【文献】
W8CJC7_HRSV,Uniprot [online],2015年 6月24日,Accession No. W8CJC7,URL,https://www.uniprot.org/uniprot/W8CJC7.txt?version=6
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
組換え融合前呼吸器合胞体ウイルス(RSV)融合(F)ポリペプチドであって、野生型RSV Fタンパク質中のRSV F1および/またはF2ドメインと比較して、少なくとも2つの安定化変異をF1および/またはF2ドメイン中に含み、前記安定化変異の少なくとも1つは、203位(アミノ酸位置は配列番号13のアミノ酸配列を参照して付与される)のアミノ酸残基LのIへの変異である、組換え融合前呼吸器合胞体ウイルス(RSV)融合(F)ポリペプチド。
融合前コンフォメーションFタンパク質に特異的な少なくとも1つのエピトープを含み、前記少なくとも1つのエピトープは、配列番号1の重鎖CDR1領域、配列番号2の重鎖CDR2領域、配列番号3の重鎖CDR3領域、および配列番号4の軽鎖CDR1領域、配列番号5の軽鎖CDR2領域、および配列番号6の軽鎖CDR3領域を含む融合前特異的モノクローナル抗体、ならびに/または配列番号7の重鎖CDR1領域、配列番号8の重鎖CDR2領域、配列番号9の重鎖CDR3領域、および配列番号10の軽鎖CDR1領域、配列番号67の軽鎖CDR2領域、および配列番号11の軽鎖CDR3領域を含む融合前特異的モノクローナル抗体によって認識される、請求項1または2に記載の融合前RSV Fポリペプチド。
短縮されたF1ドメインを含み、前記短縮されたF1ドメインに連結された異種三量化ドメインを含む、請求項1〜4のいずれか一項に記載の融合前RSV Fポリペプチド。
前記異種三量化ドメインは、アミノ酸配列GYIPEAPRDGQAYVRKDGEWVLLSTFL(配列番号14)を含む、請求項5に記載の融合前RSV Fポリペプチド。
請求項1〜12のいずれか一項に記載の融合前RSV Fポリペプチド、請求項13もしくは14に記載の核酸分子、および/または請求項15に記載のベクターを含む組成物。
RSV Fタンパク質に対する免疫応答の誘導に使用するための、請求項1〜12のいずれか一項に記載の融合前RSV Fポリペプチド、請求項13もしくは14に記載の核酸分子、および/または請求項15に記載のベクター。
ワクチンとして使用するための、請求項1〜12のいずれか一項に記載の融合前RSV Fポリペプチド、請求項13もしくは14に記載の核酸分子、および/または請求項15に記載のベクター。
RSV感染の予防および/または処置に使用するための、請求項1〜12のいずれか一項に記載の融合前RSV Fポリペプチド、請求項13もしくは14に記載の核酸分子、および/または請求項15に記載のベクター。
【発明を実施するための形態】
【0010】
呼吸器合胞体ウイルス(RSV)の融合タンパク質(F)は、ウイルス感染に必要とされる宿主細胞膜とウイルス膜との融合に関与する。RSV F mRNAは、F0と称される574個のアミノ酸からなる前駆体タンパク質に翻訳され、それはN末端に、小胞体内のシグナルペプチダーゼで除去されるシグナルペプチド配列(例えば、配列番号13で表わされるアミノ酸残基1〜26)を含む。F0は、細胞プロテアーゼ(特に、フーリンまたはフーリン様)により2つの部位(アミノ酸残基109/110間および136/137間)で切断され、アミノ酸残基110〜136を含む短いグリコシル化介在配列(p27領域とも呼ばれる)が除去され、F1およびF2と称される2つのドメインまたはサブユニットが生成される。F1ドメイン(アミノ酸残基137〜574)は、そのN末端に疎水性融合ペプチドを有し、C末端に膜貫通(TM)(アミノ酸残基530〜550)領域および細胞質領域(アミノ酸残基551〜574)を有する。F2ドメイン(アミノ酸残基27〜109)は、2つのジスルフィド架橋によりF1に共有結合する。F1−F2ヘテロ二量体は、ビリオン中でホモ三量体として集合している。
【0011】
RSV感染に対するワクチンは、現在入手可能ではないが所望されている。ワクチン製造に有望な1つのアプローチは、精製されたRSV Fタンパク質に基づくサブユニットワクチンである。しかしながら、このアプローチの場合、精製されたRSV Fタンパク質は、RSV Fタンパク質の融合前状態のコンフォメーションに類似したコンフォメーションにあり、経時的に安定であり、かつ十分な量で製造できることが望ましい。加えて、可溶性のサブユニットベースのワクチンの場合、RSV Fタンパク質を膜貫通(TM)領域および細胞質領域の欠失により短縮して、可溶性分泌型Fタンパク質(sF)を生成させる必要がある。TM領域は膜アンカリングおよび三量体形成を担うため、アンカーなしの可溶性Fタンパク質は、完全長タンパク質よりもかなり不安定であり、融合後最終状態に容易にリフォールディングすることになる。したがって、高い発現レベルおよび高い安定性を示す安定な融合前コンフォメーションの可溶性Fタンパク質を得るために、融合前コンフォメーションを安定化する必要がある。また、完全長(膜結合した)RSV Fタンパク質は準安定であるため、融合前コンフォメーションの安定化も弱毒化生ワクチンまたはベクターワクチンへのアプローチに望ましい。
【0012】
融合前コンフォメーションにあるF1およびF2サブユニットに切断される可溶性RSV Fの安定化のために、フィブリチンに基づく三量化ドメインを可溶性RSV−F C末端のC末端に融合させた(McLellan et al.,Nature Struct.Biol.17:2−248−250(2010);McLellan et al.,Science 340(6136):1113−7(2013))。このフィブリチンドメイン、すなわち「フォルドン」はT4フィブリチンに由来し、以前は人工の天然三量化ドメインとして記載されている(Letarov et al.,Biochemistry Moscow 64:817−823(1993);S−Guthe et al.,J.Mol.Biol.337:905−915.(2004))。しかし、三量化ドメインにより安定な融合前RSV−Fタンパク質は得られない。さらに、これらの努力により、ヒトで試験するのに適した候補を未だ得るに至っていない。
【0013】
最近、本発明者らは、RSV融合前Fコンフォメーションを安定化することができるいくつかの変異の組み合わせを記載した(国際公開第2014/174018号パンフレットおよび国際公開第2014/202570号パンフレット)。したがって、67位のアミノ酸残基の変異および/または215位のアミノ酸残基の変異、好ましくは67位のアミノ酸残基N/TのIへの変異、および/または215位のアミノ酸残基SのPへの変異を含む、安定な融合前RSV Fポリペプチドが記載されている。さらに、短縮されたF1ドメイン、ならびに野生型RSV Fタンパク質のRSV F1および/もしくはF2ドメインと比較して、F1および/もしくはF2ドメイン中に少なくとも1つの安定化変異を含む可溶性融合前RSV Fポリペプチドであって、前記短縮されたF1ドメインに結合された異種三量化ドメインを含む可溶性融合前RSV Fポリペプチドが記載されている。またさらに、融合前RSV Fポリペプチドであって、少なくとも1つのさらなる変異を含み、前記変異が以下からなる群から選択される、融合前RSV Fポリペプチドが記載されている:
(a)46位のアミノ酸残基の変異;
(b)77位のアミノ酸残基の変異;
(c)80位のアミノ酸残基の変異;
(d)92位のアミノ酸残基の変異;
(e)175位のアミノ酸残基の変異;
(f)184位のアミノ酸残基の変異;
(g)185位のアミノ酸残基の変異;
(h)201位のアミノ酸残基の変異;
(i)209位のアミノ酸残基の変異;
(j)421位のアミノ酸残基の変異;
(k)426位のアミノ酸残基の変異;
(l)465位のアミノ酸残基の変異;
(m)486位のアミノ酸残基の変異;
(n)487位のアミノ酸残基の変異;および
(o)508位のアミノ酸残基の変異。
【0014】
少なくとも1つのさらなる変異は、好ましくは、以下からなる群から選択される:
(a)46位のアミノ酸残基SのGへの変異;
(b)77位のアミノ酸残基KのEへの変異;
(c)80位のアミノ酸残基KのEへの変異;
(d)92位のアミノ酸残基EのDへの変異;
(e)175位のアミノ酸残基NのPへの変異;
(f)184位のアミノ酸残基GのNへの変異;
(g)185位のアミノ酸残基VのNへの変異;
(h)201位のアミノ酸残基KのQへの変異;
(i)209位のアミノ酸残基KのQへの変異;
(j)421位のアミノ酸残基KのNへの変異;
(k)426位のアミノ酸残基NのSへの変異;
(l)465位のアミノ酸残基KのEまたはQへの変異;
(m)486位のアミノ酸残基DのNへの変異;
(n)487位のアミノ酸残基EのQ、N、またはIへの変異;および
(o)508位のアミノ酸残基KのEへの変異。
【0015】
これらの変異の1つのみ(特に、S215Pの変異)が適用される場合、準安定状態のタンパク質が得られ、それは代替置換の安定化効果の評価に使用できるであろう。
【0016】
本発明では、203位のアミノ酸残基LのIへの変異により、融合前コンフォメーションにあるタンパク質がさらに安定化されることがわかった。
【0017】
したがって、本発明は、203位のアミノ酸残基LのIへの変異を含む組換え融合前Fポリペプチドを提供する。
【0018】
本発明は、特に、組換え融合前呼吸器合胞体ウイルス(RSV)融合(F)ポリペプチドであって、野生型RSV Fタンパク質中のRSV F1および/またはF2ドメインと比較して、少なくとも1つの、好ましくは少なくとも2つの安定化変異をF1および/またはF2ドメイン中に含み、その安定化変異の少なくとも1つは、203位のアミノ酸残基LのIへの変異である、組換え融合前呼吸器合胞体ウイルス(RSV)融合(F)ポリペプチドを提供する。
【0019】
本発明は、215位のアミノ酸SのPへの変異(S215P)および203位のアミノ酸残基LのIへの変異を含む組換え融合前Fポリペプチドをさらに提供する。
【0020】
したがって、本発明は、安定な組換え融合前RSV Fポリペプチド、すなわち融合前コンフォメーションで安定化される組換えRSV Fポリペプチドを提供する新規な安定化変異を提供する。本発明の安定な融合前RSV Fポリペプチドは、融合前コンフォメーションで存在する、すなわち、それらは、融合前コンフォメーションFタンパク質に特異的な少なくとも1つのエピトープを含む(示す)。融合前コンフォメーションFタンパク質に特異的なエピトープは、融合後コンフォメーションでは現れないエピトープである。いかなる特定の理論にも拘束されることを望むものではないが、RSV Fタンパク質の融合前コンフォメーションは、天然RSVビリオンで発現するRSV Fタンパク質のものと同じエピトープを含有することができ、したがって、予防的中和抗体を誘発する利点を備え得ると考えられる。
【0021】
特定の実施形態では、本発明のポリペプチドは、配列番号1の重鎖CDR1領域、配列番号2の重鎖CDR2領域、配列番号3の重鎖CDR3領域、および配列番号4の軽鎖CDR1領域、配列番号5の軽鎖CDR2領域、および配列番号6の軽鎖CDR3領域を含む融合前特異的モノクローナル抗体(以下、CR9501と称する)、ならびに/または配列番号7の重鎖CDR1領域、配列番号8の重鎖CDR2領域、配列番号9の重鎖CDR3領域、および配列番号10の軽鎖CDR1領域、配列番号11の軽鎖CDR2領域、および配列番号12の軽鎖CDR3領域を含む融合前特異的モノクローナル抗体(CR9502と称する)によって認識される少なくとも1つのエピトープを含む。CR9501およびCR9502は、それぞれ抗体58C5および30D8の重鎖および軽鎖可変領域を含み、したがって、それらの抗体の結合特異性を有するが、それらの抗体は、融合後コンフォメーションではなく、融合前コンフォメーションのRSV Fタンパク質に特異的に結合することが以前より示されている(国際公開第2012/006596号パンフレットを参照)。
【0022】
特定の実施形態では、組換え融合前RSV Fポリペプチドは、上記の少なくとも1つの融合前特異的モノクローナル抗体によって認識される少なくとも1つのエピトープを含み、かつ三量体である。特定の実施形態では、本発明による安定な融合前RSV Fポリペプチドは、短縮されたF1ドメインを含む。
【0023】
RSVは、2つの抗原性サブグループ:AおよびBを有する単一血清型として存在することが知られている。2つのグループのプロセシングされた成熟Fタンパク質のアミノ酸配列は約93%同一である。本出願の全体にわたって使用されるように、アミノ酸位置は、A2株由来のRSV Fタンパク質の配列(配列番号13)を参照して付与される。したがって、本発明で使用される場合、「RSV Fタンパク質の「x」位のアミノ酸」という表現は、配列番号13からなるRSV A2株のRSV Fタンパク質の「x」位にあるアミノ酸に対応するアミノ酸を意味する。本出願の全体にわたって使用される番号方式では、1は未成熟F0タンパク質(配列番号13)のN末端アミノ酸を指すことに留意されたい。A2株と異なるRSV株が使用される場合、Fタンパク質のアミノ酸位置の番号付与は、配列番号1のA2株のFタンパク質の番号付与に準拠し、配列番号13のFタンパク質を有する他のRSV株の配列を、必要に応じてギャップを挿入してアライメントすることにより行われる。配列アライメントは、当該技術分野でよく知られた方法、例えばCLUSTALW、Bioedit、またはCLC Workbenchを使用して行うことができる。
【0024】
本発明によるアミノ酸は、20種の天然アミノ酸(もしくは「標準」アミノ酸)、または例えばD−アミノ酸(キラル中心を有するアミノ酸のD−エナンチオマー)などのそれらの変異体のいずれであってもよく、または例えばノルロイシンなどのタンパク質中に天然には見出されない、いずれの変異体であってもよい。標準アミノ酸は、それらの特性に基づいて、いくつかのグループに分類することができる。重要な因子としては、電荷、親水性または疎水性、サイズ、および官能基がある。これらの特性は、タンパク質構造およびタンパク質−タンパク質間相互作用にとって重要である。アミノ酸の中には、他のシステイン残基とジスルフィド共有結合(またはジスルフィド架橋)を形成することができるシステイン、ポリペプチド骨格のターンを誘導するプロリン、および他のアミノ酸よりもフレキシブルなグリシンなど、特別な特性を有するものがある。表1は、標準アミノ酸の略語および特性を示す。
【0025】
タンパク質に対する変異は、ルーチン的な分子生物学手順により行い得ることが当業者に認識される。本発明による突然変異は、好ましくは、これらの変異を含まないRSV Fポリペプチドと比較して、融合前RSV Fポリペプチドの発現レベルの増大および/または安定性の増大をもたらす。
【0026】
特定の実施形態では、融合前RSV Fポリペプチドは可溶性である。
【0027】
したがって、特定の実施形態では、融合前RSV Fポリペプチドは、短縮されたF1ドメインを含み、ポリペプチドはF1および/F2ドメイン中に、野生型RSV Fタンパク質のRSV F1および/F2ドメインと比較して少なくとも1つの安定化変異を含む。特定の実施形態では、可溶性融合前RSV Fポリペプチドは、前記短縮されたF1ドメインに連結した異種三量化ドメインをさらに含む。本発明によれば、短縮されたF1ドメインのC末端アミノ酸残基への異種三量化ドメインの連結ならびに安定化突然変異により、高発現を示しかつ融合前特異的抗体に結合するRSV Fポリペプチドが提供されることが示され、これは、このポリペプチドが融合前コンフォメーションにあることを示している。加えて、RSV Fポリペプチドは、融合前コンフォメーションで安定化される、すなわち、ポリペプチドのプロセシング後でも、それらは融合前特異的抗体CR9501および/またはCR9502に結合し、融合前特異的エピトープが保持されることを示す。
【0028】
特定の実施形態では、融合前RSV Fポリペプチドは、少なくとも3つの突然変異(野生型のRV Fタンパク質に対して)を含む。
【0029】
特定の実施形態では、融合前RSV Fポリペプチドは、
(a)46位のアミノ酸残基の変異;
(b)67位のアミノ酸残基の変異;
(c)83位のアミノ酸残基の変異;
(d)92位のアミノ酸残基の変異;
(e)184位のアミノ酸残基の変異;
(f)207位のアミノ酸残基の変異;
(g)486位のアミノ酸残基の変異;および
(h)487位のアミノ酸残基の変異
からなる群から選択される、少なくとも1つのさらなる突然変異を含む。
【0030】
特定の実施形態では、少なくとも1つのさらなる変異は、
(a)46位のアミノ酸残基SのGへの変異;
(b)67位のアミノ酸残基N/TのIへの変異;
(c)83位のアミノ酸残基LのMへの変異;
(d)92位のアミノ酸残基EのDへの変異;
(e)184位のアミノ酸残基GのNへの変異;
(f)207位のアミノ酸残基VのIへの変異;
(g)486位のアミノ酸残基DのNへの変異;および
(h)487位のアミノ酸残基EのQ、N、またはIへの変異
からなる群から選択される。
【0031】
特定の実施形態では、ポリペプチドは少なくとも2つの変異を含む。
【0032】
特定の実施形態では、ポリペプチドは少なくとも3つの変異を含む。
【0033】
特定の実施形態では、ポリペプチドは少なくとも4つ、5つ、または6つの変異を含む。
【0034】
特定の他の実施形態では、異種三量化ドメインは、アミノ酸配列GYIPEAPRDGQAYVRKDGEWVLLSTFL(配列番号14)を含む。
【0035】
上記のように、特定の実施形態では、本発明のポリペプチドは短縮されたF1ドメインを含む。本明細書で使用される場合、「短縮された」F1ドメインは、完全長F1ドメインでないF1ドメインを指す、すなわち、N末端またはC末端において、1つまたは複数のアミノ酸残基が欠失している。本発明によれば、少なくとも膜貫通ドメインおよび細胞質側末端は、可溶性細胞外ドメインとしての発現を可能にするために欠失されている。
【0036】
特定の他の実施形態では、三量化ドメインは、RSV F1ドメインのアミノ酸残基513に連結されている。特定の実施形態では、三量化ドメインは、配列番号14を含み、RSV F1ドメインのアミノ酸残基513に連結されている。
【0037】
特定の実施形態では、F1ドメインおよび/またはFドメインは、RSV A株由来である。特定の実施形態では、F1および/またはF2ドメインは、配列番号13からなるRSV A2株由来である。
【0038】
特定の実施形態では、F1ドメインおよび/またはFドメインは、RSV B株由来である。特定の実施形態では、F1および/またはF2ドメインは、配列番号15からなるRSV B株由来である。
【0039】
特定の実施形態では、F1ドメインおよび/またはFドメインは、RSV CL57−v244株由来である。特定の実施形態では、F1および/またはF2ドメインは、配列番号22からなるRSV CL57−v244株由来である。
【0040】
特定の実施形態では、F1およびF2ドメインは、同じRSV株由来である。特定の実施形態では、融合前RSV Fポリペプチドは、キメラポリペプチドである、すなわち、異なるRSV株由来のF1およびF2ドメインを含む。
【0041】
特定の実施形態では、融合前RSV Fポリペプチドは、配列番号20、配列番号21、配列番号23および配列番号24からなる群から選択されるアミノ酸配列を含む。
【0042】
特定の実施形態では、本発明の融合前RSV Fポリペプチドの発現レベルは、野生型RSV Fポリペプチドと比較して増大している。特定の実施形態では、発現レベルは少なくとも5倍、好ましくは10倍まで増大している。特定の実施形態では、発現レベルは10倍超増大している。
【0043】
本発明による融合前RSV Fポリペプチドは安定である、すなわち、例えば精製、凍結融解サイクル、および/または保存など、ポリペプチドの処理時に融合後コンフォメーションに容易に変化しない。
【0044】
特定の実施形態では、本発明による融合前RSV Fポリペプチドは、突然変異のないRSV Fポリペプチドと比較して、4℃での保存時の安定性が増大している。特定の実施形態では、ポリペプチドは、4℃での保存時に少なくとも30日間、好ましくは少なくとも60日間、好ましくは少なくとも6ヶ月間、より一層好ましくは少なくとも1年間安定である。「保存時に安定」とは、例えば、実施例7または9に記載の方法を用いて測定すると、溶液(例えば、培地)中でのポリペプチドの保存時、4℃で少なくとも30日間、融合前特異的抗体(例えば、CR9501)に特異的な少なくとも1つのエピトープをポリペプチドが依然として示すことを意味する。特定の実施形態では、ポリペプチドは、融合前RSV Fポリペプチドの4℃での保存時に少なくとも6ヶ月間、好ましくは少なくとも1年間、少なくとも1つの融合前特異的エピトープを示す。
【0045】
特定の実施形態では、本発明による融合前RSV Fポリペプチドは、前記変異のないRSV Fタンパク質と比較して、熱に曝されたときの安定性が増大している。特定の実施形態では、融合前REV Fポリペプチドは、55℃の温度で、好ましくは58℃の温度で、より好ましくは60℃の温度で少なくとも30分間にわたり熱に安定である。「熱に安定」とは、例えば、実施例6に記載の方法による測定で、ポリペプチドが、少なくとも30分間、高温(すなわち、55℃以上の温度)に曝された後も依然として少なくとも1つの融合前特異的エピトープを示すことを意味する。
【0046】
特定の実施形態では、ポリペプチドは、適切な製剤緩衝剤中で1〜6回の凍結融解サイクルに供された後に少なくとも1つの融合前特異的エピトープを示す。
【0047】
本出願の全体にわたって使用される場合、当該技術分野での慣例として、ヌクレオチド配列は、5’から3’の方向で提示され、アミノ酸配列は、N末端からC末端の方向で提示される。
【0048】
特定の実施形態では、本発明によるコード化ポリペプチドは、配列番号13のアミノ酸1〜26に対応する、シグナル配列またはシグナルペプチドとも呼ばれるリーダー配列をさらに含む。これは、分泌経路に向かうことが運命付けられている新しく合成されたタンパク質の大部分のN末端に存在する短い(一般に、5〜30アミノ酸長)ペプチドである。特定の実施形態では、本発明によるポリペプチドはリーダー配列を含まない。
【0049】
特定の実施形態では、ポリペプチドはHISタグを含む。Hisタグまたはポリヒスチジンタグは、多くの場合、タンパク質のN末端またはC末端にある、少なくとも5個のヒスチジン(H)残基からなる、タンパク質中のアミノ酸モチーフであり、一般には精製目的のために使用される。
【0050】
本発明は、本発明によるRSV Fポリペプチドをコードする核酸分子をさらに提供する。
【0051】
好ましい実施形態では、本発明によるポリペプチドをコードする核酸分子は、哺乳動物細胞、好ましくはヒト細胞における発現用にコドン最適化される。コドンの最適化方法は知られており、これまでに記載がなされている(例えば、国際公開第96/09378号パンフレット)。野生型配列と比べて少なくとも1つの好ましくないコドンがより好ましいコドンで置換される場合、配列がコドン最適化されると考えられる。本明細書では、好ましくないコドンとは、生物において同じアミノ酸をコードする別のコドンと比べて使用される頻度が低いコドンであり、より好ましいコドンとは、生物において好ましくないコドンと比べてより高頻度に使用されるコドンである。特定の生物におけるコドン使用の頻度は、コドン頻度表、例えば、http://www.kazusa.or.jp/codonにおいて見出すことができる。好ましくは、2つ以上の好ましくないコドン、好ましくは、ほとんどまたはすべての好ましくないコドンがより好ましいコドンに置き換えられる。好ましくは、生物で最も高頻度に使用されるコドンがコドン最適化配列において使用される。好ましいコドンに置き換えると、概して発現が高くなる。
【0052】
多くの異なるポリヌクレオチドおよび核酸分子が、遺伝暗号の縮重の結果として同じポリペプチドをコードし得ることが当業者に理解されるであろう。当業者は、ポリペプチドが発現されることになる任意の特定の宿主生物のコドン使用を反映するように、核酸分子によりコードされるポリペプチド配列に影響を及ぼさないヌクレオチド置換を、ルーチン的な手法を用いて行い得ることも理解される。したがって、特に指定されない限り、「アミノ酸配列をコードするヌクレオチド配列」は、相互の縮重バージョンであり、同じアミノ酸配列をコードするすべてのヌクレオチド配列を含む。タンパク質およびRNAをコードするヌクレオチド配列はイントロンを含んでも含まなくてもよい。
【0053】
核酸配列は、通常の分子生物学技術を用いてクローン化され得るか、またはDNA合成により新規に作製され得、それは、DNA合成および/または分子クローニングの分野の事業を有するサービス会社(例えば、GeneArt、GenScripts、Invitrogen、Eurofins)により、通常の方法を用いて実施され得る。
【0054】
本発明はまた、上記の核酸分子を含むベクターを提供する。したがって、特定の実施形態では、本発明による核酸分子はベクターの一部である。このようなベクターは、当業者によく知られた方法により容易に操作することができ、例えば、原核細胞および/または真核細胞において複製できるように設計することができる。加えて、多くのベクターは、真核細胞の形質転換に使用することができ、そのような細胞のゲノムに全体としてまたは部分的に組み込まれ、その結果、そのゲノムに所望の核酸を含む安定な宿主細胞が得られる。使用されるベクターは、DNAのクローニングに適し、かつ目的の核酸の転写に使用することができる任意のベクターとすることができる。本発明による好適なベクターは、例えば、アデノベクター、アルファウイルス、パラミクソウイルス、ワクシニアウイルス、ヘルペスウイルス、レトロウイルスベクターなどである。当業者は好適な発現ベクターを選択し、機能的方法で本発明の核酸配列を挿入することができる。
【0055】
融合前RSV Fポリペプチドをコードする核酸分子を含む宿主細胞も本発明の一部を形成する。融合前RSV Fポリペプチドは、宿主細胞、例えば、チャイニーズハムスター卵巣(CHO)細胞、腫瘍細胞株、BHK細胞、ヒト細胞株、例えばHEK293細胞、PER.C6細胞、もしくは酵母、真菌、昆虫細胞など、またはトランスジェニック動物もしくはトランスジェニック植物における分子の発現を含む組換えDNA技術によって生成することができる。特定の実施形態では、細胞は多細胞生物由来であり、特定の実施形態では、細胞は脊椎動物または無脊椎動物起源である。特定の実施形態では、細胞は哺乳動物細胞である。特定の実施形態では、細胞はヒト細胞である。一般に、宿主細胞における、本発明の融合前RSV Fポリペプチドなどの組換えタンパク質の生成は、発現可能形式でそのポリペプチドをコードする異種核酸分子の宿主細胞への導入、核酸分子の発現に資する条件下での細胞の培養、および前記細胞におけるポリペプチド発現を可能にすることを含む。発現可能形式でタンパク質をコードする核酸分子は、発現カセットの形態であってもよく、通常、エンハンサー、プロモーター、ポリアデニル化シグナルなど、核酸の発現をもたらし得る配列を必要とする。当業者は、宿主細胞内での遺伝子の発現を得るのに様々なプロモーターが使用可能であることを認識する。プロモーターは構成的であっても調節的であってもよく、ウイルス、原核生物、もしくは真核生物の供給源を含む種々の供給源から入手すること、または人為的に設計することが可能である。
【0056】
細胞培養培地は種々のベンダーから入手可能であり、好適な培地は、宿主細胞が、目的のタンパク質、ここでは融合前RSV Fポリペプチドを発現するようにルーチン的に選択することができる。好適な培地は血清を含有しても含有しなくてもよい。
【0057】
「異種核酸分子」(本明細書では「導入遺伝子」とも呼ばれる)は、宿主細胞に天然には存在しない核酸分子である。それは、例えば、標準の分子生物学手法によりベクターに導入される。導入遺伝子は、一般に、発現制御配列と作動可能に連結される。これは、例えば、導入遺伝子をコードする核酸をプロモーターの制御下に置くことで実施され得る。さらなる調節配列を加えることもできる。多くのプロモーターは、導入遺伝子の発現のために使用することができ、当業者に知られており、例えば、これらは、ウイルス、哺乳動物、合成のプロモーターなどを含むことができる。真核生物細胞内での発現を得るのに適したプロモーターの非限定な例として、CMVプロモーター(米国特許第5,385,839号明細書)、例えばCMV最初期プロモーター、例えばCMV最初期遺伝子エンハンサー/プロモーターからのnt.−735〜+95を含むものが挙げられる。ポリアデニル化シグナル、例えばウシ成長ホルモンのポリAシグナル(米国特許第5,122,458号明細書)を導入遺伝子の後に存在させることができる。あるいは、いくつかの広く使用されている発現ベクター、例えば、InvitrogenのpcDNAおよびpEFベクター系列、BD SciencesからのpMSCVおよびpTK−Hyg、StratageneからのpCMV−Scriptなどが当該技術分野で商用供給源から入手可能であり、これらは、目的のタンパク質を組換えにより発現させるために、または好適なプロモーターおよび/もしくは転写ターミネーター配列、ポリA配列などを得るために使用することができる。
【0058】
細胞培養は、付着細胞培養、例えば培養容器の表面またはマイクロキャリアに付着した細胞の培養および懸濁培養など、任意のタイプの細胞培養であってよい。多くの大規模懸濁培養は、操作およびスケールアップが最も簡単であるため、バッチまたはフェドバッチ工程として操作される。最近では、灌流原理に基づく連続工程がより一般的になりつつあり、また好適でもある。好適な培地も当業者によく知られており、一般に、商用供給源から大量に得ること、または標準プロトコルに従って注文生産することが可能である。培養は、例えば、バッチ、フェドバッチ、連続系などを用いて、シャーレ、ローラーボトルまたはバイオリアクター内で実施し得る。細胞の好適な培養条件は知られている(例えば、Tissue Culture,Academic Press,Kruse and Paterson,editors(1973)およびR.I.Freshney,Culture of animal cells:A manual of basic technique,fourth edition(Wiley−Liss Inc.,2000,ISBN 0−471−34889−9)を参照)。
【0059】
本発明は、上記のような融合前RSV Fポリペプチドおよび/または核酸分子、および/またはベクターを含む組成物をさらに提供する。したがって、本発明は、RSV Fタンパク質の融合前コンフォメーションには存在するが、融合後コンフォメーションには存在しないエピトープを示す融合前RSV Fポリペプチドを含む組成物を提供する。本発明はまた、このような融合前RSV Fポリペプチドをコードする核酸分子および/またはベクターを含む組成物を提供する。本発明は、上記のような融合前RSV Fポリペプチドおよび/または核酸分子および/またはベクターを含む免疫原性組成物をさらに提供する。本発明はまた、RSV Fタンパク質に対する免疫応答を対象に誘導するための、本発明による安定化された融合前RSV Fポリペプチド、核酸分子、および/またはベクターを提供する。さらに、RSV Fタンパク質に対する免疫応答を対象に誘導するための方法であって、本発明による融合前RSV Fポリペプチドおよび/または核酸分子および/またはベクターを対象に投与することを含む方法を提供する。また、RSV Fタンパク質に対する免疫応答を対象に誘導する際に使用するための、本発明による融合前RSV Fポリペプチドおよび/または核酸分子および/またはベクターを提供する。さらに、RSV Fタンパク質に対する免疫応答を対象に誘導する際に使用する薬剤を製造するための、本発明による融合前RSV Fポリペプチドおよび/または核酸分子および/またはベクターを提供する。
【0060】
本発明の融合前RSV Fポリペプチド、核酸分子、またはベクターは、RSV感染の防止(予防)および/または処置に使用することができる。特定の実施形態では、防止および/または処置は、RSVに感染しやすい患者群を標的にすることができる。そのような患者群としては、以下に限定されるものではないが、例えば、高齢者(例えば、50歳以上、60歳以上、および好ましくは65歳以上)、若齢者(例えば、5歳以下、1歳以下)、入院患者、および抗ウイルス性化合物で処置されたが、不十分な抗ウイルス応答を示した患者が挙げられる。
【0061】
本発明による融合前RSV Fポリペプチド、核酸分子、および/またはベクターは、例えば、RSVを原因とする疾患もしくは病態のスタンドアロンの処置および/または予防に、あるいは(既存または将来の)ワクチン、抗ウイルス剤および/またはモノクローナル抗体など、他の予防処置および/または治療処置と組み合わせて使用することができる。
【0062】
本発明は、本発明による融合前RSV Fポリペプチド、核酸分子、および/またはベクターを利用して、対象のRSV感染を防止および/または処置するための方法をさらに提供する。特定の実施形態では、対象のRSV感染を防止および/または処置するための方法は、上記のような融合前RSV Fポリペプチド、核酸分子、および/またはベクターの有効量を、それを必要とする対象に投与することを含む。治療有効量は、RSVによる感染から生じる疾患または病態を防止、寛解、および/または処置するのに効果のあるポリペプチド、核酸分子、またはベクターの量を指す。防止は、RSVの伝播の阻害もしくは低減、またはRSVによる感染に関連した症状の1つもしくは複数の発症、進展、もしくは進行を阻害もしくは低減することを包含する。本明細書で使用される寛解は、目に見えるもしくは認知できる疾患の症状、ウイルス血症、またはインフルエンザ感染の他の任意の計測可能な徴候の低減を指す。
【0063】
ヒトなどの対象に投与するために、本発明は、本明細書に記載する融合前RSV Fポリペプチド、核酸分子、および/またはベクターと、薬学的に許容される担体または賦形剤とを含む医薬組成物を使用することができる。この場合、「薬学的に許容される」という用語は、担体または賦形剤が、使用する用量および濃度で、それらを投与する対象に望ましくないまたは有害な効果を引き起こさないことを意味する。このような薬学的に許容される担体および賦形剤は、当該技術分野でよく知られている(Remington’s Pharmaceutical Sciences,18th edition,A.R.Gennaro,Ed.,Mack Publishing Company[1990];Pharmaceutical Formulation Development of Peptides and Proteins,S.Frokjaer and L.Hovgaard,Eds.,Taylor&Francis[2000];およびHandbook of Pharmaceutical Excipients,3rd edition,A.Kibbe,Ed.,Pharmaceutical Press[2000]を参照)。RSV Fポリペプチドまたは核酸分子は、凍結乾燥製剤を利用することも可能であり得るが、無菌溶液として製剤化し、投与することが好ましい。滅菌溶液は、滅菌濾過または当該技術分野でそれ自体知られている他の方法によって調製される。その後、溶液は凍結乾燥または医薬投与容器に充填される。一般に、溶液のpHは、pH3.0〜9.5、例えば、pH5.0〜7.5である。RSV Fポリペプチドは、通常、薬学的に許容される好適な緩衝剤を含む溶液中に存在し、組成物はまた塩を含有してもよい。任意選択により、アルブミンなどの安定剤が含まれる。特定の実施形態では、洗浄剤が添加される。特定の実施形態では、RSV Fポリペプチドは注射剤に製剤化することができる。
【0064】
特定の実施形態では、本発明による組成物は、1種または複数のアジュバントをさらに含む。当該技術分野では、適用される抗原決定基に対する免疫応答をさらに高めるアジュバントが知られている。「アジュバント」および「免疫刺激剤」という用語は、本明細書では同義的に使用され、免疫系の刺激を引き起こす1種または複数の物質と定義される。これに関連して、アジュバントは、本発明のRSV Fポリペプチドに対する免疫応答を増強するために使用される。好適なアジュバントの例としては、水酸化アルミニウムおよび/またはリン酸アルミニウムなどのアルミニウム塩;油−エマルジョン組成物(または水中油型組成物)、例えば、MF59などのスクアレン−水エマルジョン(例えば、国際公開第90/14837号パンフレットを参照);サポニン製剤、例えばQS21および免疫刺激複合体(ISCOMS)など(例えば、米国特許第5,057,540号明細書;国際公開第90/03184号パンフレット、国際公開第96/11711号パンフレット、国際公開第2004/004762号パンフレット、国際公開第2005/002620号パンフレットを参照);細菌または微生物の派生物(これらの例には、モノホスホリルリピドA(MPL)、3−O−脱アシル化MPL(3dMPL)、CpG−モチーフ含有オリゴヌクレオチド、ADP−リボシル化細菌毒素またはその変異体、例えば大腸菌(E.coli)易熱性エンテロトキシンLT、コレラ毒素CTなどがある);真核生物のタンパク質(例えば、抗体もしくはそのフラグメント(例えば、抗原自体またはCD1a、CD3、CD7、CD80に向けられたもの)および受容体へのリガンド(例えば、CD40L、GMCSF、GCSFなど)(これらは受容細胞と相互作用すると同時に免疫応答を刺激する))が挙げられる。特定の実施形態では、本発明の組成物は、例えば、水酸化アルミニウム、リン酸アルミニウム、リン酸カリウムアルミニウム、またはそれらの組み合わせの形態のアルミニウムを、1用量当たり0.05〜5mg、例えば0.075〜1.0mgの濃度のアルミニウム含有量で、アジュバントとして含んでいる。
【0065】
融合前RSV Fポリペプチドはまた、例えばポリマー、リポソーム、ビロソーム、ウイルス様粒子などのナノ粒子と組み合わせて、またはそれにコンジュゲートさせて投与することができる。融合前Fポリペプチドは、アジュバンドを含む、または含まないナノ粒子と組み合わせるか、その中に封入するか、またはそれにコンジュゲートさせることができる。リポソーム内への封入は、例えば米国特許第4,235,877号明細書に記載されている。高分子へのコンジュゲーションは、例えば米国特許第4,372,945号明細書または米国特許第4,474,757号明細書に開示されている。
【0066】
その他の実施形態では、組成物はアジュバントを含まない。
【0067】
特定の実施形態では、本発明は、呼吸器合胞体ウイルス(RSV)に対するワクチンを作製する方法であって、本発明による組成物を準備する工程、およびそれを薬学的に許容される組成物中に製剤化する工程を含む方法を提供する。「ワクチン」という用語は、特定の病原体または疾患に対して対象にある程度の免疫を誘導するのに効果的な活性成分を含有する薬剤または組成物を指し、これにより、病原体による感染に関連する症状または疾患の重症度、期間、または他の徴候が少なくとも低減(最大で完全消失)する。本発明では、ワクチンは、有効量の融合前RSV Fポリペプチド、および/または融合前RSV Fポリペプチドをコードする核酸分子、および/または前記核酸分子を含むベクターを含み、これにより、RSVのFタンパク質に対する免疫応答がもたらされる。これは、入院に至る重篤な下気道疾患を防止し、対象のRSV感染および複製による肺炎および細気管支炎などの合併症の頻度を低減する方法を提供する。本発明による「ワクチン」という用語は、それが医薬組成物であり、したがって、通常、薬学的に許容される希釈剤、担体、または賦形剤を含むことを意味する。それは、さらなる活性成分を含んでも含まなくてもよい。特定の実施形態では、それは、例えばRSVの他のタンパク質および/または他の感染因子に対する免疫応答を誘導する他の成分をさらに含む組合せワクチンであってもよい。さらなる活性成分の投与は、例えば、別個の投与によって行われても、本発明のワクチンとさらなる活性成分の併用製剤を投与することによって行われてもよい。
【0068】
組成物は、対象、例えばヒト対象に投与することができる。単回投与のための組成物中のRSV Fポリペプチドの総用量は、例えば約0.01μg〜約10mg、例えば1μg〜1mg、例えば10μg〜100μgとすることができる。推奨用量の決定は実験により行われ、当業者にはルーチン的である。
【0069】
本発明による組成物の投与は、標準投与経路を使用して実施することができる。非限定的実施形態としては、皮内投与、筋肉内投与、皮下投与、経皮投与、または例えば鼻腔内、口腔内などの粘膜投与などの非経口投与が挙げられる。一実施形態では、組成物は筋肉内注射により投与される。当業者は、ワクチン中の抗原に対する免疫応答を誘導するために、例えばワクチンなどの組成物を投与する様々な可能性を認識している。
【0070】
本明細書で使用する対象は、好ましくは哺乳動物、例えば、マウス、コットンラットなどのげっ歯類、または非ヒト霊長類、またはヒトである。対象は、好ましくは、ヒト対象である。
【0071】
ポリペプチド、核酸分子、ベクター、および/または組成物はまた、初回免疫としてまたは追加免疫として、同種または異種初回免疫−追加免疫レジメンで投与することができる。追加免疫ワクチン接種を実施する場合、通常、そのような追加免疫ワクチン接種は、最初に対象に組成物を投与した後(このような場合には「初回ワクチン接種」と呼ばれる)、1週〜1年、好ましくは2週〜4ヶ月のある時点で同じ対象に投与される。特定の実施形態では、投与は初回免疫投与および少なくとも1回の追加免疫投与を含む。
【0072】
加えて、本発明のポリペプチドは、例えば、本発明のポリペプチドに結合可能な抗体が個体の血清中にあるか否かを確定することにより、個体の免疫状態を検査するための診断ツールとして使用することができる。したがって、本発明はまた、患者のRSV感染の存在を検出するためのin vitro診断方法であって、a)前記患者から得られた生体試料を本発明によるポリペプチドと接触させる工程と、b)抗体−ポリペプチド複合体の存在を検出する工程とを含む方法に関する。
【0073】
本発明は、RSV Fポリペプチドの融合前コンフォメーションを安定化させる方法であって、野生型RSVF1および/またはF2ドメインと比較して、RSV F1および/またはF2ドメイン中に少なくとも1つの変異を導入することを含み、その少なくとも1つの変異は、RSV先端部の3重へリックス(アルファヘリックス1、4および5)における変異によるアルファへリックス4の可動または移動を止める方法をさらに提供する。特定の実施形態では、アルファ4中の少なくとも1つの変異は、203位のアミノ酸残基LeuのIleへの変異である。
【0074】
このような方法によって得ることができ、かつ/または得られる安定化された融合前RSV Fポリペプチドも上記のようなその使用と共に本発明の一部を形成する。
【実施例】
【0075】
実施例1
RVS F融合前コンフォメーションの不安定な先端部を安定化させるために、安定化S215P変異およびC−末端フィブリチンモチーフを有する、準安定RSV F変異体にアルファ4のLeu203Ile置換を導入した。
【0076】
RSV Fタンパク質の発現および精製
293 Freestyle(Life Technologies)細胞内で組換えタンパク質を発現させた。製造業者の説明書に従い、293Fectin(Life Technologies)を用いて、細胞に一過性にトランスフェクトし、37℃、10%CO2の振盪インキュベーター中で培養した。トランスフェクションから5日目に、Fタンパク質を含む培養上清を採取した。除菌ろ過した上清を使用時まで4℃で保存した。陽イオン交換クロマトグラフィーに次いでサイズ排除クロマトグラフィーを使用する2工程プロトコルにより組換えポリペプチドを精製した(
図1)。イオン交換工程のために、培養上清を2容量の50mM NaOAc、pH5.0で希釈し、5mlのHiTrap Capto Sカラム(GE Healthcare)に毎分5mlで通した。次いで、カラムを、10カラム容量(CV)の20mM NaOAc、50mM NaCl、0.01%(v/v)tween20、pH5で洗浄し、15%段階溶離の50mM NaOAc、1M NaCl、0.01%(v/v)tween20、pH5で溶出した。溶出液を濃縮し、ランニングバッファーとして40mMトリス、150mM NaCl、0.01%(v/v)tween20およびpH7.4を使用してSuperdex200カラム(GE Healthcare)によりタンパク質をさらに精製した。精製したタンパク質をSDS−PAGEおよびNative PAGEにより分析した(
図2)。タンパク質はクマシーブリリアントブルーで染色して、ゲル上に可視化した。SDS−PAGEの主バンドは、還元化試料では、RSV Fタンパク質のF1およびF2ドメインに対応し、非還元化試料では、主バンドはジスルフィド結合で連結しているF1+F2ドメインのサイズに対応する。Native Pageでは、タンパク質の電気泳動移動度は、RSV F三量体の1つに対応する。精製したタンパク質の融合前コンフォメーションを、CR9501抗体に結合させることにより確認した(データは示さず)。精製した融合前三量体RSV Fタンパク質は、次の分析まで4Cで保存した。
【0077】
安定性試験
融合前タンパク質の融合後コンフォメーションへの自然転換能を保存安定性試験により評価した。粗製の細胞培養上清試料を4℃で保存し、上述の定量分析法により、Octet装置を使用して試料のFタンパク質濃度を測定した。測定は、上清採取日(第1日)、および示した保存期間後に行った。CR9501は、融合前Fコンフォメーションのみを認識するモノクローナル抗体であり(国際公開第2012/006596号パンフレット)、融合前RSV Fタンパク質濃度の測定に使用した。
【0078】
精製したタンパク質の温度安定性を示差走査蛍光定量法(DSF)により決定した。精製した融合前Fタンパク質を96ウェル光学qPCRプレート内でSYPRO橙色蛍光染料(Life Technologies S6650)と混合した。染料とタンパク質の最適濃度を実験により決定した(データは示さず)。タンパク質の希釈はすべてPBSにより行い、減算参照用として染料のみを含有する陰性対照試料を使用した。測定はqPCR装置(Applied Biosystems ViiA 7)により、次のパラメータを使用して行った:25〜95℃は毎秒0.015℃の速度で昇温。データは連続的に取得した。GraphPad PRISMソフトウェア(バージョン5.04)を使用して、溶融曲線の1次導関数をプロットした。導関数曲線の最小点で溶融温度を算出した。
【0079】
図3に示すように、S215P置換でのみ安定化させた準安定F変異体は、4℃で5日間の保存後、融合前に特異的なMab CR9501へのほぼすべての結合を喪失していた。対照的に、lL203I置換を追加すると、この準安定RSV F変異体の安定性が劇的に増大した。採取日のCR9501結合の全結合はより多く、4℃で15日間の保存後でCR9501結合のごく僅かな低下が観察された。Leu203のIleへの置換を追加することにより、S215Pの単一置換のみを含有する準安定融合前Fタンパク質と比べて、融合前F安定性の貯蔵安定性が増大する。DSF実験によれば、L203I置換の追加により、N67IおよびS215P置換を含有する変異体(57.0℃)と比べて、熱安定性も増大(59.5℃)した(
図4)。
【0080】
コンストラクトの、発現レベル、保存安定性、およびRSV−Fの融合前コンフォメーションに特異的なCR9501抗体との抗体結合について試験した。重鎖および軽鎖の可変領域のアミノ酸配列、ならびにこの抗体の重鎖および軽鎖CDRのアミノ酸配列を以下に示す。CR9501は、国際公開第2012/006596号パンフレット中の58C5と呼ばれる抗体の結合領域を含む。
【0081】
実施例2
本発明によれば、Leu203Ile置換と他の安定化変異との組み合わせにより、非常に安定なRSV Fタンパク質が得られることが示された。
【0082】
RSV Fタンパク質の発現、精製および特徴付け
組換えタンパク質を発現させ、上記のように精製した。精製したタンパク質をSDS−PAGEにより分析した(
図5)。タンパク質はゲル上で、還元試料ではRSV Fタンパク質のF1およびF2ドメインに対応するバンドのみが、および非還元試料では互いに結合したF1+F2ドメインに対応するバンドのみが観察され、純粋であった。精製した試料のSEC−MALS分析(
図6)では、試料中に存在する唯一のタンパク質種が、グリコシル化RSV F三量体の予測された分子量に対応する約170kDaの分子量を有することが示された。SEC−MALSは、TSK G3000SWXLカラム(Tosoh Bioscience)を使用し、Agilent HPLCシステムによりを行った。MALS測定は、MiniDAWN Treosインライン検出器(Wyatt Technology)を使用して行った。タンパク質濃度は、280nmのUVモニターおよび660nmの屈折率検出器(Optilab TrEX、Wyatt Technology)を使用してモニターした。次の順序で検出器の垂直性を調べた:UV、MALS、RI。SEC−MALS実験では、MALSバッファー(17.3g Na2HPO4*2 H2O/L、7.3g NaH2PO4*H2O/L、2.9g NaCl/L、pH7)および流量1ml/minを用いた。屈折率検出器および0.141ml/gの屈折率増分(dn/dc)値を使用し、Astraソフトウェア6.1(Wyatt Technology)によりデータを分析した。屈折率結果のピークの最大値を使用して分子量を決定し、吸光係数で補正したUV−信号の全ピーク面積%を使用して全ピーク面積を決定する。
【0083】
安定性試験
実施例1で記載したように、精製したタンパク質の温度安定性を示差走査蛍光定量法(DSF)により決定した。
図4に示すように、L203I置換をS215PおよびD486Nと組み合わせた場合、N67Iの有無にかかわらず、タンパク質の熱安定性はそれぞれ約67℃および約70℃に増大する。
【0084】
【表1】
【0085】
【表2】
【0086】
本発明は次の実施態様を含む。
[1]
組換え融合前呼吸器合胞体ウイルス(RSV)融合(F)ポリペプチドであって、野生型RSV Fタンパク質中のRSV F1および/またはF2ドメインと比較して、少なくとも2つの安定化変異をF1および/またはF2ドメイン中に含み、前記安定化変異の少なくとも1つは、203位のアミノ酸残基LのIへの変異である、組換え融合前呼吸器合胞体ウイルス(RSV)融合(F)ポリペプチド。
[2]
215位のアミノ酸残基Sの変異、好ましくは、前記215位のアミノ酸残基SのPへの変異をさらに含む、上記[1]に記載の融合前RSV Fポリペプチド。
[3]
融合前コンフォメーションFタンパク質に特異的な少なくとも1つのエピトープを含み、前記少なくとも1つのエピトープは、配列番号1の重鎖CDR1領域、配列番号2の重鎖CDR2領域、配列番号3の重鎖CDR3領域、および配列番号4の軽鎖CDR1領域、配列番号5の軽鎖CDR2領域、および配列番号6の軽鎖CDR3領域を含む融合前特異的モノクローナル抗体、ならびに/または配列番号7の重鎖CDR1領域、配列番号8の重鎖CDR2領域、配列番号9の重鎖CDR3領域、および配列番号10の軽鎖CDR1領域、配列番号67の軽鎖CDR2領域、および配列番号11の軽鎖CDR3領域を含む融合前特異的モノクローナル抗体によって認識される、上記[1]または[2]に記載の融合前RSV Fポリペプチド。
[4]
三量体である、上記[1]〜[3]のいずれかに記載の融合前RSV Fポリペプチド。
[5]
短縮されたF1ドメインを含み、前記短縮されたF1ドメインに連結された異種三量化ドメインを含む、上記[1]〜[4]のいずれかに記載の融合前RSV Fポリペプチド。
[6]
前記異種三量化ドメインは、アミノ酸配列GYIPEAPRDGQAYVRKDGEWVLLSTFL(配列番号14)を含む、上記[5]に記載の融合前RSV Fポリペプチド。
[7]
前記三量化ドメインは、前記RSV Fタンパク質のアミノ酸残基513に連結されている、上記[5]または[6]に記載の融合前RSV Fポリペプチド。
[8]
少なくとも1つのさらなる変異を含み、前記変異は、
(a)46位のアミノ酸残基の変異;
(b)67位のアミノ酸残基の変異;
(c)83位のアミノ酸残基の変異;
(d)92位のアミノ酸残基の変異;
(e)184位のアミノ酸残基の変異;
(f)207位のアミノ酸残基の変異;
(g)486位のアミノ酸残基の変異;および
(h)487位のアミノ酸残基の変異
からなる群から選択される、上記[1]〜[7]のいずれかに記載の融合前RSV Fポリペプチド。
[9]
前記少なくとも1つのさらなる変異は、
(a)前記46位のアミノ酸残基SのGへの変異;
(b)前記67位のアミノ酸残基N/TのIへの変異;
(c)前記83位のアミノ酸残基LのMへの変異;
(d)前記92位のアミノ酸残基EのDへの変異;
(e)前記184位のアミノ酸残基GのNへの変異;
(f)前記207位のアミノ酸残基VのIへの変異;
(g)前記486位のアミノ酸残基DのNへの変異;および
(h)前記487位のアミノ酸残基EのQ、N、またはIへの変異
からなる群から選択される、上記[8]に記載の融合前RSV Fポリペプチド。
[10]
前記F1ドメインおよび/または前記F2ドメインは、RSV A株由来である、上記[1]〜[9]のいずれかに記載の融合前RSV Fポリペプチド。
[11]
前記F1ドメインおよび/または前記F2ドメインは、RSV B株由来である、上記[1]〜[10]のいずれかに記載の融合前RSV Fポリペプチド。
[12]
配列番号20、配列番号21、配列番号23および配列番号24からなる群から選択されるアミノ酸配列を含む、上記[1]〜[11]のいずれかに記載の融合前RSV Fポリペプチド。
[13]
上記[1]〜[12]のいずれかに記載の融合前RSV Fポリペプチドをコードする核酸分子。
[14]
哺乳動物細胞における発現用にコドン最適化されている、上記[13]に記載の核酸分子。
[15]
上記[13]または[14]に記載の核酸分子を含むベクター。
[16]
上記[1]〜[12]のいずれかに記載の融合前RSV Fポリペプチド、上記[13]もしくは[14]に記載の核酸分子、および/または上記[15]に記載のベクターを含む組成物。
[17]
RSV Fタンパク質に対する免疫応答の誘導に使用するための、上記[1]〜[12]のいずれかに記載の融合前RSV Fポリペプチド、上記[13]もしくは[14]に記載の核酸分子、および/または上記[15]に記載のベクター。
[18]
ワクチンとして使用するための、上記[1]〜[12]のいずれかに記載の融合前RSV Fポリペプチド、上記[13]もしくは[14]に記載の核酸分子、および/または上記[15]に記載のベクター。
[19]
RSV感染の予防および/または処置に使用するための、上記[1]〜[12]のいずれかに記載の融合前RSV Fポリペプチド、上記[13]もしくは[14]に記載の核酸分子、および/または上記[15]に記載のベクター。
融合前RSV Fコンストラクトのいくつかのアミノ酸配列を以下に示す。本明細書に
記載の異なるコンストラクトにおけるアミノ酸の番号付与は、野生型配列(2つの修飾(
K66EおよびI76V)を含む配列番号13)に基づいていることに留意されたい。
【0087】
配列
RSV Fタンパク質A2完全長配列(配列番号13)
【化1】
RSV Fタンパク質B1完全長配列(配列番号15)
【化2】
配列番号14(フィブリチン)
GYIPEAPRDGQAYVRKDGEWVLLSTFL
FA2、K66E、I76V、S215P(配列番号20)
【化3】
FA2、K66E、I76V、L203I、S215P(配列番号21)
【化4】
FA2、K66E、I76V、L203I、S215P、D486N(配列番号23)
【化5】
FA2、K66E、N67I、I76V、L203I、S215P、D486N(配列番号24)
【化6】
RSV Fタンパク質CL57−v224完全長配列(配列番号22)
【化7】
CR9501重鎖(配列番号16):
【化8】
CR9501軽鎖(配列番号17):
【化9】
CR9502重鎖(配列番号18):
【化10】
CR9502軽鎖(配列番号19):
【化11】