(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
電池には、物理電池(光電池、太陽電池)と化学電池がある。化学電池には、自ら発電して放電する一次電池と、外から与えた電力を蓄えて放電する二次電池とがあり、さらに、燃料電池がある。
二次電池は、充電と放電を繰り返すことが可能であるので、繰り返し使用することができる。それに対し、一次電池は、充電できないといわれることが多いが、使用によって減少した物質を機械的に取り替えること(メカニカルチャージ)によって繰り返し使用することができる。
【0003】
繰り返し使用することが可能な一次電池の例として、マグネシウム又はアルミニウムを負極として用い、酸性電解質を用いるものが提案されている(特許文献1)。
特許文献1には、マグネシウム又はアルミニウムを負極として、導電部材(カーボンシート)を正極として、当該正極に空気を供給し、この負極と正極間に過塩素酸からなる酸性電解質を配設してなり、前記負極の金属が溶滅したら、新しい金属と取り替えるだけで引き続き使用することが可能である酸電池が開示されている。
さらに、この酸電池では、負極と電解質との接触を断つことにより、化学反応を完全に停止させることができる。
特許文献1における正極は、カーボン等の炭素系導電部材と記載されている。
【0004】
一方、炭素は、グラファイト、ダイヤモンド、無定形炭素など、性質が大きく異なる複数の同素体が存在する。1980年代以降次々と新発見されたナノメートルサイズの炭素の同素体は、従来知られていた炭素同素体とは全く異なる原子構造や物性を有することが確かめられ、その工業的利用価値の高さが注目されている。本明細書ではそれらを「ナノ炭素材料」と称し、カーボンナノチューブ、カーボンナノファイバー、ナノグラフェン、フラーレン、カーボンナノホーン、カーボンマイクロコイル、カーボンブラック、ダイヤモンドライクカーボン、カーボンナノクリスタル、活性炭などであって、数nm〜10μm程度のサイズのものを含むものとする。
【0005】
ナノ炭素材料は炭素のみから構成されるため、極めて軽量で、高強度で、導電性を有する高分子材料である。その導電性は銅よりも優れ、強度は鋼よりも優れ、耐熱性が高く、多くの薬品に対しても反応せず、大気中で安定である。
ナノ炭素材料の中でも、カーボンナノチューブは、特に優れた電気特性、力学特性、熱特性などを示すものであり、様々な材料への応用が期待され、広く研究開発が行われている。例えば、カーボンナノチューブと樹脂とを混合した複合材とし、あるいはカーボンナノチューブ分散液をバインダーとを混合して乾燥させたものから、様々な用途の材料が得られる。
【0006】
カーボンナノチューブは、ファンデルワールス力により凝集する性質があり、溶液中ではバンドル構造体を形成するため、そのままでは良好なカーボンナノチューブ複合材料を製造することができず、カーボンナノチューブを溶液中に分散(あるいは可溶化)させる工程が必要となる。カーボンナノチューブが良好に分散された溶液(分散液)を用いることが、カーボンナノチューブ複合材料の特性向上に大きく寄与することから、カーボンナノチューブを溶液中に安定的に分散させる技術に関して多くの提案がなされている。
【0007】
溶液中のカーボンナノチューブの分散方法としては、有機溶媒(例えば、N−メチルピロリドン;NMP)を用いる方法、酸処理によりカーボンナノチューブを化学修飾する方法、界面活性剤(例えば、ドデシル硫酸ナトリウム;SDS)によりミセル化する方法などがあり、さらに超音波処理やビーズミル処理などが併用されることも多い。
【0008】
特許文献2には、アルキルエステル基、ビニリデン基及びアニオン性基を有する界面活性剤、カーボンナノチューブ、水性溶媒を含むカーボンナノチューブ分散液が提案されている(請求項1等)。この分散技術では、界面活性剤のビニリデン基が有する炭素二重結合がカーボンナノチューブと相互作用することによりカーボンナノチューブの分散が促進されるものとされており、従来のドデシル硫酸ナトリウム(SDS)等の分散剤を用いた場合に比べて分散度が高く([0055]〜[0062]等)、さらにはpH変化に対する安定性が高い([0063]〜[0069]等)カーボンナノチューブ分散液が得られるとの結果が報告されている。
【0009】
特許文献3には、カーボンナノチューブと活性炭との複合材料を提案している。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
NMP等の有機溶媒やSDS等の界面活性剤を用いたカーボンナノチューブ分散液は、時間経過により再びカーボンナノチューブが凝集してしまうという問題点や作製したナノ炭素材料に有機溶媒や界面活性剤が不純物として残留してしまうという問題点が解消されていない。
酸処理によりカーボンナノチューブを化学修飾する方法は、溶媒に親和性を有する官能基を共有結合的にカーボンナノチューブ表面に導入するものであるが、これによりカーボンナノチューブが本来有する性質が失われたり、切断されてしまったりするという問題点が解消されていない。
【0012】
本発明は、カーボンナノチューブのすぐれた特性を生かす上で、分散の課題があること、その課題を乗り越えることができれば、酸電池の正極としてのカーボンシートに有効であると思われることに鑑みてなされたものであり、カーボンナノチューブが本来有する性質を損なうことなく、かつ、時間経過しても良好な分散状態を保つことができるナノ炭素材料の分散方法及びナノ炭素材料の分散液、並びにそれらによって得られるナノ炭素材料複合体を提供し、さらに、その炭素材料複合体を膜状にして、炭素繊維シートの表面を覆うものを酸電池の正極として提案する。
さらに、必要な電力量を、電力の需要に合わせて発電する計画発電を実現可能な発電システムを提案する。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記解決課題に鑑みて鋭意研究の結果、本発明者は、
(1)低級アルコールを10重量%以上含む水溶液に対し、0.01〜10%の陰イオン性界面活性剤又は非イオン性界面活性剤を添加した溶媒中に、カーボンナノチューブ、及び当該カーボンナノチューブに対し1〜30重量%の他の種類のナノ炭素材料であるグラフェン、カーボンブラック、活性炭のうち1種類又は2種類以上を含むものを凝集阻止剤として加えて、得た溶液(スラリー)に超音波照射することで、分散処理を行う。
(2)好適な界面活性剤を含む水溶液に上記(1)のスラリーを加え、原材料水溶液(カーボンナノチューブ1重量部に対して、カルボキシメチルセルロースアンモニウム1〜5重量部、炭酸水素アンモニウム1〜5重量部、ポリオールを含む)とし、超音波処理を行うことにより、極めて優れた分散性を有するナノ炭素材料の分散液を得られることを見出した。
さらに、炭素繊維シートの表面に、前記カーボンナノチューブを含有する膜状物を設けて、ファイバー結合した3Dメッシュとし、酸電池の正極とすることに思い至り、本発明を成すに至った。
【0014】
本発明に係るシート状空気電極は、カーボンナノチューブを含有する膜状物をその表面に有する炭素繊維シートからなる。
これにより、カーボンナノチューブのイオン透過性、導電性、酸素透過性などの特性を生かした空気電極を構成することができる。
【0015】
また、配置する場所の空間形状に合わせて、前記炭素繊維シートの面積、寸法、形状、立体的な変形加工が変更可能とすることができる。これにより、電池形状をカスタマイズ可能となり、大きさ、形などを自在に選ぶことができる。
【0016】
特に、酸電池の正極として用いられる。これにより、電流密度などの点で有利な酸電池を構成可能となる。
【0017】
また、前記酸電池の負極はマグネシウム、アルミニウム、亜鉛、鉄または銅のうちの一つ又は二つ以上を含む金属からなり、前記正極と前記負極とが近接する空間に酸性電解質が配される。これにより、酸により負極の金属が溶ける(腐食する)ことで電池が構成される。
【0018】
前記酸性電解質は、溶液であり、前記炭素繊維シートを当該溶液の電解質が透過して前記負極に接触するようにすることができる。これにより電解質及び溶液中の溶存酸素が溶液中を移動して機能することができる。
【0019】
前記溶液を循環させる循環装置により、前記電解質及び前記溶液中の溶存酸素が前記炭素繊維シートを透過して循環することができる。これにより、化学反応による生成物を排除するとともに、必要な電解質及び溶存酸素を必要なところに運ぶことが可能となる。
【0020】
前記循環装置による循環を、制御可能とし、それにより前記電解質が前記炭素シートを透過して循環することを停止し、又は前記溶液中の溶存酸素の供給を減らすことができる。これにより、化学反応を停止または緩慢にすることが可能となる。
【0021】
前記酸性電解質は、ジェルであり、シートに含浸させたジェルシートとして設けられるようにすることができる。これにより、液垂れを防止し、置く向きを気にせずに用いることができる。
【0022】
前記ジェルは、電解質が透過せず抜き差し可能な遮断シートを介して前記負極と接触し、遮断シートを抜いた状態で発電し、遮断シートを差した状態で発電停止することができる。これにより不使用時の無駄な放電を避けることができる。
【0023】
前記ジェルシートは、抜き差し可能であり、抜くことにより前記酸性電解質と前記負極との接触を断ち、差すことにより前記電解質と前記負極との接触を実現する。これにより、電池の放電を停止又は緩慢にし、必要あるときに再び電池使用をすることができる。
【0024】
前記負極は、交換可能であり、溶滅した際に、新たな負極と交換することができる。これにより、繰り返し使用が可能な一次電池を実現できる。
【0025】
本発明に係る酸電池は、カーボンナノチューブを含有する膜状物をその表面に有する炭素繊維シートからなるシート状空気電極を正極とし、マグネシウム、アルミニウム、亜鉛、鉄または銅を含む金属を負極とし、前記正極と前記負極との間に酸性電解質が配される。これにより、カーボンナノチューブの特性を生かした酸電池を構成することができる。
【0026】
前記正極を構成する前記炭素繊維シート配置する場所の空間形状に合わせて、前記炭素繊維シートの面積、寸法、形状を変更可能であり、前記負極を前記正極の面積、寸法、形状の変更に合わせて変形する。これにより、狭い場所や、湾曲形状の場所などでも設置可能な酸電池を提供できる。
【0027】
前記酸性電解質は、溶液とすることができる。これにより、反応後の生成物を除去すること、電解質及び溶液中の溶存酸素を必要なところに移動することにおいて、有利な電池を構成できる。
【0028】
前記溶液を循環させる循環装置をさらに有し、前記電解質及び前記溶液中の溶存酸素が循環するようにすることができる。これにより、化学反応を効率的に行える電池を提供できる。
【0029】
前記循環装置による循環を、制御可能とし、電解質の循環を停止し、又は前記溶液中の溶存酸素の供給を減らすことができる。これにより、化学反応を停止すること、または緩慢にすることが可能となる。
【0030】
前記酸性電解質は、ジェル状であり、シートに含浸させたジェルシートとして設けることができる。これにより、液垂れを防ぐことができる。また、電池を置く向きを限定されない。
【0031】
前記ジェルシートは、電解質が透過せず抜き差し可能な遮断シートを介して前記負極と接触し、遮断シートを抜いた状態で発電し、遮断シートを差した状態で発電停止することができる。これにより、不使用時の無駄な放電を避けることができる。
【0032】
前記ジェルシートは、抜き差し可能であり、抜くことにより前記電解質と前記負極との接触を断ち、差すことにより前記電解質と前記負極との接触を実現する。これにより、電池を使わないときの無駄な放電を防止することができる。
【0033】
前記負極は、交換可能であり、溶滅した際に、新たな負極と交換する。これにより、繰り返して使用可能な酸電池を提供することができる。
【0034】
本発明に係る発電システムは、カーボンナノチューブを含有する膜状物をその表面に有するシート状空気電極を正極とし、マグネシウム、アルミニウム、亜鉛、鉄または銅のうちの一つ又は二つ以上を含む金属を負極とし、前記正極と前記負極との間に酸性電解質が配されてなる酸電池を複数積層配置し、電気接続してなる。
【0035】
前記正極をなす前記空気電極の基材として、炭素繊維シートを用いる。これにより、表面積を大きくすることができ、反応を促進する上で有利である。
【0036】
前記正極を構成する前記炭素繊維シートは、配置する場所の空間形状に合わせて面積、寸法、形状を変更可能であり、前記負極を前記正極の面積、寸法、形状の変更に合わせて変形するる。これにより、酸電池の形状をカスタマイズ可能となる。
【0037】
前記酸性電解質は、溶液とする。これにより、反応性生物の除去、電解質及び溶液中の溶存酸素の移動に有利である。
【0038】
前記溶液を循環させる循環装置をさらに有し、前記電解質及び前記溶液中の溶存酸素が循環するようにする。これにより、化学反応を促進できる。
【0039】
前記循環装置による循環を、制御可能とし、電解質の循環を停止し、又は前記溶液中の溶存酸素の供給を減らすことができる。これにより、化学反応を停止すること、又は緩慢にすることができる。
【0040】
前記酸性電解質は、ジェル状であり、シートに含浸させたジェルシートとして設けられる。これにより液垂れを防止し、発電システムの置く向きの制限をなくす。
【0041】
前記ジェルシートは、電解質が透過せず抜き差し可能な遮断シートを介して前記負極と接触し、遮断シートを抜いた状態で発電し、遮断シートを差した状態で発電停止する。これにより、不使用時の無駄な放電を避ける。
【0042】
前記ジェルシートは、抜き差し可能であり、当該ジェルシートを抜くことにより前記電解質と前記負極との接触を断ち、差すことにより前記電解質と前記負極との接触を実現する。これにより、電気を使わないときの無駄な放電を防止する。
【0043】
前記負極と、前記酸性電解質との接触を断つ、又は前記正極と酸素との接触を断つ反応停止装置を有する。これにより、電気を使わないときの無駄な放電を防止し、計画発電を可能にする。
【0044】
前記反応停止装置は、当該反応停止状態を解除して、再び発電を開始可能である。これにより、電気の使用、不使用を自在に管理できる。
【0045】
カーボンナノチューブを含有する膜状物をその表面に有するシート状空気電極を正極とし、マグネシウム、アルミニウム、亜鉛、鉄または銅のうちの一つ又は二つ以上を含む金属を、溶滅の際には新しい物と交換可能に設けて、負極とし、前記正極と前記負極との間に、電気絶縁性を有し、電解質を透過するセパレータを設け、前記正極、前記セパレータ、前記負極を積層配置した積層物に対して、前記正極の側から、発電に必要な量の酸性電解質を滴下又は噴霧して負極に到達させる酸性電解質供給装置とを有する発電システムとすることができる。これにより、たきぎを燃やすのに必要かつ十分な火を準備するように、無駄のない酸性電解質供給をすることができる。
【0046】
前記酸性電解質供給装置による酸性電解質の供給量を制御する酸性電解質供給制御装置をさらに有し、計画発電を実現する。これにより、停電や、真夏の電力不足に対応することが可能となる。
【0047】
本発明に係るカーボンナノチューブを含有する膜状物をその表面に有する炭素繊維シートからなるシート状空気電極の製造方法は、カーボンナノチューブと、カルボキシメチルセルロースアンモニウムと炭酸水素アンモニウムとグリセリンとを水に溶解させて原材料水溶液とする原材料水溶液生成ステップと、前記原材料水溶液に超音波ホモジナイザーにより超音波を照射して分散水溶液を得る超音波照射ステップと、炭素繊維シートを前記超音波照射後の前記分散水溶液に含浸させる含浸ステップと、含浸後の炭素繊維シートを乾燥させる乾燥ステップとを有する。これにより、カーボンナノチューブ本来の性質を引き出すことが可能となる。
【0048】
前記含浸ステップと乾燥ステップとを繰り返し(たとえば3度)行う。これにより、炭素繊維シートの表面にカーボンナノチューブの被覆(膜状物)を有効に設けることができる。
【発明の効果】
【0049】
以上、説明したように、本発明によれば、カーボンナノチューブが本来有する性質を生かした、電極、電池、発電システムを構成することが可能になる。
【発明を実施するための形態】
【0051】
以下、添付図面を参照しながら、本発明のナノ炭素材料の分散方法、ナノ炭素材料の分散液、ナノ炭素材料複合体を実現し、空気電極、酸電池、発電システムを実現するための最良の形態を詳細に説明する。
説明の順序を、そのタイトルを挙げて、目次とする。
≪カーボンナノチューブの分散、塗布、含浸、乾燥によるシート状空気電極の製造方法≫
≪シート状空気電極及びその変形加工≫
≪酸電池の正極及び正極活物質≫
≪酸電池の負極及び負極活物質≫
≪酸性電解質≫
≪酸性電解質溶液を循環させ、それを制御する≫
≪ジェル状の電解質及び発電停止、発電再開≫
≪積層によるスケーラビリティ≫
≪酸性電解質溶液を滴下又は噴霧することによる計画発電≫
【0052】
≪カーボンナノチューブの分散、塗布、含浸、乾燥によるシート状空気電極の製造方法≫
本発明のナノ炭素材料の分散方法、ナノ炭素材料の分散液及びナノ炭素材料複合体の実施例として、ナノ炭素材料分散液及びナノ炭素材料複合体の具体的な製造方法とそれらが示す物性の試験結果について説明する。
【0053】
<分散液1、CNT被覆炭素繊維1の調整>
原材料水溶液の調製
カーボンナノチューブは、多層カーボンナノチューブ(Nanocyl社製、NC7000(平均直径9.5nm、平均長さ1.5μm、比表面積250〜300m
2/g、炭素純度90%))を用いた。
カルボキシメチルセルロースアンモニウムは、株式会社ファインクレイ製の製品名「CMCA25」(カルボキシメチルセルロースアンモニウム25%水和物)を用いた。
炭酸水素アンモニウムは、宇部興産株式会社製品(製品コード:IO−B14−0016)、純度95.0%以上)を用いた。
300mlの水に、カーボンナノチューブ2g、カルボキシメチルセルロースアンモニウム10g、炭酸水素アンモニウム10g、ポリオール(グリセリン)2gを溶解して原材料水溶液を得た。
ポリオール(多価アルコール)は、2個以上のヒドロキシ基−OHをもった脂肪族化合物であり、エチレングリコール、プロピレングリコール、テトラメチレングリコール、ジエチレングリコール、ジプロピレングリコール、ポリエチレングリコール、グリセリン、ペンタエリスリトールなどであり、これらのうちのいずれでもよい。ここでは、グリセリンを用いた。
【0054】
分散処理
この原材料水溶液に、超音波ホモジナイザー(三井電気精機株式会社製、型式:UX−600、発振周波数20±1KHz、最大出力600W)により20分間超音波を照射して、カーボンナノチューブの分散水溶液を得た。
【0055】
炭素繊維への塗布・含浸及び乾燥処理
炭素繊維は、東レ株式会社の製品を用いた。
この炭素繊維を分散水溶液に含浸した後、140℃で30分間焼付け処理を行い、分散水溶液の水分及びアンモニア成分を蒸発させて炭素繊維の表面を乾燥させた。この含浸及び焼付け処理を3回繰り返した。
以上の手順により、カーボンナノチューブを含有する薄膜を被覆された炭素繊維を得た。
【0056】
電極としての比較例
以上の分散液1に対する比較例として、カーボンナノチューブの分散水溶液を塗布・含浸されていない炭素繊維(CNT被覆炭素繊維1に用いたのと同じ製品)を用いて評価実験を行った。
【0057】
空気マグネシウム電池の電極として用いる。
実施例1と比較例の炭素繊維について、空気マグネシウム電池の空気極(正極)として用いて、幅2センチメートル、長さ5センチメートルのマグネシウム板を負極として用い、それと同等の大きさの炭素繊維を正極とし、塩化第二鉄を電解液として、炭素繊維に垂らす。そのときに開放電圧2ボルトで、どれだけのイニシャル電流が流れるかをテスターにより測定した。
マグネシウムは、権田金属工業株式会社の製品の「難燃性マグネシウム」を用いた。テスターは、共立電気計器社のAC/DCクランプ付デジタルマルチメーターを用いた。
比較例では、66.4ミリアンペアのイニシャル電流を得られた。CNT被覆炭素繊維1では、538.3ミリアンペアのイニシャル電流を得ることができた。
【0058】
このように、CNT被覆炭素繊維1は、比較例の炭素繊維に比べて、電流値が顕著に大きく、8倍以上の電流密度を達成できたことが明らかとなった。
【0059】
分散についての比較例
上記分散液1に対する比較例として、下記4通りの方法でカーボンナノチューブ分散液を作製した。
(A)多層カーボンナノチューブ(上記同様)0.1gを水20mlに添加し、上記同様の超音波処理を行って得たカーボンナノチューブ分散液
(B)多層カーボンナノチューブ(上記同様)0.1gとカーボンブラック粉末(上記同様)0.05gとを混合した粉体を、エタノール16mlと水4mlとからなる溶媒に添加し、上記同様の超音波処理を行って得たカーボンナノチューブ分散液
(C)多層カーボンナノチューブ(上記同様)0.1gとグラファイト・ナノプレートレット(上記同様)0.05gとを混合した粉体を、エタノール16mlと水4mlとからなる溶媒に添加し、上記同様の超音波処理を行って得たカーボンナノチューブ分散液
(D)多層カーボンナノチューブ(上記同様)0.1gとカーボンブラック粉末(上記同様)0.05gとグラファイト・ナノプレートレット(上記同様)0.05gとを混合した粉体を、エタノール16mlと水4mlとからなる溶媒に添加し、上記同様の超音波処理を行って得たカーボンナノチューブ分散液
【0060】
分散性の試験結果
上記の比較例によるカーボンナノチューブ分散液(A)〜(D)と、本発明の分散液1よるカーボンナノチューブ分散液(E)とをほぼ同時に作製し、保存容器に密封保存して常温下で静置し、5日間の経過を観察した。
超音波処理直後の時点では、分散液(B)〜(E)は程よく分散されているが、特に分散液(E)の分散性が優れていることが確認される。
超音波処理直後24時間経過した時点では、分散液(B)〜(D)の分散性が失われ、カーボンナノチューブの沈殿が見られる。一方、分散液(E)の分散性は保たれている。
超音波処理直後5日間経過した時点においても、分散液(E)は超音波処理直後と同等の分散性が保たれている。
【0061】
ナノ炭素材料複合体の作製
上記分散液1から乾燥処理して得られた粉体をPTFE(ポリテトラフルオロエチレン)等のバインダーと混合し、熱プレス処理(200℃、10トン)して成形体を得た。この成形体は、電気抵抗率が0.3〜0.7Ω・cmと顕著に優れた電気特性を示すものであった。
【0062】
この成形体の表面を走査型電子顕微鏡(株式会社日立ハイテクノロジーズ製、S−3000H)で撮影した。倍率15000倍、倍率6000倍で撮影したところ、成形体中でカーボンナノチューブが凝集せず分散しており、所々に空孔が形成された構造となっていることが分かった。
【0063】
以上、ナノ炭素材料の分散方法、ナノ炭素材料の分散液及びナノ炭素材料複合体について、具体的な実施の形態を示して説明したが、本発明はこれらに限定されるものではない。当業者であれば、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において、原材料、試薬、処理条件、処理手順、測定条件、測定方法について様々な変更・改良を加えることが可能である。
たとえば、溶媒を、エタノール16ml、水4mlにドデシル硫酸ナトリウム(0.05g)を溶解して溶媒としたが、エタノール15ml、水5ml、ドデシル硫酸ナトリウム0.04〜0.06gとしてもよい。
また、超音波照射時間を20分としたが、15分〜30分としてもよい。
乾燥処理については、140℃で30分間の焼付処理を3回繰り返したが、120℃〜150℃で、20〜40分間の焼付処理を2〜4回繰り返すこととしてもよい。
【0064】
≪シート状空気電極及びその変形加工≫
図1は、空気電極の基材となる炭素繊維シートの例を示す図である。
図1(a)は、炭素繊維シートの一例について、斜視図で示したものであり、
図1(b)は、炭素繊維シートの他の例について平面図を示したものである。
炭素繊維シートは、ポリアクリロニトリル繊維、ピッチ繊維、レーヨンなどの有機繊維を不活性雰囲気中で加熱して炭素以外の元素を脱離させることで製造される。90%以上が炭素成分の繊維である。
本発明で上に述べたCNT被覆炭素繊維1では、東レ株式会社の製品を用いている。東レ株式会社の製品では、
図1に示すものに比べて、さらに密に縦糸と横糸を整然と織り上げて、布状にしたものとなっている。
図1(a)で挙げた例のように、何本かをスキップして、織っているものでもよい。また、
図1(b)で挙げた例のように、ゆるい織り方をしたものでもよい。
さらに、織物としていないもの、たとえば、不織布であってもかまわない。
【0065】
上述の分散液の調整をしたものに、超音波照射した後、
図1に示すような炭素繊維シートを、その液に含浸し、焼付処理(乾燥)して、上述のCNT被覆炭素繊維を構成する。そして、これが、シート状空気電極11となる。シート状空気電極11のすくなくとも表面には、CNT(カーボンナノチューブ)が、凝集阻止剤により、凝集が阻止された状態で、安定して分散された状態で、被覆膜を形成していると考えられる。
図2は、シート状空気電極(正極)11がセパレータシート12を介して負極14と重なって、積層される様子を示す図である。セパレータシート12は、たとえば不織布のような絶縁物からなり、正極と負極とが電気的にショートしないように設けられる。セパレータシート12を介して、負極に電解質を供給する必要があるので、セパレータシート12は、電解質を透過するものである。電池としての性能を高めるためには、正極と負極とは、できるだけ近づけることが望ましい。そのためには、セパレータシート12は、薄いものであることが望ましい。
【0066】
シート状空気電極(正極)11の基材は、炭素繊維シートであるので、その面積、寸法、形状の自由度が高い。また、セパレータシート12もまた、不織布などで構成されるので、面積、寸法、形状の自由度が高い。一方、重ね合せる負極14は、後述するように、金属であるので、炭素繊維シートや、不織布ほどではないが、折り曲げ加工や、変形がある程度可能である。したがって、負極の加工ができる範囲内で、正極11、セパレータシート12、正極14を重ね合せた全体の面積、寸法、形状の自由度が決まる。
その自由度の範囲内で、変形加工が可能であるという特徴をこのシート状空気電極は有している。
図3は、パイプに巻き付けて配置する酸電池を形成する場合の変形加工を示す図である。
図3(a)は、パイプ15に巻き付けて、同心円状(同軸円筒状)に内側から、シート状空気電極11、セパレータシート12、負極14と設けた例であり、
図3(b)は、外側から、シート状空気電極11、セパレータシート12、負極14と設けた例である。負極14が溶滅したのちに、負極を新しいものと取り替える便宜のためには、負極14が外側となることが望ましい。シート状空気電極に空気(酸素)を供給する便宜のためには、正極であるシート状空気電極14を外側にするのが望ましい。この酸電池が置かれる環境の風通しのよさなどを配慮して、どちらを外側にするかが設計されることとなる。
シート状空気電極11、セパレータシート12、負極14の形状は、円筒状としてもよいし、C字型の形状としてもよい。
パイプ15を包み込む形状の酸電池を構成するのは、一例であって、酸電池を配置したい場所の空間形状の都合に合わせて、さまざまな形の酸電池をカスタマイズすることが可能である。たとえば、自動車の内部に電池を設けるにあたって、ボディー内のわずかのスペースに合うように電池を設計することができる。ウェアラブルコンピュータの電源として、人の身体に沿ってフィットする形の電池を設計することも可能となる。さらにいえば、救命胴衣などの衣服に合わせた電池設計も可能である。
【0067】
≪酸電池の正極及び正極活物質≫
本発明に係る酸電池の正極として機能するのが、シート状空気電極11である。そして、正極活物質は、酸素である。さらに言えば、シート状空気電極11が大気に触れている状態では、大気中の酸素が活物質であり、シート状空気電極11が溶液(電解質溶液)中に浸っている状態では、当該溶液中の溶存酸素である。
酸電池は、酸により負極の金属を溶かす際に発電するという現象であるが、見方を変えれば、金属が燃える(腐食する、酸化する)という現象でもあり、正極から正極活物質である酸素を取り込んで金属酸化物を生成する際に発電する現象であるとみることもできる。
正極における反応は、
2H+O
2+2e
-→2OH
-
または
4H+O
2+4e
-→2H
2O
と表せる。
【0068】
≪酸電池の負極及び負極活物質≫
負極は、マグネシウム、アルミニウム、亜鉛、鉄又は銅のうちの一つ又は二つ以上を含む金属からなる。純粋なマグネシウムは、燃えやすい(酸化しやすい)ので、激しい化学反応を起こしてしまい、扱いに不便である。したがって、難燃性マグネシウムが用いられる。権田金属工業株式会社が提供する「難燃性マグネシウム」を用いることができる。マグネシウムを主体として、カルシウム、アルミニウム、マンガン、珪素、亜鉛、銅、鉄などを含む合金として難燃性を実現したものである。負極として難燃性マグネシウムを用いる場合には、負極活物質は、主にマグネシウムであると考えられる。
負極における反応は、
2HCl+Mg→MgCl
2+H
2+2e
-
である。ここで、MgCl
2は、水に溶けるので、流れていく。
【0069】
≪酸性電解質≫
酸性電解質は、塩酸、硫酸などの酸の水溶液でもよいが、塩の水溶液で酸性となるものであってもよい。マグネシウムが負極活物質である場合に、塩化第二鉄水溶液を用いることができる。
酸性電解質を、負極に接触させることで、金属の腐食(酸化、エッチング)が生じて、発電がなされる。電解質を負極に接触させる方法は、大別すると、3つが考えられる。第一に、シート状空気電極11、セパレータシート12、負極14を重ね合せたもの全体を電解質溶液に浸すことである。第二に、電解質溶液をジェル状にしたものをシートに含浸させて接触させることである。第三に、電解質溶液を、正極側(シート状空気電極側)から、滴下又は噴霧することである。
以下、これらの三つの場合のそれぞれについて、発電の開始、停止、再開をどのように制御するかを中心に説明する。
【0070】
≪酸性電解質溶液を循環させ、それを制御する≫
セパレータシート12が電解質を透過する。さらに、シート状空気電極11を構成する炭素繊維シート、カーボンナノチューブ、CMCA(カルボキシメチルセルロースアンモニウム)などは、電解質透過性を有する。したがって、酸性電解質をシート状空気電極11を介して、負極に到達せしめることが可能である。
このとき、電解質溶液が停滞しないように、ポンプなどで強制的に水流を作って循環させることが望ましい。第一に、生成した酸化物が化学反応を阻害しないように排除するためである。第二に、正極、セパレータ、負極という組合せを複数セット、積層する場合には、シート状空気電極の周辺部でのみ電解質や、酸化物の出入がなされることになるので、淀みなく流れることが有利だからである。第三に、正極活物質である溶存酸素が適切に動く必要があるためでもある。
【0071】
図4は、電解質を循環させ、発電の開始、停止、再開を制御するシステムを示す図である。
図4(a)に示す構成では、酸電池(発電システム)30は、正極、セパレータシート、負極の組合せを5セット有するものである。隣り合うセットとの正極、負極間では、化学反応が起こらないように、絶縁される。
第1の電解質タンク31の中に蓄えられた電解質溶液は、ポンプ41によって酸電池(発電システム)30内に流れ込む。また、酸電池(発電システム)30内の電解質溶液は、ポンプ42によって吸い上げられて第1の電解質タンク31に戻る。これにより電解質の循環が実現する。循環することによって、電解質、反応生成物、溶存酸素は、酸電池(発電システム)30内の正極と負極間の空間を淀みなく流れて、効率のよい発電を継続させることができる。
また、酸素曝気装置33は、大気中の空気又は酸素を第一の電解質タンクに送り込んで、当該電解質溶液を空気又は酸素に曝(さら)す。これにより、電解質溶液内の溶存酸素が低下するのを防ぐ。
発電を停止したいときには、ポンプ41を停止して酸電池(発電システム)30への電解質溶液の供給を停止するとともに、ポンプ42により電解質溶液をすべて吸い上げて回収する。これにより、電解質が負極に接触しなくなるので、発電が停止する。
【0072】
図4(a)の構成で、さらに早く発電を停止する方法としては、酸電池(発電システム)30の底に栓(不図示)を設けて、その栓を開くとともに、上部に設けたガス抜き栓(不図示)を開くことで、一度に抜いてしまうこともできる。
【0073】
図4(b)の構成は、発電プラントと呼べるほどの大きな設備の場合に比較的適したシステムである。
図4(b)では、
図4(a)の構成に加えて、第2の電解質タンク32、ポンプ43,44、窒素曝気装置34を備えている。第2の電解質タンク32内の電解質溶液は、窒素曝気装置34の働きにより、たえず窒素にさらされており、溶存酸素がゼロに近い状態に保たれる。第2の電解質タンク32の上部には、ガス抜き栓(不図示)が設けられており、溶液中から窒素により追い出された酸素、過剰に送り込まれた窒素が外に出ることができるように構成されている。
発電している際には、
図4(a)と同様に、ポンプ41、42が働いて、溶存酸素が豊富な電解質溶液が第1の電解質タンクと酸電池(発電システム)30との間を循環する。発電を停止する際には、ポンプ41,42を停止し、ポンプ43,44とを働かせて、第2の電解質タンク内の電解質溶液を酸電池(発電システム)30内の電解質との間で循環させる。そして、それとともに窒素曝気措置34を稼動させる。これにより、酸電池(発電システム)30内の電解質溶液の溶存酸素は、徐々にゼロに近づき、やがて発電が停止する。
【0074】
そのほかの方法としては、電解質溶液を回収して、水を送り込むことで、発電を停止するやりかたも考えられる。
【0075】
≪ジェル状の電解質及び発電停止、発電再開≫
図5は、ジェルシートを用いて電解質を供給する場合に遮断シートを用いて、発電の開始、停止、再開を制御することを示す図である。
図5(a)においては、負極14、セパレータシート12、シート状空気電極11、遮断シート25、電解質ジェルシート20と順に積層した例を示す。電解質ジェルシート20は、ジェルを含むのに適した基材、たとえば不織布に電解質、ここでは塩化第二鉄をジェル状にしたものを含ませてなるシートである。遮断シート25は、電解質を透過しないシートである。
図5(a)のように、遮断シート25が配置されている状態では、電解質ジェルシート20に含まれる電解質は、遮断シート25を透過しないので、負極14に到達しない。したがって、負極活物質の腐食(燃焼、酸化)は起こらないので、発電は開始しない。
遮断シート25を取り除く(引き抜く、引き剥がす)こと、そして、電解質ジェルシート20の電解質がシート状空気電極11、セパレータシート12を介して、負極14に到達できるようにすることで、発電を開始する。電解質は、シート状空気電極11、セパレータシート12のいずれをも透過するからである。このとき、電解質ジェルシート20と負極14との距離が近づくように、押し付ける力を加えてもよい。
発電を停止するときには、遮断シート25を電解質ジェルシート20と負極14との間のいずれかの位置に配置する。それにより、電解質が負極に供給されなくなって、負極活物質の腐食(燃焼、酸化)が停止する。
【0076】
図5(b)は、負極14、セパレータシート12、遮断シート25、電解質ジェルシート20、シート状空気電極11の順に配置した例である。電池の性能の見地からは、負極14とシート状空気電極11との間の距離は短いほうが望ましい。したがって、電解質ジェルシート20を薄くすることが望ましいと考えられる。電解質ジェルシート20が含浸する電解質が減るために発電が出来なくなる場合には、電解質ジェルシート20を新しいものに取り替える。または、シート状空気電極11を介して電解質ジェルシート20に電解質を供給する。
発電開始、発電停止、発電再開についての遮断シート25の機能は、
図5(a)の場合と同様である。
【0077】
図6は、電解質ジェルシートを用いる場合に、ジェルシート自体を抜き差しすることで、発電の開始、停止、再開を制御することを示す図である。
図6(a)においては、負極14、セパレータシート12、シート状空気電極11、電解質ジェルシート20の順に積層配置しており、電解質ジェルシート20の電解質は、この状態では、シート状空気電極11、セパレータシート12を介して負極14に到達する。したがって、発電がなされる。
発電を停止するときには、電解質ジェルシート20を引き抜く、または引き剥がす。
発電を再開するには、再度、電解質ジェルシート20を
図6(a)の位置に戻す。
【0078】
図6(b)においては、負極14、セパレータシート12、電解質ジェルシート20、シート状空気電極11の順に積層配置している。
発電停止のために、電解質ジェルシート20を引き抜く、あるいは引き剥がす。このとき、電解質ジェルシート20を単独で引き剥がすかわりに、シート状空気電極11と電解質ジェルシート20とをいっしょに引き剥がしてもよい。
発電を再開するには、
図6(b)の配置に戻す。
【0079】
≪積層によるスケーラビリティ≫
図4に示したように、負極14、セパレータシート12、シート状空気電極11からなる組み合わせのセットを、複数組積層することが可能である。このとき、電気的に直列接続するようにすれば、電圧を高めることができる。並列接続すれば電流を高めることができる。
【0080】
≪酸性電解質溶液を滴下又は噴霧することによる計画発電≫
図7は、酸性電解質を正極側から滴下又は噴霧する場合の構成を示す図である。
図7(a)は、負極14、セパレータ12、シート状空気電極11がこの順番で水平に積層配置されたものに対して、上から、すなわちシート状空気電極11の側から電解質溶液滴下装置50により、滴下する様子を示す。電解質溶液の滴下は、一定量の滴下を続けることができる。あるいは間欠的に所定時間、所定量の滴下をした後に、所定時間停止し、また再開するやりかたでもよい。この滴下により、電力の需要に見合う分だけの必要かつ十分な電解質溶液の供給が可能となる。
本発明に係る酸電池では、酸性電解質が、酸として機能して負極活物質を酸化させるので、供給した電解質溶液が尽きれば、発電は停止する。したがって、必要以上に電解質を供給せず、無駄な発電をしないですむというメリットがある。
【0081】
この電解質供給を計画的に制御するために制御装置60を設ける。一日のうちの電力需要、一週間のうちの電力需要、一年のうちの電力需要などのピークがいつであるかを過去の統計データから割り出して計画的に発電する。
【0082】
図7(b)は、電解質用益滴下装置50の代わりに電解質溶液噴霧装置55を設けた例である。滴下と噴霧とはほぼ同様の効果がある。噴霧の場合には、電解質とともに酸素(正極活物質)を同時に供給できるメリットがある。
また、噴霧の場合には、
図7(c)に示すように、負極14、セパレータ12、シート状空気電極11が、直立している場合にも利用可能である。
【0083】
本発明に係る酸電池(発電システム)にあっては、負極活物質(たとえば、マグネシウム)、電解質(たとえば、塩化第二鉄)、正極活物質(酸素)の3つのうちのいずれかを制御することで、発電の開始、停止、再開のコントロールが可能である。したがって、制御装置による計画発電に適したシステム、プラントなどの設備を構築するのに適している。