コポリマーの成分および比率
【表1】
モノマーに関する注意事項:
1):式(A―1)のモノマーは、
【化11】
(式中、RおよびRはそれぞれアルキルであり、RおよびRの総炭素数は7)である。
2):式(A―2)のモノマーは、
【化12】
(式中、RおよびRはそれぞれアルキルであり、RおよびRの総炭素数は7)である。
3):MMAはメチルメタクリレートである。
4):2EHAは2―エチルヘキシルアクリレート(「イソオクチルアクリレート」としても知られる)である。
5):2HEAMは2―ヒドロキシエチルメタクリレートである。
6):2HEAは2―ヒドロキシエチルアクリレートである。
7):4HBAは4―ヒドロキシブチルアクリレートである。
【0069】
4.2.2.比較例1〜5
機械的撹拌装置、還流凝縮器、温度計、および窒素入口管を備えた反応器を準備した。表2に示す比率に従ってモノマー(A)、モノマー(B)、モノマー(C)、および溶媒としての酢酸エチルを反応器に添加した。次に重合開始剤としてのアゾビスイソブチロニトリル(AIBN)0.03重量部を2時間後に反応器に滴下し、各比較例1〜5の反応物を窒素雰囲気下75℃で8時間反応させた。その後各生成物を酢酸エチルで希釈し固形分約40重量%の比較例1〜3および5の架橋性コポリマーを得た。比較例4については架橋性コポリマーの合成に成功しなかった。
【0070】
表2:比較例の架橋性コポリマーの組成および比率
【表2】
モノマーに関する注意事項:
8):22EEAは2―(2―エトキシエトキシ)エチルアクリレートである
【0071】
各架橋性コポリマーの粘度を前述の測定方法に基づいて測定しその結果を表3および表4にまとめた。
【0072】
表3:実施例の架橋性コポリマーの特性
【表3】
【0073】
表4:比較例の架橋性コポリマーの特性
【表4】
【0074】
4.3.感圧接着剤組成物の調製
感圧接着剤組成物はそれぞれ実施例1〜6および比較例1〜3、5の架橋性コポリマーを用いて調製した。具体的には93重量部の各架橋性コポリマー、7.0重量部のイソシアネート系架橋剤としてのHDI、および1.0重量部の帯電防止剤(商品名:FC−4400、3M社から入手可能)を室温で撹拌しながら混合して感圧接着剤組成物を得た。
【0075】
実施例1〜6のおよび比較例1〜3、5の感圧接着剤層の粘度安定性および塗布性能を上記測定方法に基づいて測定し評価し結果を表5、6にまとめた。
【0076】
4.4.保護フィルムの調製
この感圧接着剤組成物を用いて実施例1〜6、比較例1〜3、および5の保護フィルムを作製した。まず長さ20cm、幅40cm、厚さ38μmのPETフィルムを用意した。実施例1〜6、比較例1〜3、および5のいずれかの感圧接着剤組成物をPETフィルムの表面に塗布し、90℃で5分間乾燥させ、厚さ約15μmの感圧接着剤層を形成した。その後感圧接着剤層を23℃、相対湿度50%で7日間エージングし保護フィルムを得た。次に保護フィルムの感圧接着剤層上に剥離フィルムを被覆し感圧接着剤層を汚染から保護した。
【0077】
実施例1〜6、比較例1〜3、および5の保護膜の高剥離速度(30m/分)および低剥離速度(0.3m/分)における密着性ならびに表面インピーダンスを上記の測定方法に基づいて測定し、その結果を表5、6に併せてまとめた。
【0078】
表5:実施例の感圧接着剤組成物および保護フィルムの特徴
【表5】
【0079】
表6:比較例の感圧接着剤組成物および保護フィルムの特徴
【表6】
【0080】
表5に示されるように本発明の架橋性コポリマーを用いて調製された感圧接着剤組成物(「本発明の感圧接着剤組成物」とも呼ばれる)は、良好な粘度安定性およびコーティング性能を提供する。本発明の感圧接着剤組成物を用いて製造した保護フィルムは低速剥離強度と高速剥離強度とのバランスが良好である(すなわち、高剥離速度で測定した接着力は、低剥離速度で測定した接着力よりも約1〜7倍高い)。また本発明の感圧接着剤組成物を用いて作製した保護フィルムの表面インピーダンスは5.50×1012Ω/〜1.20×1013Ω/であり、本発明の保護フィルムが好適な帯電防止性能を有することが明らかである。また実施例1、2、6に示すようにモノマー(A)の含有量が架橋性コポリマーを形成するモノマーの総重量に対して10重量%〜15重量%の範囲であると、低速剥離強度と高速剥離強度とのバランスに優れ、すなわち高剥離速度で測定した密着力が低剥離速度で測定した密着力の約1〜4倍に過ぎない。
【0081】
これに対して表6に示すように本発明によらない架橋性コポリマーを用いて調製した感圧接着剤組成物(「本発明によらない感圧接着剤組成物」ともいう)は、良好な粘度安定性およびコーティング性能を有していない。本発明によらない感圧接着剤組成物を用いて作製した保護フィルムは低速剥離強度と高速剥離強度とのバランスが良好ではない。具体的には比較例1及び2に示すように、架橋性コポリマーがモノマー(A)を含まない場合、調製した感圧接着剤組成物は許容できる粘度安定性及びコーティング性能を有しておらず、高い剥離速度で測定した保護フィルムの接着力は低い剥離速度で測定した接着力よりも8倍以上高い。比較例3に示すように架橋性コポリマーがモノマー(A)を十分に含有していない場合(すなわち、モノマー(A)の含有量が指定範囲未満の場合)には、調製した感圧接着剤組成物は粘度安定性およびコーティング性能が不十分である。比較例4の結果から分かるように、架橋性コポリマーが過剰なモノマー(A)を含有する場合(すなわちモノマー(A)の含有量が指定範囲よりも高い場合)には、架橋性コポリマーの合成に成功することができない。比較例5に示すように、モノマー(C)の含有量が指定範囲より少ないと調製した感圧接着剤組成物の架橋が不十分となり、保護フィルムの低速剥離強度と高速剥離強度のバランスがとれていない。
【0082】
上記の実施例は本発明の原理および有効性を例示し、その本発明の特徴を示すために使用される。当業者は本発明の原理および精神から逸脱することなく、記載された本発明の開示および示唆に基づいて様々な修正および置換を進めることができる。したがって本発明の保護の範囲は添付の特許請求の範囲に定義されているとおりである。