(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6840772
(24)【登録日】2021年2月19日
(45)【発行日】2021年3月10日
(54)【発明の名称】フィルタ部材用素材
(51)【国際特許分類】
B01D 39/16 20060101AFI20210301BHJP
D06M 11/00 20060101ALI20210301BHJP
【FI】
B01D39/16 A
D06M11/00 120
【請求項の数】3
【全頁数】5
(21)【出願番号】特願2018-555318(P2018-555318)
(86)(22)【出願日】2016年12月5日
(86)【国際出願番号】JP2016005061
(87)【国際公開番号】WO2018104980
(87)【国際公開日】20180614
【審査請求日】2019年5月14日
(73)【特許権者】
【識別番号】000232885
【氏名又は名称】株式会社ロキテクノ
(74)【代理人】
【識別番号】100094112
【弁理士】
【氏名又は名称】岡部 讓
(74)【代理人】
【識別番号】100101498
【弁理士】
【氏名又は名称】越智 隆夫
(74)【代理人】
【識別番号】100120064
【弁理士】
【氏名又は名称】松井 孝夫
(72)【発明者】
【氏名】馬場 由成
(72)【発明者】
【氏名】山口 義貴
(72)【発明者】
【氏名】前田 香織
(72)【発明者】
【氏名】長谷川 亮
【審査官】
佐々木 典子
(56)【参考文献】
【文献】
特開平06−091105(JP,A)
【文献】
特開平09−323011(JP,A)
【文献】
特開2002−058922(JP,A)
【文献】
特開昭60−049795(JP,A)
【文献】
特開2010−274239(JP,A)
【文献】
特開2012−228656(JP,A)
【文献】
特開2002−275740(JP,A)
【文献】
特開2000−328449(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01D 39/00−41/04
D06M 10/00−16/00、19/00−23/18
JSTPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
結晶部と非結晶部とを有するポリアミド系樹脂繊維からなり、表面に主に前記結晶部の繊維要素を集合化したポリアミド系樹脂繊維のフィルタ素材であって、前記ポリアミド系樹脂繊維の表面部には多孔質部を有し、前記多孔質部は、少なくとも1重量パーセントの無機酸により前記ポリアミド系樹脂繊維の前記非結晶部が除去されて前記結晶部の要素の間の隙間として形成される複数の孔であるフィルタ素材。
【請求項2】
請求項1に記載のフィルタ素材であって、
前記多孔質部は、前記ポリアミド系樹脂繊維の非結晶部を除去した箇所が前記複数の孔であるフィルタ素材。
【請求項3】
請求項1または2に記載のフィルタ素材であって、
前記多孔質部は、前記結晶部の前記要素が三次元網目構造であるフィルタ素材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願発明は、フィルタ部材用素材に関する。
【背景技術】
【0002】
流体の濾過を目的とした装置の管路では、その管路の一部に、不純物を捕捉するように不織布等の多孔質素材を円筒形に形成したフィルタ部材が使用される。フィルタ部材は、吸着量を上げるためには、不織布等の吸着部分の表面積を大きくする必要がある。その一つの方法として、多孔質化が挙げられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開昭43−22349号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
多孔質化の一つの方法としては、不織布の表面を化学処理により多孔質化する方法が考えられる。化学処理による多孔質化の方法として、ナイロンを無機酸により加水分解による処理方法が考えられる。特許文献1には、ナイロンを無機酸により加水分解による処理する方法を提案しているが、これは単位繊維の延伸を目的としたものであり、多孔質化を図ろうとするものではない。不織布の表面を多孔質化することにより、性能の向上をはかることができる。
【課題を解決するための手段】
【0005】
結晶部と非結晶部とを有するポリアミド系樹脂繊維から表面に主に結晶部の繊維要素を集合化したポリアミド系樹脂繊維のフィルタ素材であって、結晶部の繊維要素の間で複数の孔が形成される多孔質部を形成しているフィルタ素材により解決する。
【発明の効果】
【0006】
本発明により、細かい孔の集合体である多孔質を形成して、フィルタ素材の表面積が向上する。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【
図1】本発明のフィルタ部材用素材の断面のSEM写真である。
【
図2】本発明のフィルタ部材用素材の表面のSEM写真である。
【
図3】本発明のフィルタ部材用素材の表面と断面を拡大したSEM写真である。
【
図4】本発明のフィルタ部材用素材を用いた場合と、未処理のフィルタ用素材を用いた場合における物理吸着性能の比較を示している。
【
図5】本発明のフィルタ部材用素材を用いた場合と、未処理のフィルタ用素材を用いた場合における色素の吸着性能の比較を示している。
【発明を実施するための形態】
【0008】
まず、結晶部と非結晶部とを有するポリアミド系樹脂繊維を準備する。ポリアミド系樹脂繊維としては、ナイロン6およびナイロン66等の繊維集合体である。たとえば、繊維径0.1マイクロメータから30マイクロメータの不織布により、このポリアミド系樹脂繊維を無機酸の処理液に浸漬して、非結晶部を加水分解する。無機酸の処理液がポリアミド系樹脂繊維に十分に触れる限り、浸漬以外の方法もとることができる。無機酸の処理液は、硝酸、塩酸、硫酸等の液体である。処理液濃度は、酸濃度が1重量パーセントから30重量パーセントが好ましい。処理液の温度は、摂氏15度から摂氏60度である。これに、所定時間、たとえば15分から300分程度浸漬する。その後、取り出して、純水にて処理液が中性になるまで洗浄する。純水による洗浄後、水分を除去し、乾燥機にて摂氏約60度で乾燥する。
【0009】
この処理を行うことにより、ポリアミド系樹脂繊維の表面において、非結晶部が除去されて、ポリアミド系樹脂繊維の表面の結晶部の要素が三次元網目構造を形成する。そして、ポリアミド系樹脂繊維の除去された非結晶部の箇所が、複数の孔となって多孔質部を形成する。孔の大きさは、たとえば、径が、10ナノメータから200ナノメータ程度であって、100マイクロ平米あたりの孔の個数は、約10,000個である。
【0010】
図1は、酸濃度が12.5重量パーセントで摂氏40度の硝酸液に300分浸漬した場合のナイロン繊維の断面を15,000倍で撮影したSEM写真である。
図2は、酸濃度が12.5重量パーセントで摂氏40度の硝酸液に300分浸漬した場合のナイロン繊維の表面を30,000倍で撮影したSEM写真である。
図3は、酸濃度が12.5重量パーセントで摂氏40度の硝酸液に300分浸漬した場合のナイロン繊維の表面を30,000倍で撮影したSEM写真であって、多孔質部(写真右側)が繊維表面である。
【0011】
この写真に撮影されているとおり、ポリアミド系樹脂繊維の断面の表面において、結晶部の要素が三次元網目構造の多孔質部を形成できることがわかる。ここで、三次元網目構造の多孔質とは、近接する結晶部の要素同士の隙間が孔を形成し、その隙間が多いことから多孔が形成されている態様である。三次元網目構造の多孔質を形成することにより、約2.2倍の表面積の向上が達成できる。
【0012】
図4は、本発明の無機酸の処理液に浸漬して非結晶部を加水分解したポリアミド系樹脂繊維のフィルタ素材(処理品)と、無機酸の処理液に浸漬しないポリアミド系樹脂繊維のフィルタ素材(未処理品)とのそれぞれにポリスチレンラテックス粒子0.005パーセント液を通液したときの吸着率の差を示したものである。
図4に示すように、通液初期の段階において、非結晶部を加水分解したポリアミド系樹脂繊維のフィルタ素材での吸着率が、未処理のポリアミド系樹脂繊維のフィルタ素材よりも向上していることがわかる。すなわち、ポリアミド系樹脂繊維を無機酸の処理液に浸漬して、非結晶部を加水分解することにより、表面に三次元網目構造の多孔質を形成することができる。これにより、未処理のポリアミド系樹脂繊維に比べて、通液時間の初期において、繊維表面においての物理吸着量が向上し、吸着効果が高くなることがわかる。
【0013】
また、
図5は、本発明の無機酸の処理液に浸漬して非結晶部を加水分解したポリアミド系樹脂繊維のフィルタ素材(処理品)と、無機酸の処理液に浸漬しないポリアミド系樹脂繊維のフィルタ素材(未処理品)とのそれぞれに色素としてフェノールレッドを含有した水溶液を通液したときの吸着率の差を示したものである。
図5に示すように、
図4と同様に、表面に三次元網目構造の多孔質を形成することで、未処理のポリアミド系樹脂繊維に比べて、通液時間の初期において、繊維表面の表面積増加に伴う官能基が増加して、色素の吸着量が増加し、吸着効果が高くなる。
【0014】
すなわち、前記のとおり、この構成とすることにより、機械的に形成される孔よりも細かい孔を形成させることができる。また、細かい孔を形成させることにより、樹脂繊維の表面積を増加させることができる。さらに、形成された細孔により物理吸着を喚起して粒子捕捉性能が向上する。また、さらに、形成された細孔による表面積の増加に伴う表面官能基の増加による色素などの低分子成分の吸着効果が向上する。