(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6840760
(24)【登録日】2021年2月19日
(45)【発行日】2021年3月10日
(54)【発明の名称】乳製品用HPP法
(51)【国際特許分類】
A23C 3/00 20060101AFI20210301BHJP
A23C 9/00 20060101ALI20210301BHJP
【FI】
A23C3/00
A23C9/00
【請求項の数】12
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2018-535206(P2018-535206)
(86)(22)【出願日】2016年9月29日
(65)【公表番号】特表2018-529381(P2018-529381A)
(43)【公表日】2018年10月11日
(86)【国際出願番号】AU2016050921
(87)【国際公開番号】WO2017054052
(87)【国際公開日】20170406
【審査請求日】2019年9月30日
(31)【優先権主張番号】2015903955
(32)【優先日】2015年9月29日
(33)【優先権主張国】AU
(73)【特許権者】
【識別番号】518102894
【氏名又は名称】シービーエイチ・フレッシュ・プロプライエタリー・リミテッド
【氏名又は名称原語表記】CBH Fresh Pty Ltd
(74)【代理人】
【識別番号】100100158
【弁理士】
【氏名又は名称】鮫島 睦
(74)【代理人】
【識別番号】100122301
【弁理士】
【氏名又は名称】冨田 憲史
(72)【発明者】
【氏名】アダム・コーネル
【審査官】
村松 宏紀
(56)【参考文献】
【文献】
中国特許出願公開第103300143(CN,A)
【文献】
特開昭62−069969(JP,A)
【文献】
Drake M A et al.,High Pressure Treatment of Milk and Effects on Microbiological and Sensory Quality of Cheddar Cheese,Journal of Food Science,1997年,Vol.62 No.4,P843-845
【文献】
Sencer Buzrul,Multi-Pulsed High Hydrostatic Pressure Treatment of Foods,Foods,2015年 5月25日,Vol.4 No.4,P173-183
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A01J、A23C、A23L
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
未処理乳製品中の活性腐敗性および病原性微生物のレベルを減少させる方法であって、前記未処理乳製品が生乳であり、
(a)第1期間にわたって、未処理乳製品に少なくとも5200バールの高静水圧源を適用する工程であって、前記第1期間が90〜120秒である、工程;
(b)乳製品から圧力源を取り除く工程;
(c)第2期間にわたって、乳製品に圧力源を再適用する工程であって、前記第2期間が90〜120秒である、工程;および
(d)任意に、工程(a)〜(c)を繰り返して、処理乳製品を製造する工程
を含み、前記未処理乳製品の最初の熱処理工程がない、方法。
【請求項2】
適用される最大静水圧が、5500バール以上である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
適用される最大静水圧が、5800バール以上である、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
適用される最大静水圧が、6000バール以上である、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記第1期間が、約90秒である、請求項1〜4のいずれか1つに記載の方法。
【請求項6】
前記第2期間が、約120秒である、請求項1〜4のいずれか1つに記載の方法。
【請求項7】
圧力源が、1〜10秒間除去される、請求項1〜4のいずれか1つに記載の方法。
【請求項8】
圧力源が、約5秒間除去される、請求項1〜4のいずれか1つに記載の方法。
【請求項9】
処理乳製品が、5℃で40日間以上の保存期間を有する、請求項1〜8のいずれか1つに記載の方法。
【請求項10】
処理乳製品が、大腸菌およびリステリア・モノサイトゲネスの両方の>6のlog10減少を有する、請求項1〜8のいずれか1つに記載の方法。
【請求項11】
処理乳製品が、サルモネラ・チフィムリウムの>4.3のlog10減少を有する、請求項1〜8のいずれか1つに記載の方法。
【請求項12】
工程(a)〜(c)を繰り返して処理乳製品を製造することを含む、請求項1〜11のいずれか1つに記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、商業的な食品製造の分野に関する。特に、本発明は乳製品の高圧処理に関する。
【背景技術】
【0002】
栄養価と製品の安全性は、現時点での食品消費者の選択に影響を及ぼす最も重要な要素の2つであり、食品製造者および流通業者にとっても非常に重要である。食品業界では、長期的な目標の1つは、新鮮で、防腐剤無添加であり、最小限に加工された食品であるという特性を保持しながら、食品の安全性を保証し、製品の保存期間を延長することである。
【0003】
伝統的に、熱に基づく方法は、有害な細菌を破壊し、腐敗微生物の数を減らして食品製品の保存期間を延ばすために使用される。そのような方法は周知であり、高度に開発された技術の対象である。しかしながら、より新鮮な美味しさとより新鮮な食感の食品に対する消費者の需要は、エネルギー集約的な方法をより環境にやさしくし、保存期間を延長し、できるだけ未処理製品に近い味の製品を生産する新しい方法の開発を推進する。
【0004】
食品の分解を遅らせ、安全性を保証する最もよく知られた技術は熱殺菌である。たとえば、72℃を超える温度は、乳製品を加熱処理して、食品中の微生物および酵素を効果的に不活性化することによって、食品安全性を改善し、保存期間を延ばすために使用される。しかしながら、熱殺菌は、しばしば食物の栄養および官能特性に悪影響を及ぼす。
【0005】
高圧処理(HPP)は、腐敗しやすい食品に高い静水圧を適用することを含む。HPPは、腐敗性および/または病原性微生物を不活性化することができる。
【0006】
熱殺菌および他の熱処理技術に対するHPPの利点は、製品全体にわたって圧力エネルギーが均一かつ瞬間的に分配されることである。最終的な包装において乳製品に高圧が適用されるので、この製品は、腐敗性または病原性の微生物によって処理後汚染されず、結果として、熱殺菌され、その後包装される製品よりも長い保存期間を有する製品となる。
【0007】
高圧処理の別の利点は、熱処理されていないため、食品の「新鮮な」風味、品質、食感および他の官能特性を維持しながら微生物を排除できることである。
【0008】
高圧処理(HPP)は、900 MPa(およそ9000気圧、およそ135,000ポンド/平方インチ)までの圧力を使用して、室温でさえも食品中に見られる多くの微生物を殺す
(1)。かなり多くの実験データが作成されているが、HPPの最初の商業的食品用途が見られたのは1990年代初頭以前ではなかった
(2)。商業生産に必要な反復可能な基準で、食料品に適した容器内で、巨大な圧力を生成し、包含するには、かなりの工学的課題がある。
(1):Patterson、M.F. Microbiology of pressure-treated foods. Journal of Applied Microbiology. 2005、98、1400-1409。
(2):Patterson、M.F. Microbiology of pressure-treated foods. Journal of Applied Microbiology. 2005、98、1400-1409。
【0009】
加熱殺菌または他の熱処理のような他の食品加工方法とは異なって、HPPはこれまでにある程度限定された用途を有していた。いまだ、HPPは、商業規模ですべての食品タイプに普遍的に適用されていない。処理工学に関連する困難、食品マトリックスおよびこれらの製品にしばしば存在する耐圧胞子による微生物の保護ゆえに、いくつかの動物および乳製品および貯蔵安定性の低い酸性食品は、商業的規模でHPPで容易に処理することができない。実際に、商業的乳製品および他の動物性食品生産方法において、いくつかの病原性微生物を排除する問題は、今日のこの技術にとって重大な課題である。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
したがって、本発明の目的は、先行技術に関連する問題の少なくともいくつかを改善する市販乳製品中の微生物のレベルを低下させるための高圧処理を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
発明の概略
本発明の第1の態様によれば、生乳を含む市販乳製品中の活性腐敗微生物のレベルを減少させる方法であって、
(a)第1期間にわたって、乳製品に少なくとも5200バールの高静水圧源を適用する工程;
(b)乳製品から圧力源を取り除く工程;
(c)第2期間にわたって、乳製品に圧力源を再適用する工程;および
任意に、(a)〜(c)を繰り返す工程;
を含む方法。
【0012】
驚くべきことに、少なくとも2サイクルにわたるHPプロセスにおける圧力の循環は、特に乳製品、特に生乳において単回のHPプロセスを使用してこれまで達成されていた効果と比べて、特定の病原菌の集団に対する致死効果の増加をもたらすことが、本発明者らによって見出された。
【0013】
適用される最大静水圧が、6000バール以上であるのが好ましい。
【0014】
前記第1および第2期間が、60〜150秒、好ましくは90〜120秒であり、圧力源が、1〜10秒間、好ましくは5秒間除去される場合に最良の結果が見られている。
【0015】
本発明者らが特に注目していることは、このプロセスが、大腸菌およびリステリア・モノサイトゲネス(Listeria monocytogenes)の両方が>6のlog
10減少であったこと、および生乳中のサルモネラ・チフィムリウム(ネズミチフス菌)(Salmonella typhimurium)が4.3のまたはそれ以上のlog
10減少したことを最初に報告していることである。牛乳は、微生物学的に安全で商業的に安定した製品を製造する上でのHPPの効果的な使用に関して、過去に特別な課題を提示してきた。これは、生乳の化学的構成における特異性に起因すると考えられている。
【0016】
このような比較的短いサイクル時間で病原体不活性化のこれらのレベルを達成することの特別な利点は、方法の全体的なスループットが非常に高くなりうることであり、製造効率がより高くなり、完全に商業的な方法が実現される。
【0017】
本発明の第2の態様によれば、市販乳製品の製造のための、任意の前記請求項に記載の方法の使用が提供される。
【0018】
本発明の第3の態様によれば、上記の方法によって製造された市販乳製品が提供される。この方法にしたがって製造された市販乳製品は、5℃で40日間以上、特に、42日間以上の保存期間を有することが示されている。
【0019】
次に、特定の非限定的な例として、本発明の好ましい実施態様を記載する。
【発明を実施するための形態】
【0020】
発明の詳細な記載
本発明は、冷蔵下で商業的に実現可能な期間に微生物学的に安全かつ安定にするために、生乳、特に牛乳の処理のために開発された高圧法で実施される。この実施態様は単なる例示であり、本発明の方法は広範囲の他の乳製品および食品を一般的に処理するために使用されうることが理解されるであろう。
【0021】
いくつかの管轄区域の食品安全当局は、食品が商業的に無菌で販売可能であるとみなされるために達成されなければならない特定の種類の腐敗生物の特定のlog
10の減少を命じている。たとえば、ニューサウスウェールズ州食品局(New South Wales Food Authority、NSWFA)は、病原性微生物におけるlog
10の減少を5倍(すなわち、100,000分の1に減少)にするための処理方法を要求する。
【0022】
高圧処理(HPP)では、処理方法を定義する2つの重要な変数がある。あらゆる異なる食品タイプは、標的病原体を不活性化することにおいて、どの段階が有効であるかを確認するための試験を必要とする。変数は次のとおりである:圧力の下で費やされる時間;および適用される圧力の大きさ。
【0023】
典型的なHPP装置では、約6000バールまでの圧力を加えることができる。食品がこのレベルの圧力下に置かれる時間は、商業的な食品製造工程要件と一致し、食品の品質、食感および味の特性を維持しながら、標的微生物の除去または十分な割合の不活性化をもたらさなければならない。
【0024】
高圧法試験
以下の試験条件を、接種前の乳原料の5つの複製物に適用した:
i.3つの病原体:(サルモネラ・チフィムリウム、リステリア・モノサイトゲネス、およびスタフィロコッカス・アウレウス(黄色ブドウ球菌)(Staphylococcus aureus))。
ii.6000バールでの2つの圧力保持時間:3分および4分(保持時間が1分増えるごとに追加のログ減少が生じるべきであると仮定されたので)。
【0025】
3分での結果は、サルモネラおよびスタフィロコッカスでは、log
10減少は、4分で2倍〜3倍の間で、およびリステリアでは、3〜4 log
10減少で、病原菌を殺したことを示した。4分での結果は、3分の処理よりもわずかに良好であった(およそ1のlog
10)。まとめると、これらの結果は、5 log
10の減少が達成される熱殺菌への等価性を実証するには不十分であった。
【0026】
この場合、使用された生乳は、偶発的に1,100を超える大腸菌および大腸菌で汚染された。これらの細菌は、接種されていないHP処理対照試料では検出されず、少なくとも3のlog
10減少を示した。
【0027】
拡張処理および循環圧力試験
さらなる病原体チャレンジ試験を、2つの新しい試験方法を使用して5回反復して行った:
i.15分間の6000バール/90秒の「拡張」処理;および
ii.90秒間6000バールにて「サイクル」処理を行い、ただちに1回繰り返す。
【0028】
今日まで、商業的乳製品の加工におけるこれらの処理のいずれかの商業的使用に関する既知の文献はない。サイクル法を試験するための理論的根拠は、第1サイクルが微生物の細胞壁の準致死損傷を誘導し、第2サイクルが損傷細胞に対する高圧の致死効果を成し遂げることであった。拡張処理を試験して、より長い期間の高圧が細胞死に与える影響を測定した。拡張処理は全体的な最大の製品スループットを低下させるので、テストされた2つのプロセスのうち、サイクル法のみが商業的に実行可能である可能性が高い。
【0029】
拡張処理試験では、試験した病原体は、サルモネラ・チフィムリウムおよびスタフィロコッカス・アウレウスであった。
【0030】
両方の細菌の処理の結果は、サルモネラについては、log
10の減少が5であり、スタフィロコッカスについては、log
10の減少が2から3であることを示した。したがって、必要とされる5のlog
10の減少は、この場合の標的病原体の1つについてのみ実証された。
【0031】
サイクル圧力試験は、サルモネラの減少に対する「サイクル」法の影響を確認し、それをリステリアおよび大腸菌について試験する目的で設計された。
【0032】
大腸菌およびリステリアで、6以上の対数減少が実証された。大腸菌およびリステリアの場合、これは、6000バールの処理条件下での3分間の等価対数減少よりも高かった。サルモネラチャレンジは、複製の間で一致しない結果を示し、3および>6の対数減少が実証された。スタフィロコッカスの低い対数減少カウントは、以前の試行から再現された。
【0033】
保存期間試験は、5℃にて42日以上の潜在的な保存期間をもたらし、3分間の標準サイクルを使用した場合よりも長い保存期間をもたらし、その両方が約23日で微生物的腐敗を示した4000バールおよび5000バールで得られたものより優れていた。
【0034】
カンピロバクター・ジェジュニ(Campylobacter jejuni)への影響を初めて試験する目的でさらなる試験を行った。これらの試験条件下で、カンピロバクターは、1.2の対数減少で、高い耐圧性を示した。
【0035】
生乳製品の保存期間およびチャレンジ試験の結果を表1に示す。
【0036】
大腸菌、リステリア、サルモネラ、カンピロバクターまたはスタフィロコッカス・アウレウスを含むほとんどの食品において、製品を6000バールまでの圧力で3分間保持することは、病原体レベルで5のlog
10減少を達成するのに十分であろう。しかしながら、生乳を用いたこの試験では、これらの条件は、生乳に典型的な食物マトリックスによってもたらされる細菌細胞の保護のせいで、リステリア、サルモネラ、カンピロバクターおよびスタフィロコッカスにおいて、5のlog
10減少下を達成するには不十分であることが判明した。6000バールで4分間ホールドすると、リステリアで5のlog
10減少が達成されたが、サルモネラでは達成されなかった。
【0037】
表1に示すように、周期的アプローチを用いて試験を行った。この周期的アプローチは生乳製品を6000バールで90秒の2つの期間にわたって保持し、一方を直ちに他方に続けた。驚くべきことに、6000バールでの、このより短い周期的アプローチが、同じ圧力でのより標準的な3分間の圧力処理と比較して、大腸菌およびリステリア・モノサイトゲネスの優れた対数減少を成功させ、より長い保存期間をもたらしたことが発見された。リステリア・モノサイトゲネスおよび大腸菌について、周期的アプローチを用いて、必要とされる5の対数減少(熱殺菌に相当)が達成された。
【0038】
試験された高圧処理条件のいずれかを用いて5 logまで減少しなかった細菌性病原体(サルモネラ、スタフィロコッカス・アウレウス and カンピロバクター・ジェジュニ)を、高圧処理前の生乳コンプライアンス試験と組み合わせて、衛生的な生乳製造技術および動物の健康戦略を適用することにより制御して、より長い保存期間を有する商業的に実現可能で安全な非加熱乳製品を製造することができることが提案される。
【0039】
本発明者らは、サイクル処理されたHPPが、生乳中のサルモネラ、リステリアおよび大腸菌の数の減少に独特かつ有意な影響を及ぼすことを見出した。そのような結果は、他の乳製品、特に生乳を原料として使用する乳製品にも適用可能である。
【0040】
表1−さまざまな高圧処理条件下で達成されたLog10減少および牛乳保存期間
表1.さまざまな高圧処理条件下で達成されたLog
10減少および牛乳保存期間
【表1】
一連の結果は、試験した5つの複製物間で得られた変動性を示す。
同じ処理条件下で示された2つの結果は、複製試験の結果である。
グレー塗りつぶし部分:未試験
【0041】
上記の実施態様は、本発明の概念がどのように実施されうるかの一例に過ぎないことは、当業者には理解されるであろう。詳細が異なるが、それでもなお、同じ発明概念内にあり、同じ発明を表す他の実施態様も考えられることが理解されよう。