特許第6840433号(P6840433)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6840433熱膨張率の異なる板材の仮締め方法及び仮締めクリップ
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6840433
(24)【登録日】2021年2月19日
(45)【発行日】2021年3月10日
(54)【発明の名称】熱膨張率の異なる板材の仮締め方法及び仮締めクリップ
(51)【国際特許分類】
   F16B 5/02 20060101AFI20210301BHJP
   F16B 19/00 20060101ALI20210301BHJP
【FI】
   F16B5/02 R
   F16B5/02 S
   F16B19/00 C
   F16B19/00 E
   F16B19/00 N
【請求項の数】3
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2016-245034(P2016-245034)
(22)【出願日】2016年12月19日
(65)【公開番号】特開2018-100675(P2018-100675A)
(43)【公開日】2018年6月28日
【審査請求日】2019年10月24日
(73)【特許権者】
【識別番号】390038069
【氏名又は名称】株式会社青山製作所
(74)【代理人】
【識別番号】110001977
【氏名又は名称】特許業務法人なじま特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】宇津野 隆治
(72)【発明者】
【氏名】大森 康臣
(72)【発明者】
【氏名】浅井 維摩
(72)【発明者】
【氏名】河口 康宏
(72)【発明者】
【氏名】藤本 孝典
(72)【発明者】
【氏名】松並 重樹
【審査官】 鵜飼 博人
(56)【参考文献】
【文献】 特開2009−079751(JP,A)
【文献】 特開2015−086989(JP,A)
【文献】 実開昭59−174413(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16B 5/00− 5/12,
17/00− 19/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱膨張率の異なる2つの板材のうち、一方の板材にナットを固定し、他方の板材に貫通孔を形成し、前記ナットに弾性的に挿入された仮締めクリップにより他方の板材をその面方向に移動可能に支持することにより、加熱工程における2つの板材の熱膨張差を吸収させることを特徴とする熱膨張率の異なる板材の仮締め方法。
【請求項2】
請求項1に記載の熱膨張率の異なる板材の仮締め方法に使用される仮締めクリップであって、中央部にフランジを備えた軸部の下部を一方の板材に固定されたナットへの弾性挿入部とし、軸部の上端にはテーパ状の頭部を形成するとともに、頭部の下方には他方の板材の表面を押さえる弾性爪を形成したことを特徴とする仮締めクリップ。
【請求項3】
請求項1に記載の熱膨張率の異なる板材の仮締め方法に使用される仮締めクリップであって、フランジ状頭部の下部に、一方の板材に固定されたナットへの弾性挿入部と、他方の板材に形成された長孔に挿入される舌片とを形成するとともに、前記フランジ状頭部の上部に、仮締めクリップを回転させるための突片と、弾性挿入部を内側に後退させるための操作片とを突設し、前記舌片は前記弾性挿入部の上方位置において、前記操作片の前面側に形成されたものであることを特徴とする仮締めクリップ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鋼板とアルミ板のような熱膨張率の異なる板材の仮締め方法及び仮締めクリップに関するものである。
【背景技術】
【0002】
例えば自動車のドアの製造工程においては、ドアパネルに補強用ビームの両端をボルトによって仮締めした状態で塗装を行い、加熱乾燥が行われる。具体的には補強用ビームに溶接ナットが溶接され、ドアパネルをこの溶接ナットにボルト固定した状態で加熱乾燥される。従来のドアパネルは鋼板製であり、補強用ビームも鋼板製であったため、熱膨張率の差はほとんどなく、加熱乾燥工程において特に問題は生じていなかった。
【0003】
しかし特許文献1に示されるように、近年は軽量化を目的としてアルミニウムのような金属からなるドアパネルが採用されることがある。この場合にも補強用ビームとしては高強度の鋼板が用いられるのが普通であるから、加熱乾燥工程において熱膨張率の大きいアルミニウム板が補強用ビームよりも大きく熱膨張し、仮締め部でひずみが発生してアルミニウム板が変形するおそれがあった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2007−326532号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
したがって本発明の目的は上記した従来の問題点を解決し、鋼板とアルミ板のような熱膨張率の異なる板材を、加熱乾燥工程においても変形を生じさせることなく仮締めすることができる仮締め方法及びこれに用いられる仮締めクリップを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記の課題を解決するためになされた本発明の熱膨張率の異なる板材の仮締め方法は、熱膨張率の異なる2つの板材のうち、一方の板材にナットを固定し、他方の板材に貫通孔を形成し、前記ナットに弾性的に挿入された仮締めクリップにより他方の板材をその面方向に移動可能に支持することにより、加熱工程における2つの板材の熱膨張差を吸収させることを特徴とするものである。
【0007】
また本発明の仮締めクリップは、上記した熱膨張率の異なる板材の仮締め方法に使用される仮締めクリップであって、中央部にフランジを備えた軸部の下部を一方の板材に固定されたナットへの弾性挿入部とし、軸部の上端にはテーパ状の頭部を形成するとともに、頭部の下方には他方の板材の表面を押さえる弾性爪を形成したことを特徴とするものである。
【0008】
また本発明の他の仮締めクリップは、上記した熱膨張率の異なる板材の仮締め方法に使用される仮締めクリップであって、フランジ状頭部の下部に、一方の板材に固定されたナットへの弾性挿入部と、他方の板材に形成された長孔に挿入される舌片とを形成するとともに、前記フランジ状頭部の上部に、仮締めクリップを回転させるための突片と、弾性挿入部を内側に後退させるための操作片とを突設し、前記舌片は前記弾性挿入部の上方位置において、前記操作片の前面側に形成されたものであることを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0009】
本発明の仮締め方法及び本発明の仮締めクリップによれば、熱膨張率の異なる板材を加熱する際に生ずる熱膨張差を、他方の板材をその面方向に移動させることにより吸収することができ、変形を防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】板材の仮締め状態を示す説明図である。
図2】第1の実施形態の仮締めクリップを示す外観図である。
図3】第1の実施形態の仮締めクリップを示す中央縦断面図である。
図4】第1の実施形態の仮締めクリップを示す外観斜視図である。
図5】第1の実施形態の仮締めクリップを一方の板材に取り付けた状態の説明図である。
図6】第1の実施形態の仮締めクリップにより、2枚の板材を仮締めした状態を示す断面図である。
図7】第2の実施形態の仮締めクリップを示す4面図である。
図8】第2の実施形態の仮締めクリップを示す中央縦断面図である。
図9】第2の実施形態の仮締めクリップを示す外観斜視図である。
図10】第2の実施形態の仮締めクリップを他方の板材に取り付けた状態の説明図である。
図11】第2の実施形態の仮締めクリップにより、2枚の板材を仮締めした状態を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下に本発明の実施形態を説明する。
【0012】
本発明は図1に示されるように熱膨張率の異なる2つの板材を仮締めするために使用されるもので、1は一方の板材、2は他方の板材である。この実施形態では、一方の板材1は鋼板製の補強用ビームのブラケット、他方の板材2はアルミニウム製のドアパネルである。仮締め箇所には予め貫通孔3,4が形成されており、一方の板材1の貫通孔3の裏面には、ナット5が溶接されている。
【0013】
(第1の実施形態)
図2は第1の実施形態の仮締めクリップを示す外観図である。図3はその中央縦断面図、図4は外観斜視図である。この仮締めクリップは樹脂の一体成形品であり、10は中央部にフランジ11を備えた軸部であり、この軸部10の下部には、図2に示すように一方の板材1に固定されたナット5への弾性挿入部12が形成されている。
【0014】
この弾性挿入部12は円筒の外周側面に複数のおねじ状リブ13を形成するとともに、中央に軸線方向のスリット14を形成して径方向の弾性を持たせたものである。おねじ状リブ13のネジ山は断面が三角形状であり、ナット5の内部に押し込んで固定することができるようになっている。
【0015】
軸部10の上端には、テーパ状の頭部15が形成されている。この頭部15は六角部を備え、その下方には他方の板材2の表面を押さえる一対の弾性爪16が形成されている。この弾性爪16はフランジ11の方向に向かって拡がり、その先端はフランジ11の上面とほぼ同一高さまで延びている。なお弾性爪16は必ずしも一対とする必要はなく、3本以上とすることもできる。
【0016】
このように構成された第1の実施形態の仮締めクリップは、先ず図5に示すように弾性挿入部12を一方の板材1の貫通孔3を通じて裏面のナット5内に押し込む。このとき弾性挿入部12は弾性変形し、ナット5のめねじとおねじ状リブ13とが弾性的に噛み合う。またフランジ11の下面が一方の板材1の上面に当接することにより、押し込み深さが決定される。
【0017】
このようにして軸部10を一方の板材1に垂直に固定したうえ、図6に示すように他方の部材2の貫通孔4をテーパ状の頭部15と一致させ、他方の部材2をフランジ11の方向に押し込む。頭部15は先端がテーパ状であるため、芯ずれを発生させることなく、他方の部材2を取り付けることができる。このとき弾性爪16は内側に弾性変形し、他方の部材2が完全に押し込まれると図6のように外側に拡がってその先端で他方の部材2の上面を押さえる。
【0018】
このため他方の部材2は上方に抜けることが防止され、一方の板材1と他方の部材2は仮締めされる。また他方の部材2は弾性爪16によって押さえられているだけであるから、貫通孔4を大きめにしておけば、他方の板材2はその面方向に移動可能に支持されることになる。
【0019】
このようにして、加熱乾燥工程において加熱され熱膨張量の違いが生じても、一方の板材1と他方の部材2との間で相対的な移動が可能となり、従来のような変形は生じない。しかも仮締めクリップの取付けはワンタッチで簡単に行うことができる。乾燥工程の終了後には頭部15の六角部に工具を係合させて回転させれば、仮締めクリップをナット5から容易に取り外すことができ、その後にボルトナットによる本締結が行われる。
【0020】
(第2の実施形態)
図7は第2の実施形態の仮締めクリップを示す4面図、図8はその中央縦断面図、図9は外観斜視図である。この仮締めクリップも樹脂の一体成形品である。20はフランジ状頭部であり、その下部に一方の板材2に固定されたナット5への弾性挿入部21が形成されている。フランジ状頭部20の片側は開口部22となっている。
【0021】
図示されるように、フランジ状頭部20は上部大径部23の下方に上部大径部23よりも小径の本体部24を形成したものである。弾性挿入部21はこの本体部24よりも更に小径であり、本体部24の下方に形成されている。
【0022】
弾性挿入部21は有底円筒状であり、図7に示すようにその外周側面におねじ状リブ25を形成するとともに、左右に軸線方向のスリット26を形成して径方向の弾性を持たせたものである。
【0023】
上記のように、弾性挿入部21の左右のスリット26に挟まれた中央部分はフランジ状頭部20の開口部22を通じて上方に延びている。その上端には、弾性挿入部21を内側に弾性的に後退させるための操作片27が形成されている。またこの操作片27の前面側には、舌片28が形成されている。舌片28の上側には補強用リブ29が形成されている。
【0024】
このほか、フランジ状頭部20の上部には、仮締めクリップを回転させるための一対の突片30が突設されている。またフランジ状頭部20の下側には、図7図9に示されるように薄い突起31が形成されている。
【0025】
このように構成された第2の実施形態の仮締めクリップは、先ず図10に示すように他方の板材2の貫通孔32に弾性挿入部21を挿入し、舌片28を貫通孔32内に位置させる。この他方の板材2の貫通孔32は舌片28の方向に長く延びる長孔である。この状態から一対の突片30を指先で操作して回転させると、図10に示すように舌片28が貫通孔32の内側面に係合し、仮締めクリップは他方の板材2に取り付けられる。このとき、他方の板材2の下面は薄い突起31の上面に当接している。また他方の板材2の上面はフランジ状頭部20の上部大径部23の下面に当接する。
【0026】
その後、図11に示すように、他方の板材2の裏面に突出している弾性挿入部21を一方の部材1の貫通孔3に挿入し、弾性挿入部21のおねじ状リブ25を一方の板材1の裏面のナット5のめねじと弾性的に噛み合わせる。このとき一方の板材1の上面は薄い突起31の下面に当接し、一方の部材1と他方の板材2とは仮締めされる。しかし他方の板材2は上部大径部23の下面と薄い突起31の間に挟まれた状態であり、板面方向に移動可能であるから、加熱乾燥工程において加熱され熱膨張量の違いが生じても、一方の板材1と他方の部材2との間で相対的な移動が可能となり、従来のような変形は生じない。
【0027】
乾燥工程の終了後には操作片27を指先で押して弾性挿入部21を内側に撓ませれば、ナット5から仮締めクリップをワンタッチで容易に取り外すことができる。このように、第2の実施形態の仮締めクリップも着脱が容易である。仮締めクリップを取り外したのちに、ボルトナットによる本締結が行われる。
【0028】
上記したように本発明によれば、熱膨張率の異なる板材を加熱する際に生ずる熱膨張差を、仮締め状態において、他方の板材をその面方向に移動させることにより吸収することができ、変形を防止することができる。しかも仮締めクリップの着脱操作はワンタッチで行うことができる利点がある。
【符号の説明】
【0029】
1 一方の板材
2 他方の板材
3 貫通孔
4 貫通孔
5 ナット
10 軸部
11 フランジ
12 弾性挿入部
13 おねじ状リブ
14 スリット
15 テーパ状の頭部
16 弾性爪
20 フランジ状頭部
21 弾性挿入部
22 開口部
23 上部大径部
24 本体部
25 おねじ状リブ
26 スリット
27 操作片
28 舌片
29 補強用リブ
30 突片
31 薄い突起
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11