(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6840603
(24)【登録日】2021年2月19日
(45)【発行日】2021年3月10日
(54)【発明の名称】核融合中性子発生装置
(51)【国際特許分類】
H05H 3/06 20060101AFI20210301BHJP
G21B 3/00 20060101ALI20210301BHJP
G21K 5/02 20060101ALI20210301BHJP
G01T 3/00 20060101ALI20210301BHJP
【FI】
H05H3/06
G21B3/00 Z
G21K5/02 N
G01T3/00 G
【請求項の数】11
【全頁数】15
(21)【出願番号】特願2017-76992(P2017-76992)
(22)【出願日】2017年4月7日
(65)【公開番号】特開2018-181526(P2018-181526A)
(43)【公開日】2018年11月15日
【審査請求日】2020年1月20日
(73)【特許権者】
【識別番号】000003078
【氏名又は名称】株式会社東芝
(73)【特許権者】
【識別番号】317015294
【氏名又は名称】東芝エネルギーシステムズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001092
【氏名又は名称】特許業務法人サクラ国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】高倉 啓
(72)【発明者】
【氏名】宮寺 晴夫
(72)【発明者】
【氏名】吉岡 研一
(72)【発明者】
【氏名】狩野 喜二
【審査官】
右▲高▼ 孝幸
(56)【参考文献】
【文献】
特表2001−523010(JP,A)
【文献】
特公昭60−006069(JP,B1)
【文献】
吉川潔 他,慣性静電閉じ込め核融合研究の現状,プラズマ・核融合学会誌,一般社団法人 プラズマ・核融合学会,2007年,vol.83, no.10, pp.795-811
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H05H 3/06
G01T 3/00
G21B 3/00
G21K 5/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
接地された導電性の陽極を備えて、イオン化された燃料ガスを収容する真空容器と、
前記陽極とは電気的に絶縁されて前記真空容器内で前記陽極に囲まれるように配置された陰極と、
前記陽極とは電気的に絶縁されて前記真空容器を貫通し、前記陰極に電気的に接続された高電圧導入導体と、
前記真空容器の外側で前記高電圧導入導体と電気的に絶縁されて当該高電圧導入導体を覆い、内部に電気絶縁性の媒体が充填されたカバーと、
前記真空容器の外側で前記陽極および前記カバーとは電気的に絶縁されて、前記高電圧導入導体に電気的に接続されて、前記カバーを貫通する高電圧ケーブルと、
前記真空容器および前記カバーの外側に配置されて前記高電圧ケーブルに電気的に接続されて、前記高電圧ケーブルにマイナスの高電圧を供給する高電圧電源と、
前記カバー内で、前記高電圧導入導体と前記高電圧ケーブルとの接続部を取り囲むように配置され、前記高電圧導入導体および前記高電圧ケーブルと電気的に接続されて、凸曲面の曲率を低下させる導電体からなる高電圧導入導体接続部電界緩和リングと、
を有し、
前記陰極と前記陽極との間に生じる電界によって前記燃料ガスを加速することにより核融合を起こさせて中性子を発生させるように構成されたことを特徴とする核融合中性子発生装置。
【請求項2】
接地された導電性の陽極を備えて、イオン化された燃料ガスを収容する真空容器と、
前記陽極とは電気的に絶縁されて前記真空容器内で前記陽極に囲まれるように配置された陰極と、
前記陽極とは電気的に絶縁されて前記真空容器を貫通し、前記陰極に電気的に接続された高電圧導入導体と、
前記真空容器の外側で前記高電圧導入導体と電気的に絶縁されて当該高電圧導入導体を覆い、内部に電気絶縁性の媒体が充填されたカバーと、
前記真空容器の外側で前記陽極および前記カバーとは電気的に絶縁されて、前記高電圧導入導体に電気的に接続されて、前記カバーを貫通する高電圧ケーブルと、
前記真空容器および前記カバーの外側に配置されて前記高電圧ケーブルに電気的に接続されて、前記高電圧ケーブルにマイナスの高電圧を供給する高電圧電源と、
前記カバー内で、前記高電圧導入導体と前記高電圧ケーブルとの間に介在して、前記高電圧導入導体および前記高電圧ケーブルと電気的に接続されて、前記高電圧電源のインピーダンスよりも低いインピーダンスの保護抵抗体と、
を有し、
前記陰極と前記陽極との間に生じる電界によって前記燃料ガスを加速することにより核融合を起こさせて中性子を発生させるように構成されたことを特徴とする核融合中性子発生装置。
【請求項3】
前記カバー内で、前記高電圧導入導体と前記保護抵抗体との接続部を取り囲むように配置され、前記高電圧導入導体および前記保護抵抗体と電気的に接続されて、凸曲面の曲率を低下させる導電体からなる高電圧導入導体・保護抵抗体接続部電界緩和リングをさらに有すること、
を特徴とする請求項2に記載の核融合中性子発生装置。
【請求項4】
前記カバー内で、前記高電圧ケーブルと前記保護抵抗体との接続部を取り囲むように配置され、前記高電圧ケーブルおよび前記保護抵抗体と電気的に接続されて、凸曲面の曲率を低下させる導電体からなる高電圧ケーブル・保護抵抗体接続部電界緩和リング、をさらに有すること、
を特徴とする請求項2または請求項3に記載の核融合中性子発生装置。
【請求項5】
接地された導電性の陽極を備えて、イオン化された燃料ガスを収容する真空容器と、
前記陽極とは電気的に絶縁されて前記真空容器内で前記陽極に囲まれるように配置された陰極と、
前記陽極とは電気的に絶縁されて前記真空容器を貫通し、前記陰極に電気的に接続された高電圧導入導体と、
前記真空容器の外側で前記高電圧導入導体と電気的に絶縁されて当該高電圧導入導体を覆い、内部に電気絶縁性の媒体が充填されたカバーと、
前記真空容器の外側で前記陽極および前記カバーとは電気的に絶縁されて、前記高電圧導入導体に電気的に接続されて、前記カバーを貫通する高電圧ケーブルと、
前記真空容器および前記カバーの外側に配置されて前記高電圧ケーブルに電気的に接続されて、前記高電圧ケーブルにマイナスの高電圧を供給する高電圧電源と、
前記カバー内で、前記高電圧ケーブルが前記カバーを貫通する部分を取り囲むように配置され、前記カバーと電気的に接続された導電体からなる高電圧ケーブル貫通部電界緩和リングと、
を有し、
前記陰極と前記陽極との間に生じる電界によって前記燃料ガスを加速することにより核融合を起こさせて中性子を発生させるように構成されたことを特徴とする核融合中性子発生装置。
【請求項6】
接地された導電性の陽極を備えて、イオン化された燃料ガスを収容する真空容器と、
前記陽極とは電気的に絶縁されて前記真空容器内で前記陽極に囲まれるように配置された陰極と、
前記陽極とは電気的に絶縁されて前記真空容器を貫通し、前記陰極に電気的に接続された高電圧導入導体と、
前記真空容器の外側で前記高電圧導入導体と電気的に絶縁されて当該高電圧導入導体を覆い、内部に電気絶縁性の媒体が充填されたカバーと、
前記真空容器の外側で前記陽極および前記カバーとは電気的に絶縁されて、前記高電圧導入導体に電気的に接続されて、前記カバーを貫通する高電圧ケーブルと、
前記真空容器および前記カバーの外側に配置されて前記高電圧ケーブルに電気的に接続されて、前記高電圧ケーブルにマイナスの高電圧を供給する高電圧電源と、
を有し、
前記陰極と前記陽極との間に生じる電界によって前記燃料ガスを加速することにより核融合を起こさせて中性子を発生させるように構成された核融合中性子発生装置であって、
前記陽極は筒状であり、
前記真空容器は、
前記陽極の第1の端部を封止して前記高電圧導入導体が貫通し、電気絶縁材からなる第1の真空容器端板と、
前記陽極と前記第1の真空容器端板との間に介在して、前記陽極および前記第1の真空容器端板との間を気密にシールし、前記陽極および前記第1の真空容器端板と熱膨張率の近い第1の応力緩和部材と、
を有することを特徴とする核融合中性子発生装置。
【請求項7】
前記真空容器は、
前記陽極の第1の端部の反対側の第2の端部を封止して電気絶縁材からなる第2の真空容器端板と、
前記陽極と前記第2の真空容器端板との間に介在して、前記陽極および前記第2の真空容器端板との間を気密にシールし、前記陽極および前記第2の真空容器端板と熱膨張率の近い第2の応力緩和部材と、
を有することを特徴とする請求項6に記載の核融合中性子発生装置。
【請求項8】
接地された導電性の陽極を備えて、イオン化された燃料ガスを収容する真空容器と、
前記陽極とは電気的に絶縁されて前記真空容器内で前記陽極に囲まれるように配置された陰極と、
前記陽極とは電気的に絶縁されて前記真空容器を貫通し、前記陰極に電気的に接続された高電圧導入導体と、
前記真空容器の外側で前記高電圧導入導体と電気的に絶縁されて当該高電圧導入導体を覆い、内部に電気絶縁性の媒体が充填されたカバーと、
前記真空容器の外側で前記陽極および前記カバーとは電気的に絶縁されて、前記高電圧導入導体に電気的に接続されて、前記カバーを貫通する高電圧ケーブルと、
前記真空容器および前記カバーの外側に配置されて前記高電圧ケーブルに電気的に接続されて、前記高電圧ケーブルにマイナスの高電圧を供給する高電圧電源と、
前記真空容器の内部に接して配置されて前記燃料ガスを吸蔵する燃料ガス吸蔵部と、
前記燃料ガス吸蔵部の温度を調整する温度調整部と、
を有し、
前記陰極と前記陽極との間に生じる電界によって前記燃料ガスを加速することにより核融合を起こさせて中性子を発生させるように構成されたことを特徴とする核融合中性子発生装置。
【請求項9】
前記中性子の量を測定する中性子測定部と、
前記高電圧電源から供給される電圧および電流を測定する電源測定部と、
を備え、
前記温度調整部は、前記中性子測定部から得られる前記中性子の量と、前記電源測定部から得られる前記電圧および電流とが所定の目標範囲に維持されるように燃料ガス吸蔵部の温度を調整するものであることを特徴とする請求項8に記載の核融合中性子発生装置。
【請求項10】
前記中性子測定部で得られた中性子の量を中性子線量に換算する中性子線量算出部をさらに有することを特徴とする請求項9に記載の核融合中性子発生装置。
【請求項11】
前記カバーと前記真空容器との接合部および前記高電圧ケーブルが前記カバーを貫通する部分が液密にシールされていること、
を特徴とする請求項1ないし請求項10のいずれか一項に記載の核融合中性子発生装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本実施形態は、陰極と陽極との間に生じる電界によって燃料ガスを加速することにより核融合を起こさせて中性子を発生させる核融合中性子発生装置に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、核融合中性子発生装置においては、慣性静電閉じ込め式核融合を用いた装置が知られている。慣性静電閉じ込め式核融合反応を用いた装置は、陽極を兼ねる球形状の真空容器の中心に、同心球に格子状の陰極を配置した構造になっていて、真空容器内に重水素等の燃料ガスを充填し、陽極と陰極との間に数kVから100kV程度の高電圧を印可することで、放電によって重水素イオン等が発生する。
【0003】
発生したイオンは電極間の電場によって中心に向かって加速収束される。陰極が格子状になっているため、大部分のイオンは陰極に衝突せず陰極内部に到達し、陰極内部から外側に飛び出し、電場によって再び中心に向かって加速収束される。球中心部で高密度となったイオンが相互に衝突したり、燃料ガスと衝突したり、あるいは陰極や陽極に埋め込まれた燃料ガスの粒子に衝突することにより、核融合反応が発生し、中性子や荷電粒子が生成される。また、陽極と陰極を円筒形状にし、同軸上に配置した装置もある。
【0004】
核融合中性子発生装置で得られる中性子を用いることで、構造物の非破壊検査や核燃料の未臨界度測定などが可能となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第3867972号公報
【特許文献2】特許第3700496号公報
【特許文献3】特開2004−311152号公報
【特許文献4】特開2008−20094号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
核融合中性子発生装置は主に屋内や屋外の場合も大気中での使用が想定されてきた。このため中性子発生装置は水中で使用するための対策が取られておらず、特にこれまで大気中で絶縁を維持してきた中性子発生装置の高電圧導入部を、現状のまま水中に入れて使用すると絶縁破壊を起こしてしまうことが懸念される。一方で、中性子発生装置本体を容器に入れることで、水中での利用時に絶縁を維持できる可能性があるが、装置が大型化してしまい現場でのハンドリングが困難になるといった課題があった。
【0007】
また、装置内のフランジはセラミック等の絶縁物で構成されているが、放電によって加熱された陰極や真空容器との間で温度差が生じ、絶縁物に温度差が生じてしまう。このセラミックのフランジは固定および真空シールのために真空容器や高電圧導入導体と接続、固定されているが、このとき温度差が生じると熱応力が発生する。この熱応力によってセラミックのフランジが破壊されてしまうという事象が生じていた。
【0008】
本発明の実施形態は、上記事情に鑑みてなされたものであって、水中でも使用可能な核融合中性子発生装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
実施形態によれば、核融合中性子発生装置は、接地された導電性の陽極を備えて、イオン化された燃料ガスを収容する真空容器と、前記陽極とは電気的に絶縁されて前記真空容器内で前記陽極に囲まれるように配置された陰極と、前記陽極とは電気的に絶縁されて前記真空容器を貫通し、前記陰極に電気的に接続された高電圧導入導体と、前記真空容器の外側で前記高電圧導入導体と電気的に絶縁されて当該高電圧導入導体を覆い、内部に電気絶縁性の媒体が充填されたカバーと、前記真空容器の外側で前記陽極および前記カバーとは電気的に絶縁されて、前記高電圧導入導体に電気的に接続されて、前記カバーを貫通する高電圧ケーブルと、前記真空容器および前記カバーの外側に配置されて前記高電圧ケーブルに電気的に接続されて、前記高電圧ケーブルにマイナスの高電圧を供給する高電圧電源と、
前記カバー内で、前記高電圧導入導体と前記高電圧ケーブルとの接続部を取り囲むように配置され、前記高電圧導入導体および前記高電圧ケーブルと電気的に接続されて、凸曲面の曲率を低下させる導電体からなる高電圧導入導体接続部電界緩和リングと、を有し、前記陰極と前記陽極との間に生じる電界によって前記燃料ガスを加速することにより核融合を起こさせて中性子を発生させるように構成されたことを特徴とする。
また、他の態様の核融合中性子発生装置は、接地された導電性の陽極を備えて、イオン化された燃料ガスを収容する真空容器と、前記陽極とは電気的に絶縁されて前記真空容器内で前記陽極に囲まれるように配置された陰極と、前記陽極とは電気的に絶縁されて前記真空容器を貫通し、前記陰極に電気的に接続された高電圧導入導体と、前記真空容器の外側で前記高電圧導入導体と電気的に絶縁されて当該高電圧導入導体を覆い、内部に電気絶縁性の媒体が充填されたカバーと、前記真空容器の外側で前記陽極および前記カバーとは電気的に絶縁されて、前記高電圧導入導体に電気的に接続されて、前記カバーを貫通する高電圧ケーブルと、前記真空容器および前記カバーの外側に配置されて前記高電圧ケーブルに電気的に接続されて、前記高電圧ケーブルにマイナスの高電圧を供給する高電圧電源と、前記カバー内で、前記高電圧導入導体と前記高電圧ケーブルとの間に介在して、前記高電圧導入導体および前記高電圧ケーブルと電気的に接続されて、前記高電圧電源のインピーダンスよりも低いインピーダンスの保護抵抗体と、を有し、前記陰極と前記陽極との間に生じる電界によって前記燃料ガスを加速することにより核融合を起こさせて中性子を発生させるように構成されたことを特徴とする。
さらに他の態様の核融合中性子発生装置は、接地された導電性の陽極を備えて、イオン化された燃料ガスを収容する真空容器と、前記陽極とは電気的に絶縁されて前記真空容器内で前記陽極に囲まれるように配置された陰極と、前記陽極とは電気的に絶縁されて前記真空容器を貫通し、前記陰極に電気的に接続された高電圧導入導体と、前記真空容器の外側で前記高電圧導入導体と電気的に絶縁されて当該高電圧導入導体を覆い、内部に電気絶縁性の媒体が充填されたカバーと、前記真空容器の外側で前記陽極および前記カバーとは電気的に絶縁されて、前記高電圧導入導体に電気的に接続されて、前記カバーを貫通する高電圧ケーブルと、前記真空容器および前記カバーの外側に配置されて前記高電圧ケーブルに電気的に接続されて、前記高電圧ケーブルにマイナスの高電圧を供給する高電圧電源と、前記カバー内で、前記高電圧ケーブルが前記カバーを貫通する部分を取り囲むように配置され、前記カバーと電気的に接続された導電体からなる高電圧ケーブル貫通部電界緩和リングと、を有し、前記陰極と前記陽極との間に生じる電界によって前記燃料ガスを加速することにより核融合を起こさせて中性子を発生させるように構成されたことを特徴とする。
さらに他の態様の核融合中性子発生装置は、接地された導電性の陽極を備えて、イオン化された燃料ガスを収容する真空容器と、前記陽極とは電気的に絶縁されて前記真空容器内で前記陽極に囲まれるように配置された陰極と、前記陽極とは電気的に絶縁されて前記真空容器を貫通し、前記陰極に電気的に接続された高電圧導入導体と、前記真空容器の外側で前記高電圧導入導体と電気的に絶縁されて当該高電圧導入導体を覆い、内部に電気絶縁性の媒体が充填されたカバーと、前記真空容器の外側で前記陽極および前記カバーとは電気的に絶縁されて、前記高電圧導入導体に電気的に接続されて、前記カバーを貫通する高電圧ケーブルと、前記真空容器および前記カバーの外側に配置されて前記高電圧ケーブルに電気的に接続されて、前記高電圧ケーブルにマイナスの高電圧を供給する高電圧電源と、を有し、前記陰極と前記陽極との間に生じる電界によって前記燃料ガスを加速することにより核融合を起こさせて中性子を発生させるように構成された核融合中性子発生装置であって、前記陽極は筒状であり、前記真空容器は、前記陽極の第1の端部を封止して前記高電圧導入導体が貫通し、電気絶縁材からなる第1の真空容器端板と、前記陽極と前記第1の真空容器端板との間に介在して、前記陽極および前記第1の真空容器端板との間を気密にシールし、前記陽極および前記第1の真空容器端板と熱膨張率の近い第1の応力緩和部材と、を有することを特徴とする。
さらに他の態様の核融合中性子発生装置は、接地された導電性の陽極を備えて、イオン化された燃料ガスを収容する真空容器と、前記陽極とは電気的に絶縁されて前記真空容器内で前記陽極に囲まれるように配置された陰極と、前記陽極とは電気的に絶縁されて前記真空容器を貫通し、前記陰極に電気的に接続された高電圧導入導体と、前記真空容器の外側で前記高電圧導入導体と電気的に絶縁されて当該高電圧導入導体を覆い、内部に電気絶縁性の媒体が充填されたカバーと、前記真空容器の外側で前記陽極および前記カバーとは電気的に絶縁されて、前記高電圧導入導体に電気的に接続されて、前記カバーを貫通する高電圧ケーブルと、前記真空容器および前記カバーの外側に配置されて前記高電圧ケーブルに電気的に接続されて、前記高電圧ケーブルにマイナスの高電圧を供給する高電圧電源と、前記真空容器の内部に接して配置されて前記燃料ガスを吸蔵する燃料ガス吸蔵部と、前記燃料ガス吸蔵部の温度を調整する温度調整部と、を有し、前記陰極と前記陽極との間に生じる電界によって前記燃料ガスを加速することにより核融合を起こさせて中性子を発生させるように構成されたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明の実施形態によれば、核融合中性子発生装置を水中でも使用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】本発明に係る核融合中性子発生装置の第1の実施形態を模式的に示す縦断面図である。
【
図3】
図1の第1の真空容器端板およびその周辺を拡大して示す部分縦断面図である。
【
図4】
図1の第2の真空容器端板およびその周辺を拡大して示す部分縦断面図である。
【
図5】本発明に係る核融合中性子発生装置の第2の実施形態を模式的に示す縦断面図である。
【
図6】本発明に係る核融合中性子発生装置の第3の実施形態を模式的に示す縦断面図である。
【
図7】本発明に係る核融合中性子発生装置の第4の実施形態を模式的に示す縦断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明に係る核融合中性子発生装置の実施形態について、図面を参照して説明する。ここで、互いに同一または類似の部分には共通の符号を付して、重複説明は省略する。
【0013】
[第1の実施形態]
図1は、本発明に係る核融合中性子発生装置の第1の実施形態を模式的に示す縦断面図である。
図2は
図1の1I−II線矢視横断面図である。
図3は
図1の第1の真空容器端板およびその周辺を拡大して示す部分縦断面図である。
図4は
図1の第2の真空容器端板およびその周辺を拡大して示す部分縦断面図である。
【0014】
(構成)
真空容器11は、円筒状の陽極12と、この陽極12の第1の端部(上端部)を覆って封止する第1の真空容器端板13と、第1の端部の反対側の第2の端部(下端部)を覆って封止する第2の真空容器端板14とを備えている。この実施形態では、陽極12が真空容器11の一部をなしている。陽極12は、導電性材料、たとえばステンレス鋼やアルミニウムやチタンからなり、接地されている。第1の真空容器端板13および第2の真空容器端板14は、たとえばセラミックス製であり、より具体的には、たとえばアルミナ製である。陽極12の第1の端部および第2の端部には、それぞれ、第1のフランジ15および第2のフランジ16が形成されている。第1の真空容器端板13および第2の真空容器端板14は、後述する陰極20に印加する印加電圧に対して十分な絶縁耐力を有する厚さとする。
【0015】
第1のフランジ15と第1の真空容器端板13の間には、第1のフランジ15および第1の真空容器端板13と熱膨張率が近い第1の応力緩和部材17が配置され、陽極12と第1の真空容器端板13の間を気密にシールしている。第1の応力緩和部材17は、たとえば金属製のスリーブ形状や階段形状や蛇腹形状となっていて、柔軟に変形して、陽極12と第1の真空容器端板13の間の相互作用によって第1の真空容器端板13や陽極12が損傷するのを防ぐことができる。同様に、第2のフランジ16と第2の真空容器端板14の間には、第2のフランジ16および第2の真空容器端板14と熱膨張率が近い第2の応力緩和部材18が配置され、陽極12と第2の真空容器端板14の間を気密にシールしている。
【0016】
応力緩和部材17、18は、たとえばコバール製である。なお応力緩和部材17、18とセラミック製の真空容器端板13、14との接続、固定は、ろう付けなどで可能である。また応力緩和部材17、18と金属製のフランジ15、16とは、溶接やろう付けで固定可能である。
【0017】
真空容器11内で、陽極12の内側に陽極12とは半径方向に間隔をあけて、陰極20が配置されている。陰極20は、陽極12と同軸の円筒面に沿って周方向に互いに間隔をあけて配列された複数の棒状部材21を有し、かご型をなしている。陽極12側(外側)から見た陰極20の幾何学的透過率は90%以上であることが好ましい。陰極20は、導電性で高融点の材料からなり、たとえば、純タングステン、純チタン、タンタルなどからなる。陽極12と陰極20は同軸上に径方向に対向して配置され、陽極12と陰極20との間に電圧を印加した際に周方向に対称な電場分布が形成されるように構成されている。
【0018】
陰極20に高電圧導入導体22が電気的に接続され、高電圧導入導体22は陰極20を支持している。高電圧導入導体22は第1の真空容器端板13の中央を貫通している。高電圧導入導体22は、導体を絶縁物で覆った構造であって、たとえば、モリブデンの周囲をアルミナで囲った構造である。
【0019】
高電圧導入導体22が第1の真空容器端板13を貫通する貫通部は第3の応力緩和部材23によって気密にシールされている。第3の応力緩和部材23は、第1および第2の応力緩和部材17、18と同様に、柔軟に変形して、第1の真空容器端板13や高電圧導入導体22の破損を防ぐ機能を有する。
【0020】
高電圧導入導体22は、真空容器11の外側で高電圧ケーブル25の導線25aに電気的に接続されている。高電圧ケーブル25は、導電性の導線25aと、導線25aを覆う絶縁材料からなる被覆25bとからなる。高電圧ケーブル25は、真空容器11の外側に配置された高電圧電源26に接続されていて、高電圧電源26による高いマイナス電圧が陰極20に印加され、陰極20に電流が供給されるように構成されている。
【0021】
真空容器11の外側で、高電圧導入導体22と高電圧ケーブル25との接続部を覆うようにカバー27が配置されている。カバー27は導電性の材料で構成され、接地されている。カバー27は水密であって、真空容器11とカバー27との接続部には防水接続部28が設けられ、高電圧ケーブル25がカバー27を貫通する部分には防水接続部29が設けられている。防水接続部28、29の構造としては、たとえばOリングが用いられる。そのほか、接続箇所をガスケット、溶接、ろう付け、樹脂材料などでモールドするなどの構造でもよい。
【0022】
カバー27内には、絶縁媒体が密封されている。絶縁媒体としては、フロリナート(商品名)などのフッ素化物の溶媒や、絶縁油、SF
6ガスなどを使用することができる。
【0023】
真空容器11の外側に燃料ガス供給部30が配置され、真空容器11内に、重水素やトリチウムなどの燃料を供給可能になっている。
【0024】
カバー27内で、高電圧導入導体22と高電圧ケーブル25との接続部を覆うように、電界緩和リング(高電圧導入導体接続部電界緩和リング)31が配置され、高電圧導入導体22と電気的に接続さている。電界緩和リング31は、導電性材料からなり、外側に向かう凸面が滑らかな、曲率が小さい曲面となっていて、その外面での電界が緩和され、放電が生じるのを抑制できる構造である。
【0025】
また、高電圧ケーブル25がカバー27を貫通する部分のカバー27内に、高電圧ケーブル25を取り囲むように、電界緩和リング(高電圧ケーブル貫通部電界緩和リング)32が配置されている。電界緩和リング32は導電性材料、たとえばステンレス鋼製であって、カバー27と電気的に接続され、接地されている。
【0026】
(作用・効果)
上記構成において、高電圧電源26により、高電圧ケーブル25、高電圧導入導体22を介して陰極20に高電圧のマイナス電圧を印加する。このとき、真空容器11内で、径方向内向きの電場が生じる。これにより、陰極20と陽極12との間でグロー放電が生じ、プラスの燃料ガスイオンが生成される。燃料ガスイオンは陰極20に向かって加速される。加速されたイオンは、陰極20を構成する棒状部材21の間を通過して陰極20の内側に収束される。そして、加速され収束されたイオン同士による衝突やイオンと燃料ガスとの衝突などによって核融合反応が生じる。たとえば燃料ガスとして重水素を用いた場合は、核融合反応によって中性子や陽子が発生する。
【0027】
真空容器11およびカバー27を水中に配置する場合において、カバー27および防水接続部28、29の機能により、高電圧が印加されている接続箇所が直接、水に触れて電気的にショートしてしまう事象を防ぐことができる。また、カバー27内を絶縁性の媒体で満たすことで、カバー27内の高電圧が印加されている部分と接地電位の部分との間の電気絶縁性が向上する。たとえばフロリナートを絶縁性の媒体として用いた場合、大気中で絶縁を維持する場合と比較して5倍程度、絶縁耐力が向上する。
【0028】
一般に、ケーブル接続部や挿入部、異種材料の接合部などのトリプルジャンクションと呼ばれる3要素の接触部は、相対的に電界強度が高くなるため、これらの周辺で沿面放電等の絶縁破壊が生じる懸念がある。この実施形態では、電界緩和リング31、32が配置されているため、ケーブル接続部や挿入部、異種金属接合部周辺の電界を緩和することができる。有限要素法を用いた3次元電界解析の解析結果例によれば、これらを配置することで端子近傍での電界強度を低減することが可能となる。
【0029】
このような核融合中性子発生装置では、放電によって発生する熱によって陽極12や陰極20、高電圧導入導体22が加熱され高温になる。この際に、これらに接続されたセラミックパーツである第1および第2の真空容器端板13、14との間で温度差が生じ、セラミックパーツに熱応力が発生する。セラミックパーツが陽極12や高電圧導入導体22と隙間なく固定されていた場合、セラミックパーツで生じた応力を逃すことができずにセラミックパーツが破断してしまう可能性がある。本実施形態では、応力緩和部材17、18、23を配置することによって、セラミックパーツと陽極12や高電圧導入導体22との間に隙間を設け、気密を保ちながら応力を逃すことが可能となる。なお、この応力緩和部材17、18、23を設けることで生じる隙間は、中性子源の真空保持性能には影響しない。
【0030】
[第2の実施形態]
図5は、本発明に係る核融合中性子発生装置の第2の実施形態を模式的に示す縦断面図である。
【0031】
第2の実施形態では、高電圧導入導体22と高電圧ケーブル25とが、直接接続されず、カバー27内で保護抵抗体40を介して接続されている。保護抵抗体40は、高電圧電源26のインピーダンスよりも低いインピーダンスを有する。保護抵抗体40は、たとえば炭化ケイ素質の抵抗体である。保護抵抗体40は、カバー27内の絶縁媒体の中に配置されるため、絶縁媒体の浸食による抵抗値の変化を防ぐための表面処理、塗装などが施されていることが望ましい。
【0032】
さらに、保護抵抗体40と高電圧導入導体22との接続箇所には電界緩和リング(高電圧導入導体・保護抵抗体接続部電界緩和リング)31aが配置され、保護抵抗体40と高電圧ケーブル25との接続箇所には、リング状の導電性の構造物である電界緩和リング(高電圧ケーブル・保護抵抗体接続部電界緩和リング)41が配置されている。
【0033】
電界緩和リング(高電圧導入導体・保護抵抗体接続部電界緩和リング)31aは、第1の実施形態の電界緩和リング31と同様のものであって、保護抵抗体40および高電圧導入導体22に電気的に接続され、保護抵抗体40と高電圧導入導体22との接続箇所を取り囲んでいる。電界緩和リング41の構造は、前述の電界緩和リング31の構造とほぼ同様であって、導電性材料からなり、外側に向かう凸面が滑らかな曲率が小さな曲面となっていて、その外面での電界が緩和され、放電が生じるのを抑制できる構造である。電界緩和リング41は、保護抵抗体40および高電圧ケーブル25に接続され、保護抵抗体40と高電圧ケーブル25との接続部分を取り囲んでいる。
【0034】
上記以外の構成は、第1の実施形態と同様である。
【0035】
保護抵抗体40は、真空容器11内での放電を安定化させる効果がある。一般に高電圧ケーブル25は同軸ケーブルであるが、同軸ケーブルに蓄積された電荷が放出(放電)されると、電荷が真空容器11内部の陰極20に流れることで、放電状態がグロー放電からアーク放電に遷移し放電が不安定になることが懸念される。保護抵抗体40を挿入することで、電極に突発的に電流が流れる事象を抑制することができる。
【0036】
また、高電圧電源26としてパルス電源を用いる場合において、真空容器11内部の陰極20でアーク放電などが生じた場合、最大で2倍のパルス電流が発生し、高電圧電源26側に反射される。この実施形態では、高電圧電源26に対してインピーダンスの低い抵抗を挿入することで、パルス反射波を低減でき、高電圧電源26が故障するリスクを低減できる。
【0037】
[第3の実施形態]
図6は、本発明に係る核融合中性子発生装置の第3の実施形態を模式的に示す縦断面図である。
【0038】
第3の実施形態は第2の実施形態の変形であって、第2の実施形態の燃料ガス供給部30(
図5)に代えて、燃料ガスを吸蔵する燃料ガス吸蔵部50と、燃料ガス吸蔵部50の温度を制御する温度調整部51とを有する。
【0039】
その他の構成は、第2の実施形態と同様である。
【0040】
燃料ガス吸蔵部50は、重水素、3重水素、または、それらの混合ガスなどから構成された燃料ガスを吸蔵、放出する特性のあるガス吸蔵材料からなる。ガス吸蔵材料としては、たとえば、ジルコニウムやバナジウムなどから構成された合金を用いることができる。合金の温度を上昇、下降させることで重水素やトリチウムなどの燃料ガスを吸蔵、放出する特性がある。好ましい例としては、燃料ガス吸蔵材料を加熱した際も材料が蒸発しない非蒸発性の材料を用いるが、蒸発した材料を蒸着させる蒸着面を別途設置等するのであれば、蒸発性の材料を用いることも可能である。
【0041】
燃料ガス吸蔵部50の形状としては、円筒形状や6面体形状などの任意の形状を用いることが可能であるが、燃料ガス吸蔵材料の表面積が大きく、材料を均等に加熱、降温させることが容易な形状が望ましい。たとえば、真空容器11に開口部を設けてこの開口部を通じて燃料ガス吸蔵部50が真空容器11内に接するようにしてもよい。
【0042】
温度調整部51は、燃料ガス吸蔵部50を加熱または冷却して燃料ガス吸蔵部50の温度を調整するものである。燃料ガス吸蔵部50を加熱する手段としては、燃料ガス吸蔵部50接する位置に電気ヒータ(図示せず)を設置し、この電気ヒータに供給する電力を調整する。また、燃料ガス吸蔵材料を冷却するための冷却器としては、たとえばペルチェ素子(図示せず)を用いる。たとえば、円筒形状の燃料ガス吸蔵部50の底面にペルチェ素子の冷却面を設置し、ヒートシンクと呼ばれる放熱面を真空容器11に接続する。燃料ガス吸蔵部50の形状に応じて任意の冷却器、形状、設置場所を選択可能である。温度調整部51には、加熱部や冷却部に電流、電圧を印可し駆動させるための電源が含まれる。
【0043】
燃料ガス吸蔵部50は温度に応じて重水素やトリチウムなどの燃料ガスを放出する特性があり、材料を昇温すると燃料ガスを放出、降温すると燃料ガスを吸蔵する。事前に燃料ガスを封入した装置あるいは、事前に燃料ガス吸蔵部50に燃料ガスを吸蔵させた状態で、燃料ガス吸蔵部50の温度を制御することで、真空容器11内の燃料ガスの圧力を制御することができる。すなわち、燃料ガス吸蔵部50の温度を上昇させると真空容器11内の燃料ガス圧力は上昇し、降温させると圧力は低下する。真空容器11内の燃料ガス圧力と燃料ガス吸蔵部50の温度との関係は、燃料ガス吸蔵部50の燃料ガスの吸蔵量に応じて変化するため、燃料ガスの吸蔵量に応じて、燃料ガス吸蔵部50の温度を制御する必要がある。
【0044】
この実施形態によれば、温度調整部51を用いて燃料ガス吸蔵部50の温度を制御することにより、真空容器11内の燃料ガスの圧力を調整できる。したがって、真空容器11を水中に配置した状態においても、外部からの燃料ガスを供給することなく圧力制御が可能となり、核融合中性子発生装置を小型、簡素化することが可能になる。
【0045】
[第4の実施形態]
図7は、本発明に係る核融合中性子発生装置の第4の実施形態を模式的に示す縦断面図である。
【0046】
第4の実施形態は第3の実施形態の変形であって、第3の実施形態の構成要素に加えて、温度調整部51を制御し、放電電圧、放電電流、中性子線量が任意の設定値に維持されるように自動制御する機能が追加されている。
【0047】
すなわち、この実施形態の核融合中性子発生装置は、電源測定部62と、中性子測定部60と、中性子線量算出部61と、制御機構63とを含む。
【0048】
電源測定部62は、高電圧電源26から陰極20に供給される印加電圧(放電電圧)、印加電流(放電電流)測定するものである。必要に応じて別途、陰極20への印加電圧、印加電流を測定する電圧プローブ、電流プローブを設置してもよい。電源測定部62の出力は制御機構63に入力される。
【0049】
中性子測定部60は、真空容器11の外側に配置され、中性子生成量を測定するものである。中性子測定部60としては、3He検出器や液体シンチレータ検出器など任意の検出器を使用可能である。核融合反応で発生した高速中性子や熱化した熱中性子など、中性子のエネルギーに応じて、中性子検出器や中性子検出器の出力信号を処理、計測する計測器を選択すればよい。また中性子測定部として、陽子などの荷電粒子を測定してもよい。例えば中性子検出器として3He検出器、検出器の信号を処理するプリアンプ、アンプ、ディスクリミメータ、スケーラーを用いて中性子カウント数を測定する。
【0050】
中性子線量算出部61は、中性子測定部60にて測定した中性子カウント数を中性子束もしくは中性子総発生量(線量)に換算する。中性子線量算出部61は、この核融合中性子発生装置全体での核融合の発生量など任意の単位形式に変換可能としてもよい。中性子線量算出部61の出力は制御機構63に入力される。中性子線量算出部には中性子束や総量に換算するための換算関数が定義されており、中性子線量算出部の位置(中性子発生装置からの距離)に応じて換算係数を設定することができる。
【0051】
制御機構63は、たとえばPID制御を用いたフィードバック制御回路を用いて、放電電圧、放電電流、中性子線量が設定値に維持されるように、温度調整部51を自動制御する。また、制御機構63は、任意の中性子線量を設定した際には、予めデータ採取しておいた中性子線量と放電電圧、放電電流、燃料ガス圧力との関係をもとに、自動で放電電圧、放電電流、燃料ガスの初期状態を設定することが可能である。制御機構63は、電源測定部62にて測定した印加電圧(放電電圧)、印加電流(放電電流)を用いて、陰極20への印加電圧、印加電流を任意の設定値に維持する。すなわち、電源測定部62の計測信号を制御機構63に入力し、温度調整部51により、燃料ガス吸蔵部50の温度を制御する。
【0052】
たとえば、まず任意の印加電圧、印加電流を制御機構63で設定し、電源測定部62で陰極20への印加電圧、印加電流を測定する。次に制御機構63にて印加電圧、印加電流の測定値と設定値とを比較し、印加電圧測定値が設定値よりも高い場合は、制御機構63から温度調整部51へと信号を送り、温度調整部51によって燃料ガス吸蔵部50の温度を上昇させていく。逆に印加電圧測定値が設定値よりも低い場合は、制御機構63から温度調整部51へと信号を送り、温度調整部51によって燃料ガス吸蔵部50の温度を下降させていく。
【0053】
このように燃料ガス吸蔵部50の温度を印加電圧の測定値に応じて、自動制御することにより、陰極20への印加電圧、印加電流が任意の値になるように制御できる。
【0054】
また任意の中性子線量を制御機構63で設定し、設定した中性子線量に応じた放電電圧、放電電流、燃料ガス圧力になるように温度調整部51を制御する。そして中性子測定部60で中性子線を測定し、中性子線量算出部61で線量に換算する。次に、制御機構63にて中性子線量と設定値とを比較し、中性子線量が設定値よりも高い場合は、制御機構63から温度調整部51へと信号を送り、温度調整部51により電気ヒータに電圧、電流を印可し燃料ガス吸蔵部50の温度を上昇していく。逆に測定値が設定値よりも低い場合は、制御機構63から温度調整部51へと信号を送り、電気ヒータの印加電圧、印加電流を抑制、停止し、さらにはペルチェ素子により、燃料ガス吸蔵部50の温度を降下させていく。以上のように燃料ガス吸蔵部50の温度を中性子線量の測定値に応じて、自動制御することにより、陰極への中性子線量が任意の値になるように制御する。
【0055】
以上説明したように、この実施形態では、燃料ガス吸蔵部50の温度を調整する温度調整部51、および印加電圧(放電電圧)、印加電流(放電電流)の測定値をもとに、燃料ガス吸蔵部50の温度を制御する。これにより、陰極20への印加電圧、印加電流を任意の設定値に自動で調整可能になる。このようにして、従来装置で燃料ガス圧力の制御に必要であったガス導入システムおよびガス排気システムが不要となる。これにより、核融合中性子発生装置を小型、簡素化することが可能になり、さらに陰極20への印加電圧、印加電流値、中性子線量を任意の値に自動で制御可能になる。
【0056】
[他の実施形態]
上記説明では、真空容器11の形状は円筒形としたが、そのほか、6面体や球形など任意の形状が選択可能である。
【0057】
また、上記説明では、陽極12が真空容器11の一部をなすものとして、円筒状の陽極12の両端を第1の真空容器端板13と、第2の真空容器端板14とによって封止するものとしたが、真空容器11をガラスなどの絶縁性の物質から構成して、その内側に導電性材料からなる陽極を配置するようにしてもよい。
【0058】
また、真空容器11内で、陽極12と陰極20との間に、導電性の材質からなるかご状の電極である中間電極(図示せず)を設置してもよい。
【0059】
以上、本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0060】
11…真空容器、 12…陽極、 13…第1の真空容器端板、 14…第2の真空容器端板、 15…第1のフランジ、 16…第2のフランジ、 17…第1の応力緩和部材、 18…第2の応力緩和部材、 20…陰極、 21…棒状部材、 22…高電圧導入導体、 23…第3の応力緩和部材、 25…高電圧ケーブル、 25a…導線、 25b…被覆、 26…高電圧電源、 27…カバー、 28…防水接続部、 29…防水接続部、 30…燃料ガス供給部、 31…電界緩和リング(高電圧導入導体接続部電界緩和リング)、 31a…電界緩和リング(高電圧導入導体・保護抵抗体接続部電界緩和リング)、 32…電界緩和リング(高電圧ケーブル貫通部電界緩和リング)、 40…保護抵抗体、 41…電界緩和リング(高電圧ケーブル・保護抵抗体接続部電界緩和リング)、 50…燃料ガス吸蔵部、 51…温度調整部、 60…中性子測定部、 61…中性子線量算出部、 62…電源測定部、 63…制御機構