(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6840421
(24)【登録日】2021年2月19日
(45)【発行日】2021年3月10日
(54)【発明の名称】筒状織布
(51)【国際特許分類】
E02D 17/20 20060101AFI20210301BHJP
E02B 11/00 20060101ALI20210301BHJP
【FI】
E02D17/20 106
E02B11/00 301F
【請求項の数】5
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2015-200351(P2015-200351)
(22)【出願日】2015年10月8日
(65)【公開番号】特開2017-71978(P2017-71978A)
(43)【公開日】2017年4月13日
【審査請求日】2018年8月29日
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000117135
【氏名又は名称】芦森工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100082027
【弁理士】
【氏名又は名称】竹安 英雄
(72)【発明者】
【氏名】▲柄▼崎 和孝
(72)【発明者】
【氏名】宮崎 京太郎
(72)【発明者】
【氏名】平子 健志朗
【審査官】
湯本 照基
(56)【参考文献】
【文献】
特開平09−144953(JP,A)
【文献】
特開平11−302943(JP,A)
【文献】
特開2002−181251(JP,A)
【文献】
実開昭54−098010(JP,U)
【文献】
特開2010−070919(JP,A)
【文献】
特開2013−028967(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E02D 17/20
E02B 11/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
水抜き管として使用する筒状織布であって、たて糸(2)とよこ糸(3)とを筒状に織成してなり、前記たて糸(2)の少なくとも一部が低融点糸よりなり、前記よこ糸(3)の少なくとも一部が、剛性の高いモノフィラメントよりなることを特徴とする、筒状織布
【請求項2】
前記筒状織布(1)のたて糸(2)が、前記低融点糸よりなる低融点たて糸(2a)と、通常の糸条よりなる通常たて糸(2b)とが、周方向に数本ずつ交互に配置されていることを特徴とする、請求項1に記載の筒状織布
【請求項3】
前記低融点糸が、高融点の合成樹脂よりなる芯部(9)と、該芯部の周囲を取り巻いた低融点の合成樹脂よりなる鞘部(10)とよりなる、芯鞘型繊維(8)よりなることを特徴とする、請求項1、又は2に記載の筒状織布
【請求項4】
前記よこ糸(3)として、前記モノフィラメントと低融点糸とを引き揃え又は撚り合わせた糸条を使用することを特徴とする、請求項1、2、又は3に記載の筒状織布
【請求項5】
前記請求項1、2、3又は4に記載の筒状織布(1)を、加熱して前記たて糸(2)における低融点糸の一部を溶融せしめ、次いでこれを冷却して溶融せしめていた低融点糸を固化せしめてなることを特徴とする、筒状織布
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は崖地などにおいて、土中に含まれた水を集めて抜くための水抜き管として使用する筒状織布に関するものである。
【背景技術】
【0002】
崖地などにおいて土中に水を多量に含んでいると、地滑りや崖崩れなどの災害を生じる恐れがあり、当該土中に含まれた水を集めて、崖地などの外部に排除することが必要とされる。
【0003】
そのための排水管として、例えば特開2001−82074号公報に記載されたように、硬質ポリ塩化ビニル管に多数の小孔を穿設した管を、水を含んだ土中に押し込み、当該土中から前記小孔を介して水を前記管内に集め、崖地などの外部に排出することが行われている。
【0004】
しかしながらこの方法では、硬質ポリ塩化ビニルの管に小孔を穿設するので、当該小孔が大きいと周囲の土壌まで排出してしまい、また小孔が小さいと水を十分に管内に集めることができない。
【0005】
またこの方法においては、前記管の長さが限られ、高々数メートル程度のものしか使用することができない。それを超える長大な管になると、それを作業現場に運ぶのが困難であり、またその作業現場の状況によっては、崖地などに管を押し込むためのスペースが確保できないことも少なくない。
【0006】
またこれらの問題を解決する手段として、実開昭54−98010号公報に記載されているように、金属線又は硬質合成樹脂の線材をよこ糸とし、通常の軟質繊維をたて糸として織成した筒状織布を使用することが考えられている。
【0007】
当該筒状織布を前記水抜き用の管体として水を含んだ土中に敷設し、当該筒状織布の布目の間から土中の水を筒状織布の内部に集め、筒状織布の中を通して崖地などの外部に排出するとするものである。
【0008】
この方法では筒状織布を使用するため、前記硬質ポリ塩化ビニルの管に比べると柔軟であり、これを巻回した状態で運搬することができるので、比較的長い筒状織布を敷設することが可能である。
【0009】
しかしながらかかる長い筒状織布を土中に穿設した敷設穴に押し込もうとすると、敷設穴の外から筒状織布を押し込むこととなり、筒状織布自体が比較的柔軟であり、しかも運搬のときの巻回癖がついているため、筒状織布が敷設穴内に引っ掛かり、高々数メートル程度の距離しか押し込むことができない。
【0010】
前述のような水を含んだ土中に水抜き管を敷設する場合には、数十メートル程度の長さに亙って敷設することが好ましく、前記特許文献に記載された方法ではこのような長い範囲に敷設することができない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開2001−82074号公報
【特許文献2】実開昭54−98010号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明はかかる事情に鑑みなされたものであって、比較的柔軟な長尺の筒状織布を水抜き管として使用すると共に、当該筒状織布を敷設穴に押し込む直前に剛直化せしめ、当該筒状織布を敷設穴内に引っ掛かることなく、後方から敷設穴に押し込むことにより敷設することのできる筒状織布を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
而して本発明は、水抜き管として使用する筒状織布であって、たて糸とよこ糸とを筒状に織成してなり、前記たて糸の少なくとも一部が低融点糸よりなり、前記よこ糸の少なくとも一部が剛性の高いモノフィラメントよりなることを特徴とするものである。
【0014】
本発明においては、前記筒状織布のたて糸が、前記低融点糸よりなる低融点たて糸と、通常の糸条よりなる通常たて糸とが、周方向に数本ずつ交互に配置されていることが好ましい。
【0015】
また本発明においては、前記低融点糸が、高融点の合成樹脂よりなる芯部と、該芯部の周囲を取り巻いた低融点の合成樹脂よりなる鞘部とよりなる、芯鞘型繊維よりなるものであることが好ましい。
【0016】
また本発明において、前記筒状織布のよこ糸として、前記モノフィラメントと低融点糸とを引き揃え又は撚り合わせた糸条を使用することも好ましいことである。
【0017】
上記本発明における筒状織布を、一旦加熱して前記たて糸における低融点糸の一部を溶融せしめ、次いでこれを冷却して溶融せしめていた低融点糸を固化せしめることにより、剛直な筒状織布とすることができる。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、筒状織布が織物構造であるため柔軟であり、よこ糸にモノフィラメントが使用されており、通常の織物のように扁平に折りたたむことはできないものの、筒状織布自体がポリ塩化ビニル管のような剛性を有しているわけではなく、比較的小径のコイル状に巻回することができる。従って長尺の筒状織布をトラックに搭載して、作業現場に運搬することが可能である。
【0019】
そして作業現場に到着したならば、前記コイル状に巻回した筒状織布をコイルから引き出し、長さ方向に真っ直ぐに伸ばしながら送り出しつつ、当該筒状織布を加熱して当該筒状織布におけるたて糸の低融点糸の一部を溶融し、次いでそれを冷却して溶融していた低融点糸を固化せしめることにより、前記筒状織布を剛直化せしめ、前記真っ直ぐに伸ばしていた筒状織布を真っ直ぐな状態で固定することができる。
【0020】
従って当該真っ直ぐな状態で剛直化した筒状織布を敷設穴に押し込むことにより、押し込まれる筒状織布が柔軟な織布よりなる筒状体から、剛直な管体と化しているので、敷設穴内で無闇に曲がったり敷設穴に引っ掛かったりすることがなく、スムーズに敷設穴内に送入敷設することができるのである。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【
図3】低融点糸の横断面図であって、(a)は通常状態、(b)は加熱した状態を示す。
【
図4】本発明の筒状織布の使用方法を示す中央縦断面図
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下本発明を図面に基づいて説明する。
図1は本発明の筒状織布1を示すものであって、たて糸2と合成繊維のモノフィラメント糸よりなるよこ糸3とを筒状に織成したものである。そして前記たて糸2としては、低融点糸よりなる低融点たて糸2aと、通常の糸条よりなる通常たて糸2bとが、数本ずつ交互に配置されている。
【0023】
前記低融点たて糸2aを構成する低融点糸は、
図3(a)に示すように高融点の合成樹脂よりなる芯部9と、該芯部9の周囲を取り巻いた低融点の合成樹脂よりなる鞘部10とよりなる、芯鞘型繊維8よりなるものが使用するのが好ましい。かかる芯鞘型繊維8としては、ユニチカファイバー株式会社製の、商品名コルネッタとして市販されているものが知られている。
【0024】
この筒状織布1は
図1の状態においては、低融点たて糸2aも通常たて糸2bも共に通常の糸条として挙動するので、通常の筒状の織布と同様であって、モノフィラメントよりなるよこ糸3により扁平に折り畳むことはできないものの、相当程度の柔軟性を有しており、コイル状に巻回することができる。
【0025】
そしてこの筒状織布1を、前記低融点糸の融点よりもわずかに高い温度に加熱すると、
図2に示すように、低融点たて糸2aにおける低融点糸が一部溶融して隣接する低融点糸と合体する。
【0026】
なおこのとき、低融点たて糸2aは完全に溶融してドロドロの状態になるわけではなく、低融点たて糸2aを構成する単繊維が部分的に溶融し、隣接する単繊維と融着し、さらによこ糸3とも部分的に融着する。
【0027】
また低融点糸が前述の芯鞘型繊維8よりなるものである場合には、鞘部10の合成樹脂の融点より高い温度に加熱することにより、
図3(b)に示すように鞘部10が溶融して合体する。このときの温度は芯部9の合成樹脂の融点より低いので、芯部9は溶融することはなく、溶融した鞘部10内において芯部9は自由に動くことができ、芯鞘型繊維8の柔軟性は失われておらず、また筒状織布1も十分に柔軟である。
【0028】
次いで加熱していた筒状織布1を冷却すると、溶融していた低融点たて糸2aは隣接する低融点たて糸2aと合体した状態で固化し、低融点たて糸2aが集まった部分は一体化し、剛直化する。
【0029】
低融点糸が前記芯鞘型繊維8よりなる場合においても、鞘部10の合成樹脂は互いに合体した状態のままで固化する。これにより鞘部10の合成樹脂は全体として一体となり、芯鞘型繊維8の柔軟性は失われ、筒状織布1は剛直化する。
【0030】
図4は本発明の筒状織布1を使用して、筒状織布1を崖地4などに穿設した敷設穴5内に押し込んで敷設する状態を示すものである。すなわち筒状織布1はコイル状に巻回されており、当該コイル状に巻回した筒状織布1をコイルから巻き戻して、真っ直ぐに伸ばしながら、崖地4に穿設された敷設穴5に押し込んで、当該敷設穴5に挿通している状態を示している。
【0031】
而してこのコイル状に巻回した筒状織布1を、前記コイルから巻き戻して真っ直ぐに伸ばした状態で加熱ゾーン6内に送り込み、当該加熱ゾーン6内において前記低融点糸の融点よりもわずかに高い温度に加熱する。これにより
図2に示すように、低融点たて糸2aにおける低融点糸が一部溶融する。
【0032】
次いでこの筒状織布1を冷却ゾーン7内を通して冷却する。これにより前記溶融していた低融点糸が固化し、当該低融点糸を構成していた単繊維が融着し、さらによこ糸3とも融着した状態で固化するので、低融点糸が剛直な糸条となる。
【0033】
これにより筒状織布1における低融点たて糸2aを織り込んだ部分全体が剛直化すると共に、低融点たて糸2aと通常たて糸2bとが縞状に配置されているので、筒状織布1全体が剛直化する。
【0034】
次いでこの筒状織布1を、崖地4に穿設した敷設穴5内に押し込んで挿通する。本発明によれば、前述のように筒状織布1が剛直化しているので、当該剛直化した筒状織布1を後方から押して敷設穴5に挿入することができる。
【0035】
従って本発明によれば、加熱前の筒状織布1は比較的柔軟であって、長尺の筒状織布1を小径のコイル状に巻回することができ、これをトラックなどに搭載して作業現場に搬送することができる。
【0036】
そしてその筒状織布1を作業現場において一旦加熱し次いで冷却することにより、低融点糸を溶融して筒状織布1を剛直化せしめ、その筒状織布1が敷設穴5の内面に引っ掛かることなく、筒状織布1を後方から押して敷設穴5内に長い距離に亘って押し込むことが可能となるのである。
【0037】
なお本発明においては、筒状織布1におけるたて糸2をすべて低融点たて糸2aを使用することも可能であるが、加熱して低融点糸を溶融せしめた際に、溶融した低融点糸によって筒状織布1が目詰まりを起こし、敷設穴5外からの水を筒状織布1内に取り込むことが困難となる。
【0038】
それゆえ
図2及び
図3に示すように、低融点たて糸2aと通常たて糸2bとを交互に複数本ずつ配置することにより、低融点たて糸2aを配置した部分は前述のように目詰まりを起こすが、通常たて糸2bを配置した部分は目詰まりを起こすことはなく、布目の間から筒状織布1内に水を取り込むことができる。
【0039】
また前記よこ糸3は、すべてのよこ糸3をモノフィラメント糸よりなるものとすることもできるが、モノフィラメント糸と通常のマルチフィラメント糸又はスパン糸とを、交互に織り込むことも可能である。
【0040】
このようにすることにより、モノフィラメント糸の間隔が開き、筒状織布1が柔軟となって、より小径のコイル状に巻回することが可能となる。また低融点糸を溶融固化せしめることにより筒状織布1を剛直化せしめた状態においては、モノフィラメント糸の剛直性は無関係であり、筒状織布1は十分に剛直化している。
【0041】
また前記よこ糸3として、前記モノフィラメントと低融点糸とを引き揃え又は撚り合わせた糸条を使用することもできる。このようにすることにより、低融点糸を溶融し固化せしめたときに、よこ糸3中のモノフィラメントがより強固に固定され、筒状織布1全体がより剛直なものとなり、敷設穴5内により深く挿入することができる。
【産業上の利用可能性】
【0042】
本発明の筒状織布1は、前述のように崖地4に穿設した敷設穴5に挿通し、土中の水を抜くための管体として使用するのに適しているが、かかる用途に限らず、筒状織布1の剛性や布目の通水性を変化させる必要のある、他の用途に使用することもできる。
【0043】
例えば屋外の樋などを設置する際、従来は直線部と屈曲部とを別に作成し、これらを結合して設置していたが、本発明の筒状織布1を使用することにより、長尺の筒状織布1を用いて加熱と冷却とを繰り返すことにより、その場で直線部と屈曲部とを製作することが可能である。
【符号の説明】
【0044】
1 筒状織布
2 たて糸
2a 低融点たて糸
2b 通常たて糸
3 よこ糸
8 芯鞘型繊維
9 芯部
10 鞘部