【文献】
Nishitani et al.,Resolution Improvement of All-Optical Analog-to-Digital Conversion Employing Self-frequency Shift and Self-Phase-Modulation-Induced Spectral Compression,IEEE Journal of Selected Topics in Quantum Electronics,米国,IEEE,2008年 6月 6日,Vol.14, No.3,pp.724-732
【文献】
松浦基晴,量子ドット半導体光増幅器を用いた光信号処理技術,電子情報通信学会技術研究報告,日本,電子情報通信学会,2016年 4月18日,Vol.116, No.18, PN2016-1,pp.1-8
【文献】
二宮典彦他,量子ドット半導体光増幅器内の周波数チャープを用いた全光量子化,電子情報通信学会技術研究報告,日本,電子情報通信学会,2017年 2月27日,Vol.116, No.498, PN2016-104,pp.119-123
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0016】
添付図面を参照して、本発明による光アナログ・デジタル変換装置、光アナログ・デジタル変換方法、光量子化回路および光量子化方法を実施するための形態を以下に説明する。
【0017】
まず、本発明の原理について説明する。本発明では、光アナログ・デジタル変換に含まれる各工程のうち、光量子化の工程を、周波数領域で行う。つまり、第1に、光アナログ信号を標本化した光標本化パルス信号のそれぞれにおいて、光強度の違いを周波数の違いに変換する。第2に、変換された周波数を、複数の周波数帯域に分類する。第3に、周波数帯域の違いを、光パルスの数または光強度に変換し、光量子化デジタル信号として出力する。
【0018】
以下、光アナログ・デジタル変換装置および光アナログ・デジタル変換方法について概略的に説明し、その後、一実施形態による光量子化装置および光量子化方法について詳細に説明する。
【0019】
(実施形態)
図1Aは、光アナログ・デジタル変換装置1の一構成例を示すブロック回路図である。
図1Aの光アナログ・デジタル変換装置1の構成要素について説明する。光アナログ・デジタル変換装置1は、光標本化回路20と、光量子化回路30と、光符号化回路40とを備える。
【0020】
図1Aの光アナログ・デジタル変換装置1の構成要素の接続関係について説明する。光アナログ・デジタル変換装置1の光入力は、光標本化回路20の光入力である。光標本化回路20の光出力は、光量子化回路30の光入力に接続されている。言い換えれば、光標本化回路20は、光量子化回路30の前段に、光学的に接続されている。光量子化回路30の光出力は、光符号化回路40の光入力に接続されている。言い換えれば、光量子化回路30は、光符号化回路40の前段に、光学的に接続されている。
【0021】
図1Bを参照して、
図1Aの光アナログ・デジタル変換装置1の動作、すなわち、一実施形態による光アナログ・デジタル変換方法について説明する。
図1Bは、
図1Aの光アナログ・デジタル変換装置1を用いる光アナログ・デジタル変換方法の一構成例を示すフローチャートである。
図1Bのフローチャートは、第0ステップS0から第6ステップS6までの、合計7個の工程を備える。
図1Bのフローチャートは、第0ステップS0で開始し、その次には第1ステップS1が実行される。
【0022】
第1ステップS1において、光アナログ・デジタル変換装置1が、その光入力に、光アナログ信号11を、外部から入力する。言い換えれば、光標本化回路20が、その光入力に、光アナログ信号11を入力する。
【0023】
図2Aは、光アナログ信号11の一例を示す図である。
図2Aのグラフ110は、光アナログ信号11における光強度の時間変化の一例を示している。なお、光アナログ信号11の周波数(または波長)は、一定であることが好ましい。
【0024】
第1ステップS1の次には、第2ステップS2が実行される。
【0025】
第2ステップS2において、光標本化回路20が、光アナログ信号11から光標本化パルス列信号12への光標本化を行う。光標本化とは、光領域における標本化である。標本化とは、時間的に連続しているアナログ信号を、所定の周期ごとに、または所定の周波数で、サンプリングする処理である。このような周期を、サンプリング周期と呼ぶ。また、このような周波数を、サンプリング周波数と呼ぶ。
【0026】
図2Bは、
図2Aの光アナログ信号11を光標本化して得られる光標本化パルス列信号12の一例を示す図である。
図2Bの例では、時刻T1、T2、T3およびT4においてサンプリングを行っている。サンプリング周期はTであり、時刻T1から時刻T2までの時間に等しく、時刻T2から時刻T3までの時間に等しく、時刻T3から時刻T4までの時間に等しく、時刻T4から時刻T5までの時間に等しい。
【0027】
図2Bの例では、時刻T1において光標本化した光アナログ信号11の光強度は、5.3単位である。光標本化パルス列信号12のうち、時刻T1における光アナログ信号11に対応する部分を、サンプリング点12Aで表す。同様に、時刻T2において光標本化した光アナログ信号11の光強度は6.9単位であり、この部分に対応する光標本化パルス列信号12をサンプリング点12Bで表す。時刻T3において光標本化した光アナログ信号11の光強度は11単位であり、この部分に対応する光標本化パルス列信号12をサンプリング点12Cで表す。時刻T4において光標本化した光アナログ信号11の光強度は8.4単位であり、この部分に対応する光標本化パルス列信号12をサンプリング点12Dで表す。
【0028】
光標本化回路20は、光アナログ信号11を光標本化した結果として、光標本化パルス列信号12を生成し、後段の光量子化回路30に向けて出力する。ここで、光標本化パルス列信号12は、時刻T1〜T4にそれぞれ対応するサンプリング点12A〜12Dの集合である。言い換えれば、光標本化パルス列信号12は、光アナログ信号11の、サンプリング時刻のそれぞれにおける光強度を有する、光パルス信号の集合である。このような光パルス信号の集合を、光パルス列信号と呼ぶ。
【0029】
第2ステップS2の次には、第3ステップS3が実行される。
【0030】
第3ステップS3において、光量子化回路30が、光標本化パルス列信号12から光量子化デジタル信号13への光量子化を行う。光量子化とは、光領域における量子化である。量子化とは、アナログ信号が表す連続的な値を、離散的な近似値に変更する処理である。ここで用いられる近似値は、所定の単位値およびその整数倍の集合に含まれることが好ましい。量子化後の近似値を、量子化値と呼ぶ。
【0031】
図2Cは、
図2Bの光標本化パルス列信号12を光量子化して得られる光量子化デジタル信号13の一例を示す図である。
図2Cは、
図2Bのサンプリング点12A〜12Dにそれぞれ対応する量子化値13A〜13Dを示している。すなわち、
図2Bのサンプリング点12Aに対応する光強度としての5.3単位は、
図2Cの量子化値13Aとしての5単位に変更されている。同様に、サンプリング点12Bの6.9単位は、量子化値13Bとしての7単位に変更されている。サンプリング点12Cの11単位は、量子化値13Cとしての11単位に変更されている。サンプリング点12Dの8.4単位は、量子化値13Dとしての8単位に変更されている。
【0032】
光量子化回路30は、光標本化パルス列信号12としての光パルス列信号を光量子化した結果として、光量子化デジタル信号13を生成し、後段の光符号化回路40に向けて出力する。本実施形態では、光パルス列信号に含まれる1つの光パルス信号は、光量子化されることによって、その量子化値と同数のパルス信号に変換される。ただし、光符号化回路40が光符号化出来る限りは、光量子化デジタル信号13として他の形式を用いても良い。
【0033】
第3ステップS3の次には、第4ステップS4が実行される。
【0034】
第4ステップS4において、光符号化回路40が、光量子化デジタル信号13から光デジタル信号14への光符号化を行う。光符号化は、光領域における符号化である。符号化とは、量子化されたデジタル信号を、「0」および「1」だけで表現される2進法のデジタル信号に変換する処理である。
【0035】
図2Dは、
図2Cの光量子化デジタル信号13を光符号化して得られる光デジタル信号14の一例を示す図である。
図2Dは、
図2Cの量子化値13A〜13Dのそれぞれを2進法で表現したバイナリ値14A〜14Dを示している。すなわち、
図2Cの量子化値13Aである5単位は、対応するバイナリ値「0101」に変換されている。同様に、量子化値13Bである7単位は、対応するバイナリ値14Bである「0111」に変換されている。量子化値13Cである11単位は、対応するバイナリ値14Cである「1011」に変換されている。量子化値13Dである8単位は、対応するバイナリ値14Dである「1000」に変換されている。ここで、バイナリ値14A〜14Dの2進法における桁数は4であり、0〜15の整数を表すことが出来る。ただし、この桁数はあくまでも一例にすぎず、光アナログ・デジタル変換装置1に求められる分解能に応じて適宜に設定することが好ましい。
【0036】
光符号化回路40は、光量子化デジタル信号13を光符号化した結果として、光デジタル信号14を生成する。
【0037】
第4ステップS4の次には、第5ステップS5が実行される。
【0038】
第5ステップS5において、光アナログ・デジタル変換装置1が、その光出力から、光デジタル信号14を外部に向けて出力する。言い換えれば、光符号化回路40が、光デジタル信号14を外部に向けて出力する。
【0039】
第5ステップS5の次には、第6ステップS6が実行されて、光アナログ・デジタル変換方法が終了する。
【0040】
次に、本実施形態による光量子化回路30について、詳細に説明する。
【0041】
図3Aは、一実施形態による光量子化回路30の一構成例を示すブロック回路図である。
図3Aを参照して、本実施形態による光量子化回路30の構成要素について説明する。
【0042】
図3Aの光量子化回路30は、光入力部301と、プローブ光信号生成部302と、光カプラ303と、光アイソレータ304と、光増幅器305と、光アイソレータ306と、光スプリッタ307と、光フィルタ308−1〜308−Nと、光カプラ309と、光リミッタ310と、光出力部311とを備える。ここで、光増幅器305は単一の半導体素子である。光増幅器305として、量子ドット半導体光増幅器を用いても良い。以下、光フィルタ308−1〜308−Nの集合を、単に光フィルタ308とも記す。光カプラ303、309、光アイソレータ304、306、光スプリッタ307、光フィルタ308、光リミッタ310および光出力部311は、いずれも、光学素子である。なお、プローブ光信号生成部302も半導体素子として生成可能であるが、その場合は光増幅器305と一体化することが可能である。
【0043】
ここで、光フィルタ308−1〜308−Nの総数は任意の整数Nである。本実施形態では、光アナログ・デジタル変換装置1が2進法における4桁の分解能を実現する場合として、整数Nは15に等しく、またはそれ以上であるであることが好ましい。
【0044】
N個の光フィルタ308は、周波数の閾値がそれぞれ異なるハイパスフィルタであることが好ましい。これらの閾値については、第5ステップS305で説明する。
【0045】
N個の光フィルタ308のそれぞれは、前段の光スプリッタ307と、後段の光カプラ309との間に、光ファイバを介して光学的に接続される。ここで、N個の光フィルタ308のそれぞれにおいて、前段および後段の光ファイバの長さの合計に、互いに所定の差があることが好ましい。この差については、第6ステップS306で説明する。
【0046】
図3Aの光量子化回路30の構成要素の接続関係について説明する。プローブ光信号生成部302は、光学的な出力を備える。光入力部301およびプローブ光信号生成部302は、光カプラ303の前段に、光学的に、かつ、並列に、接続されている。ここで、光カプラ303は、2つの入力と、1つの出力とを備える。言い換えれば、光カプラ303の一方の入力は光入力部301であり、他方の入力はプローブ光信号生成部302の出力に光学的に接続されている。
【0047】
光アイソレータ304は、光カプラ303の後段に、光学的に接続されている。言い換えれば、光カプラ303の出力は、光アイソレータ304の入力に、光学的に接続されている。
【0048】
光増幅器305は、光アイソレータ304の後段に、光学的に接続されている。言い換えれば、光アイソレータ304の出力は、光増幅器305の入力に、光学的に接続されている。
【0049】
光アイソレータ306は、光増幅器305の後段に、光学的に接続されている。言い換えれば、光増幅器305の出力は、光アイソレータ306の入力に、光学的に接続されている。
【0050】
光スプリッタ307は、光アイソレータ306の後段に、光学的に接続されている。言い換えれば、光アイソレータ306の出力は、光スプリッタ307の入力に、光学的に接続されている。
【0051】
N個の光フィルタ308のそれぞれは、光スプリッタ307の後段に、光学的に、かつ、並列に、接続されている。ここで、光スプリッタ307は、1つの入力と、N個の出力とを備える。言い換えれば、光スプリッタ307のN個の出力は、N個の光フィルタ308の入力に、それぞれ、光学的に接続されている。
【0052】
光カプラ309は、N個の光フィルタ308の後段に、光学的に、かつ、並列に、接続されている。ここで、光カプラ309は、N個の入力と、1つの出力とを備える。言い換えれば、N個の光フィルタ308の出力は、光カプラ309のN個の入力に、それぞれ、光学的に接続されている。
【0053】
光リミッタ310は、光カプラ309の後段に、光学的に接続されている。言い換えれば、光カプラ309の出力は、光リミッタ310入力に、光学的に接続されている。
【0054】
光出力部311は、光リミッタ310の後段に接続されている。言い換えれば、光リミッタ310の出力は、光出力部311である。
【0055】
図3Aの光量子化回路30の構成要素のうち、プローブ光信号生成部302や、光増幅器305のように、電力の供給を受けて動作する素子は、図示しない電源に、電気的に接続されている。また、光量子化回路30は、図示しない制御部に、電気的に接続されていて、この制御部の制御下で動作する素子を含んでいても良い。
【0056】
図3Bを参照して、
図3Aに示した光量子化回路30の動作、すなわち、一実施形態による光量子化方法について説明する。
図3Bは、
図3Aの光量子化回路を用いる光量子化の一構成例を示すフローチャートである。
図3Bのフローチャートは、第0ステップS300から第8ステップS308の、合計9個の工程を備える。
図3Bのフローチャートを参照して、
図1Bのフローチャートのうち、第3ステップS3の工程を、より詳細に説明する。
図3Bのフローチャートは、第0ステップS300で開始し、その次には第1ステップS301が実行される。
【0057】
第1ステップS301において、光カプラ303が、光標本化回路20から出力される光標本化パルス列信号12を、その一方の入力から、または光入力部301を介して、入力する。このとき、プローブ光信号生成部302はプローブ光信号121を生成出力しており、光カプラ303は他方の入力からこのプローブ光信号121を同時に入力する。プローブ光信号121については、次の第2ステップS302で説明する。
【0058】
第1ステップS301の次には、第2ステップS302が実行される。
【0059】
第2ステップS302において、光カプラ303が、第1ステップS301で入力した光標本化パルス列信号12およびプローブ光信号121を結合して光結合信号122を生成し、後段の光アイソレータ304に向けて出力する。
図4Aは、一実施形態による光結合信号122の一構成例を示す図である。光結合信号122は、光標本化パルス列信号12と、プローブ光信号121とを含む。
図4Aは、光結合信号122を、3次元の直交座標で示している。この直交座標は、時間軸と、波長軸と、光強度軸とを含む。時間軸は、時間の経過を示す。波長軸は、光結合信号122に含まれる光標本化パルス列信号12およびプローブ光信号121の波長を示す。光強度軸は、光結合信号122に含まれる光標本化パルス列信号12およびプローブ光信号121の光強度を示す。
【0060】
光標本化パルス列信号12については、
図1Bの第2ステップS2の工程で説明したとおりであり、さらなる詳細な説明を省略する。
【0061】
プローブ光信号121について説明する。
図4Aに示すとおり、プローブ光信号121は、時間軸上の連続波であり、かつ、一定の波長および一定の光強度を有している。ここで、プローブ光信号121の波長は、光標本化パルス列信号12の波長とは異なる。言い換えれば、プローブ光信号121および光標本化パルス列信号12は、異なる周波数を有している。両信号の周波数は、周波数チャープ現象の観点から、十分に離れていることが必要となる。周波数チャープ現象については、次の第3ステップS303で説明する。
【0062】
上述のとおり、光標本化パルス列信号12およびプローブ光信号121には、共通する周波数成分が無い。したがって、両信号を単純に結合して得られるものとして説明を続ける。なお、厳密には、光結合時に光強度の減衰などの軽微な変化が考えられるが、この程度の変化は本実施形態による光量子化には実質的な影響を与えないので、ここではこのような変化を無視する。
【0063】
光結合の結果により生成される光結合信号122は、光カプラ303から出力されて、光アイソレータ304を通過し、光増幅器305に向かう。ここで、光アイソレータ304は、光カプラ303から出力された光結合信号122が、光増幅器305の入力で反射して光カプラ303の出力に戻らないための光学素子である。光結合信号122が光アイソレータ304を通過する際に、厳密には、その光強度の減衰などの軽微な変化が考えられるが、これも無視して説明を続ける。
【0064】
第2ステップS302の次には、第3ステップS303が実行される。
【0065】
第3ステップS303において、光増幅器305が、光アイソレータ304を介して光結合信号122を入力し、光結合信号122を光増幅して光増幅信号123を生成し、後段の光アイソレータ306に向けて出力する。
図4Bは、一実施形態による光増幅信号123の一構成例を示す図である。
図4Bに示す光増幅信号123は、光標本化パルス列信号12と、プローブ光信号121と、レッドチャープ成分121Aとを含む。ここで、レッドチャープ成分121Aとは、プローブ光信号121のうち、周波数チャープ現象によって波長が長くなった(周波数が低くなった)成分である。なお、光増幅後の各光信号の光強度の変動は、本実施形態による光量子化方法に実質的な影響を与えないので、
図4Bではその反映を省略する。
【0066】
周波数チャープ現象について説明する。一般的に、入力する光信号を光増幅器305で光増幅する際に、出力する光信号の周波数が変動する。このような現象を、周波数チャープ現象と呼ぶ。特に、入力する光信号の光強度に依存する変動量で周波数が低くなる(波長が長くなる)現象を、レッドチャープ現象と呼ぶ。光信号を本来的な意味で光増幅する観点からは、周波数チャープ現象は、望まれない現象である。しかし、発明者は、光信号の光強度の違いを、光信号の周波数の違いに変換する目的で、レッドチャープ現象を積極的に利用する可能性を模索し、その可能性を実験により確認した。
【0067】
図5Aおよび
図5Bを参照して、レッドチャープ現象についてより詳細に説明する。
図5Aは、光増幅器305に入力する光標本化パルス列信号12の一例を示す図である。
図5Bは、光標本化パルス列信号12を光増幅する際に発生するレッドチャープ現象C1〜C8の一例を示す図である。
【0068】
図5Aおよび
図5Bでは、光標本化パルス列信号12を、時間軸、波長軸および光強度軸で構成される3次元の直交座標で示している。
図5Aおよび
図5Bに示す光標本化パルス列信号12は、第1の光パルス信号P1〜第8の光パルス信号P8の、合計8個の光パルス信号を含んでいる。
【0069】
図5Aおよび
図5Bでは、時間軸上の時間を、第1インターバルI1〜第8インターバルI8の、合計8個のインターバルに分割している。
図5Aおよび
図5Bにおいて、光パルス信号P1〜P8は、それぞれ、インターバルI1〜I8に存在している。
【0070】
図5Bでは、光パルス信号P1〜P8がそれぞれ受けたレッドチャープ現象C1〜C8を、波長軸に平行な矢印として示している。
【0071】
図5Aに示す、光増幅される前の状態において、光パルス信号P1〜P8の周波数は、全て、同一である。その一方で、
図5Bに示す、光増幅された後の状態において、光パルス信号P1〜P8の波長は、レッドチャープ現象C1〜C8の影響を受けて、変動している。ここで、光パルス信号P1〜P8の光強度が大きいほど、レッドチャープ現象C1〜C8による光パルス信号P1〜P8の波長の変動量は大きい。なお、光パルス信号P1〜P8の最大光強度(ピークパワー)を、単に光強度とも呼ぶ。
【0072】
例えば、光パルス信号P1〜P8のうち、光強度が最も大きい光パルス信号P1およびP6がそれぞれ受けたレッドチャープ現象C1およびC6による波長の変動量は、
図5Bの波長軸上にL4として示されている。そして、この値L4は、光強度が光パルス信号P1およびP6のそれよりも小さい光パルス信号P2〜P5、P7およびP8の波長の変動量よりも大きい。反対に、光強度が小さい光パルス信号P4およびP8の波長の変動量はL1として示されているが、この値L1は、光強度が光パルス信号P4およびP8のそれよりも大きい光パルス信号P1、P2およびP5〜P7の波長の変動量よりも小さい。なお、光パルス信号P3は、その光強度がゼロであるので
図5Bには描かれていないが、その波長の変動量もゼロである。
【0073】
このように、光増幅器305による光標本化パルス列信号12の光増幅に伴う周波数チャープ現象を用いることで、光パルス信号の光強度の違いを、対応する波長の変動量に変換出来ることが実験により確認された。しかし、光標本化回路20で生成出力されて光量子化回路30に入力する光標本化パルス列信号12には、その周波数分布が、周波数チャープ現象による周波数の変動量に対して、比較的広いという課題がある。さらに、この周波数分布自体も、周波数チャープ現象によって広がる方向に変動してしまう。結果として、光標本化パルス列信号12の周波数分布が広いと、レッドチャープ現象によって得られた波長の違いが、精度よく判別出来ない。
【0074】
そこで、発明者は、光標本化パルス列信号12にプローブ光信号121を結合してから光増幅を行うことを提案する。プローブ光信号121には、非常に狭い周波数分布で生成しやすいという特徴がある。
図5Cは、光結合信号122を光増幅する際に発生するレッドチャープ現象C11〜C18の一例を示す図である。光結合信号122の光増幅に伴うレッドチャープ現象C1〜C8およびC11〜C18は、光結合信号122に含まれる光標本化パルス列信号12およびプローブ光信号121のそれぞれにおいて、波長を変動する。
図5Cでは、光結合信号122に対するレッドチャープ現象のうち、プローブ光信号121に対して発生する成分を、レッドチャープ現象C11〜C18として示している。なお、光標本化パルス列信号12に対するレッドチャープ現象C1〜C8は、
図5Bの場合と同様であるので、
図5Cでは省略している。
【0075】
プローブ光信号121に対するレッドチャープ現象C11〜C18による波長の変動量について説明する。光結合信号122に含まれる成分のうち、プローブ光信号121は、その光強度が一定である。したがって、光結合信号122に対するレッドチャープ現象による波長の変動量は、光結合信号122に含まれる残りの成分、すなわち、光標本化パルス列信号12の光強度の違いに対応して決定する。
【0076】
例えば、
図5Cに示すように、プローブ光信号121のうち、光パルス信号P11〜P18として示した部分は、光パルス信号P1〜P8に、それぞれ、時間軸上で対応する。このとき、光パルス信号P11〜P18の波長は、光パルス信号P1〜P8の光強度に依存する変動量で、それぞれ、レッドチャープ現象C11〜C18の影響を受ける。したがって、光パルス信号P11〜P18の波長は、光パルス信号P1〜P8の波長の変動量と同じ量で変動する。
【0077】
このように、プローブ光信号121を利用することで、光強度の違いを波長の違いに変換し、かつ、変換後にも周波数分布が非常に狭い光パルス信号P11〜P18を生成することが可能となる。つまり、このようにして得られる光パルス信号P11〜P18であれば、波長の違いを精度よく判別することが可能となる。
【0078】
なお、光標本化パルス列信号12に由来する光パルス信号P1〜P8は、最終的に得られる光量子化デジタル信号13に影響しないように、後述する光フィルタ308で遮断しても良い。また、この観点から、プローブ光信号121は、光パルス信号P1〜P8の影響を受けないように、光標本化パルス列信号12の周波数から十分に離れた周波数で生成することが好ましい。
【0079】
以上のように、光増幅器305が光結合信号122を光増幅することで生成される光増幅信号123は、光パルス信号P1〜P8およびP11〜P18と、残りのプローブ光信号121とを含む。光増幅信号123は、光増幅器305から出力されて、光アイソレータ306を通過し、光スプリッタ307に向かう。ここで、光アイソレータ306の動作については、光アイソレータ304の場合と同様であるので、さらなる詳細な説明を省略する。
【0080】
第3ステップS303の次には、第4ステップS304が実行される。
【0081】
第4ステップS304において、光スプリッタ307が、光アイソレータ306を介して光増幅信号123を入力して分岐し、N個の光分岐信号124を生成する。N個の光分岐信号は、光スプリッタ307の後段に接続されたN個の光フィルタ308に向けてそれぞれ出力される。光分岐信号124は、光スプリッタ307で分岐されることで、その光強度は光増幅信号123より減衰するが、時間軸および波長軸の観点からは、光増幅信号123と実質的に同じ光分岐信号124がN個の光フィルタ308に届く。
【0082】
第4ステップS304の次には、第5ステップS305が実行される。
【0083】
第5ステップS305において、N個の光フィルタ308が、N個の光分岐信号124をそれぞれ通して、N個の光透過信号125−1〜125−Nを生成する。以下、光透過信号125−1〜125−Nの集合を、単に光透過信号125とも記す。一例として、N個の光フィルタ308が、上述のとおり、周波数の閾値がそれぞれ異なるハイパスフィルタであり、かつ、整数Nが3に等しい場合について、説明する。
【0084】
この例において、第1の光フィルタ308−1の閾値は、
図5Cに示した波長L11の逆数である。同様に、第2の光フィルタ308−2の閾値は波長L12の逆数である。第3の光フィルタ308−3の閾値は波長L13の逆数である。このとき、第1の光フィルタ308−1は、入力した光分岐信号124のうち、波長が波長L11よりも長い成分を透過させる。同様に、第2の光フィルタ308−2は波長が波長L12よりも長い成分を透過させる。第3の光フィルタ308−3は波長が波長L13よりも長い成分を透過させる。
【0085】
より具体的には、プローブ光信号121に由来する光パルス信号P11〜P18のうち、波長が
図5Cに示した波長範囲D1に含まれる光パルス信号P11、P12およびP14〜P18は、第1の光フィルタ308−1を透過する。その一方で、波長範囲D1に含まれない光パルス信号P13は、第1の光フィルタ308−1を透過しない。ここで、波長範囲D1とは、波長L11以上、かつ、波長L14以下の領域である。
【0086】
同様に、波長L12以上、かつ、波長L14以下の領域を、波長範囲D2と呼ぶ。また、波長L13以上、かつ、波長L14以下の領域を、波長範囲D3と呼ぶ。このとき、光パルス信号P11〜P18のうち、波長が波長範囲D2に含まれる光パルス信号P11、P12およびP15〜P17は、第2の光フィルタ308−2を透過する。その一方で、波長範囲D2に含まれない光パルス信号P13、P14およびP18は、第2の光フィルタ308−2では遮断される。また、光パルス信号P11〜P18のうち、波長が波長範囲D3に含まれる光パルス信号P11、P16およびP17は、第3の光フィルタ308−3を透過する。その一方で、波長範囲D3に含まれない光パルス信号P12〜P15およびP18は、第3の光フィルタ308−3では遮断される。
【0087】
言い換えれば、波長が波長範囲D3に含まれる光パルス信号P11、P16およびP17は、第1の光フィルタ308−1、第2の光フィルタ308−2および第3の光フィルタ308−3の全てを透過する。しかし、波長が波長範囲D2に含まれ、かつ、波長範囲D3には含まれない光パルス信号P12およびP15は、第1の光フィルタ308−1および第2の光フィルタ308−2を透過するが、第3の光フィルタ308−3では遮断される。そして、波長が波長範囲D1に含まれ、かつ、波長範囲D2には含まれない光パルス信号P14およびP18は、第1の光フィルタ308−1だけを透過し、第2の光フィルタ308−2および第3の光フィルタ308−3では遮断される。なお、波長が波長範囲D1〜D3のいずれにも含まれない光パルス信号P13は、光フィルタ308−1〜308−3のいずれも透過しない。
【0088】
さらに言い換えれば、光パルス信号P11〜P18のそれぞれにおいて、光スプリッタ307で分岐された3個のうち、光フィルタ308−1〜308−3を透過する数は、その光パルス信号の波長が含まれる領域に応じて決定する。ここで、波長範囲D1〜D3を定義する波長L1〜L4は、光フィルタ308−1〜308−3を透過する光パルス信号の数が、その光パルスに対応する量子化値に一致するように設定される。この設定は、入力される光アナログ信号11の最大光強度、各光学素子の光減衰率、光増幅器305におけるレッドチャープ現象の特性、整数Nの値、などを勘案して、適宜に行われる。このように設定することで、光パルス信号の光強度から変換された波長の量子化が可能となる。
【0089】
第5ステップS305の次には、第6ステップS306が実行される。
【0090】
第6ステップS306において、光カプラ309が、N個の光透過信号125を結合し、光量子化信号126を生成する。
図6Aは、一実施形態による光量子化信号126の一構成例を示す図である。
図6Aの例では、光量子化信号126は、光パルス信号P14−1、P15−1、P15−2、P16−1、P16−2およびP16−3を含む光パルス列信号である。ここで、
図6Aの時刻T14における光パルス信号P14−1は
図5Cの光パルス信号P14に由来し、
図6Aの時刻T15における光パルス信号P15−1、P15−2は
図5Cの光パルス信号P15に由来し、
図6Aの時刻T16における光パルス信号P16−1〜P16−3は
図5Cの光パルス信号P16に由来する。光量子化信号126のうち、光パルス信号P14〜P16のそれぞれに由来する光パルス信号の数は、第5ステップS305で光パルス信号P14〜P16のそれぞれが透過した光フィルタ308−1〜308−3の数に等しい。
【0091】
ここで、光パルス信号P16が光フィルタ308−1〜308−3の全てを透過した後、大きい光強度を有する単独の光パルス信号に合成されず、3つの独立した光パルス信号P16−1〜16−3として存在していることに注目されたい。これは、上述したように、光フィルタ308−1〜308−3のそれぞれにおいて、前段の光スプリッタ307および後段の光カプラ309に接続する光ファイバなどを、その光路の長さの合計が互いに異なるように構成することで実現される。より具体的には、第1の光フィルタ308−1の前後に接続される光ファイバの光路長は、第2の光フィルタ308−2の前後に接続される光ファイバの光路長よりも短い。また、第2の光フィルタ308−2の前後に接続される光ファイバの光路長は、第3の光フィルタ308−3の前後に接続される光ファイバの光路長よりも短い。その結果、光カプラ309から光パルス信号P16−1が出力された後に光パルス信号P16−2が出力され、さらにその後に光パルス信号P16−3が出力される。このように構成することで、光量子化回路30は、その後段に接続された光符号化回路40にとって符号化しやすい形式で、光量子化信号126を生成出力することが出来る。
【0092】
第6ステップS306の次には、第7ステップS307が実行される。
【0093】
第7ステップS307において、光リミッタ310が、光量子化信号126に含まれる各光パルス信号の光強度を等化して光量子化デジタル信号13を生成する。
図6Bは、一実施形態による光量子化デジタル信号13の一構成例を示す図である。
図6Bに示す光量子化デジタル信号13は、
図6Aの光量子化信号に含まれる複数の光パルス信号のそれぞれについて、光強度を統一することで得られる。このようにして得られた光量子化デジタル信号13は、光出力部311から後段の光符号化回路40に向けて出力される。
【0094】
第7ステップS307の次には、第8ステップS308が実行されて、本実施形態による光量子化方法が終了する。
【0095】
以上に説明したように、本実施形態による光増幅器305と、この光増幅回路を用いる光増幅方法と、この光増幅回路を用いる光アナログ・デジタル変換装置1と、この光アナログ・デジタル変換装置1を用いる光アナログ・デジタル変換方法とでは、主に以下の3つの観点から、上述の課題を解決した。すなわち、単一の半導体素子を用い、従来より大幅に小型化かつ簡略化された構成による光量子化を可能とし、超高速動作および高分解能(高量子化ビット数)を両立させた。
【0096】
第1に、光標本化パルス列信号12に含まれる光パルス信号P1〜P8の光強度を、光強度のまま量子化せずに、レッドチャープ現象の積極的な利用によって光強度の違いを波長(または周波数)の違いに変換した上で、周波数領域で量子化する。
【0097】
第2に、周波数分布が比較的広い光標本化パルス列信号12の光強度をそのまま波長(または周波数)に変換せずに、周波数分布が非常に狭いプローブ光信号121を併用することによって、量子化の精度がさらに向上する。
【0098】
第3に、周波数式位置および光路長がそれぞれ異なる複数の光フィルタ308を並列接続して光増幅信号123を透過させることで、後段の光符号化回路40が光デジタル信号14に符号化しやすい形式の光量子化デジタル信号13を生成する。
【0099】
以上、発明者によってなされた発明を実施の形態に基づき具体的に説明したが、本発明は前記実施の形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で種々変更可能であることはいうまでもない。また、前記実施の形態に説明したそれぞれの特徴は、技術的に矛盾しない範囲で自由に組み合わせることが可能である。