【課題を解決するための手段】
【0005】
上記の目的を達成するために、本発明の請求項1に係わる酵素固定バイオセンサチップは、液体試料中の特定の基質成分を、該基質成分に対応する酵素との触媒作用の反応熱により検出するバイオセンサチップであって、基板から熱分離した薄膜に、液体試料が通る流路が形成されていること、前記流路内の反応部もしくはその近傍に前記反応熱を検出する第1の温度センサを形成したこと、酵素固定用の電極が、前記反応部に形成した前記第1の温度センサとは、電気的に独立に形成されていること、前記電極から延在して前記流路外の前記基板上に前記酵素の電着固定のための酵素固定用電極パッドが形成されていること、前記流路内の電極に所定の前記酵素が固定されていること、を特徴とするものである。
【0006】
本酵素固定バイオセンサチップは、シリコン(Si)単結晶のSOI基板を用いて、そのSOI層を利用して公知のMEMS技術で作成される微小寸法、例えば、長さ1mm、幅0.2mm、厚み0.01mm程度の架橋構造状や、必要に応じて、カンチレバ状の薄膜などで構成した方が、これを用いて酵素固定バイオセンサチップを提供するには、その周辺回路となる集積回路を同一基板に形成できることや、高感度で高精度の第1の温度センサと第2の温度センサを熱電対で構成するときに半導体熱電対が利用できるなど、好都合であることが多い。
【0007】
本酵素固定バイオセンサチップは、Si以外のプラスチックやガラス基板を使用しても良く、この基板から熱分離した薄膜に、流路、反応部、この反応部に固定された酵素、第1の温度センサ、第2の温度センサなどを形成して構成しても良い。また、例えば、第1の基板上に、流路、流路内の反応部や第1の温度センサ、第2の温度センサなどを形成し、その後、それらの上に層状に重ねて、厚膜を形成して、この厚膜を第2の基板として形成しておき、更に、この第2の基板から熱分離するようにする薄膜に、流路、流路内の反応部や第1の温度センサと第2の温度センサが形成されるようにしても良い。そして、必要に応じて、第1の基板を除去して、第2の基板を残して、この第2の基板を上述の基板として取り扱うようにしても良い。また、更に、薄膜として、流路を形成する層状薄膜を、上述の薄膜として兼用にすることもできる。この場合は、基板から熱分離し、酵素を固定した反応部や第1の温度センサ、第2の温度センサを有する流路が架橋構造やダイアフラム構造などの宙に浮いた状態の酵素固定バイオセンサチップが提供される。
【0008】
例えば、架橋構造状の薄膜に、第1の温度センサがこの薄膜の反応部、もしくはその近傍に形成されている。この反応部は、この薄膜が一様加熱された時に最も高温になる領域(例えば、中央部付近)に設けた方が有効に反応部での発熱が架橋構造状の薄膜の昇温に寄与できる。反応部には、例えば、グルコースオキシダーゼなどの酵素が固定される。また、流路がこの架橋構造状の薄膜に形成されており、第1の温度センサを通り、基板の手前から空洞を跨いで対向する位置の基板まで延在した流路内を、特定試料成分を含む体液などの液体試料が通る。例えば、特定試料成分が液体試料としての体液である尿中の基質である糖(グルース)であった場合、酵素として、糖(グルース)に対応する酸化酵素であるグルコースオキシダーゼを用いると良い。なお、「近傍」とは、同一の温度と見做せる範囲の領域や位置をいう。
【0009】
液体試料としての血液や尿、汗、唾液などの体液中にある特定試料成分である基質としてグルコース、尿酸、乳酸、タンパク、脂肪などで、それらの量を検出する場合は、その基質に対応するそれぞれの特定試料成分対応物質としての酵素であるグルコースオキシダーゼ、乳酸デヒドロゲナーゼ、ペルオキシダーゼやトリプシン、リパーゼなどを、架橋構造状の薄膜のほぼ中央に位置する反応部に、それぞれに対応する酵素や補酵素を固定して、流路を通して導入された体液中の基質とそれに対応する酵素との接触触媒熱反応で温度上昇させて、その温度上昇を反応部内又は近傍に形成してある第1の温度センサにより検出して、その時間経過を含む信号の大きさから基質の量を測定することができる。
【0010】
酵素の固定法として、従来から担体結合法、架橋法、包括法などで固定するための固定材(例えば、多孔性のあるシリカゲルなどのゲル状物質や電着した高分子材料、光架橋性PVAなど高分子材料など)で、親水性はあるが水に不溶な物質に固定しておき、流路を通して導入された体液中の基質とそれに対応する酵素との接触触媒反応で、熱反応して温度上昇させて、その温度上昇を反応部内又は近傍に形成してある第1の温度センサで検出して、その時間経過を含む信号の大きさから基質の量を測定することもできる。しかし、本発明では、流路形成後に、酵素を流路内の反応部に固定する方が望ましいので、金電極などの金属膜に、キトサンなどの物質を電着した後に、表面をアルキル化処理して、その上にアジド化したタンパク質を電着により固定する、所謂、クリックケミストリ法により、タンパク質である酵素を固定する方法を採用するものである。なお、基質とそれに対応する酵素との接触触媒熱反応は、最適な温度があり、体液中の基質と対応酵素との反応は、一般には、体温付近のことが多い。従って、少なくとも反応に寄与する反応部付近は、一様にその反応の最適温度にしておくようにすることが望ましい。
【0011】
クリックケミストリ法による本酵素固定バイオセンサチップの流路中の反応部に形成してある金(Au)などの金属膜への酵素の電着固定は、例えば、次のようにする。先ず、キトサンを希塩酸に溶かし、水酸化ナトリウムで、pH調節して、pH5.5程度にし、これを、酵素固定を除いて完成した酵素固定バイオセンサチップの流路の液体試料の流入口から流路内に注入してする。酵素固定用の金(Au)などの反応部に形成してある金属膜の電極は、酵素固定バイオセンサチップの流路外の基板上形成した電極パッドと導通しているので、この電極パッドと、流路の流入口側または流路の流出口側に、他方の対向電極を挿入または形成して、キトサンは、正に帯電しているので、酵素固定用電極を負極とし、他方の対向電極は、正極になるように配線して、電圧を3V程度で、30−60μA(マイクロアンペア)程度で、5分間程度で、数μm程度の厚みに電着する。その後、電着されたキトサン膜を流路に空気を流して乾燥させる。
【0012】
次に、この電着されたキトサン膜表面を酵素電着固定用の前処理として、アルキル化させる。これには、水酸化ナトリウムとイソピルアルコールの混合溶液を流路に注入して、電着されたキトサン膜に触れさせ、臭化プロパルギル液を微量添加して、60℃程度で5時間程度放置することにより達成される。また、タンパク質である酵素をアジド化しておき、これをクリックケミストリ法で、アルキル化されたたキトサン膜表面に電着して、流路内の反応部の電極に酵素を固定する。酵素のアジド化には、種々の方法があるが、例えば、NHS-dPEG(4)-N3を含むNaHCO3の溶液に、酵素を4時間程度浸すことにより達成される。そして、バッファー液中で、8時間程度、低温(4℃程度)で放置して未反応性分を除去する。次に、クリックケミストリ法による酵素固定のために、例えば、硫酸銅、アスコン酸とEDTAをリン酸バッファー液に溶かして、更に、アジド化されたこの酵素のバッファー液に溶かし、流路に注入する。流入口側に対抗電極を挿入または形成しておき、また、参照電極を流出口側に挿入または形成しておき、流路内の反応部の酵素固定用電極と対向電極との間に、500から-300mVの間の250mV/s程度の走査電圧を繰り返し印加して、10分間程度、酵素を電着させて、クリックケミストリによる流路内の反応部の電極への酵素固定が達成される。
【0013】
上述では、液体試料として、血液や尿、汗、唾液などの体液中にある特定試料成分としての基質とこれに対する酵素との触媒熱反応について述べたが、液体試料として、例えば、果物中の糖などの特定試料成分とそれに対する酵素との触媒熱反応についても同様である。
【0014】
本発明の酵素固定バイオセンサチップでは、流路内の反応部に形成してある酵素の電着固定用の電極が、第1の温度センサとは、電気的に独立に形成している。そして、この電極から延在して流路外の基板上に酵素の電着固定のための酵素固定用電極パッドを形成している。1個の流路内に形成している第1の温度センサは、例えば、温度差センサである熱電対であるときには、基板から熱分離した薄膜として、Si(シリコン)基板のSOI層を利用すると、このSOI層の熱電対の一方の熱電導材料として利用することができる。 SOI層である半導体は、ゼーベック係数が金属に比べ大であるので、高感度で高精度の熱電対を製作しやすい。他方の熱電対の熱電導材料として、金属膜を用いると容易に形成できるので好適である。半導体のゼーベック係数が金属に比べ一桁程度大であるので、他方の金属膜は、ゼーベック係数の符号にとらわれずに選択して良い。そして、複数の流路を同一の酵素固定バイオセンサチップに形成して、同時に多項目の液体試料中の成分を計測するようにした場合には、それぞれの流路内に形成してある第1の温度センサを共通のSOI層の熱電対の一方の熱電導材料として使用することで電極パッド数が少なくて済むと共に、各流路内の第1の温度センサの出力信号の増幅回路も共通アースとしても利用できるので、低雑音で増幅できることや各流路内の第1の温度センサの選択が容易な電子回路となり好都合である。しかしながら、このように流路内の反応部に形成してある酵素の電着固定用の電極と各流路内の第1の温度センサとを共通のSOI層の熱電対の一方の熱電導材料として使用して電気的に導通すると、クリックケミストリ法による酵素の電着固定用の電極が各流路で共通になっているために、流路ごとに異なる酵素の選択が困難になる。もちろん、SOI層を各流路ごとに溝を形成するなどで、絶縁分離しておき、各流路内の第1の温度センサの出力信号の増幅回路では共通アースとして電気的に導通させるようにし、クリックケミストリ法による酵素固定用として使用する場合は、流路ごと絶縁分離して使用するようにすることができるが、酵素固定バイオセンサチップの製造が複雑であり、切り替えよう回路スイッチが複雑になるという問題があった。
【0015】
本発明の請求項2に係わる酵素固定バイオセンサチップは、前記基板から熱分離した薄膜上で前記反応部以外の場所に、前記第1の温度センサの他に、第2の温度センサを形成した場合である。
【0016】
基板の試料流入口付近の温度は、一般に反応の最適温度ではないので、注入された液体試料が流路を通って反応部に到達するまでには、既にその反応の所定の最適環境温度になっていることが望ましい。しかし、最適温度でなくとも周囲温度が極端に最適温度からずれていなければ、周囲温度補正により液体試料中の特定成分を校正することができる。液体試料は、例えば、尿などの場合には、体温に近く、周囲温度からずれている場合が多く、1mK程度の温度変化を計測する本カロリメトリックバイオセンサでは、基板の温度や周囲温度、更には、液体試料の温度に、極めて敏感である。従って、本願発明では、前記薄膜のうち、反応部の近傍にある第1の温度センサと薄膜の基板側支持端との間に第2の温度センサを設けておき、この第2の温度センサの近傍の流路内を通る液体試料も外部のヒータなどにより所定の最適温度になるように配置することもできるし、ヒータがなくとも、少なくとも、本酵素固定バイオセンサチップでは、第1の温度センサと第2の温度センサとの温度差の計測により、基質とそれに対応する酵素との接触触媒反応による熱反応の温度上昇分のみを計測できるようにしている。もちろん、最適環境温度でなくとも、温度センシング部を断熱材で覆い、室温の環境下での熱反応の温度上昇分を計測しても良い。
【0017】
液体試料としての尿や血液などの体液中には、生体由来物質であるグルコース、タンパク、尿酸、各種酵素などの多くの基質等が含まれている。これらの体液を利用して、できるだけ多くの種類の試料成分の特定やその量などを同時に計測したい。そのために、同一の基板に、複数の薄膜とその上の流路を配列させ、それぞれの薄膜のそれぞれに第1の温度センサや第2の温度センサ、更に流路内に反応部を形成している。第1の温度センサと第2の温度センサとの差動出力を取り出すようにすると、それぞれの薄膜に形成された流路中を通る液体試料の温度の影響を小さくできるので好適である。
【0018】
本発明の請求項3に係わる酵素固定バイオセンサチップは、前記第1の温度センサと前記第2の温度センサのうちの少なくとも一つは、温度差センサとした場合である。
【0019】
温度差センサには、熱電対やサーモパイルが知られている。温度差センサの特長は、基準点(例えば、冷接点)と測定点(例えば、温接点)との温度差のみに関係する出力を電圧出力として取り出すことができることであり、しかも、ほぼ温度差に比例した出力電圧になることである。従って、例えば、第1の温度センサとして熱電対を採用し、第2の温度センサの位置を基準点(冷接点)にして、第1の温度センサの位置を測定点(温接点)とすれば、第1の温度センサの出力は、第2の温度センサの位置と第1の温度センサの位置の温度差出力を示す。このように、少なくとも第1の温度センサを温度差センサにすることにより第2の温度センサの位置と第1の温度センサの位置の温度差出力を高精度で容易に取り出すことができる。もちろん、第2の温度センサと第1の温度センサとも熱電対などの温度差センサにしても良い。この場合、第2の温度センサと第1の温度センサとの基準点を共通にすることにより、第2の温度センサと第1の温度センサとの出力差を計測すると、これは、第2の温度センサの位置と第1の温度センサの位置の温度差出力となる。第2の温度センサと第1の温度センサのそれぞれの一方の熱電物質として、共通する架橋構造を構成するSOI層(例えば、n型シリコン層)とすると、単純な構成となり便利である。また、基準点も基板に設けた共通電極とすると良い。
【0020】
本発明の請求項4に係わる酵素固定バイオセンサチップは、前記反応部に、ヒータを形成してあり、前記反応部を加熱できるようにした場合である。
【0021】
生物由来物質の基質とそれに対応する酵素とのそれぞれの組み合わせにおいては、それぞれの接触触媒熱反応には、最適な環境温度が有り、多くの場合、人間の体温付近の35℃から40℃程度であり、一般の室温である20℃より高い温度である。このような最適な温度環境下もしくは、熱反応が観測されやすい温度環境下での接触触媒熱反応になるように、外部にヒータを設置して、流路を持つ前記薄膜を所定の均一な温度分布となる温度設定できるようにすると良い。本発明では、反応部の温度を酵素に最適な温度にすることもできると共に、酵素との熱反応における反応熱の校正用にも使用出来るようにした場合である。特に、酵素の活性が時間や環境により低下することが多く、この反応部に形成してあるヒータにより、酵素の活性度のチェックや校正に役立てるようにしている。例えば、所定のワット数である10μW(マイクロワット)をヒータに加えることによる温度上昇分を事前に計測しておき、標準液体試料を流すことによる酵素熱反応による特定の酵素の反応熱の温度上昇分を時々計測すれば、その経時変化により、酵素活性の度合いをチェックできると共に、これを基にして、標準液体試料の成分の量の校正ができる。
【0022】
本発明の請求項5に係わる酵素固定バイオセンサチップは、前記ヒータは、前記酵素固定用電極パッドを介してジュール熱によるヒータ加熱ができるようにした場合である。
【0023】
ヒータとして、反応部に例えば、光照射による加熱もできるが、本発明では、反応部に例えば、薄膜抵抗体を形成しておき、これに電流を流して発熱させる方が簡便である。各流路の反応部に形成しているそれぞれのヒータには、電極パッドが2個ずつ必要であるが、このうちの一方を、酵素の電着固定のための酵素固定用電極パッドと共有することで、基板に設ける電極パッド数が節約になり、少なくて済む。
【0024】
本発明の請求項6に係わる酵素固定バイオセンサチップは、前記流路の液体試料の流入口と流出口以外は密閉構造であり、前記流路の主体が、フォトレジストで形成した場合である。
【0025】
MEMS技術では、高精度のパターンを光照射により、画一的なパターン形状として容易に形成できるので、フォトレジスト膜が一般に使用されている。幅200μmで深さ30μm程度の中空で、密閉構造のパターン形状の流路も、シート状のフォトレジスト膜を重ねながら形成することで、容易に形成できる。フォトレジストとしては、耐熱性と硬化強度が重要であるので、例えば、SU―8などのフォトレジスト膜が好適である。ただ、形成時に、上下の重ね合わせのシート状フォトレジスト膜では、それらの密着性を良くして変形し難くするには、重ね合わせ時の熱処理の温度と時間設定が重要である。
【0026】
本発明の請求項7に係わる酵素固定バイオセンサチップは、前記液体試料との接触を大になるように、前記反応部に凹凸を形成して、該凹凸がないときの表面積に比べ、その表面積を大にした反応部表面に、前記酵素固定用の電極を形成した場合である。
【0027】
反応部に形成されている凹凸は、例えば、上述の流路形成時のフォトレジスト膜やシートによる中空の流路を形成するときに、中空部を形成するためのフォトレジストシートなどに凹凸になるように形成すると良い。例えば、ピラー状凹凸のパターン配列も容易に形成できるので、好適である。流路内反応部の酵素固定用の電極をこのピラー状凹凸の表面にスパッタリング堆積にて、金(Au)などの金属膜を、0.3μm厚程度に堆積させて、パターン化すると良い。また、この電極を電気的に流路外の基板に引き出し、酵素固定用の電極パッドにするが、途中の流路では、液体試料には接触しないように、フォトレジスト膜などで覆い、電気的に絶縁を施しておいた方が良い。その理由は、反応部の酵素固定用の電極に酵素を電着固定する際に、流路途中でも液体試料に露出していると、その露出箇所にも酵素が電着されることになるからである。
【0028】
本発明の請求項8に係わる酵素固定バイオセンサチップは、前記流路を有する前記薄膜は、架橋構造とした場合である。
【0029】
薄膜として架橋構造状の構造を採用すると、薄膜の安定な保持が達成されると言う利点があると共に、後述するように、カロリメトリックバイオセンサのセンサチップを何回も使用するには、流路内を洗浄する必要がある。この場合、流路を通して、例えば、尿や血液などの液体試料を流し、熱反応後、センサチップ外に液体試料や洗浄液などを排出させる必要があるので、架橋構造状の構造が好適である。もちろん、薄膜としてカンチレバ状にすると架橋構造状の構造に比して、小型の薄膜で済むが、センサチップを何回も使用するには、液体試料や洗浄液などを、基板からの熱分離して有る薄膜上で液体試料の蒸発を防ぎながら排出させるには、カンチレバ上の流路をカンチレバの基板支持部に戻す必要があり、構造が複雑になると言う問題もある。
【0030】
本発明の請求項9に係わる酵素固定バイオセンサチップは、同一の前記基板に形成している前記流路を複数並列に配列させて、1つの
流入口から流入した前記液体試料が、前記各流路に分流させるようにしてあり、分流後には、合流して一つの
流出口から排出されるようにした場合である。
【0031】
同一の基板に、複数の流路を形成しておき、それぞれの反応部に異なる酵素を固定しておくことにより、流路の流入口から注入した液体試料の各成分を同時に計測できることが望ましい。本発明では、流路の1個の流入口から注入した液体試料を分流させて、更に、合流させるようにして、1個の流出口から排出させるようにしたもので、液体試料や洗浄液の流路への注入、排出などの流路系が簡便になる。
【0032】
本発明の請求項10に係わる酵素固定バイオセンサチップは、前記複数の流路の各反応部に固定してある酵素は、それぞれ異なる酵素とした場合である。
【0033】
上述したように、特定試料成分として、尿や血液などの体液中の基質の量と種類の特定では、特定試料成分である基質に対応する酵素を複数のそれぞれの薄膜上の流路内反応部に固定することにより、流入口から注入された液体試料の体液が分配されて、複数の薄膜に形成されているそれぞれの流路中を通って、それぞれの反応部で特定の酵素との触媒熱反応により発熱して、それらの第1の温度センサと第2の温度センサとの差動出力を取り出すことで、特定の酵素と基質の組合せをほぼ同時に決定できる。例えば、1個の流入口から注入した液体試料が、各薄膜に形成して有る各流路に分流して、それぞれの反応部でそれぞれの特定試料成分の基質に対応するそれぞれの酵素と熱反応して、それぞれの第1の温度センサや第2の温度センサでの温度上昇分の計測によりそれぞれの異なる特定試料成分の量に対する情報を得るようにした場合である。本発明により、液体試料中の種々の基質を同時に計測できるという利点がある。もちろん、逆に、特定試料成分対応物質として基質を反応部に固定しておき、特定試料成分として酵素を検出することもできる。
【0034】
本発明の請求項11に係わる酵素固定バイオセンサチップは、前記基板の上に、少なくとも1枚のカバーを張り合わせてあり、該カバーを介して、前記基板の
流入口と流出口とに液体試料が流入出できるようにした場合である。
【0035】
本発明の酵素固定バイオセンサチップは、基板から熱分離した極めて熱容量の小さい薄膜に、微細な流路を形成した分解能1mK程度の温度計測システムであり、高精度な特定試料成分の量の検出には、酵素と基質の熱反応以外の外界からの熱の授受や対流などの影響が無いようにすることが最も重要である。熱対流や外気温の変化が影響しない構造にする必要が有り、室温の変動や外部空気等の流れなどの影響を防ぐために、少なくともカバーを1枚、基板に張り合わせて取付けて、断熱効果を高めると共に、液体試料の酵素固定バイオセンサチップの流入口と流出口とに液体試料が流入出できるようにした場合である。もちろん、カバーのうち、基板から熱分離している箇所である宙に浮いている架橋構造の流路領域は、空洞などの凹部を有するようにしておく必要がある。これにより反応部の温度がカバーからも熱分離ができるようになる。基板の裏側にもカバーを取り付けることで、断熱効果が増す。酵素固定バイオセンサチップのカロリメトリックバイオセンサへの取付の仕方により、基板の裏側がカバーの代わりに板に固定できるようにして、基板の裏側の空洞部を覆うようにすることも良い。
【0036】
本発明の請求項12に係わるバイオセンサモジュールは、液体試料や洗浄液の注入口と排出口を有し、該注入口と排出口の間に、前記請求項1から11のいずれかに記載の酵素固定バイオセンサチップを搭載してあること、前記液体試料や洗浄液が該酵素固定バイオセンサチップの流入口と流出口を経て、外部に排出させるように
、注入口と排出口および酵素固定バイオセンサとを一体化してあること、更に、前記酵素固定バイオセンサチップへの電気的接続用のコネクタを備えてあること、を特徴とするものである。
【0037】
本発明の酵素固定バイオセンサチップを搭載したハンディなカロリメトリックバイオセンサとして使用した場合に、酵素の失活などで酵素固定バイオセンサチップを交換する必要が出てくる。酵素固定バイオセンサチップは、極めて微細なパターン形状からなり、破壊されやすい構造である。そのような場合には、酵素固定バイオセンサチップ単体で取り扱うのではなく、酵素固定バイオセンサチップには、直接触れないで酵素固定バイオセンサチップを交換することが望ましい。本発明は、カロリメトリックバイオセンサを使用する一般の人が、容易に酵素固定バイオセンサチップを交換することができるように、液体試料や洗浄液の注入口と排出口を有し、かつ、酵素固定バイオセンサチップへの電気的接続用のコネクタを備えてあるバイオセンサモジュールとして、モジュール化するもので、このバイオセンサモジュール単位で、カロリメトリックバイオセンサに、カセットのように装着することで酵素固定バイオセンサチップが交換できるようにしたものである。
【0038】
本発明の請求項13に係わるカロリメトリックバイオセンサは、請求項1から11のいずれかに記載の酵素固定バイオセンサチップもしくは、請求項12に記載のバイオセンサモジュールを搭載し、液体試料中の特定の基質成分の量を、該基質成分に対応する酵素との触媒作用の反応熱に基づく温度変化を、前記酵素固定バイオセンサチップに形成している前記第1の温度センサと
第2の温度センサを用いて計測して、所定の校正データを基にして知るようにしたことを特徴とするものである。
【0039】
基板の試料流入口付近の温度は、一般に反応の最適温度ではないので、注入された液体試料が流路を通って反応部に到達するまでには、既にその反応の所定の最適環境温度になっていることが望ましい。従って、本願発明では、前記薄膜のうち、反応部の近傍にある第1の温度センサと薄膜の基板側支持端との間に第2の温度センサを設けておき、第1の温度センサと第2の温度センサを用いるが、これらの温度差の計測により、基質とそれに対応する酵素との接触触媒反応による熱反応の温度上昇分のみを計測できるようにした方が良い。この熱反応の温度上昇と事前に準備している所定の校正データを基にして、液体試料中の特定の基質成分の量を知るようにしたもので、マイコンを搭載するなどして、その値を液晶表示するようにすることもできる。
【0040】
本発明の請求項14に係わるカロリメトリックバイオセンサは、
請求項4もしくは5に記載のヒータの前記反応部のジュール加熱による温度上昇を前記第1の温度センサと前記第2の温度センサを用いて計測して、液体試料中の特定の基質成分の量の校正に利用するようにした場合である。
【0041】
流路内の反応部に設けているヒータを、例えば、10μWや100μWでジュール加熱して、その時の反応部の温度上昇分を第1の温度センサと第2の温度センサとの温度差計測などで計測して、標準校正用の液体試料を流路内の反応部の固定している酵素との熱反応に基づく温度上昇分とを比較し、酵素の劣化等をチェックすることができる。例えば、定期的に計測して、固定されている酵素の失活度のチェックや失活している時には、マイコンを用いた電子回路と校正データにより液体試料中の特定の基質成分の量の校正した表示などに利用することができる。
【0042】
本発明の請求項15に係わるカロリメトリックバイオセンサは、少なくとも電源回路、増幅回路、演算回路および制御回路を備え、前記液体試料中の特定の基質成分の量に関する情報を得ることができるようにした場合である。
【0043】
カロリメトリックバイオセンサのセンサチップは、Si単結晶であるSOI基板を用いて製作すると、MEMS技術が適用されやすく好適である。そして、このSOI基板から成るセンサチップに集積回路技術で電源回路、増幅回路、演算回路および制御回路も集積化できるし、これらを別の半導体基板等に集積化して、モジュール化することもできる。このようにすることにより、極めてコンパクトな、例えば、ハンディタイプのカロリメトリックバイオセンサを提供することができる。
【0044】
本発明の請求項16に係わるカロリメトリックバイオセンサは、液体試料の駆動手段と弁による液体試料の流れの制御ができるようにした場合である。
【0045】
液体試料や洗浄液を、吸引や吐出させる駆動手段としての電気的な駆動によるダイアフラム型ポンプを利用して、流路に液体試料などを流入口から導入して、反応部で酵素との接触熱反応を生じさせ、流出口から排出させるようにしても良いし、また、駆動手段として手動ポンプで駆動するようにしても良い。また、液体試料や洗浄液の流れの開始や停止などの流れの制御を、弁を介しで高速に行わせるようにすると良い。弁として、電磁弁や手動による弁があるが、電磁弁などは、電力を最小限にするために、開閉動作時だけ電力を消費するようにする方が良い。
【0046】
電源回路は、駆動手段、弁やヒータ等の駆動、マイコンや増幅器などの電子回路への電源の供給に関わる回路であり、増幅回路は、第1の温度センサと第2の温度センサやこれらの差動信号の出力などを増幅する回路である。上述で第1の温度センサと第2の温度センサの出力という表現をしているが、一般には、第1の温度センサと第2の温度センサの生の出力は小さいので、初段増幅後以降の出力を指すが、もちろん、第1の温度センサと第2の温度センサの生の出力信号を指すこともある。演算回路は、第1の温度センサと第2の温度センサからの出力やこれらに基づく差引や積分、また、これらの出力信号などを利用し、更にメモリ回路との組み合わせにより特定試料成分の量への換算などを演算処理するような回路である。また、制御回路は、ヒータの温度制御や液体試料の流速や流れの開始・停止等の電磁バルブのタイミング等の制御、更には、信号の積分時間の設定などやフィードバック制御などを行う回路である。
【0047】
本発明のカロリメトリックバイオセンサを、例えば、血糖計や尿糖センサなどに用いた場合、ある個人の血糖や尿糖などのカロリメトリックバイオセンサからの特定試料成分の量に関する情報は、その時ばかりでなく、日常での日ごとの変化やその傾向を知ることが大事である。その計測時の数値ばかりでなく、過去のデータを蓄積しておき、経日変化をグラフ化したり、予測したりすることも大切であり、また、医療機関への連絡なども必要な場合もあり、情報を無線もしくは有線にて、外部にあるコンピュータに送信できるようにして、各種の処理ができるようにした方が好都合である。
【発明の効果】
【0048】
本発明の酵素固定バイオセンサチップでは、酵素の電着固定用の電極が反応部に形成した第1の温度センサとは、電気的に独立に形成されて、この電極から延在して流路外の同一の基板上に酵素の電着固定のための酵素固定用電極パッドが形成されており、他の流路の反応部にある電極とは、電気的に分離されているので、流路内の所定の反応部の電極に所望の酵素を独立に電着固定することが容易であるという利点がある。
【0049】
本発明の酵素固定バイオセンサチップでは、第1の温度センサと第2の温度センサとの少なくとも一方が熱電対などの温度差センサであり、特にこれら2つの温度センサを、温度差センサとして選択することにより、第1の温度センサと第2の温度センサの差動出力は、反応部での特定試料成分としての基質とその対応酵素との熱反応に基づく温度上昇分のみの高精度計測が可能になり、誤差が少なく、好適である。
【0050】
本発明の酵素固定バイオセンサチップでは、流路の主体が、フォトレジストで形成しているので、安価で高精度な酵素固定バイオセンサチップとカロリメトリックバイオセンサが提供できるという利点がある。
【0051】
本発明の酵素固定バイオセンサチップでは、反応部に、ヒータを形成してあり、反応部を加熱できるようにしているので、このヒータを所定のジュール熱の電力量で駆動して、酵素の失活の度合いをチェックして、校正用に使用することができるので、高寿命の精度の高いカロリメトリックバイオセンサが提供できるという利点がある。
【0052】
本発明の酵素固定バイオセンサチップでは、密閉構造の流路を形成した後に、この流路内にある反応部に、酵素をクリックケミストリ法で選択的に形成できる。従って、同一基板に形成した複数の薄膜と流路に、それぞれ異なる酵素の固定ができるので、例えば、液体試料の尿中の多項目の特定試料成分を同時計測ができるという利点がある。
【0053】
本発明のバイオセンサモジュールでは、バイオセンサモジュール単位で、カロリメトリックバイオセンサに、カセットのように装着することで、酵素固定バイオセンサチップに直接手を触れずに、容易に交換できるという利点がある。
【0054】
本発明のカロリメトリックバイオセンサでは、流路、第1の温度センサと第2の温度センサと、更に反応部とを備えた薄膜を同一基板に複数形成し、所定の基質とそれに対応する酵素との組み合わせで計測できるように、それぞれに配置させることにより、同時に微量の体液などに含有する特定試料成分の複数の種類の特定とその量をほぼ同時に計測することができると言う利点がある。
【0055】
本発明のカロリメトリックバイオセンサでは、流路を密閉構造にしているので、液体試料の蒸発を防ぐと共に、断熱材で囲む構造にするので、微細な温度変化を安定して計測することができる。
【0056】
本発明のカロリメトリックバイオセンサでは、流路を洗浄液で洗浄できる構造にしており、計測は基質と酵素との熱反応に基づくが、その酵素は触媒として作用するので、消費するものではなく、本質的に基質の洗浄等を利用すれば、何回でも使用できると言う利点がある。
【0057】
本発明のカロリメトリックバイオセンサでは、MEMS技術によりセンサチップやヒータが形成でき、更に電源回路、増幅回路、演算回路および制御回路も集積化しやすく、モジュール化することによりコンパクトな携帯用のカロリメトリックバイオセンサとしても提供できると言う利点がある。