【実施例】
【0041】
以下に、本発明の実施例を示す。
【0042】
[実施例1]
(ポリスチレンで表面処理されているフラーレンの作製)
数平均分子量約20万のポリスチレンであるディックスチレンCR−2600(DIC社製)と、C
6061質量%、C
7028質量%、C
70より大きい高次のフラーレン11質量%を含有するフラーレン混合物ナノムミックス(フロンティアカーボン社製)を、トルエン(関東化学社製)に、それぞれ溶解させて、ポリスチレンの1質量%溶液およびフラーレン混合物の0.25質量%溶液を作製した。
【0043】
それぞれの溶液を混合して混合液を作製した。混合液の5倍以上の体積のメタノール(純正化学社製)に混合液を投入した後、孔径0.1μmのメンブランフィルターでろ過した。
【0044】
濾別されたケーキを約70℃の真空乾燥機で乾燥させ、乾燥後の固形物を解砕した。得られた解砕物、すなわち、ポリスチレンで表面処理されているフラーレン中のフラーレンの含有量が約20質量%であった。これは、フラーレンの表面をポリスチレンが十分覆う量であると考えられる。
【0045】
この根拠を以下に説明する。
【0046】
数平均分子量約20万のポリスチレンは、分子量99のスチレンユニットを約2000個有し、スチレンユニットは、ベンゼン環を1個有する。C
60は、二十面体であり、1つの面をベンゼン環1個で覆うと、1分子のC
60につき、スチレンユニットが20個必要となる。このため、約2000個のスチレンユニット、すなわち、数平均分子量約20万のポリスチレン1個で完全に覆うことができるC
60は約100個となる。C
60の分子量は720であるので、数平均分子量約20万のポリスチレン約20万質量部で完全に覆うことができるC
60は7.2万質量部となる。その結果、数平均分子量約20万のポリスチレンで表面処理されているC
60中のC
60の含有量は、
7.2万/(7.2万+20万)×100=26質量%
となる。
【0047】
C
70は、37面体であるので、C
60と同様に計算すると、数平均分子量約20万のポリスチレンで表面処理されているC
70中のC
70の含有量は、18質量%となる。さらに高次フラーレンについても同様である。
【0048】
(樹脂組成物の作製)
まず、ポリスチレンで表面処理されているフラーレンと、LDPEであるノバテックLD ZF33(日本ポリエチレン社製)をドライブレンドし、混合物を作製した。このとき、ポリスチレンで表面処理されているフラーレンの添加量を調整して、混合物中のフラーレンの含有量を0.0003質量%とした。
【0049】
次に、L/D=30の二軸押出機KZW15−30MG(テクノベル社製)に混合物を投入して混練し、樹脂組成物(ペレット)を作製した。
【0050】
このとき、絶縁破壊電圧は、微量なコンタミが影響するので、混合物を混練する前に、二軸押出機を分解掃除した後、バージンのポリエチレンを60分間流して、クリーンな状態で混合物を混練した。
【0051】
また、樹脂の劣化を防止するために、アルゴンガスをパージしながら、混合物を混練した。
【0052】
(実施例2〜5)
樹脂組成物を作製する際に、混合物中のフラーレンの含有量を、それぞれ0.001質量%、0.003質量%、0.03質量%、0.1質量%に変更した以外は、実施例1と同様にして、樹脂組成物を作製した。
【0053】
(比較例1、2)
樹脂組成物を作製する際に、混合物中のフラーレンの含有量を、それぞれ0.3質量%、3.0質量%に変更した以外は、実施例1と同様にして、樹脂組成物を作製した。
【0054】
(比較例3)
樹脂組成物を作製する際に、ポリスチレンで表面処理されているフラーレンを用いず、以外は、実施例1と同様にして、樹脂組成物を作製した。
【0055】
(比較例4〜6)
樹脂組成物を作製する際に、ポリスチレンで表面処理されているフラーレンの代わりに、表面処理されていないフラーレンとして、フラーレン混合物ナノムミックス(フロンティアカーボン社製)を用いた以外は、それぞれ実施例4、5、比較例1と同様にして、樹脂組成物を作製した。
【0056】
(樹脂シートの作製)
樹脂組成物(ペレット)を70℃の熱風乾燥器で3時間乾燥させた後、150mm×150mm×1mmの枠にペレットを配置して、160℃でプレス成形し、樹脂シートを作製した。
【0057】
(絶縁破壊電圧)
まず、絶縁破壊電圧を測定する予定の個所の樹脂シートの厚みを測定した。次に、樹脂シートをシリコン油浴中に入れて、樹脂シートの厚み方向から上下に直径25mmの電極で挟み、絶縁破壊電圧を測定した。
【0058】
ここで、絶縁破壊電圧の測定方法は、JIS法のC2110−1に準拠し、20秒段階法で絶縁破壊電圧を測定した。具体的には、所定の電圧で20秒間絶縁破壊されなければ、昇圧するステップを繰り返し、絶縁破壊される前に設定した電圧を絶縁破壊電圧とした。
【0059】
なお、20kVまでは1kVずつ昇圧し、20kV以降は2kVずつ昇圧した。
【0060】
また、絶縁破壊試験装置YST−243−100RH0(ヤマヨ試験器社製)で絶縁破壊電圧を測定した。
【0061】
さらに、絶縁破壊電圧を測定する雰囲気を23±2℃、50±5%RHとした。
【0062】
表1に、樹脂シートの絶縁破壊電圧の測定結果を示す。
【0063】
【表1】
【0064】
表1から、実施例1〜5の樹脂組成物を成形した樹脂シートは、絶縁破壊電圧が高いことがわかる。
【0065】
これに対して、比較例1〜3の樹脂組成物は、フラーレンの含有量が、それぞれ0.3、3、0質量%であるため、樹脂シートの絶縁破壊電圧が低い。
【0066】
また、比較例4〜6の樹脂組成物は、フラーレンが表面処理されていないため、樹脂シートの絶縁破壊電圧が低い。
【0067】
図1に、実施例1〜5、比較例1、2の樹脂組成物中のフラーレンの含有量に対する樹脂シートの絶縁破壊電圧の関係を示す。
【0068】
図2に、比較例3〜5の樹脂組成物中のフラーレンの含有量に対する樹脂シートの絶縁破壊電圧の関係を示す。
【0069】
(フラーレンの分散性)
樹脂組成物(ペレット)を160℃でプレス成形して、厚さ100μmの樹脂シートを作製し、樹脂シートの表面を光学顕微鏡で観察し、フラーレンの分散性を評価した。
【0070】
図3に、比較例2の樹脂組成物を成形した樹脂シートの光学顕微鏡写真を示す。
【0071】
図3から、ポリスチレンで表面処理されているフラーレンの凝集粒がほとんど形成されておらず、ポリスチレンで表面処理されているフラーレンは、分散性が良好であることがわかる。
【0072】
図4に、比較例6の樹脂組成物を成形した樹脂シートの光学顕微鏡写真を示す。
【0073】
図4から、表面処理されていないフラーレンの多くの凝集粒が形成されており、表面処理されていないフラーレンは、分散性は悪いことがわかる。