【実施例】
【0026】
図1に示すように、ベースとなる油圧式射出成形装置10は、ベッド11と、このベッド11に固定されている型締シリンダ12及び固定盤13と、型締シリンダ12と固定盤13との間に渡されるタイバー14と、このタイバー14に沿って移動可能に型締シリンダ12と固定盤13との間に配置される可動盤15と、固定盤13の外側にてベッド11に移動可能に載せられている移動台16と、この移動台16で支持され固定盤13に向かって延びる加熱筒17と、この加熱筒17に軸方向移動可能に且つ回転可能に収納されるスクリュー18と、このスクリュー18の基部が連結されるスクリュー駆動部30と、このスクリュー駆動部30に取付けられている油圧モータ21と、スクリュー駆動部30と移動台16とに渡される射出シリンダ22と、固定盤13と移動台16とに渡される射出装置移動シリンダ23と、油圧ポンプ25と、油圧配管26とを備えている。
【0027】
油圧ポンプ25で発生した圧油により、油圧モータ21でスクリュー18を回して計量工程を実施し、型締シリンダ24で金型27を型締めし、射出装置移動シリンダ23で加熱筒17、スクリュー18、移動台16、スクリュー駆動部30及び油圧モータ21を一括して移動することで金型27へ加熱筒17をノズルタッチさせ、射出シリンダ22でスクリュー18を前進させることで溶融した樹脂材料を金型27のキャビティへ射出する。
【0028】
射出が終わったら、樹脂材料の冷却と計量とを同時にスタートする。
樹脂材料が固まったら、型締シリンダ24で金型27を開き、エジェクタを前進後退させて製品を取り出す。ベースとなる油圧式射出成形装置10では、油圧モータ21による計量工程が終了した後に型締シリンダ24による型開き、型締めを実施する。型開きと、計量工程とを同時に行わないため、油圧ポンプ25は適正容量に抑えることができる。ただし、サイクルタイムは長くなる。
なお、油圧モータ21の回転速度は、従来の技術で説明した値と同じ(例えば160rpm)である。
【0029】
図2に示すように、スクリュー駆動部30は、例えば、ケース31と、このケース31に軸受32、33を介して回転自在に取付けた中継軸34とからなる。
中継軸34の一端に、スクリュー(
図1、符号18)の基部を嵌めることができるスプライン穴35が設けられ、中継軸34の他端に、油圧モータ21の出力軸21aを嵌めるスプライン穴36が設けられている。
【0030】
図3に示すように、ボルト37を緩めると、スクリュー駆動部30から油圧モータ21を取り外すことができる。
取り外すと、油圧モータ21のフランジ21Fが露出する。このフランジ21Fにボルト穴21cが設けられている。フランジ21Fにおけるボルト穴21cのピッチ円はD1であり、ピッチはp1である。
【0031】
また、スクリュー駆動部30から油圧モータ21を取り外すことで、スクリュー駆動部30のフランジ31Fが露出する。このフランジ31Fに雌ねじ31aが設けられている。フランジ31Fにおける雌ねじ31aのピッチ円はD1であり、ピッチはp1である。
【0032】
図4に示すように、電動モータ40とトルク可変機構45とを準備する。トルク可変機構45は、油圧駆動(油圧モータ21)と同等のトルクをスクリュー(
図1、符号18)へ付与する役割を果たす。
トルク可変機構45は、例えば、プレ減速機構50と、歯車減速機60とからなる。
電動モータ40は、サーボモータが好ましい。この電動モータ40は、適当な形状のブラケット41及びテンション金具42を用いて、歯車減速機60の上面に取付けることができる。
なお、テンション金具42は、ジャッキボルト43を備えており、このジャッキボルト43により、歯付きベルト53のテンション(張力)を調整することができる。
【0033】
プレ減速機構50は、一対の歯付きプーリ51、52と、これらの歯付きプーリ51、52に掛け渡す歯付きベルト53からなる。歯付きプーリ51、52の歯数は任意であるが、例えば、電動モータ40側の歯付きプーリ51は42歯で、歯車減速機60側の歯付きプーリ52は64歯である。この場合、プレ減速機構50の減速比は、64/42=1.52となる。
【0034】
仮に、64歯を65歯に変えると、減速比は、65/42=1.55になる。(1.55−1.52)÷1.52=0.02の計算により、1歯の変更で減速比は2%変化した。歯数を変更したときには、ジャッキボルト43により、電動モータ40のモータ軸と歯車減速機60の入力軸62との軸間距離を変更することで、歯付きベルト53の張りを適正にすることができる。すなわち、プレ減速機構50では、モータ軸と入力軸62との軸間距離を極めて容易に変更することができる。
【0035】
歯付きプーリ51、52は、平プーリ又はVプーリであってもよく、歯付きベルト53は、平ベルト又はVベルトであってもよい。これらは構造が単純であり、安価である。
ただし、平ベルトやVベルトは、プーリとの間で滑りが起こりやすい。この点、歯付きプーリ51、52及び歯付きベルト53であれば、滑る心配がないので、より好ましい。
【0036】
歯車減速機60は、減速機ケース61と、この減速機ケース61に回転自在に取付けられた入力軸62、中間軸63及び出力軸64と、入力軸62に取付けられた第1小径ギヤ65と、中間軸63に取付けられた第1大径ギヤ66及び第2小径ギヤ67と、出力軸64に取付けられた第2大径ギヤ68とからなり、第1小径ギヤ65と第1大径ギヤ66との間で第1段減速比が得られ、第2小径ギヤ67と第2大径ギヤ68との間で第2段減速比が得られる。
第1段減速比と第2段減速比の積が、歯車減速機60の減速比となる。歯車減速機60の減速比は、例えば、8.145である。
【0037】
なお、減速機ケース61には、出力軸64を囲うように、フランジ61Fが設けられている。このフランジ61Fにおける雌ねじ61aのピッチ円はD2であり、ピッチはp2である。
【0038】
電動モータ40の回転速度が1980rpmであれば、1980÷1.52÷8.145=160の計算により、歯車減速機60の出力軸64の回転速度は160rpmとなる。この160rpmは、油圧モータ(
図1、符号21)の回転速度に合致する。
なお、トルクは減速比に比例して変化する。
電動モータ40の出力トルクがTmであれば、歯車減速機60の出力トルクは、(Tm×1.52×8.145=12.3×Tm)となり、歯車減速機60の出力トルクを油圧モータの出力トルクに合わせることができる。
【0039】
歯車減速機60の減速比は、歯数を変更することにより変更することができるが、入力軸62と中間軸63の軸間距離は決まっているため、例えば、第1小径ギヤ65の歯数を1歯増やすと、第1大径ギヤ66の歯数を1歯減じる。結果、第1減速比は5%程度増加する。この5%程度は、プレ減速機構50の2%程度より十分に大きい。
5%増加すると、歯車減速機60の減速比は、8.145の次が8.552となり、上記した出力トルクの調整が難しくなる。
この点、プレ減速機構50を設けることにより、プレ減速機構50の減速比で歯車減速機60の減速比を調整することができ、出力トルクの調整が容易になる。
【0040】
図5に示すように、アダプタ70と軸継手80とを準備する。
アダプタ70は、筒部71と、この筒部71の両端に設けたフランジ72、73とからなる。
このアダプタ70の一方のフランジ72は、スクリュー駆動部30のフランジ31Fと同形である。
アダプタの他方のフランジ73は、歯車減速機60のフランジ61Fと同形とする。
【0041】
なお、
図3で説明したように、スクリュー駆動部30のフランジ31Fと油圧モータ21のフランジ21Fは、共にピッチ円がD1でピッチがp1であり、同形である。
【0042】
また、軸継手80は、一方にスクリュー駆動部30のスプライン穴36に嵌るスプライン軸81を備え、他方に歯車減速機60の出力軸64に嵌るスプライン穴82を備えている。
【0043】
組立方法は任意であるが、例えば、歯車減速機60の出力軸64に軸継手80を取付ける。歯車減速機60にボルト74にてアダプタ70を取付ける。
次に、歯車減速機60を移動し、軸継手80をスクリュー駆動部30に取付けつつ、アダプタ70をスクリュー駆動部30に当て、ボルト75で固定する。
【0044】
図6に示すように、歯車減速機60にプレ減速機構50及び電動モータ40を取付ける。プレ減速機構50及び電動モータ40は、予め歯車減速機60に取付けておくことは差し支えない。
次に、スクリュー駆動部30及びアダプタ70に、透明又はほぼ透明の潤滑油(
図7、符号99)を注入する。この潤滑油で、軸受32、33、スプライン軸81及びスプライン穴82などを潤滑する。
【0045】
ところで、多くの軸は軸受で支持されるが、軸継手80は軸受で支持されていない。
軸受で支持されている構造に比較して、軸受で支持されない構造では、長期間使用すると摩耗が発生する可能性がある。具体的には、スプライン穴の溝とスプライン軸の突条とが擦れ合う。
摩耗の程度は許容範囲に留まる。しかし、対策を講じるに越したことはない。その対策の一例を、
図7に基づいて説明する。
【0046】
図7(b)に示すように、覗き窓90は、筒部71に設けた適当な大きさの穴91及びこの穴91より少し小径の穴92と、穴91と穴92とで形成される段部93に当てるパッキン94と、このパッキン94に当てるガラス(又は透明樹脂)板95と、このガラス板95を抑えるリングナット96とからなる。
【0047】
このような構造の覗き窓90は、筒部71に、1個、2個又は3個以上設ける。ただし、個数を増やすと、アダプタ70の構造が複雑になり、好ましくない。
図7(a)に示すように中心を通る線97上に左右2個設けることが推奨される。1個からランプ98の灯りを投入し、残る1個から目視することができる。
【0048】
万一、軸継手80に摩耗が進行すると、摩耗粉が潤滑油99に拡散するが、潤滑油99が汚れ、この汚れを覗き窓90で検知することができる。
【0049】
以上により、
図8に示すような、油圧式射出成形装置をベースにした射出成形装置10Bが得られる。すなわち、この射出成形装置10Bは、スクリュー18の回転を電動モータ40で実施するため、油圧で実施する型締シリンダ24の作動と、電動モータ40で実施する計量工程とを同時並行的に実施することができる。
【0050】
図8に示す油圧配管26に、短い油圧モータ用分岐管26aが設けられ、この短い油圧モータ用分岐管26aがキャップ26bで塞がれている。
本発明によれば、油圧ポンプ25及び油圧配管26が残っているため、何時でも、
図8を
図1に戻すことができるという利点もある。
【0051】
本発明は、射出成形装置10Bを新設する場合と、既存の設備を改造して射出成形装置10Bを得る場合のいずれにも適用できる。
・射出成形装置10Bを新設する場合:
図1に示す油圧式射出成形装置10の設計図に、アダプタ70、軸継手80、歯車減速機60、プラ減速機構50及び電動モータ40の図面を加えるだけで、
図8に示す射出成形装置10Bを得ることができ、設計の負担が大幅に軽減される。
【0052】
・改造により射出成形装置10Bを得る場合:
図1に示す油圧式射出成形装置10から油圧モータ21を外し、アダプタ70、軸継手80、歯車減速機60、プラ減速機構50及び電動モータ40を取付けるだけで、
図8に示す射出成形装置10Bを得ることができ、設備費用が大幅に軽減される。
【0053】
尚、実施例では、軸継手80の一端にスプライン軸81、他端にスプライン穴82を設けたが、両端共にスプライン軸にすることや、両端共にスプライン穴にすることは差し支えない。スプライン軸81はキー付き軸であってもよく、スプライン穴82はキー溝付き穴であってもよい。
要は、軸継手80の形状は、スクリュー駆動部30の中継軸34の形状、及び歯車減速機60の出力軸64の形状によって決めればよい。
【0054】
また、トルク可変機構45は、油圧駆動と同等のトルクをスクリューへ付与することができる機構であればよく、無段変速機のみで構成することが可能であるため、プレ減速機構50と歯車減速機60とに限定されるものではない。